説明

電極箔の製造方法と電解コンデンサの製造方法、および電極箔と電解コンデンサ

【課題】電解コンデンサの漏れ電流を低減する事を目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため本発明の電極箔(陽極箔2)は、アルミニウム箔の粗面化された表面に、水溶液を用いた置換メッキにより厚み3nm以上10nm以下のジルコニウム層を形成し、その後アルミニウム箔を化成して、ジルコニウム層よりも厚く、かつジルコニウムを含有する酸化アルミニウム皮膜3を形成したものである。これにより本発明は、酸化アルミニウム皮膜3に微量のジルコニウムが比較的均一に含有され、皮膜の結晶構造により電解コンデンサ1の漏れ電流を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極箔の製造方法と電解コンデンサの製造方法、および電極箔と電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサとしては、パーソナルコンピュータのCPU周りに使用される低ESRの固体電解コンデンサや、液晶テレビのバックライト用に用いられるアルミ電解コンデンサなどが挙げられる。これらの電解コンデンサには、小型大容量化が強く望まれている。
【0003】
電解コンデンサの大容量化を図るには、アルミニウム箔からなる基材にエッチングで多数の凹部を形成し、あるいは基材上に蒸着によって複数の柱状体を形成して、電極箔を粗面化し、表面積の拡大を図ることが有効である。
【0004】
上記の大容量化技術に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1、2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−299183号公報
【特許文献2】特開2008−258404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電解コンデンサでは、漏れ電流が大きくなることがあった。
【0007】
その理由は、電極箔を粗面化し表面積を拡大する程、抵抗が下がるからである。
【0008】
そこで本発明は、電解コンデンサの大容量化を実現するとともに、漏れ電流を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そしてこの目的を達成するため本発明は、アルミニウム箔の粗面化された表面に、水溶液を用いた置換メッキにより厚み3nm以上10nm以下のジルコニウム層を形成し、その後アルミニウム箔を化成して、ジルコニウム層よりも厚く、かつジルコニウムを含有する酸化アルミニウム皮膜を形成したものである。
【発明の効果】
【0010】
これにより本発明は、電解コンデンサの大容量化を実現するとともに、漏れ電流を低減できる。
【0011】
その理由は、酸化アルミニウム皮膜に均一に微量のジルコニウムを含有させることができるからである。すなわち本発明は、水溶液を用いた置換メッキにより粗面化された電極箔にも薄く均一なジルコニウム膜を形成できる。したがって、化成後の電極箔上には、微量にジルコニウムを含有する酸化アルミニウム皮膜を形成できる。そして微量にジルコニウムが含有されることにより、酸化アルミニウム皮膜の結晶構造が変化し、漏れ電流が低減できたと考えられる。
【0012】
以上より本発明は、電解コンデンサの大容量化を実現するとともに、漏れ電流を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1における電解コンデンサの斜視図
【図2】(a)本発明の実施例1におけるコンデンサ素子の上面図、(b)同コンデンサ素子の断面図(図2(a)のX−X断面)
【図3】本発明の実施例1における電極箔の模式断面図
【図4】本発明の実施例1の別の例における電極箔の模式断面図
【図5】本発明の実施例1における電解コンデンサの一部切欠き斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施例1)
以下本実施例の電極箔および電解コンデンサについて説明する。
【0015】
図1に示す本実施例の電解コンデンサ1は、図2(b)に示すように、陽極箔2(電極箔)と、この陽極箔2の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜3と、この酸化アルミニウム皮膜3上に形成された固体電解質層4と、この固体電解質層4上に形成された陰極層5と、を備えたコンデンサ素子6を複数枚積層している。陰極層5はカーボン層7および銀ペースト層8からなる。本実施例では、固体電解質層4と陰極層5とでコンデンサ素子6の陰極部を構成している。
【0016】
図2(a)(b)に示すように、陽極箔2の上には、レジストからなる絶縁部9が設けられ、コンデンサ素子6の陽極と陰極部が形成される領域とを分離している。
【0017】
電解コンデンサ1の陽極箔2および陰極部(固体電解質層4および陰極層5)は、それぞれ図1に示す陽極端子10および陰極端子11と接続され、電極が引き出される。陽極端子10および陰極端子11の一部が外部に露出するように外装体12がコンデンサ素子6を収容している。外装体12は、モールド樹脂や金属パッケージなどで形成できる。
【0018】
図3に示すように、本実施例の陽極箔2は、表面に多数の孔13が設けられ、粗面化されたアルミニウム箔と、このアルミニウム箔の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜3と、を備えている。アルミニウム箔は、表面粗さRaが1μm以下のプレーン箔に対して100倍以上に表面積が拡大されているものを用いた。酸化アルミニウム皮膜3は、少なくとも陰極部、すなわち本実施例の固体電解質層4を形成する領域に形成されていればよい。
【0019】
本実施例では、陽極箔2の表面に形成された孔13は、交流エッチングにより形成され、孔13の空孔径の最頻値は10nm以上100nm以下である。空孔径の最頻値は、水銀圧入法により測定した空孔径分布におけるピーク値である。また空隙率は体積比で50〜80%である。微細な孔13を多数形成することによって、表面積を拡大でき、大容量化に寄与する。なお空隙率は、陽極箔2の孔13が形成されている多孔質層2Aと、孔13が形成されていない心材2Bの、各厚み、重量により測定できる。厚みはSEM観察により測定できる。
【0020】
なお、本実施例では孔13をエッチングにより形成したが、図4に示すように、アルミニウム基材14上にアルミニウム微粒子15を蒸着あるいはエアロゾルなどで付着させたアルミニウム箔を用いてもよい。これによりアルミニウム微粒子15間に孔16が形成される。このアルミニウム箔も、空孔径の最頻値が10nm以上100nm以下であり、空隙率が体積比で50〜80%のものが好ましい。
【0021】
そして図3のアルミニウム箔の表面には、酸化アルミニウム皮膜3が形成されている。この酸化アルミニウム皮膜3には、微量のジルコニウムが含有され、酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムとの混合物(AlZrxy)からなる。酸化アルミニウム皮膜3中において、アルミニウムとジルコニウムの組成比(at.%)は99.9:0.1である。酸化アルミニウム皮膜3中における金属原子は、アルミニウムの次にジルコニウムが多いものとした。本実施例では、酸化アルミニウム皮膜3の厚みは6nm以上30nm以下とした。厚みはTEM(TransmissionElectron Microscope)観察により測定できる。
【0022】
なお本実施例では、固体電解質層4の下方において、微細構造のアルミニウム箔の表面全体に、Zrを均一に含む酸化アルミニウム皮膜3が形成されている。
【0023】
以下、陽極箔2の製造方法について説明する。
【0024】
まず、厚み30〜120μm、純度99.9%以上の高純度のアルミニウム箔を準備した。
【0025】
次に、アルミニウム箔の表面を粗面化し、多数の孔13を形成する。孔13は、本実施例ではアルミニウム箔の両面に形成したが、一方の表面にのみ形成してもよい。孔13は例えばブラストで機械的に形成したり、塩酸液に浸漬して化学的に形成(化学的エッチング)したりすることができるが、本実施例では、塩酸主体の電解液中でアルミニウム箔をカーボン電極板間に設置し電解(電気化学的エッチング)する方法を用いた。電気化学的エッチングでは電解の電流波形、液の組成、温度等によりエッチング形状が異なるため、電解コンデンサ1の性能に合わせたエッチングの方法を選択する。本実施例では、三角波による交流エッチングとした。
【0026】
その後、孔13が形成され、表面が粗面化されたアルミニウム箔を、室温のZrCl2O(酸化塩化ジルコニウム)10%水溶液に10分間浸漬させる。水溶液中の塩化物イオン(Cl-)によりアルミニウム箔の表面のアルミニウムがイオン(Al3+)として溶出し、代わりに水溶液中のジルコニウムイオン(Zr4+)がZrとして析出する。以上の水溶液を用いた置換メッキ工程により、アルミニウム箔上にジルコニウム層を形成できる。置換メッキ工程において、アルミニウム箔を水溶液中に浸漬している際、直流、交流電圧を印加してもよい。これにより置換反応を促進できる。
【0027】
置換メッキ法は粘度の低い水溶液中で行うため、水溶液が微細な孔13の内部にも容易に浸透する。したがって、スパッタや蒸着、粘度の高い溶融塩によるメッキ法等と比べて孔13の内壁も含め、アルミニウム箔の表面全体に均一にジルコニウム層を形成できる。このような置換メッキによるジルコニウム層の厚みは、3nm以上10nm以下が好ましい。厚みはTEM観察により測定できる。
【0028】
これ以上薄いと、酸化アルミニウム皮膜3中におけるジルコニウム含有量が少なすぎて、漏れ電流抑制効果を発揮できない。またこれ以上厚いと酸化アルミニウム皮膜3中におけるジルコニウムの含有量が多くなり、漏れ電流抑制効果を発揮できない。
【0029】
次にアルミニウム箔を化成する。化成工程では、アルミニウム箔を陽極として電解液に入れ、電気分解してアルミニウム箔の表面に酸化アルミニウム皮膜3を形成する。化成用の電解液には、本実施例ではアジピン酸アンモニウム7%水溶液を用いた。その他、硼酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどを用いることができる。化成条件は、化成電圧4.5V、保持時間20分、電解液温度70℃、定電流0.05A/cm2とした。この化成工程において、アルミニウム箔上のジルコニウムが酸化アルミニウム皮膜3に混入し、僅かに結晶構造が変化すると考えられる。
【0030】
以上のように形成した本実施例の陽極箔2を用い、30℃のアジピン酸アンモニウム水溶液中、定電圧3.15V印加して、2分後の漏れ電流値を測定した。比較例1としてジルコニウム層を形成せず、酸化アルミニウムのみからなる酸化アルミニウム皮膜を有する電極箔を用いた。また比較例2としてアルミニウム箔上に酸化ジルコニウム皮膜を形成した電極箔を用いた。なお、測定時は、それぞれの電極箔を1×2cmにカットしたものを用いた。
【0031】
その結果、それぞれの漏れ電流値は、比較例1が40μA、比較例2が200μAであったのに対し、本実施例は20μAとなり、漏れ電流値を大幅に低減することができた。その理由は、現在検討中であるが、微量にジルコニウムが含有されることにより、酸化アルミニウム皮膜3の結晶構造が変化し、漏れ電流が低減できたからと考えられる。
【0032】
なお、本実施例のように、ジルコニウムを含有させた酸化アルミニウム皮膜3を形成することで、陽極箔2は、陽極箔2の耐電圧以下の一定電圧(V)を印加した時における、単位投影面積(1×1cmかつ両面)あたりの漏れ電流I(mA)を、容量C(F)と一定電圧Vで割った値I/(C・V)が14mA(F・V)以下となる。
【0033】
本実施例の実験においては、陽極箔2の投影面積が1×2cmかつ両面、一定電圧を3.15V、容量を600μF、漏れ電流を20μAとし、10.6mA/(F・V)となった。一定電圧を変えた場合においても、本実施例では10.5〜12.4mA/(F・V)となった。
【0034】
これに対し、上記の比較例1の酸化アルミニウムからなる誘電膜を形成した電極箔では、I/(C・V)の値が16〜20mA(F・V)であり、比較例2の酸化ジルコニウムからなる誘電膜を形成した電極箔では、I/(C・V)の値が106mA(F・V)となる。
【0035】
なお、上記容量Cは室温に保持したアジピン酸アンモニウム15%水溶液中でLCRメータにより周波数120Hzで測定した値である。
【0036】
また本実施例では、プレーン箔と比べて100倍以上に粗面化された陽極箔2にも、水溶液を用いた置換メッキにより表面全体に、薄く均一なジルコニウム膜を形成できる。したがって、化成により陽極箔2上に、微量にジルコニウムを含有する酸化アルミニウム皮膜3を形成でき、粗面化された陽極箔2を用いても、漏れ電流を低減できる。
【0037】
なお、粗面化に伴って漏れ電流が大きくなることから、本実施例のように漏れ電流を低減することによって、大容量化と漏れ電流の低減との両立を図ることができる。
【0038】
以下、上記陽極箔2を用いて電解コンデンサ1を製造する方法について説明する。
【0039】
酸化アルミニウム皮膜3が形成された陽極箔2の一部に絶縁部9を形成する。そして絶縁部9で分離された領域に導電性高分子のモノマーを化学重合あるいは電解重合するか、あるいは導電性高分子の分散体溶液を含浸することにより、固体電解質層4を形成する。そして固体電解質層4上にカーボン層7および銀ペースト層8を形成し、コンデンサ素子6を形成する。
【0040】
そしてコンデンサ素子6を複数枚積層し、それぞれの陽極(陽極箔2)と陰極層5とを陽極端子10、陰極端子11と接続し、これらの陽極端子10、陰極端子11の一部が外部に露出するようにコンデンサ素子6を樹脂でモールドすれば、本実施例の電解コンデンサ1となる。
【0041】
なお本実施例では、電極箔をチップ型の電解コンデンサ1の陽極箔2として用いたが、図5に示す巻回型の電解コンデンサ17の陽極箔18として用いることもできる。
【0042】
巻回型の電解コンデンサ17は、陽極箔18と陰極箔19(陰極部)とを、間にセパレータ20を介して巻回したコンデンサ素子21と、このコンデンサ素子21に含浸させた電解液や固体電解質層などの陰極材料(図示せず)と、陽極箔18に接続され、電極を引き出す陽極端子22と、陰極箔19と接続され、電極を引き出す陰極端子23と、陽極端子22と陰極端子23の一部を外部に露出させるようにコンデンサ素子21を収容するケース24(外装体)と、このケース24を封止する封止部材25と、を備えている。
【0043】
本実施例の電極箔を、以上のような電解コンデンサ17の陽極箔として用いても、漏れ電流の低減を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明による電極箔は、特に大容量かつ高耐圧特性が要求される電解コンデンサの陽極箔として有用である。
【符号の説明】
【0045】
1 電解コンデンサ
2 陽極箔
2A 多孔質層
2B 心材
3 酸化アルミニウム皮膜
4 固体電解質層
5 陰極層
6 コンデンサ素子
7 カーボン層
8 銀ペースト層
9 絶縁部
10 陽極端子
11 陰極端子
12 外装体
13 孔
14 アルミニウム基材
15 アルミニウム微粒子
16 孔
17 電解コンデンサ
18 陽極箔
19 陰極箔
20 セパレータ
21 コンデンサ素子
22 陽極端子
23 陰極端子
24 ケース
25 封止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔の粗面化された表面に、水溶液を用いた置換メッキにより厚み3nm以上10nm以下のジルコニウム層を形成し、
その後前記アルミニウム箔を化成して、前記ジルコニウム層よりも厚く、かつジルコニウムを含有する酸化アルミニウム皮膜を形成した、電極箔の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム箔の粗面化された表面に、水溶液を用いた置換メッキにより厚み3nm以上10nm以下のジルコニウム層を形成し、その後前記アルミニウム箔を化成して、前記ジルコニウム層よりも厚く、かつジルコニウムを含有する酸化アルミニウム皮膜を形成して陽極箔とし、
この陽極箔の前記酸化アルミニウム皮膜上に陰極部を配置してコンデンサ素子を形成した、電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
表面が粗面化されたアルミニウム箔と、
このアルミニウム箔の前記表面に形成された、厚み6nm以上30nm以下であってジルコニウムを含有する酸化アルミニウム皮膜と、を有し、下記数式を満たす電極箔。
【数1】

【請求項4】
前記アルミニウム箔は、表面粗さRaが1μm以下のプレーン箔に対して100倍以上に表面積が拡大されている、請求項3に記載の電極箔。
【請求項5】
表面が粗面化されたアルミニウム箔と、
このアルミニウム箔の前記表面に形成された、厚み6nm以上30nm以下であってジルコニウムを含有する酸化アルミニウム皮膜と、を有し、下記数式を満たす陽極箔と、
前記酸化アルミニウム皮膜上に配置された陰極部と、を有するコンデンサ素子を備えた電解コンデンサ。
【数2】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−193420(P2012−193420A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58833(P2011−58833)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】