説明

電気駆動ダンプトラック

【課題】すり板の偏摩耗を防ぐとともにトロリー走行中のドライバの操作負担を軽減することのできる電気駆動ダンプトラックを提供する。
【解決手段】車両制御装置50と、コントローラ100と、インバータ制御装置30と、操舵制御装置32は、カメラ15により取得した画像情報に基づいて、車両本体1がトロリー線3L,3Rを中心として蛇行して走行するよう車両本体1にヨーモーメントを与える制御を行う制御装置を構成する。また、この制御装置は、カメラ15により取得した画像を座標情報に変換し、その座標情報に基づいて車両本体1の少なくとも1つの代表点とトロリー線3L,3R上に位置する少なくとも1つの目標点を算出し、かつこの目標点を基準にして変動する変動点を設定し、代表点が変動点に近づくように車両本体1にヨーモーメントを与える制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気駆動ダンプトラックに関わり、特に、トロリー線から電力を受けて走行する電気駆動ダンプトラックに関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山を走行するダンプトラックには、エンジンが発電機を駆動し、その発電機が発電する電力を後輪のモータに供給し、後輪を駆動するシリーズハイブリッド型のものが知られている。また、この電気的な構成を利用して、所定の上り坂区間にて、エンジン−発電機による電力供給ではなく、一般的には電車に見られるトロリー線を設置し、車両本体に設けた昇降可能な集電装置のすり板を上げてトロリー線に接触させ、電力を得て走行する(以下トロリー走行という)トロリー方式の走行技術が実現されている。このトロリー方式の走行技術は例えば特許文献1に記載されている。この場合、エンジンによって発電した電力よりもトロリー線から供給される電力の方が大きいため、トロリー走行が可能な上り坂区間での走行速度低下を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許4,483,148号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のようなトロリー方式のダンプトラックにおいて、トロリー走行中は、ドライバはトロリー線を目視しながら、トロリー線に沿うように操舵する。このとき、トロリー線とすり板の接点の位置がすり板の中心付近に集中する場合がある。ダンプトラックの大きさに対してすり板は小さいため、ドライバはすり板の中央付近にトロリー線が位置するように操舵することはできても、すり板の偏磨耗にまで配慮することは困難であり、操作負担が増大する。しかし、このようなすり板の偏摩耗や偏磨耗による発熱の集中は、すり板の寿命の短命化や、すり板の破壊、あるいはすり板の破壊に伴うトロリー線の破損を招く原因となる。
【0005】
本発明の目的は、すり板の偏摩耗を防ぐとともにトロリー走行中のドライバの操作負担を軽減することのできる電気駆動ダンプトラックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、車両本体に設けられた昇降可能な集電装置のすり板を上げ、このすり板を道路に沿って設けられたトロリー線に接触させ、前記トロリー線から電力を受けて走行する電気駆動ダンプトラックにおいて、走行用の左右の電動モータと、操舵装置と、前記車両本体に設けられ、走行中に前記トロリー線の下方から前記トロリー線を検出するトロリー線検出装置と、前記トロリー線検出装置により検出した前記電気駆動ダンプトラックと前記トロリー線の相対位置情報に基づいて、前記トロリー線を中心として蛇行して走行するよう前記車両本体にヨーモーメントを与える制御を行う制御装置とを備え、前記制御装置は、車両制御装置と、コントローラと、インバータ制御装置と、操舵制御装置とを備え、前記車両制御装置は、前記車両本体にヨーモーメントを与えるためのヨーモーメント補正値を演算し、前記コントローラは、前記ヨーモーメント補正値に基づいて、前記インバータ制御装置及び前記操舵制御装置により前記左右の電動モータと前記操舵装置の少なくとも一方を制御するものとする。
【0007】
このように構成した本発明においては、トロリー線の下方からトロリー線を検出し、車体蛇行制御を行うために車両を進行方向に対して垂直方向に振動させるためのヨーモーメントを付加する。これにより車両はトロリー線を中心にして蛇行しながら走行し、トロリー線とすり板の接点がすり板の中心に集中せず、トロリー線とすり板を均等に接触させながらダンプトラックを走行させることができる。よってドライバがすり板の偏摩耗に気を配ることなくすり板の偏摩耗を防ぐことができ、操作負担が軽減する。
また、車両制御装置とコントローラを別体としてヨーモーメント制御を行うことにより、コントローラが既存のコントローラであっても、車両制御装置を付加するだけで本発明のヨーモーメント制御が行える、或いは、車両制御装置の機能を変更するだけでヨーモーメント制御のパラメータを調整することができるなど、制御系に柔軟性を持たせることができる。
【0008】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、前記制御装置は、前記トロリー線検出装置により検出した前記電気駆動ダンプトラックと前記トロリー線の相対位置情報に基づいて前記車両本体の少なくとも1つの代表点と前記トロリー線上に位置する少なくとも1つの目標点を算出し、かつ前記目標点を基準にして変動する変動点を設定し、前記代表点が前記変動点に近づくように前記車両本体にヨーモーメントを与える制御を行う。
【0009】
これにより車両本体はトロリー線に対して高い精度で蛇行して走行するようになり、すり板の偏摩耗をより正確に防ぐことができる。
【0010】
また請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、前記車両の車体速を計測する車体速検出装置を更に備え、前記制御装置は、予め記憶しておいたトロリー走行を行う区間の距離、前記車体速検出装置で計測される車両の車体速の少なくとも一方に応じて決まる所定の周期にて前記変動点を周期的に変動させる。
【0011】
これにより、トロリー走行区間や車両本体の状況の状況に応じてすり板とトロリー線を均一に接触させることができ、よってすり板の偏磨耗を確実に防ぐことができる。
【0012】
また請求項4記載の発明は、請求項3記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、前記制御装置は、前記トロリー走行区間距離、前記車体速の少なくとも一方に応じた正弦波関数、台形波関数、三角波関数のいずれか一つに従って決まる所定の周期にて前記変動点を周期的に変動させる。
【0013】
これにより、すり板をトロリー線に対して周期的により均一に接触させることができ、すり板の偏磨耗をより確実に防ぐことができる。
【0014】
また請求項5記載の発明は、請求項3記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、前記制御装置は、前記変動点を周期的に変動させる際に、前記変動点を前記トロリー走行区間を走行する間に少なくとも半周期以上変動させる。
【0015】
これにより、トロリー走行区間では蛇行制御が少なくとも半周期以上行われるため、周期が少ないためにトロリー線とすり板が接触しない個所が発生することを確実に抑制することができ、すり板とトロリー線がより平均的に接触することになり、すり板の偏磨耗をより確実に防ぐことができる。
【0016】
また請求項6記載の発明は、請求項2記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、ドライバによるハンドルの操作角とタイヤの転舵角のいずれか一方を計測する角度センサと、前記車両のヨーレイトを計測するヨーレイト検出装置とを更に備え、前記制御装置は、前記車両が直進走行区間を走行しているかどうかを、前記角度センサによって計測される操舵角と転舵角のいずれか一方と、前記ヨーレイト検出装置で計測されるヨーレイトの少なくとも一方が所定の値以下になっている時間が所定時間以上持続するかどうかで判断し、車両がこの直進走行区間を走行していると判断されるときに、前記変動点を設定する。
【0017】
これにより、簡易に直進走行区間を走行しているかどうかを判別することができ、またトロリー線が直線に設置されている区間で蛇行制御が行われるようになり、安定して車両本体をトロリー線に対して蛇行して走行させることができる。
【0018】
また請求項7記載の発明は、請求項2記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、前記制御装置は、前記トロリー走行区間を走行する回数を記憶し、その走行回数に応じて、前記変動点の変動方向を前記トロリー走行区間を走行する毎に逆転させる。
【0019】
これにより、トロリー走行区間の長さが周期に満たない場合であっても、蛇行制御が開始される際の振幅の方向が入れ替わり、すり板の片側だけが偏摩耗する問題を簡単かつ確実に解決することができる。
【0020】
また請求項8記載の発明は、請求項1又は2のいずれか1項記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、前記トロリー線検出装置は、前記車両本体に設けられ、走行中に前記トロリー線を連続的に撮像するカメラと、前記車両本体に設けられ、前記トロリー線を照らす照明装置とを有する。
【0021】
このようにトロリー線検出装置としてカメラを用いた場合でも、照明装置でトロリー線を照らすことで、空に対するトロリー線のコントラストが維持され、昼間の天候状態が良好なときだけでなく、夕方、夜間、雨天など、トロリー線と空との高いコントラストが得にくい場合でも、トロリー線に対して蛇行して走行させるヨーモーメント制御を精度良く行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電気駆動ダンプトラックによれば、電気駆動ダンプトラックにおいて、すり板の偏摩耗を防ぐとともにトロリー走行中のドライバの操作負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態による電気駆動ダンプトラックの側部外観を示す側面図である。
【図2】ダンプトラックの後部外観を示す背面図である。
【図3】本実施の形態における電気駆動ダンプトラックの駆動システムを示す図である。
【図4】トロリー線から電力を受ける集電装置の構成を示す図である。
【図5】操舵制御装置と操舵装置とから構成される操舵システムを示す図である。
【図6】操舵制御装置が転舵トルク指令値を算出するにいたる機能を示すブロック図である。
【図7】コントローラの車体速制御部の機能の説明を示すブロック図である。
【図8】コントローラのヨーモーメント制御部の機能の詳細を示すブロック図である。
【図9】モータ駆動力100%で走行しているときの総駆動力に対する、ヨーモーメント補正値を駆動力差によって実現する場合の影響を示す図である。
【図10】モータトルク指令値の算出方法の一例を示す図である。
【図11】車両制御装置の構成及び車両制御装置とコントローラとの入出力関係を示す図である。
【図12】車両とカメラの撮像範囲(トロリー線検出装置の検出範囲)の位置関係を車両の側面からみた場合の図である。
【図13】車両とカメラの撮像範囲(トロリー線検出装置の検出範囲)の位置関係を上空(車両の上方)から見た場合の図である。
【図14】カメラで撮像された画面を示す図である。
【図15】撮像した画面の処理(エッジ抽出)を示す図である。
【図16】撮像した画面の処理(中心線の抽出)を示す図である。
【図17】トロリー線に対して車両が左にずれた場合のカメラの画面を示す図である。
【図18】トロリー線に対して車両が斜めに走行している場合のカメラの画面を示す図である。
【図19】本発明の一実施の形態で用いるトロリー線検出領域と座標系を示す図である。
【図20】車両状態量制御部の機能の詳細を示すブロック図であって、目標位置に対する現位置の偏差をヨーモーメント補正値にする計算の流れを示す図である。
【図21】不感帯を設定した場合のトロリー線検出領域と座標系を示す、図19と同様な図である。
【図22】車両状態量制御部の機能の詳細を示すブロック図であって、代表点を変動点に一致させるためのヨーモーメント補正値を算出する流れを示す図である。
【図23】車両制御装置の実施例におけるカメラで上方を撮像してから制御出力されるまでの処理の流れを示すフローチャートである。
【図24】図23に示すトロリー線追従・蛇行制御ステップ300の処理の詳細を示すフローチャートである。
【図25】図24のステップ320の処理でのヨーモーメント補正値の算出方法の一例を示す図である。
【図26】トロリー線追従制御の逸脱監視点を設定した図19及び図22と同様な図である。
【図27】車両制御装置の他の実施例におけるカメラで上方を撮像してから制御出力されるまでの処理の流れを示すフローチャートである。
【図28】図27のステップ323の処理にて、目標点Tの位置に応じて目標車速を補正するときの目標車速補正値の算出方法の一例を示す図である。
【図29】図27のステップ323の処理にて、目標点Tの位置に応じて目標車速を補正するときの目標車速補正値の算出方法の他の一例を示す図である。
【図30】目標車速の補正値によるモータトルクの生成方法を示す、図10と同様な図である。
【図31】図24のステップ370の処理における代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bと辺a1−d1の範囲とトロリー線との位置関係を示す図である。
【図32】図24のステップ370の処理における代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bと辺a1−d1の範囲とトロリー線との位置関係を示す図である。
【図33】図24のステップ370の処理における代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bと辺a1−d1の範囲とトロリー線との位置関係を示す図である。
【図34】図24のステップ370の処理における代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bと辺a1−d1の範囲とトロリー線との位置関係を示す図である。
【図35】図24のステップ370の処理における代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bと辺a1−d1の範囲とトロリー線との位置関係を示す図である。
【図36】図24のステップ370の処理における代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bと辺a1−d1の範囲とトロリー線との位置関係を示す図である。
【図37】図24のステップ370の処理における代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bと辺a1−d1の範囲とトロリー線との位置関係を示す図である。
【図38】車体蛇行制御を行っているときの代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bの位置関係を示す図である。
【図39】車体蛇行制御を行っているときの車両本体とトロリー線との位置関係を示す図である。
【図40】電気駆動ダンプトラックの作業状態の一例を説明する図である。
【図41】トロリー走行を行う区間の長さと振幅の関係の一例を示す図である。
【図42】トロリー走行を行う区間の長さと振幅の関係の他の一例を示す図である。
【図43】トロリー走行を行う区間の長さと振幅の関係の他の一例を示す図である。
【図44】車体蛇行制御の開始トリガの他の例における、直進走行区間を走行していると判断するまでの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図45】車体蛇行制御の開始トリガの他の例における、直進走行区間を走行していると判断するまでの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図46】判別のハンチングを防ぐためのカウンタ処理に代わるヒステリシス処理を示す図である。
【図47】車両制御装置の他の実施形態におけるカメラで上方を撮像してから制御出力されるまでの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図48】カメラで撮像する方向をさらに前方に向けた場合の、図12と同様な図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0025】
(車両−ダンプトラック−の構成に関して)
図1は、本発明の一実施の形態による電気駆動ダンプトラックの側部外観を示す側面図である。
【0026】
図1において、ダンプトラックは、車両本体1、土砂等を積載するためのベッセル2、左右2本のトロリー線3L,3R(片方が高電圧、もう片方がアースに接続)から電力を受けるための昇降可能なすり板4La,4Raを備えた左右の集電装置4L,4R、受けた電力により駆動する左右の後輪(タイヤ)5L,5Rで構成されている。集電装置4L,4Rは車両本体1の前部に設けられている。また、ダンプトラックは、車両本体1の前部に設けられ、走行中に前方のトロリー線3L,3Rを連続的に検出するトロリー線検出装置15を備えている。トロリー線検出装置15は、本発明によって新たに取り付けられたものである。トロリー線検出装置15は、図示の例では車両本体1の前部に配置されているが、車両本体1の屋根等に設置しても構わない。
【0027】
図2はダンプトラックの後部外観を示す背面図である。後輪5L,5Rはベッセル2に積載される土砂等の荷重に耐えるため、ダブルタイヤの構造になっている。このダブルタイヤを、左右の電動モータ(例えば誘導モータ)6L,6Rにより制駆動する。
【0028】
図3に本実施の形態における電気駆動ダンプトラックの駆動システムを示す。
図3において、電気駆動ダンプトラックの駆動システムは、アクセルペダル11、リタードペダル12、シフトレバー13、前後加速度と横加速度とヨーレイトをセンシングするヨーレイト検出装置としてのコンバインセンサ14、エンジン21、交流発電機22、その他のエンジン負荷28、整流回路23、検出抵抗24、コンデンサ25、チョッパ回路26、グリッド抵抗27、上記集電装置4L,4R、上記後輪5L,5R及び電動モータ6L,6R、電動モータ6L,6Rの出力軸6La,6Raに接続された減速機7R,7L、制御装置200を備えている。電磁ピックアップセンサ16L,16Rはそれぞれ左右後輪の車輪速を計測する。また後輪5L,5Rと同様に、左右の前輪35L,35Rの車輪速を計測する電磁ピックアップセンサ36L,36Rを設け、この電磁ピックアップセンサ36L,36Rによって前輪車輪速を左右それぞれ計測する。ここで、後輪5L,5Rは駆動輪であり、駆動、制動によってタイヤが変形するため、大抵の場合は問題ないが、車体速の計測には厳密にはふさわしくない。従動輪である前輪は駆動、制動の影響を受けにくいため、電磁ピックアップセンサ36L,36Rの計測値を用いた車体速の演算のほうがより実際の車体速に近い値を演算できると言える。なお、車両の運動を制御する際は、前輪車輪速、後輪車輪速よりも車両本体1の重心の対地速度(車体速)を論じた方が好適な場合がある。そこで、対地車速センサ37のように対地車速そのものを計測するセンサを設置し、車体速の計測に用いても良い。これらは一般的にはミリ波レーダセンサ、光学センサ等が挙げられる。
【0029】
制御装置200は、トルク指令の入力で電動モータ6L,6Rを制御するインバータ制御装置30、ドライバのボタン操作や外部からの入力で集電装置4L,4Rのすり板4La,4Raの昇降を行う昇降制御装置31、ドライバの操舵操作を電気信号に変換し前輪の操舵を制御する操舵制御装置32、本発明の特徴部である車両制御装置50と、コントローラ100とを有している。
【0030】
インバータ制御装置30は、左右の電動モータ6L,6Rのそれぞれに対する公知のトルク指令演算部30a、モータ制御演算部30b、インバータ(スイッチング素子)30cを有している。集電装置4L,4Rは、昇降制御装置31の昇降指令信号ですり板4La,4Raを昇降させる昇降装置を備えている。集電装置4L,4R、昇降制御装置31、操舵制御装置32を含む操舵システム、車両制御装置50の詳細は後述する。
【0031】
(走行を含む基本動作)
アクセルペダル11の踏込み量Pとリタードペダル12の踏込み量Qはコントローラ100の入力となり、それぞれ駆動力やリタード力(ブレーキ力)の大きさを制御する信号となる。例えばドライバがアクセルペダル11を踏み込んでダンプトラックを前進又は後進させるときは、コントローラ100からエンジン21に対して目標回転数Nrの指令を出力する。これはアクセル開度に対する目標エンジン回転数Nrのテーブルが予め設定されており、これに基づいて出力される。エンジン21は電子ガバナ21aを装着したディーゼルエンジンであり、電子ガバナ21aは目標回転数Nrの指令を受け取ると、エンジン21が目標回転数Nrで回転するように燃料噴射量を制御する。
【0032】
エンジン21には交流発電機22が接続されており、交流発電を行う。交流発電により発生した電力は整流回路23によって整流され、コンデンサ25に蓄電され、直流電圧値はVとなる。交流発電機22は直流電圧Vを検出抵抗24で分圧された電圧値をフィードバックして当該電圧値が所定の一定電圧V0となるようにコントローラ100によって制御される。
【0033】
交流発電機23により発生した電力はインバータ制御装置30を介して左右の電動モータ6L,6Rに供給される。コントローラ100は、整流回路23によって整流された直流電圧Vが所定の一定電圧V0となるように交流発電機22を制御することで、電動モータ6L,6Rに必要な電力が供給されるよう制御している。一方、集電装置4L,4Rのすり板4La,4Raがトロリー線3L,3Rに接触した場合、直流電圧V0が直接トロリー線3L,3Rからインバータ制御装置30に供給される。
【0034】
コントローラ100は、アクセルペダル11及びリタードペダル12の操作量に応じたトルク指令値T_ML_a,T_MR_aを演算し、このトルク指令値T_ML_a,T_MR_aと、車体速制御のトルク補正値T_ML_V,T_MR_V及びヨーモーメント制御のモータトルク補正値T_ML_Y,T_MR_Yに基づいて左右の電動モータ6L,6Rのトルク指令値T_ML,T_MRを生成し、出力する(後述)。この左右の電動モータ6L,6Rのトルク指令値T_ML,T_MRと電磁ピックアップ16L,16Rにより検出される各電動モータ6L,6Rの回転速度ωL,ωRとはインバータ制御装置30に入力され、インバータ制御装置30は、トルク指令演算部30a,モータ制御演算部30b、インバータ(スイッチング素子)30cを介して各電動モータ6L,6Rを駆動する。
【0035】
各電動モータ6L,6Rにはそれぞれ減速機7L,7Rを介して左右の後輪(タイヤ)5L,5Rが接続されている。電磁ピックアップ16L,16Rは通常は減速機7L,7R内のギアの1枚の歯の周速を検出するセンサである。また、例えば、右側駆動系を例に取ると、電動モータ6R内部の駆動軸や減速機7Rとタイヤ5Rを接続する駆動軸に検出用の歯車をつけ、その位置に設置しても構わない。
【0036】
走行中にアクセルペダル11を戻し、リタードペダル12を踏み込んだときは、交流発電機22が発電しないようコントローラ100は制御する。また、コントローラ100からのトルク指令T_ML_a,T_MR_aは負となり、インバータ制御装置30は各電動モータ6L,6Rを駆動して走行するダンプトラックにブレーキ力を与える。この時、各電動モータ6L,6Rは発電機として作用し、インバータ制御装置30に内蔵された整流機能によってコンデンサ25を充電するように働く。直流電圧値Vは予め設定された直流電圧値V1以下になるようにチョッパ回路26が作動し、電流をグリッド抵抗27に流して電気エネルギーを熱エネルギーに変換する。
【0037】
(集電装置のすり板の昇降)
次に、集電装置4L,4Rのすり板4La,4Raの昇降装置について説明する。図4にトロリー線3L,3Rから電力を受ける集電装置4L,4Rの構成を示す。集電装置4L,4Rは同じ構成を有しており、その構成を集電装置4Lで代表して説明する。集電装置4Lは、昇降装置として車両本体1に筐体を固定した油圧ピストン装置4aを備え、油圧ピストン装置4aの油圧ピストン4bのロッド4cの先端にすり板4Laが取り付けられている。このすり板4Laは、油圧配管4dを介して油圧ポンプを含む油圧機器4eから送られた油で油圧ピストン4bを上下させることで、トロリー線3Lとの接触、乖離を制御される。油圧ピストン4bのロッド4cとすり板4Laは絶縁体4fによって絶縁されている。トロリー線3Lの電力はすり板4La、電線4gを介して、図3に示したモータ駆動のためのインバータ制御装置30の電源系統へ接続されている。昇降制御装置31は、ドライバの昇降スイッチ操作や本発明の車両制御装置50などの外部からのスイッチ(フラグ)操作や制御の指令信号に基づいて、油圧機器4eに昇降指令信号4hを送る仕組みとなっている。当然、油圧ピストン装置4aによりすり板4Laの昇降装置を構成する他に、一般的には電車で見られるような平行リンク、ばね、モータ等を利用したパンタグラフと呼ばれるシステムで昇降装置を構成してもよい。
【0038】
(操舵システム)
次に図5を用いて操舵システムについて説明する。
【0039】
操舵システムは、前述した操舵制御装置32と操舵装置40とから構成されている。操舵装置40は、ハンドル41、操舵角センサ付反力モータ42、転舵角センサ付転舵モータ43、ラック&ピニオンギア44を有している。
【0040】
ドライバはハンドル41を操作したとき、ハンドル41の操作量を操舵角センサ付反力モータ42の操舵角センサが計測し、これを操舵制御装置32に送信する。操舵制御装置32は現在の転舵角がドライバの操舵角に対応する転舵角になるようにタイヤ5L,5Rの転舵角を計測する転舵角センサを有する転舵角センサ付転舵モータ43にトルク信号を送り、転舵角センサ付転舵モータ43が生成する転舵トルクによって、ラック&ピニオンギア44を介し前輪45L,45Rを転舵する。また、この時のトルクの大きさに応じて、操舵角センサ付反力モータ42に反力トルクを送信し、ハンドル41に反力を伝える。またこのとき、操舵制御装置32はコントローラ100へ操舵角を送信する。一方、操舵制御装置32は、コントローラ100から転舵トルク補正値を受信し、これに応じて転舵角センサ付転舵モータ43を動作させる機能も持つ。同様に操舵制御装置32が操舵角センサ付反力モータ42に、反力を送信するかどうかは、そのときのモード(後述)やコントローラ100からの指令によって任意に変更できる。例えば、操舵制御装置32がコントローラ100から転舵トルク補正値を受信し、この補正値に応じて転舵角センサ付転舵モータ43を動作させる一方で、操舵角センサ付反力モータ42に反力指令値を送らなければ、車両(ダンプトラック)は操舵角に応じて旋回をするが、ドライバはそのときの操舵感覚がない状態になる。逆に、ドライバが操舵をしても、転舵角センサ付転舵モータ43に指令を送らなければ、ハンドル41を切っても曲がらないという現象となる。例えば、コントローラ100が何らかの判断で、ハンドル41を操作してはならない場合には、この手段は有効となる。さらにはこのときハンドル41の操作をしてはならないということをドライバに報知する手段としては、操舵制御装置32がドライバ41が操舵をしている方向と逆方向にトルクを生成させることで、ドライバは一般的にはハンドル41が重いと感じ、これによってドライバはその方向へハンドル操作をしてはならないと判断することができるようになるものもある。
【0041】
本実施の形態では、ハンドル41が前輪45L,45Rと直結していないステアバイワイヤ方式に関して説明したが、これに限らず、操舵角センサ付反力モータ42と転舵角センサ付転舵モータ43を一体化して直結させた電気式のパワーステアリング方式でも構わない。また、転舵角センサ付転舵モータ43は油圧サーボ式のものでも構わない。さらにコントローラ100から送られる補正値はトルクではなく補正角度でも良い。この場合、操舵制御装置32は、転舵角センサで検知した角度と補正角度との偏差をなくすようトルクのフィードバック制御を行うものでもよい。
【0042】
図6は、操舵制御装置32が転舵トルク指令値を算出するにいたる機能を示すブロック図である。操舵制御装置32は、変換部32aにおいて操舵角センサ付反力モータ42から受信したドライバの操舵角にゲインをかけてドライバの転舵角に変換し、演算部32bにおいてそのドライバの転舵角から現在の転舵角を減算し、変換部32cにおいてその減算結果にゲインをかけてドライバ要求転舵トルクに変換する。次いで、演算部32dにおいてそのドライバ要求転舵トルクにコントローラ100から受け取った転舵トルク補正値を加算して転舵トルク指令値を求め、この転舵トルク指令値を転舵角センサ付転舵モータ43に出力する。
【0043】
(車体速制御)
図3に戻り、コントローラ100は、車体速制御モードが選択された場合に、車体速制御モードで設定される目標車体速に対する現在の車体速のフィードバック制御を行い、車体速制御モードにて車体速を制御することを可能とする車体速制御部101を備えている。図7は車体速制御部101の機能の説明を示すブロック図である。図7に示すように、車体速制御部101は、車体速制御モードがOn(1)(スイッチ部101cがOn)のとき、目標車体速と現在の車体速を入力して演算部101aにおいて減算し、変換部101bにおいてその減算値にゲインをかけてトルクに変換することで現車速を目標車体速にするためのトルク補正値T_ML_V,T_MR_Vを求めて出力する。車体速制御部101は、電磁ピックアップ16L,16Rにより検出される各電動モータ6L,6Rの回転速度ωL,ωRを入力し、この回転速度から車体速を演算するが、車体速の演算には前述のように電磁ピックアップ36L,36Rの検出値を用いてもよいし、対地車速センサ37の測定値を用いてもよい。すなわち、車体速制御部101及び後輪の電磁ピックアップセンサ16L,16Rや前輪の電磁ピックアップセンサ36L,36R、対地車速センサ37によって車体速検出装置は構成される。車体速制御モードに入るか否かの指令は、例えば車両制御装置50にスイッチを設け、ドライバからのスイッチ操作でも良いし、外部からの入力によってなされるものでも良い。車体速制御モードの解除は、ドライバがリタードペダルを踏むことで行ってもよいし、外部からの入力によって行ってもよい。車体速制御モードを解除した場合、車体速制御モードの指令をOff(0)(スイッチ部101cをOff)とし、ゼロ出力部101dから車体制御トルク指令値0を出力する。またコントローラ100は、トルク補正値T_MR_V,T_ML_Vに応じたエンジン回転数指令値のテーブルがあらかじめ設定されており、このテーブルに基づいてエンジン回転数指令値をエンジン21に対して出力する。
【0044】
(ヨーモーメント制御)
さらに、コントローラ100は、図3に示すように、車体の旋回方向を制御するためのヨーモーメント制御部102を備えている。図8はヨーモーメント制御部102の機能の詳細を示すブロック図である。図8に示すように、ヨーモーメント制御部102に対する入力信号として、例えば横滑り防止制御といった他のヨーモーメント制御によって生成されるヨーモーメント制御値、本発明によって生成されるヨーモーメント補正値、車体速、前後加速度、横加速度、ヨーレイト、操舵角、ヨーモーメント制御モードの指令がある。出力信号は転舵トルク補正値とモータへのトルク補正値T_MR_Y,T_ML_Yである。ヨーモーメント制御値とヨーモーメント補正値は演算部102aにおいて加算され、ヨーモーメント指令値となる。このヨーモーメント指令値は操舵トルク制御部102b、モータトルク制御部102c、最適配分制御部102dに入力される。操舵トルク制御部102b及びモータトルク制御部102cは、それぞれ入力されたヨーモーメント指令値に基づいて転舵トルク補正値とモータトルク補正値を算出する。また、最適配分制御部102dは入力されたヨーモーメント指令値、車体速、ヨーレイト、操舵角、前後加速度、横加速度に基づいてヨーモーメントの配分比を計算し、その配分比に応じた転舵トルク補正値とモータトルク補正値を算出する。ヨーモーメント制御モードの指令はスイッチ部102eに入力され、スイッチ部102eは、ヨーモーメント制御モードが1のときには操舵トルク制御部102bで演算した転舵トルク補正値を出力し、2のときにはモータトルク制御部102cで演算したモータトルク補正値を出力し、3のときには最適配分制御部102dで演算した操舵トルク補正値と左右モータへのトルク補正値を出力する。
【0045】
(ヨーモーメント制御モードの設定)
ところで、ダンプが走行する鉱山では土砂等を運ぶ時間の短縮の要求が高い。かかる時間が短ければそれだけ一台当りの土砂を運ぶインターバルが短くなり、回数をこなせるからである。時間短縮に直接影響するのは車両速度であり、従って、車両速度が低くなるような制御を行うことは避けることが望ましい。
【0046】
図9は、モータ駆動力100%で走行しているときの総駆動力に対する、ヨーモーメント補正値を駆動力差によって実現する場合の影響を示す図である。例えば図9のa側に示すように、車両が今駆動力を100%の状態で、ある速度を保って走行しているものとする。この場合、車両の駆動力の合計は、走行抵抗(空気抵抗、摩擦抵抗、傾斜等)と釣り合っている。100%というのは、本実施の形態の構成で言えば後輪のモータの出力限界であり、その速度で出力できるモータの駆動力の最大値を意味する。ここで、車両に制駆動力を与えてヨーモーメントを生成することを考える。この場合ヨーモーメントを生成するには、先に上げたように、モータが出力限界であるため、図9のb側に示すように、左右のどちらか片方のモータ駆動力を下げることでしかヨーモーメント生成を達成できない。この下げた分だけ車両にヨーモーメントが生成される一方で、駆動力が低下するため車速が低下する。これは先に述べたように、時間短縮の要求に反することになる。従って、このときヨーモーメントを生成すべきアクチュエータとしては、動作しても比較的速度低下が小さい操作が望ましく、図8に示すようにヨーモーメント制御モードを1にすることが適切である。一方、車両の駆動力が100%よりも小さい場合は、その程度やその他の車両状態量に応じて、モータトルク制御(ヨーモーメント制御モード2)或いは最適配分制御(ヨーモーメント制御モード3)に切り換える。
【0047】
(各部で生成したモータトルクの合成)
コントローラ100におけるモータトルク指令の算出方法に関して図10を用いて説明する。図10はモータトルク指令値の算出方法の一例を示す図である。まず、前述のとおりドライバのアクセルペダル・リタードペダル操作に応じたトルク指令値T_ML_a,T_MR_aと車体速制御によって生成されたトルク指令値T_ML_V,T_MR_Vの一方を処理部100aで選択する。例えば、ドライバのトルク指令が有る場合はドライバのトルク指令、それ以外は車体速制御のトルク指令を処理部100aで選択する。その後、処理部100aで選択したトルク指令値に、ヨーモーメント制御部102によって生成されたヨーモーメント指令値に応じたモータトルク補正値T_ML_Y,T_MR_Yを演算部100bにおいて加算し、モータトルク指令値T_ML,T_MRを算出する。なお、このモータトルクの合成方法は一例であり、公知の手法など、本実施の形態に示した手法以外の様々な手法を用いることができる。
【0048】
(特徴部の全体構成)
次に、本実施の形態の電気駆動ダンプトラックの特徴部の全体構成を図11を用いて説明する。
【0049】
前述したように、本実施の形態の電気駆動ダンプトラックの駆動システムは、トロリー線3L,3Rを検出するトロリー線検出装置15と、車両制御装置50を有している。
【0050】
トロリー線検出装置15としては、代表的にはレーザレーダ、ミリ波レーダ、カメラ等のセンサが考えられる。車体の進行方向(車軸方向)をX軸、車体の横方向(車軸に対し鉛直方向)をY軸としたXY平面において、本発明では、いずれのセンサでも車体とトロリー線の相対位置関係を検出する手段となる。レーザレーダの場合、好適には車体X軸方向に沿って探査する方が、トロリー線をより正確に検出することができる。またミリ波レーダの場合は、他のセンサより霧や雨といった天候の影響が小さくて済む。これらのレーダセンサはXY方向だけでなく、車体とトロリー線の高さであるZ軸方向も検出することができる。従って、高さ方向の検出が必要な他のシステムと本発明のシステムを併用する場合では、レーダセンサが好適な場合がある。
【0051】
カメラの場合、トロリー線の下方からトロリー線を撮像するため、昼間で天候の良いときはトロリー線と空との高いコントラストが得られ、トロリー線を正確に検出することができる。また、車両本体1にトロリー線3L,3Rを照らす照明装置51を設けてもよい。この場合は、照明装置51でトロリー線3L,3Rを照らすことで、空に対するトロリー線3L,3Rのコントラストが維持され、夕方、夜間、雨天など、トロリー線3L,3Rと空との高いコントラストが得にくい場合でも、トロリー線を正確に検出することができる。
【0052】
また、いずれか2つ以上のセンサを組み合わせてシステムを構築しても良い。
【0053】
図11は、車両制御装置50の構成及び車両制御装置50とコントローラ100との入出力関係を示す図である。車両制御装置50は、図11に示すように、トロリー線検出装置15によって検出された情報を処理して車体とトロリー線の相対位置関係に係わる情報を取得するトロリー線検出情報処理部50a、トロリー線検出情報処理部50aによって得られた情報を元に車両の状態量を算出する車両状態量算出部50b、この結果に基づき車両状態量を制御する車両状態量制御部50cによって構成される。トロリー線3L、3Rは、絶縁体52を介して支柱53によって支えられる。また車両制御装置50は、目標速度補正値、ヨーモーメント補正値、ヨーモーメント制御モード、昇降制御装置昇降指令、制御・検知状態情報などを出力する。
【0054】
本実施の形態では、トロリー線検出装置15としてカメラを用い、画像処理を行ってXY平面での車体との相対位置関係を検出する場合を説明する。すなわち、トロリー線検出装置15はカメラとなり、トロリー線検出情報処理部50aは、カメラ15によって撮像された画像情報を処理する画像情報処理部となる。
【0055】
(カメラ15及び画像情報処理部50a)
カメラ15はトロリー線3L,3Rを撮像する。この二本のトロリー線3L,3Rをカメラ一台で撮像する場合は、カメラ15を左右のトロリー線3L,3Rの中央に配置することが好ましい。カメラ15の構成としては、左右のトロリー線3L,3Rをそれぞれ一台のカメラで撮像してもよい。カメラ15により撮像された画像情報は、車両制御装置50の画像情報処理部50aに送られる。画像情報は、カメラ15が撮像した範囲のピクセル配列であり、画像情報処理部50aはその画像情報を必要な情報に変換する。
【0056】
カメラ15の撮像方向に強い光源がある場合、画像情報処理部50aに送られる画像はハレーションと呼ばれる白くぼやける現象が発生し、検知すべき対象を認識できなくなることがある。これに対応する方法として、カメラ15を設置する箇所を、車両前方のトロリー線3L,3Rを撮像するカメラと、車両後方のトロリー線3L,3Rを撮像するカメラの2箇所とし、一方が画像情報処理部50aによってハレーションを起こしたと判断できる場合、もう一方のカメラにより補正する手法も考えられる。ハレーションの検知方法に関しては公知の手法に依る。また、ハレーションに限らず、画像情報処理部50aによって埃や泥等で片方のカメラの視界が遮られたと判断できる場合には、同様に他方のカメラで補正することもできる。また、カメラ15を筐体で囲み、ガラス越しにトロリー線3L,3Rを撮像し、画像情報処理部50aによりガラスが埃や泥等で視界が悪くなったと判断できる場合には、ワイパーやウォッシャー液等によって洗浄してもよい。
【0057】
また,薄暮時や暗闇において、画像情報処理部50aによってトロリー線3L,3Rを検知するのに十分な光量がないと判断される場合には、画像情報処理部50aは照明装置51へ明滅指令を出し、トロリー線3L,3Rを照らすことで、空に対するトロリー線3L,3Rのコントラストを維持してもよい。
【0058】
本実施の形態では、図11のように斜め方向を撮像するのではなく、簡単のために、図12のようにカメラ15が車両の真上方向を撮像する場合を考える。このとき、図13に示すように、車両の前方がカメラ15の撮像領域(トロリー線検出装置の検出領域)a,b,c,dとなる。図14は、その場合のカメラ15が取得する画像を示す図である。図14では、カメラ15がトロリー線3L,3Rを下から見上げるように撮像しているため、図13に示すトロリー線3L,3Rを上から見た画像の撮像領域a,b,c,dに対して、前後関係(a−dとb−cの図示上下方向における位置関係)と車両の進行方向が逆に現れる。
【0059】
図14に示すように、カメラ15が取得する画像情報は画面に対してトロリー線3L,3Rが縦方向に進行方向に平行に現れる。これを図15に示すようにエッジ部を抽出する処理(エッジ処理)を行う。これにより、左側のトロリー線3LはエッジLLとエッジLRを、右側のトロリー線3RはエッジRLとエッジRR部に分かれる。次に図16において、左右のトロリー線3L、3Rにおいてそれぞれのエッジの中心線(左トロリー線3Lの中心線をLM、右トロリー線3Rの中心線をRM)を求める。このとき、画面の上部中央のOcを原点とするピクセル数に関する座標系(Y軸をda方向、X軸をab方向)をとる。Ocを原点として、LMとadの交点P(0,M_Lad_Ref)、RMのadとの交点Q(0,M_Rad_Ref)、LMとbcとの交点R(m,M_Lbc_Ref)、RMのbcとの交点S(m,M_Rbc_Ref)をとる。そして、これらP,Q,R,Sの各点はトロリー線3L、3R上に位置する点であり、これらを目標点と定義する。また、mは縦方向のピクセル数、nは横方向のピクセル数を示す。
【0060】
ここで、2本のトロリー線3L,3Rの中央をトロリー線3L,3Rに対して平行して直進しているとき、トロリー線3L,3Rがすり板4La,4Raの中央に位置する場合、左右の設置ずれや車両のゆれによるずれに対してロバストになる。従って車両はそのような状態で走行することが望ましい。
【0061】
図17に、トロリー線に対して左に車両がずれた場合を示す。すり板4La,4Raの中央を通るX軸に平行な直線(車両本体1の進行方向の直線)と撮像領域のad及びbcとの交点に車両本体1の代表点を設定すると、代表点は図17の点P’,点Q’,点R’,点S’となる。この代表点は、トロリー線3L,3Rに対する車両の位置を制御するために用いる点である。したがって、代表点P’,Q’,R’,S’は制御点であると言うこともできる。各代表点の座標は、M_Lad_Cont、M_Rad_Cont、M_Lbc_Cont、M_Rbc_Contと定義する。
【0062】
図18に車両がトロリー線3L,3Rに対して斜めに走行している場合を示す。この場合も、代表点は点P’,点Q’,点R’,点S’となる。
【0063】
画像情報処理部50aはこれら座標情報を車両状態量算出部50bへ送る。
【0064】
(車両状態量算出部50b及び車両状態量制御部50c)
車両状態量算出部50bは、車両本体1がトロリー線3L,3Rに追従して走行するよう車両本体1にヨーモーメントを与える制御(以下、適宜トロリー線追従制御という)を行うためのヨーモーメント補正値、車両本体1がトロリー線3L,3Rを中心に蛇行して走行するように車両本体1にヨーモーメントを与える制御(以下、適宜車体蛇行制御という)を行うためのヨーモーメント補正値、集電装置4L,4Rのすり板4La又は4Raの昇降制御(以下、適宜すり板昇降制御という)を行うための昇降制御装置昇降指令、ヨーモーメント制御モード、目標速度補正値等の制御量或いは指令値を生成するための車両状態量を算出する部分であり、車両状態量制御部50cはその算出結果に基づいてヨーモーメント補正値、昇降制御装置昇降指令、ヨーモーメント制御モード、目標速度補正値等の制御量或いは指令値を生成し出力する部分である。
【0065】
(トロリー線検出領域と座標系)
まず、車両状態量算出部50bで用いるトロリー線検出領域と座標系について説明する。
【0066】
図19は、本実施の形態で用いるトロリー線検出領域と座標系を示す図である。
【0067】
車両状態量算出部50bは、画像情報処理部50aにおいてカメラ15により取得した図16〜図18に示すような撮像領域a,b,c,dの画像情報から図19のa1,b1,c1,d1に示すような領域をトロリー線検出領域として切り出して取得する。辺a1−d1は、図16〜図18に示す撮像領域a,b,c,dの辺a−dの一部に対応し、辺b1−c1は、撮像領域a,b,c,dの辺b−cの一部に対応する。トロリー線検出領域a1,b1,c1,d1は、トロリー線3L又は3Rを上から見た場合のすり板とトロリー線の位置関係を示しており、すり板4La又は4Raの左右の中心を通り車両の進行方向に伸びる直線が、辺a1−d1の中心と辺b1−c1の中心を通る領域である。前述したように、カメラ15が取得する撮像領域a,b,c,dの画像情報はトロリー線3L,3Rを下から撮像した画像情報であり、トロリー線3L,3Rを上から見た場合のトロリー線検出領域a1,b1,c1,d1は撮像領域a,b,c,dとは前後関係(図面では上下方向)が逆に現れる。
【0068】
また、車両状態量算出部50bは、すり板4La又は4Raの中心を原点Opとし、進行方向をX軸、進行方向左をY軸とする座標系を設定し、X軸と辺b1−c1の交点Zに代表点を設定し、トロリー線3L又は3Rと辺b1−c1との交点Tと、トロリー線3L又は3Rと辺a1−d1との交点Uに2つの目標点を設定する。ここで、カメラ15と集電装置4L,4Rのすり板4La又は4Raは共に車両本体に取り付けられ、両者の位置関係は既知であるので、図16〜図18に示すOc点を原点とする座標系における点P’,P,Rの値を図19のOp点を原点とする座標系の値に座標変換することにより、交点Z,T,Uの座標は容易に求めることができる。
【0069】
(トロリー線追従制御)
車両状態量算出部50bは、代表点Zと目標点Tとの偏差を算出する。ここで、すり板4La又は4Raの前方にある目標点TのY座標値Y_Cbcは代表点Zと目標点Tの偏差に等しいため、車両状態量算出部50bは目標点TのY座標値Y_Cbcを代表点Zと目標点Tとの偏差とする。偏差Y_Cbcは、車両がトロリー線に対して右にずれた場合に正、左にずれた場合に負となる。
【0070】
車両がトロリー線3L又は3Rに対して斜めに走行している場合は、車両の傾きに対しても同様にずれ量を定義する。このとき、ある時間tにおけるトロリー線3L又は3Rに対する車両の傾きθ_tは、2つの目標点T,Uの座標値を用いて次の式で表される。

θ_t=(Y_Cbc−Y_Cad)/(X_Cbc−X_Cad) ・・・(1)

車両状態量制御部50cは、代表点Zと目標点Tとの偏差Y_Cbc或いは車両の傾きθ_tを用いて代表点Zを目標点Tに一致させるためのヨーモーメント補正値を算出する。
【0071】
偏差Y_Cbc或いは傾きθ_tを用いてヨーモーメント補正値を算出する処理を図20にブロック図で示す。車両状態量制御部50cは、変換部50cにおいて偏差Y_Cbcにゲインをかけて偏差Y_Cbcをヨーモーメント量に変換する。また変換部50cにおいて、傾きθ_tにゲインをかけてヨーモーメント量に変換する。これらの2つのヨーモーメント量を演算部50cにおいて加算してヨーモーメント補正値を求め、このヨーモーメント補正値をヨーモーメント制御部102に出力する。
【0072】
図21は、トロリー線追従制御の不感帯を設定した図19と同様な図である。前述したように、検出領域a1,b1,c1,d1に対して目標点T,U及び代表点Zが設定されている。また、代表点Zから所定の距離Y_l、Y_r(第1のしきい値)だけ離れた位置にトロリー線追従制御の不感帯を規定する点A及び点Bが設定されている。
【0073】
車両状態量算出部50bは、トロリー線追従制御を行うとき、代表点Zと目標点Yの偏差Y_Cbcに不感帯を設け、偏差が不感帯を超えた場合のみトロリー線追従制御の状態量を算出し、車両状態量制御部50cは、目標点TのY座標値Y_Cbc(代表点Zと目標点Tの偏差)に応じたヨーモーメント補正値を算出する。
【0074】
また、車両状態量制御部50cは、図8を用いて説明したヨーモーメント制御モードを決定する。そしてコントローラ100の前述したヨーモーメント制御部102は、この車両状態量制御部50cで決定されたヨーモーメント補正値とヨーモーメント制御モードに基づいて、モータトルク指令値と転舵トルク補正値とを演算し、インバータ制御装置30と操舵制御装置32にそれぞれ出力する。
【0075】
これにより車両制御装置50と、コントローラ100と、インバータ制御装置30と、操舵制御装置32とで構成される制御装置は、車両本体1がトロリー線3L,3Rに追従して走行するよう車両本体1にヨーモーメントを与える制御を行うものとなる。また、そのとき、制御装置は代表点Zが目標点Tに近づくように車両本体1にヨーモーメントを与える制御を行う。更に、制御装置は傾きθ_tが小さくなるように車両本体1にヨーモーメントを与える制御を行う。
【0076】
なお、図20に示すような単純なゲインの制御に限らず、積分制御や微分制御等を加えても良い。
【0077】
(車体蛇行制御)
また、車両状態量算出部50b及び車両状態量制御部50cは、代表点Zと目標点Yの偏差Y_Cbcがトロリー線追従制御の不感帯(点A及び点Bの間)にあるとき、すり板4La,4Raに発生する摩耗を分散するための車体蛇行制御を行う。この車体蛇行制御では、図21に符号Fで示す変動点を新たに定義し、代表点Zが変動点Fに一致するようにヨーモーメント制御を行うものである。
【0078】
車両状態量算出部50bは、車体蛇行制御のため、代表点Zと変動点Fとの偏差を演算する。ここで、変動点FのY座標値をY_cとすると、このY座標値Y_cは代表点Zと変動点Fの偏差に等しいため、車両状態量算出部50bは変動点FのY座標値Y_cを代表点Zと変動点Fとの偏差とする。偏差Y_cは、車両が変動点Fに対して右にずれた場合に正、左にずれた場合に負となる。
【0079】
車両状態量制御部50cは、代表点Zと変動点Fとの偏差Y_cを用いて代表点Zを変動点Fに一致させるためのヨーモーメント補正値を算出する。このとき、ヨーモーメント補正値は次のように算出できる。

ヨーモーメント補正値=ゲイン×Y_c ・・・(2)

つまり、代表点Zを式(2)に従って、常に変動点Fと一致するように動作させる。これをブロック図にしたものを図22に示す。変換部50cにおいて偏差Y_cにゲインをかけてヨーモーメント補正値に変換し、このヨーモーメント補正値はヨーモーメント制御部102に出力され、車体にヨーモーメントが付加される。車両状態量制御部50cは、代表点Zが変動点Fに一致していない限り、ヨーモーメント補正値を出力し続ける。
【0080】
また、車両状態量算出部50bは、車体蛇行制御のための変動点Fを目標点T(Y_Cbc)に対して次のように設定する。

Yc=Y_Cbc+j×sin(θ) ・・・(3)

式(3)の第二項は車両を進行方向に対して垂直方向に変動させるための項であり、変動点Fは目標点T(Y_Cbc)を中心にして変動するようになる。このように変動点Fを設定し、上記のように代表点Zが変動点Fに一致するようにヨーモーメントを付加するので、結果的には車両はトロリー線3L,3Rを中心にして蛇行するようになる。
【0081】
本実施の形態では、式(3)の第二項を正弦波としているが、もちろんこれは、すり板4La,4Raとトロリー線3L,3Rの偏磨耗を防ぐために均一に接触させることを目的としており、この目的が達成できる関数としては、三角関数以外にも、台形波、三角波などが考えられ、所定の周期を有する関数であればどのような関数にしても構わない。また、偏差Y_cの急峻な変化を防止するために一次のローパスフィルタを用い、ヨーモーメントに対する車両のヨー角応答速度以上にならないような時定数に設定して構築してもよい。
【0082】
(すり板昇降制御)
車両状態量算出部50bは、ある時間tにおける車両の傾きθ_tを計算する。この傾きθ_tは、前述したように、図19に示す2つの目標点T,Uの座標値を用いて上述した式(1)にて計算することができる。
【0083】
また、すり板4La又は4Raとトロリー線3L又は3Rとの交点をWとすると、車両状態量算出部50bは、点WのY座標Y_p_tを計算する。
【0084】
点WのY座標Y_p_tは次のように近似できる。

Y_p_t=Y_Cbc−θ_t×X_Cbc もしくは、Y_p_t=Y_Cad−θ_t×X_Cad ・・・(4)

ここで、Y_p_tの1ステップ後(時間Δ後)の値Y_p_t+1は車両速度Vを用いて、次のように表される。

Y_p_t+1=Y_p_t+V×tanθ_t ・・・(5)

すり板4La又は4Raとトロリー線3L又は3Rが接触していて、良好な電力を得続けられるすり板4La又は4Ra上の点WのY座標Y_p_tの範囲を点Cと点Dの間のY_min(点DのY座標)<Y_p_t<Y_max(点CのY座標)とすると、Y_min<Y_p_t+1<Y_maxとなる領域では、すり板4La,4Raを上げても差し支えないと言える。
【0085】
車両状態量算出部50bは、現在時間tのときに、次の制御ステップt+1のときに点WのY座標Y_p_tがY_min(点DのY座標)とY_max(点CのY座標)の範囲外になるかどうかを判定し、その判定結果を車両状態量制御部50cに出力する。車両状態量制御部50cは、点WのY座標Y_p_tがY_min(点DのY座標)とY_max(点CのY座標)の範囲外になるときは、すり板4La,4Raを下げるもしくは、すり板4La,4Raを上げることを禁止する指令信号を出力する。逆に、範囲内にあるときにはすり板4La,4Raを上げる、もしくはすり板4La,4Raを上げることを許可する指令信号を出力する。また、このY_p_tの位置に応じて車両状態量制御部50cは操舵装置40の反力用モータ42(図5)に反力の補正をかけても良い。この補正量は、例えば、Y_min<Y_p_t+1<Y_maxとなる領域では反力を小さく、Y_min≧Y_p_t+1もしくは、Y_p_t+1≧Y_maxとなる領域では反力を大きくしてもよい。
【0086】
ここで、車両制御装置50は、トロリー線追従制御とすり板昇降制御の両方を行っている。トロリー線追従制御では、車両状態量制御部50cは偏差Y_Cbcや傾きθ_tにゲインをかけたヨーモーメント補正値を出力する。このヨーモーメント補正値は偏差Y_Cbcや傾きθ_tがゼロになるまで出力されるため、いずれすり板4La又は4Ra上の点WのY座標Y_p_tや車両の傾きθ_tはゼロに収束する傾向になる。
【0087】
(車両制御装置50の制御処理の詳細)
上述したすり板4La,4Raの昇降制御を含む車両制御装置50の制御処理の詳細を図23及び図24に示すフローチャートを用いて説明する。図23は、カメラで上方を撮像してから制御出力されるまでの処理の流れを示すフローチャートである。図24は、図23に示すトロリー線追従・蛇行制御のステップ300の処理の詳細を示すフローチャートである。カメラは図12のように車軸の延長線上で車両本体1の前方に設置し、撮像するトロリー線は一本とする。
【0088】
まず、図23のステップ200で、画像情報処理部50aは、カメラによって車両本体1の上方を撮像する。ステップ201にて撮像した画像の中からトロリー線3L又は3Rを探索する。ステップ201で探索する際、初めてトロリー線3L又は3Rを検知する場合は撮像画面の全領域から探索するが、一度トロリー線3L又は3Rを検知した場合、再度全領域から探索する必要はなく、検知していたトロリー線3L又は3Rの座標付近を探索することは、探索時間の短縮につながるため有効となる。ステップ202にて撮像画面内にトロリー線3L又は3Rに相当するものが存在するかを判断する。トロリー線3L又は3Rに相当するものがない場合は処理を終了する。トロリー線3L又は3Rに相当するものがある場合は、画像情報処理部50aは、ステップ203Aにてエッジ抽出して、トロリー線3L又は3Rの中線を算出する画像処理を行う。
【0089】
その後の処理は車両状態量算出部50bに移り、ステップ203Bにて、車両状態量算出部50bは、前述した目標点T、Uを設定し、それらの座標を算出する。ここで目標点T、Uの座標情報を用いた処理がトロリー線3L,3Rへのトロリー線追従・蛇行制御ステップ300と、すり板4La,4Raの昇降制御ステップ400の二系統に分かれる。
【0090】
(トロリー線追従・蛇行制御)
まず、図24を用いてトロリー線追従・蛇行制御のステップ300に関して説明する。
【0091】
ステップ310にて、車両状態量算出部50bは、目標点Tが、図21で示した代表点Zから所定の距離(Y_l、Y_r)だけ離れた位置に設定された点Aと点Bの間(Y_l≦Y_Cbc,Y_r≧Y_Cbc)にあるかどうかを判定する。点Aと点Bの間に目標点Tがない場合、すなわち、偏差Y_Cbcが不感帯を超えた場合、トロリー線追従制御ステップ301の処理を行い、点Aと点Bの間に目標点Tがある場合、すなわち、偏差Y_Cbcが不感帯の範囲内にある場合、車体蛇行制御ステップ302の処理を行う。
【0092】
(トロリー線追従制御)
トロリー線追従制御ステップ301では、現在のまま不感帯を超えた状態で走行を続けると車両がトロリー走行路から外れる可能性があるので、このような事態を避けるために車両本体1がトロリー線に追従して走行するよう車両本体1にヨーモーメントを与える制御を行い、目標点Tが点Aと点Bの間に位置するように制御する。
【0093】
まず、ステップ311で、車両状態量算出部50bは、目標点TのY座標Y_Cbcが点AB間に存在する時間をカウントするCounterを0にリセットする。また蛇行制御フラグをOffにセットする。
【0094】
その後ステップ320に移行して、車両状態量制御部50cは、ヨーモーメント補正値を算出し出力する。
【0095】
図25は、このステップ320でのヨーモーメント補正値の算出方法の一例を示す図である。前述したようにすり板4La又は4Raの前方にある目標点TのY座標値Y_Cbcは代表点Zと目標点Tの偏差に等しい。図25の点Aと点Bの外側の特性線の傾きは図20の変換部50cのゲインに相当する。
【0096】
図25及び図20に示すように、点Aと点Bの外側において、目標点TのY座標値Y_Cbc(代表点Zと目標点Tの偏差)に応じたヨーモーメント補正値を算出する。すなわち、点Aの外側では(Y_Cbc値は正)、Y_Cbcが大きくなるにしたがってヨーモーメント補正値を大きくする。点Bの外側では(Y_Cbc値は負)、Y_Cbcが小さくなるにしたがってヨーモーメント補正値を小さくする。これにより点Aと点Bの間に目標点Tがない場合は(すなわち、代表点Zと目標点Tの偏差Y_Cbcの絶対値が第1のしきい値である点AのY座標値Y_l或いは点BのY座標値Y_rの絶対値よりも大きいときは)、代表点Zが目標点Tに近づくように車両本体1にヨーモーメントを与える制御が行われる。また、偏差Y_Cbcの絶対値が大きくなるにしたがって車両本体1に与えるヨーモーメントが大きくなるよう制御される。ヨーモーメント補正値が最大補正値或いは最小補正値に達すると、急激な旋回を防ぐために、ヨーモーメント補正値は一定とする。なお、このように点Aと点B間に目標点Tがない場合に、ヨーモーメント補正値を可変値として算出して出力する代わりに、一定のヨーモーメント補正値を出力してもよい。
【0097】
ここで、図25に示す点AB間でヨーモーメント補正値を0とする意図に関して説明する。目標点Tと代表点Zが一致させるように制御することで、車両本体1が前方に走行していれば点Wはすり板4La又は4Raの中心に位置するようになる。しかしこの場合、点Wがすり板4La又は4Raの中心から少しずれただけでもヨーモーメント補正値が算出されるため、これによってヨーモーメント補正を実現するアクチュエータ(本実施の形態の場合、操舵装置40の反力用モータ42や転舵モータ43(図5)、後輪の電動モータ6L,6R(図3))の動作頻度が増すことになる。点AB間でヨーモーメント補正値を0とすることで、後輪の電動モータ6L,6Rの動作頻度が低減し、制御の安定性と快適な乗り心地を確保することができる。このヨーモーメント補正をする必要のない点ABの範囲は、すり板4La又は4Raの幅に応じて決定すればよい。
【0098】
また、偏差Y_Cbcの絶対値が大きくなるにしたがって車両本体1に与えるヨーモーメントが大きくなるよう制御することにより、走行中にトロリー線3L,3Rからすり板4La,4Raが横方向に大きく外れようとする場合は、車両本体1はすり板4La,4Raの中心に速やかに戻るようになり、ダンプトラックがトロリー線3L,3Rの走行路から外れるのを確実に防止することができる。
【0099】
次いで、ステップ330にて、ヨーモーメント制御モードを選択し出力する。このとき、通常の走行では、車体速を落とす要求(ドライバのリタード操作や他の制御による減速)がないため、ヨーモーメント制御モードとして「1」を選択する。
【0100】
(トロリー線追従制御の他の例)
次に、トロリー線への追従制御の他の例を図26〜図29を用いて説明する。図26は、トロリー線追従制御の逸脱監視点を設定した図19及び図22と同様な図である。図27は、図24に示したフローチャートのうち、トロリー線追従制御ステップ301に代わるトロリー線追従制御ステップ301’を示すフローチャートである。
【0101】
図26に示すように、トロリー線追従制御の逸脱監視点として、点Aの外側(Y座標の大きい側)のY座標値Y_l’の位置に点A’(第2のしきい値)、点Bの外側(Y座標の負の値の小さい側)のY座標値Y_r’の位置に点B’(第2のしきい値)が設定されている。
【0102】
図27において、ヨーモーメント補正値を算出するステップ320までの処理は、先に説明した図23,図24と同じである。ステップ320の処理後、ステップ321にて目標点Tの位置がさらに、目標点Tが点A’と点B’の間(Y_l’≦Y_Cbc,Y_r’≧Y_Cbc)にあるかどうかを判定し、真の場合は車両がトロリー走行路から外れる可能性があるため、ステップ322にて修正操舵を行うよう、音声かつ/または表示でドライバに警告する。
【0103】
次のステップ323の処理にて、目標点Tの位置に応じて目標車速を補正する。図28はそのときの目標車速補正値の算出方法の一例を示す図である。この図に示すように、点A’と点B’の間に目標点Tがない場合は、点A’と点B’からの逸脱度合いに応じて目標車速を小さくするよう目標車速の補正値を算出する。すなわち、点A’の外側では(Y_Cbc値は正)、Y_Cbcが大きくなるにしたがって目標車速の減少側の補正値を大きくする。点B’の外側では(Y_Cbc値は負)、Y_Cbcが小さくなるにしたがって目標車速の減少側の補正値を小さくする。これにより点A’と点B’の間に目標点Tがない場合は(すなわち、代表点Zと目標点Tの偏差Y_Cbcの絶対値が第2のしきい値である点A’のY座標値Y_l’或いは点BのY座標値Y_r’の絶対値よりも大きいときは)、偏差Y_Cbcの絶対値が大きくなるにしたがって走行速度が小さくなるよう制御される。このように車速を低くすることは、ドライバへの操作負担量軽減と、安心感付与の効果がある。
【0104】
図29は目標車速補正値の算出方法の他の例を示す図である。図29のように、点A’と点B’の間に目標点Tがある場合は、目標点Tが代表点Zに近づくにつれて目標車速を増大する補正をしてもよい。すなわち、点A’の内側では(Y_Cbc値は正)、Y_Cbcが小さくなるにしたがって目標車速の増加側の補正値を大きくする。点B’の内側では(Y_Cbc値は負)、Y_Cbcが大きくなるにしたがって目標車速の増加側の補正値を小さくする。これにより点A’と点B’の間に目標点Tがある場合は(すなわち、代表点Zと目標点Tの偏差Y_Cbcの絶対値が第2のしきい値である点A’のY座標値Y_l’或いは点BのY座標値Y_r’の絶対値よりも小さいときは)、偏差Y_Cbcの絶対値が小さくなるにしたがって走行速度が大きくなるよう制御される。このように車速を大きくすることは、作業効率向上の効果がある。
【0105】
図30は、目標車速の補正値によるモータトルクの生成方法を示す、図10と同様な図である。図30に示すように、上記のように算出した目標車速の補正値に変換部100cにおいてゲインをかけてモータトルク指令値に変換する。次いで、演算部100dにおいて算出されたモータトルク指令値(ヨーモーメント制御部102(図8)によって生成されたヨーモーメント指令値に応じたモータトルク補正値T_ML_Y,T_MR_Yを処理部100aで選択したトルク指令値に加算した値)に変換部100cで算出した目標車速の補正値に応じたモータトルク指令値を加算し、モータトルク指令値T_ML,T_MRを算出する。
【0106】
次に、図28に示す目標車速の補正値により目標車速が低く補正される場合におけるヨーモーメント制御モードに関して説明する。図9に示したように、モータトルクが100%で出力されているような場合で、ヨーモーメントを生成する場合は、左右のどちらか一方のモータトルクを小さくする必要がある。これによって車両はそのとき出していた車体速を維持できなくなるので、速度の低下が起きる。つまり、目標車速を低くするよう補正される場合は、転舵トルク補正によりヨーモーメント補正を行うのではなく、モータトルクの補正によってヨーモーメント補正を行えば、左右の電動モータ6L,6Rを制御することで車両本体1にヨーモーメントを与える制御と走行速度の制御の両方が行われる。これによりヨーモーメントの生成と減速を両立することができ、効率的な制御を行うことができる。
【0107】
(車体蛇行制御)
車体蛇行制御ステップ302では、すり板とトロリー線との接触箇所が同じ箇所に集中してすり板が摩耗してしまうことを防止するために、車両本体をトロリー線に対して蛇行しながら走行するよう車両本体1にヨーモーメントを与える制御を行う。
【0108】
まず、トロリー走行区間の中でも、トロリー線が直線に設置され、かつ車両がそのトロリー線に対して直進している際に蛇行制御の条件設定を行うことが蛇行制御の精度を高めることにつながるため、車両がトロリー線に対して直進しているかどうかを判断するための処理を行う。
【0109】
最初に、直進走行区間判断ステップ303のステップ340にて、車両状態量算出部50bは、目標点TのY座標値Y_Cbcが点Aと点Bとの間に存在する時間をカウントし、これをCounterに追加して、ステップ350に移行する。例えば図24に示すような制御フローを行っている場合、この処理を10msecごとに行っているとすれば、目標点Tが2秒以上点Aと点Bとの間にいるかどうかを判断するにはCounterが200以上になるまで処理を繰り返す。
【0110】
次のステップ350では、Counterが200以上になったかどうかを判定し、Counterが200以上となったとき、直進走行区間をしていると判断してステップ360に移行し、具体的な蛇行制御ステップを開始する。ステップ350で判定するCounterは300以上としても良いし、もっとCounterを小さくする、すなわち早いタイミングで直進走行区間を走行していると判断しても良い。なお、このステップ350でCounterが200未満であった場合、直進走行区間を走行している時間が蛇行制御の条件設定をして蛇行制御を開始するには不十分であると判断してステップ330に移行する。
【0111】
次のステップ360では、蛇行制御フラグがOnかどうかの判断を行う。蛇行制御フラグがOn(Yes)の場合は、既に蛇行制御中であるため、ステップ390に移行する。Onでない場合(No)はステップ370へ移行し、警告を表示する。この警告は変動点Fを目標点Tに設定することによって、車両の方向が自動的に制御される(車体蛇行制御を行う)ことをドライバへ注意するように促すための警告である。この警告と同時に、変動点Fを目標点Tに動かし、すり板の中央をトロリー線が通るように車両を移動させる。このステップ370の変動点Fを目標点Tに動かす制御は以下のようにして実施される。
【0112】
まず変動点FのY座標Y_cを目標点TのY座標Y_Cbcと等しく(Y_c=Y_Cbc)設定する。ここで、上述のように、車両状態量制御部50cによって、代表点Zと変動点Fとの偏差Y_cを用いて代表点Zを変動点Fに一致させるためのヨーモーメント補正値が算出されているため、式(2)に従って代表点Zは目標点Tに一致するようにヨーモーメント制御される。このときの代表点Z,目標点T,変動点Fの一連の動きを図31−図36に示す。図31−図36は、このステップ370における代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bと辺a1−d1の範囲とトロリー線との位置関係を示す図である。
まず、図31は、代表点Zと変動点Fは一致していて、目標点Tはそれらから離れているが区間AB間の中には位置する状態を示している。図31に示す通り、車両本体1はトロリー線に対して平行の状態で走行している。ここで、図32のように変動点Fを目標点Tに一致させると、制御装置200によって式(2)に従って車両にヨーモーメントが付加され、代表点Zを変動点Fに一致させるように制御される。このため、図33及び図34に示すように、代表点Zが目標点Tに徐々に近づき、図35で一旦一致するようになる。この段階では、代表点Zが変動点Fに一致(目標点Tにも一致)しているので、一時的にヨーモーメント補正値は0になる。しかしトロリー線に対して車両本体1が傾いているため、この状態で走行し続ければ当然図36のように右側に目標点Tが移動してしまう。このような式(2)に基づくゲインをかけたのみではハンチングをおこすことになる。そこで、式(2)に積分制御や微分制御等の因子を組み込み、目標点Tに対して代表点Zを収束させて、収束性を高めるのが一般的である。これによって、車両本体1の中心がトロリー線の直下に来て、かつ車両本体がトロリー線に対して平行に走行することになり、安定した蛇行制御を開始することが可能となる。
【0113】
次のステップ380にて、図37に示すように、代表点Z、目標点T、変動点Fが一致している状態になって、かつ車両本体がトロリー線に対して平行であるかどうかを判定する。図37は、代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bと辺a1−d1の範囲とトロリー線との位置関係を示す、図31−図36と同様の図である。Noの場合ステップ395に移行する。Yesの場合、車体蛇行制御を行う条件を十分に満たしていると判断してステップ385に移行し、このステップ385にて蛇行制御フラグをOnにしてステップ390に移行する。
【0114】
ステップ390では、車体蛇行制御のための変動点Fを式(3)のように設定し、この変動点Fの座標値を車両状態量制御部50cへ出力し、ステップ395に移行する。
【0115】
ステップ395にて、車両状態量制御部50cは、変動点Fと代表点Zを一致させるように式(2)に従ってヨーモーメント補正値を算出し出力する。ここで、制御装置200によって代表点Zは変動点Fに一致するようにヨーモーメントを付加されているので、車両本体1を代表する代表点Zが目標点Tを中心に変動している変動点Fに近づくように制御される。このため、車両はトロリー線を中心にして周期的に変動しながら走行するようになり、結果的に車両はトロリー線を中心にして蛇行するようになる。このように、車体蛇行制御を行う場合、目標点T、代表点Z、変動点Fの関係は図38の左上から右下に示すように遷移する。図38は車体蛇行制御を行っているときの代表点Z,目標点T,変動点F,点A,点Bの位置関係を示す図であり、図示するように、式(3)の振幅jは区間AB間に目標点Tが収まる範囲で決定することが望まれる。また図39に示すように、トロリー線に対する車両の動作は、トロリー線の上空から見るとトロリー線に対して蛇行する。
【0116】
次に、ステップ330にて、ヨーモーメント制御モードを選択して出力する。ここで、蛇行制御時は、操舵によるヨーモーメントを生成することが車速の低下を比較的抑えることができる点で望ましい。従って蛇行制御フラグがOnである場合には、ヨーモーメント制御モードを「1」にして、操舵によるヨーモーメント補正をする。車両の構成によっては、操舵角を補正できる機構がない場合があるが、このときには左右の駆動力差によってヨーモーメントを生成してもよい。
【0117】
以上のようにして、一連の動作を完了する。
【0118】
(車体蛇行制御の他の例)
次に、車体蛇行制御の他の例を図40〜図45を用いて説明する。
まず、式(3)のθに関して説明する。図40は電気駆動ダンプトラックの作業状態の一例の説明図であり、図41はトロリー走行を行う区間の長さと振幅の好適な関係の一例を示す図である。
【0119】
図40に示すように、一般的にトロリー線が設置される区間は上り坂であり、往路でトロリー走行を行っても、復路の下り坂ではトロリー走行せずに通常走行で下る場合が多い。この他にもトロリー走行を行う区間が一方通行である場合も考えられる。このような場合、図41のようにトロリー走行区間でX周期(Xは自然数)となるように走行すると、すり板の中心の両側をトロリー線が平均的に接触することになり、より確実にすり板の偏磨耗を防ぐことができる。この場合、θは例えば次式(6)で表すことができる。

θ=2×π×(v×t/L)×s ・・・(6)

ここで、vは車体速度、tは蛇行制御が開始してからの時間、Lはトロリー走行を行う区間の長さである。このようにθを表すと、区間長さLの間にs周期分だけ車体を蛇行させることができる。区間長さLが長い場合は、周期sを増加させても良い。区間長さLが長いときに周期sを小さくすると、周期が小さくなり、すり板とトロリー線との摩擦による熱が集中することになるので、区間長さLに対し適当な周期sとなるよう調整することがよい。
【0120】
一方、トロリー走行区間の長さがX周期にならない場合、例えばトロリー走行区間が短く、一周期分にも満たない場合(これは車両にヨーモーメントを付加しても運動が急峻に変化しないため、走行速度にも依存するが、一般的には所定の区間以上の長さが必要になる)、例えば図42のように0.5周期分しかトロリー走行区間(長さL’)を確保できない場合は、単純に式(3)で動作させると、常にすり板の片側だけがトロリー線と接触して一方のみ磨耗することになる。なお、図42はトロリー走行区間の長さと振幅の関係の他の一例を示す図、また図43はトロリー走行区間の長さと振幅の好適な関係の他の好適な一例を示す図である。
そこで図43に示すように、トロリー走行区間が例えば0.5周期になる場合は、すり板の片側のみの磨耗を避けるため、例えば車両制御装置50内に設けた記憶部にてトロリー走行区間を通過する回数をカウントし、偶数回目と奇数回目の蛇行する方向を交互に変える、すなわち変動を開始する方向を逆転させるように振幅jの符号を逆転させることが望ましい。つまり、トロリー走行区間を通過する回数をiとすれば、変動点FのY座標Y_cを、前述の式(3)のように設定するのではなく、次式

Y_c=Y_Cbc+j×(−1)×sin(θ) ・・・(7)

のように設定することで、蛇行制御が開始される際の振幅の方向が入れ替わり、すり板の片側だけが偏摩耗する問題を簡単かつ確実に解決することができる。なお、実際走行する場合は、ちょうどX周期走行したときにトロリー走行区間が終了するとは限らない場合もあるが、ほぼ誤差とみなしても差し支えない。
【0121】
また、変動点Fを、トロリー走行区間を走行する間に少なくとも0.5周期以上変動させると、式(6)のようにトロリー走行区間でX周期となるように制御することや、トロリー走行区間が0.5周期程度しか確保できない場合であっても式(7)のように変動を開始する方向を逆転させる制御を行うことができ、トロリー線とすり板が接触しない個所が生じることを防ぐことができ、すり板とトロリー線がより平均的に接触し、すり板の片側が偏摩耗することが防止される。
【0122】
(車体蛇行制御の開始トリガの他の例)
上述の直進走行区間を走行していると判断する直進走行区間判断ステップ303のトリガの具体例はステップ340,ステップ350に示す態様に限られず、例えば次のようなものが考えられる。
【0123】
その一例として、ヨーレイトや転舵角が所定の値以下である場合に直進走行区間を走行していると判断するようにしてもよい。この場合の処理フローを図44に示す。図示するように、ステップ310で点Aと点Bの間に目標点Tがあると判定された時に、直進走行区間判断ステップ303−2におけるステップ352にてヨーレイト,転舵角が所定の値以下かどうかを判定し、Yesの場合はステップ360に移行し、Noの場合はステップ330に移行する。
【0124】
更には、図45のように、図24,図44に示した直進走行区間判断ステップの処理と同様の処理を組み合わせて、いずれの条件も満たす場合のみ直進走行区間と判断するようにしても良い。図45は、車体蛇行制御を開始するトリガの処理のフローの他の一例を示す図である。
この場合、ステップ310において点Aと点Bの間に目標点Tがあると判定された時に、直進走行区間判断ステップ303−3におけるステップ352で、転舵角,ヨーレイトが所定の値以下かどうかを判定し、Yesの場合はステップ340に移行し、Noの場合はステップ330に移行する。ステップ340ではCounterを1追加してステップ350に移行し、ステップ350ではCounterが200以上になったかどうかを判定する。
【0125】
(すり板昇降制御)
次にすり板の昇降制御ステップ400に関して説明する。
【0126】
図19、図21及び図26に示すように、すり板4La又は4Raとトロリー線3L又は3Rが接触していて、良好な電力を得続けられるすり板4La又は4Ra上の点WのY座標Y_p_tの範囲として点Cと点Dが設定される。
【0127】
図23のステップ410にて、式(1)に従って目標点T、Uからトロリー線3L又は3Rの傾きを算出する。この傾きと目標点Tの座標から、ステップ420にてすり板4La又は4Raとトロリー線3L又は3Rの交点Wの座標を算出する。これは式(4)に従って算出する。次に、ステップ430にて交点WのY座標の次ステップにおける推定値Y_p_t+1を式(5)に従って算出する。そして、ステップ440にて、この推定値が所定の範囲である点Cと点Dの間(Y_min≦Y_p_t+1≦Y_max)にある状態の継続時間をカウンタにて計測し、その状態が、例えば1秒以上続いたかを判別する。
【0128】
ステップ440にて、点Wが点Cと点D間にある状態が1秒以上続いた場合、ステップ450に処理を移行し、すり板4La,4Raを上げることを許可する。このとき、例えばドライバにすり板4La,4Raを上げても良いことを音声かつ/または表示で知らせてもよい。ドライバがスイッチ操作を行うと、車両制御装置50は上昇制御の指令信号を出力し、昇降制御装置31はその指令信号に基づいてすり板4La,4Raを上昇制御する。また、例えば、すり板4La,4Raが下がっている場合は、ドライバに昇降の操作を委ねるのではなく、自動的にすり板4La,4Raを上げても良い。車両制御装置50は上昇制御の指令信号を出力し、昇降制御装置31はその指令信号に基づいてすり板4La,4Raを上昇制御する。このとき、例えばドライバにすり板4La,4Raが自動で上昇することを音声かつ/または表示で知らせてもよい。
【0129】
一方、ステップ440にて所定の範囲にある状態が1秒以下だった場合は、処理はステップ460へ移行し、もしすり板4La,4Raが上がっていれば下げるようドライバに音声或いは表示で示唆する。また自動的に下げても良い。このとき、例えばドライバにすり板4La,4Raが自動で下がることを音声かつ/または表示で知らせることが好ましい。さらにすり板4La,4Raが下がっている状態であれば、すり板4La,4Raを上げることを禁止する。このとき、すり板4La,4Raを上げることが禁止状態であることをドライバに音声かつ/または表示で知らせることが好ましい。これらの場合も、ドライバのスイッチ操作あるいは自動で車両制御装置50は指令信号を出力し、昇降制御装置31はその指令信号に基づいてすり板4La,4Raを下降制御する。これによりダンプトラックがトロリー走行区間に入ってすり板4La,4Raを上げ下げするときのオペレータの負担を軽減することができる。
【0130】
図23のステップ440では、推定値Y_p_t+1が点Cと点Dの間(Y_min≦Y_p_t+1≦Y_max)にある状態が、例えば1秒以上続いたかを判別したが、そのような判別をせず、推定値Y_p_t+1が点Cと点Dの間(Y_min≦Y_p_t+1≦Y_max)にある場合は、直ちにステップ450の処理に移行し、推定値Y_p_t+1が点Cと点Dの間(Y_min≦Y_p_t+1≦Y_max)にない場合は、直ちにステップ460の処理に移行してもよい。しかし、ステップ440の処理は、路面のでこぼこや、画像処理におけるノイズの影響でY_p_tが安定しないとき、所定の範囲を超えたり、範囲内になったりを繰り返すことによる判別のハンチングを防ぐ目的としては有効である。
【0131】
図46は、ステップ440のカウンタを用いた処理に代わるヒステリシス処理を示す図である。図46に示すように、点Cと点D間に点Wがあるときは、点Cと点D間の距離を大きくするように点Cと点Dの設定を変更する。一方、点Wが点Cと点D間にないときは、点Cと点D間距離を小さくするよう。このように点Cと点D間の距離にヒステリシスを設けても、ステップ440のカウンタ処理と同様の効果が得られる。
【0132】
(効果)
以上のように構成した本実施の形態によれば、トロリー線3L,3Rの下方からトロリー線3L,3Rを検出し、車両を進行方向に対して垂直方向に変動させるためのヨーモーメントが付加される。このため、車両はトロリー線3L,3Rを中心にして蛇行しながら走行するので、トロリー線とすり板の接点の位置がすり板の中心に集中せず、ドライバが特別の配慮をすることなしにトロリー線とすり板を均等に接触させながらダンプトラックを走行させることができる。よってドライバがすり板の偏摩耗に気を配ることなくすり板の偏摩耗を防ぐことができ、ドライバの操作負担を軽減することができる。
【0133】
また、トロリー線3L,3Rの下方からトロリー線3L,3Rを検出するため、従来のように地表面を撮像しレーンマーカ等を検知する場合と比べ、検知誤差に繋がる因子が少ないため、検知精度が向上する。このように検出した情報に基づいて、集電装置4L,4Rのすり板4La,4Raの昇降を制御することにより、走行中にすり板4La,4Raの中心位置がトロリー線3L,3Rから横方向に大きく外れた場合でも、すり板4La,4Raを上げる操作を禁止する、或いはすり板4La,4Raが上がっている場合はすり板4La,4Raを下げるなどの措置をとることができ、これによりトロリー走行中のドライバの操作負担を軽減することができる。
【0134】
また、トロリー線3L,3Rの検知精度が向上することで、トロリー線3L,3Rに対して蛇行または追従して走行するようヨーモーメント制御を行うときの制御精度が向上するため、走行中にすり板4La,4Raの中心位置がトロリー線3L,3Rから横方向に大きく外れにくくなり、この点でも、トロリー走行区間を走行中のドライバの操作負担を軽減することができる。
【0135】
また、トロリー線検出装置としてカメラ15を用いた場合は、照明装置51でトロリー線3L,3Rを照らすことで、空に対するトロリー線3L,3Rのコントラストが維持され、昼間の天候状態が良好なときだけでなく、夕方、夜間、雨天など、トロリー線3L,3Rと空との高いコントラストが得にくい場合でも、トロリー線3L,3Rに蛇行または追従して走行させるヨーモーメント制御を精度良く行うことができる。
【0136】
更に、制御装置200は、車両制御装置50とコントローラ100を別体としてヨーモーメント制御を行うことにより、コントローラ100が既存のコントローラであっても、車両制御装置50を付加するだけで本発明のヨーモーメント制御が行える、或いは、車両制御装置50の機能を変更するだけでヨーモーメント制御のパラメータを調整することができるなど、制御系に柔軟性を持たせることができる。
【0137】
(その他)
本実施の形態では、図21、図23及び図24に示すように、目標点Tが不感帯の間(点Aと点Bの間)にあるときのみトロリー線付近で蛇行する車体蛇行制御を実施する例を示したが、必ずしも区間ABの間でのみ車体蛇行制御のステップを動作させる必要はない。不感帯を設けず、トロリー線に追従する制御を行わない場合でも、変動点Fを設定し、この変動点Fを目標点Tに対して式(3)や式(7)のように設定し、代表点Zを変動点Fに一致させるようにヨーモーメント補正値を算出し、このヨーモーメント補正値に従って車体を制御すれば、車両はいずれトロリー線を中心にしてトロリー線に対して蛇行して走行するようになる。その場合の制御フローは図47に示すようになる。
【0138】
図47のフローは、ステップ203Bまでは図23と共通である。
ステップ203Bからすり板昇降制御400に移行し、更にすり板昇降制御ステップ400のステップ450の後に、すり板を上げた状態でトロリー線に対する蛇行制御ステップ300’のステップ390に移行して、車両状態量算出部50bは、車体蛇行制御のための変動点Fを式(3)や式(7)のように設定し、この変動点Fの座標値を出力し、ステップ395に移行する。そしてステップ395にて、車両状態量制御部50cは、変動点Fと代表点Zを一致させるように式(2)に従ってヨーモーメント補正値を算出し、出力する。
【0139】
これによっても、車両は最終的にはトロリー線に対して蛇行しながら追従して走行するようになる。なお、ステップ440でNoとなり、ステップ460に移行した場合、トロリー走行を行う区間ではないと判断し、処理を終了する。
【0140】
また、図47に示す処理に、図44に示すような直進走行区間判断ステップに相当する処理を加えることができる。この場合、ドライバによってハンドルが操作されていることになるため、転舵角の代わりに操舵角を計測し、ステップ352に相当する処理で、ヨーレイト,操舵角が所定の値以下かどうかを判定することができる。
【0141】
上述の実施の形態では、トロリー線検出装置としてカメラを用いる場合、カメラの向いている方向を真上としたが、図48に示すように、車両の前方上方を撮像するようにしても良い。このようにすることで、車両の進行方向に撮像されるトロリー線が長いため、対象とするトロリー線を判別しやすくなる。一方で、前方に撮像範囲を移すほど、撮像範囲に入る景色によるノイズが増大する。本発明を用いる環境に応じて、カメラの撮像範囲は調整するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0142】
1 車両本体
2 ベッセル
3L,3R トロリー線
4L,4R 集電装置
4La,4Ra すり板
4a 油圧ピストン装置
4b 油圧ピストン
4c ロッド
4d 油圧配管
4e 油圧機器
4f 絶縁体
4g 電線
4h 昇降指令信号
5L,5R 後輪
6L,6R 電動モータ
6La,6Ra 出力軸
7L,7R 減速機
11 アクセルペダル
12 リタードペダル
13 シフトレバー
14 コンバインセンサ
15 カメラ
16L,16R 後輪の電磁ピックアップセンサ
21 エンジン
21a 電子ガバナ
22 交流発電機
23 整流回路
24 検出抵抗
25 コンデンサ
26 チョッパ回路
27 グリッド抵抗
28 その他のエンジン負荷
30 インバータ制御装置
30a トルク指令演算部
30b モータ制御演算部
30c インバータ(スイッチング素子)
31 昇降制御装置
32 操舵制御装置
32a 変換部
32b 演算部
32c 変換部
32d 演算部
35L,35R 前輪
36L,36R 前輪の電磁ピックアップセンサ
37 対地車速センサ
40 操舵装置
41 ハンドル
42 操舵角センサ付反力モータ
43 転舵角センサ付転舵モータ
44 ラック&ピニオンギア
45L,45R 前輪
50 車両制御装置
50a 画像情報処理部
50b 車両状態量算出部
50c 車両状態量制御部
50c 演算部
50c 変換部
50c 変換部
50c 変換部
51 照明装置
52 絶縁体
53 支柱
100 コントローラ
100a 処理部
100b 演算部
101 車体速制御部
101a 演算部
101b 変換部
101c スイッチ部
101d ゼロ出力部
102 ヨーモーメント制御部
102a 演算部
102b 操舵トルク制御部
102c モータトルク制御部
102d 最適配分制御部
102e スイッチ部
200 制御装置
P,Q,R,S 目標点
P’,Q’,R’,S’ 代表点
T 目標点
Z 代表点(制御点)
F 変動点
e_Lad 偏差
θ_L 傾き
Y_Cbc 偏差
θ_t 傾き
Y_l,Y_r 点A,BのY座標値(第1のしきい値)
Y_l’,Y_r 点A’,B’のY座標値(第2のしきい値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体に設けられた昇降可能な集電装置のすり板を上げ、このすり板を道路に沿って設けられたトロリー線に接触させ、前記トロリー線から電力を受けて走行する電気駆動ダンプトラックにおいて、
走行用の左右の電動モータと、
操舵装置と、
前記車両本体に設けられ、走行中に前記トロリー線の下方から前記トロリー線を検出するトロリー線検出装置と、
前記トロリー線検出装置により検出した前記電気駆動ダンプトラックと前記トロリー線の相対位置情報に基づいて、前記トロリー線を中心として蛇行して走行するよう前記車両本体にヨーモーメントを与える制御を行う制御装置とを備え、
前記制御装置は、
車両制御装置と、コントローラと、インバータ制御装置と、操舵制御装置とを備え、
前記車両制御装置は、前記車両本体にヨーモーメントを与えるためのヨーモーメント補正値を演算し、
前記コントローラは、前記ヨーモーメント補正値に基づいて、前記インバータ制御装置及び前記操舵制御装置により前記左右の電動モータと前記操舵装置の少なくとも一方を制御することを特徴とする電気駆動ダンプトラック。
【請求項2】
請求項1記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、
前記制御装置は、
前記トロリー線検出装置により検出した前記電気駆動ダンプトラックと前記トロリー線の相対位置情報に基づいて前記車両本体の少なくとも1つの代表点と前記トロリー線上に位置する少なくとも1つの目標点を算出し、かつ前記目標点を基準にして変動する変動点を設定し、前記代表点が前記変動点に近づくように前記車両本体にヨーモーメントを与える制御を行うことを特徴とする電気駆動ダンプトラック。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、
前記車両の車体速を計測する車体速検出装置を更に備え、
前記制御装置は、
予め記憶しておいたトロリー走行を行う区間の距離、前記車体速検出装置で計測される車両の車体速の少なくとも一方に応じて決まる所定の周期にて前記変動点を周期的に変動させることを特徴とする電気駆動ダンプトラック。
【請求項4】
請求項3記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、
前記制御装置は、
前記トロリー走行区間距離、前記車体速の少なくとも一方に応じた正弦波関数、台形波関数、三角波関数のいずれか一つに従って決まる所定の周期にて前記変動点を周期的に変動させることを特徴とする電気駆動ダンプトラック。
【請求項5】
請求項3記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、
前記制御装置は、
前記変動点を周期的に変動させる際に、前記変動点を前記トロリー走行区間を走行する間に少なくとも半周期以上変動させることを特徴とする電気駆動ダンプトラック。
【請求項6】
請求項2記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、
ドライバによるハンドルの操作角とタイヤの転舵角のいずれか一方を計測する角度センサと、前記車両のヨーレイトを計測するヨーレイト検出装置とを更に備え、
前記制御装置は、
前記車両が直進走行区間を走行しているかどうかを、前記角度センサによって計測される操舵角と転舵角のいずれか一方と、前記ヨーレイト検出装置で計測されるヨーレイトの少なくとも一方が所定の値以下になっている時間が所定時間以上持続するかどうかで判断し、車両がこの直進走行区間を走行していると判断されるときに、前記変動点を設定することを特徴とする電気駆動ダンプトラック。
【請求項7】
請求項2記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、
前記制御装置は、
前記トロリー走行区間を走行する回数を記憶し、その走行回数に応じて、前記変動点の変動方向を前記トロリー走行区間を走行する毎に逆転させることを特徴とする電気駆動ダンプトラック。
【請求項8】
請求項1又は2のいずれか1項記載の電気駆動ダンプトラックにおいて、
前記トロリー線検出装置は、
前記車両本体に設けられ、走行中に前記トロリー線を連続的に撮像するカメラと、
前記車両本体に設けられ、前記トロリー線を照らす照明装置とを有することを特徴とする電気駆動ダンプトラック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【公開番号】特開2013−17315(P2013−17315A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148709(P2011−148709)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】