説明

電波吸収を伴う電波遮蔽体

【課題】無機質系充填材を主材としてカーボン粉や金属粉などの導電粒子を加えた発泡体を基材とし、非燃性、非吸水性、断熱性であり、耐久度にすぐれ、軽量、薄形となり、選択する特定周波数に対して電波吸収性能がよく、また帯域幅の広い電波吸収を伴う電波遮蔽体を提供する。
【解決手段】無機質系充填材を主材としてカーボン粉や金属粉などの導電粒子を加えた発泡体を損失層1とし、該損失層1の表面に選択される特定周波数の電波に共振するところの、線状の導体6を樹脂シート、強化プラスチック板、不織布、紙などに配列した共振層2を装着し、前記損失層1の裏面に金属板層4を装着したことを特徴とする電波吸収を伴う電波遮蔽体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無機質系発泡体を基材とした電波吸収を伴う電波遮蔽体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電波吸収体として損失層の間に共振層を設けることにより、選択する周波数に対して帯域幅を広くすることを目的とする電波吸収体が、本件特許出願の発明者の一人である畠山賢一を発明者・出願人として出願されている[特願2004−37487]。一方、従来において多用されているカーボンなどを入れた有機発泡体は、総じて可燃性であり、またハロゲン化合物の含有によって、火災時などの燃焼時には有毒ガスの発生を生じることの対策として、イソシアネートの発泡による無機質充填材を主材として、ノンハロゲンの有機物の使用による発泡体を、本件特許出願の出願人の一者である東洋オートメーション株式会社において出願(共同出願)している[特願2004−090515]が、それにおいてカーボンを加えたものは、電波吸収性能・電波シールド性能を有することが述べられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は、無機質系充填材を主材とする発泡体を基材とし、非燃性、非吸水性、断熱性であり、耐久度にすぐれ、軽量、薄形となり、選択する特定周波数に対して電波吸収性能がよく、また帯域幅の広い電波吸収を伴う電波遮蔽体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
無機質系充填材を主材としてカーボン粉や金属粉などの導電粒子を加えた発泡体を損失層とし、該損失層の表面に選択される特定周波数の電波に共振するところの、線状の導体を樹脂シート、強化プラスチック板、不織布、紙などに配列した共振層を装着し、前記損失層の裏面に金属板層を装着したことを特徴とする電波吸収を伴う電波遮蔽体であり、作用として非燃性、非吸水性、断熱性であり、耐久度にすぐれ、軽量、薄形となり、選択する特定周波数に対して電波吸収性能がよい電波遮蔽体を提供する。
【0005】
無機質系充填材を主材としてカーボン粉や金属粉などの導電粒子を加えた発泡体を損失層とし、該損失層の表面に、選択される特定周波数の電波に共振するところの、長さ1〜100mm、アスペクト比10以上の線状の導体を、樹脂シートの表面または内部に、無作為または方向を揃えて配列して形成した共振層を装着し、前記損失層の裏面に金属板層を装着したことを特徴とする電波吸収を伴う電波遮蔽体、共振層の線状の導体が十字形で、該十字形の直線部の長さは1〜100mm、該直線部の幅は前記長さの1/10以下であることを特徴とする前記記載の電波吸収を伴う電波遮蔽体、共振層の線状の導体が円形あるいは多角形であり、周縁の長さは2〜200mmであることを特徴とする前記記載の電波吸収を伴う電波遮蔽体であり、作用として選択する特定周波数に対して電波吸収性能がよく、また帯域幅の広い電波吸収を伴う電波遮蔽体を提供する。なおそれらにおいて共振層の上に損失層を設け、共振層を損失層で挟むようにした構成でもよい。
【発明の効果】
【0006】
この発明は、無機質系充填材を主材としてカーボン粉や金属粉などの導電粒子を加えた発泡体を損失層とし、その表面に共振層を形成したことを特徴とする電波吸収を伴う電波遮蔽体として、その共振層は選択する特定周波数に対して電波吸収性能がよく、その損失層は耐久性、強度、不燃・難燃性を具備し、また軽量で非吸水性である。したがって、それは建築物などに用いても、火災時に燃える恐れがなく、後述の実施例1においてはとくに有害なガスの発生の恐れもない。そのため閉鎖性の場所で、火災時の燃焼による有害ガスの発生が危惧される箇所の電波遮蔽材としてとくに有効である。また道路などの側壁建造物の電波吸収材、電波シールド材として有用である。例示すれば病院、各種研究所などの建築物におけるコンピュータルームの周辺部に用いたり、地下駐車場、トンネル内などで、自動車用電波の情報交換エリヤにおける不要電波吸収材または電波シールド材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
無機質系充填材を主材としてカーボン粉や金属粉などの導電粒子を加えた発泡体を損失層とし、その損失層の表面に選択される特定周波数の電波に共振するところの、線状の導体を樹脂シート、強化プラスチック板、不織布、紙などに配列した共振層を装着し、前記損失層の裏面に金属板層を装着したことを特徴とする電波吸収を伴う電波遮蔽体であり、前記損失層を形成する発泡体が、ニトリルブタジエンゴムなどのエラストマー樹脂、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの無機質充填材に、イソシアネートを混合して得た混合物を、混練し、加圧、加熱して得られるコンパウンドに、水を浸透させることにより、成分中のイソシアネートが加水分解し、炭酸ガス、窒素からなるガス体が発生して発泡現象が生じて前記コンパウンドが膨張し、成形された不燃性・難燃性を有する独立気泡の発泡体からなることを特徴とする電波吸収を伴う電波遮蔽体。
【実施例1】
【0008】
図1(a)に示すように、無機質系充填材を主材としてカーボン粉や金属粉などの導電粒子を加えた発泡体を損失層1とし、該損失層1の表面に選択される特定周波数の電波に共振するところの、線状の導体を樹脂シート、強化プラスチック(FRP)板、不織布、紙などに配列した共振層2を装着し、前記損失層1の裏面に金属板層4を装着したことを特徴とする電波吸収を伴う電波遮蔽体Aとする。損失層1の厚みとしては10mm(場合により2〜50mm)、共振層2の厚みとして0.1mm(場合により0.1〜0.5mm)、金属板層4の厚さとしては0.1mm(場合により0.1〜1mm)とした。
【0009】
前記損失層1の製法、組成としては、ニトリルブタジエンゴム、水酸化マグネシウム、イソシアネートを混合し、カーボンを加える。一例としてニトリルブタジエンゴム、水酸化マグネシウム、イソシアネート、カーボンを1:2.5:3.3:0.7の割合(重量部)とする。これらを混合した後、ニーダーによって混練し、その後、加圧、加熱して得られたコンパウンドを、金型(適宜、小孔が設けてある)に充填し、それを用意した水槽内に投じる。水槽内では、漸次、前記のコンパウンドに水が浸透することにより、成分中のイソシアネートが分解し、ガス(主として炭酸ガスと窒素からなるガス体)が発生し、発泡現象が起きる。この際の気泡は独立気泡である。これによりコンパウンドが膨張し、成形された発泡体を得る。その後、常温による養生と加熱後処理を行う。なお、上記において、水酸化マグネシウムに代えて、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムそれぞれを、または双方を用いることもできる。その場合、一例として、ニトリルブタジエンゴム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、イソシアネートを、1:1:3.7:1.8の割合(重量部)とする。
【0010】
この損失層1の表面に、選択される特定周波数の電波に共振するところの、長さ1〜100mm、アスペクト比[長さ/太さ]10以上の線状の導体6を、樹脂シート、強化プラスチック(FRP)板、不織布、紙など5の表面または内部に、無作為[図2]、または方向を揃えて[図3]配列して形成した共振層2を装着し、前記損失層1の裏面にアルミニウム箔などの金属板層4を装着して電波遮蔽体Aとなる。
【0011】
図4において示すのは、共振層2の線状の導体6の形状が十字形導体7で、該十字形の直線部の長さは1〜100mm、該直線部の幅は前記長さの1/10以下のものである。図5は共振層2の線状の導体6が円形線状導体8であり、周縁の長さは2〜200mmである。これは多角形でもよい。
【0012】
線状の導体6の材質は良電導体として、金属、金属を鍍金した線状樹脂、あるいはカーボン繊維などである。
【0013】
前述の線状の導体6による共振層2は、実験によれば図6の反射係数チャートに示すように、共振層2の等価的な比誘電率の特性は、周波数f付近の周波数でこのチャートの中心を取り巻くようになり、広い帯域で整合点に近づいて一致し、双峰性の特性を示し、広帯域で電波を適確に吸収できることが分かる。[図中、fは周波数,|Г|は反射係数の絶対値,cは反射係数]。
【0014】
損失層1の表面に、導電性物質を印刷手法または金属溶射(例として電気を用いたアーク溶射、ガスを用いたフレーム溶射)などにより、前記した各線状形に付着させて共振層2を形成することもできる。
【0015】
損失層1を形成する発泡体は加工性がよいので、容易にスライスすることができ、適宜の寸法の裁断片を得ることが簡易にできる。なお前記したエラストマー樹脂と無機質系充填材の比率を適宜変えることにより、不燃性または難燃性の度合を高めることができる。
【実施例2】
【0016】
上記実施例1のケースにおいて、損失層1の形成として、無機質系充填材を主材とし、それに塩化ビニール樹脂、適宜の添加剤を加えて混練してコンパウンドを作成し、金型内において加熱発泡させて形成する発泡体を損失層1とすることもできる。
【0017】
なお各実施例において、図1(b)に示すように共振層2の上に損失層1’を設け、共振層2を損失層1,1’で挟むようにした構成の電波吸収を伴う電波遮蔽体A’としてもよい。これによって共振層2の保護、全体の補強、特定周波数検知の向上などに役立つこととなる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
この発明は、無機質系充填材を主材とし、カーボン粉や金属粉などの導電粒子を加えた発泡体を基材とし、その表面に共振層を、裏面に金属板層を装着したことを特徴とする電波吸収を伴う電波遮蔽体として、共振層は選択する特定周波数に対して電波吸収性能がよく、一方、損失層は軽量で、耐久性を有し、不燃、難燃性の電波吸収を伴う電波遮蔽体であり、工業的にそれを効率よく安定して量産・製作し実用化して提供することができる。この発明の電波遮蔽体の用途としては、発明の効果の項において既述した他に、昨今、事務所間に無線LANなどの専用通信が多用されるが、その情報の漏洩防止や、外部からの侵入電波による誤動作防止、ノイズ防止、端末器自体・相互の干渉や、ノイズ防止などにおいて、それらが生じる虞のあるオフィス空間の壁面、天井面、床面などに施すことによって、それらの障害を防止することができ、オフィス内の電波環境を整え、受信して選択する特定周波数を効率的に吸収し、正確に受信するための好環境を作ることができる。
【0019】
さらにそのような環境内でも、携帯電話などが使用したい場合も多く、特定周波数(LANなど)以外は遮蔽または吸収されないように考慮して、携帯電話などが使用できる環境を作ることにも利用される。
【0020】
さらにまた車両(自動車)搭載の電波受信用の車載器と車外との情報交換用として、自動料金収受設備(ETC)や、安全その他の情報、制御、警告などの発信設備(ITS)などの設備に使用する電波遮蔽材として有効である。一方、高速道路、トンネルなどの側壁に施すことにより電波環境を整えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の電波遮蔽体の拡大断面図。
【図2】この発明に使用される共振層の一例を示す図。
【図3】この発明に使用される共振層の他の例を示す図。
【図4】この発明に使用される共振層のさらに他の例を示す図。
【図5】この発明に使用される共振層のさらに他の例を示す図。
【図6】この発明における反射係数の絶対値を示す図。
【符号の説明】
【0022】
A A’: 電波吸収を伴う電波遮蔽体
1,1’: 損失層
2: 共振層
4: 金属板層
5: 樹脂シート、強化プラスチック(FRP)板、不織布、紙など
6: 線状の導体
7: 十字形導体
8: 円形線状導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質系充填材を主材としてカーボン粉や金属粉などの導電粒子を加えた発泡体を損失層とし、該損失層の表面に選択される特定周波数の電波に共振するところの、線状の導体を樹脂シート、強化プラスチック板、不織布、紙などに配列した共振層を装着し、前記損失層の裏面に金属板層を装着したことを特徴とする電波吸収を伴う電波遮蔽体。
【請求項2】
無機質系充填材を主材としてカーボン粉や金属粉などの導電粒子を加えた発泡体を損失層とし、該損失層の表面に、選択される特定周波数の電波に共振するところの、長さ1〜100mm、アスペクト比10以上の線状の導体を、樹脂シート、強化プラスチック板、不織布、紙などの表面または内部に、無作為または方向を揃えて配列して形成した共振層を装着し、前記損失層の裏面に金属板層を装着したことを特徴とする請求項1記載の電波吸収を伴う電波遮蔽体。
【請求項3】
共振層の線状の導体が十字形で、該十字形の直線部の長さは1〜100mm、該直線部の幅は前記長さの1/10以下であることを特徴とする請求項2記載の電波吸収を伴う電波遮蔽体。
【請求項4】
共振層の線状の導体が円形あるいは多角形であり、周縁の長さは2〜200mmであることを特徴とする請求項2記載の電波吸収を伴う電波遮蔽体。
【請求項5】
損失層を形成する発泡体が、ニトリルブタジエンゴムなどのエラストマー樹脂、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの無機質充填材に、イソシアネートを混合して得た混合物を、混練し、加圧、加熱して得られるコンパウンドに、水を浸透させるることにより、成分中のイソシアネートが加水分解し、炭酸ガス、窒素からなるガス体が発生して発泡現象が生じて前記コンパウンドが膨張し、成形された不燃性・難燃性を有する独立気泡の発泡体からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電波吸収を伴う電波遮蔽体。
【請求項6】
損失層を形成する発泡体が、無機質系充填材を主材とし、それに塩化ビニール樹脂、適宜の添加剤などを加えて混練してコンパウンドを作成し、金型内において加熱発泡させて形成する発泡体からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電波吸収を伴う電波遮蔽体。
【請求項7】
損失層の表面に導電性物質を印刷手法または金属溶射などにより、線状に付着させて共振層を形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の電波吸収を伴う電波遮蔽体。
【請求項8】
共振層の上に損失層を設け、共振層を損失層で挟むようにした構成からなることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の電波吸収を伴う電波遮蔽体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−27668(P2007−27668A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232579(P2005−232579)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(394015383)東洋オートメーション株式会社 (7)
【出願人】(305012197)
【Fターム(参考)】