説明

電子放出素子及びこれを用いた電子源基板と画像表示装置

【課題】電子放出電流の増大と、ビーム径の集束とを同時に実現する電子放出素子を提供する。
【解決手段】第1の絶縁層2の第1の側面21に第1の低電位側電極4を、第2の側面22に第1の高電位側電極5を配置し、第1の絶縁層2上に第2の絶縁層3を介して第2の低電位側電極6を配置し、さらに、低電位側電極6の上に第3の絶縁層7を介して第2の高電位側電極8を配置し、第1の低電位側電極4と第2の高電位側電極8との間隙9と、第1の高電位側電極5と第2の低電位側電極6との間隙10とからそれぞれ電子放出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイに用いられる画像表示装置と、これを構成する電子源基板及び電子放出素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、低電位側電極から出た電子の多数が対向する高電位側電極に衝突、散乱した後に電子として取り出される電子放出素子が存在する。このような形態で電子を放出する素子として表面伝導型電子放出素子や積層型の電子放出素子が知られている。例えば、特許文献1,2には、低電位側電極、絶縁層、高電位側電極を積層してなる電子放出素子が開示されており、高電位側電極の両側に電子放出部を設けることで、電子放出電流の増大を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−311587号公報
【特許文献2】米国特許第6288494号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に示された電子放出素子は、高電位側電極の両側に設けた電子放出部から放出された電子がそれぞれ、アノードに向かって逆方向に放出される。そのため、高電位側電極の幅(電子放出部間の距離)によってはビーム径が広がってしまい、高精細なディスプレイに応用するには問題があった。本発明の課題は、電子放出電流の増大と、ビーム径の集束とを同時に実現する電子放出素子を提供し、高精細で高画質表示の画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1は、上面と、該上面を挟む第1及び第2の側面とを有し、第1の側面の上面側の端部に第1の凹部を、第2の側面の上面側の端部に第2の凹部を有する第1の絶縁部材と、
第1の側面に配置し、一端が前記第1の凹部の縁に沿った第1の低電位側電極と、
第2の側面に配置し、一端が前記第2の凹部の縁に沿った第1の高電位側電極と、
前記第1の凹部よりも内側に後退した位置に第3の側面と、前記第2の側面の延長面上に、その面が一致する第4の側面と、を有し、前記第1の絶縁部材の前記上面に配置され、前記第2の凹部を介して第1の高電位側電極に対向する第2の低電位側電極と、
前記第1の凹部よりも内側に後退した位置に第5の側面を、前記第4の側面よりも内側に後退した位置に第6の側面を有し、前記第2の低電位側電極の第3の側面を覆って前記第2の低電位側電極の上に配置される第2の絶縁部材と、
前記第1の側面の延長面上に、その面が一致する第7の側面を有し、前記第1の凹部を介して前記第1の低電位側電極に対向し、前記第1の絶縁部材及び第2の絶縁部材の上に配置される第2の高電位側電極と、
を有することを特徴とする電子放出素子である。
【0006】
本発明の第2は、基板と、前記基板上に配置した、複数の電子放出素子と、前記電子放出素子に電圧を印加するための配線とを備えた電子源基板であって、前記電子放出素子が前記本発明の電子放出素子であることを特徴とする。
【0007】
本発明の第3は、前記本発明の電子源基板と、
前記電子源基板に形成された電子放出素子の第2の高電位側電極を介在させて、前記第1の低電位側電極及び第1の高電位側電極と対向配置されるアノードと、前記アノードに積層して配置された、前記電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材と、
を有することを特徴とする画像表示装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電子放出素子内の2箇所から電子放出を行うため、電子放出電流の増大を図ることができる上、該2箇所から放出される電子がアノードに対して同じ方向に飛翔するため、容易にビーム径の集束を図ることができる。よって、本発明によれば、従来よりもより高精細で高画質表示の画像表示装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の電子放出素子の一実施形態の構成とその電子放出特性を測定する時の電源の供給配置を示す図である。
【図2】従来の積層型電子放出素子における電子放出の様子と、該素子による発光部材の発光パターンを示す図である。
【図3】低電位側電極を高電位側電極よりもアノード側に配置した電子放出素子における電子放出の様子と、該素子による発光部材の発光パターンを示す図である。
【図4】低電位側電極を高電位側電極よりもアノード側に配置した電子放出素子における電子放出の様子と、該素子による発光部材の発光パターンを示す図である。
【図5】本発明の電子放出素子における電子放出の様子と、該素子による発光部材の発光パターンを示す図である。
【図6】図1に示した電子放出素子の製造工程例を示す図である。
【図7】本発明の実施例において作製した比較例の電子放出素子の製造工程を示す図である。
【図8】本発明の実施例において作製した電子放出素子を複数有する電子源基板の構成を示す図である。
【図9】本発明の画像表示装置と該画像表示装置を構成する電子源基板の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
〔構成の概要〕
本発明の電子放出素子は、第1及び第2の絶縁部材、第1及び第2の低電位側電極、第1及び第2の高電位側電極を備えている。本発明の電子源基板は、本発明の電子放出素子を基板上に複数配置し、該素子に電圧を印加するための配線を備えている。さらに、本発明の画像表示装置は、上記本発明の電子放出素子を有する電子源基板と、該電子放出素子から放出された電子が到達するアノード及び該電子の照射によって発光する発光部材とを備えている。
【0012】
図1(a)は本発明の電子放出素子の好ましい実施形態の構成を示す断面模式図である。図中、1は基板、2は第1の絶縁層、3は第2の絶縁層であり、第1の絶縁層2と第2の絶縁層3とを合わせたものが本発明に係る第1の絶縁部材である。本発明においては、形成が容易であることから、第1の絶縁部材として第1の絶縁層2の上に第2の絶縁層3を積層したものが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明において、第1の絶縁部材は互いに接しない第1及び第2の側面21,22を有し、それぞれの側面が、該側面間に挟まれた上面側の端部に、第1及び第2の凹部13,14を有している。図1(a)において、係る凹部13,14は、第2の絶縁層3の側面が第1の絶縁層2の第1及び第2の側面21,22から内側に後退した部分である。
【0013】
尚、本発明の電子放出素子に係る各部材の「側面」、「上面」及び上下関係は、便宜上、図1(a)に示す配置を前提として規定するものであり、図1(a)の配置において各部材の側面や上面、上下関係が本発明の規定を満たしていればよい。よって、電子放出素子全体の配置によっては、必ずしも「側面」が水平方向を、「上面」が垂直上方を向くものではなく、画像表示装置を構成した状態で、上記「側面」が垂直上方或いは下方、「上面」が水平方向或いは下方に向く場合も本発明の範疇である。
【0014】
第1の絶縁層2の第1の側面21には第1の低電位側電極4が、第2の側面22には第1の高電位側電極5が配置し、それぞれ、一端が凹部13,14の縁に沿って位置している。図1(a)において、第1の側面21は第1の絶縁層2の左側面であり、第2の側面22は第1の絶縁層2の右側面である。そして、第1の絶縁部材の上面である第2の絶縁層2の上面に第2の低電位側電極6が配置されており、その一側面(第4の側面24)が第2の側面22の延長面上に一致し、第2の凹部14を介して第1の高電位側電極5と対向している。また、第2の低電位側電極6の第3の側面23は、第2の絶縁層3の側面(即ち、第1の凹部13)よりも内側に後退した位置にある。
【0015】
本発明に係る第2の絶縁部材である第3の絶縁層7は第2の低電位側電極6上に配置される。係る第3の絶縁層7の一方の側面(第5の側面25)は第1の凹部13より内側に後退した位置にあり、他方の側面(第6の側面26)は第2の低電位側電極6の第4の側面24よりも内側に後退した位置にある。そして第3の絶縁層7は、第2の低電位側電極6の第3の側面23を覆っている。
【0016】
第2の高電位側電極8は、第2の絶縁層3及び第3の絶縁層7の上に配置され、一方の側面(第7の側面27)は、第1の絶縁層2の第1の側面21の延長面上に一致する位置にある。また、他方の側面(第8の側面28)は、後述する所定の電界を形成できればその位置は特に限定されないが、製造上の容易さから、第2の低電位側電極6の第4の側面24の延長面上に一致するのが好ましい。
【0017】
本発明の電子放出素子においては、第1の低電位側電極4と第2の高電位側電極8との距離が最短である間隙9と、第1の高電位側電極5と第2の低電位側電極6との距離が最短である間隙10とから電子が放出される。また、11,12はそれぞれ第1の低電位側電極4及び第1の高電位側電極5に接続された電極である。
【0018】
本発明の画像表示装置は、第2の高電位側電極8の上方、即ち第2の高電位側電極8を介在させて第1の低電位側電極4、第1の高電位側電極5と対向する位置に、第2の高電位側電極8よりも高電位に規定されたアノードを有している(図1(b)の20)。本例においては、第1の絶縁層2が基板1上に配置しているため、アノード20は該基板1の第1の絶縁層2が配置している側に、該基板1に対向配置されているとも言える。尚、本発明の画像表示装置においては、アノード20の外側(電子放出素子が位置する側とは反対側)に発光部材が積層配置される。
【0019】
図1(b)は本発明の電子放出素子の電子放出特性を測定する時の電源の供給配置を示す。図1(b)に示すように、本発明においては、アノード20は、基板1の第1の絶縁層2が配置している側に該基板1に対向して配置される。図1(b)において、Vfは第1の低電位側電極4と第2の高電位側電極8の間に、第1の低電位側電極4を低電位側として印加される電圧である。また、Vfは第2の低電位側電極6と第1の高電位側電極5の間に、第2の低電位側電極6を低電位側として印加される電圧でもある。IfはVfを印加した時に流れる素子電流である。Vaは第1の低電位側電極4及び第2の低電位側電極6とアノード20の間に、アノード20を高電位側として印加される電圧であり、Va>Vfである。IeはVaを印加した時に流れる電子放出電流である。ここで、電子放出素子に電圧を印加した時に検出される電流Ifと真空中に取り出される電流Ieを用いて、電子放出効率η=Ie/(If+Ie)で与えられる。
【0020】
図1(b)のように本発明の電子放出素子に電圧Vfを印加すると、間隙9、間隙10において、低電位側電極4,6の先端からそれぞれ対向する高電位側電極8,5に向かって電子がトンネリングし、電子が高電位側電極8,5の表面で等方的に散乱する。低電位側電極4,6から放出された電子は高電位側電極8,5の表面で数回の弾性散乱を繰り返した後、電圧Vaによって加速され、アノード20に向かう。間隙9,10からアノード20に向かう電子は、間隙9,10とアノード20の間に形成される電位の影響を受けた軌道を描いてアノード20に到達する。
【0021】
〔電極の配置による電子のアノード到達位置について〕
ここで、電子放出素子から放出された電子がアノード20に到達する時の到達位置について図2乃至図5を用いて説明する。
【0022】
〈両側電子放出、順極〉
図2(a)は従来型の積層型電子放出素子を用いた画像表示装置の構成を示したもので、36は低電位側電極、31は高電位側電極、40は低電位側電極36に接続された電極、33、38は電子放出に必要な電界が形成される間隙である。間隙33は低電位側電極36と高電位側電極31との距離が最短である部位、間隙38は低電位側電極4と高電位側電極31との距離が最短である部位である。尚、図1(a)と同じ部材には同じ符号を付した。また、Vfは低電位側電極4、36と高電位側電極31の間に印加する電圧、Vaは低電位側電極4、36とアノード20の間に印加する電圧、IfはVfを印加した時に流れる素子電流、IeはVaを印加した時に流れる電子放出電流である。破線34はVf,Vaを印加した時に形成される電界の等電位線、35は後述するよどみ点である。また、不図示であるが、アノード20の外側(電子放出素子が位置する側とは反対側)に発光部材が配置される。
【0023】
図2(a)の低電位側電極4、36と高電位側電極31の間に電圧Vfを印加すると、間隙33、38から電子が放出する。放出された電子は、高電位側電極31に向かい、高電位側電極31の表面で数回散乱を繰り返す。電圧Vf、Vaを同時に印加すると、高電位側電極31の電位に相当する等電位線が、高電位側電極31の表面と交わる点が生じる。これがよどみ点35である。
【0024】
ここで、間隙33から放出された電子について考える。高電位側電極31の表面で数回散乱を繰り返した後、よどみ点35を通る等電位線よりも間隙33から見て外側(図2(a)では左側、もしくは上側)に出るまでの間に、図2(a)で見て水平方向左側にも加速されて速度成分を得る。よどみ点35より外側に出た電子は電圧Vaによって加速されアノード20に到達するが、その間は水平方向の電界成分はほとんど無いため、水平方向成分については図2(a)で見て左側に向けてほぼ等速運動となる。つまり、間隙33から放出された電子のアノード20における到達位置は、間隙33の直上よりも図2(a)で見て左側にずれた位置になる。同様に、間隙38から放出された電子は、間隙33から放出された電子と左右逆で考えることができるので、間隙38から放出された電子のアノード20における到達位置は、間隙38の直上よりも図2(a)で見て右側にずれた位置になる。
【0025】
アノード20に到達した電子は、アノード20の外側に配置された発光部材を発光させて画像を表示する。図2(a)に示した構成の電子放出素子によって得られる発光部材の発光パターンを図2(b)に示す。図2(b)中、Aは図2(a)の間隙33から放出された電子がアノード20に到達して発光させる領域、Bは図2(a)の間隙38から放出された電子がアノード20に到達して発光させる領域である。各領域の輪郭線はピーク輝度の10%範囲を示している。図2(a)の間隙33、38から放出された電子のアノード20における到達位置はそれぞれ左右逆方向にずれた位置になるため、図2(b)に示す通り、発光パターンもA,Bの2つに分かれた形で表示される。発光パターンの輪郭線の大きさLx、Ly(ビーム径)をシミュレーションで見積もる。図2(a)の基板1の表面からアノード20までの垂直方向距離H=1.6mm、Va=11.8kV,Vf=23Vの時、Lx=250μm、Ly=230μmとなる。また、図2(a)の構成で電子放出効率η=Ie/(If+Ie)は5.5%となる。
【0026】
このように、図2(a)の構成では、高電位側電極31の両側に電子放出する間隙33,38を有するため、得られる電流(If、Ie)は大きくなる。一方で、それぞれの間隙33,38から放出された電子のアノード到達位置は互いに逆方向に大きくずれた位置となり、アノード20でのビーム径が広くなってしまうため、高精細なディスプレイに応用するには不都合である。
【0027】
〈片側電子放出、逆極〉
図3(a),図4(a)は、低電位側電極を高電位側電極より上方に配置した構成を有する積層型電子放出素子を用いた画像表示装置の模式図である。図3(a),図4(a)において、図1(a)と同じ部材には同じ符号を付した。また、間隙43は低電位側電極6と第1の高電位側電極5との距離が最短の部位である。また、不図示であるが、アノード20の外側(電子放出素子が位置する側とは反対側)に発光部材が配置される。図3(a)と図4(a)の違いは、図4(a)では低電位側電極6の上に第3の絶縁層7、第2の高電位側電極8が積層されていることである。Vfは低電位側電極6と第1の高電位側電極5の間、及び低電位側電極6と第2の高電位側電極8の間に印加する電圧、Vaは低電位側電極6とアノード20の間に印加する電圧である。
【0028】
図3(a),図4(a)の電子放出素子に電圧Vfを印加すると、間隙43から電子が放出する。図3(a)について考えると、間隙43から放出された電子は、高電位側電極5、電極12に向かい、高電位側電極5もしくは電極12の表面で数回散乱を繰り返す。電圧Vf、Vaを同時に印加すると、高電位側電極5の電位に相当する等電位線が、高電位側電極5もしくは電極12の表面と交わる点が生じる。これがよどみ点35である。高電位側電極5又は電極12の表面で数回散乱を繰り返した電子は、よどみ点35を通る等電位線よりも間隙43から見て外側(図3(a)では右側)に出るまでに水平方向(図3(a)で見て右側)に加速される。よどみ点を超えた電子は電圧Vaによって加速されアノード20に到達するが、その間、水平方向への力はほとんど受けないため、水平方向にはほぼ等速運動となる。よって間隙43から出た電子のアノード到達位置は間隙43の直上より図3(a)で見て右側にずれた位置となる。即ち、電子のアノード到達位置のずれる方向が、図2(a)のような従来型の構成と比べて逆方向になっている。これは、高電位側電極5と低電位側電極6の配置が、電子放出する間隙から見て逆になっているために、放出された電子が受ける水平方向の電界による力も逆向きになっているからである。
【0029】
但し、図3(a)では低電位側電極6から見てアノード20が高電位側電極5と反対側に配置されている。間隙43から出た電子は先ず高電位側電極5のある下側に向けて加速され、下向きの速度を得る。アノード20は高電位側電極5と反対側にあるため、アノード5に印加する電圧Vaの影響は受けにくく、高電位側電極5に引っ張られる力の影響のみを受けて、さらに下側に向けて加速されるため、高電位側電極5での散乱回数が増大してしまう。
【0030】
次に図4(a)の構成について考えると、第1の高電位側電極5とそれと等電位な第2の高電位側電極8の間に低電位側電極6が挟まれる構成となっているため、第1の高電位側電極5と第2の高電位側電極8の間をつなぐような等電位線が生じる。間隙43から出た電子の中には、図3(a)と同様に図4(a)で見て右向きの速度成分を得るとともに、第1の高電位側電極5と第2の高電位側電極8のいずれからも離れていくような軌道を描く電子が比較的多数存在する。よって、間隙43から放出された電子のアノード到達位置は、図3(a)と同様に図4(a)で見て右側にずれる。同時に、図3(a)と比べ高電位側電極での散乱回数も低減することができる。
【0031】
アノード20に到達した電子は、アノード20の外側に配置された発光部材を発光させ画像を表示する。図3(a)に示した構成の電子放出素子によって得られる発光部材の発光パターンを図3(b)に、図4(a)に示した構成の電子放出素子によって得られる発光部材の発光パターンを図4(b)に示す。発光パターンの輪郭線はピーク輝度の10%範囲を示している。発光パターンの輪郭線の大きさLx、Ly(ビーム径)をシミュレーションで見積もる。図3(a)、図4(a)の基板1の表面からアノード20までの垂直方向距離H=1.6mm、Va=11.8kV,Vf=23Vの時、図3(a)ではLx=140μm、Ly=250μm、図4(b)ではLx=130μm、Ly=250μmとなる。また図3(a)、図4(a)に示す構成で電子放出効率ηをシミュレーションで見積もると、図3(a)では1.5%、図4(a)では5.5%となる。よって、図4(a)のように電子放出する間隙43を挟んで両側に高電位側電極5,8を配置する構成とすることで、電子放出効率は大幅に改善する。
【0032】
〈両側、一方順極、他方逆極+第2の高電位側電極〉
図5(a)は本発明の画像表示装置の好ましい実施形態の構成と、形成される等電位線、電子軌道の軌跡を示す模式図である。図5(a)の電子放出素子の構成は、図2(a)の構成と比較して、一方の側面(図2(a)で見て右側面)を図4(a)のような構成に置き換えた電子放出素子の構成ということができる。図5(a)中、図1(a)と同じ部材には同じ符号を付した。また、不図示であるが、アノード20の外側(電子放出素子が位置する側とは反対側)に発光部材が配置される。
【0033】
図5(a)の間隙9から放出された電子は、図2(a)の構成と同様に電子のアノード到達位置は図5(a)で見て右側にずれる。一方、図5(a)の間隙10から放出された電子は、図4(a)の構成と同等であるため、電子のアノード到達位置は図5(a)で見て右側にずれる。つまり、電子のアノード到達位置は間隙9、10のいずれから放出された電子についても図5(a)で見て同じ方向(右側)にずれることになる。アノード20に到達した電子は、アノード20の外側に配置された発光部材を発光させ画像を表示する。
【0034】
図5(a)に示した構成の電子放出素子によって得られる発光部材の発光パターンを図5(b)に示す。発光パターンの輪郭線はピーク輝度の10%範囲を示している。実線の輪郭線は主として間隙10から放出された電子によるもの、破線の輪郭線は主として間隙9から放出された電子によるものであり、間隙9,10から放出された電子のアノード到達位置はほぼ同じ位置となっている。発光パターンの輪郭線の大きさLx、Ly(ビーム径)をシミュレーションで見積もると、図5(a)の基板1の表面からアノード20までの垂直方向距離H=1.6mm、Va=11.8kV,Vf=23Vの時、Lx=130μm、Ly=250μmとなる。図2(a)のような構成で得られる発光パターン(図2(b)参照)と比べると、y方向のビーム径は多少広がっているものの、x方向のビーム径が大幅に抑制されていることがわかる。また図5(a)に示す構成で電子放出効率ηをシミュレーションで見積もると、5.5%となり、図2(a)に示す構成とほぼ同等といえる。
【0035】
以上より、図5(a)のような構成の電子放出素子では、電流が増大し、高い電子放出効率を得られ、且つアノード20におけるビーム径を抑制した特性を得られることがわかる。
【0036】
〔製造方法〕
図6を参照して、図1(a)に例示した電子放出素子の製造方法の一例を説明する。図6は、図1(a)に示した電子放出素子の製造工程を示す模式図である。
【0037】
〈基板1の形成〉
図6の基板1は素子を機械的に支えるための基板であり、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス及び、シリコン基板である。基板に必要な機能としては、機械的強度が高いだけでなく、ドライエッチング、ウェットエッチング、現像液等のアルカリや酸に対して耐性があり、ディスプレイパネルのような一体ものとして用いる場合は成膜材料や他の積層部材と熱膨張差が小さいものが望ましい。また熱処理に伴いガラス内部からのアルカリ元素等が拡散しづらい材料が望ましい。
【0038】
〈絶縁層101、102の形成〉
先ず最初に、図6(a)に示すように基板1上に第1の絶縁部材を形成するために絶縁層101、102を積層する。絶縁層101,102は、加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜であり、例えばSiN(Sixy)やSiO2であり、その作製方法はスパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成される。またその厚さとしては、絶縁層101は20nm乃至50μmの範囲で設定され、好ましくは50nm乃至500nmの範囲に選択され、絶縁層102は20nm乃至500nmの範囲で設定され、好ましくは20nm乃至50nmの範囲で選択される。尚、絶縁層101と102を積層した後に絶縁層102の側面を後退させるため、絶縁層101と絶縁層102とはエッチングに対して異なるエッチング量を持つような関係に設定する。望ましくは絶縁層101と絶縁層102との間のエッチング量の比は、10以上が望ましく、50以上が望ましい。例えば、絶縁層101はSixyを用い、絶縁層102はSiO2等絶縁性材料、或いはリン濃度の高いPSG、ホウ素濃度の高いBSG膜等で構成する事ができる。
【0039】
〈導電層103の形成〉
さらに、図6(a)に示すように導電層103を積層する。導電層103は蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術により形成されるものである。導電層103の材料は、導電性に加えて高い熱伝導率があり、融点が高い材料が望ましい。例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料が使用できる。また、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN、TaN等の窒化物、Si,Ge等の半導体なども使用可能である。また、有機高分子材料、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も適宜使用可能である。また、導電層103の厚さとしては、20nm乃至500nmの範囲で設定され、好ましくは50nm乃至500nmの範囲で選択される。
【0040】
〈導電層103を加工〉
フォトリソグラフィー技術により導電層103上にレジストパターンを形成した後、エッチング手法を用いて導電層103を加工し、図6(b)に示すように、第3の側面23を形成する。このようなエッチング加工では一般的にエッチングガスをプラズマ化して材料に照射することで材料の精密なエッチング加工が可能なRIE(Reactive Ion Etching)が用いられる。この際の加工ガスとしては、加工する対象部材としてフッ化物を作る場合はCF4、CHF3、SF6のフッ素系ガスが選ばれる。またSiやAlのように塩化物を形成する場合はCl2、BCl3などの塩素系ガスが選ばれる。またレジストとの選択比を取るため、またエッチング面の平滑性の確保或いはエッチングスピードを上げるために水素や酸素、アルゴンガスなどが随時添加される。
【0041】
〈絶縁層105の形成〉
続いて図6(c)に示すように絶縁層105を積層する。絶縁層105は、加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜であり、例えばSiN(Sixy)やSiO2であり、その作製方法はスパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成される。また絶縁層105の厚さとしては20nm乃至50μmの範囲で設定され、好ましくは50nm乃至500nmの範囲に選択される。但し、第2の高電位側電極8と第2の低電位側電極6との間で電子放出しないように、絶縁層105の厚さは絶縁層102の厚さよりも大きくする必要がある。尚、絶縁層105を積層した後に第6の側面26を後退させるため、絶縁層101と絶縁層105とはエッチングに対して異なるエッチング量を持つような関係に設定する。望ましくは絶縁層101と絶縁層105との間のエッチング量の比は、10以上が望ましく、50以上が望ましい。例えば、絶縁層101はSixyを用い、絶縁層105はSiO2等絶縁性材料、或いはリン濃度の高いPSG、ホウ素濃度の高いBSG膜等で構成する事ができる。
【0042】
〈絶縁層105を加工〉
フォトリソグラフィー技術により絶縁層105上にレジストパターンを形成した後、エッチング手法を用いて加工し、図6(d)に示すように、第5の側面25を形成する。このようなエッチング加工としては、前記導電層103の加工で述べた方法を用いることができる。
【0043】
〈導電層107の形成〉
続いて図6(e)に示すように導電層107を積層する。導電層107は蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術により形成されるものである。導電層107は導電性があり、電界放出する材料であればよく、一般的には2000℃以上の高融点、5eV以下の仕事関数材料であり、酸化物等の化学反応層の形成しづらい或いは簡易に反応層を除去可能な材料が好ましい。このような材料として例えば、Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Au,Pt,Pd等の金属又は合金材料が使用可能である。また、前記導電層103の形成材料として挙げた炭化物、硼化物、窒化物も使用可能である。またさらには、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も使用可能である。導電層107は、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術により形成される。また、導電層107の厚さとしては、20nm乃至500nmの範囲で設定され、好ましくは50nm乃至500nmの範囲で選択される。
【0044】
〈各層をエッチング〉
フォトリソグラフィー技術により導電層107上にレジストパターンを形成した後、エッチング手法を用いて導電層107、絶縁層105、導電層103、絶縁層102、絶縁層101を順に加工する。その結果、図6(f)に示すように、第1の絶縁層2、絶縁層102、第2の低電位側電極6、絶縁層105、第2の高電位側電極8が得られる。また、当該工程により、第1の絶縁層2の第1の側面21及び第2の側面22、第1の側面21の延長面上に一致する高電位側電極8の第7の側面27、第2の側面22の延長面上に一致する第2の低電位側電極6の第4の側面24が形成される。また、第2の側面22の延長面上に第2の高電位側電極8の第8の側面28も一致して形成されるが、本発明においては、図5(a)で説明した電界が構成されれば、係る構成に限定されるものではない。このようなエッチング加工の方法としては、前記導電層103の加工で述べた方法を用いることができる。
【0045】
〈絶縁層102、105の側面を後退させて第2の絶縁層3、第3の絶縁層7を形成〉
図6(g)に示すように、絶縁層102と絶縁層105をエッチングして、それぞれの露出した側面を内側に後退させる。これにより、第1の側面21,第2の側面22よりも内側に後退した側面を有する第2の絶縁層3が形成される。即ち、第1の絶縁部材の第1の凹部13と第2の凹部14とが形成される。同時に、第2の側面22及び第4の側面24よりも内側に後退した第6の側面26を有する第3の絶縁層7が形成される。エッチングは、例えば絶縁層102,105がSiO2からなる材料であれば、通称バッファーフッ酸(BHF)と呼ばれるフッ化アンモニウムとフッ酸との混合溶液を用い、Sixyからなる材料であれば熱リン酸系エッチング液を使用することが可能である。第1の絶縁層2の側面21から第2の絶縁層3の側面までの距離L(第1の凹部13の深さ)は、素子形成後のリーク電流に深く関わり、Lを大きく形成するほどリーク電流の値が小さくなる。しかし、あまり距離を深く形成すると高電位側電極が変形する等の課題が発生する。このため、Lはおよそ30nm乃至200nm程度で形成される。同様に、第2の凹部14の深さLも30nm乃至200nm程度で形成される。
【0046】
〈剥離層109の形成〉
図6(h)に示すように、第2の高電位側電極8と第2の低電位側電極6の表面に剥離層109を形成する。剥離層109の形成は、次の工程で堆積する導電性膜110を第2の高電位側電極8、第2の低電位側電極6から剥離することが目的である。このような目的のため、例えば電解メッキにて剥離金属を付着させるなどの方法によって剥離層109を形成する。
【0047】
〈導電性膜110の形成〉
図6(i)に示すように、導電性膜110を第2の高電位側電極8の外表面、第2の低電位側電極6の第4の側面24、第1の絶縁層2の第1及び第2の側面21,22に付着させる。導電性膜110としては、前記した導電層107と同じ材料が好ましく用いられ、形成方法も同様である。次いで、図6(j)に示すように、剥離層110をエッチングで取り除くことで、第2の高電位側電極8と第2の低電位側電極6の外表面上の導電性膜110が取り除かれ、第1の低電位側電極4と第1の高電位側電極5が形成される。導電性膜110の好ましい厚さは5nm乃至80nmである。次に図6(k)に示すように、第1の低電位側電極4と電気的な導通を取るために電極11を形成し、第1の高電位側電極5と電気的な導通を取るために電極12を形成する。この電極11、12は、前記導電性膜110と同様に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成される。電極11、12の材料としては、前記した導電層103と同じ材料が好ましく用いられる。電極11、12の厚さとしては、50nm乃至5mmの範囲で設定され、好ましくは50nm乃至5μmの範囲で選択される。
【0048】
次に、図9を参照し、本発明の電子源基板と画像表示装置について説明する。図9(a)は、本発明の電子源基板の好ましい実施形態を示す平面模式図である。また図9(b)は、本発明の画像表示装置の一例の断面構造を示す模式図である。
【0049】
本発明の電子源基板93は、図9(a)に示されるように、基板1上に本発明の電子放出素子92を複数備えている。該素子92は、信号線90、走査線91からなるマトリクス配線に接続され、不図示の駆動回路によって所定のアドレスからの電子放出が制御されるようになっている。
【0050】
本例の画像表示装置96は、図9(b)に示すように、電子放出素子92を有する電子源基板93と、発光基板97とを対向させて組み合わせ、周囲に枠94を配置した真空容器を形成することで作製される。発光基板97は、少なくともアノードと、該アノードに積層配置された発光部材とを備えている。一般的には、ガラス基板のような透明基板の内側に発光部材として蛍光体等を配置し、さらに内側にアノードを配置する。また、真空容器として形成した画像表示装置96内には、通常、耐大気圧保持のために、上記発光基板97と電子源基板93との間にスペーサー(不図示)を介在させている。発光基板97のアノードには不図示の高圧電源から高圧電圧が供給され、電子源基板93から放出される電子を発光基板97の発光部材に照射して発光させることになる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
図1に示した構成の電子放出素子を、図6の工程に従って作製した。先ず、図6(a)に示すように、低ナトリウムガラスであるPD200を基板1として用い、絶縁層101として厚さ500nmのSiN(Sixy)膜をスパッタ法にて形成し、次いで絶縁層102として厚さ23nmのSiO2膜をスパッタ法にて形成した。さらに、絶縁層102上に、導電層103として、厚さ30nmのTaN膜をスパッタ法にて形成した。次に、フォトリソグラフィー技術により導電層103上にレジストパターンを形成した後、ドライエッチング手法を用いて導電層103を加工し、図6(b)に示すように、第3の側面23を形成した。この時の加工ガスとしては、導電層103には前述のようにフッ化物を作る材料が選択されているためCF4系のガスが用いられた。レジストを剥離した後、図6(c)に示すように、絶縁層105として厚さ40nmのSiO2膜をスパッタ法にて形成した。
【0053】
次に、フォトリソグラフィー技術により絶縁層105上にレジストパターンを形成した後、ドライエッチング手法を用いて絶縁層105を加工し、図6(d)に示すように、第5の側面25を形成した。この時の加工ガスとしては、絶縁層105には前述のようにフッ化物を作る材料が選択されているためCF4系のガスを用いた。レジストを剥離した後、図6(e)に示すように、導電層107として厚さ30nmのモリブデン(Mo)膜をスパッタ法にて形成した。次に、フォトリソグラフィー技術により導電層107上にレジストパターンを形成した後、ドライエッチング手法を用いて導電層107、絶縁層105、導電層103、絶縁層102、絶縁層101を順に加工した。その結果、図6(f)に示すように、第1の絶縁層2、絶縁層102、第2の低電位側電極6、絶縁層105、第2の高電位側電極8からなる積層体を形成した。レジストパターンは、ドライエッチング加工後に高電位側電極8の幅(第1の側面21と第2の側面22との距離)が10μmとなるようにレジストパターンを形成した。この時の加工ガスとしては、導電層107、絶縁層105、導電層103、絶縁層102、絶縁層101には前述のようにフッ化物を作る材料が選択されているためCF4系のガスを用いた。
【0054】
レジストを剥離した後、図6(g)に示すように、BHFを用いて凹部の深さが約120nmになるように絶縁層102と絶縁層105をエッチングし、第2の絶縁層3と第3の絶縁層7を形成した。次に、図6(h)に示すように、第2の高電位側電極8、第2の低電位側電極6の表面に電解めっきによりNiを電解析出させて剥離層109を形成した。図6(i)に示すように、導電性膜110としてモリブデン(Mo)をEB蒸着法を用いて形成した。始めに基板の角度を水平面に対し図6(i)から見て右回りに60°にセットして成膜後、続いて基板の角度を水平面に対し図6(i)から見て左回りに60°にセットして成膜した。蒸着は約12nm/minになるように蒸着速度を定めた。そして蒸着時間を精密に制御し(本例では右回り60°セットで1分、左回り60°セットで1分)、第1の絶縁層2の第1の側面21、第2の側面22にそれぞれ厚さ18nmのMoが形成されるようにした。Mo膜を形成後、図6(j)に示すように、ヨウ素とヨウ化カリウムからなるエッチング液を用いてNi剥離層109を除去することにより、第2の高電位側電極8、第2の低電位側電極6からMo材料110を剥離した。
【0055】
以上の方法で電子放出素子を形成した後、図1(b)に示す構成にて電子放出特性を評価した。尚、アノード20の外側(電子放出素子が位置する側とは反対側)に発光部材を配置した。その結果、Vf=23V、Va=11.8kVを印加した時、If=61μA,Ie=3.2μA、η=5.2%であった。本例の電子線装置によって得られた発光パターンは、図5(b)に示す通りであり、ピーク輝度の範囲Lx、Lyを測ったところ、Lx=135μm、Ly=255μmであった。
【0056】
(比較例1)
次に、図2(a)に示すような構成の電子放出素子を、図7に示す工程に従って作製した。先ず、実施例1と同様に絶縁層101、絶縁層102、導電層103を形成した(図7(a))。その後、導電層103上にフォトリソグラフィー技術でレジストパターンを形成後、ドライエッチング手法を用いて導電層103、絶縁層102、絶縁層101を順に加工し、絶縁層2、絶縁層102、高電位側電極31を形成した(図7(b))。レジストを剥離した後、実施例1と同様に絶縁層102をエッチングし、絶縁層3を形成した(図7(c))。その後、実施例1と同様に高電位側電極31の表面に剥離層109を形成し(図7(d))、絶縁層2の側面、高電位側電極31の表面、基板1の表面に導電性膜110を形成した(図7(e))。その後、剥離層109を除去して高電位側電極31上の導電性膜110を剥離した(図7(f))。
【0057】
以上の方法で電子放出素子を形成した後、実施例1と同様にアノードと発光部材を配置し、実施例1と同様の方法で電子放出素子の特性を評価した。その結果、Vf=23V、Va=11.8kVを印加した時、If=60μA,Ie=3.2μA、η=5.3%であった。本例の電子線装置によって得られた発光パターンは図2(a)の通りであり、ピーク輝度の範囲Lx、Lyを測ったところ、Lx=240μm、Ly=235μmであった。実施例1と比べると、本例では電流Ie,If,電子放出効率ηはほぼ同等で、アノードでのビーム径は実施例1の方がY方向(Ly)はやや広がっているものの、X方向(Lx)は大幅に狭まっており、本発明による効果を確認することができた。
【0058】
(実施例2)
本例では、図8(a)に示すように、実施例1の電子放出素子を基板上に複数並べた電子源基板を構成した。基本的な作製方法は実施例1(図6(a)乃至(k))と同様である。電子放出素子が4つ横に並び、且つ、高電位側電極8の幅(W1)はいずれも10μm、高電位側電極8の端から隣接する高電位側電極8の端までの距離(W2)は10μmとなるようにレジストパターンを形成した。
【0059】
以上の方法で電子源を形成した後、実施例1と同様にアノードと発光部材を配置し、実施例1と同様の方法で電子放出特性を評価した結果、Vf=23V、Va=11.8kVを印加した時、If=232μA,Ie=12.5μA、η=5.4%であった。本例の電子線装置によって得られた発光パターンを図8(b)に示す。発光パターンの輪郭線はピーク輝度の10%範囲を示している。図8(b)の発光パターンを見ると、実施例1で得られた発光パターン(図2(b))を横に重ね合わせた形状にほぼ等しく、隣接した積層体によって形成される電界の影響は大きくないことがわかった。図8(b)のピーク輝度の範囲Lx、Lyを測ったところ、Lx=200μm、Ly=255μmであった。
【符号の説明】
【0060】
4:第1の低電位側電極、5:第1の高電位側電極、6:第2の低電位側電極、8:第2の高電位側電極、20:アノード、21:第1の側面、22:第2の側面、23:第4の側面、24:第4の側面、25:第5の側面、26:第6の側面、27:第7の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と、該上面を挟む第1及び第2の側面とを有し、第1の側面の上面側の端部に第1の凹部を、第2の側面の上面側の端部に第2の凹部を有する第1の絶縁部材と、
第1の側面に配置し、一端が前記第1の凹部の縁に沿った第1の低電位側電極と、
第2の側面に配置し、一端が前記第2の凹部の縁に沿った第1の高電位側電極と、
前記第1の凹部よりも内側に後退した位置に第3の側面と、前記第2の側面の延長面上に、その面が一致する第4の側面と、を有し、前記第1の絶縁部材の前記上面に配置され、前記第2の凹部を介して第1の高電位側電極に対向する第2の低電位側電極と、
前記第1の凹部よりも内側に後退した位置に第5の側面を、前記第4の側面よりも内側に後退した位置に第6の側面を有し、前記第2の低電位側電極の第3の側面を覆って前記第2の低電位側電極の上に配置される第2の絶縁部材と、
前記第1の側面の延長面上に、その面が一致する第7の側面を有し、前記第1の凹部を介して前記第1の低電位側電極に対向し、前記第1の絶縁部材及び第2の絶縁部材の上に配置される第2の高電位側電極と、
を有することを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
基板と、前記基板上に配置した、複数の電子放出素子と、前記電子放出素子に電圧を印加するための配線とを備えた電子源基板であって、前記電子放出素子が請求項1に記載の電子放出素子であることを特徴とする電子源基板。
【請求項3】
請求項2に記載の電子源基板と、
前記電子源基板に形成された電子放出素子の第2の高電位側電極を介在させて、前記第1の低電位側電極及び第1の高電位側電極と対向配置されるアノードと、前記アノードに積層して配置された、前記電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材と、
を有することを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−187278(P2011−187278A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50442(P2010−50442)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】