説明

電極触媒の製造方法

【課題】本発明は、電極触媒の製造方法に関し、スパッタリング時に微細化した触媒金属をカーボン粉末の表面に担持可能な電極触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】内部が真空に保持された回転バレルと、該回転バレル内に配置したターゲットユニットと、該ターゲットユニットに接続されプラズマを発生可能なスパッタリング電源と、を備えたスパッタリング装置を用い、上記回転バレル内に比表面積300m/g以下のカーボン粉末を収納すると共に、上記ターゲットユニット内に白金プレートを設置して、上記回転バレルを回転させつつ上記スパッタリング電源によりプラズマを発生させて、上記白金プレートの白金を上記カーボン粉末にスパッタリングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電極触媒の製造方法に関し、より詳細には、スパッタリングによってカーボン表面を触媒金属で被覆した電極触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在主流となっている燃料電池には、アノード電極側に水素、カソード電極側に酸化ガスをそれぞれ供給して発電させる固体高分子型燃料電池や、アノード電極側にメタノール水溶液、カソード電極側に酸化ガスをそれぞれ供給して発電するメタノール直接型燃料電池などがある。一般に、これらの燃料電池は、電解質膜をアノード電極およびカソード電極で挟持した構造を基本とし、また、これらの電極は、導電性カーボンの表面に、白金等の触媒金属を担持させた電極触媒から構成される。
【0003】
電極触媒の製造方法として、従来、例えば特許文献1には、カーボン粉末を六角形状のバレル内に収容し、このバレルを回転させながらカーボン粉末の表面に触媒金属をスパッタリングする方法が開示されている。スパッタリングは完全な乾式法であるため、湿式法を用いた場合に発生しがちな不純物の混入もなく、ワンステップで高結晶性の触媒金属をカーボン粉末の表面に担持できる。また、特許文献1では、スパッタリング時に上記バレルを回転させているので、バレル内のカーボン粉末を攪拌しまたは回転させて、その最表面に触媒金属を均一担持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−098177号公報
【特許文献2】特開2006−269097号公報
【特許文献3】特開2009−146825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池における電気化学反応は、触媒金属、電解質、反応ガスの三相界面で生じるとされ、その実効面積が広いほど電池出力等が向上するとされている。この実効面積の拡大のためには、触媒金属の微細化が有効である。しかしながら、カーボン粉末の表面には、カルボキシル基や水酸基といった官能基が多数存在するので、上記特許文献1の方法を用いると、バレルの回転時にこれらの官能基が相互作用し、その結果、カーボン粉末が凝集してしまう。カーボン粉末が凝集すれば、その表面上における触媒金属の担持可能面積が凝集前に比して減少する。従って、スパッタリング時に担持される触媒金属のサイズが増大してしまう可能性があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものである。即ち、スパッタリング時に微細化した触媒金属をカーボン粉末の表面に担持可能な電極触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内部が真空に保持された回転バレルと、前記回転バレル内に配置したターゲットユニットと、前記ターゲットユニットに接続されプラズマを発生可能なスパッタリング電源と、を備えたスパッタリング装置を用いた電極触媒の製造方法であって、
前記回転バレル内に比表面積300m/g以下のカーボン粉末を収納すると共に、前記ターゲットユニット内に白金プレートを設置して、前記回転バレルを回転させつつ前記スパッタリング電源によりプラズマを発生させて、前記白金プレートの白金を前記カーボン粉末にスパッタリングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明によれば、上記スパッタリング装置を用いたスパッタリングの際に、比表面積300m/g以下のカーボン粉末を用いるので、カーボン粉末の凝集を良好に抑制し微細化された白金をカーボン粉末の表面に担持できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態に用いるスパッタリング装置の全体構成図である。
【図2】図1のスパッタリングユニット2、回転バレル3の部分断面図である。
【図3】図2のスパッタリングユニット2の拡大断面図である。
【図4】カーボン比表面積と結晶子サイズとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[スパッタリング装置の説明]
以下、図1乃至図4を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施の形態について説明する。先ず、図1を参照しながら、本実施形態に用いるスパッタリング装置について説明する。図1は、本実施形態に用いるスパッタリング装置の全体構成図である。図1で示すように、本実施形態に用いるスパッタリング装置は、直流式のスパッタリング電源1に接続されたスパッタリングユニット2と、白金担持体としてのカーボン粉末を収容する回転バレル3と、回転バレル3の内部を真空に保持する真空排気装置4とを備えた回転バレル式の装置である。
【0011】
回転バレル3は、駆動ロール5aおよび従動ロール5bで支持されている。駆動ロール5aは、駆動モーター5からの動力を受けて、回転バレル3を水平軸回りに回転させることができる。スパッタリングユニット2は、真空シール型軸受け1aで気密保持されたアーム1bによって回転バレル3の中に装入されており、回転バレル3の軸方向長さより若干短い白金プレート6を斜め下向きに配置している。この気密保持されたアーム1bの中には、白金プレート冷却水通路入口1c、白金プレート冷却水通路出口1dおよびアルゴンガス入口1eが内蔵されている。真空排気装置4は、真空シール型軸受け4aによって気密保持されている。
【0012】
次に、図2および図3を参照しながら、図1のスパッタリングユニット2および回転バレル3の詳細な構成について説明する。図2は、図1のスパッタリングユニット2および回転バレル3の部分断面図である。また、図3は、図2のスパッタリングユニット2の拡大断面図である。
【0013】
図2に示すように、スパッタリングユニット2は、回転バレル3に対して同心円状に作製した半円筒状ケーシング2aを備えている。半円筒状ケーシング2aの内部には、補強プレート2bが設けられており、このプレートにより内部空洞は空洞部2cおよび2dに二分されている。空洞部2cおよび2dには、粉末7が充填されている。回転バレル3を回転させると、カーボン粉末は回転バレル3の内周面に付着した状態で上方に移動し、やがて重力によって半円筒状ケーシング2a上に落下する。粉末7は、半円筒状ケーシング2a上に落下したカーボン粉末が、マグネット6bの磁力で付着しまたは堆積するのを低減する目的で用いられるものである。粉末7としては、具体的に、非磁性かつ導電率が1.2以上で、平均粒径が50μm以上300μm未満のオーステナイト系ステンレス鋼である。非磁性かつ導電率が1.2以上のオーステナイト鋼としては、例えば、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS304L、SUS305、SUS309、SUS309S、SUS310、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS317L、SUS321、SUS330やSUS347などがある。本実施形態では、粉末7として、ガスアトマイズ法で製造したこれら市販の球状粉末を、平均粒径が50μm以上300μm未満の範囲に分級したものを使用する。
【0014】
また、図2に示すように、スパッタリングユニット2は、白金プレート6を備えている。スパッタリングユニット2は、白金プレート6の表面が回転バレル3の回転中心Cよりも遠い位置になるように配置されている。このような配置により、回転バレル3の回転時に半円筒状ケーシング2a上からこぼれ落ちたカーボン粉末が、マグネット6bの磁力で白金プレート6へ付着するのを防止している。
【0015】
また、図3に示すように、半円筒状ケーシング2aの両端縁部には、取付け金具2eを介してハウジング2fが固定されている。ハウジング2fは、両側縁に支持プレート2gを垂直下方に突出させている。取付け金具2eには絶縁材が組み込まれ、支持プレート2gは絶縁性の材料で作製されている。取付け金具2eと支持プレート2gとによって、バッキングプレート6aとハウジング2fとは電気的に遮断されている。また、支持プレート2gの外側には、付着防止スカート8が設けられている。付着防止スカート8は、マグネット6bの磁力の影響による白金プレート6へのカーボン粉末の付着を防止する目的で用いられるものである。付着防止スカート8は、ポリテトラフルオロエチレンといった絶縁性と耐熱性とを備える材料で作製されている。
【0016】
また、図3に示すように、バッキングプレート6aは、支持プレート2gによって挟持されている。バッキングプレート6aは、スパッタリング中に昇温する白金プレート6を冷却するために、銅や銅合金などの熱伝導性の良い材料で作製されている。バッキングプレート6aの裏側には、マグネット6bを収容する複数の凹部が形成されている。バッキングプレート6aの表側には、取付け金具6dによって白金プレート6が取り付けられている。また、バッキングプレート6aには、マグネット6bから外部に磁束が漏えいしないように、磁気シールド6cが組み込まれている。バッキングプレート6aの表側には、プラズマを発生させる時の対極になるシールドカバー6eがバッキングプレート6aと所定の距離を保って取り付けられている。また、バッキングプレート6aの裏側には、バッキングプレート6a、サイドプレート6fおよびフロントプレート6gによって囲まれた冷却水通路2hが配置されている。サイドプレート6fは、絶縁体6hを介してバッキングプレート6aに固定されている。
【0017】
図2に戻り、回転バレル3内には、カーボン粉末を撹拌するための撹拌翼9が配置されている。撹拌翼9は、回転バレル3の底部に集まるカーボン粉末が凝集するのを防止する目的で用いられるものである。撹拌翼9は、図1に示した真空シール型軸受け9aによって気密保持され、同図に示す撹拌モーター9bで、回転バレル3の回転軸を中心に±αの角度の範囲内を揺動することによってカーボン粉末の凝集を防止する。撹拌翼9の材質としては、銅またはSUS304オーステナイト系ステンレス鋼が好適に用いられる。本実施形態では、撹拌翼9として、5mm径の銅棒を使用するが、銅の代わりにSUS304オーステナイト系ステンレス鋼を用いてもよく、その径は3mm以上10mm以下であればよく、その形状も真球状、粒状、塊状、破砕状、多孔質状、凝集状、フレーク状、スパイク状、フィラメント状、ファイバー状またはウイスカー状のものが使用でき、カーボン粉末の形状、流動性や嵩密度などの特性に合わせて、バドル翼、スクリュー翼、ブラシ翼、櫛翼または螺旋翼なども使用できる。
また、本実施形態では、撹拌翼9の揺動角度(±α)は30度とするが、45度以下であればよい。揺動速度は、2往復/分間に設定するが、1〜3往復/分間であればよい。揺動角度および揺動速度は、カーボン粉末の凝集状態に応じて適宜調節可能である。また、撹拌翼9を間欠的に揺動させてもよい。
【0018】
[実施の形態の特徴]
スパッタリング電源1からバッキングプレート6aを介して白金プレート6に直流電位を印加すると、グロー放電によりアルゴン原子がプラズマ状態に励起される。そして、プラズマ状態のアルゴン原子が白金プレート6に衝突することにより白金粒子が叩き出される。叩き出された白金粒子は、回転バレル3内を飛散してカーボン粉末の表面に担持される。上記スパッタリング装置は、このようなスパッタリング時に、回転バレル3や撹拌翼9を作動させるので、回転バレル3内のカーボン粉末は撹拌等されている。従って、叩き出された白金粒子は、カーボン粉末の表面にほぼ均一に担持される。
【0019】
ところで、カーボン粉末に担持させる白金粒子の微細化は、白金の重量当たりの表面積を増やして三相界面の実効面積を増加でき、燃料電池の性能を向上できるので望ましい。また、白金担持密度を上げることは、この実効面積の増加に直結し、燃料電池の性能向上に繋がるので望ましい。しかしながら、カーボン粉末の表面には官能基が多数存在するので、回転バレル3の回転時にこれらが相互作用し、カーボン粉末が凝集(二次凝集)してしまう。カーボン粉末が凝集すれば、白金粒子の担持可能面積が減少する。つまり、狭いカーボン表面に白金粒子が担持されることになるので、カーボンに担持された白金粒子に更に白金粒子が結合等した結果、白金の粒径が増大する可能性がある。また、白金粒子の担持可能面積が減少すれば、それだけ白金粒子が担持されにくくなるので、白金の担持密度が低下する可能性もある。
【0020】
本発明者らは、この問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、担持される白金粒子の粒径がカーボン粉末の比表面積と相関があり、比表面積が300m/g以下のカーボン粉末を用いることで、微細化された白金粒子を担持できることを見出した。
【0021】
この知見に関して、図4を参照しながら説明する。図4は、カーボン比表面積(m/g)と白金の結晶子サイズ(nm)との関係を示したグラフである。図4のグラフは、上記スパッタリング装置の回転バレル内に、比表面積の異なる3つのカーボン粉末を投入してそれぞれスパッタリングし、その後、XRD測定することにより結晶子サイズを測定することで作成したものである。
具体的なカーボンとしては、比表面積254m/gの商品名VulcanXC−72(実施例1)、比表面積800m/gの商品名KetchenEC300J(比較例1)および比表面積1270m/gの商品名KetchenEC600J(比較例2)を使用した。
【0022】
また、主要なスパッタ条件は次のとおりである。
・スパッタリング電源:直流
・スパッタ出力:0.05kW
・バレル回転数:1rpm
・使用ガス:アルゴン
・バレル内真空度:1×10−torr
・仕込みカーボン量:10g
【0023】
また、XRD測定装置および測定条件は次のとおりである。
・装置:スペクトリス製X’PertPRO
・ターゲット:Cu(波長1.541Å)
・X線出力:45kV−40mA
・単色化(CuKα):Niフィルター法
・光学系:集中光学系
・ゴニオメーター半径:240mm
・検出器:半導体アレイ検出器
・スキャン方法:連続法
・走査軸:2θ−θ(対称反射法)
・ステップ:2θ=0.008356°
・平均時間/ステップ:29.845sec
・スキャン範囲:2θ=4.0°〜90°
・固定発散スリット:1/2°
・試料回転速度:60rpm
【0024】
XRDにより同定した結晶子サイズは、それぞれ3.8nm(実施例1)、5.6nm(比較例1)および5.6nm(比較例2)であった。即ち、図4に示すように、白金粒子の結晶子サイズは、カーボン比表面積が狭くなる程小さくなる傾向を示し、カーボン比表面積が300m/g以下となると、結晶子サイズが4nm以下の白金粒子を担持できた。その理由の詳細は不明であるが、カーボンの比表面積が狭くなれば、その表面の官能基数を少なくでき、特に、比表面積が300m/g以下のカーボンを用いたことで、バレル回転時のカーボンの凝集を良好に抑制できたためであると考えられる。
【0025】
また、それぞれの白金担持密度(白金重量/カーボン重量)をICP−MSによって測定したところ、それぞれ28.6wt%(実施例1)、27.9wt%(比較例1)および27.8wt%(比較例2)であった。このことから、上記スパッタリング装置の回転バレル内に、比表面積300m/g以下のカーボン粉末を投入してスパッタリングすれば、微細化した白金粒子を高担持できることが分かった。
【符号の説明】
【0026】
1 スパッタリング電源
1a 真空シール型軸受け
1b アーム
1c 白金プレート冷却水通路入口
1d 白金プレート冷却水通路出口
1e アルゴンガス入口
2 スパッタリングユニット
2a 半円筒状ケーシング
2b 補強プレート
2c,d 空洞部
2e 金具
2f ハウジング
2g 支持プレート
2h 冷却水通路
3 回転バレル
4 真空排気装置
5 駆動モーター
5a 駆動ロール
5b 従動ロール
6 白金プレート
6a バッキングプレート
6b マグネット
6c 磁気シールド
6d 金具
6e シールドカバー
6f サイドプレート
6g フロントプレート
6h 絶縁体
7 粉末
8 付着防止スカート
9 撹拌翼
9a 真空シール型軸受け
9b 撹拌モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が真空に保持された回転バレルと、前記回転バレル内に配置したターゲットユニットと、前記ターゲットユニットに接続されプラズマを発生可能なスパッタリング電源と、を備えたスパッタリング装置を用いた電極触媒の製造方法であって、
前記回転バレル内に比表面積300m/g以下のカーボン粉末を収納すると共に、前記ターゲットユニット内に白金プレートを設置して、前記回転バレルを回転させつつ前記スパッタリング電源によりプラズマを発生させて、前記白金プレートの白金を前記カーボン粉末にスパッタリングすることを特徴とする電極触媒の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−182066(P2012−182066A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45270(P2011−45270)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000136561)株式会社フルヤ金属 (48)
【Fターム(参考)】