説明

電極構造体、電極構造体の製造方法ならびに電気光学素子

【課題】機能性有機材料の電気的特性を簡便かつ精度よく測定することができる電極構造体、電極構造体の製造方法ならびにそれを用いた電気光学素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る電極構造体は、第1の電極層と、有機物層と、第2の電極層とを具備する。有機物層は、第1の電極層からの高さが第1の高さである第1の樹脂領域と、第1の電極層からの高さが第1の高さより小さい第2の高さである第2の樹脂領域とを有し、第1の電極層上に形成される。第2の電極層は、有機物層の第1の樹脂領域上に形成された第1の電極領域と、有機物層の第2の樹脂領域上に、第1の電極領域と分離して形成された第2の電極領域とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性有機材料を用いた電極構造体、電極構造体の製造方法ならびにそれを用いた電気光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、設計時のみならず、使用中に外部から光学特性を能動的に制御可能なアクティブ型の光学素子が知られている。このような光学素子として、例えば特許文献1には、電気光学効果を用いた光学素子(電気光学素子)が記載されている。特許文献1に係る電気光学素子は、圧電特性を有する材料と屈折率の異なる物質とを波長程度の間隔で周期的に配列したフォトニック結晶構造を有する光導波路を有し、この光導波路の上下面を挟持する電極から光導波路に電圧を印加することで、光の透過波長を変調させる。
【0003】
一方、圧電特性及び強誘電特性を持つ有機材料として、例えばフッ化ビニリデン系の樹脂等が知られており、これらは機能性有機材料として各種センサや超音波探触子、ハイドロホン等の超音波トランスデューサーや制振材(ダンパー)、振動発電等への応用が期待されている(特許文献2参照)。すなわち、圧電特性等を有する機能性有機材料は、電気光学素子としても用いることができる。この際、電気光学素子としての電気的特性を評価するため、機能性有機材料を含む微小な電極構造体を作製する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−108515号公報
【特許文献2】特開2011−91371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微小な電極構造体の製造方法として、例えば、エッチングによる方法が挙げられる。しかしながら、ウェットエッチングを用いた場合には薬液に対する有機材料の耐性が問題となり、ドライエッチングを用いた場合にはプラズマ等による有機材料へのダメージが問題となる。このため、有機材料の構造を維持することができず、精度よく電極構造体を作製することができなかった。
【0006】
さらに、ドライエッチングを行う場合は真空チャンバ等の大型の設備が必要となる上、リソグラフィ工程や洗浄工程など、多くの工程が必要となる。よって、簡便に電極構造体を作製することは難しかった。
【0007】
また、下部電極の上に有機物層を形成し、マスクを用いた金属蒸着によって上部電極を形成する方法もある。しかしながら、この方法では電極の微細化に限界があり、電極構造体を精度よく作製することが難しかった。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、高精度かつ微細な電極構造を有し、電気的特性を簡便かつ精度よく測定することができる電極構造体、電極構造体の製造方法ならびにそれを用いた電気光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る電極構造体は、第1の電極層と、有機物層と、第2の電極層とを具備する。
上記有機物層は、上記第1の電極層からの高さが第1の高さである第1の樹脂領域と、上記第1の電極層からの高さが上記第1の高さより小さい第2の高さである第2の樹脂領域とを有し、上記第1の電極層上に形成される。
上記第2の電極層は、上記有機物層の上記第1の樹脂領域上に形成された第1の電極領域と、上記有機物層の上記第2の樹脂領域上に、上記第1の電極領域と分離して形成された第2の電極領域とを有する。
【0010】
本発明の一形態に係る電極構造体の製造方法は、第1の電極層上に有機物層を形成することを含む。
上記有機物層上に第2の電極層が形成される。
凹凸部を有する金型面を上記第2の電極層および上記有機物層に転写することで、上記第2の電極層が第1の電極領域と第2の電極領域とに分離しつつ、上記有機物層に、上記第1の電極領域によって被覆され上記第1の電極層からの高さが第1の高さである第1の樹脂領域と、上記第2の電極領域によって被覆され上記第1の電極層からの高さが上記第1の高さよりも小さい第2の高さである第2の樹脂領域とが形成される。
【0011】
本発明の一形態に係る電気光学素子は、第1の電極層と、有機物層と、第2の電極層とを具備する。
上記有機物層は、光入射面と、光出射面と、上記第1の電極層からの高さが第1の高さを有する第1の樹脂領域と、上記第1の電極層からの高さが上記第1の高さより小さい第2の高さを有する第2の樹脂領域とを有し、上記第1の樹脂領域と上記第2の樹脂領域とが上記光入射面から上記光出射面に向かって交互に配置される。
上記第2の電極層は、上記有機物層の上記複数の第1の樹脂領域上に形成された第1の電極領域と、上記有機物層の上記複数の第2の樹脂領域上に、上記第1の電極領域と分離して形成された第2の電極領域とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る電極構造体の要部の構成を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電極構造体の製造方法を示す要部断面図であり、(A)は下部電極層(第1の電極層)の形成工程、(B)は有機物層の形成工程、(C)は上部電極層(第2の電極層)の形成工程、(D)は転写の準備工程、をそれぞれ示す。
【図3】本発明の一実施形態に係る電極構造体の製造方法を示す要部断面図であり、(A)は加圧工程、(B)は離型工程、をそれぞれ示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る電極構造体を用いた電気的特性の評価方法の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る電極構造体を用いた電気的特性の評価の結果を示したグラフであり、横軸は印加した電圧を示し、縦軸は電束密度を示している。
【図6】本発明の一実施形態に係る電気光学素子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る電極構造体は、第1の電極層と、有機物層と、第2の電極層とを具備する。
上記有機物層は、上記第1の電極層からの高さが第1の高さである第1の樹脂領域と、上記第1の電極層からの高さが上記第1の高さより小さい第2の高さである第2の樹脂領域とを有し、上記第1の電極層上に形成される。
上記第2の電極層は、上記有機物層の上記第1の樹脂領域上に形成された第1の電極領域と、上記有機物層の上記第2の樹脂領域上に、上記第1の電極領域と分離して形成された第2の電極領域とを有する。
【0014】
上記電極構造体の有機物層は高さの異なる2つの樹脂領域を持ち、それぞれの領域に対して第2の電極層が分離した電極領域が形成されている。すなわち、それぞれの樹脂領域に独立して形成された電極領域によって、個々の樹脂領域の電気的特性を測定することが可能となる。
【0015】
上記有機物層は強誘電体であってもよく、例えばフッ化ビニリデン/三フッ化エチレン(VDF/TrFE)共重合体を用いることができる。このような構造の電極構造体を用いることで、圧電特性、強誘電特性などを利用した電気光学素子等を作製することができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る電極構造体の製造方法は、第1の電極層上に有機物層を形成することを含む。
上記有機物層上に第2の電極層が形成される。
凹凸部を有する金型面を上記第2の電極層および上記有機物層に転写することで、上記第2の電極層が第1の電極領域と第2の電極領域とに分離しつつ、上記有機物層に、上記第1の電極領域によって被覆され上記第1の電極層からの高さが第1の高さである第1の樹脂領域と、上記第2の電極領域によって被覆され上記第1の電極層からの高さが上記第1の高さよりも小さい第2の高さである第2の樹脂領域とが形成される。
【0017】
上記凹凸部を有する金型面の転写(インプリント法)を用いた製造方法によって、第2の電極層を第1の電極領域と第2の電極領域とに分離させることができ、有機物層においても、それぞれの電極領域に被覆された高さの異なる樹脂領域が形成される。すなわち、同一の工程で、有機物層および第2の電極層のパターン加工が可能となる。また、金型面の形状に応じて所望とする大きさの微細な電極パターンを形成することができる(ナノインプリント法)。このことから、微細構造に対する電気的特性を少ない工程で簡便に、かつ精度よく測定可能な電極構造体を製造することができる。
【0018】
上記有機物層は、熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂は、ガラス転移点または融点以上に加熱することによって軟らかくなり、熱インプリント法を用いて容易に成形することができる。
【0019】
本発明の一実施形態に係る電気光学素子は、第1の電極層と、有機物層と、第2の電極層とを具備する。
上記有機物層は、光入射面と、光出射面と、上記第1の電極層からの高さが第1の高さを有する第1の樹脂領域と、上記第1の電極層からの高さが上記第1の高さより小さい第2の高さを有する第2の樹脂領域とを有し、上記第1の樹脂領域と上記第2の樹脂領域とが上記光入射面から上記光出射面に向かって交互に配置される。
上記第2の電極層は、上記有機物層の上記複数の第1の樹脂領域上に形成された第1の電極領域と、上記有機物層の上記複数の第2の樹脂領域上に、上記第1の電極領域と分離して形成された第2の電極領域とを有する。
【0020】
上記電気光学素子の有機物層は、光入射面と光出射面とを有する第1の樹脂領域と高さの異なる第2の樹脂領域とが形成されており、さらにそれぞれの領域を被覆し、分離して形成された第1の電極領域と第2の電極領域とが形成されている。このことから、各領域の電気的特性を簡便に、かつ精度よく測定することができ、それによって所望の電気光学効果を有する電気光学素子を作製することができる。さらに、上記電極構造体の製造方法を用いることができるため、所望の微細構造を簡便に形成することができる。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
<第1の実施形態>
[電極構造体の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る電極構造体1の要部の構成を示す図であり、図1(A)は断面図、図1(B)は斜視図である。電極構造体1は、下部基板2と、下部電極層(第1の電極層)3と、有機物層4と、上部電極層(第2の電極層)5とを有する。なお、図中のX軸方向およびY軸方向は平面方向を示し、Z軸方向はこれらに垂直な方向を示す。
【0023】
下部基板2の材料は特に制限されず、例えばシリコン基板、ガラス基板等を用いることができる。
【0024】
下部電極層3は下部基板2の上に形成される。下部電極層3の材料は特に制限されず、例えば金(Au)等を用いることができる。
【0025】
有機物層4は、第1の樹脂領域4aと第2の樹脂領域4bとで構成されている。有機物層4の第1の樹脂領域4aは、下部電極層3からのZ軸方向の高さがH1(第1の高さ)であり、本実施形態ではX軸およびY軸方向に等間隔で複数配置されている。H1およびH2の大きさは特に限定されず、本実施形態では、H1の大きさは2μm、H2の大きさは1μmである。また、頂部の形状は特に制限されないが、本実施形態では、例えば径が50μmの円形で構成されている。
【0026】
また、第2の樹脂領域4bは、下部電極からの高さがH1より小さいH2(第2の高さ)である。なお、複数の第1の樹脂領域4aと第2の樹脂領域4bとは連続して形成されている。
【0027】
有機物層4の材料は特に制限されないが、例えば熱可塑性樹脂であれば、熱インプリント法を用いて容易に成形することができる。また、圧電性、焦電性等を有する強誘電性材料を用いることによって、外部からの電圧印加等で有機物層4の特性等が制御可能となる。このような熱可塑性と強誘電特性とを備えた材料として、本実施形態では、フッ化ビニリデン(VDF)を75%、三フッ化エチレン(TrFE)を25%の割合で共重合させたVDF/TrFE75:25共重合体を採用している。
【0028】
上部電極層5は、複数の第1の電極領域5aと第2の電極領域5bとで構成されている。第1の電極領域5aは、第1の樹脂領域4aの頂部を被覆しており、第1の樹脂領域4aの頂部と同様の表面形状で構成されている。例えば、本実施形態では、第1の電極領域5aは径が50μmの円盤形状を有している。第2の電極領域5bは第2の樹脂領域4b上を被覆しており、第1の電極領域5aとほぼ等しい膜厚で、独立して形成されている。なお、上部電極層5の材料は特に制限されず、例えばAuを用いることができる。
【0029】
本実施形態の電極構造体1において、高さH1の第1の樹脂領域4aと高さH2の第2の樹脂領域4bとが、X軸およびY軸方向に周期的に交互に配置されている。また、第1の電極領域5aと第2の電極領域5bとが分離して形成されるため、高さH1と高さH2との差が第2の電極領域5bの厚みよりも大きくなるよう構成されている。すなわち、第1の樹脂領域4aは、第2の樹脂領域4bおよび第2の電極領域5bから突出した複数の円柱状の柱状部Pを有している。また、第2の樹脂領域4bおよび第2の電極領域5bは、柱状部Pを支持するベース層の機能を有する。
【0030】
次に、以上のような構成の電極構造体1の製造方法について説明する。
【0031】
[電極構造体の製造方法]
図2および図3は、電極構造体1の製造方法を示す要部断面図である。以下、図2および図3を参照して説明する。
【0032】
(下部電極層の形成)
まず、下部基板2の上に下部電極層3を形成する(図2(A))。形成方法は特に制限されず、例えば蒸着やスパッタ法で形成することができる。なお、厚みも特に制限されず、例えば0.1μmである。
【0033】
(有機物層の形成)
次に、下部電極層3の上に有機物層4を形成する(図2(B))。形成方法は特に制限されず、例えば蒸着やスピンコート法で形成することができる。なお、この工程において形成される有機物層4の厚みは、例えば1.4μmである。
【0034】
(上部電極層の形成)
続いて、有機物層4の上に上部電極層5を形成する(図2(C))。形成方法は特に制限されず、例えば蒸着やスパッタ法で形成することができる。なお、厚みも特に制限されず、例えば0.1μmである。
【0035】
(有機物層および上部電極層への金型面の転写)
次に、インプリント法(あるいはナノインプリント法)を用いて、有機物層4および上部電極層5に対するパターン加工を行う。
【0036】
まず、準備として、上部電極層5まで形成された積層体をインプリント装置のステージ(図示せず)に設置し、有機物層4が軟化する温度まで当該積層体を加熱する(図2(D))。有機物層4が軟化する温度は、例えば有機物層4のガラス転移点あるいは融点以上の適宜の温度とされ、本実施形態では、約150℃とされる。なお、インプリント装置として、例えばリソテックジャパン社製の装置を使用することができる。
【0037】
図2(D)に示すように、金型20は、凹凸部を構成する凸部22と凹部23とが形成された金型面21を有する。金型面21の形状は、形成される転写形状によって適宜設計可能であり、有機物層4および上部電極層5における所望のパターン形状を反転させたものを用いることができる。例えば本実施形態では、凹部23は径が50μmの円形状であり、凸部22は凹部23からの高さが例えば2μmとなるように突出した形状を有し、円柱形状が転写されるよう構成されている。さらに凸部22と凹部23とはX軸およびY軸方向に周期的に交互に配置されている。
【0038】
以上のような構成の金型面21を上部電極層5に向けて、例えば60MPaの圧力で20分間加圧する(図3(A))。この際、凸部22によって上部電極層5および有機物層4にせん断応力が作用するとともに、凹部23の形状にあわせて第1の樹脂領域4aと第1の電極領域5aとが円柱形状に突出する。これによって、上部電極層5が第1の電極領域5aと第2の電極領域5bとに分離され、有機物層4に第1の樹脂領域4aと第2の樹脂領域4bとが形成される。なお、加圧工程の間、有機物層4の温度はステージからの加熱によって約150℃に保持される。また、金型20も有機物層4と同様の温度に加熱することによって、有機物層4の温度を精度よく保持することができる。
【0039】
20分間の加圧工程の後、有機物層4を約70℃まで冷却して固化させ、金型20を剥離する(図3(B))。これによって、電極構造体1が形成される。
【0040】
以上のような電極構造体1の製造方法は、有機材料の熱可塑性を活かした熱インプリント法を用いて、精度よく簡便に所望の微細構造の製造が可能となる。
【0041】
以上のように製造される電極構造体1は、上部電極層5が第1の電極領域5aと第2の電極領域5bとに分離して形成されている。このため、例えば図4のように、下部電極層3とプローブRとの間に電源Vを接続し、個々の第1の電極領域5aにプローブRを接触させることによって、個々の第1の電極領域5aに被覆された第1の樹脂領域4aにおける圧電特性、強誘電特性等の電気的特性を評価することが可能となる。
【0042】
図5は、本実施形態に係る電極構造体1の第1の樹脂領域4aにおける誘電特性を示した図であり、グラフの横軸は印加した電圧を示し、縦軸は電束密度を示している。この評価は、図4のように下部電極層3を電源に接続し、第1の電極領域5aにプローブを接触させて電圧を印加することで行った。また、評価に用いた電極構造体1は、第1の電極領域5aが50μmの径を有する円柱状の柱状部Pを有し、第1の電極領域5aと柱状部Pとを合わせた高さが2μmとなるよう作製した。
【0043】
図5に示すように、電圧−分極特性に一定のヒステリシスが認められることから、当該樹脂領域4aが強誘電性を示すことが確認された。またこの結果から、上記方法によれば、有機物層に短絡を生じさせることなく、下部電極層と強誘電体層と上部電極層との積層構造を有する微細な電極構造体を高精度かつ安定に製造できることが確認された。
【0044】
一方、有機物層の電気的特性を評価する方法として、下部電極の上に形成された有機物層上に直接プローブを接触させて測定する方法もある。しかしながら、この方法では数100nm以下の非常に微小なプローブの先端領域しか測定することができず、所望の大きさの領域を精度よく測ることが難しかった。
【0045】
また、下部電極の上に形成された有機物層に、プローブに替えて所望の面積の電極板を接触させる測定方法もある。しかしながら、有機物層の表面に微細な凹凸があるため、電極板の直下領域全体に対する電気的特性を精度よく測定することは難しかった。
【0046】
このことから、本実施形態に係る電極構造体1は、第1の樹脂領域4aのような微小領域についても精度よく電気的特性の評価をすることができることが示された。したがって、電極構造体1を用いて電気的特性の評価をし、その結果を参照することで、所望の電気的特性を有する光学素子等を作製することができる。
【0047】
また、真空チャンバ等の大型の設備が不要となるため、低コストかつ省スペースで実施可能である。さらに、有機物層4のパターン加工と上部電極層5のパターン加工とが同時にできる上、準備も簡便で多くの工程を必要としないため、エッチング等によるパターン加工に比べて工程の大幅な短縮が可能である。
【0048】
<第2の実施形態>
以上のような電極構造体1は、例えば電気光学素子10に用いることができる。なお本実施形態では、第1の実施形態と重複する部分は説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0049】
[電気光学素子の構成]
図6は、電気光学素子10の構成を示す断面図である。電気光学素子10は、電極構造体1を構成する下部基板2と、下部電極層(第1の電極層)3と、有機物層4と、上部電極層(第2の電極層)5とに加えて、さらに最上部電極層6、上部基板7とを有する。
【0050】
有機物層4の材料は本実施形態でも特に制限されないが、光透過性を有していれば有機物層4を光路として構成することができる。また、圧電特性を持つ強誘電体の有機物を用いることによって、外部からの電圧印加等によって光学特性を能動的に制御可能となる。このような熱可塑性と強誘電特性とを備えた材料として、本実施形態においても、VDF/TrFE75:25共重合体を採用することができる。
【0051】
最上部電極層6は、上部電極層5の複数の第1の電極領域5a上に形成され、これらと電気的に接続可能である。すなわち、最上部電極層6は、電気光学素子10の複数の第1の電極領域5aに対して電圧を印加するための電極として用いられる。なお、最上部電極層6の材料は特に制限されず、例えばAuを用いることができる。
【0052】
上部基板7は、最上部電極層6の上に形成される。なお、上部基板7の材料は特に制限されず、例えばシリコン基板、ガラス基板等を用いることができる。
【0053】
以上のような構成の電気光学素子10は、光透過性を有する有機物層4と下部電極層3、上部電極層5、最上部電極層6とが屈折率の異なる材料で構成されている。そのため、有機物層4の柱状部Pと、その間に配置された空間とを光路(コア)とし、下部電極層3、上部電極層5、最上部電極層6とをクラッドとすることによって、電気光学素子10がコアとそれを挟み込むクラッドからなるスラブ型の光導波路を構成することができる。
【0054】
本実施形態においては、X軸方向を光路と平行な光軸とし、光軸方向Lへ光束が光路内を進んで行く。すなわち、第1の樹脂領域4aのうち、光軸方向Lの反対方向に位置する柱状部Pの側面が光入射面Cを構成し、光軸方向L側に位置する柱状部Pの側面が光出射面Eを構成している。光入射面Cから入射した光束は、柱状部Pと空間とを交互に通過しながら光軸方向Lへ進み、光出射面Eから出射する。
【0055】
本実施形態に係る電気光学素子10は、有機物層4が強誘電特性を有する電極構造体1を用いているため、下部電極層3と最上部電極層6とに電圧を印加することにより、有機物層4の形状、屈折率等を変化させることができる。このため、例えば光路内の屈折率を制御することで光軸方向を変化させ光路を切り替える光スイッチ等としても応用可能である。また、加える電圧によって出射光の進行方向を変化させる光偏向モジュールとしても応用可能である。このような光偏向モジュールは、レーザ加工、3次元計測、光通信、イメージング、センシング等の幅広い分野において利用されることが期待できる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0057】
例えば、以上の実施形態において、第1の樹脂領域4aが円柱状の柱状部Pを有すると説明したが、勿論これに限らず、格子状や角柱状、円錐状、円錐台状等でも形成することができる。さらに、第1の樹脂領域4aおよび第2の樹脂領域4bの高さはいずれも等しいとして説明したが、これに限らず、高さが異なっていてもよい。
【0058】
なお、以上の実施形態で説明した製造方法でこれらの電極構造体1を製造する際は、これらの形状を反転させた形状の金型面21を有する金型20を用いることができる。
【0059】
また、第2の樹脂領域4bは高さH2を有すると説明したが、ほとんど高さを有さず、第2の電極領域5bと下部電極層3とが近接する構成としてもよい。このような構成とすることで、電気光学素子10における光路を効率よく確保することができる。
【0060】
また、第2の実施形態において、電気光学素子10は最上部電極層6と上部基板7とを有すると説明したが、これらのいずれかを用いない構成とすることもできる。その際、第1の樹脂領域4a毎に異なる電圧を印加することも可能である。さらに、下部基板2、上部基板7に替えて多層膜等からなる反射膜を形成してもよい。
【0061】
以上の実施形態において、電極構造体1は電気光学素子10として用いることが可能であると説明したが、勿論これに限られない。例えば、有機物層が強誘電特性を有することから、不揮発性メモリ素子等としても応用可能である。この際、微細構造毎に電圧を印加でき、個々の電気的特性の評価も可能であることから、構成の自由度を高めることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1・・・電極構造体
2・・・下部基板
3・・・下部電極層
4・・・有機物層
5・・・上部電極層
6・・・最上部電極層
7・・・上部基板
10・・・電気光学素子
20・・・金型
21・・・金型面
P・・・柱状部
C・・・光入射面
E・・・光出射面
L・・・光軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極層と、
前記第1の電極層からの高さが第1の高さである第1の樹脂領域と、前記第1の電極層からの高さが前記第1の高さより小さい第2の高さである第2の樹脂領域とを有し、前記第1の電極層上に形成された有機物層と、
前記有機物層の前記第1の樹脂領域上に形成された第1の電極領域と、前記有機物層の前記第2の樹脂領域上に、前記第1の電極領域と分離して形成された第2の電極領域とを有する第2の電極層と
を具備する電極構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の電極構造体であって、
前記有機物層は熱可塑性樹脂からなる
電極構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電極構造体であって、
前記有機物層は強誘電体からなる
電極構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の電極構造体であって、
前記有機物層はフッ化ビニリデン/三フッ化エチレン(VDF/TrFE)共重合体からなる
電極構造体。
【請求項5】
第1の電極層上に有機物層を形成し、
前記有機物層上に第2の電極層を形成し、
凹凸部を有する金型面を前記第2の電極層および前記有機物層に転写することで、前記第2の電極層を第1の電極領域と第2の電極領域とに分離させつつ、前記有機物層に、前記第1の電極領域によって被覆され前記第1の電極層からの高さが第1の高さである第1の樹脂領域と、前記第2の電極領域によって被覆され前記第1の電極層からの高さが前記第1の高さよりも小さい第2の高さである第2の樹脂領域とを形成する
電極構造体の製造方法。
【請求項6】
第1の電極層と、
光入射面と、光出射面と、前記第1の電極層からの高さが第1の高さを有する第1の樹脂領域と、前記第1の電極層からの高さが前記第1の高さより小さい第2の高さを有する第2の樹脂領域とを有し、前記第1の樹脂領域と前記第2の樹脂領域とが前記光入射面から前記光出射面に向かって交互に配置された有機物層と、
前記有機物層の前記第1の樹脂領域上に形成された第1の電極領域と、前記有機物層の前記第2の樹脂領域上に、前記第1の電極領域と分離して形成された第2の電極領域とを有する第2の電極層と
を具備する電気光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−25296(P2013−25296A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163206(P2011−163206)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】