説明

電気光学装置、その駆動方法、データ線駆動回路、信号処理回路および電子機器

【課題】階調データに対するD/A変換の分解能に拘わらず各画素の階調を高精度に補正する。
【解決手段】データ線駆動回路3は複数の信号処理回路30を備える。各信号処理回路30は、階調データDgから階調信号Sgを生成する第1DAC31と、補正データDhから補正信号Shを生成する第2DAC32と、階調信号Sgと補正信号Shとを合成してデータ信号を生成する合成回路36とを有する。第1DAC31と第2DAC32とは分解能が異なる。また、第2DAC32の分解能は分解能調整信号Scに応じて変更される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画素の階調を補正する電気光学装置、その駆動方法、データ線駆動回路、信号処理回路および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
各画素の階調を補正する技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、各画素の階調を指定する階調データに対して補正データを加算したうえでD/A変換することによって、各画素の階調を調整する技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−307424号公報(段落0008および図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この構成においては、階調データと補正データとの加算値からひとつのD/A変換器によってデータ信号が生成されるため、補正データに応じたデータ信号の補正量の最小値が、階調データをD/A変換するときの分解能(デジタルデータの最下位ビット(LSB)が変化したときのアナログ信号の変化量)に制約されるという問題がある。すなわち、階調データからアナログのデータ信号を生成するためにD/A変換器に設定された分解能よりも小さい補正量だけデータ信号を補正することはできない。もちろん、より多数のビットのデジタルデータに対応できるD/A変換器を採用してその分解能を向上させれば補正量の最小値も低減されるから、各画素の階調値を高精度に補正することも可能である。しかしながら、この場合には、D/A変換器の回路規模の肥大化やこれに伴なう製造コストの増大といった新たな問題が生じ得る。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、階調データに対するD/A変換の分解能に拘わらず、各画素の階調を高精度に補正することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明に係る信号処理回路は、電気光学素子(すなわち画素)の階調を制御するデータ信号を生成する信号処理回路であって、電気光学素子の階調を指定する階調データから階調信号を生成する第1のD/A(Digital to Analog)変換手段と、階調信号に対する補正値を示す補正データを記憶する記憶手段と、第1のD/A変換手段とは分解能が異なり、記憶手段に記憶された補正データから補正信号を生成する第2のD/A変換手段と、第1のD/A変換手段が生成した階調信号と第2のD/A変換手段が生成した補正信号とを合成してデータ信号を生成する合成手段とを具備する。
【0006】
なお、D/A変換手段の「分解能」とは、このD/A変換手段に入力されたデジタルデータの最下位ビットが変化したときのアナログ信号の変化量、すなわち、D/A変換手段から出力されるアナログ信号の変化量の最小値を意味する。D/A変換手段の分解能が高いほど、そのD/A変換手段から出力されるアナログ信号の変化量の最小値は小さい。また、本発明における「電気光学素子」とは、電気的なエネルギおよび光学的なエネルギの一方を他方に変換する性質を備えた素子である。このような素子の典型例としては、有機EL(Electro Luminescence)や発光ポリマーなどのOLED(Organic Light Emitting Diode)素子が挙げられるが、本発明が適用され得る範囲はこれに限定されない。
【0007】
この構成によれば、第1のD/A変換手段によって階調データから階調信号が生成される一方、第1のD/A変換手段とは分解能が異なる第2のD/A変換手段によって補正データから補正信号が生成されるから、階調データをD/A変換するときの分解能と補正データをD/A変換するときの分解能とを任意に選定することができる。したがって、階調データに対するD/A変換の分解能に拘わらず、各電気光学素子の階調を高精度に補正することができる。
【0008】
本発明における記憶手段としては、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)など各種のメモリが採用される。ROMを記憶手段として採用した場合には、例えば電気光学装置の製造時に補正データを予め記憶手段に書き込むことにより、その後に記憶手段の記憶内容を更新する必要がないという利点がある。一方、RAMを記憶手段として採用すれば、例えば電気光学装置の各部の特性(例えば電気光学素子の特性や第1および第2のD/A変換手段の特性)が経時的に変化した場合であっても、その特性の変化に合わせて記憶手段の補正データを更新することにより、各電気光学素子の階調について常に最適な補正を実施することができるという利点がある。
【0009】
より具体的な態様において、合成手段は、第1のD/A変換手段が生成した階調信号と第2のD/A変換手段が生成した補正信号とを加算する加算手段を備える(図5、図9および図13参照)。この態様によれば、簡素な構成によってデータ信号を生成することができる。この態様は、例えば、第1のD/A変換手段および第2のD/A変換手段が、ともに、電流信号および電圧信号の何れかを生成する構成にて採用される。すなわち、この構成は、第1のD/A変換手段が階調データに応じた電流信号を階調信号として生成するとともに第2のD/A変換手段が補正データに応じた電流信号を補正信号として生成する構成や、第1のD/A変換手段が階調データに応じた電圧信号を階調信号として生成するとともに第2のD/A変換手段が補正データに応じた電圧信号を補正信号として生成する構成である。
【0010】
また、さらに他の態様において、第1のD/A変換手段は、階調データに応じたパルス幅の階調信号を生成し、第2のD/A変換手段は、補正データに応じたパルス幅の補正信号を生成し、合成手段は、第1の期間(例えば図14の期間T1)にて階調信号を出力するとともに、第1の期間に連なる第2の期間(例えば図14の期間T2)にて補正信号を出力する。換言すると、合成手段は、階調信号と補正信号とを時分割多重することによって(すなわち階調信号と補正信号とを時間軸上にて連結することによって)データ信号を生成する。
【0011】
他の態様において、合成手段は、第1のD/A変換手段が生成した階調信号と第2のD/A変換手段が生成した補正信号とを乗算する乗算手段を備える。例えば、第1のD/A変換手段が、階調データに応じたレベルの電流信号または電圧信号を階調信号として生成し、第2のD/A変換手段が、補正データに応じたパルス幅の補正信号を生成する構成において、合成手段は、第1のD/A変換手段が生成した階調信号を、補正信号のパルス幅に応じた期間にてデータ信号として出力する(図17参照)。もっとも、合成手段が階調信号と補正信号とを合成するための構成はこれに限られない。
【0012】
本発明に係る信号処理回路は、例えば各々がデータ線に対応するように配列されてデータ線駆動回路を構成する。すなわち、このデータ線駆動回路は、複数の走査線と複数のデータ線との各交差に対応して複数の電気光学素子が配列された電気光学装置のデータ線駆動回路であって、各々がデータ線にデータ信号を供給する複数の信号処理回路を具備し、各信号処理回路は、電気光学素子の階調を指定する階調データから階調信号を生成する第1のD/A変換手段と、階調信号に対する補正値を示す補正データを記憶する記憶手段と、第1のD/A変換手段とは分解能が異なり、記憶手段に記憶された補正データから補正信号を生成する第2のD/A変換手段と、第1のD/A変換手段が生成した階調信号と第2のD/A変換手段が生成した補正信号とを合成してデータ信号を生成する合成手段とを備える。このデータ線駆動回路においても、本発明の信号処理回路について上述した理由により、階調データに対するD/A変換の分解能に拘わらず、各電気光学素子の階調を高精度に補正することができる。
【0013】
例えば、各電気光学素子が複数の表示色の何れかにて発光する電気光学装置においては各表示色の電気光学素子の特性が相違する可能性があるものの、本発明に係るデータ線駆動回路によれば、このような表示色ごとの特性の相違を補正して良好なホワイトバランスを維持することができる。また、データ線駆動回路における各信号処理回路の特性がばらついている場合であっても、補正データを適宜に選定することによってそのばらつきを補償することができる。さらに、同じ型式の電気光学装置であっても製造上の事情によって各々の特性は相違し得るが、本発明のデータ線駆動回路によれば、このような各電気光学装置の特性のばらつきを補償して総ての電気光学装置について良好な表示品位を実現することができる。
【0014】
このデータ線駆動回路の望ましい態様において、各信号処理回路における第2のD/A変換手段は、供給される分解能調整信号に応じて分解能が変化する。この態様によれば、分解能調整信号に応じて第2のD/A変換手段の分解能が調整されるから、分解能調整信号を適宜に選定することによって電気光学素子の階調に対する補正の態様を任意に調整することができる。なお、分解能調整信号を各信号処理回路における第2のD/A変換手段に供給する供給手段を設けた構成としてもよい。この供給手段は、利用者による操作に応じた分解能調整信号を生成して各信号処理回路に出力する。この態様によれば、利用者は、電気光学装置によって表示された画像を実際に確認しながら階調特性を調整することができる。
【0015】
なお、特にOLED素子などの電気光学素子は表示色ごとに特性が相違する場合がある。そこで、分解能調整信号は表示色ごとに供給されることが望ましい。すなわち、この態様において、複数の信号処理回路のうち一の表示色に対応する信号処理回路における第2のD/A変換手段は、第1の分解能調整信号に応じて分解能が変化し、複数の信号処理回路のうち他の表示色に対応する信号処理回路における第2のD/A変換手段は、第1の分解能調整信号とは異なる第2の分解能調整信号に応じて分解能が変化する。この態様によれば、各分解能調整信号に応じて各表示色に対応する第2のD/A変換手段の分解能が調整されるから、表示色ごとの特性の相違を補償して良好な表示品位が実現される。なお、各分解能調整信号は複数の表示色の各々について別個の信号とされてもよいが、ひとつ分解能調整信号が2種類以上の各表示色について共用されてもよい。例えば、各電気光学素子が赤色と緑色と青色との何れかに対応する構成のもとでは、このうちの2色に対応する信号処理回路における第2のD/A変換手段の分解能が第1の分解能調整信号によって調整されるとともに他の1色に対応する第2のD/A変換手段の分解能が第2の分解能調整信号によって調整される構成としてもよい。
【0016】
第2のD/A変換手段の具体的な態様を、特に分解能調整信号との関係に着目して例示すれば以下の通りである。
まず、第1の態様において、第2のD/A変換手段(図4に示される第2DAC32aに相当する)は、分解能調整信号のレベルを基準として各々が別個の重み値にて重み付けされた複数の電流を生成する電流源(各トランジスタ41)と、複数の電流を補正データに応じて選択する選択回路(各スイッチ43)とを備え、選択回路が選択した電流に基づいて補正信号を生成する。この態様においては、電流源によって生成される複数の電流の各々が分解能調整信号のレベルに応じて調整される。したがって、分解能調整信号のレベルを適宜に調整することにより、第2のD/A変換手段の分解能を任意に調整することができる。
第2の態様において、第2のD/A変換手段(図7に示される第2DAC32bに相当する)は、分解能調整信号のレベルを基準として複数の電圧を生成する電圧生成回路と、複数の電圧の何れかを補正データに応じて選択する選択回路(各スイッチ53)とを備え、選択回路が選択した電圧に基づいて補正信号を生成する。この態様においては、階調電圧生成回路によって生成される複数の階調電圧の各々が分解能調整信号のレベルに応じて調整される。したがって、分解能調整信号のレベルを適宜に調整することにより、第2のD/A変換手段の分解能を任意に調整することができる。
第3の態様において、分解能調整信号はクロック信号であり、第2のD/A変換手段(図11に示される第2DAC32cに相当する)は、分解能調整信号の周期を基準として各々が別個の重み値にて重み付けされたパルス幅を有する複数のパルス信号を生成するパルス信号生成回路と、複数のパルス信号の何れかを補正データに応じて選択する選択回路(スイッチ63)とを備え、選択回路が選択したパルス信号に基づいて補正信号を生成する。この態様においては、パルス信号生成回路によって生成される複数のパルス信号の各々のパルス幅が分解能調整信号の周期に応じて調整される。したがって、分解能調整信号の周期を適宜に調整することにより、第2のD/A変換手段の分解能を任意に調整することができる。
【0017】
本発明に係るデータ線駆動回路は、電気光学装置の各データ線にデータ信号を供給するための回路として採用される。この電気光学装置は、複数の走査線と複数のデータ線との各交差に対応して配列された複数の電気光学素子と、複数の走査線の各々を順次に選択する走査線駆動回路と、各々がデータ線にデータ信号を供給する複数の信号処理回路を含むデータ線駆動回路とを具備し、各信号処理回路は、電気光学素子の階調を指定する階調データから階調信号を生成する第1のD/A変換手段と、階調信号に対する補正値を示す補正データを記憶する記憶手段と、第1のD/A変換手段とは分解能が異なり、記憶手段に記憶された補正データから補正信号を生成する第2のD/A変換手段と、第1のD/A変換手段が生成した階調信号と第2のD/A変換手段が生成した補正信号とを合成してデータ信号を生成する合成手段とを備える。この電気光学装置によれば、本発明の信号処理回路やデータ線駆動回路について上述したように、階調データに対するD/A変換の分解能に拘わらず各電気光学素子の階調を高精度に補正することができるから、表示品位を高い水準に維持することができるという利点がある。この電気光学装置は、典型的には各種の電子機器の表示装置として採用される。
【0018】
また、本発明は、電気光学装置を駆動するための方法としても特定される。すなわち、この方法は、各々がデータ信号に応じた階調となる複数の電気光学素子が配列された電気光学装置を駆動する方法であって、電気光学素子の階調を指定する階調データから第1のD/A変換によって階調信号を生成し、記憶手段に記憶された補正データから、第1のD/A変換とは分解能が異なる第2のD/A変換によって補正信号を生成し、第1のD/A変換によって生成した階調信号と第2のD/A変換によって生成した補正信号とを合成してデータ信号を生成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<1.電気光学装置>
まず、電気光学素子としてOLED素子を利用した電気光学装置に本発明を適用した形態を説明する。図1は、本実施形態に係る電気光学装置の構成を示すブロック図である。同図に示されるように、電気光学装置Dは、画像を表示する電気光学パネル1と、この電気光学パネル1を駆動する走査線駆動回路2およびデータ線駆動回路3とを有する。このうち電気光学パネル1は、X方向(行方向)に延在して走査線駆動回路2に接続された合計m本の走査線12と、X方向に直交するY方向(列方向)に延在してデータ線駆動回路3に接続された合計n本のデータ線13とを有する。走査線12とデータ線13との各交差には画素回路Gが配置される。したがって、これらの画素回路Gは、X方向およびY方向にわたって縦m行×横n列のマトリクス状に配列する。各画素回路Gは、赤色(R)、緑色(G)および青色(B)の何れかの表示色にて発光するOLED素子を有する。本実施形態においては、同一色の画素回路GがY方向に配列された構成(いわゆるストライプ配列)を例示する。
【0020】
走査線駆動回路2は、各走査線12を順次に選択するための回路である。より具体的には、走査線駆動回路2は、水平走査期間ごとに順番にアクティブレベルとなる走査信号Y1、Y2、……、Ymを各走査線12に対して出力する。一方、データ線駆動回路3は、各画素回路Gが表示すべき階調に応じたデータ信号X1、X2、……、Xnを、各走査線12が選択されている期間において各データ線13に出力する。走査線駆動回路2によって選択されている走査線12に対応した各画素回路GのOLED素子は、データ線13を介して供給されるデータ信号Xj(jは1≦j≦nを満たす整数)に応じた輝度にて発光する。なお、図1においては、走査線駆動回路2およびデータ線駆動回路3を電気光学パネル1と別個の要素とされた構成を例示したが、走査線駆動回路2およびデータ線駆動回路3が電気光学パネル1に搭載(内蔵)された構成としてもよい。
【0021】
図2は、データ線駆動回路3の構成を示すブロック図である。同図に示されるように、データ線駆動回路3は、各々が異なるデータ線13に対応した合計n個の信号処理回路30を有する。第j列目の信号処理回路30は、階調データDgに応じたデータ信号Xjを生成してデータ線13に出力する回路である。階調データDgは、各画素回路GにおけるOLED素子の輝度(階調)を指定する、例えば8ビットのデジタルデータであり、電気光学装置Dが搭載された電子機器のCPUなど外部の機器からデータ線駆動回路3に供給される。なお、図2においては、第1列目の信号処理回路30についてのみ詳細な構成が図示されているが、その他の信号処理回路30も同様の構成である。以下では、第1列目の信号処理回路30の構成を説明し、その他の信号処理回路30の説明を兼ねるものとする。
【0022】
図2に示される第1DAC(Digital to Analog Converter)31および第2DAC32は、デジタルデータをアナログ信号に変換するための手段である。このうち第1DAC31は、外部の機器から供給されるデジタルの階調データDgをアナログの階調信号Sgに変換する。一方、第2DAC32の前段にはメモリ34が配設される。本実施形態におけるメモリ34は、補正データDhを記憶するRAMである。補正データDhは、階調信号Sgに対して施されるべき補正の程度(補正量)を示す8ビットのデジタルデータであり、外部の機器から各信号処理回路30に供給されてメモリ34に書き込まれる。さらに詳述すると、補正データDhは、電気光学装置Dの電源が投入された直後のタイミングや、水平帰線期間や垂直帰線期間といったブランキング期間内のタイミングにて供給されてメモリ34に書き込まれる。第2DAC32は、メモリ34に記憶された補正データDhをアナログの補正信号Shに変換する。また、合成回路36は、第1DAC31が生成した階調信号Sgと第2DAC32が生成した補正信号Shとを合成してデータ信号X1を生成する。したがって、データ信号X1は、階調データDgに応じた階調信号Sgを補正データDhに応じた補正信号Shに基づいて補正した信号となる(他のデータ信号X2ないしXnも同様である)。
【0023】
図2に示されるように、データ線駆動回路3には、それぞれ異なる表示色に対応した3系統の分解能調整信号Sc(Sc-r、Sc-gおよびSc-b)が外部の機器から供給される。分解能調整信号Sc-rは赤色の画素回路Gに対応した信号処理回路30の第2DAC32に供給され、分解能調整信号Sc-gは緑色の画素回路Gに対応した信号処理回路30の第2DAC32に供給され、分解能調整信号Sc-bは青色の画素回路Gに対応した信号処理回路30の第2DAC32に供給される。これらの分解能調整信号Scは、第2DAC32の分解能を調整するための信号である。本明細書におけるDAC(第1DAC31および第2DAC32)の「分解能」とは、デジタルデータの最下位ビットが変化したときのアナログ信号の変化量、すなわち当該DACから出力されるアナログ信号の変化量の最小値を意味する。すなわち、第1DAC31の分解能とは、階調データDgの最下位ビットが変化したときの階調信号Sgの変化量を意味し、第2DAC32の分解能とは、補正データDhの最下位ビットが変化したときの補正信号Shの変化量を意味する。本実施形態においては、第2DAC32に入力された分解能調整信号Scに応じて、第1DAC31の分解能とは無関係に当該第2DAC32の分解能が調整される。したがって、第2DAC32の分解能と第1DAC31の分解能とは相違し得る。このように分解能調整信号Scに応じて第2DAC32の分解能が調整されると、第1DAC31が生成した階調信号Sgに施される補正の特性は変化する。すなわち、本実施形態においては、階調信号Sgに対する補正の特性が、補正データDhおよび分解能調整信号Scの双方に応じて決定される。さらに詳述すると、分解能調整信号Scは、複数の画素回路Gが配列された電気光学パネル1の全体にわたる階調特性を表示色ごとに調整するための要素であり、補正データDhは、これらの画素回路Gの階調特性を各列ごとに個別に調整するための要素である。
【0024】
このように、本実施形態においては、第1DAC31から独立して分解能が選定された第2DAC32によって補正データDhから補正信号Shが生成されるから、階調データDgと補正データDhとの加算後にD/A変換が実行される従来の技術と比較して、各画素回路Gの階調を高精度に補正することができる。例えば、第2DAC32の分解能を第1DAC31の分解能よりも高く設定すれば、階調信号Sgのレベルの変化量の最小値よりも充分に小さい補正量だけ階調信号Sgを調整することができる。換言すると、最適な補正のために第2DAC32に要求される分解能とは無関係に第1DAC31の分解能を選定することができるから、補正のための分解能を充分に高める場合であっても、第1DAC31の分解能については階調データDgから所期の階調信号Sgが得られる程度とすれば足りる。したがって、本実施形態によれば、第1DAC31について回路規模の肥大化や回路構成の煩雑化を抑制しながら高精度の補正を実現することができる。
【0025】
また、本実施形態においては、第2DAC32の分解能を分解能調整信号Scによって調整することができるから、電気光学パネル1の全体にわたる階調特性を効率よく調整することができる。特に本実施形態においては、各々が異なる表示色に対応する3系統の分解能調整信号Sc(Sc-r、Sc-gおよびSc-b)に応じて各表示色の信号処理回路30における第2DAC32の分解能が調整されるから、表示色ごとに補正の態様を調整することによって電気光学パネル1の全体にわたるホワイトバランスを容易に調整することができる。
【0026】
また、補正データDhを記憶するメモリ34としてRAMが採用されているから、例えば電気光学装置Dの各部の特性(例えば各画素回路Gやこれに含まれるOLED素子の特性、さらには第1DAC31および第2DAC32の特性)が経時的に変化した場合であっても、その変化後の特性に合わせてメモリ34の補正データDhを更新することにより、電気光学パネル1の階調特性について常に最適な補正を実施することができるという利点がある。ただし、メモリ34としてROMを採用してもよい。この場合には、例えば電気光学装置Dの製造時や出荷前に補正データDhを予めメモリ34に書き込むことにより、その後にメモリ34の内容を更新する必要がないという利点がある。
【0027】
<1−2.第1DAC31および第2DAC32の構成>
次に、第1DAC31および第2DAC32の具体的な態様を例示する。
デジタルデータからアナログ信号を出力する回路には、デジタルデータに応じた電流値の電流信号を出力する電流出力型のDACと、デジタルデータに応じた電圧値の電圧信号を出力する電圧出力型のDACと、デジタルデータに応じたパルス幅のパルス信号を出力するパルス出力型のDACとがある。以下では、これらの各DACを第1DAC31および第2DAC32として採用したときの構成とそのときの合成回路36の構成とを説明する。
【0028】
<A:電流出力型DAC>
図3は、電流出力型の第1DACの構成を示す回路図である。同図に示されるように、この第1DAC31aは、階調データDgの各ビットに対応する合計8個のトランジスタ41と、各トランジスタ41のドレイン電極に接続されたスイッチ43とを有する。各トランジスタ41のソース電極は接地される。また、総てのトランジスタ41のゲート電極には予め定められた一定の基準電圧Vrefが印加される。各トランジスタ41の特性(特に閾値電圧)は、各々のゲート電極に共通の基準電圧Vrefが印加されたときに各トランジスタ41に流れる電流A0ないしA7の各々が、2のべき乗を重み値として重み付けされた大きさとなるように選定される。より具体的には、図3に示されるように、第1段目から第8段目までの各トランジスタ41に流れる電流A0ないしA7の比は、「A0:A1:A2:A3:A4:A5:A6:A7=1:2:4:8:16:32:64:128」となる。すなわち、これらのトランジスタ41は、各々が別個の重み値にて重み付けされた複数の電流(A0ないしA7)を生成する電流源として機能する。
【0029】
一方、各スイッチ43のうちトランジスタ41とは反対側の端部は、階調信号Sgが出力される端子Toに対して共通に接続される。各スイッチ43は、階調データDgのうちそのスイッチ43に対応するビットに応じて選択的に開閉される。例えば、第1段目のスイッチ43は、階調データDgのうち最下位ビットが「1」であればオン状態となり、そのビットが「0」であればオフ状態となる。この構成のもと、合計8個のスイッチ43のうち1以上のスイッチ43が階調データDgに応じてオン状態になると、そのスイッチ43に対応する1以上のトランジスタ41に電流が流れ、これらの電流を加算した電流信号が階調信号Sgとして出力端子Toに供給される。
【0030】
次に、図4は、電流出力型の第2DACの構成を示す回路図である。同図の各要素のうち図3の各要素と作用が同様であるものには共通の符号が付されている。図4に示されるように、この第2DAC32aは、各スイッチ43の開閉が補正データDhに応じて制御される点、および、各トランジスタ41のゲート電極に分解能調整信号Sc(Sc-r、Sc-gおよびSc-bの何れか)が共通に供給される点を除いて第1DAC31aと同様の構成となっている。この構成において、合計8個のスイッチ43のうち1以上のスイッチ43が補正データDhに応じてオン状態になると、そのスイッチ43に対応する1以上のトランジスタ41に電流が流れ、これらの電流を加算した電流信号が階調信号Sgとして出力端子Toに供給される。ここで、各トランジスタ41に流れる電流A0ないしA7の各々が別個の重み値にて重み付けされる点は第1DAC31aと同様であるが、第2DAC32aにおいては、この電流の基準となるゲート電極の電圧が分解能調整信号Scのレベルとなっている。したがって、分解能調整信号Scのレベルを調整することによって各トランジスタ41に流れる電流値が変化し(ただし各電流の比は変化しない)、これにより第2DAC32aの分解能が変化する。
【0031】
図5は、電流出力型の第1DAC31aおよび第2DAC32aを採用した信号処理回路30の構成を合成回路36に着目して示すブロック図である。この場合の合成回路36aは、同図に示されるように、第1DAC31aの出力端子Toと第2DAC32aの出力端子Toとを互いに結線した構成となる。したがって、信号処理回路30から出力されるデータ信号Xjは、第1DAC31aから出力された階調信号Sgと第2DAC32aから出力された補正信号Shとを加算した電流信号となる。すなわち、合成回路36aは、階調信号Sgと補正信号Shとを加算するための手段として機能する。このように、第1DAC31aおよび第2DAC32aをともに電流出力型とした場合には、合成回路36aの構成が簡素化されるという利点がある。
【0032】
<B:電圧出力型DAC>
図6は、電圧出力型の第1DACの構成を示すブロック図である。同図に示されるように、この第1DAC31bは、電圧生成回路51と合計256個のスイッチ53とデコーダ55とを有する。このうち電圧生成回路51は、外部の機器から供給される基準電圧Vrefを分圧することによって合計256種類の電圧V0ないし電圧V255を生成する。一方、各スイッチ53の一端は、電圧生成回路51において電圧V0ないし電圧V255が出力される合計256個の出力端子のうちの何れかに接続される。これらのスイッチ53の他端は、階調信号Sgの出力端子Toに対して共通に接続される。デコーダ55は、階調データDgをデコードすることにより、何れかのスイッチ53を択一的にオン状態とする信号を生成する。この構成のもと、階調データDgに応じたスイッチ53がオン状態になると、電圧V0ないし電圧V255のうちそのスイッチ53に対応する電圧が階調信号Sgとして出力端子Toに供給される。
【0033】
次に、図7は、電圧出力型の第2DACの構成を示すブロック図である。同図の各要素のうち図6の各要素と作用が同様であるものには共通の符号が付されている。図7に示されるように、この第2DAC32bは、各スイッチ53の開閉が補正データDhをデコードした結果に応じて制御される点、および、電圧生成回路51に分解能調整信号Scが供給される点を除いて第1DAC31bと同様の構成となっている。この構成において、補正データDhをデコードした結果に応じて何れかのスイッチ53がオン状態になると、そのスイッチ53に対応する電圧(電圧V0ないし電圧V255の何れか)が補正信号Shとして出力端子Toに供給される。
【0034】
ここで、図8は、第2DAC32bのうち電圧生成回路51の具体的な構成を示す回路図である。同図に示されるように、この電圧生成回路51は、端子512と端子513との間に直列に接続された複数の抵抗Rを有し、互いに隣接する抵抗Rの中間点の電位が電圧V0ないし電圧V255として取り出される構成となっている。一方、分解能調整信号Scは、互いに電圧レベルが異なる2種類の信号(Sc1およびSc2)を含んでおり、このうちの一方の信号Sc1が端子512に印加されるとともに他方の信号Sc2が端子513に印加される。したがって、電圧V0ないし電圧V255は分解能調整信号Scのレベルを基準とした電圧となる。すなわち、分解能調整信号Scのレベルを調整することによって電圧V0および電圧V255の各々の電位差が変化し、これにより第2DAC32の分解能が変化する。
【0035】
図9は、電圧出力型の第1DAC31bおよび第2DAC32bを採用した信号処理回路30の構成を特に合成回路36に着目して示すブロック図である。同図に示されるように、この場合の合成回路36bは、双方とも電圧信号である階調信号Sgと補正信号Shとを加算する回路であり、図9に示されるように、正側入力端子が接地されたオペアンプ71と、オペアンプ71の負側入力端子と第1DAC31bおよび第2DAC32bとの間に各々が介挿された2つの抵抗R1およびR2と、オペアンプ71の出力端子と負側入力端子との間に介挿された抵抗R3とを有する。この構成のもと、合成回路36b(より詳細にはオペアンプ71)から出力されるデータ信号Xjは、第1DAC31bから出力された階調信号Sgと第2DAC32bから出力された補正信号Shとを加算した電圧信号となる。
【0036】
<C:パルス出力型DAC>
図10は、パルス出力型の第1DACの構成を示すブロック図である。同図に示されるように、この第1DAC31cは、所定の周期にてレベルの変動を繰り返すクロック信号CLKが入力されるパルス信号生成回路61と、階調データDgの各ビットに対応する合計8個のスイッチ63と、階調信号Sgを出力するOR回路65とを有する。このうちパルス信号生成回路61は、外部の機器から入力されるクロック信号CLKを適宜に分周することによって合計8種類のパルス信号Spw(Spw0ないしSpw7)を生成する回路である。図12に示されるように、各パルス信号Spwは、互いに異なる重み値にて重み付けされたパルス幅を有する信号である。例えば、パルス信号Spw0はクロック信号CLKの周期に等しいパルス幅を有し、パルス信号Spw1はクロック信号CLKの周期の2倍に相当するパルス幅を有し、パルス信号Spw2はクロック信号CLKの4倍に相当するパルス幅を有する。さらに詳述すると、パルス信号Spw0ないしパルス信号Spw7のパルス幅の比は、「Spw0:Spw1:Spw2:Spw3:Spw4:Spw5:Spw6:Spw7=1:2:4:8:16:32:64:128」となっている。また、各パルス信号Spwがアクティブレベル(Hレベル)となる期間は互いに重複しない。
【0037】
各パルス信号Spwはこれに対応するスイッチ63の一端に供給される。各スイッチ63の他端はOR回路65の入力端子に接続される。各スイッチ63は、階調データDgのうちそのスイッチ63に対応するビットに応じて選択的に開閉される。例えば、パルス信号Spw0に対応する第1段目のスイッチ63は、階調データDgのうち最下位ビットが「1」であればオン状態となり、そのビットが「0」であればオフ状態となる。この構成のもと、合計8個のスイッチ63のうち1以上のスイッチ63が階調データDgに応じてオン状態になると、そのスイッチ63に対応するパルス信号SpwがOR回路65に供給され、これらのパルス信号Spwを加算した電圧信号が階調信号Sgとして出力端子Toに供給される。したがって、この階調信号Sgは、階調データDgに応じたパルス幅の信号となる。図12の最下段には、パルス信号Spw0、Spw3およびSpw4が加算された場合(すなわち階調データDgが「00011001」である場合)の階調信号Sgが例示されている。
【0038】
一方、図11は、パルス出力型の第2DACの構成を示すブロック図である。同図の各要素のうち図10の各要素と作用が同様であるものには共通の符号が付されている。図11に示されるように、この第2DAC32cは、各スイッチ63の開閉が補正データDhの各ビットに応じて制御される点、および、パルス信号生成回路61に分解能調整信号Scが供給される点を除いて第1DAC31cと同様の構成となっている。この場合の分解能調整信号Scは、図12に示されるように、所定の周期にてレベルの変動を繰り返すクロック信号である。この構成において、合計8個のスイッチ63のうち補正データDhに応じてオン状態とされたスイッチ63に対応するパルス信号SpwがOR回路65に供給され、これらのパルス信号Spwを加算した補正信号Shが出力端子Toに供給される。したがって、この補正信号Shは、図12の最下段に例示される通り、階調信号Sgと同様に、補正データDhに応じて選択されたパルス信号Spw0、Spw3およびSpw4を加算した電圧信号となる。
【0039】
図13は、パルス出力型の第1DAC31cおよび第2DAC32cを採用した信号処理回路30の構成を特に合成回路36に着目して示すブロック図である。同図に示されるように、この場合の合成回路36cは、第1DAC31cから階調信号Sgが入力されるタイミング調整回路73と、第2DAC32cから補正信号Shが入力されるタイミング調整回路74と、タイミング調整回路73および74からの出力信号の論理和をデータ信号Xjとして出力するOR回路76とを有する。タイミング調整回路73および74は、各々に入力された信号を適宜に遅延させて出力する手段である。さらに詳述すると、図14に示されるように、タイミング調整回路73は、第1DAC31cから供給される階調信号Sgを1水平走査期間の前半の期間T1にてOR回路76に出力する。一方、タイミング調整回路74は、第2DAC32cから供給される補正信号Shを1水平走査期間の後半の期間T2にてOR回路76に出力する。こうしてタイミング調整回路73および74から出力された信号がOR回路76にて加算されることにより、図14に示されるように、1水平走査期間のうち階調データDgおよび補正データDhに応じた期間にわたってアクティブレベルとなる電圧信号がデータ信号Xjとして合成回路36から出力される。なお、図14においては、期間T1と期間T2とが同じ時間長とされた場合を例示したが、各期間の時間長は適宜に調整される。例えば、期間T2は期間T1よりも短い時間長とされる。
【0040】
<1−3.画素回路Gの構成>
以上のように、図2に示した第1DAC31および第2DAC32としては、電流出力型(31aおよび32a)、電圧出力型(31bおよび32b)およびパルス出力型(31cおよび32c)の何れかが採用される。そして、各データ線13に出力されるデータ信号Xjは、第1DAC31および第2DAC32の方式に応じて電流信号および電圧信号の何れかとなる。以下、データ信号Xjが電流信号である態様(すなわち第1DAC31aおよび第2DAC32aがともに電流出力型である態様)における画素回路Gの構成と、データ信号Xjが電圧信号である態様(すなわち第1DAC31と第2DAC32とがともに電圧出力型およびパルス出力型の何れかである態様)における画素回路Gの構成とを説明する。なお、以下では第i行(iは1≦i≦mを満たす整数)に属する第j列目のひとつの画素回路Gの構成を説明するが、総ての画素回路Gの構成は同様である。また、画素回路Gの構成は以下に例示するものに限られない。
【0041】
<A:電流駆動型の画素回路G>
図15は、データ信号Xjが電流信号であるときに採用される画素回路Gaの構成を示す回路図である。同図に示されるように、画素回路Gaは、3個のトランジスタTa1ないしTa4と、容量素子Caと、OLED素子100とを備える。このうちpチャネル型のトランジスタTa1のソース電極は、電源の高位側電位Vddが印加される電源線に接続される。トランジスタTa1のドレイン電極は、pチャネル型のトランジスタTa4のソース電極と、nチャネル型のトランジスタTa2のソース電極と、nチャネル型のトランジスタTa3のドレイン電極とに接続される。トランジスタTa4のゲート電極は走査線12に接続され、そのドレイン電極はOLED素子100の陽極に接続される。OLED素子100の陰極は接地(Gnd)される。容量素子Caの一端はトランジスタTa1のソース電極に接続され、その他端はトランジスタTa1のゲート電極とトランジスタTa2のドレイン電極とに接続される。トランジスタTa2のゲート電極とトランジスタTa3のゲート電極とは走査線12に接続される。また、トランジスタTa3のソース電極はデータ線13に接続される。
【0042】
この構成において、各垂直走査期間のうち第i番目の水平走査期間が到来して走査信号YiがHレベルになると、トランジスタTa2がオン状態になるため、トランジスタTa1はゲート電極とドレイン電極とが互いに接続されたダイオードとして機能する。このとき、トランジスタTa3もオン状態となっているから、データ線13に供給されているデータ信号Xjの電流が電源線からトランジスタTa1およびトランジスタTa3を経由してデータ線13に流れる。したがって、トランジスタTa1のゲート電極に応じた電荷が容量素子Caに蓄積される。この段階においてトランジスタTa4はオフ状態となっているから、OLED素子100に電流は流れない。次に、水平走査期間が経過して走査信号YiがLレベルになると、トランジスタTa2およびトランジスタTa3はともにオフ状態となる一方、トランジスタTa4はオン状態となる。このとき、容量素子Caに保持された電圧がトランジスタTa1のゲート電極に印加されているから、直前の水平走査期間にてデータ線13に流れたデータ信号Xjに対応する電流がトランジスタTa1およびトランジスタTa4を経由してOLED素子100に流れて発光する。このように、OLED素子100は、電流信号たるデータ信号Xjに応じた輝度にて発光する。
【0043】
<B:電圧駆動型の画素回路G>
次に、図16は、データ信号Xjが電圧信号であるとき(ここでは第1DAC31および第2DAC32がともに電圧出力型である場合を想定する)に採用される画素回路Gbの構成を示す回路図である。同図に示されるように、画素回路Gbは、2個のトランジスタTb1およびTb2と、容量素子Cbと、OLED素子100とを備える。このうちpチャネル型のトランジスタTb1のソース電極は、電源の高位側電位Vddが印加される電源線に接続され、そのドレイン電極はOLED素子100の陽極に接続される。OLED素子100の陰極は接地される。また、トランジスタTb1のゲート電極はnチャネル型のトランジスタTb2のドレイン電極に接続される。このトランジスタTb2のゲート電極は走査線12に接続され、そのソース電極はデータ線13に接続される。一方、容量素子Cbの一端はトランジスタTb1のソース電極に接続され、その他端はトランジスタTb1のゲート電極とトランジスタTb2のドレイン電極とに接続される。
【0044】
この構成のもと、各垂直走査期間のうち第i番目の水平走査期間が到来して走査信号YiがHレベルになると、トランジスタTb2がオン状態になるため、データ線13に印加されているデータ信号Xjの電圧に応じた電荷が容量素子Cbに蓄積されるとともに、このデータ信号Xjに応じた電流がOLED素子100に流れて発光する。一方、走査信号YiがLレベルになると、トランジスタTb1はオフ状態となるが、容量素子Cbに保持されている電圧がトランジスタTb1のゲート電極に印加されることにより、直前の水平走査期間にてデータ線13に印加されたデータ信号Xjに応じた電流がトランジスタTb1からOLED素子100に流れて発光する。このように、OLED素子100は、電圧信号たるデータ信号Xjに応じた輝度にて発光する。なお、図16に示した電圧駆動型の画素回路Gbにおいても、図15に示した画素回路Gaと同様に、OLED素子100が実際に発光する期間を規定するためのトランジスタTa4をOLED素子100の陽極とトランジスタTa1のドレイン電極との間に介挿し、そのゲート電極を走査線12に接続した構成としてもよい。
【0045】
ここでは第1DAC31および第2DAC32がともに電圧出力型である場合を想定したが、これらがパルス出力型である場合にも同様の画素回路Gbが採用される。この場合には、第i番目の水平走査期間において、データ信号Xjのパルス幅に応じた電圧が容量素子Cbに保持されるとともにトランジスタTb1のゲート電極に印加され、その水平走査期間が経過した後にも、容量素子Cbに保持された電圧がトランジスタTb1のゲート電極に印加される。したがって、OLED素子100は、データ信号Xjのパルス幅に応じた輝度にて発光する。
【0046】
<2.変形例>
上記各実施形態に対しては種々の変形が加えられ得る。具体的な変形の態様を挙げれば以下の通りである。なお、以下の各態様を適宜に組み合わせた構成も採用され得る。
【0047】
(1)上記実施形態においては、第1DAC31と第2DAC32とが同じ方式のDACとされた構成を例示したが、第1DAC31と第2DAC32とが異なる方式とされた構成も採用される。例えば、図17に示されるように、信号処理回路30が電流出力型の第1DAC31a(あるいは電圧出力型の第1DAC31b)とパルス出力型の第2DAC32cとを備えた構成としてもよい。この構成における合成回路36dは、同図に示されるようにスイッチ78を備える。このスイッチ78の一端は第1DAC31aの出力端子Toに接続され、その他端はデータ線13に接続される。そして、スイッチ78の開閉は、パルス出力型の第2DAC32cから出力される補正信号Shに応じて制御される。すなわち、スイッチ78は、補正信号ShがHレベルであるときにオン状態となり、補正信号ShがLレベルであるときにオフ状態となる。この構成において、第1DAC31aから出力された階調信号Sgは、第2DAC32cから出力される補正信号ShがHレベルとなる期間(すなわち補正データDhに応じて定められたパルス幅に相当する時間)に限ってデータ線13に出力される。すなわち、合成回路36dは、階調信号Sgと補正信号Shとを乗算(階調信号Sgのレベル×補正信号Shのパルス幅)する手段として機能する。したがって、合成回路36dから出力されるデータ信号Xjは、階調信号Sgを補正信号Shによって補正した信号となる。
【0048】
なお、ここでは電流出力型の第1DAC31aまたは電圧出力型の第1DAC31bとパルス出力型の第2DAC32cとを組み合わせた構成を例示したが、この組合せは任意に変更される。例えば、パルス出力型の第1DAC31cと電流出力型の第2DAC32a(あるいは電圧出力型の第2DAC32b)とを組み合わせて信号処理回路30を構成してもよい。この構成における合成回路36は、図17の例と同様に、パルス信号たる階調信号Sgと電流信号(または電圧信号)たる補正信号Shとを乗算する手段として機能する。また、第1DAC31および第2DAC32の方式は電流出力型や電圧出力型やパルス出力型に限られない。要するに、階調データDgや補正データDhといったデジタルデータからアナログ信号を生成する回路であれば、その具体的な態様の如何を問わず第1DAC31および第2DAC32として採用される。
【0049】
(2)上記実施形態においては、各画素に対応する信号処理回路30ごとに独立して補正データDhが供給される構成を例示したが、図18に示されるように、各表示色の信号処理回路30について共通の補正データDhが供給される構成としてもよい。同図において、補正データDh-rは、赤色の画素回路Gに対応する各信号処理回路30のメモリ34に共通に記憶され、補正データDh-gは、緑色に対応する各信号処理回路30のメモリ34に対して共通に供給され、補正データDh-bは、青色に対応する各信号処理回路30のメモリ34に対して共通に供給される。この構成によれば、各表示色の階調特性を効率よく補正して良好なホワイトバランスを維持することができる。なお、図18においては、各信号処理回路30にメモリ34が配置された構成を例示したが、表示色ごとに配置されたメモリが各表示色の信号処理回路30によって共用される構成としてもよい。すなわち、各信号処理回路30にメモリ34を設けることなく、各々が異なる表示色の補正データDh(Dh-r、Dh-gおよびDh-b)を記憶する3つのメモリを配置し、各メモリから出力された補正データDhを各表示色の信号処理回路30における第2DAC32に入力する構成としてもよい。
【0050】
(3)上記実施形態においては電気光学素子としてOLED素子100を適用した電気光学装置Dを例示したが、これ以外の電気光学装置Dにも本発明は適用される。例えば、液晶表示装置、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)や表面伝導型電子放出ディスプレイ(SED:Surface-conduction Electron-emitter Display)、弾道電子放出ディスプレイ(BSD:Ballistic electron Surface emitting Display)、発光ダイオードを用いた表示装置、あるいは光書き込み型のプリンタや電子複写機の書き込みヘッドといった各種の電気光学装置に対しても上記各実施形態と同様に本発明が適用され得る。このように、本発明における電気光学素子とは、電気的なエネルギーおよび光学的なエネルギーの一方を他方に変換する性質を備えた素子であり、この種の電気光学素子を備えた総ての装置に本発明を適用することができる。
【0051】
<3.応用例>
次に、本発明に係る電気光学装置を適用した電子機器について説明する。図19は、上記実施形態に係る電気光学装置Dを表示装置に適用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての電気光学装置Dと本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。この電気光学装置DはOLED素子100を用いるので、視野角が広く見易い画面を表示できる。
【0052】
図20に、上記実施形態に係る電気光学装置Dを適用した携帯電話機の構成を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての電気光学装置Dを備える。スクロールボタン3002を操作することによって、電気光学装置Dに表示される画面がスクロールされる。
【0053】
図21に、上記実施形態に係る電気光学装置Dを適用した情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての電気光学装置Dを備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が電気光学装置Dに表示される。
【0054】
なお、本発明に係る電気光学装置が適用される電子機器としては、図19から図21に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係る電気光学装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】電気光学装置のうちデータ線駆動回路の構成を示すブロック図である。
【図3】電流出力型の第1DACの構成を示す回路図である。
【図4】電流出力型の第2DACの構成を示す回路図である。
【図5】第1DACおよび第2DACを電流出力型としたときの合成回路の構成を示すブロック図である。
【図6】電圧出力型の第1DACの構成を示すブロック図である。
【図7】電圧出力型の第2DACの構成を示すブロック図である。
【図8】電圧出力型の第2DACのうち電圧生成回路の構成を示す回路図である。
【図9】第1DACおよび第2DACを電圧出力型としたときの合成回路の構成を示すブロック図である。
【図10】パルス出力型の第1DACの構成を示すブロック図である。
【図11】パルス出力型の第2DACの構成を示すブロック図である。
【図12】パルス出力型のDACの動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図13】第1DACおよび第2DACをパルス出力型としたときの合成回路の構成を示すブロック図である。
【図14】合成回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図15】電流駆動型の画素回路の構成を示す回路図である。
【図16】電圧駆動型の画素回路の構成を示す回路図である。
【図17】変形例に係る合成回路の構成を示すブロック図である。
【図18】変形例に係る信号処理回路の構成を示すブロック図である。
【図19】本発明を適用したパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図20】本発明を適用した携帯電話機の構成を示す斜視図である。
【図21】本発明を適用した携帯型情報端末の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
D…電気光学装置、G(Ga,Gb)…画素回路、100…OLED素子、1…電気光学パネル、2…走査線駆動回路、3…データ線駆動回路、12…走査線、13…データ線、30…信号処理回路、31(31a,31b,31c)…第1DAC、32(32a,32b,32c)…第2DAC、34…メモリ、36(36a,36b,36c,36d)…合成回路、41…トランジスタ(電流源)、43,53,63…スイッチ(選択回路)、51…電圧生成回路、55…デコーダ、61…パルス信号生成回路、65,76…OR回路、73,74…タイミング調整回路、Dg…階調データ、Dh(Dh-r,Dh-g,Dh-b)…補正データ、Sg…階調信号、Sh…補正信号、Sc(Sc-r,Sc-g,Sc-b)…分解能調整信号、Yi…走査信号、Xj…データ信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学素子の階調を制御するデータ信号を生成する信号処理回路であって、
前記電気光学素子の階調を指定する階調データから階調信号を生成する第1のD/A変換手段と、
階調信号に対する補正値を示す補正データを記憶する記憶手段と、
前記第1のD/A変換手段とは分解能が異なり、前記記憶手段に記憶された補正データから補正信号を生成する第2のD/A変換手段と、
前記第1のD/A変換手段が生成した階調信号と前記第2のD/A変換手段が生成した補正信号とを合成してデータ信号を生成する合成手段と、
を具備する信号処理回路。
【請求項2】
前記合成手段は、前記第1のD/A変換手段が生成した階調信号と前記第2のD/A変換手段が生成した補正信号とを加算する加算手段を備える請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項3】
前記第1のD/A変換手段および前記第2のD/A変換手段は、ともに、電流信号および電圧信号の何れかを生成する請求項2に記載の信号処理回路。
【請求項4】
前記第1のD/A変換手段は、前記階調データに応じたパルス幅の階調信号を生成し、
前記第2のD/A変換手段は、前記補正データに応じたパルス幅の補正信号を生成し、
前記合成手段は、第1の期間にて前記階調信号を出力するとともに、前記第1の期間に連なる第2の期間にて補正信号を出力する
請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項5】
前記合成手段は、前記第1のD/A変換手段が生成した階調信号と前記第2のD/A変換手段が生成した補正信号とを乗算する乗算手段を備える請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項6】
前記第1のD/A変換手段は、前記階調データに応じたレベルの電流信号または電圧信号を階調信号として生成し、
前記第2のD/A変換手段は、前記補正データに応じたパルス幅の補正信号を生成し、
前記合成手段は、前記第1のD/A変換手段が生成した階調信号を、前記補正信号のパルス幅に応じた期間にてデータ信号として出力する、
請求項5に記載の信号処理回路。
【請求項7】
複数の走査線と複数のデータ線との各交差に対応して複数の電気光学素子が配列された電気光学装置のデータ線駆動回路であって、
各々がデータ線にデータ信号を供給する複数の信号処理回路を具備し、
前記各信号処理回路は、
前記電気光学素子の階調を指定する階調データから階調信号を生成する第1のD/A変換手段と、
階調信号に対する補正値を示す補正データを記憶する記憶手段と、
前記第1のD/A変換手段とは分解能が異なり、前記記憶手段に記憶された補正データから補正信号を生成する第2のD/A変換手段と、
前記第1のD/A変換手段が生成した階調信号と前記第2のD/A変換手段が生成した補正信号とを合成してデータ信号を生成する合成手段と
を備えるデータ線駆動回路。
【請求項8】
前記各信号処理回路における第2のD/A変換手段は、供給される分解能調整信号に応じて分解能が変化する請求項7に記載のデータ線駆動回路。
【請求項9】
前記各電気光学素子は、複数の表示色のうちの何れかに対応し、
前記複数の信号処理回路のうち一の表示色に対応する信号処理回路における第2のD/A変換手段は、第1の分解能調整信号に応じて分解能が変化し、
前記複数の信号処理回路のうち他の表示色に対応する信号処理回路における第2のD/A変換手段は、前記第1の分解能調整信号とは異なる第2の分解能調整信号に応じて分解能が変化する、
請求項8に記載のデータ線駆動回路。
【請求項10】
前記第2のD/A変換手段は、分解能調整信号のレベルを基準として各々が別個の重み値にて重み付けされた複数の電流を生成する電流源と、前記複数の電流を前記補正データに応じて選択する選択回路とを備え、前記選択回路が選択した電流に基づいて補正信号を生成する、
請求項8に記載のデータ線駆動回路。
【請求項11】
前記第2のD/A変換手段は、分解能調整信号のレベルを基準として複数の電圧を生成する電圧生成回路と、前記複数の電圧の何れかを前記補正データに応じて選択する選択回路とを備え、前記選択回路が選択した電圧に基づいて補正信号を生成する請求項8に記載のデータ線駆動回路。
【請求項12】
前記分解能調整信号はクロック信号であり、
前記第2のD/A変換手段は、前記分解能調整信号の周期を基準として各々が別個の重み値にて重み付けされたパルス幅を有する複数のパルス信号を生成するパルス信号生成回路と、前記複数のパルス信号の何れかを前記補正データに応じて選択する選択回路とを備え、前記選択回路が選択したパルス信号に基づいて補正信号を生成する、
請求項8に記載のデータ線駆動回路。
【請求項13】
複数の走査線と複数のデータ線との各交差に対応して配列された複数の電気光学素子と、前記複数の走査線の各々を順次に選択する走査線駆動回路と、各々がデータ線にデータ信号を供給する複数の信号処理回路を含むデータ線駆動回路とを具備し、
前記各信号処理回路は、
前記電気光学素子の階調を指定する階調データから階調信号を生成する第1のD/A変換手段と、
階調信号に対する補正値を示す補正データを記憶する記憶手段と、
前記第1のD/A変換手段とは分解能が異なり、前記記憶手段に記憶された補正データから補正信号を生成する第2のD/A変換手段と、
前記第1のD/A変換手段が生成した階調信号と前記第2のD/A変換手段が生成した補正信号とを合成してデータ信号を生成する合成手段と、
を備える電気光学装置。
【請求項14】
請求項13に記載の電気光学装置を備える電子機器。
【請求項15】
各々がデータ信号に応じた階調となる複数の電気光学素子が配列された電気光学装置を駆動する方法であって、
前記電気光学素子の階調を指定する階調データから第1のD/A変換によって階調信号を生成し、
記憶手段に記憶された補正データから、前記第1のD/A変換とは分解能が異なる第2のD/A変換によって補正信号を生成し、
前記第1のD/A変換によって生成した階調信号と前記第2のD/A変換によって生成した補正信号とを合成してデータ信号を生成する
電気光学装置の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−122974(P2008−122974A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302658(P2007−302658)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【分割の表示】特願2004−283631(P2004−283631)の分割
【原出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】