説明

電池の製造方法および電池の製造装置

【課題】生産量の低下を極力防いだ箔継ぎ作業を実施可能な、電池の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】集電体シート50の継ぎ合わせを行う箔継ぎ作業時における、集電体シート50の塗工工程への供給は、塗工工程における減圧状態を常圧状態に変化させる減圧解除工程(ステップS101)と、減圧解除工程(ステップS101)の完了後、塗工工程にて集電体シート50に付加する張力を、反転工程における張力にまで低下させる張力低下工程(ステップS102、S103)と、張力低下工程(ステップS102、S103)の完了後、第一の集電体シート50の後端部に、新たに供給する第二の集電体シート50の前端部を継ぎ合わせて接続し、接続した集電体シート50を塗工工程へ搬送する箔継ぎ工程(ステップS104)と、を備える供給工程によって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の集電体シートの平面にペースト材料が塗工された電極箔を有する電池の製造方法、および製造装置の技術に関し、より詳しくは、前記集電体シートを追加する際の箔継ぎ作業の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電池の電極としては、金属箔の集電体シートの表裏面に、ペースト材料からなる活物質層を形成してなる電極箔が用いられ、該電極箔は主に塗工装置によって製造される(例えば、「特許文献1」を参照。)。
前記塗工装置は、繰出し装置や吐出装置や乾燥炉や巻取り装置などにより構成される。
そして、このような構成からなる塗工装置によって電極箔を製造するには、先ず、ロール状に巻き取られた金属箔である集電体シートを繰出し装置によって繰出し、該集電体シートの表面に、吐出装置によりペースト材料を吐出して塗布する。その後、塗布したペースト材料を乾燥炉により乾燥させた後、さらに集電体シートの裏面に、吐出装置によりペースト材料を吐出して塗布する。そして、再び乾燥炉により、塗布したペースト材料を乾燥させた後、巻取り装置によってロール状に巻き取るのである。
【0003】
ここで、例えばリチウムイオン二次電池などに用いられる電極箔は、活物質層の厚みが極端に薄く、このような活物質層を効率よく確実に形成するために、集電体シートへのペースト材料の塗布を、減圧下にて実施することが行われている(例えば、「特許文献2」を参照。)。
即ち、前記吐出装置は、ペースト材料を吐出するダイと、該ダイと対向して配設されるバックアップロールと、これらのダイとバックアップロールとの間、且つペースト材料の塗布部における集電体シートの搬送方向上流側を覆う減圧チャンバとを有して構成される。
そして、集電体シートはバックアップロールに巻回されつつ、該バックアップロールとダイとの間を搬送され、室内を減圧された減圧チャンバ内にて、該ダイから吐出されるペースト材料が塗布されるのである。
【0004】
また、前記塗工装置においては、集電体シートの表裏面にペースト材料を塗工することから、搬送途中の集電体シートを反転させる必要がある。従って、集電体シートの反転作業をスムーズに行うために、反転装置が設けられることが多い(例えば、「特許文献3」を参照。)。
前記反転装置は、例えば平面視において、三角形などの多角形の各辺に軸心方向を沿わせて配設される複数のエアターンローラーを有して構成され、各エアターンローラーの搬送面(集電体シートが巻回される外周面)には、無数の微細孔が穿孔されるとともに、該微細孔より圧縮空気が噴出される。
そして、集電体シートは、前記圧縮空気によって前記搬送面から浮上された状態で各エアターンローラーに各々巻回され、該エアターンローラーの軸心方向に横滑りしながらスムーズに搬送される。そして、最終的に、表面および裏面を反転させた状態によって、反転装置より搬出されるようになっている。
【0005】
以上のような構成からなる塗工装置においては、集電体シートが、減圧チャンバ内の減圧によってバックアップロールより浮き上がるのを防止するために、吐出装置の近傍では、前記集電体シートに高負荷の張力を付加する必要がある。
一方、反転装置の近傍では、集電体シートが各エアターンローラーに各々巻回されつつ、該エアターンローラーの軸心方向に横滑りしながらスムーズに搬送されるように、該集電体シートに低負荷の張力を付加する必要がある。
このようなことから、吐出装置と反転装置との間(より詳しくは、乾燥炉の下流側近傍)には、ニップローラー装置が配設され、該ニップローラー装置に設けられる二本のニップローラーによって、搬送中の集電体シートを挟持することで、これらの吐出装置側と反転装置側とにおける集電体シートに付加される張力を、分断するようになっている。
【0006】
ところで、残り少なくなった集電体シートを新規の集電体シートに交換する際、これらの集電体シートの端部を粘着テープによって互いに継ぎ合わせることで、両者を接続する(箔継ぎする)「箔継ぎ作業」が実施される。
また、前記箔継ぎ作業を実施する場合、予め定められた品質を満足する電極箔の生産量を極力維持するために、塗工装置は一旦停止されることなく継続して稼動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−353514号公報
【特許文献2】特開平10−188962号公報
【特許文献3】特開2005−298129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、塗工装置内を搬送される集電体シートにおいて、箔継ぎがなされた箇所(以下、「箔継ぎ箇所」と記す)は、他の部分に比べて、貼付された粘着テープの分だけ厚みが増している。そして、集電体シートの箔継ぎ箇所の厚みは、ダイとバックアップロールとの間の隙間より大きな値となっている。
よって、集電体シートの箔継ぎ箇所が吐出装置の部分を通過する際は、先ず、ダイによるペースト材料の吐出を停止し、さらに該ダイをバックアップローラに対して離間方向に移動させた後に、前記箔継ぎ箇所が吐出装置の部分を通過するように構成する必要がある。
【0009】
また、ニップローラー装置は、乾燥炉の下流側近傍に配設されるところ、他の部分に比べて厚みが厚く、粘着力を有する粘着テープが貼り付けられている集電体シートの箔継ぎ箇所は、前記乾燥炉によって熱せられた状態でニップローラー装置部分に到達するが、前記箔継ぎ箇所が熱せられた状態で二本のニップローラーにより挟持されると、集電体シートに多数の皺が発生する。
よって、集電体シートの箔継ぎ箇所が二本のニップローラー間を通過する際は、これら二本のニップローラーを離間して開放した状態で前記箔継ぎ箇所を通過させる必要がある。
【0010】
一方、二本のニップローラーを開放すれば、吐出装置側と反転装置側とにおける集電体シートに付加される張力は繋がってしまう。
その結果、集電体シートに付加される張力は、吐出装置側の高負荷の張力に統一され、反転装置において、集電体シートと各エアターンローラーとの間に擦れが発生してしまう。
よって、二本のニップローラーの開放は、吐出装置側の張力を反転装置側の張力にまで低下させた後に行う必要がある。
【0011】
しかしながら、前述のとおり、吐出装置側の張力が反転装置側の張力にまで低下すると、吐出装置近傍を搬送される集電体シートは、減圧チャンバ内が減圧されているためバックアップロールより浮き上がることになる。
また、減圧下にて吐出されるペースト材料は、常圧下にて吐出される場合に比べて、幅方向(平面視において、集電体シートの搬送方向と直交する方向)に広がって、集電体シートに塗布されるところ、減圧状態のまま吐出装置側の張力を反転装置側の張力にまで低下させると、塗工幅(活物質層の幅方向の寸法)の狭い電極箔が製作されてしまい、不良品になるおそれがある。
【0012】
以上のようなことから、従来の塗工装置において箔継ぎ作業を実施するときには、先ず、吐出装置におけるペースト材料の吐出を停止し、減圧チャンバ内の気圧を常圧にまで復帰した後、ダイをバックアップローラに対して離間方向に移動させるとともに、吐出装置側の張力を反転装置側の張力にまで低下させ、二本のニップローラーを開放していた。そして、集電体シートの箔継ぎ作業が終了して、集電体シートの箔継ぎ箇所が、ニップローラー装置を通過した後に、これら吐出装置とニップローラー装置を元の状態(箔継ぎ作業を実施する前の状態)に復帰することとしていた。
このように、従来の塗工装置においては、箔継ぎ作業を実施する際、箔継ぎされた前記箔継ぎ箇所がニップローラー装置を通過するまで、集電体シートにペースト材料を塗工することができず、製造される電極箔について歩留まりの悪化や、生産量の低下を招いていた。
【0013】
本発明は、以上のような問題点を鑑みてなされたものであり、生産量の低下を極力防いだ箔継ぎ作業を実施可能な、電池の製造方法および製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0015】
即ち、請求項1においては、減圧下にて、帯状の集電体シートに高負荷の張力を付加しつつ、ペースト材料を塗工する塗工工程と、該塗工工程の完了後、該塗工工程において付加した張力に比べて低負荷の張力を前記集電体シートに付加しつつ、前記集電体シートをエアターンローラーの外周面に滑らせながら前記集電体シートの表裏面を反転させる反転工程と、を備える製造工程によって電極箔を製造する、電池の製造方法であって、前記集電体シートの継ぎ合わせを行う箔継ぎ作業時における、前記集電体シートの前記塗工工程への供給は、前記塗工工程における減圧状態を常圧状態に変化させる減圧解除工程と、該減圧解除工程の完了後、前記塗工工程にて集電体シートに付加する張力を、前記反転工程における張力にまで低下させる張力低下工程と、前記張力低下工程の完了後、第一の集電体シートの後端部に、新たに供給する第二の集電体シートの前端部を継ぎ合わせて接続し、接続した集電体シートを塗工工程へ搬送する箔継ぎ工程と、を備える供給工程によって行われるものである。
【0016】
請求項2においては、請求項1に記載の電池の製造方法であって、前記減圧解除工程において、前記ダイと前記集電体シートとの間隙寸法は、減圧値ごとに予め定められており、前記減圧値の変化にともなって、前記間隙寸法を変化させるものである。
【0017】
請求項3においては、高負荷の張力が付加された状態で搬送される帯状の集電体シートが巻回されるバックアップロールと、前記集電体シートを間に挟んだ状態で前記バックアップロールに対向して設けられ、前記バックアップロールに対して近接離間方向に移動可能に配設されるダイと、前記バックアップロールとダイとの間隙を減圧する減圧手段と、を有する塗工部、該塗工部の集電体シート搬送方向における下流側に設けられ、外周面において、該塗工部に比べて低負荷の張力が付加された前記集電体シートを滑らせながら、前記集電体シートの表裏面を反転させるエアターンローラーを有する反転部、および前記塗工部の上流側に設けられ、二枚の前記集電体シートを継ぎ合わせて接続する箔継ぎ部、を備える塗工装置によって電極箔を製造する、電池の製造装置であって、前記集電体シートの継ぎ合わせを行う箔継ぎ作業時における、前記集電体シートの前記塗工部への供給は、前記減圧手段による前記バックアップロールとダイとの間隙の減圧状態を常圧状態に変化させ、前記バックアップロールと前記ダイとの間隙が常圧に達した後、前記塗工部にて集電体シートに付加される張力を低下させ、該張力が、前記反転部にて集電体シートに付加される張力と等しくなった後、前記箔継ぎ部によって、第一の集電体シートの後端部に、新たに供給する第二の集電体シートの前端部を継ぎ合わせて接続して、接続した集電体シートを前記塗工部へ搬送することにより行われるものである。
【0018】
請求項4においては、請求項3に記載の電池の製造装置であって、前記塗工部において、前記ダイと前記集電体シートとの間隙寸法は、減圧手段の減圧値ごとに予め定められており、前記塗工部の減圧手段を徐々に解除する際は、前記減圧値の変化にともなって、前記ダイをバックアップロールに対して近接離間方向に移動させるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明における電池の製造方法、および電池の製造装置によれば、生産量の低下を極力防いだ箔継ぎ作業を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例に係る塗工装置の全体的な構成を示した構成概略図。
【図2】減圧マップの一例を示した図。
【図3】箔継ぎ作業時における塗工装置の動作を示した図であり、減圧マップに基づくダイギャップの調整開始から、箔の継ぎ部の通過後、ダイの位置を復元するまでの動作を示したフローチャート。
【図4】同じく、箔継ぎ作業時における塗工装置の動作を示した図であり、箔へのペースト材料の塗工再開から、減圧マップに基づきダイギャップを元の状態に戻すまでの動作を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0022】
[塗工装置1]
先ず、本発明に係る電池の製造装置を具現化する塗工装置1の全体的な構成について、図1、および図2を用いて説明する。
なお、図1における矢印aの方向が、電極箔(より詳しくは、集電体シート50)の搬送方向を示すものとして、以下の説明を行う。
【0023】
塗工装置1は、例えばリチウムイオン二次電池などの電極として用いられる電極箔を製造するための装置である。
塗工装置1は、主に第一塗工部2や反転部3や第二塗工部4や、塗工装置1全体の運転を制御する制御装置5などにより構成される。
【0024】
先ず始めに、第一塗工部2について説明する。
第一塗工部2は、帯状の集電体シート50の「表面」に、ペースト材料52を塗工するための機構である。
第一塗工部2は、繰出し装置21や箔継ぎ装置22や第一吐出装置23や第一乾燥炉24などにより構成される。
【0025】
なお、集電体シート50は、電極箔の基板となる部材であり、例えばアルミニウム箔や銅箔など、製造される電極箔の種類や用途に応じて任意に用いられるシート状の金属箔から形成される。
また、ペースト材料52は、溶剤を加えた電極活物質(正極活物質あるいは負極活物質)と、バインダーとを混合したスラリー状の流動体から形成される。
【0026】
繰出し装置21は、ロール状に巻き取られた集電体シート50(以下、ロール状に巻き取られた集電体シート50を「集電体ロール50a」と記す)を第一吐出装置23に繰出すとともに、繰出された集電体シート50に張力を付加するための装置である。
【0027】
繰出し装置21には駆動モータ21aや、集電体ロール50aの軸心に挿嵌されて該集電体ロール50aを支持する回転シャフト21bなどが配設される。
前記駆動モータ21aの出力軸は、図示せぬ連結機構を介して前記回転シャフト21bと駆動連結される。
そして、駆動モータ21aの駆動力が回転シャフト21bに伝達され、集電体ロール50aが軸心を中心にして回転駆動されることで、集電体シート50は塗工装置1に繰出される。
【0028】
なお、繰出し装置21より集電体シート50が繰出される速度(図1に示す第一繰出し速度V1)は、後述するニップローラー装置32より集電体シート50が繰出される速度(図1に示す第二繰出し速度V2)に比べて遅くなるように、駆動モータ21aは制御されている。
即ち、駆動モータ21aの回転速度をこのように制御することで、繰出し装置21からニップローラー装置32に亘る領域において、集電体シート50には、搬送方向へ向かって作用する高負荷の張力が付加されるようになっている。
【0029】
次に、箔継ぎ装置22について説明する。
箔継ぎ装置22は、残り少なくなった集電体ロール50a(以下、「旧集電体ロール50a」と記す)を新規の集電体ロール50a(以下、「新集電体ロール50a」と記す)に交換する際、これらの新旧両集電体ロール50a・50aに巻き取られた各集電体シート50・50の端部を、粘着テープ51によって互いに継ぎ合わせて接続する(箔継ぎする)箔継ぎ作業を実施するための装置である。
【0030】
箔継ぎ装置22は箔継ぎ部22aや、該箔継ぎ部22aを駆動する駆動モータ22bなどにより構成される。
箔継ぎ部22aは開閉動作可能に構成され、箔継ぎ作業が行われない通常時は「開状態」に保持されており、繰出し装置21より繰出された集電体シート50が、箔継ぎ部22aの内部を通過して、後述する第一吐出装置23へ送られるようになっている。
【0031】
そして、残り少なくなった旧集電体ロール50aを新規の新集電体ロール50aに交換する際は、旧集電体ロール50aに巻き取られていた集電体シート50の終端部と、新集電体ロール50aに巻き取られている集電体シート50の始端部とを合わせた状態で、箔継ぎ装置22に送り込むようになっている。
【0032】
そして、旧集電体ロール50a側の集電体シート50の終端部と新集電体ロール50a側の集電体シート50の始端部とを合わせた部分が、箔継ぎ部22aを通過する際に、駆動モータ22bが作動して箔継ぎ部22aが「閉状態」となる。これにより、前記終端部と始端部とを合わせた部分が、粘着テープ51とともに箔継ぎ部22aによって挟持され、粘着テープ51により継ぎ合わされる。旧集電体ロール50a側の集電体シート50の終端部と新集電体ロール50a側の集電体シート50の始端部とを粘着テープ51により継ぎ合わせることにより、両集電体シート50・50が接続される(箔継ぎされる)のである。
【0033】
次に、第一吐出装置23について説明する。
第一吐出装置23は、集電体シート50へのペースト材料52の塗工作業を行うための装置である。
第一吐出装置23は、吐出部25や供給部26や減圧部27やバックアップロール28などにより構成される。
【0034】
吐出部25は供給部26より供給されるペースト材料52を、集電体シート50に向かって吐出する部位であり、ダイ25Aや減圧チャンバ25Bや可動部25Cなどにより構成される。
【0035】
ダイ25Aは略直方体形状の部材からなり、その長手方向がバックアップロール28の軸心方向と平行になるようにして、該バックアップロール28と対向して配設される。
一方、バックアップロール28は、軸心方向が集電体シート50の幅方向(集電体シート50の搬送方向に対して平面視直交する方向)となるように配置され、回転可能に軸支される。
【0036】
そして、箔継ぎ装置22を通過した集電体シート50は、ガイドローラー29を介してバックアップロール28へと導かれ、その後、該バックアップロール28に巻回されつつ、該バックアップロール28とダイ25Aとの間を通り、ガイドローラー30を介して、後述する第一乾燥炉24へと導かれるようになっている。
【0037】
ダイ25Aの、バックアップロール28側の側面部には、該バックアップロール28に向かって突出するリップ部25aが、長手方向に沿って延出して形成される。そして、前記リップ部25aの突出側端面部には、スリット25bが長手方向に沿って形成される。
【0038】
前記スリット25bの長手方向の寸法は、集電体シート50に塗工されるペースト材料52の幅寸法(集電体シート50の搬送方向に対して平面視直交する方向の寸法)と略同程度に形成される。
そして、前記スリット25bは、ダイ25Aの内部に形成される空間部(以下、「材料溜り部25c」と記す)と連通され、材料溜り部25c内に貯溜されたペースト材料52が、スリット25bを通じて、バックアップロール28に巻回される集電体シート50に向かって吐出されるのである。
【0039】
減圧チャンバ25Bは、ダイ25Aとバックアップロール28との間において、リップ部25aの上流側(集電体シート50の搬送方向に対する上流側。以下同じ。)の空間を覆う略箱形状に形成される。
即ち、バックアップロール28に巻回されつつ、ダイ25Aと該バックアップロール28との間を搬送される集電体シート50に対して、ペースト材料52を塗工する際、リップ部25aの長手方向全領域に亘る上流側の空間部は、リップ部25aと吐出されるペースト材料52、およびバックアップロール28に巻回される集電体シート50、および減圧チャンバ25Bによって、周囲の雰囲気から隔離されるようになっている。
【0040】
そして、減圧チャンバ25Bには、後述する減圧部27が吸引ホース27bを介して連通され、集電体シート50に対してペースト材料52を吐出する際は、減圧部27によって、減圧チャンバ25B内が常に減圧されるようになっている。
【0041】
可動部25Cは、ダイ25Aを支持するとともに、該ダイ25Aを前進方向(バックアップロール28に対して近接する方向)および後退方向(バックアップロール28に対して離間する方向)に移動させるガイド機構部25dや、該ガイド機構部25dを駆動する駆動モータ25eなどにより構成される。
【0042】
そして、駆動モータ25eを駆動して、ガイド機構部25dを介してダイ25Aを移動せることで、リップ部25aの突出端面部と、バックアップロール28に巻回される集電体シート50との隙間寸法(以下、「ダイギャップ」と記す)は、可動部25Cによって自由に変更可能な構成となっている。
【0043】
供給部26は、ペースト材料52をダイ25Aへ供給するとともに、リップ部25aよりペースト材料52を吐出する際の吐出圧を、ダイ25Aに付加するための機構である。
供給部26は、配管部材26aを介してダイ25Aと連通されるポンプ26bや、該ポンプ26bの投入ポートに連結される投入タンク26cや、該ポンプ26bを運転する駆動モータ26dなどにより構成される。
【0044】
このような構成からなる供給部26において、駆動モータ26dを駆動すると、投入タンク26cに投入されたペースト材料52はポンプ26bによって吐出され、配管部材26aを通ってダイ25Aに送られる。
【0045】
そして、ダイ25Aに到達したペースト材料52は、該ダイ25A内部の材料溜り部25cに一旦貯溜された後、リップ部25aのスリット25bを通じて、集電体シート50に吐出されるのである。
【0046】
減圧部27は、集電体シート50に対してペースト材料52を塗工する際、減圧チャンバ25B内を減圧するための機構である。
減圧部27は既知のブロア装置27aや、該ブロア装置27aと減圧チャンバ25Bとを連通する吸引ホース27bなどにより構成され、該吸引ホース27bの中途部には、電磁式の減圧調整弁27cが配設される。
【0047】
そして、ダイ25Aのリップ部25aよりペースト材料52を吐出する際は、ブロア装置27aを運転して減圧チャンバ25B内の空気を外部に強制排出するとともに、減圧調整弁27cを制御して該空気の排出量を調整することで、前記減圧チャンバ25B内の気圧が適切な減圧状態に保たれるようになっている。
【0048】
次に、第一乾燥炉24について説明する。
第一乾燥炉24は、第一吐出装置23によって塗工されたペースト材料52を乾燥させて、該ペースト材料52を集電体シート50の表面に固着させるための装置である。
第一乾燥炉24は、集電体シート50の搬送方向に沿って延出される略箱形状の部屋からなり、内部には既知のヒーターが複数備えられる。
そして、集電体シート50が第一乾燥炉24内を搬送される間に、集電体シート50に塗工されたペースト材料52が加熱されて徐々に乾燥され、溶剤が蒸発して乾燥されたペースト材料52は、集電体シート50の表面に固着されるのである。
【0049】
続いて、反転部3について説明する。
反転部3は、搬送中の集電体シート50の表面および裏面を反転させる機構である。
反転部3は、エアターン装置31やニップローラー装置32・32などにより構成される。
【0050】
エアターン装置31は、集電体シート50を巻回しながら、該集電体シート50の表面および裏面を反転させるための装置である。
エアターン装置31は複数のエアターンローラー31a・31a・・・(図1においては、概略的に一本のエアターンローラー31aのみ記す)や、既知のブロア装置31bや、これらエアターンローラー31a・31a・・・とブロア装置31bとを連通する連通配管31cなどにより構成され、該連通配管31cの中途部には、電磁式の圧力調整弁31dが配設される。
【0051】
エアターンローラー31a・31a・・・は、例えば平面視において、軸心方向を三角形、或いは四角形など多角形の各辺に沿わせて配設される。
そして、エアターン装置31に投入された集電体シート50は、これらエアターンローラー31a・31a・・・間において、各エアターンローラー31aに各々巻回されつつ、該エアターンローラー31aの軸心方向に横滑りしながら搬送され、最終的に、表面および裏面を反転させた状態によって、エアターン装置31より搬出されるようになっている。
【0052】
また、これらエアターンローラー31a・31a・・・の搬送面(集電体シート50が巻回される外周面)には無数の微細孔が穿孔されており、集電体シート50の搬送時には、ブロア装置31bより吹き込まれた圧縮空気が、前記微細孔を介して、これらエアターンローラー31a・31a・・・の搬送面より噴出するようになっている。
このような構成を有することで、各エアターンローラー31aに巻回される集電体シート50は、前記圧縮空気により該エアターンローラー31aの搬送面より浮上することとなり、摩擦抵抗が低減されてスムーズに搬送されるようになっている。
【0053】
なお、これらエアターンローラー31a・31a・・・の搬送面より噴出する圧縮空気の圧力は、圧力調整弁31dによって、常に予め定められた適切な圧力に保持されるようになっている。
【0054】
次に、ニップローラー装置32について説明する。
ニップローラー装置32は、集電体シート50に付加される張力を、反転部3とその他の工程(具体的には、第一塗工部2と第二塗工部4)とにおいて分断するための装置である。
【0055】
即ち、第一塗工部2、および後述する第二塗工部4においては、減圧部27による減圧チャンバ25B内の減圧によって、集電体シート50がバックアップロール28の外周面から剥離しないように、該集電体シート50には高負荷の張力を付加する必要がある。
【0056】
一方、反転部3においては、エアターン装置31に投入された集電体シート50が、搬送面から浮上した状態で各エアターンローラー31aに巻回されつつ、該エアターンローラー31aの軸心方向に横滑りしながら搬送されることから、該集電体シート50には低負荷の張力を付加する必要がある。
【0057】
このようなことから、本実施例における塗工装置1においては、エアターン装置31の上流側および下流側に二基のニップローラー装置32・32を各々配設し、これらニップローラー装置32・32によって、集電体シート50に付加される張力を、反転部3とその他の工程とで隔絶するようになっている。
【0058】
ニップローラー装置32は、一対の駆動ローラー32aと従動ローラー32b、および該駆動ローラー32aを昇降移動する昇降装置32cなどにより構成される。
前記駆動ローラー32aと従動ローラー32bは、軸心方向が集電体シート50の幅方向(集電体シート50の搬送方向に対して平面視直交する方向)となるように配置した状態で、各々回転可能に軸支されるとともに、前記集電体シート50を間に挟んで互いに対向して配設される。
なお駆動ローラー32aには、軸心を中心にして該駆動ローラー32aを回転駆動する第一駆動モータ32dが備えられる。
【0059】
また、駆動ローラー32aには昇降装置32cが備えられ、駆動ローラー32aは、昇降装置32cにより従動ローラー32bに対して近接離間方向(集電体シート50の搬送方向、且つ駆動ローラー32aの軸心方向と直交方向)に移動可能となっている。
【0060】
即ち、昇降装置32cによって、駆動ローラー32aが下降方向(従動ローラー32bに対して近接する方向)に移動されることで、ニップローラー装置32は「閉状態」となり、また駆動ローラー32aが上昇方向(従動ローラー32bに対してに離間する方向)に移動されることで、ニップローラー装置32は「開状態」となる。
【0061】
なお、昇降装置32cには第二駆動モータ32eが備えられ、該第二駆動モータ32eの駆動によって、昇降装置32cは動作される。
【0062】
そして、ニップローラー装置32が「閉状態」となることによって、集電体シート50は、これら駆動ローラー32aと従動ローラー32bによって挟持される。また、第一駆動モータ32dによって駆動ローラー32aを回転駆動することで、集電体シート50は、搬送方向の下流側に繰出される。
【0063】
ここで、前述のとおり、エアターン装置31の上流側に配設されるニップローラー装置32(図1におけるニップローラー装置32A)において、該ニップローラー装置32Aから集電体シート50が繰出される速度(図1に示す第二繰出し速度V2)が、前述の繰出し装置21から集電体シート50が繰出される速度(図1に示す第一繰出し速度V1)に比べて早くなるように、第一駆動モータ32dは制御されている。
【0064】
また、エアターン装置31の下流側に配設されるニップローラー装置32(図1におけるニップローラー装置32B)において、該ニップローラー装置32Bより集電体シート50が繰出される速度(図1に示す第三繰出し速度V3)が、後述する巻取り装置43によって集電体シート50が巻き取られる速度(図1に示す第四繰出し速度V4)に比べて遅くなるように、第一駆動モータ32dは制御されている。
【0065】
なお、これら両ニップローラー装置32A・32Bより集電体シート50が繰出される速度(図1に示す第二繰出し速度V2、および第三繰出し速度V3)が、略同じ速度になるように、第一駆動モータ32dは制御されている。
【0066】
このように、これら両ニップローラー装置32A・32Bの駆動ローラー32a・32aに備えられる第一駆動モータ32d・32dの回転速度を各々制御することで、集電体シート50に付加される張力を、第一塗工部2や第二塗工部4における高負荷の状態と、反転部3における低負荷の状態とに確実に分断することができるのである。
【0067】
続いて、第二塗工部4について説明する。
第二塗工部4は、帯状の集電体シート50の「裏面」に、ペースト材料52を塗工するための機構である。
第二塗工部4は、第二吐出装置41や第二乾燥炉42や巻取り装置43などにより構成される。
【0068】
第二吐出装置41は、エアターン装置31によって表面および裏面を反転された集電体シート50の裏面に対して、ペースト材料52を吐出するための装置である。
また、第二乾燥炉42は、第二吐出装置41によって集電体シート50の裏面に塗工されたペースト材料52を乾燥させて、該ペースト材料52を集電体シート50の裏面に固着させるための機構である。
【0069】
なお、これら第二吐出装置41および第二乾燥炉42は、主な構成を前述の第一吐出装置23および第一乾燥炉24とそれぞれ同じ構成とするため、詳細な説明は省略する。
【0070】
巻取り装置43は、表面および裏面にペースト材料52が塗工された集電体シート50をロール状に巻き取るとともに、エアターン装置31の下流側に配設されるニップローラー装置32Bから繰出された集電体シート50に、張力を付加するための装置である。
【0071】
巻取り装置43には、駆動モータ43aや、集電体シート50を巻き取るボビン43bや、該ボビン43bの軸心に挿嵌されて、該ボビン43bを支持する回転シャフト43cなどが配設される。
前記駆動モータ43aの出力軸は、図示せぬ連結機構を介して前記回転シャフト43cと駆動連結される。
そして、駆動モータ43aの駆動力が回転シャフト43cに伝達され、ボビン43bが軸心を中心にして回転駆動されることで、集電体シート50はボビン43bにロール状に巻き取られる。
【0072】
なお、前述のとおり、巻取り装置43によって集電体シート50がボビン43bに巻き取られる速度(図1に示す第四繰出し速度V4)が、エアターン装置31の下流側に配設されるニップローラー装置32Bより集電体シート50が繰出される速度(図1に示す第三繰出し速度V3)に比べて速くなるように、駆動モータ43aは制御されている。
即ち、駆動モータ43aの回転速度をこのように制御することで、ニップローラー装置32Bから巻取り装置43に亘る領域において、集電体シート50には、搬送方向の上流側、および下流側に向かって作用する高負荷の張力が付加されるようになっている。
【0073】
続いて、制御装置5について説明する。
制御装置5は、第一塗工部2や反転部3や第二塗工部4を構成する各装置群と電気的に連結され、塗工装置1の運転全般を制御するための装置である。
制御装置5は、主に図示せぬ入力部や記憶部などにより構成される。
【0074】
制御装置5には、電極箔を製造するための製造条件(例えば、集電体シート50の搬送速度や、第一乾燥炉24および第二乾燥炉42の温度条件など)を入力するためのタッチパネルやバーコードリーダー、および繰出し装置21や巻取り装置43の駆動モータ21a・43aに配設されるエンコーダ(図示せず)などの各種検出器類などが入力手段として接続される。
また、制御装置5には、第一塗工部2や反転部3や第二塗工部4を各々構成する各装置群の駆動モータなどが出力手段として接続される。
【0075】
制御装置5は、主としてRAMやROMなどからなる記憶部や、CPUからなる演算処理部などを備えて構成される。
前記記憶部には、塗工装置1の運転に関する様々なプログラムが格納される。また、記憶部には、演算処理部の命令により入力手段から入力された情報が一時的に保存されるようになっている。
【0076】
そして、電極箔の製造条件が入力手段を介して制御装置5に入力されると、入力された情報は一旦記憶部に格納される。
その後、電極箔の製造開始命令が、入力手段を介して制御装置5に与えられると、該制御装置5は記憶部より製造条件に関する情報や、第一塗工部2や反転部3や第二塗工部4を各々構成する各装置群の運転に関して必要なプログラムなどを読み出して演算処理部で演算処理を実行し、演算結果に基づいて、各出力手段に指令を送信し、電極箔の製造が行われる。
【0077】
ところで、制御装置5の記憶部には、箔継ぎ作業時における第一塗工部2および第二塗工部4の各吐出部25・25の運転に関するマップ情報10が予め格納されている。
前記マップ情報10は、図2に示すように、減圧度と塗工幅との関係において、適切なダイギャップの値が選択されるように構成される。
即ち、マップ情報10においては、減圧度と塗工幅とが各々選択可能な変数として定義され、任意に選択されるこれらの減圧度と塗工幅との関係に対して、適切なダイギャップの値a1・a2・・・・を行列表示することによって構成される。
【0078】
ここで、「減圧度」とは、減圧チャンバ25B内の圧力と、常圧との圧力差、即ち、減圧部27のブロア装置27aによって外部に強制排気される、減圧チャンバ25B内の空気の圧力を示す。
また、「塗工幅」とは、集電体シート50に塗工されるペースト材料52の幅寸法(集電体シート50の搬送方向に対して平面視直交する方向の寸法)を示す。
【0079】
そして、後述するように、このような構成からなるマップ情報10を用いることで、本実施例における塗工装置1では、箔継ぎ作業時における集電体シート50へのペースト材料52の塗工不良期間(具体的には、集電体シート50へのペースト材料52の吐出を停止する期間)を極力減少させることを可能としている。
【0080】
[箔継ぎ作業における動作]
次に、本発明に係る電池の製造装置を具現化する塗工装置1の、箔継ぎ作業における動作について、図3、および図4を用いて説明する。
先ず、入力手段を介して制御装置5に箔継ぎ作業の指令が入力されると、制御装置5はマップ情報10に基づいて、減圧部27の減圧調整弁27cと、吐出部25の駆動モータ25eとに出力信号を送信し、減圧チャンバ25B内の減圧状態を徐々に解除する(常圧状態に変化させる)とともに、ダイギャップの値を調整する(ステップS101)。
【0081】
具体的には、図2に示すように、例えば、塗工装置1によって塗工幅がX1[mm]の電極箔を製作している場合、制御装置5は、減圧チャンバ25B内の気圧を、Y5[kPa]、Y4[kPa]、Y3[kPa]・・・(但し、Y5>Y4>Y3>・・・)と徐々に段階的に上げていき、減圧状態が解除されるように、減圧調整弁27cに対して出力信号を送信する。
また、その一方で、制御装置5は、減圧チャンバ25B内の気圧の各段階に応じて、ダイギャップの値がa5[mm]、a4[mm]、a3[mm]・・・(但し、a5>a4>a3>)と徐々に段下的に変化するように、駆動モータ25eに対して出力信号を送信する。
【0082】
そして、これら各電気信号を受信した減圧調整弁27cと駆動モータ25eは、減圧チャンバ25B内の気圧と、ダイギャップの値とを各々段階的に徐々に変化させていき、前記気圧が常圧となった時点で、これら減圧調整弁27cと駆動モータ25eへの電気信号の出力は、一旦停止する。
【0083】
減圧チャンバ内の気圧が常圧になると、制御装置5は繰出し装置21の駆動モータ21aに出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した駆動モータ21aは回転速度を徐々に増速させ、第一塗工部2において集電体シート50に付加される張力を徐々に下げていく(ステップS102)。
【0084】
その後、制御装置5は、繰出し装置21より繰出される集電体シート50の速度(図1に示す第一繰出し速度V1)が、ニップローラー装置32Aより繰出される集電体シート50の速度(図1に示す第二繰出し速度V2)と同値となったか否かを判断する。
つまり、制御装置5は、第一塗工部2において集電体シート50に付加される張力が、反転部3において集電体シート50に付加される張力と同値となったか否かを判断する(ステップS103)。
【0085】
そして、第一塗工部2と反転部3とにおける集電体シート50に付加される張力が互いに同値であると判断すると、制御装置5は、駆動モータ21aの回転速度をこの状態に一旦保持する。
【0086】
一方、第一塗工部2と反転部3とにおける集電体シート50に付加される張力が、未だ同値となっていないと判断すると、制御装置5は、駆動モータ21aの回転速度をさらに増速させ、第一塗工部2において集電体シート50に付加される張力を下げていく(ステップS102)。
そして、第一塗工部2と反転部3とにおける集電体シート50に付加される張力が互いに同値であると判断するまで、制御装置5は、駆動モータ21aの回転速度を増速する。
【0087】
繰出し装置21の駆動モータ21aの回転速度が保持されると、制御装置5は箔継ぎ装置22の駆動モータ22bに出力信号を送信する。
前記出力信号を受信した駆動モータ22bは駆動を開始し、箔継ぎ部22aを作動して箔継ぎ作業を実施する(ステップS104)。
そして、旧集電体ロール50aに巻き取られていた集電体シート50の後端部と、新集電体ロール50aに巻き取られている集電体シート50の始端部とが、粘着テープ51によって互いに継ぎ合わされることにより、両集電体シート50・50が接続され(箔継ぎされ)、箔継ぎ箇所が形成される。
【0088】
箔継ぎ装置22による箔継ぎ作業が完了すると駆動モータ22bは停止し、その後、制御装置5は供給部26の駆動モータ26dに出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した駆動モータ26dは駆動を停止してポンプ26bの運転を停止し、ダイ25Aによるペースト材料52の吐出を一旦停止する(ステップS105)。
【0089】
ダイ25Aによるペースト材料52の吐出が一旦停止されると、制御装置5は吐出部25における可動部25Cの駆動モータ25eに出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した駆動モータ25eは駆動を開始し、ガイド機構部25dを介してダイ25Aの位置を後端部(バックアップロール28に対して離間する方向の最端部)にまで移動させて(ステップS106)停止する。
【0090】
その後、制御装置5は、集電体シート50における箔継ぎ箇所が、ダイ25Aとバックアップロール28との間の位置(以下、「第一通過位置」と記す)を通過したか否かを判断し(ステップS107)、箔継ぎ箇所が第一通過位置を通過したと判断すると、制御装置5は、再び吐出部25の駆動モータ25eに出力信号を送信する。
【0091】
そして、前記出力信号を受信した駆動モータ25eは、再び駆動を開始し、ガイド機構部25dを介してダイ25Aの位置を、前記ステップS106において後端部に移動する前の位置にまで復元させて(前進させて)停止する(ステップS108)。
【0092】
一方、集電体シート50における箔継ぎ箇所が第一通過位置を未だ通過していないと判断すると、制御装置5は、駆動モータ25eへの出力信号の送信を行わず、再び、箔継ぎ箇所が第一通過位置を通過したか否かの判断を繰り返すのである。
【0093】
なお、前記ステップS107において、箔継ぎ箇所が第一通過位置を通過したか否かの判断は、例えば、光センサーやマグネットセンサーなどの検出器を用いて、箔継ぎ箇所を直接検出することで判断してもよいし、あるいは、制御装置5に格納されるプログラム内にタイマー回路を設け、集電体シート50が箔継ぎ装置22を出てから第一通過位置に到達するまでの時間(以下、「到達時間T1」と記す)を、前記タイマー回路に予め入力しておき、到達時間T1の経過によって、箔継ぎ箇所が第一通過位置を通過したと判断してもよい。
【0094】
ダイ25Aの位置が、前記ステップS106において後端部に移動する前の位置にまで復元(前進)されると、制御装置5は供給部26の駆動モータ26dに出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した駆動モータ26dは駆動を再開してポンプ26bの運転を開始し、ダイ25Aによるペースト材料52の吐出を開始する(ステップS109)。
【0095】
このように、本実施例における塗工装置1によって箔継ぎ作業を行う際には、集電体シート50へのペースト材料52の吐出が停止される期間(以下、「塗工不良期間」と示す)が、前記ステップS105から前記ステップS108に渡る一定の時間内に限定されることとなる。
つまり、従来の塗工装置における箔継ぎ作業のように、該箔継ぎ作業を開始する前から、該箔継ぎ作業が完全に完了するまで、集電体シート50へのペースト材料52の吐出が停止されることもない。
従って、本実施例における塗工装置1においては、製造される電極箔の歩留まりが改善され、生産量の向上を図ることができる。
【0096】
ダイ25Aによるペースト材料52の吐出が開始されると、制御装置5は、集電体シート50における箔継ぎ箇所が、ニップローラー装置32Aの上流側近傍の位置(以下、「第二通過位置」と記す)に到達したか否かを判断する(ステップS110)。そして、箔継ぎ箇所が第二通過位置にまで到達したと判断すると、制御装置5は、ニップローラー装置32Aの第二駆動モータ32eに出力信号を送信する。
【0097】
そして、前記出力信号を受信した第二駆動モータ32eは駆動を開始し、昇降装置32cを介して駆動ローラー32aを上昇させ、ニップローラー装置32Aを「開状態」とする(ステップS111)。
【0098】
一方、集電体シート50における箔継ぎ箇所が、第二通過位置に未だ到達していないと判断すると、制御装置5は、第二駆動モータ32eへの出力信号の送信を行わず、再び、箔継ぎ箇所が第二通過位置に到達したか否かの判断を繰り返すのである。
【0099】
なお、前記ステップS110において、箔継ぎ箇所が第二通過位置に到達したか否かの判断は、例えば、光センサーやマグネットセンサーなどの検出器を用いて、箔継ぎ箇所を直接検出することで判断してもよいし、あるいは、制御装置5に格納されるプログラム内にタイマー回路を設け、集電体シート50が箔継ぎ装置22を出てから第二通過位置に到達するまでの時間(以下、「到達時間T2」と記す)を、前記タイマー回路に予め入力しておき、到達時間T2の経過によって、箔継ぎ箇所が第二通過位置に到達したと判断してもよい。
【0100】
ニップローラー装置32Aが「開状態」となると、制御装置5は集電体シート50における箔継ぎ箇所が、ニップローラー装置32Aを通過したか否かを判断する(ステップS112)。そして、箔継ぎ箇所がニップローラー装置32Aを通過したと判断すると、制御装置5は、ニップローラー装置32Aの第二駆動モータ32eに再び出力信号を送信する。
【0101】
そして、前記出力信号を受信した第二駆動モータ32eは駆動を開始し、昇降装置32cを介して駆動ローラー32aを下降させ、ニップローラー装置32Aを再び「閉状態」とする(ステップS113)。
【0102】
一方、集電体シート50における箔継ぎ箇所が、ニップローラー装置32Aを未だ通過していないと判断すると、制御装置5は、第二駆動モータ32eへの出力信号の送信を行わず、再び、箔継ぎ箇所がニップローラー装置32Aを通過したか否かの判断を繰り返すのである。
【0103】
なお、前記ステップS112において、箔継ぎ箇所がニップローラー装置32Aを通過したか否かの判断は、例えば、光センサーやマグネットセンサーなどの検出器を用いて、箔継ぎ箇所を直接検出することで判断してもよいし、あるいは、制御装置5に格納されるプログラム内にタイマー回路を設け、集電体シート50が箔継ぎ装置22を出てからニップローラー装置32Aを通過するまでの時間(以下、「通過時間T3」と記す)を、前記タイマー回路に予め入力しておき、通過時間T3の経過によって、箔継ぎ箇所がニップローラー装置32Aを通過したと判断してもよい。
【0104】
ニップローラー装置32Aが「閉状態」となると、制御装置5は、再び繰出し装置21の駆動モータ21aに出力信号送信する。
そして、前記出力信号を受信した駆動モータ21aは、回転速度を徐々に減速させて、第一塗工部2において集電体シート50に付加される張力を、前記ステップS102における回転速度の増速前の張力にまで復帰させる(ステップS114)。
【0105】
第一塗工部2における集電体シート50に付加される張力が復帰すると、制御装置5はマップ情報10に基づいて、減圧部27の減圧調整弁27cと、吐出部25の駆動モータ25eとに出力信号を送信し、減圧チャンバ25B内の減圧状態を徐々に再開する(減圧を進める)とともに、ダイギャップの値を調整する(ステップS115)。
【0106】
そして、減圧チャンバ25B内の減圧状態が、前記ステップS101において、該減圧チャンバ25B内の減圧状態を解除する以前の状態にまで回復すれば、第一塗工部2における箔継ぎ作業は終了する。
【0107】
なお、第一塗工部2における箔継ぎ作業が終了すれば、集電体シート50の箔継ぎ箇所は反転部3を通過して、第二塗工部4へと搬送されることになるが、この場合においても、以上に示したステップS101乃至ステップS115(より詳しくは、ステップS104は除く)に基づいて、ニップローラー装置32Bや、第二吐出装置41や、巻取り装置43は、前述のニップローラー装置32Aや、第一吐出装置23や、繰出し装置21にそれぞれ対応して可動されることとなる。
【0108】
以上のように、本発明を具現化する電池の製造方法は、減圧下にて、帯状の集電体シート50に高負荷の張力を付加しつつ、ペースト材料52を塗工する塗工工程と、該塗工工程の完了後、該塗工工程において付加した張力に比べて低負荷の張力を前記集電体シート50に付加しつつ、前記集電体シート50をエアターンローラー31aの外周面に滑らせながら前記集電体シート50の表裏面を反転させる反転工程と、を備える製造工程によって電極箔を製造する、電池の製造方法であって、前記集電体シート50の継ぎ合わせを行う箔継ぎ作業時における、前記集電体シート50の前記塗工工程への供給は、前記塗工工程における減圧状態を常圧状態に変化させる減圧解除工程(ステップS101)と、該減圧解除工程(ステップS101)の完了後、前記塗工工程にて集電体シート50に付加する張力を、前記反転工程における張力にまで低下させる張力低下工程(ステップS102、S103)と、前記張力低下工程(ステップS102、S103)の完了後、第一の集電体シート50の後端部に、新たに供給する第二の集電体シート50の前端部を継ぎ合わせて接続し、接続した集電体シート50を塗工工程へ搬送する箔継ぎ工程(ステップS104)と、を備える供給工程によって行われることとしている。
【0109】
また、本発明を具現化する電池の製造装置は、高負荷の張力が付加された状態で搬送される帯状の集電体シート50が巻回されるバックアップロール28と、前記集電体シート50を間に挟んだ状態で前記バックアップロール28に対向して設けられ、前記バックアップロール28に対して近接離間方向に移動可能に配設されるダイ25Aと、前記バックアップロール28とダイ25Aとの間隙を減圧する減圧部(減圧手段)27と、を有する第一塗工部2(第二塗工部4)、該第一塗工部2(第二塗工部4)の集電体シート50搬送方向における下流側に設けられ、外周面において、該第一塗工部2(第二塗工部4)に比べて低負荷の張力が付加された前記集電体シート50を滑らせながら、前記集電体シート50の表裏面を反転させるエアターンローラー31aを有する反転部3、および前記第一塗工部2(第二塗工部4)の上流側に設けられ、二枚の前記集電体シート50を継ぎ合わせて接続する箔継ぎ装置(箔継ぎ部)22、を備える塗工装置1によって電極箔を製造する、電池の製造装置であって、前記集電体シート50の継ぎ合わせを行う箔継ぎ作業時における、前記集電体シート50の前記第一塗工部2(第二塗工部4)への供給は、前記減圧部(減圧手段)27による前記バックアップロール28とダイ25Aとの間隙の減圧状態を常圧状態に変化させ、前記バックアップロール28と前記ダイ25Aとの間隙が常圧に達した後、前記第一塗工部2(第二塗工部4)にて集電体シート50に付加される張力を低下させ、該張力が、前記反転部3にて集電体シート50に付加される張力と等しくなった後、前記箔継ぎ装置(箔継ぎ部)22によって、第一の集電体シート50の後端部に、新たに供給する第二の集電体シート50の前端部を継ぎ合わせて接続して、接続した集電体シート50を前記第一塗工部2(第二塗工部4)へ搬送することにより行われることとしている。
【0110】
このような構成を有することで、本実施例における電池の製造方法、および電池の製造装置によれば、生産量の低下を極力防いだ箔継ぎ作業を実施可能な塗工装置による電池の製造方法および製造装置に関する技術を提供することができる。
【0111】
即ち、本実施例における塗工装置1において、新たな集電体シート50を供給するために箔継ぎ作業を行う場合は、先ず、第一塗工部2(あるいは、第二塗工部4)の減圧チャンバ25B内の減圧状態を「徐々」に解除して常圧状態とし、集電体シート50に付加される張力を、反転部3における張力にまで低下させ、その後、箔継ぎ装置22によって箔継ぎ作業を実施することとしている。
【0112】
よって、減圧チャンバ25B内の減圧状態を解除している最中であっても、吐出部25では集電体シート50へのペースト材料52の吐出を継続することができる。
また、箔継ぎ作業が実施される前には、既に第一塗工部2(あるいは、第二塗工部4)および反転部3において、それぞれ集電体シート50に付加される張力が、ともに同程度となっているため、ニップローラー装置32を「開状態」としても、集電体シート50とエアターンローラー31aとの間に擦れが発生することもない。
【0113】
このようなことから、吐出部25においては、集電体シート50の箔継ぎ箇所が通過する間だけ(具体的には、図3におけるステップS105乃至S108の間だけ)、集電体シート50へのペースト材料52の吐出を停止すればよく、従来の塗工装置における箔継ぎ作業のように、箔継ぎ作業を開始する前から、箔継ぎ作業が完全に完了するまで、集電体シート50へのペースト材料52の吐出が停止されることに比べて塗料不良期間を大幅に短縮することができる。
従って、本実施例における塗工装置1によれば、製造される電極箔の歩留まりを大幅に改善することができ、該電極箔の生産量を向上させることができるのである。
【0114】
また、本発明を具現化する電池の製造方法においては、前記減圧解除工程(ステップS101)において、前記ダイ25Aと前記集電体シート50との間隙寸法は、マップ情報10によって、減圧値ごとに予め定められており、前記減圧値の変化にともなって、前記間隙寸法を変化させることとしている。
【0115】
また、本発明を具現化する電池の製造装置においては、前記第一塗工部2(第二塗工部4)において、前記ダイ25Aと前記集電体シート50との間隙寸法は、マップ情報10によって、減圧部(減圧手段)27の減圧値ごとに予め定められており、前記第一塗工部2(第二塗工部4)の減圧部(減圧手段)27を徐々に解除する際は、前記減圧値の変化にともなって、前記ダイ25Aをバックアップロール28に対して近接離間方向に移動させることとしている。
【0116】
このような構成を有することで、本実施例における電池の製造方法、および電池の製造装置によれば、減圧チャンバ25B内の減圧状態を解除している最中であっても、吐出部25では、高品質な塗工状態を維持しつつ、集電体シート50へペースト材料52を吐出することができるのである。
【符号の説明】
【0117】
1 塗工装置
2 第一塗工部
3 反転部
4 第二塗工部
10 マップ情報
22 箔継ぎ装置(箔継ぎ部)
25A ダイ
25B 減圧チャンバ
27 減圧部(減圧手段)
28 バックアップロール
31a エアターンローラー
50 集電体シート
52 ペースト材料
S101 減圧解除工程
S102 張力低下工程
S103 張力低下工程
S104 箔継ぎ工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下にて、帯状の集電体シートに高負荷の張力を付加しつつ、ペースト材料を塗工する塗工工程と、
該塗工工程の完了後、該塗工工程において付加した張力に比べて低負荷の張力を前記集電体シートに付加しつつ、前記集電体シートをエアターンローラーの外周面に滑らせながら前記集電体シートの表裏面を反転させる反転工程と、
を備える製造工程によって電極箔を製造する、電池の製造方法であって、
前記集電体シートの継ぎ合わせを行う箔継ぎ作業時における、前記集電体シートの前記塗工工程への供給は、
前記塗工工程における減圧状態を常圧状態に変化させる減圧解除工程と、
該減圧解除工程の完了後、前記塗工工程にて集電体シートに付加する張力を、前記反転工程における張力にまで低下させる張力低下工程と、
前記張力低下工程の完了後、第一の集電体シートの後端部に、新たに供給する第二の集電体シートの前端部を継ぎ合わせて接続し、接続した集電体シートを塗工工程へ搬送する箔継ぎ工程と、
を備える供給工程によって行われる、
ことを特徴とする電池の製造方法。
【請求項2】
前記減圧解除工程において、
前記ダイと前記集電体シートとの間隙寸法は、減圧値ごとに予め定められており、
前記減圧値の変化にともなって、前記間隙寸法を変化させる、
ことを特徴とする、請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項3】
高負荷の張力が付加された状態で搬送される帯状の集電体シートが巻回されるバックアップロールと、
前記集電体シートを間に挟んだ状態で前記バックアップロールに対向して設けられ、前記バックアップロールに対して近接離間方向に移動可能に配設されるダイと、
前記バックアップロールとダイとの間隙を減圧する減圧手段と、
を有する塗工部、
該塗工部の集電体シート搬送方向における下流側に設けられ、
外周面において、該塗工部に比べて低負荷の張力が付加された前記集電体シートを滑らせながら、前記集電体シートの表裏面を反転させるエアターンローラーを有する反転部、および
前記塗工部の上流側に設けられ、二枚の前記集電体シートを継ぎ合わせて接続する箔継ぎ部、
を備える塗工装置によって電極箔を製造する、電池の製造装置であって、
前記集電体シートの継ぎ合わせを行う箔継ぎ作業時における、前記集電体シートの前記塗工部への供給は、
前記減圧手段による前記バックアップロールとダイとの間隙の減圧状態を常圧状態に変化させ、
前記バックアップロールと前記ダイとの間隙が常圧に達した後、前記塗工部にて集電体シートに付加される張力を低下させ、
該張力が、前記反転部にて集電体シートに付加される張力と等しくなった後、前記箔継ぎ部によって、第一の集電体シートの後端部に、新たに供給する第二の集電体シートの前端部を継ぎ合わせて接続して、接続した集電体シートを前記塗工部へ搬送することにより行われる、
ことを特徴とする電池の製造装置。
【請求項4】
前記塗工部において、
前記ダイと前記集電体シートとの間隙寸法は、減圧手段の減圧値ごとに予め定められており、
前記塗工部の減圧手段を徐々に解除する際は、
前記減圧値の変化にともなって、
前記ダイをバックアップロールに対して近接離間方向に移動させる、
ことを特徴とする、請求項3に記載の電池の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−9281(P2012−9281A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144320(P2010−144320)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】