説明

電子走査型レーダ装置、受信波方向推定方法及び受信波方向推定プログラム

【課題】過去制御サイクルのデータの使用や取得回数の増加による相関行列等の平均処理をしなくても、ターゲットの分離性能を向上できる。
【解決手段】移動体に搭載される電子走査型レーダ装置100であり、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信部と、送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成部と、ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理部22と、ビート信号に基づいて算出された複素数データに基づいて、複素数データの初期位相を補正し、補正後の複素数データに基づいて受信波の到来方向を算出する方位検出部28とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射された送信波に対するターゲットからの反射波を用いて、このターゲットの検出を行う、車載用に好適な電子走査型レーダ装置、受信波方向推定方法及び受信波方向推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波等のレーダを用いて、他車両(反射物、対象物、ターゲットともいう)からの反射信号に基づき、他車両と自車との距離と相対速度及び方位を測定する車載用検知装置が実用化されている。車載レーダとしては、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ、多周波CW(Continuous Wave)レーダ、及びパルスレーダ等の方式を利用した電子走査型のレーダが知られている。
【0003】
このような車載用レーダにおいて、ターゲット(反射物)からの到来波(受信波)方向を検出する信号処理技術としては、近年、少ないチャンネル数で高い分解能が得られるARスペクトル推定法(最大エントロピー法や線形予測法も含まれる)や、MUSIC(MUlitiple Signal Classification;多重信号分類)法などの高分解能アルゴリズムを使用したスペクトル推定法が用いられている(特許文献1,2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−275840号公報
【特許文献2】特開2009−156582号公報
【特許文献3】特開2009−162688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の発明では、検出精度を向上すると、記憶する過去相関行列数のメモリ量が大きくなることと、ターゲットの連結処理が煩わしくなる。
また、DSPやFPGA等の他のデバイスやプロセッサを用いることで、毎制御サイクルでのデータ取得数を上げることもできるが、コストがかかることに加え、それでも受信できる回数には限界があった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、高分解能アルゴリズムを適用した車載用レーダにおいて、過去制御サイクルのデータの使用や取得回数の増加による相関行列等の平均処理をしなくても、ターゲットの分離性能を向上できる車載レーダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上述した課題を解決するために、本発明は、移動体に搭載される電子走査型レーダ装置であり、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信部と、前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成部と、前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理部と、前記ビート信号に基づいて算出された複素数データに基づいて、前記複素数データの初期位相を補正し、補正後の前記複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出部と、を備えることを特徴としている。
【0008】
(2)また、本発明に係る電子走査型レーダ装置において、前記方位検出部は、前記ビート信号に基づいて算出された複素数データに、ゼロ値のチャンネル数を拡張させた後、空間フーリエ変換により前記複素数データを変換し、前記空間フーリエ変換後の空間周波数スペクトルの振幅を該振幅の最大値で正規化するようにしてもよい。
【0009】
(3)また、本発明に係る電子走査型レーダ装置において、前記方位検出部は、前記フーリエ変換後の空間周波数スペクトルが、狭幅角に所定波存在するか否かを判別し、狭幅角に所定波存在すると判別された場合、前記複素数データの初期位相補正を行うようにしてもよい。
【0010】
(4)また、本発明に係る電子走査型レーダ装置において、前記空間フーリエ変換後の空間周波数スペクトルが、狭幅角に所定波存在するか否かを判別し、狭幅角に所定波存在すると判別された場合、前記複素数データの初期位相を0度に補正するようにしてもよい。
【0011】
(5)また、本発明に係る電子走査型レーダ装置において、前記方位検出部は、前記初期位相の補正を行わなかった前記空間周波数スペクトルに対して、振幅が減衰するように補正を行うようにしてもよい。
【0012】
(6)また、本発明に係る電子走査型レーダ装置において、前記方位検出部は、前記初期位相の補正を行った前記空間周波数スペクトルに対して、逆フーリエ変換を行い、元の複素数データの次元に戻すようにしてもよい。
【0013】
(7)また、本発明に係る電子走査型レーダ装置において、前記方位検出部は、前記元の複素数データの次元に戻した後、チャンネル数を拡張させた複素数データで方位検知するようにしてもよい。
【0014】
(8)また、本発明に係る電子走査型レーダ装置において、前記方位検出部は、前記複素数データに基づいて前記受信波の波数を推定し、該推定の結果に基づいて、前記受信波の波数が所定波の場合に、前記複素数データの初期位相の補正を行うようにしてもよい。
【0015】
(9)また、本発明に係る電子走査型レーダ装置において、前記方位検出部は、前記初期位相が補正された複素数データに基づき、高分解能アルゴリズムにより、前記受信波の到来方向を算出するようにしてもよい。
【0016】
(10)また、本発明に係る電子走査型レーダ装置において、前記方位検出部は、前記初期位相が補正された複素数データに基づき、デジタル・ビーム・ファーミングにより、前記受信波の到来方向を算出するようにしてもよい。
【0017】
(11)上述した課題を解決するために、本発明は、移動体に搭載される電子走査型レーダ装置による受信波方向推定方法であり、受信部が、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信過程と、ビート信号生成部が、前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成過程と、周波数分解処理部が、前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理過程と、方位検出部が、前記ビート信号に基づいて算出された複素数データに基づいて、前記複素数データの初期位相を補正し、補正後の前記複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出過程と、を含むことを特徴としている。
【0018】
(12)上述した課題を解決するために、本発明は、移動体に搭載される電子走査型レーダ装置による受信波方向推定の処理をコンピュータに実行させるための受信波方向推定プログラムであり、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信する手順と、前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成する手順と、前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理する手順と、前記ビート信号に基づいて算出された複素数データに基づいて、前記複素数データの初期位相を補正し、補正後の前記複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出する手順と、を実行させる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、受信部が、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信する。そして、ビート信号生成部が、前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成する。そして、周波数分解処理部が、前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理する。そして、方位検出部が、前記ビート信号に基づいて算出された複素数データに基づいて、前記複素数データの初期位相を補正し、補正後の前記複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出するので、過去制御サイクルのデータの使用や取得回数の増加による相関行列等の平均処理をしなくても、ターゲットの分離性能を向上できる車載レーダを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態による電子走査型レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】送信信号と、ターゲットに反射された受信信号が入力された状態を示す図である。
【図3】受信アンテナにおける受信波の説明を行う概念図である。
【図4】ビート信号を周波数分解した結果であり、ビート周波数(横軸)とそのピーク値(縦軸)とを示すグラフである。
【図5】ピーク組合せ部24における上昇領域及び下降領域のビート周波数のマトリクスと、そのマトリクスの交点、すなわち上昇領域及び下降領域のビート周波数の組み合わせにおける距離及び相対速度とを示すテーブルである。
【図6】ターゲット群毎の距離及び相対速度と周波数ポイントを示すテーブルである。
【図7】同実施形態による電子走査型レーダ装置の第2の構成を示すブロック図である。
【図8】上昇領域及び下降領域それぞれのピークを組み合わせるためのテーブルを示す図である。
【図9】同実施形態による電子走査型レーダ装置の第3の構成を示すブロック図である。
【図10】上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定した結果を記憶するテーブルである。
【図11】同実施形態に係る分析モデルを説明する図である。
【図12】1波目のゲインと位相を説明する図である。
【図13】2波目のゲインと位相を説明する図である。
【図14】1波目と2波目を合成した場合のゲインと位相を説明する図である。
【図15】同実施形態に係る2波の受信波の初期位相関係に対するスペクトル推定の分離性能を説明する図である。
【図16】同実施形態に係る2波の受信波の分離について説明する図である。
【図17】初期位相φ1が−40[deg](φ2=40[deg])における2波の受信波を合成した実数部と虚数部の波形およびゲインを説明する図である。
【図18】初期位相φ1が0[deg](φ2=0[deg])における2波の受信波を合成した実数部と虚数部の波形およびゲインを説明する図である。
【図19】初期位相φ1が+50[deg](φ2=−50[deg])における2波の受信波を合成した実数部と虚数部の波形およびゲインを説明する図である。
【図20】1波目と2波目の初期位相を変化させた場合の合成初期位相の関係を説明する図である。
【図21】同実施形態に係る方位検知処理のフローチャートである。
【図22】同実施形態に係る初期位相補正処理のフローチャートである。
【図23】同実施形態に係る仮想チャンネルのデータに0を埋めて拡張する例を説明する図である。
【図24】同実施形態に係る初期位相補正条件を説明する図である。
【図25】同実施形態に係る初期位相補正後にIFFTした複素数データの一例を説明する図である。
【図26】改良共分散法によるスペクトル推定処理のフローチャートである。
【図27】バーグ法によるスペクトル推定処理のフローチャートである。
【図28】MFBLP法によるスペクトル推定処理のフローチャートである。
【図29】MUSIC法によるスペクトル推定処理のフローチャートである。
【図30】DBF法によるスペクトル推定処理のフローチャートである。
【図31】第2実施形態に係る方位検知処理のフローチャートである。
【図32】同実施形態に係る固有値計算について示す図である。
【図33】同実施形態に係る波数推定と方位検出をキャンセルする過程を有する波数推定の最大固有値判定、固有値の正規化、波数推定を行う処理のフローチャートである。
【図34】同実施形態に係る次数推定のキャンセルと次数の強制推定を有する波数推定の最大固有値判定、固有値の正規化、波数推定を行う処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
まず、本発明の実施形態に適用するARスペクトル推定法について示す。
ARスペクトル推定法は、MUSIC法と同じくスペクトルを推定するスペクトル推定法として知られており、ARモデル(自己回帰モデル)を用いた推定処理を行う。また、ARスペクトル推定法は、MUSICが部分空間法として分類されるときに、パラメトリック法として分類される。また、ARスペクトル推定法は、最大エントロピー法、線形予測法と呼ばれる場合もある。
【0022】
ARスペクトル推定法は、まず線形式によって示されるARモデルを用いてモデル化して、入力データに基づいた正規方程式(自己相関行列や共分散行列と呼ばれる行列と、右辺ベクトルや相互相関ベクトルと呼ばれるベクトルも含まれる)を作成する。さらに、正規方程式に基づいて、ARフィルタの係数(AR係数)と白色雑音の分散値を求めた後、そのAR係数と白色雑音の分散値を用いてパワースペクトルを求め推定する手法である。入力データには、時系列のデータの他、本発明のレーダのような空間方向のチャンネルデータでも適用できる。ARスペクトル推定法には、自己相関行列を用いた手法と共分散行列を用いた手法に大別され、自己相関行列を用いた手法として自己相関法(又は、ユールウォーカー法)とバーグ法があり、共分散行列を用いた方法として共分散法と改良共分散法がある。いずれの方法も本実施形態の適用が可能である。
【0023】
図1は、本実施形態による電子走査型レーダ装置の構成を示すブロック図である。図1の構成は、DBF(デジタル・ビーム・フォーミング)を使わない構成である。
図1に示すように、電子走査型レーダ装置100は、受信アンテナ1−1〜1−n、ミキサ2−1〜2−n、送信アンテナ3、分配器4、フィルタ5−1〜5―n、SW(スイッチ)6、ADC(A/Dコンバータ)7、制御部8、三角波生成部9、VCO10、信号処理部20を備える。
信号処理部20は、メモリ21、周波数分離処理部22、ピーク検知部23、ピーク組合せ部24、距離検出部25、速度検出部26、ペア確定部27、方位検出部28、ターゲット確定部29を備える。
【0024】
フィルタ5−1〜5−n各々は、それぞれミキサ2−1〜2−nにおいて生成された各受信アンテナ1−1〜1−nに対応したCh(チャンネル)1〜Chnのビート信号に対して帯域制限を行い、SW(スイッチ)6へ帯域制限されたビート信号を出力する。
SW6は、制御部8から入力されるサンプリング信号に対応して、フィルタ5−1〜5−n各々を通過した各受信アンテナ1−1〜1−nに対応したCh1〜Chnのビート信号を、順次切り替えて、ADC(A/Dコンバータ)7に出力する。
ADC7は、SW6から上記サンプリング信号に同期して入力される、各受信アンテナ1−1〜1−n各々に対応したCh1〜Chnのビート信号を、上記サンプリング信号に同期してA/D変換してデジタル信号に変換し、信号処理部20におけるメモリ21の波形記憶領域に順次記憶させる。
制御部8は、マイクロコンピュータなどにより構成されており、図示しないROMなどに格納された制御プログラムに基づき、図1に示す電子走査型レーダ装置全体の制御を行う。
なお、受信部とは、受信アンテナ1−1〜1−n、ミキサ2−1〜2−n、送信アンテナ3、フィルタ5−1〜5―n、SW(スイッチ)6、ADC(A/Dコンバータ)7である。また、ビート信号生成部とは、分配器4、三角波生成部9、VCO10である。
【0025】
[距離、相対速度、角度(方位)を検出する原理]
次に、本実施形態における信号処理部20において用いられる、電子走査型レーダ装置100とターゲットとの距離、相対速度、角度(方位)を検出する原理について概略を説明する。
図2は、送信信号と、ターゲットに反射された受信信号が入力された状態を示す図である。図2(a)は、送信信号対時間と受信信号対時間の関係を示す図である。図2(b)は、上昇領域及び下降領域の受信信号対周波数の関係を示す図である。
この図に示される信号は、図1の三角波生成部9において生成された信号をVCO10において周波数変調した送信信号と、その送信信号をターゲットが反射して、受信された受信信号である。この図の例では、ターゲットが1つの場合を示す。
図2(a)から判るように、送信する信号に対し、ターゲットからの反射波である受信信号が、ターゲットとの距離に比例して右方向(時間遅れ方向)に遅延されて受信される。さらに、ターゲットとの相対速度に比例して、送信信号に対して上下方向(周波数方向)に変動する。そして、図2(a)にて求められたビート信号の周波数変換(フーリエ変換やDTC、アダマール変換、ウェーブレッド変換など)後において、図2(b)に示されるように、ターゲットが1つの場合、上昇領域及び下降領域それぞれに1つのピーク値を有することなる。ここで、図2(a)は横軸が周波数、縦軸が強度を示す。
【0026】
周波数分解処理部22は、メモリ21に蓄積されたビート信号のサンプリングされたデータから、三角波の上昇部分(上り)と下降部分(下り)とのそれぞれについて周波数分解、例えばフーリエ変換などにより離散時間に周波数変換する。すなわち、周波数分解処理部22は、ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、ビート周波数毎に分解されたビート信号に基づいた複素数データを算出する。
その結果、図2(b)に示すように、上昇部分と下降部分とにおいて、それぞれの周波数分解されたビート周波数毎の信号レベルのグラフが得られる。
そして、ピーク検知部23は、図2(b)に示すビート周波数毎の信号レベルからピーク値を検出し、ターゲットの存在を検出するとともに、ピーク値のビート周波数(上昇部分及び下降部分の双方)をターゲット周波数として出力する。
【0027】
次に、距離検出部25は、ピーク組合せ部24が出力する上昇部分のターゲット周波数fuと、下降部分のターゲット周波数fdとから、次式(1)により距離を算出する。
【0028】
r={C×T/(2×Δf)}×{(fu+fd)/2} ・・・(1)
【0029】
また、速度検出部26は、ピーク組合せ部24が出力する上昇部分のターゲット周波数fuと、下降部分のターゲット周波数fdとから、次式(2)により相対速度を算出する。
【0030】
v={C/(2×f0)}×{(fu−fd)/2} ・・・(2)
【0031】
式(1)と式(2)の距離r及び相対速度vを算出する式において、
C:光速度
Δf:三角波の周波数変調幅
0:三角波の中心周波数
T:変調時間(上昇部分/下降部分)
u :上昇部分におけるターゲット周波数
d:下降部分におけるターゲット周波数
【0032】
次に、本実施形態における受信アンテナ1−1〜1−nについて示す。
図3は、受信アンテナにおける受信波の説明を行う概念図である。
この図に示されるように、受信アンテナ1−1〜1−nは、間隔dによりアレー状に配置される。受信アンテナ1−1〜1−nには、アンテナを配列している面に対する垂直方向の軸に対して角度θ方向から入射される、ターゲットからの到来波(入射波、すなわち送信アンテナ3から送信した送信波に対するターゲットからの反射波)が入力する。
このとき、その到来波は、受信アンテナ1−1〜1−nにおいて同一角度にて受信される。
この同一角度、例えば角度θ及び各アンテナの間隔dにより求められる位相差「dn−1×sinθ」が、各隣接する受信アンテナ間にて発生する。
その位相差を利用して、アンテナ毎に時間方向に周波数分解処理された値を、アンテナ方向にさらにフーリエ変換するデジタル・ビーム・フォーミング(DBF)や高分解能アルゴリズム等の信号処理にて上記角度θを検出することができる。
【0033】
[信号処理部20における受信波に対する信号処理]
次に、メモリ21は、ADC7により波形記憶領域に対して、受信信号がA/D変換された時系列データ(上昇部分及び下降部分)を、アンテナ1−1〜1−n毎に対応させて記憶している。例えば、上昇部分及び下降部分それぞれにおいて256個をサンプリングした場合、2×256個×アンテナ数のデータが、上記波形記憶領域に記憶される。
周波数分解処理部22は、例えばフーリエ変換などにより、各Ch1〜Chn(各アンテナ1−1〜1−n)に対応するビート信号それぞれを、予め設定された分解能に応じて周波数成分に変換することによりビート周波数を示す周波数ポイントと、そのビート周波数の複素数データを出力する。例えば、アンテナ毎に上昇部分及び下降部分それぞれが256個のサンプリングされたデータを有する場合、アンテナ毎の複素数の周波数領域データとしてビート周波数に変換され、上昇部分及び下降部分それぞれにおいて128個の複素数データ(2×128個×アンテナ数のデータ)となる。また、上記ビート周波数は周波数ポイントにて示されている。
ここで、アンテナ毎の複素数データには、上記角度θに依存した位相差があり、それぞれの複素数データの複素平面上における絶対値(受信強度あるいは振幅など)は等価である。
【0034】
ピーク検知部23は、周波数変換されたビート周波数の三角波の上昇領域及び下降領域それぞれ強度のピーク値を、複素数データを用いて信号強度(または振幅など)におけるピークから、予め設定された数値を超えるピーク値を有するビート周波数を検出することにより、ビート周波数毎のターゲットの存在を検出して、ターゲット周波数を選択する。
したがって、ピーク検知部23は、いずれかのアンテナにおける複素数データ又は、全アンテナの複素数データの加算値を周波数スペクトル化することにより、スペクトルの各ピーク値がビート周波数、すなわち距離に依存したターゲットの存在として検出することができる。全アンテナの複素数データの加算により、ノイズ成分が平均化されてS/N比が向上する。
【0035】
ピーク組合せ部24は、ピーク検知部23が出力する図4に示すビート周波数とそのピーク値について、上昇領域及び下降領域それぞれのビート周波数とそのピーク値をマトリクス状に総当たりにて組み合わせ、すなわち上昇領域及び下降領域それぞれのビート周波数を全て組み合わせて、順次、距離検出部25及び速度検出部26へ出力する。図4は、ビート信号を周波数分解した結果であり、ビート周波数とそのピーク値とを示すグラフである。ここで、図4は、横軸がビート周波数の周波数ポイントを示し、縦軸が信号のレベル(強度)を示している。
距離検出部25は、順次入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組み合わせのビート周波数を加算した数値によりターゲットとの上記距離rを、上述した式(1)により演算する。
また、速度検出部26は、順次入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組み合わせのビート周波数の差分によりターゲットとの上記相対速度vを、上述した式(2)により演算する。
【0036】
ペア確定部27は、入力される上記距離r、相対速度v及び下降、上昇のピーク値レベルpu、pdにより、図5に示すテーブルを生成し、ターゲット毎に対応した上昇領域及び下降領域それぞれのピークの適切な組み合わせを判定し、図6に示すテーブルとして上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定し、確定した距離r及び相対速度vを示すターゲット群番号をターゲット確定部29へ出力する。図5は、ピーク組合せ部24における上昇領域及び下降領域のビート周波数のマトリクスと、そのマトリクスの交点、すなわち上昇領域及び下降領域のビート周波数の組み合わせにおける距離及び相対速度とを示すテーブルである。図6は、ターゲット群毎の距離及び相対速度と周波数ポイントを示すテーブルである。図6にはターゲット群番号に対応して、距離、相対速度及び周波数ポイント(上昇領域及又は下降領域)が記憶されている。図5及び図6のテーブルは、ペア確定部27の内部記憶部に記憶されている。ここで、各ターゲット群は、方向が決定されていないため、電子走査型レーダ装置におけるアンテナアレーの配列方向に対する垂直軸に対して、受信アンテナ1−1〜1−nの配列方向に平行な横方向の位置は決定されていない。
【0037】
ここで、ペア確定部27は、例えば、前回の検知サイクルにて、最終的に確定した各ターゲットとの距離r及び相対速度vから今回の検知サイクルにて予測される値を優先してターゲット群の組み合わせの選択を行う等の手法を用いることもできる。
【0038】
方位検出部28は、後述するように受信波の複素数データの初期位相を補正する。方位検出部28は、初期位相補正後、高分解能アルゴリズムのARスペクトル推定処理やMUSIC法等を用いてスペクトル推定処理を行う。方位検出部28は、スペクトル推定の結果に基づいて対応するターゲットの方位を検出し、ターゲット確定部29へ出力する。
【0039】
ターゲット確定部29は、ペア確定部27が出力する距離r、相対速度v、周波数ポイントと、方位検出部28によって検出されたターゲットの方位とを用いて、ターゲットを確定する。
【0040】
図7は、本実施形態による電子走査型レーダ装置の第2の構成を示すブロック図である。図7の構成は、DBF(デジタル・ビーム・フォーミング)を使わない且つFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式における三角波の上り(上昇)と下り(下降)の両方で方位検知してからペア確定する構成である。
図7に示すように、電子走査型レーダ装置100aは、受信アンテナ1−1〜1−n、ミキサ2−1〜2−n、送信アンテナ3、分配器4、フィルタ5−1〜5―n、SW(スイッチ)6、ADC(A/Dコンバータ)7、制御部8、三角波生成部9、VCO10、信号処理部20aを備える。
信号処理部20aは、メモリ21、周波数分離処理部22a、ピーク検知部23a、ピーク組合せ部24a、距離検出部25a、速度検出部26a、方位検出部28a、ターゲット確定部29aを備える。
【0041】
本実施形態における信号処理部20aは、図1と同様に、方位推定を高分解能アルゴリズムで行う。図1と同じ構成については、同一の符号を付し、以下図1との相違点について説明する。
信号処理部20aにおいて周波数分解処理部22aは、アンテナ毎の上昇領域と下降領域とのビート信号を複素数データに変換し、そのビート周波数を示す周波数ポイントと、複素数データとをピーク検知部23aへ出力する。また、周波数分解処理部22aは、上昇領域及び下降領域それぞれについて該当する複素数データを、方位検出部28aへ出力する。この複素数データが、上昇領域及び下降領域のそれぞれのターゲット群(上昇領域及び下降領域においてピークを有するビート周波数)となる。
【0042】
ピーク検知部23aは、上昇領域及び下降領域それぞれのピーク値と、そのピーク値の存在する周波数ポイントとを検出し、その周波数ポイントを周波数分解処理部22aへ出力する。
【0043】
方位検出部28aは、後述するように受信波の複素数データの初期位相を補正する。方位検出部28aは、初期位相補正後、高分解能アルゴリズムのARスペクトル推定処理やMUSIC法等を用いてスペクトル推定処理を行う。方位検出部28aは、スペクトル推定の結果に基づいて対応するターゲットの方位を検出する。方位検出部28aは、上昇領域及び下降領域の各々について角度θを検出し、図8に示すテーブルとしてピーク組合せ部24aへ出力する。図8は、上昇領域及び下降領域それぞれのピークを組み合わせるためのテーブルを示す図である。図8(a)は、上昇領域のテーブル、図8(b)は、下降領域のテーブルである。
【0044】
図8(a)に示すように、上昇領域のテーブルは、ターゲット群毎に角度1、角度2、・・・、および周波数ポイントfが関連づけられている。例えば、ターゲット群1は、角度1のt_ang1、角度2のt_ang、周波数ポイントのfが関連づけられている。
図8(b)に示すように、下降領域のテーブルは、ターゲット群毎に角度1、角度2、・・・、および周波数ポイントfが関連づけられている。例えば、ターゲット群1は、角度1のt_ang1、角度2のt_ang、周波数ポイントのfが関連づけられている。
【0045】
ピーク組合せ部24aは、方位検出部28aが出力するテーブルの情報を用いて、同様の角度を有する組み合わせを行い、上昇領域と下降領域とのビート周波数の組み合わせを距離検出部25a及び速度検出部26aへ出力する。
【0046】
距離検出部25aは、順次入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組み合わせのビート周波数を加算した数値によりターゲットとの距離rを、上述した式(1)により演算する。
速度検出部26aは、順次入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組み合わせのビート周波数の差分によりターゲットとの上記相対速度vを、上述した式(2)により演算する。
ここで、距離検出部25a及び速度検出部26aそれぞれは、距離と相対速度との値を、ビート周波数の上昇領域及び下降領域の組み合わせにて計算する。
【0047】
ターゲット確定部29aは、上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペア決め、ターゲットを確定する。
【0048】
図9は、本実施形態による電子走査型レーダ装置の第3の構成を示すブロック図である。図9の構成は、予めDBF(デジタル・ビーム・フォーミング)を行い方位検知してからペア確定する構成である。図9における信号処理部20bは、図1と異なり、ARスペクトル推定処理等の高分解能アルゴリズムに比べて分解能が低いDBF(Digital Beam Forming)を先に用いて方位推定を行い、その後に高分解能アルゴリズムで方位推定を行う。図1と同じ構成については、同一の符号を付し、以下、図1との相違点について説明する。
図9に示すように、電子走査型レーダ装置100bは、受信アンテナ1−1〜1−n、ミキサ2−1〜2−n、送信アンテナ3、分配器4、フィルタ5−1〜5―n、SW(スイッチ)6、ADC(A/Dコンバータ)7、制御部8、三角波生成部9、VCO10、信号処理部20bを備える。
信号処理部20bは、メモリ21、周波数分離処理部22b、ピーク検知部23b、ピーク組合せ部24b、距離検出部25b、速度検出部26b、ペア確定部27b、方位検出部28b、ターゲット確定部29b、DBF処理部30bを備える。
【0049】
信号処理部20bの周波数分解処理部22bは、メモリ21に蓄積されたビート信号のサンプリングされたデータから、三角波の上昇部分(上り)と下降部分(下り)とのそれぞれについて周波数分解により離散時間に周波数変換する。すなわち、周波数分解処理部22bは、ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、ビート周波数毎に分解されたビート信号に基づいた複素数データを算出し、DBF処理部30bに出力する。
【0050】
DBF処理部30bは、の周波数分解処理部22bが出力する各アンテナに対応した複素数データを、アンテナの配列方向にフーリエ変換し、すなわち空間軸フーリエ変換を行う。また、DBF処理部30bは、角度に依存する、すなわち角度分解能に対応した角度チャンネル毎の空間複素数データを計算し、ビート周波数毎にピーク検知部23bに出力する。これにより、DBF処理部30bから出力される角度チャンネル毎の空間複素数データ(ビート周波数単位)の示すスペクトルは、ビーム走査分解能による受信波の到来方向推定に依存したものとなる。
また、アンテナの配列方向にフーリエ変換されているため、角度チャンネル間にて複素数データを加算しているのと同じ効果を得ることができ、角度チャンネル毎の複素数データはS/N比が改善されており、ピーク値の検出における精度を、第1実施形態と同様に向上させることが可能となる。
上述した複素数データ及び空間複素数データともに、図1の構成と同様に、三角波の上昇領域及び下降領域の双方にて算出される。
なお、本実施形態のDBF処理部30bは、複素数データに基づいて、受信波を受信する所望の方向の受信感度を高めるデジタル・ビーム・フォーミング(DBF)に基づいてターゲットの存在及び方位を検出する。
【0051】
ピーク検知部23bは、DBF処理部30bによる処理の後に、DBF結果による角度チャンネル毎にピークの検出を行い、検出された各チャンネルのピーク値を、次のピーク組合せ部24bへ角度チャンネル毎に出力する。すなわち、16の分解能による空間軸フーリエ変換の場合、角度チャンネルの数は15となる。
ピーク組合せ部24bでは、図1の構成と同様に、上昇領域及び下降領域におけるピーク値のあるビート周波数とそのピーク値を組み合わせて、距離検出部25b及び速度検出部26bへ、角度チャンネル毎に出力する。
【0052】
ペア確定部27bは、距離検出部25b及び速度検出部26b各々から、順次入力される上記距離r及び相対速度vにより、図5のテーブルを角度チャンネル毎に生成し、図1の構成と同様に、ターゲット毎に対応した上昇領域及び下降領域それぞれの適切なピークの組み合わせを、角度チャンネル毎に判定する。ここで、DBFでの分解能では、ターゲットが複数の角度チャンネルにまたがって存在を示すので、近隣の角度チャンネル(マトリクス)との一致性も加味して、角度チャンネル毎に上昇領域及び下降領域それぞれのピークの適切な組み合わせを行うことができる。
そして、ペア確定部27bは、上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定し、確定した距離r及び相対速度vを示すターゲット群番号を生成し、図10に示すテーブルが作成する。図10は、上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定した結果を記憶するテーブルである。
ペア確定部27bは、距離r及び相対速度vのみでなく、それぞれのターゲットの角度チャンネルの情報が得られるため、縦位置と横位置を求めることができるため、図6のテーブルに対して縦位置と横位置が含まれた、今回の検知サイクルの各ターゲット群に対応する結果を有する図10に示すテーブルを生成する。
【0053】
方位検出部28bは、後述するように受信波の初期位相を補正する。方位検出部28bは、初期位相補正後、高分解能アルゴリズムを用いてターゲットの方位を検出する。これにより、方位検出部28bが行う高精度の方位検出に先立ち、分解能は低いが安定したビームスペクトルを示すDBFの方位検出を行うことにより、推定精度を向上させることができる。
また、方位検出部28bからの方位情報とDBF処理部30bからの方位情報とに基づいた論理積演算(AND論理)によって推定するようにしてもよい。この場合、方向検知の信頼度を向上させたり、互いの方位情報を分担したり、例えば、近距離では角度分解能が粗くて良いのでDBFの角度情報を用いたりできる効果を成す。
【0054】
ターゲット確定部29bは、ペア確定部27bから入力される図6の距離r、相対速度v、周波数ポイントと、方位検出部28bによって検出されたターゲットの方位とを結びつけてターゲットを確定する
【0055】
図11は、本実施形態に係る分析モデルを説明する図である。図11に示すように、車両201は、車両201の前方に電子走査型レーダ装置100を搭載している。また、車両201に搭載されている電子走査型レーダ装置100は、受信アンテナ1−1〜1−n、送信アンテナ3を備え、角度θ、−θで左右2つのターゲットからの反射波の受信している。また、車両201のレーダの正面方向をy方向、y方向と直交する方向をx方向とした場合、角度θは、y方向に対するなす角であり、受信アレーチャンネルの素子間隔による位相差で形成される複素正弦波(=複素数データ)は、次式(3)のように表すことができる(式(3)をモデル複素正弦波ともいう)。
【0056】
【数1】

【0057】
式(3)において、λは、搬送波の波長c/fである。またz(n)は、ランダム性ノイズを示している。また、φ1とφ2は、初期位相である。また、nは、チャンネル番号であり、dは、チャンネル素子間隔である。
また、小型かつ少チャンネル数で実現される車載用レーダでは、例えば、5チャンネルで分配したい角度における複素数データは、半周期程度しか捕れない複素正弦波となる。なお、角度θは、例えば、約2度である。
【0058】
[2波の受信波の初期位相の関係]
次に、2波の受信波の分離について、上述した式(3)のモデル複素正弦波にて説明する。ここで、説明を簡単にするために、式(3)のランダム性ノイズz(n)はゼロとする。
図12〜図14は、2波の合成を、合成初期位相φ0(=(φ1+φ2)/2)を0[deg]で、φ1=−φ2とした場合を例に説明する図である。図12は、1波目のゲインと位相を説明する図である。図13は、2波目のゲインと位相を説明する図である。図14は、1波目と2波目を合成した場合のゲインと位相を説明する図である。また、図12(a)〜図12(d)、図13(a)〜図13(d)、および図14(a)〜図14(d)、において、横軸のDATA POINTが0の位置は、チャンネル1であり、同様に、DATA POINTが1の位置は、チャンネル2であり、DATA POINTが2の位置は、チャンネル3であり、DATA POINTが3の位置は、チャンネル4であり、DATA POINTが4の位置は、チャンネル5である。
また、図12(a)〜図12(d)、図13(a)〜図13(d)、および図14(a)〜図14(d)において、横軸はDATA POINTである。また、図12(a)、図12(b)、図13(a)、図13(b)、図14(a)、および図14(b)において、縦軸は振幅の大きさである。また、図12(c)、図13(c)、および図14(c)において、縦軸はゲインの大きさである。また、図12(d)、図13(d)、および図14(d)において、縦軸は位相である。
なお、ゲインA(n)は、次式(4)である。
【0059】
A(n)=(DATAre(n)+DATAim(n)1/2 ・・・(4)
【0060】
式(4)において、符号DATAreは受信波の実数部、符号DATAimは受信波の虚数部である。また、nは、DATA POINTである。また、位相φ(n)は、次式(5)である。
【0061】
φ(n)=tan−1(DATAim(n)/DATAre(n))[deg]
・・・(5)
【0062】
図12(a)は、1波目の実数部と虚数部の波形を説明する図であり、図12(b)は、1波目の5チャンネルの範囲の実数部と虚数部の波形を説明する図である。また、図12(c)は、1波目の5チャンネルの範囲のゲインを説明する図であり、図12(d)は、1波目の5チャンネルの範囲の位相を説明する図である。
【0063】
図12(a)と図12(b)において、曲線301は受信波の実数部であり、曲線302は受信波の虚数部である。なお、振幅を1に正規化させた複素正弦波をモデルとして入力している。図12(c)において、曲線304はゲインである。また、図12(d)において、曲線306は、位相である。
図12(c)に示すように、曲線301と302とは位相が90[deg]ずれているため、DATA POINT=0〜4において、ゲインは1であり、変化しない。
図12(d)に示すように、DATA POINT=0の場合の位相が+60[deg]であるので、初期位相φ1は+60[deg]である。
【0064】
図13(a)は、2波目の実数部と虚数部の波形を説明する図であり、図13(b)は、2波目の5チャンネルの範囲の実数部と虚数部の波形を説明する図である。また、図13(c)は、2波目の5チャンネルの範囲のゲインを説明する図であり、図13(d)は、2波目の5チャンネルの範囲の位相を説明する図である。
【0065】
図13(a)と図13(b)において、曲線311は受信波の実数部であり、曲線312は受信波の虚数部である。図13(c)において、曲線314はゲインである。また、図13(d)において、曲線316は、位相である
図13(c)に示すように、曲線311と312とは位相が90[deg]ずれているため、DATA POINT=0〜4において、ゲインは1であり、変化しない。
図13(d)に示すように、DATA POINT=0の場合の位相が−60[deg]であるので、初期位相φ2は−60[deg]である。
【0066】
図14(a)は、1波目と2波目を合成した場合の実数部と虚数部の波形を説明する図であり、図14(b)は、1波目と2波目を合成した場合の5チャンネルの範囲の実数部と虚数部の波形を説明する図である。また、図14(c)は、1波目と2波目を合成した場合の5チャンネルの範囲のゲインを説明する図であり、図14(d)は、1波目と2波目を合成した場合の5チャンネルの範囲の位相を説明する図である。
【0067】
図14(a)と図14(b)において、曲線321は受信波の実数部であり、曲線322は受信波の虚数部である図14(c)において、曲線324はゲインである。また、図14(d)において、曲線326は、位相である。
図14(c)に示すように、DATA POINT=0の場合のゲインは1である。DATA POINT=1の場合のゲインは約0.4である。DATA POINT=2の場合のゲインは約0.3である。DATA POINT=3の場合のゲインは約0.9である。DATA POINT=4の場合は約1.5である。
図14(d)に示すように、DATA POINT=0の場合の合成初期位相φは0[deg](=(φ1+φ2)/2)である。
すなわち、図12〜図14のように、入力2波を合成した場合、ゲインと位相が共に変化する。
【0068】
図15は、本実施形態に係る2波の受信波の初期位相関係に対するスペクトル推定の分離性能を説明する図である。なお、図15は、合成初期位相φ0=0[deg]を一定にし、初期位相φ1とφ2を可変している。図15において、横軸は初期位相であり、1波目の受信波の初期位相φ1を示す(2波目の初期位相φ2=−φ1とする)。縦軸は2波の受信波が分離する確率である。また、図15において、曲線401は、受信波にノイズがない場合の初期位相対分離する確率であり、曲線402は、受信波にランダム性の小さなノイズがある場合の初期位相対分離する確率であり、曲線403は、受信波にランダム性の大きなノイズがある場合の初期位相対分離する確率である。なお、分離する確率とは、ランダム性ノイズを数多くのパターンで入力(受信)させ、分離性能の確率を算出したものである。
また、図15では、スペクトル推定としてAR(自己回帰モデル)の改良共分散法を用いている。
【0069】
図16は、本実施形態に係る2波の受信波の分離について説明する図である。図16(a)は、2波の受信波を分離できる例を説明する図であり、図16(b)は、2波の受信波を分離できない例を説明する図である。図16(a)、図16(b)において、横軸は角度、縦軸は受信信号のパワーである。図16(a)、図16(b)に示すように、判定角度範囲−a〜0間と0〜+a間を設け、その範囲に対応してピークP1とP2とが存在する場合のみ“分離できる”と定義する。すなわち、図16(a)は、判定角度範囲−a〜0間にピークP1があり、判定角度範囲0〜+a間にピークP2があるため、分離できると定義する。図16(b)は、判定角度範囲−a〜0間にピークP2があり、ピークP1は、判定角度範囲−a〜0間と0〜+a間の外のため、分離できないと定義する。
【0070】
図15に戻って、曲線401のように、受信波にノイズが無い場合、分離する確率は、改良共分散法の原理通りに初期位相には依存しないので全て分離できる。しかし、曲線402および403のように、受信波にノイズがある場合、特定の初期位相の箇所を中心に分離する確率(分離性能ともいう)が低下する。特定の箇所とは、図15に示すように、破線の丸411および421で囲んだように分離する確率が低下する初期位相φ1が約−40[deg]および約+50[deg]である。
このように、分離性能が低下する箇所は、実験により、2波の受信波の複素正弦波(及びゲイン)が左右対称となるポイントであることが確認できた。受信波の複素数データの初期位相は、データ取得毎に変動するので、特定の初期位相関係で受信すると、分離性能が低下することになる。
【0071】
図17は、初期位相φ1が−40[deg](φ2=40[deg])における2波の受信波を合成した実数部と虚数部の波形およびゲインを説明する図である。図18は、初期位相φ1が0[deg](φ2=0[deg])における2波の受信波を合成した実数部と虚数部の波形およびゲインを説明する図である。図19は、初期位相φ1が+50[deg](φ2=−50[deg])における2波の受信波を合成した実数部と虚数部の波形およびゲインを説明する図である。
図17(a)、図18(a)、および、図19(a)は、図12(b)、図13(b)、および、図14(b)と同様に、2波の受信波を合成した場合の5チャンネルの範囲の実数部と虚数部の波形を説明する図である。また、図17(b)、図18(b)、および、図19(b)は、図12(c)、図13(c)、および、図14(c)と同様に、2波の受信波を合成した場合の5チャンネルの範囲のゲインを説明する図である。
また、図17(a)、図17(b)、図18(a)、図18(b)、図19(a)、および、図19(b)、において、横軸はDATA POINTである。また、図17(a)、図18(a)、および、図19(a)において、縦軸は受信波の振幅の大きさである。また、図17(b)、図18(b)、および、図19(b)において、縦軸はゲインの大きさである。
【0072】
図17(a)において、曲線501は受信波の実数部であり、曲線502は受信波の虚数部である。図17(b)において、曲線504は、ゲインである。
図17(b)に示すように、DATA POINTが2(チャンネル3)の場合、ゲインは、最大の値である2、そしてDATA POINTの2に対してゲインは左右対称である。このように、ゲインが左右対象の場合、2波の受信波の実数部と虚数部の波形は、図17(a)に示すように、虚数部の振幅は0である。実数部の振幅は1.5〜2で、DATA POINTの2に対して左右線対称である。
【0073】
図18(a)において、曲線511は受信波の実数部であり、曲線512は受信波の虚数部である。図18(b)において、曲線514は、ゲインである。
図18(b)に示すように、DATA POINTが0(チャンネル1)で、ゲインは最大の値である2である。また、DATA POINTの4(チャンネル5)で、ゲインは最小の値である約0.2である。このように、ゲインが左右対象ではない場合、2波の受信波の実数部と虚数部の波形は、図18(a)に示すように、虚数部の振幅は0である。また、実数部の振幅は2〜0.2で、DATA POINTの2に対して左右対称でない。
【0074】
図19(a)において、曲線521は受信波の実数部であり、曲線522は受信波の虚数部である。図19(b)において、曲線524は、ゲインである。
図19(b)に示すように、DATA POINTが2(チャンネル3)の場合、ゲインは、最小の値である0、そしてDATA POINTの2に対してゲインは左右対称である。このように、ゲインが左右対象の場合、2波の受信波の実数部と虚数部の波形は、図19(a)に示すように、虚数部の振幅は0である。また、実数部の振幅は約1.3〜−1.3で、DATA POINTの2に対して左右点対称である。
【0075】
図15に戻って、初期位相φ1(φ2=−φ1)を変化させて計算した結果、同じように左右対称ポイントで分解性能が低下する。また、スペクトル推定アルゴリズムとして、改良共分散法だけでなく、同じARの共分散法、バーグ法(Burg Method)、MFBLP(odified forward backward linear prediction method;改良前向き後向き線形予測法)法や、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法やDBF(デジタル・ビーム・フォーミング)等のスペクトル推定全般に分離性能の低下が発生する。また、バーグ法の分離性能は、元から初期位相に影響するが、さらに低下する。
従って、2波の受信波の(相対)初期位相関係を、複素正弦波(及びゲイン)が左右対称にならない位置に補正すれば、分離性能が低下しない。
【0076】
図20は、1波目と2波目の初期位相を変化させた場合の合成初期位相の関係を説明する図である。
図20において、横軸は1波目の初期位相φ1であり、縦軸は2波目の初期位相φ2である。また、図20において、符号701と符号705は、合成初期位相φ0が40[deg]と−40[deg]の場合の1波目と2波目の初期位相の関係であり、符号702と符号704は、合成初期位相φ0が20[deg]と−20[deg]の場合の1波目と2波目の初期位相の関係である、また、符号703は、合成初期位相φ0が0[deg]の場合の1波目と2波目の初期位相の関係である。
ここで、図15に示した2波の初期位相に対する分離性能は、実験により、合成初期位相φ0以外でも同じ結果が得られることが確認できた。
図20に示したように、例えば、合成初期位相φ0=40[deg]の場合のφ601と合成初期位相φ0=0[deg]の場合のφ602は、同じ分離性能を示す。
このため、2波の初期位相による影響を考慮するには、1つの合成初期位相のみに着目して、2波の初期位相φ1とφ2を可変した特性から検出することができる。
例えば、合成初期位相φ0と、位相φ1とφ2の関係が変化する実際の複素数データにおいて、実際に図20のφ601の位置に位相φ1とφ2、及び合成初期位相φ0がある場合、初期位相φ1’、φ2’、およびφ0’を次式(6)〜(8)のように変換を行う。
【0077】
φ1’=φ1−φ0 ・・・(6)
【0078】
φ2’=−φ1’ ・・・(7)
【0079】
φ0’=0 ・・・(8)
【0080】
このように、2波の受信波の初期位相による影響を検出する場合、1つの合成初期位相に変換して(この場合、合成初期位相φ0=0)、2波の受信波の初期位相φ1、φ2を可変した特性を確認することができる。
【0081】
[方位検知処理]
次に、本実施形態に係る電子走査型レーダ装置の方位検知処理について説明する。
図21は、本実施形態に係る方位検知処理のフローチャートである。図21の処理は、検知されたターゲットにより方位検出部に送られる複素数データ別に、毎制御サイクル(例えば、100[msec]毎に)繰り返されている。
まず、ステップS101において、周波数分解処理部22(または、22a,22b、以下、周波数分解処理部22という)は、反射物(ターゲット)の距離ポイントに該当する周波数分解された複素数データを抽出する。
ステップS102において、方位検出部28(または、28a,28b、以下、方位検出部28という)は、抽出された複素数データを用いて、初期位相補正処理を行う。
【0082】
[初期位相補正処理]
次に、図22を用いて、初期位相補正処理について説明する。
図22は、本実施形態に係る初期位相補正処理のフローチャートである。本実施形態では、初期位相補正処理は、フーリエ変換後、空間周波数領域での補正を行い、空間周波数領域での補正後、フーリエ逆変換を行う例を説明する。
方位検出部28は、まず、5チャンネル分のデータを抽出する。
【0083】
次に、ステップS102−1において、方位検出部28は、フーリエ変換の前に、既存チャンネルに、データを0で埋めた仮想チャンネルで拡張する。仮想チャンネルのデータを0で埋めて拡張する理由は、後ステップのフーリエ逆変換により元の次元に戻した時、位相補正による波形の広がりを吸収するためである。
図23は、本実施形態に係る仮想チャンネルのデータに0を埋めて拡張する例を説明する図である。図23において、横軸はチャンネル数(図12〜図14のDATA POINT)、縦軸は正規化した振幅のレベルである。図23に示すように、チャンネル数は、1〜16の16チャンネルであり(DATA POINTの0の位置がチャンネル1)、実線の四角804で囲んだ領域の5チャンネルは元のデータであり、受信した2波が合成されたデータである。図23に示すように、チャンネル1〜5の実数部の波形801は、チャンネル3に対して左右線対称である。また、チャンネル1〜5の虚数部の波形802のレベルは、0である。そして、方位検出部28は、破線の四角806で囲んだ領域の仮想チャンネル6〜16の実数部と虚数部のデータを0で埋める。
【0084】
次に、ステップS102−2において、方位検出部28は、(空間)フーリエ変換を行う(DBF処理となる)。ステップS102−2では、例えばFFTを行う。
次に、ステップS102−3において、方位検出部28は、(空間)フーリエ変換後の空間周波数スペクトルの振幅を、最大値で正規化する。
次に、ステップS102−4において、方位検出部28は、初期位相補正すべき正規化振幅レベル(初期位相補正条件ともいう)を判定する。
【0085】
図24は、本実施形態に係る初期位相補正条件を説明する図である。図24において、横軸は空間周波数スペクトルの角度チャンネル数、縦軸は正規化レベルである。図24に示すように、初期位相補正条件は、狭幅角に2波存在すると仮定すると、例えば連続3チャンネル閾値レベルを超えた場合にステップS102−4をYesとする。図24において、直線811は閾値であり、符号821〜835は、正規化されたサンプル値である。図24に示すように、破線で囲んだ四角の領域812には、閾値以上のレベルの信号が3チャンネル(符号827〜829)連続している。他のチャンネルの信号(破線の四角で囲んだ領域814(符号821〜826)、破線の四角で囲んだ領域816(符号830〜835)は、閾値以下である。このような信号レベルの場合、方位検出部28は、初期位相補正すべき正規化振幅レベルであると判定する。
【0086】
初期位相補正すると判断した場合(ステップ102−4;Yes)、ステップS102−5に進む。初期位相補正しないと判断した場合(ステップ102−4;No)、ステップS102−7に進む。
【0087】
初期位相補正すると判断した場合(ステップ102−4;Yes)、ステップS102−5において、方位検出部28は、該当角度チャンネルの初期位相補正を行う。
初期位相の補正は、次式(9)〜(12)を用いて、例えば、補正する角度チャンネルの位相が0[deg](つまり初期位相=0[deg])となるよう、補正する。
【0088】
【数2】

【0089】
【数3】

【0090】
【数4】

【0091】
【数5】

【0092】
式(9)〜(12)において、SPMre(n’)は、空間フーリエ変換後の実部、SPMim(n’)は、空間フーリエ変換後の虚部、n’ は、空間フーリエ変換後のチャンネルである。また、SPM(n’)は、空間フーリエ変換後のスペクトルの振幅、SPM’re(n’)は、初期位相補正後の実部、SPM’re(n’)は、初期位相補正後の虚部である。また、Kは、ゲイン補正係数(初期位相補正する角度チャンネルではK=1、残りの角度チャンネルではK=0.3等)、αは、空間フーリエ変換後の(初期)位相、βは、補正(初期)位相である。また、α+β=0[deg]は、0[deg]の補正値(φ=0[deg])を表している。
【0093】
次に、ステップS102−6において、方位検出部28は、残りの角度チャンネルのレベルを減衰させる。
初期位相補正は、例えば、補正する角度チャンネルの位相が0[deg](つまり初期位相=0[deg])となるよう、補正するが、補正前の初期位相値を算出してからβ値により初期位相値を分離性能の良い値にずらす方法でも良い。残りの角度チャンネルのゲイン補正係数Kは、例えば0.3の減衰できる係数とする。
【0094】
初期位相補正しないと判断した場合(ステップ102−4;No)、または、ステップS102−6終了後、ステップS102−7において、方位検出部28は、(空間)逆フーリエ変換を行い、元の複素数データの次元に戻す。
ステップS102−7では、例えばIFFTを行う(IDBF(逆デジタル・ビーム・フォーミング)処理となる)。
従って、初期位相補正をしないと判断した場合(ステップ102−4;No)、そのまま元の複素数データに戻される(2ターゲットの時も、初期位相補正なしで分離できる相対角度差では何の処理もしない)。
【0095】
図25は、本実施形態に係る初期位相補正後にIFFT(逆フーリエ変換)した複素数データの一例を説明する図である。図25において、横軸はチャンネル数、縦軸は信号の振幅の大きさである。波形851は実数部、波形852は虚数部である。
図25に示すように、初期位相補正後の実数部851は、実線の四角で囲んだ領域853において、チャンネル2を対して左右線対称ではなくなっている。このため、前述したように分離する確率が悪化しないため、良好に分離可能であり、初期位相補正した5チャンネルを取り出すことができる。なお、5チャンネル以上取り込み、データを拡張してスペクトル推定することも可能である。
【0096】
図21に戻り、ステップS103において、方位検出部28は、スペクトル推定処理を行う。スペクトル推定処理は、後述するように改良共分散法処理、バーグ法処理、MFBLP法処理、MUSIC法処理、DBF処理などを用いる。
次に、ステップS104において、ターゲット確定部29(または29a,29b、以下、ターゲット確定部29という)は、推定されたスペクトルからピークを検出する。ターゲット確定部29は、ピークを検出されたターゲットとして判定し、ピークの数を検出されたターゲットの数として検知し、検知されたピークが示す角度を反射波が到来する到来角度として検知する。
【0097】
ステップS103で行うスペクトル推定処理について、改良共分散法、バーグ法、MFBLP法、MUSIC法、DBF法を用いた場合の処理の概要を以下に説明する。
【0098】
[改良共分散法処理]
図26は、改良共分散法によるスペクトル推定処理のフローチャートである。
まず、ステップS103−1Aにおいて、方位検出部28は、初期位相補正後の複素数データを用いて共分散行列と右辺ベクトルを生成し、正規方程式を作成する。
次に、ステップS103−2Aにおいて、方位検出部28は、コレスキー分解などの逆行列を解く高速アルゴリズムを利用し、ステップS103−3Aにおいて、作成した正規方程式を解いてAR係数を算出する。また、ステップS103−3Aにおいて、方位検出部28は、入力される白色雑音の分散σを算出する。
次に、ステップS103−4Aにおいて、方位検出部28は、AR係数と白色雑音の分散σに基づき、パワースペクトルを算出する。なお、方位検出部28は、過去のAR係数と、今回算出されたAR係数とのそれぞれに重み係数を乗算した後、これらのAR係数の平均化処理を行い、平均化処理されたAR係数と白色雑音の分散σに基づいて求めるようにしてもよい。
【0099】
次に、共分散行列を用いた正規方程式を次式(13)に示す。
【0100】
【数6】

【0101】
式(13)において、左辺が共分散行列CxxとAR係数ベクトルaの積であり、右辺が右辺ベクトルcxxである。
共分散行列Cxxと右辺ベクトルcxxの要素は、次式(14)として示される改良共分散関数によって導かれる。
【0102】
【数7】

【0103】
式(13)と式(14)において、行列とベクトルの各要素C(j、k)は、複素数を示す。また、式(14)において、*(アスタリスク)は、複素共役を示す。共分数行列Cは、次式(15)で示される関係があるため、エルミート行列(複素数対象行列)となる。
【0104】
【数8】

【0105】
改良共分散法における改良共分散関数の式(14)を、共分散関数の次式(16)に置き換えることにより、共分散法を適用することができる。
【0106】
【数9】

【0107】
また、白色雑音の分散σを導く関係式は、次式(17)である。
【0108】
【数10】

【0109】
ARモデルによる線形予測では、予測値と観測値の差(予測誤差)の最小2乗誤差か、または平均2乗誤差が最小となる条件から、この正規方程式が導かれる。
この正規方程式を一般的な手法により解くことにより、AR係数が導かれる。
また、式(17)によって算出される入力白色雑音の分散σに基づいて、パワースペクトルSxx(ω)を算出する演算式を式(18)として示す。
【0110】
【数11】

【0111】
式(18)において、ωは角速度を示し、HAR(ω)は、角速度ωにおけるARフィルタの伝達関数からの周波数特性を示し、Svv(ω)は、角速度ωにおける入力白色雑音のパワースペクトルを示し、Svv(ω)=σ2と表せる。ここの角速度ωは、本発明のレーダのような方向検出に利用する場合には、受信波の位相差に換算する。
以上に示した演算式を用いることにより、ターゲットの方向と合致したピークの特徴を持つスペクトルを導くことができる。
【0112】
[バーグ法処理]
図27は、バーグ(Burg)法によるスペクトル推定処理のフローチャートである。
バーグ法処理そのものは、一般的に用いられているため(例えば、池原、島村、「MATLABマルチメディア信号処理 上 ディジタル信号の基礎」、倍風館、2004年)、本実施形態において必要な箇所のみ説明する。
まず、方位検出部28は、初期位相補正後の複素数データを用いて、次式(19)に示すような正規方程式を生成する。
【0113】
【数12】

【0114】
式(19)において、aハット(i)(i=1、・・・、M)はAR係数、Mは次数、rハットは、自己相関行列と右辺ベクトルの各要素である。
式(19)の正規方程式を解くには、ステップS103−1Bにおいて、方位検出部28は、バーグの反射係数によるレビンソン・ダービンの再帰式を用いて、次数を上げながら正規方程式を解く。
次に、ステップS103−2Bにおいて、方位検出部28は、正規方程式を解くことでAR係数を算出する。また、入力白色雑音の分散σは、バーグ法の場合、AR係数と同時に算出される。
次に、ステップS103−3Bにおいて、方位検出部28は、AR係数と白色雑音の分散σに基づき、パワースペクトルを、例えば式(18)により算出する。
【0115】
[MFBLP法処理]
図28は、MFBLP法によるスペクトル推定処理のフローチャートである。
まず、ステップS103−1Cにおいて、方位検出部28は、初期位相補正後の複素数データを用いて、例えば次式(20)のようなデータ行列Aとデータベクトルhとを作成する。
【0116】
【数13】

【0117】
式(20)において、*(アスタリスク)は、複素共役である。また、式(20)において、左辺はデータ行列AとAR係数のベクトルg[g、g、・・・、g(Tは転置行列である)との積であり、右辺はデータベクトルhである。
【0118】
次に、ステップS103−2Cにおいて、方位検出部28は、作成したデータ行列Aの特異値分解処理を行い、特異値を算出する。
【0119】
方位検出部28は、ステップS103−3Cにおいて、算出された特異値に基づいて、信号の波数を推定する。
ステップS103−4Cにおいて、方位検出部28は、算出した特異値分解結果に基づいて、信号部分空間とノイズ部分空間を分離する。
ステップS103−5Cにおいて、方位検出部28は、特異値分解による信号部分空間の擬似逆行列Aとデータベクトルhに基づいてAR係数aハットを次式(21)を用いて算出する。また、方位検出部28は、入力白色雑音の分散値σを、式(17)を用いて算出する。
【0120】
【数14】

【0121】
式(21)において、Aは、データ行列Aの疑似逆行列、Uは、データ行列Aの左特異ベクトル(AAの固有ベクトル)であり、Vは、データ行列Aの右特異ベクトル(AAの固有ベクトル)である。
【0122】
ステップS103−6Cにおいて、方位検出部28は、算出されたAR係数と入力白色雑音の分散に基づいてパワースペクトルを、例えば式(18)を用いて算出する。
【0123】
[MUSIC法処理]
図29は、MUSIC法によるスペクトル推定処理のフローチャートである。
MUSICの処理そのものは、一般的に用いられているため(例えば、菊間信良、アダプティブアンテナ技術、オーム社、2003年10月、特許文献2参照)、本実施形態において必要な箇所のみ説明する。
ステップS103−1Dにおいて、方位検出部28は、初期位相補正後の複素数データから相関行列(複素相関行列)を生成する。そして、方位検出部28は、前方のみの空間平均(Forward空間平均法)または前方/後方空間平均(Forward-Backward空間平均法)にて処理する。空間平均は、元の受信アンテナのアレーにおけるアンテナ数を、さらにアンテナ数が少ないサブアレーに分け、サブアレー同士を平均したものである。この空間平均法の基本原理は、相関のある波の位相関係は受信位置によって異なるので、受信点を適当に移動させて相関行列を求めれば、その平均効果により相関性干渉波の相関を抑圧する。一般的には受信アンテナのアレーを動かさずに、全体の受信アンテナのアレーから同じ配列を有するサブアレーを複数取り出し、それぞれの相関行列を平均する。
【0124】
方位検出部28は、次式(22)の前方の前方相関行列CRに対して、次式(23)の後方の後方相関行列CRを求めて、前方相関行列CRと後方相関行列CRとの対応する要素を次式(24)のように平均したものが前方/後方における要素の平均処理である。本実施形態では、5チャンネルアレーによる相関行列で示す。
【0125】
【数15】

【0126】
【数16】

【0127】
CRfb=(CR+CR)/2 ・・・(24)
【0128】
このように、前方/後方平均処理により求められた相関行列CRfbを、4チャンネルのサブアレーに分割(CRfb1とCRfb2)して平均し、受信波の到来方向の推定に用いる相関行列Rxxを求める。すなわち、前方/後方空間平均処理により求めた相関行列は次式(25)により表される。
【0129】
xx=(CRfb1+CRfb2)/2 ・・・(25)
【0130】
方位検出部28は、n本の受信アンテナ1−1〜1―nのアレーを、例えば2つのサブアレーに分割し、それぞれのサブアレーの行列の対応する要素を平均することにより、上記相関行列Rxxを求める。
次に、ステップS103−2Dにおいて、方位検出部28は、ステップS103−1Dにて得られた相関行列Rxxの固有値とそれに対応する固有ベクトルとを、次式(26)の方程式により導かれる次式(27)の特性方程式により成り立つ、固有値λ及び固有ベクトルeとして算出する。
【0131】
xxe=λe ・・・・(26)
【0132】
|Rxx−λI|=0 ・・・(27)
【0133】
なお、式(26)と(27)において、Iは、単位行列である。また、式(27)において、記号||は、行列式を表している。
次に、方位検出部28は、求めた固有値λから、ノイズ部分空間の固有ベクトルを抽出するために必要な到来波数の推定を行う(ステップS103−3D)。
次に、方位検出部28は、信号部分空間の固有ベクトルを除き(ステップS103−4D)、ノイズ部分空間のみとした固有ベクトルと、予め内部に設定されている方位角度毎の方向ベクトルとの内積演算を行うことにより、受信波の角度スペクトラムを作成する(ステップS103−5D)。
【0134】
[DBF法処理]
図30は、DBF(Digital Beam Forming)法によるスペクトル推定処理のフローチャートである。
DBFの処理そのものは、一般的に用いられているため(例えば、特許文献1〜3参照)、本実施形態において概略のみ説明する。
方位検出部28は、初期位相補正後の複素数データを用いて窓関数処理を行う(ステップS103−1E)。
次に、方位検出部28は、入力される各アンテナに対応した複素数データを、アンテ
ナの配列方向にフーリエ変換し、すなわち空間軸フーリエ変換を行う(ステップS103−2E)。
そして、方位検出部28は、角度に依存、すなわち角度分解能に対応した角度チャン
ネル毎の空間複素数データを計算し、ビート周波数毎に角度チャンネル毎の空間複素数データを示すスペクトルをピーク検知部23(または、23a、23b、以下、ピーク検知部23という)に対して出力する(ステップS103−3E)。
【0135】
以上のように、本実施形態では、スペクトル推定処理を行う前に、受信波の初期位相を振幅が左右対称ではない位相位置に補正することにより、受信波を分離できる確率を高めることができる。この結果、本実施形態によれば、過去制御サイクルのデータの使用や取得回数の増加による相関行列等の平均処理をしなくても、遠方の2ターゲットや近傍でも角度が狭い2ターゲットの分離性能を向上できる電子走査型レーダ装置を提供することができる。
【0136】
[第2実施形態]
本実施形態は、波数推定により、2波受信していることを条件に加えた例について説明する。
図31は、本実施形態に係る方位検知処理のフローチャートである。図31の処理は、検知されたターゲットにより方位検出部に送られる複素数データ別に、毎制御サイクル(例えば、100[msec])繰り返されている。
まず、ステップS201において、周波数分解処理部22(または22a、22b)は、反射物(ターゲット)の距離ポイントに該当する周波数分解された複素数データを抽出する。
【0137】
以下、ステップS202〜S206は、次数推定過程である。
ステップS202において、方位検出部28は、抽出された複素数データを用いて、用いるスペクトラム推定に応じた相関行列Rxxの作成を行う。なお、Rxxは、複素数データを要素とする改良共分数法の共分数行列Cxxであってもよい。
次に、ステップS203において、方位検出部28は、ステップS202にて得られた相関行列Rxxの固有値とそれに対応する固有ベクトルとを、上述した式(27)の固有方程式が成り立つ、固有値λ及び固有ベクトルeとして算出する。
【0138】
次に、ステップS204において、方位検出部28は、算出した相関行列Rxxの固有値の中から最大値となる最大固有値を抽出する。
次に、ステップS205において、方位検出部28は、得られた最大値を基準に各要素の値を正規化、すなわち、最大値で除算する。
次に、ステップS206において、方位検出部28は、後段に行うスペクトル推定処理を最適化するための波数を推定する。
【0139】
次に、ステップS207において、方位検出部28は、推定した波数から受信波が2か否かを判別する。
受信波が2であると判別された場合(ステップS207;Yes)、ステップS208において、方位検出部28は、初期位相補正処理を行う。なお、初期位相補正処理は、第1実施形態のステップS102−1〜S102−7と同様である。また、ステップS209において、初期位相補正処理後、方位検出部28は、スペクトル推定処理を行う。
受信波が2ではないと判別された場合(ステップS207;No)、ステップS209において、方位検出部28は、初期位相補正は行わずに、スペクトル推定処理を行う。なお、スペクトル推定処理は、第1実施形態と同様に、改良共分散法処理、バーグ法処理、MFBLP法処理、MUSIC法処理、DBF処理などを用いる。
【0140】
次に、ステップS210において、方位検出部28は、推定されたスペクトルからピークを検出する。ターゲット確定部28は、ピークを検出されたターゲットとして判定し、ピークの数を検出されたターゲットの数として検知し、検知されたピークが示す角度を反射波が到来する到来角度として検知する。
【0141】
なお、MFBLP法やMUSIC法等の特異値(固有値)分解するスペクトル推定アルゴリズムでは、次数推定処理のステップS201〜S206を追加せずに、それぞれの波数推定部で受信波数が2であることを判断するようにしてもよい。
【0142】
図32は、本実施形態に係る固有値計算について示す図である。
ユニタリ変換を行うことにより、実数の相関行列に変換することができ、以降におけるステップでの最も計算負荷の重い固有値計算が実数のみの計算とすることができ、大幅に演算負荷を軽減することができる。
本実施形態に示すように次数を3次とした場合には、ユニタリ変換による、エルミート行列の実数相関行列(対称行列)化は、次式(28)として示される演算式によって行うことができる(一般式は、非特許文献2、pp158-160を参照)。
【0143】
【数17】

【0144】
式(28)において、右肩に付したHは、エルミート転置を示す。また、Q、Qは、3次(M=3)を示す。
なお、このユニタリ変換を行うことにより、後段処理の固有値計算の負荷を軽減させることができ、また、信号相関抑圧効果も期待できる。そのため、ユニタリ変換による実数相関行列への変換を行わずに、次のステップにおける固有値計算も複素数で計算することも可能であるが、ユニタリ変換による実数相関行列への変換を実施することが望ましい。
また、固有値計算は、次式(29)、(30)である。
【0145】
xxue=λe ・・・(29)
【0146】
|Rxxue−λI|=0 ・・・(30)
【0147】
固有値計算は、固有ベクトルの処理を削減したもので良く、式(30)の特性方程式を直接解く他、任意の解法アルゴリズムを適用できる。例えば、ヤコビ法、ハウスホルダ法、QR法等の反復する計算タイプのアルゴリズムも適用できる。
【0148】
図33は、本実施形態に係る波数推定と方位検出をキャンセルする過程を有する波数推定の最大固有値判定、固有値の正規化、波数推定を行う処理のフローチャートである。図34は、次数推定のキャンセルと次数の強制推定を有する波数推定の最大固有値判定、固有値の正規化、波数推定を行う処理のフローチャートである。図33と図34において、同じ処理には同じ符号を用いている。
【0149】
図33に示すように、ステップS204−1において、方位検出部28は、算出した固有値λaが、最大固有値λmax_thであるか否かを判別する。
算出した最大固有値λaが、最大固有値λmax_thより大きいと判別された場合(ステップS204−1;Yes)、ステップS205に進む。算出した最大固有値λaが、最大固有値λmax_thより大きくないと判別された場合(ステップS204−1;No)、ステップS204−2に進む。
【0150】
算出した固有値λaが、最大固有値λmax_thより大きいと判別された場合(ステップS204−1;Yes)、ステップS205において、方位検出部28は、抽出した最大固有値λaを用いて、正規化を行う。
次に、ステップS206−1において、方位検出部28は、正規化した2番目の第2固有値λ2が、第1の所定のしきい値Th1未満であるか否かを判別する。
正規化した2番目の第2固有値λ2が、第1の所定のしきい値Th1未満であると判別された場合(ステップS206−1;Yes)、ステップS206−3に進む。正規化した2番目の第2固有値λ2が、第1の所定のしきい値Th1未満ではないと判別された場合(ステップS206−1;No)、ステップS206−2に進む。なお、第1の所定のしきい値Th1とは、予め波数1と2以上を判別できるように設定した値である。
【0151】
正規化した2番目の第2固有値λ2が、第1の所定のしきい値Th1未満であると判別された場合(ステップS206−1;Yes)、方位検出部28は、波数を1と推定する(ステップS206−3)。
【0152】
次に、ステップS206−2において、方位検出部28は、正規化した3番目の第3固有値λ3が、第2の所定のしきい値Th2未満であるか否かを判別する。
正規化した3番目の第3固有値λ3が、第2の所定のしきい値Th2未満であると判別された場合(ステップS206−2;Yes)、ステップS206−4に進む。正規化した3番目の第3固有値λ3が、第2の所定のしきい値Th2未満ではないと判別された場合(ステップS206−2;No)、ステップS206−5に進む。なお、第2の所定のしきい値Th2とは、予め波数2と3以上を判別できるように設定した値である。
【0153】
正規化した3番目の第3固有値λ3が、第1の所定のしきい値Th2未満であると判別された場合(ステップS206−2;Yes)、ステップS206−4において、方位検出部28は、波数を2と推定する。
正規化した3番目の第3固有値λ3が、第2の所定のしきい値Th2未満ではないと判別された場合(ステップS206−2;No)、ステップS206−5において、方位検出部28は、波数を3と推定する。
なお、本実施形態では、波数を1〜3のみ推定する例を説明したが、推定する波数は3以上であってもよい。
【0154】
算出した固有値λaが、最大固有値λmax_thより大きくないと判別された場合(ステップS204−1;No)、方位検出部28は、波数推定と方位検出処理をキャンセルし(ステップS204−2)、波数推定処理を終了する。この理由は、受信波が路面マルチパスである可能性があるためである。
【0155】
図34と、図33の処理の違いは、ステップS204−3である。
算出した固有値λaが、最大固有値λmax_thより大きくないと判別された場合(ステップS204−1;No)、ステップS204−3において、方位検出部28は、波数推定をキャンセルし且つ波数を強制的に指定する。ステップS204−3終了後、ステップS206−5に進む。
なお、図34では、ステップS204−3の処理後、方位検出部28は、波数を3に強制的に指定する例を示しているが、他の波数であってもよい。その場合は、指定された波数に応じて、ステップS206−3またはステップS206−4に進むようにしてもよい。
【0156】
以上のように、本実施形態によれば、予め受信波の波数が2であるとする条件を設け、受信波の波数が2である場合のみ、初期位相補正を行うようにしたので、初期位相補正したい受信波数の時のみ補正でき、初期位相を補正する条件の精度を上げることができる。この結果、本実施形態によれば、過去制御サイクルのデータの使用や取得回数の増加による相関行列等の平均処理をしなくても、遠方の2ターゲットや近傍でも角度が狭い2ターゲットの分離性能を向上できる電子走査型レーダ装置を提供することができる。
【0157】
なお、本実施形態では、FMCW方式の電子走査型レーダ装置に用いる例を説明したが、他の方式の電子走査型レーダ装置に用いるようにしてもよい。
また、初期位相補正後の複素数データと、元の初期位相補正する前の複素数データとの平均(相関行列又は正規方程式)により、スペクトル推定することも可能である。
また、本実施形態において、受信波の波数が2波の場合について説明したが、受信波の波数は3波(ターゲット)以上受信での初期位相補正にも応用できる。
【0158】
なお、図1における信号処理部20、図7の信号処理部20a、および図9の信号処理部20bの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、受信波から方位検出を行う信号処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0159】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0160】
1−1,1−n…受信アンテナ 2−1,2−n…ミキサ 3…送信アンテナ
4…分配器 5−1,5−n…フィルタ 6…SW 7…ADC 8…制御部
9…三角波生成部 10…VCO 20…信号処理部 21…メモリ
22…周波数分解処理部 23…ピーク検知部 24…ピーク組合せ部
25…距離検出部 26…速度検出部 27…ペア確定部
28…方位検出部 29…ターゲット確定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される電子走査型レーダ装置であり、
送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信部と、
前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成部と、
前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理部と、
前記ビート信号に基づいて算出された複素数データに基づいて、前記複素数データの初期位相を補正し、補正後の前記複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出部と、
を備えることを特徴とする電子走査型レーダ装置。
【請求項2】
前記方位検出部は、
前記ビート信号に基づいて算出された複素数データに、ゼロ値のチャンネル数を拡張させた後、空間フーリエ変換により前記複素数データを変換し、前記空間フーリエ変換後の空間周波数スペクトルの振幅を該振幅の最大値で正規化する
ことを特徴とする請求項1に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項3】
前記方位検出部は、
前記フーリエ変換後の空間周波数スペクトルが、狭幅角に所定波存在するか否かを判別し、狭幅角に所定波存在すると判別された場合、前記複素数データの初期位相補正を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項4】
前記空間フーリエ変換後の空間周波数スペクトルが、狭幅角に所定波存在するか否かを判別し、狭幅角に所定波存在すると判別された場合、前記複素数データの初期位相を0度に補正する
ことを特徴とする請求項2に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項5】
前記方位検出部は、
前記初期位相の補正を行わなかった前記空間周波数スペクトルに対して、振幅が減衰するように補正を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項6】
前記方位検出部は、
前記初期位相の補正を行った前記空間周波数スペクトルに対して、逆フーリエ変換を行い、元の複素数データの次元に戻す
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項7】
前記方位検出部は、
前記元の複素数データの次元に戻した後、チャンネル数を拡張させた複素数データで方位検知する
ことを特徴とする請求項6に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項8】
前記方位検出部は、
前記複素数データに基づいて前記受信波の波数を推定し、該推定の結果に基づいて、前記受信波の波数が所定波の場合に、前記複素数データの初期位相の補正を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項9】
前記方位検出部は、
前記初期位相が補正された複素数データに基づき、高分解能アルゴリズムにより、前記受信波の到来方向を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項10】
前記方位検出部は、
前記初期位相が補正された複素数データに基づき、デジタル・ビーム・ファーミングにより、前記受信波の到来方向を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項11】
移動体に搭載される電子走査型レーダ装置による受信波方向推定方法であり、
受信部が、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信過程と、
ビート信号生成部が、前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成過程と、
周波数分解処理部が、前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理過程と、
方位検出部が、前記ビート信号に基づいて算出された複素数データに基づいて、前記複素数データの初期位相を補正し、補正後の前記複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出過程と、
を含むことを特徴とする受信波方向推定方法。
【請求項12】
移動体に搭載される電子走査型レーダ装置による受信波方向推定の処理をコンピュータに実行させるための受信波方向推定プログラムであり、
送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信する手順と、
前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成する手順と、
前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理する手順と、
前記ビート信号に基づいて算出された複素数データに基づいて、前記複素数データの初期位相を補正し、補正後の前記複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出する手順と、
を実行させるための受信波方向推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2012−167999(P2012−167999A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28701(P2011−28701)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(300052246)株式会社ホンダエレシス (105)
【Fターム(参考)】