説明

電子機器用筐体およびその製造方法

【課題】 金属板材の平面部にボスを備える電子機器用筐体であって、ボスにねじりや曲げ応力が集中し、しかも繰り返しかかっても、疲労によってボスが変形したり、変形が進んでボスの根元などへの亀裂の発生を防止することで、ノートパソコンなどの筐体としての意匠性を確保し、また表示部開閉のためのヒンジ機能が損なわれない筐体とその製造方法を得る。
【解決手段】 金属板材にボスの素材を仮接合した後、この金属板材とボスの素材とを仮接合部を含めて鍛造加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用筐体およびその製造方法に関し、例えばノートブック型パーソナルコンピュータ(以下、「ノートパソコン」と言う)に代表される電子機器用筐体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、ノートパソコンの一例の側面図である。図7に示すノートパソコン70は、主基板やキーボードなどが搭載される本体77と、表示部72からなっている。表示部72は、主に、液晶表示装置73(表示面73a)と、この液晶表示装置73を収納する筐体74からなっている。筐体74は、液晶表示装置73の表示面73a以外の面を保護する背面筐体(以下、「背面筐体」および「電子機器用筐体」を略して単に「筐体」という)71と、表示面73aの周囲を保護する枠筐体76により構成されている。表示部72は、本体77と適度な摩擦を持たせたヒンジ78を介して開閉自在に取付けられ、液晶表示装置73が見やすいように適宜な開き角度Θ1が保持されるようになっている。ヒンジ78は、表示部72側では、ヒンジ78の取付部78aが、背面筐体71のボス75に小ネジなどで取り付けられている。
【0003】
図7に示すようなボス75に関連して、特許文献1(特開2000−218369号公報)には、金属板にスタッド溶接して筐体とする提案がされている。図8は、特許文献1に提案される、(a)はスタッド溶接を説明するための概略図、(b)はスタッド溶接後の溶接部の断面図である。図8(a)で、81はアルミニウム板、83は、絶縁物からなり、アルミニウム板81を載置する保持台、83pは保持台83に設けた窪み、85はボスの素材、85pはボス85先端のチップ、86はボスの素材85を押圧するばね、87はコンデンサ、87aはアルミニウム板81とボスの素材85との間に電流を流すための結線、87bはスイッチとしている。コンデンサ87は、陽極(+)を結線87aでアルミニウム板81に接続し、陰極(−)をスイッチ87bを介してボスの素材85と接続している。そして、スイッチ87bを接続すると共にの素材85を押し下げて、アルミニウム板81との素材85とをスタッド溶接し、またスタッドアルミニウム板81の一部を窪み83cの中に突出させ、図5(b)に示す溶接跡81pを形成している。なお、84はスタッド溶接時に発生する飛散物(スパッタ)である。スタッド溶接後、溶接跡81pを切削除去している。特許文献1によれば、切削除去した後にブローホールを含む溶融部が表面81fに現れないので、アルミニウム板81への溶接跡81pをなくして、ボス85が形成できるとしている。
【0004】
一方、特許文献2(特開2002−290068号公報)には、アルミニウム板とボスの素材との双方に低融点金属層を設けて摩擦接合する、アルミニウム筐体の製造方法が提案されている。図9(a)〜(d)は、特許文献2に提案される製造工程を示す図である。詳細は省略するが、先ず、図9(a)に示すように、アルミニウム板91上には、Zn系などの350℃以下で溶融する低融点金属層91aを設け、図9(b)に示すように、ボスの素材95にも、低融点金属層95aを設けている。次に、図9(c)に示すように、ボスの素材95をアルミニウム板91に押圧(矢印P1)し、またアルミニウム板91を揺動(両矢印B)させ、低融点金属層91a、95a同士を相互に擦り合わせている。これにより、図9(d)に示すように、低融点金属層91a、95aによるフィレット93を形成している。特許文献2によれば、低融点金属層91a、95aを重ね合わせて摩擦接合することにより、所要の接合強度として、ボス95が形成できるとしている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−218369号公報
【特許文献2】特開2002−290068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図7に戻り、ノートパソコン70の表示部72は、使用されるその都度、ヒンジ78を介して開閉されるが、この開閉は通常、表示部72の上端72aを持って行われる。その際、ヒンジ78の取付部78aが取り付けられるボス75には、ねじりや曲げ応力が集中し、しかも繰り返しかかることになる。本発明者ら試験によれば、特許文献1や特許文献2の提案によって筐体とした場合、アルミニウム板(図8の81、図9の91)とボス(図8の85、図9の95)との接合部に、ブローホールや溶け込み不足が発生することがあった。このような、接合部にブローホールや溶け込み不足が発生したボスに、ねじりや曲げ応力が集中し、しかも繰り返しかかると、ボス(図9の85、図9の95)が疲労によって変形し、これがボス裏側の筐体表面に僅かな段差となって現れ、さらに変形が進んでボス(図9の85、図9の95)の根元などに亀裂などが入ることもあった。ノートパソコンなどの筐体においては、筐体表面に僅かな段差でもあると、塗装や陽極酸化被膜処理などの表面処理を行っても、意匠性が損われことがあり、また、ボスの変形が進んでボスの根元などに亀裂などが入ると、表示部72を開閉するためのヒンジ機能が損なわれるおそれもある。
【0007】
したがって、本発明の課題は、金属板材の平面部にボスを備える電子機器用筐体であって、ボスにねじりや曲げ応力が集中し、しかも繰り返しかかっても、疲労によってボスが変形したり、変形が進んでボスの根元などへの亀裂の発生を防止することで、ノートパソコンなどの筐体としての意匠性を確保し、また表示部開閉のためのヒンジ機能が損なわれない筐体とその製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、金属板材にボスの素材を仮接合した後、この金属板材とボスの素材とを仮接合部を含めて鍛造加工を施すことで、上記課題が解決できるとの知見を得、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明は、金属板材の平面部にボスを備える筐体であって、前記金属板材とボスの素材とが仮接合された後、鍛造加工が施されていることを特徴とする。ここで筐体とは、通常は箱状で部品を内蔵するもであるが、これに限らず、平板状、L字板状、曲板状などを含み、また部品の内蔵の有無は関係ないものとする。この構成とすることで、ボスにかかるねじりや曲げ応力に耐え得る筐体となる。
【0010】
本発明において、前記筐体は、略矩形状の平面部と該矩形状の平面部の両側に立設する側壁とを備えていることを特徴とする。この構成とすることで、筐体とは別の部品を筐体内面に収納できるようになる。
【0011】
本発明において、前記平面部は、前記側壁側に傾斜する接続面を有し、該接続面の一部にボスが形成されていても良い。ここで、側壁側に傾斜とは、断面で見て、平面部から側壁側に直線状に傾斜、または平面部と側壁とをRなど曲線で結んだ形状を言う。この構成とすることで、ボスを含めた筐体全体の強度と曲げ剛性がさらに向上され、また筐体も部分的に縮小されるのでさらに軽量化することできる。
【0012】
本発明において、前記筐体は、その内面に液晶表示装置を収納する、ノートパソコン用の筐体であり、前記ボスが、ヒンジを取り付けるためのヒンジ取付ボスであることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記筐体は、軽合金からなり、前記平面部の主要部肉厚が0.5〜0.8mm、前記ボスは、先端部の外径が4〜10mm、高さが2〜10mmに形成されていることが好ましい。
軽合金としては、アルミニウム合金、マグネシウム合金などがある。このうち、マグネシウム合金は、密度が1.8であり、軽量化材料として多用されているアルミニウムの密度2.7と比較しても、非常に小さいので、マグネシウム合金を用いて携帯型情報機器とすることで、さらに軽量化することできる。また、平面部は主要部肉厚を0.5〜0.8mmで、ボスは、先端部の外径が4〜10mm、高さが2〜10mmに形成されていれば、ボスにかかるねじりや曲げ応力に耐え、表示部開閉のためのヒンジ機能が損なわれ難くなる。
【0014】
次に、別発明の筐体の製造方法は、金属板材の平面部にボスを備える電子機器用筐体の製造方法であって、前記金属板材とボスの素材とが仮接合された後、鍛造加工が施されていることを特徴とする。この構成とすることで、ボスにかかるねじりや曲げ応力に耐え得る筐体を製造することができる。得られた筐体は、意匠性が確保され、また表示部開閉のためのヒンジ機能が損なわれ難くなる。
【0015】
別発明の筐体の製造方法において、前記金属板材とボスの素材との仮接合は、前記金属板材が保持台上に配置され、該金属板材にボスの素材を押圧しつつスタッド溶接して行われることが好ましい。この構成とすることで、平面部にボスの素材が正確に位置決めして仮接合され、鍛造加工後、ボスの位置精度の良い筐体にすることができる。
【0016】
別発明の筐体の製造方法において、前記保持台上の前記仮接合する部位に、窪みを設けてスタッド溶接されることが好ましい。この構成とすることで、ボスを仮接合する際に金属板材の裏面に接合跡を突出して形成させ、この突出部を後の鍛造加工により平坦にするで、筐体の意匠性を確保することができる。
【0017】
別発明の筐体の製造方法において、前記鍛造加工の前、前記ボスの素材はその外周に勾配が形成されていることが好ましい。この構成とすることで、鍛造荷重を少なくして鍛造設備を小型化、また省エネを図ることができる。
【0018】
別発明の筐体の製造方法において、前記筐体は、軽合金からなり、前記ボスは、先端部の外径が4〜10mm、高さが2〜10mmで、前記ボスの素材の体積が、鍛造加工後のボスの体積に対して1.05〜1.5とされていることが好ましい。この構成とするのは、ボスの素材の体積が、鍛造加工後のボスの体積に対して1.05未満であると、鍛造加工後のボスが欠肉となることがあるからであり、一方、鍛造加工後のボスの体積に対して1.5を超えると、ボスの付根部が平面部まで広がった、いわゆる「かぶりさり」が発生し、これが、筐体表面の品質にも影響を与えるからである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の筐体およびその製造方法によれば、ボスにねじりや曲げ応力が集中してしかも繰り返しかかっても、疲労によってボスが変形したり、変形が進んでボスの根元などへの亀裂の発生が防止される。そして、ノートパソコンなどの筐体として、その意匠性が確保され、また表示部開閉のためのヒンジ機能が損なわれなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態の数例を、図面に基づき詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る筐体の製造方法を示し、(A)は、素材となるボス15と金属板材11A、(B)は、金属板材11Aの所定部位に、素材となるボス15を仮接合している状態、(C)は、仮接合したボス15を金属板材11Aと共に鍛造を施している状態の、左側は各工程の断面図、右側は成形体の断面図である。なお、各工程(A)〜(C)ごとに、別体から一体に、また要部肉厚は変化するのであるが、説明の簡略化のため、各工程(A)〜(C)を通じ、同符号で示している。
【0021】
(A)素材
図1(A)で、ボスの素材15は、(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金からなり、外径dがφ5mm、高さhが、鍛造加工後のボス15の体積(V2)に対してその体積V1を1.1倍とした7.7mmとされ、その下端に微小突起のチップ15pが形成されている。金属板材11Aは、(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金展伸材からなり、平面部の厚さt12が0.7mm、鍛造後の筐体形状を見込んだ形状とされている。
【0022】
(B)ボス仮接合
図1(B)で、金属板材11Aが、X−Yステージ付き自動スタッド溶接装置(図示せず)の保持台23a上に配置された後、把持具23bで把持されたボスの素材15が、正確に位置決めされ、金属板材11Aに押圧(P1)しつつ、スタッド溶接されている。これにより、金属板材11Aとボス15とが仮接合され、ボス仮接合材11Bとされている。
【0023】
(C)鍛造
図1(C)で、24aは下型、24bは上型、24cは金型キャビティである。下型24a、上型24bともに加熱保持され、鍛造前のボス仮接合材11Bも加熱保持されている。ボス仮接合材11Bは、下型24a上に載置された後、上型24bが下降され、適切な鍛造速度、荷重(P2)で鍛造されている。そして、鍛造加工が施された後、ボス15の体積がV2で、根元になだらかな半径Rが付与された鍛造材11Cとされている。鍛造材11Cには、周辺にバリが発生するので、このバリを除去するトリミング処理が行われ、次いで、ボス15へのネジ孔ほかの機械加工(図示せず)が施され、さらに表面処理が施され、筐体とされている。そして、実施の形態1に係る筐体の製造方法により得られた筐体は、ボス15にかかるねじりや曲げ応力に耐え得るようになる。
【0024】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2に係る筐体の製造方法を示し、(A)は、素材となるボス15と金属板材11A、(B)は、金属板材11Aの所定部位に素材となるボス15を仮接合している状態、(C)は、仮接合したボス15を金属板材11と共に鍛造を施している状態の、左側は各工程の断面図、右側は成形体の断面図である。なお、各工程(A)〜(C)ごとに、別体から一体に、また要部肉厚は変化するのであるが、説明の簡略化のため、各工程(A)〜(C)を通じ、同符号で示している。
【0025】
(A)素材
図2(A)で、素材となるスタッド15は、アルミニウム合金からなり、外径dがφ6mm、高さhが、鍛造加工後のボス15の体積(V2)に対してその体積V1を1.2倍とした7.9mmとされ、その下端に微小突起のチップ15pが形成されている。金属板材11Aは、アルミニウム合金展伸材からなり、平面部の厚さt12が0.7mm、鍛造後の筐体形状を見込んだ形状とされている。
【0026】
(B)ボス仮接合
図2(B)で、X−Yステージ付き自動スタッド溶接装置(図示せず)の保持台23aには、後述の仮接合する部位に窪み23pを設けている。そして、金属板材11Aが、この保持台23a上に配置された後、把持具23bで把持されたボスの素材15が、正確に位置決めされ、金属板材11Aに押圧(P1)しつつ、スタッド溶接されている。これにより、金属板材11Aとボス15とが仮接合され、突起部11pが僅かに形成されたボス仮接合材11Bとされている。
【0027】
(C)鍛造
図2(C)で、24aは下型、24bは上型、24cは金型キャビティである。下型24a、上型24bともに加熱保持され、突起部11pが僅かに形成されたボス仮接合材11Bも加熱保持されている。突起部11pが僅かに形成されたボス仮接合材11Bは、下型24a上に載置された後、上型24bが下降され、適切な鍛造速度、荷重(P2)で鍛造されている。そして、鍛造加工が施された後、ボス15の体積がV2で、根元になだらかな半径Rが付与され、しかも、突起部(11p)が無くなり平坦となった鍛造材11Cとされている。鍛造材11Cには、前述した実施の形態1と同様に、トリミング処理、機械加工、表面処理などが施され、筐体とされている。そして、実施の形態2に係る筐体の製造方法により得られた筐体は、ボス15にかかるねじりや曲げ応力に耐え得るようになる。
【0028】
(実施の形態3)
図3は、実施の形態3に係る筐体の製造方法を示し、(A)は、素材となるボス15と金属板材11A、(B)は、金属板材11Aの所定部位に素材となるボス15を仮接合している状態、(C)は、仮接合したボス15を金属板材11と共に鍛造を施している状態の、左側は各工程の断面図、右側は成形体の断面図である。
【0029】
(A)素材
図3(A)で、素材となるスタッド15は、(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金からなり、外径dは先端φ6mmで根元φ7mmと勾配(テーパ)15tを形成し、高さhが、鍛造加工後のボス15の体積(V2)に対してその体積V1を1.2倍とした8.0mmとされ、その下端に微小突起のチップ15pが形成されている。金属板材11Aは、(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金展伸材からなり、平面部の厚さt12が0.8mm、鍛造後の筐体形状を見込んだ形状とされている。
【0030】
(B)ボス仮接合
図3(B)で、金属板材11Aが、X−Yステージ付き自動スタッド溶接装置(図示せず)の保持台23a上に配置された後、把持具23bで把持されたボスの素材15が、正確に位置決めされ、金属板材11Aに押圧(P1)しつつ、スタッド溶接されている。スタッド溶接のとき、把持具23bは、吸引装置によりボスの素材15を吸引しつつ勾配(テーパ)15tを把持している。
【0031】
(C)鍛造
図3(C)で、24aは下型、24bは上型、24cは金型キャビティである。下型24a、上型24bともに加熱保持され、勾配(テーパ)15tが形成されたボス仮接合材11Bも加熱保持されている。勾配(テーパ)15tが形成されたボス仮接合材11Bは、下型24a上に載置された後、上型24bが下降され、適切な鍛造速度、荷重(P2)で鍛造されている。そして、鍛造加工が施された後、ボス15の体積がV2で、根元になだらかな半径Rが付与され、テーパ15tが形成された鍛造材11Cとされている。鍛造材11Cには、前述した実施の形態1と同様に、トリミング処理、機械加工、表面処理などが施され、筐体とされている。実施の形態3に係る筐体の製造方法は、勾配(テーパ)15tが形成されたボス仮接合材11Bに、鍛造加工を施すので、鍛造荷重を少なくして鍛造設備を小型化、また省エネを図ることができる。そして、実施の形態3に係る筐体の製造方法により得られた筐体は、ボス15にかかるねじりや曲げ応力に耐え得るようになる。
【0032】
(実施の形態4)
図4は、実施の形態4に係るノートパソコン用の筐体11を示し、(a)はヒンジの取付面13側から見た平面図、(b)は(a)でのX−X断面図、(c)は(a)でのY−Y断面図、(d)は(c)でのZ部拡大図である。図4で、筐体11は、マグネシウム合金からなり、略矩形状の平面部12と、この平面部12の一部の角隅に補強面13と、平面部12の両側に立設する側壁14とを備えている。補強面13には、ヒンジ(図示せず)が取り付られるボス15a〜15dが、スタッド溶接により接合されている。そして、補強面13の主要部肉厚t13が、平面部12の主要部肉厚t12より厚肉に形成され、かつ、側壁14の主要部肉厚t14が、補強面13の主要部肉厚t13と同じかまたは厚肉に形成されている。具体的には、筐体11は、(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金からなり、平面視で、幅Wが260mm、奥行きDが210mm、平面部12の主要部肉厚t12が0.7mm、補強面13の主要部肉厚t13が0.9mm、補強面13の寸法が(E)40mm×(F)25mm、側壁14の主要部肉厚t14が1.2mmで、側壁の高さHが10mmとされている。前後壁16の中央部の主要部肉厚t12は、平面部12の肉厚t12と同じにされている。また、補強面13に接合されるボス15a〜15dは、外径が6mmとしてスタッド溶接後、鍛造加工が施され、ヒンジ(図示せず)を固定するための雌ねじ15sが形成されている。このように、補強面13の主要部肉厚t13が0.9mmと、平面部12の主要部肉厚t12の0.7mmより厚肉に形成されているので、補強面13の強度と曲げ剛性が向上されている。さらに、側壁14の主要部肉厚t14が1.2mmと、補強面13の主要部肉厚t13の0.9mmより厚肉に形成されているので、筐体11全体の強度と曲げ剛性が向上されている。したがって、筐体11が、ヒンジ(図示せず)を介して開閉され、ボス15にねじりや曲げ応力が集中し、しかも繰り返しかかっても、疲労によってボス15が変形したり、変形が進んでボス15の根元などへの亀裂の発生が防止されている。これにより、ノートパソコンの筐体として意匠性が確保され、また表示部開閉のためのヒンジ機能が損なわれなくなっている。
【0033】
次に、図5に基づき、図4に示した筐体11の製造方法について説明する。図5で、(A)は、ボスの素材15a〜15dと展伸材11A、(B)は、所定部位にボスの素材15a〜15dをスタッド溶接している状態、(C)は、スタッド溶接後、鍛造加工を施している状態の、左側は各工程の断面図、右側は成形体の平面図である。なお、各工程(A)〜(C)ごとに、別体から一体に、また要部肉厚は変化するのであるが、説明の簡略化のため、各工程(A)〜(C)を通じ、同符号で示している。
【0034】
(A)素材
図5(A)で、スタッド15a〜15dは、(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金からなり、外径dがφ5mm、高さhが、鍛造加工後のボス15a〜15dに対して各々その体積を1.1倍とした7.7mmとされ、その先端に微小突起のチップ15pが形成されている。展伸材11Aは、押出加工後、切断された(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金からなり、中央部の厚さt12が0.7mm、中間部の厚さt13が0.9mm、外側の厚さt14が1.1mmで、3段に肉厚が増された不等肉厚材となっている。マグネシウム合金板11Aは、鍛造後の筐体形状を見込んだ形状とされ、幅Wbが300mm、奥行きDbが25Omm、隅角にRa加工が施されている。
【0035】
(B)ボス仮接合
図5(B)で、X−Yステージ付きの自動スタッド溶接装置(図示せず)の保持台22a上に載置された展伸材11Aに、把持具で把持されたスタッド15a〜15dが、各々、正確に位置決めされた後、スタッド溶接されている。これにより、展伸材11Aと4個のスタッド15a〜15dが仮接合されている。
【0036】
(C)鍛造
図5(C)で、24aは下型、24bは上型である。下型24a、上型24bともに380℃に加熱保持され、鍛造前の展伸材11Aとスタッド15a〜15は、430℃に加熱されている。ボス仮接合材11Bは、下型24a上に載置された後、上型24bが下降され、鍛造速度30spm、荷重9000kNで鍛造加工が施されている。鍛造加工後、鍛造材11Cは、側壁14が立ち上げられ、平面部12の主要部肉厚t12が0.7mm、ボス15が形成される面13の主要部肉厚t13が0.9mm、側壁14の主要部肉厚t14が1.1mm、図示しないが、ボス15a〜15dの根元にはなだらかなRが付与されている。鍛造材11Cには、周辺にバリが発生するので、このバリを除去するトリミング処理が行われ、次いで、ボス15への雌ねじ(15s)ほかの機械加工(図示せず)が施され、さらに、仮防食の後、塗装や陽極酸化皮膜処理などの表面処理が施され、図4に示す筐体11とされている。
【0037】
上記(A)〜(C)の製造工程によれば、平面部12とボス15とをスタッド溶接で仮接合し、次いで鍛造加工を施しているので、スタッド溶接のみ、または摩擦圧接のみでは発生しやすいブローホールがないので、機械的性質のバラツキがない筐体11とすることができる。また、不等肉厚とした展伸材11Aに鍛造加工を施すことで、部位ごとに所望の所定肉厚とした筐体11を容易に得ることができる。
【0038】
(実施の形態5)
図6は、実施の形態6に係る筐体を示し、(a)は平面部12を平坦とした筐体11、また(b)は平面部12を突出させた筐体11の一部断面図である。図6(a)(b)で、各筐体11は、平面部12から側壁14側に傾斜する接続面12bを有し、この接続面12bの一部にボス15が形成されている。実施の形態5に係る筐体11によれば、ボス15が側壁14側に近接しているので、曲げ剛性が向上され、ボス15にねじりや曲げ応力が集中して繰り返しかかっても、疲労によってボス15が変形したりせず、また亀裂の発生が防止されるので、ノートパソコンなどの筐体での意匠性が確保され、また表示部開閉のためのヒンジ機能が損なわれなくなる。なお、実施の形態5の筐体11は、前述した実施の形態1〜4の鍛造における、下型24a、上型24bのキャビティ24cの形状を変えることで容易に得ることができる。
【実施例】
【0039】
実施の形態4に係る筐体11を作製し、実施例1とした。一方、特許文献1に提案される、図8に示す方法により、実施例1と同じ形状・寸法で筐体を作製し、比較例1とした。また、特許文献2に提案される、図9に示す方法により、実施例1と同じ形状・寸法で筐体を作製し、比較例2とした。次いで、実施例1、比較例1、および比較例2の各筐体に所定の機械加工を施した後、筐体表面に黒色塗装を施した。次いで、試験治具(図示せず)により、図7に示すノートパソコン70を模して開閉耐久試験を行った。この開閉耐久試験は、試験治具(本体77に相当)に設けたヒンジ78の取付部78aを各筐体のボスに小ネジで取り付けて完全拘束し、ヒンジトルクを0.52Nm、開き角度Θ1を135度として15,000回と、全開き角度Θ2を180度として3,000回行った。そして、開閉耐久試験後、(1)ボスの変形による黒色塗装を施した筐体表面の、意匠性への影響が無いものを優(○)、意匠性への影響が有るものを劣(×)として、また、(2)ボスの根元への亀裂などの発生がなく、ヒンジ機能が損なわれないと思われるものを優(○)、ボスの根元に亀裂の発生が見られ、ヒンジ機能が損なわれると思われるものを劣(×)として、評価した。その結果、実施例1は、(1)(2)とも優(○)であった。一方、比較例1と比較例2は何れも、(1)(2)が劣(×)であった。
【0040】
なお、実施の形態1〜5、および実施例では、金属板材として軽合金により説明したが、本発明は軽合金に限らず、チタン合金、ステンレス材を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施の形態1に係る筐体の製造方法を示し、(A)は、素材となるボス15と金属板材11A、(B)は、金属板材11Aの所定部位に素材となるボス15を仮接合している状態、(C)は、仮接合したボス15を金属板材11と共に鍛造を施している状態の、左側は各工程の断面図、右側は成形体の断面図である。
【図2】実施の形態2に係る筐体の製造方法を示し、(A)は、素材となるボス15と金属板材11A、(B)は、金属板材11Aの所定部位に素材となるボス15を仮接合している状態、(C)は、仮接合したボス15を金属板材11と共に鍛造を施している状態の、左側は各工程の断面図、右側は成形体の断面図である。
【図3】実施の形態3に係る筐体の製造方法を示し、(A)は、素材となるボス15と金属板材11A、(B)は、金属板材11Aの所定部位に素材となるボス15を仮接合している状態、(C)は、仮接合したボス15を金属板材11と共に鍛造を施している状態の、左側は各工程の断面図、右側は成形体の断面図である。
【図4】実施の形態4に係るノートパソコン用の筐体11を示し、(a)はヒンジの取付面13側から見た平面図、(b)は(a)でのX−X断面図、(c)は(a)でのY−Y断面図、(d)は(c)でのZ部拡大図である。
【図5】実施の形態4に係る筐体の製造工程の説明図を示し、(A)は、ボスの素材15a〜15dと展伸材11A、(B)は、所定部位にボスの素材15a〜15dをスタッド溶接している状態、(C)は、スタッド溶接後、鍛造加工を施している状態の、左側は各工程の断面図、右側は成形体の平面図である。
【図6】実施の形態6に係る筐体を示し、(a)は平面部12を平坦とした筐体11、また(b)は平面部12を突出させた筐体11の一部断面図である。
【図7】ノートパソコンの一例の側面図である。
【図8】特許文献1に提案される、(a)はスタッド溶接を説明するための概略図、(b)はスタッド溶接後の溶接部の断面図である。
【図9】特許文献2に提案される製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
11、71:筐体(背面筐体、電子機器用筐体)
11A:金属板材、または展伸材
11B:ボス仮接合材
11C:鍛造材
11p:突起部
12:平面部
12b:接続面
13:補強面
14:側壁
15(15a〜15d)、75、85、95:ボス、またはボスの素材
15p、85p:チップ
15s:雌ねじ
15t:勾配(テーパ)
23a、83:保持台
23b:把持具
23p、83p:窪み
24a:下型
24b:上型
24c:金型キャビティ
70:ノートパソコン
72:表示部
72a:上端
73:液晶表示装置
73a:表示面
76:枠筐体
77:本体
78:ヒンジ
78a:取付部
81、91:アルミニウム板
81f:表面
81p:溶接跡
84:飛散物(スパッタ)
86:ばね
87:コンデンサ
87a:結線
87b:スイッチ
91a、95a:低融点金属層
93:フィレット
D、Db:奥行き
d:ボスの外径
E×F:補強面の寸法
h:ボスの高さ
P1:押圧
P2:荷重
R:なだらかな半径
t12:平面部の主要部肉厚(中央部の厚さ)
t13:厚肉とした平面部の主要部肉厚(中間部の厚さ)
t14:側壁の主要部肉厚(外側の厚さ)
Θ1:開き角度
Θ2:全開き角度
V1:鍛造加工前のボス素材の体積
V2:鍛造加工後のボスの体積
W、Wb:幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板材の平面部にボスを備える電子機器用筐体であって、前記金属板材とボスの素材とが仮接合された後、鍛造加工が施されていることを特徴とする電子機器用筐体。
【請求項2】
前記筐体は、略矩形状の前記平面部と該平面部の両側に立設する側壁とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の電子機器用筐体。
【請求項3】
前記平面部は、前記側壁側に傾斜する接続面を有し、該接続面の一部にボスが形成されていることを特徴とする請求項2に記載の電子機器用筐体。
【請求項4】
前記筐体は、その内面に液晶表示装置を収納する、ノートパソコン用の背面筐体であることを特徴とする請求項1乃至請求項3何れかに記載の電子機器用筐体。
【請求項5】
前記ボスが、ヒンジを取り付けるためのヒンジ取付ボスであることを特徴とする請求項1乃至請求項4何れかに記載の電子機器用筐体。
【請求項6】
前記筐体は、軽合金からなり、前記平面部の主要部肉厚が0.5〜0.8mm、前記ボスは、先端部の外径が4〜10mm、高さが2〜10mmに形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5何れかに記載の電子機器用筐体。
【請求項7】
金属板材の平面部にボスを備える電子機器用筐体の製造方法であって、前記金属板材とボスの素材とが仮接合された後、鍛造加工が施されていることを特徴とする電子機器用筐体の製造方法。
【請求項8】
前記金属板材とボスの素材との仮接合は、前記金属板材が保持台上に配置され、該金属板材とボスの素材とがスタッド溶接して行われることを特徴とする請求項9に記載の電子機器用筐体の製造方法。
【請求項9】
前記保持台上の前記仮接合する部位に、窪みを設けてスタッド溶接されることを特徴とする請求項8に記載の電子機器用筐体の製造方法。
【請求項10】
前記鍛造加工の前、前記ボスの素材はその外周に勾配が形成されていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の電子機器用筐体の製造方法。
【請求項11】
前記筐体は、軽合金からなり、前記ボスは、先端部の外径が4〜10mm、高さが2〜10mmで、前記ボスの素材の体積が、鍛造加工後のボスの体積に対して1.05〜1.5とされていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の電子機器用筐体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−50424(P2007−50424A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237011(P2005−237011)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】