説明

電極材料としての部分フッ素化フッ化グラファイト

xが0.06から0.63、例えば0.10から0.46の範囲にある式CFの部分フッ素化フッ化グラファイトが、化学エネルギーを電流に変換する例えば電池である電気化学デバイスの電極材料として使用される。本発明はさらに、部分フッ素化フッ化グラファイトを用いて電極を製造する方法、並びにそのような電極を含む一次電池及び二次電池を提供する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
[0001]本願は、米国特許法(35 U.S.C.)第119条(e)の(1)に基づき、2005年10月5日出願の「リチウム電池内の(CF(0.33<x<0.66)の物理特性及びレート性能(Physical Characteristics and Rate Performance of(CF(0.33<x<0.66)in Lithium Batteries)」という名称の米国仮特許出願第 号の優先権を主張する。同出願の開示の全体を参照により本明細書に組み込む。
【技術分野】
【0002】
[0002]本発明は、一般には電極材料に関し、より詳細には、電流を発生するための、例えばリチウム電池である電気化学デバイス内に電極材料としてフッ素化炭素、特に部分フッ素化フッ化グラファイトを使用することに関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]Ruffらの(1934)Z.Anorg.Allg.Chem.217:1、及びRudorffらの(1947)Z.Anorg.Allg.Chem.253:281の先駆的研究以来、グラファイトは、フッ素元素と高温で反応して一般式(CFのフッ化グラファイト化合物を生じることで知られている。フッ素化反応についての体系的研究は後に、得られるF/C比がフッ素化温度と、フッ素化ガス中のフッ素の分圧と、グラファイト化の程度、粒子径及び比表面積を含むグラファイト前駆体の物理特性とに大きく依存することを示した。Kuriakosらの(1965)J.Phys.Chem.69:2272、Nanseらの(1997)Carbon 35:175、Moritaらの(1980)J.Power Sources 5:111、Fujimotoの(1997)Carbon 35:1061、Touharaらの(1987)2.Anorg.All.Chem 544:7、Watanabeらの(1974)Nippon Kagaku Kaishi 1033、及びKitaらの(1979)J.Am.Chem.Soc.101:3832.を参照のこと。
【0004】
[0004]高度にフッ素化したフッ化グラファイト、すなわちx>>0.5である(CFの結晶構造がいくつかのグループによって調査されてきた(NakajimaらのGraphites,Fluorides and Carbon−Fluorine Compounds、CRC Press、Boca Raton、FL、p.84、Charlierらの(1994)Mol.Cryst.Liq.Cryst.244:135、Charlierらの(1993)、Phys.Rev.B 47:162、Mitkinらの(2002)J.Struct.Chem.43:843、Zajacらの(2000)J.Sol.State Chem.150:286、Guptaらの(2001)J.Fluorine Chem.、110−245、Ebertらの(1974)J.Am.Chem.Soc.96:7841、Pelikanらの(2003)J.Solid State Chem.174:233、及びBulushevaらの(2002)Phys.Low−Dim,Struct.718:1)。Watanabeのグループは2つの相、すなわち第1段階(CF、及び第2段階(CF0.5を最初に提案し、後者はまた一般に(CF)とも表される(Touharaら、前掲)。第1段階の材料中では、フッ素が各炭素層の間にインターカレートされて積層CFCF層を生じるのに対し、第2段階の材料中では、CCFCCFの積層順序によってフッ素が1つおきの層を占める。(CF相と(CF0.5相の両方に六方対称が保存されているのが見出された。理論的な結晶構造計算もまた実施され、様々な層の積層順序が、それらの総エネルギーを用いて比較された。(Charlierらの(1994)前掲、Charlierらの(1993)Phys.Rev.B 47:162、ならびにZajacら、Pelikanら、及びBulushevaら、すべて前掲)。
【0005】
[0005](CF化合物は一般に不定比であり、xが〜0と〜1.3.の間で変動する。x<0.04では、フッ素は主として炭素粒子の表面に存在する(Nakajimaらの(1999)Electrochemica Acta 44:2879)。0.5≦x≦51では、材料が2つの相、すなわち(CF0.5と(CFの混合物から成ることが示唆されている。1≦x≦〜1.3である「超化学量論的な化合物」は(CFからなり、追加の過フッ化−CF表面基を有する(Mitkinらの前掲)。驚くべきことに、これらは文献で報告されているが(Kuriakosらの前掲、Nakajimaらの(1999)Electrochemica Acta 44:2879、及びWoodらの(1973)Abs.Am.Chem.Soc.121)、x<0.5である共有結合型(CF材料は、それらの結晶構造の特徴付けに鑑みて調査されていない。フッ素が多い材料に注目が集まる1つの考えられる理由は、潤滑剤として、及びリチウム一次電池のカソード材料としてのそれらの応用可能性によるものである。実際、後者の応用例に関しては、特定のレート及び電圧での電池の放電時間によって決まる電池のエネルギー密度が、xの増加関数になることが判明している。
【0006】
[0006]Wittinghamの(1975)Electrochem.Soc.122:526によって最初に仮定された電池全体の放電反応は、式(1)によって体系化することができる。
【0007】
【数1】

【0008】
[0007]したがって、mAhg−1の単位で表される理論比放電容量Qthは、式(2)によって与えられる。
【0009】
【数2】


ここでFはファラデー定数であり、3.6は単位変換定数である。
【0010】
[0008]したがって、化学量論比が異なる(CF材料の理論容量は以下のようになる。すなわち、x=0.25ではQth=400mAhg−1、x=0.33ではQth=484mAhg−1、x=0.50ではQth=623mAhg−1、x=0.66ではQth=721mAhg−1、x=1.00ではQth=865mAhg−1である。低フッ素含有(CF0.25材料でさえもMnOより高い、すなわちMnOの308mAhg−1に対して400mAhg−1の理論比容量が得られるということは興味深いことである。(CF0.25の高容量、長い貯蔵寿命(15年程度)、及び十分な熱安定性にもかかわらず、MnOは、一つには低コストの故に、また一つには高いレート性能の故に、リチウム一次電池に最も広く使用されている固体カソードである。
【0011】
[0009]Li/(CF)電池の低いレート性能は、おそらく(CF)材料の不十分な導電性による。実際、高温(一般に350℃≦T≦650℃)においてのグラファイトのフッ素化では、炭素原子の立体化学配置の著しい変化を誘発する。母体グラファイト中の平面sp混成が、(CF中では3次元sp混成に変化する。後者では、炭素の六角形は、主にいす形配座の形で「ひだがつけられる」(Rudorffら、Touharaら、Watanabeら、Kitaら、Charlierら、Charlierら、Zajacら、Ebertら、Bulushevaら、及びLagowら、すべて前掲引用)。C−F結合中の電子局在化により電気伝導率が、グラファイトの約1.7×10S・cm−1から(CF)の約10−14S・cm−1へと非常に大きく低下することになる(Touharaら、前掲)。
【0012】
[00010]したがって、フッ素化炭素材料の高い熱安定性及び高い放電容量を保持しながら、その低い導電性を補償する電極材料が当技術分野で必要とされている。理想的にはこのような電極は、例えばリチウム電池の製造者が、特に高いレートで放電させる場合の電池性能を向上させることを可能にするはずである。
【発明の開示】
【0013】
[00011]本発明は、当技術分野における前述の必要性を対象とし、「部分フッ素化」炭素材料、例えばxが0.06から0.63の範囲にあるフッ化グラファイトCFを用いて製作された電極が、高いレートでの放電時の電池性能を向上させるという発見を前提とする。
【0014】
[00012]次に、本発明の一態様では、アノード、カソード、及びそれらの間のイオン輸送材料を含む電気化学デバイスが提供され、カソードは、xが0.06から0.63の範囲にある式CFの部分フッ素化フッ化グラファイトを含む。アノードは、元素周期表の1族、2族、又は3族の金属元素、例えばリチウムに該当するイオンの供給源を含む。
【0015】
[00013]本発明の別の態様では、上述の電気化学デバイスはリチウム一次電池であり、そのアノードはリチウムイオンの供給源を含み、そのカソードは、平均粒子径が約4μmから約7.5μmの範囲の部分フッ素化フッ化グラファイトを含み、そのイオン輸送材料は、非水性電解質を十分に含浸させたセパレータであり、アノードとカソードとを物理的に分離し、それらの間の直接の電気的接触を防止する。
【0016】
[00014]本発明の別の態様では、化学エネルギーを電極電流に変換する電気化学デバイスに使用するための電極が提供され、この電極は、平均粒子径が約4μmから約7.5μmの範囲の部分フッ素化フッ化グラファイトを含む。一般には、この部分フッ素化フッ化グラファイトは、導電性希釈剤及び結着剤を付加的に含む組成物中に存在する。
【0017】
[00015]本発明のさらに別の態様では、電気化学デバイス内に使用するための電極を調製する方法が提供され、この方法は以下の、
[00016]平均粒子径が1μmから約10μmの範囲のグラファイト粉末を、フッ素元素のガス源と約375℃から約400℃の範囲の温度で約5時間から約80時間にわたって接触させて、xが0.06から0.63の範囲にある式CFの部分フッ素化フッ化グラファイトを生成するステップと、
[00017]部分フッ素化フッ化グラファイトを導電性希釈剤及び結着剤と混合してスラリーを形成するステップと、
[00018]スラリーを導電性基材に塗布するステップと、を含む。
【0018】
[00019]本発明のさらに別の態様では、充電可能な電池が提供され、これは、
【0019】
[00020]xが0.06から0.63の範囲にある式CFの部分フッ素化フッ化グラファイトを含み、元素周期表の1族、2族、及び3族から選択された金属のカチオンを受け取り放出することができる第1電極と、
[00021]金属カチオンの供給源を含む第2電極と、
[00022]金属カチオンの輸送を可能にし、第1電極と第2電極を物理的に分離する固体ポリマー電解質とを含む。
【発明の詳細な説明】
【0020】
[00030]一実施形態では、本発明は、化学エネルギーを電気化学的な電流に変換する電気化学デバイスを提供し、そのようなデバイスはリチウム電池が好例となる。このデバイスは、部分フッ素化フッ化グラファイトを含むカソードすなわち正極と、元素周期表の1族、2族、又は3族の金属に該当するイオンの供給源を含むアノードすなわち負極と、この2つの電極を物理的に分離し、それらの間の直接的な電気的接触を防止するイオン輸送材料とを有する。
【0021】
[00031]部分フッ素化フッ化グラファイトは、全体式がCFの炭素−フッ素層間化合物であり、xが0.06から0.63の範囲、好ましくは0.06から0.52の範囲、より好ましくは0.10から0.52の範囲、さらに好ましくは0.10から0.46の範囲、最適には0.33から0.46の範囲にある。本発明に関して使用される部分フッ素化フッ化グラファイトは、一般には例えば粉末の粒子状材料であり、平均粒子径が通常では1μmから約10μm、好ましくは約4μmから約7.5μm、最適には約4μmである。
【0022】
[00032]本発明の電気化学デバイスでは、部分フッ素化フッ化グラファイトは通常には組成物中に存在し、この組成物はまた、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、粉末グラファイト、コークス、炭素繊維、並びに、粉末のニッケル、アルミニウム、チタン、及びステンレス鋼などの金属粉末から選択できるような導電性希釈剤を含む。導電性希釈剤は、組成物の導電性を改善し、通常では組成物の約1重量%から約10重量%、好ましくは組成物の約1重量%から約5重量%に相当する量が存在する。部分フッ素化フッ化グラファイト及び導電性希釈剤を含む組成物はまた、通常ではポリマー結着剤も含み、好ましいポリマー結着剤は少なくとも部分的にフッ素化されている。すなわち例示的な結着剤は、それだけには限らないが、酸化ポリエチレン(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びポリエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(PETFE)を含む。結着剤は、存在する場合には組成物の約1重量%から約5重量%に相当し、部分フッ素化フッ化グラファイトは、組成物の約85重量%から約98重量%、好ましくは組成物の約90重量%から98重量%に相当する。
【0023】
[00033]部分フッ素化フッ化グラファイトは、グラファイト材料又はグラファイト化可能な材料のフッ素化によって調製され(Yazamiらの米国特許第6358649号参照)、平均粒子径が1μmから約10μmの範囲の粉末グラファイトが好ましい。約4μmから約7.5μmの粒子径がより好ましく、約4μmの粒子径が最適である。
【0024】
[00034]上述の導電性組成物を含む電極は、以下のように作製することができる。
【0025】
[00035]最初に、直接フッ素化方法を用いて部分フッ素化フッ化グラファイトを調製する。この方法では、好ましくは平均粒子径が1μmから約10μmの範囲のグラファイト粉末を、フッ素元素のガス源と約375℃から約400℃の範囲の温度で約5時間から約80時間、好ましくは約15時間から35時間にわたって接触させる。上記の部分フッ素化フッ化グラファイトが得られる。元素のフッ素の適切なガス源は当業者には周知であろうが、例示的なそのようなガス源は、モル比率が1:1よりいくぶん大きい、例えば1.1:1から1.5:1のHFとFの混合物である。
【0026】
[00036]得られた部分フッ素化フッ化グラファイトは次に、上記の導電性希釈剤及び結着剤と混合する。その好ましい重量比率は、部分フッ素化フッ化グラファイトが約85重量%から約98重量%、より好ましくは約90重量%から約98重量%であり、導電性希釈剤が約1重量%から約10重量%、好ましくは約1重量%から約5重量%であり、結着剤が約1重量%から約5重量%である。
【0027】
[00037]通常では、上述の構成要素を混合して形成されたスラリーを、次に、導電性基材上に堆積させ、又は他の方法で設けて電極を形成する。特に好ましい導電性基材はアルミニウムであるが、他のいくつかの導電性基材、例えばステンレス鋼、チタン、白金、金などもまた使用することができる。
【0028】
[00038]例えばリチウム一次電池では、上述の電極はカソードとして働き、アノードはリチウムイオンの供給源を提供し、イオン輸送材料は通常では、非水性電解質で飽和された微孔性又は不織の材料である。アノードは、例えばリチウム又はリチウムの金属合金(例えばLiAl)の箔又はフィルム、あるいは炭素−リチウムの箔又はフィルムを含むことができるが、リチウム金属箔が好ましい。イオン輸送材料は従来の「セパレータ」材料を含み、これは低い電気抵抗を有するとともに、高い強度、良好な化学的及び物理的安定性、並びに全体的に均一の特性を示す。本明細書で好ましいセパレータは、上記のように、微孔質及び不織の材料、例えば不織ポリエチレン及び/又は不織ポリプロピレンなどの不織ポリオレフィン、及び微孔質ポリエチレンなどの微孔質ポリオレフィンフィルムである。例示的な微孔質ポリエチレン材料は、Hoechst CelaneseからCelgard(登録商標)という名称(例えばCelgard(登録商標)2400、2500、及び2502)で得られるものである。電解質は、リチウムが水性媒体中で反応しやすいので、必然的に非水性である。適切な非水性電解質は、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸エチルメチル(EMC)、ジメチルエーテル(DME)、及びこれらの混合物などの非プロトン性有機溶媒に溶解したリチウム塩からなる。PCとDMEの混合物が一般的であり、通常では重量比が約1:3から約2:1である。この目的に対し適切なリチウム塩は、それだけには限らないが、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiClO、LiAlClなどを含む。使用の際、印加電圧がアノードでのリチウムイオンの発生と、電解質を浸漬したセパレータを通って部分フッ素化フッ化グラファイトカソードに至るイオンの移動とを引き起こし、それによって電池が「放電する」ことを理解されよう。
【0029】
[00039]別の実施形態では、部分フッ素化フッ化グラファイト組成物は、二次電池すなわち、充電可能なリチウム電池などの充電可能な電池に利用される。このような場合では、例えばリチウムイオンのようなカチオンは、物理的なセパレータの働きもする固体ポリマー電解質を通って部分フッ素化フッ化グラファイト電極まで輸送され、そこで部分フッ素化フッ化グラファイト材料によってインターカレートされ、脱インターカレートされる。固体ポリマー電解質の例には、化学的に不活性のポリエーテル、例えば酸化ポリエチレン(PEO)、酸化ポリプロピレン(PPO)、及び他のポリエーテルが含まれ、このポリマー材料には、塩、例えば先の段落で述べたリチウム塩などが含浸され、又は他の方法で結合される。
【0030】
[00040]本発明をその好ましい特定の実施形態に関して説明してきたが、上記の説明ならびに次の実施例は例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲内の他の態様、利点、及び改変は、本発明に関係する当業者には明らかであろう。
【0031】
[00041]以下の実施例では、使用された数値(例えば量、温度など)に関して精度を確保するよう努力がなされたが、いくらかの実験の誤差及び偏差が考慮されるべきである。特に示してあるものを除いて、温度は℃、圧力は大気圧又はほぼ大気圧である。すべての溶剤はHPLCグレードとして購入し、すべての試薬は、特に示してあるものを除いて市販品を入手した。
【0032】
実施例1
(CF材料の合成
[00042](CFの4つの試料(A、B、C、D)は、Centre National de la Recherche Scientifique(CNRS、マダガスカル)、及びClermont−Ferrand University Lab(France)から入手した天然グラファイト粉末の直接フッ素化によって合成した。前駆体の平均粒子径は、試料A、B、及びDでは7.5μmであったのに対して、試料Cでは4μmの平均粒子径が用いられた。フッ素化温度は375℃から400℃であり、所望のF/C比を得るように調整した。石油コークス由来の電池グレード−モノフッ化炭素(E)をAdvance Research Chemicals Inc.(ARC、Tulsa、オクラホマ州、米国)から入手した。表1は、各試料に用いられた合成条件をまとめている。
【0033】
表1は、(CFの試料の合成条件である。
【表1】


NG=天然黒鉛
【0034】
実施例2
(CF材料の物理的特徴付け
方法:
[00043]走査型電子顕微鏡検査(SEM、JEOL社製計器)を実施して粒子の形態を観察し、電子分散型X線(EDX)分光によって粒子の組成を分析した。500倍から10000倍の範囲の様々な倍率で顕微鏡写真を撮影した。
【0035】
[00044]各試料の化学組成は、いくつかの方法を用いて決定した。試料A〜Dでは、フッ素化反応中の重量増加(uptake)を用いてF/C比を決定した。EDX分光により、すべての試料について炭素及びフッ素の半定量分析を行った。これらの測定値は、リチウムドリフトシリコン結晶検出器付きSEM JEOL社製計器によって、10mmの作動距離で取得し、INCAソフトウェアを使用して分析した。試料Eについては、追加の元素分析をARCにおいて炭酸塩融解法によって実施した。
【0036】
[00045]材料の熱安定性は、Perkin Elmer Pyris Diamond社製の計器で実施した熱重量分析(TGA)によって調査した。アルゴン雰囲気下での材料の減量は、材料を5℃min−1のレートで加熱しながら25℃から900℃の間で記録した。
【0037】
[00046]X線回折法(XRD)測定は、CuKα放射線を用いたリガク(Rigaku)社製の計器によって実施した。シリコン粉末(約5重量%)をすべての試料に混合し、内部基準として使用した。得られたスペクトルは、Xpert Highscoreソフトウェア上でフィッティングされた。その結果得られたプロファイルをCefRefソフトウェアと組み合わせて用いて、Touharaらの(1987)Z.Anorg.All.Chem.544:7で提案されている六角形セル(P−6m2)の「a」及び「c」の結晶パラメータを決定した。
【0038】
結果:
[00047]走査型電子顕微鏡写真では、約2μmから10μmの範囲にある粒子径が示されたが、市販の(CFの観察された粒子径は10μmから35μmの範囲にある。粒子径の他に、2つの群の試料の形態が異なっているように見えた。部分フッ素化した(CFの試料は非常に薄いフレークから成っていたが、モノフッ化炭素の試料はより大きい。この相違はおそらく、試料A、B、C、及びDには天然グラファイト前駆体を使用し、試料Eにはより大きい石油コークス前駆体を使用したことに由来する。
【0039】
[00048]グラファイト材料のフッ素化中の重量増加をF/C比に変換したが、測定値は、試料の少なくとも5つの別々の部分にわたって平均した。表2は、それぞれの試料及び方法で得られた組成結果をまとめている。重量増加及びEDX測定によって決定した試料A、B、C、及びDの組成は、表に記載された結果で示されるように、相互に非常に密接に相関していた。炭酸塩融解法で決定した試料Eの組成は、EDX測定によって決定したものと同一であった。
【0040】
表2は、重量増加(A−D)、EDX(A−E)、及び炭酸塩融解法(E)によって決定した化学組成である。
【表2】

【0041】
[0049]表2にまとめた結果から、試料A、B、C、D、及びEはまた、以下でそれぞれCF0.33、CF0.46、CF0.52、CF0.63、及びCF1.08としても識別される。
【0042】
[00050]すべての試料のTGA線が図1に示されている。温度が400℃未満では、材料A〜Dは、観測された質量損失が1%未満であり、非常に安定であることが判明した。400℃と600℃の間では、材料A〜Dは質量が顕著に減少した。A、B、及びCについてはプロファイルが類似しているが、材料Dは525℃から580℃の温度範囲で急激な低下を示した。600℃以上では、質量の大幅な損失は約900℃まで観測されず、重量は1度当たり2%未満のレートで徐々に減少した。材料Eは、材料Dと同じサーモグラムプロファイルを有するが、いくぶん高い熱安定性を示し、分解を約450℃で開始し、約630℃で停止する。表3はTGA結果をまとめているが、CF0.52の高い初期減量が目立つ。理論に縛られるつもりはないが、これは、前駆体の粒子径がより小さい、したがって表面積がより大きいことによると推定される。表面吸着効果が大きいほど、大きい初期減量が低い温度で起きる。
【0043】
表3は、(CF粉末のTGA結果をまとめたものある。
【表3】

【0044】
[00051]図2のXRDパターンは、幅広いピークと鋭いピークの組合せを示しており、強度変化がフッ素化の程度の差を反映している。鋭いピークは非フッ素化前駆体(CF0.33、CF0.46、CF0.52、CF0.63のグラファイト、及びCF1.08のコークス)から生じ、試料CF0.33、CF0.46、CF0.52で最も明らかである。最も強いグラファイトのピーク(002)は26.5°で観測され、相対的な強度がxとともに減少する。フッ素化相に対応する幅広いピークは、試料CF0.33からCF0.63については約10°、25°、及び40°〜45°に見出され、試料CF1.08については約13°、26°、及び41°に見出される。表4は、フッ素化相について得られた「a」及び「c」のパラメータを示して、六方格子を想定する。
【0045】
表4は、XRD測定から得られた六方単位セルのa及びcのパラメータをまとめたものである。
【表4】

【0046】
[00052]C1sとF1sの結合エネルギースペクトルは、X線光電子分光法(XPS)を用いて収集し分析した。C1sピーク(図3)の解析により、x<1に対応するグラファイトのピーク以外の2つのピークが明らかとなり、285.5eVで見られるピーク(x=1に対応)に加え、3つのピークが明らかになった。これらのピークは、C−F結合、及びグラファイト層に面するCF又はCFからのsp−炭素に対応する。F1sピークの解析の結果、C1sピークに対応する2つのピークが得られた。図4は、フッ素化の程度とC1s結合エネルギーの間の線形関係を示す。
【0047】
実施例3
(CF材料の電気化学的性能
[00053](CF材料の電気化学的性能を試験するために、従来の2032コイン電池を組み立てた。そのカソードは、5gの(CFと、0.62gのカーボンブラックと、0.56gのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をベースとするバインダーとからなるスラリーをアルミニウム基材に塗り広げることによって調製した。アノードはリチウム金属円板であり、セパレータは、微孔性ポリプロピレンCelgard(登録商標)2500膜で構成した。カソード、アノード、及びセパレータの厚さはそれぞれ、15mm、16mm、17.5mmであった。使用した電解質は、炭酸プロピレン(PC)とジメチルエーテル(DME)の体積比3:7の混合物中の、1.2MのLiBFであった。十分な圧力をコイン電池内部に維持するために、ステンレス鋼スペーサ及び波形座金を使用した。コイン電池は、Arbin社製の計器上で、定電流を1.5Vのカットオフ電圧で与えることによって放電させた。放電レートは、室温で0.01Cから2.5Cの範囲であった。このCレート計算は、式(2)で決まるmAh/gの単位の理論容量Qthに基づいた。最低3つの電池を各試験条件について使用した。
【0048】
【数3】

【0049】
[00054]図5にLi/(CF電池の放電プロファイルが示されている。電池グレードのモノフッ化炭素が2.5V近辺で特徴的な平坦域を示したのに対して、試料CF0.33、CF0.46、CF0.52、CF0.63の放電プロファイルは、それらの電圧及び形状が大きく異なった。その放電は、約3Vという高い電圧で開始し、約2.8Vまで低下し、次に、約2.5Vまでゆっくりと低減してから1.5Vへと急激に低下した。試料CF0.63の放電曲線は、前の2つの群の間に入る。後者の試料では、初期電圧が約2.7Vにあることが分かり、その曲線の傾斜は、CF0.33、CF0.46、CF0.52よりも平坦であるが、CF1.08よりは急峻である。放電容量は、放電レートならびにF/C比に応じて異なった。電位のばらつきはおそらく、材料の導電性の差による。非フッ化グラファイト相が存在すると、フッ化グラファイトのフッ素化粒子の間の導電性が高くなることがあり、それによってカソードの過電位が低減する。その結果、F/Cが低いほど放電電圧平坦域が高くなる。
【0050】
[00055]各材料に関して、放電電流が増加することにより平均放電電圧の低減、及び容量低下が生じた。図6は、試料CF0.52の放電プロファイルに及ぼす放電レートの影響を示す。最も低い放電レート(C/100からC/5)では、電圧は約3.4Vの開回路電圧から3Vへ徐々に低下する。Li/(CF電池の速い放電で一般に観測される初期電圧低下は、1C以上のレートについてのみ観測された。1.5C、2C、及び2.5Cに対応する放電曲線は、電圧及び容量が非常に類似しており、放電の開始時に大幅な電圧低下を示す。同様の影響が他の材料でも観測された。高い放電レートでのこのような電位の低下は、高い放電電流での過電位の急峻な増加と関連している。部分フッ素化試料の材料の導電性は、電池グレードのモノフッ素化炭素よりも高くなるはずであり、その結果、高い放電レートでの電池の過電位が低くなる。
【0051】
[00056]異なる放電レートのもとでの(CF材料の性能を比較するために、図7にラゴーン(Ragone)プロットが提示されている。これは、達成されたエネルギー密度E(Whkg−1)対出力密度P(Wk・g−1)線を示す。E及びPは、式(3)及び(4)を用いて放電曲線から求められる。
【0052】
【数4】

【0053】
【数5】

【0054】
[00057]E及びPについての式で、q(i)及び<e>はそれぞれ、電流i(A)での放電容量(Ah)及び平均放電電圧(V)を表し、mは電極中の活性(CFの質量(kg)である。図を見やすくするためにラゴーンプロット中のPの目盛りはP1/2で与えられていることに注意されたい。予想どおりに、低い放電レート(<C/10)では、モノフッ素化炭素が非常に高いエネルギー密度(2000Whkg−1超)を示したのに対して、部分フッ素化グラファイトはエネルギー密度が著しく低い。1000Wkg−1未満では、エネルギー密度は材料のF/C比にほぼ比例した。この点を超えると、モノフッ素化炭素の動作電圧及び放電容量が激減して、エネルギー密度が大幅に減少することになる。同様に、材料A〜Dの容量もまた減少するが、動作電圧は依然として試料Eよりも大きく、エネルギー密度は、2.5Cを超えて500Whkg−1よりも大きい。
【0055】
[00058]したがって、この結果は、部分的にフッ素化したフッ化グラファイトが、リチウム電池などの電気化学デバイス内の電極としては従来のフッ素化石油コークスよりも性能が勝りうることを示す。低いフッ素化の割合では、材料の比放電容量がいくぶん減少したが、その減少は、高い放電レートでの非常に大幅な電池性能の向上によって目立たなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、実施例2で評価された、5℃/分のレートを用いたフッ化グラファイトの熱重量分析(TGA)曲線を示す。
【図2】図2は、実施例2で定められたフッ化グラファイトの、X線回折法測定値を示す。
【図3】図3は、実施例1で説明したように調製され、実施例2で特徴付けされたフッ化グラファイトのX線光電子分光法(XPS)解析の結果を示し、一次スペクトル内のC1sピークは逆重畳積分されている。
【図4】図4は、実施例1で説明したように調製され、実施例2で特徴付けされたフッ化グラファイトについて、フッ素化の程度とC1s結合エネルギーの間の線形関係を示す。
【図5】図5は、実施例3で説明したように調製され、評価されたLi/フッ化グラファイト電池の放電プロファイルである。
【図6】図6は、実施例3で説明した試料CF0.52の放電プロファイルに及ぼす放電レートの影響を示す。
【図7】図7は、実施例3で説明したように調製されたすべてのフッ化グラファイト電池の性能を示すラゴーンプロット図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、カソード、及びそれらの間のイオン輸送材料を含む電気化学デバイスであって、前記カソードが、式CFの部分フッ素化フッ化グラファイトを含み、xが0.06から0.63の範囲にあるデバイス。
【請求項2】
xが0.06から0.52の範囲にある、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
xが0.10から0.52の範囲にある、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
xが0.10から0.46の範囲にある、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
xが0.33から0.46の範囲にある、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記部分フッ素化フッ化グラファイトが粒子状材料を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記部分フッ素化フッ化グラファイトの平均粒子径が約1μmから約10μmである、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記部分フッ素化フッ化グラファイトの平均粒子径が約4μmから約7.5μmである、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記部分フッ素化フッ化グラファイトの平均粒子径が約4μmである、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記部分フッ素化フッ化グラファイトが、導電性希釈剤及び結着剤をさらに含む組成物中にある、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記導電性希釈剤が、アセチレンブラック、カーボンブラック、粉末グラファイト、コークス、炭素繊維、金属粉末、及びそれらの組合せから選択される、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記導電性希釈剤がアセチレンブラックである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記結着剤がポリマーである、請求項10に記載のデバイス。
【請求項14】
前記結着剤がフッ素化炭化水素ポリマーである、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記アノードが、周期表の1族、2族、及び3族の元素から選択された金属のイオンの供給源を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項16】
前記イオンがリチウムイオンである、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記リチウムイオンの供給源が、リチウム金属、リチウム合金、及び炭素−リチウム材料から選択される、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記リチウムイオンの供給源がリチウム金属である、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記イオン輸送材料が、前記アノードと前記カソードとを物理的に分離し、それらの間の直接の電気的接触を防止する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項20】
前記イオン輸送材料がポリマー材料及び非水性電解質を含む、請求項19に記載のデバイス。
【請求項21】
前記デバイスがリチウム一次電池である、請求項1に記載のデバイスであって、
前記アノードがリチウムイオンの供給源を含み、
前記カソードが、xが0.06から0.52の範囲にある式CFの部分フッ素化フッ化グラファイトを含み、前記部分フッ素化フッ化グラファイトが、約4μmから約7.5μmの範囲の平均粒子径の粒子状材料を含み、
前記イオン輸送材料が非水性電解質を含み、前記アノードと前記カソードとを物理的に分離して、それらの間の直接的な電気的接触を防止するデバイス。
【請求項22】
xが0.10から0.52の範囲にある、請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
xが0.10から0.46の範囲にある、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
xが0.33から0.46の範囲にある、請求項23に記載のデバイス。
【請求項25】
化学エネルギーを電流に変換する電気化学デバイスに用いる電極であって、xが0.10から0.52の範囲にある式CFの部分フッ素化フッ化グラファイトを含み、前記部分フッ素化フッ化グラファイトが、約4μmから約7.5μmの範囲の平均粒子径を有する粒子状材料を含む電極。
【請求項26】
xが0.10から0.52の範囲にある、請求項25に記載の電極。
【請求項27】
xが0.10から0.46の範囲にある、請求項26に記載の電極。
【請求項28】
xが0.33から0.46の範囲にある、請求項25に記載の電極。
【請求項29】
前記部分フッ素化フッ化グラファイトが、導電性希釈剤及び結着剤をさらに含む組成物中にある、請求項25に記載の電極。
【請求項30】
前記導電性希釈剤が、アセチレンブラック、カーボンブラック、粉末グラファイト、コークス、炭素繊維、金属粉末、及びそれらの組合せから選択される、請求項29に記載の電極。
【請求項31】
前記導電性希釈剤がアセチレンブラックである、請求項30に記載の電極。
【請求項32】
前記結着剤がポリマーである、請求項29に記載の電極。
【請求項33】
前記結着剤がフッ素化炭化水素ポリマーである、請求項32に記載の電極。
【請求項34】
電気化学デバイス内に使用するための電極を調製する方法であって、
平均粒子径が1μmから約10μmの範囲のグラファイト粉末を、フッ素元素のガス源と約375℃から約400℃の範囲の温度で約5時間から約80時間の時間にわたって接触さることにより、xが0.06から0.63の範囲にある式CFで表される部分フッ素化フッ化グラファイトが提供されるステップと、
前記部分フッ素化フッ化グラファイトを導電性希釈剤及び結着剤と混合してスラリーを形成するステップと、
前記スラリーを導電性基材に塗布するステップと、を含む方法。
【請求項35】
前記グラファイト粉末の平均粒子径が4μmから約7.5μmの範囲である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記時間が約15時間から約35時間の範囲にある、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
xが0.06から0.63の範囲にある式CFの部分フッ素化フッ化グラファイトを含み、元素周期表の1族、2族、及び3族から選択された金属のカチオンを受け取り放出することができる第1電極と、
前記金属カチオンの供給源を含む第2電極と、
前記金属カチオンの輸送を可能にし、前記第1電極と前記第2電極とを物理的に分離する固体ポリマー電解質と、を含む充電可能な電池。
【請求項38】
前記金属がリチウムである、請求項37に記載の充電可能な電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−512133(P2009−512133A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534512(P2008−534512)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【国際出願番号】PCT/US2005/037871
【国際公開番号】WO2007/040547
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(305053547)カリフォルニア インスティテュート オブ テクノロジー (18)
【出願人】(502017261)セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(シー.エヌ.アール.エス.) (15)
【出願人】(508105854)ユニベルシテ ブレイズ パスカル (4)
【Fターム(参考)】