説明

電気鋼板の磁区微細化装置及び方法

電気鋼板の磁区微細化装置及び磁区微細化方法を開示する。前記電気鋼板の磁区微細化装置は,レーザー発光部;前記レーザー発光部から発光されたレーザービームを第1楕円形ビームに変形させるトロイダルミラー;前記トロイダルミラーから伝送された前記第1楕円形ビームを前記スキャンミラーに伝送するスイッチミラー;前記スイッチミラーから伝送されたビームをスキャンして伝送する一対のスキャンミラー;及び前記一対のスキャンミラーから前記第1楕円形ビームを受けて第2楕円形ビームに変形させ,電気鋼板に前記第2楕円形ビームを照射するシリンダーミラーを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低鉄損及び低騒音の方向性電気鋼板の製造装置に係り,より詳しくは電気鋼板の磁区微細化装置,前記装置を用いて電気鋼板の磁区を微細化する方法,及び前記方法を用いて磁区を微細化させた電気鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電気鋼板は圧延方向に{110}<001>方位の集合組職を発達させたものである。アメリカ特許第1,965,559号は方向性電気鋼板の製造方法を初めに開示した。その後,製造方法の多くの改善とともに新しい製造方法が提示されて来た。方向性電気鋼板の製造において共通的なものは,抑制剤と呼ばれる1次再結晶粒の成長抑制機能をする析出物又は粒界偏析元素を用いるものである。この抑制剤は1次再結晶された結晶粒の成長を抑制し,成長が抑制された結晶粒の中で{110}<001>方位の結晶粒が優先的に成長するようにする役目をするものである。これを2次再結晶といい,このように適切な抑制剤を使用して{110}<001>方位の2次再結晶粒を圧延方向に発達させることが方向性電気鋼板の製造技術の核心である。
【0003】
しかし,実際の電気鋼板においては,各結晶粒の(110)面は板面から少し傾き,また[001]方向は圧延方向からも僅かに傾いている。ところが,電気鋼板の磁気的特性はこの傾いた程度に大きく影響され,この分野の研究者らはすべての結晶粒を(110)[001]理想方位に近くなるようにすることで,鉄損を低めることに最大の努力を傾けている。その結果,現在は,板厚が0.23mmであるとき,W17/50が0.85watt/kg程度の低い鉄損値を持つ電気鋼板が工業的に生産される。ここで,W17/50は磁束密度1.7Tesla,50Hzの鉄損を言う。
【0004】
しかし,各結晶粒を理想方位に近接させることだけで,鉄損を低めるのには限界がある。一般に,鉄損は結晶方位の外にも結晶粒度にも依存する。方向性電気鋼板において結晶粒サイズは前述した(110)[001]結晶方位を得るために数mmないし数cmの範囲である。この結晶粒サイズは現在研究者が任意に調節することができない。その理由は,長期間の熱処理過程によって(110)[001]結晶方位を優先的に得なければならないからである。したがって,研究者は人為的な結晶粒サイズの調節のための技術を開発するに至った。人為的な結晶粒サイズの調節技術は,2次再結晶が完了し,最終の絶縁及び張力コーティングが施された後,硬化が済んだ最終製品を用いて,アメリカ特許第3,647,575号のように,鋼板表面に先の鋭い道具,つまり刀や鉄ブラシなどで鋭い傷を出す方法が登場した。
【0005】
その後,より進歩した方法として,レーザーを鋼板の表面に照射して人為的な結晶粒界のような不連続面を提供することで鉄損を減少させるものが現れた。また,レーザー種類はNd−YAGレーザーであり,Q−スイッチモードが使用されている。これは,鋼板にレーザービームを照射するとき,鋼板の表面に塗布されたコーティング層がレーザービームの衝撃によって蒸発するため,さらにコーティングを施さなければならず,これは生産性を阻害する要因となる。
その後,レーザービームをスキャンする装置として,平面鏡を用いて,鋼板の幅方向にレーザービームを往復運動させるレーザー照射装置が登場したが,この装置はそれ以上発展できなかった。その理由は次の通りである。第1に,レーザービームが鏡の一点を継続して照射するので,鏡がレーザー出力エネルギーを受けて一部を反射しながら一部は吸収することによって内部温度が上昇することにより破損しやすかった。結局,鏡の熱的問題を解決することができなかったので,この技術はそれ以上発展しなかった。第2に,鏡が往復運動することにより鋼板上の照射線がジグザグ形に形成される。これは,照射線の間隔が連続して変化するため,効果が均一に得られない欠点があった。第3に,鏡の往復速度が速くなかったため,生産性が低かった。
【0006】
前記平面鏡から生じる問題点を解決するために,多面鏡を用いるレーザービーム照射鏡が提案された。これは,円形の回転体の表面に多数枚の平面鏡を付着し回転体を回転させるので,それぞれの鏡は短時間の間にレーザービームを鋼板表面に照射し,ついで隣接した他の鏡がレーザービームを受けて照射することを連続して生じさせる方式である。しかし,多面鏡の方式は,回転体の直径が300mm以上で,高価な鏡を数十枚も装着するため,騒音が大きく,値段が高いという問題点がある。また,Nd−YAGレーザーとQ−スイッチモードを使用するため,鋼板のコーティングが劣化することを避けることができなかった。
【0007】
また,レーザービームが平行レンズを通じて平行ビームに集束されるとき,平行ビームが多面鏡に入射した後,入射平行ビームはFθレンズを通じて集束されてから鋼板に照射される。集束されたレーザービームは距離に比例して拡散されるため,多面鏡とFθレンズとの間の距離増加に限界があり,よって多面鏡を用いるレーザービームの照射距離は大きくても数十mmである。したがって,多面鏡を用いるレーザー照射装置において,多面鏡を用いる照射幅は数十mmであるため,電気鋼板の幅が1000mmであると仮定すれば,少なくとも10個の多面鏡とこの多面鏡の数に対応するレーザーが必要である。また,照射領域間の境界が二重に照射されるので,鉄損の改良効果が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって,本発明は前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので,その目的は,方向性電気鋼板の表面にレーザービームを照射することで,鉄損を減少させるとともに騒音の原因となる磁気歪を低減させる装置を提供することであり,特に二つのレーザーと6枚の平面鏡を用いて鋼板幅にレーザービームを照射することにより,磁区微細化効果に優れ,コーティング層の劣化がないので再コーティングが必要でない磁区微細化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために,本発明の第1の側面は,レーザービームを発生させるレーザー発光部と;前記レーザー発光部から発生されたレーザービームを受けて伝送方向を変換しながら交互に伝送するスイッチミラーと;前記スイッチミラーから交互に伝送されるレーザービームをスキャンして電気鋼板に交互に照射する一対のスキャンミラーと;を含む光学系を含んでなる,電気鋼板の磁区微細化装置を提供する。
【0010】
前記装置において,前記一対のスキャンミラーは互いに反対方向に左右に往復運動をする。
【0011】
また,前記スイッチミラーは,スキャンミラーが特定の方向に駆動するときだけビームを伝送し,反対方向に駆動するときはビームを伝送しないようにすることで,一対のスキャンミラーのそれぞれにレーザービームを交互に伝送する。
【0012】
この際,前記装置は,前記レーザー発光部とスイッチミラーの間に備えられ,レーザー発光部から伝送されたレーザービームを楕円形に変形させてスイッチミラーに伝送するトロイダルミラーと;前記電気鋼板の上部に備えられ,スキャンミラーから伝送された楕円形のレーザービームを他の形態の楕円形レーザービームに変形させて電気鋼板に照射するシリンダーミラーと;をさらに含む。
【0013】
前記磁区微細化装置は,前記電気鋼板の幅方向にレーザービームの照射範囲を倍加させるために,複数の光学系を備える。
【0014】
前記装置において,前記一対のスキャンミラーのそれぞれは銅の支持部上に接着され,前記銅の支持部の内部には冷却水が通過するように微細な管が形成されている。
【0015】
また,前記装置において,前記一対のスキャンミラーのそれぞれの表面には冷却用窒素が噴射されることにより,スキャンミラーの冷却とほこり汚染を防止する。
【0016】
また,前記装置において,前記レーザーとしては連続波モードを持つ二酸化炭素レーザーが使用されることにより,鋼板のコーティング被膜の損傷を防止し,前記レーザー発光部と前記トロイダルミラーの間には,前記レーザービームを反射して前記トロイダルミラーに伝送する反射ミラーが備えられる。
【0017】
本発明の別の側面では,レーザービームを電気鋼板に照射して鋼板の幅方向にジグザグ線を有しないスクラッチを形成する電気鋼板の磁区微細化方法において,前記レーザービームを左右に往復運動する一対のスキャンミラーのそれぞれに交互に伝送する段階と;前記一対のスキャンミラーを交互にスキャン方向に移動させることでレーザービームを鋼板に照射する段階と;を含んでなる,電気鋼板の磁区微細化方法を提供する。
【0018】
前記電気鋼板の磁区微細化方法は,レーザービームの形状を楕円形に変形させることで,楕円形レーザービームの長軸をレーザービームの照射方向と平行にしてレーザービームの照射速度を向上させる段階をさらに含む。
【0019】
前記方法において,前記レーザービームを楕円形に変形させる段階は2回以上実施してレーザービームのスポットの形状をさらに微細にする。
【0020】
この際,前記レーザービームを楕円形に変形させる段階は,曲面状のトロイダルミラー又は曲面状のシリンダーミラーにレーザービームを伝送することによって実施する。
【0021】
本発明のさらに別の側面は,絶縁皮膜がコーティングされた電気鋼板上にレーザービームによって電気鋼板の幅方向に多数のスクラッチが形成された電気鋼板において,前記電気鋼板には長さ300mm以上の連続した直線形スクラッチが形成され,コーティングされた絶縁皮膜はスクラッチによって損傷されていない,磁区微細化処理された電気鋼板を提供する。
【0022】
この際,前記電気鋼板は20mpm以上の鋼板速度で磁区微細化処理される。また,前記電気鋼板はジグザグ線がないスクラッチを備える。また,前記電気鋼板は,幅1000mm以上の鋼板上にスクラッチが鋼板の幅方向に一つないし四つ形成される。
【0023】
本発明のさらに別の側面は,前記磁区微細化方法によって磁区微細化処理された電気鋼板を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明による方向性電気鋼板の磁区微細化装置は,鉄損を10%以上減少するとともにコーティング層が劣化しない利点がある。また,本発明による方向性電気鋼板の磁区微細化装置は,従来の大型多面鏡型とは異なり,極小型の平面スキャンミラーとスイッチミラーを互いに連動させてレーザービームを鋼板上に連続して照射するので,ジグザグ形のラインパターンのスクラッチを形成せずに300mm以上の連続したスクラッチが電気鋼板上に形成され,その結果,鋼板の広い幅に照射することができ,トロイダルミラーとシリンダーミラーが最少のレーザー及びミラー(スイッチミラー及びスキャンミラー)とともに使用され,よって電気鋼板の照射範囲が倍加され,電気鋼板の磁区微細化を速いライン速度でなすことができる利点がある。また,本発明による方向性電気鋼板の磁区微細化装置は,騒音がなくて管理補修が極めて容易であるので,従来の装置に比べ,環境に優しく,且つ生産コストを格段に節減することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例による電気鋼板の磁区微細化過程を説明する概略図である。
【図2】本発明の実施例による電気鋼板の磁区微細化装置を説明する図である。
【図3】本発明の実施例による磁区微細化装置におけるレーザービームの形状変化を説明する図である。
【図4】本発明の実施例によってシリンダーミラーが鋼板に斜めに配置された状態を説明する図である。
【図5】レーザー出力強度による鉄損改善効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下,本発明が属する技術分野で通常の知識を持った者が本発明の技術的思想を容易に実施することができるように本発明の実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。しかし,本発明は以下の実施例に限定されることなく他の形態においても具現化可能である。以下の実施例は,本発明の範囲及び精神を完全に理解できるようにかつ本発明の技術的思想を当業者に十分に伝達することができるように提供するものである。
【0027】
本発明の実施例において,第1及び第2などの用語は本発明の構成要素を説明するために使用するもので,本発明の構成要素をこれら用語に限定して解釈してはいけない。これら用語は所定の構成要素を他の構成要素と区別するために使用される。
【0028】
以下,図面を参照するが,同一符号は全図にわたって同一ないし類似の構成要素を指示するのに使用される。
【0029】
図1は電気鋼板の磁区微細化過程を説明する概略図である。図1を参照すれば,ロール状態の鋼板2は巻出リール(pay off reel)1から解けて,第1ピンチロール(pinch roll)3及び第2ピンチロール3’によって経路ライン(path line)をなす。これにより,鋼板2は巻出リール1から解けて巻取ロール14に再び巻き取られる。第1レーザー発光部6から発光した第1レーザービーム9は一対の第1スキャンミラー12に到逹する。一対の第1スキャンミラー12は左右に往復運動しながら第1レーザービーム9を放物面反射鏡であるシリンダーミラー5に照射する。
【0030】
シリンダーミラー5はその下で移送される鋼板2上にレーザービームを照射して鋼板2の磁区を微細化させる。同様な方式で,第2レーザー発光部7,第2レーザービーム8,一対の第2スキャンミラー13,シリンダーミラー5によって鋼板2の磁区が微細化される。
【0031】
レーザービームが照射された鋼板2は連続式鉄損測定器30を通過すると同時に鋼板の鉄損が測定される。磁区微細化装置を通過するに先立ち,鋼板2上にX線厚さ測定器4が配置される。測定された鉄損とX線厚さの信号によって,単位重量当たり鉄損を表示することできる。これにより,作業者が磁区微細化の効果を認識することができる。
【0032】
以下,図2を参照して,本発明の実施例による電気鋼板の磁区微細化装置を詳細に説明する。
【0033】
電気鋼板の磁区微細化装置100は,第1光学系と第2光学系でなり,第1光学系と第2光学系は鋼板2の幅方向にそれぞれ2分の1領域にレーザービームを照射する。例えば,第1及び第2光学系はそれぞれ幅方向に600mmにわたってレーザービームを照射する。前記第1光学系は,第1レーザー発光部6,一対の第1反射鏡15,16,第1トロイダルミラー17,第1スイッチミラー11,一対の第1スキャンミラー12,及びシリンダーミラー5で構成される。前記第2光学系は,第2レーザー発光部7,一対の第2反射鏡18,19,第2トロイダルミラー20,第2スイッチミラー10,一対の第2スキャンミラー13,及びシリンダーミラー5で構成される。
【0034】
前記第1光学系と第2光学系は同一方式で駆動するので,第1光学系についてだけ以下に説明する。
【0035】
前記第1光学系は,第1レーザー発光部6から円形の第1レーザービーム9が発光される。前記第1レーザービーム9としては,ビームの進行の際に拡散しない連続波モード(continuous wave mode)の二酸化炭素(CO2)レーザーが適当であり,発光された第1レーザービーム9を集光するためのコリメートレンズを必要としない。前記第1レーザービーム9は一対の第1反射鏡15,16によって経路が修正されて第1トロイダルミラー17に到逹する。前記第1トロイダルミラー17は曲面鏡であって,円形の第1レーザービーム9を第1楕円形ビーム21に変形させる。第1楕円形ビーム21は第1トロイダルミラー17から第1スイッチミラー11に伝送される。第1スイッチミラー11は一対の第1スキャンミラー12のいずれか一方に第1楕円形ビーム21を交互に伝送する。二つの第1スキャンミラー12は互いに反対方向に往復運動する。すなわち,第1スキャンミラー12のいずれか一方12aがシリンダーミラー5の左側から右側にスキャンするために,第1スイッチミラー11から第1楕円形ビーム21を受ける瞬間,第1スキャンミラー12の他方12bはシリンダーミラー5に第1楕円形ビーム21を伝送して右側から左側に復帰する。
【0036】
前記スイッチミラー11は,第1スキャンミラー12が一方向にだけ第1楕円形レーザービーム21をシリンダーミラー5に伝送するとき第1楕円形レーザービーム21を第1スキャンミラー12に伝送し,第1スキャンミラー12が反対方向に第1楕円形ビーム21をシリンダーミラー5に伝送するとき第1楕円形レーザービーム21を遮断するので,スイッチミラー11は第1楕円形レーザービーム21がジグザグに照射されることを防止することができる。
【0037】
前記第1スキャンミラー12から伝送された第1楕円形ビーム21はビームの進行の際,拡散しないので,第1スキャンミラー12とシリンダーミラー5間の距離を大きくすることができ,第1スキャンミラー12とシリンダーミラー5間の距離を増加させることにより第1楕円形ビーム21のシリンダーミラー5への連続照射長さを増加させることで鋼板上に連続したスクラッチを長く形成することができる。
【0038】
また,第1スキャンミラー12の往復回転角度を変化させることにより,第1楕円形ビーム21のシリンダーミラー5への連続照射長さを容易に調節することができる。この際,第1楕円形ビーム21のシリンダーミラー5への連続照射長さが増加するように,第1スキャンミラー12の往復回転角度を設定して鋼板上に300mm以上の連続したスクラッチを付与することが好ましい。これにより,幅1000mm以上の鋼板,特に約1200mm幅の鋼板上に連続したスクラッチが鋼板幅に四つ以下で付与されるので,四つ以下のレーザーとミラー(スイッチミラー,トロイダルミラー,シリンダーミラー)及び4対以下のスキャンミラーによって効果的に磁区を微細化することができ,生産設備の効率性を極大化して維持補修コストを節減することになる。
【0039】
シリンダーミラー5に到逹した第1楕円形ビーム21はシリンダーミラー5によって第2楕円形ビーム22に変形される。第2楕円形ビーム22が鋼板2に照射されることにより,鋼板2の磁区が微細化される。
【0040】
本発明の実施例において,レーザービームがミラー(トロイダルミラー,スイッチミラー,スキャンミラー,シリンダーミラーなど)に継続して照射されるので,ミラーの温度上昇を防ぐための冷却とほこりによる汚染を防止することが必要である。ミラーの冷却のために冷却水を利用することができる。例えば,支持部上にミラーを接着し,支持部の内部に微細管を形成し,冷却水を流すことができ(又は,ミラーそのものが支持体をも兼ねる場合には,ミラーそのものに冷却水を流すことができる),冷却水の流量調節によって冷却能を調節することができる。一方,レーザービームが照射されるミラーの表面のほこり汚染を防止するために,ミラーの表面上にエアカーテンを形成することができる。例えば,ミラーの表面に冷却用窒素を供給してミラーのほこり汚染及びミラーの温度上昇を同時に防止することができる。
【0041】
図3を参照して,本発明の実施例による電気鋼板の磁区微細化装置のレーザービーム形状変化を説明する。第1レーザービーム9は円形である。第1レーザービーム9はトロイダルミラー17によって第1楕円形ビーム21に変形される。第1楕円形ビーム21はシリンダーミラー5によって長い形態の第2楕円形ビーム22に変形される。一対の第1スキャンミラー12及び一対の第2スキャンミラー13によって,鋼板2上に照射線23,24が交互に形成される。本発明の実施例によれば,円形ビームでない楕円形ビームを使用して磁区微細化を向上させるので,速いライン速度に対応することができる。これは,楕円形ビームが円形ビームより短時間に微細化をなすことができるからである。
【0042】
図4を参照すれば,一対の第1スキャンミラー12及び一対の第2スキャンミラー13は前記シリンダーミラー5の長手方向に沿って前記第1楕円形ビーム21を伝送する。前記シリンダーミラー5はその長手方向が鋼板2の幅方向に対して斜めに配置され,第2楕円形ビーム22が鋼板2の幅方向に平行に照射される(図4で矢印は鋼板の進行方向を示す)。よって,鋼板にビームがジグザグに照射されないので,照射線の間隔が一定であって磁区微細化の効果を均一にすることができる。
【0043】
前述したような電気鋼板の磁区微細化装置によって電気鋼板の磁区を微細化する方法を以下に説明する。まず,第1スキャンミラー12a,12bを運動方向が互いに反対になるように左右に往復運動させた状態で,レーザー発光部6から第1レーザービーム9を発生させる段階を遂行する。
【0044】
ついで,円形の第1レーザービーム9をトロイダルミラー17に伝送して第1楕円形ビーム9に変形する段階を遂行する。この際,前記第1楕円形ビーム21の短軸の長さが第1レーザービーム9の直径より小さくなるようにすることが好ましい。これは,鋼板に照射されるビームの長軸が照射方向に形成されるようにするためである。
【0045】
その後,第1楕円形ビーム21を受けた第1スイッチミラー11はスキャンミラー12a,12bに交互に第1楕円形ビーム21を伝送する段階を遂行する。
【0046】
前記スキャンミラー12a,12bのそれぞれは交互にスキャン方向に運動しながらスイッチミラー11から交互に伝送された第1楕円形ビーム21をスキャンする段階を遂行する。
【0047】
ついで,鋼板に照射されるビームの形態をより適切に形成するために,前記第1楕円形ビーム21をシリンダーミラー5によって第2楕円形ビーム22に変形する段階を遂行する。第2楕円形ビーム22は鋼板の幅方向に照射されてスクラッチを形成することで電気鋼板の磁区を微細化させる。
【0048】
前述したような方法によって磁区微細化処理された鋼板はジグザグ形スクラッチなしに直線形のスクラッチが形成されるので,鉄損が大きく改善される。
【0049】
また,照射方向に長軸を成す楕円形ビームによって照射されるので,レーザー照射速度が向上し,スクラッチの形成過程で鋼板表面にコーティングされた絶縁皮膜が損傷されることを防止することができる。
【0050】
通常の鋼板は1000mm以上の幅,特に約1200mmの幅を持つので,スクラッチの長さが300mm未満の場合,五つ以上のスクラッチが鋼板の幅方向に付与される。これは磁区微細化による鉄損の改善効果を低下させる要因として作用するだけでなく,五つ以上のレーザーとミラー(スイッチミラー,トロイダルミラー,シリンダーミラー)及び5対以上のスキャンミラーを必要とするものなので,生産設備の効率性の面で適合せず維持補修コストを増加させる問題をもたらすことになる。したがって,長さ300mm以上の連続したスクラッチを鋼板上に付与して,1000mm以上の幅の鋼板,特に約1200mm幅の鋼板上に一つないし四つのスクラッチを形成することが好ましい。
【0051】
本発明の実施例で使用されるレーザーは連続波モードの二酸化炭素(CO2)レーザーである。レーザー出力強度は鉄損改善率が良好でありながらも鋼板表面のコーティング層が蒸発しない適正範囲内で調節する。
【0052】
それぞれのレーザー発光部から発光された二つのレーザービーム8,9は鋼板2上にそれぞれ幅方向に600mmずつ照射することが効果的である。これは,現在までスキャンミラー10,11の運動速度の限界に起因する。本発明の一実施例によれば,スキャンミラー10,11の往復運動速度を考慮して,それぞれのレーザー発光部から発光された二つのビーム8,9を幅1200mmの鋼板2上にそれぞれ幅方向に600mmずつ照射して二つのスクラッチを形成した。レーザー発光部から発光されたレーザービーム9は直径が25mm程度である円形であり,トロイダルミラー17によってビームの形状が直径25mmの円形から長軸25mm,短軸8mmの楕円形に変化され,シリンダーミラー5によってビームの形状が長軸8mm,短軸0.2mm程度の楕円形に変化される。
【0053】
鋼板速度20mpm,スクラッチ間隔5mmの条件下でレーザーを照射して磁区を微細化した結果,ジグザグ線が発生しない600mmの連続した直線形スクラッチが鋼板上に形成され,鉄損改善率は平均10%で,良好であった。また,鋼板の速度を30mpm,50mpm,80mpmにして前記スクラッチを形成した結果においても,ジグザグ線が発生しない600mmの連続した直線形スクラッチが鋼板上に形成され,鉄損改善率も10±2%で,良好であった。この結果から,本発明の磁区微細化方法によれば,20mpm以上,80mpm以下の速い鋼板速度においても有効に磁区を微細化することができることを確認することができた。
【0054】
図5はレーザー出力強度による方向性電気鋼板の鉄損改善率を示す。試験に使用された試料は磁束密度B10=1.92Tesla,鉄損(W17/50)=0.90watt/kgであった。試験に使用されたレーザーはCO2レーザーであり,レーザーのビームモードは連続波モードである。図5から,レーザー出力強度1.1KW以上では鉄損改善率が約10%であることが分かる。また,2.3KW以上では鉄損改善率は良いが,鋼板表面コーティング層が蒸発する現象が現れた。したがって,十分な磁区微細化効果を奏する好ましい領域は1.0KW〜2.2KWの範囲に限定することが好ましい。
【0055】
本発明の実施例によれば,電気鋼板の磁区微細化装置は騷音が少なく,維持補修が極めて簡単で低費用である利点がある。また,電気鋼板のコーティング層が劣化しないので,再コーティングの必要がない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザービームを発生させるレーザー発光部と;
前記レーザー発光部から発生されたレーザービームを受けて伝送方向を変換しながら交互に伝送するスイッチミラーと;
前記スイッチミラーから交互に伝送されるレーザービームをスキャンして電気鋼板に交互に照射する一対のスキャンミラーと;を含む光学系を含んでなることを特徴とする電気鋼板の磁区微細化装置。
【請求項2】
前記一対のスキャンミラーは互いに反対方向に左右に往復運動をすることを特徴とする請求項1記載の電気鋼板の磁区微細化装置。
【請求項3】
前記スイッチミラーは,スキャンミラーが特定の方向に駆動するときだけビームを伝送し,反対方向に駆動するときはビームを伝送しないようにすることで,一対のスキャンミラーのそれぞれにレーザービームを交互に伝送することを特徴とする請求項1記載の電気鋼板の磁区微細化装置。
【請求項4】
前記レーザー発光部とスイッチミラーの間に備えられ,レーザー発光部から伝送されたレーザービームを楕円形に変形させてスイッチミラーに伝送するトロイダルミラーと;
前記電気鋼板の上部に備えられ,スキャンミラーから伝送された楕円形のレーザービームを他の形態の楕円形レーザービームに変形させて電気鋼板に照射するシリンダーミラーと;をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の電気鋼板の磁区微細化装置。
【請求項5】
前記磁区微細化装置は,前記電気鋼板の幅方向にレーザービームの照射範囲を倍加させるために,複数の光学系を備えることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の電気鋼板の磁区微細化装置。
【請求項6】
前記一対のスキャンミラーのそれぞれは銅の支持部上に接着され,前記銅の支持部の内部には冷却水が通過するように微細な管が形成されていることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の電気鋼板の磁区微細化装置。
【請求項7】
前記一対のスキャンミラーのそれぞれの表面には冷却用窒素が噴射されることにより,スキャンミラーの冷却とほこり汚染を防止することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の電気鋼板の磁区微細化装置。
【請求項8】
前記レーザーとしては連続波モードを持つ二酸化炭素レーザーが使用されることにより,鋼板のコーティング被膜の損傷を防止することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の電気鋼板の磁区微細化装置。
【請求項9】
前記レーザー発光部と前記トロイダルミラーの間には,前記レーザービームを反射して前記トロイダルミラーに伝送する反射ミラーが備えられることを特徴とする請求項4記載の電気鋼板の磁区微細化装置。
【請求項10】
レーザービームを電気鋼板に照射して鋼板の幅方向にジグザグ線を有しないスクラッチを形成する電気鋼板の磁区微細化方法において,
前記レーザービームを左右に往復運動する一対のスキャンミラーのそれぞれに交互に伝送する段階と;
前記一対のスキャンミラーを交互にスキャン方向に移動させることでレーザービームを鋼板に照射する段階と;を含んでなることを特徴とする電気鋼板の磁区微細化方法。
【請求項11】
前記電気鋼板の磁区微細化方法は,
レーザービームの形状を楕円形に変形させることで,楕円形レーザービームの長軸をレーザービームの照射方向と平行にしてレーザービームの照射速度を向上させる段階をさらに含むことを特徴とする請求項10記載の電気鋼板の磁区微細化方法。
【請求項12】
前記レーザービームを楕円形に変形させる段階を2回以上実施してレーザービームのスポットの形状をさらに微細にすることを特徴とする請求項11記載の電気鋼板の磁区微細化方法。
【請求項13】
前記レーザービームを楕円形に変形させる段階は,曲面状のトロイダルミラー又は曲面状のシリンダーミラーにレーザービームを伝送することによって実施することを特徴とする請求項11又は12記載の電気鋼板の磁区微細化方法。
【請求項14】
絶縁皮膜がコートされた電気鋼板上にレーザービームによって電気鋼板の幅方向に多数のスクラッチを形成した電気鋼板において,前記電気鋼板には長さ300mm以上の連続した直線形スクラッチが形成され,コーティングされた絶縁皮膜はスクラッチによって損傷されないことを特徴とする磁区微細化処理された電気鋼板。
【請求項15】
前記電気鋼板はジグザグ線がないスクラッチを備えることを特徴とする請求項14記載の磁区微細化処理された電気鋼板。
【請求項16】
前記電気鋼板は,幅1000mm以上の鋼板上にスクラッチが鋼板の幅方向に一つないし四つ形成されることを特徴とする請求項14記載の磁区微細化処理された電気鋼板。
【請求項17】
前記電気鋼板は20mpm以上の鋼板速度で磁区微細化処理されて製造されたことを特徴とする請求項14〜16いずれか1項記載の磁区微細化処理された電気鋼板。
【請求項18】
レーザービームによってスクラッチが幅方向に多数形成された電気鋼板において,幅1000mm以上の鋼板上にスクラッチが鋼板の幅方向に一つないし四つ形成されたことを特徴とする磁区微細化処理された電気鋼板。
【請求項19】
前記電気鋼板は20mpm以上の鋼板速度で磁区微細化処理されて製造されたことを特徴とする請求項18記載の磁区微細化処理された電気鋼板。
【請求項20】
請求項10〜請求項13いずれか1項の磁区微細化方法によって磁区微細化処理された電気鋼板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−511152(P2011−511152A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540568(P2010−540568)
【出願日】平成20年12月23日(2008.12.23)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007597
【国際公開番号】WO2009/082155
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(504201187)ポスコ (11)
【Fターム(参考)】