説明

電子放出源用ペーストおよびこれを用いた電子放出源と電子放出素子、ならびにこれらの製造方法。

【課題】耐熱性や耐酸化性に優れた電子放出源用ペーストおよびそれを用いた均一で長寿命な電子放出源と電子放出素子および製造方法を提供する。
【解決手段】電子放出源用のペーストにおいて、酸化ホウ素を含む成分で被覆された針状炭素と無機粉末を含む事を主たる特徴とする。更に、前記針状炭素のラマンスペクトルのGバンドとDバンドの強度比が3以上である事、前記被覆成分が更に酸化ケイ素を含むこと、また、前記無機粉末がガラスや導電性粒子を含む事なども付加的な特徴とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出源用ペーストおよびそれを用いた電子放出源と電子放出素子、ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カーボンナノウォールなどに代表される炭素系材料は物理的・化学的耐久性に優れているだけでなく、電界放出に適した先鋭な先端形状と大きなアスペクト比を持っている。そのため、炭素系材料を電子放出源とした電界放出型ディスプレイ(FED)、電界放出を用いた液晶用バックライトユニット(LCD−BLU)、照明機器、X線源等の様々な応用研究が盛んに行われている。
【0003】
炭素系材料(例えばカーボンナノチューブ)を用いた電子放出源を作製する方法の一つに、ペースト化したカーボンナノチューブを用いる方法がある(特許文献1参照)。この方法は、カソード電極上にカーボンナノチューブ含有ペーストをスクリーン印刷してパターンを形成し、その後焼成することによってペースト中の有機成分を分解して電子放出源を作製するものである。この時、電子放出源を前記カソード電極上に固着するため、大気中400〜500℃での焼成工程が必要である。しかし、カーボンナノチューブは熱酸化に弱く、焼成工程でカーボンナノチューブが焼失して電子放出源の電子放出特性(駆動電圧、発光均一性)が著しく低下するという問題がある。一方、不活性ガス雰囲気中の焼成ではカーボンナノチューブの焼失を抑制することが可能であるが、有機成分の残さが実パネル内の真空度悪化を引き起こすことや、製造コストが高くなる等の問題があるために、大気中で焼成可能なカーボンナノチューブ含有ペーストの開発が望まれていた。
【0004】
カーボンナノチューブ含有ペーストを大気中で焼成可能にする手段としては、いくつかの手段が提案されており、特許文献2では、ペースト中に特定成分を有するガラスフリットとホウ素を添加する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献3では、ホウ素を含む材料とカーボンナノチューブを60〜500℃で熱処理し、カーボンナノチューブのグラファイト骨格中にホウ素を含ませることでグラファイト性を向上させ、カーボンナノチューブの導電性を改良する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−176380号公報(第8段落)
【特許文献2】特開2007−265749号公報(第20段落)
【特許文献3】特開2005−325012号公報(第29段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、熱処理工程に対する耐性は向上するものの、実パネルにおけるカーボンナノチューブの電子放出特性の経時劣化(寿命)に問題があった。また、特許文献3に記載の方法では、グラファイト骨格中にホウ素を含ませるために、内部に構造欠陥があるカーボンナノチューブを用いる必要があるが、このようなカーボンナノチューブは耐酸化性が悪いという問題があった。
【0008】
本発明は上記課題に着目し、低コストプロセス(大気焼成可能な)、低駆動電圧、発光均一性が良好であり、かつ長寿命な電子放出可能な電子放出源を形成することが可能な電子放出源用ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は酸化ホウ素を含む成分で被覆された針状炭素と無機粉末を含む電子放出源用ペーストである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長寿命でありかつ耐酸化性にも優れた電子放出源を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、酸化ホウ素を含む成分で被覆された針状炭素と無機粉末を含む電子放出源用ペーストである。以下、詳細に説明する。
【0012】
一般に電界放出型ディスプレイなどに用いられる電子放出源には、モリブデンに代表される金属材料や、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カーボンナノツイストといった針状炭素、ダイアモンド、ダイアモンドライクカーボン、グラファイト、カーボンブラック、フラーレン、グラフェンに代表される炭素系材料があり、本発明では低い仕事関数特性によって低電圧駆動が可能であることから針状炭素を用いる。針状炭素の中でもカーボンナノチューブは高アスペクト比であるために良好な電気放出特性を持つことからより好ましい。以下、針状炭素の代表としてカーボンナノチューブを用いた電子放出源用ペーストについて一例として述べる。
【0013】
本発明で用いるカーボンナノチューブには単層、または2層、3層等の多層カーボンナノチューブがある。層数の異なるカーボンナノチューブの混合物としてもよいし、未精製カーボンナノチューブ粉末はアモルファスカーボンや触媒金属等の不純物を含むことがあるため、酸処理などの精製を行うことによって純度を高めて使用することもできる。また、カーボンナノチューブの長さを調整するため、超音波、ボールミルやビーズミル等でカーボンナノチューブ粉末を粉砕してもよい。
【0014】
電子放出特性や寿命の観点から、カーボンナノチューブは構造欠陥の少ないものが好ましい。一般的に、カーボンナノチューブの構造欠陥はレーザーラマン分光法にて測定されるラマンスペクトルで評価することができる。構造欠陥が少なく、結晶性の高いカーボンナノチューブには1580cm−1付近に存在するGバンドピークと呼ばれるsp炭素間結合に由来するラマンスペクトルが見られる。このピークの強度が高く、半値幅が小さいほど構造欠陥が少なく、結晶性の高いカーボンナノチューブであることが知られている。一方、構造欠陥が多く、結晶性の低いカーボンナノチューブには1360cm−1付近に存在するDバンドピークと呼ばれるsp炭素間結合に由来するラマンスペクトルが見られることが知られている。従って、カーボンナノチューブの構造欠陥はGバンドピーク強度(G)とDバンドピーク強度(D)の比であるG/D比で表すことができ、このG/D比が大きいほど構造欠陥が少なく、結晶性が高いカーボンナノチューブであることがわかる。ここでいうピーク強度とはピーク高さのことを言う。G/D比の下限は好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上である。また、上限については、G/D比は大きければ大きいほど好ましいため特に規定されないが、好ましくは50以下であり、より好ましくは30以下であり、特に好ましくは15以下である。カーボンナノチューブのG/D比が前記範囲であると、カーボンナノチューブ表面の欠陥が少ないため、良好な寿命等の電気放出特性を得ることができる。
【0015】
なお、本発明で用いるカーボンナノチューブのG/D比は、例えば、励起波長647nm、ビーム径100μm、出力80mWのレーザーを用いてラマンスペクトルを測定したときのGバンドとDバンドのピーク高さから求めることができる。ラマン分光測定装置として、例えばJobinYvon製 Ramanor T−64000などを挙げることができる。光源としてはKrレーザーなどが挙げられる。
【0016】
電子放出源用ペースト全体に対するカーボンナノチューブの含有量は0.1〜20重量%が好ましい。また0.1〜10重量%であることがより好ましく、0.5〜5重量%であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブの含有量が前記範囲内であると、電子放出源用ペーストの良好な分散性、印刷性およびパターン形成性が得られる。
【0017】
本発明の電子放出源用ペーストは酸化ホウ素を含む成分で被覆されたカーボンナノチューブを含む。本発明における被覆とはカーボンナノチューブ表面に酸化ホウ素を含む成分が付着していることを指す。ここでいう酸化ホウ素とは、三酸化二ホウ素B、二酸化二ホウ素B、三酸化四ホウ素B・2HO、五酸化四ホウ素Bなど、少なくともB元素とO元素で構成される化合物であればいずれも用いることができるが、本発明では特に三酸化二ホウ素Bが好ましく用いられる。酸化ホウ素を含む成分、特にBを含む成分によって被覆されたカーボンナノチューブを用いた電子放出源用ペーストは、大気焼成時の耐酸化性が向上するだけでなく、電子放出素子とした時に電子放出特性の経時劣化(寿命)が著しく向上する効果があることを見出した。これは電子放出素子から発生する脱ガスや、そのガスがイオン化されて電子放出源表面に付着するイオンスパッタに対して、酸化ホウ素、特にBが遮断層のような働きをすることによって、カーボンナノチューブの劣化を大幅に抑制する効果があるためだと考えられる。
【0018】
また、カーボンナノチューブからの良好な電子放出特性を得るためには、カーボンナノチューブの最表面が、少なくとも酸化ホウ素を含む成分、特にBを含む成分によって部分的に被覆されている状態のものが好ましい。つまり、少なくともカーボンナノチューブの一部が露呈されている状態が好ましい。従って、良好な電子放出特性を得つつ、耐酸化性、寿命性能に優れた電子放出素子を得るためには、酸化ホウ素を含む成分、特にBを含む成分によるカーボンナノチューブの被覆率を制御することが望ましい。被覆率の範囲は、20%以上90%未満が好ましく、より好ましくは30%以上70%以下である。被覆率が20%以上、より好ましくは30%以上であれば耐酸化性、寿命性能に優れた電子放出素子が得られ、90%未満、より好ましくは70%以下であれば電子放出特性が良好な電子放出素子が得られる。ここで、酸化ホウ素を含む成分、特にBを含む成分による被覆率は、酸化ホウ素、特にBを含む成分のカーボンナノチューブ表面への2次元投影面積の総和がカーボンナノチューブ表面に対して占める割合を指す。
【0019】
本発明に用いることができるカーボンナノチューブは、ホウ素化合物と接触させた状態で熱処理することで表面を酸化ホウ素、特にBで被覆することができる。ここでいうホウ素化合物は、熱処理によって酸化ホウ素を生成するものであれば何れも用いることができるが、450℃を上回る温度での熱処理では大気中でカーボンナノチューブが焼失しやすいことや、酸化ホウ素が溶融してカーボンナノチューブの分散性に悪影響を及ぼす恐れがあるため、450℃以下での熱処理によって酸化ホウ素を生成するものが好ましく用いられる。450℃以下での熱処理が可能なホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸エステル、ボロン酸、ボロン酸エステル、ジボロンエステル、ボラン等が挙げられるが、酸化ホウ素の被膜が形成しやすい点からホウ酸又はホウ酸エステルが好ましく用いられる。
【0020】
ホウ酸エステルの具体例としては、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリヘキシル、ホウ酸トリオクチル、ホウ酸トリデシル、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリエタノールアミン、トリス(トリメチルシリル)ボラート、2−イソプロポキシ−4,4,5,5,−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン、2−メトキシ−4,4,5,5,−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン、2,4,6−トリメトキシボロキシン等が挙げられるが、これらに限られたものではない。
【0021】
前記ホウ素化合物は気体、液体または固体状態の何れであっても良いが、450℃以下の低温処理が可能であることから液体または固体状態が好ましい。
【0022】
液体状態のホウ素化合物を用いる場合、必要に応じて溶媒を添加してカーボンナノチューブを浸したホウ素化合物溶液を作製し、攪拌することによって接触させることができる。また、カーボンナノチューブを浸したホウ素化合物溶液にボールミル、遊星式ボールミル、ビーズミル、ウルトラアペックスミル、ミキサー、三本ローラー、ホモジナイザー、攪拌脱法機等の混練機や超音波を用いて外力を加えることで、カーボンナノチューブ表面とホウ素化合物の接触効率を向上できるため好ましい。
【0023】
固体状態のホウ素化合物を用いる場合、必要に応じて溶媒を添加してカーボンナノチューブとホウ素化合物の混合物を作製し、乳鉢などで混練することで接触させることができる。ここで、カーボンナノチューブとホウ素化合物の混合物をボールミル、遊星式ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ウルトラアペックスミル、ミキサー、三本ローラー、ホモジナイザー等の混練機を用いて混合することにより、カーボンナノチューブ表面とホウ素化合物の接触効率が向上できるため好ましい。
【0024】
ホウ素化合物としてホウ酸を用いた場合の熱処理温度は、150℃以上450℃以下の温度であることが好ましく、より好ましくは150℃以上300℃以下である。これはカーボンナノチューブを150℃以上の温度でホウ酸処理することで、HBOからBへ化学変化する際、カーボンナノチューブ表面をBで被覆することができるためである。温度が低すぎるとホウ酸が化学変化を起こさず、カーボンナノチューブ表面をBで十分に被覆できない恐れがある。また、温度が高すぎるとカーボンナノチューブが焼失する可能性があることや、Bが溶融してカーボンナノチューブの分散性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0025】
また、ホウ素化合物としてホウ酸エステルを用いた場合の熱処理温度は、50℃以上450℃以下が好ましく、50℃以上300℃以下がより好ましく、70℃以上300℃以下がさらに好ましい。ホウ酸エステルとの熱処理温度が低すぎると、ホウ酸エステルが化学反応を起こさず、カーボンナノチューブ表面をBで十分に被覆できない恐れがある。また、温度が高すぎるとカーボンナノチューブが焼失する可能性があることや、Bが溶融してカーボンナノチューブの分散性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0026】
前述した熱処理の処理時間は使用するホウ素化合物と熱処理の温度で適宜設定されるが、0.2時間以上5時間以下が好ましい。
【0027】
カーボンナノチューブをホウ素化合物と接触した状態で熱処理する場合、カーボンナノチューブに対するホウ素化合物の添加量は、ホウ素化合物が液体状態および固体状態のいずれの場合においても、カーボンナノチューブ100重量部に対してホウ素化合物50〜3000重量部が好ましく、100〜2000重量部がさらに好ましい。ホウ素化合物の添加量が50重量部以上であれば、カーボンナノチューブの耐酸化性と長寿命性能が向上するため好ましく、ホウ素化合物の添加量が3000重量部以下であれば、カーボンナノチューブからの良好な電子放出特性が得られるため好ましい。
【0028】
また、前記酸化ホウ素を含む成分で被覆されたカーボンナノチューブは、被覆成分中にさらに酸化ケイ素成分を含むことで、電子放出源用ペースト中でのカーボンナノチューブの良好な分散安定性が得られるため好ましい。ここでいう酸化ケイ素とは、二酸化ケイ素SiO、亜酸化ケイ素Siなど、少なくともSi元素とO元素で構成される化合物であればいずれも用いることができるが、本発明では二酸化ケイ素SiOが好ましく用いられる。そのようなカーボンナノチューブは、前記のようにホウ素化合物と接触させた状態で熱処理する際に、前記ホウ素化合物中にケイ素化合物を含むことで酸化ホウ素を含む被覆成分中にさらに酸化ケイ素成分を含むことができる。ここで用いることができるケイ素化合物は、熱処理によって酸化ケイ素を生成するものであれば何れも用いることができるが、450℃を上回る温度での熱処理では大気中でカーボンナノチューブが焼失しやすいことから、450℃以下での熱処理によって酸化ケイ素を生成するものが好ましく用いられる。450℃以下での熱処理が可能なケイ素化合物としては、アルコキシシラン、シラザン、シランカップリング剤、シリコーン、シリカゾル等が挙げられるが、低温で酸化ケイ素被膜が形成しやすい点からアルコキシシランまたはシランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0029】
アルコキシシランまたはシランカップリング剤としては、アルコキシ基、ハロゲンおよびアセトキシ基などの加水分解性のシリル基を有するものが挙げられる。通常アルコキシ基、特にメトキシ基やエトキシ基を有するものが好ましく用いられる。また、他の有機官能基としては、アミノ基、メタクリル基、アクリル基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、アルキル基およびアリル基などを含むことができる。これらの具体的な化合物としては、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ジブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノメチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−へキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランおよびジフェニルジメトキシシランなどを挙げることができる。本発明ではこれらのカップリング剤から選んだ1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。また、上記カップリング剤1種を用いた自己縮合物であるオリゴマーや、2種以上を組み合わせた異種縮合物であるオリゴマーを使用してもよい。
【0030】
本発明の電子放出源用ペーストは無機粉末を含む。無機粉末は接着剤としての役割を果たすものであればいずれも用いることができるが、カーボンナノチューブの耐熱性が500〜600℃であること、基板ガラスとしてソーダライムガラス(軟化点500℃程度)を用いることなどを考慮すると、無機粉末の焼結温度は500℃以下が好ましく、450℃以下がさらに好ましい。前記焼結温度を有する無機粉末を用いることで、カーボンナノチューブの焼失を抑制し、かつソーダライムガラスなどの安価な基板ガラスを使用することができる。このような無機粉末の具体例としては銀、銅、ニッケル、合金、はんだなどの金属粉末、ガラス粉末、もしくはそれらを混ぜたものを使用することができる。金属粉末は触媒作用によってカーボンナノチューブの焼失を促進することから、本発明の電子放出源用ペーストにおいてはガラス粉末が好ましく用いられる。
【0031】
ガラス粉末の焼結温度を表すガラス軟化点はガラス組成によって異なるため、ガラス組成の選択によって制御することができる。本発明の電子放出源用ペーストに含むガラス粉末としてはBi系ガラス、アルカリ系ガラス、SnO−P系ガラス、SnO−B系ガラスが好ましく用いられる。前記ガラス粉末を用いると、ガラス軟化点を300℃〜450℃の範囲に制御することができるため好ましい。
【0032】
電子放出源はカソード電極と強固に接着している必要があるが、電子放出源用ペーストに含まれるカーボンナノチューブと無機粉末の比は、Bで被覆されたカーボンナノチューブ100重量部に対し、無機粉末が200〜8000重量部であると、カソード電極に対する優れた接着性を得ることができるため好ましい。200重量部以上であれば十分な接着性が得られ、8000重量部以下であると電子放出源用ペーストが適度な粘度となるため好ましい。
【0033】
ガラス粉末の平均粒径は2μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。ガラス粉末の平均粒径が2μm以下であると、微細な電子放出源パターンの形成性と電子放出源とカソード電極の接着性を得ることができる。
【0034】
ここで平均粒径とは、累積50%粒径(D50)のことをさす。これは一つの粉体の集団の全体積を100%として体積累積カーブを求めたとき、その体積累積カーブが50%となる点の粒径を表したものであり、累積平均径として一般的に粒度分布を評価するパラメータの1つとして利用されているものである。なお、ガラス粉末の粒度分布の測定はマイクロトラック法(日機装(株)製マイクロトラックレーザー回折式粒度分布測定装置による方法)で測定することができる。
【0035】
本発明の電子放出源用ペーストは無機粉末として導電性粒子を含むことができる。電子放出源用ペーストが導電性粒子を含むことで、電子放出源内部の抵抗値が下がり、電子放出源から低電圧での電子放出が可能となる。前記導電性粒子は、導電性のあるものであれば特に限定されないが、導電性酸化物を含む粒子、あるいは酸化物表面の一部または全部に導電性材料がコーティングされた粒子であることが好ましい。金属は触媒活性が高く、焼成や電子放出により高温になったときにカーボンナノチューブを劣化させることがあるためである。導電性酸化物としては、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化スズ、酸化亜鉛などが好ましい。また、酸化チタン、酸化ケイ素などの酸化物表面の一部または全部にITO、酸化スズ、酸化亜鉛、金、白金、銀、銅、パラジウム、ニッケル、鉄、コバルトなどがコーティングされたものも好ましい。この場合も、導電性材料のコーティング材料としては、ITO、酸化スズ、酸化亜鉛などの導電性酸化物が好ましい。
【0036】
電子放出源用ペースト中における導電性粒子の含有量は、カーボンナノチューブ1重量部に対して導電性粒子0.1〜100重量部であることが好ましく、0.5〜50重量部であることがさらに好ましい。導電性粒子の含有量が前記範囲内であると、カーボンナノチューブとカソード電極の電気的接触がより良好となることから特に好ましい。
【0037】
導電性粒子の平均粒径は0.1〜1μmが好ましく、0.1〜0.6μmがさらに好ましい。導電性粒子の平均粒径が前記範囲内であると、電子放出源内部の抵抗値均一性が良好であり、さらには表面平坦性が得られることから、低電圧で表面から均一な電子放出を得ることができる。
【0038】
本発明の電子放出源用ペーストは、スクリーン印刷やインクジェット塗布などの一般的な印刷法でのパターン形成性能を付与するために、有機バインダー、溶媒、分散剤を含むことができる。さらにペースト特性を向上させるために、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、有機あるいは無機の沈殿防止剤やレベリング剤等の添加剤を含んでもよい。また、フォトリソグラフィーによってパターン形成する場合は、エチレン性不飽和基を有する樹脂、光硬化性モノマー、光重合開始剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、増感剤等を含むことで感光性を付与することができる。
【0039】
有機バインダーは電子放出源用ペーストにパターン形成性を付与するものであればいずれも用いることができる。例えば、ポリ(メタ)アクリレート、セルロース樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィドなどが挙げられ、印刷性が良好であることからポリ(メタ)アクリレートまたはセルロース樹脂であることが好ましく、熱分解性が良好であることからポリ(メタ)アクリレートであることがさらに好ましい。
【0040】
有機バインダーを用いる場合、その含有量は、電子放出源用ペースト全量に対して1〜90重量%が好ましく、2〜60重量%であることがさらに好ましく、5〜30重量%であることが特に好ましい。有機バインダーの含有量が前記範囲内であれば、電子放出源用ペーストの良好な印刷特性、塗膜形成性が得られる。
【0041】
溶媒は他の有機成分を溶解するものが好ましい。例えば、エチレングリコールやグリセリンに代表されるジオールやトリオールなどの多価アルコール、アルコールをエーテル化および/またはエステル化した化合物(エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート)などが挙げられる。具体的には、テルピネオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルカルビトールアセテートなどやこれらのうちの1種以上を含有する有機溶媒混合物が用いられる。
【0042】
溶媒を用いる場合、その含有量は、電子放出源用ペースト全量に対して10〜99重量%が好ましく、20〜90重量%であることがさらに好ましい。溶媒の含有量が前記範囲内であれば、電子放出源用ペーストの良好な分散安定性、印刷特性、塗膜形成性が得られる。
【0043】
電子放出源用ペースト中において、無機粉末やカーボンナノチューブの分散性を向上させるために分散剤を用いることができる。好ましい分散剤としてアミン系くし形ブロックコポリマーなどがある。具体的には、アビシア(株)製のソルスパース13240、ソルスパース13650、ソルスパース13940、ソルスパース24000SC、ソルスパース24000GR、ソルスパース28000(いずれも商品名)などが挙げられる。
【0044】
分散剤を用いる場合、その含有量は、電子放出源用ペースト全量に対して0.1〜10重量%が好ましく、0.5〜5重量%であることがさらに好ましい。分散剤の含有量が前記範囲内であれば、電子放出源用ペーストの良好な分散安定性が得られる。
【0045】
本発明の電子放出源用ペーストの作成方法としては、酸化ホウ素を含む成分で被覆されたカーボンナノチューブと無機粉末、さらに必要に応じて有機バインダー、分散剤、溶媒等の各種成分を所定の組成になるよう添加した後、ボールミル、遊星式ボールミル、ビーズミル、ウルトラアペックスミル、ミキサー、三本ローラー、ホモジナイザー等の混練機や超音波を用いて均質に分散する方法が挙げられる。ペースト粘度は、ガラス粉末、増粘剤、溶媒、可塑剤および沈殿防止剤等の添加割合によって調整されるが、印刷手法によってペーストに必要な粘度範囲が異なるため、ペースト粘度は適宜調整される。例えばスリットダイコーターやスクリーン印刷法によってパターン形成する場合、粘度は2〜200Pa・sであることが好ましい。また、スピンコート法、スプレー法やインクジェット法でパターン形成する場合、粘度は0.001〜5Pa・sが好ましい。
【0046】
以下に、本発明の電子放出源用ペーストを用いたフィールドエミッション用電子放出源および電子放出素子の作製方法について説明する。なお、電子放出源および電子放出素子の作製は、その他の公知の方法を用いてもよく、後述する作製方法に限定されない。
【0047】
はじめに電子放出源の作製方法について説明する。電子放出源は、以下に説明するように、本発明の電子放出源用ペーストからなるパターンを基板上に形成後、焼成することにより得られる。まず、本発明の電子放出源用ペーストを用いて基板上に電子放出源のパターンを形成する。基板としては電子放出源を固定するものであればいかなるものでも良く、ガラス基板、セラミック基板、金属基板、フィルム基板などが挙げられ、さらに基板上には導電性を有する膜が形成されていることが好ましい。基板上に電子放出源のパターンを形成する方法としては、一般的なスクリーン印刷法、インクジェット法などの印刷法が好ましく用いられる。また、感光性を付与した電子放出源用ペーストを用いると、フォトリソグラフィーによって微細な電子放出源のパターンを一括で形成することができるため好ましい。具体的には、スクリーン印刷法またはスリットダイコーター等で基板上に本発明の感光性を付与した電子放出源用ペーストを印刷した後、熱風乾燥機で乾燥して電子放出源用ペーストの塗膜を得る。前記塗膜に対して、上面(電子放出源用ペースト側)からフォトマスクを通じて紫外線を照射した後、アルカリ現像液や有機現像液などで現像して電子放出源パターンを形成することができる。次に電子放出源のパターンを焼成する。焼成雰囲気は大気中または窒素などの不活性ガス雰囲気中にて、焼成温度は400〜500℃の温度で焼成する。焼成した電子放出源のパターンには表面処理を行い、表面からカーボンナノチューブが突出した電子放出源が得られる。表面処理の方法としては、粘着性を有するテープまたはローラーを用いた剥離法やレーザー処理法などが用いることができる。
【0048】
次に電子放出素子の作製方法について説明する。電子放出素子は、本発明の電子放出源用ペーストからなる電子放出源をカソード電極上に形成して背面板を作製し、アノード電極と蛍光体を有する前面板と対向させることにより得ることができる。以下、ダイオード型電子放出素子の作製方法とトライオード型電子放出素子の作製方法について詳細に説明する。
【0049】
ダイオード型電子放出素子の作製方法においては、まず、ガラス基板上にカソード電極を形成する。カソード電極は、ITOやクロム等の導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。カソード電極上には、前述の方法によって本発明の電子放出源用ペーストを用いて電子放出源を作製し、ダイオード型電子放出素子用の背面板が得られる。次にガラス基板上にアノード電極を形成する。アノード電極はITO等の透明導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。ガラス基板上に形成されたアノード電極上に蛍光体を印刷し、ダイオード型電子放出素子の前面板が得られる。ダイオード型電子放出素子用背面板および前面板は、電子放出源と蛍光体が対向するようにスペーサーを挟んで貼り合わせ、容器に接続した排気管で真空排気して、内部の真空度が1×10−3Pa以下の状態で融着することによりダイオード型電子放出素子が得られる。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kVの電圧を供給することで、カーボンナノチューブから電子が放出されて蛍光体にぶつかり、蛍光体の発光を得ることができる。
【0050】
トライオード型電子放出素子の作製方法においては、まず、ガラス基板上にカソード電極を作製する。カソード電極は、ITOやクロム等の導電性膜をスパッタ法などによって成膜することができる。次いで、カソード電極上に絶縁層を作製する。絶縁層は絶縁材料を印刷法または真空蒸着法などにより、膜厚3〜20μm程度で作製することができる。次いで、絶縁層上にゲート電極層を作製する。ゲート電極層はクロムなどの導電性膜を真空蒸着法などにより形成することで得られる。次いで、絶縁層にエミッタホールを作製する。エミッタホールの作製方法は、まずゲート電極上にレジスト材料をスピンコーター法などで塗布、乾燥し、フォトマスクを通じて紫外線を照射してパターンを転写した後、アルカリ現像液などで現像する。現像によって開口した部分からゲート電極および絶縁層をエッチングすることで、絶縁層にエミッタホールを形成することができる。次いで、前述の方法によって本発明の電子放出源用ペーストを用いてエミッタホール内部に電子放出源を作製し、トライオード型電子放出素子用の背面板が得られる。次にガラス基板上にアノード電極を形成する。アノード電極はITO等の透明導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。ガラス基板上に形成されたアノード電極上に蛍光体を印刷し、トライオード型電子放出素子の前面板が得られる。トライオード型電子放出素子用背面板および前面板は、電子放出源と蛍光体が対向するようにスペーサーを挟んで貼り合わせ、容器に接続した排気管で真空排気して、内部の真空度が1×10−3Pa以下の状態で融着することによりダイオード型電子放出素子が得られる。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kV、ゲート電極に20〜150Vの電圧を供給することで、カーボンナノチューブから電子が放出されて蛍光体にぶつかり、蛍光体の発光を得ることができる。
【0051】
本発明の電子放出源用ペーストを用いて作製された電子放出源は、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)や透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)の電子顕微鏡に組み合わされたエネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)、電子線マイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)や電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy:EELS)等の元素分析装置によって、その組成や化学結合状態を分析することができる。前記方法を用いた具体的な分析方法としては、まず透過型電子顕微鏡を用いて電子放出材料を観察することで、各成分の形状から例えばファイバー状の構造を持つ電子放出材料とそれに付着する被膜成分を概ね特定することができる。さらに電子エネルギー損失分光法を用いて各成分の元素分析を行い、組成や化学結合状態を特定することができる。ただし、電子放出源の分析は電子放出源の組成を特定できるものであればいずれの方法を用いても良く、これらの方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明を実施例に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
各実施例および比較例に用いた針状炭素、無機成分および有機成分ならびに各実施例および比較例における評価項目の評価方法は次の通りである。
【0054】
A.針状炭素
カーボンナノチューブI:2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)、平均直径2nm、ラマンG/D比4.3
カーボンナノチューブII:2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)、平均直径2nm、ラマンG/D比10.8
カーボンナノチューブIII:2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)、平均直径2nm、ラマンG/D比0.9。
【0055】
B.無機成分
ガラス粉末:Bi(84重量%)、B(7重量%)、SiO(1重量%)、ZnO(8重量%)の組成のものを用いた。このガラス粉末の軟化点は380℃、平均粒径は0.5μmのものを用いた。
【0056】
導電性粒子:白色導電性粉末(球状の酸化チタンを核として、SnO /Sb導電層を被覆したもの)、石原産業(株)製、ET−500W、比表面積6.9m/g、密度4.6g/cm、平均粒径0.2μm。
【0057】
ホウ素化合物I:5wt%ホウ酸水溶液(ホウ酸:和光純薬(株)製を超純水に溶解したものを使用した。)
ホウ素化合物II:ホウ酸トリプロピル(東京化成工業(株)製)
ホウ素化合物III:ホウ酸トリブチル(東京化成工業(株)製)
ホウ素化合物IV:ホウ酸トリヘキシル(東京化成工業(株)製)
ホウ素化合物V:ホウ酸トリエタノールアミン(東京化成工業(株)製)
ホウ素化合物VI:2,4,6−トリメトキシボロキシン(東京化成工業(株)製)
ホウ素化合物VII:ホウ酸(和光純薬(株)製)
ホウ素化合物VIII:四ホウ酸ナトリウム(和光純薬(株)製)
ケイ素化合物I:メチルトリメトキシシラン“KBM13”(信越化学工業(株)製)
ケイ素化合物II:ビニルトリメトキシシラン“KBM1003”(信越化学工業(株)製)。
【0058】
C.有機成分
有機バインダー:ポリメチルメタクリレート、重量平均分子量が60,000(東レ(株)製)
溶媒:テルピネオール(和光純薬(株)製)
分散剤:“ソルスパース24000GR”(アビシア(株)製)。
【0059】
D.ホウ素化合物による針状炭素の処理方法
針状炭素およびホウ素化合物、必要に応じて溶媒、さらに実施例13〜18においてはケイ素化合物を秤量し、所定の混練機、撹拌装置または超音波照射装置を用いて混合した後、乾燥オーブンまたは電気マッフル炉において所定温度での熱処理を行った。
【0060】
E.被覆率の測定
(株)日立製作所製透過型電子顕微鏡(TEM)H7100型により、1,000,000倍で針状炭素の写真を撮り、前記写真における針状炭素部分の面積(A)とBまたはSiOを含む成分の被膜部分の面積(針状炭素部分と被膜部分が重なる部分のみを被膜部分の面積とした。)の総和(B)を市販の画像解析ソフトで計測し、被覆率を下記の式で算出した。これらの算出を異なる3枚の写真を使用して行い、得られた値の平均値を被覆率とした。
被覆率(%)=[(B)/(A)]×100。
【0061】
F.発光面積の測定
真空度を5×10−4Paにした真空チャンバー内に、ITO基板上に1cm×1cm角の電子放出素子が形成された背面基板と、ITO基板上に厚み5μmの蛍光体層(P22)を形成した前面基板を、100μmのスペーサーを挟んで対向させ、電圧印可装置(菊水電子工業(株)製耐電圧/絶縁抵抗試験器TOS9201)によって0.2kVの電圧を印加して、前面基板を発光させた。発光面積はCCDカメラによって発光像を取り込み、1cm×1cm角の電子放出源内での発光部分割合を測定し、数値化した。
【0062】
G.1mA/cmに達する電界強度の測定
真空度を5×10−4Paにした真空チャンバー内に、ITO基板上に1cm×1cm角の電子放出源が形成された背面基板と、ITO基板上に厚み5μmの蛍光体層(P22)を形成した前面基板を、100μmのスペーサーを挟んで対向させ、電圧印可装置(菊水電子工業(株)製耐電圧/絶縁抵抗試験器TOS9201)によって10V/秒で電圧印加した。得られた電流電圧曲線(最大電流値10mA/cm)から1mA/cmに達する電界強度を求めた。電界強度の値が小さいものほど電子放出特性は良好である。
【0063】
H.寿命の評価
真空度を5×10−4Paにした真空チャンバー内に、ITO基板上に1cm×1cm角の電子放出源が形成された背面基板と、ITO基板上に厚み5μmの蛍光体層(P22)を形成した前面基板を、100μmのスペーサーを挟んで対向させ、電圧印可装置(菊水電子工業(株)製耐電圧/絶縁抵抗試験器TOS9201)によって電流値が1mA/cmとなる電圧を印可した。この時を初期値として一定電圧下にて電流値の経時変化を測定し、電流値が初期値から0.5mA/cmまで減少するのに要した時間を寿命とした。
【0064】
(実施例1)
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製、平均直径2nm、ラマンG/D比4.3)とホウ素化合物Iを重量比で1:300(カーボンナノチューブとホウ酸の重量比では1:15)となるように混合し、マグネチックスターラーで2時間攪拌した。前記混合液をろ過して回収した固形分を、乾燥オーブン中にて150℃で2時間保持することで熱処理し、Bを含む成分で被覆されたカーボンナノチューブを得た。このカーボンナノチューブの被覆率は30%であった。
【0065】
前記カーボンナノチューブを直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、有機バインダー、分散剤、溶媒、ガラス粉末、導電性粒子を表1に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
【0066】
次に、ガラス基板上にITOをスパッタ法により成膜してカソード電極を形成した。得られたガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により1cm×1cm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中100℃で5分間乾燥した。
【0067】
続いて電子放出源用ペースト塗膜を大気中450℃で焼成し、電子放出源を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ5N/10mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cmに達する電界強度は2.4V/μm、発光面積は85%、寿命は62時間であった。
【0068】
(実施例2)
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製、平均直径2nm、ラマンG/D比4.3)とホウ素化合物IIを重量比で1:10となるように秤量した後、少量の溶剤を加えて乳鉢で十分に混合した。前記混合物を乾燥オーブン中にて50℃で2時間保持することで熱処理し、Bを含む成分で被覆されたカーボンナノチューブを得た。このカーボンナノチューブの被覆率は33%であった。
【0069】
前記カーボンナノチューブを直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、有機バインダー、分散剤、溶媒、ガラス粉末、導電性粒子を表1に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
【0070】
次に、ガラス基板上にITOをスパッタ法により成膜してカソード電極を形成した。得られたガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により1cm×1cm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中100℃で5分間乾燥した。
【0071】
続いて電子放出源用ペースト塗膜を大気中450℃で焼成し、電子放出源を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ5N/10mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cmに達する電界強度は2.1V/μm、発光面積は84%、寿命は72時間であった。
【0072】
(実施例3〜4)
実施例2と同様に、表1に示す組成比の電子放出源用ペーストおよび電子放出源を表1に示す処理条件で作製した。被覆率、1mA/cmに達する電界強度、発光面積および寿命の測定結果を表1に示す。
【0073】
(実施例5)
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製、平均直径2nm、ラマンG/D比4.3)とホウ素化合物Vを重量比で1:5となるように秤量した後、少量の溶剤を加えて乳鉢で十分に混合した。前記混合物を電気マッフル炉にて5℃/minの昇温速度で300℃まで昇温した後、0.2時間保持することで熱処理し、Bを含む成分で被覆されたカーボンナノチューブを得た。このカーボンナノチューブの被覆率は45%であった。
【0074】
前記カーボンナノチューブを直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、有機バインダー、分散剤、溶媒、ガラス粉末、導電性粒子を表1に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
【0075】
次に、ガラス基板上にITOをスパッタ法により成膜してカソード電極を形成した。得られたガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により1cm×1cm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中100℃で5分間乾燥した。
【0076】
続いて電子放出源用ペースト塗膜を大気中450℃で焼成し、電子放出源を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ5N/10mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cmに達する電界強度は1.8V/μm、発光面積は87%、寿命は85時間であった。
【0077】
(実施例6)
実施例5と同様に、表1に示す組成比の電子放出源用ペーストおよび電子放出源を表1に示す処理条件で作製した。被覆率、1mA/cmに達する電界強度、発光面積および寿命の測定結果を表1に示す。
【0078】
(実施例7〜10)
実施例2と同様に、表1に示す組成比の電子放出源用ペーストおよび電子放出源を表1に示す処理条件で作製した。被覆率、1mA/cmに達する電界強度、発光面積および寿命の測定結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
(比較例1)
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、有機バインダー、分散剤、溶媒、ガラス粉末を表2に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
【0081】
次に、ガラス基板上にITOをスパッタ法により成膜してカソード電極を形成した。得られたガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により1cm×1cm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中100℃で5分間乾燥した。
【0082】
続いて電子放出源用ペースト塗膜を大気中450℃で焼成し、電子放出素子を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ5N/10mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cmに達する電界強度は3.0V/μm、発光面積は82%、寿命は21時間であった。
【0083】
(比較例2)
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、ホウ素化合物VII、有機バインダー、分散剤、溶媒、ガラス粉末を表2に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、特許文献2と同様の電子放出源用ペーストを作製した。
【0084】
次に、ガラス基板上にITOをスパッタ法により成膜してカソード電極を形成した。得られたガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により1cm×1cm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中100℃で5分間乾燥した。
【0085】
続いて電子放出源用ペースト塗膜を大気中450℃で焼成し、電子放出素子を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ5N/10mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cmに達する電界強度は3.2V/μm、発光面積は57%、寿命は17時間であった。
【0086】
(比較例3〜4)
比較例2と同様に、表2に示す組成比の電子放出源用ペーストおよび電子放出素子を作製した。被覆率、1mA/cmに達する電界強度、発光面積および寿命の測定結果を表2に示す。
【0087】
(比較例5)
特許文献3と同様の方法でカーボンナノチューブを得た。すなわち、2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製、平均直径2nm)とホウ素化合物Iを重量比で1:300(カーボンナノチューブとホウ酸の重量比では1:15)となるように混合し、オイルバス中にて70℃で2時間攪拌することで熱処理を行った。前記混合液はろ過・水洗して固形分を回収し、70℃のオーブンで乾燥してカーボンナノチューブを得た。このカーボンナノチューブの被覆率は0%であった。
【0088】
前記カーボンナノチューブを直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、有機バインダー、分散剤、溶媒、ガラス粉末、導電性粒子を表2に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
【0089】
次に、ガラス基板上にITOをスパッタ法により成膜してカソード電極を形成した。得られたガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により1cm×1cm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中100℃で5分間乾燥した。
【0090】
続いて電子放出源用ペースト塗膜を大気中450℃で焼成し、電子放出素子を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ5N/10mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cmに達する電界強度は3.1V/μm、発光面積は79%、寿命は22時間であった。
【0091】
【表2】

【0092】
(実施例11〜12)
実施例1と同様に、表3に示す組成比の電子放出源用ペーストおよび電子放出源を表3に示す処理条件で作製した。ここではラマンG/D比が異なるカーボンナノチューブを用いた。被覆率、1mA/cmに達する電界強度、発光面積および寿命の測定結果を表3に示す。
【0093】
(実施例13)
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製、平均直径2nm、ラマンG/D比4.3)、ホウ素化合物IIIおよびケイ素化合物Iを重量比で1:15:3となるように秤量した後、少量の溶剤を加えて乳鉢で十分に混合した。前記混合物を乾燥オーブン中にて150℃で2時間保持することで熱処理し、BおよびSiOを含む成分で被覆されたカーボンナノチューブを得た。このカーボンナノチューブの被覆率は60%であった。
【0094】
前記カーボンナノチューブを直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、有機バインダー、分散剤、溶媒、ガラス粉末、導電性粒子を表3に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
【0095】
次に、ガラス基板上にITOをスパッタ法により成膜してカソード電極を形成した。得られたガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により1cm×1cm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中100℃で5分間乾燥した。
【0096】
続いて電子放出源用ペースト塗膜を大気中450℃で焼成し、電子放出源を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ5N/10mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cmに達する電界強度は2.0V/μm、発光面積は88%、寿命は86時間であった。また、得られた電子放出源用ペーストは作製1ヶ月後においてもゲル化や粘度上昇が見られず、分散安定性が良好であった。一方、実施例3で得られた電子放出源用ペーストは作製5日後にはゲル化しており、分散安定性が悪かった。
【0097】
(実施例14〜18)
実施例13と同様に、表3に示す組成比の電子放出源用ペーストおよび電子放出源を作製した。ここではケイ素化合物IおよびIIを用いた。被覆率、1mA/cmに達する電界強度、発光面積および寿命の測定結果を表3に示す。また、得られた電子放出源用ペーストはいずれも作製1ヶ月後においてもゲル化や粘度上昇が見られず、分散安定性が良好であった。一方、実施例4および5で得られた電子放出源用ペーストは作製5日後にはゲル化しており、分散安定性が悪かった。
【0098】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ホウ素を含む成分で被覆された針状炭素と無機粉末を含む電子放出源用ペースト。
【請求項2】
前記針状炭素のラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドのピーク強度比であるG/D比が3以上である請求項1記載の電子放出源用ペースト。
【請求項3】
前記針状炭素の被覆率が20%以上90%未満である請求項1記載の電子放出源用ペースト。
【請求項4】
前記針状炭素の被覆成分がさらに酸化ケイ素成分を含む請求項1から3のいずれかに記載の電子放出源用ペースト。
【請求項5】
無機粉末がガラス粉末を含む請求項1から4のいずれかに記載の電子放出源用ペースト。
【請求項6】
無機粉末が導電性粒子を含む請求項1から5のいずれかに記載の電子放出源用ペースト。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の電子放出源用ペーストを用いた電子放出源。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の電子放出源用ペーストを用いた電子放出素子。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の電子放出源用ペーストを用いた電子放出素子の製造方法。

【公開番号】特開2011−204675(P2011−204675A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41403(P2011−41403)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】