説明

電池駆動型のフィールド機器

【課題】 ダミー放電することなく、電池の内部抵抗上昇による電池電圧低下の影響を回避することを可能とする電池駆動型のフィールド機器を実現する。
【解決手段】 保存状態または微小電流放電状態で内部抵抗が増加する電池を電源とし、電池電圧を第1レギュレータで安定化した第1電圧により給電される電池駆動型のフィールド機器において、
前記電池電圧が所定値以下に低下したタイミングを検出する電圧監視回路と、
前記タイミングより所定時間継続する信号を出力する遅延回路と、
この遅延回路の出力継続時間中に、前記電池電圧より高い補助電圧を発生する昇圧回路と、
前記第1レギュレータの入力側または出力側で、前記補助電圧を電源電圧として切り替える切り替え回路と、
を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存状態または微小電流放電状態で内部抵抗が増加する電池を電源とし、電池電圧を第1レギュレータで安定化した第1電圧により給電される電池駆動型のフィールド機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
定周期または不定周期で短時間活性化されてデータ収集センター等と通信する無線モジュールを備えたフィールド機器では、その電源として塩化チオニルリチウム一次電池が使用される場合が多い。
【0003】
塩化チオニルリチウム一次電池の放電特性は、負極の金属表面に生成される塩化リチウムの皮膜に左右される。長期保存等で皮膜が成長した状態で電池を放電させると、放電開始と同時に皮膜の生成状態が急激に変化し、過渡現象を呈した後、安定状態になる。
【0004】
図4は、特許文献2に記載されている塩化チオニルリチウム一次電池の放電特性図である。皮膜による負極表面の抵抗が内部抵抗(数10〜数100Ω)となり、この内部抵抗のために、電池電圧は、放電開始時に急激に低下(例えば、低下分が1V以上)した後、放電電流(例えば20mA程度)の流出に従って正常電圧(例えば3.2V以上)に復帰する。
【0005】
このように、塩化チオニルリチウム一次電池は、保存状態または放電電流が微小な場合(例えば、数10マイクロアンペア以下)には、負極表面の塩化膜が成長し、電池の内部抵抗が増加していく。この状態で消費電流が大きい無線モジュール等が活性化すると、電池電圧が急激に低下する。
【0006】
フィールド機器を構成する重要な要素であるセンサ等は、+5Vの安定化された電圧で給電する必要があるために、開放電圧値3.6Vの塩化チオニルリチウム一次電池の2個の直列接続(開放電圧7.2V)を使用し、レギュレータにより+5Vの安定化された電圧を得る構成をとる。
【0007】
無線モジュール等の起動による大きな消費電流の発生による内部抵抗の電圧降下が大きい場合には、レギュレータの入力電圧が+5Vより低下するので、安定化された給電電圧を下回って、フィールド機器が正常に動作しなくなる場合がある。
【0008】
この対策として、
(a)回路全体の消費電流を一定に保つように一定の条件下でダミー放電を行い、内部抵抗の増大を防ぐ手法が特許文献1に開示されている。
【0009】
(b)ダミー放電により塩化皮膜の破壊を行うシーケンスを実行した後に、無線モジュール等の大電流消費負荷を起動させる手法が特許文献2に開示されている。
などの対策がとられる。
【0010】
図5は、従来手法による対策を備えた電池駆動型のフィールド機器の構成例を示す機能ブロック図である。内部抵抗rを持つ、塩化チオニルリチウム一次電池を2個直列接続した電池1の電池電圧V0を入力する第1レギュレータ2により、安定化した第1電圧Vc1(+5V)を生成し、センサ3、このセンサの測定値を処理する信号処理部4等に給電している。フィールド機器としての信頼性を確保するためには、この第1電圧Vc1の安定供給は必須である。
【0011】
更に、電池電圧V0を入力する第2レギュレータ5で安定化した第2電圧Vc2(+3V)を生成し、無線モジュール6、CPU7に給電している。第2レギュレータ5の負荷としてダミー放電抵抗8及び放電制御トランジスタ9の直列回路が接続されている。
【0012】
CPU7は、信号処理部4と通信すると共に、無線モジュール6の送受信動作を制御する。更に、放電制御トランジスタ9を制御して前記(a)または(b)の手法によるダミー放電を実行する。
【0013】
第2電圧Vc2(+3V)で給電されている無線モジュール6、CPU7等の回路では、内部抵抗増加による電池電圧V0の低下が発生しても、第2レギュレータ5の入力電圧は+3V以上あるので影響を受けない。
【0014】
【特許文献1】特開平5−63837号公報
【特許文献2】特開平7−15359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来手法によるダミー放電では、フィールド機器において次のような問題がある。
(1)無線モジュール6が活性化する時刻をCPU7が知り得ない場合には、(a)の対策では、ダミー放電と無線モジュール6の活性化が同時に発生した場合に、センサ3等への給電電圧Vc1が低下し、フィールド機器としての信頼性が確保できない恐れがある。
【0016】
(2)無線モジュール6の活性化は、無線ネットワークにより管轄されており、CPU7は起動のタイミングを知り得ないので、(b)の対策は有効ではない。
【0017】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、ダミー放電することなく、電池の内部抵抗上昇による電池電圧低下の影響を回避することを可能とする電池駆動型のフィールド機器の実現を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)保存状態または微小電流放電状態で内部抵抗が増加する電池を電源とし、電池電圧を第1レギュレータで安定化した第1電圧により給電される電池駆動型のフィールド機器において、
前記電池電圧が所定値以下に低下したタイミングを検出する電圧監視回路と、
前記タイミングより所定時間継続する信号を出力する遅延回路と、
この遅延回路の出力継続時間中に、前記電池電圧より高い補助電圧を発生する昇圧回路と、
前記第1レギュレータの入力側または出力側で、前記補助電圧を電源電圧として切り替える切り替え回路と、
を備えることを特徴とする電池駆動型のフィールド機器。
【0019】
(2)前記電池電圧を第2レギュレータで安定化した、前記第1電圧よりは低い第2電圧により給電される無線モジュールを備えることを特徴とする(1)に記載の電池駆動型のフィールド機器。
【0020】
(3)前記昇圧回路は、前記電池電圧に対して前記第2電圧を加算した補助電圧を発生することを特徴とする(2)に記載の電池駆動型のフィールド機器。
【0021】
(4)前記昇圧回路は、チャージポンプ形の昇圧回路であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の電池駆動型のフィールド機器。
【0022】
(5)前記昇圧回路は、ステップアップDC/DCコンバータであることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の電池駆動型のフィールド機器。
【0023】
(6)前記第2電圧により給電され、前記無線モジュールの送受信動作を制御するCPUを備えることを特徴とする(2)乃至(5)のいずれかに記載の電池駆動型のフィールド機器。
【0024】
(7)前記電池は、塩化チオニルリチウム一次電池であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の電池駆動型のフィールド機器。
【発明の効果】
【0025】
本発明の構成によれば、次のような効果を期待することができる。
(1)本発明で導入される昇圧回路は、必要なときだけ動作するので、エネルギー効率が良く、かつ確実にセンサ等への+5V系の給電電圧の低下を防ぐことができる。
【0026】
(2)本発明で導入される昇圧回路の動作により、通常より消費電流が増えるため、塩化皮膜破壊の効果を期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は、本発明を適用した電池駆動型のフィールド機器の一実施形態を示す機能ブロック図である。図5で説明した従来構成と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0028】
従来構成と比較した本発明の特徴部は、第1レギュレータ2の入力電圧Vc0の電圧低下を監視する電圧監視回路100、この電圧監視回路の検出タイミングで動作する遅延回路200、この遅延回路の出力継続期間中に電池電圧V0より高い補助電圧Vuを出力する昇圧回路300、電池電圧V0と補助電圧Vuを切り替えて第1レギュレータ2に入力する切り替え回路400を設けた構成にある。
【0029】
本発明の構成では、図5の従来構成で示した、ダミー放電抵抗8及び放電制御トランジスタ9の直列回路に対するCPU7によるダミー放電制御回路は備えていない。
【0030】
図2は、図1に示す本発明構成の動作を説明する波形図である。実施形態では、無線モジュール6の非活性時の電流は0mA、活性時の電流は20mA、無線モジュール6非活性時の電池電圧V0は6.5V、電池1の内部抵抗は100Ω、電圧監視回路100のしきい値電圧(所定値)は5.2Vとする。
【0031】
無線モジュール6は低消費電力形であり、通常は数μA程度でスタンバイしていて、10ms程度の時間だけ活性化して外部機器との送受信を行う。
【0032】
図2(A)は無線モジュール電流の波形、図2(B)は電池1の電池電圧V0の波形を示す。時刻t1で無線モジュール6が活性化すると、電池電圧V0は、内部抵抗100Ωのために、6.5Vから4.5Vまで低下する。
【0033】
図2(C)は、第1レギュレータ2の入力電圧Vc0の波形であり、電圧監視回路100のしきい値電圧5.2Vを横切った瞬間に、図2(D)に示すように電圧監視回路200により電圧低下が検出される。
【0034】
図2(E)は、電圧監視回路100による電圧低下検出信号で起動されるオフ遅延形の遅延回路200の波形を示し、無線モジュール6の稼動が停止して電池電圧V0が6.5Vに復帰する時刻t2よりは所定時間遅い時刻t3までの持続期間T(継続時間(例えば、無線モジュール6が活性中の時間))に設定される。
【0035】
この遅延回路200の出力で駆動される昇圧回路300は、この持続期間Tでオン状態となり、電池電圧V0より高い電圧値の補助電圧Vuを出力する。切り替え回路400は、持続期間Tの期間に、電池電圧V0から補助電圧Vuに切り替えて第1レギュレータ2に入力させるので、第1レギュレータ2の出力は、5Vの安定化電圧が確保される。
【0036】
切り替え回路400は、実施形態では2個のダイオードD1及びD2による周知の電圧比較形のスイッチング回路で構成されているが、CPU7で制御されるトグル形の切り替え回路であってもよい。ダイオードD1及びD2によるスイッチング回路の出力に接続されているコンデンサC1は、後述するチャージポンプ昇圧回路出力の平滑用である。
【0037】
切り替え回路400の動作で、電圧監視回路100の入力電圧は、図2(C)に示すように、直ちにしきい値電圧5.2Vを上回るようになるが、遅延回路200によって昇圧回路300がオフするタイミングをずらし、安定して昇圧する時間を確保する。
【0038】
以上の動作で、電池電圧V0(図2(B))が5Vを下回る場合でも、第1レギュレータ2の入力電圧を5V以上に保つことができる。この結果、無線モジュール6等の大電流消費による電池1の内部抵抗に起因する電圧降下の影響が、センサ等の5V系の機器の給電電圧に波及することを回避することができる。
【0039】
昇圧回路300は、種々の周知回路を採用することができる。図3は、チャージポンプ形の昇圧回路300の回路構成図である。遅延回路200の出力期間Tの信号で所定周期のオシレータOSCが起動され、直列接続されたスイッチングトランジスタQ1,Q2を交互にオンオフ制御する。
【0040】
Q1,Q2の直列回路の一端は接地電位に、他端は第2レギュレータ5による第2電圧Vc2が供給されている。チャージポンプコンデンサC2の一端は、Q1,Q2の接続点電位Vbに、他端はダイオードD3を介して電池電圧V0に接続されると共に、切り替え回路400のダイオードD2を介して第1レギュレータ2の入力に接続されている。
【0041】
このような回路構成により、チャージポンプコンデンサC2の他端に発生する補助電圧Vuの電位は、電池電圧V0に対して周期的に一定の第2電圧Vc2の電位Vbが加算された、電池電圧V0よりは高い電位となる。この電位はダイオードD2で選択され、第1レギュレータ2の入力に接続されたコンデンサC1で平滑され、第1レギュレータ2に入力される。
【0042】
昇圧回路300としては、図3で例示したチャージポンプ形の昇圧回路の他、インダクタとスイッチング素子を使ったステップアップDC/DCコンバータを採用することができる。
【0043】
定電圧出力機能を持つ昇圧回路の出力を、第1レギュレータ2の出力側に接続し、昇圧回路と第1レギュレータを切り替える構成とすることができる。更に、切り替え回路400は、ダイオードを使用した電圧比較による自動切り替え回路の他、昇圧回路と第1レギュレータとの接続のオン/オフを制御してもよい。
【0044】
実施形態では、昇圧回路300の入力電圧源は、電池電圧V0と第2電圧Vc2の2電源で示したが、電池1の電池電圧V0だけを入力して昇圧してもよいし、第2電圧Vc2だけを入力して昇圧する構成をとることも可能である。
【0045】
実施形態では、消費電流が大きい負荷として無線モジュールを例示したが、これに限定されるものではない。本発明は、消費電流による電池電圧低下がフィールド機器としての信頼性を損なう負荷を備える電池駆動型のフィールド機器一般に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を適用した電池駆動型のフィールド機器の一実施形態を示す機能ブロック図である。
【図2】図1の動作を説明する波形図である。
【図3】チャージポンプ昇圧回路の回路構成図である。
【図4】塩化チオニルリチウム一次電池の放電特性図である。
【図5】従来の電池駆動型のフィールド機器の構成例を示す機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
1 電池
2 第1レギュレータ
3 センサ
4 信号処理部
5 第2レギュレータ
6 無線モジュール
7 CPU
100 電圧監視回路
200 遅延回路
300 昇圧回路
400 切り替え回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保存状態または微小電流放電状態で内部抵抗が増加する電池を電源とし、電池電圧を第1レギュレータで安定化した第1電圧により給電される電池駆動型のフィールド機器において、
前記電池電圧が所定値以下に低下したタイミングを検出する電圧監視回路と、
前記タイミングより所定時間継続する信号を出力する遅延回路と、
この遅延回路の出力継続時間中に、前記電池電圧より高い補助電圧を発生する昇圧回路と、
前記第1レギュレータの入力側または出力側で、前記補助電圧を電源電圧として切り替える切り替え回路と、
を備えることを特徴とする電池駆動型のフィールド機器。
【請求項2】
前記電池電圧を第2レギュレータで安定化した、前記第1電圧よりは低い第2電圧により給電される無線モジュールを備えることを特徴とする請求項1に記載の電池駆動型のフィールド機器。
【請求項3】
前記昇圧回路は、前記電池電圧に対して前記第2電圧を加算した補助電圧を発生することを特徴とする請求項2に記載の電池駆動型のフィールド機器。
【請求項4】
前記昇圧回路は、チャージポンプ形の昇圧回路であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電池駆動型のフィールド機器。
【請求項5】
前記昇圧回路は、ステップアップDC/DCコンバータであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電池駆動型のフィールド機器。
【請求項6】
前記第2電圧により給電され、前記無線モジュールの送受信動作を制御するCPUを備えることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の電池駆動型のフィールド機器。
【請求項7】
前記電池は、塩化チオニルリチウム一次電池であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電池駆動型のフィールド機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−11530(P2010−11530A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164244(P2008−164244)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】