説明

電子機器用プレコートアルミニウム板

【課題】導電性、潤滑性、耐指紋性、耐食性、および加工時の耐疵付き性に優れるとともに、梱包材による耐疵付き性に優れた電子機器用プレコートアルミニウム板を提供する。
【解決手段】アルミニウム素板11上に無機成分と有機樹脂成分を含有する複合皮膜12が形成され、複合皮膜12に押し付けた所定の球状端子とアルミニウム素板11との間の抵抗値が1Ω以下の電子機器用プレコートアルミニウム板10であって、アルミニウム素板11の表面粗さRaが0.3〜0.5μmであり、複合皮膜12は無機成分としてジルコニウム成分およびケイ素成分を含有し、有機樹脂成分としてウレタン樹脂、アクリル樹脂の少なくとも一種を含有し、ジルコニウム成分のZrO2換算付着量が5〜500mg/m2、ケイ素成分のSiO2換算付着量が2〜600mg/m2、有機樹脂成分の付着量が5〜650mg/m2であって、各成分の付着量合計が70〜700mg/m2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形されることにより電子機器のケースや構造部材等として使用されるプレコートアルミニウム板に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板(アルミニウム合金板含む)は、高い強度と成形性を兼ね備えつつ、鋼板に比べて大幅な軽量化が可能なことから、様々な成形を施すことにより容器、箔、電気製品、自動車用品、さらには建材等の様々な用途に適用されている。
【0003】
アルミニウム板の成形品は、使用する用途や環境に合わせて外観や耐食性等の向上を目的として表面処理が行われることがある。ここで、表面処理を行う手法としては、大量生産性、製造工程の簡素化、コスト低減等の観点から、プレス成形前のアルミニウム板に予め表面処理して皮膜を形成させたプレコートアルミニウム板を利用する、プレコート法が好ましい。
【0004】
さらに、かかるプレコートアルミニウム板は、近年、製品や機器の多様化と高級化に応えるため、種々の機能、例えば、耐指紋性、耐疵付き性、導電性(アース接続性)、放熱性、遮熱性、抗菌性、防カビ性、親水性、撥水性、潤滑性等を付与した機能性プレコートアルミニウム板が開発され、広く普及している。これらのうち電子機器用プレコートアルミニウム板としては導電性、耐指紋性、耐疵付き性および潤滑性を兼ね備えたプレコートアルミニウム板が最も幅広く採用されている。なお、ここでいう耐疵付き性は、プレス加工時に金型と摩擦することによって発生する疵を対象とした耐疵付き性を指す。
【0005】
特許文献1には、アルミニウム板に潤滑剤を含む樹脂をコーティングして樹脂皮膜を形成することにより、表面に付着した指紋や、表面に生じた微細な疵を目立たなくさせる、耐指紋性および耐疵付き性に優れた表面処理アルミニウム板が提案されている。
特許文献1によれば、アルミニウム板の耐指紋性および耐疵付き性がある程度向上されるものの、絶縁物たる樹脂皮膜がコーティングされたアルミニウム板の表面は絶縁性を呈するようになるため、前記電子機器のケースまたは構造部材からアースをとる場合には、前記樹脂皮膜の一部を削り取ってアルミニウム板の金属部分を露出させた導通部を設ける等の後工程が必要となる。
【0006】
そこで、このようなプレコートアルミニウム板の表面における導電性確保の問題を解決するため、導電性物質を含有する樹脂皮膜をコーティングする技術が、特許文献2および特許文献3等で提案されている。
【0007】
しかしながら、このように導電性物質を含有する樹脂をアルミニウム板の表面にコーティングする方法では、導電性物質の粒子を前記樹脂の中に均一に分散させることが必要であり、アルミニウム板の表面に形成された樹脂皮膜中で導電性物質の粒子同士の接触が十分に確保されない場合には、または樹脂皮膜とアルミニウム板の界面において、導電性物質とアルミニウム板の接触が十分に確保されない場合には、所望の導電性が得られない。したがって、所望の導電性を得るには、導電性物質の成分量を増加させる必要がある。ところが、導電性物質の含有量を増加させると樹脂皮膜が硬くなって脆くなるため、樹脂皮膜が形成されたアルミニウム板にプレス加工を施す際に樹脂皮膜の割れ(剥離)が発生し易くなるという問題が生じる。
【0008】
本発明者らは、これら導電性物質を添加した樹脂皮膜を形成する構成のプレコートアルミニウム板の問題点を解決するため、特許文献4において、アルミニウム板の有する表面粗さと樹脂皮膜の平均膜厚との関係に着目し、導電性物質を使わないで導電性を確保する技術を提案している。すなわち、この特許文献4に記載された電子機器用プレコートアルミニウム板40は、図5に示すように、所定の中心線平均粗さを有するアルミニウム素板41の少なくとも片面に、耐食性皮膜43と所定の成分および平均膜厚を有する樹脂皮膜42とを形成し、アルミニウム素板41の表面の微細な凹凸の凸部が耐食性皮膜43に被覆された状態で樹脂皮膜42から露出するように構成されており、このような構成とすることで高い導電性を向上させつつ、耐疵付き性等のその他の要求も満足している。
【0009】
前記構成を有する特許文献4に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板は、導電性、耐指紋性、耐疵付き性、潤滑性に優れているため、光ディスクドライブのカバーや液晶パネルのフレーム、液晶パネルのバックパネル、車載用オーディオの内部ケース等、各種電子機器に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平6−70870号公報
【特許文献2】特開平7−313930号公報
【特許文献3】特許第3245696号公報
【特許文献4】特許第4237975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板の適用先として想定している電子機器業界では、近年、特にコスト競争が激しくなっており、その結果、電子機器用プレコートアルミニウム板を成形した成形品や、この成形品を使用して組み立てた電子機器製品を梱包する梱包資材についても、より安価なものへ置き換える傾向がある。その結果、電子機器用プレコートアルミニウム板を成形した成形品や、この成形品を使用して組み立てた電子機器製品を梱包後輸送する際に、従来の梱包資材では入らなかったような疵が、成形品や電子機器製品に入るケースが増え始めており、コストを殆どかけずに従来よりも耐疵付き性をさらに高めたプレコートアルミニウム材を望む声が増えている。
【0012】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、導電性、潤滑性、耐指紋性、耐食性、およびプレス加工時の耐疵付き性に優れるとともに、安価な梱包資材を使用しても、適用された成形品や電子機器製品への疵付きが抑えられる、耐疵付き性の優れた電子機器用プレコートアルミニウム板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決した本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板は、アルミニウム素板と、前記アルミニウム素板の少なくとも片面に形成された無機成分および有機樹脂成分を含有する複合皮膜と、を備え、前記複合皮膜を形成した側の表面に対して先端部が半径10mmの球状端子を0.4Nの荷重で押し付けたときにおける、前記球状端子と前記アルミニウム素板との間の抵抗値が1Ω以下である電子機器用プレコートアルミニウム板であって、前記アルミニウム素板は、前記複合皮膜が形成される側の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上0.5μm以下であり、前記複合皮膜は、無機成分としてジルコニウム成分およびケイ素成分を含有し、有機樹脂成分としてウレタン樹脂、アクリル樹脂の少なくとも一種を含有し、ジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量が5〜500mg/m2、ケイ素成分のSiO2に換算した付着量が2〜600mg/m2、前記有機樹脂成分の付着量が5〜650mg/m2であって、前記ジルコニウム成分の付着量、前記ケイ素成分の付着量、前記有機樹脂成分の付着量の合計が70〜700mg/m2であることを特徴としている(請求項1)。
【0014】
このように、アルミニウム素板の表面の算術平均粗さRaと複合皮膜の全体の付着量とをそれぞれ特定の範囲内に規制したので、アルミニウム素板の微細な凸部が複合皮膜の平均的な膜厚(高さ)よりも高く飛び出した形態となり、その結果、所定の方法によって測定したときの抵抗値が1Ω以下となるような優れた導電性を確保することができる。さらに、複合皮膜を形成する成分を規定することにより、極めて優れた耐疵付き性(梱包資材と摺動した際の耐疵付き性)が確保された電子機器用プレコートアルミニウム板が具現される。
【0015】
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板は、前記複合皮膜の無機成分において、ZrO2,SiO2に換算したジルコニウム成分とケイ素成分との合計に対する前記ケイ素成分の質量比([SiO2]/[ZrO2+SiO2])が0.2以上0.95以下であることが好ましい(請求項2)。
【0016】
このように、無機成分におけるケイ素成分の比率すなわちジルコニウム成分とケイ素成分との比を最適化した複合皮膜とすることにより、梱包資材と摺動した際の耐疵付き性にいっそう優れた電子機器用プレコートアルミニウム板が具現される。
【0017】
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板は、前記複合皮膜において、無機成分の、ZrO2,SiO2に換算したジルコニウム成分とケイ素成分との質量の合計[ZrO2+SiO2]が、前記有機樹脂成分の質量の0.2倍以上10倍以下であることが好ましい(請求項3)。
【0018】
このように、複合皮膜における無機成分と有機樹脂成分との比を規定することにより、有機樹脂成分の比率が高くなり過ぎた場合に生じる複合皮膜の硬さ不足に起因する、梱包資材との耐疵付き性低下を防ぐことができるとともに、無機成分の比率が高くなり過ぎた場合に生じる複合皮膜の密着性不足に起因する、プレス時の耐疵付き性低下を防ぐことができ、耐疵付き性にいっそう優れた電子機器用プレコートアルミニウム板が具現される。
【0019】
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板は、前記複合皮膜が、当該複合皮膜に対して質量比5%以上50%未満の潤滑成分をさらに含有することが好ましい(請求項4)。
【0020】
このような構成にすれば、潤滑性に優れた電子機器用プレコートアルミニウム板が具現され、プレスによる連続成形性が向上して、脱脂工程の省略といったコストダウンが可能となる。
【0021】
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板は、前記アルミニウム素板と前記複合皮膜との間に、クロム、ジルコニウム、チタンから選択される金属を含有する無機単独皮膜または無機有機複合皮膜からなる下地処理皮膜がさらに形成されてもよく、前記下地処理皮膜の付着量が前記金属換算で5mg/m2以上50mg/m2以下であることが好ましい(請求項5)。
【0022】
このような構成にすれば、複合皮膜とアルミニウム素板との密着性が向上することによってプレス加工時の耐疵付き性がさらに向上するとともに、耐食性にいっそう優れた電子機器用プレコートアルミニウム板が具現される。
【0023】
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板は、前記複合皮膜が、前記ジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量が5〜250mg/m2、前記ケイ素成分のSiO2に換算した付着量が2〜300mg/m2、前記有機樹脂成分の付着量が5〜325mg/m2であって、前記ジルコニウム成分の付着量、前記ケイ素成分の付着量、前記有機樹脂成分の付着量の合計が70〜350mg/m2であり、先端部が半径10mmの球状端子を、前記複合皮膜を形成した側の表面に対して0.4Nの荷重で押し付けたときにおける、前記球状端子と前記アルミニウム素板との間の抵抗値が0.5Ω以下であることが好ましい(請求項6)。
【0024】
このように、複合皮膜の全体および各成分の付着量を低減すれば、導電性をいっそう高めることが可能となるとともに、コストパフォーマンスにもさらに優れた電子機器用プレコートアルミニウム板が具現される。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板によれば、アルミニウム素板の表面の算術平均粗さRaと複合皮膜の全体の付着量とをそれぞれ特定の範囲内に規制し、さらに複合皮膜の成分を適切化したため、耐疵付き性を著しく向上させるとともに、導電性、潤滑性、耐指紋性、および耐食性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板の実施形態の構成を模式的に示す要部拡大断面図である。
【図2】電子機器用プレコートアルミニウム板の抵抗値を測定する方法を模式的に示す正面図である。
【図3】本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板の別の実施形態の構成を模式的に示す要部拡大断面図である。
【図4】電子機器用プレコートアルミニウム板の耐疵付き性を測定する剪断曲げ試験法を模式的に示す断面図である。
【図5】従来技術に係る電子機器用プレコートアルミニウム板の構成を模式的に示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、適宜図面を参照して本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板について詳細に説明する。
図1に示すように、本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10は、所定の表面粗さのアルミニウム素板11と、このアルミニウム素板11の表面に所定の付着量で形成された複合皮膜12とを有する。複合皮膜12は、アルミニウム素板11の片面に形成されてもよいし、両面に形成されてもよい(図示省略)。また、図3に示す本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板の別の実施形態のように、アルミニウム素板11と複合皮膜12の間に、リン酸クロメート皮膜に代表される下地処理皮膜13が形成されてもよい(詳細は後記する)。
【0028】
アルミニウム素板11は、表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上0.5μm以下で、微細な凹凸が形成されているため、複合皮膜12が、アルミニウム素板11の表面の凹凸の凹部については相対的に厚く、凸部については相対的に薄く形成される。
また、無機成分と有機樹脂成分を含有する複合皮膜12は、前記無機成分としてジルコニウム成分およびケイ素成分を含有し、ジルコニウム成分の付着量(面積あたりの質量)はZrO2に換算して5〜500mg/m2、ケイ素成分の付着量はSiO2に換算して2〜600mg/m2である。また、複合皮膜12は、前記有機樹脂成分としてウレタン樹脂、アクリル樹脂の少なくとも一種を含有し、当該有機樹脂成分の付着量が5〜650mg/m2である。そして、複合皮膜12における前記各成分の付着量の合計は70〜700mg/m2である。以下、この付着量の合計、すなわち複合皮膜12に含有されるジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量、ケイ素成分のSiO2に換算した付着量、有機樹脂成分の付着量の合計を、当該複合皮膜12の付着量と称する。
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10は、このように、所定の表面粗さのアルミニウム素板11に、成分および付着量が規定された複合皮膜12が形成されているため、先端部が半径10mmの球状端子23(図2参照)を、複合皮膜12を形成した側の表面に対して0.4Nの荷重で押し付けたときにおける、球状端子23とアルミニウム素板11との間の抵抗値を1Ω以下とすることが可能である。
【0029】
以下、本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10の各構成要件について説明する。
【0030】
[アルミニウム素板]
本発明で用いることのできるアルミニウム素板11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものであり、適用できる合金品種は特に制限されるものではなく、製品形状や成形方法、使用時に求められる強度等に基づいて任意に選択することができる。一般的には、非熱処理型のアルミニウム板、すなわち、1000系の工業用純アルミニウム板、3000系のAl−Mn系合金板、5000系のAl−Mg系合金板を好適に使用することができる。特に、しごき加工を伴う深い容器形状のケースを製作する場合には、JISH4000に規定されるA1050、A1100、A3003、A3004等のアルミニウム板が推奨される。また、比較的浅い容器形状のケースを製作する場合や、曲げ加工主体のケースを製作する場合には、JISH4000に規定されるA5052、A5182等のアルミニウム板が推奨される。調質、板厚についても、目的に応じて種々のものを選定して使用することができる。
【0031】
(アルミニウム素板の表面の算術平均粗さRa:0.3μm以上0.5μm以下)
アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaは、後記する複合皮膜12の付着量とともに、本発明の電子機器用プレコートアルミニウム板10における導電性、耐食性、耐指紋性、耐疵付き性等の各種特性の発現に寄与する重要なパラメータである。
【0032】
アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaが0.3μm未満であると、電子機器用プレコートアルミニウム板10の表面の光沢度が過剰に大きくなって、表面に付着した指紋および表面に生じた微細な疵が目立ち易くなり、耐指紋性および梱包資材による耐疵付き性に劣ったものとなる。また、この場合には、前記した微細な凹凸を有するアルミニウム素板11の素地の凸部の高さが低くなり、その結果、凸部を覆う複合皮膜12の膜厚が厚くなるため、所望の導電性を確保することが困難となる。
一方、アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaが0.5μmを超えると、アルミニウム素板11の凸部の高さが高くなり過ぎるため、凸部の頂上が複合皮膜12から露出し易くなる。その結果、露出したアルミニウム素板11の表面が金型によって磨耗を受けるため、プレス加工時の耐疵付き性が低下するとともに潤滑性も低下する。また、凸部が複合皮膜12から露出すると、そこを起点に腐食が発生して周囲に広がるため、耐食性が低下する。
つまり、アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaを0.3μm以上0.5μm以下の範囲に規定することによって、優れた導電性、耐指紋性、耐疵付き性および耐食性を備えさせることができる。
【0033】
なお、アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaを前記した範囲内に調整する方法としては、例えば、アルミニウム素板11の圧延工程で表面粗さが適宜設定された圧延ロールを用いて冷間圧延の最終(仕上げ)圧延を行う方法や、圧延後のアルミニウム素板11の表面に適宜の条件でエッチング処理を施す方法、微粒子等をたたきつけるブラスト法等が挙げられる。
【0034】
本発明では、このように表面の算術平均粗さRaが調整されて微細な凹凸が形成されたアルミニウム素板11の上に、成分と付着量を特定した複合皮膜12を形成するため、アルミニウム素板11の微細な凸部を覆う複合皮膜12の膜厚が厚くなり過ぎることもなく、また薄くなり過ぎることもない。そのため、所望の導電性、耐指紋性および耐疵付き性が確保されるとともに、耐食性が高められた電子機器用プレコートアルミニウム板10を得ることができる。
【0035】
[複合皮膜]
(複合皮膜の構成成分:無機成分と有機樹脂成分)
(有機樹脂成分の構成成分:アクリル樹脂、ウレタン樹脂の少なくとも一種)
(無機成分の構成成分:ジルコニウム成分とケイ素成分)
前記したように、本発明の電子機器用プレコートアルミニウム板10に用いられる複合皮膜12は、構成成分として無機成分と有機樹脂成分を含有し、無機成分としてはジルコニウム成分とケイ素成分を含有し、有機樹脂成分としてはアクリル樹脂、ウレタン樹脂から選択される少なくとも一種を含有することを必要とする。
【0036】
有機樹脂成分を、このように樹脂の種類を規定することにより、複合皮膜12は微細な凹凸を有するアルミニウム素板11の表面の凹部だけではなく凸部も薄い膜で覆うことができるため、耐食性、耐疵付き性、耐指紋性が良好なプレコートアルミニウム板10を得ることができるようになる。
【0037】
ジルコニウム成分、ケイ素成分がともに、前記の有機樹脂成分中に分散されることで、前記した通り微細な凹凸を有するアルミニウム素板11の表面の凹部はもちろん凸部も薄く満遍なく覆うことができるため、他の種類の樹脂を用いた複合皮膜と比べると耐食性や耐疵付き性を向上させる効果が大きい。特に耐疵付き性向上の効果は飛躍的に大きくなるため、例えば、従来の電子機器用プレコートアルミニウム板40(図5参照)と比べて高い耐疵付き性を確保することができるようになる。
【0038】
(複合皮膜の付着量:70〜700mg/m2
本発明の電子機器用プレコートアルミニウム板10は、複合皮膜12の付着量が70〜700mg/m2となるように形成される。このように規定することにより、導電性、耐疵付き性、加工密着性、耐食性のバランスに優れた電子機器用プレコートアルミニウム板10を得ることが可能となる。
複合皮膜12の付着量が70mg/m2未満になると、アルミニウム素板11の表面の特に凸部を十分に覆うことができなくなるために耐食性と耐疵付き性が低下する。また、複合皮膜12の付着量が700mg/m2を超えると、膜厚が厚くなり過ぎるために導電性が低下する。
特に優れた導電性を確保するためにも、複合皮膜12の付着量は350mg/m2以下とすることが好ましい。
【0039】
(複合皮膜に含有されるジルコニウム成分の付着量:ZrO2に換算して5〜500mg/m2
ジルコニウム成分は、皮膜の耐食性を向上させる。したがって、複合皮膜12にジルコニウム成分を一定量以上含有させることにより、有機樹脂成分だけでは得られない程の耐食性を電子機器用プレコートアルミニウム板10に備えさせることが可能となる。
ジルコニウム成分をZrO2に換算した付着量(以下、ジルコニウム成分の付着量)が5mg/m2未満になると耐食性が低下し、リン酸クロメート皮膜等の下地処理皮膜(耐食性皮膜43)を適用した従来の電子機器用プレコートアルミニウム板40(図5参照)と比較して耐食性が劣化する。またジルコニウム成分の付着量が500mg/m2を超えると、複合皮膜が硬くなって、加工密着性が低下する。したがって、ジルコニウム成分の付着量は5mg/m2以上500mg/m2以下とし、複合皮膜の全体(ジルコニウム成分、ケイ素成分、有機樹脂成分の合計)における質量比率で1/70以上50/70以下とすることが好ましい。なお、ジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量は、例えば、複合皮膜12の単位面積あたりに含有する全てのZr元素の質量に(ZrO2の分子量)/(Zrの原子量)を乗じて換算して得られる。
また、複合皮膜12の付着量が350mg/m2以下である場合は、塗装時の樹脂の流動性等を考慮すると、ジルコニウム成分の付着量は250mg/m2以下とすることが好ましい。
【0040】
(複合皮膜に含有されるケイ素成分の付着量:SiO2に換算して2〜600mg/m2
ケイ素成分は、皮膜の硬さを向上させる。したがって、複合皮膜12にケイ素成分を一定量以上含有させることにより、有機樹脂成分だけでは得られない程の耐疵付き性を電子機器用プレコートアルミニウム板10に備えさせることが可能となる。
ケイ素成分をSiO2に換算した付着量(以下、ケイ素成分の付着量)が2mg/m2未満になると耐疵付き性が低下する。またケイ素成分の付着量が600mg/m2を超えると、複合皮膜が硬くなり過ぎて加工密着性が低下する。したがって、ケイ素成分の付着量は2mg/m2以上600mg/m2以下とし、複合皮膜の全体(ジルコニウム成分、ケイ素成分、有機樹脂成分の合計)における質量比率で0.4/70以上60/70以下とすることが好ましい。なお、ケイ素成分のSiO2に換算した付着量は、例えば、複合皮膜12の単位面積あたりに含有する全てのSi元素の質量に(SiO2の分子量)/(Siの原子量)を乗じて換算して得られる。
また、複合皮膜12の付着量が350mg/m2以下である場合は、塗装時の樹脂の流動性等を考慮すると、ケイ素成分の付着量は300mg/m2以下とすることが好ましい。
【0041】
(無機成分におけるケイ素成分の比率[SiO2]/[ZrO2+SiO2]:0.2以上0.95以下)
無機成分(ジルコニウム成分とケイ素成分との合計)におけるケイ素成分の比率は、質量比([SiO2]/[ZrO2+SiO2])が0.2以上0.95以下であることが好ましい。なお、ジルコニウム成分とケイ素成分の質量は、それぞれ付着量と同様に、ZrO2,SiO2に換算した値であり、[ZrO2]、[SiO2]で表す。
このように規定すると、耐食性と耐疵付き性のバランスが優れた複合皮膜12が得られ易い。([SiO2]/[ZrO2+SiO2])が0.2未満であると耐疵付き性がやや劣る複合皮膜12となり、0.95を超えると耐食性がやや劣る複合皮膜12となる。
【0042】
(複合皮膜に含有される有機樹脂成分の付着量:5〜650mg/m2
有機樹脂成分は、複合皮膜12の加工密着性を確保する役割がある。複合皮膜12に有機樹脂成分を一定量含有させることにより、無機成分だけでは得られない加工密着性を電子機器用プレコートアルミニウム板10に備えさせることが可能となる。
有機樹脂成分の付着量が5mg/m2未満であると加工密着性が低下する。また有機樹脂成分の付着量が650mg/m2を超えると、複合皮膜が柔らかくなって耐疵付き性が低下し、また複合皮膜の膜厚が厚くなるため導電性が低下する。したがって、有機樹脂成分の付着量は5mg/m2以上650mg/m2以下とし、複合皮膜の全体(ジルコニウム成分、ケイ素成分、有機樹脂成分の合計)における質量比率で2/70以上65/70以下とすることが好ましい。
また、複合皮膜12の付着量が350mg/m2以下である場合は、特に優れた耐疵付き性を確保するためにも、有機樹脂成分の付着量は325mg/m2以下とすることが好ましい。
【0043】
(複合皮膜におけるジルコニウム成分とケイ素成分との質量の合計[ZrO2+SiO2]の有機樹脂成分の質量に対する比:0.2倍以上10倍以下)
複合皮膜12における無機成分(ジルコニウム成分とケイ素成分との合計)と有機樹脂成分との比は、ジルコニウム成分とケイ素成分との質量の合計[ZrO2+SiO2]が有機樹脂成分の質量の0.2倍以上10倍以下であることが好ましい。
このように規定すると、耐食性と耐疵付き性に加えて加工密着性のバランスが優れた皮膜が得られ易い。[ZrO2+SiO2]が有機樹脂成分の付着量の0.2倍未満であると、耐疵付き性および耐食性にやや劣る皮膜となり、10倍を超えると加工密着性がやや劣る皮膜となる。
【0044】
複合皮膜12の付着量、および当該複合皮膜12に含有されるジルコニウム成分、ケイ素成分、有機樹脂成分の各付着量を制御するためには、後記するように複合皮膜12が液体状の複合皮膜形成用薬剤(塗料)をアルミニウム素板11に塗布し、焼付けして形成されることから、複合皮膜形成用薬剤の配合および塗布量を制御すればよい。複合皮膜形成用薬剤は、複合皮膜12に含有される前記の各成分を、必要に応じて水や有機溶剤等に分散または溶解させたものを混合して得られる。アルミニウム素板11に塗布された複合皮膜形成用薬剤から、焼付けにより揮発成分(水や有機溶剤等)が蒸発するので、塗布した複合皮膜形成用薬剤の固形分(揮発成分を除いた量)が残存して、複合皮膜12となる。そして、複合皮膜形成用薬剤におけるジルコニウム成分、ケイ素成分、有機樹脂成分の比(各成分の揮発成分を除いた量に基づく)が、複合皮膜12における各成分の比となる。したがって、複合皮膜12の付着量は複合皮膜形成用薬剤の塗布量により制御でき、さらに複合皮膜形成用薬剤に混合するジルコニウム成分、ケイ素成分、有機樹脂成分の配合により、これら各成分の比が決定されてさらに前記塗布量により付着量が導出される。
【0045】
また、電子機器用プレコートアルミニウム板10に形成された複合皮膜12に対して、蛍光X線分析法にて、ジルコニウム(Zr)、ケイ素(Si)について定量分析し、それぞれZrO2,SiO2に換算して、ジルコニウム成分、ケイ素成分の実際の付着量を算出することもできる。同様に、炭素(C)について定量分析して、有機樹脂成分(ウレタン樹脂、アクリル樹脂)の組成に基づいて有機樹脂成分の実際の付着量を算出することができる。この場合は、標準サンプルにて、対象とする成分の付着量とその成分に対応する元素の蛍光X線分析で測定される強度との相関を求めておく。さらに、前記元素のいずれか一種を定量分析して、対応する成分の付着量だけでなく、塗布した複合皮膜形成用薬剤の配合から他の成分の付着量および複合皮膜12の付着量を算出することもできる。
【0046】
(複合皮膜に含有される好ましい成分:潤滑成分)
複合皮膜12は、潤滑成分を含有することが好ましい。潤滑成分は、その名の通り複合皮膜12の潤滑性を高めて成形性を向上させる役割を担う。潤滑成分としては、融点70〜130℃のワックスの少なくとも一種以上を使用することが好ましく、具体的にはポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、マイクロクリスタリンワックスが挙げられる。融点が70℃以上で潤滑性が得られ、融点が130℃以下とすると硬過ぎることがなく潤滑性が得られる。ワックスは乳化剤で水に安定に分散したエマルジョンが好ましく、粒径が0.08〜3.0μmのものが好ましい。粒径が0.08μm未満では乳化剤の使用量が増えるため耐食性が低下する。一方、3.0μmを超える粒径とすると複合皮膜12から突出する部分が大きくなり該複合皮膜12から脱離してしまい、潤滑性が得られなくなる場合がある。
【0047】
(潤滑成分の複合皮膜に対する質量比:5%以上50%未満)
複合皮膜12における潤滑成分の含有量は、当該潤滑成分を除いた複合皮膜12(ジルコニウム成分の付着量、ケイ素成分の付着量、有機樹脂成分の付着量の合計)に対して質量比5%以上50%未満であることが好ましい。
潤滑成分の質量比が5%未満であると潤滑効果が得られ難くなり、50%以上であると複合皮膜が軟らかくなり、耐疵付き性が低下する。
複合皮膜12に潤滑成分を含有させる場合は、複合皮膜形成用薬剤の調整の際に、前記のワックスを当該複合皮膜形成用薬剤の固形分に対して所望の質量比となるように混合すればよい。
【0048】
(複合皮膜の形成方法)
かかる複合皮膜12は、例えば、本発明で規定する複合皮膜12の成分を含有する液体状の複合皮膜形成用薬剤をロールコート法によりコイル状のアルミニウム素板11の片面または両面に連続して塗布した後、オーブンが単数あるいは複数連なって形成された連続式オーブン内を通過させて焼付けすることで形成することができる。このようにすれば、電子機器用プレコートアルミニウム板10を連続的にかつ速やかに製造することができるため生産性の点で好適である。
また、前記の形成方法において、複合皮膜12は、アルミニウム素板11の表面上に塗布された当初は液体状であるため、アルミニウム素板11の表面の凸部を薄く被覆する一方、凹部に優先的に充填され、凹部を厚く被覆する。そして、引き続き行われる焼付け処理によって凸部上に薄い膜厚で硬質な複合皮膜12を形成させるとともに、凹部に厚い膜厚で硬質な複合皮膜12を形成させることができる。
【0049】
電子機器用プレコートアルミニウム板10は、密着性および耐食性の良好な複合皮膜12を備えるため、一般的なプレコートアルミニウム板に形成されるリン酸クロメート皮膜に代表される下地処理皮膜を必要としない。したがって、下地処理皮膜を形成する工程、および下地処理皮膜の形成に使用する薬剤を省略することができるため、本発明の電子機器用プレコートアルミニウム板10を製造する設備構成を大幅に簡略化することができ、電子機器用プレコートアルミニウム板10をコストダウンできるとともに生産性を高めることができる。
【0050】
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板は、密着性および耐食性をいっそう向上させるために、予めリン酸クロメート処理に代表されるような化成処理をアルミニウム素板に行って、下地処理皮膜をアルミニウム素板と複合皮膜の間に形成してもよい。下地処理皮膜を形成する場合、本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板は、例えば以下の構成となる。
【0051】
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10Aは、図3に示すように、アルミニウム素板11と、このアルミニウム素板11の少なくとも片面に形成された複合皮膜12と、アルミニウム素板11と複合皮膜12の間に下地処理皮膜13が形成される。アルミニウム素板11および複合皮膜12については、電子機器用プレコートアルミニウム板10(図1参照)と同様であるので、同じ符号を付し、説明を省略する。以下、下地処理皮膜13について説明する。
【0052】
[下地処理皮膜]
一般的なプレコートアルミニウム板に形成される下地処理皮膜は、樹脂皮膜(複合皮膜)とアルミニウム素板との密着性を向上させると同時に耐食性を向上させる効果を有し、そのために多くの場合、Cr、Zr、またはTiを含有する無機単独皮膜あるいは無機有機複合皮膜が適用される。本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10Aにおいても、これらの下地処理皮膜が形成されることにより同様の効果が得られる。下地処理皮膜13としては、例えばリン酸クロメート皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜が挙げられ、特に3価クロム系のリン酸クロメート皮膜が好ましい。
【0053】
電子機器用プレコートアルミニウム板10Aにおける下地処理皮膜13の付着量は、金属(Cr,Zr,Ti)換算で5mg/m2以上50mg/m2以下であることが好ましい。下地処理皮膜13の付着量が金属換算で5mg/m2未満であると十分な効果が得られず、また、50mg/m2を超えると加工性が低下する。
【0054】
[電子機器用プレコートアルミニウム板の導電性]
(抵抗値:1Ω以下)
近年の電気機器の高性能化に伴い、電子機器の信頼性確保に対する要求は年々高まっており、導電性もその一つとなっている。本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10(10A)では、後記するような方法で測定される抵抗値を1Ω以下とすることが必要である。かかる抵抗値を1Ω以下とすれば、電子機器用プレコートアルミニウム板10の複合皮膜12の上から直接アースをとることが可能となる。また、電磁波ノイズを十分に除去することができる。したがって、電子機器が光ディスクドライブ等のドライブ装置であって、当該ドライブ装置のケースおよびシャーシといった構造部材に本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10を用いた場合には、書き込みまたは再生エラーが誘発され難くなる。また、電子機器が液晶パネルであって、当該液晶パネルの固定用フレームおよび背面カバーといった構造部材に本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10を用いた場合には、画像ノイズが発生し難くなる。
これに対し、抵抗値が1Ωを超えると、複合皮膜12の上から直接アースをとることも、電磁波ノイズを十分に除去することもできなくなる。
【0055】
本発明では、アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaを本発明で規定する特定の範囲(0.3μm以上0.5μm以下)内とするとともに、複合皮膜12の付着量を本発明で規定する特定の範囲(70mg/m2以上700mg/m2以下)内とすることにより、特定の方法で測定される抵抗値が1Ω以下となるようにしている。すなわち、本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10では、特定の範囲の算術平均粗さRaの表面を有するアルミニウム素板11に対して複合皮膜12を適宜な均一性で形成することにより、アルミニウム素板11の微細な凸部が複合皮膜12の平均的な高さよりも高く飛び出した形態となる。このように複合皮膜12の平均的な高さよりも高く飛び出した凸部では、複合皮膜12の膜厚は、従来技術の塗装下地処理皮膜(耐食性皮膜43(図5参照))とほぼ同程度の膜厚に留まるために抵抗値を1Ω以下とすることができ、導電性を確保することができる。
【0056】
ただし、アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaを特定の範囲(0.3μm以上0.5μm以下)に規定し、かつ複合皮膜12の付着量を特定の範囲(70mg/m2以上700mg/m2以下)に規定することは、抵抗値を1Ω以下という条件を満足させるための必要条件であっても十分条件ではなく、これらの条件を満たしていても抵抗値が1Ω以下にならない場合がある。例えば、アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaが下限付近であり、複合皮膜12の付着量が上限付近である場合には、アルミニウム素板11の表面の凹凸が小さく、膜厚が厚いため、抵抗値が1Ω以下になり難い。
したがって、本発明では、後記する特定の方法で測定される抵抗値が1Ω以下であることを要件としている。なお、抵抗値はより低い方が望ましいことはいうまでもなく、0.5Ω以下であることが好ましい。
【0057】
図2を参照して、本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板の抵抗値を測定する方法を説明する。本測定方法は、特許文献4や、特開2005−297290号公報、特開2002−206178号公報等で開示されている方法と同一の方式、条件である。
すなわち本発明における抵抗値の測定方法は、テスター20の一方の端子21を、電子機器用プレコートアルミニウム板のアルミニウム素板に直接に接触させ、テスター20の他方の端子22を、先端部が半径10mmの略球形状に形成された真鍮製の球状端子23を介して、電子機器用プレコートアルミニウム板の複合皮膜の上から0.4Nの荷重で押し付けて接触させることにて行う、一点接触方式とする。なお、電子機器用プレコートアルミニウム板は、テスター20の端子21をアルミニウム素板に直接接触させるために、予めサンドペーパー等により複合皮膜を研磨除去してアルミニウム素板を露出させておく。また、端子21および球状端子23の表面の自然酸化膜が抵抗値の測定値をばらつかせる原因となるため、抵抗値の測定の前に端子21および球状端子23の表面をサンドペーパー等で研磨して自然酸化膜を十分に除去しておくことが望ましい。さらに、抵抗値の測定時におけるテスター20の内部抵抗の影響を排除すべく、端子21の先端部と球状端子23の先端部とを接触させた状態でゼロ点補正を行ってから電子機器用プレコートアルミニウム板の抵抗値を測定し、その測定値の領域においてテスター20の最も精度の高いレンジを選択し、テスター20に表示される測定値が安定したときの値を採用することが望ましい。そして、抵抗値の信頼性を十分に確保するために、この抵抗値の測定を、1枚の電子機器用プレコートアルミニウム板につき、ランダムな位置で少なくとも10ヶ所、可能であれば50ヶ所測定し、その平均値を本発明で規定する抵抗値として採用することが望ましい。
【0058】
以上に説明した本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10は、次のように理解することも可能である。
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10は、表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上0.5μm以下であるアルミニウム素板11の少なくとも片面に複合皮膜12が形成された電子機器用プレコートアルミニウム板であって、アルミニウム素板11と複合皮膜12の間には下地処理皮膜(図5における耐食性皮膜43が相当する)が形成されておらず、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも一種の有機樹脂成分、ジルコニウム成分、ケイ素成分を含有し、ジルコニウム成分の付着量はZrO2に換算して5〜500mg/m2、ケイ素成分の付着量はSiO2に換算して2〜600mg/m2、有機樹脂成分の付着量が5〜650mg/m2であり、複合皮膜12としての付着量が70〜700mg/m2であり、先端部が半径10mmの球状端子23(図2参照)を、複合皮膜12を形成した側の表面に対して0.4Nの荷重で押し付けたときにおける球状端子23とアルミニウム素板11との間の抵抗値が1Ω以下である(図1参照)。
なお、アルミニウム素板11と複合皮膜12の間に、下地処理皮膜13を設けることもできる(図3参照)。
【0059】
そして、本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10によれば、以下の効果を奏する。
(1)本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10によれば、アルミニウム素板11の表面の算術平均粗さRaおよび複合皮膜12の付着量を特定の範囲に規定し、さらに複合皮膜12に含有される有機樹脂成分の樹脂の種類および付着量、ならびにジルコニウム成分とケイ素成分の各付着量を規定した。これにより、微細な凹凸を有するアルミニウム素板11の凸部が複合皮膜12の平均的な高さよりも高く飛び出した形態となり、この凸部を覆う複合皮膜12の膜厚は従来技術の塗装下地処理皮膜(耐食性皮膜43(図5参照))とほぼ同程度となり、導電性、耐食性および耐疵付き性を従来技術よりもいっそう優れた性能を確保することができる。
【0060】
(2)本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10によれば、複合皮膜12に含有される無機成分におけるジルコニウム成分とケイ素成分との比を規定の範囲となるように構成したため、耐疵付き性と耐食性のバランスが優れたものになる。
【0061】
(3)本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10によれば、複合皮膜12に含有される無機成分と有機樹脂成分との比を規定の範囲となるように構成したため、耐疵付き性、耐食性に加え加工密着性のバランスにも優れたものになる。
【0062】
(4)本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10によれば、複合皮膜12に潤滑成分を含有する構成とし、潤滑成分の質量比を規定の範囲となるように構成したため、成形性を向上させることができる。
【0063】
(5)本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10Aによれば、アルミニウム素板11に予め化成処理を施して、アルミニウム素板11と複合皮膜12の間に下地処理皮膜13を形成し、その下地処理皮膜13の付着量を規定の範囲となるように構成したため、耐食性と加工密着性にいっそう優れたものになる。
【0064】
(6)本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10によれば複合皮膜12の付着量をさらに限定した特定の範囲に規定し、有機樹脂成分、ジルコニウム成分、ケイ素成分の各付着量をもさらに限定した範囲で規定した。これにより、耐疵付き性、耐食性、加工密着性に加え、導電性にいっそう優れた性能を確保することができる。
【0065】
本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10は、光ディスクドライブ装置のケースおよびシャーシ、液晶パネルの固定用フレームおよび背面カバーといった各種の電子機器のケースや構造部材に好適に使用することができる。
さらに、本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板10は、優れた潤滑性を有しているため、成形性に優れており、電子機器用成形品を製造する工程でプレス成形における品質不良の発生率を低減化し、製品の歩留りを向上させることができる。これにより、本発明は、電子機器用成形品の全体的なコストを低減することができ、その結果、電子機器製品のコストダウンに大きく寄与するものである。
【実施例】
【0066】
次に、本発明で規定する要件を満たす実施例と要件を満たさない比較例とを対比して、本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板についてより具体的に説明する。
【0067】
〔電子機器用プレコートアルミニウム板の作製〕
実施例1〜26および比較例1〜13の電子機器用プレコートアルミニウム板を次のようにして作製した。
まず、JISH4000に規定されているA5182の組成を有するアルミニウム地金を溶解し、合金成分を調整した後、鋳造により圧延用のスラブを製作した。スラブ表面の偏析層を面削し、均質化処理の工程を経た後、熱間圧延、冷間圧延および熱処理の各工程を経て、アルミニウム素板(板厚:0.5mm、合金種:A5182−H34)を作製した。なお、前記冷間圧延の最終(仕上げ)工程では、圧延ロールの表面粗さを適宜に変更することにより、表1および表2に示す各種の表面粗さ(算術平均粗さRa)を有するアルミニウム素板を製造した。
【0068】
その後、製造したアルミニウム素板を市販のアルミニウム用弱アルカリ性脱脂液を使用して脱脂し、塗装前処理とした。次に、表1および表2に示すように、塗装下地として実施例1〜16,18,21〜26、比較例1〜13にはリン酸クロメート処理を行い、実施例19にはリン酸ジルコニウム(PZr)を用いた下地処理を行い、実施例20にはリン酸チタン(PTi)を用いた下地処理を行った。一方、実施例17については、通常、プレコートアルミニウム板の塗装下地として使用されるリン酸クロメート処理等の下地処理は行わなかった。なお、表1および表2に示す下地処理皮膜の金属付着量は、リン酸クロメートの場合は金属クロムに、リン酸ジルコニウムの場合は金属ジルコニウムに、リン酸チタンの場合は金属チタンに、それぞれ換算した付着量である。
【0069】
次に、これらのアルミニウム素板の表面に、有機樹脂成分における樹脂の種類および無機成分(ジルコニウム成分、ケイ素成分)との配合ならびに潤滑成分の添加量を変化させて調整した複合皮膜形成用薬剤を、塗布量を変化させてロールコート法により塗布した。そして、加熱温度230℃で30秒間焼付けすることで複合皮膜を形成し、実施例1〜26および比較例1〜13の電子機器用プレコートアルミニウム板とした(以下、適宜「実施例1」、「比較例1」等と記載する。)。
【0070】
複合皮膜形成用薬剤は、有機溶媒や水に溶解、分散させた、表1および表2に示す樹脂の種類の有機樹脂成分、ジルコニウム成分、ケイ素成分を、表1および表2に示す複合皮膜における有機樹脂成分の付着量、ジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量、ケイ素成分のSiO2に換算した付着量の比に、それぞれの固形分で合わせて混合し、さらにこれらの成分の合計(固形分)に対して表1および表2に示す質量比を有するように、潤滑成分として粒径0.3μmのポリエチレンワックスを添加して調整した。調整した複合皮膜形成用薬剤は、その固形分が表1および表2に示す複合皮膜の付着量となるように、塗布量を制御してアルミニウム素板に塗布した。また、作製した電子機器用プレコートアルミニウム板について、蛍光X線分析にて、複合皮膜に含有されるジルコニウム元素(Zr)の面積あたりの絶対量を測定して、ZrO2に換算し、表1および表2に示すジルコニウム成分の付着量と略一致することを確認した。また、無機成分におけるケイ素成分の比率([SiO2]/[ZrO2+SiO2])、無機成分([ZrO2+SiO2])の有機樹脂成分に対する比を表1および表2に記載する。
【0071】
なお、アルミニウム素板の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、表面粗さ測定機(小坂研究所社製、サーフコーダSE−30D)を用いてアルミニウム素板の圧延方向に直角な方向に走査し、算術平均粗さRa(JIS B0601)を求めることにより測定した。
【0072】
抵抗値は、テスター20としてLCRメーター(HEWLETT PACKARD社製4263B)を用いて測定した。さらに、測定に用いる球状端子23として、先端部の半径が10mmである略球形状に形成された真鍮製の測定棒を使用した。まず、電子機器用プレコートアルミニウム板の一部の複合皮膜をサンドペーパーで研磨して、アルミニウム素板を露出させた。このアルミニウム素板に、図2に示すように、テスター20の一方の端子21を直接導通接触させ、テスター20の他方の端子22を、球状端子23を介して電子機器用プレコートアルミニウム板の複合皮膜の上から測定箇所に0.4N(≒40gf)の荷重にて接触させ、端子21,22間に通電させることで抵抗値を測定した。なお、測定の際には、端子21および球状端子23の表面を予めサンドペーパーで研磨し、端子21の先端部と球状端子23の先端部とを接触させた状態でゼロ点補正を行った。かかる測定を、球状端子23の位置をランダムに50ヶ所変えながら測定して平均値を算出した。
【0073】
〔評価方法〕
作製した実施例1〜26および比較例1〜13について、潤滑性(摩擦係数)、耐指紋性(色差(ΔE))、曲げ加工時の耐疵付き性(加工疵)、梱包材で摺動させた場合の耐疵付き性(梱包材疵)、耐食性(レイティングナンバ(RT No.))を評価した。これらは以下のように測定して評価した。
【0074】
(潤滑性)
潤滑性は、バウデンレーベン法(鋼球φ16分の3インチ(4.7625mm)、荷重2N(200gf)、すべり速度200mm/min)により、各電子機器用プレコートアルミニウム板の表面でランダムに選んだ3ヶ所の摩擦係数を測定し、その平均値を算出した。
摩擦係数の平均値が0.2以下であれば、各種の電子機器で通常行われる成形加工では特に問題がなく、0.1以下であれば特に良好であると評価することができるので、これらを合格とし、0.2を超える場合を不合格とした。摩擦係数の平均値を表1および表2に示す。
【0075】
(耐指紋性)
耐指紋性は、実施例1〜26および比較例1〜13の表面を素手で触ることにより指紋が付着する前後の色差(ΔE)を、コニカミノルタ社製分光測色計(CM−600d)を使用して測定した。
色差△E値が0.5以下であれば、表面に付着した指紋を肉眼で殆ど確認することができなかったので合格とし、0.5を超えると表面に付着した指紋を肉眼で確認することができたので不合格とした。色差△E値を表1および表2に示す。
【0076】
(耐疵付き性(加工疵))
耐疵付き性(加工疵)は、剪断曲げ試験法により評価した。すなわち、図4(a)、(b)に示すように、上金型31と下金型32により実施例1〜26および比較例1〜13の試験片を挟持し、試験片の複合皮膜を形成した面をポンチ33が摺動するようにして曲げ加工を行うことで、プレスによる成形加工時に発生する加工疵の再現を試みた。下金型32とポンチ33との間に生じる間隔(金型間隔)dは、用いた試験片の板厚に10%のクリアランスを加算した間隔とした。
曲げ加工を行った試験片(図4(c)参照)の摺動面を目視観察し、状態に応じて、5点:異常が全く見られない、4点:複合皮膜に辛うじて視認される軽度な削れが見られる、3点:複合皮膜に明らかな削れが見られる、2点:複合皮膜の削れが著しい、1点:異物によるアルミニウム素板表面のかじりが見られる、0点:異物によるアルミニウム素板表面のかじりが著しい、の点数を付けて数値化し、耐疵付き性の評価を行った。電子機器用プレコートアルミニウム板の各仕様について5枚の試験片で評価し、平均値が2点以上のものを合格とし、平均値が2点未満のものを不合格とした。点数の平均値を表1および表2に示す。
【0077】
(耐疵付き性(梱包材疵))
耐疵付き性(梱包材疵)は、小型電子機器の梱包資材として実際に使用される気泡緩衝材(気泡径10mm、気泡高さ4mm、電子部品用非耐電グレード)を試験片の複合皮膜を形成した面に当てて、気泡がつぶれない程度の強さで圧力を加えながら、50往復摺動させた。
気泡緩衝材を摺動させた試験片の摺動面を目視観察し、試験片の複合皮膜に対する疵の付き具合に応じて、3点:疵が見られない、2点:軽微な疵が見られる、1点:顕著な疵が見られる、の点数を付けて数値化し、耐疵付き性の評価を行った。点数が2点以上のものを合格とし、点数が2点未満のものを不合格とした。点数を表1および表2に示す。
【0078】
(耐食性)
耐食性は、JIS Z2371に規定された中性塩水噴霧試験に準じて試験を行い、評価した。すなわち、ストレッチ試験サンプルに噴霧する噴霧液として5質量%の塩化ナトリウム水溶液を用い、噴霧環境温度は35℃、噴霧量は面積80cm2で1時間毎に1.5ミリリットルとした。また試験時間は最大100時間とした。
腐食面積率によって腐食の程度を定量化するレイティングナンバ法に準拠して、試験を行ったストレッチ試験サンプルに生じた腐食の数値化を行い、レイティングナンバ(RT No.)が9.0以上のものを合格とし、レイティングナンバが9.0未満のものは不合格とした。レイティングナンバを表1および表2に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
〔結果〕
表1および表2に示される内容から、以下のことが明らかになった。
(アルミニウム素板の表面粗さ(算術平均粗さRa)の影響)
比較例1は、算術平均粗さRaが本発明で規定する範囲の下限値未満であり、さらに複合皮膜の付着量が本発明で規定する範囲の上限値であるため、抵抗値について本発明で規定する要件を満たすことができなかった。また、比較例2は、算術平均粗さRaが本発明で規制する上限値を超えていて、さらに複合皮膜の付着量が本発明で規定する範囲の下限値であるため、潤滑性、耐指紋性、耐疵付き性(加工疵)、および耐食性が合格基準を満たさない結果となった。
【0082】
(複合皮膜の付着量の影響)
比較例3は、複合皮膜の付着量が本発明で規定する範囲の上限値を超えるため、抵抗値について本発明で規定する要件を満たすことができなかった。また、比較例4は、複合皮膜の付着量が本発明で規定する範囲の下限値未満であるため、耐指紋性、耐疵付き性(梱包材疵)、および耐食性が合格基準を満たさない結果となった。
【0083】
(有機樹脂成分の付着量の影響)
比較例5は、複合皮膜に含まれる有機樹脂成分の付着量が本発明で規定する範囲の下限値未満(なし)であるため、加工密着性が低下して潤滑性が合格基準を満たさない結果となった。また、比較例8は、複合皮膜に含まれる有機樹脂成分の付着量が本発明で規定する範囲の上限値を超えるため、抵抗値について本発明で規定する要件を満たすことができなかった。
【0084】
(ジルコニウム成分の付着量の影響)
比較例6は、複合皮膜に含まれるジルコニウム成分の付着量が本発明で規定する範囲の下限値未満(なし)であるため、耐食性が合格基準を満たさない結果となった。また、比較例9は、複合皮膜に含まれるジルコニウム成分の付着量が本発明で規定する範囲の上限値を超えるため、加工密着性が低下して潤滑性が合格基準を満たさない結果となった。
【0085】
(ケイ素成分の付着量の影響)
比較例7は、複合皮膜に含まれるケイ素成分の付着量が本発明で規定する範囲の下限値未満(なし)であるため、耐疵付き性(梱包材疵)が合格基準を満たさない結果となった。また、比較例10は、複合皮膜に含まれるケイ素成分の付着量が本発明で規定する範囲の上限値を超えるため、加工密着性が低下して潤滑性が合格基準を満たさない結果となった。
【0086】
(複合皮膜の有機樹脂成分の影響)
有機樹脂成分として、比較例12はポリエステル樹脂のみを使用しているため、比較例13はエポキシ樹脂のみを使用しているため、いずれも耐疵付き性(梱包材疵)が合格基準を満たさない結果となった。
【0087】
一方、アルミニウム素板の表面粗さ(算術平均粗さRa)、複合皮膜の付着量および成分(有機樹脂成分の樹脂の種類および付着量、ジルコニウム成分とケイ素成分の各付着量)がいずれも本発明で規定する範囲を満たしている実施例1〜26では、さらに抵抗値も本発明で規定する範囲を満たし、導電性、潤滑性、耐指紋性、耐疵付き性(加工疵、梱包材疵)および耐食性の全てにおいて全く問題がない結果となった。
【0088】
さらに複合皮膜の成分比率について、複合皮膜の無機成分の付着量以外が同じ仕様である本発明の請求項2を満足する実施例1と、請求項2を満足しない実施例21,22とを比較した。その結果、実施例1の方が、ジルコニウム成分比率の少ない実施例21よりも耐疵付き性(梱包材疵)および耐食性に優れ、ケイ素成分比率の少ない実施例22よりも耐疵付き性(加工疵、梱包材疵)に優れ、全ての特性バランスに優れることがわかった。同様に、本発明の請求項2を満足する実施例4と、請求項2を満足しない実施例8とを比較すると、実施例4の方が、ケイ素成分比率の少ない実施例8よりも耐疵付き性(加工疵)に優れ、全ての特性バランスに優れることがわかった。
【0089】
また、複合皮膜の成分比率について、複合皮膜の有機樹脂成分の付着量以外がほぼ同じ仕様である本発明の請求項3を満足する実施例1と、請求項3を満足しない実施例23,24とを比較した。その結果、実施例1の方が、無機成分比率の少ない実施例23よりも耐疵付き性(梱包材疵)に優れ、有機樹脂成分比率の少ない実施例24よりも潤滑性および耐疵付き性(加工疵)に優れ、全ての特性バランスに優れることがわかった。同様に、本発明の請求項3を満足する実施例5と、請求項3を満足しない実施例9,11とを比較すると、実施例5の方が、無機成分比率の少ない実施例9よりも導電性(抵抗値)に優れ、有機樹脂成分比率の少ない実施例11よりも潤滑性に優れ、全ての特性バランスに優れることがわかった。
【0090】
さらに、複合皮膜に含有される潤滑成分について、複合皮膜の潤滑成分の質量比以外が同じ仕様である本発明の請求項4を満足する実施例1,3と請求項4を満足しない実施例25,26とをそれぞれ比較した。その結果、実施例1の方が、潤滑成分を含有しない実施例25よりも潤滑性および耐疵付き性(加工疵)に優れ、実施例3の方が、潤滑成分を過剰に含有して複合皮膜が厚膜化、軟化した実施例26よりも導電性(抵抗値)および耐食性に優れ、全ての特性バランスに優れることがわかった。
【0091】
また、下地処理皮膜について、本発明の請求項5を満足する実施例1,19,20と、請求項5を満足しない実施例17,18とを比較した。その結果、実施例1,19,20の方が、下地処理皮膜を形成しない実施例17よりも耐食性に優れ、リン酸クロメート皮膜を過剰に形成した実施例18よりも潤滑性、耐指紋性、耐疵付き性(加工疵)に優れ、全ての特性バランスに優れることがわかった。さらに下地処理皮膜としてリン酸クロメート皮膜を形成した実施例1は、リン酸クロメート皮膜以外の化成処理皮膜を形成した実施例19,20と比較して、耐食性に最も優れることがわかった。なお、実施例17のように、下地処理皮膜を設けなくても、アルミニウム素板の表面粗さや複合皮膜の付着量および成分が本発明で規定する範囲を満たすことで、耐食性等の特性の良好な電子機器用プレコートアルミニウム板となり、要求される特性の程度によっては、低コスト化と生産性向上の点で、実施例1等よりも優れた構成であるといえる。
【0092】
さらに、本発明の請求項6を満足する実施例1,15,13と、本発明の請求項6を満足しない実施例5,16および比較例11とをそれぞれ比較した結果、実施例1,15,13の方が抵抗値が低く、導電性に優れることがわかった。
【0093】
なお、比較例11については、アルミニウム素板の表面粗さ(算術平均粗さRa)、複合皮膜の付着量および成分(有機樹脂成分の種類および付着量、ジルコニウム成分とケイ素成分の各付着量)がいずれも本発明で規定する範囲を満たしているにもかかわらず、抵抗値だけは本発明の要件を満たしていなかった。これは、複合皮膜の付着量が上限値であるためにこのような結果になったと考えられる。したがって、本発明で規定するアルミニウム素板、複合皮膜それぞれについての各種パラメータは導電性を確保する上で必要条件ではあっても、十分条件ではないということがいえる。そのため、本発明の電子機器用プレコートアルミニウム板について所望する効果、すなわち、導電性、潤滑性、耐指紋性、耐疵付き性(加工疵、梱包材疵)、および耐食性に優れるという効果を確実に奏するため、特定の方法で測定した抵抗値が1Ω以下となることを規定する必要がある。
【0094】
以上、発明の詳細な説明により本発明に係る電子機器用プレコートアルミニウム板について説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく範囲において適宜変更することが可能であり、当然にそのような範囲も本発明の技術的思想に含まれると解釈すべきである。
【符号の説明】
【0095】
10,10A 電子機器用プレコートアルミニウム板
11 アルミニウム素板
12 複合皮膜
13 下地処理皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム素板と、前記アルミニウム素板の少なくとも片面に形成された無機成分および有機樹脂成分を含有する複合皮膜と、を備え、前記複合皮膜を形成した側の表面に対して先端部が半径10mmの球状端子を0.4Nの荷重で押し付けたときにおける、前記球状端子と前記アルミニウム素板との間の抵抗値が1Ω以下である電子機器用プレコートアルミニウム板であって、
前記アルミニウム素板は、前記複合皮膜が形成される側の表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上0.5μm以下であり、
前記複合皮膜は、前記無機成分としてジルコニウム成分およびケイ素成分を含有し、前記有機樹脂成分としてウレタン樹脂、アクリル樹脂の少なくとも一種を含有し、前記ジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量が5〜500mg/m2、前記ケイ素成分のSiO2に換算した付着量が2〜600mg/m2、前記有機樹脂成分の付着量が5〜650mg/m2であって、前記ジルコニウム成分の付着量、前記ケイ素成分の付着量、前記有機樹脂成分の付着量の合計が70〜700mg/m2であることを特徴とする電子機器用プレコートアルミニウム板。
【請求項2】
前記複合皮膜は、ZrO2に換算した前記ジルコニウム成分とSiO2に換算した前記ケイ素成分との合計に対する前記ケイ素成分の質量比([SiO2]/[ZrO2+SiO2])が、0.2以上0.95以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板。
【請求項3】
前記複合皮膜は、ZrO2に換算した前記ジルコニウム成分とSiO2に換算した前記ケイ素成分との質量の合計が、前記有機樹脂成分の質量の0.2倍以上10倍以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板。
【請求項4】
前記複合皮膜は、当該複合皮膜に対して質量比5%以上50%未満の潤滑成分をさらに含有することを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板。
【請求項5】
前記アルミニウム素板と前記複合皮膜との間に、クロム、ジルコニウム、チタンから選択される金属を含有する無機単独皮膜または無機有機複合皮膜からなる下地処理皮膜がさらに形成され、前記下地処理皮膜の付着量が前記金属換算で5mg/m2以上50mg/m2以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板。
【請求項6】
前記複合皮膜は、前記ジルコニウム成分のZrO2に換算した付着量が5〜250mg/m2、前記ケイ素成分のSiO2に換算した付着量が2〜300mg/m2、前記有機樹脂成分の付着量が5〜325mg/m2であって、前記ジルコニウム成分の付着量、前記ケイ素成分の付着量、前記有機樹脂成分の付着量の合計が70〜350mg/m2であり、
先端部が半径10mmの球状端子を、前記複合皮膜を形成した側の表面に対して0.4Nの荷重で押し付けたときにおける、前記球状端子と前記アルミニウム素板との間の抵抗値が0.5Ω以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の電子機器用プレコートアルミニウム板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−224899(P2012−224899A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92372(P2011−92372)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】