説明

電極の製造方法、及び電極

【課題】平坦で厚さが均一な短絡防止用被膜(固体高分子電解質層)を形成することが可能であり、電気化学素子における短絡を防止することが可能な電極の製造方法を提供する。
【解決手段】活物質粒子2と、活物質層用バインダーと、第一溶媒と、を含む活物質層用塗料を、集電体6に塗布し、活物質層用塗料からなる塗膜を形成する第一工程と、塗膜に第二溶媒10を塗布する第二工程と、固体高分子電解質と、固体高分子電解質層用バインダーと、第三溶媒と、を含む固体高分子電解質層用塗料を、第二溶媒10を塗布した塗膜8cに塗布する第三工程と、を備え、第一溶媒は、活物質層用バインダーの良溶媒であり、第二溶媒10は、固体高分子電解質層用バインダーの貧溶媒であり、第三溶媒は、固体高分子電解質層用バインダーの良溶媒である、電極の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法及び電極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池をはじめとする二次電池、及び電気二重層キャパシタをはじめとする電気化学キャパシタ等の電気化学素子は、小型化、軽量化が容易であるため、例えば、携帯機器(小型電子機器)等の電源又はバックアップ用電源、電気自動車やハイブリッド車向けの補助電源等として期待されており、その安全性の向上のための様々な検討がなされている。
【0003】
下記特許文献1〜5に開示された電気化学素子では、正極と負極との短絡を防止し、安全性を確保するために、多孔質膜又はイオン透過性樹脂膜等の被膜(以下、「短絡防止用被膜」と記す。)で正極又は負極の活物質層の表面を被覆している。
【0004】
【特許文献1】特開平10−106546号公報
【特許文献2】特開平11−185731号公報
【特許文献3】特開平11−288741号公報
【特許文献4】特開2001−325951号公報
【特許文献5】特開2007−005323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1〜5に示された従来の電気化学素子では、電気化学素子が振動したり、短絡防止用被膜が高温でシャットダウンしたりする際に、短絡防止用被膜が正極又は負極から剥離したり、所定の位置からずれたり、途切れたりする結果、正極と負極との短絡が発生し易い傾向があった。
【0006】
本発明者は、以下に示すように、上述の短絡は、正極又は負極の活物質層の表面に形成された短絡防止用被膜が平坦でなく、厚さが不均一であることに起因することを見出した。
【0007】
上記特許文献1〜5に示された従来の電気化学素子では、正極又は負極の活物質層の表面に短絡防止用被膜の構成材料を含む塗料を塗布することによって、短絡防止用被膜を形成する。活物質層の表面には、様々な形状及び寸法を有する複数の活物質粒子が配置されているため、活物質層の表面は凹凸状に起伏している。このような活物質層の表面に塗布された塗料は、その凹凸に応じて活物質層の表面を被覆するため、得られる短絡防止用被膜も凹凸状に起伏し、平坦でなくなる傾向がある。また、活物質層の表面の凸部では短絡防止用被膜が薄くなったり、活物質層の表面の凹部では短絡防止用被膜が厚くなったりする結果、得られる短絡防止用被膜の厚さが不均一になる傾向がある。
【0008】
このように平坦でない短絡防止用被膜は、振動又は高温でのシャットダウンによって、正極又は負極から剥離したり、所定の位置からずれたり、又は途切れたりして、短絡を引き起こし易い傾向がある。また、平坦でない短絡防止用被膜には、デンドライトが形成され易く、このデンドライトも短絡の原因となり得る。これらの短絡は、短絡防止用被膜で被覆した正極又は負極を複数積層した場合に発生し易くなる傾向がある。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、平坦で厚さが均一な短絡防止用被膜を形成することが可能であり、電気化学素子における短絡を防止することが可能な電極の製造方法、及び電気化学素子における短絡を防止することが可能な電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第一の本発明に係る電極の製造方法は、活物質粒子と、活物質層用バインダーと、第一溶媒と、を含む活物質層用塗料を、集電体に塗布し、活物質層用塗料からなる塗膜を形成する第一工程と、塗膜に第二溶媒を塗布する第二工程と、固体高分子電解質(solid polyelectrolyte。以下、場合により「SPE」と記す。)と、固体高分子電解質層用バインダーと、第三溶媒と、を含む固体高分子電解質層用塗料を、第二溶媒を塗布した塗膜に塗布する第三工程と、を備え、第一溶媒は、活物質層用バインダーの良溶媒であり、第二溶媒は、固体高分子電解質層用バインダーの貧溶媒であり、第三溶媒は、固体高分子電解質層用バインダーの良溶媒である。
【0011】
なお、本発明において、「バインダーの良溶媒」とは、バインダーを溶媒に溶解させるさいの混合熱が負で発熱する溶媒であり、「バインダーの貧溶媒」とは、バインダーを溶媒に溶解させるさいの混合熱が正で吸熱する溶媒である。換言すれば、「バインダーの良溶媒」とは、バインダーを溶解し易い溶媒であり、「バインダーの貧溶媒」とは、バインダーを溶解し難い溶媒である。
【0012】
上記第一の本発明によれば、活物質層の表面に平坦で厚さが均一な固体高分子電解質層(短絡防止用被膜)を形成することが可能である。以下に、上記第一の本発明の作用及び効果について詳説する。
【0013】
上記第一の本発明では、活物質層の前駆体である塗膜の表面に第二溶媒を塗布した後、この塗膜表面に固体高分子電解質層用塗料(SPE層用塗料)を塗布し、固体高分子電解質層(SPE層)の前駆体(SPE層前駆体)を形成する。そして、第一溶媒、第二溶媒、及び第三溶媒をそれぞれ除去することにより、集電体、集電体上に形成された活物質層、及び活物質層上に形成されたSPE層を備える電極が得られる。
【0014】
上記第一の本発明では、塗膜中に含まれる活物質粒子の形状に応じて塗膜表面が凹凸状に起伏する傾向があるが、塗膜を第二溶媒で被覆することによって塗膜表面の凹凸が解消する。このように表面が平坦化された塗膜表面にSPE層用塗料を塗布することによって、平坦で厚さが均一なSPE層前駆体を形成することができる。すなわち、SPE層前駆体の一部が塗膜表面の凹部に埋没したり、塗膜表面の凸部で隆起したりすることを抑制できる。また、第二溶媒は、SPE層用バインダーの貧溶媒であるため、第二溶媒で被覆された塗膜表面に形成されたSPE層前駆体は、第二溶媒で溶解され難く、平坦で厚さが均一な形状を維持することができる。すなわち、SPE層前駆体内においてSPE同士を結着するSPE層用バインダーは、第二溶媒で溶解され難いため、SPE層前駆体の形状が平坦で厚さが均一な状態に維持される。このように、平坦で厚さが均一な形状に維持されたSPE層前駆体中の溶媒を除去することによって、平坦で厚さが均一なSPE層を形成することが可能となる。このように平坦で厚さが均一なSPE層を備える電極を用いた電気化学素子では、電極間の短絡が防止される。
【0015】
上記第一の本発明では、第二溶媒によりウェットな(湿潤な)状態に維持された塗膜表面に、ウェットなSPE層用塗料を塗布するため、ドライな(乾燥した)塗膜にSPE層用塗料を塗布する場合に比べて、得られる活物質層とSPE層との接着性が向上する。また、SPE層用塗料中に含まれるSPE層用バインダーの一部が、塗膜表面の第二溶媒(SPE層用バインダーの貧溶媒)と接触することによって、SPE層前駆体と塗膜との間に析出する。すなわち、得られる電極の活物質層のSPE層側では、活物質粒子同士、及び活物質粒子とSPE層とが、SPE層用バインダーによって接着されるため、活物質層とSPE層との接着性が向上する。このように、活物質層とSPE層との接着性が向上することによって、SPE層の剥離や位置ずれが防止され、電気化学素子における短絡が防止される。
【0016】
上記第一の本発明では、第二工程の前に、塗膜から第一溶媒を除去してよい。塗膜から良溶媒を除去することによって、塗膜中に析出した活物質層用バインダーによって活物質同士が結着する。このように、塗膜を乾燥させた後に、塗膜に第二溶媒を塗布した場合であっても、本発明の効果を奏することができる。
【0017】
上記第一の本発明では、第三工程の前に、第二溶媒を塗布した塗膜をプレスすることが好ましい。第二溶媒を塗布した塗膜をプレスすることによって、塗膜表面の凹凸が小さくなり、塗膜表面に平坦で厚さが均一なSPE層前駆体を形成し易くなる。
【0018】
上記第一の本発明では、第二溶媒が、活物質層用バインダーの貧溶媒であることが好ましい。この場合、塗膜内において活物質粒子同士を結着する活物質層用バインダーは、第二溶媒で溶解され難いため、塗膜の形状が維持され易くなり、平坦で厚さが均一な活物質層を得やすくなると共に、本発明の効果を得やすくなる。
【0019】
上記第一の本発明では、固体高分子電解質層用バインダーが、ポリフッ化ビニリデンであり、第二溶媒が、水、ヘキサン、トルエン、キシレン及びアルコールからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0020】
上記のSPE層用バインダー及び第二溶媒の組合せを採用することによって、第一の本発明の効果を得易くなる。
【0021】
第二の本発明に係る電極の製造方法は、活物質粒子と、活物質層用バインダーと、第一溶媒と、を含む活物質層用塗料を、集電体に塗布し、活物質層用塗料からなる塗膜を形成する工程と、固体高分子電解質と、固体高分子電解質層用バインダーと、第三溶媒と、を含む固体高分子電解質層用塗料を、塗膜に塗布する工程と、を備え、第一溶媒が、活物質層用バインダーの良溶媒であり、且つ固体高分子電解質用バインダーの貧溶媒であり、第三溶媒が、固体高分子電解質用バインダーの良溶媒である。
【0022】
上記第二の本発明によれば、上記第一の本発明と同様に、活物質層の表面に平坦で厚さが均一な固体高分子電解質層(短絡防止用被膜)を形成することが可能である。
【0023】
上記第二の本発明では、活物質層の前駆体である塗膜の表面に固体高分子電解質層用塗料(SPE層用塗料)を塗布し、固体高分子電解質層(SPE層)の前駆体(SPE層前駆体)を形成する。そして、第一溶媒及び第三溶媒をそれぞれ除去することにより、集電体、集電体上に形成された活物質層、及び活物質層上に形成されたSPE層を備える電極が得られる。
【0024】
上記第二の本発明では、塗膜に浸潤した第一溶媒によって塗膜表面の凹凸が緩和する。このように表面の凹凸が緩和された塗膜表面にSPE層用塗料を塗布することによって、平坦で厚さが均一なSPE層前駆体を形成することができる。すなわち、SPE層前駆体の一部が塗膜表面の凹部に埋没したり、塗膜表面の凸部で隆起したりすることを抑制できる。また、第一溶媒は、SPE層用バインダーの貧溶媒であるため、塗膜表面に形成されたSPE層前駆体は、第一溶媒で溶解され難く、平坦で厚さが均一な形状を維持することができる。すなわち、SPE層前駆体内においてSPE同士を結着するSPE層用バインダーは、第一溶媒で溶解され難いため、SPE層前駆体の形状が平坦で厚さが均一な状態に維持される。このように、平坦で厚さが均一な形状に維持されたSPE層前駆体中の溶媒を除去することによって、平坦で厚さが均一なSPE層を形成することが可能となる。このように平坦で厚さが均一なSPE層を備える電極を用いた電気化学素子では、短絡が防止される。
【0025】
上記第二の本発明では、第一溶媒によりウェットな(湿潤な)状態に維持された塗膜表面に、ウェットなSPE層用塗料を塗布するため、ドライな(乾燥した)塗膜にSPE層用塗料を塗布する場合に比べて、得られる活物質層とSPE層との接着性が向上する。また、SPE層用塗料中に含まれるSPE層用バインダーの一部が、塗膜表面の第一溶媒(SPE層用バインダーの貧溶媒)と接触することによって、SPE層前駆体と塗膜との間に析出する。すなわち、得られる電極の活物質層のSPE層側では、活物質粒子同士、及び活物質粒子とSPE層とが、SPE層用バインダーによって接着されるため、活物質層とSPE層との接着性が向上する。このように、活物質層とSPE層との接着性が向上することによって、SPE層の剥離や位置ずれが防止され、電気化学素子における短絡が防止される。
【0026】
上記第二の本発明では、活物質層用バインダーが、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースとを含み、固体高分子電解質層用バインダーが、ポリフッ化ビニリデン又はポリエチレンオキシドの少なくともいずれかを含み、第一溶媒が、水及びアルコールを含むことが好ましい。
【0027】
上記の活物質層用バインダー、SPE層用バインダー及び第一溶媒の組合せを採用することによって、第二の本発明の効果を得易くなる。
【0028】
上記第一及び第二の本発明では、高分子電解質が、ポリフッ化ビニリデン又はポリエチレンオキシドの少なくともいずれかを含むことが好ましい。これにより本発明の効果を得易くなる。
【0029】
本発明に係る電極は、集電体と、集電体上に形成され、活物質粒子及び活物質層用バインダーを含む活物質層と、活物質層上に形成され、固体高分子電解質及び固体高分子電解質層用バインダーを含む固体高分子電解質層と、を備え、活物質層の固体高分子電解質層側の表面に位置する複数の活物質粒子の間に固体高分子電解質層用バインダーが充填されている。
【0030】
上記本発明に係る電極では、活物質層の固体高分子電解質層側の表面に位置する複数の活物質粒子の間に固体高分子電解質層用バインダーが充填されているため、活物質層の表面に形成されたSPE層は平坦で厚さが均一な形状に維持される。このような電極を備える電気化学素子では、電極間の短絡が防止される。
【0031】
上記本発明に係る電極では、複数の活物質粒子と、複数の活物質粒子の間に充填された固体高分子電解質層用バインダーと、から構成される活物質層の固体高分子電解質層側の表面が、固体高分子電解質層の活物質層と反対側の表面と、略平行であることが好ましい。このような電極では、活物質層の表面に形成されたSPE層が平坦で厚さが均一な形状に維持され易く、このような電極を備える電気化学素子では、電極間の短絡が防止され易くなる。
【0032】
上記本発明に係る電極では、活物質粒子が負極用活物質からなることが好ましい。すなわち、上記本発明に係る電極は、電気化学素子の負極として好適である。電気化学素子の負極では、正極に比べて、デンドライトが形成され易く、特に負極活物質層を被覆するSPE層の表面の凹部又は凸部がデンドライトの起点となり易い。そして、負極に形成されたデンドライトが短絡を引き起こす傾向がある。そこで、負極活物質層の表面に平坦なSPE層を備える本発明に係る電極を負極として用いることによって、デンドライトの形成が抑制され、短絡を防止し易くなる。
【0033】
上記本発明では、固体高分子電解質層の厚さが5〜30μmであることが好ましい。
【0034】
SPE層が薄過ぎる場合、短絡を防止する効果が小さくなる傾向があり、SPE層が厚過ぎる場合、SPE層内でのイオン拡散抵抗が大きくなり、電気化学素子におけるインピーダンスが大きくなる傾向があるが、SPE層の厚さを上記の範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、平坦で厚さが均一な短絡防止用被膜(固体高分子電解質層)を形成することが可能であり、電気化学素子における短絡を防止することが可能な電極の製造方法、及び電気化学素子における短絡を防止することが可能な電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面を参照しながら、本発明の電極の製造方法の好適な実施形態として、リチウムイオン二次電池に用いる電極の製造方法及び当該製造方法によって得られる電極について詳細に説明する。なお、リチウムイオン二次電池は、電極として正極及び負極を備えるが、以下では、正極及び負極の各製造に用いる材料以外は区別することになく、正極及び負極の両方に共通する製造方法について説明する。また、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。さらに、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0037】
[第一実施形態]
<電極の製造方法>
第一実施形態に係る電極の製造方法は、活物質粒子と、活物質層用バインダーと、第一溶媒と、を含む活物質層用塗料を、集電体に塗布し、活物質層用塗料からなる塗膜を形成する工程(第一工程:S1)と、塗膜から第一溶媒を除去する工程(第一溶媒の除去工程:S2)と、第二溶媒を、第一溶媒が除去された塗膜に塗布する工程(第二工程:S3)と、固体高分子電解質(SPE)と、SPE層用バインダーと、第三溶媒と、を含むSPE層用塗料を、第二溶媒を塗布した塗膜に塗布して、SPE層前駆体を形成する工程(第三工程:S4)と、塗膜及びSPE層前駆体から第二溶媒及び第三溶媒を除去する工程(溶媒の除去工程:S5)と、を備える。
【0038】
第一溶媒は、活物質層用バインダーの良溶媒であり、第二溶媒は、SPE層用バインダーの貧溶媒であり、第三溶媒は、SPE層用バインダーの良溶媒である。
【0039】
(第一工程:S1)
第一工程では、まず、第一溶媒中に、活物質粒子、活物質層用バインダー、及び導電助剤を分散させた活物質用塗料を調製する。次に、図1に示すように、活物質用塗料を集電体6の表面に塗布し、活物質用塗料からなる塗膜8aを形成する。なお、図1では、図を簡略するために、塗膜8aに含まれる物質のうち活物質粒子2及び第一溶媒4のみを図示し、導電助剤、及び第一溶媒4に溶解した活物質層用バインダーは省略する。また、図2〜5においても、同様の理由で、導電助剤及び活物質層用バインダーを省略する。
【0040】
電極として正極を製造する場合は、正極活物質からなる活物質粒子2を塗料に含有させればよく、負極を製造する場合は、負極活物質からなる活物質粒子2を塗料に含有させればよい。
【0041】
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMn(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn又はFe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素またはVOを示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)等の複合金属酸化物を用いることができる。
【0042】
負極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、Al、Si、Sn、Si等のリチウムと化合することのできる金属、SiO(1<x≦2)、SnO(1<x≦2)等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)、TiOを用いることができる。
【0043】
活物質層用バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、又はスチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。また、バインダーとして、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)等のフッ素樹脂・フッ素ゴム(以下、「VDFコポリマー」と記す。)を用いてもよく、CMCとSBRとを併用してもよい。
【0044】
第一溶媒4としては、用いる活物質層用バインダーに応じた溶媒を適宜選択して用いる。バインダーとしてPVDFを用いる場合、第一溶媒4として、N−メチルピロリドン(NMP)を単独で、又は組み合わせて用いる。バインダーとしてCMC又はSBRを用いる場合は、第一溶媒4として、水又はアルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)を単独で、又は組み合わせて用いる。バインダーとしてVDFコポリマーを用いる場合、第一溶媒4として、アセトンを単独で、又は組み合わせて用いる。なお、活物質層用バインダーとしてPTFEを用いる場合、活物質用塗料にPTFE以外の溶媒を添加することなく、PTFEをそのまま単独で用いることができる。すなわち、PTFEは、活物質用バインダーとしての機能と、活物質用塗料を作製するための第一溶媒4としての機能とを兼ね備える。
【0045】
導電助剤としては、特に限定されず、例えば、カーボンブラック類、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属粉、炭素材料及び金属粉の混合物、ITOのような導電性酸化物を用いることができる。
【0046】
集電体6としては、活物質層への電荷の移動を充分に行うことができる良導体を用いればよく、例えば、銅、アルミニウム等の金属箔を用いることができる。特に、負極用の集電体としては、リチウムと合金を作らないもの、正極用の集電体としては、腐食しないものを用いることが好ましい。
【0047】
(第一溶媒の除去工程:S2)
第一溶媒4の除去工程では、塗膜8aを乾燥し、塗膜8aから第一溶媒4を除去する。これにより、第一溶媒4に溶解していた活物質層用バインダーを、活物質粒子2同士の間、導電助剤同士の間、及び活物質粒子2と導電助剤との間に析出させる。その結果、図2に示すように、バインダーによって互いに結着した活物質粒子2及び導電助剤からなる塗膜8bを得る。
【0048】
(第二工程:S3)
第二工程では、図3に示すように、第一溶媒4が除去された塗膜8bに第二溶媒10を塗布し、塗膜8b中の間隙(活物質粒子2及び導電助剤の間)に浸透させ、塗膜8cを形成する。図2に示すように、塗膜8bの表面は、塗膜8b中に含まれる活物質粒子2の形状に応じて凹凸状に起伏する傾向があるが、図3に示すように、塗膜8bを第二溶媒10で被覆した塗膜8cの表面では、凹凸が解消する。
【0049】
第一溶媒4が除去された塗膜8bに第二溶媒10を塗布する際は、第二溶媒10で塗膜8bの表面を覆うことが好ましい。換言すれば、第二溶媒10を塗布した後の塗膜8cにおいて塗膜8cの固形分(活物質粒子2及び導電助剤)が第二溶媒10に完全に浸かる程度の量の第二溶媒10を塗膜8bに塗布することが好ましい。これにより、第二溶媒10が塗膜8c全体に浸透し、塗膜8c表面の凹凸を解消し易くため、本発明の効果を得やすくなる。
【0050】
第二溶媒10としては、SPE層用バインダーに応じて、SPE層用バインダーの貧溶媒を適宜選択して用いる。SPE層用バインダーとしてPVDF又はPTFEを用いる場合、第二溶媒10として、水、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、トルエン、キシレン、又はアルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)を単独で、又は組み合わせて用いる。SPE層用バインダーとしてVDFコポリマーを用いる場合、第二溶媒10として、水、ヘキサン、トルエン、キシレン、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)を単独で、又は組み合わせて用いる。SPE層用バインダーとしてCMC又はSBRを用いる場合は、第二溶媒10として、アセトン、MEK、ヘキサン、トルエン、キシレンを単独で、又は組み合わせて用いる。
【0051】
第二溶媒10は、SPE層用バインダーの貧溶媒であるのみならず、活物質層用バインダーの貧溶媒であることが好ましい。この場合、第二溶媒10は、活物質粒子2及び導電助剤を結着した活物質層用バインダーを殆ど溶解しない。そのため、第二溶媒10が塗布された塗膜8cでは、活物質粒子2及び導電助剤は活物質層用バインダーによって互いに結着した状態に維持されるため、塗膜8cの形状が維持され易くなり、平坦で厚さが均一な活物質層を得やすくなると共に、後述する第三工程において、平坦で厚さが均一なSPE層前駆体を形成し易くなる。
【0052】
本実施形態では、第二溶媒10を塗布した塗膜8cの表面全体をカレンダロール12でプレス(圧延処理)する。すなわち、ウェットな状態の塗膜8cをプレスする。これにより、塗膜8c表面の凹凸を解消し易くなり、下記第三工程において、塗膜表面8cに平坦で厚さが均一なSPE層前駆体を形成し易くなる。
【0053】
なお、塗膜8cをプレスする際は、カレンダロールの表面又は塗膜8cを加熱した状態で塗膜8cをプレスしてもよい。これにより、塗膜8cの凹凸を更に解消し易くなる。
【0054】
(第三工程:S4)
第三工程では、図4に示すように、SPE層用塗料を、第二溶媒10を塗布した塗膜8cに塗布して、SPE層前駆体14aを形成し、さらにSPE層前駆体14aをカレンダロール12でプレス(圧延処理)する。なお、塗布したSPE層前駆体14aをプレスする際は、カレンダロールの表面、又は塗膜8cに塗布したSPE層用塗料を加熱した状態でプレスしてもよい。
【0055】
SPE層用塗料に含まれる固体高分子電解質(SPE)としては、例えば、PVDF(ホモポリマー)、VDFコポリマー、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシド(PEO)等を用いることができるが、これらの中でも、VDFコポリマー又はPEOを用いることが好ましい。これにより本発明の効果を得易くなる。
【0056】
SPE層用バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、又はスチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。また、バインダーとして、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)等のフッ素樹脂・フッ素ゴム(VDFコポリマー)を用いてもよく、CMCとSBRとを併用してもよい。なお、SPE層用バインダーは、活物質層用バインダーとは異なる物質であることが好ましい。これにより、塗膜8cとSPE層前駆体14aとの界面(活物質層とSPE層の境界面)を明確に形成でき、後工程であるSPE層前駆体14aのプレス(圧延処理)時に塗膜8cの露出を防止し、得られる電極を備えた電気化学素子において短絡の発生を防止できる。
【0057】
第三溶媒としては、用いるSPE層用バインダーに応じて、SPE層用バインダーの良溶媒を適宜選択して用いる。バインダーとしてPVDFを用いる場合、第三溶媒として、NMPを単独で、又は組み合わせて用いる。バインダーとしてCMC又はSBRを用いる場合は、第三溶媒として、水又はアルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)を単独で、又は組み合わせて用いる。バインダーとしてVDFコポリマーを用いる場合、第三溶媒として、アセトンを単独で、又は組み合わせて用いる。なお、SPE層用バインダーとしてPTFEを用いる場合、SPE層用塗料にPTFE以外の溶媒を添加することなく、PTFEをそのまま単独で用いることができる。すなわち、PTFEは、SPE層用バインダーとしての機能と、SPE層用塗料を作製するための第三溶媒としての機能とを兼ね備える。
【0058】
SPE層用バインダーは、ポリフッ化ビニリデンであり、第二溶媒が、水、ヘキサン、トルエン、キシレン及びアルコールからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。このようなSPE層用バインダー及び第二溶媒の組合せを採用することによって、本発明の効果を得易くなる。
【0059】
(溶媒の除去工程:S5)
溶媒の除去工程では、集電体上の塗膜8c及び塗膜8c上のSPE層前駆体14aを乾燥し、塗膜8c及びSPE層前駆体14aから第二溶媒10及び第三溶媒を除去する。これにより、図5に示すように、集電体6と、集電体6上に形成された活物質層8dと、活物質層8d上に形成されたSPE層14bと、を備える電極100が得られる。
【0060】
第一実施形態では、図4に示すように、第三工程において、表面が平坦化された塗膜8cの表面にSPE層用塗料を塗布することによって、平坦で厚さが均一なSPE層前駆体14aを形成することができる。すなわち、SPE層前駆体14aの一部が塗膜8c表面の凹部(活物質粒子2及び導電助剤の間)に埋没したり、塗膜8c表面の凸部で隆起したりすることを抑制できる。また、第二溶媒10は、SPE層用バインダーの貧溶媒であるため、SPE層前駆体14aは、第二溶媒10で溶解され難く、平坦で厚さが均一な形状を維持することができる。平坦で厚さが均一な形状に維持されたSPE層前駆体14を乾燥することにより、図5に示すように、平坦で厚さが均一なSPE層14bを形成することが可能となる。このように平坦で厚さが均一なSPE層14bを備える電極100を用いたリチウムイオン二次電池では、電極間の短絡が防止される。
【0061】
また第一実施形態では、図4に示すように、第三工程において、第二溶媒10によりウェットな状態に維持された塗膜8cの表面に、ウェットなSPE層用塗料を塗布するため、ドライな塗膜にSPE層用塗料を塗布する場合に比べて、得られる活物質層8dとSPE層14bとの接着性が向上する。また、SPE層用塗料中に含まれるSPE層用バインダーの一部が、塗膜8c表面の第二溶媒10(SPE層用バインダーの貧溶媒)と接触することによって、SPE層前駆体14aと塗膜8cとの間に析出する。その結果、得られる電極の活物質層8dのSPE層14b側では、図5に示すように、活物質粒子2、導電助剤、及びSPE層14bが、SPE層用バインダーによって互いに接着されるため、活物質層8dとSPE層14bとの接着性が向上する。このように、活物質層8dとSPE層14bとの接着性が向上することによって、SPE層14bの剥離や位置ずれが防止され、リチウムイオン二次電池における短絡が防止される。
【0062】
さらに、第一実施形態では、第三工程において、第二溶媒10が塗布された塗膜8cの表面にSPE層用塗料を塗布するため、SPE層用塗料の一部が塗膜8c表面の凹部(活物質粒子2及び導電助剤の間)に埋没することがない。すなわち、)、得られる活物質層8dの表面に形成される空孔内部が、SPE層8dの一部で詰まることがない。したがって、SPE層8dによる空孔の閉塞に起因するイオン拡散抵抗の増加を防止できる。なお、仮に第二溶媒10が塗布されていない塗膜8bの表面にSPE層用塗料を塗布する場合、塗膜8bの表面の凹部にSPE層用塗料が染み込むことを防止するために、SPE層用塗料に所望の粘度を付与する必要があり、SPE層用塗料の材料の選択に制約が課せられるが、第一実施形態では、このような制約がなくなる。
【0063】
また、第一実施形態では、第三工程において、SPE層用塗料の一部が塗膜8c表面の凹部に埋没することがないため、塗膜8cに塗布するSPE層用塗料の量を調整することにより、得られるSPE層14bの厚さを制御し易くなり、SPE層14bの薄層化が可能となる。
【0064】
また、第一実施形態では、第三工程の前に、第二溶媒10を塗布した塗膜8cをプレスする際に、塗膜8c中の間隙(活物質粒子2及び導電助剤の間)に浸透した第二溶媒10が緩衝材となり、活物質粒子2及び導電助剤に過度の圧力が作用し難くなると共に、第二溶媒10を介して塗膜8c全体に圧力が伝わり易くなる。厚さが均一であり、表面が均一に多孔質化した活物質層8dを形成することが可能となる。
【0065】
より具体的に説明すると、第二溶媒10を塗布した塗膜8cをプレスすると、塗膜8cの表面を被覆した第二溶媒10が緩衝材と作用するため、カレンダロール12によって塗膜8c表面の活物質粒子2及び導電助剤が過度に押し固められたり、潰されたりすることを抑制できる。その結果、従来の製造方法で得た電極に比べて、活物質層8dのSPE層14b側の密度が低下し、活物質層8dにおけるイオン拡散抵抗が低下する。
【0066】
また、塗膜8cの集電体6側では、塗膜8c中の間隙(活物質粒子2及び導電助剤の間)に浸透した第二溶媒10を介して圧力が作用し易くなり、活物質粒子2及び導電助剤が適度に圧縮される。その結果、従来の製造方法によって得た電極に比べて、活物質層8dの集電体6側の密度が高くなり、得られる電極100の電気伝導性が向上する。
【0067】
以上の理由から、第一実施形態に係る電極の製造方法によって得た電極100を備えるリチウムイオン二次電池では、従来の製造方法によって得た電極を備えるリチウムイオン二次電池に比べて、インピーダンスが低下し、出力及び容量が向上する。
【0068】
第一実施形態に係る電極の製造方法は、2Ah以上の大容量電池用の電極、又は100mm×100mm以上の大面積を有する電極の製造方法として好適である。
【0069】
<電極100>
図5に示すように、上述した第一実施形態に係る電極の製造方法により得られた電極100は、集電体6と、集電体6上に形成され、活物質粒子2、導電助剤及び活物質層用バインダーを含む活物質層8dと、活物質層8d上に形成され、SPE及びSPE層用バインダーを含むSPE層14bと、を備え、活物質層8dのSPE層14b側の表面に位置する複数の活物質粒子2及び導電助剤の間にSPE層用バインダー16が充填されている。なお、SPE層用バインダーは、活物質層用バインダーとは異なる物質である。活物質層8dとSPE層14bとの界面近傍には、複数の活物質粒子2及び導電助剤と、その間に充填されたSPE層用バインダー16からなる第一の層と、第一の層より集電体6側に位置し、複数の活物質粒子2及び導電助剤と、その間に充填されたSPE層用バインダー16及び活物質層用バインダーからなる第二の層が形成されていると考えられる。
【0070】
電極100では、活物質層8dのSPE層14b側の表面に位置する複数の活物質粒子2及び導電助剤の間にSPE層用バインダー16が充填されているため、活物質層8dの表面に形成されたSPE層14bは平坦で厚さが均一な形状に維持される。このような電極100を備えるリチウムイオン二次電池では、電極間の短絡が防止される。
【0071】
電極100では、複数の活物質粒子2及び導電助剤と、これらの間に充填されたSPE層用バインダー16と、から構成される活物質層8dのSPE層14b側の表面が、SPE層14bの活物質層8dと反対側の表面と、平行である。このような電極100では、活物質層8dの表面に形成されたSPE層14bが平坦で厚さが均一な形状に維持され易く、このような電極100を備えるリチウムイオン二次電池では、電極間の短絡が防止され易くなる。
【0072】
電極100では、活物質粒子2が負極用活物質からなることが好ましい。すなわち、電極100は、リチウムイオン二次電池の負極として好適である。リチウムイオン二次電池の負極では、正極に比べて、デンドライトが形成され易く、特に負極活物質層を被覆するSPE層の表面の凹凸部がデンドライトの起点となり易い。そして、負極に形成されたデンドライトが短絡を引き起こす傾向がある。そこで、負極活物質層の表面に平坦なSPE層14bを備える電極100を負極として用いることによって、デンドライトの形成が抑制され、短絡を防止し易くなる。
【0073】
SPE層14bの平均厚さが5〜30μmであることが好ましい。
【0074】
SPE層14bが薄過ぎる場合、短絡を防止する効果が小さくなる傾向があり、SPE層14bが厚過ぎる場合、SPE層14b内でのイオン拡散抵抗が大きくなり、リチウムイオン二次電池におけるインピーダンスが大きくなる傾向があるが、SPE層14bの厚さを上記の範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0075】
<リチウムイオン二次電池>
第一実施形態に係る製造方法で得られた電極100(負極及び正極)を用いてリチウムイオン二次電池を製造する際は、まず、負極及び正極それぞれに対して、負極用リード及び正極用リードを電気的に接続する。次に、負極と正極との間に、セパレータを接触した状態で配置し、発電要素を形成する。このとき、負極のSPE層14b側の面、及び正極のSPE層14b側の面が、セパレータと接触するように配置する。
【0076】
次に、開口部を有した状態のケースの内部に発電要素を挿入し、更に電解質溶液を注入する。続いて、負極リード、正極リードの一部をそれぞれケース内に挿入し、他部をケース外に配置させた状態で、ケースの開口部を封止することにより、リチウムイオン二次電池が完成する。
【0077】
なお、負極のSPE層14b、及び正極のSPE層14bは、それぞれセパレータとして機能するため、負極と正極との間にセパレータを介在させることなく、負極のSPE層14bと、正極のSPE層14bとを直接接触させてもよい。
【0078】
[第二実施形態]
以下、本発明の第二実施形態に係る電極の製造方法について説明するが、第一実施形態と第二実施形態とに共通する事項については、説明を省略し、両者の相違点についてのみ説明する。
【0079】
第二実施形態では、第一実施形態とは異なり、第二溶媒を用いず、第一溶媒4が、活物質層用バインダーの良溶媒であり、且つSPE層用バインダーの貧溶媒であり、第三溶媒が、SPE層用バインダーの良溶媒である。
【0080】
第二実施形態に係る電極の製造方法は、図6に示すように、活物質粒子2と、活物質層用バインダーと、第一溶媒4と、を含む活物質層用塗料を、集電体6に塗布し、活物質層用塗料からなる塗膜8a(活物質層の前駆体)を形成する。
【0081】
次に、SPEと、SPE層用バインダーと、第三溶媒と、を含むSPE層用塗料を塗膜8aに塗布してSPE層前駆体14aを形成し、これをカレンダロール12でプレスする。
【0082】
SPE層前駆体14aを形成後、塗膜8a及びSPE層前駆体14aから第一溶媒4及び第三溶媒を乾燥して除去することにより、第一実施形態と同様に、図5に示す電極100が得られる。このように、第二実施形態に係る電極の製造方法によれば、第一実施形態と同様に、活物質層8dの表面に平坦で厚さが均一なSPE層14bを形成することが可能である。
【0083】
第二実施形態では、塗膜8aに浸潤した第一溶媒4によって塗膜8a表面の凹凸が緩和する。このように表面の凹凸が緩和された塗膜8a表面にSPE層用塗料を塗布することによって、平坦で厚さが均一なSPE層前駆体14aを形成することができる。また、第一溶媒4は、SPE層用バインダーの貧溶媒であるため、SPE層前駆体14a内においてSPE同士を結着するSPE層用バインダーは、第一溶媒4で溶解され難く、SPE層前駆体14aの形状が平坦で厚さが均一な状態に維持される。このように、平坦で厚さが均一な形状に維持されたSPE層前駆体14a中の溶媒を除去することによって、図5に示すように、平坦で厚さが均一なSPE層14bを形成することが可能となる。
【0084】
第二実施形態では、第一溶媒4によりウェットな(湿潤な)状態に維持された塗膜8a表面に、ウェットなSPE層用塗料を塗布するため、ドライな(乾燥した)塗膜にSPE層用塗料を塗布する場合に比べて、得られる活物質層8dとSPE層14bとの接着性が向上する。また、SPE層用塗料中に含まれるSPE層用バインダーの一部が、塗膜8a表面の第一溶媒4(SPE層用バインダーの貧溶媒)と接触することによって、SPE層前駆体14aと塗膜8aとの間に析出する。そのため、得られる電極100の活物質層8dのSPE層14b側では、活物質粒子2、導電助剤、及びSPE層14bが、SPE層用バインダーによって互いに接着されるため、活物質層8dとSPE層14bとの接着性が向上する。このように、活物質層8dとSPE層14bとの接着性が向上することによって、SPE層14bの剥離や位置ずれが防止され、リチウムイオン二次電池における短絡が防止される。
【0085】
第二実施形態では、活物質層用バインダーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)であり、SPE層用バインダーは、PVDF(ホモポリマー)、VDFコポリマー、又はPEOであり、第一溶媒は、水及びアルコールであることが好ましい。なお、SPE層用バインダーがPVDF(ホモポリマー)である場合、第三溶媒はNMPであることが好ましい。また、SPE層用バインダーがVDFコポリマー又はPEOである場合、第三溶媒は、アセトンであることが好ましい。
【0086】
上記の活物質層用バインダー、SPE層用バインダー、第一溶媒、及び第三溶媒の組合せを採用することによって、本発明の効果を得易くなる。
【0087】
以上、本発明の好適な第一及び第二実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0088】
例えば、第一実施形態において、第一溶媒の除去工程を行わずに、第一溶媒を含む塗膜に直接第二溶媒を塗布してもよい。すなわち、活物質層用塗料からなる塗膜に直接第二溶媒を塗布し、第二溶媒を塗布した塗膜にSPE層用塗料を塗布した後、第一溶媒、及、第二溶媒、及び第三溶媒を塗膜及びSPE層前駆体から一括して乾燥除去してもよい。これにより、各溶媒の除去工程を間に挟むことなく、塗膜の形成、第二溶媒の塗布、及びSPE層用塗料の塗布を連続して行うことができる。
【0089】
また、第一実施形態において、第三工程前に、第二溶媒10を塗布した塗膜8cをプレスしなくてもよい。この場合も、本発明の効果を奏することができる。
【0090】
また、上記実施形態の説明においては、電気化学素子がリチウムイオン二次電池の場合について説明したが、電気化学素子はリチウムイオン二次電池に限定されるものではなく、金属リチウム二次電池等のリチウムイオン二次電池以外の二次電池や、リチウムキャパシタ等の電気化学キャパシタ等であってもよい。また、本発明の製造方法によって得られる電極を備える電気化学素子は、自走式のマイクロマシン、ICカードなどの電源や、プリント基板上又はプリント基板内に配置される分散電源の用途にも使用することが可能である。
【実施例】
【0091】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
(実施例1)
[活物質層用塗料の調製]
黒鉛(商品名:OMAC、大阪ガス株式会社製)からなる活物質粒子、活物質層用バインダーであるPVDF(ホモポリマー、商品名:761、アトフィナ社製)、及び導電助剤であるカーボンブラック(商品名:DAB、電気化学工業株式会社製)を、活物質層用バインダーの良溶媒(第一溶媒)であるNMP中に分散させ、負極用塗料を調製した。
【0093】
[SPE層用塗料の調製]
固体高分子電解質であるVDFコポリマー(フッ化ビニルと6フッ化プロピレンの共重合体、商品名:2801、アトフィナ社製)、及びSPE層用バインダーであるVDFコポリマー(フッ化ビニルと6フッ化プロピレンの共重合体、商品名:2801、アトフィナ社製)を、SPE層用バインダーの良溶媒(第三溶媒)であるアセトン中に分散させ、SPE層用塗料を調製した。
【0094】
[負極の作製]
<第一工程:S1>
塗膜形成工程では、Cu箔(集電体)の表面に活物質層用塗料を塗布し、活物質層用塗料からなる塗膜を形成した。
【0095】
<第一溶媒の除去工程:S2>
第一溶媒の除去工程では、塗膜を乾燥炉で乾燥し、塗膜からNMP(第一溶媒)を除去した。
【0096】
<第二工程:S3>
第二工程では、NMP(第一溶媒)が除去された塗膜(以下、「乾燥塗膜」と記す。)の表面全体に、SPE層用バインダーの貧溶媒である第二溶媒としてキシレンを塗布した後に、塗膜の表面全体をカレンダロールでプレスした。
【0097】
<第三工程:S4>
第三工程では、SPE層用塗料をプレス後の塗膜に塗布し、SPE層用塗料からなるSPE層前駆体を形成し、SPE層前駆体をカレンダロールでプレス(圧延処理)した。
【0098】
<溶媒の除去工程:S5>
溶媒の除去工程では、SPE層前駆体が形成された塗膜を乾燥炉で乾燥し、塗膜及びSPE層前駆体から第二溶媒及び第三溶媒を除去した。これにより、Cu箔と、Cu箔の表面に形成された負極活物質層と、負極活物質層の表面に形成された固体高分子電解質層と、を備える負極を得た。
【0099】
(比較例1)
乾燥塗膜に、SPE層用塗料を直接塗布してSPE層前駆体を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の負極を得た。すなわち、比較例1では、乾燥塗膜に第二溶媒を塗布せず、また第三工程前に塗膜のプレスを行わなかった。
【0100】
実施例1の負極を、Cu箔、負極活物質層、及びSPE層の積層方向に切断して得た断面を透過型電子顕微鏡(SEM)で撮影して、断面画像を得た。結果を図7に示す。また、実施例1の同様の方法で、比較例1の負極の断面画像を得た。結果を図8に示す。
【0101】
図7に示すように、実施例1の負極100は、Cu箔6と、Cu箔6上に形成され、活物質粒子、導電助剤及び活物質層用バインダーを含む負極活物質層8dと、活物質層8dの表面全体を被覆し、SPE及びSPE層用バインダーを含むSPE層14bと、を備えることが確認された。また、実施例1では、活物質層8dのSPE層14b側の表面に位置する複数の活物質粒子及び導電助剤の間にSPE層用バインダー16が充填されていることが確認された。さらに、実施例1では、SPE層14bが平坦であり、SPE層14bの厚さが均一であることが確認された。
【0102】
図8に示すように、比較例1の負極200は、Cu箔6と、Cu箔6上に形成され、活物質粒子、導電助剤及び活物質層用バインダーを含む負極活物質層8dと、活物質層8d上に形成され、SPE及びSPE層用バインダーを含むSPE層14bと、を備えることが確認された。
【0103】
しかしながら、比較例1では、実施例1とは対照的に、活物質層8dのSPE層14b側の表面に位置する複数の活物質粒子及び導電助剤の間にSPE層用バインダー16は確認されなかった。
【0104】
また、比較例1では、活物質層8dの表面が、活物質粒子及び導電助剤の形状に応じて凹凸状に起伏していること確認された。また、比較例1では、活物質層8dの表面に形成されたSPE層14bが、活物質層8d表面の凹凸に応じて起伏しており、実施例1に比べて、平坦でないことが確認された。さらに、比較例1では、活物質層8dの表面の凸部でSPE層14bが薄く、活物質層8dの表面の凹部ではSPE層14bが凹部に埋没しており、SPE層14bの厚さが、実施例1に比べて不均一であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第一実施形態に係る電極の製造方法における第一工程を示す図であって、集電体、及び集電体上に塗布された活物質層用塗料からなる塗膜の概略断面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る電極の製造方法における第一溶媒の除去工程を示す図であって、第一溶媒が除去された塗膜の概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る電極の製造方法における第二工程を示す図であって、集電体、第一溶媒を塗布した塗膜、及び塗膜をプレスするためのカレンダロールの概略断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る電極の製造方法における第三工程を示す図であって、集電体、第二溶媒を塗布した塗膜、塗膜上に形成されたSPE層前駆体、及びSPE層前駆体をプレスするためのカレンダロールの概略断面図である。
【図5】本発明の第一実施形態である電極の製造方法によって得られた電極の概略断面図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る電極の製造方法を示す図であって、集電体、活物質層用塗料からなる塗膜、塗膜上に形成されたSPE層前駆体、及びSPE層前駆体をプレスするためのカレンダロールの概略断面図である。
【図7】実施例1の負極断面のSEM画像である。
【図8】比較例1の負極断面のSEM画像である。
【符号の説明】
【0106】
2・・・活物質粒子、4・・・第一溶媒、6・・・集電体、8a、8b、8c・・・塗膜、8d・・・活物質層、10・・・第二溶媒、12・・・カレンダロール、14a・・・固体高分子電解質層前駆体、14b・・・固体高分子電解質層、16・・・固体高分子電解質層用バインダー、100・・・電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質粒子と、活物質層用バインダーと、第一溶媒と、を含む活物質層用塗料を、集電体に塗布し、前記活物質層用塗料からなる塗膜を形成する第一工程と、
前記塗膜に第二溶媒を塗布する第二工程と、
固体高分子電解質と、固体高分子電解質層用バインダーと、第三溶媒と、を含む固体高分子電解質層用塗料を、前記第二溶媒を塗布した前記塗膜に塗布する第三工程と、
を備え、
前記第一溶媒は、前記活物質層用バインダーの良溶媒であり、
前記第二溶媒は、前記固体高分子電解質層用バインダーの貧溶媒であり、
前記第三溶媒は、前記固体高分子電解質層用バインダーの良溶媒である、
電極の製造方法。
【請求項2】
前記第二工程の前に、前記塗膜から前記第一溶媒を除去する、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記第三工程の前に、前記第二溶媒を塗布した前記塗膜をプレスする、請求項1又は2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記第二溶媒が、前記活物質層用バインダーの貧溶媒である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記固体高分子電解質層用バインダーが、ポリフッ化ビニリデンであり、
前記第二溶媒が、水、ヘキサン、トルエン、キシレン及びアルコールからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
活物質粒子と、活物質層用バインダーと、第一溶媒と、を含む活物質層用塗料を、集電体に塗布し、前記活物質層用塗料からなる塗膜を形成する工程と、
固体高分子電解質と、固体高分子電解質層用バインダーと、第三溶媒と、を含む固体高分子電解質層用塗料を、前記塗膜に塗布する工程と、
を備え、
前記第一溶媒が、前記活物質層用バインダーの良溶媒であり、且つ前記固体高分子電解質用バインダーの貧溶媒であり、
前記第三溶媒が、前記固体高分子電解質用バインダーの良溶媒である、
電極の製造方法。
【請求項7】
前記活物質層用バインダーが、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースとを含み、
前記固体高分子電解質層用バインダーが、ポリフッ化ビニリデン又はポリエチレンオキシドの少なくともいずれかを含み、
前記第一溶媒が、水及びアルコールを含む、請求項6に記載の電極の製造方法。
【請求項8】
前記高分子電解質が、ポリフッ化ビニリデン又はポリエチレンオキシドの少なくともいずれかを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極の製造方法。
【請求項9】
集電体と、
前記集電体上に形成され、活物質粒子及び活物質層用バインダーを含む活物質層と、
前記活物質層上に形成され、固体高分子電解質及び固体高分子電解質層用バインダーを含む固体高分子電解質層と、を備え、
前記活物質層の前記固体高分子電解質層側の表面に位置する複数の前記活物質粒子の間に前記固体高分子電解質層用バインダーが充填されている、
電極。
【請求項10】
前記複数の活物質粒子と、前記複数の活物質粒子の間に充填された前記固体高分子電解質層用バインダーと、から構成される前記活物質層の前記固体高分子電解質層側の表面が、前記固体高分子電解質層の前記活物質層と反対側の表面と、略平行である、請求項9に記載の電極。
【請求項11】
前記活物質粒子が負極用活物質からなる、請求項9又は10に記載の電極。
【請求項12】
前記固体高分子電解質層の厚さが5〜30μmである、請求項9〜11のいずれか一項に記載の電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−61912(P2010−61912A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224899(P2008−224899)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】