説明

電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムとその利用

【課題】電極とセパレータの相互のずり移動なく、電池を効率よく製造することができる電池の製造方法とそのようにして得られる電池を提供する。
【解決手段】電極/部分架橋させた接着剤を担持する基材多孔質フィルム積層体を電池容器内に仕込み、上記部分架橋接着剤中の反応性ポリマーを更に架橋させて、上記電極を上記多孔質フィルムに接着し、電極/多孔質フィルム接合体として、この電極/多孔質フィルム接合体における多孔質フィルムをセパレータとして有する電池の製造方法であって、上記基材多孔質フィルムが重量平均分子量が少なくとも50万のポリオレフィン樹脂と分子鎖中に二重結合を有する架橋性ゴムとのポリオレフィン樹脂組成物からなり、上記架橋性ゴムを架橋させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の製造に有用であると共に、そのように製造した電池において、高温環境下においても、融解や破膜することなく、しかも、熱収縮の小さいセパレータとして機能し、従って、安全性にすぐれる電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムと、そのような接着剤担持多孔質フィルムを用いる電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池の製造方法として、正極と負極との間にこれら電極間の短絡を防止するためのセパレータを挟んで積層し、又は正(負)極、セパレータ、負(正)極及びセパレータをこの順序に積層し、捲回して、電極/セパレータ積層体とし、この電極/セパレータ積層体を電池容器内に仕込んだ後、この電池容器内に電解液を注入して、封口する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
しかし、このような電池の製造方法においては、電極/セパレータ積層体の保管時や搬送時に電極とセパレータが相互にずり移動を起こしやすく、その結果、電池製造の生産性が低く、また、不良品が発生しやすい等の問題があった。また、このようにして得られた電池によれば、その使用時に電極が膨張又は収縮して、電極とセパレータとの間の密着性が悪くなって、電池特性が低下したり、また、内部短絡を生じて、電池が発熱昇温し、場合によっては、融解、破膜するおそれさえあった。
【0004】
従来、電池の製造に用いるこのようなセパレータのための多孔質フィルムの製造方法は、種々のものが知られている。一つの方法として、例えば、超高分子量ポリオレフィン樹脂と分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が大きいポリオレフィン樹脂とからなるゲル状組成物からシートを製造し、これを高倍率延伸する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。しかし、このように高倍率延伸して得られる多孔質フィルムからなる電池用セパレータは、電池が内部短絡等によって異常昇温した場合のような高温環境下においては、依然として、熱収縮性が著しく、しかも、場合によっては、融解、破膜して、電極間の隔壁として機能しなくなるという問題がある。
【0005】
そこで、電池の安全性を向上させるためには、このような高温環境下での電池用セパレータの耐熱性の向上と熱収縮率の低減の両立が重要な課題とされている。この点に関して、高温環境下での電池用セパレータの熱収縮を抑制するために、例えば、超高分子量ポリエチレンと可塑剤を溶融混練し、ダイスからシート状に押し出した後、可塑剤を抽出、除去して、電池用セパレータに用いる多孔質フィルムを製造する方法も知られている(特許文献4参照)。この方法によって得られる多孔質フィルムは、高温環境下においても、融解、破膜が起こらず、耐熱性においては、すぐれているものの、上記の方法と反対に、その製造工程において、延伸を経ていないので、強度が十分でないうえに、熱収縮の問題が改善されていない。即ち、このように、高温環境下において、融解、破膜せず、しかも、熱収縮率の小さいセパレータ用多孔質フィルムは、従来、知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−161814号公報
【特許文献2】特開平11−329439号公報
【特許文献3】特開平09−012756号公報
【特許文献4】特開平05−310989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の電池の製造における上述したような問題を解決するためになされたものであって、電池の製造に際しては、電極とセパレータとが仮接着された電極/セパレータ積層体として、電極とセパレータの相互のずり移動なく、電池を効率よく製造することができ、しかも、電池の製造後は、それ自体、高温下において、融解や破膜することなく、しかも、熱収縮の小さいセパレータとして機能する、電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムを提供することを目的とする。更に、本発明は、そのような接着剤多孔質フィルムを用いて電池を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、針入プローブ式熱機械的分析装置を用いて、70gの荷重の下に直径1mmのプローブを多孔質フィルム上に載せ、室温から昇温速度2℃/分でこの多孔質フィルムを加熱しながら、その厚みを測定し、その際に、この多孔質フィルムの厚みが上記プローブを載せたときの厚みの1/2になるときの温度が200℃以上である多孔質フィルムを基材多孔質フィルムとし、イソシアネート基と反応し得る官能基を有する反応性ポリマーに多官能イソシアネートを反応させ、一部、架橋させてなる部分架橋接着剤を上記基材多孔質フィルムに担持させてなることを特徴とする電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムが提供される。
【0009】
特に、本発明によれば、上記基材多孔質フィルムは、重量平均分子量が少なくとも50万のポリオレフィン樹脂と分子鎖中に二重結合を有する架橋性ゴムとのポリオレフィン樹脂組成物からなり、上記架橋性ゴムを架橋させてなるものであることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、上記接着剤担持多孔質フィルムに電極を圧着してなる電極/多孔質フィルム積層体と、この電極/多孔質フィルム積層体中の反応性ポリマーに多官能イソシアネートを反応させ、部分架橋接着剤を更に架橋させて、電極を多孔質フィルムに接着してなる電極/多孔質フィルム接合体が提供される。
【0011】
更に、本発明によれば、上記電極/多孔質フィルム積層体を電池容器内に仕込んだ後、多官能イソシアネートを含む電解液を上記電池容器内に注入し、加熱して、多孔質フィルムに担持させた部分架橋接着剤中の未反応の反応性ポリマーを上記多官能イソシアネートと反応させ、更に架橋させて、電極を多孔質フィルムに接着して、電極/多孔質フィルム接合体を形成すると共に、この電極/多孔質フィルム接合体における多孔質フィルムをセパレータとして有する電池を得ることを特徴とする電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明による電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムは、イソシアネート基と反応し得る官能基を有する反応性ポリマーに多官能イソシアネートを反応させ、一部、架橋させてなる反応性ポリマーを部分架橋接着剤として基材多孔質フィルムに担持させてなるものであり、ここに、上記基材多孔質フィルムは、重量平均分子量が少なくとも50万のポリオレフィン樹脂と分子鎖中に二重結合を有する架橋性ゴムとのポリオレフィン樹脂組成物からなり、上記架橋性ゴムを架橋させてなるものである。
【0013】
このように、部分架橋させた反応性ポリマーを担持させた多孔質フィルムは、その部分架橋接着剤によって、接着性を有するので、これに電極を沿わせ、好ましくは、加熱下に加圧することによって、電極を容易に多孔質フィルムに仮接着させることができ、かくして、電池の製造において、電極と多孔質フィルム(セパレータ)とのずり移動のない電極/多孔質フィルム(セパレータ)積層体として用いることができ、効率よく電池を製造することができる。
【0014】
しかも、このような積層体を電池容器内に仕込み、電池容器内に電解液を注入しても、電極と多孔質フィルム(セパレータ)との仮接着は保持されており、しかも、部分架橋接着剤中の反応性ポリマーは、部分架橋されているので、電解液中での溶出が防止され、又は低減され、そして、電池の製造時には、部分架橋接着剤中の未反応の反応性ポリマーの更なる架橋によって、電極が多孔質フィルム(セパレータ)に密着性よく強固に且つ安定して接着された電極/セパレータ接合体を形成する。
【0015】
更に、本発明によれば、接着剤担持多孔質フィルムにおける多孔質フィルムは、好ましくは、重量平均分子量が少なくとも50万のポリオレフィン樹脂と分子鎖中に二重結合を有する架橋性ゴムとのポリオレフィン樹脂組成物からなり、上記架橋性ゴムを架橋させてなるものであって、耐熱温度が200℃以上であるので、電池の製造後は、それ自体、高温下において、融解や破膜することなく、しかも、熱収縮の小さいセパレータとして機能し、かくして、本発明による接着剤担持多孔質フィルムを用いることによって、高温での安全性にすぐれる電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムは、針入プローブ式熱機械的分析装置を用いて、70gの荷重の下に直径1mmのプローブを多孔質フィルム上に載せ、室温から昇温速度2℃/分でこの多孔質フィルムを加熱しながら、その厚みを測定し、その際に、この多孔質フィルムの厚みが上記プローブを載せたときの厚み(以下、この厚みをその多孔質フィルムの初期厚みという。)の1/2になるときの温度(以下、この温度をそのフィルムの耐熱温度という。)が200℃以上である多孔質フィルムを基材多孔質フィルムとし、イソシアネート基と反応し得る官能基を有する反応性ポリマーに多官能イソシアネートを反応させ、一部、架橋させてなる部分架橋接着剤を上記基材多孔質フィルムに担持させてなるものである。
【0017】
上記基材多孔質フィルムは、好ましくは、重量平均分子量が少なくとも50万のポリオレフィン樹脂と分子鎖中に二重結合を有する架橋性ゴムとのポリオレフィン樹脂組成物からなり、上記架橋性ゴムを架橋させてなるものである。
【0018】
即ち、本発明によれば、上述したような熱特性を有する基材多孔質フィルムにイソシアネート基と反応し得る官能基を有する反応性ポリマーに多官能イソシアネートを反応させ、一部、架橋させてなる部分架橋接着剤を担持させて、電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムとし、この多孔質フィルムが後述するようにセパレータとして機能する電池とすれば、このセパレータは、高温下においても、容易に融解、破膜せず、その厚みを維持すると共に、熱収縮が小さく、電極間の短絡をよく防ぐので、電池の安全性を向上させることができる。
【0019】
ここで、針入プローブ式熱機械的分析装置を用いる基材多孔質フィルムの厚みの測定について説明する。先ず、荷重が加えられている直径1mmの円筒形のプローブの先端を多孔質フィルム上に載せると、その多孔質フィルムは、そのプローブの先端と接触している部分において、プローブからの荷重によって、その厚みが幾分減少する。このときの多孔質フィルムの厚みを初期厚みということとする。その後、多孔質フィルムの温度が上昇するにつれて、その厚みが少しずつ減少するが、多孔質フィルムを構成する樹脂が溶融し、又は半溶融状態になるときに大きい厚みの減少が生じ、次に、その後の収縮のために、厚みが少し戻る現象がみられる。更に、多孔質フィルムを加熱し続けると、上記収縮のための厚みの増加の後、再度、厚みの減少が始まる。そこで、本発明によれば、多孔質フィルムの厚みが減少を続けて、上記初期厚みの1/2となったときの多孔質フィルムの温度をその多孔質フィルムの耐熱温度と定義することとする。この耐熱温度が高ければ、多孔質フィルムは、より高い温度まで、融解、破膜することなく、その厚みを維持することができ、従って、そのような多孔質フィルムをセパレータとして用いることによって、高温環境下における安全性にすぐれる電池を得ることができる。
【0020】
従って、本発明によれば、基材多孔質フィルムは、上記熱特性に加えて、耐溶剤性や耐酸化還元性を有すれば、特に、限定されるものではなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド、セルロースアセテート、ポリアクリロニトリル等からなる多孔質フィルムを用いることができる。
【0021】
しかし、本発明によれば、基材多孔質フィルムとしては、特に、重量平均分子量が50万以上のポリオレフィン樹脂と分子鎖に二重結合を有する架橋性ゴムとのポリオレフィン樹脂組成物からなり、上記架橋性ゴムを架橋させてなる多孔質フィルムが好適に用いられる。上記ポリオレフィン樹脂組成物は、必要に応じて、重量平均分子量が50万よりも小さいポリオレフィン樹脂又は熱可塑性エラストマーを含んでいてもよい。
【0022】
上記重量平均分子量が50万以上のポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。このポリオレフィン樹脂の重量平均分子量の上限は、特に限定されるものではないが、通常、800万程度である。これらのポリオレフィン樹脂は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。しかし、本発明によれば、これらのなかでも、特に、得られる多孔質フィルムが高強度を有するところから、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂が好ましく用いられる。
【0023】
また、上記架橋性ゴムとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の分子中に二重結合を有するジエン系重合体や、エチレン−プロピレン−ジエンモノマーのように分子中に二重結合を有する三元共重合体等が好ましく用いられる。エチレン−プロピレン−ジエンモノマー三元共重合体において、ジエンモノマーとしては、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、ヘキサジエン等が挙げられるが、これらのなかでは、架橋反応性の点から、エチリデンノルボルネンが好ましく用いられる。即ち、エチリデンノルボルネンを構成成分とする三元共重合体は架橋反応性にすぐれており、得られる多孔質フィルムの耐熱性をより確実に向上させることができる。また、このように、例えば、エチリデンノルボルネンを構成成分とする三元共重合体は、ジエンモノマーに由来する脂環式構造と二重結合とを有するが、その二重結合の一部を水素添加したものも用いることができる。また、これらの三元共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれであってもよい。このような三元共重合体は、各種EPDMとして市販されている。
【0024】
このような三元共重合体を十分に架橋させるには、三元共重合体におけるジエンモノマー成分の割合は、エチレン、プロピレン及びジエンモノマーの全重量に基づいて3重量%以上が好ましく、4〜20重量%の範囲が特に好ましい。特に、本発明によれば、エチレン/プロピレン/ジエンモノマー成分の割合が重量比で、0.5〜0.75/0.05〜0.47/0.03〜0.2である三元共重合体が好ましく用いられる。
【0025】
また、ノルボルネンの開環重合体であるポリノルボルネンは、分子中に二重結合を有するガラス転移点が約35℃の重合体であって、それ自体はゴム状ではないが、芳香族系油、ナフテン系油、パラフィン系油等の油類を配合してなる組成物は、ガラス転移点が約−60℃程度であって、弾性体を性質を備えており、種々のゴムの改質剤等として用いられるが、本発明においても、架橋性重合体として好適に用いることができるので、上記架橋性ゴムに含めることとする。
【0026】
重量平均分子量が50万よりも小さいポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、エチレン−アクリルモノマー共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系やポリオレフィン系、ポリジエン系、塩化ビニル系、ポリエステル系等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。このような重量平均分子量が50万よりも小さいポリオレフィン樹脂は、その重量平均分子量の下限は、特に限定されるものではないが、通常、2万程度である。これらのポリオレフィン樹脂や熱可塑性エラストマーは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、上記熱可塑性エラストマーのうち、分子中に二重結合を有するものを架橋性ゴムとして用いることもできる。
【0027】
本発明によれば、重量平均分子量が50万よりも小さいポリオレフィン樹脂としては、これらのなかでも、特に、低融点のポリエチレン樹脂、結晶性を有するポリオレフィン系エラストマー、溶融温度の低いポリメタクリル酸エステル類を側鎖に有するグラフト共重合体等が低いシャットダウン温度をもたらす点で好ましい。
【0028】
本発明によれば、基材多孔質フィルムには、前述したように、重量平均分子量が50万以上のポリオレフィン樹脂と分子鎖に二重結合を有する架橋性ゴムとのポリオレフィン樹脂組成物からなり、上記架橋性ゴムを架橋させてなるものが好適に用いられるが、ここに、上記ポリオレフィン樹脂組成物において、重量平均分子量が50万以上のポリオレフィン樹脂の割合は、このポリオレフィン樹脂組成物から得られる多孔質フィルムの強度や他の成分とのバランスを考慮すると、ポリオレフィン樹脂組成物中、5〜95重量%の範囲が好ましく、特に、10〜90重量%の範囲が好ましい。他方、上記ポリオレフィン樹脂組成物において、架橋性ゴムの割合は、3重量%以上であり、特に、5〜35重量%の範囲が好ましい。
【0029】
上記ポリオレフィン樹脂組成物において、架橋性ゴムの割合が3重量%よりも少ないときは、この架橋性ゴムの架橋によっても、得られる多孔質フィルムが耐熱性において十分に改善されないおそれがある。
【0030】
更に、本発明によれば、多孔質フィルムを製造するためのポリオレフィン樹脂組成物は、必要に応じて、重量平均分子量が50万よりも小さいポリオレフィン樹脂や熱可塑性エラストマーを含んでいてもよく、この場合、それらの割合は、重合体組成物において、合計量にて1〜50重量%の範囲であることが好ましい。このような成分を基材多孔質フィルムに有せしめることによって、得られる多孔質フィルムは、より低温でシャットダウン機能を有する。
【0031】
次に、上述したような重量平均分子量が少なくとも50万のポリオレフィン樹脂と分子鎖中に二重結合を有する架橋性ゴムとのポリオレフィン樹脂組成物からなり、上記架橋性ゴムを架橋させてなる多孔質フィルムの製造について説明する。このような多孔質フィルムは、従来より知られている乾式製膜法、湿式製膜法等の適宜の方法によって製膜した後、フィルム中の架橋性ゴムを架橋させることによって得ることができる。
【0032】
即ち、例えば、前記ポリオレフィン樹脂組成物を溶媒と混合し、混練、加熱溶解して、スラリー状の混練物となした後、これを適宜の手段を用いてシートに成形し、このシートを圧延し、更に、一軸又は二軸延伸して、フィルムとした後、このフィルムから溶媒を抽出除去すれば、多孔質フィルムを得ることができる。次いで、この多孔質フィルムが有する架橋性ゴムの二重結合を利用して、この架橋性ゴムを架橋させることによって、多孔質フィルムに所要の耐熱性を有せしめることができる。
【0033】
多孔質フィルムの製造において、上記スラリー状混練物を得るための溶媒としては、例えば、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、デカリン、流動パラフィン等の脂肪族又は脂環式の炭化水素のほか、沸点がこれらの溶媒に対応する鉱油留分等が用いられるが、なかでも、流動パラフィン等の脂環式炭化水素を多く含む不揮発性溶媒が好ましく用いられる。
【0034】
スラリー状混練物における前記ポリオレフィン樹脂組成物の割合は、5〜30重量%の範囲が好ましく、10〜30重量%の範囲がより好ましく、10〜25重量%が最も好ましい。即ち、スラリー状混練物における前記ポリオレフィン樹脂組成物の割合は、得られる多孔質フィルムの強度を向上させる観点から、5重量%以上が好ましく、他方、重量平均分子量が50万以上のポリオレフイン樹脂を十分に溶媒に溶解させて、伸び切り状態近くまで混練することができ、ポリマー鎖の十分な絡み合いが得られるように、30重量%以下が好ましい。また、上記混練物には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、造核剤、顔料、帯電防止剤等の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0035】
前記ポリオレフィン樹脂組成物と溶媒とを混合、混練して、スラリー状混練物とし、これをシートに成形するには、従来より知られている適宜の方法を用いることができる。例えば、前記ポリオレフィン樹脂組成物と溶媒とをバンバリーミキサー、ニーダー等を用いてバッチ式で混練りし、かくして、得られた混練物を冷却した一対のロール間にて圧延し、又は冷却した一対の金属板の間に挟み、冷却して、急冷結晶化によりシートとしてもよく、また、Tダイ等を取り付けた押出機等を用いて、シートに成形してもよい。混練の温度は、特に、限定されないが、好ましくは、100〜200℃の範囲である。
【0036】
このようにして得られるシートの厚みとしては、特に、限定されないが、通常、3〜20mmの範囲が好ましく、更に、得られたシートをヒートプレス等を用いて圧延して、0.5〜3mmの厚みにしてもよい。この圧延は、通常、100〜140℃の温度で行うのが好ましい。また、得られたシートを延伸するには、特に、限定されるものではないが、通常のテンター法、ロール法、インフレーション法又はこれらの方法の組合わせを用いてもよく、また、一軸延伸、二軸延伸等のいずれの方式をも採用することができる。二軸延伸の場合は、縦横同時延伸又は逐次延伸のいずれでもよい。延伸処理の温度は、100〜140℃の範囲であることが好ましい。
【0037】
脱溶媒処理は、シートから溶媒を除去して、多孔質構造を形成させる処理であり、例えば、シートを溶媒で洗浄して、残留する溶媒を除去することにより行うことができる。溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカン等の炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水索、三フッ化エタン等のフッ素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等の易揮発性溶媒が用いられる。これらは単独又は2種以上を混合して用いられる。このような溶媒を用いるシートの脱溶媒処理は、例えば、シートを溶媒中に浸漬したり、また、溶媒をシートにシャワーして行われる。
【0038】
本発明によれば、このようにして、前記ポリオレフィン樹脂組成物から多孔質フィルムを得た後、その熱収縮性を低減するために、熱処理を行うのが好ましい。この熱処理は、多孔質フィルムを一回加熱する一段式熱処理でもよく、また、最初、比較的低い温度で加熱し、次いで、より高い温度で加熱する多段式熱処理でもよい。また、多孔質フィルムを昇温しながら加熱する昇温式熱処理でもよい。但し、この熱処理は、多孔質フィルムが本来、有する望ましい特性、例えば、通気度等を損なうことのないように行うことが望ましい。
【0039】
上記一段式熱処埋の場合には、その加熱温度は、多孔質フィルムの組成にもよるが、40〜140℃の範囲が好ましい。また、比較的低い温度から加熱を開始し、その後、加熱温度を高める昇温式又は多段式熱処理によれば、多孔質フィルム中の架橋性ゴムの架橋を兼ねることができ、多孔質フィルムの耐熱性が次第に向上するので、通気度等の本来、多孔質フィルムが有する望ましい性質を加熱によって損なうことなく、熱処理することができ、しかも、短時間で所要の熱処理を行うことができる。特に、多段式熱処理において、最初の加熱温度は、多孔質フィルムの組成にもよるが、好ましくは、40〜90℃の範囲であり、2段目の加熱温度は、多孔質フィルムの組成にもよるが、好ましくは、90〜140℃の範囲である。
【0040】
本発明によれば、上記熱処理工程において、又はその前後において、得られる多孔質フィルムの耐熱性を高めるために、前述したように、多孔質フィルム中の架橋性ゴムを架橋させる。このような架橋性ゴムの架橋によって、得られる多孔質フィルムの高温での耐熱性(耐破膜性)を格段に向上させることができる。前述したように、多孔質フィルムの熱処理を兼ねて、多孔質フィルム中の架橋性ゴムを架橋させるのが生産性の観点からも好ましく、かくして、多孔質フィルムの熱処理を兼ねて、多孔質フィルム中の架橋性ゴムを架橋させることによって、多孔質フィルムの熱収縮性を低減すると同時に、多孔質フィルムの耐熱性を格段に改善することができる。
【0041】
ここに、得られた多孔質フィルム中の架橋性ゴムを架橋させるには、酸素、オゾン、酸素化合物等の存在下に、多孔質フィルムを加熱して、架橋性ゴムに架橋反応を行わせればよいが、なかでも、酸素存在下に、従って、例えば、空気中で多孔質フィルムを加熱し、又は紫外線や電子線を照射して、架橋性ゴムに架橋させるのが好ましい。また、必要に応じて、従来より知られている過酸化物を併用して、目的とする架橋反応を促進させることもできる。勿論、必要に応じて、複数の架橋法を併用してもよい。
【0042】
本発明において、基材多孔膜フィルムは、電池の製造後にはセパレータとして機能するものであるので、膜厚1〜60μmの範囲のものがよく、特に、膜厚5〜50μmの範囲のものがよい。膜厚が1μmよりも薄いときは、強度が不十分であって、電池においてセパレータとして用いた場合に内部短絡を起こすおそれがあり、他方、60μmを越えるときは、電極間距離が大きすぎて、電池の内部抵抗が過大となる。また、基材多孔質フィルムは、平均孔径0.01〜5μmの細孔を有し、その空孔率が20〜80%の範囲にあるのがよく、特に、25〜75%の範囲にあるのがよい。更に、基材多孔質フィルムは、JIS P 8117に準拠して求めた通気度が100〜1000秒/100ccの範囲にあるのがよく、特に、100〜900秒/100ccの範囲にあるのがよい。
【0043】
本発明による電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムは、イソシアネート基と反応し得る官能基を有する反応性ポリマーに多官能イソシアネートを反応させ、一部、架橋させて、上記反応性ポリマーを部分架橋接着剤とし、これを上述したような基材多孔質フィルムに、好ましくは、その表面積の5〜95%の範囲で、担持させてなるものであり、特に、本発明においては、上記部分架橋接着剤は、5〜80%の範囲のゲル分率を有することが好ましい。
【0044】
このように、本発明に従って、一部、反応性ポリマーを架橋させることによって、反応性ポリマーを接着性を有する部分架橋接着剤とすることができ、そこで、このような部分架橋接着剤を多孔質フィルムに担持させ、この部分架橋接着剤によって多孔質フィルムに電極を仮接着してなる電極/多孔質フィルム積層体とすれば、この積層体を電池の製造に際して電解液と接触させても、反応性ポリマーの電解液への溶出を防止し、又は低減して、反応性ポリマーを多孔質フィルムと電極との接着に有効に用いることができ、かくして、電極をより強固に多孔質フィルムに接着することができる。
【0045】
更に、本発明によれば、上記反応性ポリマーは、イソシアネート基と反応し得る活性水素を有する官能基として、カルボキシル基又はヒドロキシル基を有することが好ましく、具体的には、特に、(メタ)アクリル酸エステル成分と共に、上記官能基を有する反応性モノマー成分を含むものであることが好ましい。
【0046】
より詳しくは、上記反応性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸のようなカルボキシル基含有共重合性モノマー、好ましくは、(メタ)アクリル酸や、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのようなヒドロキシル基含有共重合性モノマー、好ましくは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。しかし、これら以外にも、アミノ基を有する共重合性モノマーも、反応性モノマーとして用いることができる。
【0047】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等のように、アルキル基における炭素原子数が1〜12のアルキルエステルが好ましく用いられる。
【0048】
特に、本発明においては、反応性ポリマーは、上述したような反応性モノマー成分を0.1〜20重量%の範囲で有すると共に、(メタ)アクリル酸エステル成分や、必要に応じて、ニトリル基を有する共重合性モノマー成分、好ましくは、(メタ)アクリロニトリル成分や、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニルのようなビニルモノマー成分を有するものであることが好ましい。特に、本発明においては、反応性ポリマーは、耐熱性と耐溶剤性にすぐれるように、ニトリル基を有する共重合性モノマー成分、好ましくは、(メタ)アクリロニトリル成分を80重量%まで、好ましくは、5〜70重量%の範囲にて有することが好ましい。反応性ポリマーにおいて、ニトリル基を有する共重合性モノマー成分の割合が5重量%以下のときは、耐熱性と耐溶剤性の向上に殆ど効果がなく、他方、80重量%を越えるときは、得られる反応性ポリマーのガラス転移温度が100℃を越える場合があるので好ましくない。特に、本発明によれば、反応性ポリマーは、反応性モノマー成分0.1〜20重量%、(メタ)アクリル酸エステル成分10〜95重量%及び(メタ)アクリロニトリル4.9〜60重量%からなることが好ましい。
【0049】
しかし、本発明において、上記反応性ポリマーは、上記に限られるものではなく、イソシアネート基と反応し得る官能基、例えば、活性水素を有するポリマーであればよく、例えば、イソシアネート基と反応し得る官能基を有するポリオレフィン系ポリマー、ゴム系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー等も用いることができる。更に、本発明によれば、分子中にヒドロキシル基を有するアクリル変性フッ素樹脂(例えば、セントラル硝子(株)製セフラルコートFG730B、ワニスとして入手することができる。)も、反応性ポリマーとして好適に用いることができる。
【0050】
更に、本発明によれば、反応性ポリマーは、ガラス転移温度が0〜100℃の範囲にあることが好ましく、特に、20〜100℃の範囲にあることが好ましい。
【0051】
上述したような反応性ポリマーは、例えば、べンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチルのような溶剤中で所要のモノマーを共重合させることによって、ポリマー溶液として得ることができる。他方、エマルジョン重合法によれば、反応性ポリマーの水分散液を得ることができるので、これよりポリマーを分離、乾燥させた後、上述したような溶剤に溶解させてポリマー溶液として用いる。尚、エマルジョン法によるときは、前述したモノマーに加えて、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレートのような多官能性架橋性モノマーを1重量%以下の割合で用いてもよい。
【0052】
多官能性イソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート等の芳香族、芳香脂肪族、脂環族、脂肪族のジイソシアネートのほか、これらのジイソシアネートにトリメチロールプロパンのようなポリオールを付加させてなる所謂イソシアネートアダクト体も好ましく用いられる。
【0053】
本発明によれば、上述したようにして、反応性ポリマーの溶液に上記多官能性イソシアネートを所定量、即ち、反応性ポリマーを一部、架橋させるに足りる量を配合して、これを基材多孔質フィルムに担持させた後、上記反応性ポリマーを上記多官能性イソシアネートと反応させ、反応性ポリマーの有する官能基(例えば、活性水素基)と反応させ、反応性ポリマーを一部、架橋させて、これを接着性を有する部分架橋接着剤として、基材多孔質フィルムに担持させることによって、本発明による電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムを得る。
【0054】
本発明によれば、上記反応性ポリマーを一部、架橋させてなる部分架橋接着剤は、5〜80%の範囲のゲル分率を有することが望ましい。ここに、上記ゲル分率とは、多孔質フィルムに反応性ポリマーA重量部と多官能性イソシアネートB重量部とからなる反応性ポリマー組成物(A+B)重量部を担持させ、反応させて、反応性ポリマーを一部、架橋させた後、この多孔質フィルムをトルエンに温度23℃で7日間浸漬し、次いで、乾燥させた後、多孔質フィルム上に残存する接着剤をC重量部とすれば、(C/(A+B))×100(%)として定義される値である。
【0055】
5〜80%の範囲のゲル分率を有する部分架橋接着剤を得るには、限定されるものではないが、通常、反応性ポリマー100重量部に対して、多官能イソシアネートを0.1〜10重量部の範囲で配合し、加熱、硬化させて、得られる反応性ポリマーが特性的に安定化するまで、架橋反応を行わせることによって得ることができる。加熱硬化温度やそのための時間は、用いる反応性ポリマーや多官能イソシアネートによるが、実験によってこれら反応条件を定めることができる。50℃の温度で7日間、加熱、反応させれば、架橋反応を完結させて、得られる部分架橋させた反応性ポリマー、即ち、部分架橋接着剤が特性的に安定化する。
【0056】
このように、本発明に従って、反応性ポリマーに多官能イソシアネートを反応させて、その一部を反応、架橋させることによって得られる反応生成物は、接着性を有し、それ故に、本発明において、この反応生成物は部分架橋接着剤と称される。従って、このような5〜80%のゲル分率を有する部分架橋接着剤を多孔質フィルムに担持させて、接着剤担持多孔質フィルムとすることによって、後述するように、この多孔質フィルムに電極を圧着すれば、電極を多孔質フィルムに容易に仮接着することができ、かくして、電極/多孔質フィルム積層体を得ることができる。
【0057】
しかも、この電極/多孔質フィルム積層体は、これを電池容器内に仕込んだ後、この電池容器に多官能性イソシアネートを溶解させた電解液を注入したとき、電極/多孔質フィルムの仮接着を維持したまま、部分架橋接着剤中の未反応の反応性ポリマーが電解液中の多官能性イソシアネートによって更に架橋されて、電極が多孔質フィルムに密着性よく強固に接着された電極/セパレータ接合体を得ることができる。ここに、本発明によれば、反応性ポリマーは、5〜80%のゲル分率を有するように、部分架橋されており、その電解液中への溶出が防止され、又は低減されて、電極と多孔質フィルムとの接着に有効に用いられるので、電極と多孔質フィルムとが安定して、しかも、より強固に接着される。特に、本発明によれば、部分架橋接着剤は、20〜60%のゲル分率を有することが好ましい。
【0058】
更に、本発明に従って部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムにおいては、部分架橋接着剤中の未反応の反応性ポリマーは、それ以上は、反応、架橋しないので、安定であって、長期間にわたって保存しても、変質することがない。
【0059】
本発明において、反応性ポリマーと多官能イソシアネートとからなる反応性ポリマー組成物を基材多孔質フィルムに担持させるには、例えば、上記反応性ポリマー組成物を基材多孔質フィルムに直接、塗布し、乾燥させてもよく、また、剥離性シートに塗布し、乾燥させた後、基材多孔質フィルムに転写してもよい。また、反応性ポリマー組成物の基材多孔質フィルムへの塗工性を向上させるために、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのような有機溶剤や、重質炭酸カルシウムやケイ砂の微粉末のような無機質微粉末を流動性改質剤として、50重量%以下の割合で反応性ポリマー組成物に配合してもよい。
【0060】
更に、本発明によれば、基剤多孔質フィルムに反応性ポリマーと多官能イソシアネートとからなる反応性ポリマー組成物を塗布する際に、部分的に、即ち、例えば、線状、斑点状、格子目状、縞状、亀甲模様状等に部分的に塗布するのが好ましく、特に、反応性ポリマー組成物を塗布する基剤多孔質フィルムの表面の面積の5〜95%の範囲で上記反応性ポリマー組成物を塗布することによって、電極と多孔質フィルム(従って、セパレータ)との間に強固な接着を得ると共に、そのような電極/セパレータ接合体を用いることによって、すぐれた特性を有する電池を得ることができる。
【0061】
本発明によれば、上述したように、5〜80%のゲル分率を有する部分架橋接着剤を基材多孔質フィルムに担持させて、電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムとし、これに電極を沿わせ、好ましくは、50〜100℃の温度に加熱しつつ、加圧して、電極/多孔質フィルム積層体を得る。
【0062】
本発明において、負極と正極は、電池によって相違するが、一般に、導電性基材に活物質と、必要に応じて、導電剤とを樹脂バインダーを用いて、担持させてなるシート状のものが用いられる。
【0063】
本発明によれば、このような電極/多孔質フィルム積層体を用いることによって、電極と多孔質フィルムの相互のずり移動がなく、しかも、電池を効率よく製造することができ、電池の製造後は、上記多孔質フィルムは、それ自体、高性能のセパレータとして機能する、安全性にすぐれる電池を得ることができる。
【0064】
本発明によれば、基材多孔質フィルムの表裏両面に部分架橋接着剤を担持させ、その表裏両面に電極、即ち、負極と正極をそれぞれ圧着し、仮接着して、電極/多孔質フィルム積層体としてもよく、また、基材多孔質フィルムの一方の表面にのみ、部分架橋接着剤を担持させて、その一方の表面にのみ、電極、即ち、負極又は正極のいずれかを圧着し、仮接着して、電極/多孔質フィルム積層体としてもよい。勿論、正(負)極/多孔質フィルム/負(正)極/多孔質フィルムの構成を有する積層体とすることもできる。
【0065】
本発明による上記電極/多孔質フィルム積層体は、電池の製造に好適に用いることができる。即ち、上記電極/多孔質フィルム積層体を電池容器内に仕込んだ後、多官能イソシアネートを溶解させた電解液を電池容器内に注入して、上記電極/多孔質フィルム積層体の部分架橋接着剤中の未反応の反応性ポリマーと反応させ、これを更に架橋させることによって、電極を多孔質フィルムに接着、一体化すれば、上記多孔質フィルムがセパレータとして機能すると共に、このセパレータに電極が強固に接着されてなる電極/セパレータ接合体を有する電池を得ることができる。
【0066】
電解液中の多官能性イソシアネートの割合は、多孔質フィルムに担持させた反応性ポリマー100重量部に対して、通常、0.1〜20重量部の範囲である。多官能性イソシアネートの割合が多孔質フィルムに担持させた反応性ポリマー100重量部に対して、0.1重量部よりも少ないときは、反応性ポリマーの多官能性イソシアネートによる架橋が不十分であって、得られる電極/セパレータ接合体において、電極とセパレータとの間に強固な接着を得ることができない。しかし、多官能性イソシアネートの割合が未架橋の反応性ポリマー100重量部に対して20重量部よりも多いときは、架橋後の接着剤が硬すぎて、セパレータと電極間の密着性を阻害することがある。
【0067】
本発明によれば、このように、反応性ポリマーを予め、一部、架橋させてなる部分架橋接着剤を多孔質フィルムに担持させ、この表面に電極を沿わせ、多孔質フィルムの変形等が生じないような温度に加熱しつつ、加圧して、電極中に接着剤を一部、圧入して、いわば、電極を基材多孔質フィルムに仮接着して、電極/多孔質フィルム積層体とし、その後、この積層体を電池容器に仕込んだ後、多官能イソシアネートを溶解させた電解液をこの電池容器中に注入し、上記部分架橋接着剤中の未反応の反応性ポリマーと反応させ、接着剤を更に架橋させて、電極/多孔質フィルム接合体を得る。即ち、電極を多孔質フィルムにいわば本接着させる。従って、このような電極/多孔質フィルム接合体においては、多孔質フィルムと電極が強固に接着される。
【0068】
このようにして得られる電極/多孔質フィルム接合体における多孔質フィルムは、電池に組み込まれた後は、セパレータとして機能する。ここに、本発明によるこのような電極/多孔質フィルム接合体においては、多孔質フィルム(即ち、セパレータ)は、高温下においても面積熱収縮率が小さく、通常、25%以下であり、好ましくは、20%以下であり、最も好ましくは 15%以下である。
【0069】
前述した電極/多孔質フィルム積層体と同様に、本発明において、電極/セパレータ接合体は、負極/セパレータ/正極接合体のみならず、負極又は正極のいずれか一方の電極/セパレータ接合体や、また、正(負)極/セパレータ/負(正)極/セパレータなる構成をも含むものとする。
【0070】
電解液は、電解質塩を溶剤に溶解してなる溶液である。電解質塩としては、例えば、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属、第三級又は第四級アンモニウム塩等をカチオン成分とし、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウフッ化水素酸、フッ化水素酸、六フッ化リン酸、過塩素酸等の無機酸、有機カルボン酸、有機スルホン酸、フッ素置換有機スルホン酸等の有機酸をアニオン成分とする塩を用いることができる。しかし、これらのなかでは、特に、アルカリ金属イオンをカチオン成分とする電解質塩が好ましく用いられる。
【0071】
電解液のための溶剤としては、上記電解質塩を溶解するものであれば、どのようなものも用いることができるが、非水系の溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の環状エステル類、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状エステル類が用いられる。これらの溶剤は、単独で、又は2種以上の混合物として用いられる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。以下において、多孔質フィルムの厚みと空孔率は次のようにして求めた。
【0073】
(多孔質フィルムの厚み)
1/10000mmシックネスゲージによる測定と多孔質フィルムの断面の10000倍走査型電子顕微鏡写真に基づいて求めた。
【0074】
(多孔質フィルムの空孔率)
多孔質フィルムの単位面積S(cm2)当たりの重量W(g)、平均厚みt(cm)及び多孔質フィルムを構成する樹脂の密度d(g/cm3)から下式にて算出した。
【0075】
空孔率(%)=(1−(W/S/t/d))×100
【0076】
実施例1
(多孔質フィルムAの作製)
ノルボルネンの開環重合体(ポリノルボルネン)の粉末(日本ゼオン(株)製ノーソレックスNB、重量平均分子量200万以上)8重量%、熱可塑性エラストマー(住友化学工業(株)製TPE824)12重量%及び重量平均分子量350万の超高分子量ポリエチレン樹脂80重量%からなるポリエチレン樹脂組成物16重量部と流動パラフィン84重量部とをスラリー状に混合し、小型ニーダーを用いて、160℃の温度で約1時間溶解、混練した。この後、得られた混練物を0℃に冷却した金属板の間に挟み込んで、冷しつつ、圧延してシートに成形した。次いで、このシートを厚みが0.5mmになるまで、115℃の温度でヒートプレスし、更に、同じ温度で縦横4.5×4.5倍に同時二軸延伸した後、ヘプタンを用いて、脱溶媒処理した。このようにして得られた多孔質フィルムを空気中、85℃で6時間加熱し、次いで、118℃で1.5時間加熱し、多孔質フィルムの熱処理を行うと共に、多孔質フィルム中の架橋性ゴム(上記ポリノルボルネン)を架橋させて、目的とする多孔質フィルムAを得た。この多孔質フィルムAは、厚さ25μm、空孔率50%、平均孔径0.1μmの細孔を有し、後述する針入プローブ式熱機械的分析装置を用いて調べたところ、耐熱温度は370℃であった。
【0077】
(針入プローブ式熱機械的分析装置による多孔質フィルムの耐熱温度の測定)
針入プローブ式熱機械的分析装置(セイコー電子(株)製EXSTAR6000)の試料台上に5mm四方の多孔質フィルムの試料を置き、この試料上に先端の直径1mmの針入プローブを載せた。このプローブ上に70gfの荷重を加え、試料を室温から2℃/分の速度で加熱して、試料の厚みの変化を測定した。試料の厚みが試料に荷重を加えたときの試料の厚み(初期厚み)の1/2になったときの温度を試料の耐熱温度とした。
【0078】
(反応性ポリマーの調製)
アクリロニトリル 10 重量部
メタクリル酸 5 重量部
アクリル酸ブチル 30 重量部
アクリル酸エチル 60 重量部
ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル 3 重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.08重量部
過硫酸カリウム 0.3 重量部
イオン交換水 300 重量部
【0079】
上記配合物を常法にてエマルジョン重合に付して、反応性ポリマーの水分散液を得た。この反応性ポリマーの重量平均分子量は約85万であり、ガラス転移温度は−13℃であった。この反応性ポリマーの水分散液に10%塩酸を加えて、反応性ポリマーを沈殿させ、取り出して、十分に水洗した後、減圧乾燥させた。
【0080】
このようにして得られた反応性ポリマー100重量部をトルエン/メチルエチルケトン(重量比75/25)混合溶剤に溶解させて、上記反応性ポリマーの7%濃度の溶液を調製し、これに平均粒径12nmのケイ砂粉末を反応性ポリマー100重量部当たり5重量部を加え、均一に分散させ、更に、ヘキサメチレンジイソシアネート3モル部にトリメチロールプロパン1モル部を付加させてなる3官能イソシアネート0.3重量部を配合して、反応性ポリマー組成物の溶液を調製した。
【0081】
(部分架橋接着剤担持多孔質フィルムの調製)
上記反応性ポリマー組成物の溶液をワイヤーバー(ワイヤー径0.2mm)を用いて剥離紙上に線状に塗布し、乾燥させた後、これを用いて、前記多孔質フィルムAの表裏の両面に上記反応性ポリマー組成物を転写した。この多孔質フィルムを温度50℃の恒温室中に7日間投入して、上記反応性ポリマー組成物中の反応性ポリマーの一部を3官能イソシアネートと反応させて、ゲル分率58%の部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムAを得た。
【0082】
(電極の調製)
平均粒径15μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2) と黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデン樹脂を重量比85:10:5で混合し、これをN−メチル−2−ピロリドンに加えて、固形分濃度15重量%のスラリーを調製した。このスラリーを塗工機にて厚さ20μmのアルミニウム箔の表面に厚み200μmに塗布した後、80℃1時間乾燥させた。次いで、このアルミニウム箔の裏面にも、同様に、上記スラリーを厚み200μmに塗布し、120℃で2時間乾燥させた後、ロールプレスを通して、厚み200μmの正極シートを調製した。
【0083】
黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデン樹脂を重量比95:5で混合し、これをN−メチル−2−ピロリドンに加えて、固形分濃度15重量%のスラリーを調製した。このスラリーを塗工機にて厚さ20μmの銅箔の表面に厚み200μmに塗布した後、80℃で1時間乾燥させた。次いで、この銅箔の裏面にも、同様に、上記スラリーを厚み200μmに塗布し、120℃で2時間乾燥させた後、ロールプレスを通して、厚み200μmの負極シートを調製した。
【0084】
(負極/セパレータ/正極積層体の調製)
前記部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムAの表面に上記正極シートを沿わせると共に、裏面に負極シートを沿わせた後、温度80℃、圧力5kg/cm2 で5分間加熱、加圧し、正負の電極シートを多孔質フィルムに圧着し、仮接着してなる負極/多孔質フィルム/正極積層体を得た。
【0085】
(電池の組立てと得られた電池の特性の評価)
アルゴン置換したグローブボックス中、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート混合溶媒(容量比1/2)に1.2モル/L濃度となるように電解質塩六フッ化リン酸リチウム(LiPF6) を溶解させて、電解液を調製した。更に、トルエンジイソシアネート3モル部にトリメチロールプロパン1モル部を付加してなる3官能イソシアネート3重量部を上記電解液100重量部に溶解させた。
【0086】
上記負極/多孔質フィルム/正極積層体を正負電極板を兼ねる2016サイズのコイン型電池用缶に仕込み、上記3官能イソシアネートを溶解させた電解液をこのコイン型電池の缶内に注入した後、電池用缶を封口して、仕掛品を製作した。この後、この仕掛品を温度50℃の恒温室中に7日間投入して、上記負極/多孔質フィルム/正極積層体の多孔質フィルムに担持させた部分架橋接着剤中の未反応の反応性ポリマーを上記3官能イソシアネートと架橋反応させ、正負の電極を多孔質フィルム、即ち、セパレータに接着させ、かくして、負極/多孔質フィルム(セパレータ)/正極接合体を有するコイン型リチウムイオン二次電池を得た。
【0087】
この電池について、0.2CmAのレートにて5回充放電を行った後、0.2CmAのレートで充電し、更にその後、2.0CmAのレートで放電を行って、2.0CmAのレートでの放電容量/0.2CmAのレートでの放電容量の比にて評価した放電負荷特性は87%であった。
【0088】
(セパレータの面積熱収縮率の測定と評価)
所定の寸法に打ち抜いた正極/多孔質フィルム/負極積層体に前記3官能イソシアネートを溶解させた電解液を含浸させた後、ガラス板の間に挟み、更に、電解液の揮発を抑えるためにフッ素樹脂シートで包み、その上に50gの錘を載せて、温度50℃の恒温室中に7日間投入して、上記正極/多孔質フィルム/負極積層体の多孔質フィルムに担持させた部分架橋接着剤中の反応性ポリマーを上記3官能イソシアネートと架橋反応させて、正負の電極を多孔質フィルム(即ち、電池におけるセパレータ)に接着させて、正極/多孔質フィルム/負極接合体を得た。
【0089】
このようにして得られた正極/多孔質フィルム/負極接合体をガラス板に挟んだまま、200℃の乾燥機中に1時間投入した後、正極/多孔質フィルム/負極接合体からガラス板を取り外し、セパレータを正負の電極から剥がし、スキャナで読み込んで、最初に用いた多孔質フィルムの面積と比較して、面積熱収縮率を求めたところ、10%であった。
【0090】
実施例2
(多孔質フィルムBの作製)
ノルボルネンの開環重合体(ポリノルボルネン)の粉末(日本ゼオン(株)製ノーソレックスNB、重量平均分子量200万以上)6重量%及び重量平均分子量300万の超高分子量ポリエチレン樹脂94重量%からなるポリエチレン樹脂組成物20重量部と流動パラフィン80重量部とをスラリー状に混合し、小型ニーダーを用いて、160℃の温度で約1時間溶解、混練した。この後、得られた混練物を0℃に冷却した金属板の間に挟み込んで、急冷しつつ、圧延してシートに成形した。次いで、このシートを厚みが0.5mmになるまで、117℃の温度でヒートプレスし、更に、同じ温度で縦横3.8×3.8倍に同時二軸延伸した後、ヘプタンを用いて、脱溶媒処理した。このようにして得られた多孔質フィルムを空気中、85℃で6時間加熱し、次いで、125℃で2時間加熱し、多孔質フィルムの熱処理を行うと共に、多孔質フィルム中の架橋性ゴムを架橋させて、目的とする多孔質フィルムBを得た。この多孔質フィルムBは、厚さ23μm、空孔率45%、平均孔径0.07μmの細孔を有し、前述したように、針入プローブ式熱機械的分析装置を用いて調べたところ、耐熱温度は430℃であった。
【0091】
(電池の特性の評価とセパレータの面積熱収縮率の測定)
実施例1において、多孔質フィルムAに代えて、多孔質フィルムBを用いた以外は、実施例1と同様にして、ゲル分率58%の部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムBを得た。この部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムBを用いて、実施例1と同様にして、負極/セパレータ/正極積層体を得、これを用いて、実施例1と同様にして、コイン型リチウムイオン二次電池を組立て、この電池について、実施例1と同様にして、放電負荷特性を評価したところ、89%であり、また、セパレータの熱収縮率は16%であった。
【0092】
実施例3
実施例1において、ヘキサメチレンジイソシアネート3モル部にトリメチロールプロパン1モル部を付加させた3官能イソシアネート3重量部に代えて、ジフェニルメタンジイソシアネート2重量部を用いて、反応性ポリマー組成物を調製し、これを実施例1と同じ多孔質フィルムAの表裏の両面にそれぞれその面積の30%に点状に塗布した後、この多孔質フィルムを温度50℃の恒温室中に7日間投入して、ゲル分率35%の部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムAを得た。
【0093】
このようにして得られた部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムAを用いて、実施例1と同様にして、負極/セパレータ/正極積層体を得、これを用いて、実施例1と同様にして、コイン型リチウムイオン二次電池を組立て、この電池について、実施例1と同様にして、放電負荷特性を評価したところ、91%であり、また、セパレータの熱収縮率は18%であった。
【0094】
実施例4
アクリロニトリル 40 重量部
2−ヒドロキシエチルアクリレート 2 重量部
メチルメタクリレート 10 重量部
2−エチルヘキシルアクリレート 50 重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.3重量部
トルエン 300 重量部
【0095】
上記配合物を常法に従って溶液重合に付して、反応性ポリマーのトルエン溶液を得た。この反応性ポリマーの重量平均分子量は約30万であり、ガラス転移温度は5℃であった。この反応性ポリマー溶液にその固形分100重量部に対して、ヘキサメチレンジイソシアネート3モル部にトリメチロールプロパン1モル部を付加させてなる3官能イソシアネート1重量部を配合して、反応性ポリマー組成物を調製した。
【0096】
この反応性ポリマー組成物を剥離性延伸ポリプロピレン樹脂フィルム上にその表面積の30%に斑点状に塗布し、乾燥させた後、これを実施例1と同じ多孔質フィルムAの表裏の両面に貼り合わせ、60℃の温度で加熱しながら加圧して圧着し、更に、温度50℃の恒温室中に7日間投入して、表裏の両面に剥離性延伸ポリプロピレンフィルムを有し、ゲル分率54%の部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムAを得た。
【0097】
この部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムAから上記剥離性延伸ポリプロピレンフィルムを剥離した後、表面に前記正極シートを沿わせると共に、裏面に前記負極シートを沿わせた後、温度80℃、圧力5kg/cm2 で5分間加熱、加圧し、正負の電極シートを多孔質フィルムに圧着し、仮接着してなる負極/多孔質フィルム/正極積層体を得た。
【0098】
このようにして得られた負極/多孔質フィルム/正極積層体を用いて、実施例1と同様にして、コイン型リチウムイオン二次電池を組立て、この電池について、実施例1と同様にして、放電負荷特性を評価したところ、89%であり、また、セパレータの熱収縮率は15%であった。
【0099】
実施例5
(多孔質フィルムCの作製)
EPDM(住友化学工業(株)製エスプレン512F、エチリデンノルボルネン含量4重量%)20重量%及び重量平均分子量150万の超高分子量ポリエチレン樹脂80重量%からなるポリエチレン樹脂組成物15重量部と流動パラフィン85重量部とをスラリー状に均一に混合し、小型ニーダーを用いて、160℃の温度で約1時間溶解、混練した。この後、得られた混練物を0℃に冷却した金属板の間に挟み込んで、急冷しつつ、圧延してシートに成形した。次いで、このシートを厚みが0.4mmになるまで、115℃の温度でヒートプレスし、更に、123℃の温度で縦横4.0×4.0倍に同時二軸延伸した後、ヘプタンを用いて、脱溶媒処理した。このようにして得られた多孔質フィルムを空気中、85℃で6時間加熱し、次いで、116℃で1.5時間加熱し、多孔質フィルムの熱処理を行うと共に、多孔質フィルム中の架橋性ゴムを架橋させて、目的とする多孔質フィルムCを得た。この多孔質フィルムCは、厚さ24μm、空孔率42%、平均孔径0.08μmの細孔を有し、前述したように、針入プローブ式熱機械的分析装置を用いて調べたところ、耐熱温度は320℃であった。
【0100】
(電池の特性の評価とセパレータの面積熱収縮率の測定)
実施例1において、多孔質フィルムAに代えて、多孔質フィルムCを用いた以外は、実施例1と同様にして、ゲル分率58%の部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムCを得た。この部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムCを用いて、実施例1と同様にして、負極/セパレータ/正極積層体を得、これを用いて、実施例1と同様にして、コイン型リチウムイオン二次電池を組立て、この電池について、実施例1と同様にして、放電負荷特性を評価したところ、86%であり、また、セパレータの熱収縮率は12%であった。
【0101】
実施例6
N,N−ジエチルアクリルアミド 50 重量部
ブチルアクリレート 32 重量部
アクリロニトリル 15 重量部
4−ヒドロキシブチルアクリレート 3 重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.2重量部
酢酸エチル 150 重量部
【0102】
上記配合物を常法に従って溶液重合に付して、反応性ポリマーの酢酸エチル溶液を得た。この反応性ポリマーの重量平均分子量は約49万であり、ガラス転移温度は35℃であった。この反応性ポリマー溶液にその固形分100重量部に対して、ヘキサメチレンジイソシアネート3モル部にトリメチロールプロパン1モル部を付加させてなる3官能イソシアネート1重量部を配合して、反応性ポリマー組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、ゲル分率52%の部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムAを得た。
【0103】
この部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムAを用いて、実施例1と同様にして、負極/セパレータ/正極積層体を得、これを用いて、実施例1と同様にして、コイン型リチウムイオン二次電池を組立て、この電池について、実施例1と同様にして、放電負荷特性を評価したところ、88%であり、また、セパレータの熱収縮率は9%であった。
【0104】
比較例1
実施例1と同じ多孔質フィルムAに部分架橋接着剤を担持させることなく、そのままを用いて、電池を組み立てた。即ち、上記多孔質フィルムの表面に前記正極シートを沿わせると共に、裏面に負極シートを沿わせて、積層体とした。
【0105】
実施例1において、上記積層体を電極/多孔質フィルム積層体に代えて用いた以外は、実施例1と同様にして、コイン型リチウムイオン二次電池を組立てた。この電池について、実施例1と同様にして、放電負荷特性を評価したところ、95%であり、また、セパレータの熱収縮率は72%であった。
【0106】
比較例2
(多孔質フィルムDの作製)
重量平均分子量20万のポリエチレン樹脂60重量%及び重量平均分子量150万の超高分子量ポリエチレン樹脂40重量%からなるポリエチレン樹脂組成物15重量部と流動パラフィン85重量部とをスラリー状に混合し、小型ニーダーを用いて、160℃の温度で約1時間溶解、混練した。この後、得られた混練物を0℃に冷却した金属板の間に挟み込んで、急冷しつつ、圧延してシートに成形した。次いで、このシートを厚みが0.5mmになるまで、115℃の温度でヒートプレスし、更に、同じ温度で縦横4.0×4.0倍に同時二軸延伸した後、ヘプタンを用いて、脱溶媒処理した。このようにして得られた多孔質フィルムを空気中、85℃で6時間加熱し、次いで、116℃で1時間加熱して、目的とする多孔質フィルムDを得た。この多孔質フィルムDは、厚さ24μm、空孔率39%、平均孔径0.1μmの細孔を有し、前述したように、針入プローブ式熱機械的分析装置を用いて調べたところ、耐熱温度は160℃であった。
【0107】
(電池の特性の評価とセパレータの面積熱収縮率の測定)
実施例1において、多孔質フィルムAに代えて、多孔質フィルムDを用いた以外は、実施例1と同様にして、ゲル分率58%の部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムDを得た。この部分架橋接着剤を担持させた多孔質フィルムDを用いて、実施例1と同様にして、負極/セパレータ/正極積層体を得、これを用いて、実施例1と同様にして、コイン型リチウムイオン二次電池を組立て、この電池について、実施例1と同様にして、放電負荷特性を評価したところ、90%であった。また、この電池におけるセパレータの面積熱収縮率を測定しようとしたが、セパレータが破断して、面積熱収縮率を測定することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明による電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムを用いることによって、ずり移動なしに、電極/多孔質フィルム(セパレータ)積層体を容易に得ることができ、また、電池の製造に際しては、電極が多孔質フィルム(セパレータ)に密着性よく強固に且つ安定して接着された電極/セパレータ接合体を形成するので、不良品の発生を抑えて、生産性よく電池を製造することができる。しかも、本発明による電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムは、電池の製造後においては、それ自体、高温下において、融解や破膜することなく、しかも、熱収縮の小さいセパレータとして機能するので、高温での安全性にすぐれる電池を得ることができる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
針入プローブ式熱機械的分析装置を用いて、70gの荷重の下に直径1mmのプローブを多孔質フィルム上に載せ、室温から昇温速度2℃/分でこの多孔質フィルムを加熱しながら、その厚みを測定し、その際に、この多孔質フィルムの厚みが上記プローブを載せたときの厚みの1/2になるときの温度が200℃以上である多孔質フィルムを基材多孔質フィルムとし、イソシアネート基と反応し得る官能基を有する反応性ポリマーに多官能イソシアネートを反応させ、一部、架橋させてなる部分架橋接着剤を上記基材多孔質フィルムに担持させてなる電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムに電極を圧着して電極/多孔質フィルム積層体とし、この電極/多孔質フィルム積層体を電池容器内に仕込んだ後、多官能イソシアネートを含む電解液を上記電池容器内に注入し、加熱して、上記多孔質フィルムに担持させた上記部分架橋接着剤中の反応性ポリマーを上記多官能イソシアネートと反応させ、更に架橋させて、上記電極を上記多孔質フィルムに接着して、電極/多孔質フィルム接合体を形成すると共に、この電極/多孔質フィルム接合体における多孔質フィルムをセパレータとして有する電池を得る電池の製造方法であって、上記基材多孔質フィルムが重量平均分子量が少なくとも50万のポリオレフィン樹脂と分子鎖中に二重結合を有する架橋性ゴムとのポリオレフィン樹脂組成物からなり、上記架橋性ゴムを架橋させてなるものであることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項2】
反応性ポリマーがイソシアネート基と反応し得る官能基としてカルボキシル基又はヒドロキシル基を有するものである請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項3】
部分架橋接着剤が5〜80%の範囲のゲル分率を有する請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項4】
架橋性ゴムがエチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン三元共重合体である請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項5】
架橋性ゴムがポリノルボルネンである請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項6】
針入プローブ式熱機械的分析装置を用いて、70gの荷重の下に直径1mmのプローブを多孔質フィルム上に載せ、室温から昇温速度2℃/分でこの多孔質フィルムを加熱しながら、その厚みを測定し、その際に、この多孔質フィルムの厚みが上記プローブを載せたときの厚みの1/2になるときの温度が200℃以上である多孔質フィルムを基材多孔質フィルムとし、イソシアネート基と反応し得る官能基を有する反応性ポリマーに多官能イソシアネートを反応させ、一部、架橋させてなる部分架橋接着剤を上記基材多孔質フィルムに担持させてなる電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フィルムに電極を圧着して電極/多孔質フィルム積層体とし、この電極/多孔質フィルム積層体を電池容器内に仕込んだ後、多官能イソシアネートを含む電解液を上記電池容器内に注入し、加熱して、上記多孔質フィルムに担持させた上記部分架橋接着剤中の反応性ポリマーを上記多官能イソシアネートと反応させ、更に架橋させて、上記電極を上記多孔質フィルムに接着し、かくして、得られた電極/多孔質フィルム接合体を電極/セパレータ接合体として有する電池において、上記基材多孔質フィルムが重量平均分子量が少なくとも50万のポリオレフィン樹脂と分子鎖中に二重結合を有する架橋性ゴムとのポリオレフィン樹脂組成物からなり、上記架橋性ゴムを架橋させてなるものであることを特徴とする電池。
【請求項7】
反応性ポリマーがイソシアネート基と反応し得る官能基としてカルボキシル基又はヒドロキシル基を有するものである請求項6に記載の電池。
【請求項8】
部分架橋接着剤が5〜80%の範囲のゲル分率を有する請求項6に記載の電池。
【請求項9】
架橋性ゴムがエチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン三元共重合体である請求項6に記載の電池。
【請求項10】
架橋性ゴムがポリノルボルネンである請求項6に記載の電池。



【公開番号】特開2011−71128(P2011−71128A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253482(P2010−253482)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【分割の表示】特願2004−27681(P2004−27681)の分割
【原出願日】平成16年2月4日(2004.2.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】