説明

電着塗装用洗浄液循環装置

【課題】 洗浄レーンの洗浄液回収口を通して洗浄液貯留槽内に回収される洗浄液に混入した磁性粉等を良好に取り除くことができる電着塗装用洗浄液循環装置を提供する。
【解決手段】金属製のカバー部材1を電着塗装する前に、予め、ボルト孔3の周囲に非塗装部6を設ける磁力式マスキング冶具10をカバー部材1の一側面に吸着させる。この状態でカバー部材1をハンガー32に吊り下げて洗浄レーン30に移送しながら、洗浄液貯留槽60から洗浄液を洗浄レーン30内の洗浄ノズルパイプ35に供給し、噴出口36からカバー部材1に吹き付けて洗浄する一方、洗浄レーン30の洗浄液回収口41から洗浄液を回収して洗浄液貯留槽60に戻す。洗浄液回収口41と洗浄ノズルパイプ35との間には、磁性粉除去フィルタ71と異物を除去する異物除去フィルタ80とが配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電着塗装用洗浄液循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電着塗装(カチオン電着塗装又はアニオン電着塗装)によって表面に絶縁塗膜が施された金属製のカバー部材を有するインバータケースやコンバータケースにおいては、電気部品を収容し、内部において電圧の昇圧機能や電流の整流機能を果たすようになっている。このため、ケース内では常に発生しつづけている電流が充満し、ケース周辺で静電気が生じ易くなる。これを防止するためには充満した電流を逃がす必要があり、これをカバー部材のボデーアースによって対処している。
また、従来、金属製のカバー部材の表面のボルト孔の周囲に非塗装部を設けるために、耐熱シリコーンゴムからなるマスキング部材(治具)を使用することが知られている。
このマスキング部材は、ボルト孔に差し込むアンカー部と、ボルト孔の周囲に接触するシール部とを有する。そして、カバー部材の電着塗装に先立ってカバー部材を回転式の作業テーブルにセットし、この作業テーブルを回転させながらマスキング部材のアンカー部を個々のボルト孔に順次差し込み、反対側からアンカー部の端部をプライヤーなどの工具によって引っ張る。
これにより、シール部をボルト孔の周囲に密着させて装着した状態でカバー部材をハンガーに吊り下げて洗浄レーンに移送する。
洗浄レーン内には、洗浄液の噴出口を有する洗浄ノズルパイプが配置され、洗浄液貯留槽から洗浄液が洗浄ノズルパイプに供給される。そして、洗浄ノズルパイプの噴出口から洗浄液をカバー部材に吹き付けてカバー部材を洗浄する。
また、洗浄レーンの床面には洗浄液回収口が設けられ、この洗浄液回収口から洗浄液を回収して洗浄液貯留槽に戻すようにしているのが一般的である。
洗浄レーンにおいて洗浄されたカバー部材は、電着塗装ラインにおいて電着塗装された後、乾燥ライン(焼付ライン)で乾燥処理(焼付処理)される。
その後、カバー部材を再び作業テーブルにセットし、作業テーブルを回転させながら各マスキング部材を個々のボルト孔から順次取り外すようにしていた。
すなわち、従来においては、カバー部材の複数個のボルト孔に対し、プライヤーなどの工具を用いてマスキング部材を一つずつ着脱しなければならず、その着脱作業が厄介であり、多くの手間と時間が必要となる。
【0003】
カバー部材の複数個のボルト孔に対するマスキング部材の着脱を容易化するために、マスキング冶具を自身の磁力によってカバー部材の一側面に吸着するように構成した磁力式マスキング冶具が開発されている。
なお、カバー部材の表面に電着塗装によって絶縁塗膜を施す際に、カバー部材の一側面のボルト孔の周囲をマスキングし、このマスキング部に非塗装部を設ける点については、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−327991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自身の磁力によってカバー部材の一側面に吸着するように構成した磁力式マスキング冶具を用いることによって、カバー部材の複数個のボルト孔に対するマスキング治具の着脱が容易となる。
しかしながら、磁力式マスキング冶具を用いると、洗浄レーンの洗浄液回収口を通して洗浄液貯留槽内に回収された洗浄液内には、カバー部材のプレス加工等で生じるバリの脱落による磁性粉(主として鉄粉)や、作業用手袋(軍手等)の糸屑、塵、埃等の異物が混入する。
そして、前記した磁性粉や異物が混入した洗浄液が循環して使用されることによって、磁力式マスキング冶具の周囲には磁性粉や、磁性粉が付着した異物が吸着されることが想定される。
磁力式マスキング冶具の周囲に磁性粉や、磁性粉が付着した異物が吸着され、この状態でカバー部材の表面に電着塗装によって絶縁塗膜が施されると、その後、磁力式マスキング冶具が取り外されてカバー部材が完成品となったときには、そのカバー部材の磁力式マスキング冶具に対応するマスキング部の非塗装部の周囲に磁性粉等が付着したままの状態となる。
このようなカバー部材をインバータケースやコンバータケースに使用すると、カバー部材に付着した磁性粉等がショートを発生させる原因となる。このため、後加工によってカバー部材に付着している磁性粉等を取り除く必要があり、この磁性粉等の取り除き作業が厄介でコスト高となる。
【0006】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、洗浄レーンの洗浄液回収口を通して洗浄液貯留槽内に回収される洗浄液に混入した磁性粉等を良好に取り除くことができる電着塗装用洗浄液循環装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係る電着塗装用洗浄液循環装置は、複数個のボルト孔を有する金属製のカバー部材を電着塗装する前に、予め、前記ボルト孔の周囲に非塗装部を設ける磁力式マスキング冶具を自身の磁力によって前記カバー部材の一側面に吸着させ、この状態で前記カバー部材をハンガーに吊り下げて洗浄レーンに移送しながら、洗浄液貯留槽から洗浄液を前記洗浄レーン内の洗浄ノズルパイプに供給し、これによって前記洗浄ノズルパイプの噴出口から前記洗浄液を前記カバー部材に吹き付けて前記カバー部材を洗浄する一方、前記洗浄レーンの床面の洗浄液回収口から前記洗浄液を回収して前記洗浄液貯留槽に戻す電着塗装用洗浄液循環装置であって、
前記洗浄液回収口と前記洗浄ノズルパイプとの間には、前記洗浄液に混入した磁性粉を除去する磁性粉除去フィルタと異物を除去する異物除去フィルタとが配設されていることを特徴とする。
【0008】
前記構成によると、カバー部材のボルト孔の周囲に非塗装部を設ける磁力式マスキング冶具を自身の磁力によってカバー部材の一側面に吸着させた状態でカバー部材をハンガーに吊り下げて洗浄レーンに沿って移送する。
そして、洗浄レーンにおいて、洗浄ノズルパイプの噴出口から洗浄液をカバー部材に吹き付けて洗浄する。
この際、カバー部材のプレス加工で生じるバリの脱落による磁性粉(主として鉄粉)や、作業用手袋(軍手等)の糸屑、塵、埃等の異物が洗浄液内に混入することがある。
洗浄液回収口と洗浄ノズルパイプとの間には、洗浄液に混入した磁性粉を除去する磁性粉除去フィルタと異物を除去する異物除去フィルタとが配設されているため、洗浄液内に混入した磁性粉(異物に付着した磁性粉もある)が磁性粉除去フィルタによって除去され、糸屑、塵、埃等の異物が異物除去フィルタによって除去される。
このようにして清浄化した洗浄液を洗浄ノズルパイプの噴出口からカバー部材に吹き付けて洗浄することができるため、磁力式マスキング冶具の周囲に、磁性粉や、磁性粉が付着した異物が吸着される不具合を防止することができる。
【0009】
請求項2に係る電着塗装用洗浄液循環装置は、請求項1に記載した電着塗装用洗浄液循環装置であって、
洗浄液回収口と洗浄液貯留槽との間には、前記洗浄液回収口の洗浄液を前記洗浄液貯留槽に導く洗浄液回収経路が設けられ、
前記洗浄液回収経路には、磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタとが着脱可能に装着されていることを特徴とする。
【0010】
前記構成によると、洗浄液回収経路に磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタとが着脱可能に装着されることで、磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタとの保守、点検や清掃作業を容易に行うことができる。
【0011】
請求項3に係る電着塗装用洗浄液循環装置は、請求項2に記載した電着塗装用洗浄液循環装置であって、
洗浄液回収経路は、洗浄液回収口に連通する回収ダクトと、
洗浄液貯留槽に連通する連通ダクトと、
前記回収ダクトと連通ダクトとの間に連通状に配置された沈殿濾過槽とを備え、
前記回収ダクトと連通ダクトとの少なくとも一方のダクトに磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタとが着脱可能に装着されていることを特徴とする。
【0012】
前記構成によると、回収ダクトと連通ダクトとの少なくとも一方のダクトに磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタとを容易に着脱することができると共に、これら磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタとの保守、点検や清掃作業が一層容易となる。
すなわち、洗浄液貯留槽内に、磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタと配設すると、これら磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタとの保守、点検や清掃作業において、洗浄液が妨害物となって作業が厄介となるが、ダクトに磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタとを着脱可能に装着することによって、保守、点検や清掃作業が容易となる。
【0013】
請求項4に係る電着塗装用洗浄液循環装置は、請求項3に記載の電着塗装用洗浄液循環装置であって、
沈殿濾過槽には、洗浄液を上下方向へ蛇行させて流す複数の仕切板が配設され、
前記沈殿濾過槽の底面には、磁性粉除去フィルタが配設されていることを特徴とする。
【0014】
前記構成によると、沈殿濾過槽内において、洗浄液が上下方向へ蛇行しながら流れ、沈殿濾過槽の底面に配設した磁性粉除去フィルタによって、沈殿濾過槽の底面を流れる洗浄液の磁性粉や磁性粉が付着した異物を吸着して洗浄液から除去することができるため、磁性粉の除去効率を良好に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施例1に係る電着塗装用洗浄液循環装置に対応するカバー部材の複数個のボルト孔に磁力式マスキング治具を取り付ける前の状態を示す斜視図である。
【図2】同じくカバー部材のボルト孔に磁力式マスキング治具を取り付けた状態を示す断面図である。
【図3】同じくカバー部材を電着塗装した状態を示す断面図である。
【図4】この発明の実施例1に係る電着塗装用洗浄液循環装置と洗浄レーンとの関係を簡略化して示す斜視図である。
【図5】同じく電着塗装用洗浄液循環装置と洗浄レーンとの関係を示す正断面図である。
【図6】同じく連通ダクトに磁性粉除去フィルタと、第1、第2の異物除去フィルタとが着脱可能に装着された状態を示す側断面図である。
【図7】同じく連通ダクトに磁性粉除去フィルタと、第1、第2の異物除去フィルタとが着脱可能に装着された状態を示す平断面図である。
【図8】同じく磁性粉除去フィルタと、第1、第2の異物除去フィルタとを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明を実施するための最良の形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0017】
以下、この発明の実施例1に係る電着塗装用洗浄液循環装置を図面にしたがって説明する。
図1〜図3に示すように、インバータケースあるいはコンバータケースなどの金属製(主として鉄板製)のカバー部材1の表面に電着塗装(カチオン電着塗装又はアニオン電着塗装)によって絶縁塗膜を施す前に、カバー部材1のフランジ部2に形成された複数個のボルト孔3の周囲の所定領域をマスキングし、このマスキング領域6aに非塗装部6を設けるためにカバー部材1の複数のボルト孔3に各磁力式マスキング治具10が自身の磁力によって吸着(装着)される。
【0018】
図2に示すように、磁力式マスキング治具10は、ホルダ11と、キャップ12と、永久磁石20と、ガイドピン25とを備えている。
ホルダ11は、耐熱性及び絶縁性を有する合成樹脂材(例えば、300℃前後の熱に耐え得る46ナイロン)により有底筒状に形成されている。
また、ホルダ11の底板部の外面(下面)には締付ねじ28の頭部が突出することなく収納される大きさ並びに深さをもつ凹部が形成され、この凹部の中心部には、ガイドピン25の軸部の先端部が嵌挿される貫通孔が形成されている。
【0019】
図2に示すように、ホルダ11内に収納される永久磁石20は、耐熱性の永久磁石によって形成され、中心部には中心孔21が貫設されている。例えば、永久磁石20としてサーマルコバルトマグネットと呼ばれている超強力永久磁石を用いることが望ましい。
また、永久磁石20は、その外径寸法がホルダ11の内径寸法と同じ又は若干小さく形成され、長さ寸法がホルダ11の収納部の深さ寸法と同等に設定されている。
キャップ12は、ホルダ11の筒状部の外周面に圧入されて嵌込まれてホルダ11の開口部を密閉状に覆蓋する。このキャップ12は、耐熱性、絶縁性及び弾性を有するシリコーン、発泡エプトシーラ(フッ素ゴムの発泡材)等の弾性体よりなり、マスキング用蓋板部30aとシール筒部30bとを一体に有して有蓋筒状に形成されている。
また、マスキング用蓋板部30aの表面には、カバー部材1のフランジ部2のボルト孔3の周囲のマスキング領域6aに非塗装部6を設ける大きさの円形状のマスキング面が形成されると共に、そのマスキング面の周縁部には、所定の傾斜角度をもって外周縁に向けて下傾する段差部が形成されている。
さらに、キャップ12の蓋板部の中心部にはガイドピン25の軸部が嵌挿される貫通孔が形成されている。
【0020】
図2に示すように、ガイドピン25は、耐熱性及び絶縁性を有する合成樹脂材、例えば、300℃前後の熱に耐え得る46ナイロンによって形成されると共に、永久磁石20の中心孔21に移動可能に挿通される軸部と、この軸部の先端に設けられ、かつカバー部材1のボルト孔3に嵌挿される大径の頭部26とを一体状に有している。
また、この実施例1において、ガイドピン25の頭部26は、カバー部材1のボルト孔3の内周面に当接可能な接触点を外周面の複数箇所に有して非円形されている。例えば、ガイドピン25の頭部26は略三角形(楕円形、長円形、四角形等でもよい)に形成され、頭部26とボルト孔3の内周面との間に隙間を設定するようになっている。
【0021】
また、ガイドピン25の軸部先端面の中心部には、ねじ孔が形成されている。そして、ホルダ11の内部に永久磁石20が収納され、ホルダ11にキャップ12が圧入された状態で、キャップ12の蓋板部の貫通孔を通してガイドピン25の軸部が挿通され、その軸部の先端部がホルダ11の底板部の貫通孔に嵌合される。この状態で、軸部の先端面のねじ孔に、耐熱性、絶縁性を有する硬質樹脂製の締付ねじ28が、パッキン29及び座板28aを挟んでねじ込まれることによって、ホルダ11、永久磁石20、ガイドピン25及びキャップ12が相互に組み付けられ、これによって磁力式マスキング治具10が構成される。
ホルダ11の底板部と締付ねじ28の座板28aとの間に介在されるパッキン29は、耐熱性、絶縁性及び弾性を有するシリコーン、発泡エプトシーラ(フッ素ゴムの発泡材)等の弾性体よりなり、締付ねじ28の座板28aは締付ねじ28の頭部61に一体に形成されてもよく、又締付ねじ28とは別体で耐熱性、絶縁性を有する硬質樹脂材によって形成されてもよい。
なお、磁力式マスキング治具10は、カバー部材1の面精度やボルト孔3の孔径等に対応した磁力や大きさをもつ多種類の磁力式マスキング治具10が構成(制作)される。
【0022】
前記したように構成される磁力式マスキング治具10は、図2に示すように、ガイドピン25の頭部26がカバー部材1の複数個のボルト孔3に嵌込まれることで。永久磁石20の磁力によって取り付けられる(セットされる)。
この際、カバー部材1のボルト孔3の周縁にバリ等があったとしても、永久磁石20の磁力による押圧力によってキャップ12の蓋板部を弾性圧縮させボルト孔3の周囲に密着させることができるようになっている。
【0023】
前記したように、カバー部材1の複数個のボルト孔3に各磁力式マスキング治具10が装着された状態のもとで、図4と図5に示すように、所要(多数)のカバー部材1が、ハンガーケーブル31によって移動されるハンガー32の吊下フック33に吊り下げられる。
そして、ハンガー32に吊り下げられた各カバー部材1が洗浄レーン30に移送される。
【0024】
図4と図5に示すように、洗浄レーン30には、ハンガー32の周囲に向けて洗浄液(アルカリ洗浄液)を噴出して各カバー部材1を洗浄(主として脱脂洗浄)する多数の噴出口36を有する洗浄ノズルパイプ35が配設されている。
図4に示すように、洗浄ノズルパイプ35は、供給パイプ37によって洗浄液貯留槽60に接続されている。また、供給パイプ37には、駆動モータ39を駆動源とする供給ポンプ38が組み付けられている。
そして、供給ポンプ38のポンプ作用によって、洗浄液貯留槽60内の洗浄液が供給パイプ37を経て洗浄ノズルパイプ35に圧送され、洗浄ノズルパイプ35の多数の噴出口36から洗浄液が噴出されるようになっている。
【0025】
図4に示すように、洗浄レーン30の床面40には洗浄液回収口41が開口されており、この洗浄液回収口41と洗浄ノズルパイプ35との間には、洗浄液に混入した磁性粉(主として鉄粉)を除去する磁性粉除去フィルタ71と、作業用手袋(軍手等)の糸屑、塵、埃等の異物を除去する第1、第2の異物除去フィルタ80、83とが配設されている。
この実施例1において、洗浄液回収口41と洗浄液貯留槽60との間には、洗浄液回収口41から回収された洗浄液を洗浄液貯留槽60に導く洗浄液回収経路50が設けられている。
【0026】
図4と図5に示すように、洗浄液回収経路50は、洗浄液回収口41に連通する回収ダクト51と、洗浄液貯留槽60に連通する連通ダクト54と回収ダクト51と連通ダクト54との間に連通状に配置された沈殿濾過槽52とを備えている。
そして、回収ダクト51と連通ダクト54との少なくとも一方のダクトに磁性粉除去フィルタ71と第1、第2の異物除去フィルタ80、83とが着脱可能に装着されている。
この実施例1において、回収ダクト51と連通ダクト54との双方に、洗浄液が流れる方向と直交する方向に磁性粉除去フィルタ71及び第1、第2の異物除去フィルタ80、83が着脱可能に装着されている。
【0027】
図6と図7に示すように、連通ダクト54に着脱可能に装着される各フィルタの配列は、洗浄液の流れ方向の上流側から下流側に向かって磁性粉除去フィルタ71、第1の異物除去フィルタ80、第2の異物除去フィルタ83、第1の異物除去フィルタ80、磁性粉除去フィルタ71の順に配列されている。
なお、連通ダクト54の対向する内側面には、各フィルタが着脱可能に差し込まれる横断面U字状の保持部材55が装着されている(図7参照)。
また、回収ダクト51においても同様にして対向する内側面に、各フィルタが着脱可能に差し込まれる横断面U字状の保持部材(図示しない)が装着されている。
【0028】
図8に示すように、磁性粉除去フィルタ71は、左右の両側枠体72の間に複数本の筒状体73が所定間隔を隔てて平行状に架設されて構成され、各筒状体73の内部には永久磁石が配列されている。
また、この実施例1において、図6に示すように、上流側(図6に向かって左側)の磁性粉除去フィルタ71の各筒状体73の間に下流側(図6に向かって右側)の磁性粉除去フィルタ71の各筒状体73が位置するように配置されている。すなわち、上流側の磁性粉除去フィルタ71の各筒状体73の間を流れる洗浄液が下流側の磁性粉除去フィルタ71の各筒状体73に当たり、これによって、洗浄液に混入された磁性粉が筒状体73の磁力によって良好に吸着されるようになっている。
【0029】
図8に示すように、第1の異物除去フィルタ80は、比較的大きい異物を除去することができるフィルタ体82が方形枠状の保持枠81に保持されて構成されている。
また、第2の異物除去フィルタ83は、第1の異物除去フィルタ80よりも細かい異物を除去することができるフィルタ体85が方形枠状の保持枠84に保持されて構成されている。
また、第1、第2の異物除去フィルタ80、83の各フィルタ体82、85は、合成繊維材がスプリング状にカール加工されて形成されたものであり、例えば、商品名サランロック(旭化成株式会社製)と呼ばれるものを用いることが可能である。
【0030】
図4に示すように、沈殿濾過槽52には、回収ダクト51から流入する洗浄液を上下方向へ蛇行させて連通ダクト54に導く複数の仕切板53が配設されている。
また、沈殿濾過槽52の底面には、沈殿した磁性粉を磁力によって吸着する磁性粉除去フィルタ90が配列されている。
なお、洗浄液貯留槽60には、洗浄液を所定温度に加熱するヒーター61が内設されている。
【0031】
この実施例1に係る電着塗装用洗浄液循環装置は上述したように構成される。
したがって、磁力式マスキング治具10のガイドピン25の頭部26がカバー部材1の複数個のボルト孔3にそれぞれ嵌込まれることで、各マスキング治具10は、自身の磁力によってカバー部材1の一側面に吸着する。
この状態でカバー部材1がハンガー32の吊下フック33に吊り下げられて洗浄レーン30に向けて移送される。
洗浄レーン30において、供給ポンプ38のポンプ作用によって、洗浄液貯留槽60内の洗浄液が供給パイプ37を経て洗浄ノズルパイプ35に圧送され、洗浄ノズルパイプ35の多数の噴出口36から洗浄液がカバー部材1に向けて吹き付けられる。これによって、カバー部材1が洗浄(脱脂洗浄)される。
【0032】
カバー部材1の洗浄の際、カバー部材1のプレス加工で生じるバリの脱落による磁性粉(主として鉄粉)や、作業用手袋(軍手等)の糸屑、塵、埃等の異物が洗浄液内に混入することがある。
この場合、洗浄液回収経路50の回収ダクト51及び連通ダクト54に配列した磁性粉除去フィルタ71によって洗浄液内に混入した磁性粉(異物に付着した磁性粉もある)が吸着されて除去される。
また、回収ダクト51及び連通ダクト54に配列した第1、第2の異物除去フィルタ80、83によって洗浄液内に混入した糸屑、塵、埃等の異物が吸着されて除去される。
このようにして清浄化した洗浄液を洗浄液貯留槽60に流して貯留することができるため、マスキング治具10の周囲に、磁性粉や、磁性粉が付着した異物が吸着される不具合を防止することができる。
【0033】
また、洗浄液回収経路50の回収ダクト51及び連通ダクト54に対し、磁性粉除去フィルタ71及び第1、第2の異物除去フィルタ80、83と容易に着脱することができるため、これら各フィルタ71、80、83の保守、点検や清掃作業が極めて容易である。
すなわち、洗浄液貯留槽60内に、磁性粉除去フィルタ71及び第1、第2の異物除去フィルタ80、83を配設すると、これら各フィルタ71、80、83の保守、点検や清掃作業において、洗浄液が妨害物となって作業が厄介となるが、回収ダクト51及び連通ダクト54に各フィルタ71、80、83を着脱可能に装着することによって、保守、点検や清掃作業が容易となる。
【0034】
また、この実施例1において、沈殿濾過槽52内において、複数の仕切板53によって洗浄液が上下方向へ蛇行しながら流れる。そして、沈殿濾過槽52の底面に配設した磁性粉除去フィルタ90によって、沈殿濾過槽52の底面を流れる洗浄液の磁性粉や磁性粉が付着した異物を吸着して洗浄液から除去することができるため、磁性粉の除去効率を良好に高めることができる。
【0035】
一方、洗浄レーン30において、洗浄液(アルカリ洗浄液)によってカバー部材1が脱脂処理され、カバー部材1及びマスキング治具10に付着しているアルカリ洗浄液が水洗い等によって洗浄処理された後、ハンガー32と共に、カバー部材1が電着塗装(カチオン電着塗装又はアニオン電着塗装)の水溶液内に浸けられ、一方の電極に接続された状態で電着塗装される。この電着塗装の際、各磁力式マスキング治具10のキャップ12の蓋板部30aのマスキング面によってマスキングされたマスキング領域6aには絶縁塗膜5が付着されない非塗装部6が設けられる(図3参照)。
【0036】
カバー部材1が電着塗装され、電着塗装用水溶液から引き上げられた後、焼き付け処理がなされる。その後、カバー部材1のフランジ部2の複数個のボルト孔3に対し永久磁石20の磁力に抗して各磁力式マスキング治具10を引き上げることで、各磁力式マスキング治具10が取り外される。
すなわち、磁力式マスキング治具10は工具などを用いることなくカバー部材1の複数個のボルト孔3に容易にかつ手早く着脱することができる。
【0037】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。
例えば、前記実施例1においては、洗浄液回収経路50の回収ダクト51及び連通ダクト54に対し、磁性粉除去フィルタ71及び第1、第2の異物除去フィルタ80、83とを配列した場合を例示したが、回収ダクト51と連通ダクト54との一方に磁性粉除去フィルタ71及び第1、第2の異物除去フィルタ80、83を配設してもこの発明を実施することができる。
また、洗浄液貯留槽60内に磁性粉除去フィルタ71及び第1、第2の異物除去フィルタ80、83を配設することも可能である。
すなわち、磁性粉除去フィルタ及び異物除去フィルタは、洗浄液回収口41と洗浄ノズルパイプ35との間に配設することによってこの発明を実施可能である。
また、マスキング治具10は、自身の磁力によってカバー部材1の一側面に吸着する構造であればどのような構造であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 カバー部材
3 ボルト孔
5 塗装膜
6 非塗装部
10 マスキング治具
30 洗浄レーン
32 ハンガー
33 吊下フック
35 洗浄ノズルパイプ
36 噴出口
37 供給パイプ
41 洗浄液回収口
50 洗浄液回収経路
51 回収ダクト
52 沈殿濾過槽
54 連通ダクト
60 洗浄液貯留槽
71 磁性粉除去フィルタ
80 第1の異物除去フィルタ
83 第2の異物除去フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のボルト孔を有する金属製のカバー部材を電着塗装する前に、予め、前記ボルト孔の周囲に非塗装部を設ける磁力式マスキング冶具を自身の磁力によって前記カバー部材の一側面に吸着させ、この状態で前記カバー部材をハンガーに吊り下げて洗浄レーンに移送しながら、洗浄液貯留槽から洗浄液を前記洗浄レーン内の洗浄ノズルパイプに供給し、これによって前記洗浄ノズルパイプの噴出口から前記洗浄液を前記カバー部材に吹き付けて前記カバー部材を洗浄する一方、前記洗浄レーンの床面の洗浄液回収口から前記洗浄液を回収して前記洗浄液貯留槽に戻す電着塗装用洗浄液循環装置であって、
前記洗浄液回収口と前記洗浄ノズルパイプとの間には、前記洗浄液に混入した磁性粉を除去する磁性粉除去フィルタと異物を除去する異物除去フィルタとが配設されていることを特徴とする電着塗装用洗浄液循環装置。
【請求項2】
請求項1に記載した電着塗装用洗浄液循環装置であって、
洗浄液回収口と洗浄液貯留槽との間には、前記洗浄液回収口の洗浄液を前記洗浄液貯留槽に導く洗浄液回収経路が設けられ、
前記洗浄液回収経路には、磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタとが着脱可能に装着されていることを特徴とする電着塗装用洗浄液循環装置。
【請求項3】
請求項2に記載した電着塗装用洗浄液循環装置であって、
洗浄液回収経路は、洗浄液回収口に連通する回収ダクトと、
洗浄液貯留槽に連通する連通ダクトと、
前記回収ダクトと連通ダクトとの間に連通状に配置された沈殿濾過槽とを備え、
前記回収ダクトと連通ダクトとの少なくとも一方のダクトに磁性粉除去フィルタと異物除去フィルタとが着脱可能に装着されていることを特徴とする電着塗装用洗浄液循環装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電着塗装用洗浄液循環装置であって、
沈殿濾過槽には、洗浄液を上下方向へ蛇行させて流す複数の仕切板が配設され、
前記沈殿濾過槽の底面には、磁性粉除去フィルタが配設されていることを特徴とする電着塗装用洗浄液循環装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−247011(P2010−247011A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96134(P2009−96134)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(308014639)真和工業株式会社 (6)
【出願人】(594027878)明和工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】