説明

電源装置およびそれを用いた電子機器

【課題】低コスト、省スペース性に優れた電源装置を提供する。
【解決手段】第2制御回路32は、1次巻線W1に流れるコイル電流Ic1が所定のしきい値電流Ithに達すると、パルス信号S2を、第2スイッチングトランジスタM2がオフするレベルに遷移させるよう構成される。第2制御回路32は、電子機器1の電源投入を契機としてスイッチング動作を開始するとともに、中間電圧Vo1が所定レベルVxより高いとき、しきい値電流Ithを第1の値Ith1とし、中間電圧Vo1が所定レベルVxより低いとき、しきい値電流Ithを第1の値Ith1より低い第2の値Ith2に設定するように構成される。第1制御回路22は、マイコン3からの動作開始の指示を契機として、スイッチング動作を開始するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビや冷蔵庫をはじめとするさまざまな家電製品、あるいはラップトップ型コンピュータ、携帯電話端末やPDA(Personal Digital Assistants)をはじめとする電子機器は、外部からの電力を受けて動作し、また外部電源からの電力によって内蔵の電池を充電可能となっている。そして家電製品や電子機器(以下、電子機器と総称する)には、商用交流電圧をAC/DC(交流/直流)変換する電源装置が内蔵され、あるいは、電源装置は、電子機器の外部の電源アダプタ(ACアダプタ)に内蔵される。
【0003】
図1は、本発明者らが検討した比較技術に係る電源装置2rを有する電子機器1rの構成を示すブロック図である。電子機器1rは、電源装置2rと、マイコン3をはじめとする各種の機能回路(負荷)4a、4bを備える。負荷4a、4bは、ディスプレイパネルや、そのドライバ、オーディオ処理回路や画像処理回路などを含む。
【0004】
電源装置2rは、ヒューズ6と、商用交流電圧Vacからノイズを除去するフィルタ8と、商用交流電圧Vacを整流する整流回路(ダイオードブリッジ回路)10と、力率改善回路(PFC回路)20r、第1絶縁型DC/DCコンバータ30r、第2絶縁型DC/DCコンバータ40rを備える。
【0005】
PFC回路20rは、交流入力電圧Vacと入力電流Iacをモニタし、それらの位相を一致させて力率が100%に近い状態に近づける。
【0006】
テレビをはじめとする電子機器1rには、全機能が停止する停止状態と、最小限の動作のみ可能なスタンバイ状態と、通常動作状態の3つの状態が存在する。たとえば、主電源スイッチとスタンバイスイッチの2つのスイッチが設けられる電子機器においては、停止状態は、主電源スイッチがオフの状態であり、スタンバイ状態は、主電源スイッチがオン、スタンバイスイッチがオフの状態であり、通常動作状態は、主電源スイッチおよびスタンバイスイッチがともにオンの状態である。
【0007】
第1絶縁型DC/DCコンバータ30rは、通常動作状態のみで動作する負荷4aに対して電源電圧Vdd1を供給する。第1絶縁型DC/DCコンバータ30rは、通常動作状態でのみ動作し、スタンバイ状態では動作を停止する。
【0008】
一方、電源装置2r全体を制御するマイコン3には、通常動作状態のみでなく、スタンバイ状態においても電源電圧が供給される必要がある。そこで、第1絶縁型DC/DCコンバータ30rとは別に、マイコン3(および必要に応じてその他の負荷4b)に対して電源電圧Vdd2を供給する第2絶縁型DC/DCコンバータ40rが設けられる。第2絶縁型DC/DCコンバータ40rは、主電源スイッチがオンの状態において常に動作する。第2絶縁型DC/DCコンバータ40rのトランスの1次側には、補助巻線を利用したサブコンバータが設けられ、サブコンバータの出力電圧Vccは、PFC回路20r、第1絶縁型DC/DCコンバータ30r、第2絶縁型DC/DCコンバータ40rそれぞれの制御回路(コントローラ)に対する電源電圧として供給される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図1の電源装置2rでは、絶縁型DC/DCコンバータを2系統設ける必要があり、部品点数が多く、コストが高いという問題がある。特にトランスは高価である。
【0010】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、より低コストで、省スペース性に優れた電源装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様は、電源装置に関する。電源装置は、交流電圧を全波整流する整流回路と、整流回路の出力電圧を受け、直流の中間電圧を生成する非絶縁型DC/DCコンバータを有し、その入力電流の位相が、整流された交流電圧の位相と一致するように動作する力率改善回路と、中間電圧を受け、そのレベルを変換する絶縁型DC/DCコンバータと、絶縁型DC/DCコンバータの出力電圧を受けて動作するマイコンと、を備える。
力率改善回路は、その第1端子に整流回路の出力電圧が印加されたインダクタと、インダクタの第2端子と接地端子の間に設けられた第1スイッチングトランジスタと、中間電圧がその目標電圧と一致するようにデューティ比が調節される第1パルス信号を生成し、当該第1パルス信号にもとづいて第1スイッチングトランジスタを駆動する第1制御回路と、を含む。
絶縁型DC/DCコンバータは、トランスと、トランスの1次巻線と接地端子の間に設けられた第2スイッチングトランジスタと、絶縁型DC/DCコンバータの出力電圧がその目標電圧と一致するようにデューティ比が調節される第2パルス信号を生成し、当該第2パルス信号にもとづき第2スイッチングトランジスタを駆動する第2制御回路と、を含む。
第2制御回路は、1次巻線に流れるコイル電流が所定のしきい値電流に達すると、パルス信号を、第2スイッチングトランジスタがオフするレベルに遷移させるよう構成される。また第2制御回路は、本電子機器の電源投入を契機としてスイッチング動作を開始するとともに、中間電圧が所定レベルより高いとき、しきい値電流を第1の値とし、中間電圧が所定レベルより低いとき、しきい値電流を第1の値より低い第2の値に設定するように構成される。第1制御回路は、マイコンからの動作開始の指示を契機として、スイッチング動作を開始するように構成される。
【0012】
電源投入の直後において、力率改善回路のスイッチング動作が行われず、中間電圧は、インダクタを介した出力キャパシタの充電によって、初期電圧レベルまで上昇する。一方、絶縁型DC/DCコンバータは電源投入後、直ちにスイッチング動作を開始する。このときの中間電圧は初期電圧レベルであり低いため、第2スイッチングトランジスタのオン時間は長くなるはずであるが、この態様では、1次巻線に流れるコイル電流と比較されるしきい値電流を第2の値に低下させることにより、第2スイッチングトランジスタのオン時間に制限を加える。力率改善回路は、マイコンからの指示を受けて動作を開始し、その結果、力率改善回路が生成する中間電圧は、正規の目標電圧レベルに向けて上昇し始める。そして中間電圧が所定レベルに達すると、絶縁型DC/DCコンバータにおいて、コイル電流と比較されるしきい値電流を第1の値に増大させることにより、第2スイッチングトランジスタのオン時間の制限を解除する。
【0013】
この態様によれば、絶縁型DC/DCコンバータの入力電圧、すなわち中間電圧が低い状態における第2スイッチングトランジスタでの電力損失を低減できる。すなわち、コイル電流と比較されるしきい値電流を固定した場合に比べて、第2スイッチングトランジスタのサイズを大幅に低減できる。
さらに絶縁型DC/DCコンバータが1系統であるため、従来よりも低コスト化でき、および/またはスペースを小さくできる。
【0014】
本発明の別の態様もまた、電源装置である。この電源装置は、交流電圧を全波整流する整流回路と、整流回路の出力電圧を受け、直流の中間電圧を生成する非絶縁型DC/DCコンバータを有し、その入力電流の位相が、整流された交流電圧の位相と一致するように動作する力率改善回路と、中間電圧を受け、そのレベルを変換する絶縁型DC/DCコンバータと、絶縁型DC/DCコンバータの出力電圧を受けて動作するマイコンと、を備える。
力率改善回路は、その第1端子に整流回路の出力電圧が印加されたインダクタと、インダクタの第2端子と接地端子の間に設けられた第1スイッチングトランジスタと、中間電圧がその目標電圧と一致するようにデューティ比が調節される第1パルス信号を生成し、当該第1パルス信号にもとづいて第1スイッチングトランジスタを駆動する第1制御回路と、を含む。
絶縁型DC/DCコンバータは、トランスと、トランスの1次巻線と接地端子の間に設けられた第2スイッチングトランジスタと、絶縁型DC/DCコンバータの出力電圧がその目標電圧と一致するようにデューティ比が調節される第2パルス信号を生成し、当該第2パルス信号にもとづき第2スイッチングトランジスタを駆動する第2制御回路を含む。第2制御回路は、1次巻線に流れるコイル電流が所定のしきい値電流に達すると、パルス信号を、第2スイッチングトランジスタがオフするレベルに遷移させるよう構成される。
第2制御回路は、本電子機器の電源投入を契機としてスイッチング動作を開始するとともに、電源投入から所定時間の経過後は、しきい値電流を第1の値とし、所定時間の経過前は、しきい値電流を第1の値より低い第2の値に設定するように構成される。第1制御回路は、マイコンからの動作開始の指示を契機として、スイッチング動作を開始するように構成される。
【0015】
この態様によっても、絶縁型DC/DCコンバータの入力電圧、すなわち中間電圧が低い状態において、第2スイッチングトランジスタでの電力損失を低減できるため、第2スイッチングトランジスタのサイズを大幅に低減できる。
さらに絶縁型DC/DCコンバータが1系統であるため、従来よりも低コスト化でき、および/またはスペースを小さくできる。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、電子機器である。この電子機器は、上述のいずれかの態様の電源装置を備える。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のある態様によれば、電源回路を低コスト化でき、および/または小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明者らが検討した比較技術に係る電源装置を有する電子機器の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態に係る電子機器の構成を示す回路図である。
【図3】図2の電源装置の動作を示すタイムチャートである。
【図4】図4(a)は、しきい値電流Ithの切りかえを行わない場合、図4(b)は、しきい値電流Ithの切りかえを行った場合の、絶縁型DC/DCコンバータのコイル電流Icの1周期の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0022】
図2は、実施の形態に係る電子機器1の構成を示す回路図である。
電子機器1は、たとえばテレビや冷蔵庫、エアコンなどの家電製品やコンピュータであり、特に限定されない。電子機器1は、電源装置2、マイコン3、負荷4を備える。電子機器1は、絶縁型DC/DCコンバータ30の絶縁トランスTRS1を境界として、互いに絶縁される1次側と2次側に分けられている。
【0023】
電子機器1は、全機能が停止する停止状態と、最小限の動作のみ可能なスタンバイ状態と、通常動作状態の3つの状態が切りかえ可能に構成される。
【0024】
マイコン3は、電子機器1全体を統合的に制御するプロセッサである。マイコン3は、スタンバイ状態および通常動作状態の両方において動作する。
【0025】
負荷4は、ディスプレイパネル、その駆動回路、照明、映像処理回路、音声処理回路をはじめとする、各種アナログ回路、デジタル回路を含む。
【0026】
電源装置2は、ヒューズ6、フィルタ8、整流回路10、PFC回路20、絶縁型DC/DCコンバータ30を備える。
フィルタ8は交流電圧Vacからノイズを除去する。整流回路10はダイオードブリッジ回路を含み、交流電圧Vacを全波整流する。全波整流された交流電圧Vac’は、PFC回路20に入力される。商用交流電圧Vac=100Vに対して、全波整流された交流電圧Vac’は、141V程度となる。
【0027】
PFC回路20は、非絶縁型の昇圧型DC/DCコンバータを有し、整流回路10の出力電圧Vac’を受け、直流の中間電圧Vo1を生成する。PFC回路20は、その入力電流Iacの位相が整流された交流電圧Vac’の位相と一致するように動作する。PFC回路20が動作する状態において、中間電圧Vo1は、目標電圧レベル(たとえば400V)付近に安定化される。
【0028】
PFC回路20が動作しない状態では、出力キャパシタC1が、インダクタL1および整流ダイオードD1を介して、全波整流された交流電圧Vac’によって充電される。したがってこのときの中間電圧Vo1は、全波整流された交流電圧Vac’に応じた初期電圧レベル(141Vよりわずかに低い電圧)となる。
【0029】
絶縁型DC/DCコンバータ30は、PFC回路20が生成する中間電圧Vo1を受け、そのレベルを変換する。上述のように、絶縁型DC/DCコンバータ30の入力電圧Vo1は、PFC回路20の動作の有無に応じて、初期電圧レベル141Vと、目標電圧レベル400Vと大きく変化することに留意すべきである。
【0030】
絶縁型DC/DCコンバータ30の出力電圧Vo2は、マイコン3およびその他の負荷4に供給される。マイコン3の電源端子と絶縁型DC/DCコンバータ30の出力端子の間、あるいは負荷4に含まれる各回路の電源端子と絶縁型DC/DCコンバータ30の出力端子との間には、電圧レベルを変換する別のDC/DCコンバータ(不図示)が設けられてもよい。
【0031】
具体的に、PFC回路20は、インダクタL1、第1スイッチングトランジスタM1、整流ダイオードD1、出力キャパシタC1、第1制御回路22を含む。
インダクタL1の第1端子には、整流回路10の出力電圧Vac’が印加される。第1スイッチングトランジスタM1は、インダクタL1の第2端子と接地端子の間に設けられる。出力キャパシタC1の第1端子は接地され、その第2端子は、PFC回路20の出力ラインと接続される。整流ダイオードD1のアノードは、インダクタL1の第2端子と接続され、整流ダイオードD1のカソードは出力ラインと接続される。PFC回路20のトポロジーは一般的なDC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)と同様であり、特に限定されない。
【0032】
第1制御回路22には、中間電圧Vo1に応じた電圧Vfb1がフィードバックされる。また、入力電圧Vac’を示す電圧検出信号S4と、入力電流Iacを示す電流検出信号S5が入力される。電圧検出信号S4、電流検出信号S5は、さまざまな方法によって生成可能であり、その手段は特に限定されない。たとえば電圧検出信号S4は、全波整流された交流電圧Vac’を分圧して生成してもよいし、交流電圧Vacを、ダイオードを用いて全波もしくは半波整流して生成してもよい。また電流検出信号S5としては、インダクタL1の電流の経路上、たとえば第1スイッチングトランジスタM1のソースと接地端子の間に検出抵抗Rs1を設け、その電圧降下を利用してもよいし、第1スイッチングトランジスタM1の電圧降下を利用してもよい。
【0033】
第1制御回路22は、そのイネーブル状態において、中間電圧Vo1がその目標電圧レベル(400V)と一致するように、かつ入力電流Iacの位相が、入力電圧Vac’の位相と一致するように、デューティ比が調節される第1パルス信号S1を生成する。第1制御回路22は、第1パルス信号S1にもとづいて第1スイッチングトランジスタM1を駆動する。
【0034】
マイコン3は、PFC回路20の動作、非動作を指示するイネーブル信号S3を、フォトカプラ40を介して、第1制御回路22へと出力する。第1制御回路22は、マイコン3からの指示に応じて、イネーブル状態とディスイネーブル状態が切りかえ可能に構成される。
【0035】
第1制御回路22の内部回路は、公知のPFC回路の制御回路を利用すればよく、特にその構成は限定されない。
【0036】
絶縁型DC/DCコンバータ30は、トランスTRS1、整流ダイオードD2、出力キャパシタC2、第2スイッチングトランジスタM2、第2制御回路32、補助コンバータ34を含む。
【0037】
トランスTRS1は、その1次側に設けられた1次巻線W1および補助巻線W3と、その2次側に設けられた2次巻線W2を有する。1次巻線W1の第1端子には、PFC回路20からの中間電圧Vo1が印加される。第2スイッチングトランジスタM2は、1次巻線W1の第2端子と接地端子の間に設けられる。
【0038】
2次巻線W2の第1端子は接地される。整流ダイオードD2は、2次巻線W2の第2端子と出力ラインの間に、カソードが出力ライン側となる向きで設けられる。出力キャパシタC2の第1端子は接地され、その第2端子は出力ラインと接続される。
【0039】
第1制御回路22には、その出力電圧Vo2に応じた電圧Vfb2が、フォトカプラ42を介してフィードバックされる。また、1次巻線W1に流れるコイル電流Ic1に応じた電流検出信号S6が入力される。
電流検出信号S6としては、コイル電流Ic1の経路上、たとえば第2スイッチングトランジスタM2のソースと接地端子の間に検出抵抗Rs2を設け、その電圧降下を利用してもよいし、第2スイッチングトランジスタM2の電圧降下を利用してもよい。電流検出信号S6は、さまざまな方法によって生成可能であり、その手段は特に限定されない。
【0040】
第2制御回路32は、そのイネーブル状態において、絶縁型DC/DCコンバータ30の出力電圧Vo2がその目標電圧と一致するようにデューティ比が調節される第2パルス信号S2を生成し、第2パルス信号S2にもとづき第2スイッチングトランジスタM2を駆動する。第2制御回路32は、1次巻線W1に流れるコイル電流Ic1が所定のしきい値電流Ithに達すると、パルス信号S2を、第2スイッチングトランジスタM2がオフするレベル(ローレベル)に遷移させるよう構成される。本実施の形態において、しきい値電流Ithは少なくとも2値で切りかえ可能となっている。
【0041】
第2制御回路32は、本電子機器の主電源の投入(交流電圧Vacの供給開始)、言い換えれば停止状態からスタンバイ状態への切りかえを契機としてスイッチング動作を開始する。そして、第2制御回路32は、中間電圧Vo1が所定レベルVxより高いとき、しきい値電流Ithを第1の値Ith1とし、中間電圧Vo1が所定レベルVxより低いとき、しきい値電流Ithを第1の値Ith1より低い第2の値Ith2に設定する。所定レベルVxは、中間電圧Vo1の初期電圧レベル(141V)より高く、かつ中間電圧Vo1の目標電圧レベル(400V)より低いかそれと同程度に設定される。好ましくは所定レベルVxは、300V〜400Vの間で設定してもよい。
【0042】
第1制御回路22は、その内部に中間電圧Vo1を所定レベルVxと比較するコンパレータ(不図示)を有してもよい。第1制御回路22は、コンパレータによって中間電圧Vo1が所定レベルVxに達するとアサート(たとえばハイレベル)される検出信号S7を、第2制御回路32に出力してもよい。第2制御回路32は、検出信号S7がアサートされると、しきい値電流Ithを第1の値Ith1に設定し、ネゲートされるとき第2の値Ith2に設定してもよい。
あるいは、第2制御回路32の内部に、コンパレータを設けてもよい。
【0043】
補助コンバータ34は、補助巻線W3、整流ダイオードD3、出力キャパシタC3を含む。第2制御回路32が第2スイッチングトランジスタM2のスイッチングを開始すると、出力キャパシタC3には、たとえば3V程度に安定化された直流電圧Vccが発生する。この直流電圧Vccは、第1制御回路22および第2制御回路32の電源電圧として利用される。なお、PFC回路20の動作開始前は、直流電圧Vccは発生しないが、この期間、第1制御回路22および第2制御回路32は、交流電圧VacあるいはVac’を電源電圧として動作する。
【0044】
以上が電子機器1の構成である。続いてその動作を説明する。
【0045】
図3は、図2の電源装置2の動作を示すタイムチャートである。上から順に、整流された交流電圧Vac’、イネーブル信号S3(第1制御回路22のイネーブル状態)、中間電圧Vo1、第2制御回路32のイネーブル/ディスイネーブル状態、絶縁型DC/DCコンバータ30の出力電圧Vo2が示される。本明細書における波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化されている。
【0046】
時刻t0に、主電源スイッチがオンし、電源装置2に交流電圧Vacが供給されると、PFC回路20には全波整流された交流電圧Vac’が入力される。この時点では、マイコンからの動作開始を指示するイネーブル信号S3は入力されないため、第1制御回路22はディスイネーブル状態(DIS)である。したがってPFC回路20の出力電圧Vo1は、141V付近まで上昇し、その後ほぼ一定値をとる。
【0047】
時刻t1に、第2制御回路32に対する電源電圧が、第2制御回路32が動作可能なレベルまで上昇すると、第2制御回路32がイネーブル状態となる。これにより出力電圧Vo2が目標電圧レベルまで上昇し始める。
【0048】
このとき、中間電圧Vo1は、所定レベルVxより低いため、検出信号S7はネゲートされており、したがってコイル電流Ic1と比較されるべきしきい値電流Ithは、第1の値Ith2に設定される。これにより絶縁型DC/DCコンバータ30は、第2スイッチングトランジスタM2のオン時間Ton2が短く制限された状態で動作する。そして時刻t2に、絶縁型DC/DCコンバータ30の出力電圧Vo2が目標電圧まで上昇する。これにより、電子機器1はスタンバイ状態となる。
【0049】
その後、時刻t3にスタンバイスイッチがオンされると、スタンバイ状態から通常動作状態に切りかえられ、マイコン3が、PFC回路20に対するイネーブル信号S3をアサートする。これを受けてPFC回路20の動作が開始し、中間電圧Vo1が目標電圧レベル400Vに向けて上昇し始める。つまりPFC回路20は、通常動作状態でのみ動作するようになっている。そして時刻t4に中間電圧Vo2が所定レベルVxに達すると、検出信号S7がアサートされ、第2制御回路32のしきい値電流Ithが第1の値Ith1に設定される。これにより、第2スイッチングトランジスタM2のオン時間Ton2の制限が解除される。
【0050】
以上が電源装置2の動作である。
【0051】
図2の電源装置2によれば、図1の電源装置2rと比べて、絶縁型DC/DCコンバータが1系統で済むため、コストおよび部品点数、回路面積を大幅に削減できる。
【0052】
ところで、図2の電源装置2では、単一の絶縁型DC/DCコンバータによってマイコン3および負荷4に電力を供給することから、絶縁型DC/DCコンバータ30はスタンバイ状態および通常動作状態において動作する。一方、PFC回路20は、消費電力の低減の観点から、スタンバイ状態では動作する必要がなく、通常動作状態のみイネーブルとすればよい。ところが上述のように、PFC回路20の出力電圧Vo1は、ディスイネーブル状態において初期電圧レベル(141V)、イネーブル状態において目標電圧レベル(400V)と大きく変化するため、絶縁型DC/DCコンバータ30の入力電圧は、非常に大きな範囲で変化することになる。
【0053】
図4(a)は、しきい値電流Ithの切りかえを行わない場合、図4(b)は、しきい値電流Ithの切りかえを行った場合の、絶縁型DC/DCコンバータのコイル電流Ic1の1周期の波形を示す図である。
【0054】
図2の電源装置2によるしきい値電流の切りかえの利点を明確とするために、まずは図4(a)を参照して、しきい値電流Ithのレベル切りかえを行わない場合の動作を説明する。
【0055】
コイル電流Ic1の傾きは、1次巻線W1の両端間の電圧、すなわち中間電圧Vo1に比例する。つまり、中間電圧Vo1が目標電圧レベル(400V)のときには、コイル電流Ic1の傾きは大きく、オン時間Tonが短くなり、中間電圧Vo1が初期電圧レベル(141V)のときには、コイル電流Ic1の傾きが小さく、オン時間Tonが長くなる。
【0056】
一般には、しきい値電流Ithは、絶縁型DC/DCコンバータ30のトランスTRS1および第1スイッチングトランジスタM1の保護の観点で定められるため、ある程度高い値に設定される。
【0057】
絶縁型DC/DCコンバータ30の消費電力Poは、式(1)で与えられる。
Po=1/2×L・I・fsw
=1/2×L・Vo1/L×Ton×fsw
=(Vo1/2L)×Ton×fsw …(1)
【0058】
すなわち、絶縁型DC/DCコンバータ30を2系統から1系統に減らすと、中間電圧Vo1が低いときのオン時間が長くなり、消費電力が大きくなるという問題が生ずる。なお、この問題を、本発明の分野における共通の一般知識の範囲として捉えてはならない。さらに言えば、上記問題は、本出願人がはじめて認識したものである。
【0059】
中間電圧が低い状態における消費電力を低減するためには、第2スイッチングトランジスタM2のサイズを大きく、そのオン抵抗を低くして損失を低減する必要があるが、これは絶縁型DC/DCコンバータ30のコストを大きく引き上げることになる。
【0060】
以下で説明するように、図2の電源装置2では、この問題を解決することができる。
図4(b)を参照し、図2の電源装置2による、しきい値電流Ithの切りかえ動作を説明する。中間電圧Vo1が低い状態において、しきい値電流Ithが第2の値Ith2に設定されると、第2スイッチングトランジスタM2のオン時間が短く制限される。
【0061】
これにより、式(1)で与えられる消費電力が小さくなり、第2スイッチングトランジスタM2のサイズを大きくする必要がなくなり、絶縁型DC/DCコンバータ30のコストおよび回路面積の増大を抑制できる。
【0062】
そして中間電圧Vo1が十分に高くなった後は、しきい値電流Ithを十分に高いレベルIth1まで増加させることにより、第1スイッチングトランジスタM1およびトランスTRS1に信頼性に影響を及ぼさない範囲で、効率よく動作させることができる。
【0063】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0064】
実施の形態では、中間電圧Vo1と所定レベルVxの比較結果にもとづき、しきい値電流Ithを切りかえる場合を説明したが、しきい値電流Ithの切りかえ手段はそれには限定されない。
起動開始後に、中間電圧Vo1が、所定レベルVxに達するまでの時間は、予め予測することができる。そこで第2制御回路32は、電源投入から所定時間の経過後は、しきい値電流Ithを第1の値Ith1とし、所定時間の経過前は、しきい値電流Ithを第1の値Ith1より低い第2の値Ith2に設定するように構成してもよい。所定の時間は、タイマー回路によって測定してもよい。
【0065】
実施の形態では、PFC回路20をスタンバイ状態では動作しないようにし、通常動作状態でのみ動作するようになっているが、本発明はそれに限定されない。絶縁型DC/DCコンバータ30の出力電圧Vo2が目標レベルに到達すると、マイコン3は直ちにPFC回路20を動作状態とするために、第1制御回路22に対してイネーブル信号S3を出力してもよい。
【0066】
実施の形態では、第1制御回路22と第2制御回路32が別々のICとして構成される場合を説明したが、これらはひとつの半導体基板に集積化されてもよい。
【0067】
実施の形態では、DC/DCコンバータ100が電子機器1に搭載される場合を説明したが、本発明はそれに限定されず、さまざまな電源装置に適用することができる。たとえばDC/DCコンバータ100は、電子機器に電力を供給するACアダプタにも適用可能である。この場合の電子機器としては、ラップトップ型コンピュータ、デスクトップ型コンピュータ、携帯電話端末、CDプレイヤなどが例示されるが、特に限定されない。
【0068】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0069】
1…電子機器、2…電源装置、3…マイコン、4…負荷、6…ヒューズ、8…フィルタ、10…整流回路、20…PFC回路、22…第1制御回路、L1…インダクタ、D1…整流ダイオード、C1…出力キャパシタ、M1…第1スイッチングトランジスタ、30…絶縁型DC/DCコンバータ、32…第2制御回路、34…補助コンバータ、TRS1…トランス、W1…1次巻線、W2…2次巻線、W3…補助巻線、D2…整流ダイオード、C2…出力キャパシタ、M2…第2スイッチングトランジスタ、D3…整流ダイオード、C3…出力キャパシタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を全波整流する整流回路と、
前記整流回路の出力電圧を受け、直流の中間電圧を生成する非絶縁型DC/DCコンバータを有し、その入力電流の位相が、整流された前記交流電圧の位相と一致するように動作する力率改善回路と、
前記中間電圧を受け、そのレベルを変換する絶縁型DC/DCコンバータと、
前記絶縁型DC/DCコンバータの出力電圧を受けて動作するマイコンと、
を備え、
前記力率改善回路は、
その第1端子に前記整流回路の出力電圧が印加されたインダクタと、
前記インダクタの第2端子と接地端子の間に設けられた第1スイッチングトランジスタと、
前記中間電圧がその目標電圧と一致するようにデューティ比が調節される第1パルス信号を生成し、当該第1パルス信号にもとづいて前記第1スイッチングトランジスタを駆動する第1制御回路と、
を含み、
前記絶縁型DC/DCコンバータは、
トランスと、
前記トランスの1次巻線と接地端子の間に設けられた第2スイッチングトランジスタと
前記絶縁型DC/DCコンバータの出力電圧がその目標電圧と一致するようにデューティ比が調節される第2パルス信号を生成し、当該第2パルス信号にもとづき前記第2スイッチングトランジスタを駆動する第2制御回路であって、前記1次巻線に流れるコイル電流が所定のしきい値電流に達すると、前記パルス信号を、前記第2スイッチングトランジスタがオフするレベルに遷移させるよう構成された、第2制御回路と、
を含み、
前記第2制御回路は、本電子機器の電源投入を契機としてスイッチング動作を開始するとともに、前記中間電圧が所定レベルより高いとき、前記しきい値電流を第1の値とし、前記中間電圧が所定レベルより低いとき、前記しきい値電流を前記第1の値より低い第2の値に設定するように構成され、
前記第1制御回路は、前記マイコンからの動作開始の指示を契機として、スイッチング動作を開始するように構成されることを特徴とする電源装置。
【請求項2】
交流電圧を全波整流する整流回路と、
前記整流回路の出力電圧を受け、直流の中間電圧を生成する非絶縁型DC/DCコンバータを有し、その入力電流の位相が、整流された前記交流電圧の位相と一致するように動作する力率改善回路と、
前記中間電圧を受け、そのレベルを変換する絶縁型DC/DCコンバータと、
前記絶縁型DC/DCコンバータの出力電圧を受けて動作するマイコンと、
を備え、
前記力率改善回路は、
その第1端子に前記整流回路の出力電圧が印加されたインダクタと、
前記インダクタの第2端子と接地端子の間に設けられた第1スイッチングトランジスタと、
前記中間電圧がその目標電圧と一致するようにデューティ比が調節される第1パルス信号を生成し、当該第1パルス信号にもとづいて前記第1スイッチングトランジスタを駆動する第1制御回路と、
を含み、
前記絶縁型DC/DCコンバータは、
トランスと、
前記トランスの1次巻線と接地端子の間に設けられた第2スイッチングトランジスタと、
前記絶縁型DC/DCコンバータの出力電圧がその目標電圧と一致するようにデューティ比が調節される第2パルス信号を生成し、当該第2パルス信号にもとづき前記第2スイッチングトランジスタを駆動する第2制御回路であって、前記1次巻線に流れるコイル電流が所定のしきい値電流に達すると、前記パルス信号を、前記第2スイッチングトランジスタがオフするレベルに遷移させるよう構成された、第2制御回路と、
を含み、
前記第2制御回路は、本電子機器の電源投入を契機としてスイッチング動作を開始するとともに、前記電源投入から所定時間の経過後は、前記しきい値電流を第1の値とし、前記所定時間の経過前は、前記しきい値電流を前記第1の値より低い第2の値に設定するように構成され、
前記第1制御回路は、前記マイコンからの動作開始の指示を契機として、スイッチング動作を開始するように構成されることを特徴とする電源装置。
【請求項3】
前記第1制御回路と前記第2制御回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されることを特徴とする請求項1または2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記第1制御回路と前記第2制御回路は、別々の半導体基板に集積化され、
前記第1制御回路は、前記中間電圧が所定レベルに達したことを検出し、検出結果を前記第2制御回路に通知可能に構成されることを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電源装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−244771(P2012−244771A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112550(P2011−112550)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】