説明

電池用包装材料

【課題】本発明は、安定した密封性、耐熱性、絶縁性、成形性を示す電池用包装材料を提供する。
【解決手段】基材層12、少なくとも片面に化成処理層13aを備えた金属箔層13と、酸変性ポリオレフィン層16と、高融点ポリプロピレン層17とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層18からなるヒートシール層14とが、少なくとも順次積層された電池用包装材料において、融点が150℃以上の高融点ポリプロピレン層17をエチレン・プロピレンランダムコポリマ層18より金属箔層13側に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定した密封性、絶縁性、成形性を示す電池用包装材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池とは、リチウム二次電池ともいわれ、液状、ゲル状および高分子ポリマー状の電解質を持ち、正極・負極活物質が高分子ポリマーからなるものを含むものである。このリチウムイオン電池は、充電時には正極活物質であるリチウム遷移金属酸化物中のリチウム原子(Li)がリチウムイオン(Li+)となって負極の炭素層間に入り込み(インターカレーション)、放電時にはリチウムイオン(Li+)が炭素層間から離脱(デインターカレーション)して正極に移動し、元のリチウム化合物となることにより充放電反応が進行する電池であり、ニッケル・カドミウム電池やニッケル水素電池より出力電圧が高く、高エネルギー密度である上、浅い放電と再充電を繰り返すことにより見掛け上の放電容量が低下する、いわゆるメモリー効果がないという優れた特長を有している。そのため、近年、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラ、小型ビデオカメラ等のポータブル機器用の電源として広く使われている。
【0003】
リチウムイオン電池の構成は、正極集電材(アルミニウム、ニッケル)/正極活性物質層(金属酸化物、カーボンブラック、金属硫化物、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子正極材料)/電解質層(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、炭酸ジメチル、エチレンメチルカーボネート等のカーボネート系電解液、リチウム塩からなる無機固体電解質、ゲル電解質等)/負極活性物質層(リチウム金属、合金、カーボン、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子負極材料)/負極集電材(銅、ニッケル、ステンレス)及び、これらを包装する外装体からなる。外装体としては、従来、金属をプレス加工し円筒状または直方体状等に容器化した金属製缶が用いられていた。
【0004】
しかるに、従来の金属製缶においては、容器外壁がリジッドであるため、電池自体の形状が決められてしまう。そのため、ハード側を電池に合わせ設計するため、該電池を用いるハードの寸法が電池により決定されてしまい形状の自由度がなかった。
【0005】
そのため、近年、形状の自由度が高い積層体からなる外装体(以下外装体)を用いる傾向にある。外装体の材質構成は、電池としての必要な物性、加工性、経済性等から、少なくとも外層における基材層、金属箔層、内層におけるヒートシール層と前記各層を接着する接着層からなる。また、前記構成の外装体からパウチを形成し、リチウムイオン電池本体を収納するパウチタイプ、または、前記外装体をプレスして凹部を形成し、該凹部にリチウムイオン電池本体を収納するエンボスタイプが開発されている。
【0006】
図4(a)は、ピロー状の外装体10を用いるパウチタイプのリチウムイオン電池の斜視図であり、図4(b)はリチウムイオン電池を分解した状態を示す斜視図である。図4(a)及び(b)に示すように、リチウムイオン電池1は、リチウムイオン電池本体2及び外装体10から構成されており、外装体10に収納されたリチウムイオン電池本体2は、その周縁を密封することにより、防湿性を確保している
【0007】
図5は、エンボス部が形成されたトレイとシートとから成る外装体5を用いてリチウムイオン電池本体2を密封収納するエンボスタイプのリチウムイオン電池の斜視図である。
【0008】
リチウムイオン電池本体2は、正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、正極及び負極間に充填される電解質と(いずれも図示せず)を含むセル(蓄電部)3と、セル3内の正極及び負極に連結されるとともに先端が外装体5の外部に突出する金属端子4から構成されている。
【0009】
また、上記いずれのタイプも、リチウムイオン電池本体を外装体で密封する際に、リチウム電池本体の正極及び負極の各々に接続された金属端子4を外部に突出させるとともに外装体で金属端子4を挟持した状態でヒートシールすることにより密封する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、ヒートシールにより外装体を密封シールした後、過充電等により電池内部で異常な温度上昇が発生し、金属端子4が発熱することがある。このとき、金属端子4がヒートシール層を溶融し、バリア層である金属箔層4と接触して内部短絡を起こすことがある。
【0011】
また、一般にリチウムイオン電池1はプラスッチクケースに収納され使用するが、このときリチウムイオン電池1はヒートシールした外装体の周縁部を折り曲げてプラスチックケースに収納される。
【0012】
しかし、この折り曲げ工程において、ヒートシール層は一度ヒートシール時に溶融し再結晶化したものであるため、余分な負荷がかかった場合クラックが発生しやすい。そして、このクラックを通して電解質が金属箔層と接触し、金属箔層が通電することがある。このとき、リチウムイオン電池の出力は著しく低下すると考えられる。
【0013】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、耐熱性、密封シール性、絶縁性、成形性に優れる電池用包装材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、基材層と、少なくとも片面に化成処理層を備えた金属箔層と、酸変性ポリオレフィン層と、高融点ポリプロピレン層とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層からなるヒートシール層とが、少なくとも順次積層された電池用包装材料において、前記高融点ポリプロピレン層が前記エチレン・プロピレンランダムコポリマ層より前記金属箔層側に配され、融点が150℃以上であることを特徴とする電池用包装材料である。
【0015】
本発明の第2の構成の電池用包装材料は、前記金属箔層の化成処理面に、前記酸変性ポリオレフィン層と前記高融点ポリプロピレン層と前記エチレン・プロピレンランダムコポリマ層の3層からなる3層共押出しフィルムを熱ラミネート法により積層したことを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の構成の電池用包装材料は、前記金属箔層の化成処理面と前記ヒートシール層を、溶融した酸変性ポリオレフィン層により積層したことを特徴とする。
【0017】
本発明の第4の構成の電池用包装材料は、前記エチレン・プロピレンランダムコポリマ層の融点が120℃以上150℃以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明の第5の構成の電池用包装材料は、前記酸変性ポリオレフィン層が酸変性ポリプロピレンからなることを特徴とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の構成によると、融点が150℃以上である高融点ポリプロピレン層をエチレン・プロピレンランダムコポリマ層より金属箔層側に配すことで、過充電等により外装体内部で異常な温度上昇が起こり、外装体内部の金属端子が発熱し、内層であるエチレン・プロピレンランダムコポリマ層が溶融した場合においても、前記高融点ポリプロピレン層は溶解せず、金属端子と金属箔層との接触を防ぐ。これにより、内部短絡の発生を抑えることができる。
【0020】
また、リチウムイオン電池の収納スペースを確保するために外装体のヒートシール部を折り曲げることがあるが、ヒートシール層を剛性の優れるエチレン・プロピレンランダムコポリマ層で構成することで、前記折り曲げ部におけるクラックの発生を防ぐことができる。これにより、外装体内部の電解質がクラックした箇所から金属箔層と接触することを防ぎ、外装体の絶縁性を確保することができる。
【0021】
本発明の第2の構成によると、金属箔層の化成処理面に、酸変性ポリオレフィン層と高融点ポリプロピレン層とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層の3層からなる3層共押出しフィルムを熱ラミネート法により積層することで、層間接着強度に優れた積層体を提供することができる。
【0022】
本発明の第3の構成によると、金属箔層の化成処理面に、高融点ポリプロピレン層とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層の2層からなるフィルムを、溶融した酸変性ポリオレフィン層で貼り合わせることで、耐内容物性及び層間接着強度に優れた積層体を提供することができる。
【0023】
本発明の第4の構成によると、エチレン・プロピレンランダムコポリマ層に融点が120℃〜150℃のものを用いることにより、低温シール性を確保できる。なお、過充電等による電極の発熱が生じた場合でも、上記高融点ポリプロピレン層により金属箔層と金属端子の短絡は防止されている。
【0024】
本発明の第5の構成によると、酸変性ポリオレフィン層に酸変性ポリプロピレンを用いた場合、高融点ポリプロピレン層と同質の材料であるため親和性が高く、両層の層間接着性が向上し、いっそうデラミネーションを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、低温シール性、密封シール性、絶縁性に優れるリチウムイオン電池用包装材料である。その外装体について、図等を利用してさらに詳細に説明する。なお、従来例の図4、図5と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0026】
本発明の電池用包装材料の各層を構成する材料等について、図1を参照して説明する。本発明に係る外装体は最外層に基材層12、最内層にヒートシール層14、その間に金属箔層13が配されたものである。
【0027】
また、ヒートシール層14は、融点が150℃以上の高融点ポリプロピレン層17とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層18からなり、高融点ポリプロピレン層17は金属箔層13側に配置され酸変性ポリオレフィン層16により金属箔層13と接着している。
【0028】
このとき、金属箔13の酸変性ポリオレフィン層16側表面に化成処理層13aを設けることで、層間接着強度がいっそう安定する。また、金属箔13の基材層12側にも化成処理層13aが設けられ、ドライラミネーション法により接着層15を介して基材層12と金属箔層13が接着している。
【0029】
図2は、リチウムイオン電池の正極側タブ周辺の構成を示す断面拡大図である。図1と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。また、図1で示した化成処理層13aと酸変性ポリオレフィン16、接着層15については簡略化のため省略する。外装体10は複数の層から成る積層構造を有しており、最内層のエチレン・プロピレンランダムコポリマ層18により、金属端子4が挟持された状態でヒートシールされている。
【0030】
なお、図には示していないが電池金属端子部密封用接着性フィルムを介して金属端子4とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層18をヒートシールする場合、電池金属端子部密封用接着性フィルムが金属に対してヒートシール性を有するため、エチレン・プロピレンランダムコポリマ層18は、金属に対してヒートシール性を持たないものを用いてもよい。
【0031】
リチウムイオン電池は、リチウムイオン電池本体を包装する外装体のタイプにより、ピロー状の外装体10を用いるパウチタイプと、エンボス部が形成されたトレイとシートとから成る外装体10を用いてリチウムイオン電池本体を密封収納するエンボスタイプとがあるが、本発明はいずれのタイプにも適用し得るものである。
【0032】
このリチウムイオン電池において、過充電等が原因で外装体10内部の温度が上昇し、金属端子4、電極、集電体が発熱することがある。このとき、最内層であるエチレン・プロピレンランダムコポリマ層18の金属端子4挟持部分が溶融し、その結果、外装体10内の金属箔層13と金属端子4、電極、集電体が接触し短絡を起こす可能性がある。
【0033】
しかし、図に示すように、金属箔13とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層18の間に融点が150℃以上のポリプロピレン層17を設けられた場合、エチレン・プロピレンランダムコポリマ層18が溶融した場合においても、ポリプロピレン層17は融点が高いため容易には溶融しない。したがって、金属端子4と金属箔13が接触し短絡するのを防ぐことができる。
【0034】
図3(a)はリチウムイオン電池1を示す概略斜視図であり、 図3(b)は点線で示されるプラスチックケース19に収納されたリチウムイオン電池1を示す概略斜視図である。
【0035】
エンボス成形された外装体10にリチウムイオン電池本体を封入後、周縁部10bを密封シールしリチウムイオン電池1は完成するが、リチウムイオン電池1を実際に使用する場合、外装体10だけでは、耐衝撃性に弱く、小さな傷が原因でクラッキングを起こすことがある。
【0036】
そこで、リチウムイオン電池1はプラスチックケース19に収納され使用されることがよくある。例えば、携帯電話などに使用される場合、落下時に衝撃を受けるため、プラスチックケースに収納されている。
【0037】
ここで、リチウムイオン電池1の小型化を図る場合、リチウムイオン電池1の外装体周縁シール部10bを折り曲げてプラスチックケース19に収納する必要がある。図3(c)はプラスッチクケース19に収納したリチウムイオン電池1を図3(b)の矢印x方向から見た断面図である。
【0038】
周縁シール部10bの折り目である折り曲げ部10cにおいて、ヒートシール層はヒートシール時に一度溶融し、その後結晶化しているため、折り曲げる際、クラッキングを起こし易い。そして、このクラッキングにより外装体10内部の電解質が金属箔層13に接触し、金属箔層13を通電することがある。このとき、リチウムイオン電池の出力は著しく低下するか、電池の機能を失うことになる。
【0039】
そこで、本発明に係る電池用包装材では、ヒートシール層14に剛性に優れるエチレン・プロピレンランダムコポリマ層18を用い、ヒートシール層14のクラッキングを防ぎ外装体10の絶縁性を確保している。
【0040】
また、リチウムイオン電池本体を外装体10に封入し電池本体の金属端子4を外側に突出した状態で挟持して密封シールする際、金属端子4の挟持部と金属端子4の厚みによる段差にヒートシール層の樹脂が回りこまなければ完全な密封性を確保することができない。
【0041】
したがって、ヒートシール層14にはヒートシール時、適度に流動性を有する樹脂を用いる必要がある。ここで、エチレン・プロピレンランダムコポリマ層18に融点が120℃以上150℃以下のものを用いることにより、ヒートシール時、エチレン・プロピレンランダムコポリマが適度な流動性を有し金属端子4の挟持部分全体を覆うようにして外装体10の開口部を密封シールする。そのため前記金属端子挟持部から浸透する外部の水蒸気を遮断し、電解質と水蒸気の反応によるフッ化水素酸の生成を抑制することができる。
【0042】
ここで、融点が120℃より低いエチレン・プロピレンランダムコポリマ層を用いる場合、ヒートシール時、完全に溶融しヒートシール層が流れ出す可能性がある。また、融点が150℃より高い場合、ヒートシール時、ヒートシール層が溶融せず、流動性が低いため、金属端子の挟持部分周辺を密封シールすることができない。
【0043】
次に本発明に係る外装体10においての積層方法について説明する。金属箔層13とヒートシール層14との積層方法としては、大別してポリエステル系等の周知のドライラミネーション用接着剤を用いてドライラミネーション法と接着剤を用いることなく行なうサーマルラミネーション法とがあるが、ドライラミネーション法は生産性に優れる反面、接着剤層の厚さとしては3〜5μm程度であるにもかかわらず、接着剤層の断面からの水分透過性が高く、断面から浸入した水分が内層を透過して電解液と反応してフッ酸を生成し、これが金属箔層とヒートシール層14との間を時間経過とともに剥離させるという問題がある。
【0044】
そこで、本発明においては、酸変性ポリオレフィン層16とヒートシール層14からなる共押しフィルムを熱ラミネート法により金属箔層13に積層する方法と、溶融した酸変性ポリオレフィンを金属箔層13とヒートシール層14とで挟み込み積層するサンドイッチラミネーション法を用いる。いずれの方法も、ドライラミネート法と比較して、耐内容物性、耐久性に優れる積層方法である。
【0045】
熱ラミネーション法は、接着強度が強く高い密封性が得られる。具体的には、化成処理を施したアルミニウム等の金属箔層の化成処理面に酸変性ポリオレフィン層と高融点ポリプロピレン層とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層の3層からなる3層共押出しフィルムの酸変性ポリオレフィン層の面を貼り合わせ熱ラミネートする。
【0046】
また、サンドイッチラミネーション法は、アルミニウム等の金属箔層13の化成処理面に酸変性ポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィンを接着樹脂として押出し、ヒートシール層14をサンドイッチラミネートする方法である。また、酸変性ポリプロピレンを押出ラミネートする場合、得られる積層体を酸変性ポリプロピレンの軟化点以上に加熱する(後加熱)か、または、前記酸変性ポリプロピレンの押出し加工において、アルミニウムの面を酸変性ポリプロピレンの軟化点以上に加熱する(前加熱)ことによりリチウムイオン電池外装体としての耐内容物性、成形性に耐えられる接着強度のあるラミネートが可能になる。
【0047】
また、前記加熱の具体的な方法としては、熱ロール接触式、熱風式、近または遠赤外線等の方法があるが、本発明においてはいずれの加熱方法でもよく、前述のように、接着樹脂がその軟化点温度以上に加熱できればよい。
【0048】
次に、図1に示した外装体10の各層について具体的に説明する。前記基材層12は、一般に、延伸ポリエステルまたはナイロンフィルムからなるが、この時、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロンとしては、ポリアミド樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。
【0049】
また、基材層12は耐ピンホール性および電池の外装体とした時の絶縁性を向上させるために、前記ポリエステルフィルム又はナイロンフィルムの他、異なる材質のフィルムを積層化することも可能である。基材層12を積層体化する場合、基材層が2層以上の樹脂層を少なくとも一つを含み、各層の厚みが6μm以上、好ましくは、12〜25μmである。基材層を積層化する例としては、図示はしないが次の1)〜7)が挙げられる。
1)延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
2)延伸ナイロン/延伸ポリエチレンテレフタレート
また、包装材料の機械適性(包装機械、加工機械の中での搬送の安定性)、表面保護性(耐熱性、耐電解質性)、2次加工とてリチウムイオン電池用の外装体をエンボスタイプとする際に、エンボス時の金型と基材層との摩擦抵抗を小さくする目的あるいは電解液が付着した場合に基材層を保護するために、基材層を多層化、基材層表面にフッ素系樹脂層、アクリル系樹脂層、シリコーン系樹脂層、ポリエステル系樹脂層、及びこれらのブレンド物層等を設けることが好ましい。
例えば、
3)フッ素系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート(フッ素系樹脂は、フィルム状物、または液状コーティング後乾燥で形成)
4)シリコーン系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート(シリコーン系樹脂は、フィルム状物、または液状コーティング後乾燥で形成)
5)フッ素系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
6)シリコーン系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
7)アクリル系樹脂/延伸ナイロン(アクリル系樹脂はフィルム状、または液状コーティング後乾燥で硬化)
【0050】
また、上記延伸ポリエチレンテレフタレートの代わりに延伸ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートを用いた場合にも同様の効果が得られる。
【0051】
ここで、基材層12は金属箔層13と、ドライラミネート法を用いて接着剤層15により貼り合わされる。
【0052】
次に、金属箔層13について説明する。金属箔層13は、外部からリチウムイオン電池の内部に水蒸気が浸入することを防止するための層で、金属箔層単体のピンホール、及び加工適性(パウチ化、エンボス成形性)を安定化し、かつ耐ピンホールをもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウム、ニッケルなどの金属、又は、無機化合物、例えば、酸化珪素、アルミナ等を蒸着したフィルムなども挙げられるが、金属箔層13として好ましくは厚さが20〜80μmのアルミニウムとする。
【0053】
ピンホールの発生をさらに改善し、リチウムイオン電池の外装体のタイプをエンボスタイプとする場合、エンボス成形におけるクラックなどの発生のないものとするためには、金属箔層13として用いるアルミニウムの材質が、鉄含有量が0.3〜9.0重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%とすることによって、鉄を含有していないアルミニウムと比較して、アルミニウムの展延性がよく、外装体として折り曲げによるピンホールの発生が少なくなり、かつ前記エンボスタイプの外装体を成形する時に側壁の形成も容易にできる。前記鉄含有量が、0.3重量%未満の場合は、ピンホールの発生の防止、エンボス成形性の改善等の効果が認められず、前記アルミニウムの鉄含有量が9.0重量%を超える場合は、アルミニウムとしての柔軟性が阻害され、外装体として製袋性が悪くなる。
【0054】
また、冷間圧延で製造されるアルミニウムは焼きなまし(いわゆる焼鈍処理)条件でその柔軟性・腰の強さ・硬さが変化するが、本発明において用いるアルミニウムは焼きなましをしていない硬質処理品より、多少または完全に焼きなまし処理をした軟質傾向にあるアルミニウムがよい。前記、アルミニウムの柔軟性・腰の強さ・硬さの度合い、すなわち焼きなましの条件は、加工適性(パウチ化、エンボス成形)に合わせ適宜選定すればよい。たとえば、エンボス成形時のしわやピンホールを防止するためには、成形の程度に応じた焼きなましされた軟質アルミニウムを用いることができる。
【0055】
また、金属箔層13であるアルミニウムの表、裏面に化成処理13aを施すことによって、接着剤15との接着強度が向上する。
【0056】
次に、化成処理層13aについて説明する。化成処理層13aは少なくとも金属箔13のヒートシール層14側の面に形成するものである。化成処理層13aは酸変性ポリオレフィン層8と金属箔13とを安定的に接着し、金属箔13とヒートシール層14のデラミネーションを防止することができる。また、アルミニウムの腐食を防止する働きも有る。
【0057】
具体的には、リン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、トリアジンチオール化合物等の耐酸性皮膜を形成することによってエンボス成形時の金属箔層13とヒートシール層14との間のデラミネーション防止と、リチウムイオン電池の電解質と水分とによる反応で生成するフッ化水素により、アルミニウム表面の溶解、腐食、特にアルミニウムの表面に存在する酸化アルミが溶解、腐食することを防止し、かつ、アルミニウム表面の接着性(濡れ性)を向上させることができる。
【0058】
化成処理層13aは、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、塗布型クロメート処理等のクロム系化成処理、あるいは、ジルコニウム、チタン、リン酸亜鉛等の非クロム系(塗布型)化成処理等により金属箔13面に形成されるものであるが、フッ素系樹脂15と強固に接着するという点、また、連続処理が可能であると共に水洗工程が不要で処理コストを安価にすることができるという点などから塗布型化成処理、特にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物、リン化合物、を含有する処理液で処理するのが最も好ましい。
【0059】
また、化成処理層13aの形成方法としては、前記処理液をバーコード法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法等の周知の塗布法を選択して成形すればよい。また、化成処理層13aを形成する前に金属箔13表面に、予め、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、酸活性化法等の周知の脱脂処理法で処理を施しておく方が、化成処理層13aの機能を最大限に発現させるとともに、長期間維持することができる点から好ましい。
【0060】
また、前記の各層には、適宜、製膜性、積層化加工、最終製品2次加工(パウチ化、エンボス成形)適性を向上、安定化する目的のために、コロナ処理、ブラスト処理、酸化処理、オゾン処理等の表面活性化処理をしてもよい。
【0061】
次に、酸変性ポリオレフィン層16について説明する。酸変性ポリオレフィン層16は金属箔層13および外装体10の内層であるヒートシール層14とを接着するために設ける層であり、ヒートシール層14に用いる樹脂種により適宜選択して用いる必要があるが、酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることができ、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂等であり、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよいものである。
【0062】
本発明において、酸変性ポリオレフィン層16はヒートシール層内の高融点ポリプロピレン層と接着するため、酸変性ポリプロピレンを用いるのが好適である。接着剤として酸変性ポリプロピレンは高融点ポリプロピレンと同質であるため、親和性が高い。したがって、接着剤層として酸変性ポリプロピレンを用いることで、いっそう耐内容物性、接着強度に優れた外装体10を提供することができる。
【0063】
酸変性ポリプロピレンを用いる場合、
(1)ビガット軟化点115℃以上、融点150℃以上のホモタイプ、
(2)ビガット軟化点105℃以上、融点130℃以上のエチレンープロピレンとの共重合体(ランダム共重合タイプ)
(3)融点110℃以上である不飽和カルボン酸を用い酸変性重合した単体又はブレンド物等を用いることができる。
また、前記酸変性ポリプロピレンには、密度が900kg/m3以下の低結晶性のエチレンーブテン共重合体、低結晶性のプロピレンーブテン共重合体、あるいは、非晶性のエチレンープロピレン共重合体、非晶性のプロピレンーエチレン共重合体やエチレン−ブテン−プロピレン共重合体(ターポリマー)等を5%以上添加して柔軟性を付与し、耐折り曲げ性の向上、成形時でのクラック防止を行ってもよい。
【0064】
次にヒートシール層14について説明する。ヒートシール層14としては、リチウム電池本体の正極及び負極の各々に接続された金属端子4を外側に突出した状態で挟持して熱接着して密封する際にヒートシール層14と金属端子4との間に金属端子密封用接着性フィルムを介在させるか否かで樹脂種が異なるものである。金属端子密封用接着性フィルムを介在させる場合には、プロピレン系樹脂の単体ないし混合物などからなるフィルムを用いればよく、金属端子密封用接着性フィルムを介在させない場合、不飽和カルボン酸でグラフト変性した酸変性オレフィン樹脂からなるフィルムを用いればよい。
【0065】
本発明においては、ヒートシール層14として、融点が150℃以上の高融点ポリプロピレン層と剛性に優れるエチレン・プロピレンランダムコポリマをそれぞれ金属箔層13側と最内層側に配置したものを用いる。
【0066】
エチレン・プロピレンランダムコポリマはエチレンとプロピレンの共重合体であり、エチレンとプロピレンの繰り返し単位の配列が不規則に重合したものであるため、エチレン樹脂とプロピレン樹脂を溶融しただけのブレンド樹脂等と比較して非常に剛性に優れる。
【0067】
したがって、ヒートシール後、外装体を折り曲げた場合にも、ヒートシール層にクラックの発生を防止することができる。これは、エチレン・プロピレンランダムコポリマが共重合体であるため、ヒートシール時に一旦溶融し固形化する際もエチレンの繰り返し単位とプロピレンの繰り返し単位が分離して固形化せず、共重合体のまま均一に固形化するためである。
【0068】
なお、基材層12、金属箔層13、接着層15、ヒートシール層14(ポリプロピレンまたはポリエチレン)の他に、金属箔層13とヒートシール層14との間に、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等の2軸延伸フィルム等からなる中間層を設けてもよい。中間層は、リチウムイオン電池用包装材料としての強度向上、バリア性の改善安定化、リチウムイオン電池外装体のヒートシール時のタブと金属箔層との接触による短絡を防止することができる。
【0069】
また、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0070】
以下、本発明の作用及び効果について、実施例を用いて具体的に説明する。基材層は延伸ナイロンフィルム(厚さ25μm)、バリア層はアルミニウム40μm、を用いた。化成処理は、いずれも、処理液として、フェノール樹脂、フッ化クロム化合物、リン酸からなる水溶液を用い、ロールコート法により塗布し、皮膜温度が180℃以上となる条件において焼付けた。クロムの塗布量は10mg/m2(乾燥重量)である。酸変性ポリプロピレン(以下酸変性PPと略す)は、ロールコート法により塗布し、アルミニウム温度が180℃以上となる条件において焼付けた。酸変性PPの塗布量は、3g/m2(乾燥重量)とした。
【実施例1】
【0071】
アルミニウムの両面に化成処理を施し、一方の化成処理面に、延伸ナイロンフィルムを2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介してドライラミネート法により貼り合わせ、他の化成処理面に酸変性PPをロールコート法により塗布、焼付けし、前記酸変性PP面に、熱ラミネート法により、酸変性ポリプロピレンフィルム(厚さ10μm)と高融点ポリプロピレンフィルム(厚さ30μm)とエチレン・プロピレンランダムコポリマフィルム(厚さ20μm)の3層からなる3層共押出しフィルムを積層して本発明の電池用包装材料を得た。
【実施例2】
【0072】
アルミニウムの両面に化成処理を施し、一方の化成処理面に、延伸ナイロンフィルムを2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介してドライラミネート法により貼り合わせ、他の化成処理面に酸変性PP(厚さ10μm)を溶融押出しするとともに高融点ポリプロピレンフィルム(厚さ30μm)とエチレン・プロピレンランダムコポリマフィルム(厚さ20μm)からなるシーラント用フィルムを積層して本発明の電池用包装材料を得た。
【0073】
実施例1および実施例2で得られた電池用包装材料を片面エンボスタイプの外装体とし、そのためのエンボス部は、55mm×30mm、深さは3.5mmとし、エンボスシート、にリチウムイオン電池本体を包装してシール巾5mmで密封シールした。
【0074】
密封シールされたリチウムイオン電池をシール巾3mmの箇所で折り曲げ、過充電を繰り返し、タブの温度を変化させたところ、いずれの実施例においても短絡は発生しなかった。以上より、タブの挟持部分における外装体の密封性及びシール部における絶縁性は確保されることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】は、本発明の電池用包装材料の層構造を示す概略断面図である。
【図2】は、本発明の電池用包装材料を用いたリチウムイオン電池の金属端子周辺の構造を示す断面拡大図である。
【図3】は、本発明の電池用包装材料を用いたリチウムイオン電池をプラスチックケースに収納した場合の概略斜視図及び断面図である。
【図4】は、従来のパウチタイプのリチウムイオン電池を分解して示す概略斜視図である。
【図5】は、従来のエンボスタイプのリチウムイオン電池を分解して示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0076】
1 リチウムイオン電池
2 リチウムイオン電池本体
3 セル(蓄電部)
4 金属端子(タブ)
5 外装体
7 挟持部分
8 正極集電体
10 外装体
10b 外装体周縁部
10c 折り曲げ部
12 基材層
13 金属箔層
13a 化成処理層(金属箔層表面)
14 最内層(ヒートシール層)
15 接着層
16 酸変性ポリオレフィン層
17 高融点ポリプロピレン層
18 エチレン・プロピレンランダムコポリマ層
19 プラスチックケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、少なくとも片面に化成処理層を備えた金属箔層と、酸変性ポリオレフィン層と、高融点ポリプロピレン層とエチレン・プロピレンランダムコポリマ層からなるヒートシール層とが、少なくとも順次積層された電池用包装材料において、
前記高融点ポリプロピレン層が前記エチレン・プロピレンランダムコポリマ層より前記金属箔層側に配され、融点が150℃以上であることを特徴とする電池用包装材料。
【請求項2】
前記金属箔層の化成処理面に、前記酸変性ポリオレフィン層と前記高融点ポリプロピレン層と前記エチレン・プロピレンランダムコポリマ層の3層からなる3層共押出しフィルムを熱ラミネート法により積層したことを特徴とする請求項1に記載の電池用包装材料。
【請求項3】
前記金属箔層の化成処理面と前記ヒートシール層を、溶融した酸変性ポリオレフィン層により積層したことを特徴とする請求項1に記載の電池用包装材料。
【請求項4】
前記エチレン・プロピレンランダムコポリマ層の融点が120℃以上150℃以下であることを特徴とする請求項1及至請求項3のいずれか1に記載の電池用包装材料。
【請求項5】
前記酸変性ポリオレフィン層が酸変性ポリプロピレンからなることを特徴とする請求項1及至請求項4のいずれか1に記載の電池用包装材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−273398(P2007−273398A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100359(P2006−100359)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】