説明

電極形成用ガラス組成物および電極形成材料

【課題】ファイアスルー性や熱的安定性が良好であり、しかも低温で焼結可能なガラス組成物を創案することにより、シリコン太陽電池の光電変換効率や長期信頼性を向上させること。
【解決手段】本発明の電極形成用ガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 73.1〜90%、B 2〜14.5%、ZnO 0〜25%、MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、SrO、BaOの合量) 0.2〜20%、SiO+Al(SiO、Alの合量) 0〜8.5%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極形成用ガラス組成物および電極形成材料に関し、特に反射防止膜を有するシリコン太陽電池(単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、微結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池を含む)の受光面電極の形成に好適な電極形成用ガラス組成物および電極形成材料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン太陽電池は、半導体基板、受光面電極、裏面電極、反射防止膜を備えており、半導体基板は、p型半導体層とn型半導体層を有している。受光面電極や裏面電極は、電極形成材料(金属粉末と、ガラス粉末と、ビークルとを含む)を焼結させることにより形成される。一般的に、受光面電極にはAg粉末、裏面電極にはAl粉末が使用される。反射防止膜は、窒化ケイ素膜、酸化シリコン膜、酸化チタン膜、酸化アルミニウム膜等が使用されており、現在では、主に窒化ケイ素膜が使用されている。
【0003】
シリコン太陽電池に受光面電極を形成する方法には、蒸着法、めっき法、印刷法等があるが、最近では、印刷法が主流になっている。印刷法は、スクリーン印刷により、電極形成材料を反射防止膜等に塗布した後、650〜850℃で短時間焼成し、受光面電極を形成する方法である。
【0004】
印刷法の場合、焼成時に電極形成材料が反射防止膜を貫通する現象が利用され、この現象により受光面電極と半導体層が電気的に接続される。この現象は、一般的にファイアスルーと称されている。ファイアスルーを利用すれば、受光面電極の形成に際し、反射防止膜のエッチングが不要になるとともに、反射防止膜のエッチングと電極パターンの位置合わせが不要になり、シリコン太陽電池の生産効率が飛躍的に向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−87951号公報
【特許文献2】特開2005−56875号公報
【特許文献3】特表2008−527698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電極形成材料が反射防止膜を貫通する度合(以下、ファイアスルー性)は、電極形成材料の組成、焼成条件で変動し、特にガラス粉末のガラス組成の影響が最も大きい。これは、ファイアスルーが、主にガラス粉末と反射防止膜の反応で生じることに起因している。また、シリコン太陽電池の光電変換効率は、電極形成材料のファイアスルー性と相関があり、ファイアスルー性が不十分であると、この特性が低下し、太陽電池の基本性能が低下する。
【0007】
従来、電極形成材料に含まれるガラス粉末には、PbOを主成分とする鉛ガラスが用いられていたが、鉛ガラスは耐水性が十分ではなく、シリコン太陽電池の長期信頼性が損なわれやすかった。
【0008】
さらに、電極形成材料に含まれるガラス粉末には、(1)ファイアスルー性が良好であることに加えて、(2)熱的安定性が良好であること、(3)低温で焼結可能であること等が要求される。
【0009】
そこで、本発明は、鉛ガラス以上の耐水性を有し、且つファイアスルー性や熱的安定性が良好であり、しかも低温で焼結可能なガラス組成物を創案することにより、シリコン太陽電池の光電変換効率や長期信頼性を高めることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、電極形成用ガラスとして、ビスマス系ガラスを用いるとともに、ビスマス系ガラスのガラス組成を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の電極形成用ガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 73.1〜90%、B 2〜14.5%、ZnO 0〜25%、MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、SrO、BaOの合量) 0.2〜20%、SiO+Al(SiO、Alの合量) 0〜8.5%含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の電極形成用ガラス組成物は、Biの含有量を73.1%以上に規制している。このようにすれば、ガラス粉末と反射防止膜の反応性が高まり、ファイアスルー性が向上するとともに、軟化点が低下し、低温で電極形成材料を焼結することができる。なお、低温で電極を形成すれば、シリコン太陽電池の生産性が向上し、また半導体基板の結晶粒界の水素が放出され難くなり、シリコン太陽電池の光電変換効率が向上する。さらに、Biの含有量を73.1%以上に規制すると、耐水性が高まり、シリコン太陽電池の長期信頼性を高めることができる。一方、本発明の電極形成用ガラス組成物は、Biの含有量を90%以下に規制している。このようにすれば、焼成時にガラスが失透し難くなり、結果として、ガラス粉末と反射防止膜の反応性が低下し難くなるとともに、電極形成材料の焼結性が低下し難くなる。
【0012】
本発明の電極形成用ガラス組成物は、Bの含有量を2%以上に規制している。このようにすれば、焼成時にガラスが失透し難くなり、結果として、ガラス粉末と反射防止膜の反応性が低下し難くなるとともに、電極形成材料の焼結性が低下し難くなる。一方、本発明の電極形成用ガラス組成物は、Bの含有量を14.5%以下に規制している。このようにすれば、軟化点が低下し、低温で電極形成材料を焼結できるとともに、耐水性が高まり、シリコン太陽電池の長期信頼性を高めることができる。
【0013】
本発明の電極形成用ガラス組成物は、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量を0.2%以上に規制している。このようにすれば、焼成時にガラスが失透し難くなり、結果として、ガラス粉末と反射防止膜の反応性が低下し難くなるとともに、電極形成材料の焼結性が低下し難くなる。一方、本発明の電極形成用ガラス組成物は、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量を20%以下に規制している。このようにすれば、軟化点の不当な上昇を抑制することができ、低温で電極形成材料を焼結することができる。
【0014】
本発明の電極形成用ガラス組成物は、SiO+Alの含有量を8.5%以下に規制している。このようにすれば、ファイアスルー性が低下し難くなるとともに、ガラスの軟化点が低下し、低温で電極形成材料を焼結することができる。なお、本発明の電極形成用ガラス組成物において、ガラス組成中にZnOを添加すると、ガラスの熱的安定性を高めることができる。
【0015】
第二に、本発明の電極形成用ガラス組成物は、Biの含有量が74.3%以上であることを特徴とする。このようにすれば、本願明細書の段落[0011]に記載の効果が更に大きくなる。
【0016】
第三に、本発明の電極形成用ガラス組成物は、BaOの含有量が0.2〜15%であることを特徴とする。BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では軟化点を上昇させずに、熱的安定性を高める効果が最も大きい。よって、BaOの含有量を上記範囲に規制すれば、軟化点の上昇を抑制しつつ、熱的安定性を高めることができる。
【0017】
第四に、本発明の電極形成用ガラス組成物は、CuOの含有量が2.5%以下であることを特徴とする。金属粉末として、Ag粉末を用いる場合、ガラス粉末のガラス組成中に多量のCuOを含有していると、電極形成材料の焼成時にCuおよびCuを主要成分とする合金が析出し、結果として、受光面電極等の電気抵抗が大きくなり、シリコン太陽電池の電池特性が低下するおそれがある。そこで、CuOの含有量を2.5%以下にすれば、このような事態を防止することができる。しかし、CuOの含有量を少なくすると、焼成時にガラスが失透しやすくなる。そこで、CuOの含有量を低減する場合は、ZnOの含有量を増加させて、熱的安定性の低下を抑制することが有効である。例えば、CuOの含有量が0.1%未満の場合、ZnOの含有量は10%超が好ましい。
【0018】
第五に、本発明の電極形成材料は、上記の電極形成用ガラス組成物からなるガラス粉末と、金属粉末と、ビークルとを含むことを特徴とする。このようにすれば、印刷法により、電極パターンを形成することができ、シリコン太陽電池の生産効率を高めることができる。ここで、「ビークル」は、一般的に、有機溶媒中に樹脂を溶解させたものを指すが、本発明では、樹脂を含有せず、高粘性の有機溶媒(例えば、イソトリデシルアルコール等の高級アルコール)のみで構成される態様を含む。
【0019】
第六に、本発明の電極形成材料は、ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm未満であることを特徴とする。このようにすれば、ガラス粉末と反射防止膜の反応性が高まり、ファイアスルー性が向上するとともに、ガラス粉末の軟化点が低下し、低温で電極形成材料を焼結することができる。さらに、このようにすれば、電極パターンを高精細化することができる。なお、電極パターンを高精細化すれば、太陽光の入射量等が増加し、シリコン太陽電池の光電変換効率が向上する。ここで、「平均粒子径D50」は、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
【0020】
第七に、本発明の電極形成材料は、ガラス粉末の軟化点が500℃以下であることを特徴とする。このようにすれば、電極形成材料の焼結性が向上する。ここで、「軟化点」とは、マクロ型示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指し、DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。なお、マクロ型DTA装置で測定した軟化点は、図1に示す第四屈曲点の温度(Ts)を指す。
【0021】
第八に、本発明の電極形成材料は、ガラス粉末の結晶化温度が500℃以上であることを特徴とする。このようにすれば、ガラス粉末の熱的安定性が向上し、焼成時にガラスが失透し難くなり、結果として、電極形成材料の焼結性が低下し難くなるとともに、ガラス粉末と反射防止膜の反応性が低下し難くなる。ここで、「結晶化温度」は、マクロ型DTA装置で測定したピーク温度を指し、DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。
【0022】
第九に、本発明の電極形成材料は、ガラス粉末の含有量が0.2〜10質量%であることを特徴とする。このようにすれば、電極形成材料の焼結性を維持した上で、電極の導電性を高めることができる。
【0023】
第十に、本発明の電極形成材料は、金属粉末がAg、Al、Au、Cu、Pd、Ptおよびこれらの合金の一種または二種以上を含むことを特徴とする。これらの金属粉末は、本発明に係るガラスと適合性が良好であり、焼成時にガラスの発泡を助長し難い性質を有している。
【0024】
第十一に、本発明の電極形成材料は、シリコン太陽電池の電極に用いることを特徴とする。
【0025】
第十二に、本発明の電極形成材料は、反射防止膜を有するシリコン太陽電池の受光面電極に用いることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】マクロ型DTA装置で測定した時のガラス粉末の軟化点を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の電極形成用ガラス組成物において、各成分の含有範囲を上記のように規定した理由を以下に説明する。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を指す。
【0028】
Biは、耐水性やファイアスルー性を高める成分であるとともに、軟化点を低下させる成分であり、その含有量は73.1〜90%、好ましくは74.3〜86%、より好ましくは75〜86%、更に好ましくは76〜82%である。Biの含有量が多過ぎると、焼成時にガラスが失透しやすくなり、この失透に起因して、ガラス粉末と反射防止膜の反応性および電極形成材料の焼結性が低下しやすくなる。一方、Biの含有量が少な過ぎると、耐水性やファイアスルー性が低下することに加えて、軟化点が高くなり過ぎて、低温で電極形成材料を焼結し難くなる。
【0029】
は、ガラス形成成分として必須の成分であり、その含有量は2〜14.5%、好ましくは4〜12%、更に好ましくは6〜10.5%である。Bの含有量が少な過ぎると、ガラスネットワークが形成され難くなるため、焼成時にガラスが失透しやすくなり、この失透に起因して、ガラス粉末と反射防止膜の反応性および電極形成材料の焼結性が低下しやすくなる。一方、Bの含有量が多過ぎると、ガラスの粘性が高くなる傾向があり、低温で電極形成材料を焼結し難くなることに加えて、耐水性が低下しやすくなり、シリコン太陽電池の長期信頼性が低下しやすくなる。
【0030】
ZnOは、熱的安定性を向上させる成分であるとともに、熱膨張係数を低下させずに、軟化点を低下させる成分であり、その含有量は0〜25%、好ましくは1〜16%、より好ましくは5〜12%である。ZnOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれ、逆にガラスに結晶が析出しやすくなる。なお、ガラスの熱的安定性を確実に向上させる観点に立てば、ZnOの含有量は3%以上が好ましい。また、CuOの含有量が0.1%未満の場合、ZnOの含有量は10%超が好ましい。
【0031】
MgO+CaO+SrO+BaOは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0.2〜20%、1〜15%、特に3〜10%が好ましい。これらの成分の合量が20%より多いと、軟化点が高くなり過ぎて、低温で電極形成材料を焼結し難くなる。また、MgOの含有量は0〜5%、特に0〜2%が好ましい。CaOの含有量は0〜5%、特に0〜2%が好ましい。SrOの含有量は0〜6%、特に0〜3%が好ましい。
【0032】
BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中で熱的安定性を高める効果が最も大きく、更には軟化点を上昇させ難い効果を有するため、ガラス組成中に積極的に含有させることが好ましい。BaOの含有量は0〜15%、0.2〜10%、1〜9%、特に4〜9%が好ましい。BaOの含有量が15%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下しやすくなる。
【0033】
SiO+Alは、耐水性を高める成分であるが、ファイアスルー性を低下させる成分であることに加えて、軟化点を顕著に上昇させる作用を有するため、その含有量は8.5%以下、好ましくは5%以下、3%以下、特に1%未満である。また、SiO+Alの含有量が8.5%より多いと、ファイアスルー性が低下することに加えて、軟化点が高くなり過ぎて、低温で電極形成材料を焼結し難くなる。なお、SiOの含有量は4%以下、3%以下、2%以下、特に1%未満が好ましい。また、Alの含有量は5%以下、3%以下、2%以下、特に1%未満が好ましい。
【0034】
本発明の電極形成用ガラス組成物は、上記成分以外にも下記の成分を20%まで含有することができる。
【0035】
CuO+Fe(CuO、Feの合量)は、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、0.1〜10%、特に1〜10%が好ましい。CuO+Feの含有量が15%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に結晶の析出速度が速くなり、すなわち熱的安定性が低下する傾向がある。ファイアスルー性を高めるためには、ガラス組成中にBiを多量に添加する必要があるが、Biの含有量を増加させると、焼成時にガラスが失透しやすくなり、この失透に起因してガラス粉末と反射防止膜の反応性が低下しやすくなる。特に、Biの含有量が75%以上になると、その傾向が顕著になる。そこで、ガラス組成中にCuO+Feを適量添加すれば、Biの含有量が75%以上であっても、ガラスの失透を抑制することができる。なお、上記の通り、CuOの含有量は、Cuおよびその合金の析出を防止する観点で見れば、少ない方が好ましく、具体的には4%以下、2.5%以下、2%以下、理想的には0.1%未満が好ましい。また、Feの含有量は0〜10%、0.05〜5%、特に0.2〜3%が好ましい。
【0036】
LiO、NaO、KOおよびCsOは、軟化点を低下させる成分であるが、溶融時にガラスの失透を促進する作用を有するため、これらの成分の含有量は、それぞれ2%以下が好ましい。
【0037】
Sbは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜7%、特に0.1〜3%が好ましい。Sbの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下しやすくなる。なお、Sbは、環境的観点から、その使用が制限される場合があり、そのような場合には、Sbを実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス組成中のSbの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0038】
Ndは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜10%、0〜5%、特に0.1〜3%が好ましい。ガラス組成中にNdを所定量添加すれば、Bi−Bのガラスネットワークが安定化し、焼成時にBi(ビスマイト)、BiとBで形成される2Bi・Bまたは12Bi・B等の結晶が析出し難くなる。ただし、Ndの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスに結晶が析出しやすくなる。
【0039】
WOは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜5%、特に0〜2%が好ましい。WOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下しやすくなる。
【0040】
In+Ga(In、Gaの合量)は、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜5%、0〜3%、特に0〜1%が好ましい。In+Gaの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下しやすくなる。なお、In、Gaの含有量はそれぞれ0〜2%が好ましい。
【0041】
は、溶融時にガラスの失透を抑制する成分であるが、その含有量が多いと、溶融時にガラスが分相しやくなる。よって、Pの含有量は1%以下が好ましい。
【0042】
MoO+La+Y+CeO(MoO、La、Y、CeOの合量)は、溶融時に分相を抑制する効果があるが、これらの成分の含有量が多いと、軟化点が高くなり過ぎて、低温で電極形成材料を焼結し難くなる。よって、MoO+La+Y+CeOの含有量は3%以下が好ましい。なお、MoO、La、Y、CeOの含有量はそれぞれ0〜2%が好ましい。
【0043】
本発明のビスマス系ガラス組成物は、PbOの含有を排除するものではないが、環境的観点から実質的にPbOを含有しないことが好ましい。また、PbOは、耐水性が十分ではないため、シリコン太陽電池に用いる場合には、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0044】
本発明の電極形成材料は、上記の電極形成用ガラス組成物からなるガラス粉末と、金属粉末と、ビークルとを含む。ガラス粉末は、焼成時に、反射防止膜を侵食することにより、電極形成材料をファイアスルーさせる成分であるとともに、電極と半導体基板を接着させる成分である。金属粉末は、電極を形成する主要成分であり、導電性を確保するための成分である。ビークルは、ペースト化するための成分であり、印刷に適した粘度を付与するための成分である。
【0045】
本発明の電極形成材料において、ガラス粉末の平均粒子径D50は5μm未満、4μm以下、3μm以下、2μm以下、特に1.5μm以下が好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm以上であると、ガラス粉末の表面積が小さくなることに起因して、ガラス粉末と反射防止膜の反応性が低下し、ファイアスルー性が低下しやすくなる。また、ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm以上であると、ガラス粉末の軟化点が上昇し、電極の形成に必要な温度域が上昇する。さらに、ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm以上であると、微細な電極パターンを形成し難くなり、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、ガラス粉末の平均粒子径D50が小さ過ぎると、ガラス粉末のハンドリング性が低下し、ガラス粉末の材料収率が低下することに加えて、ガラス粉末が凝集しやすくなり、シリコン太陽電池の特性が変動しやすくなる。このような状況を考慮すれば、ガラス粉末の平均粒子径D50は0.1μm以上、0.3μm以上、特に0.5μm以上が好ましい。なお、(1)ガラスフィルムをボールミルで粉砕した後、得られたガラス粉末を空気分級、或いは(2)ガラスフィルムをボールミル等で粗粉砕した後、ビーズミル等で湿式粉砕すれば、上記平均粒子径D50を有するガラス粉末を得ることができる。
【0046】
本発明の電極形成材料において、ガラス粉末の最大粒子径Dmaxは25μm以下、20μm以下、15μm以下、特に10μm以下が好ましい。ガラス粉末の最大粒子径Dmaxが25μmより大きいと、微細な電極パターンを形成し難くなり、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。ここで、「最大粒子径Dmax」は、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【0047】
本発明の電極形成材料において、ガラス粉末の軟化点は500℃以下、480℃以下、特に400〜460℃が好ましい。ガラス粉末の軟化点が500℃より高いと、電極の形成に必要な温度域が上昇する。なお、ガラス粉末の軟化点が400℃より低いと、ガラス粉末と反射防止膜の反応が進行し過ぎて、ガラス粉末が半導体基板も侵食し、太陽電池の電池特性が低下するおそれがある。
【0048】
本発明の電極形成材料において、ガラス粉末の結晶化温度は500℃以上、550℃以上、600℃以上、620℃以上、特に650℃以上が好ましい。ガラス粉末の結晶化温度が500℃より低いと、ガラス粉末の熱的安定性が低下し、焼成時に、ガラス粉末が反射防止膜と反応する前にガラスが失透しやすくなり、この失透に起因して、ガラス粉末と反射防止膜の反応性および電極形成材料の焼結性が低下しやすくなる。
【0049】
本発明の電極形成材料において、ガラス粉末の含有量は0.2〜10質量%、1〜6質量%、特に1.5〜4質量%が好ましい。ガラス粉末の含有量が0.2質量%より少ないと、電極形成材料の焼結性が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の含有量が10質量%より多いと、形成される電極の導電性が低下し、結果として、発生した電気を取り出し難くなる。また、ガラス粉末の含有量と金属粉末の含有量は、上記と同様の理由により、質量比で0.3:99.7〜13:87、1.5:98.5〜7.5:92.5、特に2:98〜5:95が好ましい。
【0050】
本発明の電極形成材料において、金属粉末の含有量は50〜97質量%、65〜95質量%、特に70〜92質量%が好ましい。金属粉末の含有量が50質量%より少ないと、形成される電極の導電性が低下し、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下しやすくなる。一方、金属粉末の含有量が97質量%より多いと、相対的にガラス粉末の含有量を低下せざるを得ず、電極形成材料の焼結性が低下しやすくなる。
【0051】
本発明の電極形成材料において、金属粉末はAg、Al、Au、Cu、Pd、Ptおよびこれらの合金の一種または二種以上が好ましく、AgまたはAlがより好ましい。これらの金属粉末は、導電性が良好であるとともに、本発明に係るガラス粉末と適合性が良好である。よって、これらの金属粉末を用いると、焼成時にガラスが失透し難くなることに加えて、ガラスが発泡し難くなる。また、微細な電極パターンを形成するために、金属粉末の平均粒子径D50は3.5μm以下、2μm以下、特に1μm以下が好ましい。
【0052】
本発明の電極形成材料において、ビークルの含有量は5〜40質量%、特に10〜25質量%が好ましい。ビークルの含有量が5質量%より少ないと、ペースト化が困難になり、印刷法で電極を形成し難くなる。一方、ビークルの含有量が40質量%より多いと、焼成前後で膜厚や膜幅が変動しやすくなり、結果として、所望の電極パターンを形成し難くなる。
【0053】
既述の通り、ビークルは、一般的に、有機溶媒中に樹脂を溶解させたものを指す。樹脂としては、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、ニトロセルロース、エチルセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。有機溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、水、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【0054】
本発明の電極形成材料は、上記成分以外にも、熱膨張係数を調整するためにコーディエライト等のセラミックフィラー粉末、電極の抵抗を調整するためにNiO等の酸化物粉末、ペースト特性を調整するために界面活性剤や増粘剤、外観品位を調整するために顔料等を含有してもよい。
【0055】
本発明の電極形成材料は、窒化ケイ素膜、酸化シリコン膜、酸化チタン膜、酸化アルミニウム膜との反応性、特に窒化ケイ素膜との反応性が適正であり、ファイアスルー性に優れている。その結果、焼成時に反射防止膜を貫通することができ、シリコン太陽電池の受光面電極を効率良く形成することができる。
【0056】
本発明の電極形成材料は、シリコン太陽電池の裏面電極の形成にも好適である。裏面電極を形成するための電極形成材料は、通常、Al粉末と、ガラス粉末と、ビークル等とを含有している。そして裏面電極は、通常、上記の印刷法で形成される。本発明の電極形成材料は、Al粉末が半導体基板のSiと反応し、裏面電極と半導体基板の界面にAl−Si合金層が形成される反応を促進させ、更にはAl−Si合金層と半導体基板の界面においてp+電解層(Back Surfase Field層、BSF層とも称される)の形成も促進させることができる。p+電解層を形成すれば、電子の再結合を防止し、生成キャリアの収集効率を高める効果、所謂BSF効果を享受することができる。結果として、p+電解層を形成すれば、シリコン太陽電池の光電変換効率を高めることができる。また、本発明の電極形成材料を用いると、以下の不具合を的確に防止することができる。すなわち、本発明の電極形成材料を用いると、Al粉末とSiの反応が不均一になり、局所的にAl−Si合金の生成量が増大し、このことに起因して、裏面電極の表面にブリスターやAlの凝集が生じ、シリコン太陽電池の光電変換効率が低下する不具合を防止することができ、更にはシリコン太陽電池の製造工程でシリコン半導体基板に割れ等が発生し、シリコン太陽電池の製造効率が低下する不具合も防止することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0058】
表1〜4は、本発明の実施例(試料No.1〜21)および比較例(試料No.22〜24)を示している。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
次のようにして、各試料を調製した。まず、表中に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等のガラス原料を調合し、ガラスバッチを準備した後、このガラスバッチを白金坩堝に入れ、900〜1100℃で1〜2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部を押棒式熱膨張係数測定(TMA)用サンプルとしてステンレス製の金型に流し出した。その他の溶融ガラスを水冷ローラーでフィルム状に成形し、得られたガラスフィルムをボールミルで粉砕した後、目開き200メッシュの篩を通過させた上で、空気分級し、平均粒子径D50が2μmのガラス粉末を得た。
【0064】
得られたガラスにつき、ガラス転移点、軟化点および結晶化温度を測定した。
【0065】
ガラス転移点は、TMA装置で測定した値である。
【0066】
軟化点および結晶化温度は、マクロ型DTA装置で測定した値である。なお、測定温度域は室温〜700℃とし、昇温速度は10℃/分とした。
【0067】
得られたガラス粉末4質量%と、表中に示す金属粉末(平均粒子径D50=0.5μm)76質量%と、ビークル(α−ターピネオールにアクリル酸エステルを溶解させたもの)20質量%とを三本ローラーで混練し、ペースト状の電極形成材料を得た。この電極形成材料につき、ファイアスルー性および耐水性を評価した。
【0068】
次のようにして、ファイアスルー性を評価した。Si基板に形成されたSiN膜(膜厚200nm)上に、長さ200mm、100μm幅になるように各試料を線状にスクリーン印刷し、乾燥した後、電気炉で700℃1分間焼成した。次に、得られた焼成基板を塩酸水溶液(10重量%濃度)に浸漬し、12時間超音波にかけ、各試料をエッチングした。エッチング後の焼成基板を光学顕微鏡(100倍)で観察し、ファイアスルー性を評価した。SiN膜を貫通し、Si基板上に線状の電極パターンが形成されていたものを「○」、Si基板上に線状の電極パターンが概ね形成されていたが、SiN膜を貫通していない箇所が存在し、Si基板との電気的接続が一部途切れていたものを「△」、SiN膜を貫通していなかったものを「×」として評価した。
【0069】
次のようにして、耐水性を評価した。Si基板に形成されたSiN膜(膜厚200nm)上に、長さ200mm、100μm幅になるように各試料を線状にスクリーン印刷し、乾燥した後、電気炉で700℃1分間焼成した。次に、90℃湿度95%の恒温恒湿槽に、焼成基板を2000時間投入した。その後、電極の電気伝導度を測定し、電気伝導度が初期値より60%以上低下しているものを「×」、それ以外を「○」として評価した。
【0070】
表1〜4から明らかなように、試料No.1〜21は、ファイアスルー性および耐水性の評価が良好であり、シリコン太陽電池に好適に使用可能であると考えられる。一方、試料No.22は、ガラス組成が所定範囲外であり、ファイアスルー性および耐水性の評価も不良であった。試料No.23は、ガラス組成が所定範囲外であり、ファイアスルー性の評価が不良であった。試料No.24は、従来の鉛ガラスであり、耐水性が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の電極形成用ガラス組成物および電極形成材料は、上記の通り、シリコン太陽電池の電極、特に反射防止膜を有するシリコン太陽電池の受光面電極に好適に使用可能である。さらに、本発明の電極形成用ガラス組成物および電極形成材料は、セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品、フォトダイオード等の光学部品に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 73.1〜90%、B 2〜14.5%、ZnO 0〜25%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.2〜20%、SiO+Al 0〜8.5%含有することを特徴とする電極形成用ガラス組成物。
【請求項2】
Biの含有量が74.3%以上であることを特徴とする請求項1に記載の電極形成用ガラス組成物。
【請求項3】
BaOの含有量が0.2〜15%であることを特徴とする請求項1または2に記載の電極形成用ガラス組成物。
【請求項4】
CuOの含有量が2.5%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電極形成用ガラス組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電極形成用ガラス組成物からなるガラス粉末と、金属粉末と、ビークルとを含むことを特徴とする電極形成材料。
【請求項6】
ガラス粉末の平均粒子径D50が5μm未満であることを特徴とする請求項5に記載の電極形成材料。
【請求項7】
ガラス粉末の軟化点が500℃以下であることを特徴とする請求項5または6に記載の電極形成材料。
【請求項8】
ガラス粉末の結晶化温度が500℃以上であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の電極形成材料。
【請求項9】
ガラス粉末の含有量が0.2〜10質量%であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の電極形成材料。
【請求項10】
金属粉末がAg、Al、Au、Cu、Pd、Ptおよびこれらの合金の一種または二種以上を含むことを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の電極形成材料。
【請求項11】
シリコン太陽電池の電極に用いることを特徴とする請求項5〜10のいずれかに記載の電極形成材料。
【請求項12】
反射防止膜を有するシリコン太陽電池の受光面電極に用いることを特徴とする請求項5〜11のいずれかに記載の電極形成材料。

【図1】
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【公開番号】特開2010−83748(P2010−83748A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168331(P2009−168331)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】