説明

電析装置

【課題】基材上に一定の厚さの均質な電析層を形成する。
【解決手段】電析装置1は、参照電極32と樹脂フィルム9の導電層との間に電圧を付与して主面91上に電析層を形成しつつ導電層に流れる電流を検出する電源部3と、主面91における電析対象部を分割した複数の分割領域に向けて電析液を吐出する複数の吐出部4とを備える。電析層の形成の際に、検出電流の値が異常となる場合に、吐出流量を正常流量から変更する吐出部を複数の吐出部4において順に切り替えつつ検出電流の変化を監視することにより、対応する分割領域における電析層の成長が正常処理時と相違する吐出部4が特定吐出部として特定される。特定吐出部4からの電析液の吐出流量を正常流量から変更することにより、特定吐出部4に対応する分割領域における電析層の成長を正常処理時におけるものに近似させることができ、樹脂フィルム9上に一定の厚さの均質な電析層を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に電析層を形成する電析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、導電層が形成された樹脂基板にメッキ等の電析により電析層を形成することが行われている。この場合に、電析層の内部応力が過度に大きくなると、樹脂基板と導電層との密着強度によっては、導電層が樹脂基板から部分的に剥離してしまう。また、電析層が導電層から部分的に剥離する場合もあり、電析層が脆いときには電析層自体が割れてしまうこともある。したがって、通常のメッキでは、電析層の成長状態に応じて導電層に流れる電流を制御することにより、内部応力の大きさや膜厚等の質を所望の状態とした電析層を形成することが行われる(もちろん、いわゆる焦げメッキの発生等も防止される。)。また、このようなメッキを行うメッキ装置は、比較的簡単な構造となっており、メッキ装置の製造コストも安価である。
【0003】
なお、特許文献1では、メッキ液を保持するメッキ液槽の内部にて、基板の被メッキ面にメッキ液を噴射するメッキ液噴射ノズルを配置し、メッキ液噴射ノズルを基板に平行に往復移動させることにより、被メッキ面に均一な膜厚のメッキ膜を形成する手法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−117966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電析槽内に参照電極を設け、参照電極と基材上の導電層との間に所定の電圧を付与することにより、酸化亜鉛等の金属酸化物を導電層上に析出させることも行われるが、この場合、参照電極と導電層との間の電圧が制御対象とされるため、導電層に流れる電流を制御することが困難となり、一定の質の電析層を形成することは容易ではない。また、特許文献1の手法を用いる場合でも、基材の一部に異常部位が存在するときには、電析層の均質性を確保することはできない。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基材上に一定の厚さの均質な電析層を形成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、電析装置であって、電析液を貯溜する電析槽と、導電層の表面である一の主面を有する長尺の基材の長手方向に連続する複数の部位を前記電析液中に順次浸漬し、前記電析液中にて前記長手方向に沿う搬送方向に各部位を緩やかに移動する移動機構と、前記電析液中に浸漬される対極と、前記電析液中に浸漬される参照電極と、前記導電層、前記対極および前記参照電極に電気的に接続され、前記参照電極と前記導電層との間に所定の電圧を付与して前記電析液中の前記導電層上に電析層を形成しつつ、前記導電層に流れる電流を検出する電源部と、前記電析液中にて前記導電層との間に間隙を空けて前記搬送方向に配列され、前記電析層を形成している間、前記電析液中の前記主面における前記搬送方向への搬送途上の部分を分割した複数の分割領域に向けて電析液をそれぞれ吐出する複数の吐出部と、前記複数の吐出部のそれぞれにおいて正常処理時の電析液の吐出流量である正常流量が定められており、前記電析層の形成の際に、前記電源部にて検出される前記電流の値が異常となる場合に、吐出流量を前記正常流量から変更する吐出部を前記複数の吐出部において順に切り替えつつ前記電流の変化を監視することにより、前記複数の吐出部のうち、対応する分割領域における電析層の成長が前記正常処理時と相違する吐出部を特定吐出部として特定し、前記特定吐出部からの電析液の吐出流量を前記正常流量から変更することにより、前記特定吐出部に対応する分割領域における電析層の成長を前記正常処理時におけるものに近似させる制御部とを備える。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電析装置であって、前記主面上の前記複数の分割領域のうち、前記搬送方向において最も後方に位置する吐出部から電析液が付与される分割領域の面積が最大となる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、電析装置であって、電析液を貯溜する電析槽と、導電層の表面である一の主面を有する基材を前記電析液中にて保持する保持部と、前記電析液中に浸漬される対極と、前記電析液中に浸漬される参照電極と、前記導電層、前記対極および前記参照電極に電気的に接続され、前記参照電極と前記導電層との間に所定の電圧を付与して前記導電層上に電析層を形成しつつ、前記導電層に流れる電流を検出する電源部と、前記電析液中にて前記導電層との間に間隙を空けて配置され、前記電析層を形成している間、前記主面を分割した複数の分割領域に向けて電析液をそれぞれ吐出する複数の吐出部と、前記複数の吐出部のそれぞれにおいて正常処理時の電析液の吐出流量である正常流量が定められており、前記電析層の形成の際に、前記電源部にて検出される前記電流の変化が異常となる場合に、吐出流量を前記正常流量から変更する吐出部を前記複数の吐出部において順に切り替えつつ前記電流の変化を監視することにより、前記複数の吐出部のうち、対応する分割領域における電析層の成長が前記正常処理時と相違する吐出部を特定吐出部として特定し、前記特定吐出部からの電析液の吐出流量を前記正常流量から変更することにより、前記特定吐出部に対応する分割領域における電析層の成長を前記正常処理時におけるものに近似させる制御部とを備える。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の電析装置であって、前記複数の吐出部と前記主面との間の距離が変更可能とされる。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の電析装置であって、前記電析層が、酸化亜鉛の層である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材上に一定の厚さの均質な電析層を形成することができる。
【0012】
また、請求項2の発明では、電析層の均質性を大きく低下させることなく、吐出部の個数を低減することができ、電析装置の製造コストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電析装置1の構成を示す図である。電析装置1は、ITO膜(酸化インジウムスズ膜)やFTO膜(フッ素ドープ酸化スズ膜)等の透明な導電層が形成された透明な樹脂フィルム(プラスチックフィルム)9上に電析にて光電層を形成するためのものであり、光電層が形成された樹脂フィルム9は、例えば色素増感型太陽電池の製造に用いられる。
【0014】
図1に示すように電析装置1は、塩化亜鉛(ZnCl)およびテンプレート化合物(典型的には色素)を含む(すなわち、塩化物イオン、亜鉛イオンおよびテンプレート化合物を主たる成分として含む)電析液を貯溜する電析槽2、電析液中に浸漬されるとともに亜鉛にて形成される対極31、電析液中に浸漬される参照電極(基準電極とも呼ばれる。)32、樹脂フィルム9の導電層、対極31および参照電極32のそれぞれに電気的に接続される電源部3、樹脂フィルム9の導電層の表面である主面91に対向して電析液中に配置される複数の吐出部4、並びに、電析装置1の各構成要素を制御する制御部5を備える。
【0015】
電析装置1は、さらに、処理前の樹脂フィルムのロール90から樹脂フィルム9の各部位(すなわち、帯状の樹脂フィルムに連続して存在する複数の部位のそれぞれ)を連続的に引き出す引出部51を備え、水平な方向に伸びる複数のローラ52(ただし、電析液中の2つのローラに符号52a,52bをそれぞれ付している。)により、引出部51から引き出される樹脂フィルム9の各部位が樹脂フィルム9の長手方向に沿って移動し、電析槽2内の電析液中に浸漬されるとともに、電析層が形成された部位が電析液から引き上げられる。実際には、電析槽2内にて電析液の液面20に沿う方向に離れて互いに平行に設けられる2つのローラ52a,52bにより、樹脂フィルム9の各部位は2つのローラ52a,52b間にて液面20に平行な搬送方向に緩やかに移動する。ローラ52bには電源部3が接続されており、ローラ52bを介して樹脂フィルム9に形成された導電層に電位を付与することが可能とされる。
【0016】
電析槽2には、電析液の温度を測定する温度計23、および、電析液を加熱するヒータ24が設けられ、温度計23の出力値は温度コントローラ25に入力され、温度コントローラ25がヒータ24を制御することにより電析液が一定の温度にて保たれる。また、電析槽2には、電析液中の溶存酸素の濃度を測定する溶存酸素計21、および、電析液中に酸素を供給する(いわゆる、酸素バブリングを行う)酸素導入管22も設けられ、電析液中の溶存酸素の濃度がおよそ一定に維持される。
【0017】
図2は複数の吐出部4を拡大して示す図である。図2に示すように、複数(本実施の形態では6個)の吐出部4は電析液中にて樹脂フィルム9の導電層との間に間隙を空けて、樹脂フィルム9の搬送方向(図2中にて符号A1を付す矢印にて示す。)に沿って配列される。各吐出部4は、樹脂フィルム9の主面91に対向する面(図2では、当該面を破線にて示し、吐出口を抽象的に図示している。)上に複数の吐出口を有し、複数の吐出口から電析液が吐出される。電析装置1では、電析層を形成している間、電析液中の主面91における搬送方向への搬送途上の部分(すなわち、2つのローラ52a,52b間の部分)を搬送方向に等分割した複数の分割領域に向けてそれぞれ複数の吐出部4から電析液が吐出される。図2では、複数の分割領域の搬送方向の範囲をそれぞれ符号R1〜R6を付す矢印にて示している。
【0018】
本実施の形態では、各吐出口は、搬送方向に垂直かつ液面20に平行な方向(図2の紙面に垂直な方向であり、長尺の樹脂フィルム9の幅に対応する方向)に長いスリット状とされ、吐出口は搬送方向に、例えば0.1ミリメートル(mm)以上10mm以下の幅(搬送方向の幅)とされ、搬送方向に垂直な樹脂フィルム9の幅の全体に亘って広がっている。各吐出口は微小な(例えば、直径が0.1mm以上5mm以下の)貫通孔とされてもよく、この場合、吐出部4から主面91に向けて電析液がシャワー状にておよそ均一に吐出される。なお、上記に例示したサイズの吐出口を有する吐出部4は比較的安価な加工により、一定の精度にて作製可能である。
【0019】
図1に示すように、各吐出部4には供給管41が接続され、供給管41には流量コントローラ42が設けられる。電析槽2の底部には電析槽2内の電析液を回収する回収管26が接続され、回収管26から回収される電析液がポンプ43により各供給管41へと送り出されることにより、流量コントローラ42にて調整される吐出流量にて吐出部4から電析液が吐出される。また、各吐出部4は昇降機構44により上下方向に移動可能な状態で支持され、吐出部4と樹脂フィルム9の主面91との間の距離が変更可能とされる。本実施の形態では、複数の吐出部4のうちローラ52b側の3個の吐出部4において、主面91との間の距離がローラ52a側の3個の吐出部4よりも短くされる。
【0020】
図1の電析装置1では、電源部3が参照電極32と樹脂フィルム9の導電層との間に所定の電圧を付与することにより、電析液中の導電層上にテンプレート化合物を含む酸化亜鉛の電析層が形成される。また、電源部3では、電析途上において導電層に流れる電流(以下、「検出電流」という。)が検出可能となっており、検出電流の値は制御部5へと出力される。制御部5では、樹脂フィルム9の主面91におけるローラ52a,52b間の部分の面積にて検出電流の値を除することにより、電流密度(平均電流密度であり、以下「検出電流密度」という。)が取得される。なお、樹脂フィルム9の各部位がローラ52a,52b間を移動する時間は、当該部位が電析液内に浸漬されてからローラ52aに到達するまでの時間、および、当該部位がローラ52bの位置から電析液の外部へと運ばれるまでの時間に比べて十分に長くなっており、実質的に、樹脂フィルム9の各部位がローラ52a,52b間に位置する間に、当該部位に電析層が形成される。以下の説明では、樹脂フィルム9におけるローラ52a,52b間の部分(すなわち、複数の吐出部4に対向する部分)を電析対象部と呼ぶ。
【0021】
ここで、仮に、樹脂フィルム9を搬送方向に移動することなく停止した状態で、全ての吐出部4から一定の流量(後述の正常流量)にて電析液を吐出しつつ、樹脂フィルム9の導電層上に電析層を形成した場合、図3中に符号L1を付す線にて示すような検出電流密度の変化が電源部3にて取得される。線L1において、時刻T0にて電析を開始した後、時刻T1までの期間では、検出電流密度が漸次増大しており(ただし、時刻T0の極近傍を除く。)、この期間では、導電層上において孤立した多数の領域から酸化亜鉛の結晶が成長していると考えられる。また、時刻T1から電析が完了する時刻T2までの期間では検出電流密度の大きさがほぼ一定となっており、この期間では、導電層上の酸化亜鉛が層状(膜状)にて成長していると考えられる。
【0022】
実際には、既述のように、電析が行われている間、移動機構である複数のローラ52により長尺の樹脂フィルム9の長手方向に連続する複数の部位が電析液中に順次浸漬され、電析液中にて長手方向に沿う搬送方向に各部位が一定の緩やかな速度にて移動するが、時刻T0から時刻T2までの期間と等しい時間にて樹脂フィルム9の各部位が一方のローラ52aの位置から他方のローラ52bの位置まで一定の速度にて移動することにより、樹脂フィルム9の当該部位では、(正常時における)電流密度の経時変化が、図3中の線L1と同様になると考えられる。換言すれば、図3中の横軸が搬送方向を示し、時刻T0が樹脂フィルム9の電析対象部においてローラ52a近傍の位置であり、時刻T2が電析対象部においてローラ52b近傍の位置であるとした場合、電析対象部の各位置の電流密度は、対応する時刻における電流密度になっていると捉えることができる。なお、電源部3では、樹脂フィルム9における電析層の形成途上の部位全体に対する検出電流が取得されるため、電析対象部の各位置の電流密度が取得される訳ではない。以下の説明では、樹脂フィルム9の各部位において、線L1に示す電流密度の変化が得られる処理(以下、「正常処理」という。)にて、内部応力の大きさや膜厚等の質が所望(目標)の状態の電析層が形成されるものとし、この場合における各吐出部4からの電析液の吐出流量を「正常流量」という。
【0023】
次に、樹脂フィルム9上に一定の厚さの均質な電析層を形成する手法について説明する。図4は、吐出部4からの電析液の吐出流量の変更に係る処理の流れを示す図であり、樹脂フィルム9上への電析層の形成に並行して行われる処理を示している。
【0024】
図1の電析装置1では、電析液中における樹脂フィルム9の各部位の搬送方向への移動、および、参照電極32と樹脂フィルム9の導電層との間への電圧の付与が開始されて、電析液中の導電層への電析層の形成が開始されると、ポンプ43を駆動することにより複数の吐出部4からの電析液の吐出が開始される(ステップS11)。このとき、各吐出部4からの電析液の吐出流量は予め定められた正常流量とされる。
【0025】
ここで、電析層の形成の開始直後では、電析対象部の全ての部位にて電析層が全く形成されていない状態であり、電析層の形成の開始時にローラ52aの近傍に位置する部位がローラ52bの近傍まで到達する時刻以降にて、ローラ52bの近傍を順次通過する部位に(原則として)一定の厚さの電析層が形成されている状態(以下、「通常電析状態」という。)となる。電析装置1では、通常電析状態において所望の質の電析層の形成が可能となる検出電流密度の許容範囲(すなわち、電析液中の導電層の全体における平均電流密度の許容範囲を示すものであり、以下、「正常電流範囲」という。)が予め取得されている。本実施の形態では、膜厚の均一性を±10%の範囲内にする場合には、正常電流範囲が理想的な電流密度に対して±10%の幅の範囲として設定される。
【0026】
制御部5では、樹脂フィルム9の各部位の移動距離(または、電析層の形成開始からの経過時間)により通常電析状態となったことが確認されると、樹脂フィルム9の導電層における電流の検出(すなわち、検出電流密度の取得)が行われ(ステップS12)、検出電流密度の値が正常電流範囲内(上限値および下限値を含む。)か否かが確認される(ステップS13)。検出電流密度の値が正常電流範囲内である場合には、ステップS12に戻って直前のステップS12の処理から一定時間後に検出電流密度の値が取得され、正常電流範囲内か否かが確認される(ステップS13)。このように、電析装置1では、一定時間毎に検出電流密度の値が繰り返し取得され(ステップS12)、正常電流範囲内か否かが確認される(ステップS13)。
【0027】
ここで、例えば樹脂フィルム9への電析層の形成の直前における所定の前処理時に、主面91上にて部分的に異常が生じた場合、導電層に部分的な質の異常が発生している場合、あるいは、電析層の形成途上に主面91上にて部分的に異常が生じた場合等、電析液中の導電層上に異常部位が発生している場合には、図3中に符号L2を付す線にて示すように、当該異常部位における電流密度の変化が線L1に示すものから乖離し、当該異常部位における電析層の成長が正常処理時と相違する。既述のように、実際には樹脂フィルム9における電析層の形成途上の部位全体に対する検出電流密度が取得されるが、当該異常部位の影響により検出電流密度の値は変動することとなる。これにより、検出電流密度の値が正常電流範囲外となり(ステップS13)、電析装置1では異常部位に対応する吐出部4を特定する処理が行われる(ステップS14)。
【0028】
図5は吐出部特定処理の流れを示す図であり、図4中のステップS14にて行われる処理を示している。検出電流密度の値が正常電流範囲外となると、図1の制御部5では、例えば、複数の吐出部4のうち最もローラ52aに近接する吐出部4が対象吐出部として決定される(ステップS141)。続いて、対象吐出部4に接続された供給管41の流量コントローラ42を調整することにより、対象吐出部4のみにて吐出流量が正常流量よりも10%だけ高い(または低い)流量とされ(ステップS142)、その後、検出電流密度が取得される(ステップS143)。なお、他の吐出部4では吐出流量が正常流量のまま維持される。
【0029】
制御部5では、対象吐出部4とされていない吐出部4が存在することが確認されると(ステップS144)、直前の対象吐出部4のローラ52b側に隣接する吐出部4が対象吐出部に切り替えられ(ステップS141)、対象吐出部4のみにて吐出流量が正常流量よりも10%だけ高い流量とされ、他の吐出部4では吐出流量が正常流量とされて検出電流密度が取得される(ステップS142,S143)。このようにして、吐出流量を正常流量から変更する対象吐出部を、全ての吐出部4において順に切り替えつつ検出電流密度が取得される(ステップS141〜S144)。
【0030】
制御部5では、各吐出部4を対象吐出部とした場合に取得される検出電流密度の値と、直前のステップS12の処理にて取得される検出電流密度の値(すなわち、全ての吐出部4から正常流量にて電析液を吐出する場合の検出電流密度の値)との差が検出電流密度の変化量として求められる。また、異常部位が存在しない樹脂フィルムにおいて、各吐出部4に対して、当該吐出部4のみの吐出流量を正常流量よりも10%だけ高い流量とし、他の吐出部4の吐出流量を正常流量とした場合における検出電流密度の変化量が、正常変化量として予め取得されて記憶されており、上記ステップS142の処理にて取得される検出電流密度の変化量と正常変化量との差が判定値として取得され、例えば判定値の絶対値が最も大きい吐出部4が特定吐出部として特定される(ステップS145)。
【0031】
ここで、ステップS142の処理にて異常部位に対応する吐出部4の吐出流量を正常流量から変更したときには、異常部位では析出反応が正常な部位よりも抑制または促進されていることにより、検出電流密度の変化量が正常変化量と大きく相違する。一方で、ステップS142の処理にて正常な部位に対応する吐出部4の吐出流量を正常流量から変更したときには、検出電流密度の変化量は正常変化量にほぼ等しくなる。したがって、判定値の絶対値が最も大きい吐出部4を特定吐出部として特定することにより、電析層の成長が正常処理時と相違する分割領域(すなわち、異常部位を含む分割領域)が実質的に、かつ、容易に特定されることとなる。
【0032】
なお、ステップS12の処理にて取得される検出電流密度の値(正の値として得られるものとする。)が正常電流範囲よりも低い場合には、異常部位において析出反応が抑制されていることにより、ステップS142の処理にて異常部位に対応する吐出部4の吐出流量を正常流量よりも増大したときに、検出電流密度の変化量(増加量)が正常変化量に比べて小さくなる(または、吐出流量を低減したときの検出電流密度の低下量が大きくなる。)。また、ステップS12の処理にて取得される検出電流密度の値が正常電流範囲よりも高い場合には、異常部位において析出反応が促進されていることにより、ステップS142の処理にて異常部位に対応する吐出部4の吐出流量を正常流量よりも低減したときに、検出電流密度の変化量(低下量)が正常変化量に比べて小さくなる(または、吐出流量を増大したときの検出電流密度の増加量が大きくなる。)。
【0033】
実際には、ローラ52aに最も近接した吐出部4以外の複数の吐出部4(すなわち、対応する分割領域において酸化亜鉛が層状に成長すると考えられる吐出部4)において、吐出部4と主面91との間の距離を等しくするとともに、正常流量も等しくする場合には、正常変化量はほぼ同じ値となる。
【0034】
吐出部特定処理が完了すると、特定吐出部4のみにて吐出流量が正常流量から変更され、他の吐出部4では吐出流量が正常流量のまま維持される(図4:ステップS15)。具体的には、特定吐出部4に対応する異常部位において析出反応が抑制されている(すなわち、膜の成長速度が遅い)場合には特定吐出部4の吐出流量が増大され、異常部位において析出反応が促進されている(すなわち、膜の成長速度が速い)場合には特定吐出部4の吐出流量が低減される。そして、制御部5にて検出電流密度が取得される(ステップS16)。
【0035】
このとき、電析装置1では、図5のステップS145にて取得される判定値と、検出電流密度を理想的な電流密度(すなわち、正常電流範囲の中央値)にする吐出流量の変更量との関係が、異常部位が存在しない樹脂フィルムを用いて実験により予め取得されており、最初のステップS15の特定吐出部4における吐出流量の変更量は判定値を用いて上記関係を参照することにより決定されるが、実際の異常部位を有する樹脂フィルム9では、ステップS16にて取得される検出電流密度の値が正常電流範囲内とならないことがある。
【0036】
したがって、検出電流密度の値が正常電流範囲内となっていない場合には(ステップS17)、直前のステップS16にて取得される検出電流密度の値に基づいて特定吐出部4の吐出流量がさらに変更(調整)され(ステップS15)、その後、検出電流密度が取得される(ステップS16)。このようにして、特定吐出部4の吐出流量の調整が行われることにより、検出電流密度の値が正常電流範囲内とされる(ステップS15〜S17)。これにより、異常部位における電析層の成長が正常処理時におけるものに近似することとなる。
【0037】
なお、既述のように、電析液中にて樹脂フィルム9の各部位は搬送方向に緩やかに移動するため、ステップS12の処理にて取得される検出電流密度が正常電流範囲外となったことが確認された後、図5の吐出部特定処理にて特定される吐出部4からの吐出流量を変更して検出電流密度が正常電流範囲内とされるまでの時間は、樹脂フィルム9の各部位への電析層の形成に要する時間(すなわち、ローラ52a近傍からローラ52b近傍への各部位の移動時間)に比べて極僅かである。
【0038】
検出電流密度の値が正常電流範囲内となると、特定吐出部4における吐出流量を変更後の吐出流量(ステップS15における最終的な吐出流量)にて維持するとともに、他の吐出部4における吐出流量を正常流量にて維持しつつ、検出電流密度の値が正常電流範囲内か否かが監視される(ステップS12,S13)。
【0039】
実際には樹脂フィルム9の各部位は搬送方向に移動することにより、ある程度の時間が経過すると特定吐出部4からの電析液が吐出される主面91上の分割領域は異常部位を含まなくなるが、この場合、検出電流密度の値が正常電流範囲外となり(ステップS12,S13)、別の吐出部4(実際には、特定吐出部4のローラ52b側に隣接する吐出部4)が特定吐出部として特定されることとなる(ステップS14)。そして、検出電流密度の値が正常電流範囲内となるように、特定吐出部4の吐出流量が正常流量から変更されるとともに、他の全ての吐出部4の吐出流量が正常流量とされる(ステップS15〜S17)。その結果、異常部位が樹脂フィルム9の電析対象部に含まれるおよそ全期間にて、異常部位における電析層の成長を正常処理時におけるものに近似させることが可能となる。以上のようにして、上記ステップS12〜S17の処理が、樹脂フィルム9の全体への電析層の形成が完了するまで継続される。
【0040】
ここで、電析対象部の一部の異常部位の影響により検出電流密度が正常電流範囲外となっている場合に、全ての吐出部4の吐出流量を変更することにより、検出電流密度の値を正常電流範囲内にすると、電析層の成長が正常な分割領域に影響を与えてしまい、樹脂フィルム9上に形成される電析層の均質性を確保することが困難となる。
【0041】
これに対し、図1の電析装置1では、電析層の形成の際に、電源部3にて検出される検出電流の値(検出電流密度と等価である。)が異常となる場合に、吐出流量を正常流量から変更する吐出部を複数の吐出部4において順に切り替えつつ検出電流の変化を監視することにより、複数の吐出部4のうち、対応する分割領域における電析層の成長が正常処理時と相違する吐出部4が特定吐出部として特定される。そして、特定吐出部4からの電析液の吐出流量を正常流量から変更することにより、特定吐出部4に対応する分割領域における電析層の成長を正常処理時におけるものに近似させることができる。これにより、電析層の成長が正常な分割領域に影響を与えることを抑制しつつ、異常な分割領域の析出条件を修正して、樹脂フィルム9上に一定の均質な電析層を形成することが実現される。なお、電析装置1の設計によっては、樹脂フィルム9の電析対象部における主面91を搬送方向および樹脂フィルム9の幅方向に分割した複数の分割領域にそれぞれ対応する複数の吐出部4が設けられ、樹脂フィルム9上の電析層の均質性がより精度よく向上されてもよい。
【0042】
また、電析装置1では、ローラ52b側の吐出部4において、主面91との間の距離がローラ52a側の吐出部4よりも小さくされる。ここで、樹脂フィルム9の電析対象部におけるローラ52a近傍の部位では、既述のように導電層上において孤立した多数の領域から結晶が成長している状態となっており、吐出部4と主面91との間の距離を過度に小さくすると、吐出部4における複数の吐出口の配列によっては、当該配列が導電層上の電析層の膜厚分布等に影響を与える可能性がある。したがって、電析対象部におけるローラ52a近傍の部位では、吐出部4と主面91との間隔を比較的大きくして、吐出部4の各吐出口から吐出される電析液を、吐出方向に垂直な方向におよそ広がった状態で主面91に到達させることが好ましい。
【0043】
一方で、電析対象部におけるローラ52b近傍の部位では、主面91上において既に結晶の層が形成されており、このような状態では、吐出部4と主面91との間の距離を小さくしても吐出部4における複数の吐出口の配列が導電層上の電析層の膜厚分布等に与える影響は小さい。したがって、電析対象部におけるローラ52b近傍の部位では、吐出部4と主面91との間隔を比較的小さくして、吐出部4からの吐出流量に対する検出電流密度の値の割合を大きくすることにより、ポンプ43の負荷を低減することが好ましい。なお、吐出部4と樹脂フィルム9との接触を避けるには、吐出部4と樹脂フィルム9との間の距離は5mm以上とされるのが好ましく、ポンプ43に求められる排水性能を一定の範囲内として、安価なポンプを用いて低コストにて電析装置1を製造するには吐出部4と樹脂フィルム9との間の距離は300mm以下とされるのが好ましい。
【0044】
図6は、電析装置の他の例を示す図である。図6の電析装置1では、図1の電析装置1に比べて、複数の吐出部4の構成のみが相違している。他の構成は図1と同様であり、同符号を付している。
【0045】
図6の電析装置1では、電析液中の樹脂フィルム9の主面91上の複数の分割領域のうち、搬送方向において最も後方に位置する吐出部4から電析液が付与される分割領域の面積が最大となるように、ローラ52a側の吐出部4の搬送方向の長さが他の吐出部4よりも長くされる。
【0046】
ここで、電析対象部においてローラ52aの近傍では、図3中の線L1の時刻T0〜T1の部分にて示すように、想定される電流密度が比較的低くなっており、対応する吐出部4からの電析液の吐出流量の変化に対する電流密度の変化も小さい(すなわち、感度が鈍い)。また、このような部位では電析層の成長速度も非常に遅く、当該部位にて電流密度が理想的な値から外れていても、最終的に形成される電析層の均質性に対する影響は小さい。したがって、ローラ52aに最も近接する吐出部4の搬送方向の長さを、他の吐出部4に比べて長くし、当該吐出部4からの電析液が付与される主面91上の分割領域を最大とすることにより、電析層の均質性を大きく低下させることなく、吐出部4の個数を低減することができ、電析装置1の製造コストを削減することができる。
【0047】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る電析装置1aの構成を示す図である。図7の電析装置1aでは、図1の電析装置1における複数のローラ52に代えて、電析液中にて矩形の樹脂基板9aを保持する基板保持部53が設けられ、複数の吐出部4aの構成が図1の複数の吐出部4と相違する。他の構成は図1の電析装置1と同様であり、同符号を付している。
【0048】
基板保持部53は、導電層の表面である一の主面91を有する樹脂基板9aを主面91とは反対側の主面に当接して保持するものとなっている。基板保持部53は保持部昇降機構54により昇降可能とされ、樹脂基板9aへの電析層の形成時には、主面91を下方に向けて樹脂基板9aが基板保持部53の下部と共に静止した状態で(すなわち、回転等が行われることなく)電析液中に浸漬される。なお、樹脂基板9aの外縁部を把持する等して樹脂基板9aを保持する保持部が設けられてもよい。
【0049】
図8は複数の吐出部4aの平面図である。図7および図8に示すように、複数(本実施の形態では9個)の吐出部4aは、電析液中にて樹脂基板9aの主面91との間に間隙を空けて配置されるとともに、樹脂基板9a(図8中にて二点鎖線にて示す。)の直交する2辺に平行な2方向に配列される。複数の吐出部4aの全体の外形は、樹脂基板9aとほぼ同じ大きさとなっており、電析液を形成している間、複数の吐出部4aの配列と同様に主面91を分割した複数の分割領域に向けてそれぞれ複数の吐出部4aから電析液が吐出される。本実施の形態では、複数の吐出部4aの樹脂基板9a側の上面の大きさが等しくされるが、例えば、中央の吐出部4aの上面が他の吐出部4aよりも大きくされてもよい。また、樹脂基板9aが円板状である場合には、樹脂基板9aの外形に対応する円を複数に分割した上面を有する複数の吐出部が設けられる。
【0050】
図7の電析装置1aでも、図1の電析装置1と同様に、電源部3が、電析液中の参照電極32と樹脂基板9aの導電層との間に所定の電圧を付与することにより、電析液中の導電層上への電析層(例えば、テンプレート化合物を含む酸化亜鉛の電析層)の形成が行われる。
【0051】
図9は、所望の質の電析層が形成される際の検出電流密度の変化を示す図である。電析装置1aの制御部5では、電析の開始から一定時間毎における正常電流範囲が、図9に示す検出電流密度の値をおよそ中央として予め決定されている。このように、本実施の形態では、正常電流範囲が時間の経過と共に変化するものとなる。
【0052】
表1には電析装置1aにて、基板の表面状態、参照電極32と基板の導電層との間に付与する電圧、複数の吐出部4aの吐出流量等を一定の条件として電析層の形成を繰り返した場合における(単位時間での)単位面積当たりの通過電荷量を示しており、表1の最も左側の列の「1」ないし「10」は電析層の形成処理の番号を示し、「平均値」は第1ないし第10回の電析層の形成における通過電荷量の平均値を示し、「3σ」は標準偏差の3倍の値を示し、「3σ(%)」は標準偏差を平均値にて除した値を示している。表1より各種条件が一定とされる限り、電析装置1aでは再現性の高い処理が可能であることが判る。
【0053】
【表1】

【0054】
実際には、樹脂基板9aの導電層上に異常部位が存在する可能性があるため、電析装置1aにおいても、樹脂基板9a上への電析層の形成に並行して吐出部4aの吐出流量の変更に係る処理が行われる。具体的には、樹脂基板9aが基板保持部53の下部と共に電析液中に浸漬され、参照電極32と樹脂基板9aの導電層との間への電圧の付与により、導電層への電析層の形成が開始されると、複数の吐出部4aからの正常流量での電析液の吐出が開始され、複数の吐出部4aから吐出される電析液が複数の分割領域にそれぞれ付与される(図4:ステップS11)。
【0055】
制御部5では、樹脂基板9aの導電層における電流の検出(検出電流密度の取得)が行われ(ステップS12)、検出電流密度の値が正常電流範囲内か否かが確認される(ステップS13)。検出電流密度の値が正常電流範囲内である場合には、一定時間後にステップS12に戻って検出電流密度の値が取得され、正常電流範囲内か否かが確認される(ステップS13)。このように、電析装置1aでは、一定時間毎に検出電流密度の値が繰り返し取得され(ステップS12)、正常電流範囲内か否かが確認される(ステップS13)。
【0056】
ここで、第1の実施の形態と同様に、導電層上に異常部位が発生している場合には、当該異常部位における電析層の成長が正常処理時と相違するため、検出電流密度の値が正常電流範囲外となる(ステップS13)。この場合、電析装置1aでは異常部位を含む分割領域に対応する吐出部4aを特定する処理が行われる(ステップS14)。
【0057】
異常部位に対応する吐出部4aを特定する処理では、第1の実施の形態と同様に、吐出流量を正常流量から変更する対象吐出部を、全ての吐出部4aにおいて順に切り替えつつ検出電流密度の変化量が取得される(図5:ステップS141〜S144)。そして、複数の吐出部4aにそれぞれ対応する複数の変化量のうち、予め準備される正常変化量との差が判定値とされ、判定値の絶対値が最も大きい吐出部4aが特定吐出部として特定される(ステップS145)。
【0058】
吐出部特定処理が完了すると、特定吐出部4aのみにて吐出流量が正常流量から変更され、他の吐出部4aでは吐出流量が正常流量のまま維持されて検出電流密度が取得される(図4:ステップS15,S16)。そして、検出電流密度の値が正常電流範囲内となっていない場合には(ステップS17)、特定吐出部4aの吐出流量がさらに変更され、検出電流密度が取得される(ステップS15,S16)。このようにして、特定吐出部4aの吐出流量の調整が行われることにより、検出電流密度の値が正常電流範囲内とされる(ステップS15〜S17)。これにより、異常部位における電析層の成長が正常処理時におけるものに近似することとなる。
【0059】
検出電流密度の値が正常電流範囲内となると、特定吐出部4aにおける吐出流量を変更後の吐出流量(ステップS15における最終的な吐出流量)にて維持するとともに、他の吐出部4aにおける吐出流量を正常流量にて維持しつつ、検出電流密度の値が正常電流範囲内か否かが監視される(ステップS12,S13)。このようにして、上記ステップS12〜S17の処理が、電析層の形成が完了するまで継続される。
【0060】
図10は、比較例の処理における検出電流密度の変化を示す図である。比較例の処理では、図10中にて符号L3を付す線にて示すように、電析層の形成の初期において検出電流密度の値が正常電流範囲外となる場合に、全ての吐出部4aの吐出流量が変更(増大)される。実際には、時刻T3にて吐出流量が正常流量よりも大きくされ、これにより、時刻T3から暫くした後では検出電流密度が正常電流範囲内とされる。なお、図10では符号L4を付す線にて図9の検出電流密度の変化も図示している。また、比較例では100mm四方の矩形の樹脂基板が用いられている。
【0061】
比較例の処理では、一部の異常部位の影響により検出電流密度が正常電流範囲外となっている場合であっても、全ての吐出部4aの吐出流量が変更されるため、樹脂基板9a上に形成される電析層の均質性が確保されない場合がある。また、特開2006−117966号公報(特許文献1)の手法のように、電析液を貯溜する電析槽の内部にて、樹脂基板の主面に電析液を噴射する噴射ノズルを設け、噴射ノズルを樹脂基板に平行に往復移動させる場合でも、樹脂基板の一部に異常部位が存在するときには、電析層の均質性を確保することができない。なお、特許文献1の手法では、噴射ノズルの移動により乱流が生じるため、実際には、基板表面に対する液流の制御は困難である。
【0062】
これに対し、電析装置1aでは、電析層の形成の際に、電源部3にて検出される検出電流の変化が異常となる場合に、吐出流量を正常流量から変更する吐出部を複数の吐出部4aにおいて順に切り替えつつ検出電流の変化を監視することにより、複数の吐出部4aのうち、対応する分割領域における電析層の成長が正常処理時と相違する吐出部4aが特定吐出部として特定される。そして、特定吐出部4aからの電析液の吐出流量を正常流量から変更することにより、特定吐出部4aに対応する分割領域における電析層の成長を正常処理時におけるものに近似させることができる。その結果、電析装置1aでは、電析層の成長が正常な分割領域に影響を与えることなく、異常な分割領域の析出条件を修正して、樹脂基板9a上に一定の均質な電析層を形成することが実現される。
【0063】
また、電析装置1aでは、電析層の形成途上において樹脂基板9aの主面91と複数の吐出部4aとの間の距離が昇降機構44により変更されてもよい。既述のように、電析層の形成処理の初期(例えば、検出電流密度がおよそ一定となるまでの期間であり、図9の例では処理の開始から300秒までの期間)では、導電層上において孤立した多数の領域から結晶が成長している状態となっており、吐出部4aと主面91との間の距離を過度に小さくすると、吐出部4aにおける複数の吐出口の配列によっては、当該配列が導電層上の電析層の膜厚分布等に影響を与える可能性がある。したがって、電析層の形成処理の初期では、吐出部4aと主面91との間隔を比較的大きくして、吐出部4aの各吐出口から吐出される電析液を、吐出方向に垂直な方向におよそ広がった状態で主面91に到達させることが好ましい。
【0064】
一方で、検出電流密度がおよそ一定となる期間では、主面91上において既に結晶の層が形成されており、このような状態では、吐出部4aと主面91との間の距離を小さくしても吐出部4aにおける複数の吐出口の配列が導電層上の電析層の膜厚分布等に与える影響は小さい。したがって、検出電流密度がおよそ一定となる期間では、吐出部4aと主面91との間隔を比較的小さくして、吐出部4aからの吐出流量に対する検出電流密度の値の割合を大きくすることにより、ポンプ43の負荷を低減することが好ましい。もちろん、吐出部4aと主面91との間隔は保持部昇降機構54が基板保持部53を昇降させることにより変更されてもよく、基板保持部53において樹脂基板9aを吐出部4aに向けて進退させる機構が設けられてもよい。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0066】
上記第1および第2の実施の形態では、複数の吐出部4,4aのうち、判定値の絶対値が最大となる1つの吐出部4,4aが特定吐出部として検出されるが、例えば、判定値の絶対値が所定値以上となる1つまたは複数の吐出部が特定吐出部として検出されてもよい。この場合でも、特定吐出部からの電析液の吐出流量を正常流量から変更することにより、特定吐出部に対応する分割領域における電析層の成長を正常処理時におけるものに近似させることができ、樹脂フィルム9または樹脂基板9aである基材上に均質な電析層を形成することが可能となる。
【0067】
電析装置1,1aでは、電析液の吐出方向が基材の主面に垂直な方向に固定された吐出部4,4aが設けられるが、例えば、各吐出部の吐出方向が一定の範囲内で任意に変更可能とされてもよい。また、樹脂フィルム9に向けて電析液を吐出する吐出部では、樹脂フィルム9の電析対象部における主面91に垂直な方向から搬送方向の前側または後側に傾斜した方向に向けて電析液が吐出されてもよい。このように、吐出部からの電析液の吐出方向は、形成する電析層の質等に合わせて適宜変更されてよい。
【0068】
上記第1および第2の実施の形態では、判定値と吐出流量の変更量との関係が予め取得されて制御部5にて記憶されるが、図4のステップS15,S16の処理の繰り返しにより最終的に決定される特定吐出部4の吐出流量を用いて、判定値と吐出流量の変更量との関係が更新されてもよい。これにより、検出電流密度を正常電流範囲内とするための特定吐出部4の吐出流量をより短時間にて決定することが可能となる。
【0069】
図7の電析装置1aでは、例えば、樹脂基板が電析槽内にて直立した状態で基板保持部により保持され、この樹脂基板の主面に対向するように複数の吐出部が設けられてもよく、また、このような基板保持部と複数の吐出部との複数の組合せを電析槽内にて並べることにより、複数の樹脂基板に対して同時に一定の厚さの均質な電析層の形成が行われてもよい。この場合、電析装置では、各樹脂基板の導電層に流れる検出電流が個別に取得される。なお、電析液中に浸漬される参照電極および対極のそれぞれの個数は1つでよい。
【0070】
電析装置1,1aは、色素増感型太陽電池の製造に用いられる酸化亜鉛の光電層の形成に特に適しているが、他の用途に用いられる金属や金属酸化物等の電析層の形成に用いられてもよく、この場合、形成される電析層に合わせた電析液が電析槽2にて貯溜される。
【0071】
また、電析装置1,1aにて電析層が形成される基材は、樹脂以外の様々な材料にて形成されるものであってよいが、金属またはガラス等にて形成される基材では、200℃以上の高温の環境下にてスパッタリングにて導電層(シード層)を形成することが可能であり、この場合、基板と導電層との間にて高い密着強度が確保されるため、基材の用途によっては、導電層上に形成される電析層のある程度の質のばらつきが許容される。したがって、電析装置1,1aは、基材と導電層との間にて高い密着強度を確保することが困難な樹脂にて形成される基材上に電析層を形成する場合に特に適しているといえる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】第1の実施の形態に係る電析装置の構成を示す図である。
【図2】複数の吐出部を示す図である。
【図3】検出電流密度の変化を示す図である。
【図4】吐出部の吐出流量の変更に係る処理の流れを示す図である。
【図5】吐出部特定処理の流れを示す図である。
【図6】電析装置の他の例を示す図である。
【図7】第2の実施の形態に係る電析装置の構成を示す図である。
【図8】複数の吐出部の平面図である。
【図9】検出電流密度の変化を示す図である。
【図10】比較例の処理における検出電流密度の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1,1a 電析装置
2 電析槽
3 電源部
4,4a 吐出部
5 制御部
9 樹脂フィルム
9a 樹脂基板
31 対極
32 参照電極
52,52a,52b ローラ
53 基板保持部
91 主面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電析装置であって、
電析液を貯溜する電析槽と、
導電層の表面である一の主面を有する長尺の基材の長手方向に連続する複数の部位を前記電析液中に順次浸漬し、前記電析液中にて前記長手方向に沿う搬送方向に各部位を緩やかに移動する移動機構と、
前記電析液中に浸漬される対極と、
前記電析液中に浸漬される参照電極と、
前記導電層、前記対極および前記参照電極に電気的に接続され、前記参照電極と前記導電層との間に所定の電圧を付与して前記電析液中の前記導電層上に電析層を形成しつつ、前記導電層に流れる電流を検出する電源部と、
前記電析液中にて前記導電層との間に間隙を空けて前記搬送方向に配列され、前記電析層を形成している間、前記電析液中の前記主面における前記搬送方向への搬送途上の部分を分割した複数の分割領域に向けて電析液をそれぞれ吐出する複数の吐出部と、
前記複数の吐出部のそれぞれにおいて正常処理時の電析液の吐出流量である正常流量が定められており、前記電析層の形成の際に、前記電源部にて検出される前記電流の値が異常となる場合に、吐出流量を前記正常流量から変更する吐出部を前記複数の吐出部において順に切り替えつつ前記電流の変化を監視することにより、前記複数の吐出部のうち、対応する分割領域における電析層の成長が前記正常処理時と相違する吐出部を特定吐出部として特定し、前記特定吐出部からの電析液の吐出流量を前記正常流量から変更することにより、前記特定吐出部に対応する分割領域における電析層の成長を前記正常処理時におけるものに近似させる制御部と、
を備えることを特徴とする電析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電析装置であって、
前記主面上の前記複数の分割領域のうち、前記搬送方向において最も後方に位置する吐出部から電析液が付与される分割領域の面積が最大となることを特徴とする電析装置。
【請求項3】
電析装置であって、
電析液を貯溜する電析槽と、
導電層の表面である一の主面を有する基材を前記電析液中にて保持する保持部と、
前記電析液中に浸漬される対極と、
前記電析液中に浸漬される参照電極と、
前記導電層、前記対極および前記参照電極に電気的に接続され、前記参照電極と前記導電層との間に所定の電圧を付与して前記導電層上に電析層を形成しつつ、前記導電層に流れる電流を検出する電源部と、
前記電析液中にて前記導電層との間に間隙を空けて配置され、前記電析層を形成している間、前記主面を分割した複数の分割領域に向けて電析液をそれぞれ吐出する複数の吐出部と、
前記複数の吐出部のそれぞれにおいて正常処理時の電析液の吐出流量である正常流量が定められており、前記電析層の形成の際に、前記電源部にて検出される前記電流の変化が異常となる場合に、吐出流量を前記正常流量から変更する吐出部を前記複数の吐出部において順に切り替えつつ前記電流の変化を監視することにより、前記複数の吐出部のうち、対応する分割領域における電析層の成長が前記正常処理時と相違する吐出部を特定吐出部として特定し、前記特定吐出部からの電析液の吐出流量を前記正常流量から変更することにより、前記特定吐出部に対応する分割領域における電析層の成長を前記正常処理時におけるものに近似させる制御部と、
を備えることを特徴とする電析装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の電析装置であって、
前記複数の吐出部と前記主面との間の距離が変更可能とされることを特徴とする電析装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の電析装置であって、
前記電析層が、酸化亜鉛の層であることを特徴とする電析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−37600(P2010−37600A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202153(P2008−202153)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】