説明

電子画像比色法によるガス濃度測定システムおよび測定方法

【課題】正確なガス濃度測定を簡易にすることにある。
【解決手段】オゾン暴露量に応じて変色する検知紙41と既知のオゾン暴露量に対応する色を帯びた色見本42,43,44とを配置したガス濃度検知シート40を画像入力装置30により撮影し、ガス濃度測定装置10により、検知紙41の色情報と色見本42,43,44の色情報とを比較し、オゾン濃度を算出する。これにより、大型で高価な装置を用いることなく、オゾン濃度を測定することができる。また、ガス濃度検知シート40にマーカー45A,45B,45C,45Dを配置し、ガス濃度検知シート40を撮影した電子画像データ上に、マーカー45A,45B,45C,45Dに基づいて相対座標を設定する。これにより、撮影サイズ、撮影角度、画像の回転を考慮して電子画像データを解析することができるので、撮影者は撮影に気をつかうことなく気軽に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比色法によりガス濃度を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、NO,SPM(Suspended Particulate Matter),光化学オキシダントによる大気汚染が生じ、環境に対する影響が問題となってきている。光化学オキシダントの主成分であるオゾンガス(O)は、工場、事務所や自動車から排出されるNOや炭化水素などの汚染物質が太陽光線の照射を受けて光化学反応を起こすと生成され、光化学スモッグの原因となる。また、コロナ放電手段を備えた各種機器、例えば静電式複写機、レーザープリンタ、LEDファクシミリ等の装置においても、コロナ放電手段の動作中にオゾンガスやNOガスが発生する。オゾンガスは強力な酸化能を有しているため、空気中の濃度が一定(0.1ppm)以上になると、それ自身の毒性により呼吸器系を刺激し、微量でも長時間吸入すると有害とされている。
【0003】
このため、オゾンガス等の有害ガスの濃度分布の調査や、地球環境への影響評価、個人のオゾンガス被爆の影響評価を行って、環境を監視する必要がある。オゾンガスについては安価で小型軽量かつ個人や家庭で使用することができるオゾン濃度測定器が各種開発されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
オゾン濃度測定器としては、図11に示す簡易な測定器が提案されている。同図に示すオゾン濃度測定器100は、台紙111上に、オゾンガスに暴露されると退色する検知紙112と、オゾンガスの濃度に対応する色見本113,114,115を備える。セルロース濾紙に、オゾンガスに反応すると退色する色素、保湿剤、酸、水等を加えて調整した検知溶液を含浸させて、風乾することにより検知紙112を作製する。オゾンガスに反応すると変色する色素としては、インジゴ色素、アゾ色素、トリフェニルメタン色素、アントラキン色素等が用いられる。
【0005】
色見本113,114,115は、それぞれ異なったオゾン暴露量、例えば、0ppbh,400ppbh,及び800ppbhに対応する色で構成される(ppbhはオゾン濃度ppbと暴露時間hourの積である蓄積オゾン濃度の単位を示す)。色見本113は、オゾン暴露量が0ppbh、つまり測定前の検知紙112と同じ色(インジゴカルミン:藍色)を呈している。色見本114,115は、それぞれ検知紙112のオゾン暴露量が400ppbh,800ppbhのときの色を呈している。
【0006】
オゾン濃度測定器100をオゾンガスが存在する環境下で一定時間(例えば、8時間)使用すると、検知紙112がオゾンガスに暴露されて退色する。この退色した検知紙112の色と色見本113,114,115とを見比べることによりオゾンガスの暴露量を知ることができる。すなわち、検知紙112が退色して色見本114と同じ色となった場合、オゾン暴露量は400ppbhであると判定する。また、検知紙112が色見本114,115の中間の色とほぼ等しい場合には、オゾン暴露量は400ppbhと800ppbhの中間の600ppbhであると判定する。暴露量を濃度に変換するためには、暴露量を経過時間で割り、暴露した時間あたりの平均濃度として求める。
【特許文献1】特開2004−144729号公報
【特許文献2】国際公開第06/016623号パンフレット
【特許文献3】特開平09−274032号公報
【特許文献4】特開2000−081426号公報
【非特許文献1】田中 成典、外6名、”第3章 画像処理入門1”、[online]、2003年8月11日、マイクロソフト株式会社、[平成20年10月1日検索]、インターネット〈URL:http://www.microsoft.com/japan/msdn/academic/Articles/Algorithm/03/〉
【非特許文献2】Hany Farid、"Fundamentals of Image Processing"、[online]、[平成20年10月1日検索]、インターネット〈URL:http://www.cs.dartmouth.edu/farid/tutorials/fip.pdf〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、オゾン濃度測定器100の検知紙112と色見本113,114,115とを目視により比較した場合、大体の値を知ることはできても細かな数値を知ることはできない。正確なオゾン濃度算出のためには、分光光度計で反射スペクトルを測定したり、特定波長のLED光を検知紙112に照射し反射光をフォトダイオードで測定する専用の反射率測定装置を利用する必要がある。
【0008】
また、検知紙112は、通常外気に触れないようにアルミニウム等の密封された容器で保管された状態から1枚ずつ取り出して台紙111に配置して使用するため連続自動測定には不向きである。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、正確なガス濃度測定を簡易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明に係るガス濃度測定システムは、ガスの暴露量に応じて色が変化する検知領域と少なくとも2つの既知の暴露量に対応した色を帯びた参照領域と検知領域及び参照領域の位置を特定するマーカーとを有するガス暴露量検知手段と、ガス暴露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付ける入力手段と、画像データにおけるマーカーの位置を特定することにより検知領域及び参照領域のそれぞれに該当する領域を特定する領域特定手段と、画像データから検知領域及び少なくとも2つの参照領域に対応する位置の色情報を抽出する抽出手段と、検知領域の色情報を参照領域の色情報と比較した相対値によって評価し、その相対値を換算式に当てはめることでガス暴露量を算出する算出手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
上記ガス濃度測定システムにおいて、画像データにおけるマーカーの位置に基づいて当該画像データに相対座標を設定する配向検知手段を有し、領域特定手段は、その相対座標に基づいて検知領域及び参照領域の位置を特定することを特徴とする。
【0012】
上記ガス濃度測定システムにおいて、ガス暴露量検知手段は、検知領域及び参照領域の周囲に単一色の余白領域を有し、画像データから余白領域の色情報を抽出し、余白領域の色情報に基づいて画像データの照度の分布パターンを求め、その分布パターンを均一化する画像処理を画像データに施す照度補正部を有することを特徴とする。
【0013】
第2の本発明に係るガス濃度測定方法は、ガスの暴露量に応じて色が変化する検知領域と少なくとも2つの既知の暴露量に対応した色を帯びた参照領域と検知領域及び参照領域の位置を特定するマーカーとを有するガス暴露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付けるステップと、画像データにおけるマーカーの位置を特定することにより検知領域及び参照領域のそれぞれに該当する領域を特定するステップと、画像データから検知領域及び少なくとも2つの参照領域に対応する位置の色情報を抽出するステップと、検知領域の色情報を参照領域の色情報と比較した相対値によって評価し、その相対値を換算式に当てはめることでガス暴露量を算出するステップと、を有することを特徴とする。
【0014】
上記ガス濃度測定方法において、画像データにおけるマーカーの位置に基づいて当該画像データに相対座標を設定するステップを有し、特定するステップは、その相対座標に基づいて検知領域及び参照領域の位置を特定することを特徴とする。
【0015】
上記ガス濃度測定方法において、ガス暴露量検知手段は、検知領域及び参照領域の周囲に単一色の余白領域を有し、画像データから余白領域の色情報を抽出し、余白領域の色情報に基づいて画像データの照度の分布パターンを求め、その分布パターンを均一化する画像処理を画像データに施すステップを有することを特徴とする。
【0016】
上記ガス濃度測定方法において、マーカーは、検知領域及び参照領域の縁に配置されていることを特徴とする。
【0017】
上記ガス濃度測定方法において、算出したガス暴露量を記憶手段に記憶させるステップと、前回算出したガス暴露量を記憶手段から読み出して今回算出したガス暴露量との差分を取り、前回から今回までの期間における第2のガス暴露量を計算するステップと、を有することを特徴とする。
【0018】
上記ガス濃度測定方法において、ガス暴露量検知手段を撮影した撮影時刻を記憶手段に記憶させるステップと、前回の撮影時刻と今回の撮影時刻を記憶手段から読み出して期間の長さを求め、第2のガス暴露量と期間の長さにより平均ガス濃度を算出するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明にあっては、ガス暴露量に応じて色が変化する検知領域、少なくとも2つの既知のガス暴露量に対応した色を帯びた参照領域、および検知領域、参照領域の位置を特定するためのマーカーを撮影し、マーカーの位置を特定して検知領域、参照領域それぞれの色情報を抽出し、抽出した色情報を相対値によって評価し、その相対値を換算式に当てはめることにより、撮影環境などの影響を抑制してガス暴露量を検出することが可能となる。デジタルカメラ、カメラ付き携帯電話などを利用できるので、分光光度計などが不要となる。
【0020】
本発明にあっては、画像データにおけるマーカーの位置に基づいて相対座標を設定することにより、撮影サイズ、撮影角度、画像の回転を考慮して検知領域、参照領域を特定することができるので、撮影者は撮影に気をつかうことなく気軽に利用できる。
【0021】
本発明にあっては、ガス暴露量検知手段の余白領域の色情報を抽出して照度の分布パターンを求め、その分布パターンが均一となるように画像データに画像処理を施すことにより、グラディエーションの付いた影や色むらにも対応できる。
【0022】
本発明にあっては、前回の撮影時の暴露量と時刻と、今回の暴露量と時刻のデータの差分をとり、前回から今回までの間に暴露した量を経過時間で割ることにより平均濃度を求めることができる。
【0023】
このように、本発明によれば、正確なガス濃度測定を簡易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。本実施形態では、オゾンガス濃度の測定について説明するが、もちろん他のガスにも適用可能である。
【0025】
図1は、本実施の形態におけるガス濃度測定システムの構成を示すブロック図である。同図に示すガス濃度測定システムは、ガス濃度測定装置10と、画像入力装置30と、ガス濃度検知シート40とを有する。ガス濃度測定装置10と画像入力装置30とはネットワーク20を介して接続される。ガス濃度検知シート40には、検知紙41、色見本42,43,44、およびマーカー45A,45B,45C,45Dが配置される。画像入力装置30は、ガス濃度検知シート40を撮影し、得られた電子画像データをネットワーク20を介してガス濃度測定装置10へ送信する。電子画像データを受信したガス濃度測定装置10は、検知紙41の色変化を解析し、色見本42,43,44と比較することによりオゾン暴露量を計算する。
【0026】
画像入力装置30としては、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、カメラ付き携帯電話、Webカメラなど電子的に画像を取り込むものが利用できる。スキャナーを利用してもよい。一般に、照射される光のスペクトル構成が光源により異なるため、撮影された電子画像の色情報は撮影環境にかなり影響を受ける。撮影された検知紙41の電子画像における色情報も撮影環境の影響を受けるので、検知紙41の正確な色情報を得ることが難しい。そこで、検知紙41、色見本42,43,44、およびマーカー45A,45B,45C,45Dを含むガス濃度検知シート40全体を画像入力装置30で撮影することで、色見本42,43,44本来の色情報と撮影された色見本42,43,44の色情報から撮影環境の影響を知り、撮影環境の影響を考慮して検知紙41の色情報からオゾン暴露量を算出することができる。マーカー45A,45B,45C,45Dは、検知紙41、色見本42,43,44の電子画像上の位置を特定するために用いる。
【0027】
本実施の形態では、インジゴカルミンをオゾン検知色素として用いた検知紙41を利用した。検知紙41は、未使用時には青色を示し、620nm付近に反射率の低い帯域がある。オゾンガスの暴露によりこの帯域の反射率が増加するとともに、検知紙41の色も青色から白色へと変化する。反射率の対数を見ると620nm付近が最も変化幅が大きい。この変化幅はオゾンガスの蓄積暴露量と比例することがわかっている。620nm付近の反射率は最初は低いが、オゾンに暴露されるにしたかって高くなり、肉眼では青色から白色に変化しているように見える。
【0028】
図2はガス濃度測定装置10の構成を示すブロック図である。同図に示すガス濃度測定装置10は、ネットワークインタフェース11、電子画像処理部12、および出力インタフェース13を備える。ガス濃度測定装置10を、演算処理装置、記憶装置、メモリ等を備えたコンピュータにより構成して、各部の処理がプログラムによって実行されるものとしてもよい。このプログラムはガス濃度測定装置10が備える記憶装置に記憶されており、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。以下、各部の詳細について説明する。
【0029】
ネットワークインタフェース11は、ネットワーク20を介してガス濃度検知シート40を撮影した電子画像データの入力を受け付ける。
【0030】
電子画像処理部12は、マーカー位置特定部121、配向検知部122、照度補正処理部123、および、ガス濃度算出部124を備え、入力された電子画像データにおいて、検知紙41が撮影されている検知領域、色見本42,43,44が撮影されている参照領域を特定し、撮影環境による影響を補正して、オゾン暴露量を算出する。
【0031】
出力インタフェース13は、ディスプレイなどの表示手段(図示せず)等に接続され、算出したオゾン暴露量を出力する。
【0032】
以下、電子画像処理部12の詳細について説明する。
【0033】
マーカー位置特定部121は、入力された電子画像データにおけるマーカー45A,45B,45C,45Dの位置を特定する。本実施の形態では、図3に示すように、マーカー45A,45B,45Cを「◎」とし、マーカー45Dを「△」として、ガス濃度検知シート40の四隅に配置した。マーカー45A,45B,45C,45Dの位置は、非特許文献1,2に示すような、モデル識別法により特定する。
【0034】
マーカー45A,45B,45C,45Dは、検知紙41や色見本42,43,44の色およびそれらの中間色とは色差が大きい色を使用するとよい。本実施の形態では、検知紙41は青色から白色へと変色するので、マーカー45A,45B,45C,45Dの色を赤色とした。マーカー位置特定部121は、電子画像データの中からRGBのRの値が高くGとBの値が低いところを探すことでマーカー45A,45B,45C,45D位置を特定することができる。前述のモデル識別法によるマーカー抽出法と併用することで確実性を増すことも可能である。
【0035】
配向検知部122は、特定したマーカー45A,45B,45C,45D位置に基づいた相対座標を電子画像データ上に設定する。具体的には、図3に示すように、マーカー45Dの座標を(0,0)、マーカー45Cの座標を(X,0)、マーカー45Aの座標を(0,Y)、マーカー45Bの座標を(X,Y)として相対座標を設定する。そして、検知紙41の色情報を取得する検知領域41Aを相対座標(1/10X,2/10Y)−(2/10X,8/10Y)で指定する。同様に、色見本42,43,44それぞれの色情報を取得する参照領域も相対座標で指定する。このように、相対座標により色情報を取得する領域を指定することにより、図4(a),(b)に示すように、入力された電子画像データが歪んでいたり、回転していた場合でも、正確に検知紙41と色見本42,43,44の位置を特定することが可能となる。
【0036】
照度補正処理部123は、ガス濃度検知シート40周辺部の余白領域の色情報を解析して電子画像データにおける照度の不均一性を補正する。例えば、図5(a)の左側に示す電子画像データは、上から下へだんだんと明るくなっており、照度が不均一である。このような場合であっても、照度補正処理部123は、ガス濃度検知シート40の余白領域40A(本実施の形態では、マーカー45A,45B,45C,45Dの外側の白色部分)を縦方向、横方向にスキャンして色情報を抽出し、図5(b)に示すようなガス濃度検知シート40全体の色情報の分布パターンを求める。そして、この分布パターンを白に戻すような画像処理を元の電子画像データに対して施す。これにより、電子画像データにおける照度の不均一性を補正することができる。図6(a)は、左下から右上にかけてだんだんと明るくなっている別の電子画像データを示す。図6(b)は、図6(a)から算出した色情報の分布パターンである。この場合も、図6(b)に示す分布パターンが均一となるような画像処理を図6(a)に示す元の電子画像データに対して施す。
【0037】
ガス濃度算出部124は、照度が補正された電子画像データから相対座標で指定された検知領域と参照領域それぞれにおける色情報を取得し、検知領域の変色の程度を参照領域の色情報と比較した相対値によって評価し、この相対値をオゾン暴露量の換算式に当てはめることでオゾン暴露量を算出する。具体的には、2つの参照領域間の色情報の差に対する検知領域の色情報といずれかの参照領域の色情報の差の比率を求め、2つの参照領域の既知のオゾン暴露量の差にその比率を乗算してオゾン暴露量を算出する。例えば、オゾン暴露量0ppbhに対応した色を帯びた色見本42の色情報であるRGB値が(40,120,200)、オゾン暴露量800ppbhに対応した色を帯びた色見本44のRGB値が(200,200,200)であり、オゾン暴露量に応じて変色した検知紙41のRGB値が(160,180,200)であった場合、RGBのうち画素間でもっとも差の大きいRの値を用いて色見本42,44の差に対する色見本42と検知紙41の差の比率を計算すると、
(160−40)/(200−40)=0.75
となる。色見本42,44に対応するオゾン暴露量の差は800ppbhであるので、検知紙41により測定されるオゾン暴露量は、
800×0.75=600ppbh
と計算される。このように、オゾン暴露量が未知の検知紙41をオゾン暴露量が既知である少なくとも2つ以上の色見本と同時に撮影することで、オゾン暴露量を算出することができる。インジゴカルミンを利用した検知紙41の場合、上記の算出方法を用いることで実際のオゾン暴露量と非常によく一致することが確認されている。
【0038】
また、目視によりオゾン濃度を測定する場合は、検知紙41を1回使用したら取り替える必要があったが、算出したオゾン暴露量をガス濃度測定装置10の記憶装置に格納しておき、今回のオゾン暴露量と前回のオゾン暴露量との差分を取ることで、前回と今回の間のオゾン暴露量を求めることができる。この結果、検知紙41が完全に白色化するまでは何度もオゾン暴露量を測定可能である。
【0039】
さらに、撮影時間をガス濃度測定装置10の記憶装置に格納することで、前回撮影時からの平均オゾン濃度を算出することができる。具体的には、ある時刻Aで算出したオゾン暴露量が500ppbhであり、時刻Aから2時間後の時刻Bで算出したオゾン暴露量が700ppbhと算出された場合、2時間のオゾン暴露量は200ppbhであるから、時刻A−B間の平均オゾン濃度は、200/2=100ppbとなる。
【0040】
次に、ガス濃度測定システムにおける暴露量を求める処理の流れについて図を用いて説明する。図7は、ガス濃度測定システムの暴露量を求める処理の流れを示すフローチャートである。なお、暴露量を求めた後、前回との差分と経過時間により平均ガス濃度を求める処理は前述の通りである。
【0041】
まず、画像入力装置30は、測定対象である検知紙41、色見本42,43,44、マーカー45A,45B,45C,45D、および余白領域40Aが入るようにガス濃度検知シート40を撮影し、撮影した電子画像データをネットワーク20を介してガス濃度測定装置10へ送信する。ネットワークインタフェース11は、電子画像データを受信し、メモリなどの記憶装置に記憶させる(ステップS701)。
【0042】
続いて、マーカー位置特定部121は、電子画像データを読み出し、マーカーの形状、色を電子画像データ内で検索することによりマーカー45A,45B,45C,45Dの位置を特定する(ステップS702)。
【0043】
続いて、配向検知部122は、特定したマーカー45A,45B,45C,45Dに基づき、電子画像データに対して相対座標を設定し、電子画像データ内の測定対象の配向(傾斜)を算出する(ステップS703)。
【0044】
続いて、照度補正処理部123は、余白領域40Aに対応する電子画像データ内の画素を縦方向、横方向に抽出し、電子画像データにおけるガス濃度検知シート40全体の照度の分布を表す分布パターンを算出する(ステップS704)。
【0045】
分布パターンを算出した照度補正処理部123は、その分布パターンを用いて、照度の分布がガス濃度検知シート40全体で均一となるように電子画像データを補正する(ステップS705)。
【0046】
続いて、ガス濃度算出部124は、補正した電子画像データの検知紙41と色見本42,43,44に対応する領域それぞれのRGB値を取得する(ステップS706)。取得するRGB値は、各領域における画素のRGB値の平均や最頻値など各領域のRGB値を統計処理することにより求める。
【0047】
そして、検知紙41のRGB値を色見本42,43,44のRGB値と比較し、色見本42,43,44に対応する既知のオゾン暴露量に基づいてガス濃度検知シート40周辺のオゾン暴露量を算出する(ステップS707)。
【0048】
図8は、マーカーを検知紙と色見本それぞれの角に付した例を示す図である。同図に示すマーカー45は、検知紙41の四隅、および各色見本42,43,44の四隅に配置した。各マーカー45で囲まれた四角形の部分が検知領域、参照領域となる。この場合でも、同図に示すように、撮影された電子画像データ上に各領域を指定するための相対座標を決めるX軸、Y軸を設定する。
【0049】
図9は、本実施の形態におけるガス濃度測定システムを用いた例を示す図である。ネットワーク20上にサーバーを設置し、ガス濃度測定装置10として利用する。サーバーは、データベースサーバー、webサーバー、画像処理サーバーの機能を有する。
【0050】
一方、オゾン濃度を測定するユーザーは、スキャナ30A、デジタルカメラ30B、あるいはwebカメラ30Cを用いて検知紙などを配置したガス濃度検知シート40を撮影し、ネットワーク20に接続されたパーソナルコンピュータ31により撮影した電子画像データをガス濃度測定装置10にアップロードする。電子画像データをアップロードする際には、パーソナルコンピュータ31によりwebサーバーにアクセスし、ユーザー名、パスワードを入力してログインする。
【0051】
アップロードされた電子画像データはユーザー毎のデータベースに格納される。電子画像データのヘッダ部分に記録された撮影時刻のデータもデータベースに記録される。
【0052】
ガス濃度測定装置10は、格納された電子画像データを処理してオゾン暴露量を算出する。別の電子画像データが送られた場合は、その前の電子画像データから算出したオゾン暴露量および撮影時間の間隔によりその間の平均オゾン濃度を算出する。測定場所を登録することで、測定地点毎のデータを区別してデータベースに記録してもよい。
【0053】
算出されたオゾン濃度は、ネットワーク20に接続されたウェブサイト50でグラフ表示されるようにしてもよい。ユーザーが算出されたオゾン濃度をデータベースからダウンロードできる機能を有するものでもよい。
【0054】
また、webカメラ30Cを接続したパーソナルコンピュータ31を利用して、一定時間毎に電子画像データを取得し、ガス濃度測定装置10へアップロードすることで、無人でのリアルタイム連続測定が可能となる。
【0055】
さらに、カメラ付き携帯電話30Dを用いて、メールに電子画像データを添付してガス濃度測定装置10へ送信してもよい。そして、ガス濃度測定装置10が算出したオゾン濃度をメールですぐに受信することもできる。
【0056】
図10は、本実施の形態におけるガス濃度測定システムを用いた別の例を示す図である。同図に示すように、パーソナルコンピュータにプログラムを実行させてガス濃度測定装置10として利用し、ネットワークを介さずに電子画像データを入力するものでもよい。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態によれば、オゾン暴露量に応じて変色する検知紙41と既知のオゾン暴露量に対応する色を帯びた色見本42,43,44とを配置したガス濃度検知シート40を画像入力装置30により撮影し、ガス濃度測定装置10により、検知紙41の色情報と色見本42,43,44の色情報とを比較し、オゾン濃度を算出することにより、大型で高価な装置を用いることなく、オゾン濃度を測定することができる。
【0058】
本実施の形態によれば、ガス濃度検知シート40にマーカー45A,45B,45C,45Dを配置し、ガス濃度検知シート40を撮影した電子画像データ上に、マーカー45A,45B,45C,45Dに基づいて相対座標を設定することにより、撮影サイズ、撮影角度、画像の回転を考慮して電子画像データを解析することができるので、撮影者は撮影に気をつかうことなく気軽に利用できる。また、ガス濃度検知シート40の余白領域の色情報を抽出して照度の分布パターンを求め、その分布パターンが均一となるように電子画像データに画像処理を施すことにより、グラディエーションの付いた影や色むらにも対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】一実施の形態におけるガス濃度測定システムの構成を示すブロック図である。
【図2】上記ガス濃度測定システムにおけるガス濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図3】電子画像データに相対座標を設定した様子を示す図である。
【図4】歪んだ電子画像データに相対座標を設定した様子を示す図である。
【図5】電子画像データから照度の分布パターンを抽出する様子を示す図である。
【図6】別の電子画像データから照度の分布パターンを抽出する様子を示す図である。
【図7】上記ガス濃度測定システムの暴露量を求める処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】検知領域、参照領域の縁にマーカーを配置したガス濃度検知シートを示す図である。
【図9】上記ガス濃度測定システムを適用した例を示す概略図である。
【図10】上記ガス濃度測定システムを適用した別の例を示す概略図である。
【図11】従来のオゾン濃度測定器を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
10…ガス濃度測定装置
11…ネットワークインタフェース
12…電子画像処理部
121…マーカー位置特定部
122…配向検知部
123…照度補正処理部
124…ガス濃度算出部
13…出力インタフェース
20…ネットワーク
30…画像入力装置
31…パーソナルコンピュータ
40…ガス濃度検知シート
40A…余白領域
41…検知紙
41A…検知領域
42,43,44…色見本
45,45A,45B,45C,45D…マーカー
100…オゾン濃度測定器
111…台紙
112…検知紙
113,114,115…色見本

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの暴露量に応じて色が変化する検知領域と少なくとも2つの既知の暴露量に対応した色を帯びた参照領域と前記検知領域及び前記参照領域の位置を特定するマーカーとを有するガス暴露量検知手段と、
前記ガス暴露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付ける入力手段と、
前記画像データにおける前記マーカーの位置を特定することにより前記検知領域及び前記参照領域のそれぞれに該当する領域を特定する領域特定手段と、
前記画像データから前記検知領域及び少なくとも2つの前記参照領域に対応する位置の色情報を抽出する抽出手段と、
前記検知領域の色情報を前記参照領域の色情報と比較した相対値によって評価し、その相対値を換算式に当てはめることでガス暴露量を算出する算出手段と、
を有することを特徴とするガス濃度測定システム。
【請求項2】
前記画像データにおける前記マーカーの位置に基づいて当該画像データに相対座標を設定する配向検知手段を有し、
前記領域特定手段は、その相対座標に基づいて前記検知領域及び前記参照領域の位置を特定することを特徴とする請求項1記載のガス濃度測定システム。
【請求項3】
前記ガス暴露量検知手段は、前記検知領域及び前記参照領域の周囲に単一色の余白領域を有し、
前記画像データから前記余白領域の色情報を抽出し、前記余白領域の色情報に基づいて前記画像データの照度の分布パターンを求め、その分布パターンを均一化する画像処理を前記画像データに施す照度補正部を有することを特徴とする請求項1又は2記載のガス濃度測定システム。
【請求項4】
ガスの暴露量に応じて色が変化する検知領域と少なくとも2つの既知の暴露量に対応した色を帯びた参照領域と前記検知領域及び前記参照領域の位置を特定するマーカーとを有するガス暴露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付けるステップと、
前記画像データにおける前記マーカーの位置を特定することにより前記検知領域及び前記参照領域のそれぞれに該当する領域を特定するステップと、
前記画像データから前記検知領域及び少なくとも2つの前記参照領域に対応する位置の色情報を抽出するステップと、
前記検知領域の色情報を前記参照領域の色情報と比較した相対値によって評価し、その相対値を換算式に当てはめることでガス暴露量を算出するステップと、
を有することを特徴とするガス濃度測定方法。
【請求項5】
前記画像データにおける前記マーカーの位置に基づいて当該画像データに相対座標を設定するステップを有し、
前記特定するステップは、その相対座標に基づいて前記検知領域及び前記参照領域の位置を特定することを特徴とする請求項4記載のガス濃度測定方法。
【請求項6】
前記ガス暴露量検知手段は、前記検知領域及び前記参照領域の周囲に単一色の余白領域を有し、
前記画像データから前記余白領域の色情報を抽出し、前記余白領域の色情報に基づいて前記画像データの照度の分布パターンを求め、その分布パターンを均一化する画像処理を前記画像データに施すステップを有することを特徴とする請求項4又は5記載のガス濃度測定方法。
【請求項7】
前記マーカーは、前記検知領域及び前記参照領域の縁に配置されていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載のガス濃度測定方法。
【請求項8】
算出したガス暴露量を記憶手段に記憶させるステップと、
前回算出したガス暴露量を前記記憶手段から読み出して今回算出したガス暴露量との差分を取り、前回から今回までの期間における第2のガス暴露量を計算するステップと、
を有することを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載のガス濃度測定方法。
【請求項9】
前記ガス暴露量検知手段を撮影した撮影時刻を記憶手段に記憶させるステップと、
前回の撮影時刻と今回の撮影時刻を前記記憶手段から読み出して前記期間の長さを求め、前記第2のガス暴露量と前記期間の長さにより平均ガス濃度を算出するステップと、
を有することを特徴とする請求項8記載のガス濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−91470(P2010−91470A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262972(P2008−262972)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】