説明

電池パックおよび電池劣化度検出方法

【課題】分極抵抗成分の大きい放置による劣化が生じた電池についても、劣化度を正確に得る。
【解決手段】充電時における閉回路電圧および充電電流と、閉回路電圧測定後に充電制御スイッチをOFFした後、第1の待機時間が経過した時点での第1の開回路電圧と、第1の待機時間よりも長い第2の待機時間が経過した時点での第2の開回路電圧とを測定し、閉回路電圧と第1の開回路電圧との電圧差と、充電電流とを基に直流抵抗成分を算出し、第1の開回路電圧と第2の開回路電圧との電圧差と、充電電流とを基に分極抵抗成分を算出し、直流抵抗成分と、分極抵抗成分との和から、初期の内部抵抗を減算して劣化度を算出する。充電時に閉回路電圧が定格電圧以上となった場合に充電制御スイッチをOFFし、第1の待機時間が経過した時点での第1の開回路電圧と、第1の待機時間よりも長い第2の待機時間が経過した時点での第2の開回路電圧とを測定することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電池パックおよび電池の劣化度検出方法に関し、特に、劣化が進んだ電池の劣化度をより正確に検出することができる電池パックおよび電池の劣化度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)などの携帯型電子機器、車載用や電動工具などの高出力型機器では、その電源として、リチウムイオン二次電池を用いた電池パックが広く使用されている。リチウムイオン二次電池は、軽量、高容量、残容量検出の容易さ、サイクル寿命の長さといった利点を有する。
【0003】
電池パックは消耗品であり、使用回数が増えたり、長期間放置することによって内部に収容した二次電池が劣化するにしたがって満充電状態から放電しきるまでの使用可能時間が短くなってしまう。このため、使用や放置により変化する電池の使用可能時間や電池容量を正確に検出し、電子機器において残容量表示を表示する必要がある。一般的に、電子機器では、電池パックもしくは内蔵電池の残容量を表示画面やランプ等でユーザに知らせるようにしている。実際の残容量と検出された残容量(ユーザに通知される残容量)との差が大きい場合、電子機器の使用時に突然電子機器の電源が切断されるという問題や、満充電状態となっていないのにも関わらず満充電と判断され、充電量が少なくなるという問題が生じかねない。
【0004】
従来、二次電池の内部抵抗を測定する際に、閉回路電圧(CCV;Closed Circuit Voltage)と開回路電圧(OCV;Open Circuit Voltage)との電圧差と、閉回路状態での電流値とから直流抵抗を求める方法が知られている。
【0005】
例えば、二次電池に対する充電をON/OFFするためのスイッチによって充電のON/OFFが10回以上繰り返された後に、電池の充電をOFFした状態で開放電圧を測定する。そして、この開回路電圧と、予め測定された閉回路電圧および充電電流値とにより、二次電池の劣化度を算出する構成が下記の特許文献1に記載されている。
【0006】
下記の特許文献2のような方法も提案されている。すなわち、突入電流が流れている期間に周期的に測定される放電電流と放電電流に対応する端子電圧とから電池の純抵抗値を求める。また、放電電流と端子電圧とから電池の分極による抵抗値を求め、純抵抗値と分極による抵抗値とを用いて劣化度を求めるようにすることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−41280号公報
【特許文献2】特許3930777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の発明は、二次電池の直流抵抗成分は測定しているが、分極抵抗成分を考慮していない。このため、分極抵抗成分が大きくなる劣化モードの場合には正確に劣化状態を求めることが出来なかった。
【0009】
また、上述の特許文献2に記載の発明は、ピーク値から定常値まで単調減少する突入電流が流れている数mSecという短い期間に放電電流及び端子電圧を周期的に測定しなければならない。このため、変換時間が高速なA/D変換器を使用しなければならず、装置が高価となる問題があった。例えば、一般的なバッテリーパックに搭載されているA/D変換器の電流測定周期は数十〜数百mSec単位であり使用することができない。また、突入電流が流れるような使用をされない場合、例えばノートパソコン等で充放電を繰り返すような使用をされる場合には、特許文献2の方法では抵抗値を測定することが出来なかった。
【0010】
したがって、この発明は、分極抵抗成分が大きくなる劣化が進んだ電池等の劣化度をより正確に検出することができる電池パックおよび電池の劣化度検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題を解決するために、第1の発明は、1または複数の二次電池と、
二次電池に対する充電電流をON/OFFする充電制御スイッチと、
二次電池に対する放電電流をON/OFFする放電制御スイッチと、
充電電流および放電電流を検出するための電流検出素子と、
二次電池の電圧を測定する電圧測定部と、
充電制御スイッチおよび放電制御スイッチを制御する制御部と、
二次電池の初期の内部抵抗を記憶する記憶部と
を備え、
制御部は、
充電時における閉回路電圧および充電電流と、閉回路電圧測定直後に充電制御スイッチをOFFした後、第1の待機時間が経過した時点での第1の開回路電圧と、第1の待機時間よりも長い第2の待機時間が経過した時点での第2の開回路電圧とを測定し、
閉回路電圧と第1の開回路電圧との電圧差と、充電電流とを基に直流抵抗成分を算出し、
第1の開回路電圧と第2の開回路電圧との電圧差と、充電電流とを基に分極抵抗成分を算出し、
直流抵抗成分と、分極抵抗成分との和から、初期の内部抵抗を減算して劣化度を算出する
電池パックである。
【0012】
第2の発明は、充電時における閉回路電圧および充電電流と、充電電流を遮断してから第1の待機時間が経過した時点での第1の開回路電圧と、第1の待機時間よりも長い第2の待機時間が経過した時点での第2の開回路電圧とを測定し、
閉回路電圧と第1の開回路電圧との電圧差と、充電電流とを基に直流抵抗成分を算出し、
第1の開回路電圧と第2の開回路電圧との電圧差と、充電電流とを基に分極抵抗成分を算出し、
直流抵抗成分と、分極抵抗成分との和から、初期の内部抵抗を減算して劣化度を算出する
電池の劣化度の算出方法である。
【0013】
この発明では、充電電流停止直後に開回路電圧を測定して得た直流抵抗成分と充電電流停止後しばらくしてから開回路電圧を測定して得た分極抵抗成分の双方を用いて電池の劣化度を算出する。このとき、充電時における閉回路電圧の測定を、二次電池の最大電池電圧>二次電池の定格電圧である時に行うことが好ましい。また、充電電流停止直後の開回路電圧の測定は充電電流を遮断してから2秒以内に行うことが好ましく、充電電流停止後しばらくしてからの開回路電圧の測定は、充電電流を遮断してから5秒以上経過後に行うことが好ましい。この様な構成により、劣化した電池の抵抗成分を正確に検出することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、直流抵抗成分とともに充電電流停止後しばらくしてから測定して得た分極抵抗成分を用いて劣化度を算出するため、直流抵抗成分が同じでも劣化度の異なる電池に対して、正確に劣化度の検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】異なるサイクル数の電池の充電波形と、直流抵抗成分が同等のサイクル劣化電池と放置劣化電池の充電波形を示すグラフである。
【図2】この発明の電池パックの回路構成の一例を示す回路図である。
【図3】この発明の劣化度の算出方法を示すフローチャートである。
【図4】この発明の電池パックに収容する二次電池の一構成例を示す構成図である。
【図5】この発明の電池パックに収容する二次電池の一構成例を示す構成図である。
【図6】この発明の電池パックの一構成例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態とする)について説明する。
【0017】
(1)サイクル劣化した電池と放置劣化した電池について
以下、電池の充放電サイクルが進むにつれて生じる劣化をサイクル劣化、電池を長期間放置することによって生じる劣化を放置劣化と適宜称する。以下、サイクル劣化した電池と放置劣化した電池との特性の違いについて説明する。
【0018】
図1Aでは、充放電を100サイクル行った電池の充電波形を破線で、充放電を300サイクル行った電池の充電波形を実線で示す。なお、波線および実線で示される充電波形において、閉回路状態から開回路状態への遷移時に生じる急激な電圧降下は、それぞれ100サイクル劣化時の直流抵抗成分および300サイクル劣化時の直流抵抗成分によるものである。また、図1Bでは、充放電を300サイクル行った電池の充電波形を実線で、充放電を300サイクル行った電池と直流抵抗成分による電圧降下がほぼ同等の放置劣化した電池の充電波形を点線で示す。
【0019】
なお、図1Aおよび図1Bの充電波形は、下記のようにして求められる。
【0020】
まず、二次電池を作製した。
【0021】
[正極の作製]
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)を96重量%と、導電剤としてケッチェンブラックを1重量%と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)3重量%とを混合して正極合剤を調整した。次に、N−メチル−2−ピロリドン中に正極合剤を分散させて正極合剤スラリーとした。そして、この正極合剤スラリーをアルミニウム(Al)箔からなる正極集電体上に均一に塗布して乾燥させ、ローラープレスにより一定圧力で圧縮成型することにより、帯状の正極を作製した。
【0022】
[負極の作製]
負極活物質としてグラファイトを94重量%と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)6重量%とを混合して負極合剤を調整した。次に、N−メチル−2−ピロリドン中に負極合剤を分散させて負極合剤スラリーとした。そして、この負極合剤スラリーを銅(Cu)箔からなる負極集電体上に均一に塗布して乾燥させ、一定圧力で圧縮成型することにより、帯状の負極を作製した。
【0023】
[二次電池の組み立て]
上述のようにして作製した帯状の正極と帯状の負極とを、厚さ20μmを有する微多孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータを介して積層して巻回し、渦巻型の巻回電極体を作製した。次に、この巻回電極体の上下両面に絶縁板を配設し、ニッケルメッキを施した鉄製の電池缶に収納した。そして、アルミニウム製の正極リードを正極集電体から導出して電池蓋に溶接し、ニッケル製の負極リードを負極集電体から導出して電池缶に溶接した。
【0024】
次に、電池缶の中にエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1で混合した溶液に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/lとなるように調整した電解液を注入した。次に、アスファルトで表面を塗布したガスケットを介して電池缶をかしめることにより、電流遮断機構を有する安全弁機構、熱感抵抗素子ならびに電池蓋を固定して電池内の機密性を保持させ、直径18mm、高さ65mmである円筒型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0025】
このようにして作製した電池から、充放電を100サイクル行った電池と、充放電を300サイクル行った電池と、満充電状態で高温下にて放置し直流抵抗値が300サイクル経過品と同程度になるまで劣化させた電池とを作成した。
【0026】
[充電波形の測定]
これらの電池に対してそれぞれ充電を行った。その際、電池電圧>4.0V、充電電流>1.0Aの条件が成立した時点で充電電流の停止を行い、電池電圧の波形を測定した。
【0027】
図1Aのように、サイクル数が異なる電池の場合、充電電流を遮断した時点での電圧降下、すなわち電池の直流抵抗が、サイクル数が大きいほど大きくなる。一方、充電電流停止後に所定時間が経過するとさらに電圧が降下するものの、電圧の降下度合いはサイクル劣化度が異なってもほぼ同等である。すなわち、直流抵抗成分にはサイクル劣化度合いが影響している。
【0028】
一方、図1Bに示すように、サイクル劣化電池と放置劣化電池では、直流抵抗成分をほぼ同等とした場合であっても充電電流停止後に所定時間が経過した際の電圧降下に大きな差が生じる。したがって、直流抵抗成分のみを基にして電池の劣化度を算出した場合、サイクル劣化電池と放置劣化電池との劣化度が同等となってしまう。このため、実際の満充電容量が異なっているのにも関わらず、劣化度を用いて算出した満充電容量が同等となってしまう。
【0029】
したがって、この発明では、直流抵抗成分と、充電電流停止後に大きな電圧降下を生じさせる分極抵抗成分との双方から劣化度を算出し、より正確に劣化度が得られるようにした。以下、この発明の電池パックおよび電池の劣化検出方法について説明する。
【0030】
(2)電池パックの構成
(2−1)電池パックの回路構成
図2は、この発明の実施の一形態による電池パックの回路構成例を示すブロック図である。電池パックは、組電池1、充電制御FET(Field Effect Transistor)2aと、放電制御FET3aを備えるスイッチ部4、保護回路5、ヒューズ6、電流検出抵抗7、温度検出素子8a,8b、識別抵抗9、制御部としてのCPU(Central Processing Unit)10を備えている。
【0031】
また、電池パックは、正極端子21および負極端子22を備え、充電時には正極端子21および負極端子22がそれぞれ充電器の正極端子、負極端子に接続され、充電が行われる。また、電子機器使用時には、正極端子21および負極端子22がそれぞれ電子機器の正極端子、負極端子に接続され、放電が行われる。
【0032】
なお、組電池1および組電池1の近傍に配置される温度検出素子8a以外の各部品は、回路基板27上にまとめて配置される
【0033】
組電池1は、複数の二次電池1aを直列および/または並列に接続してなる。この二次電池1aは例えばリチウムイオン二次電池である。なお、図2では、6つの二次電池1aが、2並列3直列(2P3S)に接続された場合が例として示されている。
【0034】
スイッチ部4は、充電制御FET2aおよび寄生ダイオード2b、ならびに放電制御FET3aおよび寄生ダイオード3bを備え、CPU10によって制御される。充電制御FET2aおよび放電制御FET3aのそれぞれのドレイン・ソース間には、寄生ダイオード2bおよび3bが存在する。寄生ダイオード2bは、正極端子21から組電池1の方向に流れる充電電流に対して逆方向で、負極端子22から組電池1の方向に流れる放電電流に対して順方向の極性を有する。寄生ダイオード3bは、充電電流に対して順方向で、放電電流に対して逆方向の極性を有する。
【0035】
充電制御FET2aは、電池電圧が過充電検出電圧となった場合にOFFされて、組電池1の電流経路に充電電流が流れないようにCPU10によって制御される。なお、充電制御FET2aのOFF後は、寄生ダイオード3aを介することによって放電のみが可能となる。また、充電時に大電流が流れた場合にOFFされて、組電池1の電流経路に流れる充電電流を遮断するように、CPU10によって制御される。
【0036】
放電制御FET2bは、電池電圧が過放電検出電圧となった場合にOFFされて、組電池1の電流経路に放電電流が流れないようにCPU10によって制御される。なお、放電制御FET2bのOFF後は、寄生ダイオード3bを介することによって充電のみが可能となる。また、放電時に大電流が流れた場合にOFFされて、組電池1の電流経路に流れる放電電流を遮断するように、CPU10によって制御される。
【0037】
保護回路5は、組電池1およびそれを構成する各二次電池1aの電圧を測定し、その測定電圧が所定電圧を越える場合には、ヒューズ6を溶断する。保護回路5は、CPU10の制御を受けずにヒューズ6の溶断を行う。このため、CPU10で何らかの問題が生じ、所定電圧以上となっても充電制御FET2aの制御が行われない場合であっても、電流を遮断することができる。
【0038】
温度検出素子8aは例えばサーミスタであり、複数の二次電池1aの近傍に設けられ、組電池1の温度を測定して測定温度をCPU10に供給する。温度検出素子8bは例えばサーミスタであり、電池パック内部の温度を測定し、この測定温度を接続端子25を介して電池パックが接続された電子機器に供給する。
【0039】
識別抵抗9は、電池パックに接続された電子機器が接続端子26を介して電池パック種類の識別や、電池パックと機器との接続可否を判別するためのものである。
【0040】
CPU10は、一例として、電圧測定部11と、マルチプレクサ(MPX)12と、電流測定部13と、FET制御部14と、演算部15と、タイマ16と、メモリ17と温度測定部18とを備えている。CPU10は、図示しないROM(Read Only Memory)に予め格納されたプログラムに従い、図示しないRAM(Random Access Memory)をワークメモリとして各部を制御する。
【0041】
電圧測定部11は、組電池1およびそれを構成する各二次電池1aの電圧を測定し、この測定電圧をA/D変換して、FET制御部14および演算部15に供給する。このとき、どの二次電池の電圧を測定するかを、マルチプレクサ(MPX)12によって選択する。電流測定部13は、電流検出抵抗7を用いて電流を測定し、この測定電流をFET制御部14および演算部15に供給するCPU2に供給する。
【0042】
FET制御部14は、電圧測定部11および電流測定部13から入力された電圧および電流を基に、スイッチ部4の充電制御FET2aおよび放電制御FET3aを制御する。FET制御部14は、二次電池1aのいずれかの電圧が過充電検出電圧もしくは過放電検出電圧以下になったとき、また、大電流が急激に流れたときに、スイッチ部4に制御信号を送ることにより、過充電および過放電、過電流充放電を防止する。ここで、リチウムイオン二次電池の場合、過充電検出電圧が例えば4.20V±0.05Vと定められ、過放電検出電圧が例えば2.4V±0.1Vと定められる。
【0043】
FET制御部14は、充電制御FET2aおよび放電制御FET3aのそれぞれのゲートに対して、制御信号DOおよびCOをそれぞれ供給する。通常の充電動作および放電動作では、制御信号COを論理“L”レベル(以下、ローレベルと適宜称する)として放電制御FET3aをON状態とする。また、制御信号DOをローレベルとして充電制御FET2aをON状態とする。図2において、充電制御FET2aおよび放電制御FET3aはPチャンネル型であるので、ソース電位より所定値以上低いゲート電位によってONする。すなわち、通常の充電および放電動作では、制御信号COおよびDOをローレベルとし、充電制御FET2aおよび放電制御FET3aをON状態とする。そして、例えば過充電もしくは過放電の際には、制御信号COおよびDOをハイレベルとし、充電制御FET2aおよび放電制御FET3aをOFF状態とする。
【0044】
演算部15は、タイマ16により計測された所定の時間において、電圧測定部11および電流測定部13で測定され入力された電圧および電流を基に、電池の劣化度を算出する。なお、演算部15における劣化度の算出については後述する。
【0045】
メモリ17は、例えば不揮発性メモリであるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等からなる。メモリ17では、演算部15で演算された数値や、製造工程の段階で測定された各二次電池1aの初期状態における電池の内部抵抗値などが予め記憶されている。また、二次電池1aの満充電容量を記憶し、例えばサイクル毎に算出される最新の劣化度をもとに得た満充電容量を更新することができる。
【0046】
温度測定部18では、温度検出素子8aを用いて温度を測定し、異常発熱時に充放電制御を行ったり、残容量の算出における補正を行う。
【0047】
(2−2)劣化度の検出方法
この発明における劣化度の検出方法について説明する。なお、劣化度の演算は、CPU10の演算部15で行われる。なお、以下、図3のフローチャートを用いて説明する。図3のフローチャートは、充電時に充電制御FET2aをONからOFFに切り替えて劣化状態を求めるものである。
【0048】
まず、ステップST1に示すように、充電時において二次電池1aの閉回路電圧CCVおよび充電電流Iを測定する。このとき、CPU10では、マルチプレクサ12により各二次電池1aを選択し、電圧測定部11においてそれぞれの二次電池1aの電圧を測定する。充電電流は、電流検出抵抗7を用いて電流測定部13において求める。また、必要に応じて温度検出素子8aにより組電池1(二次電池1a)の温度Tを測定する。ステップST1における閉回路電圧CCVおよび充電電流Iの測定は、所定時間毎に行う。ここで、閉回路電圧CCVの測定は、二次電池1aの満充電検出時の様に、電池の状態が一定になるような状況で行うことが好ましい。
【0049】
次に、ステップST2において、ステップST1で測定した閉回路電圧CCVが所定の閾値CCVchgよりも大きく、かつ充電電流Iが所定の閾値Ichgよりも大きいか否かを判断する。ステップST2において閉回路電圧CCV>CCVchgかつ充電電流I>Ichgの条件を満たさない場合には、再度ステップST1に戻って所定時間毎に閉回路電圧CCVおよび充電電流Iの測定を行う。これは、充電電流Iが小さい場合、閉回路電圧CCVと開回路電圧OCVとの電圧差が小さくなり、測定の精度が確保できないことによる。したがって、充電電流Iは0.1CmA以上であることが望ましい。また、閉回路電圧CCVが低い場合、開回路電圧OCV測定時の電圧降下量のバラツキが大きくなり安定して測定できないことによる。そして、二次電池の残容量が少ない状態では、内部抵抗値が大きくなる為、安定した測定が出来ない。したがって、閉回路電圧CCVが平均作動電圧(定格電圧)以上の場合に、充電を停止して開回路電圧OCVを測定するようにすることが好ましい。
【0050】
そして、劣化度の算出に用いる閉回路電圧CCVの測定時の電圧条件は一定であることが好ましい。例えば、初回に所定の閾値CCVchgを3.7Vとし、2回目に所定の閾値CCVchgを4.2Vで行うような制御は、測定条件の安定性の観点から好ましくない。初回の閾値CCVchgが3.7Vであれば2回目以降も閾値CCVchgを3.7V、初回の閾値CCVchgが4.2Vであれば2回目以降の閾値CCVchgも4.2Vで測定すると良い。また、上述のように、二次電池の残容量が少ない状態では、内部抵抗値が大きくなる為、安定した測定が出来ない。そこで、劣化度の検出に採用する閉回路電圧CCVの測定を平均作動電圧(定格電圧)以上、すなわち二次電池の電池電圧>二次電池の定格電圧=閾値CCVchgの場合に測定されたものとすることにより、安定した測定結果を得ることができる。
【0051】
ステップST2において閉回路電圧CCV>CCVchgかつ充電電流I>Ichgの条件を満たす場合には、処理がステップST3に移行する。ステップST3において、CPU10はスイッチ部4を制御して充電制御FET2aをOFFする制御信号を充電制御FET2aに対して出力する。
【0052】
続いて、ステップST4において、タイマのカウントを開始する。
【0053】
ステップST5において、タイマのカウント値がカウント直後の待機時間を経過したか否かが判断される。ステップST5において、CPU10は電流停止直後の開回路電圧OCV1を測定するまでの時間を待機する。OCV1は直流抵抗成分であるので電流停止直後の測定が望ましく、待機時間T1は2秒以内とすることが好ましい。電流停止直後に電圧測定を行わない場合、測定した電圧降下量に分極成分の影響が含まれてしまう。分極成分の影響を可能な限り排除するためには、ハードウェアの電圧測定速度の可能な範囲で、待機時間T1を短時間とすることが好ましい。ステップST5において、タイマのカウント値が待機時間を経過していないと判断された場合には、引き続きタイマのカウントを継続する。ステップST5において、タイマのカウント値が待機時間を経過したと判断された場合には、処理がステップST6に移る。
【0054】
ステップST6では、開回路電圧OCV1を測定する。このとき、開回路電圧OCV1の測定は、マルチプレクサ12によりそれぞれの二次電池1aを選択して、電圧測定部11で各二次電池の電圧を測定する。
【0055】
ステップST7では、タイマのカウント値がステップST5におけるカウント直後の待機時間よりも長い所定の待機時間を経過したか否かが判断される。ステップST7において、CPU10は開回路電圧OCV2を測定するまでの時間を待機する。開回路電圧OCV2は電流停止後、電池電圧に分極抵抗成分が現れる時点の測定が望ましく、待機時間T2は5秒以上とすることが好ましく、測定の安定性を考慮すると10秒以上とすることがより好ましい。
【0056】
待機時間の検討のために、下記の表1に、充電電流停止後のセル電圧の変化を測定した結果の一例を示す。
【0057】

【0058】
表1から分かるように、二次電池は、充電停止後0〜1秒が経過する間に急激に電圧が降下し、充電停止後2〜4秒の間に電圧が徐々に降下し、充電停止後4秒以降は電圧が安定していることが判る。待機時間T1は、電圧に分極成分が現れる前に測定することが望ましいので、2秒以内に設定することが望ましい。待機時間T1はできるだけ短い時間に設定すると良いが、充電停止後2秒の時点であれば、充電停止後1秒の時点での測定結果と測定値が大きく異ならないので、待機時間T1を2秒に設定しても問題ない。
【0059】
待機時間T2は、表1の測定結果より、電圧が安定する4秒以降が好ましく、マージンを考慮し5秒以上とすることがより好ましい。また、分極抵抗成分は徐々に二次電池の電圧に現れるため、待機時間T2は可能な限り長い時間を設定することが好ましい。しかしながら、実際の使用環境では充電中に本願のような閉回路電圧CCV、開回路電圧OCV1およびOCV2の測定を行った場合、満充電までの充電時間が長くなる問題が発生する。このため、待機時間T2は10秒〜60秒程度に設定することが好ましい。また、満充電検出時に本願の測定を行う場合は、満充電までの充電時間を考慮する必要がないので10分〜1時間程度の設定とすることが出来る。
【0060】
ステップST7において、タイマのカウント値が所定の待機時間を経過していないと判断された場合には、引き続きタイマのカウントを継続する。ステップST7において、タイマのカウント値が所定の待機時間を経過したと判断された場合には、処理がステップST8に移る。
【0061】
ステップST8では、開回路電圧OCV2を測定する。このとき、開回路電圧OCV2の測定は、マルチプレクサ12によりそれぞれの二次電池1aを選択して、電圧測定部11で各二次電池の電圧を測定する。
【0062】
続いて、ステップST9では、演算部15において閉回路電圧CCVと開回路電圧OCV1との差分ΔV1を算出する。ΔV1は下記の式(1)より求められる。
ΔV1=CCV−OCV1 ・・・ 式(1)
【0063】
ステップST10では、演算部15において閉回路電圧CCVと開回路電圧OCV2との差分ΔV2を算出する。ΔV2は下記の式(2)より求められる。
ΔV2=CCV−OCV2 ・・・ 式(2)
【0064】
さらに、ステップST11では、演算部15において二次電池1aの劣化度を求める。劣化度は例えば式(3)により求められる。
劣化度=(ΔV1/I+α(ΔV2−ΔV1)/I−Rini)/Rini
・・・ 式(3)
例えば、劣化した電池パックの閉会路電圧CCVと開回路電圧OCV1、開回路電圧OCV2を測定した結果、CCV=4.00V、OCV1=3.80V、OCV2=3.72V、I=2.0A、予め測定したパラメータが、α=0.5、Rini=0.07であったとすると、劣化度は下記となる。
劣化度=(0.20/2.0+0.5×0.08/2.0−0.07)/0.07
≒0.71
ここでの劣化度は、初期の劣化状態を0とした、セルが劣化すると共に増大する指数である。
【0065】
ここで、Riniは、二次電池1aの工場出荷時の内部抵抗値であり、この値は例えばメモリ17に予め記憶されている。また、補正係数αは分極抵抗成分の補正係数であり、予め求めた値がメモリに記憶されている。補正係数の値は、例えば、直流内部抵抗値が同等になるまでサイクル劣化させた電池パックと放置劣化させた電池パックの満充電容量から式(4)を用いて求めることが出来る。
補正係数α=(サイクル劣化品満充電容量−放置劣化品満充電容量)/サイクル劣化品満充電容量
・・・ 式(4)
補正係数αは、直流抵抗成分の上昇率に対する放電容量の減少率と、分極抵抗成分の上昇率に対する放電容量の減少率が異なる為に必要な補正係数である。この補正係数は、セルの構成によって異なるので、使用するセルの特性に合せて設定すると良い。
【0066】
なお、式(3)は、
(i)充電制御FET2aをOFFした直後の電圧降下分に対応する直流抵抗成分
と、
(ii)充電制御FET2aをOFFしてから所定時間経過した時点での、充電制御FET2aOFF直後からの電圧降下分に対応する分極抵抗成分に所定の補正係数αを乗じたもの
との合計から、
(iii)工場出荷時点での内部抵抗
を引き、工場出荷時点での内部抵抗を基に劣化度として算出したものである。
【0067】
劣化度は0以上1以下の数値で表され、劣化が進むにしたがって大きい値となる。例えば、初期状態での満充電容量と算出した劣化度とを乗算することにより、劣化によって失った電池容量を算出することができる。
【0068】
劣化度と満充電容量は反比例関係にあるので、CPU10は、算出した劣化度に基づきメモリ17に記憶された満充電容量を更新することができる。この際、温度検出素子8aにより測定された温度Tに基づき劣化度を補正し、この算出した劣化度に基づきメモリ11に記憶された満充電容量を更新するようにしてもよい。
【0069】
なお、上述の劣化度算出の一例では、閉回路電圧CCVと開回路電圧OCV1およびOCV2の測定をそれぞれ1回のみ行ったが、測定をそれぞれ複数回行い、測定値を平均化した上で劣化度を算出しても良い。
【0070】
また、CPU10は、算出した劣化度を通信端子23および通信端子24を介して電池パックと接続された電子機器に供給し、劣化度が供給された電子機器が、その電子機器に備えられた液晶表示装置などの表示部に劣化度を表示するようにしてもよい。
【0071】
(3)電池パックの構成
このような電池パックは、例えば下記のような構成とされる。
【0072】
(3−1)二次電池の構成
以下、この発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0073】
図4は、この発明の一実施形態による二次電池の断面構造を示す。この電池は、例えばリチウムイオン二次電池である。
【0074】
図4に示すように、この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に、帯状の正極41と帯状の負極42とがセパレータ43を介して巻回された巻回電極体40を有している。電池缶31は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶31の内部には、巻回電極体40を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板32、33がそれぞれ配置されている。
【0075】
電池缶31の開放端部には、電池蓋34と、この電池蓋34の内側に設けられた安全弁機構35および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)36とが、ガスケット37を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶31の内部は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の材料により構成されている。
【0076】
安全弁機構35は、熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板35Aが反転して電池蓋34と巻回電極体40との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子36は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0077】
巻回電極体40は、例えば、センターピン44を中心に巻回されている。巻回電極体40の正極41にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード45が接続されており、負極42にはニッケル(Ni)などよりなる負極リード46が接続されている。正極リード45は安全弁機構35に溶接されることにより電池蓋34と電気的に接続されており、負極リード46は電池缶31に溶接され電気的に接続されている。
【0078】
図5は図4に示した巻回電極体40の一部を拡大して表すものである。
【0079】
[正極]
正極41は、例えば、正極集電体41Aと、正極集電体41Aの両面に設けられた正極活物質層41Bとを有している。なお、正極集電体41Aの片面のみに正極活物質層41Bが存在する領域を有するようにしてもよい。正極集電体41Aは、例えば、アルミニウム(Al)箔などの金属箔により構成されている。
【0080】
正極活物質層41Bは、例えば、正極活物質と、繊維状炭素やカーボンブラック等の導電剤と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着剤とを含む。正極活物質としては、
正極活物質は、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能であり、その反応電位が対リチウムで例えば3〜4.5Vにある正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでいる。このような正極材料としては、例えば、リチウムを含む複合酸化物が挙げられる。具体的には、リチウムと遷移金属との複合酸化物として、層状構造を有するコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)あるいはこれらを含む固溶体(LiNixCoyMnz2;式中、x、yおよびzの値はそれぞれ0<x<1,0<y<1,0<z<1,x+y+z=1である。)を用いることができる。
【0081】
そして、正極材料として、スピネル構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn24)あるいはその固溶体(Li(Mn2-vNiv)O4;式中、vの値はv<2である。)などを用いることもできる。さらに、正極材料として、例えば、オリビン構造を有するリン酸鉄リチウム(LiFePO4)などのリン酸化合物を用いることもできる。高いエネルギー密度が得られるからである。なお、正極材料は、上述の材料の他、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化鉄、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、硫黄や、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子であってもよい。
【0082】
導電剤としては、正極活物質に適量混合して導電性を付与できるものであれば特に制限はないが、例えばカーボンブラックあるいはグラファイトなどの炭素材料等が用いられる。結着剤としては、通常この種の電池の正極合剤に用いられている公知の結着剤を用いることができるが、好ましくはポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂が用いられる。
【0083】
[負極]
負極42は、例えば、負極集電体42Aと、負極集電体42Aの両面に設けられた負極活物質層42Bとを有している。なお、負極集電体42Aの片面のみに負極活物質層42Bが存在する領域を有するようにしてもよい。負極集電体42Aは、例えば銅(Cu)箔などの金属箔により構成されている。
【0084】
負極活物質層42Bは、例えば、負極活物質を含んでおり、必要に応じて導電剤、結着剤あるいは粘度調整剤などの充電に寄与しない他の材料を含んでいてもよい。導電剤としては、黒鉛繊維、金属繊維あるいは金属粉末などが挙げられる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのフッ素系高分子化合物、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)あるいはエチレンプロピレンジエンゴム(EPDR)などの合成ゴムなどが挙げられる。
【0085】
負極活物質としては、対リチウム金属2.0V以下の電位で電気化学的にリチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されている。
【0086】
リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料、金属化合物、酸化物、硫化物、LiN3などのリチウム窒化物、リチウム金属、リチウムと合金を形成する金属、あるいは高分子材料などが挙げられる。
【0087】
炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維あるいは活性炭が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。また、高分子材料としてはポリアセチレンあるいはポリピロールなどが挙げられる。
【0088】
このようなリチウム(Li)を吸蔵および離脱可能な負極材料のなかでも、充放電電位が比較的リチウム金属に近いものが好ましい。負極42の充放電電位が低いほど電池の高エネルギー密度化が容易となるからである。なかでも炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるので好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性を得ることができるので好ましい。
【0089】
リチウム(Li)を吸蔵および離脱可能な負極材料としては、また、リチウム金属単体、リチウム(Li)と合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が挙げられる。これらは高いエネルギー密度を得ることができるので好ましく、特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。なお、本明細書において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなるものも含める。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらのうち2種以上が共存するものがある。
【0090】
このような金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、銀(Ag)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)またはハフニウム(Hf)が挙げられる。これらの合金あるいは化合物としては、例えば、化学式MafMbgLih、あるいは化学式MasMctMduで表されるものが挙げられる。これら化学式において、Maはリチウムと合金を形成可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、MbはリチウムおよびMa以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、Mcは非金属元素の少なくとも1種を表し、MdはMa以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表す。また、f、g、h、s、tおよびuの値はそれぞれf>0、g≧0、h≧0、s>0、t>0、u≧0である。
【0091】
なかでも、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が好ましく、特に好ましいのはケイ素(Si)あるいはスズ(Sn)、またはこれらの合金あるいは化合物である。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0092】
リチウムを吸蔵・放出可能な負極材料としては、さらに、酸化物、硫化物、あるいはLiN3などのリチウム窒化物などの他の金属化合物が挙げられる。酸化物としては、MnO2、V25、V613、NiS、MoSなどが挙げられる。その他、比較的電位が卑でリチウムを吸蔵および放出することが可能な酸化物として、例えば酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズなどが挙げられる。硫化物としてはNiS、MoSなどが挙げられる。
【0093】
[セパレータ]
セパレータ43としては、例えば、ポリエチレン多孔質フィルム、ポリプロピレン多孔質フィルム、合成樹脂製不織布などを用いることができる。セパレータ43には、液状の電解質である非水電解液が含浸されている。
【0094】
[非水電解液]
非水電解液は、液状の溶媒、例えば有機溶媒などの非水溶媒と、この非水溶媒に溶解された電解質塩とを含むものである。
【0095】
非水溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)およびプロピレンカーボネート(PC)などの環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。サイクル特性を向上させることができるからである。特に、エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)とを混合して含むようにすれば、よりサイクル特性を向上させることができるので好ましい。
【0096】
非水溶媒は、また、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)あるいはメチルプロピルカーボネート(MPC)などの鎖状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。サイクル特性をより向上させることができるからである。
【0097】
非水溶媒は、さらに、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、これら化合物の水素基の一部または全部をフッ素基で置換したもの、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピロニトリル、N,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシドあるいはリン酸トリメチルなどのいずれか1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0098】
組み合わせる電極によっては、上記非水溶媒群に含まれる物質の水素原子の一部または全部をフッ素原子で置換したものを用いることにより、電極反応の可逆性が向上する場合がある。したがって、これらの物質を適宜用いることも可能である。
【0099】
電解質塩としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、リチウム塩としては、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl4)などの無機リチウム塩や、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CF3SO22)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(C25SO22)、およびリチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3SO23)などのパーフルオロアルカンスルホン酸誘導体などが挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することも可能である。中でも、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)は、高いイオン伝導性を得ることができると共に、サイクル特性を向上させることができるので好ましい。
【0100】
一方、非水電解液の変わりに固体電解質を用いるようにしてもよい。固体電解質としては、リチウムイオン導電性を有する材料であれば無機固体電解質および高分子固体電解質のいずれも用いることができる。無機固体電解質としては、窒化リチウム(Li3N)、よう化リチウム(LiI)等が挙げられる。高分子固体電解質は電解質塩と、電解質塩を溶解する高分子化合物とからなり、その高分子化合物はポリ(エチレンオキサイド)や同架橋体などのエーテル系高分子、ポリ(メタクリレート)エステル系、アクリレート系などを単独あるいは分子中に共重合、または混合して用いることができる。
【0101】
さらに、ゲル状電解質を用いてもよい。ゲル状電解質のマトリクスポリマとしては、上述の非水電解液を吸収してゲル化するものであれば種々の高分子が利用できる。たとえばポリビニリデンフルオロライドや、ビニリデンフルオロライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ素系高分子、ポリエチレンオキサイドや同架橋体などのエーテル系高分子、またポリアクリロニトリルなどを使用できる。特に酸化還元安定性から、フッ素系高分子を用いることが望ましい。電解質塩を含有させることによりイオン導電性を賦与する。
【0102】
このような非水電解質電池は、上限充電電圧を4.25V以上4.80V以下、下限放電電圧を2.00V以上3.30V以下として用いることにより、よりこの発明の正極活物質の顕著な効果を得ることができる。
【0103】
(3−2)非水電解質二次電池の作製方法
この二次電池は、例えば以下に説明するようにして製造することができる。
【0104】
[正極の製造方法]
例えば、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチルピロリドンなどの溶剤に分散させて正極合剤スラリーとする。続いて、この正極合剤スラリーを正極集電体41Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層41Bを形成し、正極41を作製する。
【0105】
[負極の製造方法]
また、例えば、負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチルピロリドンなどの溶剤に分散させて負極合剤スラリーとする。続いて、この負極合剤スラリーを負極集電体42Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極活物質層42Bを形成し、負極42を作製する。
【0106】
[非水電解質二次電池の組み立て]
次いで、正極集電体41aに正極リード45を溶接などにより取り付けるとともに、負極集電体42Aに負極リード46を溶接などにより取り付ける。そののち、正極41と負極42とをセパレータ43を介して巻回し、正極リード45の先端部を安全弁機構35に溶接すると共に、負極リード46の先端部を電池缶31に溶接して、巻回した正極41および負極42を一対の絶縁板32、33で挟み電池缶31の内部に収納する。
【0107】
正極41および負極42を電池缶31の内部に収納したのち、上述した電解液を電池缶31の内部に注入し、セパレータ43に含浸させる。そののち、電池缶31の開口端部に電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36を、ガスケット37を介してかしめることにより固定する。以上により、図4に示した二次電池1aを製造できる。
【0108】
(3−3)電池パックの構成
図6に示すように、上述のようにして作製した二次電池1aを例えば2並列3直列(2P3S)に接続し、回路基板27と接続する。回路基板27上には、充電制御FET2a、放電制御FET3a、保護回路5、ヒューズ6、電流検出抵抗7、温度検出素子8b、識別抵抗9、CPU10がマウントされている。また、正極端子21、負極端子22、通信端子23および通信端子24、接続端子25等が回路基板27に設けられている。
【0109】
1または複数の二次電池1aと、回路基板27は、例えば樹脂モールドケースからなる外装ケース28に収容される。外装ケースは、例えば下ケース28aと上ケース28bとからなる。下ケース28aおよび上ケース28bの少なくとも一方には、正極端子21、負極端子22、通信端子23および通信端子24、接続端子25等の端子類を外部に露出させるための開口部29が設けられている。電子機器と接続される際には、開口部29を介して外部に露出した各端子と電子機器の接続部とが接触して、充放電および情報の通信が可能となる。
【0110】
以上説明したように、この発明は、電池パックの劣化状態を測定する際に、直流抵抗成分のみではなく分極抵抗成分にも着目した。この発明では、閉回路電圧CCVを測定した後、開回路状態に切り替えた際に2つの異なる時間で開回路電圧OCV1およびOCV2を測定し、閉回路電圧CCVと開回路電圧OCV1およびOCV2との電圧差を計測することすることを特徴としている。
【0111】
従来の構成では、サイクル劣化させた電池パックと放置劣化させた電池パックの様に、異なる劣化状態の電池パックの場合であっても、直流抵抗成分が同じ場合には同様の劣化状態であると判断されてしまった。すなわち、直流抵抗成分の測定のみでは正確な満充電容量を算出することが出来なかった。この結果、正確な電池残量の算出が出来ず、機器の電源が突然切断されるなどの問題が発生することがあった。
【0112】
この発明では、直流抵抗成分のみでなく、分極抵抗分の劣化成分を劣化度の算出に用いて満充電容量を算出するので、二次電池の満充電容量を正確に求めることができる。したがって、最大限に二次電池の容量を引き出すことが可能となり、従来の構成での問題の発生を防ぎ、信頼性の高い制御を提供することができる。また、二次電池の残容量が少ない状態では、内部抵抗値が大きくなる為、安定した測定が出来ない。そこで、閉回路電圧CCVの測定を平均作動電圧(定格電圧)以上、すなわち二次電池の最大電池電圧>二次電池の定格電圧の場合に行うことにより、安定した測定結果を得ることができる。
【0113】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0114】
例えば、上述の各実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。二次電池の種類に応じて電池状態の判定基準が異なるため、用いる二次電池に応じて適切な基準値を設定する。
【0115】
また、二次電池1aとして円筒型電池を例に挙げて説明したが、ラミネートフィルムで外装された電池や角型電池、コイン型、ボタン型等の形状を有する電池が二次電池1aとして用いられてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1・・・組電池
1a・・・二次電池
2a・・・充電制御FET
2b・・・寄生ダイオード
3a・・・放電制御FET
3b・・・寄生ダイオード
4・・・スイッチ部
5・・・保護回路
6・・・ヒューズ
7・・・電流検出抵抗
8a,8b・・・温度検出素子
9・・・識別抵抗
10・・・CPU
11・・・電圧測定部
12・・・マルチプレクサ
13・・・電流測定部
14・・・FET制御部
15・・・演算部
16・・・タイマ
17・・・メモリ
18・・・温度測定部
20・・・電池パック
21・・・正極端子
22・・・負極端子
23,24・・・通信端子
25,26・・・接続端子
27・・・回路基板
28・・・外装ケース
28a・・・下ケース
28b・・・上ケース
29・・・開口部
31・・・電池缶
32,33・・・絶縁板
34・・・電池蓋
35・・・安全弁機構
35A・・・ディスク板
36・・・熱感抵抗素子
37・・・ガスケット
40・・・巻回電極体
41・・・正極
41A・・・正極活物質層
41B・・・正極集電体
42・・・負極
42A・・・負極活物質層
42B・・・負極集電体
43・・・セパレータ
44・・・センターピン
45・・・正極リード
46・・・負極リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数の二次電池と、
上記二次電池に対する充電電流をON/OFFする充電制御スイッチと、
上記二次電池に対する放電電流をON/OFFする放電制御スイッチと、
充電電流および放電電流を検出するための電流検出素子と、
上記二次電池の電圧を測定する電圧測定部と、
上記充電制御スイッチおよび上記放電制御スイッチを制御する制御部と、
上記二次電池の初期の内部抵抗を記憶する記憶部と
を備え、
上記制御部は、
充電時における閉回路電圧および充電電流と、閉回路電圧測定直後に上記充電制御スイッチをOFFした後、第1の待機時間が経過した時点での第1の開回路電圧と、第1の待機時間よりも長い第2の待機時間が経過した時点での第2の開回路電圧とを測定し、
上記閉回路電圧と上記第1の開回路電圧との電圧差と、上記充電電流とを基に直流抵抗成分を算出し、
上記第1の開回路電圧と上記第2の開回路電圧との電圧差と、上記充電電流とを基に分極抵抗成分を算出し、
上記直流抵抗成分と、上記分極抵抗成分との和から、上記初期の内部抵抗を減算して劣化度を算出する
電池パック。
【請求項2】
上記制御部が、
上記充電時における閉回路電圧が上記二次電池の定格電圧以上となった場合に、上記充電制御スイッチをOFFし、第1の待機時間が経過した時点での第1の開回路電圧と、第1の待機時間よりも長い第2の待機時間が経過した時点での第2の開回路電圧とを測定する
請求項1に記載の電池パック。
【請求項3】
上記第1の待機時間が2秒以内である
請求項2に記載の電池パック。
【請求項4】
上記第2の待機時間が5秒以上である
請求項3に記載の電池パック。
【請求項5】
上記制御部が、上記劣化度を{(上記直流抵抗成分+上記分極抵抗成分−上記初期の内部抵抗)/上記初期の内部抵抗}から算出する
請求項4に記載の電池パック。
【請求項6】
上記制御部が、上記劣化度を{(上記直流抵抗成分+補正係数×上記分極抵抗成分−上記初期の内部抵抗)/上記初期の内部抵抗}から算出し、
上記補正係数が、サイクルにより劣化した二次電池の第1の満充電容量と、該サイクルにより劣化した二次電池と同等の直流抵抗である、放置により劣化した二次電池の第2の満充電容量とを基に、{(第1の満充電容量−第2の満充電容量)/第1の満充電容量}から算出されたものである
請求項5に記載の電池パック。
【請求項7】
上記劣化度を用いて満充電容量を算出し、上記記憶部に記憶する
請求項6に記載の電池パック。
【請求項8】
充電時における閉回路電圧および充電電流と、充電電流を遮断してから第1の待機時間が経過した時点での第1の開回路電圧と、第1の待機時間よりも長い第2の待機時間が経過した時点での第2の開回路電圧とを測定し、
上記閉回路電圧と上記第1の開回路電圧との電圧差と、上記充電電流とを基に直流抵抗成分を算出し、
上記第1の開回路電圧と上記第2の開回路電圧との電圧差と、上記充電電流とを基に分極抵抗成分を算出し、
上記直流抵抗成分と、上記分極抵抗成分との和から、上記初期の内部抵抗を減算して劣化度を算出する
電池の劣化度の算出方法。
【請求項9】
上記充電時における閉回路電圧が上記二次電池の定格電圧以上となった場合に、上記充電制御スイッチをOFFし、第1の待機時間が経過した時点での第1の開回路電圧と、第1の待機時間よりも長い第2の待機時間が経過した時点での第2の開回路電圧とを測定する
請求項8に記載の電池の劣化度の算出方法。
【請求項10】
上記第1の待機時間が2秒以内である
請求項9に記載の電池の劣化度の算出方法。
【請求項11】
上記第2の待機時間が5秒以上である
請求項10に記載の電池の劣化度の算出方法。
【請求項12】
上記劣化度を{(上記直流抵抗成分+上記分極抵抗成分−上記初期の内部抵抗)/上記初期の内部抵抗}から算出する
請求項11に記載の電池の劣化度の算出方法。
【請求項13】
上記劣化度を{(上記直流抵抗成分+補正係数×上記分極抵抗成分−上記初期の内部抵抗)/上記初期の内部抵抗}から算出し、
上記補正係数が、サイクルにより劣化した二次電池の第1の満充電容量と、該サイクルにより劣化した二次電池と同等の直流抵抗である、放置により劣化した二次電池の第2の満充電容量とを基に、{(第1の満充電容量−第2の満充電容量)/第1の満充電容量}から算出されたものである
請求項12に記載の電池の劣化度の算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−103291(P2011−103291A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170138(P2010−170138)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】