説明

電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法

【課題】本発明の目的は、酸化亜鉛が還元されることなくそのまま得られ、省エネルギーで、より効率的に酸化亜鉛を分離でき、さらに酸化鉄に付加価値をつけることができる電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法を提供することにある。
【解決手段】電気炉ダストの粉末とカルシウム化合物の粉末とを所定量秤量、混合後、その混合粉末を加圧成型し、その加圧成形体を大気中電気炉で、温度900℃以上、1000℃以下で、60時間以上、120時間以下保持する工程と、電気炉で処理後の加圧成形体を冷却後、粉砕し、粉砕後の粉末を液体に分散する工程と、しかる後に、その分散液体を直流磁場中で磁気分離することにより、非磁性体の酸化亜鉛を回収する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛メッキ鋼板などの鉄スクラップを電気炉により再溶製・製錬を行って粗鋼を製造する際に発生する電気炉ダストから、有価物である酸化亜鉛や鉄成分の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、日本の粗鋼生産量の約3割が、亜鉛メッキ鋼板など鉄スクラップを電気炉により再溶製・製錬を行うことにより生産されている。この電気炉で、亜鉛メッキ鋼板中の還元揮発亜鉛は再酸化され、集塵ダストとして回収される。すなわち、電気炉製鋼ダストは、電気炉による鉄スクラップのリサイクルの際に発生する。日本全体のダスト発生量は、年間約50〜60万トンと見積もることができる。自動車用メッキ鋼板スクラップの増加、並びに電気炉ダストの発生原単位の上昇傾向により、電気炉ダストの発生量は、今後とも増加する傾向にある。
【0003】
電気炉ダストの主成分はFe、Znであるが、これらは主にジンクフェライトZnFe2O4として存在し、一部FeOとZnOとしても存在する。ダスト中に含まれる亜鉛は、資源として有価であるものの、ZnFe2O4は亜鉛湿式製錬において難溶性であるので嫌われている。しかし、このZnFe2O4から酸化亜鉛と酸化鉄とを効率よく分離できれば、酸化亜鉛は亜鉛製錬に、酸化鉄は鉄鋼製錬にリサイクルできると考えられる。
【0004】
このリサイクル処理方法として、国内外ともに主にWaelz法が用いられている。図7は、Waelz法の概要である。Waelz法は、ロータリーキルンの中に電気炉ダストと炭材を入れ、ダスト中のジンクフェライトの亜鉛成分と酸化亜鉛とを還元して亜鉛蒸気とし、回収したガスを空気で再酸化して酸化亜鉛として取り出し、亜鉛製錬へ供給している。この粗酸化亜鉛は、約50%の亜鉛を含んでいる。
【0005】
しかし、Waelz法には下記の問題がある。
(1)酸化亜鉛は一旦金属亜鉛まで還元されるが、後に再び酸化されるので、エネルギーロスが極めて大きい。
(2)結果的に、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を必要以上に大量発生する。
(3)取り出した鉄成分の多くはセメントとして使われており、鉄源として有効に利用されていない。
【0006】
そこで、電気炉ダストの処理方法として、密封容器内で電気炉ダストを所定の高温に維持し、金属亜鉛を蒸気のまま回収する方法(例えば、特許文献1参照)や、電気炉ダストと希硝酸とを混合し、亜鉛を含む重金属を浸出させて鉄分を除去し、更に溶融シリカを分離し、更にイオン化傾向を利用して亜鉛以外の重金属を析出除去する方法(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
【0007】
しかし、亜鉛蒸気を回収する方法では、亜鉛蒸気を得るために、絶えず電気炉ダストを高温に保持する必要があり、多大のエネルギーを要するという問題点がある。また、蒸気を密封する装置が大掛かりになる、という問題点もある。また、希硝酸に溶解する方法は、溶解槽や洗浄槽、電解槽など多くの設備が必要であり、かつ、反応が複雑で工程が長く、必要コストが過大になるという問題点がある。
【0008】
【特許文献1】特開2005−345005号公報
【特許文献2】特開2003−13275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、酸化亜鉛が還元されることなくそのまま得られ、省エネルギーで、より効率的に酸化亜鉛を分離でき、さらに酸化鉄に付加価値をつけることができる電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
図1は、ZnO−CaO−Fe2O3の状態図である。本発明者等は、本発明者等が明らかにした図1の状態図により、電気炉ダストの主要成分であるZnFe2O4にCaOを1100℃近傍の比較的低温で反応させると、電気炉ダスト中のZnFe2O4を、ZnOおよび2CaO・Fe2O3の2相に変化させることができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明によれば、電気炉ダストの粉末とカルシウム化合物の粉末とを所定量秤量、混合後、該混合粉末を加圧成型し、該加圧成形体を大気中電気炉で、温度900℃以上、1000℃以下で、60時間以上、120時間以下保持する工程と、前記電気炉で処理後の前記加圧成形体を冷却後、粉砕し、粉砕後の粉末を液体に分散する工程と、しかる後に、該分散液体を直流磁場中で磁気分離することにより、非磁性体の酸化亜鉛を回収する工程とを、有することを特徴とする電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、前記カルシウム化合物は、酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムのいずれか一種から成り、前記電気炉ダストの粉末と前記カルシウム化合物の粉末との配合比率が、酸化カルシウム当量で、1:2以上であることを、特徴とする電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、水溶性成分を除去するために、前記電気炉ダストの粉末を、予め水洗浄・乾燥する工程を有することを、特徴とする電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、前記分散液体を磁気分離する工程において、酸化亜鉛の分離回収と同時に、強磁性体粉末を分離回収することを、特徴とする電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、酸化亜鉛が還元されることなくそのまま得られ、省エネルギーで、より効率的に酸化亜鉛を分離でき、さらに酸化鉄に付加価値をつけることができる電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法を提供することができる。また、本発明により、電気炉ダストが有効利用され、有価金属のリサイクルの効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のプロセスは、式(1)の反応を利用して、電気炉ダストの主成分であるZnFe2O4に第三成分MxOyを反応させて、酸化亜鉛とnMxOy・Fe2O3複合酸化物とに分離しようとするものである。
ZnFe2O4 (s) +nMxOy (s) = ZnO(s) +nMxOy・Fe2O3 (s) (1)
【0017】
この方法によれば、酸化亜鉛を還元することなく、Waelz法の生産物と同じ酸化亜鉛がそのまま得られるので、より効率的に分離でき、さらに酸化鉄にMxOy成分の付加価値をつけることができる可能性があると考えられる。この第3成分MxOyに求められる条件としては、まず安価であり、生成物が無害でかつ有用であること、分離できる可能性があることで、CaOを選択した。
【0018】
具体的なZnFe2O4とCaOとの反応式を式(2)に示した。
ZnFe2O4 (s) +2CaO (s) = ZnO(s) +2CaO・Fe2O3 (s) (2)
この場合、CaOとFe2O3との化合物は、塩基性フラックス成分のCaOを含むので、ダストの発生元である鉄鋼メーカー事業所内で焼結鉱、脱リン剤としてそのまま利用することができる。
【実施例1】
【0019】
CaOは吸湿性があるので、代わりにCaCO3を使用し、電気炉ダストの主成分であるZnFe2O4にCaCO3中のCaOを目的組成となるように合計1.5g秤量し、めのう乳鉢でよく混合した後、400MPaで圧粉成型し、径10mmのブリケットとした。表1に、試料の調合組成、実験条件を示す。図2は、加熱に用いたカンタル線巻堅型電気抵抗炉である。この電気炉は、ほぼ中央に±1Kの均熱帯を40~50mm有しており、この部分に試料が位置するように石英反応管を固定した。加熱時間、温度は前述の表1に示す。急冷後の試料を白金るつぼから取り出し、それを鉄およびめのう乳鉢で粉末にし、X線ディフラクトメータ(XRD)による相の同定を行った。
【0020】
【表1】

【0021】
図3は、X線回折パターンについて、温度、時間の違いをまとめたものである。また、図4は、X線回折パターンについて、モル比の違いをまとめたものである。図3中の楕円で囲まれた部分に注目すると、時間が長いほど、温度が高いほどZnOおよび2CaO・Fe2O3のピークが大きくなり、反応が進行することがわかる。また、図4中の楕円で囲まれた部分に注目すると、同じ時間、同じ温度で比較すると、ZnFeO4に対するCaOのモル比が増加すると、ZnFeO4のピークが減少しているので、過剰のほうが良いと思われる。
【0022】
従って、図3から明らかに、成形体を大気中電気炉で、温度900℃以上、1000℃以下で、60時間以上、120時間以下保持する必要がある。900℃未満では、反応の進み方が非常に遅くなり、また1100℃を超えると、エネルギーや設備のコストが工業的でなくなるのは当然である。また、図4から、電気炉ダスト粉末:カルシウム化合物粉末の配合比率が、酸化カルシウム当量で、1:2以上である必要がある。
【0023】
次に、ZnOと2CaO・Fe2O3とを実際に分離ができるかを調べるための実験を行った。CaOとZnFeO4とをめのう乳鉢でよく混合した後、400MPaで圧粉成型し、径10mmのブリケットとし、これを白金るつぼ中に置き、大気開放型電気炉により1373Kで60時間加熱保持後、目的温度の1173Kに温度を下げ、3日間加熱保持した後、空冷してZnOと2CaO・Fe2O3とを合成した。これを鉄およびめのう乳鉢で粉砕し、その粉末試料0.9069gを凝集を防ぐ目的で分散剤とともに水約250mlに懸濁させ、超音波にて分散を促した。
【0024】
図5は、分離実験に用いたスプリット型無冷媒マグネットを用いた磁気分離装置である。真鍮製の筒の中にスペーサーを使って等間隔に設置した16枚のステンレ鋼スメッシュフィルター(メッシュの間隔は0.6mm以下)を、ガラス管の中に装入して超伝導マグネット内にセットし、排出口を閉じてガラス管の中を蒸留水で満たした後、排出口を開放するのと同時に、ガラス管上部から水に懸濁させた粉末試料をガラス管内に落下させて、磁場強度5テスラの磁場にて磁気分離した。ガラス管内に試料が残留するのを防ぐために、試料を流した後、蒸留水を500ml流した。その後、分離できた非磁着物を希塩酸により完全に分解した後、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)によりZn、Fe、Caの分析を行った。
【0025】
図6は、磁気分離の投入物(図6中の「Before」)、非磁着物(図6中の「Non-adherent to filter」)、磁着物(図6中の「Adherent to filter」)におけるZnおよびFe+Caの質量である。式(3)のようにZnの回収率Rを定義した。
R = mNon-adherent /minit・100 (%) (3)
ここで、mNon-adherentは、非磁着物内のZnの質量、minitは投入した試料内のZnの質量である。結果として、非磁着物により亜鉛を95%回収することができた。すなわち、ZnOおよび2CaO・Fe2O3について、湿式による磁気分離を行い、ZnOと2CaO・Fe2O3とを分離できることが確認できた。
【0026】
また、実際の電気炉ダストには、様々な成分が微量含まれているので、電気炉ダストを水洗・乾燥し、水に可溶な不純物を予め除去しておくことで、液体生成物の反応を抑え、ZnOおよび2CaO・Fe2O3の生成反応を円滑に進めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ZnO−CaO−Fe2O3の状態図
【図2】本発明の実施の形態の電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法の、加熱に用いるカンタル線巻堅型電気抵抗炉を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態の電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法の、電気炉での処理後に急冷した試料の温度および時間の違いによるX線回折パターンである。
【図4】本発明の実施の形態の電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法の、電気炉での処理後に急冷した試料のモル比の違いによるX線回折パターンである。
【図5】本発明の実施の形態の電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法の、分離実験に用いるスプリット型無冷媒マグネットを用いた磁気分離装置を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態の電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法の、磁気分離の投入物(Before)、非磁着物(Non-adherent to filter)、磁着物(Adherent to filter)におけるZnおよびFe+Caの質量を示すグラフである。
【図7】従来のWaelz法の概要を示す原理図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉ダストの粉末とカルシウム化合物の粉末とを所定量秤量、混合後、該混合粉末を加圧成型し、該加圧成形体を大気中電気炉で、温度900℃以上、1000℃以下で、60時間以上、120時間以下保持する工程と、
前記電気炉で処理後の前記加圧成形体を冷却後、粉砕し、粉砕後の粉末を液体に分散する工程と、
しかる後に、該分散液体を直流磁場中で磁気分離することにより、非磁性体の酸化亜鉛を回収する工程とを、
有することを特徴とする電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法。
【請求項2】
前記カルシウム化合物は、酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムのいずれか一種から成り、前記電気炉ダストの粉末と前記カルシウム化合物の粉末との配合比率が、酸化カルシウム当量で、1:2以上であることを、特徴とする請求項1記載の電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法。
【請求項3】
水溶性成分を除去するために、前記電気炉ダストの粉末を、予め水洗浄・乾燥する工程を有することを、特徴とする請求項1または2記載の電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法。
【請求項4】
前記分散液体を磁気分離する工程において、酸化亜鉛の分離回収と同時に、強磁性体粉末を分離回収することを、特徴とする請求項1、2または3記載の電気炉ダストからの酸化亜鉛の回収方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−30121(P2009−30121A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195891(P2007−195891)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】