説明

電子機器

【課題】アンテナと電子回路とを金属外装の内部に備える電子機器は、金属外装の形状に影響を与えることなくアンテナ性能を向上することができなかった。
【解決手段】アンテナや電子回路とは別体で構成するとともに、このアンテナに接近して金属部材を設けている。この金属部材とアンテナとの間に温度差発生手段を設けている。金属部材は、アンテナや電子回路を固定する部材としてもよく、金属外装と一体で形成してもよい。アンテナによる電波の送受信時に温度差発生手段により金属部材を加熱すると同時にアンテナを冷却する。このようにすると、金属部材の電気伝導率が低下するとともに、アンテナ性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さまざまな情報を含む所定の電波をアンテナを用いて受信または送信する機能を有する電子機器に関し、特に電子機器を動作させるための電子回路部分やアンテナ部分とは別に筐体外装などの金属部分を有する電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
さまざまな情報を含む所定の電波を受信または送信する電子機器は広く流通しており、無線機,ラジオ,携帯電話,電波修正時計などが広く知られている。その中で、例えば、電波修正時計は、100万年に1秒の精度を持つセシウム原子時計による時刻情報や日付情報を含む標準電波(例えば、40kHzの電波)を内蔵するアンテナで受信し、時刻の誤差を修正する機能を具備している時計である。このため、一ヶ月あたり20秒程度の誤差が生じるクォーツ時計と比べて常時正確な時刻を表示することが可能であり、時刻修正の手間を省くことができるため、近年急速に普及しつつある。
【0003】
電波修正時計において、受信性能を決めるのは、受信アンテナ特性と受信回路特性とである。腕時計型の電波修正時計にあっては、受信する標準電波の波長が5km前後と長く、腕時計内部において波長方向による共振を行うことが難しいため、搭載する受信アンテナの種類としては、強磁性体コアに導線を巻き付けたコイル状のバーアンテナを用いるのが一般的である。このバーアンテナを透過する磁束によってコイルに起電力を得る。
【0004】
受信回路とは、受信アンテナの出力を元に時刻情報を検知し、時計用ムーブメントに伝えるものである。時計用ムーブメントとは、電池や時計動作に必要な計時回路などの回路要素を1ユニットにまとめた複合部品をいう。場合によっては、文字盤や液晶表示装置などの時刻表示手段も含むこともある。
【0005】
電波修正時計は、電子機器としての役割のほかに趣向品としての役割も持つことから、デザインや質感は重要である。特に腕時計型の電波修正時計の場合、時計としての高級感は重要な要素であり、時計本体の外装を金属で構成する金属外装が望まれている。
【0006】
しかしながら、受信アンテナの出力は、金属外装に収納すると極端に低下してしまう。これは、金属外装表面で渦電流が生じ、標準電波が時計外装を貫けなくなるため時計内部に入りにくくなること、受信アンテナに流れる電流によって発生する磁束が、金属外装表面で発生する渦電流による反磁束によって妨げられることとで、受信アンテナに流れる電流が妨げられるためである。
【0007】
すなわち、電波修正時計は、金属外装が望まれているものの電波を受信しにくいという問題があるのである。このような問題は電波修正時計に限ったことではなく、同様に趣向品としての価値を持つ携帯電話においてもマグネシウム製の金属外装が用いられるケースがあり、やはり同様の問題を抱えているのである。
【0008】
そのため、特に趣向品として発達してきた腕時計型の電波修正時計の場合、金属外装でも受信可能な技術は多くの提案がなされている。例えば、金属外装の構造を改良する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
特許文献1に示した技術は、金属外装に隙間を設けることによりアンテナの受信感度を向上させ、標準電波をより多く受信するものである。詳細は図を用いて説明する。
図6は、特許文献1に示した従来技術を説明するための図であって、説明しやすいよう
にその主旨を逸脱しないように書き直したものであり、図6は側面から見たときの様子を模式的に示す断面図であって、図に向かって右側が外装の内部となる。
図6において、101は時計外装,102は裏蓋,103はネジ,104はワッシャ,105はOリング,110は時計外装101と裏蓋102との間のスリットである。時計外装101と裏蓋102とはネジ103によって互いに固定されている。
【0010】
図6に示したように、特許文献1に示した従来技術は、時計外装101と裏蓋102との間にワッシャ104を設けることで、時計外装101と裏蓋102との間にスリット110を設けるようになっている。このようにすると時計外装101と裏蓋102とが直接接触することがないため、時計外装101と裏蓋102との間で渦電流の発生が抑制されるのである。もちろん、外部からの水分などの浸入はOリング105によって阻止されるため、スリット110を設けても時計外装としてはなんらの問題もない。
特許文献1に示した従来技術は、このような構成にすることで外部から標準電波が入りやすく、また、アンテナから放出される磁束に対して反磁束が発生しにくくなるためアンテナに電流が流れやすくなり、アンテナ感度が向上するのである。
【0011】
また、特許文献1に示した従来技術は、電波修正時計に限らず、携帯電話などにおいても利用出来ることができる。その場合、アンテナの受信感度だけでなく、送信感度も同様に上昇するのである。
【0012】
【特許文献1】特開2006−112866号公報(第11頁、第11図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載の従来技術のように、外装などに用いる金属構造体を複数の別体部材として分割し、他の部材を介してネジ機構などで締めつけて固定する構成とすると、分割された金属構造体間の電気的結合度が低下して流れる電流量が低下するため、電波の透過率とアンテナの損失とが低下して、受信および送信感度が向上する。しかしながら、発明者が検討したところによると、特許文献1に示した従来技術に記載の発明には問題があることが分かった。
【0014】
すなわち、金属構造体を分割して別体構成としてワッシャを設けるなどすることは、部品点数が増大して構造が複雑化してしまい、部品の加工,組立などの製造工程をも複雑化してしまうという問題のほか、メンテナンス性においても作業性が悪化するという問題も発生する。
さらに、一般に外装などに用いる金属構造体を別体とすることで強度が低下することから、製品の信頼性の観点からも望ましくない。
【0015】
また、分割された金属構造体を互いに結合するためにネジ機構部などを設ける必要があり、そのために金属構造体の形状が制限されたり、筐体内部のスペースを圧迫するという問題もある。
【0016】
さらにまた、特許文献1に示した従来技術に記載の方法では、外装部分にネジ103やスリット110が露出してしまうため、このスリット110にごみや皮脂や汗が詰まりやすく、特に携帯電話や腕時計型の電波修正時計では趣向品としての観点から、見栄えも悪くなる。同様に、スリット110があると、携帯電話や電波修正時計のデザインも制約してしまうという問題もある。
【0017】
したがって、電子機器の外装部分には特に制約を課すことがなく、電波の送受信感度を向上させる技術が望まれているのである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した目的を達するため、本発明の電波修正時計用アンテナは以下に記した構成を採用するものである。
【0019】
電波を送受信するためのアンテナと電子回路とを装置外装に内蔵する電子機器であって、 アンテナおよび電子回路とは別体で構成するとともにアンテナに接近して設ける金属部材を有し、アンテナと金属部材との間に温度差を生じさせる温度差発生手段を有することを特徴とする。
【0020】
温度差発生手段は、金属部材の温度を上昇させる発熱手段またはアンテナの温度を低下させる冷却手段を有することを特徴とする。
【0021】
温度差発生手段は、電子回路が動作中に生じる熱を用いることを特徴とする。
【0022】
温度差発生手段は、アンテナへ電波が進入する方向またはアンテナから電波が放出する方向に設ける金属部材に接して備えていることを特徴とする。
【0023】
アンテナと金属部材との間または金属部材と装置外装との間に断熱材を設け、断熱材によって熱的に遮断されていることを特徴とする。
【0024】
温度差発生手段は、アンテナが電波を送受信しているときに、アンテナと金属部材との間に温度差を生ずることを特徴とする。
【0025】
温度差発生手段と金属部材との間に熱伝導手段を有し、熱伝導手段は、アンテナへ電波が進入する方向か、アンテナから電波が放出する方向には設けないことを特徴とする。
【0026】
金属部材は、装置外装と一体に構成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の電子機器は、アンテナ近傍の金属部材を加熱することで、金属部材の電気伝導率を低下させて渦電流を軽減する。このようにすることで、アンテナへ外部から電波が到達しやすく,かつアンテナからの電波も外部へ放射されやすく、またアンテナそのものに流れる電流による損失が低下するのである。
【0028】
また、本発明に記載の構造は温度差発生手段を挟み込むだけであるため構造的に極めて単純であり、電子機器の内部スペースを圧迫することはない。シンプルな構造であるから製造上においてもメンテナンス性においても優れている。
【0029】
金属部材は加熱を受けて温度が上昇するが、金属の強度を低下させるような高温としなければ金属部材の強度は事実上全く影響を受けないのである。そのため、金属部材そのものには何ら変更を施す必要がないため、デザイン上の制約が一切ないのである。
また、金属部材を装置外装と一体に構成すれば、別途金属部材を設けることはなく、さらに部品点数を低減することができる。
【0030】
本発明の電子機器は、特に電子機器の外装には何らの制約を貸すこともないため、デザイン上の制限を与えることなく電波の送受信感度が向上した電子機器を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の電子機器は、電波を送受信するためのアンテナと電子回路とを装置外装に内蔵し、アンテナおよび電子回路とは別体で構成するとともにアンテナに接近して設ける金属部材を有している。金属部材は、アンテナに接近して設けるが、例えば、アンテナや電子回路を固定するためのフレームと兼ねることもできる。もちろん、金属部材を装置外装と一体として構成してもよい。
アンテナと金属部材との間に温度差を生じさせる温度差発生手段を有し、この金属部材の電気伝導率を低下させて渦電流を軽減する。このようにすることで、アンテナへ外部から電波が到達しやすく、またアンテナから電波を放出しやすくなるのである。以下、図面を用いて詳細に説明する。
【0032】
[本発明の電子機器の第1の実施形態の説明:図1]
本発明の電子機器の第1の実施形態における電子機器を電波修正時計に適用した場合の例を図1を用いて説明する。図1は、アンテナを詳しく説明するための図であって、電子機器の内部に備えたアンテナとその近傍の外装部分を拡大した図である。図において、1は電波修正時計の金属外装、2はアンテナコア、3はアンテナコア2に巻回された巻線部、4はアンテナコア2の拡張部、5は金属部材、10は温度差発生手段である温度差発生素子、11は温度差発生素子10の高温部、12は温度差発生素子10の低温部である。温度差発生素子10に電力が供給されるとそれぞれ発熱、吸熱し、温度差発生素子10の一部分が高温部11になり、他方部分が低温部12になる。温度差発生素子10は、例えば、ペルチェ素子を使用することができる。
【0033】
ペルチェ素子は、2種類の金属の接合部分に電流を流すことで、一方の金属から他方の金属に熱が移動するというペルチェ効果を用いた素子である。直流電流を流すことによって、一方の面が吸熱し、他方の面に発熱が起こる。流す電流の向きによって、この吸熱と発熱との関係が反転する。ペルチェ素子はサーモモジュールなどとも呼ばれ、広く知られており、その詳細な説明は省略する。なお、図1において、直流電流を発生するための手段や配線などは、省略している。
【0034】
20は電波修正時計用アンテナであり、アンテナコア2,巻線部3,拡張部4で構成している。なお、巻線部3は、実際は細線が整然と巻回されているが、見やすくするために筒状に図示している。拡張部4は、アンテナコア2の端部を延長したもの、またはその端部に磁気的に結合した延長部分であって、板形状や羽形状とすることができるが、図1では説明しやすいように短い矩形で示している。
【0035】
高温部11は金属部材5と、低温部12はアンテナ20とそれぞれ接触しており、それぞれ熱的に結合している。金属部材5は、熱伝導性のよい材質を用いることが好ましい。しかし、金属外装1と同一の材質で構成してもよい。
【0036】
本発明は、電波の受信時には温度差発生素子10に通電すると高温部11が発熱して高温となり、低温部12が吸熱して低温となる。金属部材5と高温部11と、アンテナ20と低温部12とはそれぞれ接触して熱的に結合しており、さらに、金属外装1と金属部材5とは接触しているため、金属外装1は高温に、アンテナ20は低温となる。なお、高温と低温の詳細に関しては後述する。
【0037】
このようにすると、金属外装1は高温となることで材質構成材質の電気伝導率が低下して渦電流が流れにくくなる。これに対してアンテナ20は低温となることで電気伝導率が向上して電流が流れやすくなる。そのため、外部からの電波は金属外装1を透過しやすくなり、またアンテナ20は電流が流れやすくなり損失が低下するため、アンテナとしての感度が向上するのである。このようにして、金属外装1の外側形状に一切の変更を加えることなくアンテナ20の実効的な感度を向上させることができるのである。
【0038】
温度差発生手段である温度差発生素子10によって金属外装1は高温となるが、このときの温度は自由に選択することができる。例えば、電子機器が電波修正時計であるとき、その形状が腕時計型であるか置時計型であるかによって決めることができる。
すなわち、腕時計型ならば低温火傷を起こさない44度以下、置時計型ならば構成材質の耐熱性や使用環境などを省みて決めればよい。
【0039】
図示はしないが、温度差発生素子10による発熱温度をユーザーが自由に変更することもできる。例えば、調節用ダイヤルなどを外に設けて、ユーザーが設置場所に応じて最高温度を設定できるような構成としても構わない。もちろん、温度差発生素子10による発熱温度は、その電子機器の使用される環境を省みて温度を決定すればよいのである。
【0040】
[本発明の電子機器の第2の実施形態の説明:図2]
本発明の電子機器の第2の実施形態における電子機器を電波修正時計に適用した場合の例を図2を用いて説明する。図2は、金属部材5と金属外装1とを一体に構成する例を示すものである。なお、同一の構成には同一の番号を付与している。
この構成によれば、金属部材5を金属外装1の内部に別途設ける必要がないため、部品点数や製造工程を簡略化することができる。
【0041】
[本発明の電子機器の第3の実施形態の説明:図3]
次に、本発明の電子機器の第3の実施形態における電子機器を電波修正時計に適用した場合の例を図3を用いて説明する。図3は、金属外装の一部にカバー部材を設ける例を示すものである。なお、図2に示すような金属部材5と金属外装1とを一体に構成する例を元に説明する。また、同一の構成には同一の番号を付与している。
図3において、30はカバー部、31はカバー部30と金属外装1とを接続する接続手段、32は空隙部である。
【0042】
本発明の電子機器は、図3に示すように、金属外装1の温度差発生素子10と対向する部分の反対側に、カバー部30を設けている。カバー部30は接続手段31を介して金属外装1と接続している。
図3(a)は、カバー部30と金属外装1との間に空隙部32を設けている例を示している。カバー部30は、例えば、プラスチックやゴムで構成することができる。その形状は、格子状やメッシュ状にしてもよい。もちろん、カバー部30を構成する材質によって、空隙部32を設けず、カバー部30と金属外装1とを接するように設けてもよい。
【0043】
接続手段31は、特に限定しないが、接着剤や嵌合手段を用いることができる。図3(a)は、接続手段31に接着剤を用いる例を示し、図3(b)は、接続手段31を金属外装1に設ける凹部31aと、カバー部30に設ける凸部31bとし、これらを嵌合させる例を示している。図3(b)に示す例において、もちろん、図3(a)に示すような空隙部32を設けてもよい。
【0044】
このような構成とすることによって、金属外装1の温度差発生素子10と対向する部分の反対側をユーザーが触れたとしても熱を感じることはなく、驚いたり不快に思うこともない。また、上述の説明では、本発明の電子機器が腕時計型であるとき、金属外装1との接触による低温火傷を防止するために、発熱温度を44度にすると説明したが、カバー部材30を設けることにより、その温度の制限をより高くすることができる。金属外装1で最も発熱する部分とユーザーの皮膚などが接することがないため、温度差発生素子10による発熱温度をより高くすることができるのである。このため、金属外装1の電気伝導率をより低下させて渦電流をさらに軽減することができるのである。
【0045】
温度差発生素子10に供給する電力や、金属外装1の熱容量などから必要な電力はおのずと決まってくるが、安全性の面から規定以上の温度に上昇しないように、発熱部分には温度センサーやバイメタルスイッチなどを設けて規定以上の温度に達した場合に温度差発生素子10への電力供給を停止する制限手段を用いることが望ましい。
【0046】
アンテナ20側となる低温部12は、基本的に金属外装1および図示しない風防ガラスによって覆われていて、さらに、時計全体として見た場合、高温部11の発熱能力よりも低温部12の冷却能力が上回ることはないため、仮にユーザーが触れたとしても凍傷の危険などはない。
また、アンテナ20と温度差発生素子10とをカバーで囲い、その内部を真空に近い状態にするか窒素などを封入してもよい。このようにすることで、アンテナ20が低温になってもその表面に結露などが発生することを防止することができる。
【0047】
もちろん、時計以外の電子機器に本発明の機構を設ける場合、低温部12が外部に露出する構成となっているときは、低温部12の温度を電子機器の構成材質や使用される環境によって決められる温度以下にならないように、上述の高温部11の温度上昇を制限するような制限手段と同様に温度により温度差発生素子10への電力供給を制限する制限手段を搭載すればよい。
【0048】
温度差発生素子10を駆動するためには電力を消費する。特に携帯電話や腕時計型の電波修正時計においては使用可能な電力が限られている。アンテナ感度は電波の送受信時のみ高められていれば良いのであるから、温度差発生素子10に常時通電し駆動しておく必要はない。つまり、温度差発生素子10の駆動は、電波の送受信時のみに限ればよい。これは、電波の送受信動作中に現れる信号を用いて、温度差発生素子10の駆動を行う手段を制御すればよい。このようにすれば電子機器の消費電力を低下させることができる。
【0049】
すでに説明した例では、発熱部と冷却部との両方を持つペルチェ素子のような温度差発生素子10を設ける場合を示したが、これに限定するものではない。つまり、アンテナ20の近傍の金属部分の温度がアンテナ20の温度よりも高くなればよいのであるから、発熱部と冷却部とのどちらか片方を備える手段であってもよいのである。そのような場合は、金属外装1とアンテナ20との温度差を保つため、両者は間に断熱材や空気層を挟むなどして熱的に分離されていることが望ましい。
【0050】
必要なことは、電波の送受信時に金属外装1とアンテナ20との間に温度差(金属外装1が高温側)が生じることである。温度差さえ生じていれば、例え金属外装1とアンテナ20との両方が熱を帯びていてもよく、アンテナ20の電気伝導率の低下による損失上昇を、金属外装1の電気伝導率の低下による損失低下で補うことができるからである。
【0051】
[本発明の電子機器の第4の実施形態の説明:図4]
次に、本発明の電子機器の第4の実施形態における電子機器を電波修正時計に適用した場合の例を図4を用いて説明する。図4は、発熱源とアンテナとが離間している例を説明するものである。
図4において、8は電波修正時計の電気的機能を実現および構成する電子回路、9は電子回路8の一部分を成している発熱素子、15は金属外装1とアンテナ20との間に挿入された断熱材である。電子回路8上には発熱素子9以外にも多数の素子が配置されているが、簡単のため省略している。なお、図2に示すような金属部材5と金属外装1とを一体に構成する例を元に説明する。また、すでに説明した構成には同一の番号を付与しているため、説明は省略する。
【0052】
図4に示す例において、発熱素子9は金属外装1と接触しており、熱的に結合している
。また、アンテナ20は、発熱素子9および金属外装1とは断熱材15を介して接触しており、熱的には分離されている。
【0053】
発熱素子9とは、電子回路8からの信号によって発熱する電熱線ヒーターのようなものであってもよいが、熱を発する素子であれば何でもよい。もちろん、そのように熱を発生する専用の素子ではなく、電波の送受信中に情報処理や表示などの何らかの動作を行うために発熱してしまう素子を用いてもよい。例えば、情報処理用のCPUチップ,情報を記憶するための記憶手段,表示手段などを駆動するためのモーター,電源手段を構成する変圧器やスイッチング素子などである。
【0054】
上述のような熱を発する素子である発熱素子9は、電子機器が電波の送受信を行う際に必然的に高温となり、図4に示す例では発熱素子9と金属外装1とは熱的に結合しているため、発熱素子9の熱は金属外装1へ伝えられるのである。すなわち、図4に示す例では、図1から図3に示す例における温度差発生素子10の代用として、電子回路の動作によって熱を発する発熱素子9を金属外装1を加熱するための素子として利用しているのである。
【0055】
以上説明した構成は、電波修正時計に限らず、携帯電話などにも転用可能である。特に携帯電話においては消費電力が電波修正時計に比べて極めて大きいため、この構造によって電子回路中の熱を発する素子から生じる熱を有効に利用することができるようになる。
【0056】
図4に示す例では、発熱素子9とアンテナ20とが近接して設けられているため、発熱素子9はアンテナ20の近傍の金属外装1を直接加熱することが可能であるが、他の素子や構造物との配置上の都合などにより、発熱素子9とアンテナ20とが離れた構成としなければならない場合もある。このようなときは、ヒートパイプなどの熱伝導手段を用いて発熱素子9より発生した熱を金属外装1へ伝える構成としても構わない。
【0057】
金属からなるヒートパイプで金属外装1に熱を伝える構成とすると、ヒートパイプの大きさによっては金属外装1の温度上昇による電波透過率の上昇よりも、金属からなるヒートパイプが存在することによる電波透過率の減少の方が上回ってしまう。そのため、ヒートパイプはアンテナに進入する電波またはアンテナから放出する電波を妨げない方向に設けることが望ましい。すなわち、電波を遮蔽しないようにアンテナの指向性を鑑みて、電波が放出もしくは進入しない方向にヒートパイプを設けるのである。
【0058】
特に携帯電話や腕時計型の電波修正時計は筐体内のスペースや、扱える電力が限られている。しかしながらこのようにすれば、発熱手段を電子回路内部の素子で兼用することができる。発熱手段が別個に必要なくなるために、スペースを圧迫しなくなるだけでなく消費電力を低下させることもできるのである
【0059】
携帯電話やさらに大型の電子機器においては、絶縁材からなる風洞を通してファンなどで発熱素子9から金属外装1へ熱を運ぶ構成としても構わない。このような構成とすれば、アンテナ付近に金属部材を追加することなく金属外装1を加熱することができる。
【0060】
また、このような場合においてもさらに温度差発生手段である温度差発生素子10を別個に設けて、電波の送受信時のみ駆動させる構成としてもよい。つまり、このような構成とすれば、発熱素子9との組み合わせ効果で温度差発生素子10のみで温度差を生じさせるよりも容易に温度差を生じることが可能となり、発熱素子9や温度差発生素子10のサイズ,消費電力をより低下させることができるのである。
【0061】
図4に示す例では、電子回路中の熱を発する素子を温度差発生手段として用いる例を示
したが、電子回路またはその他の構成部材を冷却する冷却装置をアンテナ20の冷却に使用しても構わない。すなわち、電子機器中において、例えば、高熱となるCPUチップを冷却するための冷却手段である冷却ファンが存在する場合、この冷却ファンを用いて、CPUチップとアンテナ20とを同時に冷却する構成とすることもできる。
【0062】
[本発明の電子機器の第5の実施形態の説明:図5]
次に、本発明の電子機器の第5の実施形態における電子機器を図5を用いて説明する。図5は、アンテナと金属部材とは離間して設けられているが、金属部材はアンテナ全体を取り囲んでいる例を示すものである。このようにアンテナ全体が囲まれている例としては航空機のレドームなどが知られている。レドームとは、レーダーとそれを覆うドーム状のカバーとを含む構造体のことであり、レーダードームともいわれる。
図5において、21は金属外装1の一部分である被加熱部、22はヒートパイプ、25はアンテナである。すでに説明した構成には同一の番号を付与しているため、説明は省略する。
図5に示す例では、アンテナ25は、被加熱部21に向いた指向性を持っている。すなわち、アンテナ25に電力を供給すると、主に被加熱部21の方向に向けて電波が放出される。
【0063】
電波の送信時またはその少し前に温度差発生素子10に電力を供給すると、高温部11で発生した熱はヒートパイプ22を通して被加熱部21に至り、被加熱部21は加熱される。これにより被加熱部21の温度が上昇して、電気伝導率が低下する。すると、アンテナ25から放射される電波は、被加熱部21を通して金属外装1の外部に容易に放出されるようになるのである。
【0064】
消費される電力を鑑みなければ金属外装1の全体を高温とすることも可能ではあるが、やはり消費電力が大きい。しかしながら、指向性を持つアンテナ25を金属外装1の内部に設けている場合、金属外装1の電波の送信方向の一部分に対してのみ加熱することで電力の消費を抑えることができる。
【0065】
図5においては送信アンテナの例を示したが、受信アンテナであっても同様の構造を適用できることは言うまでもない。必要なことは、金属外装1の内部に搭載されたアンテナ25が最も効率よく電波を送受信できる方向の、金属外装1の一部に限って加熱することである。
【0066】
指向性の低いアンテナを搭載する場合は、被加熱部を適当な箇所に定義して、アンテナから見た被加熱部の方向を電子機器そのものの送受信の指向性としても構わない。すなわち、指向性の低いアンテナを搭載した場合、被加熱部の方向から電波の送受信をすることになるため、被加熱部の方向を持って電子機器の送受信性能の指向性を決定するのである。このようにすると、外観のデザインから連想される指向性と、電子機器の送受信の指向性を一致させることができるようになり、製品としての利便性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の電子機器は、特にアンテナを覆うような金属からなる外装が存在するケースにおいて特に有用である。このため、携帯電話や腕時計のような概観の見栄えや趣向性を求められる電子機器に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施形態における電子機器の構造とその配置とを説明するための断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態における電子機器の構造とその配置とを説明するための断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態における電子機器の構造とその配置とを説明するための断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態における電子機器の構造とその配置とを説明するための断面図である。
【図5】本発明の第5の実施形態における電子機器の構造とその配置とを説明するための断面図である。
【図6】特許文献1に示した従来技術を説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
1 金属外装
2 アンテナコア
3 巻線部
4 拡張部
5 金属部材
8 電子回路
9 発熱素子
10 温度差発生素子
11 高温部
12 低温部
15 断熱材
20,25 アンテナ
21 被加熱部
22 ヒートパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送受信するためのアンテナと電子回路とを装置外装に内蔵する電子機器であって、
前記アンテナおよび前記電子回路とは別体で構成するとともに前記アンテナに接近して設ける金属部材を有し、
前記アンテナと前記金属部材との間に温度差を生じさせる温度差発生手段を有することを特徴とする電子機器。
【請求項2】
前記温度差発生手段は、前記金属部材の温度を上昇させる発熱手段または前記アンテナの温度を低下させる冷却手段を有することを特徴とする請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記温度差発生手段は、前記電子回路が動作中に生じる熱を用いることを特徴とする請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記温度差発生手段は、前記アンテナへ電波が進入する方向または前記アンテナから電波が放出する方向に設ける前記金属部材に接して備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電子機器。
【請求項5】
前記アンテナと前記金属部材との間または前記金属部材と前記装置外装との間に断熱材を設け、該断熱材によって熱的に遮断されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の電子機器。
【請求項6】
前記温度差発生手段は、前記アンテナが前記電波を送受信しているときに、前記アンテナと前記金属部材との間に温度差を生ずることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の電子機器。
【請求項7】
前記温度差発生手段と前記金属部材との間に熱伝導手段を有し、
前記熱伝導手段は、前記アンテナへ電波が進入する方向か、前記アンテナから電波が放出する方向には設けないことを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の電子機器。
【請求項8】
前記金属部材は、前記装置外装と一体に構成していることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−187337(P2008−187337A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17649(P2007−17649)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】