電気絶縁膜の形成方法及び貫通ビアの金属化への適用
【課題】電気絶縁膜の形成方法及び貫通ビアの金属化への適用。
【解決手段】本発明は主に、シリコン基板などの電気導体基板又は半導体基板の表面に電気絶縁膜を形成する方法に関する。本発明によれば、上記方法は、a)上記表面を溶液と接触させる工程と、b)少なくとも60ナノメートル、好ましくは80〜500ナノメートルの厚さの膜が形成されるのに充分な時間、上記表面を定電圧パルスモード又は定電流パルスモードで分極する工程とを含み、上記溶液は、プロトン性溶媒と、少なくとも一種のジアゾニウム塩と、連鎖重合可能であって上記プロトン性溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーと、上記溶液のpH値を7未満、好ましくは2.5未満に調整して上記ジアゾニウム塩を安定化するのに十分な量の少なくとも一種の酸とを含有する。適用:貫通ビア、特に3D集積回路の貫通ビアの金属化。
【解決手段】本発明は主に、シリコン基板などの電気導体基板又は半導体基板の表面に電気絶縁膜を形成する方法に関する。本発明によれば、上記方法は、a)上記表面を溶液と接触させる工程と、b)少なくとも60ナノメートル、好ましくは80〜500ナノメートルの厚さの膜が形成されるのに充分な時間、上記表面を定電圧パルスモード又は定電流パルスモードで分極する工程とを含み、上記溶液は、プロトン性溶媒と、少なくとも一種のジアゾニウム塩と、連鎖重合可能であって上記プロトン性溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーと、上記溶液のpH値を7未満、好ましくは2.5未満に調整して上記ジアゾニウム塩を安定化するのに十分な量の少なくとも一種の酸とを含有する。適用:貫通ビア、特に3D集積回路の貫通ビアの金属化。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板、特に抵抗シリコン基板の表面に、銅拡散バリア層で被覆することのできる絶縁膜をプロトン性媒体中で形成する方法に関する。
【0002】
本発明は、マイクロエレクトロニクス分野におけるビア(シリコン貫通ビア、ウェハ貫通ビア、ウェハ貫通配線とも呼ばれる)の金属化(メタライゼーション)、特に銅による金属化に主に有用である。ビアは、電子チップ(又は電子ダイ)の3次元(3D)集積又は垂直集積の要となるものである。本発明はまた、ビア基板を電気的に絶縁し、銅層で被覆する必要がある他のエレクトロニクス分野においても有用である。これらの用途としては、プリント回路板(又はプリント配線板)における配線素子の形成、あるいは集積回路や微小電気機械システムにおける受動素子(インダクタ等)や電気機械素子の形成が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
現在の電子システムの多くは複数の集積回路すなわち部品で構成されており、それぞれの集積回路が1以上の機能を実現する。例えば、コンピュータは少なくとも一つのマイクロプロセッサと複数のメモリ回路とを有する。各集積回路は、通常、それ自体が封入されたパッケージ内の電子チップに相当する。各集積回路は、例えば、集積回路間を接続するプリント回路板(PCB)にはんだ付け又はプラグ接続される。
【0004】
電子システムの機能密度を高めるという不変の要求は、第一の手法として、システムの一連の機能を実現するのに必要なあらゆる部品や回路ブロックが、プリント回路板を用いることなく同一チップ上に形成されるというシステムオンチップの概念を産み出した。実際には、例えば論理回路と記憶回路とでは、その製造方法は大きく異なるため、高性能なシステムオンチップを得るのは非常に困難である。そのため、システムオンチップ法では、同一チップで実現される各種機能の性能については妥協せざるを得なくなる。また、経済的な実現可能性の点から見ると、このようなチップのサイズとその生産歩留りとは限界に達している。
【0005】
第二の手法としては、複数の集積回路が相互に配線されたモジュールを同一パッケージ内に製造することである。この場合、各集積回路は、同一の半導体基板上に形成されても、異なる基板上に形成されてもよい。従って、こうして得られたパッケージ、すなわち「マルチチップモジュール(MCM)」は、単一の部品となっている。この「MCM」法では、高配線密度を実現することができ、従って、従来の「PCB」法よりも良好な性能を実現できる。しかしながら、両方法に根本的な面での違いはない。パッケージの容積及び重量に加え、基板の接続部の長さ、及び、基板又はチップとパッケージのピンとを接続するワイヤボンディングに関する寄生要素により、「MCM」の性能は依然として制限される。
【0006】
第3の手法は、3次元(3D)集積又は垂直集積と呼ばれ、チップが積層され、垂直配線により相互に接続されることを特徴とする。従って、得られた積層体は、能動部品又はチップの層を複数有し、3次元の集積回路(3D IC)を構成する。
【0007】
3D集積の利点として以下のことが同時に挙げられる。
(1)高性能化:例えば、伝播時間及び消費電力の減少、機能ブロック間伝達の加速に伴うシステム動作速度の向上、各機能ブロックの通過帯域の拡大、ノイズ耐性の向上;
(2)コスト改善:例えば、集積密度の上昇、各機能ブロックに最適な電子チップ世代の使用による製造歩留まりの向上、信頼性の向上;
(3)異種技術の積層(コインテグレーション)、すなわち、異なる材料及び/又は異なる機能部品を用いた大規模集積システム実現の可能性。
【0008】
このように、性能、機能の多様性、製造コストといった点で、従来の手法は限界に達しており、3D集積は今や従来手法に代わる不可欠な手法である。例えば非特許文献1には、3D集積の原理や利点が記載されている。
【0009】
例えば接着剤で積層した後で、各チップはワイヤボンディングによって個別にパッケージのピンに接続することができる。チップを相互に接続するには、通常、貫通ビアを用いる。
【0010】
このように、3次元集積回路の製造に必要な基本技術としては、特に、シリコンウェハの薄化、層間の位置合わせ、各層の接着、各層における貫通ビアのエッチング及び金属化が挙げられる。
【0011】
シリコンウェハの薄化は、貫通ビアを形成する前に行ってもよい(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0012】
あるいは、シリコンウェハの薄化の前にビアのエッチング及び金属化を行ってもよい(例えば特許文献1、特許文献3参照)。この場合、非貫通ビア、すなわち「ブラインド・ビア」をシリコン内にエッチングしてから、所望の深さまで金属化した後に、シリコンウェハを薄化して、貫通ビアを形成する。
【0013】
銅は導電性が良好で、エレクトロマイグレーション現象への耐性が高い。すなわち、動作不良の主原因となりやすい電流密度の影響による銅原子の移動が抑えられる。そのため、特に貫通ビアを金属化する材料として選ばれやすい。
【0014】
一般に、3D集積回路の貫通ビアは、マイクロエレクトロニクス分野において集積回路を相互に接続するための素子を形成するのに採用される「ダマシン法」と同様な方法により、以下の工程を順次行うことで形成される。
・シリコンウェハ内に、又は、シリコンウェハを貫通して、ビアをエッチングする;
・絶縁誘電体層を堆積する;
・銅の移動又は拡散を防ぐためのバリア層、すなわち「ライナー」を堆積する;
・銅を電着してビアを埋める;
・化学機械研磨により余分な銅を取り除く。
【0015】
抵抗率の高い材料で構成されているため、バリア層は一般的に抵抗が非常に大きいため、直接的な電気化学的手段ではウェハスケールで均質又は均一に銅を堆積することができない。これは、抵抗降下という用語で当業者に知られている現象である。
【0016】
そのため、電着により銅を埋め込む前に、シード層と呼ばれる金属銅の薄膜でバリア層を被覆する必要がある。
【0017】
このシード層は、例えば、物理蒸着(PVD)法若しくは化学蒸着(CVD)法、又は、エレクトログラフティングと呼ばれる技術を用いた液状媒体内での堆積法など、様々な方法で形成することができる。
【0018】
絶縁誘電体層は
・無機層(例えば、酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素(Si3N4)、又は酸化アルミニウム)であってもよく、
・有機層(例えば、パリレンC、N若しくはD、ポリイミド、ベンゾシクロブテン、又は、ポリベンゾオキサゾール)であってもよい。
【0019】
有機層の場合も無機層の場合も、絶縁誘電体層は、公知の貫通ビア形成方法においては、一般に乾式堆積によって均一な絶縁層が形成される。
【0020】
従って、特許文献4は、絶縁性誘電体層、好ましくはパリレンで構成されたものを蒸着法にて形成することを推奨している。
【0021】
上記先行文献において具体的に推奨されている化学蒸着を利用した方法は、消耗品(前駆体)や、とりわけ実施するのに必要な装置が高額なことから、比較的費用がかかり、かつ、効率が悪い。
【0022】
上記先行文献において同様に想定されている物理蒸着を利用した方法では、高密度3D集積回路の貫通ビア表面のどんな箇所でも均一な厚さとなる被膜を得ることができない。一般的に、被膜のフォームファクタは非常に重要である。
【0023】
特許文献5には、その内部に無機(SiO2)の絶縁誘電体層が熱酸化又は化学蒸着によって形成された貫通ビアの形成方法が開示されている。
【0024】
この方法においても、特許文献4に記載の方法に関連して述べた問題と同様の問題が見られる。
【0025】
乾式堆積法に関連した問題を避ける1つの解決策として湿式堆積法が考えられる。
【0026】
3D集積回路の貫通ビア形成には直接関連しない先行技術の各種文献に、電気導体であっても半導体であってもよい基板の表面に有機膜を形成する方法が記載されており、そこではポリマーのエレクトログラフティングが利用されている。エレクトログラフティングは、被覆対象の表面にある電気活性モノマーが電気的に誘導され、開始段階に続き、連鎖成長反応による重合段階が行われるとの機序に基づいた湿式堆積技術である。
【0027】
一般に、エレクトログラフティングは、
・一方では、開始化合物とモノマーを含有する溶液の使用、及び
・他方では、被覆対象の基板表面にポリマー膜を形成するための電気化学的プロトコルを必要とする。
【0028】
このようにエレクトログラフティングによって有機膜を形成する方法は、例えば特許文献6に記載されている。この公知の方法は、
・一方では、少なくとも一種のジアゾニウム塩と連鎖重合性モノマーを含有するエレクトログラフティング溶液、及び
・他方では、サイクリックボルタンメトリーによる堆積のための電気化学的プロトコルを用いる。
【0029】
この先行文献において概して用いられている重合性モノマーはプロトン性媒体に不溶であり、そのため、そのエレクトログラフティング溶液は概して、特にジメチルホルムアミドなどの非プロトン性溶媒を含有するが、この溶媒の使用は環境面で問題がある。
【0030】
特許文献7にもエレクトログラフティングによって有機膜を形成する方法が記載されている。その方法におけるエレクトログラフティング溶液は、プロトン性溶媒と、そのプロトン性溶媒に可溶な少なくとも一種のラジカル重合開始剤を含有している。
【0031】
この先行文献において用いられる重合性モノマーはプロトン性媒体にあまり溶解しないため、少なくとも一種の界面活性剤をエレクトログラフティング溶液に添加して、重合性モノマーをミセルに溶解させることが推奨されている。
【0032】
しかしながら、界面活性剤の使用はエレクトログラフティング溶液中のモノマー濃度を非常に低くしてしまうため、工業的制約上、この方法を使用することはできない。
【0033】
加えて、使用された界面活性剤は被覆対象の表面に吸着され得るため、基板に形成された有機膜中に導入される可能性がある。その結果、形成された膜の絶縁性の低下につながる場合がある。
【0034】
更には、上述の特許文献6の場合のように、サイクリックボルタンメトリーを用いたエレクトログラフティングプロトコルでは、工業的需要に適った膜成長カイネティクスが得られないこともわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】米国特許第7,060,624号明細書
【特許文献2】米国特許第7,148,565号明細書
【特許文献3】米国特許第7,101,792号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/086337号
【特許文献5】米国特許第6,770,558号明細書
【特許文献6】国際公開第2007/099137号
【特許文献7】国際公開第2007/099218号
【非特許文献】
【0036】
【非特許文献1】A.W.Topol et al.,“Three−dimentional integrated circuits” IBM Journal Res.&Dev.,no.4/5 July/September 2006,50,p.491−506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
こういった状況を踏まえ、本発明は、電気導体基板又は半導体基板の表面にエレクトログラフティングで有機膜を形成する新規方法の提供という技術的課題を解決することを目的とする。上記方法は、
・貫通ビア、特に3D集積回路の貫通ビアの形成における電気絶縁膜の成膜に特に適しており、
・工業的制約に適った条件下、湿式で行うことができ、また、広範なフォームファクタに対して連続的でコンフォーマルな堆積が可能であり、基板への優れた接着性も提供できるものである。
【0038】
本発明は、また、銅拡散バリアである層をそれ自体に湿式で被覆できる絶縁膜の成膜を可能にすることにより、上述の技術的課題を解決することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
・一方では、プロトン性のエレクトログラフティング溶液、特に、溶媒に可溶なモノマー類から選択された被膜前駆体を含有する水溶液、及び
・他方では、工業的制約に適合した成長カイネティクスで、連続的で均一な被膜を形成できるパルスモードのエレクトログラフティングプロトコル
を用いることで、工業規模での利用に申し分ない程度に上述の技術的課題を解決できることが見出された。これが本発明の根幹を成すものである。
【0040】
従って、本発明の第一の態様は、シリコン基板などの電気導体基板又は半導体基板の表面に電気絶縁膜を形成する方法であって、
a)上記表面を溶液と接触させる工程と、
b)少なくとも80ナノメートル、好ましくは100〜500ナノメートルの厚さの膜が形成されるのに充分な時間、上記表面を定電圧パルスモード又は定電流パルスモードで分極させる工程とを含み、上記溶液は、
・プロトン性溶媒と、
・少なくとも一種のジアゾニウム塩と、
・連鎖重合可能であって上記プロトン性溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーと、
・上記溶液のpH値を7未満、好ましくは2.5未満に調整して上記ジアゾニウム塩を安定化するのに充分な量の少なくとも一種の酸と
を含有することを特徴とする方法に関する。
【0041】
上述の方法で用いられるプロトン性溶媒は、水、好ましくは脱イオン水又は蒸留水;ヒドロキシル化溶媒、特に炭素数1〜4のアルコール類;炭素数2から4のカルボン酸類、特に蟻酸及び酢酸、並びに、それらの混合物からなる群から選択されることが有利である。
【0042】
本発明においては、プロトン性溶媒が水で構成されるのが現時点では好ましい。
【0043】
概して、本発明の第一の態様に係る方法を行うのに、多くのジアゾニウム塩が使用可能であり、とりわけ国際公開第2007/099218号に記載されているジアゾニウム塩が挙げられる。
【0044】
従って、本発明の特徴によれば、ジアゾニウム塩は下記式(I):
R−N2+,A− (I)
(式中、
・Aは一価の陰イオンを表し、
・Rはアリール基を表す)で表される化合物から選択されるアリールジアゾニウム塩である。
【0045】
アリール基Rとしては、特に、非置換、一置換、又は、多置換である、芳香族又はヘテロ芳香族の炭素構造が挙げられる。該炭素構造は1以上の芳香環又はヘテロ芳香環からなり、各芳香環は3〜8個の原子を含み、ヘテロ原子はN、O、S、又は、Pのいずれかである。また、置換されている場合、置換基は、NO2、COH、ケトン類、CN、CO2H、NH2、エステル類、及び、ハロゲン類などの電子求引基から選択されることが好ましい。
【0046】
特に好ましい基Rは、ニトロフェニル基及びフェニル基である。
【0047】
上記式(I)で表される化合物のうち、特に、Aは、I−、Br−、Cl−といったハロゲン化物類、テトラフルオロボラン等のハロボラン類などの無機陰イオン、並びに、アルコラート類、カルボン酸塩類、過塩素酸塩類及び硫酸塩類などの有機陰イオンから選択されてもよい。
【0048】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記式(I)のジアゾニウム塩は、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウムクロライド、4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−フェニル酢酸ジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)−ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウム硫酸塩、9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アンスラセンジアゾニウムクロライド、4−ニトロフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレート、ナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アミノフェニルジアゾニウムクロライドから選択される。
【0049】
好ましくは、ジアゾニウム塩はフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート及び4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートから選択される。
【0050】
エレクトログラフティング溶液中のジアゾニウム塩の量は、概して、10−3〜10−1Mであり、好ましくは5×10−3〜3×10−2Mである。
【0051】
概して、上記エレクトログラフティング溶液は、連鎖重合可能であってプロトン性溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーを含有する。
【0052】
プロトン性溶媒に可溶なモノマーの選択が、本発明の極めて重要で独特な特徴のひとつである。
【0053】
「プロトン性溶媒に可溶」とは、ここでは、プロトン性溶媒への溶解度が0.5M以上のあらゆるモノマー又はその混合物を指すと解される。
【0054】
本発明において使用可能なモノマーを選ぶことは、当業者であれば何ら難しいことではない。
【0055】
これらのモノマーは、プロトン性溶媒に可溶であり、かつ、式(II):
【0056】
【化1】
(式中、R1〜R4は同一又は異なっていてもよく、ハロゲン原子又は水素原子等の一価の非金属原子、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基等の飽和若しくは不飽和化学基、−COOR5基(R5は水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表す)、ニトリル基、カルボニル基、アミン基、又は、アミド基を表す)を満たすビニルモノマー類から選択されることが有利である。
【0057】
水溶性のモノマーを用いるのが好ましい。好適なモノマーとしては、4−ビニルピリジンや2−ビニルピリジンなどのピリジン類を含むエチレン系モノマー;あるいは、カルボン酸類(アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及び、それらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩又はアミン塩など)、それらカルボン酸のアミド類(特にアクリルアミドやメタクリルアミド、及び、それらのN−置換誘導体)、それらのエステル類(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノ(エチル若しくはプロピル)又は(メタ)アクリル酸ジエチルアミノ(エチル若しくはプロピル)、及び、それらの塩など)、それらのカチオンエステルの四級化誘導体(例えば、アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドなど)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、ビニルスルホン酸、ビニルリン酸、ビニル乳酸、及び、それらの塩、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、酢酸ビニル、N−ビニルイミダゾリン、及び、それらの誘導体、N−ビニルイミダゾール、及び、ジアリルアンモニウム型の誘導体(ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムブロミド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライドなど)を含むエチレン系モノマーが挙げられる。
【0058】
エレクトログラフティング溶液の定量組成はさまざまである。
【0059】
概して、この溶液は、
・少なくとも0.3Mの重合性モノマーと
・少なくとも5×10−3Mのジアゾニウム塩とを含有し、
重合性モノマーのジアゾニウム塩に対するモル比は10〜300である。
【0060】
上述の通り、パルスモードのエレクトログラフティングプロトコルという特定のプロトコルの使用は、全く予想していなかったことだが、サイクリックボルタンメトリーのエレクトログラフティングプロトコルとは対照的に、工業的制約に適合した成長カイネティクスを示す連続的で均一な被膜の形成を可能とするという点で、本発明のもう1つの極めて重要で独特な特徴である。
【0061】
膜で被覆される表面の分極は通常パルスモードで行われ、その各サイクルは、
・合計時間Pが10ミリ秒〜2秒、好ましくは約0.6秒であり、
・基板の表面に電位差が生じる又は電流が印加される分極時間Tonが0.01〜1秒、好ましくは約0.36秒であり、
・ゼロ電位又はゼロ電流である休止時間が0.01〜1秒、好ましくは約0.24秒である。
【0062】
上記に説明した電気絶縁膜の形成方法は、貫通ビア、とりわけ3D集積回路の貫通ビアの形成において、銅の移動又は拡散を防ぐためのバリア層で被覆できるようになっている電気絶縁内層を構成するのに特に有用である。
【0063】
上述のバリア層自体は湿式堆積法によって形成され、好ましくはプロトン性の液体媒体中で形成されるが、この理由は容易に理解されよう。
【0064】
これに関連して、銅の移動又は拡散を防ぐためのバリア層は、ニッケル系金属膜又はコバルト系金属膜で構成されるのが有利であることが見出され、この点が本発明の特徴の一つである。
【0065】
従って、本発明の第二の態様は、電気導体基板又は半導体基板に被膜を形成する方法であって、上記被膜は電気絶縁膜である第一層と銅拡散バリアである第二層とからなり、
A.上記第一層を上述の方法で形成し、
B.上記第二層を、
a)上記の方法で得られた第一層の表面に、金属又は金属合金、とりわけニッケル又はコバルト、の粒子、特にナノ粒子を含有する有機膜を湿式工程により形成し、
b)この形成された膜を、少なくとも一種の金属塩、好ましくは上記有機膜に含有される金属と同じ性質の金属塩と、少なくとも一種の還元剤とを含有する溶液に、少なくとも100nmの厚さの金属膜を形成できる条件下で接触させる
ことにより形成することを特徴とする方法に関する。
【0066】
本発明の第一の実施形態によれば、上記工程B.a)は、
・少なくとも一種の溶媒、好ましくはプロトン性溶媒と、
・少なくとも一種のジアゾニウム塩と、
・連鎖重合可能であって上記溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーと、
・上記ジアゾニウム塩からフリーラジカルを形成できる少なくとも一種の化学的開始剤と
を含有する溶液に、上記内層の自由表面を接触させることで行われる。
【0067】
上記工程B.a)で使用するプロトン性溶媒とジアゾニウム塩は、工程A.で用いられる対応の化合物と同じ性質のものであってもよい。
【0068】
とはいえ、工程B.a)の実施においては、ジメチルホルムアミド、アセトン又はジメチルスルホキシドなどの非プロトン性溶媒の使用も考えられる。
【0069】
フリーラジカル法で連鎖重合可能なモノマーの性質は様々である。
【0070】
特に国際公開第2007/099218号に記載されているモノマー類から選択してもよい。
【0071】
また、工程A.に関連して述べた水溶性モノマーを使用するのも好ましい。
【0072】
ジアゾニウム塩からフリーラジカルを形成するのに使用可能な化学的開始剤は、通常、溶液のpH値が4以上となるのに充分量の、微粉状の金属還元剤、又は、有機若しくは無機の塩基から選択される。
【0073】
本発明においては、化学的開始剤は例えば充填剤などの微粉状の鉄、亜鉛又はニッケルから選択される金属還元剤であることが好ましい。
【0074】
工程B.a)で使用する溶液の定量組成は様々である。
【0075】
概して、この溶液は
・少なくとも0.3Mの重合性モノマーと
・少なくとも5×10−2Mのジアゾニウム塩とを含有する。
【0076】
工程B.a)によって、環境面において非常に有益である非電気化学的条件下での有機膜の形成が可能になることが理解されるであろう。
【0077】
本発明によれば、このように得られた有機膜は、金属又は金属合金、とりわけニッケル又はコバルト、の粒子、特にナノ粒子を含有するように処理される。
【0078】
この処理のために、上記粒子を含有する懸濁液に上記膜を接触させる。
【0079】
当然ながら、工程B.a)での有機膜の形成のために使用するモノマーと粒子は、工程B.a)で得られる膜と該粒子が互いに結合するのに充分な物理化学的親和力を持ち、後続の金属化処理が可能となるような性質のものを選択する。
【0080】
通常、有機膜に含有される粒子は金属又は金属合金からなり、これらの金属は特に貴金属類、遷移金属類、及び、それらの合金類から選択することができる。これらの金属は、リンやホウ素などの元素又はそれらの混合物との合金にすることもできる。
【0081】
ニッケル又はコバルトとホウ素との合金の粒子が好適に使用される。
【0082】
これらの粒子はナノ粒子であることが好ましく、その平均サイズは、25ナノメートル未満であることが好ましく、10ナノメートル未満であることがより好ましい。
【0083】
粒子の取り込みは通常、該粒子のコロイド懸濁液を用いて行われる。
【0084】
ニッケルとホウ素との合金のナノ粒子の場合には、上記懸濁液は、臭化セチルトリメチルアンモニウムなどの界面活性剤型安定化剤(A.Roucoux et al,Adv.Synth.&Catal.,2003,345,p.222−229)の存在下、硫酸ニッケルなどの金属前駆体と水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤との反応によって、0価の金属粒子をコロイド形態で合成することで調製できる。
【0085】
工程B.a)で得られた有機膜中に存在する粒子によって、次に行われる金属被膜の形成を非電気化学的方法、いわゆる「無電解」法(R.C.Agarwala et al,Sadhana,parts 3&4 June/August 2003,28,p.475−493)で行うことが可能となる。
【0086】
そのために、金属粒子を含有する有機膜を、
・少なくとも一種の金属塩、好ましくは上記有機膜に含有される金属と同じ性質の金属塩と、
・安定化剤と、
・少なくとも一種の還元剤と
を含有する溶液に、少なくとも100ナノメートルの厚さの金属膜を形成できる条件下で接触させる。
【0087】
上記金属塩は、上述の金属の酢酸塩、アセチルアセトネート、ヘキサフルオロリン酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩又はテトラフルオロホウ酸塩からなる群から好適に選択される。
【0088】
上記還元剤は、次亜リン酸及びその塩、ボラン誘導体(NaBH4、DMAB)、グルコース、ホルムアルデヒド、及び、ヒドラジンからなる群から好適に選択される。
【0089】
上記安定化剤は、エチレンジアミン、アルカリ金属の酢酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、アミノ酢酸塩、リンゴ酸塩又はクエン酸塩からなる群から好適に選択される。
【0090】
本発明の第二の態様に係る形成方法の第二の実施形態によれば、工程A.a)で使用する連鎖重合可能なモノマーがビニルピリジン、好ましくは4−ビニルピリジンである場合、工程B.a)は、
・少なくとも一種の溶媒、好ましくはプロトン性溶媒と、
・上記溶媒に可溶であり、ポリビニルピリジンの官能基と水素結合又はファンデルワールス結合が可能な官能基を含む少なくとも一種のポリマーと
を含有する溶液に、ポリビニルピリジンからなる内層の自由表面を、上記水素結合又はファンデルワールス結合が形成されるのに充分な時間、接触させることで行われる。上記ポリマーは1以上の官能基を含むポリマー類から選択され、その1以上の官能基は、以下の官能基:水酸基、(一級若しくは二級)アミン、アンモニウム、カルボン酸、カルボン酸塩、(環状若しくは直鎖状)無水カルボン酸、C(=O)NHRで表されるアミド(式中、Rは水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基)、アミノ酸、ホスホン酸、ホスホン酸塩、リン酸、リン酸塩、スルホン酸、スルホン酸塩、硫酸、硫酸塩、スクシンアミド酸、スクシンアミド酸塩、フタルイミド、フタルイミド塩、及び、Si(OH)n(式中、nは1〜3の整数)から選択される。
【0091】
使用するプロトン性溶媒は水であることが好ましく、ポリマーは水溶性ポリマーであることが好ましい。
【0092】
本発明の現時点の好ましい実施形態によれば、工程A.a)で使用する連鎖重合可能なモノマーは4−ビニルピリジンであり、工程B.a)で使用する可溶なポリマーはポリアクリル酸である。
【0093】
上述した二層被膜(絶縁体/バリア層)の形成方法は、貫通ビア、とりわけ集積回路の貫通ビアの形成において、貫通ビアの金属化を可能にする銅シード層で被覆できるようになっている内部構造を構成するのに特に有用である。
【0094】
上記銅シード層自体は湿式堆積法によって、好ましくは液体媒体中で、形成されるのが有利である。
【0095】
従って、本発明の第三の態様は、電気導体基板又は半導体基板の被膜を形成する方法であって、上記被膜は上記工程A.で形成される電気絶縁膜である第一内層と、上記工程B.で形成される銅拡散バリアである第二中間層と、銅シード層である第三外層とからなり、上記第三外層を、
C.a)
・少なくとも一種の溶媒と、
・濃度14〜120mMの銅イオンと、
・エチレンジアミンとを含有する溶液であって、
・エチレンジアミンの銅に対するモル比が1.80〜2.03であり、
・この組成物のpH値が6.6〜7.5である溶液に、第二層の自由表面を接触させ、
b)上記第三層が形成されるのに充分な時間、第二層の上記自由表面を分極させることにより形成する方法に関する。
【0096】
当然ながら、工程C.を行うことで、ビアの金属化が可能になる。
【0097】
工程C.で使用する溶液によって、全く驚くべきことに、ビアの臨界域も含め、基板の被覆率が非常に高い(99%超)ものとなる銅シード層の形成が可能になることが分かった。この効果は、たとえフォームファクタが大きく(アスペクト比が3:1超、更には10〜15:1程度)、ビア容量が比較的大きい(0.8×101〜5×106μm3)構造の場合でも同様である。そのため、上記溶液は工業規模での使用に完全に適したものである。
【0098】
工程C.で使用する溶液の一例としては、銅イオンが16〜64mMの濃度で存在するものが好ましい。
【0099】
また、工程C.で使用する溶液の他の一例としては、銅イオンのエチレンジアミンに対するモル比が1.96〜2.00のものが好ましい。
【0100】
溶媒の性質は、(溶液の活性種が充分に可溶であり、電着を妨げるものでない限り)基本的には限定されないが、水であることが好ましい。
【0101】
工程C.で使用する溶液は概して、銅イオン源、特に第二銅イオンCu2+源を含有する。
【0102】
銅イオン源は、特に硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酢酸銅などの銅塩であることが有利であり、硫酸銅であることが好ましく、硫酸銅五水和物であることが更に好ましい。
【0103】
具体的な特徴によれば、工程C.で使用する溶液中の銅イオン濃度は、14〜120mM、好ましくは16〜64mMである。
【0104】
銅イオン源の濃度が16〜32mMの溶液を用いたとき、優れた結果が得られた。
【0105】
工程C.で使用する溶液中、銅イオンのエチレンジアミンに対するモル比は1.80〜2.03、好ましくは1.96〜2.00である。
【0106】
工程C.で使用する溶液のpH値は概して6.6〜7.5である。この値は、工程C.で使用する溶液が銅イオンとエチレンジアミンのみを上述の割合で含有する場合に通常得られる値である。
【0107】
工程C.で使用する溶液が銅イオン源とエチレンジアミン以外の成分を含有する場合、必要に応じて“Handbook of Chemistry and Physics−84th edition”,David R.Lide,CRC Pressに記載されているようなバッファーを用いて、工程C.で使用する溶液のpH値が上述の範囲となるよう調整してもよい。
【0108】
本発明によれば、工程C.で使用する溶液は、
・濃度16〜64mMの銅イオンと
・エチレンジアミンとからなり、
・エチレンジアミンの銅イオンに対するモル比が1.96〜2.00であり、
・該組成物のpHが6.6〜7.5である
水溶液であるのが現時点では好ましい。
【0109】
上述の溶液は従来の電着法で使用することができる。従来の電着法とは、基板の表面、特に貫通ビア構造の銅拡散バリア層などを上述したような溶液に接触させ、上記基板の表面を、被膜を形成するのに充分な時間分極させて、その間に該基板表面に被膜を形成する方法である。
【0110】
驚くべきことに、溶液を用いると、工程C.で行われる電着処理の際に、被覆対象の表面を溶液に接触させる条件を被膜形成前に調節することで当該分野の優れた結果が得られることが分かった。
【0111】
全く予想外のことであったが、電着工程の前に、電気分極させることなしに、つまり、対電極又は上記表面の参照電極に電流や電位を印加することなしに、被覆対象の表面を工程C.で使用する溶液に接触させることによって、電着により形成される銅被膜層とバリア層との間の接着性を向上できることが分かった。
【0112】
引き続き電着工程前に、基板の被覆対象の表面を、工程C.で使用する溶液に少なくとも1分間、例えば3分程度接触させ続ける(例えば、電着組成物に浸漬する)と、上記接着性が更に向上することが分かった。
【0113】
バリア層上のシード層の接着性が向上すると、「シード層/埋込層又は厚銅又は厚膜」全体の接着性、つまり、シード層形成が目的とするところのアセンブリの「製造工程時の」接着性も向上することが分かった。
【0114】
上記接着性は、例えば、アセンブリの上面に貼られた接着テープを、試験機又は引張装置等で「剥離」することで評価できる。こうして測定された接着性、すなわちJ/m2で表される界面エネルギーは、バリア上のシード層が有する接着性と、シード層上の厚銅層が有する接着性とが総合的に表されたものである。
【0115】
被膜形成後に、銅シード層で被覆された基板を取り出す工程は特に限定されない。
【0116】
例えば、被覆された表面を工程C.で使用する溶液から取り出した後に、好ましくは1〜10秒間、より好ましくは1〜5秒間にわたって電気分極させた状態に保った場合、電着による従来のビア埋め込み方法に適合した導電性を有するシード層が得られることが分かった。
【0117】
このように、工程C.で使用する溶液は、
・被覆対象の上記表面を電気分極させないで電着溶液に接触させ、好ましくはそのままの状態で少なくとも1分間保持する「非通電投入(cold entry)」と呼ばれる工程と、
・上記表面を被膜形成に充分な時間分極させる被膜形成工程と、
・上記表面を電気分極させた状態のまま、電着液から取り出す「通電取出し(hot exit)」と呼ばれる工程と
を含む電着法において好適に使用される。
【0118】
この方法では、所望の被膜を形成するために、充分な時間をかけて電着による被膜形成工程を行う。この時間は当業者であれば容易に設定でき、膜成長は、堆積時間内に回路に流れた電流の時間積分に等しい電荷と相関する(ファラデーの法則)。
【0119】
被膜形成工程が行われる間、定電流(galvanostatic)モード(印加電流固定)、定電圧(potentiostatic)モード((必要に応じ参照電極に対して)印加電位固定)、又は、パルス(電流又は電圧)モードのいずれかで、被覆対象の表面を分極させてもよい。
【0120】
通常は、パルスモードで、好ましくは矩形波電流を印加するようにして、分極させれば、非常に好適な被膜が得られることが分かった。
【0121】
この工程では、通常、単位表面積当たりの最大電流が0.6〜10mA/cm2、好ましくは1〜5mA/cm2であり、単位表面積当たりの最小電流が0〜5mA/cm2、好ましくは0mA/cm2である矩形波電流を印加できる。
【0122】
具体的には、最大電流での分極時間は、2×10−3〜1.6秒、好ましくは0.1〜0.8秒(例えば0.35秒程度)であってもよく、また、最小電流での分極時間は、2×10−3〜1.6秒、好ましくは0.1〜0.8秒(例えば0.25秒程度)であってもよい。
【0123】
この工程中で行うサイクル数は、被膜の所望の厚さによって決まる。
【0124】
上述した好適な条件下において堆積速度が約0.3nm/秒となることが示されたことから、当業者であれば、通常、実行サイクル数を容易に設定できよう。
【0125】
この方法で工程C.を行えば、「貫通ビア」型構造の高抵抗基板上に、50nm〜1μmの厚さの銅シード層を形成できるが、該基板のシート抵抗は、1000Ω/□、更には数メガΩ/□に達していてもよい。
【0126】
従って、本発明は、基板表面、特に「貫通ビア」構造の銅拡散バリア層の表面などを被覆する方法も包含し、上記方法は、上述のように工程C.で使用する溶液に上記表面を接触させる工程と、上記表面を、被膜が形成されるのに充分な時間分極させる工程とを含む。
【0127】
この被膜形成工程C.は、約50nm〜1μm、好ましくは200〜800nm(例えば約300nm)の厚さの銅シード層を、工程A.〜B.を行うことで得られるような銅拡散バリアの「貫通ビア」構造の表面に形成するのに特に有用である。
【0128】
上記に説明した方法を用いれば、新しい構造を持つ(特にシリコン製の)導体又は半導体材料のウェハが製造できる。
【0129】
従って、最後の態様によれば、本発明の主題は、
・1以上のビアを有する(特にシリコン製)導体又は半導体材料のウェハであって、各ビアの壁部は、ポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)からなる厚さ200〜400ナノメートルの内層で被覆され、これにより電気絶縁体が形成されており、その内層自体は、厚さ100〜300ナノメートルの(必要に応じてホウ素と合金化させた)ニッケル層で被覆され、これにより銅拡散バリアが形成されており、そのニッケル層自体は、厚さ200〜500ナノメートルの銅層で被覆され、これによりシード層が形成されていることを特徴とするウェハ;及び
・1以上のビアを有する(特にシリコン製)導体又は半導体材料のウェハであって、各ビアの壁部は、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)からなる厚さ200〜400ナノメートルの内層で被覆され、これにより電気絶縁体が形成されており、その内層自体は、厚さ100〜300ナノメートルの(必要に応じてホウ素と合金化された)ニッケル層で被覆され、これにより銅拡散バリアが形成されており、そのニッケル層自体は、厚さ200〜500ナノメートルの銅層で被覆され、これによりシード層が形成されていることを特徴とするウェハである。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明で採用できる、エレクトログラフティングのパルスプロトコルの模式図である。
【図2】実施例1で得られたNドープSi上のP4VP膜の赤外(ATR−IR)スペクトルである。
【図3】実施例1で得られたNドープSi上のP4VP膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2で得られたPドープSi上のP4VP膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例3で得られたPドープシリコンに形成されたビア(30×60μm)内のP4VP膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例4で得られたNドープシSi上のPHEMA膜の赤外(ATR−IR)スペクトルである。
【図7】実施例4で得られたNドープシSi上のPHEMA膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例6で得られたP+ドープシリコンに形成されたビア(75×200μm)内のPHEMA膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】PAA層と実施例7の第二工程で得られた金属ナノ粒子が堆積されたP4VP膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例7の第三工程で得られたNドープSi上のP4VP−PAA−NiB積層体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】PHEMA層と実施例8の第二工程で得られた金属ナノ粒子が堆積されている、エレクトログラフトされたPHEMA膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例8の第三工程で得られたP+ドープシリコンに形成されたビア(75×200μm)内のPHEMA−PHEMA−NiB積層体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例9で得られたPドープシリコンに形成されたビア(30×60μm)内のP4VP−PHEMA−NiB積層体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】実施例10で得られたPドープシリコンに形成されたビア(30×60μm)内のP4VP−PHEMA−NiB−Cu積層体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図15】実施例10で得られたP4VP−PHEMA−NiB−Cu積層体を、アニール前(生サンプル)と不活性ガス中400℃で2時間アニール後のTof−SIMSデプスプロファイルを示す図である。
【図16】実施例11で得られたPドープシリコンに形成されたビア(30×90μm)内のP4VP−PHEMA−NiB−Cu積層体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0131】
以下の実施例は、添付の図面と共に本発明をより詳細に説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0132】
下記の実施例は研究室規模で行われたものである。
【0133】
特に明記しない限り、これらの実施例は周囲空気で、室温常圧の条件下(約25℃、約1atm)で行われ、試薬は追加精製しないで市販のものを直接使用した。
【0134】
使用された基板の被覆対象表面は、通常シリコン製であるが、必要に応じて各種成分(N、P、P+)を各種パーセントでドーピングしてもよい。
【0135】
場合によっては、具体的に言うとPドープ基板を使用する場合には、ピラニア溶液(H2SO4:H2O2=5:1(v/v))に続いてフッ化水素酸溶液(10%(v/v))に浸漬するという前処理をシリコン表面に施すことが有利であることもある。
【0136】
これらの実施例で使用するシリコン基板の抵抗率は1〜100Ω・cmである。
【0137】
実施例1:平面状のNドープシリコン基板上へのポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)膜の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率20Ω・cmのNドープシリコン片である。
【0138】
溶液:本実施例で使用するエレクトログラフティング溶液は、5mlの4−ビニルピリジン(4−VP、4.5×10−2mol)を95mlの1M塩酸に添加し、そこに236mgの4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート(DNO2、1×10−3mol)を添加して得られた水溶液である。
【0139】
溶液は、使用前にアルゴン流で10分間脱気する。
【0140】
プロトコル:シリコン基板にエレクトログラフティングを行うために使われるシステムは、
・所定の速さで回転する手段を備え、基板を支える形状となっているサンプルホルダー(この組立品は作用電極として機能させる)と、
・対電極として機能させるカーボンシートと、
・安定電源及び電気接触デバイスとを備える。
【0141】
シリコン基板表面へのP4VPのエレクトログラフティングは、予め40〜100rpm(本実施例では60rpm)の速さで回転するように設定した基板に、「定電圧パルス」の電気化学的プロトコルを約10〜30分(本実施例では15分)の所定時間適用することにより行う。
【0142】
図1は採用された電気化学的プロトコルを示しており、
・合計時間Pが0.01〜2秒(本実施例では0.6秒)、
・基板表面に5〜20Vの電位差(本実施例ではカソード電位:−17V)を印加する分極時間Tonが0.01〜1秒(本実施例では0.36秒)、
・ゼロ電位の休止時間Toffが0.01〜1秒(本実施例では0.24秒)となっている。
【0143】
このエレクトログラフティング工程の所要時間は、当然ながら、所望のポリマー絶縁膜の厚さによって異なる。膜成長は印加された電位差と相関するものなので、当業者であれば容易に所要時間を設定できる。
【0144】
上述の条件で、厚さ300ナノメートルのポリマー(P4VP)層を形成した。
【0145】
エレクトログラフティングを終了したらすぐに、試験片を数回水で洗浄し、その後、ジメチルホルムアミド(DMF)で洗浄してから、アルゴン流で乾燥する。その後、2時間オーブン乾燥(90℃)する。試験片の乾燥は、できるだけ無水状態の材料が得られるように高温、典型的には100〜200℃で、不活性雰囲気下行ってもよい。
【0146】
特性評価:このように得られた試験片について、赤外スペクトル分析と飛行時間型二次イオン質量分析(ToF−SIMS)とを行う。
【0147】
得られた赤外スペクトルから分かるように(図2参照)、1580cm−1(P4VP)、1520cm−1(ジアゾニウム)、1350cm−1(ジアゾニウム)にある吸着帯により、シリコン表面にエレクトログラフトされたポリマー(P4VP)の存在が確認できる。
【0148】
陽イオンのToF−SIMS分析でみられたP4VPの特徴的なピークを表1に示す。
【0149】
【表1】
表1:陽イオンの飛行時間型二次イオン質量分析(ToF−SIMS)でみられたNドープSi上のP4VP堆積物の特徴的なピーク
【0150】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図3参照)によって、シリコン試験片表面の均一なポリマー膜を確認することができる。
【0151】
得られたポリマー膜の絶縁性を、C(V)(容量−電圧)測定によって分析した。得られた結果は表2に示す。
【0152】
【表2】
表2:P4VP膜及びPHEMA膜の電気測定の結果
【0153】
得られた数値により、形成されたP4VP被膜の強い絶縁性が確認できる。
【0154】
実施例2:平面状のPドープシリコン基板上へのポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)膜の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率20Ω・cmのPドープシリコン片である。
【0155】
溶液:実施例1で使用した溶液と同一。
【0156】
プロトコル:実施例1で説明したものと同一の試験プロトコルだが、それに加えて、試験片表面の光度を最大にするために、Pドープシリコン試験片の正面に位置する光源(ハロゲンランプ、150W)を用いる。従って、ランプは試験片表面から約10cmの距離に設置し、実験の間を通して試験片を照らし続ける。
【0157】
実施例1で説明したパルスの電気化学的プロトコルを使用し、印加する電位差を1〜10V(本実施例ではカソード電位:−3V)とする。
【0158】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図4参照)により、Pドープシリコン試験片の表面に均一なポリマー膜が形成されていることが確認できる。
【0159】
実施例3:貫通ビアのPドープシリコン表面へのポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)膜の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率3〜26Ω・cmのシリコンウェハであって、深さ60μm、直径30μmの「貫通ビア」型の円筒状パターンがエッチングされている。
【0160】
溶液:実施例1で使用した溶液と同一。
【0161】
プロトコル:まず、超音波照射下で、試験片をエレクトログラフティング溶液中に30秒間浸漬し、ビア内が充分に満たされるようにする。
【0162】
その後のプロトコルは、実施例2のプロトコルと同一である。
【0163】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析により、ビアの被膜が確認できる。図5から、エレクトログラフトされたP4VP膜がビアを完全に被覆していることが分かる。
【0164】
得られた膜はコンフォーマル性が高い。堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは、エレクトログラフトされた層の、ビアの垂直表面(断面又は側面)における厚さと、ビア上端の水平表面のおける厚さの比から算出できる。垂直表面の厚さは、ビアの所定深さ(ビア底部から4μmの高さ)で計測される。この条件下で得られたコンフォーマル性のパーセンテージはほぼ50%である。
【0165】
実施例4:平面状のNドープシリコン基板上へのポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)膜の形成
基板:実施例1で使用した基板と同一。
【0166】
溶液:本実施例で使用するエレクトログラフティング溶液は、30mlの2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、0.24mol)を70mlの0.1N H2SO4に添加し、そこに236mgの4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート(DNO2、1×10−3mol)を添加することによって調製された水溶液である。
【0167】
溶液は、使用前にアルゴン流で10分間脱気する。
【0168】
プロトコル:実施例1で説明したプロトコルと同一。本実施例では、−20Vのカソード電位を印加する。
【0169】
特性評価:得られた試験片について赤外スペクトル分析を行う。得られた赤外スペクトル(図6)には、1720cm−1(PHEMA)、1520cm−1(ジアゾニウム)、1350cm−1(ジアゾニウム)に吸着帯が見られ、シリコン試験片の表面にエレクトログラフトされたポリマー膜の存在が確認できる。
【0170】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図7参照)によって、シリコン試験片表面の均一なポリマー膜を確認することができる。
【0171】
PHEMA膜の電気測定の結果は上記表2に報告されている。得られた数値により、形成されたPHEMA被膜の強い絶縁性が確認できる。
【0172】
実施例5:平面状のPドープシリコン基板上へのポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)膜の形成
基板:実施例2で使用した基板と同一。
【0173】
溶液:実施例4で使用した溶液と同一。
【0174】
プロトコル:実施例2で用いたプロトコルと同一。
【0175】
特性評価:得られた試験片について赤外スペクトル分析を行う。赤外スペクトルから、シリコン表面のエレクトログラフトされたポリマー膜の特徴的な帯域がはっきりと確認できる。
【0176】
実施例6:ビアのP+ドープシリコン表面へのポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)膜の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率8〜20mΩ・cmのシリコンウェハであって、深さ200μm、直径75μmの「貫通ビア」型の円筒状パターンがエッチングされている。
【0177】
溶液:実施例4で使用した溶液と同一。
【0178】
プロトコル:実施例2で用いたプロトコルと同一。
【0179】
特性評価:得られた試験片について赤外スペクトル分析を行う。赤外スペクトルから、シリコン試験片表面のエレクトログラフトされたポリマー(PHEMA)の存在が確認できる。
【0180】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図8参照)により、ビアの表面を完全に被覆する均一なポリマー膜の存在が確認できる。堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは、実施例3と同様に計測して、40%である。
【0181】
実施例7:平面状のNドープシリコン基板上へのP4VP−PAA−NiB(絶縁体/バリア)積層体の形成
基板:実施例1で使用した基板と同一。
【0182】
絶縁体:実施例1に従って形成。
【0183】
拡散バリア:ニッケル−ホウ素(NiB)バリアを、実施例1の最後に得られるポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)表面に3つの工程で堆積する。
【0184】
工程1:ポリ酸系ポリマータイ層の形成
溶液:本実施例で使用する溶液は、ポリアクリル酸(PAA、MW 450000、1g/l)水溶液である。
【0185】
プロトコル:実施例1で得られるP4VP膜で被覆された基板を、ポリアクリル酸水溶液の入ったビーカーに10分間浸漬する。その後、試験片を蒸留水で数回洗浄し、アルゴン流で乾燥する。
【0186】
特性評価:このように得られた試験片について、飛行時間型二次イオン質量分析(ToF−SIMS)を行う。表3に報告するToF−SIMS分析結果から、特徴的なPAAピークを確認することができる。
【0187】
【表3】
表3:陰イオンの飛行時間型二次イオン質量分析(ToF−SIMS)でみられたSiN/P4VP/PAA積層体の特徴的なPAAピーク
【0188】
工程2:NiBナノ粒子の取り込み
溶液:NiBナノ粒子のコロイド懸濁液を20℃で調製する。この際、120mgの金属前駆体:NiSo4(4.5×10−4mol)を50mlの脱イオン水に溶かし、そこに1.8gの安定化剤:臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB、4.7×10−3mol)を添加する。その溶液に、脱イオン水2mlに溶かした80mgの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4、2×10−3mol)を一回の注入で添加する。溶液の色は直ちに濃い黒色へと変色し、これによりコロイド形態の0価の金属の存在が示される。
【0189】
プロトコル:上述の工程で形成されたP4VP−PAAポリマー二重層で表面を被覆された基板をNiBコロイド溶液中に投入する。試験片をその溶液中に数分間、例えば1〜15分間保持した後、脱イオン水で約1分洗浄してからアルゴン流で乾燥する。
【0190】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図9参照)により、ポリマー表面におけるNiBナノ粒子の分布が確認できる。
【0191】
工程3:無電解堆積によるニッケル層の形成
溶液:本実施例で使用する溶液は、50mlの脱イオン水、1.41gのNiSO4(5.4×10−3mol)、3gの三塩基性クエン酸ナトリウム(1×10−2mol)又は2gのクエン酸(1×10−2mol)、及び、141gのジメチルアミノボラン(DMAB、2×10−3mol)を、パイレックス(登録商標)のビーカーに仕込むことによって調製される。水酸化ナトリウム溶液NaOH又はTMAHを添加して、上記溶液のpHを9に調整する。
【0192】
プロトコル:溶液を60℃に熱し、上述の工程で形成した試験片を該媒体中に数分間、例えば2〜10分間投入する。その後、基板を取り出し、脱イオン水で洗浄し、アルゴン流で乾燥する。
【0193】
特性評価:このように処理された表面は、均一で金属的な(鏡のような)外観を持つ。金属化の処理時間によって、得られる金属の厚さは数ナノメートルから数百ナノメートルと幅がある。
【0194】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図10参照)により、表面全体を覆う連続的なNiB金属膜の形成が確認できる。
【0195】
実施例8:ビアのP+ドープシリコン表面へのPHEMA−PHEMA−NiB(絶縁体/バリア)積層体の形成
基板:実施例6で使用した基板と同一。
【0196】
絶縁体:実施例6に従って形成。
【0197】
拡散バリア:ニッケル−ホウ素(NiB)バリアを、実施例6の最後に得られるポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)表面に3つの工程で堆積する。
【0198】
工程1:接着プライマーでできたタイ層の形成
この層は、Mevellecらによる刊行物:Chem.Mater.,2007,19,6323−6330の記載をもとにして形成する。
【0199】
溶液:本実施例で使用する溶液は接着プライマーの水溶液である。これを得るために、まず、
・100mlの0.5M塩酸に1.08g(1×10−2mol)のp−アミノアニリンを溶かした溶液Aと、
・100mlの脱イオン水に690mg(1×10−2mol)のNaNO2を溶かした溶液Bとを調製する。
【0200】
25mlの溶液Bを25mlの溶液Aにゆっくり添加し、この混合液に5mlの2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、4×10−2mol)を更に添加する。これに、還元剤として機能する、1gの99%鉄粉(1.7×10−2mol)又は16mlの市販の50質量%次亜リン酸水溶液を添加して、反応を開始させる。
【0201】
プロトコル:実施例6で得られた、PHEMAにより官能基化されたシリコン基板を溶液に1〜20分間浸漬した後、洗浄(DMF、水)を行い、その後、窒素気流で乾燥する。
【0202】
工程2:NiBナノ粒子の取り込み
溶液:実施例7の工程2で使用した溶液と同一。
【0203】
プロトコル:実施例7の工程2で用いたプロトコルと同一。
【0204】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図11参照)により、ポリマー表面におけるNiBナノ粒子の分布が確認できる。
【0205】
工程3:無電解堆積によるニッケル層の形成
溶液:実施例7の工程3で使用した溶液と同一。
【0206】
プロトコル:実施例7の工程3で用いたプロトコルと同一。
【0207】
特性評価:このように処理された表面は、均一で金属的な(鏡のような)外観を持つ。金属化の処理時間によって、得られる金属の厚さは数ナノメートルから数百ナノメートルと幅がある。
【0208】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図12参照)により、表面全体を覆う連続的なNiB金属膜の形成が確認できる。実施例3と同様に計測すると、NiB堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは50%である。
【0209】
実施例9:ビアのPドープシリコン表面へのP4VP−PHEMA−NiB(絶縁体/バリア)積層体の形成
基板:実施例3で使用した基板と同一。
【0210】
絶縁体:実施例3に従って形成。
【0211】
拡散バリア:実施例8に従って形成。
【0212】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図13参照)により、ビアの表面全体を覆う絶縁体/バリア積層体の形成が確認できる。実施例3と同様に計測すると、堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは65%である。
【0213】
実施例10:ビアのPドープシリコン表面へのP4VP−PHEMA−NiB−Cu(絶縁体/バリア/シード層)積層体の形成
基板:実施例3で使用した基板と同一。
【0214】
絶縁体:実施例3に従って形成。
【0215】
拡散バリア:実施例8に従って形成。
【0216】
銅シード層の形成
溶液:2.1ml/l(32mM)のエチレンジアミンと4g/l(16mM)のCuSo4・5H2Oとを含有する電着水溶液を使用して銅シード層を堆積する。
【0217】
プロトコル:本実施例で行われた電着法は、以下の連続した各種工程を含む。
・基板に電力を加えない状態で、少なくとも1分間(例えば3分間)電着溶液に浸漬させて接触させる「非通電投入」工程。
・基板を定電流パルスモードでカソード分極させ、同時に20〜100回転/分(例えば40回転/分)の速さで回転させる銅成長工程。図1に採用可能な定電流パルスプロトコルの詳細を示す。このプロトコルにおいて、合計時間Pが10ミリ秒〜2秒(本実施例では0.6秒)、単位表面積当たり概して0.6〜10mA/cm2(本実施例では2.77mA/cm2)の電流を印加する分極時間Tonが2ミリ秒〜1.6秒(本実施例では0.35秒)、分極させない休止時間Toffが2ミリ秒〜1.6秒(本実施例では0.25秒)である。当然ながら、この工程の所要時間はシード層の所望の厚さ次第である。膜成長は回路に流れた電荷と相関するものなので、当業者であれば容易に上記所要時間を設定できる。上述の条件下での堆積速度は、回路に流れた電荷1クーロン当たり約1.5nmであり、300nmの厚さの被膜を得るためには、電着工程の所要時間は約17分となる。
・電圧下で分極状態に保持しつつ、回転速度ゼロで、銅で被覆された基板を電着液から取り出す「通電取り出し」工程。この段階の所要時間は約2秒である。次に、回転速度を10秒間、500回転/分とし、この最終段階でカソード分極を終了する。その後、基板を脱イオン水で洗浄し、窒素気流で乾燥する。
【0218】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図14参照)により、ビアの表面全体を覆う3層構造の絶縁体/バリア/銅積層体の形成が確認できる。銅層のコンフォーマル性のパーセンテージは、実施例3と同様に計測して、60%である。
【0219】
NiB層のバリア性を、公知の分析法(M.Yoshinoら,Electrochim.Acta,2005,51,916−920)で確認する。上記分析法は、ToF−SIMSプロファイルによって、アニール後の拡散バリアへの銅拡散の跡を調べるものである。
【0220】
アニール前(生サンプル)と制御雰囲気下400℃で2時間アニール後のToF−SIMSプロファイル(図15参照)を比較すると、NiB拡散バリア中には銅の拡散が見られないことが分かる。
【0221】
実施例11:ビアのPドープシリコン表面へのP4VP−PHEMA−NiB−Cu(絶縁体/バリア/シード層)積層体の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率3〜26Ω・cmのシリコンウェハであって、深さ90μm、直径30μmの「貫通ビア」型の円筒状パターンがエッチングされている。
【0222】
絶縁体:実施例3に従って形成。
【0223】
拡散バリア:実施例8に従って形成。
【0224】
シード層:実施例10に従って形成。
【0225】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図16参照)により、ビアの表面全体を覆う絶縁体/バリア/銅からなる3層の積層が確認できる。
【0226】
実施例12:Pドープシリコン表面へのP4VP−NiB(絶縁体/バリア)積層体の形成
基板:実施例2で使用した基板と同一。
【0227】
絶縁体:実施例2に従って形成。
【0228】
拡散バリア:実施例2で説明した取り出し工程の最後に得られるポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)表面にニッケル−ホウ素(NiB)バリアを2工程で堆積する。
【0229】
工程1:パラジウム塩溶液によるポリ−4−ビニルピリジンの活性化
溶液:本実施例で使用する溶液は、100mlの0.1M塩酸に溶かした2mg(1.10−5mol)の市販の塩化パラジウム塩(PdCl2)を含有する活性化水溶液である。
【0230】
プロトコル:実施例2で得られたP4VPにより官能基化されたシリコン基板を活性化溶液に30秒〜5分間浸漬する。その後、脱イオン水で洗浄し、窒素気流で乾燥する。
【0231】
工程2:無電解堆積によるニッケル層の形成
溶液:実施例7の工程3で使用したニッケル溶液と同一。エタノールアミンを添加して、溶液のpHが9となるよう調整する。
【0232】
プロトコル:実施例7の工程3で用いたプロトコルと同一。
【0233】
特性評価:このように処理された表面は、均一で金属的な(鏡のような)外観を持つ。金属化の処理時間によって、得られる金属の厚さは数ナノメートルから数百ナノメートルと幅がある。
【0234】
実施例13:ビアのPドープシリコン表面へのP4VP−NiB−Cu(絶縁体/バリア/シード層)積層体の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率20Ω・cmのシリコンウェハであって、深さ30μm、直径5μmの「貫通ビア」型の円筒状パターンがエッチングされている。
【0235】
絶縁体:実施例2に従って形成。
【0236】
拡散バリア:実施例12に従って形成。各種溶液の「貫通ビア」型パターンへの浸透を促進するために、工程1及び2は超音波照射下で行ってもよい。
【0237】
シード層:実施例10に従って形成。
【0238】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析により、ビアの表面全体を覆う絶縁体/バリア/銅からなる3層の積層が確認できる。実施例13と同様に計測すると、ニッケル堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは78%で、銅堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは60%である。
【技術分野】
【0001】
本発明は基板、特に抵抗シリコン基板の表面に、銅拡散バリア層で被覆することのできる絶縁膜をプロトン性媒体中で形成する方法に関する。
【0002】
本発明は、マイクロエレクトロニクス分野におけるビア(シリコン貫通ビア、ウェハ貫通ビア、ウェハ貫通配線とも呼ばれる)の金属化(メタライゼーション)、特に銅による金属化に主に有用である。ビアは、電子チップ(又は電子ダイ)の3次元(3D)集積又は垂直集積の要となるものである。本発明はまた、ビア基板を電気的に絶縁し、銅層で被覆する必要がある他のエレクトロニクス分野においても有用である。これらの用途としては、プリント回路板(又はプリント配線板)における配線素子の形成、あるいは集積回路や微小電気機械システムにおける受動素子(インダクタ等)や電気機械素子の形成が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
現在の電子システムの多くは複数の集積回路すなわち部品で構成されており、それぞれの集積回路が1以上の機能を実現する。例えば、コンピュータは少なくとも一つのマイクロプロセッサと複数のメモリ回路とを有する。各集積回路は、通常、それ自体が封入されたパッケージ内の電子チップに相当する。各集積回路は、例えば、集積回路間を接続するプリント回路板(PCB)にはんだ付け又はプラグ接続される。
【0004】
電子システムの機能密度を高めるという不変の要求は、第一の手法として、システムの一連の機能を実現するのに必要なあらゆる部品や回路ブロックが、プリント回路板を用いることなく同一チップ上に形成されるというシステムオンチップの概念を産み出した。実際には、例えば論理回路と記憶回路とでは、その製造方法は大きく異なるため、高性能なシステムオンチップを得るのは非常に困難である。そのため、システムオンチップ法では、同一チップで実現される各種機能の性能については妥協せざるを得なくなる。また、経済的な実現可能性の点から見ると、このようなチップのサイズとその生産歩留りとは限界に達している。
【0005】
第二の手法としては、複数の集積回路が相互に配線されたモジュールを同一パッケージ内に製造することである。この場合、各集積回路は、同一の半導体基板上に形成されても、異なる基板上に形成されてもよい。従って、こうして得られたパッケージ、すなわち「マルチチップモジュール(MCM)」は、単一の部品となっている。この「MCM」法では、高配線密度を実現することができ、従って、従来の「PCB」法よりも良好な性能を実現できる。しかしながら、両方法に根本的な面での違いはない。パッケージの容積及び重量に加え、基板の接続部の長さ、及び、基板又はチップとパッケージのピンとを接続するワイヤボンディングに関する寄生要素により、「MCM」の性能は依然として制限される。
【0006】
第3の手法は、3次元(3D)集積又は垂直集積と呼ばれ、チップが積層され、垂直配線により相互に接続されることを特徴とする。従って、得られた積層体は、能動部品又はチップの層を複数有し、3次元の集積回路(3D IC)を構成する。
【0007】
3D集積の利点として以下のことが同時に挙げられる。
(1)高性能化:例えば、伝播時間及び消費電力の減少、機能ブロック間伝達の加速に伴うシステム動作速度の向上、各機能ブロックの通過帯域の拡大、ノイズ耐性の向上;
(2)コスト改善:例えば、集積密度の上昇、各機能ブロックに最適な電子チップ世代の使用による製造歩留まりの向上、信頼性の向上;
(3)異種技術の積層(コインテグレーション)、すなわち、異なる材料及び/又は異なる機能部品を用いた大規模集積システム実現の可能性。
【0008】
このように、性能、機能の多様性、製造コストといった点で、従来の手法は限界に達しており、3D集積は今や従来手法に代わる不可欠な手法である。例えば非特許文献1には、3D集積の原理や利点が記載されている。
【0009】
例えば接着剤で積層した後で、各チップはワイヤボンディングによって個別にパッケージのピンに接続することができる。チップを相互に接続するには、通常、貫通ビアを用いる。
【0010】
このように、3次元集積回路の製造に必要な基本技術としては、特に、シリコンウェハの薄化、層間の位置合わせ、各層の接着、各層における貫通ビアのエッチング及び金属化が挙げられる。
【0011】
シリコンウェハの薄化は、貫通ビアを形成する前に行ってもよい(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0012】
あるいは、シリコンウェハの薄化の前にビアのエッチング及び金属化を行ってもよい(例えば特許文献1、特許文献3参照)。この場合、非貫通ビア、すなわち「ブラインド・ビア」をシリコン内にエッチングしてから、所望の深さまで金属化した後に、シリコンウェハを薄化して、貫通ビアを形成する。
【0013】
銅は導電性が良好で、エレクトロマイグレーション現象への耐性が高い。すなわち、動作不良の主原因となりやすい電流密度の影響による銅原子の移動が抑えられる。そのため、特に貫通ビアを金属化する材料として選ばれやすい。
【0014】
一般に、3D集積回路の貫通ビアは、マイクロエレクトロニクス分野において集積回路を相互に接続するための素子を形成するのに採用される「ダマシン法」と同様な方法により、以下の工程を順次行うことで形成される。
・シリコンウェハ内に、又は、シリコンウェハを貫通して、ビアをエッチングする;
・絶縁誘電体層を堆積する;
・銅の移動又は拡散を防ぐためのバリア層、すなわち「ライナー」を堆積する;
・銅を電着してビアを埋める;
・化学機械研磨により余分な銅を取り除く。
【0015】
抵抗率の高い材料で構成されているため、バリア層は一般的に抵抗が非常に大きいため、直接的な電気化学的手段ではウェハスケールで均質又は均一に銅を堆積することができない。これは、抵抗降下という用語で当業者に知られている現象である。
【0016】
そのため、電着により銅を埋め込む前に、シード層と呼ばれる金属銅の薄膜でバリア層を被覆する必要がある。
【0017】
このシード層は、例えば、物理蒸着(PVD)法若しくは化学蒸着(CVD)法、又は、エレクトログラフティングと呼ばれる技術を用いた液状媒体内での堆積法など、様々な方法で形成することができる。
【0018】
絶縁誘電体層は
・無機層(例えば、酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素(Si3N4)、又は酸化アルミニウム)であってもよく、
・有機層(例えば、パリレンC、N若しくはD、ポリイミド、ベンゾシクロブテン、又は、ポリベンゾオキサゾール)であってもよい。
【0019】
有機層の場合も無機層の場合も、絶縁誘電体層は、公知の貫通ビア形成方法においては、一般に乾式堆積によって均一な絶縁層が形成される。
【0020】
従って、特許文献4は、絶縁性誘電体層、好ましくはパリレンで構成されたものを蒸着法にて形成することを推奨している。
【0021】
上記先行文献において具体的に推奨されている化学蒸着を利用した方法は、消耗品(前駆体)や、とりわけ実施するのに必要な装置が高額なことから、比較的費用がかかり、かつ、効率が悪い。
【0022】
上記先行文献において同様に想定されている物理蒸着を利用した方法では、高密度3D集積回路の貫通ビア表面のどんな箇所でも均一な厚さとなる被膜を得ることができない。一般的に、被膜のフォームファクタは非常に重要である。
【0023】
特許文献5には、その内部に無機(SiO2)の絶縁誘電体層が熱酸化又は化学蒸着によって形成された貫通ビアの形成方法が開示されている。
【0024】
この方法においても、特許文献4に記載の方法に関連して述べた問題と同様の問題が見られる。
【0025】
乾式堆積法に関連した問題を避ける1つの解決策として湿式堆積法が考えられる。
【0026】
3D集積回路の貫通ビア形成には直接関連しない先行技術の各種文献に、電気導体であっても半導体であってもよい基板の表面に有機膜を形成する方法が記載されており、そこではポリマーのエレクトログラフティングが利用されている。エレクトログラフティングは、被覆対象の表面にある電気活性モノマーが電気的に誘導され、開始段階に続き、連鎖成長反応による重合段階が行われるとの機序に基づいた湿式堆積技術である。
【0027】
一般に、エレクトログラフティングは、
・一方では、開始化合物とモノマーを含有する溶液の使用、及び
・他方では、被覆対象の基板表面にポリマー膜を形成するための電気化学的プロトコルを必要とする。
【0028】
このようにエレクトログラフティングによって有機膜を形成する方法は、例えば特許文献6に記載されている。この公知の方法は、
・一方では、少なくとも一種のジアゾニウム塩と連鎖重合性モノマーを含有するエレクトログラフティング溶液、及び
・他方では、サイクリックボルタンメトリーによる堆積のための電気化学的プロトコルを用いる。
【0029】
この先行文献において概して用いられている重合性モノマーはプロトン性媒体に不溶であり、そのため、そのエレクトログラフティング溶液は概して、特にジメチルホルムアミドなどの非プロトン性溶媒を含有するが、この溶媒の使用は環境面で問題がある。
【0030】
特許文献7にもエレクトログラフティングによって有機膜を形成する方法が記載されている。その方法におけるエレクトログラフティング溶液は、プロトン性溶媒と、そのプロトン性溶媒に可溶な少なくとも一種のラジカル重合開始剤を含有している。
【0031】
この先行文献において用いられる重合性モノマーはプロトン性媒体にあまり溶解しないため、少なくとも一種の界面活性剤をエレクトログラフティング溶液に添加して、重合性モノマーをミセルに溶解させることが推奨されている。
【0032】
しかしながら、界面活性剤の使用はエレクトログラフティング溶液中のモノマー濃度を非常に低くしてしまうため、工業的制約上、この方法を使用することはできない。
【0033】
加えて、使用された界面活性剤は被覆対象の表面に吸着され得るため、基板に形成された有機膜中に導入される可能性がある。その結果、形成された膜の絶縁性の低下につながる場合がある。
【0034】
更には、上述の特許文献6の場合のように、サイクリックボルタンメトリーを用いたエレクトログラフティングプロトコルでは、工業的需要に適った膜成長カイネティクスが得られないこともわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】米国特許第7,060,624号明細書
【特許文献2】米国特許第7,148,565号明細書
【特許文献3】米国特許第7,101,792号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/086337号
【特許文献5】米国特許第6,770,558号明細書
【特許文献6】国際公開第2007/099137号
【特許文献7】国際公開第2007/099218号
【非特許文献】
【0036】
【非特許文献1】A.W.Topol et al.,“Three−dimentional integrated circuits” IBM Journal Res.&Dev.,no.4/5 July/September 2006,50,p.491−506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
こういった状況を踏まえ、本発明は、電気導体基板又は半導体基板の表面にエレクトログラフティングで有機膜を形成する新規方法の提供という技術的課題を解決することを目的とする。上記方法は、
・貫通ビア、特に3D集積回路の貫通ビアの形成における電気絶縁膜の成膜に特に適しており、
・工業的制約に適った条件下、湿式で行うことができ、また、広範なフォームファクタに対して連続的でコンフォーマルな堆積が可能であり、基板への優れた接着性も提供できるものである。
【0038】
本発明は、また、銅拡散バリアである層をそれ自体に湿式で被覆できる絶縁膜の成膜を可能にすることにより、上述の技術的課題を解決することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
・一方では、プロトン性のエレクトログラフティング溶液、特に、溶媒に可溶なモノマー類から選択された被膜前駆体を含有する水溶液、及び
・他方では、工業的制約に適合した成長カイネティクスで、連続的で均一な被膜を形成できるパルスモードのエレクトログラフティングプロトコル
を用いることで、工業規模での利用に申し分ない程度に上述の技術的課題を解決できることが見出された。これが本発明の根幹を成すものである。
【0040】
従って、本発明の第一の態様は、シリコン基板などの電気導体基板又は半導体基板の表面に電気絶縁膜を形成する方法であって、
a)上記表面を溶液と接触させる工程と、
b)少なくとも80ナノメートル、好ましくは100〜500ナノメートルの厚さの膜が形成されるのに充分な時間、上記表面を定電圧パルスモード又は定電流パルスモードで分極させる工程とを含み、上記溶液は、
・プロトン性溶媒と、
・少なくとも一種のジアゾニウム塩と、
・連鎖重合可能であって上記プロトン性溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーと、
・上記溶液のpH値を7未満、好ましくは2.5未満に調整して上記ジアゾニウム塩を安定化するのに充分な量の少なくとも一種の酸と
を含有することを特徴とする方法に関する。
【0041】
上述の方法で用いられるプロトン性溶媒は、水、好ましくは脱イオン水又は蒸留水;ヒドロキシル化溶媒、特に炭素数1〜4のアルコール類;炭素数2から4のカルボン酸類、特に蟻酸及び酢酸、並びに、それらの混合物からなる群から選択されることが有利である。
【0042】
本発明においては、プロトン性溶媒が水で構成されるのが現時点では好ましい。
【0043】
概して、本発明の第一の態様に係る方法を行うのに、多くのジアゾニウム塩が使用可能であり、とりわけ国際公開第2007/099218号に記載されているジアゾニウム塩が挙げられる。
【0044】
従って、本発明の特徴によれば、ジアゾニウム塩は下記式(I):
R−N2+,A− (I)
(式中、
・Aは一価の陰イオンを表し、
・Rはアリール基を表す)で表される化合物から選択されるアリールジアゾニウム塩である。
【0045】
アリール基Rとしては、特に、非置換、一置換、又は、多置換である、芳香族又はヘテロ芳香族の炭素構造が挙げられる。該炭素構造は1以上の芳香環又はヘテロ芳香環からなり、各芳香環は3〜8個の原子を含み、ヘテロ原子はN、O、S、又は、Pのいずれかである。また、置換されている場合、置換基は、NO2、COH、ケトン類、CN、CO2H、NH2、エステル類、及び、ハロゲン類などの電子求引基から選択されることが好ましい。
【0046】
特に好ましい基Rは、ニトロフェニル基及びフェニル基である。
【0047】
上記式(I)で表される化合物のうち、特に、Aは、I−、Br−、Cl−といったハロゲン化物類、テトラフルオロボラン等のハロボラン類などの無機陰イオン、並びに、アルコラート類、カルボン酸塩類、過塩素酸塩類及び硫酸塩類などの有機陰イオンから選択されてもよい。
【0048】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記式(I)のジアゾニウム塩は、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウムクロライド、4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−フェニル酢酸ジアゾニウムテトラフルオロボレート、2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)−ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウム硫酸塩、9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アンスラセンジアゾニウムクロライド、4−ニトロフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレート、ナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アミノフェニルジアゾニウムクロライドから選択される。
【0049】
好ましくは、ジアゾニウム塩はフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート及び4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートから選択される。
【0050】
エレクトログラフティング溶液中のジアゾニウム塩の量は、概して、10−3〜10−1Mであり、好ましくは5×10−3〜3×10−2Mである。
【0051】
概して、上記エレクトログラフティング溶液は、連鎖重合可能であってプロトン性溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーを含有する。
【0052】
プロトン性溶媒に可溶なモノマーの選択が、本発明の極めて重要で独特な特徴のひとつである。
【0053】
「プロトン性溶媒に可溶」とは、ここでは、プロトン性溶媒への溶解度が0.5M以上のあらゆるモノマー又はその混合物を指すと解される。
【0054】
本発明において使用可能なモノマーを選ぶことは、当業者であれば何ら難しいことではない。
【0055】
これらのモノマーは、プロトン性溶媒に可溶であり、かつ、式(II):
【0056】
【化1】
(式中、R1〜R4は同一又は異なっていてもよく、ハロゲン原子又は水素原子等の一価の非金属原子、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基等の飽和若しくは不飽和化学基、−COOR5基(R5は水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表す)、ニトリル基、カルボニル基、アミン基、又は、アミド基を表す)を満たすビニルモノマー類から選択されることが有利である。
【0057】
水溶性のモノマーを用いるのが好ましい。好適なモノマーとしては、4−ビニルピリジンや2−ビニルピリジンなどのピリジン類を含むエチレン系モノマー;あるいは、カルボン酸類(アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及び、それらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩又はアミン塩など)、それらカルボン酸のアミド類(特にアクリルアミドやメタクリルアミド、及び、それらのN−置換誘導体)、それらのエステル類(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノ(エチル若しくはプロピル)又は(メタ)アクリル酸ジエチルアミノ(エチル若しくはプロピル)、及び、それらの塩など)、それらのカチオンエステルの四級化誘導体(例えば、アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドなど)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、ビニルスルホン酸、ビニルリン酸、ビニル乳酸、及び、それらの塩、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、酢酸ビニル、N−ビニルイミダゾリン、及び、それらの誘導体、N−ビニルイミダゾール、及び、ジアリルアンモニウム型の誘導体(ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムブロミド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライドなど)を含むエチレン系モノマーが挙げられる。
【0058】
エレクトログラフティング溶液の定量組成はさまざまである。
【0059】
概して、この溶液は、
・少なくとも0.3Mの重合性モノマーと
・少なくとも5×10−3Mのジアゾニウム塩とを含有し、
重合性モノマーのジアゾニウム塩に対するモル比は10〜300である。
【0060】
上述の通り、パルスモードのエレクトログラフティングプロトコルという特定のプロトコルの使用は、全く予想していなかったことだが、サイクリックボルタンメトリーのエレクトログラフティングプロトコルとは対照的に、工業的制約に適合した成長カイネティクスを示す連続的で均一な被膜の形成を可能とするという点で、本発明のもう1つの極めて重要で独特な特徴である。
【0061】
膜で被覆される表面の分極は通常パルスモードで行われ、その各サイクルは、
・合計時間Pが10ミリ秒〜2秒、好ましくは約0.6秒であり、
・基板の表面に電位差が生じる又は電流が印加される分極時間Tonが0.01〜1秒、好ましくは約0.36秒であり、
・ゼロ電位又はゼロ電流である休止時間が0.01〜1秒、好ましくは約0.24秒である。
【0062】
上記に説明した電気絶縁膜の形成方法は、貫通ビア、とりわけ3D集積回路の貫通ビアの形成において、銅の移動又は拡散を防ぐためのバリア層で被覆できるようになっている電気絶縁内層を構成するのに特に有用である。
【0063】
上述のバリア層自体は湿式堆積法によって形成され、好ましくはプロトン性の液体媒体中で形成されるが、この理由は容易に理解されよう。
【0064】
これに関連して、銅の移動又は拡散を防ぐためのバリア層は、ニッケル系金属膜又はコバルト系金属膜で構成されるのが有利であることが見出され、この点が本発明の特徴の一つである。
【0065】
従って、本発明の第二の態様は、電気導体基板又は半導体基板に被膜を形成する方法であって、上記被膜は電気絶縁膜である第一層と銅拡散バリアである第二層とからなり、
A.上記第一層を上述の方法で形成し、
B.上記第二層を、
a)上記の方法で得られた第一層の表面に、金属又は金属合金、とりわけニッケル又はコバルト、の粒子、特にナノ粒子を含有する有機膜を湿式工程により形成し、
b)この形成された膜を、少なくとも一種の金属塩、好ましくは上記有機膜に含有される金属と同じ性質の金属塩と、少なくとも一種の還元剤とを含有する溶液に、少なくとも100nmの厚さの金属膜を形成できる条件下で接触させる
ことにより形成することを特徴とする方法に関する。
【0066】
本発明の第一の実施形態によれば、上記工程B.a)は、
・少なくとも一種の溶媒、好ましくはプロトン性溶媒と、
・少なくとも一種のジアゾニウム塩と、
・連鎖重合可能であって上記溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーと、
・上記ジアゾニウム塩からフリーラジカルを形成できる少なくとも一種の化学的開始剤と
を含有する溶液に、上記内層の自由表面を接触させることで行われる。
【0067】
上記工程B.a)で使用するプロトン性溶媒とジアゾニウム塩は、工程A.で用いられる対応の化合物と同じ性質のものであってもよい。
【0068】
とはいえ、工程B.a)の実施においては、ジメチルホルムアミド、アセトン又はジメチルスルホキシドなどの非プロトン性溶媒の使用も考えられる。
【0069】
フリーラジカル法で連鎖重合可能なモノマーの性質は様々である。
【0070】
特に国際公開第2007/099218号に記載されているモノマー類から選択してもよい。
【0071】
また、工程A.に関連して述べた水溶性モノマーを使用するのも好ましい。
【0072】
ジアゾニウム塩からフリーラジカルを形成するのに使用可能な化学的開始剤は、通常、溶液のpH値が4以上となるのに充分量の、微粉状の金属還元剤、又は、有機若しくは無機の塩基から選択される。
【0073】
本発明においては、化学的開始剤は例えば充填剤などの微粉状の鉄、亜鉛又はニッケルから選択される金属還元剤であることが好ましい。
【0074】
工程B.a)で使用する溶液の定量組成は様々である。
【0075】
概して、この溶液は
・少なくとも0.3Mの重合性モノマーと
・少なくとも5×10−2Mのジアゾニウム塩とを含有する。
【0076】
工程B.a)によって、環境面において非常に有益である非電気化学的条件下での有機膜の形成が可能になることが理解されるであろう。
【0077】
本発明によれば、このように得られた有機膜は、金属又は金属合金、とりわけニッケル又はコバルト、の粒子、特にナノ粒子を含有するように処理される。
【0078】
この処理のために、上記粒子を含有する懸濁液に上記膜を接触させる。
【0079】
当然ながら、工程B.a)での有機膜の形成のために使用するモノマーと粒子は、工程B.a)で得られる膜と該粒子が互いに結合するのに充分な物理化学的親和力を持ち、後続の金属化処理が可能となるような性質のものを選択する。
【0080】
通常、有機膜に含有される粒子は金属又は金属合金からなり、これらの金属は特に貴金属類、遷移金属類、及び、それらの合金類から選択することができる。これらの金属は、リンやホウ素などの元素又はそれらの混合物との合金にすることもできる。
【0081】
ニッケル又はコバルトとホウ素との合金の粒子が好適に使用される。
【0082】
これらの粒子はナノ粒子であることが好ましく、その平均サイズは、25ナノメートル未満であることが好ましく、10ナノメートル未満であることがより好ましい。
【0083】
粒子の取り込みは通常、該粒子のコロイド懸濁液を用いて行われる。
【0084】
ニッケルとホウ素との合金のナノ粒子の場合には、上記懸濁液は、臭化セチルトリメチルアンモニウムなどの界面活性剤型安定化剤(A.Roucoux et al,Adv.Synth.&Catal.,2003,345,p.222−229)の存在下、硫酸ニッケルなどの金属前駆体と水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤との反応によって、0価の金属粒子をコロイド形態で合成することで調製できる。
【0085】
工程B.a)で得られた有機膜中に存在する粒子によって、次に行われる金属被膜の形成を非電気化学的方法、いわゆる「無電解」法(R.C.Agarwala et al,Sadhana,parts 3&4 June/August 2003,28,p.475−493)で行うことが可能となる。
【0086】
そのために、金属粒子を含有する有機膜を、
・少なくとも一種の金属塩、好ましくは上記有機膜に含有される金属と同じ性質の金属塩と、
・安定化剤と、
・少なくとも一種の還元剤と
を含有する溶液に、少なくとも100ナノメートルの厚さの金属膜を形成できる条件下で接触させる。
【0087】
上記金属塩は、上述の金属の酢酸塩、アセチルアセトネート、ヘキサフルオロリン酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩又はテトラフルオロホウ酸塩からなる群から好適に選択される。
【0088】
上記還元剤は、次亜リン酸及びその塩、ボラン誘導体(NaBH4、DMAB)、グルコース、ホルムアルデヒド、及び、ヒドラジンからなる群から好適に選択される。
【0089】
上記安定化剤は、エチレンジアミン、アルカリ金属の酢酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、アミノ酢酸塩、リンゴ酸塩又はクエン酸塩からなる群から好適に選択される。
【0090】
本発明の第二の態様に係る形成方法の第二の実施形態によれば、工程A.a)で使用する連鎖重合可能なモノマーがビニルピリジン、好ましくは4−ビニルピリジンである場合、工程B.a)は、
・少なくとも一種の溶媒、好ましくはプロトン性溶媒と、
・上記溶媒に可溶であり、ポリビニルピリジンの官能基と水素結合又はファンデルワールス結合が可能な官能基を含む少なくとも一種のポリマーと
を含有する溶液に、ポリビニルピリジンからなる内層の自由表面を、上記水素結合又はファンデルワールス結合が形成されるのに充分な時間、接触させることで行われる。上記ポリマーは1以上の官能基を含むポリマー類から選択され、その1以上の官能基は、以下の官能基:水酸基、(一級若しくは二級)アミン、アンモニウム、カルボン酸、カルボン酸塩、(環状若しくは直鎖状)無水カルボン酸、C(=O)NHRで表されるアミド(式中、Rは水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基)、アミノ酸、ホスホン酸、ホスホン酸塩、リン酸、リン酸塩、スルホン酸、スルホン酸塩、硫酸、硫酸塩、スクシンアミド酸、スクシンアミド酸塩、フタルイミド、フタルイミド塩、及び、Si(OH)n(式中、nは1〜3の整数)から選択される。
【0091】
使用するプロトン性溶媒は水であることが好ましく、ポリマーは水溶性ポリマーであることが好ましい。
【0092】
本発明の現時点の好ましい実施形態によれば、工程A.a)で使用する連鎖重合可能なモノマーは4−ビニルピリジンであり、工程B.a)で使用する可溶なポリマーはポリアクリル酸である。
【0093】
上述した二層被膜(絶縁体/バリア層)の形成方法は、貫通ビア、とりわけ集積回路の貫通ビアの形成において、貫通ビアの金属化を可能にする銅シード層で被覆できるようになっている内部構造を構成するのに特に有用である。
【0094】
上記銅シード層自体は湿式堆積法によって、好ましくは液体媒体中で、形成されるのが有利である。
【0095】
従って、本発明の第三の態様は、電気導体基板又は半導体基板の被膜を形成する方法であって、上記被膜は上記工程A.で形成される電気絶縁膜である第一内層と、上記工程B.で形成される銅拡散バリアである第二中間層と、銅シード層である第三外層とからなり、上記第三外層を、
C.a)
・少なくとも一種の溶媒と、
・濃度14〜120mMの銅イオンと、
・エチレンジアミンとを含有する溶液であって、
・エチレンジアミンの銅に対するモル比が1.80〜2.03であり、
・この組成物のpH値が6.6〜7.5である溶液に、第二層の自由表面を接触させ、
b)上記第三層が形成されるのに充分な時間、第二層の上記自由表面を分極させることにより形成する方法に関する。
【0096】
当然ながら、工程C.を行うことで、ビアの金属化が可能になる。
【0097】
工程C.で使用する溶液によって、全く驚くべきことに、ビアの臨界域も含め、基板の被覆率が非常に高い(99%超)ものとなる銅シード層の形成が可能になることが分かった。この効果は、たとえフォームファクタが大きく(アスペクト比が3:1超、更には10〜15:1程度)、ビア容量が比較的大きい(0.8×101〜5×106μm3)構造の場合でも同様である。そのため、上記溶液は工業規模での使用に完全に適したものである。
【0098】
工程C.で使用する溶液の一例としては、銅イオンが16〜64mMの濃度で存在するものが好ましい。
【0099】
また、工程C.で使用する溶液の他の一例としては、銅イオンのエチレンジアミンに対するモル比が1.96〜2.00のものが好ましい。
【0100】
溶媒の性質は、(溶液の活性種が充分に可溶であり、電着を妨げるものでない限り)基本的には限定されないが、水であることが好ましい。
【0101】
工程C.で使用する溶液は概して、銅イオン源、特に第二銅イオンCu2+源を含有する。
【0102】
銅イオン源は、特に硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酢酸銅などの銅塩であることが有利であり、硫酸銅であることが好ましく、硫酸銅五水和物であることが更に好ましい。
【0103】
具体的な特徴によれば、工程C.で使用する溶液中の銅イオン濃度は、14〜120mM、好ましくは16〜64mMである。
【0104】
銅イオン源の濃度が16〜32mMの溶液を用いたとき、優れた結果が得られた。
【0105】
工程C.で使用する溶液中、銅イオンのエチレンジアミンに対するモル比は1.80〜2.03、好ましくは1.96〜2.00である。
【0106】
工程C.で使用する溶液のpH値は概して6.6〜7.5である。この値は、工程C.で使用する溶液が銅イオンとエチレンジアミンのみを上述の割合で含有する場合に通常得られる値である。
【0107】
工程C.で使用する溶液が銅イオン源とエチレンジアミン以外の成分を含有する場合、必要に応じて“Handbook of Chemistry and Physics−84th edition”,David R.Lide,CRC Pressに記載されているようなバッファーを用いて、工程C.で使用する溶液のpH値が上述の範囲となるよう調整してもよい。
【0108】
本発明によれば、工程C.で使用する溶液は、
・濃度16〜64mMの銅イオンと
・エチレンジアミンとからなり、
・エチレンジアミンの銅イオンに対するモル比が1.96〜2.00であり、
・該組成物のpHが6.6〜7.5である
水溶液であるのが現時点では好ましい。
【0109】
上述の溶液は従来の電着法で使用することができる。従来の電着法とは、基板の表面、特に貫通ビア構造の銅拡散バリア層などを上述したような溶液に接触させ、上記基板の表面を、被膜を形成するのに充分な時間分極させて、その間に該基板表面に被膜を形成する方法である。
【0110】
驚くべきことに、溶液を用いると、工程C.で行われる電着処理の際に、被覆対象の表面を溶液に接触させる条件を被膜形成前に調節することで当該分野の優れた結果が得られることが分かった。
【0111】
全く予想外のことであったが、電着工程の前に、電気分極させることなしに、つまり、対電極又は上記表面の参照電極に電流や電位を印加することなしに、被覆対象の表面を工程C.で使用する溶液に接触させることによって、電着により形成される銅被膜層とバリア層との間の接着性を向上できることが分かった。
【0112】
引き続き電着工程前に、基板の被覆対象の表面を、工程C.で使用する溶液に少なくとも1分間、例えば3分程度接触させ続ける(例えば、電着組成物に浸漬する)と、上記接着性が更に向上することが分かった。
【0113】
バリア層上のシード層の接着性が向上すると、「シード層/埋込層又は厚銅又は厚膜」全体の接着性、つまり、シード層形成が目的とするところのアセンブリの「製造工程時の」接着性も向上することが分かった。
【0114】
上記接着性は、例えば、アセンブリの上面に貼られた接着テープを、試験機又は引張装置等で「剥離」することで評価できる。こうして測定された接着性、すなわちJ/m2で表される界面エネルギーは、バリア上のシード層が有する接着性と、シード層上の厚銅層が有する接着性とが総合的に表されたものである。
【0115】
被膜形成後に、銅シード層で被覆された基板を取り出す工程は特に限定されない。
【0116】
例えば、被覆された表面を工程C.で使用する溶液から取り出した後に、好ましくは1〜10秒間、より好ましくは1〜5秒間にわたって電気分極させた状態に保った場合、電着による従来のビア埋め込み方法に適合した導電性を有するシード層が得られることが分かった。
【0117】
このように、工程C.で使用する溶液は、
・被覆対象の上記表面を電気分極させないで電着溶液に接触させ、好ましくはそのままの状態で少なくとも1分間保持する「非通電投入(cold entry)」と呼ばれる工程と、
・上記表面を被膜形成に充分な時間分極させる被膜形成工程と、
・上記表面を電気分極させた状態のまま、電着液から取り出す「通電取出し(hot exit)」と呼ばれる工程と
を含む電着法において好適に使用される。
【0118】
この方法では、所望の被膜を形成するために、充分な時間をかけて電着による被膜形成工程を行う。この時間は当業者であれば容易に設定でき、膜成長は、堆積時間内に回路に流れた電流の時間積分に等しい電荷と相関する(ファラデーの法則)。
【0119】
被膜形成工程が行われる間、定電流(galvanostatic)モード(印加電流固定)、定電圧(potentiostatic)モード((必要に応じ参照電極に対して)印加電位固定)、又は、パルス(電流又は電圧)モードのいずれかで、被覆対象の表面を分極させてもよい。
【0120】
通常は、パルスモードで、好ましくは矩形波電流を印加するようにして、分極させれば、非常に好適な被膜が得られることが分かった。
【0121】
この工程では、通常、単位表面積当たりの最大電流が0.6〜10mA/cm2、好ましくは1〜5mA/cm2であり、単位表面積当たりの最小電流が0〜5mA/cm2、好ましくは0mA/cm2である矩形波電流を印加できる。
【0122】
具体的には、最大電流での分極時間は、2×10−3〜1.6秒、好ましくは0.1〜0.8秒(例えば0.35秒程度)であってもよく、また、最小電流での分極時間は、2×10−3〜1.6秒、好ましくは0.1〜0.8秒(例えば0.25秒程度)であってもよい。
【0123】
この工程中で行うサイクル数は、被膜の所望の厚さによって決まる。
【0124】
上述した好適な条件下において堆積速度が約0.3nm/秒となることが示されたことから、当業者であれば、通常、実行サイクル数を容易に設定できよう。
【0125】
この方法で工程C.を行えば、「貫通ビア」型構造の高抵抗基板上に、50nm〜1μmの厚さの銅シード層を形成できるが、該基板のシート抵抗は、1000Ω/□、更には数メガΩ/□に達していてもよい。
【0126】
従って、本発明は、基板表面、特に「貫通ビア」構造の銅拡散バリア層の表面などを被覆する方法も包含し、上記方法は、上述のように工程C.で使用する溶液に上記表面を接触させる工程と、上記表面を、被膜が形成されるのに充分な時間分極させる工程とを含む。
【0127】
この被膜形成工程C.は、約50nm〜1μm、好ましくは200〜800nm(例えば約300nm)の厚さの銅シード層を、工程A.〜B.を行うことで得られるような銅拡散バリアの「貫通ビア」構造の表面に形成するのに特に有用である。
【0128】
上記に説明した方法を用いれば、新しい構造を持つ(特にシリコン製の)導体又は半導体材料のウェハが製造できる。
【0129】
従って、最後の態様によれば、本発明の主題は、
・1以上のビアを有する(特にシリコン製)導体又は半導体材料のウェハであって、各ビアの壁部は、ポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)からなる厚さ200〜400ナノメートルの内層で被覆され、これにより電気絶縁体が形成されており、その内層自体は、厚さ100〜300ナノメートルの(必要に応じてホウ素と合金化させた)ニッケル層で被覆され、これにより銅拡散バリアが形成されており、そのニッケル層自体は、厚さ200〜500ナノメートルの銅層で被覆され、これによりシード層が形成されていることを特徴とするウェハ;及び
・1以上のビアを有する(特にシリコン製)導体又は半導体材料のウェハであって、各ビアの壁部は、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)からなる厚さ200〜400ナノメートルの内層で被覆され、これにより電気絶縁体が形成されており、その内層自体は、厚さ100〜300ナノメートルの(必要に応じてホウ素と合金化された)ニッケル層で被覆され、これにより銅拡散バリアが形成されており、そのニッケル層自体は、厚さ200〜500ナノメートルの銅層で被覆され、これによりシード層が形成されていることを特徴とするウェハである。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明で採用できる、エレクトログラフティングのパルスプロトコルの模式図である。
【図2】実施例1で得られたNドープSi上のP4VP膜の赤外(ATR−IR)スペクトルである。
【図3】実施例1で得られたNドープSi上のP4VP膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2で得られたPドープSi上のP4VP膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例3で得られたPドープシリコンに形成されたビア(30×60μm)内のP4VP膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例4で得られたNドープシSi上のPHEMA膜の赤外(ATR−IR)スペクトルである。
【図7】実施例4で得られたNドープシSi上のPHEMA膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例6で得られたP+ドープシリコンに形成されたビア(75×200μm)内のPHEMA膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】PAA層と実施例7の第二工程で得られた金属ナノ粒子が堆積されたP4VP膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例7の第三工程で得られたNドープSi上のP4VP−PAA−NiB積層体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】PHEMA層と実施例8の第二工程で得られた金属ナノ粒子が堆積されている、エレクトログラフトされたPHEMA膜を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例8の第三工程で得られたP+ドープシリコンに形成されたビア(75×200μm)内のPHEMA−PHEMA−NiB積層体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例9で得られたPドープシリコンに形成されたビア(30×60μm)内のP4VP−PHEMA−NiB積層体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】実施例10で得られたPドープシリコンに形成されたビア(30×60μm)内のP4VP−PHEMA−NiB−Cu積層体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図15】実施例10で得られたP4VP−PHEMA−NiB−Cu積層体を、アニール前(生サンプル)と不活性ガス中400℃で2時間アニール後のTof−SIMSデプスプロファイルを示す図である。
【図16】実施例11で得られたPドープシリコンに形成されたビア(30×90μm)内のP4VP−PHEMA−NiB−Cu積層体を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0131】
以下の実施例は、添付の図面と共に本発明をより詳細に説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0132】
下記の実施例は研究室規模で行われたものである。
【0133】
特に明記しない限り、これらの実施例は周囲空気で、室温常圧の条件下(約25℃、約1atm)で行われ、試薬は追加精製しないで市販のものを直接使用した。
【0134】
使用された基板の被覆対象表面は、通常シリコン製であるが、必要に応じて各種成分(N、P、P+)を各種パーセントでドーピングしてもよい。
【0135】
場合によっては、具体的に言うとPドープ基板を使用する場合には、ピラニア溶液(H2SO4:H2O2=5:1(v/v))に続いてフッ化水素酸溶液(10%(v/v))に浸漬するという前処理をシリコン表面に施すことが有利であることもある。
【0136】
これらの実施例で使用するシリコン基板の抵抗率は1〜100Ω・cmである。
【0137】
実施例1:平面状のNドープシリコン基板上へのポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)膜の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率20Ω・cmのNドープシリコン片である。
【0138】
溶液:本実施例で使用するエレクトログラフティング溶液は、5mlの4−ビニルピリジン(4−VP、4.5×10−2mol)を95mlの1M塩酸に添加し、そこに236mgの4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート(DNO2、1×10−3mol)を添加して得られた水溶液である。
【0139】
溶液は、使用前にアルゴン流で10分間脱気する。
【0140】
プロトコル:シリコン基板にエレクトログラフティングを行うために使われるシステムは、
・所定の速さで回転する手段を備え、基板を支える形状となっているサンプルホルダー(この組立品は作用電極として機能させる)と、
・対電極として機能させるカーボンシートと、
・安定電源及び電気接触デバイスとを備える。
【0141】
シリコン基板表面へのP4VPのエレクトログラフティングは、予め40〜100rpm(本実施例では60rpm)の速さで回転するように設定した基板に、「定電圧パルス」の電気化学的プロトコルを約10〜30分(本実施例では15分)の所定時間適用することにより行う。
【0142】
図1は採用された電気化学的プロトコルを示しており、
・合計時間Pが0.01〜2秒(本実施例では0.6秒)、
・基板表面に5〜20Vの電位差(本実施例ではカソード電位:−17V)を印加する分極時間Tonが0.01〜1秒(本実施例では0.36秒)、
・ゼロ電位の休止時間Toffが0.01〜1秒(本実施例では0.24秒)となっている。
【0143】
このエレクトログラフティング工程の所要時間は、当然ながら、所望のポリマー絶縁膜の厚さによって異なる。膜成長は印加された電位差と相関するものなので、当業者であれば容易に所要時間を設定できる。
【0144】
上述の条件で、厚さ300ナノメートルのポリマー(P4VP)層を形成した。
【0145】
エレクトログラフティングを終了したらすぐに、試験片を数回水で洗浄し、その後、ジメチルホルムアミド(DMF)で洗浄してから、アルゴン流で乾燥する。その後、2時間オーブン乾燥(90℃)する。試験片の乾燥は、できるだけ無水状態の材料が得られるように高温、典型的には100〜200℃で、不活性雰囲気下行ってもよい。
【0146】
特性評価:このように得られた試験片について、赤外スペクトル分析と飛行時間型二次イオン質量分析(ToF−SIMS)とを行う。
【0147】
得られた赤外スペクトルから分かるように(図2参照)、1580cm−1(P4VP)、1520cm−1(ジアゾニウム)、1350cm−1(ジアゾニウム)にある吸着帯により、シリコン表面にエレクトログラフトされたポリマー(P4VP)の存在が確認できる。
【0148】
陽イオンのToF−SIMS分析でみられたP4VPの特徴的なピークを表1に示す。
【0149】
【表1】
表1:陽イオンの飛行時間型二次イオン質量分析(ToF−SIMS)でみられたNドープSi上のP4VP堆積物の特徴的なピーク
【0150】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図3参照)によって、シリコン試験片表面の均一なポリマー膜を確認することができる。
【0151】
得られたポリマー膜の絶縁性を、C(V)(容量−電圧)測定によって分析した。得られた結果は表2に示す。
【0152】
【表2】
表2:P4VP膜及びPHEMA膜の電気測定の結果
【0153】
得られた数値により、形成されたP4VP被膜の強い絶縁性が確認できる。
【0154】
実施例2:平面状のPドープシリコン基板上へのポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)膜の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率20Ω・cmのPドープシリコン片である。
【0155】
溶液:実施例1で使用した溶液と同一。
【0156】
プロトコル:実施例1で説明したものと同一の試験プロトコルだが、それに加えて、試験片表面の光度を最大にするために、Pドープシリコン試験片の正面に位置する光源(ハロゲンランプ、150W)を用いる。従って、ランプは試験片表面から約10cmの距離に設置し、実験の間を通して試験片を照らし続ける。
【0157】
実施例1で説明したパルスの電気化学的プロトコルを使用し、印加する電位差を1〜10V(本実施例ではカソード電位:−3V)とする。
【0158】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図4参照)により、Pドープシリコン試験片の表面に均一なポリマー膜が形成されていることが確認できる。
【0159】
実施例3:貫通ビアのPドープシリコン表面へのポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)膜の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率3〜26Ω・cmのシリコンウェハであって、深さ60μm、直径30μmの「貫通ビア」型の円筒状パターンがエッチングされている。
【0160】
溶液:実施例1で使用した溶液と同一。
【0161】
プロトコル:まず、超音波照射下で、試験片をエレクトログラフティング溶液中に30秒間浸漬し、ビア内が充分に満たされるようにする。
【0162】
その後のプロトコルは、実施例2のプロトコルと同一である。
【0163】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析により、ビアの被膜が確認できる。図5から、エレクトログラフトされたP4VP膜がビアを完全に被覆していることが分かる。
【0164】
得られた膜はコンフォーマル性が高い。堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは、エレクトログラフトされた層の、ビアの垂直表面(断面又は側面)における厚さと、ビア上端の水平表面のおける厚さの比から算出できる。垂直表面の厚さは、ビアの所定深さ(ビア底部から4μmの高さ)で計測される。この条件下で得られたコンフォーマル性のパーセンテージはほぼ50%である。
【0165】
実施例4:平面状のNドープシリコン基板上へのポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)膜の形成
基板:実施例1で使用した基板と同一。
【0166】
溶液:本実施例で使用するエレクトログラフティング溶液は、30mlの2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、0.24mol)を70mlの0.1N H2SO4に添加し、そこに236mgの4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート(DNO2、1×10−3mol)を添加することによって調製された水溶液である。
【0167】
溶液は、使用前にアルゴン流で10分間脱気する。
【0168】
プロトコル:実施例1で説明したプロトコルと同一。本実施例では、−20Vのカソード電位を印加する。
【0169】
特性評価:得られた試験片について赤外スペクトル分析を行う。得られた赤外スペクトル(図6)には、1720cm−1(PHEMA)、1520cm−1(ジアゾニウム)、1350cm−1(ジアゾニウム)に吸着帯が見られ、シリコン試験片の表面にエレクトログラフトされたポリマー膜の存在が確認できる。
【0170】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図7参照)によって、シリコン試験片表面の均一なポリマー膜を確認することができる。
【0171】
PHEMA膜の電気測定の結果は上記表2に報告されている。得られた数値により、形成されたPHEMA被膜の強い絶縁性が確認できる。
【0172】
実施例5:平面状のPドープシリコン基板上へのポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)膜の形成
基板:実施例2で使用した基板と同一。
【0173】
溶液:実施例4で使用した溶液と同一。
【0174】
プロトコル:実施例2で用いたプロトコルと同一。
【0175】
特性評価:得られた試験片について赤外スペクトル分析を行う。赤外スペクトルから、シリコン表面のエレクトログラフトされたポリマー膜の特徴的な帯域がはっきりと確認できる。
【0176】
実施例6:ビアのP+ドープシリコン表面へのポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)膜の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率8〜20mΩ・cmのシリコンウェハであって、深さ200μm、直径75μmの「貫通ビア」型の円筒状パターンがエッチングされている。
【0177】
溶液:実施例4で使用した溶液と同一。
【0178】
プロトコル:実施例2で用いたプロトコルと同一。
【0179】
特性評価:得られた試験片について赤外スペクトル分析を行う。赤外スペクトルから、シリコン試験片表面のエレクトログラフトされたポリマー(PHEMA)の存在が確認できる。
【0180】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図8参照)により、ビアの表面を完全に被覆する均一なポリマー膜の存在が確認できる。堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは、実施例3と同様に計測して、40%である。
【0181】
実施例7:平面状のNドープシリコン基板上へのP4VP−PAA−NiB(絶縁体/バリア)積層体の形成
基板:実施例1で使用した基板と同一。
【0182】
絶縁体:実施例1に従って形成。
【0183】
拡散バリア:ニッケル−ホウ素(NiB)バリアを、実施例1の最後に得られるポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)表面に3つの工程で堆積する。
【0184】
工程1:ポリ酸系ポリマータイ層の形成
溶液:本実施例で使用する溶液は、ポリアクリル酸(PAA、MW 450000、1g/l)水溶液である。
【0185】
プロトコル:実施例1で得られるP4VP膜で被覆された基板を、ポリアクリル酸水溶液の入ったビーカーに10分間浸漬する。その後、試験片を蒸留水で数回洗浄し、アルゴン流で乾燥する。
【0186】
特性評価:このように得られた試験片について、飛行時間型二次イオン質量分析(ToF−SIMS)を行う。表3に報告するToF−SIMS分析結果から、特徴的なPAAピークを確認することができる。
【0187】
【表3】
表3:陰イオンの飛行時間型二次イオン質量分析(ToF−SIMS)でみられたSiN/P4VP/PAA積層体の特徴的なPAAピーク
【0188】
工程2:NiBナノ粒子の取り込み
溶液:NiBナノ粒子のコロイド懸濁液を20℃で調製する。この際、120mgの金属前駆体:NiSo4(4.5×10−4mol)を50mlの脱イオン水に溶かし、そこに1.8gの安定化剤:臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB、4.7×10−3mol)を添加する。その溶液に、脱イオン水2mlに溶かした80mgの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4、2×10−3mol)を一回の注入で添加する。溶液の色は直ちに濃い黒色へと変色し、これによりコロイド形態の0価の金属の存在が示される。
【0189】
プロトコル:上述の工程で形成されたP4VP−PAAポリマー二重層で表面を被覆された基板をNiBコロイド溶液中に投入する。試験片をその溶液中に数分間、例えば1〜15分間保持した後、脱イオン水で約1分洗浄してからアルゴン流で乾燥する。
【0190】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図9参照)により、ポリマー表面におけるNiBナノ粒子の分布が確認できる。
【0191】
工程3:無電解堆積によるニッケル層の形成
溶液:本実施例で使用する溶液は、50mlの脱イオン水、1.41gのNiSO4(5.4×10−3mol)、3gの三塩基性クエン酸ナトリウム(1×10−2mol)又は2gのクエン酸(1×10−2mol)、及び、141gのジメチルアミノボラン(DMAB、2×10−3mol)を、パイレックス(登録商標)のビーカーに仕込むことによって調製される。水酸化ナトリウム溶液NaOH又はTMAHを添加して、上記溶液のpHを9に調整する。
【0192】
プロトコル:溶液を60℃に熱し、上述の工程で形成した試験片を該媒体中に数分間、例えば2〜10分間投入する。その後、基板を取り出し、脱イオン水で洗浄し、アルゴン流で乾燥する。
【0193】
特性評価:このように処理された表面は、均一で金属的な(鏡のような)外観を持つ。金属化の処理時間によって、得られる金属の厚さは数ナノメートルから数百ナノメートルと幅がある。
【0194】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図10参照)により、表面全体を覆う連続的なNiB金属膜の形成が確認できる。
【0195】
実施例8:ビアのP+ドープシリコン表面へのPHEMA−PHEMA−NiB(絶縁体/バリア)積層体の形成
基板:実施例6で使用した基板と同一。
【0196】
絶縁体:実施例6に従って形成。
【0197】
拡散バリア:ニッケル−ホウ素(NiB)バリアを、実施例6の最後に得られるポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)表面に3つの工程で堆積する。
【0198】
工程1:接着プライマーでできたタイ層の形成
この層は、Mevellecらによる刊行物:Chem.Mater.,2007,19,6323−6330の記載をもとにして形成する。
【0199】
溶液:本実施例で使用する溶液は接着プライマーの水溶液である。これを得るために、まず、
・100mlの0.5M塩酸に1.08g(1×10−2mol)のp−アミノアニリンを溶かした溶液Aと、
・100mlの脱イオン水に690mg(1×10−2mol)のNaNO2を溶かした溶液Bとを調製する。
【0200】
25mlの溶液Bを25mlの溶液Aにゆっくり添加し、この混合液に5mlの2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、4×10−2mol)を更に添加する。これに、還元剤として機能する、1gの99%鉄粉(1.7×10−2mol)又は16mlの市販の50質量%次亜リン酸水溶液を添加して、反応を開始させる。
【0201】
プロトコル:実施例6で得られた、PHEMAにより官能基化されたシリコン基板を溶液に1〜20分間浸漬した後、洗浄(DMF、水)を行い、その後、窒素気流で乾燥する。
【0202】
工程2:NiBナノ粒子の取り込み
溶液:実施例7の工程2で使用した溶液と同一。
【0203】
プロトコル:実施例7の工程2で用いたプロトコルと同一。
【0204】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図11参照)により、ポリマー表面におけるNiBナノ粒子の分布が確認できる。
【0205】
工程3:無電解堆積によるニッケル層の形成
溶液:実施例7の工程3で使用した溶液と同一。
【0206】
プロトコル:実施例7の工程3で用いたプロトコルと同一。
【0207】
特性評価:このように処理された表面は、均一で金属的な(鏡のような)外観を持つ。金属化の処理時間によって、得られる金属の厚さは数ナノメートルから数百ナノメートルと幅がある。
【0208】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図12参照)により、表面全体を覆う連続的なNiB金属膜の形成が確認できる。実施例3と同様に計測すると、NiB堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは50%である。
【0209】
実施例9:ビアのPドープシリコン表面へのP4VP−PHEMA−NiB(絶縁体/バリア)積層体の形成
基板:実施例3で使用した基板と同一。
【0210】
絶縁体:実施例3に従って形成。
【0211】
拡散バリア:実施例8に従って形成。
【0212】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図13参照)により、ビアの表面全体を覆う絶縁体/バリア積層体の形成が確認できる。実施例3と同様に計測すると、堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは65%である。
【0213】
実施例10:ビアのPドープシリコン表面へのP4VP−PHEMA−NiB−Cu(絶縁体/バリア/シード層)積層体の形成
基板:実施例3で使用した基板と同一。
【0214】
絶縁体:実施例3に従って形成。
【0215】
拡散バリア:実施例8に従って形成。
【0216】
銅シード層の形成
溶液:2.1ml/l(32mM)のエチレンジアミンと4g/l(16mM)のCuSo4・5H2Oとを含有する電着水溶液を使用して銅シード層を堆積する。
【0217】
プロトコル:本実施例で行われた電着法は、以下の連続した各種工程を含む。
・基板に電力を加えない状態で、少なくとも1分間(例えば3分間)電着溶液に浸漬させて接触させる「非通電投入」工程。
・基板を定電流パルスモードでカソード分極させ、同時に20〜100回転/分(例えば40回転/分)の速さで回転させる銅成長工程。図1に採用可能な定電流パルスプロトコルの詳細を示す。このプロトコルにおいて、合計時間Pが10ミリ秒〜2秒(本実施例では0.6秒)、単位表面積当たり概して0.6〜10mA/cm2(本実施例では2.77mA/cm2)の電流を印加する分極時間Tonが2ミリ秒〜1.6秒(本実施例では0.35秒)、分極させない休止時間Toffが2ミリ秒〜1.6秒(本実施例では0.25秒)である。当然ながら、この工程の所要時間はシード層の所望の厚さ次第である。膜成長は回路に流れた電荷と相関するものなので、当業者であれば容易に上記所要時間を設定できる。上述の条件下での堆積速度は、回路に流れた電荷1クーロン当たり約1.5nmであり、300nmの厚さの被膜を得るためには、電着工程の所要時間は約17分となる。
・電圧下で分極状態に保持しつつ、回転速度ゼロで、銅で被覆された基板を電着液から取り出す「通電取り出し」工程。この段階の所要時間は約2秒である。次に、回転速度を10秒間、500回転/分とし、この最終段階でカソード分極を終了する。その後、基板を脱イオン水で洗浄し、窒素気流で乾燥する。
【0218】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図14参照)により、ビアの表面全体を覆う3層構造の絶縁体/バリア/銅積層体の形成が確認できる。銅層のコンフォーマル性のパーセンテージは、実施例3と同様に計測して、60%である。
【0219】
NiB層のバリア性を、公知の分析法(M.Yoshinoら,Electrochim.Acta,2005,51,916−920)で確認する。上記分析法は、ToF−SIMSプロファイルによって、アニール後の拡散バリアへの銅拡散の跡を調べるものである。
【0220】
アニール前(生サンプル)と制御雰囲気下400℃で2時間アニール後のToF−SIMSプロファイル(図15参照)を比較すると、NiB拡散バリア中には銅の拡散が見られないことが分かる。
【0221】
実施例11:ビアのPドープシリコン表面へのP4VP−PHEMA−NiB−Cu(絶縁体/バリア/シード層)積層体の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率3〜26Ω・cmのシリコンウェハであって、深さ90μm、直径30μmの「貫通ビア」型の円筒状パターンがエッチングされている。
【0222】
絶縁体:実施例3に従って形成。
【0223】
拡散バリア:実施例8に従って形成。
【0224】
シード層:実施例10に従って形成。
【0225】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析(図16参照)により、ビアの表面全体を覆う絶縁体/バリア/銅からなる3層の積層が確認できる。
【0226】
実施例12:Pドープシリコン表面へのP4VP−NiB(絶縁体/バリア)積層体の形成
基板:実施例2で使用した基板と同一。
【0227】
絶縁体:実施例2に従って形成。
【0228】
拡散バリア:実施例2で説明した取り出し工程の最後に得られるポリ−4−ビニルピリジン(P4VP)表面にニッケル−ホウ素(NiB)バリアを2工程で堆積する。
【0229】
工程1:パラジウム塩溶液によるポリ−4−ビニルピリジンの活性化
溶液:本実施例で使用する溶液は、100mlの0.1M塩酸に溶かした2mg(1.10−5mol)の市販の塩化パラジウム塩(PdCl2)を含有する活性化水溶液である。
【0230】
プロトコル:実施例2で得られたP4VPにより官能基化されたシリコン基板を活性化溶液に30秒〜5分間浸漬する。その後、脱イオン水で洗浄し、窒素気流で乾燥する。
【0231】
工程2:無電解堆積によるニッケル層の形成
溶液:実施例7の工程3で使用したニッケル溶液と同一。エタノールアミンを添加して、溶液のpHが9となるよう調整する。
【0232】
プロトコル:実施例7の工程3で用いたプロトコルと同一。
【0233】
特性評価:このように処理された表面は、均一で金属的な(鏡のような)外観を持つ。金属化の処理時間によって、得られる金属の厚さは数ナノメートルから数百ナノメートルと幅がある。
【0234】
実施例13:ビアのPドープシリコン表面へのP4VP−NiB−Cu(絶縁体/バリア/シード層)積層体の形成
基板:本実施例で使用する基板は、4cm四方(4×4cm)、厚さ750μm、抵抗率20Ω・cmのシリコンウェハであって、深さ30μm、直径5μmの「貫通ビア」型の円筒状パターンがエッチングされている。
【0235】
絶縁体:実施例2に従って形成。
【0236】
拡散バリア:実施例12に従って形成。各種溶液の「貫通ビア」型パターンへの浸透を促進するために、工程1及び2は超音波照射下で行ってもよい。
【0237】
シード層:実施例10に従って形成。
【0238】
特性評価:走査型電子顕微鏡(SEM)を使った分析により、ビアの表面全体を覆う絶縁体/バリア/銅からなる3層の積層が確認できる。実施例13と同様に計測すると、ニッケル堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは78%で、銅堆積物のコンフォーマル性のパーセンテージは60%である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板などの電気導体基板又は半導体基板の表面に電気絶縁膜を形成する方法であって、
a)前記表面を溶液と接触させる工程と、
b)少なくとも60ナノメートル、好ましくは80〜500ナノメートルの厚さの膜が形成されるのに充分な時間、前記表面を定電圧パルスモード又は定電流パルスモードで分極させる工程とを含み、前記溶液は、
・プロトン性溶媒と、
・少なくとも一種のジアゾニウム塩と、
・連鎖重合可能であって前記プロトン性溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーと、
・前記溶液のpH値を7未満、好ましくは2.5未満に調整して前記ジアゾニウム塩を安定化するのに充分な量の少なくとも一種の酸と
を含有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記プロトン性溶媒は、水、好ましくは脱イオン水又は蒸留水;ヒドロキシル化溶媒、特に炭素数1〜4のアルコール類;炭素数2〜4のカルボン酸類、特に蟻酸及び酢酸、並びに、それらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ジアゾニウム塩は下記式(I)で表される化合物から選択されるアリールジアゾニウム塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
R−N2+,A− (I)
(式中、
・Aは一価の陰イオンを表し、
・Rはアリール基を表す。)
【請求項4】
前記連鎖重合可能なモノマーは、前記プロトン性溶媒に可溶であり、下記式(II)で表されるモノマーから選択されるビニルモノマー類から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【化1】
(式中、R1〜R4基は同一又は異なっていてもよく、ハロゲン原子又は水素原子等の一価の非金属原子、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基等の飽和若しくは不飽和化学基、−COOR5基(R5は水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表す)、ニトリル基、カルボニル基、アミン基、又は、アミド基を表す)
【請求項5】
前記溶液は、
・少なくとも0.3Mの重合性モノマーと、
・少なくとも5×10−3Mのジアゾニウム塩とを含有し、
前記重合性モノマーの前記ジアゾニウム塩に対するモル比は10〜300であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面の分極はパルスモードで行われ、その分極の各サイクルは、
・合計時間Pが10ミリ秒〜2秒、好ましくは約0.6秒であり、
・前記基板の表面に電位差が生じる又は電流が印加される分極時間Tonが0.01〜1秒、好ましくは約0.36秒であり、
・ゼロ電位又はゼロ電流である休止時間が0.01〜1秒、好ましくは約0.24秒であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
シリコン基板などの電気導体基板又は半導体基板の被膜を形成する方法であって、
前記被膜は電気絶縁膜である内層と銅拡散バリアである外層とからなり、
A.前記内層を請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で形成し、
B.前記外層を、
a)その得られた内層の表面に、金属又は金属合金、とりわけニッケル又はコバルト、の粒子、特にナノ粒子を含有する有機膜を湿式工程により形成し、
b)この形成された膜を、少なくとも一種の金属塩、好ましくは前記有機膜に含有される金属と同じ性質の金属塩と、安定化剤と、少なくとも一種の還元剤とを含有する溶液に、少なくとも100nmの厚さの金属膜を形成できる条件下で接触させる
ことにより形成することを特徴とする方法。
【請求項8】
前記工程B.a)は、非電気化学的条件下で、前記内層の自由表面を溶液に接触させることにより行われ、
該溶液は、
・少なくとも一種の溶媒、好ましくはプロトン性溶媒と、
・少なくとも一種のジアゾニウム塩と、
・フリーラジカル法で連鎖重合可能であって前記溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーと、
・前記ジアゾニウム塩からフリーラジカルを形成できる少なくとも一種の化学的開始剤とを含有することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程A.a)で用いられる前記連鎖重合可能なモノマーは、ビニルピリジン、好ましくは4−ビニルピリジン、又は、メタクリレート、好ましくは2−ヒドロキシエチルメタクリレートであり、工程B.a)で用いられる前記フリーラジカル法で連鎖重合可能なモノマーは2−ヒドロキシエチルメタクリレートであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記化学的開始剤は、前記溶液のpH値が4以上となるのに充分量の、微粉状の金属還元剤、又は、有機若しくは無機塩基から選択されることを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
工程A.a)で用いられる前記連鎖重合可能なモノマーはビニルピリジン、好ましくは4−ビニルピリジンであり、工程B.a)は、
・少なくとも一種の溶媒、好ましくはプロトン性溶媒と、
・前記溶媒に可溶であり、ポリビニルピリジンの官能基と水素結合又はファンデルワールス結合が可能な官能基を含む少なくとも一種のポリマーと
を含有する溶液に、ポリビニルピリジンからなる前記内層の自由表面を、前記水素結合又はファンデルワールス結合が形成されるのに充分な時間、接触させることで行われ、前記ポリマーは1以上の官能基を含むポリマー類から選択され、その1以上の官能基は、以下の官能基:水酸基、(一級若しくは二級)アミン、アンモニウム、カルボン酸、カルボン酸塩、(環状若しくは直鎖状)無水カルボン酸、C(=O)NHRで表されるアミド(式中、Rは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基)、アミノ酸、ホスホン酸、ホスホン酸塩、リン酸、リン酸塩、スルホン酸、スルホン酸塩、硫酸、硫酸塩、スクシンアミド酸、スクシンアミド酸塩、フタルイミド、フタルイミド塩、及び、Si(OH)n(式中、nは1〜3の整数)から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
工程A.a)で用いられる前記連鎖重合可能なモノマーは4−ビニルピリジンであり、工程B.a)で用いられる前記可溶なポリマーはポリアクリル酸であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属塩は、前記金属の酢酸塩、アセチルアセトネート、ヘキサフルオロリン酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩又はテトラフルオロホウ酸塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記還元剤は、次亜リン酸及びその塩、ボラン誘導体(NaBH4、DMAB)、グルコース、ホルムアルデヒド、及び、ヒドラジンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項7〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
シリコン基板などの電気導体基板又は半導体基板の被膜を形成する方法であって、
前記被膜は電気絶縁膜である内層と、銅拡散バリアである中間層と、銅シード層である外層とからなり、
A.前記内層を請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で形成し、
B.前記中間層を請求項7〜14のいずれか一項に記載の方法で形成し、
C.前記外層を、
a)
・少なくとも一種の溶媒と、
・濃度14〜120mMの銅イオンと、
・エチレンジアミンとを含有する溶液であって、
・エチレンジアミンの銅に対するモル比が1.80〜2.03であり、
・この組成物のpH値が6.6〜7.5である溶液に、前記中間層の自由表面を接触させ、
b)前記外層が形成されるのに充分な時間、前記第二層の前記自由表面を分極させる
ことによって形成することを特徴とする方法。
【請求項16】
前記工程C.a)で用いられる前記溶液は、硫酸銅に由来する第二銅イオンを濃度16〜64mMで含有し、エチレンジアミンの前記銅イオンに対するモル比が1.96〜2.0であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1以上のビアを有する(特にシリコン製)導体又は半導体材料のウェハであって、各ビアの壁部は、ポリ−4−ビニルピリジンからなる厚さ200〜400ナノメートルの内層で被覆され、これにより電気絶縁体が形成されており、その内層自体は、厚さ100〜300ナノメートルの(必要に応じてホウ素と合金化させた)ニッケル層で被覆され、これにより銅拡散バリアが形成されており、そのニッケル層自体は、厚さ200〜500ナノメートルの銅層で被覆され、これによりシード層が形成されていることを特徴とするウェハ。
【請求項18】
1以上のビアを有する(特にシリコン製)導体又は半導体材料のウェハであって、各ビアの壁部は、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレートからなる厚さ200〜400ナノメートルの内層で被覆され、これにより電気絶縁体が形成されており、その内層自体は、厚さ100〜300ナノメートルの(必要に応じてホウ素と合金化された)ニッケル層で被覆され、これにより銅拡散バリアが形成されており、そのニッケル層自体は、厚さ200〜500ナノメートルの銅層で被覆され、これによりシード層が形成されていることを特徴とするウェハ。
【請求項1】
シリコン基板などの電気導体基板又は半導体基板の表面に電気絶縁膜を形成する方法であって、
a)前記表面を溶液と接触させる工程と、
b)少なくとも60ナノメートル、好ましくは80〜500ナノメートルの厚さの膜が形成されるのに充分な時間、前記表面を定電圧パルスモード又は定電流パルスモードで分極させる工程とを含み、前記溶液は、
・プロトン性溶媒と、
・少なくとも一種のジアゾニウム塩と、
・連鎖重合可能であって前記プロトン性溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーと、
・前記溶液のpH値を7未満、好ましくは2.5未満に調整して前記ジアゾニウム塩を安定化するのに充分な量の少なくとも一種の酸と
を含有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記プロトン性溶媒は、水、好ましくは脱イオン水又は蒸留水;ヒドロキシル化溶媒、特に炭素数1〜4のアルコール類;炭素数2〜4のカルボン酸類、特に蟻酸及び酢酸、並びに、それらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ジアゾニウム塩は下記式(I)で表される化合物から選択されるアリールジアゾニウム塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
R−N2+,A− (I)
(式中、
・Aは一価の陰イオンを表し、
・Rはアリール基を表す。)
【請求項4】
前記連鎖重合可能なモノマーは、前記プロトン性溶媒に可溶であり、下記式(II)で表されるモノマーから選択されるビニルモノマー類から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【化1】
(式中、R1〜R4基は同一又は異なっていてもよく、ハロゲン原子又は水素原子等の一価の非金属原子、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基等の飽和若しくは不飽和化学基、−COOR5基(R5は水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表す)、ニトリル基、カルボニル基、アミン基、又は、アミド基を表す)
【請求項5】
前記溶液は、
・少なくとも0.3Mの重合性モノマーと、
・少なくとも5×10−3Mのジアゾニウム塩とを含有し、
前記重合性モノマーの前記ジアゾニウム塩に対するモル比は10〜300であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面の分極はパルスモードで行われ、その分極の各サイクルは、
・合計時間Pが10ミリ秒〜2秒、好ましくは約0.6秒であり、
・前記基板の表面に電位差が生じる又は電流が印加される分極時間Tonが0.01〜1秒、好ましくは約0.36秒であり、
・ゼロ電位又はゼロ電流である休止時間が0.01〜1秒、好ましくは約0.24秒であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
シリコン基板などの電気導体基板又は半導体基板の被膜を形成する方法であって、
前記被膜は電気絶縁膜である内層と銅拡散バリアである外層とからなり、
A.前記内層を請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で形成し、
B.前記外層を、
a)その得られた内層の表面に、金属又は金属合金、とりわけニッケル又はコバルト、の粒子、特にナノ粒子を含有する有機膜を湿式工程により形成し、
b)この形成された膜を、少なくとも一種の金属塩、好ましくは前記有機膜に含有される金属と同じ性質の金属塩と、安定化剤と、少なくとも一種の還元剤とを含有する溶液に、少なくとも100nmの厚さの金属膜を形成できる条件下で接触させる
ことにより形成することを特徴とする方法。
【請求項8】
前記工程B.a)は、非電気化学的条件下で、前記内層の自由表面を溶液に接触させることにより行われ、
該溶液は、
・少なくとも一種の溶媒、好ましくはプロトン性溶媒と、
・少なくとも一種のジアゾニウム塩と、
・フリーラジカル法で連鎖重合可能であって前記溶媒に可溶である少なくとも一種のモノマーと、
・前記ジアゾニウム塩からフリーラジカルを形成できる少なくとも一種の化学的開始剤とを含有することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程A.a)で用いられる前記連鎖重合可能なモノマーは、ビニルピリジン、好ましくは4−ビニルピリジン、又は、メタクリレート、好ましくは2−ヒドロキシエチルメタクリレートであり、工程B.a)で用いられる前記フリーラジカル法で連鎖重合可能なモノマーは2−ヒドロキシエチルメタクリレートであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記化学的開始剤は、前記溶液のpH値が4以上となるのに充分量の、微粉状の金属還元剤、又は、有機若しくは無機塩基から選択されることを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
工程A.a)で用いられる前記連鎖重合可能なモノマーはビニルピリジン、好ましくは4−ビニルピリジンであり、工程B.a)は、
・少なくとも一種の溶媒、好ましくはプロトン性溶媒と、
・前記溶媒に可溶であり、ポリビニルピリジンの官能基と水素結合又はファンデルワールス結合が可能な官能基を含む少なくとも一種のポリマーと
を含有する溶液に、ポリビニルピリジンからなる前記内層の自由表面を、前記水素結合又はファンデルワールス結合が形成されるのに充分な時間、接触させることで行われ、前記ポリマーは1以上の官能基を含むポリマー類から選択され、その1以上の官能基は、以下の官能基:水酸基、(一級若しくは二級)アミン、アンモニウム、カルボン酸、カルボン酸塩、(環状若しくは直鎖状)無水カルボン酸、C(=O)NHRで表されるアミド(式中、Rは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基)、アミノ酸、ホスホン酸、ホスホン酸塩、リン酸、リン酸塩、スルホン酸、スルホン酸塩、硫酸、硫酸塩、スクシンアミド酸、スクシンアミド酸塩、フタルイミド、フタルイミド塩、及び、Si(OH)n(式中、nは1〜3の整数)から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
工程A.a)で用いられる前記連鎖重合可能なモノマーは4−ビニルピリジンであり、工程B.a)で用いられる前記可溶なポリマーはポリアクリル酸であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属塩は、前記金属の酢酸塩、アセチルアセトネート、ヘキサフルオロリン酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩又はテトラフルオロホウ酸塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記還元剤は、次亜リン酸及びその塩、ボラン誘導体(NaBH4、DMAB)、グルコース、ホルムアルデヒド、及び、ヒドラジンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項7〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
シリコン基板などの電気導体基板又は半導体基板の被膜を形成する方法であって、
前記被膜は電気絶縁膜である内層と、銅拡散バリアである中間層と、銅シード層である外層とからなり、
A.前記内層を請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で形成し、
B.前記中間層を請求項7〜14のいずれか一項に記載の方法で形成し、
C.前記外層を、
a)
・少なくとも一種の溶媒と、
・濃度14〜120mMの銅イオンと、
・エチレンジアミンとを含有する溶液であって、
・エチレンジアミンの銅に対するモル比が1.80〜2.03であり、
・この組成物のpH値が6.6〜7.5である溶液に、前記中間層の自由表面を接触させ、
b)前記外層が形成されるのに充分な時間、前記第二層の前記自由表面を分極させる
ことによって形成することを特徴とする方法。
【請求項16】
前記工程C.a)で用いられる前記溶液は、硫酸銅に由来する第二銅イオンを濃度16〜64mMで含有し、エチレンジアミンの前記銅イオンに対するモル比が1.96〜2.0であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1以上のビアを有する(特にシリコン製)導体又は半導体材料のウェハであって、各ビアの壁部は、ポリ−4−ビニルピリジンからなる厚さ200〜400ナノメートルの内層で被覆され、これにより電気絶縁体が形成されており、その内層自体は、厚さ100〜300ナノメートルの(必要に応じてホウ素と合金化させた)ニッケル層で被覆され、これにより銅拡散バリアが形成されており、そのニッケル層自体は、厚さ200〜500ナノメートルの銅層で被覆され、これによりシード層が形成されていることを特徴とするウェハ。
【請求項18】
1以上のビアを有する(特にシリコン製)導体又は半導体材料のウェハであって、各ビアの壁部は、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレートからなる厚さ200〜400ナノメートルの内層で被覆され、これにより電気絶縁体が形成されており、その内層自体は、厚さ100〜300ナノメートルの(必要に応じてホウ素と合金化された)ニッケル層で被覆され、これにより銅拡散バリアが形成されており、そのニッケル層自体は、厚さ200〜500ナノメートルの銅層で被覆され、これによりシード層が形成されていることを特徴とするウェハ。
【図1】
【図2】
【図6】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図2】
【図6】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【公表番号】特表2011−526641(P2011−526641A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515571(P2011−515571)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051279
【国際公開番号】WO2010/001054
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(508084928)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051279
【国際公開番号】WO2010/001054
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(508084928)
【Fターム(参考)】
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