説明

電気的抵抗の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料

【課題】電気的抵抗の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料によるガスセンサ材料、該材料を製造する方法及び該材料を含むガスセンサ等を提供する。
【解決手段】有機無機ハイブリッド材料を空気のような酸素を含む雰囲気下で使用するときは、動作温度における飽和酸素吸着量以上の酸素を予め吸着させておくことで、又は窒素のような酸素を含まない雰囲気下で使用するときは、予め吸着した酸素を脱離させておくことで、該有機無機ハイブリッド材料の電気的抵抗のドリフトを抑制した有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料、導電性有機無機ハイブリッド材料、それらの製造方法、導電性部材及び化学センサ部材。
【効果】有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料のベース抵抗値のドリフトを抑制することで、測定対象ガスに対する応答に相当する抵抗値変化に対してドリフトが相対的に小さくなり、これにより、正確な濃度の検出が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的抵抗の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料、これによるガスセンサ、及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、特定の有機無機ハイブリッド材料を化学センサ素子として用いたガスセンサであって、抵抗値の変化によりガスを検知する作用を有し、空気中でのベース抵抗値(ガスセンサとしての測定対象ガスに曝されていないときの抵抗値)のドリフト(変動)が抑制された特性を有する新規ガスセンサ材料及びその製造方法に関するものである。
【0002】
本発明は、例えば、空気中での動作温度よりも高い温度で酸素を含む気体の雰囲気下で加熱することにより、表面酸素を充分に吸着させ、その後の空気中における使用時のベース抵抗値のドリフトが抑制された有機無機ハイブリッド材料、該材料からなる化学センサ素子に関する新技術・新製品を提供するものである。更に、本発明は、ガスセンサ素子として、抵抗値が測定対象ガスの存在に関わらず徐々に上昇又は減少するドリフトを抑制することにより、正確なガス濃度の検知を可能とする技術を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、住宅の高気密化や化学物質を放散する建材・内装等の利用で生じるVOC(揮発性有機化合物)による汚染が原因とされるシックハウス症候群と呼ばれる健康被害が問題視されている。そのため、室内のVOC濃度をモニタリングするための化学センサの開発が期待されている。VOCの成分は、多岐に渡っており、それぞれの成分によって、有害性、許容濃度が異なる。これらのことから、VOCを常時モニタリングするための化学センサには、それぞれの成分を特定して検出するガス選択性が求められているだけでなく、その許容濃度は極低濃度であることから、ガスセンサとしての高感度特性も求められている。
【0004】
従来から利用されているVOCガス濃度の測定法としては、主に、検知管法による分析、ガスクロマトグラフィーによる分析が挙げられる。しかし、検知管法による分析は、瞬時の測定が可能である反面、色の変化を目視によって判定する測定法の性質上、正確な濃度の判定が難しいだけでなく、一回の使用で消耗するため、経済的に効率が悪く、また、極低濃度の分析には適さない。
【0005】
ガスクロマトグラフィーによる分析は、精密な濃度の測定だけでなく極低濃度の測定も可能である利点がある。しかしながら、その反面、分析機器の性質上、瞬時の測定は不可能であり、分析機器自体も高価である。その他、水素炎イオン化法や光イオン化検出法に基づいた極低濃度のVOC検出が可能なポータブル分析計が開発されているが、検出器の性質上、ガス選択性を求めることが難しい。
【0006】
また、金属酸化物によるn型半導体を用いた化学センサも従来から利用されているが、VOC濃度の常時モニタリングに適する抵抗値の変化によりガスを検知する手法であるものの、その性質上、ガス選択性を持たせることが難しい。これらのことから、何れの手法も、VOC濃度の常時モニタリング可能なデバイスとして普及させるには適さないことから、新規材料による化学センサの開発が検討されてきた。
【0007】
本発明者らは、有機無機ハイブリッド材料による化学センサを開発すると共に、有機化合物と無機化合物をナノレベルで複合化することにより、エレクトロデバイス材料への応用に必要な信号変換機能とガス選択性に必要な分子認識機能を、それぞれ層状無機化合物とその層間の有機化合物に分担させることで、高いガス選択性を有した新しい化学センサ材料への応用に有効であることを報告している。
【0008】
具体的な事例として、層状構造を持つ酸化モリブデン(MoO)を主成分とし、酸化モリブデン層間に有機化合物を挿入したインターカレーション型有機無機ハイブリッド材料に関して、当該材料が、ベンゼン、トルエンに対してほとんど応答しないのに対し、アルデヒド、アルコール、塩素系のガスに対して選択的に応答する優れたガス選択性を有することから、当該有機無機ハイブリッド材料を用いた新しい化学センサ素子が提案されている(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。また、ハイブリッド材料を素子化して応用するための薄膜化技術が提案されている(特許文献3、非特許文献2)。
【0009】
また、本発明者らは、有機無機ハイブリッド材料による薄膜を安価なシリコン基板上へ作製する技術(特許文献4)、有機無機ハイブリッド材料による薄膜の、粒子のナノサイズ化、多孔質化技術(特許文献5)によって、センサ感度を数ppmレベルまで向上させ、この濃度領域では、アルデヒド系ガスに対して選択的に応答することを見出している。
【0010】
更に、本発明者らは、有機無機ハイブリッド化プロセスの最適化(特許文献6)によって、更なる高感度化を実現し、厚生労働省のシックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会が平成14年に示した、その濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても健康への有害な影響は受けないと判断される値とした個別濃度指針値(ホルムアルデヒドが0.08ppm(=80ppb)、アセトアルデヒドが0.03ppm(=30ppb))の検知を達成した。
【0011】
酸化モリブデンと有機化合物による有機無機ハイブリッド材料は、アルデヒド系のガスに対する新規化学センサ材料としての応用が期待されている。しかしながら、上記の有機無機ハイブリッド材料では、測定対象ガスの存在に関わらず、抵抗値が徐々に上昇又は減少するドリフトが発生する。上記有機無機ハイブリッド材料では、ガスに対する応答値よりもドリフト幅が大きいことから、この状態では正確なガス濃度の検知が難しいという問題があり、当技術分野では、ベース抵抗値がドリフトしない有機無機ハイブリッド材料の開発が急務の課題となっている。
【0012】
【特許文献1】特開2004−271482号公報
【特許文献2】特開2005−321326号公報
【特許文献3】特開2005−179115号公報
【特許文献4】特開2006−315933号公報
【特許文献5】特開2005−321327号公報
【特許文献6】特願2006−312309号
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.,Vol.77,1231(2004)
【非特許文献2】Chem.Mater.,Vol.17,349(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、ベース抵抗値のドリフトが抑制された有機無機ハイブリッド材料を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、該有機無機ハイブリッド材料を空気のような酸素を含む雰囲気下で使用するときは、動作温度における飽和酸素吸着量以上の酸素を予め吸着させておくことで、あるいは窒素のような酸素を含まない雰囲気下で使用するときは、予め吸着した酸素を脱離させておくことで、該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフトを抑制できることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、ベース抵抗値のドリフトを抑制させた有機無機ハイブリッド材料による化学センサを製造し、提供することを可能とする有機無機ハイブリッド材料、化学センサ素子、導電性材料、それらの製造方法、及びその製品、特に、導電性部材、高感度化学センサ部材をそれぞれ提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料であって、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とするものであり、該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素量が動作温度での飽和吸着量を超えた状態に調整されていることで、酸素を含む雰囲気下で使用するときの該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフト(変動)が抑制されていることを特徴とする有機無機ハイブリッド材料。
(2)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料であって、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とするものであり、該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素が脱離されていることで、酸素を含まない雰囲気下で使用するときの該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフト(変動)が抑制されていることを特徴とする有機無機ハイブリッド材料。
(3)層間に挿入された有機物が、導電性有機高分子である、前記(1)又は(2)に記載の有機無機ハイブリッド材料。
(4)層間に挿入された有機物が、ポリアニリン又はポリアニリン誘導体である、前記(3)に記載の有機無機ハイブリッド材料。
(5)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料の成型体からなる、前記(1)又は(2)に記載の有機無機ハイブリッド材料。
(6)薄膜、配向膜、厚膜、又はペレット成型体からなる、前記(5)に記載の有機無機ハイブリッド材料。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド材料からなることを特徴とするガスセンサ材料。
(8)前記(1)から(6)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド材料からなることを特徴とする導電性材料。
(9)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料を製造する方法であって、該層状構造を持つ無機化合物を酸化モリブデンを主成分とするもので構成し、該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素量を動作温度での飽和吸着量を超えた状態に調整することで、酸素を含む雰囲気下で使用するときの該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフト(変動)が抑制された有機無機ハイブリッド材料を製造することを特徴とする有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
(10)有機無機ハイブリッド材料に飽和吸着量以上の酸素を吸着させた有機無機ハイブリッド材料の製造方法において、酸素を含む雰囲気下で動作温度以上の温度で加熱する、前記(9)に記載の有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
(11)空気中で使用するときに電気的抵抗の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料の製造方法において、動作温度よりも高い温度で、酸素を含む雰囲気下で加熱する、前記(10)に記載の有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
(12)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料の電気抵抗の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料を製造する方法であって、該層状構造を持つ無機化合物を酸化モリブデンを主成分とするもので構成し、該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素を脱離させた状態に調整することで、酸素を含まない雰囲気下で使用するときの該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料を製造することを特徴とする有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
(13)有機無機ハイブリッド材料から酸素を脱離させた有機無機ハイブリッド材料の製造方法において、酸素を含まない雰囲気下で加熱する、前記(12)に記載の有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
(14)有機無機ハイブリッド材料が、ガスセンサ材料又は導電性材料である、前記(9)から(13)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
(15)前記(8)に記載の導電性材料を構成要素として含むことを特徴とする導電性部材。
(16)前記(7)に記載のガスセンサ材料からなるセンサ素子を含むことを特徴とする化学センサ部材。
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、有機化合物と無機化合物をナノレベルで複合化した高機能性有機無機ハイブリッド材料を用いたガスセンサの技術分野において、従来の有機無機ハイブリッド材料では、抵抗値が測定対象ガスの存在に関わらず徐々に上昇又は減少するドリフトが発生しており、この状態では正確なガス濃度の検知が難しいという問題があることを踏まえて開発されたものである。
【0017】
本発明は、有機化合物と無機化合物を複合化した高機能性有機無機ハイブリッド材料において、複合化後の段階で、空気のような酸素を含む雰囲気下で使用するときは、動作温度における飽和酸素吸着量以上の酸素を予め吸着させておくことで、あるいは、窒素のような酸素を含まない雰囲気下で使用するときは、予め吸着した酸素を脱離させておくことで、該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフトが抑制された有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサ素子を作製し、提供することを可能とするものである。
【0018】
本発明は、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料であって、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とするものであり、該有機無機ハイブリッド材料を空気のような酸素を含む雰囲気下で使用するときは、動作温度における飽和酸素吸着量以上の酸素を予め吸着させておくことで、あるいは、窒素のような酸素を含まない雰囲気下で使用するときは、予め吸着した酸素を脱離させておくことで、該有機無機ハイブリッド材料の電気的抵抗のドリフトが抑制されている有機無機ハイブリッド材料としたことに特徴を有するものである。
【0019】
本発明では、酸化モリブデンを主成分とする該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素量の変動を抑えることで、該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフトを抑制させることが可能となる。本発明の有機無機ハイブリッド材料は、無機物として、酸化モリブデンを主成分とし、その層間に有機物を挟むことによって構成され、該有機無機ハイブリッド材料が分子認識機能を有する。本発明では、層間有機物として、好適には、導電性有機高分子、更に好適には、例えば、ポリアニリン又はその誘導体を主成分とする分子が使用される。しかし、本発明は、これに制限されるものではなく、酸化モリブデンと有機物を主成分とした有機無機ハイブリッド材料であれば同様に使用することが出来る。
【0020】
また、本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料は、例えば、薄膜、配向膜、厚膜、ペレット等の成型体として用いられる。例えば、高配向薄膜とすることで、エレクトロデバイス材料への応用が可能であり、ガスセンサ材料としての高感度化が実現される。本発明では、上記成形体の形状及び構造は、任意に設計することが出来る。
【0021】
また、本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入され、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とする上記有機無機ハイブリッド材料において、該有機無機ハイブリッド材料を空気のような酸素を含む雰囲気下で使用するときは、動作温度における飽和酸素吸着量以上の酸素を予め吸着させておくことで、あるいは、窒素のような酸素を含まない雰囲気下で使用するときは、予め吸着した酸素を脱離させておくことで、該有機無機ハイブリッド材料の電気的抵抗のドリフトが抑制された高性能ガスセンサ材料が提供される。これにより、ガスセンサとしての測定対象ガスに対して変化する抵抗値の変化に対して、ベース抵抗値のドリフトを抑えることが可能となり、これにより、正確なガス濃度の検知が可能となる。
【0022】
また、本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入され、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とする上記有機無機ハイブリッド材料において、該有機無機ハイブリッド材料を空気のような酸素を含む雰囲気下で使用するときは、動作温度における飽和酸素吸着量以上の酸素を予め吸着させておくことで、あるいは、窒素のような酸素を含まない雰囲気下で使用するときは、予め吸着した酸素を脱離させておくことで、該有機無機ハイブリッド材料の電気的抵抗のドリフトが抑制された導電性材料が提供される。本発明では、酸化モリブデンを主成分とする該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素量の変動を抑えることで、該導電性材料のベース抵抗値のドリフトを抑制させることが可能となる。
【0023】
また、本発明は、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料であって、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とするものであり、該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素量を、予め動作温度における飽和酸素吸着量以上吸着させておくことで、酸素を含む雰囲気下で使用するときに、電気的抵抗のドリフトが抑制された有機無機ハイブリッド材料を製造する方法が提供される。これにより、例えば、空気中での使用時に、酸化モリブデンを主成分とする該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素量の変動を抑えることで、該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフトを抑制させた有機無機ハイブリッド材料を作製することが可能となる。
【0024】
また、本発明は、酸素を含む雰囲気下で使用するときに、電気的抵抗の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料とするために、動作温度での飽和酸素吸着量を超えた酸素吸着量を有する有機無機ハイブリッド材料を製造する方法として、好適には、有機無機ハイブリッド材料に酸素を吸着させるために、有機無機ハイブリッド材料を、酸素を含む気体の雰囲気下で動作温度以上の温度にて加熱すること、更には、空気中で使用するときには、空気又は酸素を含む雰囲気下で動作温度以上の温度にて加熱することが例示される。しかし、これらに制限されるものではない。
【0025】
また、本発明は、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料であって、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とするものであり、該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素を予め脱離させておくことで、酸素を含まない雰囲気下で使用するときに、電気的抵抗のドリフトが抑制された有機無機ハイブリッド材料を製造する方法が提供される。これにより、例えば、窒素中での使用時に、酸化モリブデンを主成分とする該有機無機ハイブリッド材料から脱離可能な酸素が存在しないことで、該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフトを抑制させた有機無機ハイブリッド材料を作製することが可能となる。
【0026】
また、本発明は、酸素を含まない雰囲気下で使用するときに、電気的抵抗の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料とするために、吸着した酸素を脱離させた有機無機ハイブリッド材料を製造する方法として、好適には、有機無機ハイブリッド材料から酸素を脱離させるために、有機無機ハイブリッド材料を、酸素を含まない雰囲気下で加熱することが例示される。しかし、これに制限されるものではない。
【0027】
また、本発明では、上記の有機無機ハイブリッド材料を構成要素とする導電性部材を構築することが出来、有機無機ハイブリッド材料の抵抗値の変化をモニタリングすることにより、ガス成分を検出する化学センサ素子とすることが可能となる。更に、本発明では、上記の有機無機ハイブリッド材料をセンサ素子とする化学センサ部材を構築することが出来、センサ材料を電極と接続することで、抵抗値変化のモニタリングが可能となり、化学センサ素子として機能させることが可能となる。
【0028】
本発明は、上述の通り、酸化モリブデンを主成分とするナノサイズの有機無機ハイブリッド材料を空気のような酸素を含む雰囲気下で使用するときは、動作温度における飽和酸素吸着量以上の酸素を予め吸着させておくことで、あるいは、窒素のような酸素を含まない雰囲気下で使用するときは、予め吸着した酸素を脱離させておくことで、好適には、例えば、前者では酸素を含む雰囲気下で加熱することで、後者では酸素を含まない雰囲気下で加熱することで、電気的抵抗のドリフトが抑制された特性と機能を有する導電性有機無機ハイブリッド材料を製造し、提供することを可能とするものである。
【0029】
無機物として酸化モリブデンを主成分とした有機無機ハイブリッド材料によるVOC濃度測定の化学センサのメカニズムは、次の通りである。具体的には、有機無機ハイブリッド材料の主成分である酸化モリブデン層に含まれるモリブデンイオンが、本来、全てのモリブデンが6価のカチオンであれば電気的中性であるが、一部5価のカチオンに還元されているため、電気的中性を保つために、酸化モリブデン層間にカチオン性の有機物を取り込ませた状態であり、見かけ上、層間有機物が酸化モリブデン層に電子供与した状態であり、これにより、酸化モリブデン層が半導体特性を有する。この有機無機ハイブリッド材料において、VOCガスが有機無機ハイブリッド材料の層間に侵入し、有機化合物と作用することにより、層間有機物と酸化モリブデン層との電荷移動のバランスが変化することで、有機無機ハイブリッド材料の抵抗値が変動する。即ち、有機化合物と無機化合物間の電荷移動の変化により、電気的抵抗が変動し、これが、ガスに対する化学センサの応答となる。
【0030】
また、有機無機ハイブリッド材料によるガスセンサ応用において、該有機無機ハイブリッド材料を室温よりも高い温度を動作温度とすることが必要である。これは、温度を上げることで、測定対象ガスであるVOCガスの吸脱着を加速し、応答速度を出来る限り短く、かつ、感度を高く得るためである。また、大気中での使用においては、湿度によるガスセンサ特性への妨害があり、これを緩和するために、動作温度を上げる必要がある。
【0031】
電荷移動のバランスの変動は、測定対象ガスであるVOCガスの吸脱着だけでなく、MoO層への酸素分子の吸脱着も原因である。VOCガスは、充分な吸脱着速度を有しており、有機無機ハイブリッド材料の抵抗値をモニタリングしながらVOCガスの濃度を変化させると、抵抗値は、濃度変化に対して、概ね直ちに追随して増減する。しかし、酸素の吸脱着の速度は、VOCガスよりも遅く、これを加速させるには、多くの熱エネルギーが必要である。
【0032】
例えば、酸素が充分に吸着されていない有機無機ハイブリッド材料は、層間の有機物種に依らず、空気雰囲気下で抵抗値をモニタし続けると、徐々に酸素が吸着されていくことによって、ベース抵抗値が徐々に上昇する。しかし、予め空気雰囲気下で動作温度以上の温度で加熱して酸素吸着量を加速させておくことで、ベース抵抗値のドリフトを軽減することが出来る。その一方、空気雰囲気下で動作させてベース抵抗値を上昇させた有機無機ハイブリッド材料を窒素雰囲気下におくと、例えば、室温に近い温度であれば、ベース抵抗値は殆ど復元しないが、一定の温度へ加熱すると、ベース抵抗値が減少し、復元する。これは、吸着された酸素が、一定の熱量を加えたことで脱離したことによるものであると考えられる。
【0033】
有機無機ハイブリッド材料によるVOC濃度測定の化学センサは、主に住宅やオフィスなどの実空間のVOCガス濃度の測定を実施することから、空気雰囲気下での使用が想定される。上述の通り、有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素の脱離は、好適には、酸素を含まない雰囲気下で加熱することであり、その逆に、例えば、大気であれば、雰囲気中の酸素濃度の変動は殆ど無いため、吸着した酸素の脱離は殆ど無視できる。即ち、空気雰囲気下でのベース抵抗値のドリフトを抑制するためには、酸素吸着量の増加を抑えることにあり、これは、動作温度にて酸素吸着量が飽和点に達していることである。
【0034】
図1に、有機無機ハイブリッド材料における温度と酸素最大吸着量の関係図を示す。空気雰囲気下において、エージング処理を行わずに、室温からt℃に加熱した場合、t℃における酸素最大吸着量aに達するまで、徐々に酸素がMoO層へ吸着する。このときの酸素の吸着速度は遅く、ベース抵抗値のドリフトは、長期に渡って見られ、そのドリフト幅は、VOCガスに対する抵抗値変化の応答よりも大きい。
【0035】
その一方、予め室温からt℃に加熱することによるエージング処理を行い、その後、t℃に下げてガスセンサとしての動作温度とした場合、エージング処理の間に酸素の吸着が酸素最大吸着量aに達する、もしくは、a以上の吸着量を得ると、t℃に下げたときの吸着量はa以上となる。この場合、t℃における酸素最大吸着量aを越えているために、これ以上酸素が吸着しない。これにより、酸素の影響によるベース抵抗値のドリフトを抑制させることが出来る。
【0036】
有機無機ハイブリッド材料は、無機物として、酸化モリブデン、有機物は、好適には、ポリアニリン(PANI)又はポリアニリン誘導体が用いられる。PANIと酸化モリブデンのハイブリッドの合成は、2段階の反応により行う。1段階目で、酸化モリブデン層間に水和ナトリウムイオンが挿入された[Na(HO)MoOを合成する。窒素ガスでバブリングした蒸留水に、モリブデン酸(VI)二ナトリウム・二水和物及び次亜硫酸ナトリウムを加え、溶解した後、予め白金による櫛形電極を有する基板上に薄膜化した酸化モリブデンを浸漬させ反応させる。浸漬時間は、好ましくは20〜30秒程度である。洗浄、乾燥により[Na(HO)MoOを得る。
【0037】
次に、2段階目で、[Na(HO)MoOの層間に存在する水和ナトリウムイオン(Na(HO))とイオン交換することで、PANIを層間に挿入する。窒素ガスでバブリングした蒸留水にアニリンの単量体と濃塩酸を加え、更に、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加えて重合させ、PANIとする。重合時間は、10分〜5時間、好ましくは30分程度である。その後、[Na(HO)MoOを浸漬し、水和ナトリウムイオンとPANIのイオン交換反応を行う。浸漬時間は、好ましくは20〜30秒程度である。洗浄、乾燥により(PANI)MoOを得る。図2に、(PANI)MoOの結晶構造の模式図を示す。
【0038】
次いで、得られた(PANI)MoOのホルムアルデヒドガスに対するセンサ特性の測定を抵抗値のモニタリングによって行うが、従来の有機無機ハイブリッドによる化学センサは、作製後、そのまま評価を行っており、このときは、清浄空気、清浄酸素、清浄窒素等、何れのガスをキャリアガスとしても、ベース抵抗値のドリフト幅がガスに対する応答値よりも大きい。
【0039】
その一方で、清浄窒素のような酸素を含まない雰囲気下で測定する場合は、同雰囲気下で予め前処理としてエージングを行うことで、ベース抵抗値のドリフトを抑えることが可能であることが見出された。しかしながら、例えば、清浄窒素でエージングを行った試料を酸素が含まれる雰囲気下で測定すると、大きいドリフトが見られた。その一方、酸素を含む雰囲気下で動作させてベース抵抗値を上昇させた(PANI)MoOを窒素雰囲気下におくと、例えば、60℃であれば、ベース抵抗値は殆ど復元しないが、100℃であれば、ベース抵抗値が減少し、復元した。これは、吸着された酸素が、一定の熱量を加えたことで脱離したことによるものである。
【0040】
有機無機ハイブリッド、好適には、(PANI)MoOによる化学センサは、アルデヒドガス濃度検知用センサとして、例えば、住宅内での使用が想定され、この場合は、空気雰囲気下での使用となる。そこで、清浄空気のような酸素を含む雰囲気下で、(PANI)MoOによって測定する場合、例えば、60℃で加熱してエージング処理を行った後に40℃に落とすことで、ベース抵抗値のドリフトを軽減させることが可能であり、ドリフト幅をVOCガスに対する抵抗値変化の応答よりも小さくすることが可能である。
【0041】
更に、別に得た(PANI)MoOを、酸素を含まない雰囲気、即ち、清浄窒素雰囲気下で充分にエージング処理を行ったものと、酸素を含む雰囲気、即ち、清浄酸素雰囲気下で充分にエージングしたものについて、X線光電子分光法による分析を行った。その結果、MoO層に吸着している酸素量は、前者は少なく、後者は多いことが分かった。これにより、ベース抵抗値ドリフトの主たる原因は、(PANI)MoOに吸着している酸素量の増減であることが分かった。本発明において、酸素量の増減によるベース抵抗値のドリフトの抑制効果は、上述のように、本発明の有機無機ハイブリッド材料に特異的な特有の作用機作に基づくものである。
【0042】
本発明では、上記電気的抵抗のドリフトが抑制された有機無機ハイブリッド材料によるガスセンサ材料は、その抵抗値の変化をモニタリングすることにより、ガス成分を検出する化学センサ素子として好適に使用される。ベース抵抗値のドリフトを抑制することによって、より正確な濃度の検出が可能となり、精度の高いガスセンサ素子を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0043】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料のベース抵抗値のドリフトを抑制することが出来る。
(2)それにより、酸素を含む雰囲気下において、測定対象ガスに対する応答に相当する抵抗値変化に対して、ドリフトが相対的に小さくなり、これにより、より正確な濃度の検出が出来る。
(3)それにより、酸素を含まない雰囲気下において、測定対象ガスに対する応答に相当する抵抗値変化に対して、ドリフトが相対的に小さくなり、これにより、より正確な濃度の検出が可能となる。
(4)長期安定性の高い有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0045】
(1)シリコン(Si)基板へのランタンアルミネート(LaAlO)バッファー層の塗布
20mm四方の熱酸化膜付Si基板に、85mmol/LのLaAlO前駆体キシレン溶液を滴下し、500rpmで10秒の条件に続き、3000rpmで30秒の条件でスピンコートした。その後、90℃で約30分間乾燥させ、次いで、1100℃で30分焼成した。以上の工程を経て、熱酸化膜付Si基板に、酸化モリブデンと結晶格子定数の近いLaAlOバッファー層を塗布した。
【0046】
(2)酸化モリブデン(MoO)薄膜の作製
MoO薄膜は、CVD法により作製した。基板は、LaAlOバッファー層を塗布した10mm四方のSi基板上に、電極幅20μm、電極間距離20μmを有した白金櫛形電極を蒸着したものを用いた。基板は、加熱用ヒーターを持つ試料ホルダーに設置した。ソース室から試料室にかけて酸素ガス50mL/minを流して系内を置換し、試料室を420℃に、ソース室を40℃に加熱した。
【0047】
温度が安定した後、モリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO))0.35gを入れた石英ガラスボートを、ソース室に設置し、真空ポンプにより系内を110Paに減圧した。減圧下で、Mo(CO)が揮発し、MoOが成長した。15分間成膜を行った後、真空ポンプを止めて、系全体を大気圧に戻し、成膜を終了した。図3に、得られたMoO薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。得られたMoO膜は、基板に対してb軸配向しており、白金櫛形電極のピークと層状構造のMoOの(0k0)に帰属したピークが明瞭に現れた。MoOの(0k0)に帰属したピークより、MoOの層間距離は0.69nmであることを確認した。
【0048】
(3)[Na(HO)MoO薄膜の作製
蒸留水15mLをフラスコ内で撹拌しながら、25分間窒素ガスでバブリングした後、緩衝剤であるモリブデン酸(VI)二ナトリウム・二水和物(NaMoO・2HO:6g)を加えて溶解させ、次いで、還元剤である次亜硫酸ナトリウム(Na:0.4g)を加えた。これを溶解した後、撹拌と窒素ガスのバブリングを止め、MoO薄膜を25秒間浸漬させた。モリブデンの一部が還元されることで、薄膜が淡青色から青色へ変化した。
【0049】
その後、薄膜を蒸留水で洗浄し、空気中で30分間90℃で乾燥させた。図4に、得られた[Na(HO)MoO薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。得られた[Na(HO)MoO膜は、基板に対してb軸配向しており、緩衝剤のNaMoOのピーク、基板由来のピーク、白金櫛形電極のピークと、層状構造の[Na(HO)MoOの(0k0)に帰属したピークが明瞭に現れた。
【0050】
[Na(HO)MoOの(0k0)に帰属したピークより、[Na(HO)MoOの層間距離は、MoOの層間距離0.69nmより0.25nm増加した0.94nmであることを確認した。この層間距離の増加は、水和ナトリウムイオン(Na(HO))が層間にインターカレートしたときの増加に相当することから、[Na(HO)MoO薄膜が生成したことが確認出来た。
【0051】
(4)ポリアニリン水溶液の作製
フラスコ内に蒸留水15mLと濃塩酸を1.4mL加えて撹拌した。アニリン(1.5mL,16.5mmol)を加え、均一溶液となるように撹拌し、窒素ガスでバブリングを行い、アニリン塩酸塩水溶液として、水溶液のpHが1.0〜1.2となるように、更に塩酸を追加した。別容器の0.5mL蒸留水に、重合開始剤である過硫酸アンモニウム((NH:50mg,0.22mmol)を溶解させた。アニリン塩酸塩水溶液への撹拌、窒素ガスによるバブリングを継続し、過硫酸アンモニウム水溶液を加え、引き続き、窒素ガスでバブリングを行いながら、30分間撹拌した。
【0052】
その後、バブリングと撹拌を止め、孔径0.5μm、直径47mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて、吸引濾過を行い、出来るだけ吸引して不溶性のポリアニリンが含まれる溶液が濾液となるように、20分行った。その濾液は、強い吸引のために一部濾紙をすり抜け繊維状に変形した不溶性のポリアニリンが含まれるため、再度、孔径0.5μm、直径25mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて、10分吸引濾過を行い、不溶性のポリアニリンを完全に除くことで、ポリアニリン水溶液を得た。
【0053】
(5)(PANI)MoO薄膜の作製
得られたポリアニリン水溶液に、上記の[Na(HO)MoO薄膜を30秒浸漬した後、蒸留水で洗浄し、空気中で30分間90℃で乾燥させることで、(PANI)MoO薄膜を得た。図5に、得られた(PANI)MoO薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。得られた(PANI)MoO膜は、基板に対してb軸配向しており、基板由来のピーク、白金櫛形電極のピークと、層状構造の(PANI)MoOの(0k0)に帰属したピークが明瞭に現れた。
【0054】
(PANI)MoOの(0k0)に帰属したピークより、(PANI)MoOの層間距離は、[Na(HO)MoOの層間距離0.94nmより0.41nm増加した1.35nmであることを確認した。この層間距離の増加は、PANIが層間にインターカレートしたときの増加に相当することから、(PANI)MoO薄膜が生成したことが確認できた。
【0055】
(5)(PANI)MoOのベース抵抗値の測定
2種類のガスを混合可能で、かつ所定の流量で流すことが可能な試料室を有する装置により、(PANI)MoOの抵抗値を測定した。白金櫛形電極を電気抵抗測定器から配線された試料室の電極と接続した。抵抗値をモニタしながら、試料室に清浄窒素を200mL/minで流し、100℃に昇温して1時間保持し、その後、35℃に落とした。引き続き、清浄窒素を200mL/minで流しながら、抵抗値をモニタし続け、ベース抵抗値が変化しなくなったところで、本測定を開始した。
【0056】
本測定では、試料室は、35℃のまま保持し、開始から560分間はキャリアガスとして清浄空気を、また、560分以降は清浄窒素を、試料室へ200mL/min流した。なお、開始から560分間の間の清浄空気を流す間は、全流量が200mL/minとなるように清浄空気にホルムアルデヒドガスを混合し、ホルムアルデヒド濃度が0ppb、40ppb、80ppb、200ppb、400ppb、200ppb、80ppb、40ppb、0ppbの濃度の順で、各濃度が20分間となるようなプログラムを実施し、このプログラムを3回行った。
【0057】
図6に、本測定で得られた各キャリアガスに対する(PANI)MoOの抵抗値変化を測定した結果を示す。本測定前に35℃にて清浄窒素を流し続けて、ベース抵抗値を安定させたものの、本測定開始から清浄空気を流したところ、抵抗値がドリフト上昇し、560分間にベース抵抗値が約39MΩから42MΩまで上昇した。この間に、ホルムアルデヒドの導入で抵抗値が僅かに増加する応答を示し、濃度に応じて、その応答幅も対応しているが、この応答よりもドリフト幅が大きい。
【0058】
その後、キャリアガスを窒素に切り換えたところ、ベース抵抗値のドリフト上昇は収まったが、本測定内でベース抵抗値が元の値にまでは戻らなかった。清浄空気中に含まれる酸素が(PANI)MoOに吸着することでベース抵抗値が上昇し、35℃の温度では清浄窒素、即ち、酸素を含まない雰囲気下に置いても、吸着した酸素が脱離しないものと考えられる。
【実施例2】
【0059】
本実施例は、実施例1より引き続き実施した。本測定では、試料室を35℃のまま保持し、本測定開始から560分間はキャリアガスとして清浄酸素を、また、560分以降は清浄窒素を、試料室へ200mL/min流した。なお、開始から560分間の間の清浄酸素を流す間は、全流量が200mL/minとなるように、清浄酸素にホルムアルデヒドガスを混合し、ホルムアルデヒド濃度が0ppb、40ppb、80ppb、200ppb、400ppb、200ppb、80ppb、40ppb、0ppbの濃度の順で各濃度が20分間となるようなプログラムを実施し、このプログラムを3回行った。
【0060】
図7に、本測定で得られた各キャリアガスに対する(PANI)MoOの抵抗値変化を測定した結果を示す。本測定開始から清浄酸素を流したところ、抵抗値がドリフト上昇し、560分間にベース抵抗値が約42MΩから49MΩまで上昇した。この間に、ホルムアルデヒドの導入で抵抗値が僅かに増加する応答を示し、濃度に応じて、その応答幅も対応しているが、この応答よりもドリフト幅が大きい。
【0061】
その後、キャリアガスを窒素に切り換えたところ、ベース抵抗値のドリフト上昇が収まったが、本測定内でベース抵抗値が元の値にまでは戻らなかった。この結果は、実施例1で示した清浄空気雰囲気下よりもベース抵抗値の上昇が大きいことを示す。清浄酸素のため、清浄空気よりも酸素の吸着量が多いと考えられ、(PANI)MoOのベース抵抗値が大きく上昇したものと考えられる。
【実施例3】
【0062】
本実施例は、実施例2より引き続き実施した。本測定では、試料室は35℃のまま保持し、本測定開始から終了まで、キャリアガスとして、清浄窒素を試料室へ流し、全流量が常に200mL/minとなるようにした。なお、開始から560分間は、全流量が200mL/minとなるように、清浄窒素にホルムアルデヒドガスを混合し、ホルムアルデヒド濃度が0ppb、40ppb、80ppb、200ppb、400ppb、200ppb、80ppb、40ppb、0ppbの濃度の順で、各濃度が20分間となるようなプログラムを実施し、このプログラムを3回行った。
【0063】
図8に、本測定で得られた清浄窒素をキャリアガスとしたときの(PANI)MoOの抵抗値変化を測定した結果を示す。ホルムアルデヒドの導入で、抵抗値が増加する応答を示し、濃度に応じて、その応答幅も対応している。この間のベース抵抗値は、約51.5MΩから約52MΩの変化に留まり、応答よりもドリフト幅が小さい。
【実施例4】
【0064】
本実施例は、実施例3より引き続き実施した。本測定では、開始から終了まで、キャリアガスとして、清浄窒素を試料室へ200mL/min流し、試料室の温度を変化させた。試料室温度は、測定開始より1時間掛けて35℃から約60℃まで昇温し、1時間約60℃で保持、約2時間掛けて35℃まで降温、約5時間35℃に保持、1時間掛けて約100℃まで昇温、30分約100℃で保持、約3時間掛けて35℃まで降温、約7時間35℃に保持の順に変化させた。
【0065】
図9に、本測定で得られた清浄窒素をキャリアガスとして、試料室の温度を変化させたときの(PANI)MoOの抵抗値変化を測定した結果を示す。(PANI)MoOの半導体特性により、35℃から60℃に昇温することで、ベース抵抗値が約52MΩから26MΩへ減少したが、35℃に戻すと、ベース抵抗値が再び約52MΩに戻った。同じく、(PANI)MoOの半導体特性により35℃から100℃に昇温することで、ベース抵抗値が、約52MΩから約7MΩへ減少したが、35℃に戻しても約35MΩまでしか上昇しなかった。これにより、酸素を含まない雰囲気下に置き、加熱温度を調節することで、吸着した酸素を脱離させることが可能であることが示された。
【実施例5】
【0066】
本実施例は、実施例1に従って、(PANI)MoOを作製し、得られた(PANI)MoO試料を、(PANI)MoOの抵抗値の常時モニタリングが可能な機構を有した24Lのチャンバーにてベース抵抗値を測定した。具体的には、(PANI)MoO薄膜基板の白金櫛形電極を電気抵抗測定器から配線されたチャンバー内の電極と接続し、チャンバー内を清浄空気に完全に置換した。
【0067】
その後、(PANI)MoO薄膜基板付近の熱電対が60℃を示すように、チャンバー全体を加熱し、チャンバーを封じた。この状態で約14日間ベース抵抗値を測定した。その後、引き続き、(PANI)MoO薄膜基板付近の熱電対が40℃を示すようにチャンバー全体の加熱を調節し、チャンバー内を常圧にして、再度、封じた。この状態で、35日間ベース抵抗値を測定した。
【0068】
図10に、本測定で得られた(PANI)MoOの抵抗値変化を測定した結果を示す。清浄空気中60℃に置いた(PANI)MoOのベース抵抗値は、約14日間で36.6%上昇した。この抵抗値上昇率は、単純に30日換算で79.4%に相当する。その後、清浄空気中40℃に置いた場合、(PANI)MoOのベース抵抗値は、35日間で12.6%上昇した。この抵抗値上昇率は、単純に30日換算で10.8%に相当する。これにより、空気雰囲気下での使用においては、予め高い温度で加熱し、その後、温度を落とすことで、ベース抵抗値のドリフトを抑制することが出来ることが示唆された。
【実施例6】
【0069】
本実施例は、実施例1に従って、(PANI)MoOを作製し、得られた(PANI)MoO試料を、実施例5と同じく、(PANI)MoOの抵抗値の常時モニタリングが可能な機構を有した24Lのチャンバーにてベース抵抗値を測定した。具体的には、(PANI)MoO薄膜基板の白金櫛形電極を電気抵抗測定器から配線されたチャンバー内の電極と接続し、チャンバー内を清浄空気に完全に置換した。その後、(PANI)MoO薄膜基板付近の熱電対が40℃を示すように、チャンバー全体を加熱し、チャンバーを封じた。この状態で19日間ベース抵抗値を測定した。
【0070】
図11に、本測定で得られた(PANI)MoOの抵抗値変化を測定した結果を示す。清浄空気中40℃に置いた(PANI)MoOのベース抵抗値は、19日間で51.2%上昇した。この抵抗値の上昇率は、単純に30日換算で80.9%に相当する。実施例5の結果と本測定の結果より、同温度での測定でも、予め高い温度でエージングを行うことがドリフトの抑制に繋がることが明確に示された。
【実施例7】
【0071】
本実施例は、実施例1に従って、(PANI)MoOを作製し、得られた(PANI)MoO試料を、実施例5と同じく、24Lのチャンバーに入れ、チャンバー内を清浄空気に完全に置換し、(PANI)MoO薄膜基板付近の熱電対が60℃を示すようにチャンバー全体を加熱し、チャンバーを封じた。この状態を約14日間保持することで、エージングを行った。その後、(PANI)MoO試料を取り出し、実施例1と同じく、2種類のガスを混合可能で、かつ所定の流量で流すことが可能な試料室を有する装置により、(PANI)MoOの抵抗値を測定した。
【0072】
予め、試料室を40℃に昇温して保持し、(PANI)MoO試料の基板にある白金櫛形電極を電気抵抗測定器から配線された試料室の電極と接続して試料室に入れた。清浄空気を200mL/minで流しながら、本測定を開始し、抵抗値を記録した。本測定開始から60分後より、全流量が200mL/minとなるように、清浄空気にホルムアルデヒドガスを混合し、ホルムアルデヒド濃度が0ppb(20分間)、40ppb(20分間)、80ppb(20分間)、200ppb(40分間)、400ppb(20分間)、200ppb(20分間)、80ppb(20分間)、40ppb(20分間)、0ppb(20分間)の濃度の順となるようなプログラムを実施し、このプログラムを3回行った。
【0073】
図12に、本測定で得られた(PANI)MoOの抵抗値変化を測定した結果を示す。測定開始から280分までは、装置外の大気の雰囲気下から清浄空気雰囲気下に変わったことによる湿度由来の吸着水分の脱離による、ベース抵抗値が減少するドリフトが見られた。その後は、実施例1と同じく、清浄空気雰囲気下にてベース抵抗値が増加するドリフトが見られたが、その上昇値は9.96MΩから10.16MΩに上昇する程度で、ホルムアルデヒドガス導入による抵抗値上昇の変化よりも小さく収まった。60℃約14日間のエージングにより、ベース抵抗値のドリフトを軽減することが可能であることが示された。
【実施例8】
【0074】
本実施例は、実施例1に従って、(PANI)MoOを作製し、得られた複数個の(PANI)MoO試料を、実施例1と同じ装置の試料室に設置し、抵抗値を確認しながら、試料室に清浄窒素を200mL/minで流し、100℃に昇温して1時間保持し、その後、60℃に落とした。この状態で3日間保持し、抵抗値が変動しなくなったのを確認し、複数個の(PANI)MoOの中から抵抗値がほぼ同じ値(約12MΩ)を示す2つを選び、そのうち1つを取り出して、X線光電子分光(XPS)測定を行った。もう1個の(PANI)MoOは、試料室に設置したまま、清浄酸素を10mL/minで流し、100℃に昇温して通算5日間加熱した。これにより、抵抗値が測定器の検出上限である120MΩを越えた。その後、(PANI)MoO試料を取り出して、XPS測定を行った。
【0075】
図13に、清浄窒素中にて加熱後に取り出した(PANI)MoOのXPS測定のO1sスペクトルを示す。図14に、清浄酸素中にて加熱後に取り出した(PANI)MoOのXPS測定のO1sスペクトルを示す。共にO1sのピークは複数の成分で構成された形状を示しており、試料の素性より、MoO層由来の酸素、基板のSiOの酸素、(PANI)MoOに吸着した酸素の3種の由来であると考えられる。これに基づいて、ピーク分離を行ったところ、双方とも3種のピークに分離することが出来た。
【0076】
その結果、MoO層由来のO1sピーク(530.5eV)と基板のSiOのO1sピーク(532.5eV)の強度比は殆ど違いが見られなかったのに対し、(PANI)MoOに吸着した酸素のO1sピーク(531.9eV)は、清浄窒素中にて加熱後に取り出した(PANI)MoOよりも、清浄酸素中にて加熱後に取り出した(PANI)MoOの方の強度比が明らかに強く検出された。これにより、ベース抵抗値の上昇は、酸素の吸着であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上詳述したように、本発明は、電気的抵抗のドリフトが抑制された有機無機ハイブリッド型ガスセンサ及びその製造方法に係るものであり、本発明により、有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料において、有機無機ハイブリッド材料を空気のような酸素を含む雰囲気下で使用するときは、動作温度における飽和酸素吸着量以上の酸素を予め吸着させておくことで、あるいは、窒素のような酸素を含まない雰囲気下で使用するときは、予め吸着した酸素を脱離させておくことで、該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフトを抑制させ、正確なガス濃度の検知を可能とする新しい化学センサデバイスを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】有機無機ハイブリッド材料の温度に対する酸素最大吸着量を示す図である。
【図2】(PANI)MoOの結晶構造の模式図を示す図である。
【図3】実施例1に示す、MoO薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例1に示す、[Na(HO)MoO薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例1に示す、(PANI)MoO薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図6】実施例1に示す、35℃にてキャリアガスとして、清浄空気、清浄窒素を流したときの(PANI)MoOの抵抗値変化を示す図である。
【図7】実施例2に示す、35℃にてキャリアガスとして、清浄酸素、清浄窒素を流したときの(PANI)MoOの抵抗値変化を示す図である。
【図8】実施例3に示す、35℃にてキャリアガスとして、清浄窒素を流したときの(PANI)MoOの抵抗値変化を示す図である。
【図9】実施例4に示す、温度を35℃、約60℃、35℃、約100℃、35℃に変化させながら、キャリアガスとして、清浄窒素を流したときの(PANI)MoOの抵抗値変化を示す図である。
【図10】実施例5に示す、清浄空気中で、60℃、40℃に保持しながら測定した(PANI)MoOの抵抗値変化を示す図である。
【図11】実施例6に示す、清浄空気中で、40℃に保持しながら測定した(PANI)MoOの抵抗値変化を示す図である。
【図12】実施例7に示す、40℃にて、キャリアガスとして、清浄空気を流したときの、約14日間60℃にてエージングを施した(PANI)MoOの抵抗値変化を示す図である。
【図13】実施例8に示す、清浄窒素中で加熱後に測定した(PANI)MoOのXPSスペクトルのO1sピークを示す図である。
【図14】実施例8に示す、清浄酸素中で加熱後に測定した(PANI)MoOのXPSスペクトルのO1sピークを示す図である。
【符号の説明】
【0079】
(図2の符号)
1 酸化モリブデン層
2 ポリアニリン(PANI)層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料であって、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とするものであり、該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素量が動作温度での飽和吸着量を超えた状態に調整されていることで、酸素を含む雰囲気下で使用するときの該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフト(変動)が抑制されていることを特徴とする有機無機ハイブリッド材料。
【請求項2】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料であって、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とするものであり、該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素が脱離されていることで、酸素を含まない雰囲気下で使用するときの該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフト(変動)が抑制されていることを特徴とする有機無機ハイブリッド材料。
【請求項3】
層間に挿入された有機物が、導電性有機高分子である、請求項1又は2に記載の有機無機ハイブリッド材料。
【請求項4】
層間に挿入された有機物が、ポリアニリン又はポリアニリン誘導体である、請求項3に記載の有機無機ハイブリッド材料。
【請求項5】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料の成型体からなる、請求項1又は2に記載の有機無機ハイブリッド材料。
【請求項6】
薄膜、配向膜、厚膜、又はペレット成型体からなる、請求項5に記載の有機無機ハイブリッド材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド材料からなることを特徴とするガスセンサ材料。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド材料からなることを特徴とする導電性材料。
【請求項9】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料を製造する方法であって、該層状構造を持つ無機化合物を酸化モリブデンを主成分とするもので構成し、該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素量を動作温度での飽和吸着量を超えた状態に調整することで、酸素を含む雰囲気下で使用するときの該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値のドリフト(変動)が抑制された有機無機ハイブリッド材料を製造することを特徴とする有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
【請求項10】
有機無機ハイブリッド材料に飽和吸着量以上の酸素を吸着させた有機無機ハイブリッド材料の製造方法において、酸素を含む雰囲気下で動作温度以上の温度で加熱する、請求項9に記載の有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
【請求項11】
空気中で使用するときに電気的抵抗の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料の製造方法において、動作温度よりも高い温度で、酸素を含む雰囲気下で加熱する、請求項10に記載の有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
【請求項12】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機物が挿入された有機無機ハイブリッド材料の電気抵抗の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料を製造する方法であって、該層状構造を持つ無機化合物を酸化モリブデンを主成分とするもので構成し、該有機無機ハイブリッド材料に吸着した酸素を脱離させた状態に調整することで、酸素を含まない雰囲気下で使用するときの該有機無機ハイブリッド材料のベース抵抗値の変動が抑制された有機無機ハイブリッド材料を製造することを特徴とする有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
【請求項13】
有機無機ハイブリッド材料から酸素を脱離させた有機無機ハイブリッド材料の製造方法において、酸素を含まない雰囲気下で加熱する、請求項12に記載の有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
【請求項14】
有機無機ハイブリッド材料が、ガスセンサ材料又は導電性材料である、請求項9から13のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド材料の製造方法。
【請求項15】
請求項8に記載の導電性材料を構成要素として含むことを特徴とする導電性部材。
【請求項16】
請求項7に記載のガスセンサ材料からなるセンサ素子を含むことを特徴とする化学センサ部材。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−145136(P2009−145136A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321302(P2007−321302)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「揮発性有機化合物対策用高感度検出器の開発/センサ素子の研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】