説明

電源供給装置

【課題】トランジスタ素子がオフされた原因がモータのロック又は過電流のどちらであるのかを判定すること。
【解決手段】ショート/ロック電流判別部23が、トランジスタ素子10の通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上であるか否かを判別し、通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上になった履歴を記憶する。そして、ショート/ロック電流判別部23は、電線保護のためにトランジスタ素子10がオフされた際、記録されている履歴を参照してトランジスタ素子10がオフされるまでに通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上になったか否かを判定し、通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上になった場合、過電流によるトランジスタ素子10のオフ動作と判断し、通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上になっていない場合には、ロック電流によるトランジスタ素子10のオフ動作であると判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されている電装品を過電流から保護するための過電流保護機能を備える電源供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されている電装品にワイヤーハーネスを介して電力を供給する電源供給装置には、ワイヤーハーネスを過電流による焼損等から保護するために、ヒューズを用いた過電流保護回路が設けられている。ヒューズを用いた過電流保護回路では、過電流が発生した場合、溶断したヒューズの交換等の整備を行う必要がある。このため、ヒューズを用いた過電流保護回路の設置場所が限定され、しいてはワイヤーハーネスレイアウトの自由度が低くなる。また、従来の電源供給装置には、スイッチング素子としてリレーが多く用いられているが、サイズや部品発熱が大きく装置に大型化に繋がるといった課題があった。
【0003】
そこで、近年、ヒューズやリレーの代わりにトランジスタ素子を用いた過電流保護回路が提案されている(特許文献1参照)。この過電流保護回路は、電源と電装品との間に接続されたトランジスタ素子を備え、トランジスタ素子のソース電極とドレイン電極との間の電圧変化に基づいて過電流が発生したか否かを判定する。そして、過電流保護回路は、過電流が発生したと判定した場合、トランジスタ素子をオフすることによって電源と電装品との間の接続を遮断することにより、ワイヤーハーネスを過電流による焼損等から保護する。このような過電流保護回路によれば、過電流が発生した場合であってもトランジスタ素子の整備を行う必要がない。従って、トランジスタ素子を用いた過電流保護回路を備えた電源供給装置は、設置場所が限定されることなく、ワイヤーハーネスレイアウトの自由度が高くなる。また、トランジスタ素子の小型・低損失化によって装置の小型化が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−10471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電源供給装置からモータに電力を供給する場合、モータに大きな負荷が加わることによって、モータがロックして大きなロック電流が発生することがある。しかしながら、従来の過電流保護回路は、モータのロック又は過電流に関係なく、通電電流が所定値以上である場合にトランジスタ素子をオフする構成になっている。モータのロックによってトランジスタ素子がオフされた場合、モータをロックさせた要因を取り除く時間を考慮して所定時間後にトランジスタ素子を再びオンしても問題がない。これに対して、過電流によってトランジスタ素子がオフされた場合には、安全性の面からトランジスタ素子を再びオンさせることは望ましくない。すなわち、トランジスタ素子がオフされた原因がモータのロック又は過電流のどちらであるのかによってその後の制御が異なる。このため、トランジスタ素子がオフされた原因がモータのロック又は過電流のどちらであるのかを正確に判定可能な過電流保護回路の提供が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、トランジスタ素子がオフされた原因がモータのロック又は過電流のどちらであるのかを判定可能な電源供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る電源供給装置は、電源と電源からの電力によって駆動されるモータとの間に接続されたトランジスタ素子と、トランジスタ素子のオン/オフを制御することによって電源からモータへの電力供給を制御する駆動部と、トランジスタ素子の通電電流を検出する電流検出部と、電流検出部によって検出された通電電流と通電時間との積に基づいてトランジスタ素子をオフする必要性があるか否かを判定し、オフする必要性があると判定した場合、駆動部を制御することによってトランジスタ素子をオフするショート/ロック判別部と、を備え、ショート/ロック判別部は、トランジスタ素子をオフするまでに通電電流が所定のロック電流検出閾値を越えたか否かを判定し、通電電流が所定のロック電流検出閾値を超えた場合、過電流によるトランジスタ素子のオフ動作と判断し、通電電流が所定のロック電流検出閾値を超えていない場合には、モータのロック電流によるトランジスタ素子のオフ動作と判断する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電源供給装置によれば、トランジスタ素子がオフされた原因がモータのロック又は過電流のどちらであるのかを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である電源供給装置の構成を示す回路図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態である通電制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図3は、ワイヤーハーネスの遮断特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である電源供給装置の構成及び動作について説明する。
【0011】
〔電源供給装置の構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態である電源供給装置の構成について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態である電源供給装置の構成を示す回路図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である電源供給装置1は、車両に搭載され、電源2からモータ3への電力供給を制御するものである。この電源供給装置1は、トランジスタ素子10と制御装置20とを備える。トランジスタ素子10は、Nチャネル型FETによって構成されている。トランジスタ素子10のドレイン電極には電源2が接続され、ソース電極にはモータ3が接続されている。
【0013】
制御装置20は、スイッチSWのオン/オフ操作に応じて電源30からの電力を利用して駆動されるものである。制御装置20は、マイクロコンピュータ等の情報処理装置によって構成され、電流検出部21,ロック電流検出閾値記憶部22,ショート/ロック電流判別部23,及び駆動部24を備える。電流検出部21は、トランジスタ素子10の通電電流を検出し、検出された通電電流を示す信号をショート/ロック電流判別部23に入力する。
【0014】
ロック電流検出閾値記憶部22は、モータ3に電力を供給するワイヤーハーネスL1の線径毎にモータ3のロック電流を検出するためのロック電流検出閾値を記憶する。ショート/ロック電流判別部23は、電流検出部21によって検出された通電電流とロック電流検出閾値記憶部22に記憶されているロック電流検出閾値とを比較することによって、モータ3のロック又は過電流が発生しているか否かを判定する。駆動部24は、トランジスタ素子10のオン/オフを制御することによって、電源2からモータ3への電力供給を制御する。
【0015】
このような構成を有する電源供給装置1は、以下に示す通電制御処理を実行することによって、通電電流が増加した原因がモータ3のロック又は過電流のどちらであるのかを判定し、判定結果に基づいてモータ3への通電を制御する。以下、図2に示すフローチャートを参照して、この通電制御処理を実行する際の電源供給装置1の動作について説明する。
【0016】
〔通電制御処理〕
図2は、本発明の一実施形態である通電制御処理の流れを示すフローチャートである。図2に示すフローチャートは、車両のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられたタイミングで開始となり、通電制御処理はステップS1の処理に進む。
【0017】
ステップS1の処理では、ショート/ロック電流判別部23が、トランジスタ素子10の通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上になった回数を計数するためのプログラムカウンタNの値を0にリセットする。これにより、ステップS1の処理は完了し、通電制御処理はステップS2の処理に進む。
【0018】
ステップS2の処理では、ショート/ロック電流判別部23が、トランジスタ素子10(FET)をオフ状態からオン状態に切り替える。この処理によって、トランジスタ素子10を介して電源2からモータ3に電力が供給される。これにより、ステップS2の処理は完了し、通電制御処理はステップS3の処理に進む。
【0019】
ステップS3の処理では、ショート/ロック電流判別部23が、電流検出部21を介してトランジスタ素子10の通電電流Iを検出する。これにより、ステップS3の処理は完了し、通電制御処理はステップS4の処理に進む。
【0020】
ステップS4の処理では、ショート/ロック電流判別部23が、ロック電流検出閾値記憶部22からモータ3に電力を供給するワイヤーハーネスL1の線径に対応するロック電流検出閾値Ithを読み出し、ステップS3の処理によって検出された通電電流Iが読み出されたロック電流検出閾値Ith以上であるか否かを判定する。なお、ワイヤーハーネスL1の線径に関する情報は予めショート/ロック電流判別部23内に記憶されているものとする。判定の結果、通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上である場合、ショート/ロック電流判別部23は、過電流が発生したと判断し、通電制御処理をステップS5の処理に進める。一方、通電電流Iがロック電流検出閾値Ith未満である場合には、ショート/ロック電流判別部23は、モータ3のロックが発生したと判断し、通電制御処理をステップS9の処理に進める。
【0021】
ステップS5の処理では、ショート/ロック電流判別部23が、プログラムカウンタNの値を1増数する。本処理の目的は、トランジスタ素子10の通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上になったことを検出するための処理である。これにより、ステップS5の処理は完了し、通電制御処理はステップS6の処理に進む。
【0022】
ステップS6の処理では、ショート/ロック電流判別部23が、ステップS3の処理によって検出された通電電流Iとその通電時間Tとの積に基づいてワイヤーハーネス(電線)L1の保護の必要性があるか否かを判別する。具体的には、モータ3に電力を供給するワイヤーハーネスL1には、過電流による焼損等を抑制するためにその線径毎に図3に示すような遮断特性が定められている。図3に示す遮断特性は、大きさI1の通電電流Iが時間T1だけ流れた場合、すなわち電流時間積Sが通電電流Iと時間T1との積に達した場合、過電流による焼損等を抑制するために通電電流Iを遮断することを示している。そこで、ショート/ロック電流判別部23は、ワイヤーハーネスL1の線径に対応する遮断特性を読み出し、読み出された遮断特性と電流時間積とを比較することによって電線保護の必要性があるか否かを判別する。判別の結果、電線保護の必要性がない場合、ショート/ロック電流判別部23は通電制御処理をステップS7の処理に進める。一方、電線保護の必要性がある場合には、ショート/ロック電流判別部23は通電制御処理をステップS8の処理に進める。
【0023】
ステップS7の処理では、ショート/ロック電流判別部23が、スイッチSWがオフ操作されたか否かを判定する。判定の結果、スイッチSWがオフ操作された場合、ショート/ロック電流判別部23は通電制御処理をステップS8の処理に進める。一方、スイッチSWがオフ操作されていない場合には、ショート/ロック電流判別部23は通電制御処理をステップS3の処理に戻す。
【0024】
ステップS8の処理では、駆動部24が、トランジスタ素子10(FET)をオン状態からオフ状態に切り替えることによってモータ3への通電を遮断すると共に、トランジスタ素子10が自動的にオン状態に復帰する自動復帰動作を禁止する。これにより、ステップS8の処理は完了し、一連の通電制御処理は終了する。なお、駆動部24は、ユーザがスイッチSWをオフ→オン操作した場合に、トランジスタ素子10をオフ状態からオン状態に切り替えることによってモータ3への通電を再開するようにしてもよい。
【0025】
ステップS9の処理では、ショート/ロック電流判別部23が、ステップS6と同様の処理によって電線保護の必要性があるか否かを判別する。判別の結果、電線保護の必要性がない場合、ショート/ロック電流判別部23は通電制御処理をステップS7の処理に進める。一方、電線保護の必要性がある場合には、ショート/ロック電流判別部23は通電制御処理をステップS10の処理に進める。
【0026】
ステップS10の処理では、駆動部24が、トランジスタ素子10(FET)をオン状態からオフ状態に切り替えることによってモータ3への通電を遮断する。これにより、ステップS10の処理は完了し、通電制御処理はステップS11の処理に進む。
【0027】
ステップS11の処理では、ショート/ロック電流判別部23が、所定時間内にスイッチSWがオフ操作されたか否かを判定する。判定の結果、所定時間内にスイッチSWがオフ操作された場合、ショート/ロック電流判別部23は一連の通電制御処理を終了する。一方、所定時間内にスイッチSWがオフ操作されなかった場合には、ショート/ロック電流判別部23は通電制御処理をステップS1の処理に戻す。なお、このステップS11の処理が複数回連続して発生した場合には、ショート/ロック電流判別部23は、回数制限を設けて通電制御処理を終了するようにしてもよい。
【0028】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である通電制御処理によれば、ショート/ロック電流判別部23が、トランジスタ素子10の通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上であるか否かを判別し、通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上になった履歴を記憶する。そして、ショート/ロック電流判別部23は、電線保護のためにトランジスタ素子10がオフされた際、記録されている履歴を参照してトランジスタ素子10がオフされるまでに通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上になったか否かを判定し、通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上になった場合、過電流によるトランジスタ素子10のオフ動作と判断し、通電電流Iがロック電流検出閾値Ith以上になっていない場合には、ロック電流によるトランジスタ素子10のオフ動作であると判断する。このような構成によれば、トランジスタ素子10がオフされた原因がモータ3のロック又は過電流のどちらであるのかを判定することができる。
【0029】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0030】
1 電源供給装置
2 電源
3 モータ
10 トランジスタ素子
20 制御装置
21 電流検出部
22 ロック電流検出閾値記憶部
23 制ショート/ロック電流判別部
24 駆動部
30 電源
L1 ワイヤーハーネス
SW スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と該電源からの電力によって駆動されるモータとの間に接続されたトランジスタ素子と、
前記トランジスタ素子のオン/オフを制御することによって前記電源から前記モータへの電力供給を制御する駆動部と、
前記トランジスタ素子の通電電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部によって検出された通電電流と通電時間との積に基づいて前記トランジスタ素子をオフする必要性があるか否かを判定し、オフする必要性があると判定した場合、前記駆動部を制御することによって前記トランジスタ素子をオフするショート/ロック判別部と、を備え、
前記ショート/ロック判別部は、前記トランジスタ素子をオフするまでに前記通電電流が所定のロック電流検出閾値を越えたか否かを判定し、通電電流が所定のロック電流検出閾値を超えた場合、過電流によるトランジスタ素子のオフ動作と判断し、通電電流が所定のロック電流検出閾値を超えていない場合には、モータのロック電流によるトランジスタ素子のオフ動作と判断することを特徴とする電源供給装置。
【請求項2】
前記ショート/ロック判別部は、過電流によるトランジスタ素子のオフ動作と判断した場合、前記トランジスタ素子の自動復帰動作を禁止することを特徴とする請求項1に記載の電源供給装置。
【請求項3】
前記ショート/ロック判別部は、モータのロック電流によるトランジスタ素子のオフ動作と判断した場合、所定時間後に前記トランジスタ素子をオンさせることを特徴とする請求項1又は2に記載の電源供給装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−223835(P2011−223835A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93252(P2010−93252)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】