説明

電極および蓄電デバイス

【課題】高容量とともに高出力を実現できる電極および蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】集電体11と、電極活物質、導電性粒子および結着剤16を含み、前記集電体の上に設けられた活物質層と、を備え、電極活物質が、テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に有する重合体化合物であり、活物質層において、電極活物質および導電性粒子が、電極活物質で被覆された導電性粒子の凝集体13を形成しており、凝集体が、実質的に、電極活物質、導電性粒子および内部の空隙からなり、結着剤が、隣り合う凝集体と凝集体との間に存在している、電極。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
近年、携帯オーディオデバイス、携帯電話、ラップトップコンピュータといった携帯型電子機器が広く普及している。また、省エネルギーの観点、あるいは、二酸化炭素の排出量を低減する観点から、内燃機関と電気による駆動力とを併用するハイブリッド自動車が普及し始めている。これらの普及に伴い、電源として用いられる蓄電デバイスに対する高性能化への要求が高まっている。具体的には、高出力、高容量、優れた繰り返し特性を有する蓄電デバイスが要求されている。
【0002】
蓄電デバイスの高性能化のために、さまざまな取り組みが行われている。蓄電デバイスの性能は、正極材料および負極材料に大きく依存するため、正極材料および負極材料の検討が積極的に行われている。
【0003】
高電圧かつ寿命の長い電池を得るために、導電性有機錯体(特許文献1)やラジカル化合物(特許文献2)などを電極活物質として用いることが提案されている。特許文献3では、蓄電デバイスの繰り返し特性を改善するために、π電子共役雲を有する有機化合物を電極活物質として用いることが提案されている。具体的には、例えば、下記式(1)に示すテトラチアフルバレン(TTF)を電極活物質として用いることが提案されている。
【0004】
【化1】

【0005】
特許文献3では、このようなπ電子共役雲を有する構造を複数含む高分子化合物を蓄電デバイスの電極活物質に用いることも提案されている。具体的には、π電子共役雲を有する構造と、主鎖としてポリアセチレン鎖とが結合してなる高分子化合物が開示されている。特許文献4は、蓄電デバイスの電極活物質として、π電子共役雲を有する酸化還元部位を側鎖に有するユニットと、酸化還元部位を側鎖に有さないユニットとの共重合体化合物を開示している。
【0006】
有機化合物を活物質として用いた蓄電デバイスの電極構造については、さまざまな構造が提案されている。例えば、特許文献3は、導電性粒子と結着剤とを含み、π電子共役雲を有する有機化合物が電極活物質として溶媒に溶解したスラリーを、集電体上に塗布して乾燥することにより作製された電極を開示している。このような電極は、活物質層において活物質と導電性粒子と結着剤とが均一に分散した構造を有する。特許文献4は、π電子共役雲を有する有機化合物の粒子と導電性粒子と結着剤とを混合して得られる合剤を導電性支持体上に圧着して乾燥することにより作製された電極を開示している。このような電極は、活物質層において活物質が粒子として存在している構造を有する。特許文献5では、繰り返し特性の改善を目的として、電極活物質であるラジカル化合物の領域と、導電性物質の領域とが一体化した粒子を含む電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−14762号公報
【特許文献2】特開2002−117852号公報
【特許文献3】特開2004−111374号公報
【特許文献4】国際公開第2009/157206号
【特許文献5】特開2002−298850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、高容量、高出力および優れた繰り返し特性を得るために、特許文献3や特許文献4では、π電子共役雲を酸化還元部位として有する電極活物質が提案されている。しかし、これらの電極活物質の特性を十分に生かせる蓄電デバイスの電極構造、特に、高容量と高出力とを両立する電極構造に関する知見は十分ではなかった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑み、高容量、優れた繰り返し特性および高出力を有する電極およびそれを用いた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、
集電体と、
電極活物質、導電性粒子および結着剤を含み、前記集電体の上に設けられた活物質層と、
を備え、
前記電極活物質が、テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に有する重合体化合物であり、
前記活物質層において、前記電極活物質および前記導電性粒子が、前記電極活物質で被覆された前記導電性粒子の凝集体を形成しており、
前記凝集体が、実質的に、前記電極活物質、前記導電性粒子および内部の空隙からなり、
前記結着剤が、隣り合う前記凝集体と前記凝集体との間に存在している、電極を提供する。
【0011】
本発明は、別の観点から、
導電性粒子と、テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に有する重合体化合物と、前記重合体化合物を溶かすことができる溶媒とを含む活物質スラリーを調製する工程と、
前記重合体化合物で被覆された前記導電性粒子の凝集体が得られるように、前記活物質スラリーから前記溶媒を除去する工程と、
前記凝集体と結着剤とを用いて集電体上に活物質層を形成する工程と、
を含む、電極の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、その別の観点から、
本発明の電極からなる正極と、
リチウムイオンを吸蔵および放出しうる負極活物質を含む負極と、
前記リチウムイオンとアニオンとの塩を含み、前記正極と前記負極との間に満たされた電解液と、
を備えた、蓄電デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電極は、テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に有する重合体化合物を含む。そのため、安定して繰り返し酸化還元反応を行うことができ、優れた繰り返し特性が得られる。活物質層において、電極活物質である重合体化合物は導電性粒子の表面の少なくとも一部を被覆し、凝集体を形成している。そのため、重合体化合物と導電性粒子との接触面積が大きく、重合体化合物と導電性粒子の間における電子の移動が円滑に行われる。重合体化合物は導電性粒子の表面で被膜として存在しているため、電解液中の対イオンが重合体化合物中の酸化還元部位に到達するまでに要する移動距離が短くなる。凝集体は内部に空隙を有するため、電解液が空隙に侵入し、電解液と重合体化合物との接触面積が大きくなる。このため、重合体化合物中の酸化還元部位にアニオンが到達し易くなる。これらにより、酸化還元時の抵抗を低減できる。つまり、高出力な電極を実現することができる。
【0014】
重合体化合物と導電性粒子とで構成された凝集体の間には結着剤が存在している。活物質層において、凝集体同士は結着剤によって固定されている。それゆえ、活物質層の厚膜化を容易に行うことができる。すなわち、蓄電デバイス内における電極活物質層の占有体積を大きくし、集電体などの部材の占有体積を減らすことができるため、蓄電デバイスを高容量化することができる。
【0015】
従来の製造方法を採用した場合、重合体化合物、導電性粒子および結着剤などを一度に混合して得られた混合体を成形することにより活物質層が形成される。そのため、結着剤によって重合体化合物と導電性粒子との接触が妨げられ、酸化還元時の抵抗が大きくなる。これに対し、本発明の製造方法によれば、予め、重合体化合物と導電性粒子とで構成された凝集体を作製し、その後、凝集体と他の構成材料とを混合し、得られた混合体を成形することにより活物質層が形成される。これにより、重合体化合物と導電性粒子との接触面積が大きく、重合体化合物が導電性粒子の表面で被膜として存在している電極構造を得ることができ、高出力な電極を実現することができる。このように、電極作製時、凝集体はリチウム酸化物などの従来の正極活物質と同様に扱うことができるため、電極の製造が容易である。
【0016】
よって、本発明の電極およびその製造方法を用いることによって、優れた繰り返し特性、高容量および高出力を有する蓄電デバイスを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による電極の構造を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明による電極の活物質層の一部を拡大して示す模式的な断面図である。
【図3】本発明による蓄電デバイスの一実施形態であるコイン型蓄電デバイスを示す模式的な断面図である。
【図4】(a)は実施例1の凝集体の断面を示すSEM像であり、(b)および(c)はその断面における炭素分布像および硫黄分布像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、リチウム二次電池を例に挙げて、本発明の電極およびそれを用いた蓄電デバイスを説明する。しかし、本発明は、リチウム二次電池やリチウム二次電池用電極に限らず、化学反応を利用したキャパシタなどの電気化学素子にも好適に用いられる。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態である電極10の断面構造を模式的に示す。電極10は、集電体(導電性支持体)11と集電体11上に設けられた電極活物質層12とを備える。電極活物質層12は、実質的に電極活物質および導電性粒子からなる凝集体13を含む。凝集体13は、結着剤16とともに電極活物質層12中に固定されている。結着剤16は、隣り合う凝集体13と凝集体13との間に存在している。電極活物質層12は、電極10を備える電池を構成したときに電解液を保持しうるように、多孔質構造を有している。
【0020】
本発明の特徴の一つは、電極活物質層12内において、電極活物質である重合体化合物が、導電性粒子の表面の一部を被覆して凝集することにより形成された凝集体(重合体被覆粒子)13として存在している点である。凝集体13は以下に説明する構造を備える。
【0021】
図2は、活物質層12に含まれる凝集体13を拡大して模式的に示した図である。凝集体13は、電極活物質である重合体化合物14と、導電性粒子15とを含んでおり、重合体化合物14は導電性粒子15の表面の少なくとも一部を被覆している。つまり、重合体化合物14は導電性粒子15を覆う被膜の状態で存在している。さらに、凝集体13は内部に空隙13aを有している。本明細書において、重合体化合物14が導電性粒子15を被覆しているとは、重合体化合物14が導電性粒子15の表面に沿うような連続体として存在していることを指す。導電性粒子15の表面上において、重合体化合物14が均一な膜厚の連続体を形成している状態が好ましいが、連続体の膜厚が一定でなくてもよい。
【0022】
図2では、個々の導電性粒子15の断面が楕円で示されているが、導電性粒子15の形状は特に限定されない。導電性粒子15の形状は、例えば、球状、楕円体状、鱗片状、繊維状など、電極材料の導電助剤として一般に用いられる導電助剤の種々の形状の一つであってもよい。図2では、導電性粒子15の集まりによって構成される二次粒子を重合体化合物14が完全に被覆しているが、重合体化合物14は、当該二次粒子を完全に被覆している必要はなく、当該二次粒子の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0023】
凝集体13がこのような構造を備えているため、導電性粒子15と電極活物質である重合体化合物14との接触面積が増大し、重合体化合物14と導電性粒子15との間で酸化還元反応に伴う電子の移動が円滑に行われる。さらに、重合体化合物14の酸化還元反応も均一に起こりやすくなる。凝集体13は、結着剤を含まないことが好ましい。
【0024】
重合体化合物14は、テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に有する重合体化合物である。重合体化合物14においてテトラカルコゲノフルバレン骨格を有する部分は、π共役電位雲を有し、酸化還元部位として機能する。テトラカルコゲノフルバレン骨格は、2電子酸化された状態でも安定である。それゆえ、当該骨格を繰り返し単位に有する重合体化合物14は、安定して繰り返し酸化還元反応を行うことができる。テトラカルコゲノフルバレン骨格を含む分子は、分子量を大きくするほど有機溶媒に対する溶解度が低下する。高分子量を有する重合体化合物14が電極活物質として用いられているため、電極活物質の、有機溶媒を含む電解液への溶解が抑制され、繰り返し特性の劣化が抑制される。以上のとおり、重合体化合物14は蓄電材料として適し、重合体化合物14を電極活物質として用いることにより、優れた繰り返し特性が得られる。
【0025】
重合体化合物14が酸化還元反応を行う場合、電解液中のアニオンは、電解液と接する重合体化合物14の表面から、重合体化合物14内の酸化還元部位の近傍にまで移動する必要がある。重合体化合物14内は、電解液中に比べてアニオンが移動しにくく、このことが充放電時の抵抗成分になりやすい。電解液と接する重合体化合物14の表面から重合体化合物14内の酸化還元部位までのアニオンの移動距離が短いほど、酸化還元反応は速く進行する。
【0026】
本実施形態によれば、活物質層12において重合体化合物14が薄膜の状態で存在するため、電解液と接する重合体化合物14の表面から重合体化合物14内の酸化還元部位までアニオンが移動する距離は短い。さらに、凝集体13内に空隙13aが存在するため、この空隙13aに電解液が浸入することによって、重合体化合物14と電解液との接触面積が拡大する。このため、重合体化合物14の内部に存在する酸化還元部位である、テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する部分の近傍に、アニオンが到達し易くなり、電極10における抵抗成分を低減することができる。
【0027】
通常、電極活物質として有機化合物を用い、電極内で当該有機化合物が導電性粒子を被覆している構造を実現するためには、以下のような方法が採用される。すなわち、電極活物質である有機化合物を溶媒に分散または溶解させ、導電性粒子と混合することにより、ペーストを作製する。集電体上にペーストを塗布して塗工膜を形成した後、塗工膜を乾燥させることにより、電極を作製することができる。しかし、このような方法で電極を作製する場合、活物質層の厚膜化が困難である。粘度の高いペーストを用いる場合、厚膜の塗工膜を形成することは可能であるが、組成の均一なペーストおよび塗工膜を得ることが難しいため、組成の均一な活物質層を得ることが困難である。粘度の低いペーストを用いる場合、重ね塗りなどにより厚膜の塗工膜を形成することが可能である。しかし、先の塗工および乾燥により固定化された下層の上にペーストを塗工した際、ペーストが下層中に浸透したり、ペースト中の溶媒が下層中の電極活物質を溶解または脱離させたりするため、組成および構造の均一な活物質層を得ることが困難である。
【0028】
これに対し、本実施形態では、凝集体13において、既に、電極活物質である重合体化合物14が導電性粒子15を被覆している構造が実現されている。凝集体13は単独の粒子として存在し、活物質層12は、凝集体13同士が結着剤16を用いて結合することにより形成されている。結着剤16と予め作製された凝集体13とを用いることにより、作製方法が制限されることなく、容易に活物質層12を形成し、電極10の構造を実現し、上述した効果を得ることができる。例えば、凝集体13および結着剤16を含む合剤を混練し、この合剤を集電体11上に圧延することにより、電極10を作製することができる。このような方法を用いて、活物質層12が均一な組成および構造を有したまま、活物質層12を厚膜化することもできる。
【0029】
結着剤16の形状は、図1において線で示されているが、活物質層12における結着剤16の形状は特に限定されない。結着剤16は、線や網目状の構造を形成して凝集体13同士を結合していてもよく、凝集体13に接する小さな点の形状で凝集体13同士を結合していてもよい。
【0030】
凝集体13は、例えば、以下のような製造方法により得ることができる。まず、重合体化合物14を溶媒に溶解させるとともに、導電性粒子15を分散させることにより、活物質スラリーを調製する。次に、重合体化合物14で被覆された導電性粒子15の凝集体13が得られるように、活物質スラリーから溶媒を除去する。例えば、得られた活物質スラリーを支持体上に塗布することにより、塗布膜を形成する。この塗布膜を乾燥させることにより、シート状複合体を作製する。得られたシート状複合体を剥離および粉砕することにより、導電性粒子15が重合体化合物14により被覆された粒子、すなわち、凝集体13が得られる。別の方法では、上記と同様にして得られた活物質スラリーを噴霧乾燥させることにより、活物質スラリーから溶媒を除去する。この方法によっても凝集体13が得られる。凝集体13の粒子径を制御するためには、活物質スラリーを噴霧乾燥させることにより凝集体13を得る方法が好ましい。
【0031】
活物質スラリーを調製するための溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、クロロホルムなどの、重合体化合物14を溶解させることができる溶媒が挙げられる。後の工程で容易に除去できるという観点から、活物質スラリーを調製するための溶媒としては、NMP、DMIおよびTHFが好ましい。なお、導電性粒子15は溶媒に溶解しない。
【0032】
凝集体13内に占める重合体化合物14の重量比率は、1〜90%が好ましい。重合体化合物14の重量比率が1%以下であると、活物質層12に占める電極活物質の割合が低いため、高容量な電極10を実現できないことがある。重合体化合物14の重量比率が90%以上であると、導電性粒子15を被覆する重合体化合物14の膜厚が大きくなる。このため、導電性粒子15を被覆している電極活物質14において電子伝導性を十分に確保することが困難になり、活物質層12全体で均一に充放電を行うことが困難になる。このような観点から、凝集体13内に占める重合体化合物14の重量比率は、1〜90%が好ましく、10〜50%がより好ましい。
【0033】
次に、電極活物質である重合体化合物14について説明する。上述したように、重合体化合物14は、テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に有する重合体である。テトラカルコゲノフルバレン骨格は繰り返し単位の主鎖に含まれていてもよく、側鎖に含まれていてもよい。テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する部分の構造は、例えば、下記式(2)で表される。
【0034】
【化2】

【0035】
式(2)中、X1、X2、X3、およびX4は、それぞれ独立して、硫黄原子、酸素原子、セレン原子、またはテルル原子である。Ra、Rb、Rc、およびRdから選ばれる1つまたは2つは、重合体の主鎖または側鎖の他の部分と結合するための結合手である。Ra、Rb、Rc、およびRdから選ばれる、残りの3つまたは2つは、それぞれ独立して、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、またはアルキルチオ基である。鎖状の脂肪族基および環状の脂肪族基は、それぞれ、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。RaとRbとは、互いに結合して環を形成していてもよく、また、RcとRdとは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0036】
[繰り返し単位の主鎖にテトラカルコゲノフルバレン骨格が含まれる場合]
まず、繰り返し単位の主鎖にテトラカルコゲノフルバレン骨格を含む重合体化合物14について説明する。テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位の主鎖に含む重合体化合物14は、式(2)で表されるテトラカルコゲノフルバレン骨格が主鎖に含まれる限り、テトラカルコゲノフルバレン骨格を有するモノマーとその他の化学構造を有するモノマーとの共重合体であってもよい。
【0037】
高いエネルギー密度を得るためには、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合することにより、重合体化合物14の主鎖が構成されていることが好ましい。この場合、重合体化合物14は、例えば、いずれもテトラカルコゲノフルバレン骨格を含み、かつ、置換基が互いに異なる2種以上のモノマーを共重合させた重合体である。このような共重合体としては、以下の式(3)および(4)に示す2種の繰り返し単位が記号*において互いに結合した共重合体が挙げられる。
【0038】
【化3】

【0039】
式(3)および(4)において、Xは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5〜R8は、それぞれ独立して、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、R5およびR6の組み合わせはR7およびR8の組み合わせと異なる。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ独立して、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0040】
上記共重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格に結合した置換基が互いに異なる2種の繰り返し単位からなり、その主鎖は、テトラカルコゲノフルバレン骨格の1、4位同士が直接結合することにより形成されている。したがって、1分子中に占める酸化還元部位の割合が高いため、このような重合体化合物14は蓄電材料として高いエネルギー密度で電荷を蓄積することができる。
【0041】
式(3)および(4)で表される繰り返し単位からなる共重合体は、ブロック共重合体、交互共重合体およびランダム共重合体のいずれであってもよい。ブロック共重合体は、式(3)で表される繰り返し単位が複数直接結合したユニットと、式(4)で表される繰り返し単位が複数直接結合したユニットとが交互に配列した構造を有する。交互共重合体は、式(3)で表される繰り返し単位および式(4)で表される繰り返し単位が交互に配列した構造を有する。ランダム共重合体は、式(3)で表される繰り返し単位および式(4)で表される繰り返し単位がランダムに配列した構造を有する。
【0042】
式(3)および(4)で表される繰り返し単位からなる共重合体は、例えば、式(3)におけるR5およびR6がフェニル基であり、式(4)におけるR7およびR8が鎖状炭化水素基である共重合体である。具体的には、重合体化合物14は、式(3)および(4)中のXが硫黄原子であり、R5およびR6がフェニル基であり、R7およびR8がデシル基である、以下の式(5)で示される共重合体であってもよい。
【0043】
【化4】

【0044】
式(5)中、nとmとの和は重合度を示し、2以上の整数である。2つのテトラカルコゲノフルバレン骨格を有する繰り返し単位は、規則的に配列されていてもよいし、ランダムに配列されていてもよい。nとmとの比は任意である。重合体が電解液に溶解しないよう、重合体の分子量は大きいことが好ましい。具体的には、テトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むことが好ましい。すなわち、重合体化合物14が式(5)で表されるような共重合体である場合、重合度(nとmとの和)は、4以上であることが好ましい。
【0045】
テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖に含む重合体化合物14は以下の式(6)で表される重合体であってもよい。
【0046】
【化5】

【0047】
式(6)中、4つのXは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5およびR6は、それぞれ独立して、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。R9は、アセチレン骨格またはチオフェン骨格を含む、鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基であり、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0048】
式(6)で表される重合体の主鎖には、R9で表されるリンカーとテトラカルコゲノフルバレン骨格とが交互に配置されている。R9は、上述したように、アセチレン骨格またはチオフェン骨格を含む、鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基である。R9がこのように配置されていることにより、テトラカルコゲノフルバレン骨格間の電子的な相互作用を抑制し、各テトラカルコゲノフルバレン骨格における電気化学的な酸化還元反応の安定性を高めることができる。その結果、重合体化合物14におけるすべてのテトラカルコゲノフルバレン骨格が可逆的な酸化還元反応を行うことができ、高い容量の電極活物質を実現できる。
【0049】
テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖に含む重合体化合物14は、例えば、式(6)において、Xが硫黄原子であり、R5およびR6がフェニル基であり、R9が下記式(7)に示す構造を備える、以下の式(8)に示す重合体である。式(7)における記号*は結合の端点を表す。
【0050】
【化6】

【0051】
【化7】

【0052】
テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖に含む重合体化合物14は、式(6)におけるR9が下記式(9−a)〜(9−c)のいずれかに示す構造を備える重合体であってもよい。式(9−a)〜(9−c)における記号*は結合の端点を表す。
【0053】
【化8】

【0054】
式(6)におけるR9が式(9−a)で表される構造を備える重合体化合物14は、例えば、以下の式(10)に示す重合体である。
【0055】
【化9】

【0056】
式(10)中、4つのXは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5、R6およびR10〜R13は、それぞれ独立して、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ独立して、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0057】
式(6)におけるR9が式(9−b)で表される構造を備える重合体化合物14は、例えば、以下の式(11)に示す重合体である。
【0058】
【化10】

【0059】
式(11)中、4つのXは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R5、R6、R10〜R12およびR14は、それぞれ独立して、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ独立して、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0060】
式(10)で表される重合体は、例えば、式(10)において、Xが硫黄原子であり、R5およびR6が、チオヘキシル基、メチル基またはデシル基であり、R10〜R13が水素原子である、以下の式(12)、(13)または(14)に示す重合体である。
【0061】
【化11】

【0062】
式(10)で表される重合体は、式(10)において、Xが硫黄原子であり、R5およびR6がフェニル基であり、R10およびR13がメトキシ基であり、R11およびR12が水素原子である、以下の式(15)に示す重合体であってもよい。
【0063】
【化12】

【0064】
式(11)で表される重合体は、式(11)において、Xが硫黄原子であり、R5およびR6が、メチル基またはフェニル基であり、R10〜R12およびR14が水素原子である、以下の式(16)または(17)に示す重合体であってもよい。
【0065】
【化13】

【0066】
あるいは、式(6)におけるR9は、チオフェン骨格を含む下記式(18)〜(22)に示すいずれかの構造を備えていてもよい。式(18)〜(22)における記号*は結合の端点を表す。
【0067】
【化14】

【0068】
具体的には、式(6)で表される重合体は、式(6)において、Xが硫黄原子であり、R9が式(18)〜(22)で表されるいずれかの構造を備える、下記式(23)〜(30)に示す重合体であってもよい。
【0069】
【化15】

【0070】
【化16】

【0071】
【化17】

【0072】
【化18】

【0073】
【化19】

【0074】
重合体化合物14が電解液に溶解しないよう、重合体合物14はテトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むことが好ましい。すなわち、式(23)〜(30)におけるnおよび式(30)におけるmはいずれも4以上であることが好ましい。式(30)で表される重合体において、テトラチアフルバレン骨格を有する繰り返し単位とチオフェン骨格を有する繰り返し単位とは規則的に配列されていてもよいし、ランダムに配列されていてもよい。nとmとの比は任意である。
【0075】
これまで説明してきた重合体の主鎖は、式(1)におけるR1およびR3、つまり、テトラカルコゲノフルバレン骨格の1位および4位を結合手とするテトラカルコゲノフルバレン骨格によって構成されていた。しかし、テトラカルコゲノフルバレン骨格は、式(1)におけるR1およびR2(またはR3およびR4)、つまり、テトラカルコゲノフルバレン骨格の1位および2位(または3位および4位)を結合手として、重合体の主鎖を構成していてもよい。テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖に含む重合体化合物14は、下記式(31)に示す重合体であってもよい。
【0076】
【化20】

【0077】
式(31)中、4つのXは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R15およびR16は、それぞれ独立して、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ独立して、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。R27は、アセチレン骨格および/またはチオフェン骨格を含む、鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基であり、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0078】
具体的には、式(31)におけるR27は、下記式(7)および(9−a)〜(9−c)のいずれかに示す構造を備えていてもよい。式(7)および(9−a)〜(9−c)における記号*は結合の端点を表す。
【0079】
【化21】

【0080】
【化22】

【0081】
式(9−a)、(9−b)および(9−c)において、R10〜R14は、それぞれ独立して、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ独立して、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0082】
式(31)で表される重合体は、式(31)におけるR27が式(9−a)で表される構造を備える、式(32)に示す重合体であってもよい。
【0083】
【化23】

【0084】
式(32)中、4つのXは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R15〜R20は、それぞれ独立して、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ独立して、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0085】
式(32)で表される重合体は、式(32)において、Xが硫黄原子であり、R15およびR16がチオヘキシル基であり、R17〜R20が水素原子である、下記式(33)に示す重合体であってもよい。
【0086】
【化24】

【0087】
式(31)で表される重合体は、式(31)におけるR27が式(9−b)で表される構造を備える、下記式(34)に示す重合体であってもよい。
【0088】
【化25】

【0089】
式(34)中、4つのXは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R15〜R19およびR21は、それぞれ独立して、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ独立して、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0090】
テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖に含む重合体化合物14は、下記式(35)に示す重合体であってもよい。
【0091】
【化26】

【0092】
式(35)中、4つのXは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子であり、R15、R16、R23およびR24は、それぞれ独立して、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ独立して、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。R22およびR25は、それぞれ独立して、アセチレン骨格および/またはチオフェン骨格を含む、鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基であり、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0093】
式(35)において、R22およびR25は、下記式(7)に示す構造を備えていてもよい。この場合、式(35)で表される重合体は、例えば、式(35)において、Xが硫黄原子であり、R15およびR16がチオヘキシル基であり、R23およびR24がフェニル基である、下記式(36)に示す重合体である。
【0094】
【化27】

【0095】
【化28】

【0096】
上述したように、テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖に含む重合体化合物14は、電解液に溶解しないよう、テトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むことが好ましい。すなわち、式(36)におけるnは2以上であることが好ましい。
【0097】
式(6)で表される重合体と同様に、式(31)および(35)で表される重合体でも、アセチレン骨格やチオフェン骨格を含む、鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基と、テトラカルコゲノフルバレン骨格とが交互に結合して主鎖を構成している。このため、鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基がテトラカルコゲノフルバレン骨格間の電子的な相互作用を抑制し、各テトラカルコゲノフルバレン骨格における電気化学的な酸化還元反応の安定性を高めることができる。その結果、重合体における全てのテトラカルコゲノフルバレン骨格が可逆的な酸化還元反応を行うことができ、高い容量の電極活物質を実現することができる。
【0098】
上述の各重合体化合物14は、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含むモノマーを重合させることにより合成することができる。上述した構造を有する限り、どのような方法で重合体化合物14を合成してもよい。しかし、重合中の活性な結合手の転位を防止し、規則性の高い重合体化合物14を形成するためには、カップリング反応による重合によって重合体化合物14を合成することが好ましい。具体的には、上述したような繰り返し単位の構造を有し、かつ、結合手となる位置にハロゲン基またはその他の官能基を有するモノマーを、薗頭カップリング反応またはその他のカップリング反応により重合させ、重合体化合物14を合成することが好ましい。
【0099】
[繰り返し単位の側鎖にテトラカルコゲノフルバレン骨格が含まれる場合]
次に、繰り返し単位の側鎖にテトラカルコゲノフルバレン骨格を含む重合体化合物14について説明する。繰り返し単位の側鎖にテトラカルコゲノフルバレン骨格を含む重合体化合物14は、テトラカルコゲノフルバレン骨格を酸化還元部位として側鎖に有する第1ユニットと、酸化還元反応部位を側鎖に有さない第2ユニットとの共重合体である。第1ユニットは、具体的には、式(2)で表される構造を側鎖に有する。第2ユニットは、具体的には、式(2)で表される構造が酸化還元反応を行う電位の範囲において電気化学的に酸化還元反応を行う部位を側鎖に有さない。
【0100】
テトラカルコゲノフルバレン骨格を側鎖に含む場合、側鎖に位置するテトラカルコゲノフルバレン骨格同士が互いに近接し易くなる。テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が互いに近接している場合、酸化還元反応時に、対アニオンのテトラカルコゲノフルバレン骨格への移動経路を確保することが困難になり、酸化還元反応が円滑に行われ難くなる。そのうえ、テトラカルコゲノフルバレン骨格の安定な酸化状態が得られ難くなるため、酸化反応が進行し難くなる。これは活物質の反応に対する抵抗となる。それゆえ、酸化還元部位を側鎖に有しない第2ユニットを、テトラカルコゲノフルバレン骨格を側鎖に有する第1ユニットと共重合させる。これにより、酸化還元部位であるテトラカルコゲノフルバレン骨格の近傍における立体障害が低減され、酸化還元部位が酸化した際に対アニオンが酸化還元部位に接近および配位し易くなり、活物質反応に対する抵抗が低減される。
【0101】
主鎖にテトラカルコゲノフルバレン骨格を含む重合体は、活物質スラリーを調製するための溶媒である、NMP、DMI、THFなどの溶媒に対して比較的高い溶解性を有する。なぜなら、分子中で互いに最も近くにあるテトラカルコゲノフルバレン骨格同士が重なり難いからである。これに対し、側鎖にテトラカルコゲノフルバレン骨格を含む重合体の場合、特に、第2ユニットを含まない場合、隣り合う側鎖に位置するテトラカルコゲノフルバレン骨格同士がスタックし易い。そのため、側鎖にテトラカルコゲノフルバレン骨格を含む重合体の、これらの溶媒に対する溶解性は低くなる傾向にある。これらの溶媒に対する溶解性が低い重合体を用いた場合、重合体が溶解した活物質スラリーの調製が困難になり、凝集体13の作製が困難になる。それゆえ、テトラカルコゲノフルバレン骨格を側鎖に有しない第2ユニットを、テトラカルコゲノフルバレン骨格を側鎖に有する第1ユニットと共重合させる。これにより、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士がスタックすることを防ぎ、活物質スラリーを調製するための溶媒に対する重合体の溶解性を向上させることができる。
【0102】
第1ユニットと第2ユニットとの共重合体である重合体化合物14において、第2ユニットの側鎖は、後述の電解液に用いられる非水溶媒である、非プロトン性極性溶媒に対して親和性を有する官能基を含むことが好ましい。これにより、溶媒和した対アニオンが酸化還元部位の近傍に接近し易くなる。このような化学的特性を有する官能基としては、酸素含有官能基であるエステル基、エーテル基およびカルボニル基;窒素含有官能基であるシアノ基、ニトロ基およびニトロキシル基;炭素および水素からなる官能基であるアルキル基およびフェニル基;硫黄含有官能基であるアルキルチオ基、スルホン基およびスルホキシド基などが挙げられる。第2ユニットの側鎖は、これらの官能基から選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましく、2種以上含んでいてもよい。これらの官能基の中でも、第2ユニットの側鎖は、非プロトン性極性溶媒との親和性の高い、エステル基、エーテル基およびカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0103】
エステル基、エーテル基、カルボニル基、スルホン基およびスルホキシド基の末端部は、特に限定されないが、メチル基、エチル基のような炭素数の少ないアルキル基、または芳香族基であることが望ましい。好ましいエステル基としては、(−COO−CH3)、(−COO−C25)で表されるアルキルエステルや、フェニルエステル(−COO−C65)などが挙げられる。好ましいエーテル基としては、(−O−CH3)、(−O−C25)で表されるアルキルエーテルや、フェニルエ―テル(−O−C65)などが挙げられる。好ましいカルボニル基としては、(−C(=O)−CH3)、(−C(=O)−C25)、(−C(=O)−C65)などが挙げられる。好ましいスルホン基としては、(−S(=O)2−CH3)、(−S(=O)2−C25)、(−S(=O)2−C65)などが挙げられる。好ましいスルホキシド基としては、(−S(=O)−CH3)、(−S(=O)−C25)、(−S(=O)−C65)などが挙げられる。
【0104】
第1ユニットと第2ユニットとの共重合体である重合体化合物14の主鎖は、特に限定されず、炭素原子、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む3価残基を繰り返し単位として含む。繰り返し単位は、炭素数1〜10の、飽和脂肪族基または不飽和脂肪族基を置換基として含んでいてもよい。具体的には、重合体化合物14の主鎖として、飽和炭化水素であるポリエチレン、ポリプロピレン;不飽和炭化水素であるポリアセチレン;芳香族を含むポリカーボネート、ポリスチレン;これらが有するプロトンの一部がハロゲンに置換されたもの;などが挙げられる。
【0105】
第1ユニットおよび第2ユニットからなる共重合体である重合体化合物14の重合度は、重合体化合物14が電解液に溶解しないよう、大きいことが好ましい。具体的には、当該共重合体に含まれる第1ユニットおよび第2ユニットの数の合計が4以上、つまり、重合度が4以上であることが好ましい。これにより、電解液に溶けにくい蓄電材料が実現する。より好ましくは、重合体化合物14の重合度は、10以上であり、さらに好ましくは、20以上4000以下である。
【0106】
第2ユニットの側鎖が、非プロトン性極性溶媒に対して親和性を有する官能基である場合、第2ユニットの側鎖の種類や、第1ユニットのユニット数nに対する第2ユニットのユニット数mの構成比率m/nによって、共重合体全体の非プロトン性極性溶媒に対する親和性を制御することができる。ここで、m、nは1以上の整数である。本明細書において、共重合体の構成比率m/nとは、共重合体を構成する第2ユニットの総数mを第1ユニットの総数nで割った値の平均値を意味する。第2ユニットの側鎖が、非プロトン性極性溶媒に対して親和性を有する官能基である場合、特定の非プロトン性極性溶媒に対する共重合体の親和性が大きく向上し、重合度が10以上であっても共重合体が当該溶媒に溶解することがある。
【0107】
酸化還元部位を側鎖に有しない第2ユニットが共重合体に少しでも含まれていれば、酸化還元部位近傍の立体障害を低減する効果は得られる。したがって、構成比率m/nは0より大きければよい。共重合体の非プロトン性極性溶媒に対する親和性を高めるためには、第2ユニットは多い方が好ましい。構成比率m/nが大きいほど、上述した効果を得ることができる。しかし、第2ユニットは酸化還元部位を含まないため、第2ユニットが多すぎると共重合体の充電密度が低下し易い。構成比率m/nが5以下であれば、充電密度を高め、かつ、安定して繰り返し酸化還元反応を生じさせることができる。したがって、共重合体における第1ユニットおよび第2ユニットの構成比率m/nは、0より大きく5以下であることが好ましい。
【0108】
第1ユニットと第2ユニットとの共重合体である重合体化合物14は、2つの繰り返し単位が記号*において互いに結合した、下記式(37)に示す構造で表される。
【0109】
【化29】

【0110】
式(37)中、R31およびR32は、共重合体の主鎖を構成している。R31およびR32は、3価残基であって、それぞれ独立して、炭素原子、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1つと、炭素数1〜10の飽和脂肪族基および不飽和脂肪族基からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基、または、少なくとも1つの水素とを含む。L1は、R31と結合したエステル基、エーテル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロキシル基、アルキル基、フェニル基、アルキルチオ基、スルホン基またはスルホキシド基を含む。前述したように、L1は、非プロトン性極性溶媒との親和性の高い、エステル基、エーテル基またはカルボニル基を含むことが好ましい。R33は、R32およびM1と結合した2価残基であり、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルケニレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、エステル基、アミド基およびエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。M1は式(2)で表され、上述の結合手によってR33に結合している。nおよびmはモノマー単位の繰り返し数を表す整数である。
【0111】
R31およびR32は、M1およびL1以外の側鎖を含んでいてもよい。前述したように、m+nは、4以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上4000以下であることがさらに好ましい。共重合体が高充電密度を有し、かつ、非プロトン性極性溶媒に対する良好な親和性を有するためには、m/nは0より大きく5以下であることが好ましい。L1を含む繰り返し単位(第2ユニット)およびM1を含む繰り返し単位(第1ユニット)は、規則的に配列していてもよく、ランダムに配列していてもよい。
【0112】
具体的には、重合体化合物14は、2つの繰り返し単位が記号*において互いに結合した、下記式(38)に示す共重合体であってもよい。
【0113】
【化30】

【0114】
式(38)中、R36は、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルケニレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、エステル基、アミド基およびエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む2価残基である。R34およびR35は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の飽和脂肪族基またはフェニル基であり、R37〜R39は、それぞれ独立して、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基またはアルキルチオ基であり、R38とR39とが互いに結合して環を形成していてもよい。L1はエステル基、エーテル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロキシル基、アルキル基、フェニル基、アルキルチオ基、スルホン基またはスルホキシド基である。上述したように、テトラチアフルバレン骨格は酸化状態でも非常に安定であるため、当該骨格に結合した上記官能基は、当該骨格の酸化還元反応にあまり影響を及ぼさない。
【0115】
第1ユニットおよび第2ユニットからなる共重合体である重合体化合物14は、上述した構造が得られる限り、どのような方法で合成してもよい。例えば、共重合体の主鎖となる共重合体主鎖化合物を合成し、その後、共重合体主鎖化合物に式(2)で表される構造を含む側鎖構造を導入してもよい。あるいは、共重合体主鎖化合物の合成に用いるモノマー体に予め式(2)で表される構造を含む側鎖構造を導入し、このモノマーを用いて共重合体を合成してもよい。重合反応中の活性な結合手の転位を防止し、分子量や、第1ユニットと第2ユニットとの混合比率などが制御された規則性の高い共重合体を合成するためには、主鎖となる共重合体主鎖化合物をまず合成し、カップリング反応によって、式(2)で表される構造を含む側鎖構造を共重合体主鎖化合物に導入することが好ましい。カップリング反応としては、例えば、ハロゲン元素およびヒドロキシル基によるカップリング反応、ハロゲン元素およびアミノ基によるカップリング反応などが挙げられる。この場合、共重合体主鎖化合物および側鎖構造のうちの一方にハロゲン元素が導入され、他方にヒドロキシル基またはアミノ基が導入される。ハロゲン元素およびヒドロキシル基によるカップリング反応によれば、共重合体主鎖化合物と式(2)で表される構造を含む側鎖構造とがエステル結合により結合した共重合体が得られる。ハロゲン元素およびアミノ基のカップリング反応によれば、共重合体主鎖化合物と式(2)で表される構造を含む側鎖構造とがアミド結合により結合した共重合体が得られる。あるいは、共重合体主鎖化合物および側鎖構造の両方にヒドロキシル基を導入し、当該ヒドロキシル基同士を脱水縮合させることにより、式(2)で表される構造を含む側鎖構造を共重合体主鎖化合物に導入してもよい。この場合、共重合体の主鎖と式(2)で表される構造を含む側鎖構造とがエーテル結合で結合した共重合体が得られる。
【0116】
以上、重合体化合物14に用いることのできる化合物として、テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖の繰り返し単位に含む重合体、および、テトラカルコゲノフルバレン骨格を側鎖に有する第1ユニットと当該テトラカルコゲノフルバレン骨格を側鎖に有さない第2ユニットとの共重合体を説明した。これら2種類の重合体化合物14において、テトラカルコゲノフルバレン骨格は、重合体化合物14の高分子構造にあまり依存することなく独立して酸化還元反応を示す。このため、テトラカルコゲノフルバレン骨格の酸化還元電位は、これら2種類の重合体化合物14においてほぼ等しい。よって、本実施形態の電極10では、電極活物質である重合体化合物14として、これら2種類の重合体のいずれを用いてもよく、これらの両方を用いてもよい。
【0117】
導電性粒子15としては、電極10の反応電位において、化学変化を起こさない種々の電子伝導性材料を用いることができる。なお、導電性粒子15は、電解液に溶解しない。本実施形態の電極10をリチウム二次電池の正極として用いる場合、導電性粒子15としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料、金属繊維、金属粉末類、導電性ウィスカー類、導電性金属酸化物などを単独またはこれらの混合物として用いることができる。
【0118】
重量あたりのエネルギー密度を高くできるという観点から、導電性粒子15は、カーボンブラックなどの粒子状カーボン材料および/または炭素繊維で構成されていることが好ましい。重合体化合物14と電解液との接触面積を増大させるためには、導電性粒子15として、比表面積の大きな粒子状カーボンを用いることが望ましい。
【0119】
活物質層12は、必要に応じて、電極10内の電子伝導性を補助するための第2の導電性粒子を含んでいてもよい。互いに隣り合う凝集体13と凝集体13との間に位置するとともに、重合体化合物14によって被覆されていない、第2の導電性粒子をさらに含むことによって、電極10内の電子伝導性を高めることができる。第2の導電性粒子としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料、金属繊維、金属粉末類、導電性ウィスカー類、導電性金属酸化物などが挙げられ、これらの混合物を用いてもよい。電極10内の電子伝導性を補助する第2の導電性粒子は、凝集体13に用いた導電性粒子15と同種であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0120】
活物質層12は、重合体化合物14以外の電極活物質を含んでいてもよい。重合体化合物14以外の電極活物質として、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる材料が用いられる。リチウムイオンを吸蔵および放出することができる材料としては、リチウムイオン電池の正極材料として公知のものを用いることができる。具体的には、遷移金属酸化物、リチウム含有遷移金属酸化物などを用いることができる。遷移金属酸化物は、例えば、コバルトの酸化物、ニッケルの酸化物、マンガンの酸化物、五酸化バナジウム(V25)に代表されるバナジウムの酸化物、これらの混合物または複合酸化物などである。リチウムイオン電池の正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)などの、リチウム含有遷移金属酸化物が最もよく知られている。また、重合体化合物14以外の電極活物質として、遷移金属のケイ酸塩、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)に代表される遷移金属のリン酸塩などを用いることもできる。
【0121】
集電体11としては、例えば、リチウム二次電池の正極集電体として公知の材料を用いることができる。集電体11は、例えば、アルミニウム、カーボン、ステンレスなどの金属でできた箔またはメッシュである。
【0122】
結着剤16としては、非プロトン性極性溶媒に不溶性の樹脂を用いることが好ましい。なぜなら、非プロトン性極性溶媒に不溶性の樹脂を結着剤16として用いた場合、電極10を作製するために湿式法および乾式法のいずれの方法を採用することもできるからである。
【0123】
他方、結着剤16として、非プロトン性極性溶媒に可溶性の樹脂を用いる場合、乾式法により電極10を作製することが好ましい。なぜなら、非プロトン性極性溶媒に可溶性の樹脂を結着剤16として用い、湿式法を採用した場合、電極10の構造が実現されないことがあるからである。湿式法では、溶媒と結着剤16と凝集体13とを含むスラリーを調製し、集電体11上にスラリーを塗布し、乾燥させることにより電極10を得る。結着剤16が溶解したスラリーを調製する場合、溶媒として非プロトン性極性溶媒を用いる必要があるが、非プロトン性極性溶媒は重合体化合物14をも溶解させうる。このため、非プロトン性極性溶媒を溶媒としてスラリーを調製した場合、凝集体13中の重合体化合物14が非プロトン性極性溶媒に溶解し、スラリー中で凝集体13の構造が維持されず、電極10の構造が得られないことがある。ただし、当業者にとって明らかなように、結着剤16は、電解液29中に溶出しないことが前提である。
【0124】
結着剤16は、具体的には、ポリアクリル酸やその共重合体などの水溶性樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、スチレンブタジエンゴムなどのゴム系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0125】
電極10の作製方法としては、例えば、リチウム二次電池の電極の作製方法として公知の方法を用いることができる。ただし、前述の説明から分かるように、スラリーを調製する工程を含む湿式法を用いて電極10を作製する場合、凝集体13中の重合体化合物14がスラリー中の溶媒に溶解しない必要がある。例えば、結着剤16としてのスチレンブタジエンゴムと、溶媒としての水と、凝集体13とを含むスラリーを調製し、塗布および乾燥により電極10を作製できる。また、ポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤16と、凝集体13とを混練し、集電体11上に圧着することで電極10を得ることもできる。
【0126】
活物質層12の厚みは、特に限定されないが、高容量な蓄電デバイスの実現しやすさおよび設計上の観点から、100〜1000μmであることが好ましい。
【0127】
図3は、本発明による蓄電デバイスの一実施形態であるコイン型リチウム二次電池を示す模式的な断面図である。図3に示すコイン型リチウム二次電池20は、正極31と、負極32と、セパレータ24とを備える。本実施形態では、正極31として、上述した電極10が用いられている。正極31は正極活物質層23および正極集電体22を含み、正極活物質層23は正極集電体22上に支持されている。正極31の詳細な構成は、電極10について上述したとおりである。負極32は負極活物質層26および負極集電体27を含み、負極活物質層26は負極集電体27上に支持されている。正極31および負極32は、正極活物質層23および負極活物質層26がセパレータ24と接するようにセパレータ24を挟んで対向し、電極群を構成している。電極群はケース21の内部の空間に収納されている。ケース21の内部の空間には電解液29が注入され、正極31、負極32およびセパレータ24には、電解液29が含浸されている。ケース21の開口は、ガスケット28を用いて封口板25により封止されている。
【0128】
負極活物質層26は、負極活物質を含む。負極活物質としては、リチウムを可逆的に吸蔵および放出する公知の負極活物質が用いられる。負極活物質として、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛材料、非晶質炭素材料、リチウム金属、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物、珪素、珪素を含む合金、珪素酸化物、錫、錫を含む合金、および錫酸化物などの、リチウムを可逆的に吸蔵および放出することができる材料;活性炭などの電気二重層容量を有する炭素材料;π電子共役雲を有する有機化合物材料;などを用いることができる。負極活物質として、単独の材料を用いてもよいし、複数の材料を混合して用いてもよい。負極活物質層26は、負極活物質のみを含んでいてもよいし、導電剤および/または結着剤を含んでいてもよい。導電剤および結着剤としては、これらについて上述した材料を用いることができる。
【0129】
負極集電体27には、例えば、銅、ニッケル、ステンレスなど、リチウムイオン二次電池用負極の集電体として公知の材料を用いることができる。正極集電体22と同様、負極集電体27も、金属箔、金属メッシュ、金属からなる導電性フィラーを含む樹脂フィルムなどの形態を有することができる。
【0130】
セパレータ24は微細な空間を含み、この微細な空間に電解液29が保持されている。セパレータ24は、電子伝導性を有しない樹脂によって構成された樹脂層であり、大きなイオン透過度を有し、所定の機械的強度および電気的絶縁性を備えた微多孔膜である。耐有機溶剤性および疎水性に優れるという観点から、セパレータ24の材質としては、単独のポリプロピレン、ポリエチレンなど、またはこれらの組み合わせからなる、ポリオレフィン樹脂が好ましい。セパレータ24の代わりに、電解液29を含んで膨潤し、ゲル電解質として機能する、電子伝導性を有する樹脂層を設けてもよい。
【0131】
電解液29は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解する支持塩とから構成される非水電解液である。非水溶媒としては、非水二次電池や非水系電気二重層キャパシタに用いることのできる公知の非プロトン性極性溶媒を使用できる。具体的には、非水溶媒としては、環状炭酸エステルを含む溶媒を好適に用いることができる。なぜなら、環状炭酸エステルは、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートに代表されるように、非常に高い比誘電率を有しているからである。環状炭酸エステルの中でも、プロピレンカーボネートが好適である。なぜなら、プロピレンカーボネートは、その凝固点が−49℃とエチレンカーボネートよりも低く、蓄電デバイスを低温でも作動させることができるからである。非水溶媒としては、環状エステルを含む溶媒もまた好適に用いることができる。なぜなら、環状エステルは、γ−ブチロラクトンに代表されるように、非常に高い比誘電率を有しているからである。これらの成分を含むことにより、電解液29の非水溶媒は、全体として非常に高い誘電率を有することができる。上述した溶媒の他にも、非水溶媒として、鎖状炭酸エステル、鎖状エステル、環状あるいは鎖状のエーテルなどを用いることができる。具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどの非水溶媒を用いることができる。非水溶媒として、以上に挙げた溶媒のうちの1つのみを用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0132】
支持塩としては、以下に説明するアニオン種およびカチオン種からなる塩を使用することができる。アニオン種としては、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、4フッ化ホウ酸アニオン、6フッ化リン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロ−1−ブタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオンなどを用いることができる。カチオン種としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属カチオン;マグネシウムなどのアルカリ土類金属カチオン;テトラエチルアンモニウムや1,3−エチルメチルイミダゾリウムに代表される4級アンモニウムカチオン;などを用いることができる。
【0133】
カチオン種としては、4級アンモニウムカチオンおよびリチウムカチオンが好ましい。4級アンモニウムカチオンはイオン移動度が高いため、カチオン種として4級アンモニウムカチオンを用いることにより、導電率の高い電解液を得ることができる。カチオン種として4級アンモニウムカチオンを用いた場合、活性炭などの、電気二重層容量を有しかつ反応速度の速い負極を用いることができる。それゆえ、カチオン種として4級アンモニウムカチオンを用いることにより、高出力な蓄電デバイスを得ることができる。カチオン種としてリチウムカチオンを用いた場合、反応電位が低く、容量密度が高い、リチウムを吸蔵および放出することができる負極を用いることができる。それゆえ、カチオン種としてリチウムカチオンを用いることにより、高電圧、高エネルギー密度な蓄電デバイスを得ることができる。
【0134】
本実施形態では、本発明の電極および蓄電デバイスを、リチウム二次電池に適用した場合について説明した。しかし、本発明の電極および蓄電デバイスは、リチウム二次電池に限られず、電気化学的な電荷の蓄積を利用する種々のエネルギー蓄積デバイスやセンサなどに用いることができる。具体的には、本発明の電極を正極とし、負極として活性炭を用いて、電気二重層キャパシタを構成してもよい。あるいは、リチウム吸蔵黒鉛などのリチウムを吸蔵および放出することができる負極を用いて、リチウムイオンキャパシタなど、二次電池以外の電気化学キャパシタなどを構成してもよい。
【0135】
本発明の電極は、各種の電気化学素子に用いる電極としても好適に用いることができる。例えば、充放電に伴い膨張および収縮するような高分子ゲル電解質を電解質として用いることにより、高分子アクチュエーターを構成することができる。本発明の電極は、活物質である重合体化合物がテトラカルコゲノフルバレン骨格を含むため、充放電に伴い色が変化する。このことから、集電体として透明導電性ガラスを用い、かつ外装の一部にフィルムやガラスのような透明材を用いることにより、エレクトロクロミック表示素子を構成することができる。
【実施例】
【0136】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。
【0137】
(実施例1)
[1.テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に含む重合体化合物の合成]
テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に含む重合体化合物として、下記式(39)に示す、側鎖に酸化還元部位を有する第1ユニットと側鎖に酸化還元部位を有しない第2ユニットとの共重合体(以下、共重合体〔39〕と記載する)を合成した。
【0138】
【化31】

【0139】
式(39)で表される共重合体〔39〕において、第1ユニットのユニット数nに対する第2ユニットのユニット数mの構成比率m/nはおよそ1である。共重合体〔39〕の合成は、側鎖に導入されるテトラチアフルバレン誘導体の合成、共重合体主鎖化合物の合成、および共重合体主鎖化合物へのテトラチアフルバレン誘導体のカップリングの3段階で行った。以下、これらについて順に説明する。
【0140】
テトラチアフルバレン誘導体の合成は、以下の式(40)に示すルートで行った。フラスコに5gのテトラチアフルバレン〔40a〕(Aldrich社製)を入れ、さらに80mLのテトラヒドロフラン(Aldrich社製)を加えた。これを−78℃に冷却した後、リチウムジイソプロピルアミドのn−ヘキサン−テトラヒドロフラン溶液(関東化学社製、濃度1mol/L)を10分間で20mL滴下した。その後、7.3gのパラホルムアルデヒド(関東化学社製)を加えて15時間撹拌することにより反応を進行させた。反応後の溶液を900mLの水に注ぎ、1Lのジエチルエーテル(関東化学社製)による抽出を2回行い、500mLの飽和塩化アンモニウム水溶液による洗浄および500mLの飽和食塩水による洗浄の後、無水硫酸ナトリウムによる乾燥を行った。乾燥剤を除去した後、減圧濃縮して得られた粗生成物6.7gをシリカゲルカラムで精製し、1.7gの精製物を得た。当該精製物が式(40)の右辺に示すテトラチアフルバレン誘導体〔40c〕であることを1H−NMRおよびIRにより確認した。
【0141】
【化32】

【0142】
共重合体主鎖化合物の合成は、以下の式(41)に示すルートで行った。モノマー原料として、21gのメタクリロルクロライド〔41a〕(Aldrich社製)と40gのメチルメタクリレート〔41b〕(Aldrich社製)とを90gのトルエン(Aldrich社製)に混合し、重合開始剤として、4gのアゾイソブチロニトリル(Aldrich社製)を加えた。この混合物を100℃で4時間撹拌することにより、反応を進行させた。反応後の溶液にヘキサンを添加して再沈殿を行うことにより、57gの沈殿生成物を得た。当該生成物が式(41)の右辺に示す共重合体主鎖化合物〔41c〕であることを1H−NMR、IRおよびゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により確認した。
【0143】
【化33】

【0144】
共重合体主鎖化合物〔41c〕はCl基を有するユニットおよびメトキシ基を有するユニットからなる。クロロホルム溶媒中での1H−NMR測定の結果、共重合体主鎖化合物〔41c〕の主鎖に直接結合しているメチル基に由来するピークは0.5〜2.2ppm付近、側鎖が有するメトキシ基に由来するピークは3.6ppm付近に観測された。なお、これらのピークの積分値の比率から、共重合体主鎖化合物〔41c〕におけるCl基を有するユニットに対するメトキシ基を有するユニットの構成比率m/nを算出することができる。共重合体主鎖化合物〔41c〕に対するIR測定の結果、Cl基を有するユニットが有するカルボニル基(C=O)およびCl基(C−Cl)ならびにメトキシ基を有するユニットが有するカルボニル基(C=O)のそれぞれが異なる吸収ピークとして現れた。GPCによる測定の結果、共重合体主鎖化合物〔41c〕の重合度は20を超えていた。
【0145】
共重合体主鎖化合物〔41c〕へのテトラチアフルバレン誘導体〔40c〕のカップリングは、以下の式(42)に示すルートで行った。Arガス気流下で、反応容器に1.0gのテトラチアフルバレン誘導体〔40c〕と26mLのテトラヒドロフランとを入れ、室温で撹拌した。この反応液に0.17gのNaH(60wt% in mineral oil)(Aldrich社製)を滴下し、40℃で1時間撹拌しながら、8.5mLのテトラヒドロフランに0.58gの共重合体主鎖化合物〔41c〕を溶解させた溶液を加えた。得られた混合液を70℃で一晩撹拌することにより、反応を進行させた。このようにして得た溶液にヘキサンを加え、再沈殿により、0.2gの沈殿生成物を得た。当該生成物が式(42)の右辺に示す共重合体〔39〕であることを1H−NMR、IRおよびGPCにより確認した。
【0146】
【化34】

【0147】
1H−NMR測定の結果、共重合体〔39〕の主鎖とテトラチアフルバレン基とを結合しているメチレン基に由来するピークは4.8ppm付近、テトラチアフルバレン基に由来するピークは6.8〜7.0ppm付近に観測された。共重合体〔39〕は、テトラチアフルバレン基を有する第1ユニットおよびメトキシ基を有する第2ユニットからなる。1H−NMR測定で得られた各ピークの積分値の比率から、上述と同様の方法により、共重合体〔39〕における第1ユニットに対する第2ユニットの構成比率m/nを算出した。構成比率m/nはおよそ1であった。共重合体〔39〕の重量平均分子量はおよそ28000であった。すなわち、共重合体〔39〕において、第1ユニット数nが72であること、および、重合度(nとmの和)が144であり、4以上であることを確認した。共重合体〔39〕に対する硫黄元素分析を行った結果、共重合体〔39〕の硫黄含有量は30.2wt%であった。硫黄含有量から計算される共重合体〔39〕の理論容量は125mAh/gであった。
【0148】
[2.凝集体の作製]
テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に有する重合体化合物が、導電性粒子の表面の少なくとも一部を被覆している粒子(凝集体)を、以下に示す方法で作製した。
【0149】
まず、3.0gの共重合体〔39〕を乳鉢で粉砕し、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)(和光純薬工業社製)を15.0g加え、乳鉢内で混練することで、共重合体〔39〕を溶媒へ溶解させた。得られたNMP溶液中の共重合体〔39〕の粒度分布を、島津製作所社製SALD−7000を用い、レーザー回折/散乱法で測定した。測定粒度範囲を0.015μm〜500μmとし、測定間隔を2秒とする測定条件の下、付属の撹拌プレートを用いてNMP溶液を撹拌しながら測定を行った。測定の結果、回折/散乱強度は観測されず、NMP溶液中に0.015μm以上の粒子が存在しないことを確認した。さらに、NMP溶液に対する紫外可視吸光スペクトル(UV−vis)測定の結果、300〜320nm付近にTTF環に由来する吸収ピークが確認され、NMP溶液中に共重合体〔39〕が存在していることが確認された。
【0150】
共重合体〔39〕が溶解した上記NMP溶液に、導電性粒子であるアセチレンブラック3.0gと、さらにNMP39gとを加え、混練することにより、共重合体〔39〕と導電性粒子とを含む活物質スラリーを調製した。活物質スラリーにおける共重合体〔39〕とカーボンブラックとの比率は重量比率で50:50であった。
【0151】
得られた活物質スラリーを噴霧乾燥機(日本ビュッヒ社製スプレードライヤーB290)に導入し、送液量3mL/min、乾燥ガス温度220℃(窒素ガス)の条件下で溶媒を除去することにより、凝集体(重合体被覆粒子)を得た。
【0152】
得られた凝集体の元素分析の結果、硫黄含有量は15.1wt%であった。このことから、得られた凝集体における共重合体〔39〕とアセチレンブラックとの比率は、噴霧乾燥を行う前の活物質スラリーにおける当該比率と同じであった。
【0153】
得られた凝集体における共重合体〔39〕の分布状態を把握するために、凝集体を樹脂に混ぜ、固形化して得られた試料の断面について倍率40000倍で断面SEM観察およびオージェ電子分光法(AES、ULVAC−PHI,Inc.製Model670)による元素分析を行った。図4(a)は分析領域の断面SEM像を示し、図4(b)および(c)は、当該断面SEM像に対応する分析領域の炭素分布像および硫黄分布像を示す。図4(b)では、炭素が存在する領域がモノクロの諧調で表示されており、炭素が多い部分は白く示され、炭素が全く存在しない領域は、黒色で示されている。図4(c)では、硫黄が存在する領域がモノクロの諧調で表示されており、硫黄が多い部分は白く示され、硫黄が全く存在しない領域は、黒色で示されている。図4(a)から、凝集体が約4μmの粒子として存在し、内部に幾つかの空隙を有していることが確認できた。図4(b)から、導電性粒子に由来する炭素の分布が確認できた。図4(c)から、電極活物質である共重合体〔39〕に由来する硫黄の分布が確認できた。図4(b)および(c)から、炭素の分布とほぼ重なるように硫黄が分布していること、すなわち、導電性粒子を被覆するように共重合体〔39〕硫黄元素が分布していることが確認できた。以上のとおり、実施例1では、電極活物質である共重合体〔39〕が導電性粒子を被覆している凝集体が得られた。
【0154】
[3.正極の作製]
得られた凝集体30mgに、第2の導電性粒子であるアセチレンブラック96mgを加えて均一に混合し、さらにポリテトラフルオロエチレン24mgを加えて混合することにより、正極合剤を得た。この正極合剤を、正極集電体であるアルミニウム製金網の上に圧着し、真空乾燥を行うことにより、正極活物質層を形成した。これを直径13.5mmの円盤状に打ち抜くことにより、正極を作製した。作製した正極の断面を電子顕微鏡および電子線マイクロアナライザー(EPMA)にて観察し、共重合体〔39〕に由来する硫黄の分布を測定した。EPMAの結果、2μmから最大で10μm程度の粒状に硫黄が分布していることが観測された。このことから、正極において凝集体が、正極の作製前と同じ形状で存在していることが確認された。作製した正極における活物質層の厚みは、200μmであった。正極の単位面積あたりの活物質層の重量は、0.1mg/cm2であった。正極に対する正極活物質(共重合体〔39〕)の重量比率は、10wt%であった。
【0155】
[4.コイン型蓄電デバイスの作製]
作製した正極を用いて、図3に示す構造を有するコイン型蓄電デバイスを作製した。まず、正極を、正極集電体がケース内面に接するようにケースに配置し、その上に多孔質ポリエチレンシートからなるセパレータを設置した。次に、非水電解液をケース内に注液した。非水電解液としては、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの重量比1:3の混合溶媒に6フッ化リン酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解させた電解液を用いた。セパレータに負極活物質層が接するように、負極を配置した。正極、セパレータおよび負極のすべてに電解液が含浸された状態で、ガスケットを装着した封口板によりケースの開口を挟み、プレス機によりかしめて封口し、コイン型蓄電デバイスを得た。
【0156】
ここで、上記負極は、以下のようにして作製した。まず、厚さ20μmの銅箔を負極集電体として用い、この上に、負極活物質層として、厚さ40μmの黒鉛からなる層を塗布により形成した。これを直径13.5mmの円盤状に打ち抜くことにより黒鉛電極を得た。得られた黒鉛電極に対して、Li金属を対極として用い、0V〜1.5V(リチウム基準電位)の間で、0.4mA/cm2の電流値で3サイクル、予備充放電を行った。これにより、黒鉛電極が単位面積当たり1.6mAh/cm2の可逆容量を有し、可逆的に充放電できることが確認された。可逆容量の70%まで充電、すなわち、リチウムのプレドープが行われた状態の黒鉛電極を、負極として用いた。黒鉛電極に対する充放電およびリチウムのプレドープには、上記コイン型蓄電デバイスに用いたのと同じ電解液およびセパレータを用いた。
【0157】
(実施例2)
[1.テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に含む重合体の合成]
実施例1と同様に共重合体〔39〕を合成した。
【0158】
[2.凝集体の作製]
テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に有する重合体化合物が、導電性粒子の表面の少なくとも一部を被覆している粒子(凝集体)を、以下に示す方法で作製した。
【0159】
まず、0.66gの共重合体〔39〕を乳鉢で粉砕し、溶媒としてNMP(和光純薬工業社製)を2.4g加え、乳鉢内で混練することで、共重合体〔39〕を溶媒へ溶解させた。得られたNMP溶液中の共重合体〔39〕の粒度分布を、島津製作所社製SALD−7000を用い、レーザー回折/散乱法にて測定した。測定粒度範囲を0.015μm〜500μmとし、測定間隔を2秒とする測定条件の下、付属の撹拌プレートを用いてNMP溶液を撹拌しながら測定を行った。測定の結果、回折/散乱強度は観測されず、NMP溶液中に0.015μm以上の粒が存在しないことを確認した。さらに、NMP溶液に対する紫外可視吸光スペクトル(UV−vis)測定の結果、300〜320nm付近にTTF環に由来する吸収ピークを確認することで、NMP溶液中に共重合体〔39〕が存在していることが確認された。
【0160】
共重合体〔39〕が溶解した上記NMP溶液に、導電性粒子であるアセチレンブラック5.34gと、さらにNMP51.6gとを加え、混練することにより、共重合体〔39〕と導電性粒子とを含む活物質スラリーを作製した。活物質スラリーにおける共重合体〔39〕とカーボンブラックとの比率は重量比率で11:89である。
【0161】
得られた活物質スラリーを噴霧乾燥機(日本ビュッヒ社製スプレードライヤーB290)に導入し、送液量3mL/min、乾燥ガス温度220℃(窒素ガス)の条件下で溶媒を除去することにより、凝集体(重合体被覆粒子)を得た。
【0162】
[3.正極の作製]
得られた凝集体135mgに、ポリテトラフルオロエチレン15mgを加えて混合することにより、正極合剤を得た。この正極合剤を、正極集電体であるアルミニウム金網の上に圧着し、真空乾燥を行うことにより、正極活物質層を形成した。これを直径13.5mmの円盤状に打ち抜くことにより、正極を作製した。作製した正極における活物質層の厚みは、200μmであった。正極の単位面積あたりの活物質層の重量は、0.1mg/cm2であった。正極に対する正極活物質(共重合体〔39〕)の重量比率は、10wt%であった。
【0163】
[4.蓄電デバイスの作製]
正極として、得られた正極を用いたこと以外、実施例1と同様の条件でコイン型蓄電デバイスを作製した。
【0164】
(比較例1)
[1.テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に含む重合体の合成]
実施例1と同様に共重合体〔39〕を合成した。
【0165】
[2.正極の作製]
実施例1と同様に合成した共重合体〔39〕20mgを乳鉢で粉砕し、アセチレンブラック144mgを加え、均一に混合し、さらにポリテトラフルオロエチレン36mgを加えて混合することにより、正極合剤を得た。ここで、乳鉢で粉砕された共重合体〔39〕の粒子径はおよそ5〜20μm程度であった。この正極合剤を、正極集電体であるアルミニウム金網の上に圧着し、真空乾燥を行うことにより、正極活物質層を形成した。これを直径13.5mmの円盤状に打ち抜くことにより、正極を作製した。作製した正極の正極活物質層の厚みは、200μmであった。正極の単位面積あたりの活物質層の重量は、0.1mg/cm2であった。正極に対する正極活物質(共重合体〔39〕)の重量比率は、10wt%であった。
【0166】
[3.コイン型蓄電デバイスの作製]
正極として、得られた電極を用いたこと以外、実施例1と同様の条件でコイン型蓄電デバイスを作製した。
【0167】
(蓄電デバイスの評価)
実施例1、2および比較例1で得られた蓄電デバイスに対して充放電容量評価および出力評価を行った。
【0168】
蓄電デバイスの充放電容量は、初回の充放電時の充放電容量を活物質重量(正極における共重合体〔39〕の重量)で割った値、すなわち、活物質の単位重量あたりの充放電容量によって評価した。なお、充放電は、0.2mAの定電流で行い、充電上限電圧を3.9Vとし、放電下限電圧を2.9Vとした。充電を終了してから次の放電を開始するまでの休止時間はゼロとした。
【0169】
蓄電デバイスの出力は、0.2mAの定電流放電時に対する10mAの定電流放電時の容量維持率により評価した。すなわち、上記充放電容量の測定の後、蓄電デバイスを0.2mAの定電流で充電し、その後、10mAの定電流で放電することにより、放電容量(大電流充放電容量)を求めた。10mAの定電流放電時の放電容量を、0.2mAの定電流放電時の放電容量で割った値を、容量維持率とした。なお、充放電時、充電上限電圧を3.9Vとし、放電下限電圧を2.5Vとした。
【0170】
実施例1、2および比較例1の蓄電デバイスに対する充放電容量評価および出力評価の結果を表1にまとめて示す。
【0171】
【表1】

【0172】
表1に示すように、実施例1、2および比較例1で得られた蓄電デバイスではいずれも、0.2mA充放電時の充放電容量が理論容量に近かった。このことより、いずれの蓄電デバイスにおいても、電極に含まれている電極活物質が可逆に充放電していることが確認できた。
【0173】
比較例1に比べ、実施例2では、10mA充放電時の容量維持率が高くなった。これは、実施例2では正極活物質である重合体化合物が導電性粒子の表面を薄膜の状態で被覆しているため、酸化還元時の抵抗が減少したことに起因すると考えられる。さらに、実施例1では、実施例2に比べて、10mA充放電時の容量維持率がより高くなった。これは、以下の理由によると考えられる。すなわち、実施例2で用いた正極における正極活物質層は、凝集体と結着剤のみで形成されていた。これに対し、実施例1では、重合体化合物によって被覆されていない第2の導電性粒子が凝集体とともに正極活物質層内に存在していたため、実施例2に比べて、より多くの導電パスが正極内に形成されていたと考えられる。そのため、充放電時における電子抵抗が低減され、10mA充放電時の容量維持率が高くなったと考えられる。
【0174】
以上のことより、本発明の電極を用いることで、高出力な蓄電デバイスを実現できることを確認した。
【符号の説明】
【0175】
10 電極
11 集電体
12 電極活物質層
13 凝集体
13a 空隙
14 重合体化合物
15 導電性粒子
16 結着剤
20 コイン型リチウム二次電池
22 正極集電体
23 正極活物質層
24 セパレータ
26 負極活物質層
27 負極集電体
29 電解液
31 正極
32 負極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
電極活物質、導電性粒子および結着剤を含み、前記集電体の上に設けられた活物質層と、
を備え、
前記電極活物質が、テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に有する重合体化合物であり、
前記活物質層において、前記電極活物質および前記導電性粒子が、前記電極活物質で被覆された前記導電性粒子の凝集体を形成しており、
前記凝集体が、実質的に、前記電極活物質、前記導電性粒子および内部の空隙からなり、
前記結着剤が、隣り合う前記凝集体と前記凝集体との間に存在している、電極。
【請求項2】
前記凝集体が前記結着剤を含まない、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記導電性粒子がカーボンブラックで構成されている、請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記活物質層は、
互いに隣り合う前記凝集体と前記凝集体との間に位置するとともに、前記重合体化合物によって被覆されていない、第2の導電性粒子をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記活物質層の厚みが100〜1000μmの範囲にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
前記結着剤が、非プロトン性極性溶媒に不溶性の樹脂である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
前記結着剤が、水溶性樹脂、フッ素樹脂およびゴム系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項6に記載の電極。
【請求項8】
前記重合体化合物の重合度が4以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電極。
【請求項9】
前記重合体化合物が、テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖に含む重合体化合物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電極。
【請求項10】
前記重合体化合物が、テトラカルコゲノフルバレン骨格を側鎖に含む重合体化合物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電極。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の電極からなる正極と、
リチウムイオンを吸蔵および放出しうる負極活物質を含む負極と、
前記リチウムイオンとアニオンとの塩を含み、前記正極と前記負極との間に満たされた電解液と、
を備えた、蓄電デバイス。
【請求項12】
導電性粒子と、テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に有する重合体化合物と、前記重合体化合物を溶かすことができる溶媒とを含む活物質スラリーを調製する工程と、
前記重合体化合物で被覆された前記導電性粒子の凝集体が得られるように、前記活物質スラリーから前記溶媒を除去する工程と、
前記凝集体と結着剤とを用いて集電体上に活物質層を形成する工程と、
を含む、電極の製造方法。
【請求項13】
前記溶媒を除去する工程が、噴霧乾燥によって前記活物質スラリーから前記溶媒を除去する工程を含む、請求項12に記載の電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−20786(P2013−20786A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152660(P2011−152660)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】