説明

電気絶縁性シート

【課題】 外力を加えて所望する形状に変形させた後、外力を取り除いた際にも所望する変形状態を容易に維持することができる。
【解決手段】 電気絶縁性を有するシート材から構成された電気絶縁性シートであって、23℃で5%伸長して10分間保持した際の応力緩和率が35%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折り曲げ等の変形が加えられて使用される電気絶縁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気絶縁性を有するシート材から構成された電気絶縁性シート(以下、絶縁シートとも記す)が様々な製品で使用されている。例えば、コイルモーターにおける絶縁性を確保する部材として、ステータコアとコイル線との間に配置され、ステータコアとコイル線とが直接接するのを防止することで、絶縁性を確保している。
【0003】
上述のような絶縁シートは、取り付ける対象物の形状に対応するように、折り曲げ等の変形が加えられた状態で使用される場合がある。例えば、上記のようにステータコアとコイル線との間に絶縁シートを配置する場合には、筒状のステータコアの内側において軸方向に沿って伸びると共に周方向に交互に形成された凸部(磁極)及び凹部(スロット)のうち、凹部の内面の形状に沿うように変形させた状態で絶縁シートが凹部の内側に取り付けられる。そして、凹部の内側にコイル線が配置されることで、ステータコアとコイル線との間に絶縁シートが配置されることとなる。
【0004】
上述のような絶縁シートとしては、例えば、電気絶縁性を有する樹脂層と、該樹脂層の両面に積層されて樹脂層を保護する保護層とを備え、樹脂層と保護層とが接着剤を介して一体的に形成されてなるものが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
樹脂層は、一般的に、樹脂材料がシート状に形成されて延伸処理されてなる延伸シートを用いて形成されている(特許文献2参照)。このような延伸シートを用いて樹脂層が形成されることで、絶縁シートの熱に対する寸法の安定性や力学的な安定性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−009447号公報
【特許文献2】特開平7−32549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような絶縁シートは、取り付け対象物の形状に対応した形状となるように、外力が加えられて変形された場合であっても、外力を取り除くことで所望する変形状態を維持することが困難となる。このため、取り付け対象物の形状に対応するように絶縁シートを取り付ける際には、絶縁シートを取り付け対象物の形状に対応するように変形させ、その変形状態を治具や手などで保持しつつ、取り付け対象物に絶縁シートを取り付ける必要がある。
【0008】
このため、取り付け対象物の形状によっては、治具や手などが取り付け対象物に緩衝し、絶縁シートを取り付けることが困難となる場合がある。また、絶縁シートの取り付け作業に多大な手間を要するため、取り付け作業の効率を低下させる要因となっている。更に、絶縁シートの取り付け精度(取り付け位置などの精度)を低下させる要因ともなっている。
【0009】
そこで、本発明は、外力を加えて所望する形状に変形させた後、外力を取り除いた際にも所望する変形状態を容易に維持することができる電気絶縁性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、絶縁シートに外力を加えて変形させた際に生じる応力が経時的に緩和され難くなっていることを見出し、斯かる応力の影響によって、外力を取り除いた際に絶縁シートが変形状態を維持し難くなることを見出した。
そして、発明者らは、変形状態において絶縁シートに生じている応力を緩和させ易くすることで、絶縁シートの変形状態を良好に維持することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明に係る電気絶縁性シートは、電気絶縁性を有するシート材から構成された電気絶縁性シートであって、23℃で5%伸長して10分間保持した際の応力緩和率が35%以上であることを特徴とする。
【0012】
斯かる構成によれば、電気絶縁性を有するシート材から構成され、23℃で5%伸長して10分間保持した際の応力緩和率が35%以上であることで、電気絶縁性シート(以下、絶縁シートとも記す)に折り曲げ等の変形を加えた際に生じる応力を効果的に緩和させることができる。これにより、絶縁シートに外力を加えて所望する形状に変形させた後、外力を取り除いた際にも、変形前の形状に戻ろうとする応力が緩和されている(小さくなっている)ため、変形した領域の形状を所望する形状に維持することができる。つまり、外力を加え続けることなく絶縁シートの変形状態を維持することができる。
【0013】
このため、絶縁シートを取り付ける対象物の形状に対応するように絶縁シートを変形させた後、変形状態の絶縁シートを対象物に取り付けることができるため、治具等で絶縁シートの変形状態を保持したり、取り付け対象物の形状に絶縁シートを沿わせつつ取り付けたりする作業が不要となる。これにより、絶縁シートの取り付け作業の作業性を向上させることができる。
【0014】
前記シート材は、樹脂材料からなる樹脂層を備え、該樹脂層は、樹脂材料が延伸処理されることなくシート状に形成された樹脂層用シートを用いて形成されることが好ましい。
【0015】
斯かる構成によれば、樹脂材料からなる樹脂層を前記シート材が備え、該樹脂層は、樹脂材料が延伸処理されることなくシート状に形成された樹脂層用シートを用いて形成されることで、樹脂材料が延伸処理されてなる樹脂層用シートを用いて樹脂層が形成される場合よりも、変形状態において絶縁シートに生じる応力を緩和させ易くすることができる。
【0016】
具体的には、樹脂材料が延伸処理されてなる樹脂層用シートを用いて樹脂層が形成される場合には、樹脂層を構成する分子が一定方向に配列し、延伸処理されていない場合よりも配向性が高くなる。このため、延伸処理されてなる樹脂層を備える絶縁シートを変形させた際には、樹脂層を構成する分子の配向性を維持するような応力が樹脂層に生じることとなる。これにより、絶縁シートを変形させた際に樹脂層に生じる応力が緩和され難くなるため絶縁シートに生じる応力が緩和され難くなる。
【0017】
これに対し、樹脂材料が延伸処理されずにシート状に形成されてなる樹脂層用シートを用いて樹脂層が形成された場合には、樹脂層を構成する分子の配向性は、延伸処理された場合よりも低いものとなる。このため、配向性を維持しようとする応力が樹脂層に生じ難くなり、絶縁シートを変形させた際に樹脂層に生じる応力を緩和させ易くすることができる。これにより、変形状態において絶縁シートに生じる応力が緩和され易くなり、絶縁シートの変形状態を維持し易くすることができる。
【0018】
前記樹脂層は、熱可塑性樹脂を用いて形成され、該熱可塑性樹脂を構成する分子の構成元素として、窒素、又は、硫黄の少なくとも一方を有することが好ましい。
【0019】
斯かる構成よれば、前記樹脂層は、熱可塑性樹脂を用いて形成され、該熱可塑性樹脂を構成する分子の構成元素として、窒素、又は、硫黄の少なくとも一方を有することで、樹脂層を構成する分子が窒素原子、又は、硫黄原子の位置で変形(屈曲)し易くなる。これにより、絶縁シートを変形させた際に樹脂層に応力が生じるのを緩和させ易くすることができる。このため、変形状態において絶縁シートに生じる応力が緩和され易くなり、絶縁シートの変形状態を維持し易くすることができる。
【0020】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂、又は、ポリスルホン樹脂の少なくとも一方であることが好ましい。また、前記ポリアミド樹脂は、芳香族炭化水素を分子中に有する芳香族ポリアミドであることが好ましい。また、前記ポリスルホン樹脂は、複数のエーテル結合を分子中に有するポリエーテルスルホン樹脂であることが好ましい。また、前記ポリスルホン樹脂は、複数の芳香族炭化水素を分子中に有するポリフェニルスルホン樹脂であることが好ましい。
【0021】
前記樹脂層は、熱可塑性エラストマー樹脂を更に含有することが好ましい。また、前記熱可塑性エラストマー樹脂は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0022】
前記シート材は、樹脂層の少なくとも一方の面側に積層された保護層を備え、該保護層は、全芳香族ポリアミドを含有することが好ましい。また、前記保護層は、湿式抄紙法を用いて形成された紙材料から構成されていることが好ましい。また、前記保護層は、全芳香族ポリアミド繊維を含有する全芳香族ポリアミド紙から構成されていることが好ましい。また、前記保護層は、不織布から構成されていることが好ましい。また、前記保護層は、少なくとも樹脂層側の表面にコロナ処理が施されていることが好ましい。
【0023】
また、上記の絶縁シートは、モーターコイルの電気絶縁材として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、外力を加えて所望する形状に変形させた後、外力を取り除いた際にも所望する変形状態を容易に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は、本実施形態に係る電気絶縁性シートの断面図、(b)は、実施例における取り付け性を評価する方法を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図1(a)を参照しながら説明する。
【0027】
本実施形態に係る電気絶縁性シート(以下、絶縁シートとも記す)1は、折り曲げ等の変形が加えられた状態で使用されるものである。具体的には、絶縁シート1は、取り付け対象物の形状に対応するように変形が加えられ、変形状態で対象物に取り付けられるものである。
【0028】
絶縁シート1は、電気絶縁性を有するシート材から構成されている。また、絶縁シート1は、応力緩和率が所定の値となるように構成されている。具体的には、絶縁シート1は、23℃で5%伸長して10分間保持した際の応力緩和率が35%以上となるように構成されている。応力緩和率とは、JIS K 7161に規定する方法に基づいて、23℃で5%伸長したときに測定される応力(初期応力)と、その状態で10分間保持した際に測定される応力(緩和後応力)とから算出されるものである。具体的には、下記実施例に示す方法で算出される。
【0029】
また、絶縁シート1は、樹脂材料から形成された樹脂層2と、該樹脂層2の両面に積層されて樹脂層2を保護する保護層3,3とから構成されている。具体的には、絶縁シート1は、樹脂層2の両面に保護層3,3が貼合わされてなるシート材から構成されている。
【0030】
樹脂層2は、延伸処理を経ることなく形成されることが好ましい。具体的には、樹脂層2は、樹脂材料が延伸処理されることなくシート状に形成されてなる樹脂層用シートから構成されることが好ましい。樹脂層2を形成する方法としては、例えば、溶融押し出法や、溶媒キャスト法などの延伸工程を含まない製法で樹脂層用シートを作製し、該樹脂層用シートを用いて樹脂層2を形成することができる。
【0031】
樹脂層2(即ち、樹脂層用シート)に用いられる樹脂材料としては、分子配向し難い樹脂を用いることが好ましい。例えば、樹脂材料としては、分子主鎖内に屈曲部位(例えば、エーテル結合,エステル結合,アミド結合,スルホニル基,アルキレン鎖等)のある樹脂を用いることが好ましい。具体的には、樹脂材料としては、ポリエステル類やポリエーテルイミド類,ポリエーテルケトン類,ポリエーテルエーテルケトン類,ポリカーボネート類,ポリアミド類,ポリスルホン類,ポリアリレート類等が挙げられる。また、これら樹脂の何れか一つ、又は、複数を混合して用いてもよい。特に、ポリアミド類,ポリスルホン類の樹脂を用いることで、後述する保護層3(具体的には、全芳香族ポリアミド紙)との親和性をより良好にすることができる。
【0032】
また、樹脂層2(即ち、樹脂層用シート)は、熱可塑性樹脂を用いて形成されることが好ましい。該熱可塑性樹脂としては、自身を構成する分子の構成元素として、窒素、又は、硫黄の少なくとも一方を有することが好ましい。
熱可塑性樹脂を用いて延伸処理されることなく樹脂層2(即ち、樹脂層用シート)が形成されることで、延伸処理後の加熱によって分子配向規制が崩れ、樹脂特性が低下してしまうのを抑制することができる。これにより、樹脂層用シートと後述する保護層用シート(紙)との接着に熱ラミネートを用いることができ、接着剤の特性(接着に適した温度や湿度)の影響を受けることなく絶縁シート1を形成することができる。
【0033】
窒素(N)を構成元素として有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂;分子中に複数の芳香族炭化水素とイミド結合とエーテル結合とを有するポリエーテルイミド(PEI)樹脂;分子中に複数のイミド結合及び複数のアミド結合を有する熱可塑性ポリアミドイミド樹脂が挙げられる。特に、絶縁シート1を変形させて立体的に加工した際の応力緩和性を良好にする点では、ポリアミド樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
窒素(N)を構成元素として有する熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を用いることで、絶縁シート1を変形させた際の樹脂層2と保護層3との層間接着性を良好にすることもできる。このため、絶縁シート1の変形に対して、樹脂層2と保護層3とが互いに追従し易くなる。これは、ポリアミド樹脂が比較的高い極性を有するため、樹脂層2が保護層3とより密着し得るからである。
【0035】
ポリアミド樹脂は、少なくともポリアミン化合物とポリカルボン酸化合物とが脱水縮合により重合されてなるものである。
【0036】
ポリアミド樹脂としては、分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂、分子中に炭化水素として脂肪族炭化水素のみを有する脂肪族ポリアミド樹脂が挙げられる。特に、樹脂層2がより耐熱性に優れたものになり得るという点では、分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂を用いることが好ましい。ポリアミド樹脂が、分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂であることにより、例えば、絶縁シート1を変形させて立体的に形成したモーター用ボビンが、電気絶縁性を維持しつつ、コイルから生じる熱に対して、より耐性に優れたものになる。
【0037】
また、分子中に芳香族炭化水素を有する芳香族ポリアミド樹脂としては、分子中に炭化水素として芳香族炭化水素のみを有する全芳香族ポリアミド樹脂,分子中に炭化水素として脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素の両方を有する半芳香族ポリアミド樹脂等が挙げられる。全芳香族ポリアミド樹脂を用いることで、絶縁シート1を変形させた際の樹脂層2と保護層3との層間接着性を良好にすることもできる。このため、絶縁シート1の変形に対して、樹脂層2と保護層3とが互いに追従し易くなる。また、半芳香族ポリアミド樹脂を用いることで、樹脂層2が耐熱性に優れたものとなると共に、樹脂層2と保護層3との間でより層間剥離し難くなる。
【0038】
ポリアミド樹脂の重合において用いられるポリアミン化合物としては、例えば、ジアミン化合物が挙げられる。該ジアミン化合物としては、直鎖状、又は、分岐鎖状の炭化水素基を含む脂肪族ジアミン,環状の飽和炭化水素基を含む脂環族ジアミン,芳香族炭化水素基を含む芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0039】
脂肪族ジアミン,脂環族ジアミン、又は、芳香族ジアミンとしては、例えば、下記式(1)で表されるものが挙げられる。なお、下記式(1)中のR1は、炭素数4〜12の脂肪族炭化水素基、若しくは環状飽和炭化水素を含む炭素数4〜12の脂環族炭化水素基、又は、芳香族環を含む炭化水素基を表している。

2N−R1−NH2・・・(1)
【0040】
脂肪族ジアミンとしては、樹脂層2の電気絶縁性がより優れたものになり得るという点で、式(1)においてR1の炭素数が9のノナンジアミンを用いることが好ましく、1,9−ノナンジアミン、及び、2−メチル−1,8−オクタンジアミンを混合したものを用いることがより好ましい。
【0041】
芳香族ジアミンとしては、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0042】
ポリアミド樹脂の重合において用いられるポリカルボン酸化合物としては、例えば、ジカルボン酸化合物が挙げられる。該ジカルボン酸化合物としては、直鎖状、又は、分岐鎖状の炭化水素基を含む脂肪族ジカルボン酸、環状の飽和炭化水素基を含む脂環族ジカルボン酸、芳香族炭化水素基を含む芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0043】
脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、又は、芳香族ジカルボン酸としては、例えば、下記式(2)で表されるものが挙げられる。なお、下記式(2)中のR2は、炭素数4〜25の脂肪族炭化水素基、若しくは、環状飽和炭化水素を含む炭素数4〜12の脂環族炭化水素基を表しているか、又は、芳香族環を含む炭化水素基を表している。

HOOC−R2−COOH・・・(2)
【0044】
脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸,セバシン酸などが挙げられる。
【0045】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸,メチルテレフタル酸,ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、該芳香族ジカルボン酸としては、ポリアミド樹脂の耐熱性がより優れたものになり得るという点で、テレフタル酸を用いることが好ましい。
【0046】
ポリアミド樹脂は、上述したジアミン化合物の1種とジカルボン酸化合物の1種とが重合してなるものであってもよく、それぞれの化合物の複数種を組み合わせて重合してなるものであってもよい。また、要すれば、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物以外のものが更に重合されてなるものであってもよい。
【0047】
ポリアミド樹脂としては、上述したように半芳香族ポリアミド樹脂を用いることが好ましく、該半芳香族ポリアミド樹脂としては、ジアミン化合物としての脂肪族ジアミンと、ジカルボン酸化合物としての芳香族ジカルボン酸とが重合してなるものを用いることがより好ましく、脂肪族ジアミンとしてのノナンジアミンと、芳香族ジカルボン酸としてのテレフタル酸とが重合してなるもの(PA9T)を用いることが特に好ましい。
【0048】
樹脂層2においては、ポリアミド樹脂の含有割合が1重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。また、90重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。
ポリアミド樹脂の含有割合が1重量%以上であることにより、絶縁シート1を曲げ加工等で変形させたときの保護層3と樹脂層2との間の層間剥離がより抑制される。また、ポリアミド樹脂の含有割合が90重量%以下であることにより、ポリアミド樹脂に含まれる結晶成分が低下するため、樹脂層2の応力緩和性が向上し、絶縁シート1を変形させたときの形状を維持し易くなる。
【0049】
また、窒素(N)を構成元素として有する熱可塑性樹脂としては、窒素(N)含有極性官能基を有し、常温(20℃)にてゴム弾性を示す熱可塑性エラストマー樹脂が挙げられる。窒素(N)含有極性官能基としては、−NRR’,−NHR,−NH2,>C=N−,−CN,−NCO,−OCN,−SCN,−NO,−NO2,−CONH2,−CONHR,−CONH−,>C=NH等が挙げられる。特に、イソシアネート基(−NCO)、又は、−NRR’,−NHR,−NH2等のアミノ基が好ましい。なお、上記官能基におけるR,R’は、水素原子、アルキル基、アリール基等を示す。また、上記熱可塑性エラストマー樹脂としては、例えば、ポリウレタン系,ニトリル系、又は、ポリアミド系の各熱可塑性エラストマー樹脂が挙げられる。
【0050】
硫黄(S)を構成元素として有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスルホン樹脂;分子中に複数の芳香族炭化水素、及び、複数のスルフィド結合(−S−)を有するポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂等が挙げられる。特に、絶縁シート1を変形させて立体的に加工するときの樹脂層2の成形性が良好なものになるという点では、ポリスルホン樹脂を用いることが好ましい。
【0051】
硫黄(S)を構成元素として有する熱可塑性樹脂としてポリスルホン樹脂を用いることで、絶縁シート1を変形させた際の樹脂層2と保護層3との層間接着性を良好にすることもできる。このため、絶縁シート1の変形に対して、樹脂層2と保護層3とが互いに追従し易くなる。これは、ポリスルホン樹脂が非晶質であるため、樹脂層2の応力緩和が促進され、絶縁シート1の変形形状を維持し易くなるからである。
【0052】
ポリスルホン樹脂は、分子中に複数のスルホニル基を有するものである。即ち、スルホニル基(−SO2−)を複数含む分子構造を有するものである。該ポリスルホン樹脂としては、分子中に複数のエーテル結合(−O−)を更に有するポリエーテルスルホン樹脂、又は、分子中に複数の芳香族炭化水素を更に有するポリフェニルスルホン樹脂などが挙げられる。また、該ポリスルホン樹脂としては、分子中に複数のエーテル結合と複数の芳香族炭化水素とを更に有するポリエーテルポリフェニルスルホン樹脂が挙げられる。
【0053】
ポリスルホン樹脂としては、絶縁シート1を変形させて立体的に加工するときの樹脂層2の成形性が良好なものになるという点で、ポリエーテルスルホン樹脂、又は、ポリフェニルスルホン樹脂を用いることが好ましく、ポリエーテルポリフェニルスルホン樹脂を用いることがより好ましい。
【0054】
ポリエーテルポリフェニルスルホン樹脂としては、下記式(3)の分子構造を有するものが好ましい。式(3)中のnは、重合度を表す正の整数であり、通常、10〜5000の範囲内である。
【0055】
【化1】

【0056】
ポリエーテルポリフェニルスルホン樹脂としては、市販されているものを用いることができ、例えば、BASF社製の「ウルトラゾーンEシリーズ」、ソルベイ社製の「レーデルAシリーズ」、住友化学社製の「スミカエクセルシリーズ」等を用いることができる。
【0057】
樹脂層2においては、ポリスルホン樹脂の含有割合が20重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましい。また、ポリスルホン樹脂の含有割合が90重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。
ポリスルホン樹脂の含有割合が20重量%以上であることにより、樹脂層2の耐熱性がより優れたものになる。また、ポリスルホン樹脂の含有割合が90重量%以下であることにより、樹脂層2が保護層3とより密着し得ることから、樹脂層2と保護層3との間の層間剥離がより抑制される。
【0058】
また、硫黄(S)を構成元素として有する熱可塑性樹脂としては、硫黄(S)含有極性官能基を有し、常温(20℃)にてゴム弾性を示す熱可塑性エラストマー樹脂が挙げられる。硫黄(S)含有極性官能基としては、−SH,−SO3H,−SO2H,−SOH,
>C=S,−CH=S,−CSOR等が挙げられる。なお、上記官能基におけるR,R’は、水素原子,アルキル基,アリール基等を示す。また、熱可塑性エラストマー樹脂としては、具体的には、例えば、ポリウレタン系,ニトリル系、又は、ポリアミド系の各熱可塑性エラストマー樹脂などが挙げられる。
【0059】
また、樹脂層2は、上述したように、窒素、又は、硫黄の少なくとも一方を分子の構成元素として有する熱可塑性樹脂に加えて他の熱可塑性樹脂を用いて形成することもできる。他の熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、分子中に複数のオキシメチレン(−CH2O−)基を有するポリアセタール(POM)樹脂;ビスフェノール類とエピクロルヒドリンとが反応してなる熱可塑性のポリヒドロキシポリエーテルフェノキシ樹脂;分子中で芳香族炭化水素−エーテル結合の基本構造が繰り返されてなるポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂などのポリフェニレンオキシド(PPO)樹脂;分子中で芳香族炭化水素−エーテル結合−芳香族炭化水素−ケトン結合の基本構造が繰り返されてなる芳香族ポリエーテルケトン(PEK)樹脂;分子中で芳香族炭化水素−エーテル結合−芳香族炭化水素−エーテル結合−芳香族炭化水素−ケトン結合の基本構造が繰り返されてなる芳香族ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂;ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリシクロオレフィンなどのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂,ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂,ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などのポリエステル樹脂;ポリカーボネート(PC)樹脂;液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。
【0060】
更に、他の熱可塑性樹脂としては、常温(20℃)にてゴム弾性を示す熱可塑性エラストマー樹脂が挙げられる。熱可塑性エラストマー樹脂を用いることで、絶縁シート1の曲げ弾性率が更に小さくなり、絶縁シート1を折り曲げ易くすることができる。該熱可塑性エラストマー樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系,ポリエステル系の各熱可塑性エラストマー樹脂などが挙げられ、例えば、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー,スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマー、又は、スチレン・イソプレンブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0061】
また、該熱可塑性エラストマー樹脂としては、−COOH(カルボキシル基),カルボキシル基の酸無水物基,−OH,>C=O,−CH=O,−COOR(Rは、水素原子,アルキル基,アリール基等を示す),エポキシ基、又は、ハロゲン基などの極性官能基を分子中に有するものなどが挙げられる。極性官能基としては、カルボキシル基,カルボキシル基の酸無水物基,ヒドロキシ基(−OH)などが好ましく、カルボキシル基の酸無水物基がより好ましく、マレイン酸の酸無水物(無水マレイン酸基)が特に好ましい。極性官能基を分子中に有することで、樹脂層2を形成する際に、他の構成成分と混ざり易くすることができる。特に、熱可塑性エラストマー樹脂としては、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。該無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、エチレン−プロピレン無水マレイン酸変性共重合体を用いることが好ましい。
【0062】
樹脂層2(即ち、樹脂層用シート)においては、熱可塑性エラストマー樹脂の含有割合が0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましい。また、熱可塑性エラストマー樹脂の含有割合が5.0重量%以下であることが好ましく、4.0重量%以下であることがより好ましい。
前記熱可塑性エラストマー樹脂の含有割合が0.1重量%以上であることにより、絶縁シート1の曲げ弾性率が更に小さくなるため、絶縁シート1を曲げ易くすることができ、また、絶縁シート1の引張弾性率がより小さくなるため、絶縁シート1を変形させて立体的に加工するときの成形性がより良好なものになる。また、熱可塑性エラストマー樹脂の含有割合が5.0重量%以下であることにより、樹脂層2の耐熱性がより優れたものになる。
【0063】
樹脂層2の厚みとしては、特に限定されるものではなく、1μm〜500μmであることが好ましい。
【0064】
樹脂層2(即ち、樹脂層用シート)には、本発明の効果を損ねない範囲において、種々の添加剤が配合されても良い。該添加剤としては、例えば、粘着付与剤,臭素系難燃剤,塩素系難燃剤,リン系難燃剤,酸化物系難燃剤,水和金属化合物,酸化防止剤,無機繊維,熱安定剤,光安定剤,紫外線吸収剤,滑剤,顔料,架橋剤,架橋助剤,シランカップリング剤,チタネートカップリング剤などの一般的なプラスチック用配合成分などが挙げられる。また、芳香族ポリアミド繊維,数nm〜数百nmの粒径のモンモリロナイトなどが挙げられる。これら添加剤は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば、0.1〜5重量部用いることができる。
【0065】
粘着付与剤としては、アルキルフェノール樹脂,アルキルフェノール−アセチレン樹脂,キシレン樹脂,クマロン−インデン樹脂,テルペン樹脂,ロジンなどが挙げられる。臭素系難燃剤としては、ポリブロモジフェニルオキサイド,テトラブロモビスフェノールAなどが挙げられる。塩素系難燃剤としては、塩素化パラフィン,パークロロシクロデカンなどが挙げられる。リン系難燃剤としては、リン酸エステル,含ハロゲンリン酸エステルなどが挙げられる。酸化物系難燃剤としては、ホウ素系難燃剤,三酸化アンチモンなどが挙げられる。水和金属化合物としては、水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウムなどが挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系,リン系,硫黄系のものが挙げられる。無機繊維としては、シリカ,クレー,炭酸カルシウム,炭酸バリウム,炭酸ストロンチウム,酸化アルミニウム,酸化マグネシウム,窒化硼素,窒化珪素,窒化アルミニウムといった無機フィラー,ガラス繊維などが挙げられる。
【0066】
保護層3は、樹脂層2を保護するものである。絶縁シート1においては、樹脂層2の両面に保護層3,3が積層されているため、絶縁シート1が曲げ加工等により立体的に変形されるときに、樹脂層2の表面が曲げ加工等を行う設備との接触によって損傷してしまうのを抑制することができる。また、絶縁シート1を変形させた状態で、例えば、モーターコイルへ組み込む際に、コイル線やステータコアと接触して樹脂層2が損傷するのを抑制することができる。保護層3は、シート状に形成された保護層用シートを用いて形成される。また、保護層3の厚みとしては、特に限定されるものではなく、10〜100μmであることが好ましい。
【0067】
保護層3としては、例えば、不織布、紙、又は、フィルム等からなる保護層用シートを用いることができ、絶縁シート1の電気絶縁性がより優れたものになるという点で、不織布、又は、紙を用いることが好ましい。
【0068】
また、保護層3としては、湿式抄紙法により作製されたもの、大気中で乾式法により作製されたものなどを用いることができ、絶縁シート1の電気絶縁性がより優れたものになるという点で、湿式抄紙法により作製された紙を用いることが好ましい。
【0069】
保護層3の材質としては、ポリアミド,ポリエステルなどの合成高分子化合物,セルロースなどの天然高分子化合物等を用いることができ、電気絶縁性に優れ、しかもを曲げ加工等の変形を加えた際の保護層3と樹脂層2との間の層間剥離がより抑制されるという点で、ポリアミドを用いることが好ましい。
【0070】
ポリアミドとしては、構成モノマーの全てが芳香族炭化水素を有する全芳香族ポリアミド,構成モノマーの全てが脂肪族炭化水素のみを有する脂肪族ポリアミド,構成モノマーの一部が芳香族炭化水素を有する半芳香族ポリアミドなどを用いることができ、電気絶縁性に優れ、しかも絶縁シート1に変形を加えたときの保護層3と樹脂層2との間の層間剥離が更に抑制されるという点で、全芳香族ポリアミドを用いることが好ましい。即ち、保護層3は、全芳香族ポリアミドを含んでいることが好ましい。
【0071】
また、保護層3としては、絶縁シート1の電気絶縁性がより優れたものになるという点で、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙を用いることが更に好ましい。即ち、全芳香族ポリアミド繊維を用いて湿式抄紙法により作製された全芳香族ポリアミド紙を用いることが更に好ましい。
【0072】
全芳香族ポリアミド紙としては、例えば、アミド基以外がベンゼン環で構成されたフェニレンジアミンとフタル酸との縮合重合物(全芳香族ポリアミド)を繊維化し、繊維化した全芳香族ポリアミド繊維を主たる構成材として形成されたものを用いることができる。
前記全芳香族ポリアミド紙は、力学的特性に優れ、絶縁シート1に変形を加えて電気絶縁用立体形状物を形成する際の製造工程におけるハンドリングを良好にすることができる。全芳香族ポリアミド紙は、坪量が5g/m2以上であることが好ましい。坪量が5g/m2以上であることにより、力学的強度の不足が抑制され電気絶縁用立体形状物の製造中に破断が生じるのを抑制することができる。
【0073】
なお、全芳香族ポリアミド紙には、本発明の効果を損なわない範囲において他の成分を加えることができる。他の成分としては、有機繊維,無機繊維、又は、ガラス繊維等を用いることができる。有機繊維としては、ポリフェニレンスルフィド繊維,ポリエーテルエーテルケトン繊維,ポリエステル繊維,アリレート繊維,液晶ポリエステル繊維,ポリエチレンナフタレート繊維などが挙げられる。無機繊維としては、ロックウール,アスベスト,ボロン繊維,アルミナ繊維などが挙げられる。
前記全芳香族ポリアミド紙としては、例えば、デュポン社より商品名「ノーメックス」で市販されているもの等を用いることができる。
【0074】
保護層3の樹脂層2側には、コロナ処理が施されていることが好ましい。該コロナ処理が施されていることにより、保護層3と樹脂層2との間における層間剥離をより抑制することができる。コロナ処理は、樹脂層2と接する保護層3の一方の面に放電処理を行い、極性を持つカルボキシル基や水酸基を生成させ、粗面化する処理である。コロナ処理においては、従来公知の一般的な方法を採用することができる。
【0075】
絶縁シート1は、樹脂層2の両面に接するように保護層3が配され、しかも樹脂層2及び保護層3の各凝集破壊力よりも、樹脂層2と前記保護層3との間の層間接着力が大きくなるように構成されていることが好ましい。斯かる構成により、樹脂層2と保護層3との間における層間剥離が抑制される。
【0076】
絶縁シート1は、分子架橋により硬化した樹脂を含む層を備えていないことが好ましい。即ち、3次元架橋により硬化した樹脂を含む層を備えていないことが好ましい。斯かる層を備えていないことにより、絶縁シート1に生じた応力がより緩和させ易くなり、折り曲げ等の変形を加えたきの形状に維持し易くすることができる。
【0077】
次に、絶縁シート1の製造方法について説明する。
【0078】
具体的には、上述した熱可塑性樹脂等からなる樹脂材料を所定温度に加熱しながら撹拌し、従来公知の一般的な方法によってシート状に成形して樹脂層用シートを作製する。より詳しくは、ニーダー,加圧ニーダー,混練ロール,バンバリーミキサー,二軸押し出し機などの一般的な混合手段により加熱しながら撹拌したものを、T−ダイを取り付けた押出機によってシート状に押し出すこと等によって、樹脂層用シートを作製する。
【0079】
又は、固形の樹脂材料を加熱溶融させながらキャストする方法や、樹脂材料を適当な溶剤に溶解し、斯かる樹脂溶液を基材上に塗布した後、溶剤を乾燥除去する方法によって樹脂層用シートを形成してもよい。
【0080】
また、例えば、市販されているシート状の紙や不織布を用いて保護層用シートを形成することができる。
【0081】
そして、2枚の保護層用シートの間に樹脂層用シートを挟み込み、例えば、所定温度で加熱しつつ押圧すること(熱ラミネート)で絶縁シート1を作製することができる。
【0082】
上述のようにして作製された絶縁シート1は、電気絶縁性を有する点を利用して、例えば、自動車などにおけるモーター用の電気絶縁用部材、変圧器(トランス),バスバー,コンデンサー、又は、電源ケーブル用の電気絶縁用部材、IGBTモジュール端子の電気絶縁用部材などに使用することができる。
【0083】
以上のように、本発明に係る絶縁シートによれば、外力を加えて所望する形状に変形させた後、外力を取り除いた際にも所望する変形状態を容易に維持することができる。
【0084】
即ち、前記絶縁シート1は、23℃で5%伸長して10分間保持した際の応力緩和率が35%以上であることで、折り曲げ等の変形を加えた際に生じる応力を効果的に緩和させることができる。これにより、絶縁シート1に外力を加えて所望する形状に変形させた後、外力を取り除いた際にも、変形前の状態に戻ろうとする応力が緩和されている(小さくなっている)ため、変形した領域の形状を所望する形状に維持することができる。つまり、外力を加え続けることなく絶縁シート1の変形状態を維持することができる。
【0085】
このため、絶縁シート1を取り付ける対象物の形状に対応するように絶縁シート1を変形させた後、変形状態の絶縁シート1を対象物に取り付けることができるため、治具等で絶縁シート1の変形状態を保持したり、取り付け対象物の形状に絶縁シート1を沿わせつつ取り付けたりする作業が不要となる。これにより、絶縁シート1の取り付け作業の作業性を向上させることができる。
【0086】
また、樹脂材料が延伸処理されることなくシート状に形成された樹脂層用シートを用いて樹脂層2が形成されることで、樹脂材料が延伸処理されてなる樹脂層用シートを用いて樹脂層2が形成される場合よりも、変形状態において絶縁シート1に生じる応力を緩和させ易くすることができる。
【0087】
具体的には、樹脂材料が延伸処理されてなる樹脂層用シートを用いて樹脂層2が形成される場合には、樹脂層2を構成する分子が一定方向に配列し、延伸処理されていない場合よりも配向性が高くなる。このため、延伸処理されてなる樹脂層2を備える絶縁シート1を変形させた際には、樹脂層2を構成する分子の配向性を維持するような応力が樹脂層に生じることとなる。これにより、絶縁シート1を変形させた際に樹脂層2に生じる応力が緩和され難くなるため絶縁シート1に生じる応力が緩和され難くなる。
【0088】
これに対し、樹脂材料が延伸処理されずにシート状に形成されてなる樹脂層用シートを用いて樹脂層2が形成された場合には、樹脂層2を構成する分子の配向性は、延伸処理された場合よりも低いものとなる。このため、配向性を維持しようとする応力が樹脂層2に生じ難くなり、絶縁シート1を変形させた際に樹脂層2に生じる応力を緩和させ易くすることができる。これにより、変形状態において絶縁シート1に生じる応力が緩和され易くなり、絶縁シート1の変形状態を維持し易くすることができる。
【0089】
また、樹脂層2を構成する熱可塑性樹脂の分子の構成元素として、窒素、又は、硫黄の少なくとも一方を有することで、樹脂層2を構成する分子が窒素原子、又は、硫黄原子の位置で変形(屈曲)し易くなる。これにより、絶縁シート1を変形させた際に樹脂層2に応力が生じるのを緩和させ易くすることができる。このため、変形状態において絶縁シート1に生じる応力が緩和され易くなり、絶縁シート1の変形状態を維持し易くすることができる。
【0090】
なお、本発明に係る電気絶縁性シートは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、更に、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0091】
例えば、上記実施形態では、樹脂層2の両面に保護層3,3が積層されているが、これに限定されるものではなく、樹脂層2の一方の面に保護層3が積層された絶縁シートであってもよい。又は、樹脂層2のみから絶縁シートが形成されてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、樹脂層2に保護層3が積層されて押圧されている(熱ラミネートされている)が、これに限定されるものではなく、樹脂層2と保護層3とが接着剤を介して接着されて絶縁シートが形成されてもよい。
【0093】
また、絶縁シート1の表面(即ち、保護層3の樹脂層2に対峙しない面)を微細に荒らすことで、絶縁シート1の表面の滑り性を向上させてもよい。
【実施例】
【0094】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
<実施例1>
1.樹脂層用シートの作製
(1)使用材料
・ポリアミド(PA)樹脂(構成モノマー:ヘキサメチレンジアミン,2−メチルペンタメチレンジアミン,テレフタル酸)(デュポン社製、商品名:「ザイテルHTN501」)
・熱可塑性のポリヒドロキシポリエーテルフェノキシ樹脂(ビスフェノール類とエピクロルヒドリンとが反応したもの、重量平均分子量:52000)(東都化成社製、商品名:「フェノトートYP−50S」)
(2)シートの作製
「ザイテルHTN501」(PA樹脂)と「フェノトートYP−50S」(ポリヒドロキシポリエーテルフェノキシ樹脂)との重量比が60:40となるように配合し、2軸混練機(テクノベル社製)を用いて310℃で混合して樹脂混合物を調製した。
続いて、樹脂混合物を310℃で押出成形し、厚み70μmの樹脂層用シートを作製した。
【0096】
2.保護層用シートの作製
2枚の全芳香族ポリアミド紙(デュポン社製、商品名:「ノーメックスT410」、厚み:50μm)を用いて保護層用シートとした。
保護層用シートにおける樹脂層用シートと接する面(絶縁シートが形成された際の樹脂層と接する面)には、コロナ処理を施した。コロナ処理は、PILLAR TECHNOLOGIES社製「500シリーズ」を用い、大気圧下、出力500W、処理速度4m/分、試料幅0.4mの条件で行った。
【0097】
3.絶縁シートの作製
得られた2枚の保護層用シートの間に樹脂層用シートを配置し、2枚の金属板で挟み込んで、350℃に加熱した熱プレス機を用いて、圧力200N/cm2で60秒間プレスした。これにより、樹脂層の両面側に2枚の保護層を備えた170μm厚の絶縁シートを作製した。
【0098】
<実施例2>
1.樹脂層用シートの作製
(1)使用材料
・ポリスルホン樹脂:ポリエーテルポリフェニルスルホン樹脂(PES)樹脂(分子中にスルホニル基,エーテル結合、及び、芳香族炭化水素を複数有する)(ソルベイ社製、商品名:「レーデルA−300A」)
・5重量%濃度の無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーと、95重量%濃度のポリアミド(PA)樹脂との混合物(クラレ社製、商品名「ジェネスタN1001A」)(無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー;エチレン−プロピレン無水マレイン酸変性共重合体(EPMA))(PA樹脂;分子中にテレフタル酸単位及びノナンジアミン単位を有するPA9T)
(2)シートの作製
PES樹脂とPA樹脂とEPMAとの重量比が80:19:1となるように配合し、2軸混練機(テクノベル社製)を用いて310℃で混合して樹脂混合物を調製した。
続いて、樹脂混合物を310℃で押出成形し、厚み100μmの樹脂層用シートを作製した。
【0099】
2.保護層用シートの作製
2枚の全芳香族ポリアミド紙(デュポン社製、商品名:「ノーメックスT410」、厚み:50μm)を用いて保護層用シートとした。
保護層用シートにおける樹脂層用シートと接する面(絶縁シートが形成された際の樹脂層と接する面)には、コロナ処理を施した。コロナ処理は、PILLAR TECHNOLOGIES社製「500シリーズ」を用い、大気圧下、出力500W、処理速度4m/分、試料幅0.4mの条件で行った。
【0100】
3.絶縁シートの作製
得られた2枚の保護層用シートの間に樹脂層用シートを配置し、2枚の金属板で挟み込んで、350℃に加熱した熱プレス機を用いて、圧力200N/cm2で60秒間プレスした。これにより、樹脂層の両面側に2枚の保護層を備えた200μm厚の絶縁シートを作製した。
【0101】
<実施例3>
1.樹脂層用シートの作製
厚みを100μmとしたこと以外は、実施例1と同一の材料及び方法を用いて樹脂層用シートを作製した。
2.保護層用シートの作製
実施例1と同一の保護層用シート(厚み:50μm)を用いた。
3.絶縁シートの作製
樹脂層用シートの両面に、乾燥後の厚みが30μmとなるように接着剤(日東シンコー社製、ポリウレタン系架橋型接着剤)を塗工し、120℃で3分間乾燥させた。そして、保護層用シートを樹脂層用シートの両面に積層し、90℃、0.2MPaの圧力で加圧した。その後、130℃で24時間経過させることで接着剤を硬化させ、絶縁シート(厚み:260μm)を作製した。
【0102】
<比較例1>
厚みが50μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製、商品名:「ルミラーS10」)を樹脂層用シートとして用いたこと以外は、実施例3と同一の材料及び方法を用いて絶縁シート(厚み:210μm)を作製した。
【0103】
<比較例2>
厚みが50μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(帝人デュポンフィルム社製、商品名:「テオネックスQ51」)を樹脂層用シートとして用いたこと以外は、実施例3と同一の材料及び方法を用いて絶縁シート(厚み:210μm)を作製した。
【0104】
<比較例3>
厚みが50μmのポリイミド(PI)フィルム(東レデュポン社製、商品名:「カプトン200H」)を樹脂層用シートとして用いたこと以外は、実施例3と同一の材料及び方法を用いて絶縁シート(厚み:210μm)を作製した。なお、ポリイミド(PI)フィルムは、熱硬化性樹脂からなり、シート状に形成される際(架橋時)に、分子が配向するものである。
【0105】
<応力緩和率>
1.試験片の作製
各実施例及び各比較例の絶縁シートを作製時の押出方向(MD方向)に15mmとなるように切断し、15mm×200mmの試験片を作製した。
2.応力緩和率の算出
JIS K 7161に基づいて、下記の条件で引っ張り試験を行い、下記式(4)を用いて応力緩和率を算出した。具体的には、23℃、引張速度200mm/分、標線100mmの引っ張り条件で、歪みが5%となるように試験片を伸長させ、その際の荷重(初期応力)を測定した。また、その状態で更に10分間保持し、その際の荷重(緩和後応力)を測定した。
そして、下記式(4)より応力緩和率を算出した。各絶縁シートの応力緩和率については、下記表1に示す。

応力緩和率(%)=(初期応力−緩和後応力)/初期応力×100・・・(4)
【0106】
<形状維持性>
各実施例及び各比較例の絶縁シートを20mm×100mmのサイズに切断し、試験片とした。
試験片のMD方向中央部を試験片の厚み方向に沿って4MPaで1秒間加圧し、試験片をMD方向と直行する方向に沿って180°折り曲げた。
その後、10分間放置した後、マイクロスコープVHX−100(キーエンス社製)を用いて倍率25倍で、試験片の側方(厚み方向及びMD方向に直行する方向)から試験片の開き角度(°)を測定した。各絶縁シートの開き角度については、下記表1に示す。
【0107】
<取り付け性の評価>
図1(b)に示すように、試験片を側方から見た際にコ字状となるように、試験片を折り曲げて立体形状物10を作製した。該立体形状物10の辺a及びbの寸法としては、a=30mm、b=5mmとした。
そして、30mm×5mmの矩形状の開口を有する挿入孔を備えた金属製の筒Xに折り曲げた試験片を手で挿入し、挿入し易さを評価した。なお、容易に挿入できたものは「○」、挿入時にコ字状の形状を手で保持する必要があったものには「×」として評価した。各絶縁シートの評価結果については、下記表1に示す。
【0108】
<絶縁破壊電圧(BDV)>
JIS K 691lに基づいて、昇圧速度1kV/秒で絶縁破壊電圧(BDV)を測定した。各絶縁シートの絶縁破壊電圧については、下記表1に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
<まとめ>
各実施例と各比較例とを比較すると、各実施例の方が比較例の方が開き角度が小さく、取り付け性が良好であることが認められる。つまり、応力緩和率が35%以上であることで、絶縁シートを折り曲げた際に生じる応力が効果的に緩和されるため、折り曲げた状態の形状を良好に維持することができると認められる。このため、取り付け対象物への取り付けを容易に行うことができると認められる。
【0111】
また、実施例3のように、樹脂層と保護層とを接着剤で接着した場合であっても、応力緩和率が35%以上であることで、折り曲げた状態の形状を良好に維持することができ、取り付け対象物への取り付けを容易に行うことができると認められる。
【0112】
また、実施例3と比較例1〜3とを比較すると、実施例3の方が開き角度が小さく、取り付け性が良好であることが認められる。つまり、応力緩和率が35%以上であることで、折り曲げた状態の形状を良好に維持することができるため、絶縁シートの厚みを厚くすることができる。
【符号の説明】
【0113】
1…電気絶縁性シート、2…樹脂層、3…保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性を有するシート材から構成された電気絶縁性シートであって、
23℃で5%伸長して10分間保持した際の応力緩和率が35%以上であることを特徴とする電気絶縁性シート。
【請求項2】
前記シート材は、樹脂材料からなる樹脂層を備え、該樹脂層は、樹脂材料が延伸処理されることなくシート状に形成された樹脂層用シートを用いて形成されることを特徴とする請求項1に記載の電気絶縁性シート。
【請求項3】
前記樹脂層は、熱可塑性樹脂を用いて形成され、該熱可塑性樹脂を構成する分子の構成元素として、窒素、又は、硫黄の少なくとも一方を有することを特徴とする請求項2に記載の電気絶縁性シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂、又は、ポリスルホン樹脂の少なくとも一方であることを特徴とする請求項3に記載の電気絶縁性シート。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂は、芳香族炭化水素を分子中に有する芳香族ポリアミドであることを特徴とする請求項4に記載の電気絶縁性シート。
【請求項6】
前記ポリスルホン樹脂は、複数のエーテル結合を分子中に有するポリエーテルスルホン樹脂であることを特徴とする請求項4又は5に記載の電気絶縁性シート。
【請求項7】
前記ポリスルホン樹脂は、複数の芳香族炭化水素を分子中に有するポリフェニルスルホン樹脂であることを特徴とする請求項4乃至6の何れか一項に記載の電気絶縁性シート。
【請求項8】
前記樹脂層は、熱可塑性エラストマー樹脂を更に含有することを特徴とする請求項2乃至7の何れか一項に記載の電気絶縁性シート。
【請求項9】
前記熱可塑性エラストマー樹脂は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項8に記載の電気絶縁性シート。
【請求項10】
前記シート材は、樹脂層の少なくとも一方の面側に積層された保護層を備え、該保護層は、全芳香族ポリアミドを含有することを特徴とする請求項2乃至9の何れか一項に記載の電気絶縁性シート。
【請求項11】
前記保護層は、湿式抄紙法を用いて形成された紙材料からなる保護層用シートを用いて形成されることを特徴とする請求項10に記載の電気絶縁性シート。
【請求項12】
前記保護層は、全芳香族ポリアミド繊維を含有する全芳香族ポリアミド紙から構成されていることを特徴とする請求項10又は11に記載の電気絶縁性シート。
【請求項13】
前記保護層は、不織布から構成されていることを特徴とする請求項10乃至12の何れか一項に記載の電気絶縁性シート。
【請求項14】
前記保護層は、少なくとも樹脂層側の表面にコロナ処理が施されていることを特徴とする請求項10乃至13の何れか一項に記載の電気絶縁性シート。
【請求項15】
モーターコイルの電気絶縁材として用いられることを特徴とする請求項1乃至14の何れか一項に記載の電気絶縁性シート。

【図1】
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【公開番号】特開2013−53269(P2013−53269A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193963(P2011−193963)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】