説明

電気機器のリサイクル

【課題】主としてエポキシ樹脂硬化物と導電性材料からなる電気機器を溶解し、導電性材料及びエポキシ樹脂に含まれる充填剤を安全かつ経済的に回収できるシステムを提供する。
【解決手段】被溶解物であるモールドコイル、溶媒、触媒をあらかじめ乾燥、脱水処理後、溶解タンク7に入れ溶解処理を行う。溶解処理中に系へ水分が混入するのを防止するため窒素ボンベ73から窒素ガスを流し込みながら、溶媒が処理温度まで上昇し安定するように溶解タンク7を加熱しエポキシ樹脂を溶解する。溶解処理後、不溶物を溶解籠7aから取り出し、導電性材料等を回収する。溶解したエポキシ樹脂とシリカが溶け込んだ溶媒は受け容器78a又は78bから回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,エポキシ樹脂硬化物を使用した電気機器のリサイクルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、繊維強化プラスチック(FRP)を使った製品のリサイクルも叫ばれており、リサイクル技術としては粉砕や熱分解があるが、特許文献1(特開平4−22477号公報)には、エポキシ樹脂モールドコイルの解体方法として、加熱処理した後、熱分解し、高温で水又はアルカリ水溶液により加水分解することが記載されている。
【0003】
また、特許文献2(特開2001−172426号公報)には、エポキシ樹脂硬化物を分解、溶解させる処理方法について記載されている。さらに、特許文献3には一般のFRPのリサイクルについて記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平4−22477号公報
【特許文献2】特開2001−172426号公報
【非特許文献1】日立化成テクニカルレポートN042(2004−1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エポキシ樹脂硬化物と導電性材料とを含む電気機器を被溶解物とし、溶媒および少なくとも1つの金属塩を触媒として含む処理溶液を用いてエポキシ樹脂硬化物を溶解させ、前記導電性材料及びエポキシ樹脂に含まれる充填材を回収する電気機器のリサイクルにおいて、溶解の系に水分を含む場合、触媒が劣化するために触媒の再利用ができなくなる。
【0006】
また、エポキシ樹脂硬化物と導電性材料とを含む電気機器の中でも、導電性材料にアルミニウム導体を使用した電気機器を溶解する場合、溶解の系に水分が混入しているとこれがアルミニウムと反応してアルミン酸化合物を生成し、これが熱と反応して酸化アルミニウム(アルミナ)を生成し、異常昇温をおこしてアルミニウムを溶解させ、また、このとき発生する水素により爆発の危険性もある。したがって、被溶解物、触媒、溶媒、溶解装置一連の系において水分管理が非常に重要となる。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決して、安全で経済的にエポキシ樹脂硬化物と導電性材料より主になる電気機器を溶解し、導電性材料及びエポキシ樹脂に含まれる充填材を回収できるリサイクルを実施することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、エポキシ樹脂硬化物と導電性材料とを含む電気機器を被溶解物とし、溶媒および少なくとも1つの金属塩を触媒として含む処理溶液を用いてエポキシ樹脂硬化物を溶解させ前記導電性巻線材料及びエポキシ樹脂に含まれる充填材を回収する電気機器のリサイクル過程において、被溶解物である電気機器、触媒、溶媒において乾燥処理を行い、その後水分管理を行い、エポキシ樹脂硬化物と導電性材料とを含む電気機器の溶解を行い、該導電性材料及びエポキシ樹脂に含まれる充填材を回収する。
【0009】
また、上記電気機器のリサイクルにおいて、被溶解物である電気機器が高圧受配電用モールド変圧器のモールドコイルであることを特徴とする。
【0010】
さらに、上記電気機器のリサイクルにおいて、溶解処理を常圧で行うことを特徴とする。
【0011】
また、上記電気機器のリサイクルにおいて、前記触媒はリン酸三カリウムであることを特徴とする。
【0012】
さらに、上記電気機器のリサイクルにおいて、前記溶媒はベンジルアルコールであることを特徴とする。
【0013】
また、上記電気機器のリサイクルにおいて、前記導電性巻線材料はアルミニウム導体であることを特徴とする。
【0014】
上記電気機器のリサイクルにおいて、溶媒の乾燥処理後の水分量は管理値を0.1%以下とし、問題ない水分量が0.5%以下であることを特徴とする。
【0015】
上記電気機器のリサイクルにおいて、溶媒の脱水処理としてモレキュラーシーブスを用いる。
【0016】
上記電気機器のリサイクルにおいて、溶解処理中の脱水処理としてモレキュラーシーブスを用いることを特徴とする。
【0017】
上記電気機器のリサイクルにおいて、被溶解物を溶解処理前に多分割することを特徴とする電気機器のリサイクル。
【0018】
上記電気機器のリサイクルにおいて、被溶解物を溶解処理前に粉砕することを特徴とする。
【0019】
また、電気機器のリサイクル装置において、被溶解物と触媒と溶媒及び乾燥剤を入れる溶解タンクを具備し、溶解処理中溶解処理中に溶解処理液を攪拌することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、エポキシ樹脂硬化物と導電性材料とを含む電気機器のリサイクルにおいて、溶解過程で使用する触媒の劣化がほとんどなくなるため、触媒を再利用した次のリサイクル処理が可能となり経済的である。
【0021】
また、エポキシ樹脂硬化物とアルミニウム導体とを含む電気機器のリサイクルにおいて、エポキシ樹脂硬化物を安全に溶解可能とし、アルミニウム導体及びエポキシ樹脂に含まれる充填材を回収できる。
【0022】
さらに、被溶解物と触媒と溶媒及び乾燥剤を入れる溶解タンクを具備した電気機器のリサイクル装置において、溶解処理中溶解処理中に溶解処理液を攪拌するため、リサイクル時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を用いて発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0024】
エポキシ樹脂硬化物と導電性材料よりなる電気機器は多種存在するが、このような電気機器として高圧受配電用モールド変圧器を例に説明する。
【0025】
高圧受配電用モールド変圧器19は、図1に示すように、主に鉄心1、一次コイル2、二次コイル20、一次端子10、二次端子11、金具12等より構成される。また一次コイル2、二次コイル20は図2に示すようにレジン21、巻線22、層間に配置する絶縁物23等よりなる。電気的に分離した一次コイル2と二次コイル20が鉄心1によって磁気的に結合した状態であるため、一次コイルと二次コイルの巻数比がそのまま電圧比となって電圧変換される。最も標準的な受配電用モールド変圧器では、一次端子10に6600Vで受電し、二次端子11に電圧210Vが誘起される。変圧器ユーザは二次端子11に負荷を接続して使用する。
【0026】
図3にモールド変圧器のリサイクルフローを示す。
【0027】
モールドコイルを製作する(30a)ために必要な巻線22は、巻線メーカが巻線用絶縁材料28及び導電性材料27を材料として作る。また、モールドコイルを製作する(30a)ために必要なレジン21は、レジンメーカがエポキシ樹脂24及び充填材であるシリカ25等を材料として作る。
【0028】
変圧器メーカは巻線メーカから購入した巻線22、レジンメーカから購入したレジン21及び電気材料メーカから購入した絶縁物23を素にモールドコイル2、20を製作する(30a)。このモールドコイル2、20および鉄心1、金具12等を組み立ててモールド変圧器19を製作する(30b)。
【0029】
モールド変圧器19を購入した変圧器ユーザは20〜30年程度運転使用するが、絶縁物の劣化等で十分安全に運転できなくなる時点を変圧器の寿命と判断し、モールド変圧器は使用済みとなる。
【0030】
使用済みとなったモールド変圧器19aのリサイクルを行うためには、これら構成体を解体業者等に依頼して解体50する必要がある。このうち鉄心1、金具12は鉄屑となり、一次端子10、二次端子11は銅として有価で取引可能である。しかしモールドコイル2、20はエポキシ樹脂24、シリカ25、アルミニウム、銅等からなる複合成形品であるために分解が困難であり、(1)モールドコイルをそのまま埋め立てる、(2)モールドコイルを粉砕して金属だけを選別して取り出し、それ以外は埋め立てる等の処理が主であった。モールドコイル2、20をそのまま埋め立てた場合は導電性材料27、エポキシ樹脂24、シリカ25をそのまま破棄する形となるためにモールド変圧器全体で見た場合のリサイクル率が低い。モールドコイル2、20を粉砕して処理した場合でもエポキシ樹脂24、シリカ25をそのまま破棄する形となるためにリサイクル率が低く、また、取り出した金属も硬化したレジン21や絶縁物23等が付いているために価値の高い状態ではない。どちらの場合も環境保護の観点から好ましいとは言えず、モールドコイル2、20を構成するエポキシ樹脂24、シリカ25、導電性材料27,ガラス繊維26等を容易に分離するためにはエポキシ樹脂24を溶解する必要がある。
【0031】
以下、溶解の手順を図3(b)に示すリサイクルフロー、図4に示す溶解設備例を用いて説明する。
【0032】
被溶解物であるモールドコイル2、20、溶媒90、触媒91を溶解タンク7の中に入れて溶解処理8を行う前に、あらかじめ被溶解物2、20、溶媒90、触媒91はそれぞれ別の工程で乾燥・脱水処理を行う。
【0033】
本発明で触媒として用いる金属塩の例としては、以下に限定されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、パラジウム、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、錫、アンモニウムなどの水素化物、ホウ水素化物、アミド化合物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、ホウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、アルコラート、フェノラート及びこれらの水和物などがある。これらの化合物は単独で使用しても、数種類を混合して使用してもよい。また、不純物が含まれていてもかまわない。これらのなかではアルカリ金属塩が好ましい。
【0034】
本発明で使用する溶媒としては、以下に限定されないが、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、カプロラクタム、カルバミド酸エステル等のアミド系、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、iso−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、iso−ペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量200〜400)、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ベンジルアルコール、グリセリン、ジプロピレングリコール等のアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ホロン、イソホロン等のケトン系、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセタール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系があり、これらに水、液体アンモニア等の無機系溶媒を混合することができる。これらは単独で使用しても、数種類を混合して使用してもよい。また、不純物が含まれていてもかまわない。これらの溶媒の中では、アミド系もしくはアルコール系が好ましい。
【0035】
モールドコイル2、20の乾燥処理は炉または恒温槽で行う。モールドコイル2、20内の水分を除去する目的であるため、炉内の温度は100℃を超えていればよいが、本実施例では105℃の炉で1時間乾燥処理を行う。
【0036】
触媒91、91aは固体または粉末状であることから、モールドコイルと同様に炉または恒温槽で乾燥処理を行い、モールドコイル2、20の溶解処理8を行うまでの間、デシケータの中で乾燥剤と一緒に保管する。
【0037】
溶媒90、90aは液体であることから、この脱水処理としては溶媒90、90aに乾燥剤を入れて所定の時間放置する。脱水処理(82a)後は水分測定(82b)を行い、所定の管理値以下であることを確認する。
【0038】
以上の乾燥・脱水処理(80a、81a、82a)を実施した後、被溶解物であるモールドコイル2、20は溶解籠7aに入れて(80b)そのまま溶解タンク7へ入れる(8a)。溶媒90、90aは乾燥処理で一緒に放置していた乾燥剤と一緒に、空気中の水分吸収をできるだけ抑えるためにすばやく溶解タンク7に入れる。触媒91、91aもすばやく触媒用籠7bに入れ、このかごを溶解タンク7の中に取り付ける。乾燥剤93aも乾燥剤用籠7cに入れ(83b)、最後にすばやく溶解タンク7の蓋をする。
【0039】
その後、溶解処理中に系へ水分が混入するのを防止するために窒素ボンベ73から0.2l/minの窒素ガス94を溶解タンク7の中へ流し込みながら、溶媒が処理温度まで上昇し安定するように溶解タンク7を加熱し被溶解物中のエポキシ樹脂24を溶解する。溶解タンク7の中は内圧が加わらないようにコンデンサ74を介して開放状態にあるが、ベンジルアルコール90が蒸気となって流出しようとしても、コンデンサで冷されて液化し、溶解タンク7へ戻るようになっている。溶解時間は被溶解物の大きさ、溶媒、触媒の種類・量、溶解処理の温度等によって違いがある。
【0040】
溶解処理終了後はボールバルブ71aを開放し処理液を管理タンク70に移し、処理液の温度が50℃以下になった後に受け容器78bで受ける。50℃以下という処理液の温度に厳密な規定はなく、人体への安全上、溶解処理8後に処理液中の溶媒90、90aが蒸気を出さなければ良い。処理液中の樹脂濃度がまだ樹脂を溶かすだけの余裕があれば、スリラーポンプ72にて処理液を管理タンク70から溶解タンク7へ引き上げ、追加の被溶解物を入れ、再度溶解処理8を実施する。
【0041】
溶解処理後はボールバルブ71bを開放して処理液を直接受け容器78aに移してもよいが、この場合処理液の温度が50℃以下になるまで溶解タンク7で処理液を保管する必要があるため、次の溶解処理が遅れる問題がある。
【0042】
溶解処理後に取り出した不溶物を溶解タンク7に入っていた溶解籠7aから取り出して(80c)、洗浄し(80d)、導電性材料27aとガラス繊維他26を回収する。
【0043】
触媒91,91aは溶解タンク7に入っていた触媒籠7bから取り出して(81c),洗浄・乾燥(81d)し、得られた触媒再生品91aを次の溶解サイクルで再利用する。
【0044】
溶解したエポキシ樹脂24aとシリカ25が溶け込んだ溶媒90、90aは受け容器78b又は78aに取り出し(82c)、これをろ過(82d)して、ろ過固形分25zとろ液90z、溶解したエポキシ樹脂24aに分ける。ろ過固形分25zは洗浄84aし、得られたシリカ25aを再利用する。ろ液90zは蒸留(82e)し、溶媒再生品90aを得る。溶解した樹脂24aは燃料として再利用する。
【0045】
溶解タンク7に溶媒90’、90a’を入れる時に一緒に入る乾燥剤93は溶解処理後に溶解タンク7に入っていた乾燥剤籠7cから取り出し(83c)、溶剤および水で洗浄した後に乾燥処理を行い(83d)、得られた乾燥剤再生品93aは次の溶解サイクルで再度、溶媒の脱水処理、触媒91、91aの乾燥後の保管、溶解処理8中の脱水処理に使用する。
【0046】
洗浄に用いる溶剤も蒸留器にて蒸留回収し、次の溶解サイクルの洗浄で再度使用する。
【0047】
以上によりモールドコイル2、20のエポキシ樹脂24のみを溶解し、導電性材料27a、シリカ25aを容易に分離し取り出すことが可能となる。
【実施例2】
【0048】
実施例1における溶解処理として、常圧の場合を説明する。本実施例によれば常圧で溶解処理ができることから安全であり、且つ設備が安価となり、モールドコイルのリサイクルに適した方法と言える。
【実施例3】
【0049】
実施例1における触媒としてリン酸三カリウムの場合を述べる。リン酸三カリウムは食品添加物に指定されている材料であり、安全で比較的安価であるが、水に溶解すると強アルカリになるため水分管理が重要となる。本実施例ではリン酸三カリウムn水和物91を300℃の炉又は恒温槽で1時間乾燥処理し、モールドコイルの溶解処理を行うまでの間、デシケータの中で乾燥剤と一緒に保管する。乾燥剤は多種あるが、本実施例では多孔質の空孔に水分子を吸着するモレキュラーシーブス93を用いる。
【実施例4】
【0050】
実施例1における溶媒としてベンジルアルコール90、90aの場合を述べる。ベンジルアルコール90、90aは食品添加物に指定されている等比較的安全で入手が容易な溶剤であるが、脱水処理においては被溶解物2、20や触媒91、91aのように炉・恒温槽に入れて加熱して脱水処理した場合に空気と爆発性の混合気体を生成し爆発する恐れがあり危険なため、ベンジルアルコールに乾燥材を入れて放置する、窒素でバブリングする等、加熱しないで脱水処理を行う必要がある。
【0051】
溶解処理8中は溶媒の温度が高い方が溶解処理時間を短くできる。この時、溶解タンク7の中に内圧が加わらないようにコンデンサ74を介して開放状態にあるが、ベンジルアルコール90、90aが蒸気となって流出しようとしてもコンデンサで冷されて液化し、溶解タンク7へ戻るようになっている。従ってベンジルアルコールの沸点が約205℃であるので溶解処理8中の溶媒の管理温度を205℃近くまで上げても良いが、その場合、常に沸騰した状態となっているため、異常昇温が起こった場合の判別ができなくなる。そこで本実施例では溶解処理8中の溶媒の管理温度を190℃とした。
【0052】
また、高濃度の蒸気は有害であるため、溶解処理8終了後はボールバルブ71aを開放し処理液を管理タンク70に移し、処理液の温度が50℃以下になった後に受け容器78bで受ける。
【実施例5】
【0053】
実施例1において、被溶解物であるモールドコイル2、20に用いる巻線22の導体材料27としては主にアルミニウム及び銅があるが、ここでは使用量の多いアルミニウム導体を使用したモールドコイルについて述べる。この場合、溶解の系に水分が混入しているとこれがアルミニウムと反応してアルミン酸化合物を生成し、これが熱と反応して酸化アルミニウム(アルミナ)を生成し、異常昇温をおこしてアルミニウムを溶解させ、また、このとき発生する水素により爆発の危険性もある。従って、被溶解物、触媒、溶媒、溶解装置一連の系において水分管理が特に重要となる。
【0054】
溶解タンク7の上には排気フード77aが取り付けてある。コンデンサを介した溶解タンク7の開放先の上にも排気フード77bが取り付けてある。万が一、溶解系の中に水分が混入してアルミニウムと反応し水素は発生しても、酸素と触れないようにする。また、二重の安全対策とするため、溶解系内の水分により溶解処理中に異常昇温が起こった場合は、制御盤79にて自動的に溶解タンク7の加熱を終了し、処理液を溶解タンク7から管理タンクに移す。
【実施例6】
【0055】
実施例1において、溶媒の脱水処理(82a)後の水分量について述べる。溶媒90を脱水処理(82a)した後、溶解タンク7に入れるまでの間に空気と触れるために、脱水処理直後に比べ溶解タンク7に入った後の溶媒90は水分量が増える。溶解処理(8)時に溶解タンク7の中で溶媒90の水分量が0.5%以下であれば、アルミニウムと反応して熱暴走を起こす事がないことが実験的に得られたため、溶媒90を脱水処理(82a)した後、溶解タンク7に入れるまでの間に空気と触れた場合に安全率も考慮にいれて水分量が5倍に増えると仮定し、溶媒90の脱水処理時には0.1%以下となるように水分管理する。しかしながら、溶媒90を脱水処理(82a)した後、溶解タンク7に入れるまでの時間が長くなれば溶媒90内の水分量が増えていくため、溶媒90を脱水処理(82a)した後、溶解タンク7に入れるまでの時間は5分以内が望ましい。
【実施例7】
【0056】
実施例1において、溶媒の脱水処理で用いる乾燥剤ついて述べる。溶媒の乾燥処理としては、溶媒90と一緒にモレキュラーシーブス93を容器に入れ放置する。溶媒がベンジルアルコールの場合、ベンジルアルコール1000gに対してモレキュラーシーブスを200g入れ48時間放置することで水分量が0.1%以下となる。
【実施例8】
【0057】
実施例1において、溶解処理(8)中の脱水処理で用いる乾燥剤について述べる。溶媒90の脱水処理(82a)で用いる乾燥剤をモレキュラーシーブスとした場合、作業工数低減のために、溶媒90を溶解タンク7へ入れる(8a)時に溶媒の中のモレキュラーシーブス93も一緒に入れる。溶解処理(8)中の脱水処理で用いる乾燥剤もモレキュラーシーブスとすることで、溶解処理(8)後に使用済みとなった溶媒脱水用モレキュラーシーブス90’、90a’と溶解処理中の脱水用モレキュラーシーブス90’、90a’を纏めて洗浄・乾燥(83d)ができるため作業効率が向上する。
【実施例9】
【0058】
実施例1において、被溶解物を溶解処理前に多分割にする。図5にモールドコイルの分割数と溶解時間の関係を示す。コイルの分割数を16分割することで溶解時間が12時間となり、一日で溶解、洗浄の工程サイクルを組めることを確認した。
【実施例10】
【0059】
実施例1において、被溶解物を溶解処理前に粉砕にする。図5に示すように、モールドコイルをプレスによりクラッシュすることでモールドコイルの分割数を16分割した場合と同様に溶解時間が12時間となり、一日で溶解、洗浄の工程サイクルを組めることを確認した。
【実施例11】
【0060】
実施例1において、溶解処理中に溶解処理液を攪拌できる装置にする。溶解処理中は攪拌モータ75を動力として攪拌羽75aを回して処理液を攪拌することによって、溶解時間の短縮を図る。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】高圧受配電用モールド変圧器の外観図を示す。
【図2(a)】高圧受配電用モールド変圧器の外観図である図1のX−Y平面断面図を示す。
【図2(b)】高圧受配電用変圧器のモールドコイルの図2(a)のA−A‘断面図を示す。
【図2(c)】高圧受配電用変圧器のモールドコイルの図2(b)のB部拡大図を示す。
【図3(a)】モールド変圧器のリサイクルフローのうち、モールド変圧器の製作、運転、使用後の解体までの流れを示す。
【図3(b)】モールド変圧器のリサイクルフローのうち、モールドコイルの溶解から材料回収までの流れを示す。
【図4】モールドコイルの溶解設備を示す。
【図5】モールドコイルの分割数と溶解時間の関係を示す。
【符号の説明】
【0062】
1‥鉄心、 10‥一次端子、 11‥二次端子、 12‥金具、
19‥高圧受配電用モールド変圧器、 19a‥使用済みの高圧受配電用モールド変圧器
2‥一次コイル
20‥二次コイル、 21‥レジン、 22‥巻線、
23‥モールドコイル内の絶縁物、 24‥エポキシ樹脂
24a‥溶解したエポキシ樹脂、 25‥シリカ、 25a‥回収したシリカ、
25z‥ろ過固形分、 26‥ガラス繊維、
27‥巻線用導電性材料、
27a‥回収した導電性材料、
28‥巻線用絶縁材料、
30a‥モールドコイルの製作工程、
30b‥モールド変圧器の製作工程、
40‥モールド変圧器の実使用運転、
50‥モールド変圧器の解体作業、
60‥X-Y平面、 61‥Z視、 62‥A-A’断面、 63‥コイル上部(B部)、
7‥溶解タンク、
7a‥被溶解物用籠、 7b‥触媒用籠、 7c‥乾燥剤用籠、
70‥管理タンク、 71a‥ボールバルブ、 71b‥ボールバルブ、
72‥スリラーポンプ、73‥窒素ボンベ、 74‥コンデンサ、 75‥攪拌用モータ75a‥攪拌羽、 76‥蒸留器、 77a‥排気フード、 77b‥排気フード、
78a‥受け容器、 78b‥受け容器、 79‥制御盤、
8‥モールドコイルの溶解処理
8a‥溶解タンクへ被溶解物、触媒、溶媒、乾燥剤を入れる作業
80a‥モールドコイルを乾燥処理する作業、
80b‥乾燥処理したモールドコイルを溶解籠へ入れる作業、
80c‥溶解処理後に溶解籠から不溶物を取り出す作業、
80d‥溶解籠から取り出した不溶物を洗浄する作業、
81a‥触媒を乾燥処理する作業、
81b‥乾燥した触媒を触媒籠に入れる作業、
81c‥溶解処理後に触媒籠から触媒を取り出す作業、
81d‥触媒籠から取り出した触媒を洗浄し乾燥する作業、
82a‥溶媒を脱水する処理、
82b‥脱水した溶媒の水分量測定、
82c‥溶解処理後に溶解タンクから溶媒を抜き取る作業、
82d‥溶解タンクから抜き取った溶媒をろ過する作業、
82e‥溶媒をろ過して得られたろ液を蒸留する作業、
83a‥溶媒の脱水処理で使用した乾燥剤を洗浄し乾燥する作業、
83b‥乾燥材を乾燥材用籠へ入れる作業、
83c‥溶解処理後に乾燥剤用籠から乾燥剤を取り出す作業、
83d‥溶解処理で使用した乾燥剤を洗浄し乾燥する作業、
84a‥溶解処理後に溶媒をろ過して得られたろ過固形分を洗浄してシリカを取り出す作業、
90‥溶媒(ベンジルアルコール)、
90’‥脱水処理した溶媒(ベンジルアルコール)、
90a‥溶媒(ベンジルアルコール)再生品、
90a’‥脱水処理した溶媒(ベンジルアルコール)再生品、
90z‥ろ液
91‥触媒(リン酸三カリウムn水和物)、
91’‥乾燥処理した触媒(リン酸三カリウムn水和物)、
91a‥触媒(リン酸三カリウムn水和物)再生品、
91a’‥乾燥処理した触媒(リン酸三カリウムn水和物)再生品、
93‥乾燥剤(モレキュラーシーブス)
93a‥乾燥剤(モレキュラーシーブス)再生品
93z‥使用済みの乾燥剤(モレキュラーシーブス)
94‥窒素ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂硬化物と導電性材料とを含む電気機器を被溶解物とし、溶媒および少なくとも1つの金属塩を触媒として含む処理溶液を用いてエポキシ樹脂硬化物を溶解させ、前記導電性材料及びエポキシ樹脂に含まれる充填材を回収する電気機器のリサイクルにおいて、被溶解物である電気機器、触媒、溶媒において乾燥処理を行い、その後水分管理を行って電気機器の溶解を行い、該導電性材料及びエポキシ樹脂に含まれる充填材を回収することを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項2】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、被溶解物である電気機器が高圧受配電用モールド変圧器のモールドコイルであることを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項3】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、溶解処理を常圧で行うことを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項4】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、前記触媒はアルカリ金属塩であることを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項5】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、前記触媒はリン酸三カリウムであることを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項6】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、前記溶媒はアルコール類であることを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項7】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、前記溶媒はベンジルアルコールであることを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項8】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、前記導電性材料はアルミニウム導体であることを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項9】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、溶媒の乾燥処理後の水分量は0.5%以下であることを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項10】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、溶媒の脱水処理としてモレキュラーシーブスを用いることを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項11】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、溶解処理中の脱水処理としてモレキュラーシーブスを用いることを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項12】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、被溶解物を溶解処理前に多分割することを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項13】
請求項1記載の電気機器のリサイクルにおいて、被溶解物を溶解処理前に粉砕することを特徴とする電気機器のリサイクル。
【請求項14】
電気機器のリサイクル装置において、
被溶解物と触媒と溶媒及び乾燥剤を入れる溶解タンクを具備し、
溶解処理中溶解処理中に溶解処理液を攪拌することを特徴とする電気機器のリサイクル装置。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−19141(P2009−19141A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183810(P2007−183810)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】