説明

電池ケース用アルミニウム合金板及び電池ケース

【課題】電池ケースを製造するための成形性に優れ、成形後に十分なケース強度を確保でき、かつ優れた溶接性を有する電池ケース用アルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】Mn:0.5〜1.5質量%、Mg:0.2〜1.5質量%、Cu:0.1〜1.0質量%を含有し、残部Alと不可避不純物からなり、耐力値が40〜100MPaのO材(焼鈍材)である電池ケース用アルミニウム合金板。このアルミニウム合金板は、電池ケースに成形後、蓋材と連続発振式レーザで溶接される。このアルミニウム合金は、添加元素として又は不可避不純物として、Si:0.6質量%以下、Fe:0.8質量%以下、Ti:0.02質量%以下、B:20質量ppm以下、Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下、Zn:0.3質量%以下を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池ケース等に用いられる電池ケース用アルミニウム合金板及び電池ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等の電源として、リチウムイオン二次電池が広く使用されている。この二次電池の外装であるケース(以下、適宜、電池ケースという)の材料には、従来、電池の小型化及び軽量化、そして電池ケース(主として電池ケース本体)に成形するための加工性(成形性)等を満足するためアルミニウム合金材が用いられている。このような電池ケース用のアルミニウム合金としては、従来からJIS1000系や3000系のアルミニウム合金が多く用いられている。
【0003】
特許文献1では、3000系(Al−Mn系)アルミニウム合金を、均質化処理後、熱間圧延、冷間圧延、溶体化焼入れ処理、及び冷間圧延の工程で板とし、特許文献2では、同じくAl−Mn系アルミニウム合金を、予備加熱を行った後、熱間圧延、冷間圧延、溶体化焼入れ処理、冷間圧延及び調質焼鈍の工程で板としている。製造されたアルミニウム合金板は、プレス加工(絞り及びしごき加工)によりケースに成形後、蓋とパルスレーザ溶接される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3760262号公報
【特許文献2】特開2001−131666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
携帯電話用等に用いられるリチウムイオン電池は小型で肉厚も薄いため、特許文献1,2の実施例に記載されているように、蓋との溶接には、熱発生量が比較的少なく、入熱量を制御しやすいパルスレーザ溶接が用いられている。
一方、リチウムイオン電池が自動車に採用されるようになると、大容量で収納スペースが広いため、携帯電話用等と比べるとケースが大型となり、安全性確保(強度確保)のため肉厚も厚くなっている。このような大型の電池ケースの場合、ケースと蓋の溶接にパルスレーザ溶接を適用したとき、ケース厚みに対する十分な溶け込み深さを確保するのが難しく、溶接作業の生産性も低い。また、パルスレーザ溶接は、溶接部への入熱が断続的で加熱・溶融と冷却・凝固が短周期で繰り返され、溶融アルミニウムの冷却速度が大きいため、凝固収縮の隙間を溶融アルミニウムが埋めることができず、特に強化元素であるMg、Cuを多く含有する場合に溶接部に割れが発生しやすい。
【0006】
さらに、特許文献1,2に記載されたAl−Mn系アルミニウム合金板は、いずれも加工硬化により強度を向上させたH材であり、実施例をみると、200MPa程度又はそれ以上の耐力を有している。素材板の段階で強度を高くしているのは、非熱処理型のAl−Mn系アルミニウム合金板から高強度の電池ケースを製造するためであるが、反面、高い耐力のため成形加工性が低下し、電池ケースへの成形加工の過程で割れが発生しやすいという問題を有する。
【0007】
本発明は、電池ケース用Al−Mn系アルミニウム合金板に関し、従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、電池ケースを製造するための成形加工性に優れ、十分なケース強度を確保することができ、パルスレーザ溶接の前記問題点も解消し得る電池ケース用アルミニウム合金板、及び、この電池ケース用アルミニウム合金板を用いた電池ケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板(以下、適宜、アルミニウム合金板という)は、 Mn:0.5〜1.5質量%、Mg:0.2〜1.5質量%、Cu:0.1〜1.0質量%を含有し、残部Alと不可避不純物からなり、耐力値が40〜100MPaのO材(焼鈍材)であることを特徴し、連続発振式レーザ溶接での溶接性に優れている。
上記アルミニウム合金は、添加元素として又は不可避不純物として、Si:0.6質量%以下、Ti:0.02質量%以下、B:20質量ppm以下、Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下を含有し得る。また、不可避不純物として、Fe:0.8質量%以下、Zn:0.3質量%以下に制限される。
この電池ケース用アルミニウム合金板は、電池ケースのケース本体及び蓋材として用いることができる。ただし、蓋材は他のアルミニウム又はアルミニウム合金に代えることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板は、電池ケースを製造するための成形性(絞り及びしごき加工性)に優れ、しかも成形に伴う加工硬化により十分なケース強度を確保することができる。また、連続発振式レーザ溶接を行った場合、十分な溶け込み深さを確保し、かつ溶接作業の生産性を向上させることができ、さらに溶接部に割れが発生するのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る電池ケース用アルミニウム合金板についてより具体的に説明する。
〔アルミニウム合金板の構成〕
本発明に係るアルミニウム合金板は、Mn,Mg,Cuを所定量含有し、Si,Fe,Ti,B,Zr,Cr,Znが所定量以下に規制され、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金板である。以下、各成分の限定理由について説明する。
【0011】
(Mn:0.5〜1.5質量%)
Mnは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる作用効果を有する。しかし、Mn含有量が0.5質量%未満であると、この作用効果は小さく、一方、Mn含有量が1.5質量%を超えると、粗大な金属間化合物(Al−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物)が生成し、これが成形時の割れの起点となりやすく、アルミニウム合金板の成形性が低下する。従って、Mn含有量は、0.5質量%以上、1.5質量%以下とする。好ましくは0.8質量%以上、1.3質量%以下である。
【0012】
(Mg:0.2〜1.5質量%)
Mgは、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる作用効果を有する。従来のパルスレーザ溶接では、Mgの含有量が増加すると溶接割れが生じやすくなり、特に0.6質量%以上の高Mg域で溶接割れが生じやすいが、連続発振式レーザ溶接では、そのような高Mg域でも溶接割れが生じにくい。このため、本発明ではMg含有量を増加させることができ、その結果、アルミニウム合金板が軟質のO材であっても、成形加工に伴う加工硬化によりケース強度を十分向上させることができる。
Mgの含有量が0.2質量%未満であると,前記作用効果は小さく、一方、Mnの含有量が1.5質量%を超えると、連続発振式レーザ溶接でも溶接割れが生じやすくなり、また加工硬化性が大きくなりすぎて、プレス加工で割れが発生する。従って、Mg含有量は0.2〜1.5質量%であり、好ましくは0.6質量%以上、1.0質量%以下である。
【0013】
(Cu:0.1〜1.0質量%)
Cuは、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させる作用効果を有する。従来のパルスレーザ溶接では、Cuの含有量が増加すると溶接割れが生じやすいが、連続発振式レーザ溶接では比較的溶接割れが生じにくい。Mgと同様に、本発明ではCuの含有量を増加することにより、アルミニウム合金板が軟質のO材であっても、成形加工に伴う加工硬化によりケース強度を十分向上させることができる。
Cu含有量が0.1質量%未満では前記効果が不十分であり、1.0質量%を超えると連続発振式レーザ溶接でも溶接割れが生じやすくなり、また加工硬化性が大きくなりすぎて、プレス加工で割れが発生する。好ましくは0.2質量%以上、0.8質量%以下である。
【0014】
(Si:0.6質量%以下)
Siは、必要に応じて添加元素として又は不可避不純物として本発明のアルミニウム合金に含まれ、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高め、耐圧強度を向上させ、さらにアルミニウム合金板の成形性を向上させる作用効果を有する。
一方、Si含有量が0.6質量%を超えると、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物が粗大化し、これが成形加工時の割れの起点となりやすく、アルミニウム合金板の成形性が低下する。また、Si含有量が0.6質量%を超えると、溶接割れが生じやすくなる。従って、Si含有量は0.6質量%以下(0%を含む)とする。好ましくは、溶接割れを防止する観点から0.35質量%以下である。
【0015】
(Fe:0.8質量%以下)
Feは、本発明のアルミニウム合金に不可避不純物として含まれ、Al−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成する。Fe含有量が0.8質量%を超えると、前記金属間化合物が粗大化し、これが成形時の割れの起点となりやすく、アルミニウム合金板の成形性が低下する。また、Fe含有量が0.8質量%を超えると、溶接割れが生じやすくなる。従って、Fe含有量は0.8質量%以下(0%を含む)とする。
【0016】
(Ti:0.02質量%未満)
Tiは、アルミニウム合金鋳造組織を微細化、均質化(安定化)する効果があり、圧延用スラブの造塊時の鋳造割れ防止を目的に、通常は0.02質量%以上添加され、過剰に添加すると粗大な金属間化合物が晶出し、成形時の割れの起点となりやすいため、0.15質量%以下の範囲内とされている。しかし、常用されている0.02質量%以上を添加すると、連続発振式レーザ溶接による溶融時(660〜750℃)に凝固ビード内にポロシティ欠陥が残留し、溶け込みが深く形成され、これが凝固して異常部が発生する。
Tiは地金(スクラップ含む)中に不可避不純物として含まれ、必要があれば添加することもできるが、いずれにしても、本発明に係るアルミニウム合金はTi含有量を0.02質量%未満(0%を含む)に規制する必要がある。Ti含有量は少ないほど溶接性が向上し、好ましくは0.01質量%以下である。
【0017】
(B:20質量ppm未満)
Bは、アルミニウム合金のスラブ造塊時の鋳造割れ防止を目的に、通常Ti−B母合金としてTiと共に添加されている元素である。しかし、B含有量が20質量ppmを超えると、前記のTiと同様に、連続発振式レーザ溶接の凝固ビード内にポロシティ欠陥が残留し、溶け込みが深く形成され、これが凝固して異常部が発生する。
Bは地金(スクラップ含む)中に不可避不純物として含まれ、必要があれば添加することもできるが、いずれにしても、本発明に係るアルミニウム合金はB含有量を20質量ppm未満(0%を含む)に規制する必要がある。B含有量は少ないほど溶接性が向上し、好ましくは10質量ppm以下である。
【0018】
(Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下)
Zr、Crは、必要に応じて添加元素として又は不可避不純物として本発明のアルミニウム合金に含まれ、アルミニウム合金組織を微細化、均質化(安定化)する効果がある。溶接時に再凝固したときの再結晶粒を微細化して溶接割れを回避できるので、Zr:0.05質量%以上又は/及びCr:0.05質量%以上を含有することが好ましい。
一方、Zr、Crは、それぞれの規定含有量を超えると、粗大な金属間化合物が晶出し、成形時の割れの起点となりやすく、アルミニウム合金板の成形性が低下する。そのため、Zr含有量は0.15質量%以下(0%を含む)、Cr含有量は0.40質量%以下(0%を含む)に規制する。
【0019】
(Zn:0.3質量%以下)
Znは、蒸気圧が低いため、レーザ溶接時に飛散して周囲を汚染しやすく、アルミニウム合金板のレーザ溶接性を悪くする。従って、Zn含有量は0.3質量%以下に規制する。
【0020】
(耐力:40〜100MPa)
本発明の組成のアルミニウム合金板は、焼き鈍し材(O材)の耐力がほぼ40〜100Mpaとなる。このアルミニウム合金板は軟質であるため加工しやすく、絞り及びしごき加工により電池ケースに成形する場合に、従来のH材に比べて成形性に優れている。また、本発明のアルミニウム合金板は成形性に優れる分、強化元素であるMg、Cuの含有量を増加することができ、成形加工に伴う加工硬化を増進させ、ケース強度を十分向上させることができる。成形後のケース強度として、190〜280MPa程度の耐力は確保できる。
【0021】
(連続発振式レーザ溶接)
連続発振式レーザ溶接は、連続入熱により溶接部の溶融アルミニウムが保温され、流動しやすい状態であり、溶接部の凝固収縮の隙間を溶融アルミニウムが追従するように埋めるため、従来のパルスレーザ溶接に比べて溶接部に応力が残留せず、溶接割れが発生しにくい。このため、従来のパルスレーザ溶接に比べて、強化元素であるMg、Cuの含有量の許容上限値を高くでき、その結果、ケース強度を十分向上させることができる。
また、連続発振式レーザ溶接は高出力であるため、溶接速度を高くし溶接封止作業の生産性を向上させることができ、十分な溶け込み深さを確保できるので、厚みの厚い電池ケースの溶接も可能である。
【0022】
〔アルミニウム合金板の製造方法〕
次に、本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法の一例について説明する。
まず、前記組成を有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製し、この鋳塊に面削を施した後に、480℃以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度で均質化熱処理を施す。次に、この均質化熱処理された鋳塊を、熱間圧延及び冷間圧延して圧延板を作製する。そして、この圧延板を、300〜450℃の温度域に加熱し、0.5時間以上保持する焼鈍を施す。
【0023】
〔電池ケース及び二次電池の製造方法〕
次に、本発明に係るアルミニウム合金板を用いた電池ケースの製造方法の一例について説明する。
アルミニウム合金板を所定の形状に切断し、順送り型のプレス機を用い、絞り加工又はしごき加工により有底筒形状に成形する。さらにこの加工を複数回繰り返して徐々に側壁面を高くし、トリミング等の加工を必要に応じて施すことで、所定の底面形状及び側壁高さに成形してケース本体部とする。ケース本体部は上面が開放された有底筒形状である。電池ケースの形状は特に限定されるものではなく、円筒形、偏平形の直方体等、二次電池の仕様に従う。しごき加工等によるケース本体部の側壁の板厚減少率(しごき加工率)は、トータルで例えば30〜80%とする。
【0024】
ケース本体部と同じく、本発明に係るアルミニウム合金板を用い、このアルミニウム合金板をケース本体部の上面に対応した形状に切断し、注入口等を形成して、電池ケースの蓋部とすることができる。ただし、蓋部はJISA1050等、他のアルミニウム又はアルミニウム合金で作製することもできる。
前記ケース本体部に二次電池材料(正極材料、負極材料、セパレータ等)を格納し、上面に前記蓋部を溶接する。ケース本体部と蓋部との溶接は、連続発振式レーザ溶接で行う。そして、電池ケースに注入口から電解液を注入して、注入口を封止して二次電池とする。
【実施例1】
【0025】
以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。
〔供試材作製〕
表1に示す組成のアルミニウム合金を、溶解、鋳造して鋳塊とし、この鋳塊に面削を施した後に、550℃にて4時間の均質化熱処理を施した。この均質化した鋳塊に、熱間圧延、さらに冷間圧延を施して板厚1.0mmのアルミニウム合金板とした。冷間圧延後の圧延板を370℃に加熱して、この温度に4時間保持するバッチ式焼鈍を施して、特性評価の板材(O材)とした。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例1〜14及び比較例1〜14の評価板材を用いて、耐力の測定、成形性試験、溶接性試験(溶接外観評価、放射線透過試験)を下記要領で行った。また、ケース加工後の耐力の測定を下記要領で行った。その結果を表2に示す。
〔板材の耐力の測定〕
各評価板材から引張方向が圧延方向になるようにJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に準拠して引張試験を実施し、耐力を求めた。
【0028】
〔成形性試験〕
各評価板材から楕円形のブランク板を長軸が圧延方向に平行になるように切り出し、順送り型のプレス機を用い、絞り及びしごき加工を全11工程にて行い、側壁のしごき加工率を30%とし、底面の縦幅が20mm、底面の横幅が200mm、高さが150mmの箱体の角型電池ケース本体を成形した。この際、割れがなく成形可能であり、成形後に焼き付きに起因する表面の変色や縦スジ模様のないものを成形性が優れているとして合格「◎」と評価し、割れがなく成形可能であり、わずかに表面の変色や縦スジ模様が発生したものを成形性が良好として合格「○」と評価し、成形時に割れが発生したもの、又は著しい変色や縦スジが発生したものを成形性が不良であるとして不合格「×」と評価した。
【0029】
〔溶接性試験〕
各評価板材から30mm×100mmのサイズの試験片を切り出し、連続発振式ファイバーレーザ(IPGフォトニクスジャパン株式会社製、型式:YLR−10000)を熱源とした溶接加工機を用いて、90mm溶接長でビードオンプレート溶接した。溶接条件は、レーザ出力2.5〜3.0kW、溶接速度6.0m/分、前進角5deg.で、溶接部の溶け込み深さが0.4〜0.5mmとなるようにレーザ出力を調整した。
【0030】
溶接外観の評価については、溶接ビード幅の均一性、アンダーカットの有無、及び溶接スパッタ付着の有無を観察し、溶接ビード幅が均一で、溶接ビード部にアンダーカット、突沸部、及び径が1mm以上のスパッタ付着が見られなかったものを溶接外観が良好として合格(○)と評価し、それ以外は全て溶接外観が不良であるとして不合格(×)と評価した。
放射線透過試験については、JISZ3105に準拠し、4段階評価の1類に分類されるものを良好であるとして合格(○)と評価し、2類に分類されるものをやや難ありとして不合格(△)と評価し、3,4類に分類されるものを難ありとして不合格(×)と評価した。
【0031】
〔ケース加工後の耐力の測定〕
成形性試験で得られたケース(成形性が合格と評価されたもののみ)の200mm×150mmの側壁の中央部から引張方向がケース上下方向になるようにJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に準拠して引張試験を実施し、耐力を求めた。ケース加工後の耐力は190MPa以上を合格とした。
【0032】
【表2】

【0033】
〔試験結果〕
表2に示すように、実施例1〜14、比較例1〜14の全てで、評価板材(O材)の耐力は40〜100MPaの範囲内であった。
合金組成が本発明の規定を満たす実施例1〜14は、成形性、成形後のケース強度、及び連続発振式レーザによる溶接性の全てが優れていた。
一方、Mn,Mg,Cuの含有量のいずれか1つが不足する比較例1,3,5は、ケース強度が低く、Mn,Mg,Cu,Si,Fe,Zr,Crの含有量のいずれか1つ以上が過剰な比較例2,4,6〜9,13,14は、成形性が悪かった。
Mn,Mg,Cu,Si,Fe,Zn,Ti,Bの含有量のいずれか1つ以上が過剰な比較例2,4,6〜12は、溶接外観と放射線透過試験のいずれか一方又は両方で連続発振式レーザによる溶接性の評価が低かった。
【実施例2】
【0034】
表1の実施例2のアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊とし、この鋳塊に面削を施した後に、550℃にて4時間の均質化熱処理を施した。この均質化した鋳塊に、熱間圧延及び冷間圧延を施し、500℃で60秒間保持する中間焼鈍を行った後、さらに30%(比較例15)又は50%(比較例16)の冷間圧延を行い、板厚1.0mmのアルミニウム合金板とし、これを特性評価の板材(H材)とした。
比較例15,16の評価板材を用いて、[実施例1]と同様の評価試験を行った。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3に示すように、実施例15,16は、評価板材(H材)の耐力が高く、成形性が悪かった。
【実施例3】
【0037】
表1の実施例2の評価板材(O材)から30mm×100mmのサイズの試験片を切り出し、パルス発信のYAGレーザを使用し、最大ピーク出力4.5kW、周波数10Hz、1パルス当たりのエネルギー(入熱量)を25J/pとして、パルスレーザ溶接による溶接性試験([実施例1]の溶接性試験と同じビードオンプレート溶接)を行った。
その結果、溶接溶け込み深さは平均0.28mmであり、[実施例1]の0.4〜0.5mmに比べて溶け込み不足が顕著であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn:0.5〜1.5質量%、Mg:0.2〜1.5質量%、Cu:0.1〜1.0質量%を含有し、残部Alと不可避不純物からなり、耐力値が40〜100MPaのO材であることを特徴とする連続発振式レーザ溶接での溶接性に優れた電池ケース用アルミニウム合金板。
【請求項2】
添加元素として又は不可避不純物として、Si:0.6質量%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載された連続発振式レーザ溶接での溶接性に優れた電池ケース用アルミニウム合金板。
【請求項3】
添加元素として又は不可避不純物として、Ti:0.02質量%未満、B:20質量ppm未満を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載された連続発振式レーザ溶接での溶接性に優れた電池ケース用アルミニウム合金板。
【請求項4】
添加元素として又は不可避不純物として、Zr:0.15質量%以下、Cr:0.40質量%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された連続発振式レーザ溶接での溶接性に優れた電池ケース用アルミニウム合金板。
【請求項5】
不可避不純物として、Fe:0.8質量%以下、Zn:0.3質量%以下を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された連続発振式レーザ溶接での溶接性に優れた電池ケース用アルミニウム合金板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載された電池ケース用アルミニウム合金板からなることを特徴とする電池ケース。

【公開番号】特開2013−87304(P2013−87304A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226607(P2011−226607)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】