説明

電界形成素子と電界形成素子の製造方法と光偏向素子及び画像表示装置

【課題】基板面に沿った電界を発生させるための抵抗膜の発生する電界方向の抵抗率分布を補正して均一な電界を発生させる。
【解決手段】基板2と、基板2の表面に形成された抵抗膜3と、抵抗膜3の長さ方向の両端部に電気的に接続された1対のライン状電極4a,4bとを有し、1対のライン状電極4a,4bに電圧を印加して抵抗膜3に電流を流して電位勾配を形成し、基板2面に沿った電界を発生させる電界形成素子1において、基板2の表面に形成して電位勾配を発生させる抵抗膜3の幅を長さ方向に対して異ならせて、抵抗膜3の単位長さ当たりの抵抗値を均一にして、長さ方向に均一な電界を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抵抗体に電流を流すことで発生する電位勾配を利用して面内電界を形成する電界形成素子と電界形成素子の製造方法と、電界形成素子を使用して光の方向を変える光偏向素子及び光偏向素子を使用したプロジェクションディスプレイやヘッドマウントディスプレイ等の画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶分子の配列を電極基板面内に沿って生じる電界により変化させて広視野角特性を有する画像表示装置が、例えば特許文献1に開示されている。この画像形成装置に使用している光偏向素子は、液晶層を挟んだ透明基板の表面に透明な電界形成用の抵抗膜と、抵抗膜の両端部に接続する1対のライン状電極を設け、1対のライン状電極に外部の電源から電圧を印加して抵抗膜に電流を流すと1対のライン状電極間に基板面に沿った電界すなわち水平電界を生じさせて、液晶層の内部に強制的に電位勾配を作り、素子の全面で比較的均一な電界強度を得て液晶層を透過する光を均一にシフトさせるようにしている。この1対のライン状電極間に生じる電界をより均一にするため、抵抗膜に1対のライン状電極と平行な低抵抗の等電位部を設け、この等電位部により基板面に沿った電界と直交する基板面に沿った方向、すなわちライン状電極と平行な方向に電位を揃えて電界のライン状電極と平行な方向の成分を零にして、1対のライン状電極により抵抗膜に形成される等電位線をライン状電極に対して平行に近づけるようにしている。
【0003】
この電位勾配を生じさせる抵抗膜は、特許文献2に示すようにスパッタや真空蒸着等の物理的堆積法、化学的堆積法、塗布法やゾル-ゲル法等の液相成長法などによって基板面上に形成される。特に、抵抗値の制御が容易で膜厚や抵抗率の均一性が比較的良いことから物理的堆積法がよく用いられる。この抵抗膜を所望の抵抗値にするため、特許文献2には、抵抗膜を成膜し、その抵抗値を測定し、測定した抵抗値に基づいて所望の抵抗値が得られるように他の抵抗膜の電極形状を決定するようにしている。
【特許文献1】特開2006−126682号公報
【特許文献2】特開平5−315109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示すように、抵抗膜に1対のライン状電極と平行な低抵抗の等電位部を設けてライン状電極と平行な方向に電位を揃えるようにしても、抵抗膜は成膜時の条件により体積抵抗率や膜厚が不均一に分布する。抵抗膜の電界発生方向に抵抗率が不均一であると電界の強い個所と弱い個所ができてしまい、電界発生効率が悪くなり、素子の特性が劣化するという短所がある。
【0005】
また、特許文献2に示す方法で抵抗膜を形成しても、所望の抵抗値を得ることはできるが、抵抗膜の抵抗率分布を均一にすることはできず、この抵抗膜を電界発生に使用しても、均一な電界を発生することはできない。
【0006】
この発明は、このような短所を改善し、基板面に沿った電界を発生させるための抵抗膜の発生する電界方向の抵抗率分布を補正して均一な電界を発生することができる電界形成素子と電界形成素子の製造方法と、電界形成素子を使用した光偏向素子及び画像表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の電界形成素子は、基板と、該基板の表面に形成された抵抗膜と、該抵抗膜の長さ方向の両端部に電気的に接続された1対のライン状電極とを有し、前記1対のライン状電極に電圧を印加して前記抵抗膜に電流を流して電位勾配を形成し、前記基板面に沿った電界を発生させる電界形成素子において、前記抵抗膜は、幅を長さ方向に対して異ならせたことを特徴とする。
【0008】
この発明の他の電界形成素子は、基板と、該基板の表面の一部に形成された抵抗膜と、該抵抗膜の長さ方向の両端部に電気的に接続された1対のライン状電極と、前記基板の表面に形成され、一方の端部が前記抵抗膜に電気的に接続された複数のライン状導電膜とを有し、前記1対のライン状電極に電圧を印加して前記抵抗膜に電流を流して電位勾配を形成し、前記基板面に沿った電界を発生させる電界形成素子において、前記抵抗膜は、幅を長さ方向に対して異ならせたことを特徴とする。
【0009】
前記抵抗膜の幅を、長さ方向の一方の端部から他方の端部に向けて線型に増加させたり、あるいは長さ方向の一端部から中間部までは線型に減少し、中間部から他端部までは線型に増加させたり、または長さ方向に沿った一方の辺は一方の端部から他方の端部に向けて線型に増加し、長さ方向に沿った他方の辺は円弧により窪ませて長さ方向に対して異ならせると良い。
【0010】
この発明の電界形成素子の製造方法は、基板ホルダの成膜領域に基板を配置し、前記基板ホルダを回転させながら前記基板上に物理的堆積法を用いて抵抗膜を形成した後、該抵抗膜を前記基板ホルダの回転中心に対する成膜領域の配置に応じてエッチングして幅を長さ方向に対して異ならせることを特徴とする。
【0011】
前記基板上に成膜した抵抗膜をエッチングするとき、成膜した抵抗膜の単位長さ当たりの抵抗値が均一になるように前記抵抗膜の形状を決定すると良い。
【0012】
この発明の光偏向素子は、前記電界形成素子を1対有し、該1対の電界形成素子を対向して配置した間隔内にキラルスメクチックC相を形成する液晶層を有することを特徴とする。
【0013】
この発明の画像表示装置は、前記光偏向素子を有し、画像情報にしたがって光を制御可能な複数の画素が2次元的に配列した画像表示素子と、前記画像表示素子を照明する照明光学系と、前記光偏向素子と、前記画像表示素子から出射された画像光を偏向して投影する投影光学系とを有し、前記光偏向素子が前記画像表示素子と投影光学系との間に設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、基板の表面に形成して電位勾配を発生させる抵抗膜の幅を長さ方向に対して異ならせて抵抗膜の単位長さ当たりの抵抗値を均一にすることにより、長さ方向に均一な電界を発生させることができる。
【0015】
また、基板の表面の一部に形成した抵抗膜とライン状電極の間に複数のライン状導電膜を設けることにより、ライン状導電膜が形成されている領域においても電位勾配を発生させて長さ方向に均一な電界を発生させることができる。さらに、抵抗膜の幅を電界発生領域よりも狭く設定することにより、広い電界形成領域で抵抗率が不均一に分布することを抑えることができ、電界の均一性を確保することができる。
【0016】
また、抵抗膜の幅を、長さ方向の一方の端部から他方の端部に向けて線型に増加させたり、あるいは長さ方向の一端部から中間部までは線型に減少し、中間部から他端部までは線型に増加させたり、または長さ方向に沿った一方の辺は一方の端部から他方の端部に向けて線型に増加し、長さ方向に沿った他方の辺は円弧により窪ませて長さ方向に対して異ならせて抵抗膜の単位長さ当たりの抵抗値を均一にすることにより、長さ方向に均一な電界を発生させることができる。
【0017】
また、基板ホルダの成膜領域に基板を配置し、基板ホルダを回転させながら基板上に物理的堆積法を用いて抵抗膜を形成した後、抵抗膜を基板ホルダの回転中心に対する成膜領域の配置に応じてエッチングして幅を長さ方向に対して異ならせることにより、単位長さ当たりの抵抗値を均一にした抵抗膜を形成することができ、発生する電界の均一性を向上させることができる。
【0018】
さらに、基板上に成膜した抵抗膜をエッチングするとき、成膜した抵抗膜の単位長さ当たりの抵抗値が均一になるように抵抗膜の形状を決定することにより、発生する電界の均一性を確保することができる。
【0019】
この電界形成素子とキラルスメクチックC相を形成する液晶層で光偏向素子を形成することにより、応答速度が速く安定した動作で光路を偏向させることができる。
【0020】
この光変偏向素子を画像表示装置に使用し、画像情報にしたがって光を制御可能な複数の画素が2次元的に配列した画像表示素子から出射された画像光を偏向して投影することにより、画素数の少ない画像表示素子を用いても高精細で性能の安定した画像を表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1はこの発明の電界形成素子の構成を示す正面図である。電界形成素子1は基板2と電界形成用の抵抗膜3及び1対のライン状電極4a,4bを有する。基板2は誘電体で形成されており、例えばガラスやプラスリック、セラミック、ゴムなどが使用される。抵抗膜3は基板2の表面に成膜された金属膜、金属酸化物膜、金属窒化物膜、サーメット膜及び金属や金属酸化物等の半導体材料の導電性粉末や微粒子を有する薄膜で形成され、1対のライン状電極4a,4bは抵抗膜3の電界を発生させる方向であるX方向の両端部に電気的に接続されている。
【0022】
この電界形成素子1のライン状電極4a,4b間に電源5から電圧を印加すると、抵抗膜3のX方向に電流が流れ、その内部及び表面に電位勾配が発生して基板2面に沿った電界が得られる。このライン状電極4a,4bに印加する電圧の極性を切り替えると電界の方向を反転させることができる。
【0023】
この電界形成素子1の電界形成用の抵抗膜3について説明する。例えば、図2(a)に示すように、抵抗膜3の電界を発生させたい方向であるX方向に長さLを定義し、抵抗膜3の面内でX方向と直交するY方向に対して幅Wを定義し、幅Wを長さL方向に対して一定にして、単位長さDごとに抵抗膜3を分割して考えたとき、区切られた各領域をX方向に通過する電流量は等しいので、各領域における電位勾配すなわち電圧降下量は、単位長さD当たりの抵抗値RDに比例する。この抵抗値RDは、図2(b)に示すように、抵抗膜3の単位長さDごとに抵抗測定用のライン状端子100a,100bを取り付けて抵抗計で測定した値である。この単位長さDごとの領域における抵抗膜3の平均的な体積抵抗率をRv、平均的な膜厚をTとすると、単位長さD当たりの抵抗値RDは下記(1)式で表される。ここでRsは表面抵抗率であり、Rs=Rv/Tである。
RD=Rv×D/(T×W)=Rs×D/W (1)
この抵抗膜3の抵抗率は成膜時の条件などに依存して不均一に分布する。例えば図3(a)のX方向における単位長さ当たりの抵抗値の変化特性に示すように、抵抗膜3のX方向に表面抵抗率が線型増加する場合、X方向の電位分布は、図3(b)に示すように非線型に増加し、X方向の電界強度は、図3(c)に示すように変化してしまう。図2に示すように抵抗膜3が等幅Wに成膜されている場合は、単位長さ当たりの抵抗値の変化と表面抵抗率の変化は一致し、このため均一な電界を発生することは困難である。
【0024】
そこで電界形成素子1は、電解形成用に抵抗膜3の表面抵抗率Rsが不均一に分布することを修正して単位長さD当たりの抵抗値をほぼ等しくするように抵抗膜3の幅Wを異ならせている。すなわち、(1)式から明らかなように、抵抗膜3の幅Wを表面抵抗率Rsに比例するように設定すれば、単位長さ当たりの抵抗値を一定にすることができ、均一な電界を発生することができる。例えば図3(a)に示すように、抵抗膜3の電界を発生させたい方向であるX方向に抵抗率が線型増加して1.5倍に達する変化がある場合、図4(a)に示すように、抵抗膜3の幅WもX方向に線型に増加させ、この幅Wの増加率を抵抗率の増加に比例するように決定すれば良い。このように抵抗膜3の幅Wを変化させることにより、X方向の電位を、図4(b)に示すように線型に増加させることができ、X方向の電界強度を、図4(c)に示すように均一に分布させることができる。したがって電界形成素子1の特性を向上することができる。
【0025】
この抵抗膜3の形成には、一般的に用いられる真空蒸着法やスパッタ法で基板を回転させながら成膜する。この基板を回転させながらの成膜は簡易的なバッチ式の真空成膜装置でよく用いられる方式である。このように基板を回転させながら抵抗膜3を成膜すると、成膜装置や条件にも依存するが、一般的には回転の半径方向に表面抵抗率の分布が生じやすく、多くの場合、回転中心から遠いほど表面抵抗率は高くなる。例えば図5(a)に示すように、基板を回転する基板ホルダ6の半径に基板の長さ方向を沿わせて配置して矩形の成膜領域7aを定めた場合、この成膜領域7aに成膜された抵抗膜3の回転中心からの距離は抵抗膜3の長さ方向に対して単調に増加するため、表面抵抗率は、図5(b)の単位長さ当たりの抵抗値の分布特性の実線Aに示すように単調増加する傾向がある。この場合、抵抗膜3の幅を、図1に示すように、長さ方向の一端から他方の端に向けて線型に増加させると、表面抵抗率の変化を効果的に相殺することができる。また抵抗膜3の幅の増加率を表面抵抗率の増加率を基に決定することによりX方向の電界強度の均一性を向上することができる。
【0026】
また、図5(a)に示すように、成膜領域7bを基板を長さ方向が基板ホルダ6の半径と直交するように配置した場合、この成膜領域7bは半径と一致するA点、すなわち中心部分において回転中心からの距離が最も短いため、成膜領域7bに成膜された抵抗膜3は、図5(b)の点線Bに示すように、中心部分において表面抵抗率が最小となる分布になりやすい。この場合、図6に示すように、抵抗膜3の幅を一方の端部から中心までは線型に減少し、中心から他方の端部までを線形に増加にすると良い。
【0027】
また、基板形状や後工程の制約などを受け、成膜領域7cが図5(a)に示すように変則的な位置に配置される場合もある。この場合、抵抗率分布は成膜領域7a,7bの場合と異なり、例えば図5(b)の実線Aで示した分布特性Aと点線Bで示した分布特性を合成したような複雑になる。この表面抵抗率の分布は、多くの場合、そのその変化量は長さ方向の座標に対する一次関数と二次関数の和で近似でき、抵抗膜3の幅を円弧と直線によって規定することにより、単位長さ当たりの抵抗値の均一性を向上させることができる。すなわち、図5(c)に示すように、抵抗膜3の両端部の異なる幅を定める長さ方向の傾きを一次関数で表される変化分を基に決定し、図5(d)に示すように、二次関数で表される抵抗膜3の中間部の幅の変化分は、円弧の中心位置と半径を適宜決定することにより、表面抵抗率の分布を均一にすることができる。
【0028】
そこで基板を基板ホルダ6の所定の成膜領域に配置して回転させながら任意の形状の抵抗膜を形成した後、配置した成形領域に応じてエッチングして所望の形状の抵抗膜3を形成すれば良い。また、同じ条件で抵抗膜3の成膜を繰り返した際に、表面抵抗率の分布に十分な再現性がある場合は、最初に表面抵抗率の分布を求めて抵抗膜3の形状を決定し、決定した形状の開口部を持つマスクを用いて抵抗膜3を成膜するとエッチング等の後工程を必要とせず、簡易な方法で均一性の良い抵抗膜3を形成することができる。
【0029】
次にこの発明の第2の電界形成素子1aについて説明する。電界形成素子1aは、図7の平面図に示すように、基板2と基板2の表面に形成された抵抗膜3と、抵抗膜3に電圧を印加するためのライン状電極4a,4bと、基板2に形成された複数のライン状導電膜8a〜8fで構成されている。抵抗膜3は電界形成素子1aと同様に単位長さ当たりの抵抗値が等しくなるように、幅を場所によって異ならせて、基板2の表面の一部に形成されている。複数のライン状導電膜8a〜8fは、ライン状電極4a,4bの間に設けられ、一部が抵抗膜3に積層されて電気的に接続されている。
【0030】
この電界形成素子1aは、基板2の表面の一部に形成した抵抗膜3とライン状電極4a,4bの間に設けられた複数のライン状導電膜8a〜8fの領域を電界形成領域とする。すなわち、ライン状電極4a,4bに電圧を印加して抵抗膜3に電流を流すと、抵抗膜3に電位勾配が形成される。このとき、ライン状導電膜8a〜8fの電位は、抵抗膜3の接続された部位における電位と等しくなり、抵抗膜3の電位を、抵抗膜3が成膜されていない領域まで引き出してライン状導電膜8a〜8fが形成されている領域においても電位勾配を発生させることができる。この領域における電位は離散的に変化するものであるが、ライン状導電膜8a〜8fの幅や間隔を適切に選ぶことで水平電界を形成することができる。
【0031】
この電界形成素子1aは、抵抗膜3の幅を水平電界発生領域よりも狭く設定できるから、電界形成方向と直交するY方向の抵抗率が不均一に分布することを抑制することができる。また、電界形成方向であるX方向の抵抗率分布は単位長さ当たりの抵抗値が等しくなるように抵抗膜3の幅を異ならせているから、X方向とY方向の両方向で抵抗率が不均一に分布することを抑えることができ、広い電界形成領域でも確実に電界の均一性を確保することができる。
【0032】
次に電界形成素子1を使用した光偏向素子について説明する。図8は電界形成素子1を使用した光偏向素子11の構成を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図である。光偏向素子11は、2組の電界形成素子1と配向膜12と4個のスペーサ13及び液晶層14を有する。配向膜12は、各電界形成素子1の基板2の抵抗膜3とライン状電極4a,4bを有する面に形成され、この配向膜12を内側にして2個の電界形成素子1の基板2はスペーサ13により一定間隔をおいて貼り合わされている。この対向して配置した配向膜12の間にキラルスメクチックC相を形成する液晶層14が充填されている。配向膜12は液晶分子を配向膜12に対して垂直方向に配向させる垂直配向膜であり、キラルスメクチックC相を形成する液晶分子の層構造の層法線方向が基板2の面に対してほぼ垂直となるように構成されている。この配向膜12としては、シランカップリング剤や市販の液晶用垂直配向剤などを用いることができる。スペーサ13は、厚さが数μm〜100μm程度の厚さのフィルムや、直径が数μm〜100μm程度の球状体などで形成されている。
【0033】
ここで液晶層14について詳細に説明する。スメクチック液晶は液晶分子の長軸方向を層状に配列してなる液晶層である。このような液晶に関し、層の法線方向(層法線方向)と液晶分子の長軸方向とが一致している液晶をスメクチックA相、法線方向と一致していない液晶をスメクチックC相という。スメクチックC相よりなる強誘電性液晶は、一般的に外部電界が働かない状態において各層毎に液晶ダイレクタ方向が螺旋的に回転しているいわゆる螺旋構造をとり、キラルスメクチックC相と呼ばれる。また、キラルスメクチックC相の反強誘電液晶は各層毎に液晶ダイレクタが対向する方向を向く。これらのキラルスメクチックC相よりなる液晶は、不斉炭素を分子構造に有し、これによって自発分極しているため、この自発分極Psと外部電界Eにより定まる方向に液晶分子が再配列することで光学特性が制御される。
【0034】
ここで光偏向素子11の液晶層14として強誘電性液晶を使用した場合について説明するが、反強誘電液晶も同様に使用することができる。キラルスメクチックC相よりなる強誘電液晶の構造は、主鎖、スペーサ、骨格、結合部、キラル部などよりなる。主鎖構造としてはポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリシロキサン、ポリオキシエチレンなどが利用可能である。スペーサは分子回転を担う骨格と結合部及びキラル部を主鎖と結合させるためのものであり、適当な長さのメチレン鎖等が選ばれる。また、カイラル部とビフェニル構造など剛直な骨格とを結合する結合部には(−COO−)結合等が選ばれる。キラルスメクチックC相よりなる強誘電性液晶層14は配向膜12により基板2面に垂直に分子螺旋回転の回転軸が向いており、いわゆるホメオトロピック配向をなす。
【0035】
この光偏向素子11の2組の相対する電界形成素子1のライン状電極4a,4b間に電圧を印加すると、各抵抗膜3に電流が流れ、抵抗膜3の内部及び表面に電位勾配が発生する。この電位勾配は、図8(a)のX方向に対して直線的な分布となり、液晶層14内部にX方向の均一な電界すなわち配向膜12と並行な水平電界が発生する。このライン状電極4a,4bに印加する電圧の極性を切り替えることにより液晶層14内部の水平電界の向きを切り替えることができる。この水平電界の切り替えによって、液晶層14の平均的な光学軸の傾斜方向が変化し、ライン状のライン状電極4a,4bに平行な方向に直線偏光した入射光は液晶層14の厚さ及び液晶分子の常光/異常光屈折率に応じた光路シフトを受けて偏向する。この光の偏向はライン状電極4a,4bに印加する電圧の極性を切り替えることにより、図8(b)に示すように第1出射光と第2出射光のように切り替えることができる。このように光を偏向させるために液晶層14に水平電界を発生させるとき、抵抗膜3は単位長さ当たりの抵抗値が等しくなるように幅を異ならせてあるから、X方向の水平電界の均一性を向上させて光偏向の効率を高めることができる。また、電界の不均一性に起因する素子特性の劣化も防ぐことができ、光学特性を向上させることができる。
【0036】
図9は第2の電界形成素子1aを使用した光偏向素子11aの構成を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面図である。この光偏向素子11aは電界形成素子1aを使用した以外は光偏向素子11と全く同じ構成である。この光偏向素子11aは光偏向素子11と比較して、同じ面積で光偏向を行う場合でも、抵抗膜3の成膜範囲が狭い電界形成素子1aを使用しているから、X方向とY方向の両方向で抵抗率は不均一に分布することを抑えて広い領域でも確実に電界の均一性を確保することができ、均一な光偏向を効率良き行うことができる。
【0037】
次に、光偏向素子11や光偏向素子11aを使用した画像表示装置について説明する。画像表示装置20の光学系は、図10の構成図に示すように、LEDランプを2次元アレイ状に配列した光源21と、光源21から出射した光の光路に沿って配置された拡散板22とコンデンサレンズ23と透過型液晶パネル24と、光偏向素子11又は光偏向素子11aを有する光偏向手段25及び投射レンズ26が順に配設されている。駆動手段は、光源21を駆動する光源駆動制御部27と、透過型液晶パネル24を駆動するパネル駆動制御部28及び光偏向手段25を駆動する光偏向駆動制御部29及び主制御部30を有する。
【0038】
この画像表示装置20でスクリーン31に画像を投影するときは、光源駆動制御部27で制御されて光源21から出射された照明光は拡散板22により均一化された照明光となりコンデンサレンズ23に入射する。コンデンサレンズ23は入射した光によりパネル駆動制御部28で光源21と同期して制御される透過型液晶パネル24をクリティカル照明する。この透過型液晶パネル24は入射した照明光を空間光変調して画像光として光偏向手段25に入射し、この光偏向手段25は入射した画像光が画素の配列方向に任意の距離だけシフトして投射レンズ26に入射する。投射レンズ26は入射した光を拡大してスクリーン31に投射する。
【0039】
このようにして光偏向手段25により画像フィールドを時間的に分割した複数のサブフィールド毎の光路の偏向に応じて表示位置がずれている状態の画像パターンをスクリーン31に表示させることにより、透過型液晶パネル24の見掛け上の画素数を増倍して表示することができる。この光偏向手段25によるシフト量は透過型液晶パネル24の画素の配列方向に対して2倍の画像増倍を行うことから、画素ピッチの1/2に設定される。このシフト量に応じて透過型液晶パネル24を駆動する画像信号をシフト量分だけ補正することにより、画素数の少ない透過型液晶パネル24を用いても見掛け上高精細な画像を安定して表示することができる。
【実施例】
【0040】
[実施例1] 大きさ5cm×6cm、厚さ1mmのガラス板の基板2上に、導電膜を成膜して一対のライン状電極4a,4bとした。このライン状電極4a,4bは基板2の短辺に平行で5cmの間隔をあけて配置した。次に、図2に示すように、幅Wが一定の透光性酸化物からなる抵抗膜3をバッチ式のスパッタ装置を用いて基板2を回転させながら成膜した。この抵抗膜3の成膜領域は幅Wを4cm、長さLを5.5cmとし、一部はライン状電極4a,4bに積層させて図1に示す電界形成素子1と類似の電界形成素子を形成した。
【0041】
この電界形成素子のライン状電極4aに200Vの直流電圧を印加し、他方のライン状電極4bを接地して抵抗膜3の表面電位を非接触表面電位計で測定して電位のX方向(電界方向)依存性から抵抗膜3の抵抗率分布を求めたところ、図3(a)に示すような分布が得られた。そこで、抵抗膜3の幅を図4(a)に示すように定めて抵抗膜3をエッチングして、再度、表面電位の測定から抵抗率分布を求めたところ、均一な抵抗率分布を得ることができた。
【0042】
[実施例2] 大きさ8cm×6cm、厚さ1mmのガラス板を基板2とし、一方の面上の光路を含む領域に複数のライン状の透明導電膜8を200μmピッチで形成し、両端のライン状導電膜には電源に接続できる部位を設けてライン状電極4a,4bとした。このライン状導電膜8を電気的に直列につなぐ領域にスパッタ法の回転成膜によってサーメット抵抗膜3を形成した。この抵抗膜3の幅は5mmで一定として図7に示す電界形成素子1aに類似する電界形成素子を作製した。
【0043】
そして2mmごとのライン状導電膜8を選んでその間の抵抗値をテスターで測定して得られた抵抗値のX方向依存性は図5(b)の実線Aに示すようになった。そこで図5(c)の抵抗膜3と同様な形状のマスクを作製し、これを用いて別のライン状導電膜8を有する付基板に抵抗膜3を成膜した。この抵抗膜3の幅は短い方を3mm、長い方を6mmとして線型に増加させた。そして抵抗値の分布を測定したところ図5(b)の点線Bに示すようになり、抵抗率の均一性は±38%から±5%に向上した。
【0044】
[実施例3] また、図5(d)の抵抗膜3と同様な形状のマスクを作製し、これを用いて別のライン状導電膜8を有する付基板に抵抗膜3を成膜した。この場合、抵抗膜3の幅は短い方を3mm、長い方を6mmとして線型に増加させ、円弧の曲率半径を46cmと定めた。そして前記と同様に抵抗値を測定した結果、抵抗値の分布は図5(b)の破線Cに示すようになり、抵抗率の均一性を±1%内にすることができた。
【0045】
[実施例4] 実施例3の電界形成素子を1対使用し、抵抗膜3の表面をシランカップリング剤で処理し、垂直配向膜12を形成した。次に、厚さ50μmのマイラーシートをスペーサ13とし、垂直配向膜12を内面にして二枚の基板2を張り合わせ、配向膜12間に強誘電性液晶を毛管法にて注入して液晶層14を形成し、冷却後、接着剤で封止して光偏向素子11aを形成した。
【0046】
この光偏向素子11aの入射面側に5μm幅のライン/スペースのマスクパターンを設け、このマスクパターンを通して直線偏光で照明した。直線偏光の向きは、ライン状状導電膜8の長手方向と同一に設定した。マスクパターンと光偏向素子11aを透過した光を顕微鏡で観察したところ、無電界時にはマスクパターンがそのまま観察された。そして一方のライン状電極4aを接地し、他方のライン状電極4bに+2000Vの電圧を印加したところ、ライン/スペースパターンがライン状状導電膜8の長手方向に約2.5μmシフトして観察された。マスクパターンや光偏向素子1a及び顕微鏡は機械的に静止しているので、電気的に光路がシフトしていることが確認できた。また、ライン状電極4bに−2000Vの電圧を印加したところ、逆方向に約2.5μmシフトした。
【0047】
さらに、ライン状電極4a,4bに±2000Vの矩形波電圧を印加したところ、ピーク対ピークで約5μmの光路シフトが確認できた。この場合、ライン/スペースの幅が5μmであるため、あたかもラインとスペースの明暗が反転するように観察された。すなわち、5μm幅のスペース部分をライトバルブのピクセルとすれば、簡単な構成の光偏向素子1aにより、一つのピクセルが見かけ上2つのピクセルに増倍することを確認できた。
素子の有効面積内の複数個所に対してシフト量の測定を行ったところ、シフト量の平均値は約2.5μmであり、バラツキは5%以内におさまっていた。電界の均一性が向上したことで、効率よく均一な光偏向が実現している。
【0048】
[比較例] 実施例2において抵抗膜3の幅を5mmで一定とした電界形成素子1aに類似する電界形成素子を使用して光偏向素子を作製し、この光偏向素子のシフト量を測定した結果、有効領域の右側1/3の領域では平均2.5μmのシフト量が得られていたが、左側1/31の領域ではシフト量に平均は2.2μmでありライン状電極に近づくほどシフト量が減少する傾向にあった。すなわち、有効領域の右側では電界が十分強くシフト量が飽和しているのに対し、左側では電界強度が小さく、シフト量も減っていると考えられる。
【0049】
[実施例5] 実施例4の光偏向素子11aを使用して、図10に示す画像表示装置20を作成した。この画像形成装置20の画像表示素子としてXGA(1024×768ドット)の液晶パネル24を用いた。また、画像表示素子の光源側にマイクロレンズアレイを設けて照明光の集光率を高める構成とした。光源21にはRGB三色のLED光源を用い、1枚の液晶パネル24に照射する光の色を高速に切り替えてカラー表示を行う、いわゆるフィールドシーケンシャル方式を採用した。そして画像表示のフレーム周波数が60Hz、ピクセルシフトによる4倍の画素増倍のためのサブフィールド周波数が4倍の240Hzとする。1つのサブフレーム内をさらに3色に分割するため、各色に対応した画像を720Hzで切り替え、液晶パネル24の各色の画像の表示タイミングに合わせて、光源21の対応した色のLED光源をオン/オフすることにより観察者にはフルカラー画像が見えるようにした。
【0050】
光偏向素子11aのライン状電極4a,4bに±2400Vの矩形波電圧を印加できるようにした。この光偏向素子11aを2枚用い、入射側を第1の光偏向素子、出射側を第2の光偏向素子とし,互いの電極の方向が直交し、液晶パネル24の画素の配列方向に一致するように配置した。さらに、2つの光偏向素子11aの間に偏光面回転素子を設け、偏光面回転素子により第1の光偏向素子11aからの出射光の偏光面が90度回転し、第2の光偏向素子11aの偏向方向に一致するようにして光偏向手段25を作製し、この光偏向手段25を液晶パネル24の直後に設置した。
【0051】
この画像表示装置20で各光偏向素子11aを駆動する矩形波電圧の周波数を120Hzとし、第1の光偏向素子11aと第2の光偏向素子11aの縦と横の位相を90度ずらして、4方向に画素シフトするように駆動タイミングを設定した。そして液晶パネル24に表示するサブフィールド画像を240Hzで書き換えることにより、縦横2方向に見かけ上の画素数が4倍に増倍した高精細画像が表示できた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の電界形成素子の構成を示す平面図である。
【図2】抵抗膜の単位長さ当たりの抵抗値を測定する方法を示す模式図である。
【図3】幅が一定である抵抗膜の単位長さ当たりの抵抗値と電位及び電界強度の変化特性図である。
【図4】抵抗膜の幅を変化させたときの単位長さ当たりの抵抗値と電界強度の変化特性図である。
【図5】抵抗膜の成膜方法により変化する単位長さ当たりの抵抗値とそれに応じた抵抗膜の形状を示す模式図である。
【図6】中心の幅を狭くした抵抗膜を形成した電界形成素子の構成を示す平面図である。
【図7】第2の電界形成素子の構成を示す平面図である。
【図8】この発明の光偏向素子の構成図である。
【図9】第2の光偏向素子の構成図である。
【図10】この発明の画像表示装置の構成図である。
【符号の説明】
【0053】
1;電界形成素子、2;基板、3;抵抗膜、4;ライン状電極、5;電源、
6;基板ホルダ、7;成膜領域、8;ライン状導電膜、11;光偏向素子、
12;配向膜、13;スペーサ、14;液晶層、20;画像表示装置、
21;光源、22;拡散板、23;コンデンサレンズ、24;透過型液晶パネル、
25;光偏向手段、26;投射レンズ、27;光源駆動制御部、
28;パネル駆動制御部、29;光偏向駆動制御部、30;主制御部、
31;スクリーン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の表面に形成された抵抗膜と、該抵抗膜の長さ方向の両端部に電気的に接続された1対のライン状電極とを有し、前記1対のライン状電極に電圧を印加して前記抵抗膜に電流を流して電位勾配を形成し、前記基板面に沿った電界を発生させる電界形成素子において、
前記抵抗膜は、幅を長さ方向に対して異ならせたことを特徴とする電界形成素子。
【請求項2】
基板と、該基板の表面の一部に形成された抵抗膜と、該抵抗膜の長さ方向の両端部に電気的に接続された1対のライン状電極と、前記基板の表面に形成され、一方の端部が前記抵抗膜に電気的に接続された複数のライン状導電膜とを有し、前記1対のライン状電極に電圧を印加して前記抵抗膜に電流を流して電位勾配を形成し、前記基板面に沿った電界を発生させる電界形成素子において、
前記抵抗膜は、幅を長さ方向に対して異ならせたことを特徴とする電界形成素子。
【請求項3】
前記抵抗膜の幅は、長さ方向の一方の端部から他方の端部に向けて線型に増加している請求項1又は請求項2記載の電界形成素子。
【請求項4】
前記抵抗膜の幅は、長さ方向の一端部から中間部までは線型に減少し、中間部から他端部までは線型に増加している請求項1又は請求項2に記載の電界形成素子。
【請求項5】
前記抵抗膜の幅は、長さ方向に沿った一方の辺は一方の端部から他方の端部に向けて線型に増加し、長さ方向に沿った他方の辺は円弧により窪ませて長さ方向に対して異ならせた請求項1又は請求項2記載の電界形成素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された電界形成素子の製造方法であって、
基板ホルダの成膜領域に基板を配置し、前記基板ホルダを回転させながら前記基板上に物理的堆積法を用いて抵抗膜を形成した後、該抵抗膜を前記基板ホルダの回転中心に対する成膜領域の配置に応じてエッチングして幅を長さ方向に対して異ならせることを特徴とする電界形成素子の製造方法。
【請求項7】
前記基板上に成膜した抵抗膜の単位長さ当たりの抵抗値が均一になるように前記抵抗膜の形状を決定してエッチングする請求項6記載の電界形成素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の電界形成素子を1対有し、該1対の電界形成素子を対向して配置した間隔内にキラルスメクチックC相を形成する液晶層を有することを特徴とする光偏向素子。
【請求項9】
請求項8記載の光偏向素子を有する画像表示装置であって、
画像情報にしたがって光を制御可能な複数の画素が2次元的に配列した画像表示素子と、前記画像表示素子を照明する照明光学系と、前記光偏向素子と、前記画像表示素子から出射された画像光を偏向して投影する投影光学系とを有し、前記光偏向素子が前記画像表示素子と投影光学系との間に設けられたことを特徴とする画像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−158261(P2008−158261A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347093(P2006−347093)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】