説明

電子銃用のエミッタ使用方法

【課題】寿命を短縮することなく輝度の向上が可能な電子銃用のエミッタ使用方法を提供する。
【解決手段】電子銃用のエミッタ使用方法において、エミッタ14は、結晶質の金属六硼化物を用いて構成され、形状が円柱体の先端側を円錐台に形成して端面2が平面であるとともに、円錐台端面2が(310)結晶面であるように構成されており、そのエミッタを1×10−5Pa以下の真空圧力で動作させるようにする。エミッタは、1650K〜1900Kの動作温度で動作させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子銃用のエミッタ使用方法に関し、例えば、電子ビーム描画装置に用いられる電子銃用のエミッタ使用方法に関する。特に、熱電子放出エミッタの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化および大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅は益々狭く微細なものとなっている。半導体素子は、回路パターンが形成された原画パターン(マスクまたはレチクルを指す。以下では、マスクと総称する。)を用い、いわゆるステッパと呼ばれる縮小投影露光装置でウェハ上にパターンを露光転写して回路形成することにより製造される。こうした微細な回路パターンをウェハに転写するためのマスクの製造には、微細パターンを描画可能な電子ビーム描画装置が用いられる。また、レーザビームを用いて描画するレーザビーム描画装置の開発も試みられている。尚、電子ビーム描画装置は、ウェハに直接パターン回路を描画する場合にも用いられる。
【0003】
電子ビームリソグラフィ技術は、利用する電子ビームが荷電粒子ビームであるために、本質的に優れた解像度を有している。このため、ウェハにLSIパターンを転写する際の原版となるマスクまたはレチクルの製造現場においても、電子ビームリソグラフィ技術が広く一般に使われている。さらに、電子ビームリソグラフィ技術を用いて、ウェハ上にパターンを直接描画する電子ビーム描画装置がDRAMを代表とする最先端デバイスの開発に適用されている他、一部ASICの生産にも用いられている。
【0004】
電子ビームリソグラフィ技術を用いる電子ビーム描画装置では、電子ビームを発するための、熱電子放出エミッタを搭載した電子銃を有する。
電子銃は、電子源であるカソードと、アース電極をもつアノードを備える。また、カソードは、電子を放出するエミッタと、上記エミッタよりも低い電位を与えられてエミッタから出射される電子を収束させるウェネルトを有する。
【0005】
電子ビーム描画装置の描画動作時において、電子銃の周囲は高真空となるようにされる。この状態で、カソードとアノードの間に高電圧(加速電圧)を印加するとともにエミッタを加熱する。すると、エミッタから熱電子が出射し、この熱電子が加速電圧により加速されて電子ビームとして放出される。電子ビームは、電子ビーム描画装置内に設けられた各種レンズ、各種偏向器、ビーム成形用アパーチャ等により所要の形状に成形される。成形された電子ビームは、電子ビーム描画装置の下部に配置された試料室内の試料に照射され、これにより試料にパターンが描画される。
【0006】
エミッタを構成する材料としては、従来より六硼化ランタン(LaB)が知られている。この材料は、高い融点と低い仕事関数(例えば、2.68eVが知られている。)を持ち、また、残留ガスに対して比較的安定で、他の材料を使用した場合に比べ長寿命でもあり、さらに優れたイオン衝撃性を有することから、電子ビーム描画装置だけでなく、電子顕微鏡などの熱電子放出エミッタにも使用されている。
【0007】
図6は、従来のLaBエミッタの先端部501の形状を模式的に示す斜視図である。
通常のLaBエミッタは、図6に斜視図で示すとおり、所定の円錐角を有し、円錐台端部を有する円錐状の形状を備える。円錐台端面502は平面状である。尚、この円錐台端面502は球面状である場合もある。この平面状の端面の直径は、通常5μm〜100μm程度である。
【0008】
このLaBエミッタの先端部501の平面状の端面からの電子放出特性ついては、例えば、非特許文献1が知られ、この先端部501の端面502を(100)結晶面とする技術が開示されている。
【0009】
そして、この非特許文献1においては、(1)先端部端面が(100)面のエミッタは、輝度が高く、かつ、安定であること、および、(2)先端部端面が(310)面のエミッタは、輝度は高いが不安定であることが示されている。それら理由としては、LaBエミッタ先端の平面状の端面において、先端部端面が(100)面のエミッタは、経時変化が小さく、(310)面のエミッタは、経時変化が大きいことが挙げられていた。
尚、非特許文献1においてこうした知見を得るための実験は、カソード周囲の真空圧力を3×10−5Pa(パスカル)とし、カソード温度を約1780K(ケルビン)とする条件のもとで行われた。
【0010】
したがって、非特許文献1において開示された知見に基づき、従来の電子ビーム描画装置では、先端部の平面状の端面を(100)結晶面とするLaBエミッタ(以下、(100)平面型LaB6エミッタと称する。)が使用されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Tadahiro Takigawa and Isao Sasaki(タダヒロ・タキガワおよびイサオ・ササキ)、「電子ビームリソグラフィー用単結晶LaB6銃」、Proceedings Of The Symposium On Electron And Ion Beam Science And Technology, Tenth International Conference, Proceedings Volume 83−2,pp135−148,The Electrochemical Society, Inc., 10 South Main St., Pennington, NJ 08534−2896
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
電子ビーム描画作業の効率を向上させ、電子ビーム描画装置のスループットを向上させるためには、電子ビーム描画装置の描画速度を増大させることが求められる。そして、その描画速度を上げるためには、エミッタにおいては、輝度の向上が求められる。
【0013】
LaBエミッタなど、熱電子放出エミッタの輝度B(A・cm−2・sr−1)は、カソード温度T(K)、加速電圧U(V)、Richardson定数(A・cm−2・K−2)、仕事関数WF(eV)、Bortzuman定数によって定まり、式1、すなわち、
[式1] B=3700×A×T×U×Exp(−WF/kT)
で与えられる。
【0014】
(100)平面型LaB6エミッタの輝度を向上させるためには、上記式1より、カソード温度Tを増大させる必要がある。しかしながら、カソード温度を高くするとエミッタを構成するLaBの蒸発速度が大きくなるため、カソード寿命が短くなるという問題があった。
【0015】
LaB結晶材料は、電子ビーム描画装置のエミッタに用いられた場合、動作温度(1650〜1900K)で使用しようとした場合、100時間あたり数μmの割合で蒸発してしまう。最終的には、その陰極端部は突端となり陰極の寿命が尽きる。すなわち、使用開始前の陰極の端部は、図6に示すとおり、平面状であり、使用がある程度進んだ段階では、寸法のより小さい平面状となり、寿命の末期には突端となってしまう。
【0016】
現状、電子ビーム描画装置では、90日以上の連続運転が求められているため、カソード寿命は、対応して90日以上が必要となる。このため、カソード寿命に影響する、カソード温度の上限は1780K程度に抑えられており、輝度は10+6A・cm−2・sr−1(加速電圧U=50kV)程度が上限となっていた。
したがって、カソード寿命を短くすること無く、エミッタの輝度を向上することが急務となっていた。
【0017】
本発明は、こうした点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、カソード寿命を短くすること無く、エミッタの輝度を向上することのできる電子銃用のエミッタ使用方法を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、電子銃用のエミッタ使用方法であって、
エミッタは、結晶質の金属六硼化物を用いて構成され、形状が円柱体の先端側を円錐台に形成して端面が平面であるとともに、その端面が(310)結晶面であるように構成されており、
そのエミッタを1×10−5Pa以下の真空圧力で動作させることを特徴とするものである。
【0020】
その金属六硼化物は、六硼化ランタン(LaB)、六硼化セリウム(CeB)、六硼化ガドリニウム(GdB)および六硼化イットリウム(YB)よりなる群から選ばれることが好ましい。
【0021】
そして、エミッタを1650K〜1900Kの動作温度で動作させることが好ましい。
【0022】
また、エミッタは、端面を除く側面部分が、構成材である金属六硼化物より仕事関数が大きい被覆材料で被覆されて構成されることが好ましい。
【0023】
そして、その被服材料はカーボン(C)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来と同じカソード温度で、エミッタの輝度をより高く、例えば、2〜3倍にすることができる。したがって、カソード寿命を従来と同等に保ちながら電子ビーム描画の描画速度を大幅に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態のエミッタの模式的断面図である。
【図2】本実施の形態の電子ビーム描画装置における熱電子放射陰極型の電子銃の概略構成を示す図である。
【図3】本実施の形態の電子ビーム描画装置の構成図である。
【図4】本実施の形態における電子ビーム描画方法の説明図である。
【図5】本発明の別の実施形態であるエミッタの模式的断面図である。
【図6】従来のLaBエミッタの先端部形状を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
電子ビーム描画装置のエミッタに用いられるLaB結晶において、(100)結晶面の仕事関数(WF)は、1600Kの条件下、2.57eVであること、そして、(310)結晶面の仕事関数(WF)は、2.42eVであることが、技術文献(M.Gesley and L. W. Swanson, Surface Science 145(1984)、p583)により明らかにされている。
【0027】
すなわち、(100)結晶面より(310)結晶面のほうが、仕事関数は小さい。したがって、上記式1に従うと、先端部の平面状の端面を(310)結晶面とするLaBエミッタ(以下、(310)平面型LaB6エミッタと称する。)では、(100)平面型LaB6エミッタに比べて、その輝度を3倍程度大きくすることができることがわかる。
【0028】
しかしながら、上述のように、非特許文献1においては、(1)先端部端面が(100)面のエミッタは、輝度が高く、かつ、形状の経時変化が小さくて安定であることが示されている。そして、(2)先端部端面が(310)面のエミッタは、輝度は高いが形状の経時変化が大きく不安定であることが示されている。
【0029】
そこで本発明者は、高輝度を可能とする(310)平面型LaB6エミッタに注目し、その寿命を増大させる使用方法について鋭意検討を行った。そして、その際には特に、非特許文献1における実験が3×10−5Pa(パスカル)という大きな真空圧力の下でなされたことに着目した。
【0030】
図1は、本実施の形態のエミッタの模式的断面図である。
図1に示すエミッタ14は、図6に示された従来のLaBエミッタと同様の先端部分の形状を有する(310)平面型LaB6エミッタである。そして、図1に示すとおり、エミッタ14は断面円形の円柱体または断面矩形の角柱体からなり、その先端部分は、所望の円錐角を有し、円錐台端部を有する円錐状の形状を備える。そして、円錐台端面2は平面状である。尚、この端面2の直径は、通常5μm〜100μm程度とするよう選択することが可能である。また、円錐角は60度〜120度とするよう選択することが可能である。
【0031】
すなわち、カソード周囲の真空圧力を最適化することについて注力して、本実施の形態の(310)平面型LaB6エミッタについて、蒸発速度を評価する実験を行った。
【0032】
そして、発明者は、真空圧力9×10−6Pa、カソード温度1750〜1770Kという条件において、(310)平面型LaB6エミッタは、蒸発速度(μm/100時間)が0.5〜0.8(μm/100時間)であることがわかった。一方、(100)平面型LaB6エミッタにおいては、真空圧力1.50×10−5Pa、カソード温度1750〜1770Kという条件において、蒸発速度(μm/100時間)が0.7〜0.8(μm/100時間)であることがわかった。
【0033】
これらの実験を通して、(310)平面型LaB6エミッタにおいても、真空圧力を、例えば、1×10−5Pa以下など、小さくするならば、(310)結晶面の形状変化が小さく抑えられ、カソード寿命を(100)平面型LaB6エミッタと同程度にできることがわかった。
【0034】
したがって、本実施の形態のエミッタ使用方法であって、電子ビーム描画装置に用いる電子銃用のエミッタ使用方法においては、(310)平面型LaB6エミッタを用い、真空圧力を、例えば、1×10−5Pa以下など、小さくして使用することで、(100)平面型LaB6エミッタと同等の寿命を保ったまま、輝度を3倍程度まで向上させることができる。
【0035】
そこで、図1に示す本実施の形態の(310)平面型LaB6エミッタを用い、新たに電子ビーム描画装置を構成し、それを電子ビーム描画に使用した。
図2は、本実施の形態の電子ビーム描画装置における熱電子放射陰極型の電子銃の概略構成を示す図である。
【0036】
この図に示すように、電子銃は、電子源であるカソード11と、アース電極をもつアノード16とを備える。また、カソード11は、電子を放出するエミッタ14と、エミッタ14の電位よりも低い電位を与えられてエミッタ14から出射される電子を収束させるウェネルト15と、支持電極17、18を支持するベース22とを有する。
【0037】
このとき、エミッタ14は、上述した本実施の形態の(310)平面型LaB6エミッタであり、図1に示されたエミッタ14の下方先端に位置する円錐台端面2の直径は70μm、先端角の角度は60度である。
【0038】
ウェネルト15はエミッタ14から射出される電子ビームが通過する開口部分を具備し、この開口部分は電子ビームを収束させるのに適当なように径が選択されている。そして、エミッタ14は、支持電極17と支持電極18に支持され、ヒータ19およびヒータ20によって加熱可能な構成となっている。
【0039】
電子ビーム描画装置の描画動作時において、電子銃の周囲は高真空となる。本実施の形態においては、エミッタ14を最適環境で使用するため、真空圧力は1×10−5Pa以下に設定され、具体的には5×10−6Paとする。この状態で、エミッタ14とアノード16の間に、50kVの高電圧(加速電圧)を、加速電源21を用いて印加する。
【0040】
また、加熱電源13を用いて支持電極17、18の間に加熱電圧を印加することにより、ヒータ19、20を通電加熱してエミッタ14を1750Kに加熱する。すると、エミッタ14から熱電子が出射し、この熱電子が加速電圧により加速されて電子ビームとして放出される。電子ビームは、後述するように、電子ビーム描画装置内に設けられた各種レンズ、各種偏向器、ビーム成形用アパーチャ等により所要の形状に成形される。成形された電子ビームは、電子ビーム描画装置の下部に配置された試料室内の試料に照射され、これにより試料にパターンが描画される。
【0041】
このとき、アノード16は接地されており、エミッタ14には支持電極17、18を介して負の高電圧が印加されていることになる。そして、ウェネルト15の電位は、バイアス電源12の作用によりカソード電位よりもさらに100V〜1000V程度低い。これにより、エミッタ14から放出される電子ビームが制限されると同時に、収束作用を有するレンズとして動作し、ウェネルト15の開口部分を通過する電子ビームにおいては、焦点、すなわち、クロスオーバが形成される。
【0042】
本実施の形態の電子銃用のエミッタ使用方法により、エミッタ14では、同様の電子ビーム描画装置に(100)平面型LaB6エミッタを組み込んだ従来の場合に比べ、輝度が2倍以上になることがわかった。そして、後述するように、本実施の形態の電子ビーム描画装置では、90日の連続運転の後、組み込まれたエミッタ14におけるLaB蒸発量は11μmと小さく、電子ビームも初期状態と変わらずに安定していた。
【0043】
次に、本実施の形態の電子銃を用いた電子ビーム描画装置について説明する。
図3は、本実施の形態の電子ビーム描画装置の構成図である。この図において、電子ビーム描画装置30の試料室31内には、試料であるマスク基板32が設置されたステージ33が設けられている。ステージ33は、ステージ駆動回路34によりX方向(紙面における左右方向)とY方向(紙面における垂直方向)に駆動される。ステージ33の移動位置は、レーザ測長計等を用いた位置回路35により測定される。
【0044】
試料室31の上方には、電子ビーム光学系40が設置されている。この電子ビーム光学系40は、本実施の形態の(310)平面型LaB6エミッタを用いた電子銃100、各種レンズ37、38、39、41、42、ブランキング用偏向器43、成形偏向器44、ビーム走査用の主偏向器45、ビーム走査用の副偏向器46、および、2個のビーム成形用アパーチャである第1のアパーチャ47と第2のアパーチャ48等から構成されている。
【0045】
電子銃100では、上記したように本実施の形態の(310)平面型LaB6エミッタを用いている。そして、1×10−5Pa以下など、真空圧力を小さくして上述のように(310)平面型LaB6エミッタにとっての使用条件の最適化を図り、本実施形態であるエミッタ使用方法を実施している。したがって、高輝度が実現され、また、電子ビーム描画装置30の動作段階で、エミッタから放出される電子の放出面積が大きく変動することはない。したがって、高輝度を実現しながら、電子ビーム84の電流密度に大きな変動が生じないようにすることができ、電子ビーム描画装置30のスループットを従来に比べて大幅に向上することができる。
【0046】
図4は、本実施の形態における電子ビーム描画方法の説明図である。この描画方法は、エミッタの輝度が向上された本実施の形態の電子ビーム描画装置30を使用することにより実現される。すなわち、図4に示す電子ビーム84は、本実施の形態の電子ビーム描画装置30の電子銃100によって放出された電子ビームである。
【0047】
図4に示すように、マスク基板32上に描画されるパターン81は、短冊状のフレーム領域82に分割されている。電子ビーム描画装置30の電子銃100によって放出される電子ビーム84による描画は、ステージ33が一方向(例えば、X方向)に連続移動しながら、フレーム領域82毎に行われる。フレーム領域82は、さらに副偏向領域83に分割されており、電子ビーム84は、副偏向領域83内の必要な部分のみを描画する。尚、フレーム領域82は、主偏向器45の偏向幅で決まる短冊状の描画領域であり、副偏向領域83は、副偏向器46の偏向幅で決まる単位描画領域である。
【0048】
副偏向領域83内での電子ビーム84の位置決めは、副偏向器46で行われる。副偏向領域83の位置制御は、主偏向器45によってなされる。すなわち、主偏向器45によって、副偏向領域83の位置決めがされ、副偏向器46によって、副偏向領域83内でのビーム位置が決められる。さらに、成形偏向器44とビーム成形用アパーチャ47、48によって、電子ビーム84の形状と寸法が決められる。そして、ステージ33を一方向に連続移動させながら、副偏向領域83内を描画し、1つの副偏向領域83の描画が終了したら、次の副偏向領域83を描画する。フレーム領域82内の全ての副偏向領域83の描画が終了したら、ステージ33を連続移動させる方向と直交する方向(例えば、Y方向)にステップ移動させる。その後、同様の処理を繰り返して、フレーム領域82を順次描画して行く。
【0049】
電子ビームによる描画を行う際には、まず、CADシステムを用いて設計された半導体集積回路などのパターンデータ(CADデータ)が、電子ビーム描画装置30に入力することのできる形式のデータ(レイアウトデータ)に変換される。次いで、レイアウトデータが変換されて描画データが作成された後、描画データは実際に電子ビーム84がショットされるサイズに分割された後、ショットサイズ毎に描画が行われる。
【0050】
レイアウトデータから変換された描画データは、記憶媒体である入力部51に記録された後、制御計算機50によって読み出され、フレーム領域82毎にパターンメモリ52に一時的に格納される。パターンメモリ52に格納されたフレーム領域82毎のパターンデータ、すなわち、描画位置や描画図形データ等で構成されるフレーム情報は、データ解析部であるパターンデータデコーダ53と描画データデコーダ54に送られる。次いで、これらを介して、副偏向領域偏向量算出部60、ブランキング回路55、ビーム成形器ドライバ56、主偏向器ドライバ57、副偏向器ドライバ58に送られる。
【0051】
また、制御計算機50には、偏向制御部62が接続している。偏向制御部62は、セトリング時間決定部61に接続し、セトリング時間決定部61は、副偏向領域偏向量算出部60に接続し、副偏向領域偏向量算出部60は、パターンデータデコーダ53に接続している。また、偏向制御部62は、ブランキング回路55と、ビーム成形器ドライバ56と、主偏向器ドライバ57と、副偏向器ドライバ58とに接続している。
【0052】
パターンデータデコーダ53からの情報は、ブランキング回路55とビーム成形器ドライバ56に送られる。具体的には、パターンデータデコーダ53で描画データに基づいてブランキングデータが作成され、ブランキング回路55に送られる。また、描画データに基づいて所望とするビーム寸法データも作成されて、副偏向領域偏向量算出部60とビーム成形器ドライバ56に送られる。そして、ビーム成形器ドライバ56から、電子ビーム光学系40の成形偏向器44に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム84の形状と寸法が制御される。
【0053】
副偏向領域偏向量算出部60は、パターンデータデコーダ53で作成したビーム形状データから、副偏向領域83における、1ショット毎の電子ビームの偏向量(移動距離)を算出する。算出された情報は、セトリング時間決定部61に送られ、副偏向による移動距離に対応したセトリング時間が決定される。
【0054】
セトリング時間決定部61で決定されたセトリング時間は、偏向制御部62へ送られた後、パターンの描画のタイミングを計りながら、偏向制御部62より、ブランキング回路55、ビーム成形器ドライバ56、主偏向器ドライバ57、副偏向器ドライバ58のいずれかに適宜送られる。
【0055】
描画データデコーダ54では、描画データに基づいて副偏向領域83の位置決めデータが作成され、このデータは、主偏向器ドライバ57と副偏向器ドライバ58に送られる。そして、主偏向器ドライバ57から、電子ビーム光学系40の主偏向器45に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム84が所定の主偏向位置に偏向走査される。また、副偏向器ドライバ58から、副偏向器46に所定の副偏向信号が印加されて、副偏向領域83内での描画が行われる。この描画は、具体的には、設定されたセトリング時間が経過した後、電子ビーム84を繰り返し照射することによって行われる。
【0056】
以上のように、本実施の形態のエミッタ使用方法であって、電子ビーム描画装置に用いる電子銃用のエミッタ使用方法においては、(310)平面型LaB6エミッタを用い、真空圧力を、例えば、1×10−5Pa以下など、小さくして使用することで、(100)平面型LaB6エミッタと同等の寿命を保ったまま、輝度を3倍程度まで向上させることができる。その結果、本実施の形態のエミッタ使用方法を適用した電子ビーム描画装置の描画速度を上げることがで、電子ビーム描画作業の効率を向上させ、電子ビーム描画装置のスループットを向上させることができる。そして、本実施の形態の電子ビーム描画装置の90日の連続運転の後、組み込まれたエミッタ14におけるLaB蒸発量は11μmと小さく、電子ビームも初期状態と変わらずに安定していた。
【0057】
また、電子銃では、エミッタにおいて輝度を向上させるために、エミッタを構成する材料の表面をこの材料より仕事関数の大きい材料で被覆して、エミッタからの電子の放出面積を制限することも可能である。例えば、六硼化ランタン(LaB)をカーボン(C)で被覆することが可能である。具体的な被覆方法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によりカーボン(C)を六硼化ランタン(LaB)の表面に蒸着したり、この表面にカーボン(C)を含む液を塗布したり、あるいは、この液の中に六硼化ランタン(LaB)を浸漬したりすることが挙げられる。被覆後は、機械加工によってカーボン(C)の一部から六硼化ランタン(LaB)を露出させ、この部分を通じて電子が放出されるようにする。
【0058】
図5は、本発明の別の実施形態であるエミッタの模式的断面図である。
図5に示すエミッタ204は、(310)平面型LaB6エミッタである、図1に示したエミッタ14と同様の形状を有する六硼化ランタン(LaB)層203を有し、この側面部分をカーボン(C)層205で被覆するとともに、電子を放出するための円錐台端面202が露出するようにして構成されている。
このとき、端面202の直径は70μm、先端角の角度は60度である。
【0059】
このような電子銃に用いられるエミッタの製造方法においては、上記したように、例えば、六硼化ランタン(LaB)をカーボン(C)で被覆した後、機械加工によってカーボン(C)の一部から六硼化ランタン(LaB)を露出させることが行われる。機械加工には、機械研削または機械研磨などが用いられる。カーボン層205の厚さは2μm〜20μmが好ましく、5μm〜10μmとするのがより好ましい。カーボン層205にはピンホールが生じないようにしなければならない。
【0060】
尚、六硼化ランタン(LaB)などの電子を放出する材料は、カーボン(C)以外の材料によって被覆されてもよい。別の被覆材料としてはルビジウムや炭化珪素(SiC)などの使用が可能である。すなわち、電子ビーム描画装置の動作時において機械的にも化学的にも安定であって、六硼化ランタン(LaB)などの電子を放出する材料に比べて仕事関数の大きいもの、例えば、1.5〜2倍程度の大きさの仕事関数を有する材料を用いることが好ましい。
【0061】
このようなエミッタ204を用いて公知の方法によりカソードを製造し、図2に示すのと同様の構造の電子ビーム描画装置の電子銃に組み込むことが可能である。そして、公知の方法を適用し、得られた電子銃を組込んで用いて図3に示すのと同様の構成の電子ビーム描画装置を製造することができる。
【0062】
そして、この電子ビーム描画装置を使用して電子ビーム描画を行うに際しては、電子銃の周囲は、エミッタ204を最適な環境で使用するため、真空圧力は1×10−5Pa以下に設定され、具体的には5×10−6Paとする。この状態で、カソード温度を1750Kに設定して、エミッタ204とアノードの間に50kVの高電圧(加速電圧)を印加する。
【0063】
その結果、本発明の別の実施形態であるエミッタ204を用いたエミッタ使用方法においては、エミッタ204では側面を被覆する効果により、エミッタ204の側面から電子が放出されず、同様の電子ビーム描画装置にエミッタ14を組み込んだ上述の場合に比べ、約半分のエミッション電流でエミッタ14を組み込んだ上述の場合と同等の輝度が得られる。そして、本発明の別の実施形態である電子ビーム描画装置では、90日の連続運転の後、組み込まれたエミッタ204におけるLaB蒸発量は小さく、電子ビームも初期状態と変わらずに安定していた。
【0064】
したがって、本発明の別の実施形態では、エミッタ204の高輝度が実現される。また、それを組み込んだ電子ビーム描画装置の動作段階で、エミッタ204から放出される電子の放出面積が大きく変動することはない。したがって、高輝度を実現しながら、電子ビームの電流密度に大きな変動が生じないようにすることができ、電子ビーム描画装置のスループットを向上することができる。
【0065】
尚、本発明の実施の形態においては、エミッタを構成する材料として六硼化ランタン(LaB)以外のものを用いることができる。エミッタの構成材料には、高い電気伝導、高温における機械的強度と化学的安定性が求められる。ここで、高温における機械的強度と化学的安定性は、高い融点を有することによって実現可能である。尚、高い融点とは、具体的には、電子ビーム描画装置の動作温度より高い融点を言う。こうした特性を満たし、さらに六硼化ランタン(LaB)と同程度に低い仕事関数を有する材料としては、六硼化セリウム(CeB)、六硼化ガドリニウム(GdB)、六硼化イットリウム(YB)などの金属六硼化物が挙げられる。また、タングステン(W)などをエミッタの構成材料として用いることも可能である。タングステン(W)は、六硼化ランタン(LaB)や六硼化セリウム(CeB)に比べて融点が高いので、例えば、2000K程度の温度で使用することも可能である。
【0066】
以上のような材料をエミッタ構成材料として選択し、図1に示すようなエミッタ形状を構成し、先端部分の円錐台端面に適当な結晶面を選択するとともに、電子銃に組み込まれてそれを使用する際の真空圧力を最適な値に設定することにより、エミッタの高い輝度とビームの長期間の安定が確保され、高いスループットを実現する電子ビーム描画装置の提供が可能となる。
【0067】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0068】
また、本実施の形態のエミッタ使用方法は、電子ビーム描画装置の電子銃に限られるものではなく、電子顕微鏡などにも好適である。
【符号の説明】
【0069】
2、202、502 円錐台端面
11 カソード
12 バイアス電源
13 加熱電源
14、204 エミッタ
15 ウェネルト
16 アノード
17、18 支持電極
19、20 ヒータ
21 加速電源
22 ベース
30 電子ビーム描画装置
31 試料室
32 マスク基板
33 ステージ
34 ステージ駆動回路
35 位置回路
37、38、39、41、42 各種レンズ
40 電子ビーム光学系
43 ブランキング用偏向器
44 成形偏向器
45 主偏向器
46 副偏向器
47 第1のアパーチャ
48 第2のアパーチャ
50 制御計算機
51 入力部
52 パターンメモリ
53 パターンデータデコーダ
54 描画データデコーダ
55 ブランキング回路
56 ビーム成形器ドライバ
57 主偏向器ドライバ
58 副偏向器ドライバ
60 副偏向領域偏向量算出部
61 セトリング時間決定部
62 偏向制御部
81 描画されるパターン
82 フレーム領域
83 副偏向領域
84 電子ビーム
100 電子銃
203 六硼化ランタン(LaB)層
205 カーボン(C)層
501 エミッタの先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃用のエミッタ使用方法であって、
前記エミッタは、結晶質の金属六硼化物を用いて構成され、形状が円柱体の先端側を円錐台に形成して端面が平面であるとともに、前記端面が(310)結晶面であるように構成されており、
前記エミッタを1×10−5Pa以下の真空圧力で動作させることを特徴とする電子銃用のエミッタ使用方法。
【請求項2】
前記金属六硼化物は、六硼化ランタン(LaB)、六硼化セリウム(CeB)、六硼化ガドリニウム(GdB)および六硼化イットリウム(YB)よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の電子銃用のエミッタ使用方法。
【請求項3】
前記エミッタを1650K〜1900Kの動作温度で動作させることを特徴とする請求項1または2に記載の電子銃用のエミッタ使用方法。
【請求項4】
前記エミッタは、前記端面を除く側面部分が、構成材である前記金属六硼化物より仕事関数が大きい被覆材料で被覆されて構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子銃用のエミッタ使用方法。
【請求項5】
前記被服材料はカーボン(C)であることを特徴とする請求項4に記載の電子銃用のエミッタ使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−146250(P2011−146250A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6150(P2010−6150)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】