説明

電子放出素子の製造方法、電子源の製造方法、および、画像表示装置の製造方法

【課題】十分な電子放出特性を備え、且つ、簡易な電子放出素子の製造方法、電子源の製造方法、および、画像表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る電子放出素子の製造方法は、カーボン膜を備える基板を用意する工程と、炭化水素もしくは水素、又は、炭化水素と水素の両方を含む雰囲気中で、前記カーボン膜の一部に、局所的にエネルギーを照射する工程と、を有することを特徴とする。また、本発明に係る電子源の製造方法は、複数の電子放出素子を有する電子源の製造方法であって、前記複数の電子放出素子のそれぞれが、上記本発明に係る電子放出素子の製造方法で製造されていることを特徴とする。また、本発明に係る画像表示装置の製造方法は、電子源と、電子の照射によって発光する発光部材と、を備える画像表示装置の製造方法であって、前記電子源が、上記本発明に係る電子源の製造方法で製造されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子の製造方法、電子源の製造方法、および、画像表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子放出素子には、電界放出型(以下、「FE型」と称する)電子放出素子や、表面伝導型電子放出素子等がある。
【0003】
FE型電子放出素子において、電子は、カソード電極(及びその上に配置された電子放出膜)と、ゲート電極との間に電圧を印加し、該電圧(電界)によってカソード電極(或いは電子放出膜)から真空中に引き出される。そのため、用いるカソード電極(電子放出膜)の仕事関数や形状などによって動作電界が大きく左右される。一般には仕事関数の小さいカソード電極(電子放出膜)を選ぶことが必要とされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、カソード電極としての金属体と、その金属体と接合された半導体(ダイヤモンド、AlN、BN等)とを備えた電子放出装置が開示されている。更に、上記文献には、膜厚が10nm程度以下のダイヤモンドからなる半導体膜表面を水素で終端することで、半導体膜の電子親和力を負にする方法が開示されている。図6に特許文献1に開示された電子放出素子の電子放出原理を示すバンドダイヤグラムを示す。図中、1はカソード電極、141は半導体膜、3は引き出し電極(ゲート電極またはアノード電極)、4は真空障壁、6は電子である。
【0005】
表面が水素終端されたダイヤモンド(半導体膜)は負性電子親和力を持つ材料として代表的なものである。負性電子親和力を持つダイヤモンド表面を電子放出面として利用する電子放出素子は特許文献2、3、非特許文献1などに開示されている。
【0006】
上記した、ダイヤモンドなどを用いた電子放出素子においては、低い閾値電界(電子を
放出するために最低限必要とする電界)での電子放出及び大きな放出電流が可能となる。
【0007】
しかし、負の電子親和力を有する半導体ないしは非常に小さな正の電子親和力を有する半導体を電子放出素子に用いた場合、一旦電子が半導体に注入されると、その電子は略必ず放出されてしまう。そのため、そのような電子放出素子をディスプレイや電子源などに適用する場合に、電子の放出量の制御(特にはオンとオフとの切り替え)が非常に困難になることがある。
【0008】
そこで、十分なオン・オフ特性を示し、低電圧で高効率な電子放出が可能な電子放出素子として、本発明者らは特許文献4に記載の電子放出素子を提案した。さらに、当該特許文献において、該電子放出素子を用いてなる電子源、及び、高いコントラストを示す画像表示装置についても提案した。
【0009】
【特許文献1】特開平9−199001号公報
【特許文献2】米国特許第5283501号明細書
【特許文献3】米国特許第5180951号明細書
【特許文献4】特開2005−26209号公報
【非特許文献1】V.V.Zhinov,J.Liu等著、「Environmental effect on the electron emission from diamond surfaces」,J.Vac.Sci.Technol.,B16(3),1998年5/6月,pp.1188−1193
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献4に記載の電子放出素子の製造方法には、絶縁層の表面を化学修飾することで、絶縁層の表面にダイポール層を形成する工程が含まれる。当該化学修飾は炭化水素ガス中で全体を熱処理することで成される。絶縁層表面を有効に水素で終端するために必要な温度は、600℃以上である。
【0011】
一方、電子放出素子をディスプレイパネル(表示パネル)として用いる場合、それら電子放出素子を形成する基板(土台)として一般に各種ガラスが用いられる。当該基板として一般に用いられるガラスの軟化点は、石英やシリコン基板の軟化点よりも低温である。具体的には550℃以下である。
【0012】
すなわち、特許文献4に記載の電子放出素子をディスプレイパネルとしてガラス基板上に形成した場合、表面に十分な化学修飾ができず、電子放出素子の特性を向上できないという問題がある。また、工程中に600℃という高温プロセスがはいるため、コストの増加をまねく。
【0013】
そこで、本発明は、十分な電子放出特性を備え、且つ、簡易な電子放出素子の製造方法、電子源の製造方法、および、画像表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る電子放出素子の製造方法は、カーボン膜を備える基板を用意する工程と、炭化水素もしくは水素、又は、炭化水素と水素の両方を含む雰囲気中で、前記カーボン膜の一部に、局所的にエネルギーを照射する工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る電子源の製造方法は、複数の電子放出素子を有する電子源の製造方法であって、前記複数の電子放出素子のそれぞれが、上記本発明に係る電子放出素子の製造方法で製造されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る画像表示装置の製造方法は、電子源と、電子の照射によって発光する発光部材と、を備える画像表示装置の製造方法であって、前記電子源が、上記本発明に係る電子源の製造方法で製造されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、十分な電子放出特性を備え、且つ、簡易な電子放出素子の製造方法、電子源の製造方法、および、画像表示装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載の無い限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
本発明の実施形態に係る電子放出素子はカーボン膜を備える。当該電子放出素子の製造方法は、カーボン膜上にダイポ−ル層を形成する工程を含む。そして、当該ダイポール層の形成は、炭化水素もしくは水素、又は、炭化水素と水素の両方を含む雰囲気中で、カーボン膜の一部に、局所的にエネルギーを照射することで成される。そのため、基板(ガラスなど熱的に脆弱な基板であっても)に熱的な損傷を与えることなく終端処理を行うこと
ができる。
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る電子放出素子の一例について説明を行う。なお、本発明の実施形態に係る電子放出素子の構成は、下記の電子放出素子の構成に限らず、電子放出材としてのカーボン膜を備える電子放出素子であればどのような構成であってもよい。
【0021】
本実施形態に係る電子放出素子において、電子は、絶縁層中のキャリアの量子力学的トンネル現象と、電子放出材を水素で終端することで低減した真空障壁のトンネル現象とを用いて、電子放出材から真空中に取り出される。
【0022】
また、本実施形態に係る電子放出素子は、カソード電極と、カソード電極の表面の少なくとも一部を覆い、表面にダイポール層を有する絶縁層と、引き出し電極と、を有する。そして、カソード電極と引き出し電極との間に電圧を印加することにより、絶縁層の表面における伝導帯よりもダイポール層に接する真空障壁が高い状態で、電子をカソード電極から絶縁層と真空障壁とをトンネルさせ、真空中に放出する。
【0023】
実施形態に係る電子放出素子において、ダイポール層は絶縁層表面を水素で終端することにより形成されており、絶縁層は炭素を主成分とする。また、本実施形態に係る電子放出素子は、絶縁層の厚さが10nm以下であることが好ましい。電子放出時に、絶縁層の表面が正の電子親和力を有することが好ましい。絶縁層表面の表面粗さが、RMS表記で絶縁層の膜厚の1/10より小さいことが好ましい。
【0024】
以下に、図3を用いて、本実施形態に係る電子放出素子における電子放出原理を説明する。図中、1はカソード電極、2は絶縁層、3は引き出し電極、4は真空障壁、5はダイポール層がその表面に形成された絶縁層2と真空との界面、6は電子である。
【0025】
電子6は、カソード電極1の電位に対して高い電位を引き出し電極3に印加することにより、絶縁層2から真空中に引き出される。このとき、カソード電極1と引き出し電極3との間の電圧を駆動電圧という。
【0026】
図3(a)は本実施形態に係る電子放出素子における駆動電圧が0[V]の時のバンドダイヤグラムであり、図3(b)は駆動電圧V[V]を印加した時のバンドダイヤグラムである。
【0027】
図3(a)において絶縁層2は表面に形成されたダイポール層により分極され、δ分の電圧が印加された状態になっている。この状態にさらに電圧V[V]を印加すると上記絶縁層2のバンドはより急峻にベンディングし、同時に真空障壁4のベンディングもより急峻となる。この状態では絶縁層2の表面における伝導帯よりも、ダイポール層に接する真空障壁4が高い状態になっている(図3(b)参照。)。当該状態になると、カソード電極1から注入された電子6は絶縁層2および真空障壁4をトンネリングして真空へ電子放出することができる。尚、当該特許文献4に記載の電子放出素子における駆動電圧は好ましくは50[V]以下であり、さらに好ましくは5[V]以上、50[V]以下である。
【0028】
図4を用いて図3(a)の状態を説明する。図中、20はダイポール層、21は炭素原子、22は水素原子である。絶縁層2の表面を終端する材料は、絶縁層2に対し、カソード電極1と引き出し電極3との間に電圧を印加していない状態において、絶縁層2の表面準位を下げるものであればよいが、好ましくは水素が用いられる。また、絶縁層2の表面を終端する材料は、絶縁層2の表面準位を、カソード電極1と引き出し電極3との間に電圧を印加していない状態において、0.5eV以上、好ましくは1eV以上引き下げるものであることが好ましい。但し、本実施形態に係る電子放出素子においては、カソード電
極1と引き出し電極3との間に駆動電圧を印加している時及び駆動電圧を印加していない時の両方において、絶縁層2の表面の準位は正の電子親和力を示す必要がある。また、アノード電極に印加される電圧は,一般に十数kV〜30kV程度である。そのため、アノード電極と電子放出素子との間に形成される電界強度は、一般に、おおよそ1×10V・cm以下と考えられる。従って、この電界強度によって電子放出素子から電子が放出しないようにすることが好ましい。そのため、ダイポール層が形成された絶縁層2の表面の電子親和力は、後述する絶縁層の膜厚も考慮して、2.5eV以上とすることが好ましい。
【0029】
また、絶縁層2の膜厚は、駆動電圧によって決めることができるが、好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下に設定される。また、絶縁層2の膜厚の下限としては、駆動時に、カソード電極1から供給された電子6が、トンネルすべき障壁(絶縁層2と真空バリア)を形成していれば良いが、成膜再現性などの観点から好ましくは、1nm以上に設定される。
【0030】
このように、本実施形態に係る電子放出素子においては、絶縁層2が常に正の電子親和力を示すことで、従来課題としていた選択時と非選択時での明確な電子放出量のオン・オフの比を確保している。
【0031】
図4に示すダイポール層20は、絶縁層2の表面を水素原子22で終端した場合の例である。一般に水素原子22は僅かながら正に分極(δ)する。これにより絶縁層2の表面の原子(この場合は炭素原子21)は僅かながら負に分極(δ)され、ダイポール層(「電気二重層」と言い換えることもできる)20が形成されている。
【0032】
よって、図3(a)に示すように、本実施形態に係る電子放出素子においては、カソード電極1と引き出し電極3の間に駆動電圧が印加されていない状態であっても、絶縁層の表面に電気二重層の電位δ[V]が印加されているのと等価の状態が形成される。また、図3(b)に示すように、駆動電圧V[V]の印加により、絶縁層2の表面の準位降下は進行し、これと連動して、真空障壁4も引き下げられる。本実施形態に係る電子放出素子においては、絶縁層2の膜厚は駆動電圧V[V]によって電子が絶縁層2をトンネルできる膜厚に適宜設定されるが、駆動回路の負担などを考慮すると10nm以下が好ましい。膜厚が10nm程度になると、駆動電圧V[V]の印加により、カソード電極1から供給された電子6の、絶縁層2を通りぬける空間的な距離も縮めることができ、結果、トンネル可能な状態となる。
【0033】
上記したように、駆動電圧V[V]の印加に連動して真空障壁4も下げられ、且つ、その空間的距離も絶縁層2と同様に縮められる。そのため、真空障壁4もトンネル可能な状態となり、真空への電子放出が実現される。
【0034】
次に、本実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を図5を用いて説明する。
【0035】
(工程1)
まず、予め表面が十分に洗浄された基板31上に電極層71を積層する。基板31としては、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、基板表面にSiOを積層した積層体、セラミックスなどから構成される絶縁性基板のうち、いずれか一つが用いられる。
【0036】
電極層71は一般的に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術により形成される。電極層71の材料は、例えば、Be、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Pd等の金属または
合金材料から適宜選択される。電極層71の厚さとしては、数十nmから数百μmの範囲で設定され、好ましくは100nmから10μmの範囲で選択される。
【0037】
(工程2)
次に、図5(a)に示すように電極層71上に絶縁層2を堆積する。絶縁層2は蒸着法、スパッタ法、HFCVD(Hot Filament CVD)法、プラズマCVD法等の一般的成膜技術で形成されるが、その方法は限定されない。絶縁層2の膜厚としては、電子がトンネルすることができる膜厚の範囲で設定され、好ましくは数nm〜10nmの範囲で選択される。
【0038】
絶縁層2の材料は、炭素を主成分とする材料(カーボン膜)であり、電界集中を考えると誘電率が小さい材料ほど好ましい。抵抗率としては1×10〜1×1014Ωcmの抵抗率を有することが好ましい。具体的には、絶縁層2として、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アモルファスカーボン、金属の炭化物などを用いることができる。特にSP炭素を主成分とすることが好ましい。
【0039】
(工程3)
そして、電極層71をカソード電極1とゲート電極32に分離するため、フォトレジスト72のパターニングを行う(図5(b))。
【0040】
(工程4)
次に、エッチング処理を行い、図5(c)に示すように、電極層71を2つの電極(ゲート電極32とカソード電極1)に分離する。電極層71及び絶縁層2のエッチング工程では、平滑且つ垂直、或いは平滑且つテーパー形状であるようなエッチング面を形成することが望ましく、それぞれの材料に応じて、エッチング方法を選択すれば良い。ドライでもウエットでも構わない。通常、開口部(凹部)73の幅Wは素子を構成する材料や抵抗値、電子放出素子の材料の仕事関数と駆動電圧、必要とする電子放出ビームの形状により適宜設定される。また、ゲート電極32とカソード電極1との間隔Wは数百nm〜100μmに好ましくは設定される。
【0041】
尚、カソード電極1とゲート電極32間に露出する基板31の表面は、図5(c)に示すように、掘り込むことが好ましい。このように、カソード電極1とゲート電極32間の基板1表面を凹状にする(凹部)ことで、電子放出素子として駆動した際のカソード電極1とゲート電極32との間の沿面距離を実効的に長くすることができる。それにより、カソード電極1とゲート電極32間のリーク電流を低減することができる。
【0042】
(工程5)
次に、図7(d)に示すように、フォトレジスト72を除去する。
【0043】
(工程6)
最後に、熱処理により絶縁層2の表面を水素で終端する(終端処理;化学修飾)。これにより、絶縁層表面にダイポール層20を形成する。図5(e)の74はその雰囲気を示している。本実施形態に係る電子放出素子の製造方法においては、上記雰囲気は、CH、Cなどの炭化水素又は水素のいずれかを含んでいればよい。また、当該雰囲気の圧力は、2×10Pa以上、7×10Pa以下であることが好ましい。
【0044】
本実施形態に係る電子放出素子は、炭化水素ガス中で熱処理することで絶縁層表面を水素で終端する。具体的には、上記化学修飾は、炭化水素もしくは水素、又は、炭化水素と水素の両方を含む雰囲気中で、カーボン膜の一部に、局所的にエネルギーを照射することで成される。それにより、基板に熱的な損傷を与えることなく十分な化学修飾(終端処理
)を行うことができる。局所的に照射されるエネルギーとしては、レーザー光などが適宜選択される。
【0045】
尚、ここで説明した形態においては、カソード電極1及びゲート電極32の双方の絶縁層表面にダイポール層20を形成する例を示しているが、本実施形態においては一部分を局所的に加熱することができるため、カソード電極1側の絶縁層だけにダイポール層20を形成することができる。
【0046】
<応用例>
次に、上記本発明の実施形態に係る電子放出素子を、電子源及び画像表示装置に適用した例について述べる。
【0047】
(電子源)
電子放出素子の配列については、種々のものが採用される。一例として、電子放出素子をX方向及びY方向に行列状に複数配する。同じ行に配された複数の電子放出素子の電極の一方を、X方向の配線に共通に接続し、同じ列に配された複数の電子放出素子の電極の他方を、Y方向の配線に共通に接続する。これを単純マトリクス配置という。
【0048】
以下、前述した電子放出素子を複数配して得られる単純マトリクス配置の電子源について、図7を用いて説明する。図7に示すように、電子源は、電子源基板501、X方向配線502、Y方向配線503、及び、電子放出素子504を備える。
【0049】
X方向配線502は、Dx1,Dx2,・・・Dxmのm本の配線からなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された導電性金属等で構成することができる。配線の材料、膜厚、幅は、適宜設計される。Y方向配線503は、Dy1,Dy2,・・・Dynのn本の配線よりなり、X方向配線502と同様に形成される。これらm本のX方向配線502とn本のY方向配線503との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者は電気的に分離されている(m,nは、共に正の整数)。
【0050】
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成されたSiO等で構成される。例えば、X方向配線502を形成した電子源基板501の全面或いは一部に所望の形状で形成される。特に、X方向配線502とY方向配線503の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が適宜設定される。X方向配線502とY方向配線503は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0051】
電子放出素子504は一対の電極(ゲート電極、カソード電極)を備える。図7の例では、ゲート電極は、n本のY方向配線503の内のいずれかと、導電性金属等からなる結線によって電気的に接続されている。カソード電極は、m本のX方向配線502の内のいずれかと、導電性金属等からなる結線によって電気的に接続されている。
【0052】
X方向配線502とY方向配線503を構成する材料、結線を構成する材料及び一対の素子電極を構成する材料は、その構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、またそれぞれ異なってもよい。これら材料は、例えば前述の素子電極の材料より適宜選択される。素子電極を構成する材料と配線材料が同一である場合には、素子電極に接続した配線は素子電極ということもできる。
【0053】
X方向配線502には、不図示の走査信号印加手段が接続される。走査信号印加手段は、選択されたX方向配線に接続されている電子放出素子504に走査信号を印加する。一方、Y方向配線503には、不図示の変調信号発生手段が接続される。変調信号発生手段は、電子放出素子504の各列に、入力信号に応じて変調された変調信号を印加する。各
電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0054】
(画像表示装置)
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択し、独立に駆動可能とすることができる。上記電子源を用いて構成した画像表示装置について、図8を用いて説明する。図8は、画像表示装置の表示パネルの一例を示す模式図である。
【0055】
図8に示すように、画像表示装置は、X方向の容器外端子601、Y方向の容器外端子602、電子源基板613、リアプレート611、フェースプレート606、及び、支持枠612を備える。なお、電子源基板613は電子放出素子615を複数有しており、リアプレート611は、電子源基板613を固定するためのものである。フェースプレート606はガラス基板603の内面に画像形成部材(電子の照射によって発光する発光部材)である蛍光体としての蛍光膜604とメタルバック605等が形成されたものである。リアプレート611、フェースプレート606はフリットガラス等を用いて支持枠612に接続されている。外囲器617は、例えば大気中あるいは、窒素中で、400〜500℃の温度範囲で10分以上焼成することで、封着して構成される。
【0056】
上記画像表示装置は、各電子放出素子615に、容器外端子Dox1〜Doxm、Doy1〜Doynを介して電圧を印加する。各電子放出素子615は、当該印加された電圧に応じて電子を放出する。
【0057】
高圧端子614を介してメタルバック605、あるいは透明電極(不図示)に高圧を印加することで、当該放出された電子は加速する。
【0058】
加速された電子は、蛍光膜604に衝突し、発光が生じて画像が形成される。
【0059】
本実施形態に係る画像表示装置は、テレビジョン放送の表示装置、テレビ会議システムやコンピューター等の表示装置の他、感光性ドラム等を用いて構成された光プリンターとしての画像表示装置等としても用いることが出来る。
【0060】
<実施例>
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0061】
(実施例1)
図1に示す製造方法に従って、本発明の実施形態に係る、ダイポール層を備えた絶縁層2(電子放出膜;カーボン膜;半導体層)を作製した。
【0062】
本実施例は、炭化水素雰囲気中においてカーボン膜に光吸収可能な波長を持ったレーザーパルス光を局所的に照射することで終端処理を行うものである。すなわち、該カーボン膜は可干渉性又は非可干渉性のレーザーパルス光を吸収して温度が上昇する。該カーボン膜は基板上全面に形成されているわけではないので、基板全体が高温に加熱されることはない。そのため、基板の熱的なダメージ(そりや収縮など熱履歴に伴う変化)を低減することができる。
【0063】
以下、作製手順等について詳しく説明する。
【0064】
まず、基板31として石英を用い、十分洗浄を行った後、スパッタ法によりカソード電極1として厚さ500nmのTiNを成膜した(図1(a))。
【0065】
成膜条件は、
Rf電源 : 13.56MHz
Rfパワー : 7.7W/cm
ガス圧 : 0.6Pa
雰囲気ガス : N/Ar(N:10%)
基板温度 : 室温
ターゲット : Ti
である。
【0066】
次に、スパッタ法によりカーボン膜をカソード電極1上に厚さ4nm堆積し、絶縁層2を形成した(図1(b))。ターゲットとしてグラファイトターゲットを用い、アルゴン雰囲気中で成膜を行った。これにより、カーボン膜を備える基板が用意された。
【0067】
そして、メタンと水素の混合ガス雰囲気中で、レーザーパルス光を用いることにより、絶縁層2の表面を局所的に加熱した。これにより、表面にダイポール層20が形成された(図1(c))。なお、図1(c)には、絶縁層2の表面全体にダイポール層20が形成された例を示しているが、目的の箇所にのみレーザーを照射することにより、当該箇所にのみダイポール層を形成することができる。
【0068】
使用したレーザーパルス光はYAGレーザーであり、波長を第三高調波である355nm、パルス発振周波数を1〜300Hz、レーザーエネルギー密度を300〜1000mJ/cm(好ましくは350〜500mJ/cm)とした。
【0069】
熱処理(終端処理)の条件を以下に示す。
熱処理温度 : 600℃
加熱方式 : レーザー加熱
処理時間 : 60min
混合ガス比 : メタン/水素=15/6
熱処理時圧力 : 6.65×10Pa
【0070】
本実施例で作製した絶縁層の電子放出特性(電圧電流特性)を測定した。当該測定は、絶縁層から離れ、且つ、絶縁層に対向した位置にアノード電極(面積は1mm)を配置し、アノード電極とカソード電極との間に駆動電圧を印加することによって行った。この時の電圧電流特性を図2に示す。
【0071】
図2に示すように、本実施例で作製した絶縁層の電子放出特性を、従来の手法(特許文献4に記載の手法)でダイポール層が形成された絶縁層(比較例)の電子放出特性と比較した。
【0072】
図2から明らかなように、レーザーによる局所加熱によりダイポールを形成した場合(本実施例の絶縁層)も、比較例の絶縁層と同等の電子放出特性が得られた。さらに、局所部分(絶縁層表面)のみが加熱されるため、比較例の製造方法に比べ、基板の変形などが生じる確率を減らすことができる。そのため比較例の製造方法よりも生産効率を上げることができる。
【0073】
(実施例2)
次に、実施例2として、所望の箇所にのみ加熱処理を行うことのできるランプ(代表的にはハロゲンランプ)を用いた瞬間熱アニール(RTA、局所加熱)を行った場合について説明する。さらに、RTAは短時間で行うことができるため、本発明により、生産性(生産速度)の向上が期待される。
【0074】
以下、作製手順等について詳しく説明する。
【0075】
第1の実施の形態と同様に、図1(b)で示す工程までを行った。その後、上記絶縁層2を、メタンと水素の混合ガス雰囲気中で瞬間熱アニール(RTA)を行った。
【0076】
また、本RTA処理は、好適には600〜800℃の温度、1〜240秒程度の短時間でRTA法を用いて行う。このとき、各々の材料の熱吸収率の相違から、該カーボン膜は約600〜650℃に加熱されるが、基板31の温度は約300〜400℃となるため、該基板31の損傷を抑制することができる。また、1〜240秒程度の短時間で行われるため、歪み点(軟化点)が600℃以下の熱的に脆弱なガラス基板の温度もあまり上昇しない。そのため、ガラス基板の熱による歪みを抑えることが可能となる。
【0077】
本実施例で作製した絶縁層の電子放出特性を測定した。当該測定は、絶縁層から離れ、且つ、絶縁層に対向した位置にアノード電極(面積は1mm)を配置し、アノード電極とカソード電極との間に駆動電圧を印加することによって行った。その結果、RTAによる局所加熱でダイポール層を形成した場合(本実施例の絶縁層)も、従来の手法(特許文献4に記載の手法)で作製した場合(従来例の絶縁層)と同等の電子放出特性が得られた。
【0078】
以上述べたように、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法により、カーボン膜表面の所望の箇所に水素終端処理を施すことができる。また、絶縁層の表面のみが高温になるため、他の層への損傷を軽減することができる。更に、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法は短時間で行うことが可能であるため、生産性が増す。
【0079】
なお、本実施形態では、局所的にエネルギーを照射する手段としてレーザーやRTAを用いているが、これに限らない。局所的にエネルギーを照射できればどのような手法を用いてもよい。例えば、電子ビームやイオンビーム等を用いても、本実施形態と同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法を示す図である。
【図2】図2は、実施例1と比較例の電子放出素子の電圧電流特性を示す図である。
【図3】図3は、特許文献4に記載の電子放出素子における電子放出原理を示すバンドダイヤグラムであり、図3(a)は特許文献4に記載の電子放出素子における駆動電圧が0[V]の時のバンドダイヤグラムであり、図3(b)は駆動電圧V[V]を印加した時のバンドダイヤグラムである。
【図4】図4は、特許文献4に記載の電子放出素子の部分拡大模式図である。
【図5】図5は、特許文献4に記載の電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【図6】図6は、特許文献1に開示された電子放出素子の電子放出原理を示すバンドダイヤグラムである。
【図7】図7は、電子源の構成を示す模式図である。
【図8】図8は、画像表示装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0081】
1 カソード電極
2 絶縁層
3 引き出し電極
4 真空障壁
5 界面
6 電子
20 ダイポール層
21 炭素原子
22 水素原子
31 基板
32 ゲート電極
71 電極層
72 フォトレジスト
74 雰囲気
501 電子源基板
502 X方向配線
503 Y方向配線
504 電子放出素子
601,602 容器外端子
603 ガラス基板
604 蛍光膜
605 メタルバック
606 フェースプレート
611 リアプレート
612 支持枠
613 電子源基板
614 高圧端子
615 電子放出素子
617 外囲器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン膜を備える基板を用意する工程と、
炭化水素もしくは水素、又は、炭化水素と水素の両方を含む雰囲気中で、前記カーボン膜の一部に、局所的にエネルギーを照射する工程と、
を有することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
前記雰囲気の圧力は、2×10Pa以上、7×10Pa以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
前記エネルギーは、レーザー光である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記エネルギーは、レーザーパルス光である
ことを特徴とする請求項3に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記カーボン膜の一部に、局所的にエネルギーを照射する工程は、ランプを用いた瞬間熱アニールである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
複数の電子放出素子を有する電子源の製造方法であって、
前記複数の電子放出素子のそれぞれが、請求項1〜5のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法で製造されている
ことを特徴とする電子源の製造方法。
【請求項7】
電子源と、電子の照射によって発光する発光部材と、を備える画像表示装置の製造方法であって、
前記電子源が、請求項6に記載の電子源の製造方法で製造されている
ことを特徴とする画像表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−117203(P2009−117203A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289651(P2007−289651)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】