電気機械変換素子の製造装置、電気機械変換素子の製造方法、電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及び印刷装置
【課題】製造時の環境負荷を低減し、製造コストを低減しつつ、且つ簡易な構成で容易に電気機械変換素子を製造することが出来る、電気機械変換素子の製造装置、電気機械変換素子の製造方法、電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及び印刷装置を提供する。
【解決手段】凹凸面側にSAM溶液52の塗布された印刷版46と基板18とを接触させることによって、基板18に撥液親液パターンを形成する。そして、基板18上の親液部74Aに向かって機能性溶液の液滴76Aを塗布し、該親液部74Aに機能性溶液膜76Bを形成する。この機能性溶液膜76Bに、エネルギー付与装置72からエネルギーを付与する。そして、SAM溶液52を塗布された印刷版46と基板18との接触時間を、下層側に形成する層から上層側に形成する層に向かって長くなるように調整する。
【解決手段】凹凸面側にSAM溶液52の塗布された印刷版46と基板18とを接触させることによって、基板18に撥液親液パターンを形成する。そして、基板18上の親液部74Aに向かって機能性溶液の液滴76Aを塗布し、該親液部74Aに機能性溶液膜76Bを形成する。この機能性溶液膜76Bに、エネルギー付与装置72からエネルギーを付与する。そして、SAM溶液52を塗布された印刷版46と基板18との接触時間を、下層側に形成する層から上層側に形成する層に向かって長くなるように調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換素子の製造装置、電気機械変換素子の製造方法、電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置等の液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧室(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される)と、加圧室内のインクを加圧する圧電素子等の電気機械変換素子と、を備え、電気機械変換素子に電圧を印可することによって発生したエネルギーを用いて振動板を変位させ、加圧室内のインクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させている。
【0003】
電気機械変換素子としては、d33方向の変位を利用した縦振動型、d31方向の変位を利用した横振動型等が知られている。これらの中でも、画像の高精細化を狙いとして、半導体プロセスやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用することによりSi基板上に圧力室、圧力室の一部を構成する振動板、および横振動型の圧電体を振動板の表面に直接作り込んだ薄膜の電気機械変換素子が知られている。
【0004】
このような電気機械変換素子は、基板表面に形成した下部電極上に、各種の真空成膜法(例えばスパッタリング法、MO−CVD法、真空蒸着法、イオンプレーティング法)やゾルゲル法、水熱合成法、AD(エアロゾルデポジション)法、塗布・熱分解法(MOD法)などの周知の成膜技術を用いて圧電体層の構成材料を堆積させて圧電体層を形成し、引き続き、上部電極層を形成して作製される。しかし、この電気機械変換素子を形成する各層は、膜厚が非常に薄いために剛性が低く、素子の外縁部分に応力集中が生じ、クラック等の破壊が発生する問題がある。
【0005】
そこで、電気機械変換素子におけるこのような応力集中を抑制する目的で、電気機械変換素子の形状を、上部電極層側から下部電極層側に向かって徐々に幅広とし、その断面形状を略台形形状とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、電気機械変換素子の断面形状を略台形形状とすることで、電気機械変換素子の外縁部にテーパー面を形成している。そして、このテーパー面によって、該外縁部への応力集中を抑制し、クラック等の破壊を防止することが開示されている。
【0006】
そして、特許文献1には、このような断面形状を略台形形状とされた電気機械変化素子を作製する方法としては、下記の製法が開示されている。具体的には、特許文献1には、基板全面に順に形成した下部電極膜、圧電体膜、上部電極膜の上部に、リソグラフィー法によりレジストパターンを形成した後、原子又は分子を衝突させることにより物理的に各層の一部をエッチングして除去することにより、台形形状を形成する方法が開示されている。また、下部電極膜、圧電体膜、及び上部電極膜を成形する方法としては、フッ酸と硝酸を含有した溶液等の強酸により、各層の一部を化学的に除去する方法が知られている。
【0007】
しかし、いずれの成形方法を用いた場合においても、貴金属を含む電極材料、鉛を含む圧電体材料、リソグラフィー法において用いる薬液消費等による環境負荷が大きく、高コスト化するという問題があった。
【0008】
一方、上記以外の、下部電極膜、圧電体膜、及び上部電極膜の成形方法としては、インクジェット法を用いた成膜方法が挙げられる。インクジェット法を用いてパターニングされた各層を形成する方法は、具体的には、形成対象の各層(下部電極層、電気機械変換膜、上部電極層)の形成のために用いる機能性溶液を含む液滴を、目的とする位置に吐出する。これによって、所定の形状にパターニングされた塗膜を形成し、該塗膜について、熱処理を行うことで、所定の形状にパターニングされた層(膜)を形成する。
【0009】
このインクジェット法は、所望の領域に選択的に、上記機能性溶液を塗布することが可能であり、溶液中に含有する種々の貴金属、あるいは環境汚染物質の消費量を抑制することが可能であるため、環境面、コスト面において有利な方法である。
【0010】
しかしながら、インクジェット法は、複数のノズルから上記機能性溶液の液滴を、目的とするパターンに応じた位置に向かって吐出することでパターンを形成する、所謂、非接触な成膜方法である。このため、パターン形成精度に数μm〜数十μm程度のばらつきが発生し、所望の形状の電気機械変換素子が得られにくいという問題がある。
【0011】
そこで、このような問題を解決する技術として、高密度、高配向な自己組織化単分子膜(Self−Assembled Monolayers:SAM膜)を基材上に構築し、このSAM膜をパターニングすることで、基材上に、親液性の領域と撥液性の領域とによる親液撥液パターンを形成する方法が開示されている(特許文献2参照)。この基材上に形成された親液撥液パターンの親液部に向かって、機能性溶液の液滴を吐出することで所望の形状に成形された膜を形成することができる。
【0012】
ここで、特許文献2には、このSAM膜のパターニングに、フォトリソグラフィー法や、マイクロコンタクトプリント法を用いることが開示されている。具体的には、フォトリソグラフィー法として、特許文献2には、機能性溶液による膜を形成する対象の基板の全面にSAM膜を形成した後に、フォトリソグラフィー法を用いてエッチングによりSAM膜を部分的に除去し、所望の親液撥液パターンを得る方法が開示されている。また、マイクロコンタクトプリント法として、特許文献2には、ナノメートル〜マイクロメートルオーダの凹凸が形成された印刷版の表面に、SAM膜の形成材料を溶解した溶液を塗布し、この印刷版を基板表面に押し付けることで、撥液親液パターンを形成することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記略台形形状の電気機械変換素子を形成する方法として、撥液親液パターンを形成し、親液部に機能性溶液を選択的に塗布する方法を採用するには、以下の問題があった。すなわち、フォトリソグラフィー法を用いる場合には、基材の全面に均一なSAM膜を形成するときに、一般的に知られている気相法、及び液相法のいずれの成膜方法を用いた場合においても数時間から数日程度の時間がかかるという問題があった。また、フォトリソグラフィー法は、コストが高いという問題もあった。
【0014】
一方、マイクロコンタクトプリント法は、印刷版の形成以降の工程では、フォトリソグラフィー法を用いる必要がない。このため、マイクロコンタクトプリント法では、フォトリソグラフィー法にくらべて低コスト化が図れる。しかしながら、上層側から下層側に向かって幅広となり、その断面形状が略台形形状の電気機械変換素子を作製するには、同じ幅や形状の層毎に、各層の幅や形状に対応する印刷版を複数個用意する必要があった。
【0015】
このため、環境負荷を低減し、製造コストを低減しつつ、且つ簡易な構成で容易に、その断面形状を略台形形状とされた電気機械変換素子を製造することは困難であった。
【0016】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、製造時の環境負荷を低減し、製造コストを低減しつつ、且つ簡易な構成で容易に電気機械変換素子を製造することが出来る、電気機械変換素子の製造装置、電気機械変換素子の製造方法、電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及び印刷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、1または複数の層からなる、下部電極層、圧電体層、及び上部電極層がこの順に積層され、該上部電極層側から該下部電極層側に向かって徐々に幅広となり、その断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子を製造する電気機械変換素子製造装置であって、凹凸によるパターンが形成され、自己組織化単分子膜を溶媒に溶解させた第1溶液を塗布された印刷版を、形成対象の層が形成される基板に接触させることによって、該印刷版の凸部に塗布された該第1溶液による塗膜を該基板に転写し、該基板上に親液部と撥液部とからなる親液撥液パターンを形成するパターン形成手段と、前記パターン形成手段によって前記基板上に形成された前記親液部に、前記形成対象の層の構成材料を含む機能性溶液を塗布して第2塗膜を形成する塗布手段と、前記塗布手段によって形成された第2塗膜にエネルギーを付与することによって、前記形成対象の層を前記基板上に形成するエネルギー付与手段と、前記形成対象の層としての、前記下部電極層、前記圧電体層、及び前記上部電極層の各々の構成材料を含む溶液をこの順に前記機能性溶液として用い、前記パターン形成手段による親液撥液パターン形成、前記塗布手段による前記機能性溶液の塗布、及び前記エネルギー付与手段によるエネルギーの付与、の一連の処理を、該下部電極層、該圧電体層、及び該上部電極層の順に、各層毎に、少なくとも1回以上繰り返すように該パターン形成手段、該塗布手段、及び該エネルギー付与手段を制御し、且つ下層側に形成される層から上層側に形成される層に向かって、前記印刷版の前記基板への接触時間が長くなるように、前記パターン形成手段を制御する制御手段と、を備えた、電気機械変換素子の製造装置である。
【0018】
また、本発明は、1または複数の層からなる、下部電極層、圧電体層、及び上部電極層がこの順に積層され、該上部電極層側から該下部電極層側に向かって徐々に幅広となり、その断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子を製造する電気機械変換素子の製造方法であって、凹凸によるパターンが形成され、自己組織化単分子膜を溶媒に溶解させた第1溶液を塗布された印刷版を、形成対象の層が形成される基板に接触させることによって、該印刷版の凸部に塗布された該第1溶液による塗膜を該基板に転写し、該基板上に親液部と撥液部とからなる親液撥液パターンを形成する第1の工程と、前記第1の工程によって前記基板上に形成された前記親液部に、前記形成対象の層の構成材料を含む機能性溶液を塗布して第2塗膜を形成する第2の工程と、前記第2の工程によって形成された第2塗膜にエネルギーを付与することによって、前記形成対象の層を前記基板上に形成する第3の工程と、前記形成対象の層としての、前記下部電極層、前記圧電体層、及び前記上部電極層の各々の構成材料を含む溶液をこの順に前記機能性溶液として用い、前記第1の工程、前記第2の工程、及び前記第3の工程の一連の処理を、該下部電極層、該圧電体層、及び該上部電極層の順に、各層毎に、少なくとも1回以上繰り返し、且つ下層側に形成される層から上層側に形成される層に向かって、前記印刷版の前記基板への接触時間を長くする第4の工程と、を備えた、電気機械変換素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製造時の環境負荷を低減し、製造コストを低減しつつ、且つ簡易な構成で容易に電気機械変換素子を製造することが出来る、電気機械変換素子の製造装置、電気機械変換素子の製造方法、電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及び印刷装置を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置の一の形態を模式的に示した平面図である。
【図2】図2は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置の各部を模式的に示した断面図であり、(A)は、支持部を模式的に示した断面図である。(B)は、親液撥液パターン形成部を模式的に示した断面図である。(C)は機能性溶液塗布部を模式的に示した断面図である。(D)はエネルギー付与部を模式的に示した断面図である。
【図3】図3は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置によって製造される電気機械変換素子を模式的に示した断面図である。
【図4】図4(A)〜図4(D)は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置による電気機械変換素子の製造工程の概要を模式的に示した断面図である。
【図5】図5は、本実施の形態の製造装置の制御部を、ハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで示した模式図である。
【図6】図6(A)〜図6(C)は、基板と印刷版とが接触した状態を模式的に示した断面図であり、且つ接触時間調整の原理を示す模式図である。
【図7】図7は、本実施の形態の製造装置の制御部で実行される電気機械変換素子製造処理を示すフローチャートである。
【図8】図8は、図7に示す製造部制御処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は、図8に示す圧電体層形成処理を示すフローチャートである。
【図10】図10は、図8に示す上部電極層形成処理を示すフローチャートである。
【図11】図11は、機能性溶液塗布部と基板との位置合わせ工程を示す模式図である。
【図12】図12(A)〜図12(C)は、親液撥液パターン形成部における印刷版と基板との位置合わせ工程、及び印刷版による基板へのSAM溶液の塗布工程を示す模式図である。
【図13】図13(A)は、機能性溶液塗布部における液滴吐出ヘッドから基板への液滴の塗布工程を示す模式図であり、図13(B)は、エネルギー付与部におけるエネルギー付与装置から基板へのエネルギー付与工程を示す模式図である。
【図14】図14(A1)〜図14(C4)は、本実施の形態における電気機械変換素子の製造装置による、電気機械変換素子の製造工程を模式的に示した断面図である。
【図15】図15は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置で製造された電気機械変換素子を用いた液滴吐出ヘッドの一の形態を模式的に示した断面図である。
【図16】図16は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置で製造された電気機械変換素子を用いた液滴吐出ヘッドの図15とは異なる形態を模式的に示した断面図である。
【図17】図17は、本実施の形態の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置の一の形態を模式的に示した斜視図である。
【図18】図18は、本実施の形態の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置の一の形態を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる電気機械変換素子の製造装置、及び電気機械変換素子の製造方法の一の実施形態を詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置(以下、単に「製造装置」と称する)10は、親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、エネルギー付与部16、支持部38、移動部24、入力部26、及び制御部28を含んで構成されている。本実施の形態では、親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、及びエネルギー付与部16は、所定方向(図1中、矢印A方向参照)に配列されている。なお、以下では、親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、エネルギー付与部16、及び支持部38を総称する場合には、電気機械変換素子製造部17と称して説明する場合がある。
【0023】
本実施の形態の製造装置10は、図3に示すように、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36を順に積層し、その断面形状が略台形状の電気機械変換素子30を製造する装置である。これらの下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々は、1または複数の薄膜層が積層された構成とされている。なお、その断面形状が「略台形状」である、とは、上層側(上部電極層36側)から下層側(下部電極層32側)に向かって徐々に幅広となる形状であることを示している(図3参照)。
【0024】
製造装置10の支持部38は、上記電気機械変換素子30の形成される基板18を支持する。この支持部38によって支持された基板18上に、電気機械変換素子30を構成する各層が、下層側(下部電極層32側)から上層側(上部電極層36側)に向かって順に形成される。
【0025】
親液撥液パターン形成部12は、支持部38によって支持された基板18上に、親液撥液パターンを形成する。親液撥液パターンとは、詳細は後述するが、自己組織化単分子膜(Self−Assembled Monolayers:以下、「SAM膜」と称する場合がある)(第1溶液による塗膜)によって形成された親液部と、該SAM膜の形成されていない撥液部とからなるパターンである。
【0026】
機能性溶液塗布部14は、この親液撥液パターンの形成された基板18上に、機能性溶液を塗布する。これによって、基板18上の親液部には、該機能性溶液による機能性溶液膜(第2塗膜)が形成される。この機能性溶液とは、詳細は後述するが、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々の構成材料を含む溶液である。この機能性溶液は、形成対象の層の種類(下部電極層32、圧電体層34、または上部電極層36)に応じて、選択される。
【0027】
エネルギー付与部16は、機能性溶液塗布部14によって塗布された機能性溶液による機能性溶液膜にエネルギーを付与する。このエネルギー付与部16によるエネルギーの付与によって、塗布した機能性溶液の種類に応じた層(下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の何れかの層)が形成される。
【0028】
以下、製造装置10に設けられた各部について詳細に説明する。
【0029】
支持部38は、支持板40、上下ステージ42、回転ステージ44、及び基板18をこの順に積層して構成されている(図1及び図2(A)参照)。
【0030】
支持板40は、支持板40上に設けられた各部材及び各層(上下ステージ42、回転ステージ44、基板18、及び基板18上に設けられる層)を支持する板状の部材である。支持板40は、後述するレール20の長手方向に沿って移動可能に支持されている。
【0031】
上下ステージ42は、支持板40上に配置されている。上下ステージ42は、該上下ステージ42上に積層された各部材及び各層(回転ステージ44、基板18、及び基板18上に形成される各層)を支持するともに、これらの部材及び層を、親液撥液パターン形成部12に設けられた後述する印刷版46に接触する方向または該印刷版46から離間する方向へ移動させる。該上下ステージ42には、制御部28に電気的に接続された上下駆動部41が設けられている。制御部28の制御によって、上下駆動部41が制御されることで、上下駆動部41は、上下ステージ42を厚み方向に伸縮させて、該上下ステージ42上に積層された積層体を該印刷版46に接触する方向または該印刷版46から離間する方向に移動させる。
【0032】
回転ステージ44は、回転ステージ44上に積層された各部材及び各層(基板18、及び基板18上に形成された各層)を回転させる。この回転ステージ44には、制御部28に電気的に接続された回転駆動部43が設けられている。制御部28の制御によって回転駆動部43が駆動されると、該回転駆動部43の駆動によって回転ステージ44が回転し、該回転ステージ44の回転に伴って、回転ステージ44上の各部材及び層が回転する。この回転ステージ44は、電気機械変換素子30製造時の位置合わせ時に用いられる。
【0033】
基板18は、製造装置10によって形成される電気機械変換素子30を上面に支持する板状の部材であって、電気機械変換素子製造部17によって、電気機械変換素子30を構成する各層が下層側から上層側に向かって順に形成される。該基板18上には、位置合わせのためのアライメントマーク18Aが設けられている。
【0034】
基板18としては、Si基板、ガラス基板等を目的に応じて適宜選択して用いることができる。
【0035】
移動部24は、駆動部22及びレール20を備えている(図1参照)。レール20は、親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、及びエネルギー付与部16の配列方向に沿って長い長尺状とされている。駆動部22は、制御部28に電気的に接続されている。駆動部22としては、モータ等が挙げられる。
【0036】
上記基板18を支持する支持板40は、レール20の長尺方向に移動可能に支持されたリニアガイド(図示省略)に支持されている。このため、制御部28の制御によって駆動部22が駆動することで、支持板40(支持部38)がレール20の長尺方向に沿って移動する。すなわち、基板18は、親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、及びエネルギー付与部16の各々によって各種処理が行われる領域へと移動可能に構成されている。
【0037】
親液撥液パターン形成部12は、表面に凹凸を有してなる印刷版46、印刷版46を保持する保持基材48、検知部57、及びSAM塗布部50を備えている(図1及び図2(B)参照)。また、親液撥液パターン形成部12には、基板18に対して印刷版46の位置合わせを行うためのアライメントステージ(図示省略)及び該アライメントステージを駆動する駆動部(図示省略)が設けられている。
【0038】
印刷版46は、表面に凹凸を有する。この印刷版46の凹凸は、凸部が、基板18に形成する親液撥液パターンの親液部となるように予めパターニングされている。詳細には、この印刷版46の凸部は、電気機械変換素子30の製造工程において、最も下層側(基板18側)に形成される薄膜層の形状及び大きさに対応する形状とされている。なお、該「薄膜層」とは、機能性溶液塗布部14による、機能性溶液の1回の液滴の吐出により形成される厚みの層を示している。また、本実施の形態の電気機械変換素子30の製造において用いる、この印刷版46のパターンの種類は、1種類とされている。すなわち、本実施の形態の電気機械変換素子30では、1枚の印刷版46を用いて、電気機械変換素子30を作製する。
【0039】
印刷版46の材料としては、例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)樹脂、PMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂、PU(ポリウレタン)樹脂等を用いることができる。特に、弾性、耐溶剤性、溶液に対する版離れ性の観点から、印刷版46としては、PDMS樹脂を用いることが好適である。
【0040】
本実施形態においては、一例として、次の工程により作製された印刷版46を用いた。具体的には、まず、主剤と硬化剤からなる二液混合型のPDMS樹脂(Polydimethylsiloxane)の主剤と硬化剤とを10対1の重量比となるように秤量したのち、遊星回転機構を有する攪拌装置によって攪拌混合した。そして、引き続き、攪拌混合した前記PDMS樹脂を、後述するモールド型(図示省略)に注入したのち、支持基材を貼り付け、70℃×60分+150℃×30分にて加熱硬化させたのち、モールド型を剥離することによって印刷版46を作製した。
【0041】
なお、この印刷版46の作製に用いた上記モールド型には、Si基板をフォトリソグラフィー法によってパターニングしたものや、所望のパターン寸法に応じた微細加工技術を適宜用いて、ガラス基板、あるいは基板上に形成したレジストを加工することにより形成したものが挙げられる。
【0042】
保持基材48は、印刷版46の凹凸の形成された側の面が、親液撥液パターン形成部12によって親液撥液パターンの形成される領域(図1、図2(B)中、領域P1参照)に位置された基板18に対向するように、該印刷版46を保持する部材である。
【0043】
この印刷版46を保持する保持基材48としては、Si基板、ガラス基板、あるいは樹脂基板が挙げられる。
【0044】
検知部57は、基板18上に設けられたアライメントマーク18Aを検知する。検知部57は、制御部28に電気的に接続されており、領域P1に位置された基板18上のアライメントマーク18Aを検知可能な位置に配置されている。本実施の形態では、検知部57は、印刷版46及び保持基材48を介して、領域P1に位置された基板18に対向する位置に設けられている。
【0045】
検知部57としては、アライメントマーク18Aを検知可能な構成であればよいが、例えば、保持基材48及び印刷版46を透過する透過光を、領域P1に位置された基板18上に向かって照射し、その反射光を読み取ることで、アライメントマーク18Aを検知する装置が挙げられる。なお、この場合には、保持基材48としては、ガラス基板が好適に用いられる。
【0046】
これらの印刷版46、保持基材48、及び検知部57は、領域P1に位置された基板18に対向する側の面が開口した筐体58内に保持されている。
【0047】
SAM塗布部50は、自己組織化単分子膜の構成成分を溶媒に溶解した溶液であるSAM溶液52を、印刷版46の凹凸の形成された側の面に塗布する(図2(B)参照)。このSAM塗布部50としては、ディップコートや、ディスペンスコートや、スプレーコート等が挙げられる。
【0048】
SAM溶液52(第1溶液)は、SAM膜の構成成分である自己組織化単分子(SAM材料)を溶媒に溶解した溶液である。このSAM材料としては、下記(化合物1)や下記(化合物2)で示されるシラン化合物等の材料が挙げられる。電気機械変換素子30の製造に用いるSAM材料には、所望の表面エネルギー、あるいは基板18の材料に対する反応性に応じて、材料種あるいは濃度を適宜選択して用いる。また、このSAM材料としては、下記(化合物3)や下記(化合物4)で示されるアルキル基の一部がフッ化アルキル基に置換された材料も選択することができる。これらの化合物を、アルコール、アセトン、ヘキサン、トルエン、キシレン等の有機溶媒に溶解することにより、SAM溶液52が調整される。
【0049】
このSAM溶液52としては、具体的には、オクタデシルトリエトキシシラン(C18H37Si(OC2H5)3)をヘキサンに溶解することにより得られる有機分子含有溶液が挙げられる。
【0050】
(化合物1) CnH2n+1SiCl3
(化合物2) CnH2n+1Si(OCmH2m+1)3
(化合物3) CnF2n+1(CH2)2SiCl3
(化合物4) CnF2n+1(CH2)2Si(OCmH2m+1)3
【0051】
なお、化合物1〜化合物4中、nは1以上の整数であり、mは1以上の整数である。
【0052】
すなわち、印刷版46の凹凸の形成された側の面にSAM溶液52が塗布されることによって、印刷版46の凸部にSAM溶液52による塗膜が形成された状態となる。
【0053】
また、親液撥液パターン形成部12は、上記レール20に対して交差する方向(図1及び図2中、矢印B方向)に長尺のレール55、該レール55の長尺方向両端部の各々に設けられ該レール55を支持する一対の支持部材54A、及び駆動部56を備えている。また、親液撥液パターン形成部12は、レール55の長尺方向に移動可能に支持されたリニアガイド(図示省略)を備えている。
【0054】
保持基材48、印刷版46、及び検知部57を保持した筐体58は、図示を省略するリニアガイドに支持されている。また、筐体58には、駆動部56が設けられており、制御部28に電気的に接続されている。このため、制御部28の制御によって駆動部56が駆動することで、筐体58がレール55の長尺方向に沿って移動する。すなわち、親液撥液パターン形成部12では、制御部28の制御によって駆動部56が駆動されることで、筐体58がレール55の長尺方向(矢印B方向)のSAM塗布部50側に移動し、SAM塗布部50によってSAM溶液52が印刷版46に塗布される。また、制御部28の制御によって駆動部56が駆動されることで、筐体58がレール55の長尺方向(矢印B方向)の領域P1側に移動する。これによって、該領域P1に位置された基板18に、該印刷版46の凸部に塗布されたSAM溶液52による塗膜が転写可能な状態となる。
【0055】
機能性溶液塗布部14は、機能性溶液を吐出する液滴吐出ヘッド60、吐出制御部66、検知部61、駆動部62、筐体59、及びクリーニング装置65を備えている(図1及び図2(C)参照)。
【0056】
液滴吐出ヘッド60は、図示を省略する機能性溶液供給部から、形成対象の層(下部電極層32、圧電体層34、上部電極層36の何れか)に応じた機能性溶液が供給され、供給された機能性溶液を、領域P2に位置された基板18に向かって吐出する。この液滴吐出ヘッド60により吐出される機能性溶液の種類、及び吐出タイミング等は、制御部28に電気的に接続された吐出制御部66によって制御される。
【0057】
なお、液滴吐出ヘッド60として、下部電極層32の機能性溶液、圧電体層用の機能性溶液、上部電極層用の機能性溶液の各々の液滴を吐出する複数の液滴吐出ヘッドを設けた構成としてもよい(図示省略)。この場合には、吐出制御部66が、制御部28によって指示された層の種類に応じた機能性溶液を吐出する液滴吐出ヘッドを選択的に制御し、指示された層の種類に応じた機能性溶液を吐出すればよい。
【0058】
なお、領域P2は、液滴吐出ヘッド60によって機能性溶液の液滴を吐出される領域である。このため、基板18が、駆動部22の駆動によって領域P2に位置されると、該基板18に機能性溶液の液滴が吐出されて、該基板18上に機能性溶液による機能性溶液膜が形成される。
【0059】
機能性溶液は、電気機械変換素子30を構成する各層としての、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々の材料を溶媒に溶解した溶液である。このため、各種類の層(薄膜層)の形成時には、形成対象の層の種類に応じた機能性溶液が、液滴吐出ヘッド60から吐出される。
【0060】
下部電極層32の材料を含む機能性溶液、及び上部電極層36の材料を含む機能性溶液としては、例えば、白金微粒子をエタノール溶媒中に分散させた溶液や、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム等の白金系金属微粒子を、アルコール等の有機溶媒中に分散させた金属微粒子分散液や、ゾルゲル法により金属アルコキシド等の金属有機化合物を溶媒中に溶解、分散した所謂ゾルゲル液が挙げられる。なお、下部電極層32の材料を含む機能性溶液を、以下では、下部電極層32用の機能性溶液と称する場合がある。また、上部電極層36の材料を含む機能性溶液を、以下では、上部電極層36用の機能性溶液と称する場合がある。
【0061】
圧電体層34の材料を含む機能性溶液としては、ゾルゲル法により成膜される圧電体材料、具体的には酢酸鉛、イソプロポキシドジルコニウム、イソプロポキシドチタンを出発材料にし、これらの出発材料を、共通溶媒としてのメトキシエタノールに溶解させたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料が挙げられる。なお、圧電体層34の材料を含む機能性溶液は、以下では、圧電体層34用の機能性溶液と称して説明する場合がある。
【0062】
検知部61は、基板18上に設けられたアライメントマーク18Aを検知する。検知部61は、制御部28に電気的に接続されており、領域P2に位置された基板18上のアライメントマーク18Aを検知可能な位置に配置されている。検知部61としては、例えば、移動部24によって領域P2に位置された基板18上に向かって光を照射し、その反射光を読み取ることで、アライメントマーク18Aを検知する装置が挙げられる。
【0063】
上記液滴吐出ヘッド60、吐出制御部66、及び検知部61は、領域P2に位置されたときの基板18に対向する側の面が開口した筐体59内に保持されている。
【0064】
クリーニング装置65は、液滴吐出ヘッド60の液滴の吐出される吐出口等をクリーニングする装置であり、公知の装置が用いられる。
【0065】
また、機能性溶液塗布部14は、上記レール20に対して交差する方向(図1及び図2中、矢印B方向)に長尺のレール63、該レール63の長尺方向両端部の各々に設けられ該レール63を支持する一対の支持部材64A、及び駆動部62を備えている。また、機能性溶液塗布部14は、レール63の長尺方向に移動可能に支持されたリニアガイド(図示省略)を備えている。
【0066】
液滴吐出ヘッド60及び検知部61を保持した筐体59は、該リニアガイドに支持されている。また、駆動部62は、該筐体59に設けられており、制御部28に電気的に接続されている。このため、制御部28の制御によって駆動部62が駆動することで、筐体59がレール63の長尺方向に沿って移動する。すなわち、機能性溶液塗布部14では、制御部28の制御によって駆動部62が駆動されることで、筐体59がレール63の長尺方向(矢印B方向)のクリーニング装置65側に移動し、クリーニング装置65によってクリーニングされる。また、制御部28の制御によって駆動部62が駆動されることで、筐体59がレール63の長尺方向(矢印B方向)の領域P2側に移動する。これによって、該領域P2に位置された基板18に向かって、形成対象の層に応じた機能性溶液が液滴吐出ヘッド60から吐出可能な状態となる。
【0067】
エネルギー付与部16は、領域P3に位置された基板18に向かってエネルギーを付与するエネルギー付与装置72、及び該エネルギー付与装置72を制御するエネルギー制御部70を備えている(図1及び図2(D)参照)。
【0068】
なお、領域P3は、エネルギー付与装置72によってエネルギーを付与される領域である。このため、基板18が、駆動部22の駆動によって領域P3に位置されると、該基板18に向かって、エネルギーを付与可能な状態となる。
【0069】
エネルギー付与装置72は、領域P3に位置された基板18に向かってエネルギーを付与する。詳細には、基板18上に塗布された機能性溶液による塗布層に向かって、エネルギーを付与する。このエネルギー付与装置72によるエネルギー付与としては、ホットプレート、オーブン、ハロゲンランプ、キセノンランプ、赤外線ランプ等の加熱手段による加熱や、YAGレーザ、CO2レーザ、Arレーザ等のレーザ照射手段によるレーザー照射が挙げられる。
【0070】
エネルギー制御部70は、制御部28に電気的に接続されており、制御部28から受け付けた信号に応じて、エネルギー付与装置72によるエネルギー付与のタイミング等を制御する。
【0071】
エネルギー制御部70及びエネルギー付与装置72は、領域P3側に開口した筐体67に保持されている。この筐体67は、上記レール20に対して交差する方向(図1及び図2中、矢印B方向)に長尺のレール68によって、該領域P3に対向する位置に保持されている。なお、このレール68の長尺方向の両端部は、一対の支持部材69Aによって支持されている。
【0072】
入力部26は、各種情報を入力または出力する(図1参照)。入力部26は、制御部28に電気的に接続されている。入力部26としては、例えば、キーボード、タッチパネル付のディスプレイ等が挙げられる。本実施の形態では、入力部26から、形成対象の電気機械変換素子30を示す素子情報が入力される(詳細後述)。
【0073】
制御部28は、CPU(Central Processing Unit)、後述する電気機械変換素子の製造処理を実行するプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データ等を記憶するRAM(Random Access Memory)、及びこれらを接続するバスを含んで構成されている。制御部28は、電気機械変換素子製造部17に設けられた装置各部に電気的に接続されている。具体的には、制御部28は、駆動部22、上下駆動部41、駆動部56、検知部57、上下駆動部41、回転駆動部43、吐出制御部66、検知部61、駆動部62、及びエネルギー制御部70等に信号授受可能に接続されている。また、検知部57と回転駆動部43とは電気的に接続されており、検知部61と回転駆動部43とは、電気的に接続されている。
【0074】
ここで、本実施の形態の製造装置10における、電気機械変換素子30の製造方法の概要を説明する。
【0075】
断面形状を略台形状とされた電気機械変換素子30の各層(下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36)は、下記の工程を経ることによって形成される。
【0076】
まず、支持部38をレール20に沿って移動させて、親液撥液パターン形成部12における領域P1へ移動させる(図1参照)。そして、親液撥液パターン形成部12において、凹凸面側にSAM溶液52の塗布された印刷版46と、基板18と、を接触させて該接触状態を保持する(図4(A)参照)。これによって、SAM溶液52に含まれるSAM材料の結合性官能基と、基板18の表面原子とが化学結合し、基板18上のSAM溶液52が接触した領域にはSAM膜52Aが形成される(図4(B)参照)。すなわち、凸部にSAM溶液52の塗布された印刷版46を基板18に接触させることによって、基板18側には、SAM膜52Aによる撥液部74Bと、SAM膜52Aの形成されていない親液部74Aと、による撥液親液パターンが形成される(図4(B)参照)(第1の工程)。
【0077】
次に、支持部38をレール20に沿って移動させて、機能性溶液塗布部14における領域P2へ移動させる(図1参照)。そして、機能性溶液塗布部14の液滴吐出ヘッド60から、基板18の親液部74Aに向かって、機能性溶液の液滴76Aを吐出する(図4(C)参照)。ここで、基板18には、親液部74Aと撥液部74Bとによる撥液親液パターンが形成されている。このため、親液部74Aに向かって吐出された液滴76Aによる機能性溶液膜76Bは、基板18における表面エネルギー差により、親液部74Aに対して濡れ拡がり、撥液部74Bに対しては濡れ拡がりが抑制される。このため、親液部74Aに対して選択的に機能性溶液膜76Bが形成される(図4(C)参照)(第2の工程)。
【0078】
次に、支持部38をレール20に沿って移動させて、エネルギー付与部16における領域P3へと移動させる(図1参照)。そして、エネルギー付与装置72から基板18に向かってエネルギーを付与する。これによって、機能性溶液膜76Bが結晶化または硬化し、塗布された機能性溶液の種類に応じた薄膜層76が形成される(図4(D)参照)(第3の工程)。なお、この薄膜層76は、上述のように、1回の液滴の吐出によって得られる厚みの層である。
【0079】
そして、液滴吐出ヘッド60から吐出する機能性溶液として、下部電極層32用の機能性溶液を用い、上記図4(A)〜図4(D)に示す処理、すなわち印刷版46によるSAM溶液52の塗布、液滴76Aの吐出、及びエネルギーの付与をこの順に繰り返し行うことによって、複数の薄膜層76、例えば、下部電極層321〜下部電極層32nが(nは整数)積層され、所望の厚みの下部電極層32が形成される。
【0080】
同様にして、液滴吐出ヘッド60から吐出する機能性溶液として、圧電体層34用の機能性溶液を用い、上記印刷版46によるSAM溶液52の塗布、液滴76Aの吐出、及びエネルギーの付与をこの順に繰り返し行うことによって、複数の薄膜層76、すなわち圧電体層341〜圧電体層34nが(nは整数)積層され、所望の厚みの圧電体層34が形成される。
【0081】
さらに、同様にして、液滴吐出ヘッド60から吐出する機能性溶液として、上部電極層36用の機能性溶液を用い、上記印刷版46によるSAM溶液52の塗布、液滴76Aの吐出、及びエネルギーの付与をこの順に繰り返し行うことによって、複数の薄膜層76、すなわち上部電極層361〜上部電極層36nが(nは整数)積層され、所望の厚みの上部電極層36が形成される。
【0082】
ここで、本実施の形態の製造装置10で製造する電気機械変換素子30は、図3に示すように、上層側(上部電極層36側)から下層側(下部電極層32側)に向かって徐々に幅広となり、その断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子30である。
【0083】
また、本実施の形態の製造装置10では、凹凸によるパターンの種類が1種類(すなわち、凹凸の形状及び大きさが1種類)の版を印刷版46として用いて、上記略台形形状の電気機械変換素子30を製造している。
【0084】
このような1種類のパターンの印刷版46を用いて、断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子30を製造するために、本実施の形態の製造装置10では、SAM溶液52を塗布された印刷版46と基板18との接触時間を調整している(第4の工程)。
【0085】
このような接触時間の調整を行うために、本実施の形態の製造装置10の制御部28は、下記構成とされている。制御部28を、ハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、制御部28は、図5に示すように、素子情報解析部28A、印刷版接触時間設定部28B、設定情報記憶部28C、及び装置制御部28Dを備えている。
【0086】
素子情報解析部28Aは、入力部26から入力された、形成対象の電気機械変換素子30を示す素子情報を解析する。この電気機械変換素子30を示す素子情報には、例えば、形成対象の電気機械変換素子30の断面形状における、底辺と上辺とを結ぶ稜線を示す情報、電気機械変換素子30を構成する各層の種類、各種類の層の積層順、各種類の層の厚み、等を示す情報が含まれる。
【0087】
該各層の種類とは、下部電極層32、圧電体層34、上部電極層36の各々を識別する情報である。各種類の層の積層順とは、最も基板18側の層を最初に形成する層としたときの積層順を示す情報である。各種類の層の厚みとは、形成対象の、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々の厚みを示す情報である。また、形成対象の電気機械変換素子30の断面形状における、底辺と上辺とを結ぶ稜線を示す情報としては、例えば、一次直線を示す情報や、二次曲線を示す情報等が挙げられる。
【0088】
また、素子情報解析部28Aには、液滴吐出ヘッド60による一回の機能性溶液による液滴の吐出によって得られる厚みの薄膜層(図4中、薄膜層76参照)の、厚みを示す情報が予め記憶されている。
【0089】
素子情報解析部28Aでは、まず、入力部26から受け付けた素子情報を解析し、構成する各層の種類、及び各種類の層の厚みを読み取る。そして、素子情報解析部28Aでは、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々に種類の層ついて、これらの各種類の層を対応する厚みとするために必要な、薄膜層の積層数を求める。この積層数は、各種類の層の厚みと、1回の液滴の吐出によって得られる薄膜層の厚みを示す情報と、から算出される。そして、上記素子情報及び該算出結果に基づいて、形成対象の1または複数の薄膜層からなる、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36について、最も基板18側に形成される薄膜層から、最も上層側に形成される薄膜層に向かって、薄膜層毎に、層の種類、及び基板18面からの厚みを求める。
【0090】
なお、基板18面からの厚みとは、基板18と印刷版46との交点を原点としたときの、該基板18から形成対象の薄膜層の上面(基板18とは反対側の面)までの厚み(後述するZnに相当(図6参照))を示している。
【0091】
そして、これらの解析結果は、入力部26から入力された素子情報とともに、印刷版接触時間設定部28Bへ出力される。
【0092】
印刷版接触時間設定部28Bでは、素子情報解析部28Aから受け付けた素子情報に含まれる稜線を示す情報、及び上記解析結果等に基づいて、各種類の層を構成する薄膜層毎に、印刷版46の接触時間を設定する。
【0093】
ここで、印刷版接触時間設定部28Bにおいて行われる、薄膜層毎の印刷版46の接触時間の設定原理を具体的に説明する。
【0094】
図6(A)〜図6(C)には、凹凸側の面にSAM溶液52(図6では図示省略、図4(A)参照)を塗布された印刷版46と、基板18と、製造装置10によって形成される略台形状の電気機械変換素子30と、の位置関係を示した。
【0095】
形成対象の電気機械変換素子30の略台形形状の断面における、底辺と上辺とを結ぶ稜線が、図6(A)に示すように直線Q1であるとする。この場合、基板18の水平方向(基板18の面に沿った方向)をX軸とし、該印刷版46の側壁面に沿った方向(水平方向に直交する方向)をZ軸とし、印刷版46と基板18との交点を原点とする。なお、印刷版46の側壁面とは、図6(A)に示すように、印刷版46における凸部46Aと凹部46Bとの境界面Sを示している。
【0096】
すると、直線Q1によって示される稜線上の点(Xn,Zn)は、下式(a−1)で示される。
【0097】
Zn=αXn 式(a−1)
【0098】
なお、式(a−1)中、Znは、電気機械変換素子30を構成する各薄膜層の、基板18からの厚み(基板18面から、各薄膜層の基板18とは反対側の面までの厚み)を示している。この式(a−1)におけるZnは、親液撥液パターン形成部12によって形成された親液部の面積と、該親液部に塗布される機能性溶液、あるいは機能性溶液の塗布量から決定されるものである。このZnは、正確には、例えばレーザ変位計等の膜厚測定手段を用いて測定してもよい。また、式(a−1)中、αは、直線Q1によって示される稜線の形状によって定まる定数である。
【0099】
一方、印刷版46の凸部に塗布されたSAM溶液52は、印刷版46が基板18に接触(すなわち、凸部が基板18に接触)することによって、該SAM溶液52に含まれる有機分子(すなわちSAM材料)の蒸気圧、あるいは、測定環境の気圧、及び温度等の周辺環境に応じた拡散速度で、印刷版46の表面から外側に向かって拡散する。なお、この「印刷版46の表面から外側に向かって拡散」とは、SAM溶液52の塗布された印刷版46が基板18に接触することによって、基板18に接触した印刷版46上の凸部のSAM溶液52が、印刷版46の凸部46A側から凹部46B側へ向かって拡散することを示している。すなわち、印刷版46と基板18との接触によって、印刷版46の凸部46AのSAM溶液52が、印刷版46の凸部46Aと基板18との対向領域から、印刷版46の凹部46Bと基板18との対向領域へ向かって拡散することを示している。
【0100】
よって、Xnは、印刷版46の側壁面(X=0)(図6中、側壁面S参照)からのSAM溶液52の拡散距離と等価である。このため、基板18と印刷版46とが接触してからのSAM溶液52の拡散時間、すなわち印刷版46と基板18との接触時間tnは、下記式(a−2)で示される。
【0101】
tn=t(Xn) 式(a−2)
【0102】
なお、式(a−2)中、tは、有機分子(SAM材料)の蒸気圧、測定環境の気圧、及び温度等の環境情報によって定まる定数を示す。
【0103】
そして、上記式(a−1)と式(a−2)から、下式(a−3)が得られる。
【0104】
tn=t(Zn/α) 式(a−3)
【0105】
したがって、積層される各薄膜層(1回の液滴吐出によって得られる厚みの層)毎に、各薄膜層の積層位置に応じてZnが定まり、電気機械変換素子30の略台形形状の断面における底辺と上辺とを結ぶ稜線の形状によって、上記αが定まる。このため、各薄膜層毎に、印刷版46と基板18との接触時間tnが定まる。なお、式(a−3)では、このαが接触時間の変化率に相当する。
【0106】
そして、この接触時間tnを調整することによって、印刷版46の凸部46Aと基板18との対向領域から、印刷版46の凹部46Bと基板18との対向領域への、SAM溶液52の拡散度合いが調整される。すなわち、図6(A)に示す稜線が直線Q1状の略台形状の電気機械変換素子30を形成する場合には、印刷版接触時間設定部28Bでは、式(a−3)に基づいて、下層側に形成される薄膜層から上層側に形成される薄膜層に向かって、接触時間tnが大きくなるように、各薄膜層毎に印刷版46と基板18との接触時間tnを設定する。
【0107】
このように、下層側に形成される薄膜層から上層側に形成される薄膜層に向かって、接触時間tnが大きくなるように、各薄膜層毎に印刷版46と基板18との接触時間tnを設定すると、上層側となるほど、薄膜層形成時に基板18上に形成されるSAM膜52Aの領域(撥液部74B)が広くなり、親液部74Aの領域が狭くなる。このため、積層された複数の薄膜層の断面形状を、略台形状とすることができる。
【0108】
従って、印刷版接触時間設定部28Bでは、形成対象の電気機械変換素子30の断面形状における底辺側から上辺側に向かう稜線の形状を示す情報(図6(A)に示す例では、上記式(a−1))と、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々を構成する1または複数の薄膜層の各々の上記Znを示す情報と、SAM溶液52Bの蒸気圧情報や、製造時の気圧及び温度等の環境情報と、に基づいて、電気機械変換素子30を構成する各薄膜層毎に、印刷版46の接触時間を設定する。
【0109】
なお、本実施の形態の製造装置10では、説明を簡略化するために、SAM溶液52Bの蒸気圧情報や、製造時の気圧及び温度等の環境情報については、あらかじめ測定して印刷版接触時間設定部28B内のメモリに記憶されているものとして説明する。すなわち、上記式(a−2)については、すでに得られているものとして説明する。しかし、製造装置10に、環境温度、環境気圧、及びSAM溶液52Bの蒸気圧を測定する測定装置を設けて、この測定装置から受け付けた情報に基づいて得られた式(a−2)及び式(a−3)を用いて、印刷版46の接触時間を設定してもよい。
【0110】
なお、本実施の形態の製造装置10で製造する電気機械変換素子30の断面形状である略台形状は、図6(A)に示すような上記稜線が直線状である形状に限られず、曲線状でであってもよい。
【0111】
具体的には、図6(B)に示すような曲線Q2の稜線を有する略台形形状の電気機械変換素子30Aを、形成対象の電気機械変換素子30としてもよい。この場合についても、稜線が直線状である場合と同様に、基板18の水平方向(基板18の面に沿った方向)をX軸とし、該印刷版46の側壁面に沿った方向(水平方向に直交する方向)をZ軸とし、印刷版46と基板18との交点を原点とする。すると、曲線Q2によって示される稜線上の点(Xn,Zn)は、下式(b−1)で示される。
【0112】
Zn=αXnβ 式(b−1)
【0113】
なお、式(b−1)中、Zn、及びXnは、上記式(a−1)と同じである、また、式(b−1)中、α、βは、曲線Q2によって示される稜線の形状によって定まる定数である。
【0114】
そして、式(a−1)と同様に、式(b−1)中のXnは、印刷版46の側壁面(X=0)(図6中、側壁面S参照)からのSAM溶液52の拡散距離と等価であり、基板18と印刷版46とが接触してからのSAM溶液52の拡散時間、すなわち印刷版46と基板18との接触時間tnは、上記式(a−2)で示される。このため、式(b−1)及び式(a−2)から、下記式(b−2)が得られる。
【0115】
tn=t((Zn/α)1/β) 式(b−2)
【0116】
なお、式(b−2)中、tは、式(a−1)と同じである。また、式(b−2)中、α、βは、上記式(b−1)と同じである。なお、式(b−2)では、このα及びβが接触時間の変化率に相当する。
【0117】
したがって、稜線が直線Q1である場合と同様に、稜線が曲線Q2である場合についても、積層される各薄膜層毎に、各薄膜層の積層位置に応じてZnが定まり、電気機械変換素子30の略台形形状の断面における底辺と上辺とを結ぶ稜線の形状(曲線Q2)によって、上記α及びβが定まる。このため、各薄膜層毎に、印刷版46と基板18との接触時間tnが定まる。そして、この接触時間tnを調整することによって、印刷版46の凸部46Aと基板18との対向領域から、印刷版46の凹部46Bと基板18との対向領域への、SAM溶液52の拡散度合いが調整される。
【0118】
すなわち、図6(B)に示す稜線が曲線Q2状の略台形状の電気機械変換素子30Aを製造する場合には、印刷版接触時間設定部28Bでは、式(b−2)に基づいて、下層側に形成される薄膜層から上層側に形成される薄膜層に向かって、接触時間tnが大きくなるように、各薄膜層毎に印刷版46と基板18との接触時間tnを設定する。
【0119】
また、図6(C)に示す曲線Q3の稜線を有する略台形形状の電気機械変換素子30Bを製造する場合についても同様に、接触時間tnの調整によって、断面形状を、該稜線が曲線Q3状の略台形状とすることができる。
【0120】
具体的には、図6(C)に示すような曲線Q3の稜線を有する略台形形状の電気機械変換素子30Aを、形成対象の電気機械変換素子30としてもよい。この場合についても、稜線が直線状である場合と同様に、基板18の水平方向(基板18の面に沿った方向)をX軸とし、該印刷版46の側壁面に沿った方向(水平方向に直交する方向)をZ軸とし、印刷版46と基板18との交点を原点とする。すると、曲線Q3によって示される稜線上の点(Xn,Zn)は、下式(c−1)で示される。
【0121】
Zn=α[1−exp(-(Xn/β)γ)] 式(c−1)
【0122】
なお、式(c−1)中、Zn及びXnは、上記式(a−1)と同じである。また、式(c−1)中、α、β、γは、曲線Q3によって示される稜線の形状によって定まる定数である。
【0123】
そして、式(a−1)と同様に、式(c−1)中のXnは、印刷版46の側壁面(X=0)(図6中、側壁面S参照)からのSAM溶液52の拡散距離と等価であり、基板18と印刷版46とが接触してからのSAM溶液52の拡散時間、すなわち印刷版46と基板18との接触時間tnは、上記式(a−2)で示される。このため、式(c−1)及び式(a−2)から、下記式(c−2)が得られる。
【0124】
tn=t(β[−Ln(1−Zn/α)]1/γ) 式(c−2)
【0125】
なお、式(c−2)中、Lnは、自然対数(ln)を示す。なお、式(c−2)中、tは、式(a−1)と同じである。また、式(c−2)中、α、β、γは、上記式(c−1)と同じである。なお、式(c−2)では、このα、β、及びγが接触時間の変化率に相当する。
【0126】
したがって、稜線が直線Q1である場合と同様に、稜線が曲線Q3である場合についても、積層される各薄膜層毎に、各薄膜層の積層位置に応じてZnが定まり、電気機械変換素子30(電気機械変換素子30B)の略台形形状の断面における底辺と上辺とを結ぶ稜線の形状(曲線Q3)によって、上記α、β、γが定まる。このため、各薄膜層毎に、印刷版46と基板18との接触時間tnが定まる。
【0127】
そして、この接触時間tnを調整することによって、印刷版46の凸部46Aと基板18との対向領域から、印刷版46の凹部46Bと基板18との対向領域への、SAM溶液52の拡散度合いが調整される。
【0128】
すなわち、図6(C)に示す稜線が曲線Q3状の略台形状の電気機械変換素子30Bを製造する場合には、印刷版接触時間設定部28Bでは、式(c−2)に基づいて、下層側に形成される薄膜層から上層側に形成される薄膜層に向かって、接触時間tnが大きくなるように、各薄膜層毎に印刷版46と基板18との接触時間tnを設定する。
【0129】
上述のようにして各薄膜層毎に接触時間tnを設定すると、印刷版接触時間設定部28Bは、薄膜層毎に設定した接触時間を、薄膜層の種類、及び薄膜層の積層位置に対応づけて設定情報記憶部28Cに記憶する。
【0130】
装置制御部28Dは、設定情報記憶部28Cに記憶された、各薄膜層の種類、各薄膜層の接触時間、各薄膜層の積層位置、を示す情報を読み取り、電気機械変換素子製造部17を制御する。電気機械変換素子製造部17は、上記親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、エネルギー付与部16、及び支持部38を含んで構成されている。
【0131】
次に、本実施の形態に係る製造装置10における、電気機械変換素子30の製造処理の詳細を説明する。図7は、本実施の形態における電気機械変換素子30の製造処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0132】
制御部28では、電気機械変換素子30の製造処理プログラムを読み取り、所定時間毎に、図7に示す処理ルーチンを実行する。
【0133】
まず、素子情報解析部28Aが、入力部26から素子情報が入力されたか否かを判断する(ステップ100)。そして、ステップS100で、入力部26から素子情報が入力されなかったと判断した場合には(ステップS100:No)、素子情報解析部28Aは、本ルーチンを終了する。一方、ステップS100で、入力部26から素子情報が入力されたと判断した場合には(ステップS100:Yes)、素子情報解析部28Aは、上記ステップS100で入力された素子情報を解析する(ステップS102)。
【0134】
次に、印刷版接触時間設定部28Bが、入力部26から入力された素子情報、及び素子情報解析部28Aによる解析結果に基づいて、形成対象の電気機械変換素子30を構成する各種類の層(下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36)における各薄膜層毎に、各薄膜層形成のための印刷版46の接触時間を設定する(ステップS104)。
【0135】
次に、印刷版接触時間設定部28Bが、印刷版接触時間設定部28Bで設定された各薄膜層形成のための印刷版46の接触時間を、薄膜層の種類、及び薄膜層の積層位置に対応づけて設定情報記憶部28Cに記憶する(ステップS106)。
【0136】
そして、設定情報記憶部28Cに記憶された上記情報に基づいて、装置制御部28Dが電気機械変換素子製造部17を制御する製造部制御処理を実行することによって、電気機械変換素子30の作製処理が終了する(ステップS108)。
【0137】
次に、装置制御部28Dで行われる、上記製造部制御処理(ステップS108、図7参照)について、詳細に説明する。
図8は、装置制御部28Dで行われる、製造部制御処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0138】
なお、該装置制御部28Dで製造部制御処理が行われる前には、親液撥液パターン形成部12における筐体58は、初期位置として、領域P1に位置されているものとして説明する。同様に、装置制御部28Dで製造部制御処理が行われる前には、機能性溶液塗布部14における筐体59は、初期位置として、領域P2に位置されているものとして説明する。なお、筐体67は、領域P3に固定されているものとする。
【0139】
まず、装置制御部28Dは、機能性溶液塗布部14における領域P2への支持部38の移動を示す移動指示信号を駆動部22へ出力する(ステップS200)。領域P2への支持部38に移動を示す移動指示信号を受け付けた駆動部22は、支持部38をレール20に沿って移動させて領域P2へ位置させる。なお、該駆動部22による支持部38の領域P2への移動は、例えば、領域P2にセンサを設けておいて、該センサを駆動部22に電気的に接続する。そして、該センサから支持部38の検知信号が駆動部22に入力されるまで、駆動部22による支持部38の駆動を行えばよい。
【0140】
ステップS200の処理によって、支持部38によって支持された基板18は、領域P2に位置されている機能性溶液塗布部14の液滴吐出ヘッド60によって、機能性溶液の液滴を塗布される位置に配置される(図11参照)。
【0141】
そして、装置制御部28Dは、機能性溶液塗布部14の筐体59に設けられた検知部61に、位置合わせを指示する位置合わせ指示信号を出力する(ステップS202)。位置合わせ指示信号を受け付けた検知部61は、アライメントマーク18A検出のための光を基板18に向かって照射し、基板18上のアライメントマーク18Aを検知するまで、支持部38の回転駆動部43に回転指示信号を出力する。そして、検知部61は、アライメントマーク18Aを検知したときに、回転駆動部43への回転指示信号の出力を停止する。
【0142】
ステップS202の処理によって、支持部38の基板18と、液滴吐出ヘッド60との位置合わせが行われる。
【0143】
次に、装置制御部28Dは、領域P1への支持部38の移動を示す移動指示信号を駆動部22へ出力する(ステップS204)。領域P1への移動を示す移動指示信号を受け付けた駆動部22は、支持部38をレール20に沿って移動させて領域P1へと移動させる。なお、該駆動部22による支持部38の領域P1への移動は、例えば、領域P1にセンサを設けておいて、該センサを駆動部22に電気的に接続する。そして、該センサから支持部38の検知信号が入力されるまで、駆動部22による支持部38の駆動を行えばよい。
【0144】
ステップS204の処理によって、支持部38によって支持された基板18は、印刷版46によってSAM溶液52を塗布されうる位置に配置される(図12(A)参照)。
【0145】
次に、装置制御部28Dは、親液撥液パターン形成部12の筐体58に設けられている検知部57に、位置合わせを指示する位置合わせ指示信号を出力する(ステップS206)。位置合わせ指示信号を受け付けた検知部57は、基板18上のアライメントマーク18A検出のための光を基板18に向かって照射し、アライメントマーク18Aを検知するまで、親液撥液パターン形成部12に設けられたアライメントステージ(図示省略)の駆動部(図示省略)に回転指示信号を出力する。そして、検知部57は、アライメントマーク18Aを検知したときに、該駆動部への回転指示信号の出力を停止する。
【0146】
ステップS206の処理によって、支持部38の基板18と、印刷版46との位置合わせが行われる。
【0147】
次に、装置制御部28Dは、設定情報記憶部28Cに記憶されている情報から、下部電極層32に対応する情報を読み取る(ステップS208)。詳細には、装置制御部28Dは、薄膜層の種類として下部電極層32を示す情報に対応する、薄膜層の積層位置、及び印刷版46の接触時間を示す情報を読み取る。
【0148】
次に装置制御部28Dは、機能性溶液の種類を示す溶液種情報Nとして、下部電極層32用の機能性溶液を示す情報をセットする(ステップS210)。
【0149】
次に装置制御部28Dは、下部電極層32を構成する各薄膜層(1回の液滴吐出によって形成される厚みの層)として、積層位置が最も基板18側である(m=1)の薄膜層から、積層位置が最も基板18から遠い側(最も上層側)である(m=n)の薄膜層まで順に、各薄膜層に対応する、印刷版46の接触時間を示す情報(TAm)を読み取る(ステップS212)。
【0150】
次に、装置制御部28Dは、積層位置を示す情報mに、1層目の薄膜層であることを示す“1”をセットした後に(ステップS214)、印刷版46の基板18側への接触時間を示すTに、TAmをセットする(ステップS216)。すなわち、直前の処理(ステップ)で積層位置を示す情報mに“1”をセットした場合には、ステップS216では、該接触時間を示すTに、下部電極層32を構成する1または複数の薄膜層の内の、最も基板18側に形成される薄膜層の接触時間であるTA1がセットされる。
【0151】
そして、ステップS216で次に形成する薄膜層に対応する接触時間TAmをセットされた接触時間T、及びステップS210で下部電極層22用の機能性溶液を示す情報をセットされた溶液種情報Nに基づいて、基板18上に薄膜層を形成する薄膜層形成処理を実行する(ステップS216〜ステップS218)。
【0152】
詳細には、まず、装置制御部28Dは、印刷版46の基板18への接触指示信号を親液撥液パターン形成部12に出力する(ステップS218)。接触指示信号を受け付けた親液撥液パターン形成部12は、駆動部56の駆動によって印刷版46をSAM塗布部50の位置にまで移動させ、印刷版46にSAM溶液52を塗布する(図12(B)参照)。そして、SAM溶液52の塗布された印刷版46(筐体58)を、駆動部56の駆動によって領域P1にまで移動させる。そして、該印刷版46と、該領域P1に配置された基板18と、を接触させる(図12(C)、及び図14(A1)参照)。
【0153】
この印刷版46と基板18との接触は、上下駆動部41によって上下ステージ42が基板18に近づく方向へと移動することで行われる。
【0154】
次に、装置制御部28Dは、印刷版46と基板18とが接触してから、上記ステップS216で設定した設定時間T(TAm)を経過するまで否定判断を繰り返し(ステップS220:No)、肯定されると(ステップS220:Yes)該判断を終了して次のステップS224の処理を行う。
【0155】
なお、印刷版46と基板18とが接触したことの判断は、例えば、印刷版46に、基板18との接触を検知するためのセンサを設けておいて、このセンサからの接触検知信号を判別することで判断すればよい。
【0156】
ステップS218〜ステップS220の処理によって、SAM溶液52を塗布された印刷版46と基板18とが、形成対象の薄膜層に対応する接触時間Tに応じた時間、接触状態で保持される(図12(C)、及び図14(A1)参照)。
【0157】
そして、上記ステップS220で肯定判断し、該接触時間Tが経過すると、装置制御部28Dは、印刷版46の接触の解除を示す接触解除指示信号を親液撥液パターン形成部12へ出力する(ステップS224)。この印刷版46による接触が解除されることによって、基板18の印刷版46に対向する面には、SAM膜52Aによる撥液部74Bと、SAM膜52Aの形成されていない領域である親液部74Aと、による撥液親液パターンが形成される(図14(A2)参照)。
【0158】
次に、装置制御部28Dは、支持部38の機能性溶液塗布部14への移動を示す指示信号を駆動部22へ出力する(ステップS226)。指示信号を受け付けた駆動部22では、支持部38をレール20の長尺方向に沿って移動させて、機能性溶液塗布部14の領域P2へと移動させる。
【0159】
そして、装置制御部28Dは、機能性溶液塗布部14の吐出制御部66に、溶液種情報Nの機能性溶液の液滴吐出を示す吐出信号を出力する(ステップS228)。このため、溶液種情報Nとして、下部電極層32用の機能性溶液を示す情報が設定されていると、下部電極層32用の機能性溶液の液滴76Aが液滴吐出ヘッド60から吐出される(図13(A)、及び図14(A3)参照)。ここで、上記ステップS218及びステップS220の処理によって、基板18上には、SAM膜52Aによる撥液部74Bと、SAM膜52Aの形成されていない領域である親液部74Aと、が形成されている(図14(A2)参照)。このため、吐出された下部電極層32用の機能性溶液の液滴76Aは、基板18上の親液部74Aに選択的に塗布されて、機能性溶液膜76Bとなる(図14(A3)参照)。
【0160】
次に、装置制御部28Dは、支持部38のエネルギー付与部16への移動を示す指示信号を駆動部22へ出力する(ステップS230)。該示信号を受け付けた駆動部22は、レール20の長尺方向に沿って支持部38を移動させて、エネルギー付与部16の領域P3へと移動させる。
【0161】
そして、装置制御部28Dは、エネルギー制御部70へエネルギー付与信号を出力する(ステップS232)。該信号を受け付けたエネルギー制御部70は、上記処理によって親液部74Aに形成された、機能性溶液膜76Bに向かってエネルギーを付与する(図13(B)、及び図14(A4)参照)。この処理によって、機能性溶液膜76Bが結晶化または硬化し、下部電極層32を構成する1または複数の薄膜層のうちの、最も基板18側に形成される薄膜層(例えば、下部電極層321)が形成される(図14(A4)参照)。
【0162】
次に、装置制御部28Dは、積層位置を示す情報mが、下部電極層32における薄膜層の積層枚数であるnと同じであるか否かを判断する(ステップS234)。そして、該判断で否定(ステップS234:No)されると、積層位置を示す情報mを‘1’カウントアップする(ステップS236)。そして、上記ステップS204と同様に、親液撥液パターン形成部12への支持部38の移動指示信号を22に出力(ステップS237)した後に、ステップS216へ戻る。
【0163】
すなわち、上記ステップS216〜ステップS237の処理が繰り返し行われることによって、下部電極層32を構成する薄膜層が、基板18側から順に形成され、複数の薄膜からなる下部電極層32が形成される(図14(A4)参照)。
【0164】
ここで、上層側の薄膜層を形成するほど、印刷版46の基板18への接触時間は短くなるように設定されていることから、上層側の薄膜層の形成時ほど、基板18上に形成されるSAM膜52Aによる撥液部74Bが拡散し、親液部74Aの領域が狭くなる。このため、上記ステップS216〜ステップS237の処理が繰り返し実行されることによって、下部電極層32を構成する薄膜層は、入力された素子情報に含まれる稜線を示す情報に応じて、下層側から上層側に向かって、幅が狭くなるように形成される。
【0165】
次に、装置制御部28Dは、1または複数の薄膜層からなる圧電体層34を形成する、圧電体層形成処理(ステップS238)を行う(詳細後述)。そして、さらに、装置制御部28Dは、1または複数の薄膜層からなる上部電極層36を形成する、上部電極層形成処理(ステップS240)を行う(詳細後述)これによって、電気機械変換素子30の作製処理が終了する。
【0166】
次に、上記圧電体層形成処理(ステップS238)について説明する。
【0167】
図9に示すように、装置制御部28Dは、設定情報記憶部28Cに記憶されている情報から、圧電体層34に対応する情報を読み取る(ステップS300)。詳細には、装置制御部28Dは、薄膜層の種類として圧電体層34を示す情報に対応する、薄膜層の積層位置、及び印刷版46の接触時間を示す情報を読み取る。
【0168】
次に装置制御部28Dは、機能性溶液の種類を示す溶液種情報Nとして、圧電体層34用の機能性溶液を示す情報をセットする(ステップS302)。
【0169】
次に装置制御部28Dは、圧電体層34を構成する各薄膜層(1回の液滴吐出によって形成される厚みの層)として、積層位置が最も基板18側である(m=1)の薄膜層から、積層位置が最も基板18から遠い側(最も上層側)である(m=n)の薄膜層まで順に、各薄膜層に対応する、印刷版46の接触時間を示す情報(TBm)を読み取る(ステップS304)。
【0170】
次に、装置制御部28Dは、積層位置を示す情報mに、1層目の薄膜層であることを示す“1”をセットした後に(ステップS306)、印刷版46の基板18側への接触時間を示すTに、TBmをセットする(ステップS308)。すなわち、直前の処理(ステップ)で積層位置を示す情報mに“1”をセットした場合には、ステップS308では、該接触時間を示すTには、圧電体層34を構成する1または複数の薄膜層の内の、最も基板18側に形成される薄膜層の接触時間であるTB1がセットされる。
【0171】
そして、ステップS308で次に形成する薄膜層に対応する接触時間TBmをセットされた接触時間T、及びステップS302で圧電体層34用の機能性溶液を示す情報をセットされた溶液種情報Nに基づいて、基板18上に薄膜層を形成する薄膜層形成処理を実行(ステップS218〜ステップS237)した後に、本ルーチンを終了する。なお、この薄膜層形成処理は、溶液情報Nにセットされた機能性溶液の種類を示す情報、及び接触時間Tが、圧電体層34用の溶液及び圧電体層34を構成する薄膜層に対応する情報である以外は、上記ステップS218〜ステップS237と同じであるため説明を省略する。
【0172】
この圧電体層形成処理において、ステップS308及びステップS218〜ステップS237の処理が行われることによって、まず、SAM溶液52を塗布された印刷版46と基板18とが接触し、この接触した状態が、各薄膜層に対応する接触時間保持される(図14(B1)参照)。これによって、基板18上には、SAM膜52Aの形成された領域である撥液部74Bと、SAM膜52Aの形成されていない領域である親液部74Aと、による撥液親液パターンが形成される(図14(B2)参照)。
【0173】
そして、この機能性溶液膜76Bにエネルギー付与部16からエネルギーが付与されて、下部電極層32上に圧電体層34における薄膜層341が積層される。
【0174】
そして、このステップS308、及びステップS218〜ステップS237の処理が繰り返し行われることによって、圧電体層34を構成する薄膜層341〜薄膜層34nが、基板18側から順に形成され、複数の薄膜からなる圧電体層34が形成される。また、上層側の薄膜層を形成するほど、印刷版46の基板18への接触時間は短くなることから、上層側の薄膜層の形成時ほど、基板18上に形成されるSAM膜52Aによる撥液部74Bが拡散して形成され、親液部74Aの領域が狭くなる。このため、圧電体層形成処理において、上記ステップS308、及びステップS218〜ステップS237の処理が繰り返し実行されることによって、圧電体層34を構成する薄膜層は、入力された素子情報に含まれる稜線を示す情報に応じて、下層側から上層側に向かって、幅が狭くなるように形成される。
【0175】
次に、上部電極層形成処理(ステップS240)(図8参照)について説明する。
【0176】
図10に示すように、装置制御部28Dは、設定情報記憶部28Cに記憶されている情報から、上部電極層36に対応する情報を読み取る(ステップS400)。詳細には、装置制御部28Dは、薄膜層の種類として上部電極層36を示す情報に対応する、薄膜層の積層位置、及び印刷版46の接触時間を示す情報を読み取る。
【0177】
次に装置制御部28Dは、機能性溶液の種類を示す溶液種情報Nとして、上部電極層36用の機能性溶液を示す情報をセットする(ステップS402)。
【0178】
次に装置制御部28Dは、上部電極層36を構成する各薄膜層(1回の液滴吐出によって形成される厚みの層)として、積層位置が最も基板18側である(m=1)の薄膜層から、積層位置が最も基板18から遠い側(最も上層側)である(m=n)の薄膜層まで順に、各薄膜層に対応する、印刷版46の接触時間を示す情報(TCm)を読み取る(ステップS404)。
【0179】
次に、装置制御部28Dは、積層位置を示す情報mに、1層目の薄膜層であることを示す“1”をセットした後に(ステップS406)、印刷版46の基板18側への接触時間を示すTに、TCmをセットする(ステップS408)。すなわち、直前の処理(ステップ)で積層位置を示す情報mに“1”をセットした場合には、ステップS408では、該接触時間を示すTには、上部電極層36を構成する1または複数の薄膜層の内の、最も基板18側に形成される薄膜層の接触時間であるTC1がセットされる。
【0180】
そして、ステップS408で次に形成する薄膜層に対応する接触時間TCmをセットされた接触時間T、及びステップS402で圧電体層34用の機能性溶液を示す情報をセットされた溶液種情報Nに基づいて、基板18上に薄膜層を形成する薄膜層形成処理を実行(ステップS218〜ステップS237)した後に、本ルーチンを終了する。なお、この薄膜層形成処理は、溶液情報Nにセットされた機能性溶液の種類を示す情報、及び接触時間Tが、上部電極層36用の溶液及び上部電極層36を構成する薄膜層に対応する情報である以外は、上記ステップS218〜ステップS237と同じであるため説明を省略する。
【0181】
この上部電極層形成処理において、ステップS408、ステップS218〜ステップS237の処理が行われることによって、まず、SAM溶液52を塗布された印刷版46と基板18とが接触し、この接触した状態が、各薄膜層に対応する接触時間保持される(図14(C1)参照)。これによって、基板18上には、SAM膜52Aの形成された領域である撥液部74Bと、SAM膜52Aの形成されていない領域である親液部74Aと、による撥液親液パターンが形成される(図14(C2)参照)。
【0182】
そして、この機能性溶液膜76Bにエネルギー付与部16からエネルギーが付与されて、圧電体層34上に、上部電極層36における薄膜層361が積層される。
【0183】
そして、このステップS408、及びステップS218〜ステップS237の処理が繰り返し行われることによって、上部電極層36を構成する薄膜層361〜薄膜層36nが、基板18側から順に形成され、複数の薄膜からなる上部電極層36が形成される。また、上層側の薄膜層を形成するほど、印刷版46の基板18への接触時間は短くなることから、上層側の薄膜層の形成時ほど、基板18上に形成されるSAM膜52Aによる撥液部74Bが拡散して形成され、親液部74Aの領域が狭くなる。このため、上部電極層形成処理において、上記ステップS216〜ステップS237の処理が繰り返し実行されることによって、上部電極層36を構成する薄膜層は、入力された素子情報に含まれる稜線を示す情報に応じて、下層側から上層側に向かって、幅が狭くなるように形成される。
【0184】
上記図7〜図9を用いて説明した、電気機械変換素子30の製造処理が実行されることによって、断面形状が略台形状であり、且つ、略台形形状の断面の上辺と底辺とを結ぶ稜線が、入力部26から入力された素子情報に含まれる稜線情報に応じた形状の、電気機械変換素子30が製造される。
【0185】
以上説明したように、本実施の形態の製造装置10によれば、1種類の印刷版46を用意してSAM溶液52を塗布し、このSAM溶液52の塗布された印刷版46の基板18側への接触時間を調整することによって、その断面形状が略台形状とされた電気機械変換素子30を製造する。
【0186】
このため、略台形形状の電気機械変換素子30を簡易な構成で容易に製造することができる。
【0187】
また、撥液親液パターンの形成された基板18上に、インクジェット法を用いて機能性溶液を塗布するので、製造時に使用する機能性溶液の使用量の低減を図ることができる。また、1枚の印刷版46を用いたマイクロプリント法によって、SAM溶液52を基板18に塗布することで、撥液親液パターンを基板18上に形成するので、フォトリソグラフィー法やエッチングを用いる場合に比べて、製造時の環境負荷を低減し、且つ製造コストの低減も図ることができる。
【0188】
従って、本実施の形態の製造装置10によれば、製造時の環境負荷を低減し、製造コストを低減しつつ、且つ簡易な構成で容易に電気機械変換素子30を製造することが出来る。
【0189】
また、本実施の形態の製造装置10では、電気機械変換素子30の製造において用いる1種類の印刷版46としては、上述のように、電気機械変換素子30の製造工程において最も下層側(基板18側)に形成される薄膜層の形状及び大きさに対応する形状の凹凸の形成された印刷版46を用いる。このため、機能性溶液による薄膜層を積層させることで下層側から上層側の薄膜層を順次積層していっても、基板18と印刷版46の凸部46Aとの接触不良が抑制される。
【0190】
次に、本実施の形態の製造装置10によって製造される電気機械変換素子30を用いた液滴吐出ヘッドについて説明する。
【0191】
図15に示すように、本実施の形態に係る電気機械変換素子30を用いた液滴吐出ヘッド86は、電気機械変換素子30と、密着層46と、振動板24と、圧力室基板80と、ノズル82Aが設けられたノズル板82とを有する。この圧力室基板80とノズル板82とで圧力室84が形成され、この中にインク等の液体が充填される。なお、図15では、振動板、液体供給手段、流路、流体抵抗等は省略している。
【0192】
液滴吐出ヘッド86は、電気機械変換素子30により圧力室84を加圧することで、ノズル板82のノズル82Aからインク滴等の液滴を吐出する。また、図16に示すように画素毎に対応して設けられた液滴吐出ヘッド86が所定の間隔で並べられた構成の、液滴吐出ヘッド88としてもよい。
【0193】
次に、上述した液滴吐出ヘッド86を搭載した液滴吐出装置の一例について図17及び図18を参照して説明する。
【0194】
図17、及び図18に示すように、液滴吐出装置51は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載し、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッド86または液滴吐出ヘッド88からなる記録ヘッド94、記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部89等を収納する。記録装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット85(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ(図示省略)を開倒することができ、給紙カセット85或いは手差しトレイ(図示省略)から給送される用紙83を取り込み、印字機構部89によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ87に排紙する。
【0195】
印字機構部89は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ93には記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
【0196】
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0197】
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
【0198】
一方、給紙カセット85にセットした用紙83を記録ヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット85から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0199】
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ87に送り出す排紙ローラ113及び114と、排紙経路を形成するガイド部材115とを配設している。
【0200】
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0201】
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0202】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(図示しない)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0203】
上述のように、本実施の形態の液滴吐出装置51は、製造装置10によって製造された電気機械変換素子30を備えた液滴吐出ヘッド86または液滴吐出ヘッド88を備えている。このため本実施の形態の液滴吐出装置51は、環境負荷が小さく、低コストである。また、電気機械変換素子30が略台形状であることから、液滴の吐出不良も抑制され、安定した吐出特性が得られ、画像品質も向上する。
また、液滴吐出装置51を、各種印刷装置に搭載することができる。この液滴吐出装置51を、各種印刷装置に搭載することによって、画像品質の向上した印刷装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0204】
10 製造装置
12 親液撥液パターン形成部
14 機能性溶液塗布部
16 エネルギー付与部
28 制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0205】
【特許文献1】特許第3387380号公報
【特許文献2】特開2005−327920号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換素子の製造装置、電気機械変換素子の製造方法、電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置等の液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧室(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される)と、加圧室内のインクを加圧する圧電素子等の電気機械変換素子と、を備え、電気機械変換素子に電圧を印可することによって発生したエネルギーを用いて振動板を変位させ、加圧室内のインクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させている。
【0003】
電気機械変換素子としては、d33方向の変位を利用した縦振動型、d31方向の変位を利用した横振動型等が知られている。これらの中でも、画像の高精細化を狙いとして、半導体プロセスやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用することによりSi基板上に圧力室、圧力室の一部を構成する振動板、および横振動型の圧電体を振動板の表面に直接作り込んだ薄膜の電気機械変換素子が知られている。
【0004】
このような電気機械変換素子は、基板表面に形成した下部電極上に、各種の真空成膜法(例えばスパッタリング法、MO−CVD法、真空蒸着法、イオンプレーティング法)やゾルゲル法、水熱合成法、AD(エアロゾルデポジション)法、塗布・熱分解法(MOD法)などの周知の成膜技術を用いて圧電体層の構成材料を堆積させて圧電体層を形成し、引き続き、上部電極層を形成して作製される。しかし、この電気機械変換素子を形成する各層は、膜厚が非常に薄いために剛性が低く、素子の外縁部分に応力集中が生じ、クラック等の破壊が発生する問題がある。
【0005】
そこで、電気機械変換素子におけるこのような応力集中を抑制する目的で、電気機械変換素子の形状を、上部電極層側から下部電極層側に向かって徐々に幅広とし、その断面形状を略台形形状とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、電気機械変換素子の断面形状を略台形形状とすることで、電気機械変換素子の外縁部にテーパー面を形成している。そして、このテーパー面によって、該外縁部への応力集中を抑制し、クラック等の破壊を防止することが開示されている。
【0006】
そして、特許文献1には、このような断面形状を略台形形状とされた電気機械変化素子を作製する方法としては、下記の製法が開示されている。具体的には、特許文献1には、基板全面に順に形成した下部電極膜、圧電体膜、上部電極膜の上部に、リソグラフィー法によりレジストパターンを形成した後、原子又は分子を衝突させることにより物理的に各層の一部をエッチングして除去することにより、台形形状を形成する方法が開示されている。また、下部電極膜、圧電体膜、及び上部電極膜を成形する方法としては、フッ酸と硝酸を含有した溶液等の強酸により、各層の一部を化学的に除去する方法が知られている。
【0007】
しかし、いずれの成形方法を用いた場合においても、貴金属を含む電極材料、鉛を含む圧電体材料、リソグラフィー法において用いる薬液消費等による環境負荷が大きく、高コスト化するという問題があった。
【0008】
一方、上記以外の、下部電極膜、圧電体膜、及び上部電極膜の成形方法としては、インクジェット法を用いた成膜方法が挙げられる。インクジェット法を用いてパターニングされた各層を形成する方法は、具体的には、形成対象の各層(下部電極層、電気機械変換膜、上部電極層)の形成のために用いる機能性溶液を含む液滴を、目的とする位置に吐出する。これによって、所定の形状にパターニングされた塗膜を形成し、該塗膜について、熱処理を行うことで、所定の形状にパターニングされた層(膜)を形成する。
【0009】
このインクジェット法は、所望の領域に選択的に、上記機能性溶液を塗布することが可能であり、溶液中に含有する種々の貴金属、あるいは環境汚染物質の消費量を抑制することが可能であるため、環境面、コスト面において有利な方法である。
【0010】
しかしながら、インクジェット法は、複数のノズルから上記機能性溶液の液滴を、目的とするパターンに応じた位置に向かって吐出することでパターンを形成する、所謂、非接触な成膜方法である。このため、パターン形成精度に数μm〜数十μm程度のばらつきが発生し、所望の形状の電気機械変換素子が得られにくいという問題がある。
【0011】
そこで、このような問題を解決する技術として、高密度、高配向な自己組織化単分子膜(Self−Assembled Monolayers:SAM膜)を基材上に構築し、このSAM膜をパターニングすることで、基材上に、親液性の領域と撥液性の領域とによる親液撥液パターンを形成する方法が開示されている(特許文献2参照)。この基材上に形成された親液撥液パターンの親液部に向かって、機能性溶液の液滴を吐出することで所望の形状に成形された膜を形成することができる。
【0012】
ここで、特許文献2には、このSAM膜のパターニングに、フォトリソグラフィー法や、マイクロコンタクトプリント法を用いることが開示されている。具体的には、フォトリソグラフィー法として、特許文献2には、機能性溶液による膜を形成する対象の基板の全面にSAM膜を形成した後に、フォトリソグラフィー法を用いてエッチングによりSAM膜を部分的に除去し、所望の親液撥液パターンを得る方法が開示されている。また、マイクロコンタクトプリント法として、特許文献2には、ナノメートル〜マイクロメートルオーダの凹凸が形成された印刷版の表面に、SAM膜の形成材料を溶解した溶液を塗布し、この印刷版を基板表面に押し付けることで、撥液親液パターンを形成することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記略台形形状の電気機械変換素子を形成する方法として、撥液親液パターンを形成し、親液部に機能性溶液を選択的に塗布する方法を採用するには、以下の問題があった。すなわち、フォトリソグラフィー法を用いる場合には、基材の全面に均一なSAM膜を形成するときに、一般的に知られている気相法、及び液相法のいずれの成膜方法を用いた場合においても数時間から数日程度の時間がかかるという問題があった。また、フォトリソグラフィー法は、コストが高いという問題もあった。
【0014】
一方、マイクロコンタクトプリント法は、印刷版の形成以降の工程では、フォトリソグラフィー法を用いる必要がない。このため、マイクロコンタクトプリント法では、フォトリソグラフィー法にくらべて低コスト化が図れる。しかしながら、上層側から下層側に向かって幅広となり、その断面形状が略台形形状の電気機械変換素子を作製するには、同じ幅や形状の層毎に、各層の幅や形状に対応する印刷版を複数個用意する必要があった。
【0015】
このため、環境負荷を低減し、製造コストを低減しつつ、且つ簡易な構成で容易に、その断面形状を略台形形状とされた電気機械変換素子を製造することは困難であった。
【0016】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、製造時の環境負荷を低減し、製造コストを低減しつつ、且つ簡易な構成で容易に電気機械変換素子を製造することが出来る、電気機械変換素子の製造装置、電気機械変換素子の製造方法、電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及び印刷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、1または複数の層からなる、下部電極層、圧電体層、及び上部電極層がこの順に積層され、該上部電極層側から該下部電極層側に向かって徐々に幅広となり、その断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子を製造する電気機械変換素子製造装置であって、凹凸によるパターンが形成され、自己組織化単分子膜を溶媒に溶解させた第1溶液を塗布された印刷版を、形成対象の層が形成される基板に接触させることによって、該印刷版の凸部に塗布された該第1溶液による塗膜を該基板に転写し、該基板上に親液部と撥液部とからなる親液撥液パターンを形成するパターン形成手段と、前記パターン形成手段によって前記基板上に形成された前記親液部に、前記形成対象の層の構成材料を含む機能性溶液を塗布して第2塗膜を形成する塗布手段と、前記塗布手段によって形成された第2塗膜にエネルギーを付与することによって、前記形成対象の層を前記基板上に形成するエネルギー付与手段と、前記形成対象の層としての、前記下部電極層、前記圧電体層、及び前記上部電極層の各々の構成材料を含む溶液をこの順に前記機能性溶液として用い、前記パターン形成手段による親液撥液パターン形成、前記塗布手段による前記機能性溶液の塗布、及び前記エネルギー付与手段によるエネルギーの付与、の一連の処理を、該下部電極層、該圧電体層、及び該上部電極層の順に、各層毎に、少なくとも1回以上繰り返すように該パターン形成手段、該塗布手段、及び該エネルギー付与手段を制御し、且つ下層側に形成される層から上層側に形成される層に向かって、前記印刷版の前記基板への接触時間が長くなるように、前記パターン形成手段を制御する制御手段と、を備えた、電気機械変換素子の製造装置である。
【0018】
また、本発明は、1または複数の層からなる、下部電極層、圧電体層、及び上部電極層がこの順に積層され、該上部電極層側から該下部電極層側に向かって徐々に幅広となり、その断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子を製造する電気機械変換素子の製造方法であって、凹凸によるパターンが形成され、自己組織化単分子膜を溶媒に溶解させた第1溶液を塗布された印刷版を、形成対象の層が形成される基板に接触させることによって、該印刷版の凸部に塗布された該第1溶液による塗膜を該基板に転写し、該基板上に親液部と撥液部とからなる親液撥液パターンを形成する第1の工程と、前記第1の工程によって前記基板上に形成された前記親液部に、前記形成対象の層の構成材料を含む機能性溶液を塗布して第2塗膜を形成する第2の工程と、前記第2の工程によって形成された第2塗膜にエネルギーを付与することによって、前記形成対象の層を前記基板上に形成する第3の工程と、前記形成対象の層としての、前記下部電極層、前記圧電体層、及び前記上部電極層の各々の構成材料を含む溶液をこの順に前記機能性溶液として用い、前記第1の工程、前記第2の工程、及び前記第3の工程の一連の処理を、該下部電極層、該圧電体層、及び該上部電極層の順に、各層毎に、少なくとも1回以上繰り返し、且つ下層側に形成される層から上層側に形成される層に向かって、前記印刷版の前記基板への接触時間を長くする第4の工程と、を備えた、電気機械変換素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製造時の環境負荷を低減し、製造コストを低減しつつ、且つ簡易な構成で容易に電気機械変換素子を製造することが出来る、電気機械変換素子の製造装置、電気機械変換素子の製造方法、電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、及び印刷装置を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置の一の形態を模式的に示した平面図である。
【図2】図2は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置の各部を模式的に示した断面図であり、(A)は、支持部を模式的に示した断面図である。(B)は、親液撥液パターン形成部を模式的に示した断面図である。(C)は機能性溶液塗布部を模式的に示した断面図である。(D)はエネルギー付与部を模式的に示した断面図である。
【図3】図3は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置によって製造される電気機械変換素子を模式的に示した断面図である。
【図4】図4(A)〜図4(D)は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置による電気機械変換素子の製造工程の概要を模式的に示した断面図である。
【図5】図5は、本実施の形態の製造装置の制御部を、ハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで示した模式図である。
【図6】図6(A)〜図6(C)は、基板と印刷版とが接触した状態を模式的に示した断面図であり、且つ接触時間調整の原理を示す模式図である。
【図7】図7は、本実施の形態の製造装置の制御部で実行される電気機械変換素子製造処理を示すフローチャートである。
【図8】図8は、図7に示す製造部制御処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は、図8に示す圧電体層形成処理を示すフローチャートである。
【図10】図10は、図8に示す上部電極層形成処理を示すフローチャートである。
【図11】図11は、機能性溶液塗布部と基板との位置合わせ工程を示す模式図である。
【図12】図12(A)〜図12(C)は、親液撥液パターン形成部における印刷版と基板との位置合わせ工程、及び印刷版による基板へのSAM溶液の塗布工程を示す模式図である。
【図13】図13(A)は、機能性溶液塗布部における液滴吐出ヘッドから基板への液滴の塗布工程を示す模式図であり、図13(B)は、エネルギー付与部におけるエネルギー付与装置から基板へのエネルギー付与工程を示す模式図である。
【図14】図14(A1)〜図14(C4)は、本実施の形態における電気機械変換素子の製造装置による、電気機械変換素子の製造工程を模式的に示した断面図である。
【図15】図15は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置で製造された電気機械変換素子を用いた液滴吐出ヘッドの一の形態を模式的に示した断面図である。
【図16】図16は、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置で製造された電気機械変換素子を用いた液滴吐出ヘッドの図15とは異なる形態を模式的に示した断面図である。
【図17】図17は、本実施の形態の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置の一の形態を模式的に示した斜視図である。
【図18】図18は、本実施の形態の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置の一の形態を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる電気機械変換素子の製造装置、及び電気機械変換素子の製造方法の一の実施形態を詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態の電気機械変換素子の製造装置(以下、単に「製造装置」と称する)10は、親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、エネルギー付与部16、支持部38、移動部24、入力部26、及び制御部28を含んで構成されている。本実施の形態では、親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、及びエネルギー付与部16は、所定方向(図1中、矢印A方向参照)に配列されている。なお、以下では、親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、エネルギー付与部16、及び支持部38を総称する場合には、電気機械変換素子製造部17と称して説明する場合がある。
【0023】
本実施の形態の製造装置10は、図3に示すように、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36を順に積層し、その断面形状が略台形状の電気機械変換素子30を製造する装置である。これらの下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々は、1または複数の薄膜層が積層された構成とされている。なお、その断面形状が「略台形状」である、とは、上層側(上部電極層36側)から下層側(下部電極層32側)に向かって徐々に幅広となる形状であることを示している(図3参照)。
【0024】
製造装置10の支持部38は、上記電気機械変換素子30の形成される基板18を支持する。この支持部38によって支持された基板18上に、電気機械変換素子30を構成する各層が、下層側(下部電極層32側)から上層側(上部電極層36側)に向かって順に形成される。
【0025】
親液撥液パターン形成部12は、支持部38によって支持された基板18上に、親液撥液パターンを形成する。親液撥液パターンとは、詳細は後述するが、自己組織化単分子膜(Self−Assembled Monolayers:以下、「SAM膜」と称する場合がある)(第1溶液による塗膜)によって形成された親液部と、該SAM膜の形成されていない撥液部とからなるパターンである。
【0026】
機能性溶液塗布部14は、この親液撥液パターンの形成された基板18上に、機能性溶液を塗布する。これによって、基板18上の親液部には、該機能性溶液による機能性溶液膜(第2塗膜)が形成される。この機能性溶液とは、詳細は後述するが、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々の構成材料を含む溶液である。この機能性溶液は、形成対象の層の種類(下部電極層32、圧電体層34、または上部電極層36)に応じて、選択される。
【0027】
エネルギー付与部16は、機能性溶液塗布部14によって塗布された機能性溶液による機能性溶液膜にエネルギーを付与する。このエネルギー付与部16によるエネルギーの付与によって、塗布した機能性溶液の種類に応じた層(下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の何れかの層)が形成される。
【0028】
以下、製造装置10に設けられた各部について詳細に説明する。
【0029】
支持部38は、支持板40、上下ステージ42、回転ステージ44、及び基板18をこの順に積層して構成されている(図1及び図2(A)参照)。
【0030】
支持板40は、支持板40上に設けられた各部材及び各層(上下ステージ42、回転ステージ44、基板18、及び基板18上に設けられる層)を支持する板状の部材である。支持板40は、後述するレール20の長手方向に沿って移動可能に支持されている。
【0031】
上下ステージ42は、支持板40上に配置されている。上下ステージ42は、該上下ステージ42上に積層された各部材及び各層(回転ステージ44、基板18、及び基板18上に形成される各層)を支持するともに、これらの部材及び層を、親液撥液パターン形成部12に設けられた後述する印刷版46に接触する方向または該印刷版46から離間する方向へ移動させる。該上下ステージ42には、制御部28に電気的に接続された上下駆動部41が設けられている。制御部28の制御によって、上下駆動部41が制御されることで、上下駆動部41は、上下ステージ42を厚み方向に伸縮させて、該上下ステージ42上に積層された積層体を該印刷版46に接触する方向または該印刷版46から離間する方向に移動させる。
【0032】
回転ステージ44は、回転ステージ44上に積層された各部材及び各層(基板18、及び基板18上に形成された各層)を回転させる。この回転ステージ44には、制御部28に電気的に接続された回転駆動部43が設けられている。制御部28の制御によって回転駆動部43が駆動されると、該回転駆動部43の駆動によって回転ステージ44が回転し、該回転ステージ44の回転に伴って、回転ステージ44上の各部材及び層が回転する。この回転ステージ44は、電気機械変換素子30製造時の位置合わせ時に用いられる。
【0033】
基板18は、製造装置10によって形成される電気機械変換素子30を上面に支持する板状の部材であって、電気機械変換素子製造部17によって、電気機械変換素子30を構成する各層が下層側から上層側に向かって順に形成される。該基板18上には、位置合わせのためのアライメントマーク18Aが設けられている。
【0034】
基板18としては、Si基板、ガラス基板等を目的に応じて適宜選択して用いることができる。
【0035】
移動部24は、駆動部22及びレール20を備えている(図1参照)。レール20は、親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、及びエネルギー付与部16の配列方向に沿って長い長尺状とされている。駆動部22は、制御部28に電気的に接続されている。駆動部22としては、モータ等が挙げられる。
【0036】
上記基板18を支持する支持板40は、レール20の長尺方向に移動可能に支持されたリニアガイド(図示省略)に支持されている。このため、制御部28の制御によって駆動部22が駆動することで、支持板40(支持部38)がレール20の長尺方向に沿って移動する。すなわち、基板18は、親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、及びエネルギー付与部16の各々によって各種処理が行われる領域へと移動可能に構成されている。
【0037】
親液撥液パターン形成部12は、表面に凹凸を有してなる印刷版46、印刷版46を保持する保持基材48、検知部57、及びSAM塗布部50を備えている(図1及び図2(B)参照)。また、親液撥液パターン形成部12には、基板18に対して印刷版46の位置合わせを行うためのアライメントステージ(図示省略)及び該アライメントステージを駆動する駆動部(図示省略)が設けられている。
【0038】
印刷版46は、表面に凹凸を有する。この印刷版46の凹凸は、凸部が、基板18に形成する親液撥液パターンの親液部となるように予めパターニングされている。詳細には、この印刷版46の凸部は、電気機械変換素子30の製造工程において、最も下層側(基板18側)に形成される薄膜層の形状及び大きさに対応する形状とされている。なお、該「薄膜層」とは、機能性溶液塗布部14による、機能性溶液の1回の液滴の吐出により形成される厚みの層を示している。また、本実施の形態の電気機械変換素子30の製造において用いる、この印刷版46のパターンの種類は、1種類とされている。すなわち、本実施の形態の電気機械変換素子30では、1枚の印刷版46を用いて、電気機械変換素子30を作製する。
【0039】
印刷版46の材料としては、例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)樹脂、PMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂、PU(ポリウレタン)樹脂等を用いることができる。特に、弾性、耐溶剤性、溶液に対する版離れ性の観点から、印刷版46としては、PDMS樹脂を用いることが好適である。
【0040】
本実施形態においては、一例として、次の工程により作製された印刷版46を用いた。具体的には、まず、主剤と硬化剤からなる二液混合型のPDMS樹脂(Polydimethylsiloxane)の主剤と硬化剤とを10対1の重量比となるように秤量したのち、遊星回転機構を有する攪拌装置によって攪拌混合した。そして、引き続き、攪拌混合した前記PDMS樹脂を、後述するモールド型(図示省略)に注入したのち、支持基材を貼り付け、70℃×60分+150℃×30分にて加熱硬化させたのち、モールド型を剥離することによって印刷版46を作製した。
【0041】
なお、この印刷版46の作製に用いた上記モールド型には、Si基板をフォトリソグラフィー法によってパターニングしたものや、所望のパターン寸法に応じた微細加工技術を適宜用いて、ガラス基板、あるいは基板上に形成したレジストを加工することにより形成したものが挙げられる。
【0042】
保持基材48は、印刷版46の凹凸の形成された側の面が、親液撥液パターン形成部12によって親液撥液パターンの形成される領域(図1、図2(B)中、領域P1参照)に位置された基板18に対向するように、該印刷版46を保持する部材である。
【0043】
この印刷版46を保持する保持基材48としては、Si基板、ガラス基板、あるいは樹脂基板が挙げられる。
【0044】
検知部57は、基板18上に設けられたアライメントマーク18Aを検知する。検知部57は、制御部28に電気的に接続されており、領域P1に位置された基板18上のアライメントマーク18Aを検知可能な位置に配置されている。本実施の形態では、検知部57は、印刷版46及び保持基材48を介して、領域P1に位置された基板18に対向する位置に設けられている。
【0045】
検知部57としては、アライメントマーク18Aを検知可能な構成であればよいが、例えば、保持基材48及び印刷版46を透過する透過光を、領域P1に位置された基板18上に向かって照射し、その反射光を読み取ることで、アライメントマーク18Aを検知する装置が挙げられる。なお、この場合には、保持基材48としては、ガラス基板が好適に用いられる。
【0046】
これらの印刷版46、保持基材48、及び検知部57は、領域P1に位置された基板18に対向する側の面が開口した筐体58内に保持されている。
【0047】
SAM塗布部50は、自己組織化単分子膜の構成成分を溶媒に溶解した溶液であるSAM溶液52を、印刷版46の凹凸の形成された側の面に塗布する(図2(B)参照)。このSAM塗布部50としては、ディップコートや、ディスペンスコートや、スプレーコート等が挙げられる。
【0048】
SAM溶液52(第1溶液)は、SAM膜の構成成分である自己組織化単分子(SAM材料)を溶媒に溶解した溶液である。このSAM材料としては、下記(化合物1)や下記(化合物2)で示されるシラン化合物等の材料が挙げられる。電気機械変換素子30の製造に用いるSAM材料には、所望の表面エネルギー、あるいは基板18の材料に対する反応性に応じて、材料種あるいは濃度を適宜選択して用いる。また、このSAM材料としては、下記(化合物3)や下記(化合物4)で示されるアルキル基の一部がフッ化アルキル基に置換された材料も選択することができる。これらの化合物を、アルコール、アセトン、ヘキサン、トルエン、キシレン等の有機溶媒に溶解することにより、SAM溶液52が調整される。
【0049】
このSAM溶液52としては、具体的には、オクタデシルトリエトキシシラン(C18H37Si(OC2H5)3)をヘキサンに溶解することにより得られる有機分子含有溶液が挙げられる。
【0050】
(化合物1) CnH2n+1SiCl3
(化合物2) CnH2n+1Si(OCmH2m+1)3
(化合物3) CnF2n+1(CH2)2SiCl3
(化合物4) CnF2n+1(CH2)2Si(OCmH2m+1)3
【0051】
なお、化合物1〜化合物4中、nは1以上の整数であり、mは1以上の整数である。
【0052】
すなわち、印刷版46の凹凸の形成された側の面にSAM溶液52が塗布されることによって、印刷版46の凸部にSAM溶液52による塗膜が形成された状態となる。
【0053】
また、親液撥液パターン形成部12は、上記レール20に対して交差する方向(図1及び図2中、矢印B方向)に長尺のレール55、該レール55の長尺方向両端部の各々に設けられ該レール55を支持する一対の支持部材54A、及び駆動部56を備えている。また、親液撥液パターン形成部12は、レール55の長尺方向に移動可能に支持されたリニアガイド(図示省略)を備えている。
【0054】
保持基材48、印刷版46、及び検知部57を保持した筐体58は、図示を省略するリニアガイドに支持されている。また、筐体58には、駆動部56が設けられており、制御部28に電気的に接続されている。このため、制御部28の制御によって駆動部56が駆動することで、筐体58がレール55の長尺方向に沿って移動する。すなわち、親液撥液パターン形成部12では、制御部28の制御によって駆動部56が駆動されることで、筐体58がレール55の長尺方向(矢印B方向)のSAM塗布部50側に移動し、SAM塗布部50によってSAM溶液52が印刷版46に塗布される。また、制御部28の制御によって駆動部56が駆動されることで、筐体58がレール55の長尺方向(矢印B方向)の領域P1側に移動する。これによって、該領域P1に位置された基板18に、該印刷版46の凸部に塗布されたSAM溶液52による塗膜が転写可能な状態となる。
【0055】
機能性溶液塗布部14は、機能性溶液を吐出する液滴吐出ヘッド60、吐出制御部66、検知部61、駆動部62、筐体59、及びクリーニング装置65を備えている(図1及び図2(C)参照)。
【0056】
液滴吐出ヘッド60は、図示を省略する機能性溶液供給部から、形成対象の層(下部電極層32、圧電体層34、上部電極層36の何れか)に応じた機能性溶液が供給され、供給された機能性溶液を、領域P2に位置された基板18に向かって吐出する。この液滴吐出ヘッド60により吐出される機能性溶液の種類、及び吐出タイミング等は、制御部28に電気的に接続された吐出制御部66によって制御される。
【0057】
なお、液滴吐出ヘッド60として、下部電極層32の機能性溶液、圧電体層用の機能性溶液、上部電極層用の機能性溶液の各々の液滴を吐出する複数の液滴吐出ヘッドを設けた構成としてもよい(図示省略)。この場合には、吐出制御部66が、制御部28によって指示された層の種類に応じた機能性溶液を吐出する液滴吐出ヘッドを選択的に制御し、指示された層の種類に応じた機能性溶液を吐出すればよい。
【0058】
なお、領域P2は、液滴吐出ヘッド60によって機能性溶液の液滴を吐出される領域である。このため、基板18が、駆動部22の駆動によって領域P2に位置されると、該基板18に機能性溶液の液滴が吐出されて、該基板18上に機能性溶液による機能性溶液膜が形成される。
【0059】
機能性溶液は、電気機械変換素子30を構成する各層としての、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々の材料を溶媒に溶解した溶液である。このため、各種類の層(薄膜層)の形成時には、形成対象の層の種類に応じた機能性溶液が、液滴吐出ヘッド60から吐出される。
【0060】
下部電極層32の材料を含む機能性溶液、及び上部電極層36の材料を含む機能性溶液としては、例えば、白金微粒子をエタノール溶媒中に分散させた溶液や、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム等の白金系金属微粒子を、アルコール等の有機溶媒中に分散させた金属微粒子分散液や、ゾルゲル法により金属アルコキシド等の金属有機化合物を溶媒中に溶解、分散した所謂ゾルゲル液が挙げられる。なお、下部電極層32の材料を含む機能性溶液を、以下では、下部電極層32用の機能性溶液と称する場合がある。また、上部電極層36の材料を含む機能性溶液を、以下では、上部電極層36用の機能性溶液と称する場合がある。
【0061】
圧電体層34の材料を含む機能性溶液としては、ゾルゲル法により成膜される圧電体材料、具体的には酢酸鉛、イソプロポキシドジルコニウム、イソプロポキシドチタンを出発材料にし、これらの出発材料を、共通溶媒としてのメトキシエタノールに溶解させたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料が挙げられる。なお、圧電体層34の材料を含む機能性溶液は、以下では、圧電体層34用の機能性溶液と称して説明する場合がある。
【0062】
検知部61は、基板18上に設けられたアライメントマーク18Aを検知する。検知部61は、制御部28に電気的に接続されており、領域P2に位置された基板18上のアライメントマーク18Aを検知可能な位置に配置されている。検知部61としては、例えば、移動部24によって領域P2に位置された基板18上に向かって光を照射し、その反射光を読み取ることで、アライメントマーク18Aを検知する装置が挙げられる。
【0063】
上記液滴吐出ヘッド60、吐出制御部66、及び検知部61は、領域P2に位置されたときの基板18に対向する側の面が開口した筐体59内に保持されている。
【0064】
クリーニング装置65は、液滴吐出ヘッド60の液滴の吐出される吐出口等をクリーニングする装置であり、公知の装置が用いられる。
【0065】
また、機能性溶液塗布部14は、上記レール20に対して交差する方向(図1及び図2中、矢印B方向)に長尺のレール63、該レール63の長尺方向両端部の各々に設けられ該レール63を支持する一対の支持部材64A、及び駆動部62を備えている。また、機能性溶液塗布部14は、レール63の長尺方向に移動可能に支持されたリニアガイド(図示省略)を備えている。
【0066】
液滴吐出ヘッド60及び検知部61を保持した筐体59は、該リニアガイドに支持されている。また、駆動部62は、該筐体59に設けられており、制御部28に電気的に接続されている。このため、制御部28の制御によって駆動部62が駆動することで、筐体59がレール63の長尺方向に沿って移動する。すなわち、機能性溶液塗布部14では、制御部28の制御によって駆動部62が駆動されることで、筐体59がレール63の長尺方向(矢印B方向)のクリーニング装置65側に移動し、クリーニング装置65によってクリーニングされる。また、制御部28の制御によって駆動部62が駆動されることで、筐体59がレール63の長尺方向(矢印B方向)の領域P2側に移動する。これによって、該領域P2に位置された基板18に向かって、形成対象の層に応じた機能性溶液が液滴吐出ヘッド60から吐出可能な状態となる。
【0067】
エネルギー付与部16は、領域P3に位置された基板18に向かってエネルギーを付与するエネルギー付与装置72、及び該エネルギー付与装置72を制御するエネルギー制御部70を備えている(図1及び図2(D)参照)。
【0068】
なお、領域P3は、エネルギー付与装置72によってエネルギーを付与される領域である。このため、基板18が、駆動部22の駆動によって領域P3に位置されると、該基板18に向かって、エネルギーを付与可能な状態となる。
【0069】
エネルギー付与装置72は、領域P3に位置された基板18に向かってエネルギーを付与する。詳細には、基板18上に塗布された機能性溶液による塗布層に向かって、エネルギーを付与する。このエネルギー付与装置72によるエネルギー付与としては、ホットプレート、オーブン、ハロゲンランプ、キセノンランプ、赤外線ランプ等の加熱手段による加熱や、YAGレーザ、CO2レーザ、Arレーザ等のレーザ照射手段によるレーザー照射が挙げられる。
【0070】
エネルギー制御部70は、制御部28に電気的に接続されており、制御部28から受け付けた信号に応じて、エネルギー付与装置72によるエネルギー付与のタイミング等を制御する。
【0071】
エネルギー制御部70及びエネルギー付与装置72は、領域P3側に開口した筐体67に保持されている。この筐体67は、上記レール20に対して交差する方向(図1及び図2中、矢印B方向)に長尺のレール68によって、該領域P3に対向する位置に保持されている。なお、このレール68の長尺方向の両端部は、一対の支持部材69Aによって支持されている。
【0072】
入力部26は、各種情報を入力または出力する(図1参照)。入力部26は、制御部28に電気的に接続されている。入力部26としては、例えば、キーボード、タッチパネル付のディスプレイ等が挙げられる。本実施の形態では、入力部26から、形成対象の電気機械変換素子30を示す素子情報が入力される(詳細後述)。
【0073】
制御部28は、CPU(Central Processing Unit)、後述する電気機械変換素子の製造処理を実行するプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データ等を記憶するRAM(Random Access Memory)、及びこれらを接続するバスを含んで構成されている。制御部28は、電気機械変換素子製造部17に設けられた装置各部に電気的に接続されている。具体的には、制御部28は、駆動部22、上下駆動部41、駆動部56、検知部57、上下駆動部41、回転駆動部43、吐出制御部66、検知部61、駆動部62、及びエネルギー制御部70等に信号授受可能に接続されている。また、検知部57と回転駆動部43とは電気的に接続されており、検知部61と回転駆動部43とは、電気的に接続されている。
【0074】
ここで、本実施の形態の製造装置10における、電気機械変換素子30の製造方法の概要を説明する。
【0075】
断面形状を略台形状とされた電気機械変換素子30の各層(下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36)は、下記の工程を経ることによって形成される。
【0076】
まず、支持部38をレール20に沿って移動させて、親液撥液パターン形成部12における領域P1へ移動させる(図1参照)。そして、親液撥液パターン形成部12において、凹凸面側にSAM溶液52の塗布された印刷版46と、基板18と、を接触させて該接触状態を保持する(図4(A)参照)。これによって、SAM溶液52に含まれるSAM材料の結合性官能基と、基板18の表面原子とが化学結合し、基板18上のSAM溶液52が接触した領域にはSAM膜52Aが形成される(図4(B)参照)。すなわち、凸部にSAM溶液52の塗布された印刷版46を基板18に接触させることによって、基板18側には、SAM膜52Aによる撥液部74Bと、SAM膜52Aの形成されていない親液部74Aと、による撥液親液パターンが形成される(図4(B)参照)(第1の工程)。
【0077】
次に、支持部38をレール20に沿って移動させて、機能性溶液塗布部14における領域P2へ移動させる(図1参照)。そして、機能性溶液塗布部14の液滴吐出ヘッド60から、基板18の親液部74Aに向かって、機能性溶液の液滴76Aを吐出する(図4(C)参照)。ここで、基板18には、親液部74Aと撥液部74Bとによる撥液親液パターンが形成されている。このため、親液部74Aに向かって吐出された液滴76Aによる機能性溶液膜76Bは、基板18における表面エネルギー差により、親液部74Aに対して濡れ拡がり、撥液部74Bに対しては濡れ拡がりが抑制される。このため、親液部74Aに対して選択的に機能性溶液膜76Bが形成される(図4(C)参照)(第2の工程)。
【0078】
次に、支持部38をレール20に沿って移動させて、エネルギー付与部16における領域P3へと移動させる(図1参照)。そして、エネルギー付与装置72から基板18に向かってエネルギーを付与する。これによって、機能性溶液膜76Bが結晶化または硬化し、塗布された機能性溶液の種類に応じた薄膜層76が形成される(図4(D)参照)(第3の工程)。なお、この薄膜層76は、上述のように、1回の液滴の吐出によって得られる厚みの層である。
【0079】
そして、液滴吐出ヘッド60から吐出する機能性溶液として、下部電極層32用の機能性溶液を用い、上記図4(A)〜図4(D)に示す処理、すなわち印刷版46によるSAM溶液52の塗布、液滴76Aの吐出、及びエネルギーの付与をこの順に繰り返し行うことによって、複数の薄膜層76、例えば、下部電極層321〜下部電極層32nが(nは整数)積層され、所望の厚みの下部電極層32が形成される。
【0080】
同様にして、液滴吐出ヘッド60から吐出する機能性溶液として、圧電体層34用の機能性溶液を用い、上記印刷版46によるSAM溶液52の塗布、液滴76Aの吐出、及びエネルギーの付与をこの順に繰り返し行うことによって、複数の薄膜層76、すなわち圧電体層341〜圧電体層34nが(nは整数)積層され、所望の厚みの圧電体層34が形成される。
【0081】
さらに、同様にして、液滴吐出ヘッド60から吐出する機能性溶液として、上部電極層36用の機能性溶液を用い、上記印刷版46によるSAM溶液52の塗布、液滴76Aの吐出、及びエネルギーの付与をこの順に繰り返し行うことによって、複数の薄膜層76、すなわち上部電極層361〜上部電極層36nが(nは整数)積層され、所望の厚みの上部電極層36が形成される。
【0082】
ここで、本実施の形態の製造装置10で製造する電気機械変換素子30は、図3に示すように、上層側(上部電極層36側)から下層側(下部電極層32側)に向かって徐々に幅広となり、その断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子30である。
【0083】
また、本実施の形態の製造装置10では、凹凸によるパターンの種類が1種類(すなわち、凹凸の形状及び大きさが1種類)の版を印刷版46として用いて、上記略台形形状の電気機械変換素子30を製造している。
【0084】
このような1種類のパターンの印刷版46を用いて、断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子30を製造するために、本実施の形態の製造装置10では、SAM溶液52を塗布された印刷版46と基板18との接触時間を調整している(第4の工程)。
【0085】
このような接触時間の調整を行うために、本実施の形態の製造装置10の制御部28は、下記構成とされている。制御部28を、ハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、制御部28は、図5に示すように、素子情報解析部28A、印刷版接触時間設定部28B、設定情報記憶部28C、及び装置制御部28Dを備えている。
【0086】
素子情報解析部28Aは、入力部26から入力された、形成対象の電気機械変換素子30を示す素子情報を解析する。この電気機械変換素子30を示す素子情報には、例えば、形成対象の電気機械変換素子30の断面形状における、底辺と上辺とを結ぶ稜線を示す情報、電気機械変換素子30を構成する各層の種類、各種類の層の積層順、各種類の層の厚み、等を示す情報が含まれる。
【0087】
該各層の種類とは、下部電極層32、圧電体層34、上部電極層36の各々を識別する情報である。各種類の層の積層順とは、最も基板18側の層を最初に形成する層としたときの積層順を示す情報である。各種類の層の厚みとは、形成対象の、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々の厚みを示す情報である。また、形成対象の電気機械変換素子30の断面形状における、底辺と上辺とを結ぶ稜線を示す情報としては、例えば、一次直線を示す情報や、二次曲線を示す情報等が挙げられる。
【0088】
また、素子情報解析部28Aには、液滴吐出ヘッド60による一回の機能性溶液による液滴の吐出によって得られる厚みの薄膜層(図4中、薄膜層76参照)の、厚みを示す情報が予め記憶されている。
【0089】
素子情報解析部28Aでは、まず、入力部26から受け付けた素子情報を解析し、構成する各層の種類、及び各種類の層の厚みを読み取る。そして、素子情報解析部28Aでは、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々に種類の層ついて、これらの各種類の層を対応する厚みとするために必要な、薄膜層の積層数を求める。この積層数は、各種類の層の厚みと、1回の液滴の吐出によって得られる薄膜層の厚みを示す情報と、から算出される。そして、上記素子情報及び該算出結果に基づいて、形成対象の1または複数の薄膜層からなる、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36について、最も基板18側に形成される薄膜層から、最も上層側に形成される薄膜層に向かって、薄膜層毎に、層の種類、及び基板18面からの厚みを求める。
【0090】
なお、基板18面からの厚みとは、基板18と印刷版46との交点を原点としたときの、該基板18から形成対象の薄膜層の上面(基板18とは反対側の面)までの厚み(後述するZnに相当(図6参照))を示している。
【0091】
そして、これらの解析結果は、入力部26から入力された素子情報とともに、印刷版接触時間設定部28Bへ出力される。
【0092】
印刷版接触時間設定部28Bでは、素子情報解析部28Aから受け付けた素子情報に含まれる稜線を示す情報、及び上記解析結果等に基づいて、各種類の層を構成する薄膜層毎に、印刷版46の接触時間を設定する。
【0093】
ここで、印刷版接触時間設定部28Bにおいて行われる、薄膜層毎の印刷版46の接触時間の設定原理を具体的に説明する。
【0094】
図6(A)〜図6(C)には、凹凸側の面にSAM溶液52(図6では図示省略、図4(A)参照)を塗布された印刷版46と、基板18と、製造装置10によって形成される略台形状の電気機械変換素子30と、の位置関係を示した。
【0095】
形成対象の電気機械変換素子30の略台形形状の断面における、底辺と上辺とを結ぶ稜線が、図6(A)に示すように直線Q1であるとする。この場合、基板18の水平方向(基板18の面に沿った方向)をX軸とし、該印刷版46の側壁面に沿った方向(水平方向に直交する方向)をZ軸とし、印刷版46と基板18との交点を原点とする。なお、印刷版46の側壁面とは、図6(A)に示すように、印刷版46における凸部46Aと凹部46Bとの境界面Sを示している。
【0096】
すると、直線Q1によって示される稜線上の点(Xn,Zn)は、下式(a−1)で示される。
【0097】
Zn=αXn 式(a−1)
【0098】
なお、式(a−1)中、Znは、電気機械変換素子30を構成する各薄膜層の、基板18からの厚み(基板18面から、各薄膜層の基板18とは反対側の面までの厚み)を示している。この式(a−1)におけるZnは、親液撥液パターン形成部12によって形成された親液部の面積と、該親液部に塗布される機能性溶液、あるいは機能性溶液の塗布量から決定されるものである。このZnは、正確には、例えばレーザ変位計等の膜厚測定手段を用いて測定してもよい。また、式(a−1)中、αは、直線Q1によって示される稜線の形状によって定まる定数である。
【0099】
一方、印刷版46の凸部に塗布されたSAM溶液52は、印刷版46が基板18に接触(すなわち、凸部が基板18に接触)することによって、該SAM溶液52に含まれる有機分子(すなわちSAM材料)の蒸気圧、あるいは、測定環境の気圧、及び温度等の周辺環境に応じた拡散速度で、印刷版46の表面から外側に向かって拡散する。なお、この「印刷版46の表面から外側に向かって拡散」とは、SAM溶液52の塗布された印刷版46が基板18に接触することによって、基板18に接触した印刷版46上の凸部のSAM溶液52が、印刷版46の凸部46A側から凹部46B側へ向かって拡散することを示している。すなわち、印刷版46と基板18との接触によって、印刷版46の凸部46AのSAM溶液52が、印刷版46の凸部46Aと基板18との対向領域から、印刷版46の凹部46Bと基板18との対向領域へ向かって拡散することを示している。
【0100】
よって、Xnは、印刷版46の側壁面(X=0)(図6中、側壁面S参照)からのSAM溶液52の拡散距離と等価である。このため、基板18と印刷版46とが接触してからのSAM溶液52の拡散時間、すなわち印刷版46と基板18との接触時間tnは、下記式(a−2)で示される。
【0101】
tn=t(Xn) 式(a−2)
【0102】
なお、式(a−2)中、tは、有機分子(SAM材料)の蒸気圧、測定環境の気圧、及び温度等の環境情報によって定まる定数を示す。
【0103】
そして、上記式(a−1)と式(a−2)から、下式(a−3)が得られる。
【0104】
tn=t(Zn/α) 式(a−3)
【0105】
したがって、積層される各薄膜層(1回の液滴吐出によって得られる厚みの層)毎に、各薄膜層の積層位置に応じてZnが定まり、電気機械変換素子30の略台形形状の断面における底辺と上辺とを結ぶ稜線の形状によって、上記αが定まる。このため、各薄膜層毎に、印刷版46と基板18との接触時間tnが定まる。なお、式(a−3)では、このαが接触時間の変化率に相当する。
【0106】
そして、この接触時間tnを調整することによって、印刷版46の凸部46Aと基板18との対向領域から、印刷版46の凹部46Bと基板18との対向領域への、SAM溶液52の拡散度合いが調整される。すなわち、図6(A)に示す稜線が直線Q1状の略台形状の電気機械変換素子30を形成する場合には、印刷版接触時間設定部28Bでは、式(a−3)に基づいて、下層側に形成される薄膜層から上層側に形成される薄膜層に向かって、接触時間tnが大きくなるように、各薄膜層毎に印刷版46と基板18との接触時間tnを設定する。
【0107】
このように、下層側に形成される薄膜層から上層側に形成される薄膜層に向かって、接触時間tnが大きくなるように、各薄膜層毎に印刷版46と基板18との接触時間tnを設定すると、上層側となるほど、薄膜層形成時に基板18上に形成されるSAM膜52Aの領域(撥液部74B)が広くなり、親液部74Aの領域が狭くなる。このため、積層された複数の薄膜層の断面形状を、略台形状とすることができる。
【0108】
従って、印刷版接触時間設定部28Bでは、形成対象の電気機械変換素子30の断面形状における底辺側から上辺側に向かう稜線の形状を示す情報(図6(A)に示す例では、上記式(a−1))と、下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36の各々を構成する1または複数の薄膜層の各々の上記Znを示す情報と、SAM溶液52Bの蒸気圧情報や、製造時の気圧及び温度等の環境情報と、に基づいて、電気機械変換素子30を構成する各薄膜層毎に、印刷版46の接触時間を設定する。
【0109】
なお、本実施の形態の製造装置10では、説明を簡略化するために、SAM溶液52Bの蒸気圧情報や、製造時の気圧及び温度等の環境情報については、あらかじめ測定して印刷版接触時間設定部28B内のメモリに記憶されているものとして説明する。すなわち、上記式(a−2)については、すでに得られているものとして説明する。しかし、製造装置10に、環境温度、環境気圧、及びSAM溶液52Bの蒸気圧を測定する測定装置を設けて、この測定装置から受け付けた情報に基づいて得られた式(a−2)及び式(a−3)を用いて、印刷版46の接触時間を設定してもよい。
【0110】
なお、本実施の形態の製造装置10で製造する電気機械変換素子30の断面形状である略台形状は、図6(A)に示すような上記稜線が直線状である形状に限られず、曲線状でであってもよい。
【0111】
具体的には、図6(B)に示すような曲線Q2の稜線を有する略台形形状の電気機械変換素子30Aを、形成対象の電気機械変換素子30としてもよい。この場合についても、稜線が直線状である場合と同様に、基板18の水平方向(基板18の面に沿った方向)をX軸とし、該印刷版46の側壁面に沿った方向(水平方向に直交する方向)をZ軸とし、印刷版46と基板18との交点を原点とする。すると、曲線Q2によって示される稜線上の点(Xn,Zn)は、下式(b−1)で示される。
【0112】
Zn=αXnβ 式(b−1)
【0113】
なお、式(b−1)中、Zn、及びXnは、上記式(a−1)と同じである、また、式(b−1)中、α、βは、曲線Q2によって示される稜線の形状によって定まる定数である。
【0114】
そして、式(a−1)と同様に、式(b−1)中のXnは、印刷版46の側壁面(X=0)(図6中、側壁面S参照)からのSAM溶液52の拡散距離と等価であり、基板18と印刷版46とが接触してからのSAM溶液52の拡散時間、すなわち印刷版46と基板18との接触時間tnは、上記式(a−2)で示される。このため、式(b−1)及び式(a−2)から、下記式(b−2)が得られる。
【0115】
tn=t((Zn/α)1/β) 式(b−2)
【0116】
なお、式(b−2)中、tは、式(a−1)と同じである。また、式(b−2)中、α、βは、上記式(b−1)と同じである。なお、式(b−2)では、このα及びβが接触時間の変化率に相当する。
【0117】
したがって、稜線が直線Q1である場合と同様に、稜線が曲線Q2である場合についても、積層される各薄膜層毎に、各薄膜層の積層位置に応じてZnが定まり、電気機械変換素子30の略台形形状の断面における底辺と上辺とを結ぶ稜線の形状(曲線Q2)によって、上記α及びβが定まる。このため、各薄膜層毎に、印刷版46と基板18との接触時間tnが定まる。そして、この接触時間tnを調整することによって、印刷版46の凸部46Aと基板18との対向領域から、印刷版46の凹部46Bと基板18との対向領域への、SAM溶液52の拡散度合いが調整される。
【0118】
すなわち、図6(B)に示す稜線が曲線Q2状の略台形状の電気機械変換素子30Aを製造する場合には、印刷版接触時間設定部28Bでは、式(b−2)に基づいて、下層側に形成される薄膜層から上層側に形成される薄膜層に向かって、接触時間tnが大きくなるように、各薄膜層毎に印刷版46と基板18との接触時間tnを設定する。
【0119】
また、図6(C)に示す曲線Q3の稜線を有する略台形形状の電気機械変換素子30Bを製造する場合についても同様に、接触時間tnの調整によって、断面形状を、該稜線が曲線Q3状の略台形状とすることができる。
【0120】
具体的には、図6(C)に示すような曲線Q3の稜線を有する略台形形状の電気機械変換素子30Aを、形成対象の電気機械変換素子30としてもよい。この場合についても、稜線が直線状である場合と同様に、基板18の水平方向(基板18の面に沿った方向)をX軸とし、該印刷版46の側壁面に沿った方向(水平方向に直交する方向)をZ軸とし、印刷版46と基板18との交点を原点とする。すると、曲線Q3によって示される稜線上の点(Xn,Zn)は、下式(c−1)で示される。
【0121】
Zn=α[1−exp(-(Xn/β)γ)] 式(c−1)
【0122】
なお、式(c−1)中、Zn及びXnは、上記式(a−1)と同じである。また、式(c−1)中、α、β、γは、曲線Q3によって示される稜線の形状によって定まる定数である。
【0123】
そして、式(a−1)と同様に、式(c−1)中のXnは、印刷版46の側壁面(X=0)(図6中、側壁面S参照)からのSAM溶液52の拡散距離と等価であり、基板18と印刷版46とが接触してからのSAM溶液52の拡散時間、すなわち印刷版46と基板18との接触時間tnは、上記式(a−2)で示される。このため、式(c−1)及び式(a−2)から、下記式(c−2)が得られる。
【0124】
tn=t(β[−Ln(1−Zn/α)]1/γ) 式(c−2)
【0125】
なお、式(c−2)中、Lnは、自然対数(ln)を示す。なお、式(c−2)中、tは、式(a−1)と同じである。また、式(c−2)中、α、β、γは、上記式(c−1)と同じである。なお、式(c−2)では、このα、β、及びγが接触時間の変化率に相当する。
【0126】
したがって、稜線が直線Q1である場合と同様に、稜線が曲線Q3である場合についても、積層される各薄膜層毎に、各薄膜層の積層位置に応じてZnが定まり、電気機械変換素子30(電気機械変換素子30B)の略台形形状の断面における底辺と上辺とを結ぶ稜線の形状(曲線Q3)によって、上記α、β、γが定まる。このため、各薄膜層毎に、印刷版46と基板18との接触時間tnが定まる。
【0127】
そして、この接触時間tnを調整することによって、印刷版46の凸部46Aと基板18との対向領域から、印刷版46の凹部46Bと基板18との対向領域への、SAM溶液52の拡散度合いが調整される。
【0128】
すなわち、図6(C)に示す稜線が曲線Q3状の略台形状の電気機械変換素子30Bを製造する場合には、印刷版接触時間設定部28Bでは、式(c−2)に基づいて、下層側に形成される薄膜層から上層側に形成される薄膜層に向かって、接触時間tnが大きくなるように、各薄膜層毎に印刷版46と基板18との接触時間tnを設定する。
【0129】
上述のようにして各薄膜層毎に接触時間tnを設定すると、印刷版接触時間設定部28Bは、薄膜層毎に設定した接触時間を、薄膜層の種類、及び薄膜層の積層位置に対応づけて設定情報記憶部28Cに記憶する。
【0130】
装置制御部28Dは、設定情報記憶部28Cに記憶された、各薄膜層の種類、各薄膜層の接触時間、各薄膜層の積層位置、を示す情報を読み取り、電気機械変換素子製造部17を制御する。電気機械変換素子製造部17は、上記親液撥液パターン形成部12、機能性溶液塗布部14、エネルギー付与部16、及び支持部38を含んで構成されている。
【0131】
次に、本実施の形態に係る製造装置10における、電気機械変換素子30の製造処理の詳細を説明する。図7は、本実施の形態における電気機械変換素子30の製造処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0132】
制御部28では、電気機械変換素子30の製造処理プログラムを読み取り、所定時間毎に、図7に示す処理ルーチンを実行する。
【0133】
まず、素子情報解析部28Aが、入力部26から素子情報が入力されたか否かを判断する(ステップ100)。そして、ステップS100で、入力部26から素子情報が入力されなかったと判断した場合には(ステップS100:No)、素子情報解析部28Aは、本ルーチンを終了する。一方、ステップS100で、入力部26から素子情報が入力されたと判断した場合には(ステップS100:Yes)、素子情報解析部28Aは、上記ステップS100で入力された素子情報を解析する(ステップS102)。
【0134】
次に、印刷版接触時間設定部28Bが、入力部26から入力された素子情報、及び素子情報解析部28Aによる解析結果に基づいて、形成対象の電気機械変換素子30を構成する各種類の層(下部電極層32、圧電体層34、及び上部電極層36)における各薄膜層毎に、各薄膜層形成のための印刷版46の接触時間を設定する(ステップS104)。
【0135】
次に、印刷版接触時間設定部28Bが、印刷版接触時間設定部28Bで設定された各薄膜層形成のための印刷版46の接触時間を、薄膜層の種類、及び薄膜層の積層位置に対応づけて設定情報記憶部28Cに記憶する(ステップS106)。
【0136】
そして、設定情報記憶部28Cに記憶された上記情報に基づいて、装置制御部28Dが電気機械変換素子製造部17を制御する製造部制御処理を実行することによって、電気機械変換素子30の作製処理が終了する(ステップS108)。
【0137】
次に、装置制御部28Dで行われる、上記製造部制御処理(ステップS108、図7参照)について、詳細に説明する。
図8は、装置制御部28Dで行われる、製造部制御処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0138】
なお、該装置制御部28Dで製造部制御処理が行われる前には、親液撥液パターン形成部12における筐体58は、初期位置として、領域P1に位置されているものとして説明する。同様に、装置制御部28Dで製造部制御処理が行われる前には、機能性溶液塗布部14における筐体59は、初期位置として、領域P2に位置されているものとして説明する。なお、筐体67は、領域P3に固定されているものとする。
【0139】
まず、装置制御部28Dは、機能性溶液塗布部14における領域P2への支持部38の移動を示す移動指示信号を駆動部22へ出力する(ステップS200)。領域P2への支持部38に移動を示す移動指示信号を受け付けた駆動部22は、支持部38をレール20に沿って移動させて領域P2へ位置させる。なお、該駆動部22による支持部38の領域P2への移動は、例えば、領域P2にセンサを設けておいて、該センサを駆動部22に電気的に接続する。そして、該センサから支持部38の検知信号が駆動部22に入力されるまで、駆動部22による支持部38の駆動を行えばよい。
【0140】
ステップS200の処理によって、支持部38によって支持された基板18は、領域P2に位置されている機能性溶液塗布部14の液滴吐出ヘッド60によって、機能性溶液の液滴を塗布される位置に配置される(図11参照)。
【0141】
そして、装置制御部28Dは、機能性溶液塗布部14の筐体59に設けられた検知部61に、位置合わせを指示する位置合わせ指示信号を出力する(ステップS202)。位置合わせ指示信号を受け付けた検知部61は、アライメントマーク18A検出のための光を基板18に向かって照射し、基板18上のアライメントマーク18Aを検知するまで、支持部38の回転駆動部43に回転指示信号を出力する。そして、検知部61は、アライメントマーク18Aを検知したときに、回転駆動部43への回転指示信号の出力を停止する。
【0142】
ステップS202の処理によって、支持部38の基板18と、液滴吐出ヘッド60との位置合わせが行われる。
【0143】
次に、装置制御部28Dは、領域P1への支持部38の移動を示す移動指示信号を駆動部22へ出力する(ステップS204)。領域P1への移動を示す移動指示信号を受け付けた駆動部22は、支持部38をレール20に沿って移動させて領域P1へと移動させる。なお、該駆動部22による支持部38の領域P1への移動は、例えば、領域P1にセンサを設けておいて、該センサを駆動部22に電気的に接続する。そして、該センサから支持部38の検知信号が入力されるまで、駆動部22による支持部38の駆動を行えばよい。
【0144】
ステップS204の処理によって、支持部38によって支持された基板18は、印刷版46によってSAM溶液52を塗布されうる位置に配置される(図12(A)参照)。
【0145】
次に、装置制御部28Dは、親液撥液パターン形成部12の筐体58に設けられている検知部57に、位置合わせを指示する位置合わせ指示信号を出力する(ステップS206)。位置合わせ指示信号を受け付けた検知部57は、基板18上のアライメントマーク18A検出のための光を基板18に向かって照射し、アライメントマーク18Aを検知するまで、親液撥液パターン形成部12に設けられたアライメントステージ(図示省略)の駆動部(図示省略)に回転指示信号を出力する。そして、検知部57は、アライメントマーク18Aを検知したときに、該駆動部への回転指示信号の出力を停止する。
【0146】
ステップS206の処理によって、支持部38の基板18と、印刷版46との位置合わせが行われる。
【0147】
次に、装置制御部28Dは、設定情報記憶部28Cに記憶されている情報から、下部電極層32に対応する情報を読み取る(ステップS208)。詳細には、装置制御部28Dは、薄膜層の種類として下部電極層32を示す情報に対応する、薄膜層の積層位置、及び印刷版46の接触時間を示す情報を読み取る。
【0148】
次に装置制御部28Dは、機能性溶液の種類を示す溶液種情報Nとして、下部電極層32用の機能性溶液を示す情報をセットする(ステップS210)。
【0149】
次に装置制御部28Dは、下部電極層32を構成する各薄膜層(1回の液滴吐出によって形成される厚みの層)として、積層位置が最も基板18側である(m=1)の薄膜層から、積層位置が最も基板18から遠い側(最も上層側)である(m=n)の薄膜層まで順に、各薄膜層に対応する、印刷版46の接触時間を示す情報(TAm)を読み取る(ステップS212)。
【0150】
次に、装置制御部28Dは、積層位置を示す情報mに、1層目の薄膜層であることを示す“1”をセットした後に(ステップS214)、印刷版46の基板18側への接触時間を示すTに、TAmをセットする(ステップS216)。すなわち、直前の処理(ステップ)で積層位置を示す情報mに“1”をセットした場合には、ステップS216では、該接触時間を示すTに、下部電極層32を構成する1または複数の薄膜層の内の、最も基板18側に形成される薄膜層の接触時間であるTA1がセットされる。
【0151】
そして、ステップS216で次に形成する薄膜層に対応する接触時間TAmをセットされた接触時間T、及びステップS210で下部電極層22用の機能性溶液を示す情報をセットされた溶液種情報Nに基づいて、基板18上に薄膜層を形成する薄膜層形成処理を実行する(ステップS216〜ステップS218)。
【0152】
詳細には、まず、装置制御部28Dは、印刷版46の基板18への接触指示信号を親液撥液パターン形成部12に出力する(ステップS218)。接触指示信号を受け付けた親液撥液パターン形成部12は、駆動部56の駆動によって印刷版46をSAM塗布部50の位置にまで移動させ、印刷版46にSAM溶液52を塗布する(図12(B)参照)。そして、SAM溶液52の塗布された印刷版46(筐体58)を、駆動部56の駆動によって領域P1にまで移動させる。そして、該印刷版46と、該領域P1に配置された基板18と、を接触させる(図12(C)、及び図14(A1)参照)。
【0153】
この印刷版46と基板18との接触は、上下駆動部41によって上下ステージ42が基板18に近づく方向へと移動することで行われる。
【0154】
次に、装置制御部28Dは、印刷版46と基板18とが接触してから、上記ステップS216で設定した設定時間T(TAm)を経過するまで否定判断を繰り返し(ステップS220:No)、肯定されると(ステップS220:Yes)該判断を終了して次のステップS224の処理を行う。
【0155】
なお、印刷版46と基板18とが接触したことの判断は、例えば、印刷版46に、基板18との接触を検知するためのセンサを設けておいて、このセンサからの接触検知信号を判別することで判断すればよい。
【0156】
ステップS218〜ステップS220の処理によって、SAM溶液52を塗布された印刷版46と基板18とが、形成対象の薄膜層に対応する接触時間Tに応じた時間、接触状態で保持される(図12(C)、及び図14(A1)参照)。
【0157】
そして、上記ステップS220で肯定判断し、該接触時間Tが経過すると、装置制御部28Dは、印刷版46の接触の解除を示す接触解除指示信号を親液撥液パターン形成部12へ出力する(ステップS224)。この印刷版46による接触が解除されることによって、基板18の印刷版46に対向する面には、SAM膜52Aによる撥液部74Bと、SAM膜52Aの形成されていない領域である親液部74Aと、による撥液親液パターンが形成される(図14(A2)参照)。
【0158】
次に、装置制御部28Dは、支持部38の機能性溶液塗布部14への移動を示す指示信号を駆動部22へ出力する(ステップS226)。指示信号を受け付けた駆動部22では、支持部38をレール20の長尺方向に沿って移動させて、機能性溶液塗布部14の領域P2へと移動させる。
【0159】
そして、装置制御部28Dは、機能性溶液塗布部14の吐出制御部66に、溶液種情報Nの機能性溶液の液滴吐出を示す吐出信号を出力する(ステップS228)。このため、溶液種情報Nとして、下部電極層32用の機能性溶液を示す情報が設定されていると、下部電極層32用の機能性溶液の液滴76Aが液滴吐出ヘッド60から吐出される(図13(A)、及び図14(A3)参照)。ここで、上記ステップS218及びステップS220の処理によって、基板18上には、SAM膜52Aによる撥液部74Bと、SAM膜52Aの形成されていない領域である親液部74Aと、が形成されている(図14(A2)参照)。このため、吐出された下部電極層32用の機能性溶液の液滴76Aは、基板18上の親液部74Aに選択的に塗布されて、機能性溶液膜76Bとなる(図14(A3)参照)。
【0160】
次に、装置制御部28Dは、支持部38のエネルギー付与部16への移動を示す指示信号を駆動部22へ出力する(ステップS230)。該示信号を受け付けた駆動部22は、レール20の長尺方向に沿って支持部38を移動させて、エネルギー付与部16の領域P3へと移動させる。
【0161】
そして、装置制御部28Dは、エネルギー制御部70へエネルギー付与信号を出力する(ステップS232)。該信号を受け付けたエネルギー制御部70は、上記処理によって親液部74Aに形成された、機能性溶液膜76Bに向かってエネルギーを付与する(図13(B)、及び図14(A4)参照)。この処理によって、機能性溶液膜76Bが結晶化または硬化し、下部電極層32を構成する1または複数の薄膜層のうちの、最も基板18側に形成される薄膜層(例えば、下部電極層321)が形成される(図14(A4)参照)。
【0162】
次に、装置制御部28Dは、積層位置を示す情報mが、下部電極層32における薄膜層の積層枚数であるnと同じであるか否かを判断する(ステップS234)。そして、該判断で否定(ステップS234:No)されると、積層位置を示す情報mを‘1’カウントアップする(ステップS236)。そして、上記ステップS204と同様に、親液撥液パターン形成部12への支持部38の移動指示信号を22に出力(ステップS237)した後に、ステップS216へ戻る。
【0163】
すなわち、上記ステップS216〜ステップS237の処理が繰り返し行われることによって、下部電極層32を構成する薄膜層が、基板18側から順に形成され、複数の薄膜からなる下部電極層32が形成される(図14(A4)参照)。
【0164】
ここで、上層側の薄膜層を形成するほど、印刷版46の基板18への接触時間は短くなるように設定されていることから、上層側の薄膜層の形成時ほど、基板18上に形成されるSAM膜52Aによる撥液部74Bが拡散し、親液部74Aの領域が狭くなる。このため、上記ステップS216〜ステップS237の処理が繰り返し実行されることによって、下部電極層32を構成する薄膜層は、入力された素子情報に含まれる稜線を示す情報に応じて、下層側から上層側に向かって、幅が狭くなるように形成される。
【0165】
次に、装置制御部28Dは、1または複数の薄膜層からなる圧電体層34を形成する、圧電体層形成処理(ステップS238)を行う(詳細後述)。そして、さらに、装置制御部28Dは、1または複数の薄膜層からなる上部電極層36を形成する、上部電極層形成処理(ステップS240)を行う(詳細後述)これによって、電気機械変換素子30の作製処理が終了する。
【0166】
次に、上記圧電体層形成処理(ステップS238)について説明する。
【0167】
図9に示すように、装置制御部28Dは、設定情報記憶部28Cに記憶されている情報から、圧電体層34に対応する情報を読み取る(ステップS300)。詳細には、装置制御部28Dは、薄膜層の種類として圧電体層34を示す情報に対応する、薄膜層の積層位置、及び印刷版46の接触時間を示す情報を読み取る。
【0168】
次に装置制御部28Dは、機能性溶液の種類を示す溶液種情報Nとして、圧電体層34用の機能性溶液を示す情報をセットする(ステップS302)。
【0169】
次に装置制御部28Dは、圧電体層34を構成する各薄膜層(1回の液滴吐出によって形成される厚みの層)として、積層位置が最も基板18側である(m=1)の薄膜層から、積層位置が最も基板18から遠い側(最も上層側)である(m=n)の薄膜層まで順に、各薄膜層に対応する、印刷版46の接触時間を示す情報(TBm)を読み取る(ステップS304)。
【0170】
次に、装置制御部28Dは、積層位置を示す情報mに、1層目の薄膜層であることを示す“1”をセットした後に(ステップS306)、印刷版46の基板18側への接触時間を示すTに、TBmをセットする(ステップS308)。すなわち、直前の処理(ステップ)で積層位置を示す情報mに“1”をセットした場合には、ステップS308では、該接触時間を示すTには、圧電体層34を構成する1または複数の薄膜層の内の、最も基板18側に形成される薄膜層の接触時間であるTB1がセットされる。
【0171】
そして、ステップS308で次に形成する薄膜層に対応する接触時間TBmをセットされた接触時間T、及びステップS302で圧電体層34用の機能性溶液を示す情報をセットされた溶液種情報Nに基づいて、基板18上に薄膜層を形成する薄膜層形成処理を実行(ステップS218〜ステップS237)した後に、本ルーチンを終了する。なお、この薄膜層形成処理は、溶液情報Nにセットされた機能性溶液の種類を示す情報、及び接触時間Tが、圧電体層34用の溶液及び圧電体層34を構成する薄膜層に対応する情報である以外は、上記ステップS218〜ステップS237と同じであるため説明を省略する。
【0172】
この圧電体層形成処理において、ステップS308及びステップS218〜ステップS237の処理が行われることによって、まず、SAM溶液52を塗布された印刷版46と基板18とが接触し、この接触した状態が、各薄膜層に対応する接触時間保持される(図14(B1)参照)。これによって、基板18上には、SAM膜52Aの形成された領域である撥液部74Bと、SAM膜52Aの形成されていない領域である親液部74Aと、による撥液親液パターンが形成される(図14(B2)参照)。
【0173】
そして、この機能性溶液膜76Bにエネルギー付与部16からエネルギーが付与されて、下部電極層32上に圧電体層34における薄膜層341が積層される。
【0174】
そして、このステップS308、及びステップS218〜ステップS237の処理が繰り返し行われることによって、圧電体層34を構成する薄膜層341〜薄膜層34nが、基板18側から順に形成され、複数の薄膜からなる圧電体層34が形成される。また、上層側の薄膜層を形成するほど、印刷版46の基板18への接触時間は短くなることから、上層側の薄膜層の形成時ほど、基板18上に形成されるSAM膜52Aによる撥液部74Bが拡散して形成され、親液部74Aの領域が狭くなる。このため、圧電体層形成処理において、上記ステップS308、及びステップS218〜ステップS237の処理が繰り返し実行されることによって、圧電体層34を構成する薄膜層は、入力された素子情報に含まれる稜線を示す情報に応じて、下層側から上層側に向かって、幅が狭くなるように形成される。
【0175】
次に、上部電極層形成処理(ステップS240)(図8参照)について説明する。
【0176】
図10に示すように、装置制御部28Dは、設定情報記憶部28Cに記憶されている情報から、上部電極層36に対応する情報を読み取る(ステップS400)。詳細には、装置制御部28Dは、薄膜層の種類として上部電極層36を示す情報に対応する、薄膜層の積層位置、及び印刷版46の接触時間を示す情報を読み取る。
【0177】
次に装置制御部28Dは、機能性溶液の種類を示す溶液種情報Nとして、上部電極層36用の機能性溶液を示す情報をセットする(ステップS402)。
【0178】
次に装置制御部28Dは、上部電極層36を構成する各薄膜層(1回の液滴吐出によって形成される厚みの層)として、積層位置が最も基板18側である(m=1)の薄膜層から、積層位置が最も基板18から遠い側(最も上層側)である(m=n)の薄膜層まで順に、各薄膜層に対応する、印刷版46の接触時間を示す情報(TCm)を読み取る(ステップS404)。
【0179】
次に、装置制御部28Dは、積層位置を示す情報mに、1層目の薄膜層であることを示す“1”をセットした後に(ステップS406)、印刷版46の基板18側への接触時間を示すTに、TCmをセットする(ステップS408)。すなわち、直前の処理(ステップ)で積層位置を示す情報mに“1”をセットした場合には、ステップS408では、該接触時間を示すTには、上部電極層36を構成する1または複数の薄膜層の内の、最も基板18側に形成される薄膜層の接触時間であるTC1がセットされる。
【0180】
そして、ステップS408で次に形成する薄膜層に対応する接触時間TCmをセットされた接触時間T、及びステップS402で圧電体層34用の機能性溶液を示す情報をセットされた溶液種情報Nに基づいて、基板18上に薄膜層を形成する薄膜層形成処理を実行(ステップS218〜ステップS237)した後に、本ルーチンを終了する。なお、この薄膜層形成処理は、溶液情報Nにセットされた機能性溶液の種類を示す情報、及び接触時間Tが、上部電極層36用の溶液及び上部電極層36を構成する薄膜層に対応する情報である以外は、上記ステップS218〜ステップS237と同じであるため説明を省略する。
【0181】
この上部電極層形成処理において、ステップS408、ステップS218〜ステップS237の処理が行われることによって、まず、SAM溶液52を塗布された印刷版46と基板18とが接触し、この接触した状態が、各薄膜層に対応する接触時間保持される(図14(C1)参照)。これによって、基板18上には、SAM膜52Aの形成された領域である撥液部74Bと、SAM膜52Aの形成されていない領域である親液部74Aと、による撥液親液パターンが形成される(図14(C2)参照)。
【0182】
そして、この機能性溶液膜76Bにエネルギー付与部16からエネルギーが付与されて、圧電体層34上に、上部電極層36における薄膜層361が積層される。
【0183】
そして、このステップS408、及びステップS218〜ステップS237の処理が繰り返し行われることによって、上部電極層36を構成する薄膜層361〜薄膜層36nが、基板18側から順に形成され、複数の薄膜からなる上部電極層36が形成される。また、上層側の薄膜層を形成するほど、印刷版46の基板18への接触時間は短くなることから、上層側の薄膜層の形成時ほど、基板18上に形成されるSAM膜52Aによる撥液部74Bが拡散して形成され、親液部74Aの領域が狭くなる。このため、上部電極層形成処理において、上記ステップS216〜ステップS237の処理が繰り返し実行されることによって、上部電極層36を構成する薄膜層は、入力された素子情報に含まれる稜線を示す情報に応じて、下層側から上層側に向かって、幅が狭くなるように形成される。
【0184】
上記図7〜図9を用いて説明した、電気機械変換素子30の製造処理が実行されることによって、断面形状が略台形状であり、且つ、略台形形状の断面の上辺と底辺とを結ぶ稜線が、入力部26から入力された素子情報に含まれる稜線情報に応じた形状の、電気機械変換素子30が製造される。
【0185】
以上説明したように、本実施の形態の製造装置10によれば、1種類の印刷版46を用意してSAM溶液52を塗布し、このSAM溶液52の塗布された印刷版46の基板18側への接触時間を調整することによって、その断面形状が略台形状とされた電気機械変換素子30を製造する。
【0186】
このため、略台形形状の電気機械変換素子30を簡易な構成で容易に製造することができる。
【0187】
また、撥液親液パターンの形成された基板18上に、インクジェット法を用いて機能性溶液を塗布するので、製造時に使用する機能性溶液の使用量の低減を図ることができる。また、1枚の印刷版46を用いたマイクロプリント法によって、SAM溶液52を基板18に塗布することで、撥液親液パターンを基板18上に形成するので、フォトリソグラフィー法やエッチングを用いる場合に比べて、製造時の環境負荷を低減し、且つ製造コストの低減も図ることができる。
【0188】
従って、本実施の形態の製造装置10によれば、製造時の環境負荷を低減し、製造コストを低減しつつ、且つ簡易な構成で容易に電気機械変換素子30を製造することが出来る。
【0189】
また、本実施の形態の製造装置10では、電気機械変換素子30の製造において用いる1種類の印刷版46としては、上述のように、電気機械変換素子30の製造工程において最も下層側(基板18側)に形成される薄膜層の形状及び大きさに対応する形状の凹凸の形成された印刷版46を用いる。このため、機能性溶液による薄膜層を積層させることで下層側から上層側の薄膜層を順次積層していっても、基板18と印刷版46の凸部46Aとの接触不良が抑制される。
【0190】
次に、本実施の形態の製造装置10によって製造される電気機械変換素子30を用いた液滴吐出ヘッドについて説明する。
【0191】
図15に示すように、本実施の形態に係る電気機械変換素子30を用いた液滴吐出ヘッド86は、電気機械変換素子30と、密着層46と、振動板24と、圧力室基板80と、ノズル82Aが設けられたノズル板82とを有する。この圧力室基板80とノズル板82とで圧力室84が形成され、この中にインク等の液体が充填される。なお、図15では、振動板、液体供給手段、流路、流体抵抗等は省略している。
【0192】
液滴吐出ヘッド86は、電気機械変換素子30により圧力室84を加圧することで、ノズル板82のノズル82Aからインク滴等の液滴を吐出する。また、図16に示すように画素毎に対応して設けられた液滴吐出ヘッド86が所定の間隔で並べられた構成の、液滴吐出ヘッド88としてもよい。
【0193】
次に、上述した液滴吐出ヘッド86を搭載した液滴吐出装置の一例について図17及び図18を参照して説明する。
【0194】
図17、及び図18に示すように、液滴吐出装置51は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載し、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッド86または液滴吐出ヘッド88からなる記録ヘッド94、記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部89等を収納する。記録装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット85(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ(図示省略)を開倒することができ、給紙カセット85或いは手差しトレイ(図示省略)から給送される用紙83を取り込み、印字機構部89によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ87に排紙する。
【0195】
印字機構部89は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ93には記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
【0196】
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0197】
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
【0198】
一方、給紙カセット85にセットした用紙83を記録ヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット85から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0199】
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ87に送り出す排紙ローラ113及び114と、排紙経路を形成するガイド部材115とを配設している。
【0200】
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0201】
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0202】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(図示しない)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0203】
上述のように、本実施の形態の液滴吐出装置51は、製造装置10によって製造された電気機械変換素子30を備えた液滴吐出ヘッド86または液滴吐出ヘッド88を備えている。このため本実施の形態の液滴吐出装置51は、環境負荷が小さく、低コストである。また、電気機械変換素子30が略台形状であることから、液滴の吐出不良も抑制され、安定した吐出特性が得られ、画像品質も向上する。
また、液滴吐出装置51を、各種印刷装置に搭載することができる。この液滴吐出装置51を、各種印刷装置に搭載することによって、画像品質の向上した印刷装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0204】
10 製造装置
12 親液撥液パターン形成部
14 機能性溶液塗布部
16 エネルギー付与部
28 制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0205】
【特許文献1】特許第3387380号公報
【特許文献2】特開2005−327920号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数の層からなる、下部電極層、圧電体層、及び上部電極層がこの順に積層され、該上部電極層側から該下部電極層側に向かって徐々に幅広となり、その断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子を製造する電気機械変換素子製造装置であって、
凹凸によるパターンが形成され、自己組織化単分子膜を溶媒に溶解させた第1溶液を塗布された印刷版を、形成対象の層が形成される基板に接触させることによって、該印刷版の凸部に塗布された該第1溶液による塗膜を該基板に転写し、該基板上に親液部と撥液部とからなる親液撥液パターンを形成するパターン形成手段と、
前記パターン形成手段によって前記基板上に形成された前記親液部に、前記形成対象の層の構成材料を含む機能性溶液を塗布して第2塗膜を形成する塗布手段と、
前記塗布手段によって形成された第2塗膜にエネルギーを付与することによって、前記形成対象の層を前記基板上に形成するエネルギー付与手段と、
前記形成対象の層としての、前記下部電極層、前記圧電体層、及び前記上部電極層の各々の構成材料を含む溶液をこの順に前記機能性溶液として用い、
前記パターン形成手段による親液撥液パターン形成、前記塗布手段による前記機能性溶液の塗布、及び前記エネルギー付与手段によるエネルギーの付与、の一連の処理を、該下部電極層、該圧電体層、及び該上部電極層の順に、各層毎に、少なくとも1回以上繰り返すように該パターン形成手段、該塗布手段、及び該エネルギー付与手段を制御し、
且つ下層側に形成される層から上層側に形成される層に向かって、前記印刷版の前記基板への接触時間が長くなるように、前記パターン形成手段を制御する制御手段と、
を備えた、電気機械変換素子の製造装置。
【請求項2】
前記電気機械変換素子の製造において用いる前記印刷版の前記凸部によるパターンの種類は、1種類である請求項1に記載の電気機械変換素子の製造装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記電気機械変換素子の前記略台形形状の断面における底辺と上辺とを結ぶ稜線の形状、及び前記基板に接触した前記印刷版の凸部側から凹部側への前記第1溶液の拡散速度、に応じた変化率で、下層側に形成される層から上層側に形成される層に向かって前記印刷版の前記基板への接触時間が長くなるように、前記パターン形成手段を制御する、請求項1または請求項2に記載の電気機械変換素子の製造装置。
【請求項4】
1または複数の層からなる、下部電極層、圧電体層、及び上部電極層がこの順に積層され、該上部電極層側から該下部電極層側に向かって徐々に幅広となり、その断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子を製造する電気機械変換素子の製造方法であって、
凹凸によるパターンが形成され、自己組織化単分子膜を溶媒に溶解させた第1溶液を塗布された印刷版を、形成対象の層が形成される基板に接触させることによって、該印刷版の凸部に塗布された該第1溶液による塗膜を該基板に転写し、該基板上に親液部と撥液部とからなる親液撥液パターンを形成する第1の工程と、
前記第1の工程によって前記基板上に形成された前記親液部に、前記形成対象の層の構成材料を含む機能性溶液を塗布して第2塗膜を形成する第2の工程と、
前記第2の工程によって形成された第2塗膜にエネルギーを付与することによって、前記形成対象の層を前記基板上に形成する第3の工程と、
前記形成対象の層としての、前記下部電極層、前記圧電体層、及び前記上部電極層の各々の構成材料を含む溶液をこの順に前記機能性溶液として用い、前記第1の工程、前記第2の工程、及び前記第3の工程の一連の処理を、該下部電極層、該圧電体層、及び該上部電極層の順に、各層毎に、少なくとも1回以上繰り返し、且つ下層側に形成される層から上層側に形成される層に向かって、前記印刷版の前記基板への接触時間を長くする第4の工程と、
を備えた、電気機械変換素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の電気機械変換素子の製造装置によって製造された電気機械変換素子。
【請求項6】
請求項5に記載の電気機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項6に記載の液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置。
【請求項8】
請求項7に記載の液滴吐出装置を備えた印刷装置。
【請求項1】
1または複数の層からなる、下部電極層、圧電体層、及び上部電極層がこの順に積層され、該上部電極層側から該下部電極層側に向かって徐々に幅広となり、その断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子を製造する電気機械変換素子製造装置であって、
凹凸によるパターンが形成され、自己組織化単分子膜を溶媒に溶解させた第1溶液を塗布された印刷版を、形成対象の層が形成される基板に接触させることによって、該印刷版の凸部に塗布された該第1溶液による塗膜を該基板に転写し、該基板上に親液部と撥液部とからなる親液撥液パターンを形成するパターン形成手段と、
前記パターン形成手段によって前記基板上に形成された前記親液部に、前記形成対象の層の構成材料を含む機能性溶液を塗布して第2塗膜を形成する塗布手段と、
前記塗布手段によって形成された第2塗膜にエネルギーを付与することによって、前記形成対象の層を前記基板上に形成するエネルギー付与手段と、
前記形成対象の層としての、前記下部電極層、前記圧電体層、及び前記上部電極層の各々の構成材料を含む溶液をこの順に前記機能性溶液として用い、
前記パターン形成手段による親液撥液パターン形成、前記塗布手段による前記機能性溶液の塗布、及び前記エネルギー付与手段によるエネルギーの付与、の一連の処理を、該下部電極層、該圧電体層、及び該上部電極層の順に、各層毎に、少なくとも1回以上繰り返すように該パターン形成手段、該塗布手段、及び該エネルギー付与手段を制御し、
且つ下層側に形成される層から上層側に形成される層に向かって、前記印刷版の前記基板への接触時間が長くなるように、前記パターン形成手段を制御する制御手段と、
を備えた、電気機械変換素子の製造装置。
【請求項2】
前記電気機械変換素子の製造において用いる前記印刷版の前記凸部によるパターンの種類は、1種類である請求項1に記載の電気機械変換素子の製造装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記電気機械変換素子の前記略台形形状の断面における底辺と上辺とを結ぶ稜線の形状、及び前記基板に接触した前記印刷版の凸部側から凹部側への前記第1溶液の拡散速度、に応じた変化率で、下層側に形成される層から上層側に形成される層に向かって前記印刷版の前記基板への接触時間が長くなるように、前記パターン形成手段を制御する、請求項1または請求項2に記載の電気機械変換素子の製造装置。
【請求項4】
1または複数の層からなる、下部電極層、圧電体層、及び上部電極層がこの順に積層され、該上部電極層側から該下部電極層側に向かって徐々に幅広となり、その断面形状が略台形形状とされた電気機械変換素子を製造する電気機械変換素子の製造方法であって、
凹凸によるパターンが形成され、自己組織化単分子膜を溶媒に溶解させた第1溶液を塗布された印刷版を、形成対象の層が形成される基板に接触させることによって、該印刷版の凸部に塗布された該第1溶液による塗膜を該基板に転写し、該基板上に親液部と撥液部とからなる親液撥液パターンを形成する第1の工程と、
前記第1の工程によって前記基板上に形成された前記親液部に、前記形成対象の層の構成材料を含む機能性溶液を塗布して第2塗膜を形成する第2の工程と、
前記第2の工程によって形成された第2塗膜にエネルギーを付与することによって、前記形成対象の層を前記基板上に形成する第3の工程と、
前記形成対象の層としての、前記下部電極層、前記圧電体層、及び前記上部電極層の各々の構成材料を含む溶液をこの順に前記機能性溶液として用い、前記第1の工程、前記第2の工程、及び前記第3の工程の一連の処理を、該下部電極層、該圧電体層、及び該上部電極層の順に、各層毎に、少なくとも1回以上繰り返し、且つ下層側に形成される層から上層側に形成される層に向かって、前記印刷版の前記基板への接触時間を長くする第4の工程と、
を備えた、電気機械変換素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の電気機械変換素子の製造装置によって製造された電気機械変換素子。
【請求項6】
請求項5に記載の電気機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項6に記載の液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置。
【請求項8】
請求項7に記載の液滴吐出装置を備えた印刷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−142472(P2012−142472A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240(P2011−240)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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