説明

電子素子搭載用基板および放熱装置

【課題】絶縁基板とアルミニウム層との接合界面に余剰ろう材が残存せず、かつ非対称形状に起因する熱ひずみを低減しうる電子素子搭載用基板を提供する。
【解決手段】絶縁基板(11)の一方の面に電子素子(18)を搭載するアルミニウム回路層(12)がろう付され、他方の面にアルミニウム層(13)がろう付された電子素子搭載用基板であって、前記アルミニウム層(13)の少なくとも絶縁基板(11)側の層が、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが130N/mm以下となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するためのアルミニウム回路層がろう付けされ、他方の面にアルミニウム層がろう付された電子素子搭載用基板、およびこの電子素子搭載用基板を用いた放熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子素子搭載用基板として、絶縁基板の一面側に金属回路層が接合したものが知られている。かかる基板において、絶縁基板は電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れているセラミックが用いられ、前記金属回路層は導電性が高くかつ前記絶縁基板と接合可能な金属として高純度アルミニウムが用いられ、これらはAl−Si系合金ろう材によってろう付される。また、前記絶縁基板の他方の面にはヒートシンクを積層して放熱装置が作製されることがある(特許文献1参照)。
【0003】
前記ヒートシンクは軽量性、強度維持、成形性、耐食性が要求されることから、Al−Mn系合金等の強度の高いアルミニウム合金を用いられ、前記絶縁基板とヒートシンクとの間に発生する応力を緩和するために、緩衝層としてのアルミニウム層を介してヒートシンクが接合される。また、前記放熱装置は絶縁基板の両面にアルミニウム回路層と緩衝層を介してヒートシンクを接合した非対称な形状であり、冷熱サイクルにおいて非対称形状に起因する熱ひずみが緩衝層に加わることで絶縁基板の割れや接合界面の剥がれへの影響が大きくなるという背景がある。このため、前記緩衝層は軟質で応力緩和力の大きい高純度アルミニウムが用いられ、前記金属回路層の接合と同じく、絶縁基板と緩衝層はAl−Si系合金ろう材によってろう付けされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−153075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4は、ろう付後の絶縁基板(11)と緩衝層(100)との接合界面の近傍を拡大して模式的に示した図である。図4に示すように、緩衝層(100)の表面を構成する結晶粒(101)(102)(103)(104)は必ずしも同じ高さで並んでいるのではなく不揃いの高さで並んでおり、隣接する結晶粒との間に段差が生じて絶縁基板(11)との間に隙間が生じる。結晶粒が大きくなると、前記隙間は絶縁基板(11)の表面に平行な方向の寸法が大きくなるだけでなく、前記段差(材料の積層方向の寸法)も大きくなることがわかっている。上述したように、絶縁基板(11)にろう付される緩衝層(100)の材料は高純度アルミニウムであって、高純度アルミニウムは再結晶粒が粗大化する傾向があるので隣接する結晶粒との間に生じる段差も大きくなっている。つまりは、結晶粒径が大きいことにより、結晶粒径の細かいものと比較して段差による体積が多くなることとなる。このため、前記緩衝層(100)を絶縁基板(11)にろう付すると、絶縁基板(11)の表面から緩衝層(100)側に退いた結晶粒(101)(103)の部分にろう材溜まり(105)が生じて余剰ろう材が接合界面に残存することになる。
【0006】
また、Al−Si系合金ろう材は緩衝層を構成する高純度アルミニウムよりも硬質であり、接合界面に硬いろう材溜まりが生じると冷熱サイクルにおいて応力が集中しやすくなるおそれがある。また、放熱装置が絶縁基板の両面で非対称な形状である以上、非対称形状に起因する熱ひずみの発生を防ぐ方策が要求される。このため、電子素子搭載用基板の冷熱耐久性の向上を図るためにも接合界面に余剰ろう材が残存しないこと、あるいは残存する余剰ろう材量が少ないことが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述した背景技術に鑑み、絶縁基板の両面にアルミニウム回路層とアルミニウム層がろう付された電子素子搭載用基板であって、絶縁基板とアルミニウム層との接合界面に余剰ろう材が残存せず、かつ非対称形状に起因する熱ひずみを低減しうる電子素子搭載用基板およびこの電子素子搭載用基板を用いた放熱装置の提供を目的とする。
【0008】
即ち、本発明は下記[1]〜[9]に記載の構成を有する。
【0009】
[1]絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付され、他方の面にアルミニウム層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム層の少なくとも絶縁基板側の層が、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが130N/mm以下となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されていることを特徴とする電子素子搭載用基板。
【0010】
[2]前記アルミニウム層は、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが130N/mm以下となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる無垢材で構成されている前項1に記載の電子素子搭載用基板。
【0011】
[3]前記アルミニウム層は、母材の絶縁基板側の面にろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが130N/mm以下となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる微細結晶層が積層された積層材で構成されている前項1に記載の電子素子搭載用基板。
【0012】
[4]前記微細結晶層の厚さが50〜600μmである前項3に記載の電子素子搭載用基板。
【0013】
[5]前記アルミニウム層の絶縁基板側の層を構成するアルミニウムは、アルミニウム純度が97.5〜99.9質量%のアルミニウムである前項1〜4のいずれかに記載の電子素子搭載用基板
[6]前記アルミニウム層の絶縁基板側の層を構成するアルミニウム合金は、少なくとも0.01〜0.8質量%のFeを含有するアルミニウム合金である前項1〜4のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0014】
[7]前記アルミニウ層の絶縁基板側の層を構成するアルミニウムまたはアルミニウム合金は金属化合物の平均粒径が3μm以下となされている1〜6のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0015】
[8]前項1〜7のいずれかに記載の電子素子搭載用基板に用いるアルミニウム層用材料の製造方法であって、
材料塊に対して複数パスの圧延を行う間に、330〜450℃で1〜8時間の中間焼鈍を行い、仕上げ圧延の圧下率を15〜40%とすることを特徴とするアルミニウム層用材料の製造方法。
【0016】
[9]前項1〜7のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の絶縁基板のアルミニウム層を緩衝層とし、この緩衝層上にヒートシンクが接合されていることを特徴とする放熱装置。
【発明の効果】
【0017】
上記[1]に記載の電子素子搭載用基板は、絶縁基板の一方の面にアルミニウム回路層がろう付され、他方の面にろう付されたアルミニウム層の少なくとも絶縁基板側の層は、結晶粒の平均粒径が10〜500μmに微細化され、かつ引張強さが130N/mm以下となされている。
【0018】
前記アルミニウム層は、結晶粒の微細化により、表面において隣接する結晶粒との間に生じる段差が小さいので、絶縁基板との接合界面に生じるろう材溜まりも小さくなる。あるいは、ろう材溜まりが発生しなくなる。また、結晶粒の微細化によって結晶粒界面積率が高くなるので、ろう材が結晶粒界に拡散し接合界面に残存するろう材が減少する。これらによって、接合界面に残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなる。そして、接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことによって冷熱サイクルにおけるろう材溜まりへの応力集中を防ぎ、かつ引張強さが130N/mm以下となされていることで十分な応力緩和力を得て非対称形状に起因する熱ひずみを低減することができるので、電子素子搭載用基板の冷熱耐久性を向上させることができる。
【0019】
上記[2]に記載の電子素子搭載用基板によれば、結晶粒の平均粒径および引張強さが規定された無垢材からなるアルミニウム層によって上記の冷熱耐久性向上効果を得ることができる。
【0020】
上記[3]に記載の電子素子搭載用基板によれば、母材の絶縁基板側の面に結晶粒の平均粒径および引張強さが規定された微細結晶層を積層した積層材からなるアルミニウム層によって上記の冷熱耐久性向上効果を得ることができる。
【0021】
上記[4]に記載の電子素子搭載用基板によれば、積層材の微細結晶層の厚さが50〜600μmに設定されているので、接合界面における余剰ろう材の低減効果および結晶粒界へのろう材拡散効果を十分に得て、上記の冷熱耐久性向上効果を得ることができる。
【0022】
上記[5][6]に記載の電子素子搭載用基板によれば、規定された組成の材料を用いることによって、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmであり、かつ130N/mm以下の引張強さを有するアルミニウム層を形成できる。
【0023】
上記[7]に記載の電子素子搭載基板によれば、アルミニウム回路層中の金属間化合物の平均粒径が3μm以下となされているため、結晶粒の平均粒径を10〜500μmに制御することが容易である。
【0024】
上記[8]に記載のアルミニウム層用材料の製造方法によれば、規定された条件で中間焼鈍を行い、かつ規定された圧下率で仕上げ圧延を行うことにより、ろう付後に結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなり、かつ130N/mm以下の引張強さを有する材料を作製することができる。
【0025】
上記[9]に記載の放熱装置によれば、電子素子搭載用基板の緩衝層の少なくとも絶縁基板側の層は結晶粒が微細化されかつ引張強さが規制されている。このため、絶縁基板と緩衝層との接合界面に残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなる。そして、接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことによって冷熱サイクルにおけるろう材溜まりへの応力集中を防ぎ、かつ引張強さが130N/mm以下となされていることで十分な応力緩和力を得て非対称形状に起因する熱ひずみを低減することができるので、放熱装置の冷熱耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる電子素子搭載用基板、およびこの電子素子搭載用基板を用いた放熱装置の仮組物を示す縦断面図である。
【図2】本発明にかかる電子素子搭載用基板において、ろう付後の絶縁基板とアルミニウム層(緩衝層)との接合界面およびその近傍を示す断面図である。
【図3】電子素子搭載用基板におけるアルミニウム層の他の実施形態を示す要部断面図である。
【図4】従来の電子素子搭載用基板において、ろう付後の絶縁基板とアルミニウム層(緩衝層)との接合界面およびその近傍を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は本発明の電子素子搭載用基板の一実施形態と、この電子素子搭載用基板を用いて作製する放熱装置の仮組物を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。
【0028】
電子素子搭載用基板(1)は、絶縁基板(11)と、この絶縁基板(11)の一方の面に重ねられた電子素子搭載用のアルミニウム回路層(12)とにより構成されている。図1の仮組物においては、前記絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との間にこれらを接合するためのろう材箔(14)が配置されている。また、放熱装置(2)の仮組物は、前記電子素子搭載用基板(1)の絶縁基板(11)の他方の面に緩衝層(13)を介して複数の中空部を有するチューブ型のヒートシンク(16)を重ねたものであり、絶縁基板(11)と緩衝層(13)との間、および緩衝層(13)との間ヒートシンク(16)との間には接合用のろう材箔(15)(17)が配置されている。前記緩衝層(13)は、絶縁基板(11)に対してアルミニウム回路層(12)の反対面にろう付される層であり、本発明におけるアルミニウム層に対応する。
【0029】
前記放熱装置(2)は前記仮組物を一括してろう付加熱され、その後アルミニウム回路層(12)上に電子素子(18)がはんだ付される。ろう付後の放熱装置(2)において、アルミニウム回路層(12)がろう付された絶縁基板(11)とヒートシンク(16)とは緩衝層(13)を介して熱的に結合され、電子素子(18)が発する熱はヒートシンク(16)に排熱される。
【0030】
本発明において、電子素子搭載用基板のアルミニウム層(緩衝層)は少なくとも絶縁基板側の層が結晶粒の平均粒径および引張強さが規定されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。図1に示した緩衝層(13)は前記アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる無垢材であり、図3に示した緩衝層(20)は母材(21)の絶縁基板(11)側の面に前記アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる微細結晶層(22)を積層した積層材であり、いずれも本発明の条件を満たしている。
【0031】
まず、無垢材からなる緩衝層(13)について詳述する。
【0032】
前記緩衝層(13)は、ろう付後に結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、高純度アルミニウムよりも微細化された結晶組織を有する。
【0033】
図2は、ろう付後の絶縁基板(11)と緩衝層(13)との接合界面およびその近傍を拡大して模式的に示した断面図である。図2に示すように、緩衝層(13)の表面を構成する結晶粒(31)(32)(33)(34)(35)(36)が必ずしも同じ高さで並んではいなくても、結晶粒が微細化されていることで隣接する結晶粒との間に生じる段差(材料の積層方向の寸法)も小さくなり、絶縁基板(11)の表面から緩衝層(13)側に退いた結晶粒(32)(34)の部分に生じるろう材溜まり(37)も小さくなる。あるいは、段差が無くなってろう材溜まりが発生しなくなる。
【0034】
結晶粒が小さくなると隣接する結晶粒との間に生じる段差が小さくなる理由は、以下のとおりである。
【0035】
結晶方位の異なる結晶粒は方向によって線膨張係数が異なる。このため、結晶方位の異なる結晶粒が隣接していると、それらの結晶粒はろう付中に線膨張係数の差によって相互に回転力または変形力を受ける。さらに、ろう付中の材料に加わる荷重や摩擦力等は結晶粒を回転させる力または変形させる力となって作用する。そして、結晶粒の回転角度が同じであっても結晶粒が大きくなるほどずれは大きくなり、結晶粒が小さくなるほどずれは小さくなる。また変形力を受ける場合おいても、大きい結晶粒で変形力を受けることで粒界でのずれが大きくなり、小さい結晶粒の粒界ではずれが小さくなる。隣接する結晶粒の段差はこのようなずれによって生じるために、結晶粒が小さくなるほど段差が小さくなる。
【0036】
従って、結晶粒が小さくなると、接合界面に残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなって、ろう材の使用量が抑えられる。また、結晶粒が細かいために結晶粒界面積率が高くなるので、結晶粒界に拡散するろう材量が増えることによっても絶縁基板(11)との接合界面に残存する余剰ろう材が減少する。
【0037】
また、前記絶縁基板(11)と緩衝層(13)との接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことは、冷熱サイクルにおいてろう材溜まりへの応力集中を防ぐ上でも好ましいことであり、電子素子搭載用基板(1)の冷熱耐久性を向上させることができる。
【0038】
ろう付後の緩衝層(13)において結晶粒の平均粒径が500μmを超えると上記効果が少なく、平均粒径が10μm未満ではろう付時にろう材による侵食が大きくなって接合性が低下するおそれがある。よって、本発明における緩衝層(13)のろう付後の結晶粒の平均粒径は10〜500μmとする。好ましい結晶粒の平均粒径は40〜450μmである。前記結晶粒の平均粒径はろう付後、即ちろう付加熱を受けることによって達成される平均粒径であるから、ろう付前の緩衝層(13)においては必ずしも平均粒径が上記範囲内であるとは限らない。本発明はろう付条件を限定するものではないが、ろう付条件として590〜620℃で5〜30分の加熱を推奨できる。
【0039】
前記緩衝層(13)は、結晶粒の平均粒径とともに引張強さが130N/mm以下に規定されている。130N/mm以下の引張強さに規定することで十分な応力緩和力を得て非対称形状に起因する熱ひずみを低減することができる。引張強さの低い材料の方が高い応力緩和力が得られるので本発明は引張強さの下限値を規定するものではないが、結晶粒の平均粒径が10〜500μmなる条件を満たす材料は45N/mm以上の引張強さを有することが多く、材料選定の容易性という観点から45N/mm以上の引張強さを推奨できる。好ましい引張強さは45〜120N/mmであり、特に好ましい引張強さは50〜110N/mmである。
【0040】
以上より、絶縁基板(11)と緩衝層(13)との接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことによって冷熱サイクルにおけるろう材溜まりへの応力集中を防ぎ、かつ緩衝層(13)の引張強さが130N/mm以下となされていることで十分な応力緩和力を得て非対称形状に起因する熱ひずみを低減することができるので、電子素子搭載用基板(1)および放熱装置(2)の冷熱耐久性を向上させることができる。
【0041】
前記緩衝層(13)における結晶粒の平均粒径および引張強さを制御する要因として、緩衝層(13)を構成する材料の化学組成、材料中の金属間化合物の粒径、材料の製造条件を挙げることができる。
【0042】
前記緩衝層(13)を構成する材料の一つとして、アルミニウム純度が97.5〜99.9質量%のアルミニウムを推奨できる。アルミニウム純度が99.9質量%を超えて高くなると結晶粒が粗大化するおそれがあり、アルミニウム純度が97.5質量%未満では引張強さが高くなって130N/mm以下の引張強さを実現することが困難になる。特に好ましいアルミニウム純度は97.5〜99質量%である。また、前記緩衝層(13)を構成するもう一つの材料として、結晶粒を微細化する効果のあるFeを0.01〜0.8質量%含有するアルミニウム合金を推奨できる。Fe濃度が0.01質量%未満では結晶粒の微細化効果が少ない。一方、0.8質量%を添加すれば十分な結晶粒微細化効果が得られるので、0.8質量%を超えるFeの添加は不経済である。特に好ましいFe濃度は0.1〜0.6質量%である。前記アルミニウム合金の残部はAlおよび不可避不純物であるが、少なくとも0.01〜0.8質量%のFeを含有していれば結晶粒微細化効果が得られるので、アルミニウム純度が97.5質量%以上であればFe以外の不純物元素を含有することが許容される。
【0043】
前記緩衝層(13)を構成するアルミニウムまたはアルミニウム合金において、金属間化合物の平均粒径が3μm以下であることが好ましい。金属間化合物の平均粒径が3μmを超えると結晶粒を所定の大きさに制御することが困難になる傾向があり、また大きな金属間化合物が絶縁基板(11)と緩衝層(13)との接合界面に多く存在する状態はろう付による接合信頼性を維持する上で好ましいことではない。このため、結晶粒制御の容易性および接合信頼性の観点から、金属間化合物の平均粒径は3μm以下が好ましい。特に好ましい金属間化合物の平均粒径は1μm以下である。
【0044】
上述したアルミニウムおよびアルミニウム合金は、高い導電性および熱伝導性を有し、かつ絶縁基板(11)とのろう付性が良好であるから、絶縁基板(11)にろう付される材料としての条件を満たしている。
【0045】
また、図1に示した緩衝層(13)は応力吸収空間として複数の円形貫通穴を有するパンチングメタルであるが、本発明において緩衝層における応力吸収空間の有無や形状は任意に設定することができる。
【0046】
前記緩衝層(13)は薄板状であり、例えば、材料塊に対して熱間圧延、冷間圧延、仕上げ圧延の複数パスの圧延を行うことにより作製される。結晶粒の平均粒径を10〜500μmの範囲に微細化しかつ130N/mm以下の引張強さを発現させ、かつ金属間化合物の平均粒径を1μm以下に制御するには、この作製工程において中間焼鈍条件および仕上げ圧延の圧下率を規定することが有効である。中間焼鈍は330〜450℃で1〜8時間保持することが好ましい。330℃未満または1時間未満の焼鈍では結晶粒が過度に微細化されるおそれがあり、450℃超または8時間超の焼鈍はエネルギーコストの点で不経済である。中間焼鈍の特に好ましい条件は350〜420℃で2〜6時間である。また、前記条件による中間焼鈍を行う時期は熱間圧延後もしくは仕上げ圧延前が好ましい。仕上げ圧延の圧下率は15〜40%が好ましい。15%未満の圧下率では再結晶せずろう付時に侵食が大きくなるおそれがあり、40%超の圧下率では結晶粒が過度に小さくなるおそれがある。特に好ましい圧下率は15〜30%である。仕上げ圧延は単パス、複数パスのどちらで行っても良く、仕上げ圧延を複数パスで行う場合の圧下率は合計の圧下率である。
【0047】
余剰ろう材および非対称形状に起因する熱ひずみは絶縁基板と緩衝層との接合界面で生じる問題であるから、緩衝層は少なくとも絶縁基板側の層における結晶粒径および引張強さが上述した範囲内となされた材料で構成されていれば、接合界面で生じるこれらの問題を解消することができる。従って、緩衝層として図1の無垢材(13)の他に、図3に示した積層材(20)を用いることができる。
【0048】
図3に示した緩衝層(20)は、母材(21)の絶縁基板(11)側の面に微細結晶層(22)が積層された積層材であり、微細結晶層(22)は上述した無垢材による緩衝層(13)と同じく、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが130N/mm以下となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されている。このような積層材はクラッド圧延材であっても良いし、2つの層をろう付したろう付積層材であっても良い。
【0049】
前記緩衝層(20)において、母材(21)の材料は微細結晶層(22)よりも軟質で応力緩和力の大きい材料で形成されていることが好ましく、アルミニウム純度が99.99質量%以上の高純度アルミニウムを推奨できる。また、前記微細結晶層(22)の厚さ(t)は接合界面における余剰ろう材の低減効果および結晶粒界へのろう材拡散効果を得るためには50μm以上であることが好ましい。また、厚さ(t)が600μmあれば十分に効果が得られるので、それ以上厚くするのは不経済である。特に好ましい微細結晶層(22)の厚さ(t)は150〜400μmである。前記母材(21)の厚さに制限はなく適宜設定すれば良い。
【0050】
前記緩衝層(20)がクラッド圧延材の場合は、周知のクラッド圧延材の製造方法に従い、母材材料と微細結晶層材料とを重ねて複数パスの圧延を行うことにより作製する。この工程において、無垢材の製造工程と同じく、330〜450℃で1〜8時間の中間焼鈍を行い、15〜40%の圧下率で仕上げ圧延を行うことによって微細結晶層(22)の結晶粒の平均粒径、引張強さ、金属間化合物の平均粒径を本発明が規定する範囲内に制御することができる。
【0051】
また、前記緩衝層(20)がろう付積層材である場合は、所定厚さに加工した母材(21)と微細結晶層(22)との間にろう材箔を挟んでろう付するか、微細結晶層(22)を心材としてろう材層をクラッドしたブレージングシートを作成し、このブレージングシートを母材(21)にろう付する方法を推奨できる。前者の場合は微細結晶層を作製する工程でにおいて、後者の場合はブレージングシートを作製する工程において、無垢材の製造工程と同じく、330〜450℃で1〜8時間の中間焼鈍を行い、15〜40%の圧下率で仕上げ圧延を行うことによって微細結晶層(22)の結晶粒の平均粒径、引張強さ、金属間化合物の平均粒径を本発明が規定する範囲内に制御することができる。また、前記ろう材はAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金等のろう材を用いる。上述したろう付積層材のろう付は、図1に示した電子素子搭載基板(1)、あるいは放熱装置(2)を仮組みする際に他の部材とともに一括してろう付することができる。
【0052】
前記電子素子搭載用基板(1)および放熱装置(2)を構成する他の部材の好ましい材料は以下のとおりである。
【0053】
絶縁基板(11)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0054】
アルミニウム回路層(12)は、導電性が高くかつ絶縁基板(11)との接合界面に発生する応力を緩和できるアルミニウムを用いることが好ましく、前記緩衝層(13)と同等のアルミニウムまたはアルミニウム合金、あるいは高純度アルミニウムを使用することが好ましい。
【0055】
ヒートシンク(16)を構成する金属は、軽量性、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとしてAl−Mn系合金等のアルミニウム合金を推奨できる。ヒートシンク(16)は緩衝層(13)側の外面がフラットであれば緩衝層(13)と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、緩衝層(13)側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。ヒートシンクの他の形状として、平板、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、平板の他方の面にフィンを立設したヒートシンク、中空部内にフィンを設けたチューブ型ヒートシンク等を例示できる。
【0056】
前記ろう材箔(14)(15)(17)の材料は限定されないが、上述したアルミニウム回路層(12)、絶縁基板(11)、緩衝層(13)、ヒートシンク(16)の材料の接合に好適なろう材としてAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金を推奨できる。
【実施例】
【0057】
図1に参照される積層構造の電子素子搭載用基板(1)を含む放熱装置(2)を、緩衝層およびアルミニウム回路層の材料を変えて作製した。前記放熱装置(2)において積層した部材は、積層順に、アルミニウム回路層(12)、ろう材箔(14)、絶縁基板(11)、ろう材箔(15)、緩衝層(13)(20)、ろう材箔(17)、ヒートシンク(16)である。使用した部材の詳細は以下のとおりである。
【0058】
[緩衝層]
実施例1、2、比較例1、2の緩衝層(13)は図1に参照される無垢材で構成され、それぞれ表1に記載した濃度のFeを含み、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を用いた。緩衝層(13)用材料として、材料塊に対し、熱間圧延、冷間圧延、仕上げ圧延を施し、厚さ1.6mmの薄板を作製した。これらの薄板を作製する工程において、仕上げ圧延前で板厚が2.13mmのときに420℃×4時間の中間焼鈍を行い、仕上げ圧延を25%の圧下率で実施した。
【0059】
作製した緩衝層(13)用の薄板は28mm×28mmに切断し、さらに切削加工を施して直径2mmの円形の12個の貫通穴を形成したものを放熱装置(2)の仮組みに使用した。
【0060】
実施例3の緩衝層(20)は図3に参照される積層材の薄板で構成され、母材(21)の材料としてAl純度が99.99質量%の高純度アルミニウムを用い、微細結晶層(22)の材料として表1に記載したFeを含み、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を用いた。前記積層材はクラッド圧延材であり、最終的に母材(21)の厚さが1.3mm、微細結晶層(22)が300μmとなるように厚さを調節した母材材料と微細結晶層材料を重ね、複数パスの圧延を施して厚さ1.6mmのクラッド圧延材を作製した。このクラッド圧延材を作製する工程において、仕上げ圧延前で板厚が2.13mmのときに420℃×4時間の中間焼鈍を行い、仕上げ圧延を25%の圧下率で実施した。
【0061】
作製した緩衝層(20)用のクラッド圧延材は28mm×28mmに切断し、さらに切削加工を施して直径2mmの円形の12個の貫通穴を形成したものを放熱装置(2)の仮組みに使用した。
【0062】
[アルミニウム回路層]
アルミニウム回路層(12)の材料として、実施例1、2、比較例1、2はそれぞれの緩衝層(13)と同じ組成のアルミニウム合金を用い、実施例3は緩衝層(20)の微細結晶層(22)と同じ組成のアルミニウム合金を用いた。
【0063】
アルミニウム回路層(12)用材料として、材料塊に対し、熱間圧延、冷間圧延、仕上げ圧延を施し、厚さ0.6mmの薄板を作製した。これらの薄板を作製する工程において、緩衝層用材料と同じく、420℃×4時間の中間焼鈍を行い、仕上げ圧延を25%の圧下率で実施した。
【0064】
作製したアルミニウム回路層(12)用の薄板は28mm×28mmに切断したものを放熱装置(2)の仮組みに使用した。
【0065】
[他の部材]
前記緩衝層(13)(20)およびアルミニウム回路層(12)を除く部材は各例で共通のものを用いた。
【0066】
前記絶縁基板(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。前記ヒートシンク(16)はAl−1質量%Mn合金からなる扁平多穴チューブである。前記ろう材箔(14)(15)(17)は厚さ30μmのAl−10質量%Si−1質量%Mg合金箔である。
【0067】
[ろう付]
実施例1〜3および比較例1、2の仮組物を7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。
【0068】
[評価]
ろう付した放熱装置(2)について、実施例1、2、比較例1、2の緩衝層(13)、実施例3の緩衝層(20)の微細結晶層(22)の結晶粒の平均粒径、引張強さ、金属間化合物の平均粒径を調べた。また、断面観察により、絶縁基板(11)と緩衝層(12)(20)との接合界面における余剰ろう材(ろう材溜まり)の有無を調べた。
【0069】
さらに、ろう付した放熱装置(2)に対して125℃と−40℃の冷熱サイクル試験を2000サイクル行い、冷熱サイクル試験後の絶縁基板(11)と緩衝層(13)(20)との接合界面近傍の疲労破断を調べ、下記の基準で評価した。
【0070】
◎:破断がほとんど見られず極めて良好である
○:僅かに破断が見られるが良好である
×:破断が激しい
これらの評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示したように、緩衝層の絶縁基板側の面の材料として結晶粒の平均粒径および引張強さを所定範囲に制御することによって、絶縁基板との接合界面における余剰ろう材を無くし、かつ熱ひずみを十分に解消できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の電子素子搭載基板は、絶縁基板の一方の面にアルミニウム回路層がろう付され、他方の面に緩衝層を介してヒートシンクがろう付された放熱装置の製造に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1…電子素子搭載用基板
2…放熱装置
11…絶縁基板
12…アルミニウム回路層
13…緩衝層(アルミニウム層、無垢材)
14、15、17…ろう材箔
18…電子素子
16…ヒートシンク
20…緩衝層(アルミニウム層、積層材)
21…母材
22…微細結晶層(絶縁基板側の層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付され、他方の面にアルミニウム層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム層の少なくとも絶縁基板側の層が、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが130N/mm以下となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されていることを特徴とする電子素子搭載用基板。
【請求項2】
前記アルミニウム層は、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが130N/mm以下となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる無垢材で構成されている請求項1に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項3】
前記アルミニウム層は、母材の絶縁基板側の面にろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが130N/mm以下となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる微細結晶層が積層された積層材で構成されている請求項1に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項4】
前記微細結晶層の厚さが50〜600μmである請求項3に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項5】
前記アルミニウム層の絶縁基板側の層を構成するアルミニウムは、アルミニウム純度が97.5〜99.9質量%のアルミニウムである請求項1〜4のいずれかに記載の電子素子搭載用基板
【請求項6】
前記アルミニウム層の絶縁基板側の層を構成するアルミニウム合金は、少なくとも0.01〜0.8質量%のFeを含有するアルミニウム合金である請求項1〜4のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項7】
前記アルミニウ層の絶縁基板側の層を構成するアルミニウムまたはアルミニウム合金は金属化合物の平均粒径が3μm以下となされている1〜6のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の電子素子搭載用基板に用いるアルミニウム層用材料の製造方法であって、
材料塊に対して複数パスの圧延を行う間に、330〜450℃で1〜8時間の中間焼鈍を行い、仕上げ圧延の圧下率を15〜40%とすることを特徴とするアルミニウム層用材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の絶縁基板のアルミニウム層を緩衝層とし、この緩衝層上にヒートシンクが接合されていることを特徴とする放熱装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−89867(P2013−89867A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230869(P2011−230869)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】