説明

電気化学セル構造および製造方法

【課題】本発明は、電気化学セル及びその製造方法に関する。
【解決手段】電気化学セルは、第1導電層と、該第1導電層上に形成された金属酸化物層と、ここで該金属酸化物層は、お互いに離間する隣接した複数の金属酸化物セルを有し、前記金属酸化物層上に形成された機能色素層と、第2導電層と、前記機能色素層と前記第2導電層との間の電解質と、を含み、前記第1および第2導電層の少なくとも一つが透明である。一実施例として、電気化学セルは、前記第1導電層上に形成され、前記複数の隣接する金属酸化物セルの其々を取り囲む分離手段を更に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル構造および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際エネルギー機関の「世界エネルギー見通し」によれば、全世界の一次エネルギー需要は2000年から2030年まで年率1.7%で増加し、この需要の90%が化石燃料で賄われる事が予測されている。その結果、二酸化炭素は2000年から2030年まで年率1.8%で増加し、2030年には380億トンに達する。この汚染の増加傾向に対する対策として、太陽電池を含む、よりクリーンで再生可能なエネルギー源が長い間待ち望まれていた。最新のシリコン型太陽電池が現在広く市販されているが、高い製造コスト、堅牢性不足、大きな露出面積を必要とすることによる視覚公害を伴うことから、その普及は遅れている。
【0003】
結晶型太陽電池よりも安価に製造できる色素増感太陽電池(DSSC)は、結晶型太陽電池の代替案の一つであるが、結晶型太陽電池に比べて効率が低く、従って、DSSCは実効的な電力源であるためには、かなり広い面積範囲を必要とする。
【0004】
M.グレッツェル等による特許文献1には、代表的なDSSCが開示されている。図1に示すように、DSSC10は、第1透明絶縁層1、第1透明導電性酸化物(TCO)電極層2、二酸化チタン(TiO2)からなる透明金属酸化物層3、増感体(色素)4の単分子層、電解質層5、第2透明導電性酸化物(TCO)電極層6、第2透明絶縁層7から構成されてなる。
【0005】
DSSCは、可視光を直接吸収することにより電荷を発生する。ほとんどの金属酸化物は、電磁スペクトルの紫外域で主に光を吸収するので、増感体(色素)4を金属酸化物層3の表面に吸収し、太陽電池の光吸収域を可視光領域に広げる。
【0006】
金属酸化物層3と増感体(色素)層4が吸収できる光量を増加させるために、金属酸化物層3の少なくともある部分は多孔質に形成され、金属酸化物層3の表面積を増加させる。表面積の増加によって、増感体(色素)層4の増量が図られ、結果的には光吸収が増大してDSSCのエネルギー変換効率を10%以上向上する。
【0007】
エレクトロクロミック表示体(ECD)は比較的新しい電気化学・双安定表示体である。DSSCと応用分野は異なるが、両者は幾つかの物理的特徴を共有し、図1において、増感体(色素)層4をエレクトロクロミック材層に交換したものである。エレクトロクロミック材層は、電流あるいは電圧が装置両端に印加されると可逆性の色変化を呈する。すなわち、酸化状態では透明、還元状態では着色される。
【0008】
第1透明導電性酸化物(TCO)電極層2に十分な負電位が印加され、第2透明導電性酸化物(TCO)電極層6が接地電位に保持されると、電子は金属酸化物層3の伝導帯に注入され、吸着分子を還元する(着色過程)。逆の過程は、第1透明導電性酸化物(TCO)電極層2に正電位が印加されると生じ、分子は消色する(透明となる)。
【0009】
エレクトロクロミック単分子層一層では消色と非消色状態間で色の強いコントラストを与えるに十分な光を吸収できないと思われる。従って、高多孔質、広表面積、のナノ結晶金属酸化物層3が使用され、エレクトロクロモフォをその上に拘束するための広い有効表面積を提供することで、非消色状態での光吸収を促進する。厚い金属酸化物層3を光が通過すると、光は増感体(色素)4で着色された数百の単分子層を横切り、強く吸収される。
【0010】
両電気化学装置の構成は似通っているので、DSSCの製造方法のみを一例として述べる。同様に、本工程は僅かの変更を加えればECDの製造に適用できる。
【0011】
図1に示すDSSC10を製造するために、高粘度ペーストのスクリーン印刷、ドクターブレード法、スパッタリング、スプレーコーティング等の様々な技術のいずれか一つを用いて、金属酸化物層3を第1透明導電性酸化物(TCO)電極層2上に数ミクロンの厚みに形成する。代表的なペーストは、水、あるいは、有機溶剤ベースの金属酸化物、代表的には二酸化チタン(TiO2)、のナノ粒子懸濁液(粒径5〜500nm)、ポリエチレングリコール(PEG)などの粘度改質バインダ、トリトン-Xのような界面活性剤で構成されている。塗布後、ペーストは溶剤を除去するために乾燥され、450℃まで加熱されて焼結される。この高温処理により金属酸化物の粒径と密度が変わり、ポリエチレングリコール(PEG)などの有機バインダ成分が確実に除去されて、良好な導電経路と良好に規定された材料多孔性が提供される。また、焼結により金属酸化物粒子3と第1透明導電性酸化物(TCO)電極層2の間に良好な電気的導通が与えられる。
【0012】
乾燥および冷却後、多孔質金属酸化物層3を低濃度(51mM)増感体(色素)液に一定時間、通常24時間、浸漬することにより増感体(色素)4を塗布し、増感体(色素)4が、カルボン酸誘導体によって構成される事が多い機能配位子構造を介して金属酸化物層3上に吸収されるようにする。水系溶媒は増感体(色素)4の金属酸化物層3表面上への吸収を阻害するため、この工程の代表的な溶液として、アセトニトリルあるいはエタノールが使用される。
【0013】
多孔質金属酸化層3と、その上に形成された増感体(色素)層4を有する第1透明導電性酸化物(TCO)電極層2は、次に第2透明導電性酸化物(TCO)電極層6に組付けられる。電解質層5を満たす前に、電極層2および6は周辺スペーサ誘電体カプセル材料を挟持して重ね合わされ、少なくとも10μmの電極間ギャップを形成する。スペーサ材料は、通常はカプセル封止をする熱可塑性材料である。有機溶剤中にヨウ化物/三ヨウ化物塩を含むのが最も一般的である電解質層5が導入されると、水の浸入を防ぐ、すなわち装置の劣化を防止するために、残りの開口部全てを熱可塑性ガスケット、エポキシ樹脂、UV硬化型樹脂のいずれかで封止して、DSSCが完成する。
【0014】
DSSCを加工するために使用される材料は、全てとは言えないにしてもほとんどが、空気中の大気圧条件下で扱うことが可能であり、結晶型太陽電池の加工に伴う高価な真空プロセスを必要としないので、DSSCは結晶型太陽電池よりも低コストで製造することが可能となる。
【0015】
ECDの加工工程は、幾つかの例外はあるが、DSSCのそれと大変似通っている。多孔質金属酸化物層3は、多くの場合、スクリーン印刷で所望の形状にパターニングされ、選択された領域を着色あるいは消色する事によって、装置が情報を伝達することを可能にする。更に、増感体(色素)層4は、吸収エレクトロクロモフォ材料層に置き換えられる。更に、一般的には焼結金属酸化物の大きな粒子である透過性拡散反射体層を、第1電極層2と第2電極層6の間に置く事ができ、表示画像のコントラストを増す。
【0016】
H.ホフマンによる特許文献2にもDSSC100が開示されている。図2に示すように、DSSC100は、ガラスあるいはプラスチックの第1基板101、第1透明導電酸化物(TCO)層102、二酸化チタン(TiO2)層103、色素層104、電解質層105、第2透明導電酸化物(TCO)層106、ガラスあるいはプラスチックの第2基板107、絶縁ウェブ108と109とから構成されてなる。絶縁ウェブ108と109はDSSC100の個別セル110を形成するために使用される。
【0017】
絶縁ウェブ108と絶縁ウェブ109との間に形成された個別セル110と、絶縁ウェブ109と絶縁ウェブ108との間に形成された隣接する個別電セル110とは異なる。何故なら、各隣接する個別セル110でTiO2層103と電解質層105が入れ替わっているからである。従って、隣接する個別セル110の電気極性は反対である。この異なる層間の交番区域は、導電層102と106からなる導電層111を形成し、各導電層111は、一つの個別セル110の正(負)電極と隣接する個別セル110の負(正)電極とを接続する。この構成により、多層構造を採用する必要がなく、DSSC全体の出力電圧を増加する方法が提供される。
【0018】
入射光子の電流変換効率を向上しDSSC性能の安定性/再現性を管理するためには、金属酸化物層の物理特性、すなわち増感体(色素)分子の吸収を正確に管理することが重要である。しかし、スクリーン印刷を用いた金属酸化物層の製造では、粘性ペーストから完全に気体を取り除く事が不可能である事から、残渣詰まりあるいはスクリーン目の汚れ、基板表面からの分離中のスクリーンへの付着、乾燥中での内在気泡の膨張が原因で、多くの場合、膜厚みに±5%のバラツキを生じる。ドクターブレーディングのような他の方法においても、大きな空間的バラツキが無く良好に規定された厚い金属酸化物層を提供する事の難しさに悩まされることになる。従って、結果として生じる多孔率や膜質のバラツキがこのような金属酸化物層の至る所に起こり易く、DSSCとECDの其々の効率と画質の劣化を招くことになる。
【0019】
ECDの場合には、より高品質の画像、すなわち画素で構成された表示体のインチ当りドット数(dpi)を増やすために、更なる微細金属酸化物層構造を構築することが求められるので、スクリーン印刷に対する要求はより一層深刻である。dpiが増えれば、スクリーンのメッシュサイズがメッシュ分離幅に近づき、最小構成サイズが制約されることになる。
【0020】
従って、DSSCおよびECDに関しては、機能的に増感された厚い多孔質金属酸化物層に基づいて、上述した製造技術を用いて電気化学装置を製造する事は、大型の装置の製造に対する装置の再現性および適応性の観点から不適当である。
【0021】
【特許文献1】米国特許第4927721号「光電気化学電池」
【0022】
【特許文献2】米国特許第5830597号「光化学電池の製造方法および製造装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、上記の従来技術の電気化学セル(DSSCおよびECDの)製造の問題を解決し、それらの製造効率を向上して、更にその製造コストを下げる事を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の第1実施態様である電気化学セルは、第1導電層と、該第1導電層上に形成された金属酸化物層と、ここで該金属酸化物層は、お互いに離間する隣接した複数の金属酸化物セルを有し、前記金属酸化物層上に形成された機能色素層と、第2導電層と、前記機能色素層と前記第2導電層との間の電解質と、を含み、前記第1および第2導電層の少なくとも一つが透明である。他の実施態様である電気化学セルは、前記第1導電層上に形成され、前記複数の隣接する金属酸化物セルの其々を取り囲む分離手段を更に含む。
【0025】
他の実施態様として、前記分離手段はポリマーパターン、またはポリイミドパターンである。他の実施態様として、前記分離手段の少なくとも一部が疎水および/または疎油性であり、前記第1導電層は親水および/または親油性である。
【0026】
他の実施態様として、前記分離手段は前記第1導電層上にセルのマトリクスを形成する。一実施態様として、各金属酸化物セルは実質的に正方形、円形、六角形、矩形形状である。更なる実施態様として、前記分離手段はバンクである。
【0027】
他の実施態様である電気化学セルは、前記電解質と前記第2導電層間に電気触媒層を更に含む。更なる実施態様として、前記電気触媒層はプラチナ、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、オスミウムのいずれか一つである。
【0028】
他の実施態様である電気化学セルは、前記金属酸化物層と対向する前記第1導電層の面上に第1絶縁基板を更に含む。更なる実施態様である電気化学セルは、前記電解質と対向する前記第2導電層の面上に第2絶縁基板を更に含む。他の実施態様として、前記第1および第2絶縁基板の少なくとも一つはガラスである。他の実施態様として、前記第1および第2絶縁基板の少なくとも一つはプラスチックである。
【0029】
一実施態様として、前記金属酸化物層は半導体である。他の実施態様として、前記金属酸化物層は二酸化チタンである。他の実施態様として、前記金属酸化物層は金属酸化物の粒子を含み、前記機能色素層は前記金属酸化物層の該粒子の表面上に形成される。他の実施態様として、前記第1および第2導電層は、連続層である。他の実施態様として、前記第1導電層は、透明導電酸化物層である。更なる実施態様として、前記第2導電層は、透明導電酸化物層である。
【0030】
一実施態様として、前記電気化学セルは、色素増感太陽電池である。他の実施態様として、前記電気化学セルは、エレクトロクロミック表示体である。他の実施態様として、前記機能色素層は、エレクトロクロモフォ層である。
【0031】
本発明の第2実施態様である電気化学セルの形成方法は、第1導電層を形成し、該第1導電層上に、お互いに離間する隣接した複数の金属酸化物セルを有する金属酸化物層を形成し、該金属酸化物層上に機能色素層を形成し、第2導電層を形成し、前記機能色素層と前記第2導電層との間に電解質を備えることを含み、前記第1および第2導電層の少なくとも一つが透明である。
【0032】
他の実施態様である方法は、分離手段を、前記第1導電層上に形成し、前記複数の隣接する金属酸化物セルの其々を取り囲むことを更に含む。更なる実施態様として、前記金属酸化物層は前記第1導電層上にインクジェット印刷される。他の実施態様として、前記金属酸化物層は前記第1導電層上に1回の工程でインクジェット印刷される。他の実施態様として、前記金属酸化物層は、前記第1導電層上にインクジェット印刷され、インクジェット印刷間に乾燥処理を含まない。
【0033】
一実施態様である方法は、前記電解質と前記第2導電層間に電気触媒層を備えることを更に含む。他の実施態様である方法は、第1絶縁基板上に前記第1導電層を形成し、それにより該第1絶縁基板と前記金属酸化物層とが前記第1導電層の対向面上になる事を更に含む。更なる実施態様である方法は、第2絶縁基板上に前記第2導電層を形成し、それにより該第2絶縁基板と、前記電解質とが前記第2導電層の対向面上になる事を更に含む。
【発明の効果】
【0034】
インクジェット印刷を用いる本発明の電気化学セルの製造方法は、フォーマットの拡大、縮小に機械設備への再投資が不要であり、スクリーン印刷を用いる製造より有利である。これは、インクジェットを用いた製造はソフトウェアで制御されており、ソフトウェアは新しいスクリーンを発注するといった費用が発生することなく再設定することが出来るためである。更に、パターニングされたスクリーンは100回程度しか使用できないが、インクジェットヘッドは、パターニングされたスクリーンよりかなり耐久性がある。
【0035】
更には、インクジェットを用いた製造により可能となるドロップオンデマンド配置は、スクリーン印刷よりも無駄が少ない。各塗布層を乾燥し、それから厚い堆積物となるまでプリントされる従来のインクジェット重ね印刷と違って、大量の液体を密閉された区域に送り込み所望の堆積厚みをもたらすインクジェットフラッド充填技術で、破砕しない金属酸化物層を形成できることを示した。更には、バンク構造を用いて、フラッド充填を可能にする表面閉じ込めにより、長期的に均一な材料の分配、つまり均一で再現性のある性能が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0037】
本発明は、色素増感型太陽電池(DSSC)やエレクトロクロミック表示体(ECD)等の電気化学セルに関するものである。本発明によれば、電気化学電池400は、図3に示すように、第1透明絶縁基板層401、第1透明導電性酸化物(TCO)電極層402、金属酸化物層403、増感体(色素)/エレクトロクロミック材層404、電解質層405、第2透明導電性酸化物(TCO)電極層406、第2透明絶縁層407から構成される。
【0038】
第1及び第2透明絶縁基板層401、407はガラス又はプラスチックであることが好ましい。金属酸化物層403は半導体であり、二酸化チタン(TiO2)からなることが好ましい。
【0039】
金属酸化物層403は、好ましくは、その表面で増感体(色素)/エレクトロクロミック材層404の密着力を促進する材料からなる事が好ましい。また、金属酸化物層403の粒子は、適度に光透過性を有さなければならない。500nmより大きな粒子は不透明であると思われることから、一般的には、本発明での使用は適当でないと考えられる。そのように大きな粒子はインクジェットのノズル詰まりを起こしやすくもある。
【0040】
本発明の第1実施形態によれば、金属酸化層403を第1TCO層402上に塗布する前に、バンク構造410を、金属酸化層403が分離したセルとなるように第1TCO層402上に形成する。一実施形態として、バンク構造410はポリマー、またはポリイミドから形成されても良い。
【0041】
金属酸化物層403の形成に使用される金属酸化物インクの性質に応じて、バンク構造の一部は疎水性および/または疎油性であり、TCO層402は親水性および/または親油性であることが好ましい。
【0042】
バンク構造410は、個別画素セルのマトリクスを形成する如何なる所望の形状も第1TCO層402上に取る事ができ、第1TCO層402中には、ショートの原因となるバンク構造410を橋渡しする金属酸化物は生じないように分離された金属酸化物のセルが形成される。
【0043】
電気化学セルがECDであれば、像形成を制御するために、すべての金属酸化物セル(画素)がお互いに電気的に分離されていることが不可欠である。電気化学セルがDSSCの場合には、金属酸化物セルの電気的な分離は必要ないが、均一な金属酸化物の分布が能動素子領域に渡って維持されていることが好ましい。
【0044】
ECD電気化学セルは、複数のマイクロ電気化学セルから構成されると考える事ができ、各マイクロ電気化学セルは、異なる色のエレクトロクロモフォ層404を有している。ECDを形成する各マイクロ電気化学セルは、他のマイクロ電気化学セルとバンク構造410により分離されている。各マイクロ電気化学セルは、差し渡しで20μmから500μmであることが好ましい。
【0045】
本発明の更なる実施形態において、電極触媒層を、電解質層404と第2TCO層406の間に形成する事ができる。電極触媒層は厚さ2nm以上であることが好ましく、電解質再生を促進するために選択される。DSSCの場合には、有効な電気触媒金属としては白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、またはオスミウムの白金族の金属より選択することができる。電気触媒層を使うことにより、本発明の電気化学セル全体の性能が向上する。
【0046】
また、本発明は、本発明の電気化学電セル400の製造方法にも関する。図4は、本発明の電気化学セル400の製造を示す工程フロー図である。
【0047】
TCO層402は図4aの第1透明絶縁基板層401上に形成される。TCO層402は8〜10Ω□の面積抵抗を持ち、インジウムスズ酸化物あるいはフッ素ドープしたスズ酸化物からなるのが好ましい。フッ素ドープしたスズ酸化物が、安価で、高温焼結段階の間で不活性である事から好ましい。
【0048】
次に、図4bにおいて、バンク構造410をTCO層402上に形成する。本発明の第一実施形態では、バンク構造410は正方形の画素セルのマトリクスを形成する。TCO層402上にバンク構造410を形成するため、光反応性ポリイミド原料をTCO層402上に塗布し、乾燥する。次に、画素セルの形状をしたマスクをTCO層402上に配置し、紫外(UV)線をマスクを介して照射することにより、露光領域でポリイミドの架橋結合が生じる。露光されない領域を化学現像により除去し、バンク構造410を350℃で熱硬化する。
【0049】
そして、バンク構造410を有するTCO層402を、酸素または酸素・四フッ化炭素プラズマで処理して、露光領域に残ったポリイミドを除去する。次に、TCO層402の親水性を保ちながら、ポリイミドバンク構造410が疎水性になるように、四フッ化炭素(CF4)プラズマ処理が施される。
【0050】
次に、金属酸化物層403を、バンク構造410が形成されたTCO層402上にインクジェット印刷する。金属酸化物インクが各分離画素セル中に噴出され、図4cに示す金属酸化物層403が形成される。含有粒子の直径が500nm未満であり、体積分率(v/v)10%以下の濃度の水性コロイド二酸化チタン(TiO2)インクの使用が好ましい。金属酸化物インクは、液剤とインクジェットヘッドの和合性を確保するために、その他の添加物を含有してもよい。塗布後、金属酸化物層403を乾燥し、更に空気中で300度以上で焼結する。
【0051】
金属酸化物層403の膜厚は、水性コロイドTiO2インクの濃度と塗布量で管理する。金属酸化物層403の最高膜厚の最終的なバラツキは、50cm2の基板面積全体で、セル間で1.5%未満である。
【0052】
次に、TCO層402、バンク構造410、金属酸化物層403から成る基板層401は、増感体(色素)404中に所定時間浸漬される。その結果、増感体(色素)404は、図4dに示すように、金属酸化物膜403の表面上に吸収される。DSSCの例では、基板を無水エタノールのN719(ソラロニクスから入手できる)0.3mM溶液に24時間浸漬した。増感体(色素)404の固定化の後、基板をエタノール中ですすぎ洗いし、窒素でブロー乾燥する。
【0053】
次に、多孔質金属酸化物層403と増感体(色素)層404が形成された第1TCO層402を、第2TCO層406と組合せる。電解質層405を満たす前に、電極層402と406とを、電極間ギャップを形成する周辺スペーサを介して重ね合わせる。電解質層405が導入されると、残りの開口部を封止してDSSCが完成する。
【0054】
本発明の電気化学セルにおいて電気触媒層が必要であれば、電極層402と406とを一緒に重ね合わせる前に、電気触媒層を第2TCO層406上に形成する。
【0055】
インクジェットヘッドは、体積バラツキが±1.5%未満の良く規定された水性コロイド金属酸化物インク滴をTCO層402上の正確な位置に対して供給できる。更に、この体積精度1.5%以下は、市販のプリンタヘッドの精度に相当する。この数値を1%以下に低減できる様々な工業用ヘッドや補完的な技術の利用が可能である。
【0056】
インクジェット塗布は、TCO層402上に、金属酸化物をバンク構造410の各画素セル内に要求通りに正確に配置することができる。このようにして、金属酸化層403の層厚は正確に管理され、均一な多孔質金属酸化層403を形成することが出来る。
【0057】
バンク構造410の少なくとも一部が疎水性および/または疎油性で、TCO層402の少なくとも一部が親水性および/または親油性の場合、バンク構造410は塗布された金属酸化物インクをはじき、その結果、塗布された金属酸化物インクの液滴の最終位置を修正し、液滴のインクジェットノズル軸から側方向への固有広がり±15μmを補正する。このインクのはじきは、特にECDの場合には、金属酸化物403がバンク構造410を橋渡しすることに起因する画素ショートを防ぐために有益である。また、バンク構造410により、バンクレスの自由印刷のために必要な30μmのスペースが許容される場合より狭いギャップをECD画素間に形成することができ、ECD内により高い能動面積比を得ることができ、画質を高めることができる。
【0058】
バンク構造410の一部だけが疎水性および/または疎油性を必要とする。例えば、バンク壁が親水性でその上部が疎水性であれば、図5に示すように、全面が疎水性である場合と比べて、水性金属酸化物インクの最終的な塗布形状は変化する。
【0059】
図5は、完全に疎水性のバンク(a)と親水性の側面を有するバンク(b)を用いたインクジェット液滴形状のシミュレーションを示し、バンク構造410は図5からは除いてある。
【0060】
金属酸化物層403は効果的に機能するよう数ミクロンの厚さにするべきである。従来のインクジェット印刷では、塗布厚さを重ね印刷技術により所望の厚さにする。当該技術では、各塗布層が乾燥、焼結され、そして別のインク層等を所望の厚さになるまで重ね印刷する。
【0061】
しかし、本発明はフラッド充填技術を用い、大量の金属酸化物インクをワンパスでバンク構造410の各画素セルに導入する。バンク構造410は金属酸化物インクが隣接した画素セルに広がるのを防ぐ。この方法を使えば、所望の厚さの金属酸化物層403を形成するのにたった1回の乾燥、焼結工程しか必要としない。
【0062】
図6は金属酸化物で充填されたバンク構造410のいくつかの画素セルを示している。
【0063】
正方形の画素セルのマトリクスを有するバンク構造410は、金属酸化物インクで各画素セルを充填するためにフラッド充填技術が使われた場合、擬似的なピラミッド形の乾燥金属酸化物形状を形成する。バンク構造410は、塗布された金属酸化物インクを、TCO層402上の画素セル内の局所領域に閉じ込める役割を果たす。この制限がないと、金属酸化物インクは塗布後にTCO層402を自由に横断して行き渡り、切れ目のない金属酸化物層403を形成してしまうことになる。
【0064】
例として、図7に、400μm角の領域に均一に塗布された同量の金属酸化物の断面形状を示す。図7aはバンク構造410のないTCO層402を、図7bは2μm幅で76μm間隔に形成されたバンク構造410を有するTCO層402を示す。バンク構造410がないと液体の傾斜はかなり浅く、バンクによって制限される場合よりも周縁部で金属酸化物403の不均一性が大きい。
【0065】
本発明のバンク構造410により、金属酸化物層403は切れ目のない金属酸化物層403に比べて、曲げ応力に対して破砕することなく適応でき、プラスチックの第1絶縁基板401のような、可撓性の基板401が利用できる。
【0066】
本発明の第1実施形態において、図6に示すように、バンク構造401は正方形の画素セルのマトリクスからなるが、画素セルは正方形に限定されない。本発明の電気化学セル400がECDの場合、正方形の画素はアクティブマトリックスバックプレーン形成技術に対応しているようなものが好ましいが、本発明の電気化学電池400がDSSCの場合、様々な異なる画素セル形状を使用することができる。
【0067】
画素セル形状は、TCO層402全体での金属酸化物インクの最大あるいは平均厚みにほとんど影響しない事がわかっている。しかし、塗布された金属酸化物インクの量がバンク/インク/空気の界面におけるバンク材料の前進接触角を越えた場合には、バンク構造410を突破し、隣接する画素セル内に含まれていた金属酸化物インクと一緒になってしまうと思われる。従って、所定の塗布量に対してバンク/インク/空気の界面における金属酸化物インクの接触角を最小にする画素セル形状が好ましい。更に、表面でのインクの収縮を最小化し、周縁部における最小表面エネルギー液体傾斜を少なくする画素セル形状が好ましい。図8は、三角形、正方形、六角形の画素セル形状に対する理論最大接触角を示す。
【0068】
接触角が90度未満の場合、同じ単位面積を有する三角形、正方形、六角形の画素セル構造の最大接触角の予測比は、其々2.3:1.9:1.0となる。画素の辺数が増えると、接触角は減少する。従って、円形画素セルがバンク/インク/空気の界面における最小接触角を提供し、バンク構造410が破壊しない最大の金属酸化物インクを受容する。しかし、円形画素セルはモザイク状に配置できないので有効装置面積には制限があり、より高い充填密度の画素セルに比べて装置性能が下がる。三角形の画素セル形状はより良い能動面積を有するが、制約されてインクジェット印刷された金属酸化物インクの接触角が大きいという欠点がある。従って、画素セルが六角形や正方形である方が本発明のDSSCに使用するのに好ましい。
【0069】
本発明のDSSCは、エネルギー変換効率(η)が5.0%、開路電圧(VO)が0.48V、短絡回路電流(IS)が15mA/cm2、充填比(FF)が56%で形成されている。本発明の基板面積50cm2にわたる電気化学電池のエネルギー変換効率のばらつきは1.5%以下である。このことは、本発明のインクジェット製造方法のプロセス安定性による。
【0070】
バンク構造410が広いと、ECDの動作においては画質を低下させ、DSSCの動作においては能動領域が減少する事により効率性が低下する。従って、バンク構造410の幅は、0.2μmから20μmであることが望ましい。0.2μmはフォトリソグラフィによってバンク構造410をコスト効率良く形成するための解像度限界である。20μmは、一般的な最低表示解像度72dpiに比べて、画像の深刻な悪化や、性能抑制が生じる前のバンク構造410の最も効率のよい幅であると考えられる。インクジェット技術を使用すれば、長さは数百ミクロン以下が好ましいが、1mm2以下のサイズの親水性画素セルが容易に達成される。
【0071】
DSSCの場合、光の吸収は多孔性の金属酸化物層403の厚さに比例する。もし金属酸化物層403が薄すぎれば、入射光線の一部は、ポテンシャル効率損失を伴って、妨げられる事なく金属酸化物層403を通過する。もし金属酸化物層403が厚すぎると、すべての有用な光が完全に吸収された時点で、残りの金属酸化物層403の厚みは不要になる。従って、塗布される金属酸化物層403の厚さは、望ましくは0.5μmから20μmであるべきである。
【0072】
更に、インクジェット印刷によって形成される金属酸化物層403の厚さはスクリーン印刷より均一であるため、インクジェット印刷を使えば、最適な金属酸化物層403の厚さは、より薄くなる。
【0073】
更に、スクリーン印刷の場合、インクの粘度はインクジェット印刷に適する粘度よりもかなり高くなくてはならない。そのため、粘度を増すために添加される材料を焼結工程で除去しなければならない。従って、塗布されたままで、焼結する前の金属酸化物層403の厚さは、インクジェット印刷時よりスクリーン印刷時の方が厚くなるはずである。
【0074】
バンク構造410は、分離した画素セルのマトリクスをTCO層402上に、金属酸化物インクを塗布する前に形成するために使われるが、本発明はバンクに限定されない。TCO層402上に分離画素セルを形成する方法としては、TCO層402に溝を作ったりする等、どんな方法を使ってもよい。
【0075】
また、増感体(色素)4は、金属酸化物層403を増感体(色素)404に所定の時間浸すことによって、金属酸化物層403上に形成されるが、増感体(色素)404は異なる技術を用いて金属酸化物層の上に形成されてもよい。例えば、増感体(色素)404は、金属酸化物層403を形成後、金属酸化物層403上にインクジェット印刷されてもよい。
【0076】
更に、第1透明導電酸化物層402が酸化物で形成されるかは本発明の電気化学セルが機能する上で必須ではない。更に、第2透明導電酸化物層406が透明であるか、あるいは酸化物で形成されるかは本発明の電気化学セルが機能する上で必須ではない。第2基板(あるいは完成装置内の基板も)を備えることは、全く必須ではない。
【0077】
バンク構造を形成するのにふさわしいどんな材料も用いることができるが、ポリマー材料のパターンとして塗布される事が好ましく、ポリイミドのパターンがより好ましい。
【0078】
液体の電解質を述べてきたが、固体あるいはゲル状の電解質もまた本発明での使用に適しており、これに関連して、本明細書における電極/導電層と他の要素間に電解質を設けるための如何なる引例も、電極/導電層および/または他の要素を電解質上に形成する事を含んでいる。
【0079】
本明細書の記載はあくまで一例であり、本発明の範囲から逸脱することなく、変形例を作り得ることは当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】従来技術の代表的な色素増感体太陽電池(DSSC)を示す図。
【図2】従来技術のDSSCを詳細に示す図。
【図3】本発明の電気化学セルを示す図。
【図4】本発明の電気化学電池の製造を示す工程フロー図。
【図5】完全に疎水性のバンク(a)と親水性の側面を有するバンク(b)を用いたインクジェット液滴形状のシミュレーションを示す図。
【図6】金属酸化物で充填されたバンク構造の画素セルを示す図。
【図7】バンク構造を有する場合と有さない場合の同じ大きさの2つの領域に塗布された同量の金属酸化物の断面形状を示す図。
【図8】三角形、正方形、六角形の画素セル形状に対する最大接触角を示す図。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、DSSC、ECD等の電気化学セルの製造において利用することが可能である。
【符号の説明】
【0082】
400 電気化学セル
401 第1透明絶縁基板層
402 第1透明導電性酸化物(TCO)電極層
403 金属酸化物層
404 増感体(色素)/エレクトロクロミック材層
405 電解質層
406 第2透明導電性酸化物(TCO)電極層
407 第2透明絶縁層
410 バンク構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電層と、
前記第1導電層上に形成された金属酸化物層と、前記金属酸化物層は、互いに離間する隣接した複数の金属酸化物セルを有し、
前記金属酸化物層上に形成された機能色素層と、
第2導電層と、
前記機能色素層と前記第2導電層との間の電解質と、を含み、前記第1導電層および前記第2導電層の少なくとも一つが透明である電気化学セル。
【請求項2】
前記第1導電層上に形成され、前記複数の隣接する金属酸化物セルの其々を取り囲む分離手段を更に含む、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記分離手段がポリマーパターンである、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記分離手段がポリイミドパターンである、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記分離手段の少なくとも一部が疎水および/または疎油性であり、前記第1導電層は親水および/または親油性である、請求項2乃至第4項のいずれか一つに記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記分離手段が前記第1導電層上に前記金属酸化物セルのマトリクスを形成する、請求項2項乃至第5項のいずれか一つに記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記複数の金属酸化物セルの各々が実質的に正方形状である、請求項6項記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記複数の金属酸化物セルの各々が実質的に円形状である、請求項6項記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記複数の金属酸化物セルの各々が実質的に六角形状である、請求項6項記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記複数の金属酸化物セルの各々が実質的に矩形形状である、請求項6項記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記分離手段がバンクである、請求項2乃至第11項のいずれか一つに記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記電解質と前記第2導電層との間に電気触媒層を更に含む、請求項1乃至11のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記電気触媒層が、プラチナ、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、オスミウムのいずれか一つである、請求項12項記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記金属酸化物層と対向する前記第1導電層の面上に第1絶縁基板を更に含む、請求項1乃至13のいずれかの電気化学セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−149666(P2007−149666A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312626(P2006−312626)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】