説明

電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器およびその電池容器を用いた電池

【課題】 絞り加工や絞りしごき加工を施して電池容器に成形加工する際に微小クラックが生成し、アルカリ電池の正極合剤との密着性が高まり、優れた電池特性を有する電池とすることが可能な電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器、およびその電池容器を用いた電池を提供する。
【解決手段】 鋼板の電池容器内面となる側にニッケルめっきを施し、次いでその上に錫めっきを施し、次いで銀めっきを施した後に拡散熱処理るか、もしくはニッケルめっきを施し、次いでその上に銀粒子分散錫めっきを施した後に拡散熱処理し、鋼板上に鉄−ニッケル合金層、その上にニッケル層または/および鉄−ニッケル−錫合金層または/およびニッケル−錫合金層を形成させ、さらにその上にニッケル−錫−銀合金層または/および銀層を形成させて電池容器用めっき鋼板とし、それを電池容器に成形加工して電池に適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器およびその電池容器を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オーディオ機器やモバイル電話など、多方面において携帯用機器が用いられ、その作動電源として一次電池であるアルカリ電池、二次電池であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池などが多用されている。これらの電池においては、高出力化および長寿命化など、高性能化が常時求められており、正極および負極活物質を充填する電池容器も電池の重要な構成要素としての性能の向上が求められている。例えば、長寿命化を目的として、電解液に用いられるアルカリ溶液に対する耐食性を向上させるために、電池ケースの内面となる側にニッケル−リン合金層が形成されている電池ケース用表面処理鋼板(特許文献1)が提案されている。
【0003】
しかし、電池容器内面に用いる鋼板面に直接形成させるニッケル−リン合金層は非常に硬くて脆いために、絞り加工や絞りしごき加工などのプレス加工を施して容器に成形加工する際に下地の鋼が露出して電解液に用いられるアルカリ溶液に対する耐食性が低下し、放電特性が低下したり、ガス発生が増加するおそれがある。
【0004】
本出願に関する先行技術文献情報として次のものがある。
【特許文献1】国際公開WO99/03161号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明においては、絞り加工や絞りしごき加工を施して容器に成形加工する際にめっき層が剥離したり地鋼に達するひび割れが生じることがなく、アルカリ溶液に対する耐食性に優れ、優れた電池特性を有する電池とすることが可能な電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器およびその電池容器を用いた電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を達成するため、本発明の電池容器用めっき鋼板は、鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項1)、 または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項2)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項3)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項4)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項5)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項6)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−錫合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項7)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル−錫合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項8)、または
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項9)のいずれかである。
【0007】
また本発明の電池容器は、上記(請求項1〜9)のいずれかの電池容器用めっき鋼板を有底の筒型形状に成形加工してなる電池容器(請求項10)である。
そして本発明の電池は、上記(請求項10)の電池容器を用いてなる電池(請求項11)である。
また、本発明の電池容器用めっき鋼板の製造方法は、鋼板の少なくとも電池容器内面となる側にニッケルめっきを施し、次いで銀粒子分散錫めっきを施した後に熱処理することにより、鋼板の電池容器内面となる側の鋼素地上に鉄−ニッケル合金層を形成させ、その上にニッケル層または鉄−ニッケル−錫合金層を形成させ、さらにその上にニッケル−錫合金層を形成させたその上に、もしくは鋼素地上に鉄−ニッケル合金層を形成させたその上に、ニッケル−錫−銀合金層または/および銀層を形成させることを特徴とする電池容器用めっき鋼板の製造方法(請求項12)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電池容器用めっき鋼板は、鋼板の電池容器内面となる側にニッケルめっきを施し、次いでその上に錫めっきを施し、さらにその上に銀めっきを施した後に拡散熱処理するか、またはニッケルめっきを施し、次いでその上に銀粒子分散錫めっきを施した後に拡散熱処理することにより、鋼板上に鉄−ニッケル合金層、その上にニッケル層または/および鉄−ニッケル−錫合金層または/およびニッケル−錫合金層を形成させ、さらにその上にニッケル−錫−銀合金層または/および銀層を形成させたものである。この電池容器用めっき鋼板は、鋼板の直上に形成させる鉄−ニッケル合金層が展延性に富み、かつその上に形成させる鉄−ニッケル−錫合金層やニッケル−錫合金層との密着性に優れているので、電池容器に成形加工する際に堅くて脆い鉄−ニッケル−錫合金層やニッケル−錫合金層の表面に微小クラックが生じても、クラックが下地の鋼板表面まで達することがなく、鋼板表面がアルカリ性の電解液に侵されることがない。またこれらの表面に微小クラックが生じた鉄−ニッケル−錫合金層やニッケル−錫合金層の上に導電性および展延性に富む銀層が形成されているので、アルカリ電解液中でニッケル−錫合金層の表面に形成される不働態皮膜による接触抵抗の劣化を抑え、微小クラックによる正極合剤との密着性と銀層が導電性皮膜であることの相乗効果により、優れた電池特性を有する電池容器用材料として好適に適用することができる。併せて、最表面に形成されている銀層により、アルカリ電解液との電気化学的反応によって発生する水素ガスが水に変換されるので、電池の内圧が高まるおそれが少なくなる。さらに、従来、電池特性を高めるために行われていた電池容器内部の黒鉛塗布を省略しても同等以上の電池性能が得られ、本発明の電池容器内部に黒鉛塗布を行った場合はさらに優れた電池性能が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の内容を説明する。本発明の電池容器用めっき鋼板の基板となる鋼板としては、汎用の低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01〜0.15重量%)、またはニオブやチタンを添加した非時効性の極低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01重量%未満)を用いる。これらの鋼の熱間圧延板を酸洗して表面のスケールを除去した後、冷間圧延し次いで電解洗浄、焼鈍、調質圧延したものを基板(A)として用いる。冷間圧延して電解洗浄後、焼鈍を施さずに基板(B)としてめっきを施し、その後に拡散熱処理と鋼板の軟質化を兼ねる焼鈍を行ってもよい。
【0010】
基板(A)を用いる場合は、基板である鋼板の両面に、まずニッケルめっきを施す。次いで電池容器の内面となる片面にのみ錫めっきを施し、次いで銀めっきを施す。または電池容器の内面となるニッケルめっきを施した後、銀粒子分散錫めっきを施す。その後、箱型焼鈍法または連続焼鈍法を用いて拡散熱処理を施す。この熱処理によりニッケルめっき層はその一部または全部が鉄−ニッケル合金層に変換する。鉄−ニッケル合金層に変換する量はニッケルめっき量および熱処理条件により、適宜調整することができる。また、錫めっき層または銀粒子分散錫めっき層は全部が鉄−ニッケル−錫合金層または/およびニッケル−錫合金層または/およびニッケル−錫−銀合金層へ変換する。鉄−ニッケル−錫合金層または/およびニッケル−錫合金層または/およびニッケル−錫−銀合金層に変換する量は錫めっき量、銀めっき量、銀粒子分散錫めっき量および熱処理条件により、適宜調整することができる。基板(B)を用いる場合は、両面にニッケルめっきを施し、次いで電池容器の内面となる片面にのみ錫めっきを施し、その上に銀めっきを施した後、あるいはまた両面にニッケルめっきを施し、次いで電池容器の内面となる片面にのみ銀粒子分散錫めっきを施した後、拡散と鋼板の軟質化を兼ねる焼鈍を行って鉄−ニッケル合金層や鉄−ニッケル−錫合金層または/およびニッケル−錫合金層または/およびニッケル−錫−銀合金層を生成させる。さらにまたニッケルめっきを施し、次いで錫めっきを施した後に拡散熱処理を施した後、その上に銀めっきを施して銀層を形成させてもよい。
【0011】
基板である鋼板の電池容器の外面に施すニッケルめっきのめっき付着量は5〜25g/mの皮膜量であることが好ましい。ニッケルめっき厚が5g/m未満では電池容器外面における耐食性が充分でなく、また25g/mを超えると耐食性は飽和に達し不経済である。電池容器の内面に施すニッケルめっきのめっき付着量は5〜25g/mの皮膜量であることが好ましい。ニッケルめっき厚が5g/m未満ではプレス成形時に鋼素地に達する割れが生じる恐れがあり、鉄露出によりガス発生量が多くなるなどの電池性能の劣化をきたす恐れがある。25g/mを超えると電池性能への効果は飽和に達し不経済である。
【0012】
ニッケルめっきに引き続き電池容器の内面側に施す錫めっきは公知の錫めっき浴を使用することができる。好ましくはフェノールスルファミン浴を用いることがより好ましい。錫めっきの錫付着量は0.5〜5g/mの範囲が好ましく、1〜4g/mの範囲とすることがより好ましい。0.5g/m未満では熱処理により生成する硬質なニッケル錫化合物層の厚さが薄くプレス成形時に生成する微小クラックの大きさ、深さの程度が小さいため、電池性能の向上が得られない。また、錫付着量が5g/mを超えると微小クラックの大きさ、深さの程度が過度となり、鋼素地に達する割れが生じる恐れがある。また下地のニッケルめっき厚とその上層の錫めっきのめっき厚比は、およそニッケルめっき2:錫めっき1以上にニッケルめっき厚を厚くすることがより好ましい。この比率以上に錫めっきを厚くすると、熱拡散処理層(鉄−ニッケル合金層(拡散層)、もしくは鉄−ニッケル合金層(拡散層)の上に形成される軟質再結晶したニッケル層)の厚さが相対的に薄くなり鋼素地の露出を誘起する恐れが高くなる。
【0013】
錫めっき後に引き続き施す銀めっき、またはニッケルめっき、錫めっきを行った後、熱処理を施した後に施す銀めっきのめっき付着量は0.05〜1.0g/mであることが好ましい。0.05g/m未満では電気伝導性の低減効果が少なく、また1.0g/mを超えると効果が飽和に達し、高価な銀であるため不経済である。
【0014】
錫めっきの上に銀めっきを施す方法に替えて、ニッケルめっきの上に銀粒子分散錫めっきを施す場合のめっき浴は、ピロリン酸カリに硫酸錫を添加した浴にさらに硝酸銀を加えることにより得られる。ピロリン酸錫錯イオン溶液に硝酸銀溶液を加えるとナノ粒子径の銀粒子が浴中に分散形成され、陰極電解すると錫めっき皮膜中に浴中の銀粒子が取り込まれる。該分散めっき皮膜中の銀は電解条件(浴組成、浴pH、電流密度、浴温度、攪拌条件)により変動するが約2〜6%(銀付着量/銀および錫の合計付着量)含有させることができる。電流密度は1〜2A/dm2が電流密度範囲として適正である。銀粒子分散錫めっきのめっき付着量は、0.5〜5.0g/mの範囲とすることが好ましい。0.5g/m未満の場合は、熱処理後に形成される錫−ニッケル金属間化合物層の厚さが不充分であり、正極合剤との密着性の向上に十分な効果が得られない。また、5.0g/mを超えた場合は硬質な錫−ニッケル金属間化合物が厚くなりすぎるため、鋼素地に達する割れを誘起し、鋼素地が過度に露出する恐れが生じるため好ましくない。なお、下地のニッケルめっき厚とその上層の銀粒子分散めっきのめっき厚比は、ニッケルめっきに引き続き錫めっきする前記の方法と同じく、鋼素地の露出を誘起する恐れが抑止するためニッケルめっき2:銀粒子分散めっき1以上にニッケルめっき厚を厚くすることがより好ましい。ニッケルめっき後に銀粒子分散錫めっきを施し、次いで熱処理を行なった場合、錫めっき層に微粒子として分散していた銀粒子は最表層に固体拡散し、表層には錫層もしくは錫−ニッケル−銀合金層が形成する。
【0015】
このようにして、鋼板の電池容器の外面となる片面に鉄−ニッケル合金層、または鉄−ニッケル合金層上にニッケル層が形成されてなり、電池容器の内面となる他の片面に下記のA)〜J)のいずれかの層、すなわち鋼板側から順に
A)鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、銀層、
B)鉄−ニッケル合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、銀層、
C)鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、銀層、
D)鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、銀層、
E)鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、
F)鉄−ニッケル合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、
G)鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−錫合金層、銀層、
H)鉄−ニッケル合金層、ニッケル−錫合金層、銀層、
I)鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫合金層、銀層、のいずれかの層が形成されてなるめっき鋼板が得られる。このめっき鋼板を必要に応じて調質圧延し、本発明の電池容器用めっき鋼板とする。なお、鋼板の電池容器の外面となる片面に、鉄−ニッケル合金層、または鉄−ニッケル合金層上にニッケル層を形成させることに替えて、電池容器の内面となる他の片面に形成させる上記のA)〜I)の各層を形成させてもよい。
【0016】
上記のニッケルめっき層、錫めっき層、銀めっき層は、それぞれ無電解めっきまたは電解めっきにより形成させることができるが、めっき皮膜組成や付着量の制御が容易な電解めっきにより形成させることが好ましい。熱処理は以下のようにして行う。すなわち、めっき基板となる鋼板として、冷間圧延後に電解洗浄、焼鈍、調質圧延したものを用いる場合、5.5%の水素と94.5%の窒素からなり、露点が−20〜−40℃の還元性雰囲気中で640〜680℃で5〜20時間均熱する箱型焼鈍法、または730〜800℃で0.5〜3分間加熱する連続焼鈍法のいずれかの焼鈍法を用いて焼鈍する。この冷間圧延後に焼鈍した基板を用いて上記のめっきを施した後に拡散熱処理を行う場合は、上記と同一の雰囲気中で500〜530℃で3〜8時間均熱する箱型焼鈍法、または750〜800℃で0.5〜3分間加熱する連続焼鈍法のいずれかの焼鈍法を用いて拡散熱処理する。
【0017】
めっき基板となる鋼板として、冷間圧延後に電解洗浄した後の基板に上記のめっきを施した場合は、めっき後に基板の軟化とめっき層の拡散を兼ねた熱処理を行う。すなわち、上記と同一の雰囲気中で640〜680℃で5〜20時間均熱する箱型焼鈍法、または730〜800℃で0.5〜3分間加熱する連続焼鈍法のいずれかの焼鈍法を用いて焼鈍および拡散熱処理を行う。このようにしていずれかの拡散熱処理を行った後、ストレッチャーストレインの発生を防止するため、1.0〜1.5%の圧延率で調質圧延する。このようにして本発明の電池容器用めっき鋼板を得ることができる。
【0018】
本発明の電池容器は、上記の電池容器用めっき鋼板を、絞り加工法、絞りしごき加工法(DI加工法)、絞りストレッチ加工法(DTR加工法)、または絞り加工後ストレッチ加工としごき加工を併用する加工法を用いて、有底の筒型形状に成形加工して得られる。筒型形状としては、底面が円、楕円、または長方形や正方形などの多角形の形状であり、用途に応じて側壁の高さを適宜選択した筒型形状に成形加工する。このようにして得られる電池容器に正極合剤、負極活物質等を充填して電池とする。
【実施例】
【0019】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
[電池容器用めっき鋼板の作成]
基板として、表1に化学組成を示す低炭素アルミキルド鋼(表1では鋼種がIと示す)および極低炭素アルミキルド鋼(表1では鋼種がIIと示す)の冷間圧延版を用い、低炭素アルミキルド鋼(表1では鋼種がIと示す)を用いた場合は下記の1)〜3)のいずれかに示す工程を経て、極低炭素アルミキルド鋼(表1では鋼種がIIと示す)用いた場合は下記の4)〜6)のいずれかに示す工程を経て、それぞれ電池容器用めっき鋼板を作成した。なお、下記の1)〜6)の工程においては、容器内面となる側にめっきを施した場合を示しており、容器外面となる側には下記の1)〜3)のいずれかの工程においては焼鈍後に、4)〜6)のいずれかの工程においては電解洗浄後に容器内面となる側と同時にニッケルめっきを施した。
1)冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍または連続焼鈍)→ニッケルめっき→錫めっき→銀めっき→拡散熱処理(箱型焼鈍または連続焼鈍)→調質圧延
2)冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍または連続焼鈍)→ニッケルめっき→錫めっき→拡散熱処理(箱型焼鈍または連続焼鈍)→調質圧延→銀めっき
3)冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍または連続焼鈍)→ニッケルめっき→銀粒子分散錫めっき→拡散熱処理(箱型焼鈍または連続焼鈍)→調質圧延
4)冷間圧延→電解洗浄→ニッケルめっき→錫めっき→銀めっき→焼鈍兼拡散熱処理(箱型焼鈍または連続焼鈍)→調質圧延
5)冷間圧延→電解洗浄→ニッケルめっき→錫めっき→焼鈍兼拡散熱処理(箱型焼鈍または連続焼鈍)→調質圧延→銀めっき
6)冷間圧延→電解洗浄→ニッケルめっき→銀分散錫めっき→拡散熱処理(箱型焼鈍または連続焼鈍)→調質圧延
【0020】
【表1】

【0021】
上記の1)〜6)に示した工程におけるニッケルめっき、錫めっき、銀粒子分散錫めっきおよび銀めっきは以下に示す条件で行った。
<ニッケルめっき>
浴組成 硫酸ニッケル 300g/L
塩化ニッケル 40g/L
ホウ酸 30g/L
ピット抑制剤(ラウリル硫酸ナトリウム) 0.4mL/L
陽極 ニッケルペレット(チタンバスケットに充填)
撹拌 空気撹拌
pH 4〜4.6
浴温 55〜60℃
電流密度 15A/dm
【0022】
<錫めっき>
浴組成 硫酸第一錫 30g/L
フェノールスルホン酸 60g/L
エトキシ化α−ナフトール 5g/L
陽極 錫板
撹拌 めっき浴の循環
浴温 45〜50℃
電流密度 5A/dm
【0023】
<銀粒子分散錫めっき>
浴組成 硫酸第一錫 0.1mol/L
硝酸銀 0.01mol/L
ピロリン酸カリウム 0.2mol/L
ポリエチレングリコール(#6000) 1g/L
陽極 錫板
撹拌 めっき浴の循環
浴温 50〜55℃
電流密度 1〜3A/dm
【0024】
<銀めっき>
浴組成 銀含有有機酸塩(ダインシルバーNEC(大和化成研究所(株)製))
200g/L
有機酸(錯塩)(ダインシルバーAGI(大和化成研究所(株)製))
500g/L
有機添加剤(平滑剤)(ダインシルバーAGH(大和化成研究所(株)製))
25g/L
陽極 銀板
撹拌 めっき浴の循環
浴温 35〜40℃
電流密度 1A/dm
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
以上のようにして表2及び表3に示す電池容器用めっき鋼板の試料(試料番号1〜10)を作成した。なお、表2において、試料番号9では、冷間圧延後の焼鈍は実施しなかった。また、比較用に錫めっきを施さない試料(試料番号11)、銀めっきを施さない試料(試料番号12)、および従来のニッケルめっきのみを施した試料(試料番号13)も作成した。
【0028】
[電池容器の作成]
これらの試料番号1〜13の試料から57mm径でブランクを打ち抜いた後、鉄−ニッケル合金層とニッケル層のみを設けた側が容器外面となるようにして、10段の絞り加工により、外径13.8mm、高さ49.3mmの円筒形のLR6型電池(単三型電池)容器に成形加工した。
【0029】
[電池の作成]
この電池容器を用いて、以下のようにしてアルカリマンガン電池を作成した。二酸化マンガンと黒鉛を10:1の比率で採取し、水酸化カリウム(10モル)を添加混合して正極合剤を作成した。次いでこの正極合剤を金型中で加圧して所定寸法のドーナツ形状の正極合剤ペレットに成形し、上記の電池容器に圧挿入した。なお、一部の電池容器は、内面に黒鉛粉末を主成分とする塗料を塗布したものを用いた。次に、負極集電棒をスポット溶接した負極板を電池容器に装着した。次いで、電池容器に圧挿入した正極合剤ペレットの内周に沿うようにしてビニロン製織布からなるセパレータを挿入し、亜鉛粒と酸化亜鉛を飽和させた水酸化カリウムからなる負極ゲルを電池容器内に充填した。さらに、負極板に絶縁体のガスケットを装着して電池容器内に挿入した後、カシメ加工してアルカリマンガン電池を作成した。
【0030】
[特性評価]
以上のようにして試料番号1〜13の試料から作成した電池容器を用いて作成した電池の特性を、以下のようにして評価した。
【0031】
<短絡電流>
電池を80℃で3日間放置した後、電池に電流計を接続して閉回路を設けて電流値を測定し、これを短絡電流とした。短絡電流が大であるほど特性が良好であることを示す。
【0032】
<放電特性>
電池を80℃で3日間放置した後、電池を1.5Aの一定電流に放電し、電圧が0.9Vに到達するまでの時間を放電時間として測定した。放電時間が長いほど放電特性が良好であることを示す。
【0033】
<間歇放電特性>
間歇放電の評価として、2Aで0.5秒放電した後に0.25Aで29.5秒放電する操作を1サイクルとして、このサイクルを繰り返し、電圧が1.0Vに到達するまでのサイクル数を測定した。サイクル数が多いほど間歇放電特性が良好であることを示す。
【0034】
<ガス発生量>
電池を一部放電(3.9Ω、1.5時間)し、次いで70℃で2週間放置した後、電池を水中に浸漬したまま開封し、電池内部に発生して滞留していたガスを目盛り付きビュレットに捕集し、ガス発生量を測定した。これらの評価結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
表4に示すように、本発明の電池容器用めっき鋼板は、ニッケルめっき層、または錫めっき層を形成させない電池容器用めっき鋼板や、表面に銀層を形成させない電池容器用めっき鋼板に比べて短絡電流、放電特性、間歇放電特性、ガス発生量のいずれにも優れている。また本発明の電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器内面に黒鉛塗料を塗布した場合は、さらに短絡電流、放電特性、間歇放電特性が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
鋼板上に展延性に富む鉄−ニッケル合金層、その上にニッケル層または/および硬くて脆い鉄−ニッケル−錫合金層または/およびニッケル−錫合金層の上にニッケル−錫−銀合金層または/および導電性および展延性に優れた銀層を形成させてなる本発明の電池容器用めっき鋼板は、電池容器に成形加工する際に硬くて脆い鉄−ニッケル−錫合金層やニッケル−錫合金層の表面に微小クラックが生じることにより、正極合剤との密着性が向上する。また、これらの表面に微小クラックが生じた鉄−ニッケル−錫合金層やニッケル−錫合金層の上にニッケル−錫−銀合金層または/および銀層が形成されているので、電池容器内に充填する正極合剤との抵抗が減少し、内部抵抗が減少する。その結果、電池の保存後の放電特性に優れ、高性能電池に用いる電池容器用めっき鋼板として好適に適用できる。また銀層を形成させることにより、アルカリ電解液との電気化学的反応により発生する水素ガスを銀酸化物で水に変換するので電池内部の圧力が高まるおそれがない。さらに、電池を長期保存した後の性能劣化が小さく、放電特性に優れることから、容器内面に黒煙やカーボンブラックなどを塗布する従来の工程を省略することが可能となり、低コストで高性能電池を製造することができる。さらに、本発明の電池容器内部に黒鉛塗布を行った場合はさらに優れた電池性能が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項2】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項3】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項4】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項5】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項6】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫−銀合金層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項7】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル層、ニッケル−錫合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項8】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、ニッケル−錫合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項9】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上に下から順に、鉄−ニッケル合金層、鉄−ニッケル−錫合金層、ニッケル−錫合金層、銀層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の電池容器用めっき鋼板を有底の筒型形状に成形加工してなる電池容器。
【請求項11】
請求項10に記載の電池容器を用いてなる電池。
【請求項12】
鋼板の少なくとも電池容器内面となる側にニッケルめっきを施し、次いで銀粒子分散錫めっきを施した後に熱処理することにより、鋼板の電池容器内面となる側の鋼素地上に鉄−ニッケル合金層を形成させ、その上にニッケル層または鉄−ニッケル−錫合金層を形成させ、さらにその上にニッケル−錫合金層を形成させたその上に、もしくは鋼素地上に鉄−ニッケル合金層を形成させたその上に、ニッケル−錫−銀合金層または/および銀層を形成させることを特徴とする電池容器用めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2006−93094(P2006−93094A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177527(P2005−177527)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】