説明

電磁ブレーキ装置及びその制御方法

【課題】電磁ブレーキにおいて滑らかに制動トルクを増加させること
【解決手段】無通電時には、制動バネの付勢力によりアーマチュアをロータに押圧してロータを固定プレートとの間で保持して制動させ、励磁コイルへの通電により制動バネの付勢力と反対方向にアーマチュアを移動させてロータの制動を解除し、励磁コイルへのPWM通電をデューティ比制御する電磁ブレーキ装置である。制動解除状態から制動状態への移行過程において、アーマチュアがロータに接触する直前からロータに制動力が付与されるまでの少なくとも制動初期期間におけるデューティ比の変化範囲に対して、アーマニュアがデューティ比の周波数に応答して振動する周波数とした。アーマチュア5に係る摩擦力を歪みセンサ73、74、面に垂直な方向に係る垂直力を歪みセンサ71、72で検出して制動トルクを検出する。この制動トルクが時間的に増加する目標トルクに追従するようにフィードバック制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ブレーキの励磁コイルへの通電をPWM(パルス幅変調)のデューティ比制御を低周波とすることで、滑らかな制動や制動トルクのフィードバック制御を実現した電磁ブレーキ装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械の安全性を確保する目的で、緊急時の暴走を防ぐべく駆動部に無励磁作動型の電磁ブレーキを導入するという安全対策が現在まで広く採られている。電磁ブレーキは、特許文献1-3に開示のように、負作動型、すなわち励磁コイルに通電しない状態でブレーキがかかる構造となっており、デバイスとしてフェイルセーフである。このようなブレーキ・クラッチとして、電磁ブレーキの他にも超音波浮揚現象を用いた超音波ブレーキや圧電素子を用いた圧電ブレーキや、永久磁石を用いたMRクラッチなどが研究開発されている。このうち電磁ブレーキは、現状では他のブレーキに比べて、信頼性や応答性、耐久性、コスト等の実用的観点で総合的に優れており、これまでに安全ブレーキとして高い実績を築いている。
【0003】
一方で、特許文献1-3に示すように、この無励磁作動型の電磁ブレーキは、オンとオフの2つの状態のみしか存在しない、つまり、制動トルクは可変でないという特徴がある。そのため、緊急時に電磁ブレーキへの電力の供給が停止すると、被制動機器は急停止する。これは安全対策の観点からすると、必ずしも常に安全状態への移行を約束するものではなく、付加されたブレーキによる急停止が、機械安全上、新たな危険源となってしまう状態が考えられる。
【0004】
具体的に搭乗型ロボットの場合を例にとると、その走行中の急停止が搭乗者の転落等を生じさせる虞がある。ブレーキによる搭乗型ロボット走行中の急停止は、衝突時と類似の運動を発生すると推察され、転落、転倒の虞がある。また、エスカレータの例では、電磁ブレーキが作動し急停止したことを原因とする乗客の転倒、転落が実際に報じられている。これらの安全上の問題に対処するためには、ブレーキの制動トルクが可変であり滑らかに変化できることが求められる。
【0005】
この観点から、負作動型で制動トルクが可変のブレーキとして従来報告されたものとして、上記の超音波ブレーキ、圧電ブレーキ、MRクラッチなどが掲げられる。しかし、超音波ブレーキには、原理的に軸方向の荷重に対してトルクが変動する、圧電ブレーキには、制動力が一方向にしか発生できない、圧電ブレーキには、ばらつきが大きい、MRクラッチには、応答時間が比較的長いことや制動トルクが時間経過によって変化するなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−69391
【特許文献2】特開2005−54907
【特許文献3】特開平10−306834
【特許文献4】特開2000−118872
【特許文献5】特開平5−44739
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第28回 日本ロボット学会学術講演会予稿集 RSJ2010AC3F1-4 2010年9月22-24日、山田 陽滋、橋口 賢、福永 恭平、原 進、“無励磁作動型電磁ブレーキの制動力可変機能に関する研究”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電磁ブレーキについて、励磁電流をPWM制御する方法は、特許文献4、5に示すように公知である。電磁ブレーキ使用上の問題を改善すべく、これまでに我々は、非特許文献1に示すように、無励磁作動型電磁ブレーキを対象として、被制動機器が急減速をしない特性が得られるように、電磁ブレーキに制動力の可変機能を付与することを提案した。そして、電磁ブレーキの励磁コイルへの通電をPWM制御する場合には、制動トルクにヒステリシスがあり、さらに制動トルクが大幅に増減するために制御が困難であることを示し、その解決策として電磁ブレーキへの入力電圧を断続的に0Vにすること(これを無励磁フェーズと称する)によって、制動トルクを変化させることができる可能性を示した。
【0009】
しかし、非特許文献1の提案による場合、制動トルクが小さい領域において制動トルクを制御することができず、そのために無励磁フェーズの長さとデューティ比を同時に制御する必要があるという問題があった。
そこで、本発明の目的は、励磁コイルへの通電のPWM制御において、制御周波数を低周波とすることにより、デューティ比の制御のみで、電磁ブレーキの制動トルクを滑らかに可変できるようにすることである。
本発明の他の目的は、望ましい制御性能を得るため、また制動トルク特性の向上のために制動トルクを検出して、そのトルクを目標トルクに追従させることで、理想的な制動トルクの変化を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、固定プレート、アーマチュア、固定プレートとアーマチュアとの間に存在するロータが、ロータの回転軸方向に配設され、アーマチュアを固定プレートの方向に付勢してロータを固定プレートに押圧して制動させる制動バネと、励磁コイルへの電流の増加により制動バネの付勢力と反対方向にアーマチュアを移動させてロータの制動を解除する電磁石とを有し、励磁コイルへのPWM(パルス幅変調)通電のデューティ比を制御する制御装置とを有した電磁ブレーキ装置において、制御装置は、制動解除状態から制動状態への移行過程において、アーマチュアがロータに接触する直前からロータに制動力が付与されるまでの少なくとも制動初期期間におけるデューティ比の変化範囲に対して、アーマニュアがPWM通電の周波数に応答して振動する周波数としたことを特徴とする。
【0011】
本発明において、PWM通電の周波数とは、PWM変調されたパルス信号(PWM信号)の立ち上がりの繰返周波数である。制動初期期間とは、アーマチュアがロータに接触する時又は直前から、十分に制動力が作用するまでの期間とする。少なくともこの制動初期期間において、アーマチュアがPWM信号の周波数に応答して、振動する周波数であれば良い。また、制動初期期間におけるデューティ比の範囲に対して、アーマチュアがPWM信号の周波数(デューティ比の周波数)に応答して振動すれば良い。本発明において、ロータは回転軸に結合して回転し、アーマチュアはその回転軸に平行に移動可能であり、制動時には、ロータを固定プレートとアーマチュアとの間に挟んで、ロータの回転を停止させる構造である。固定プレートのロータに対する接触面や、アーマチュアのロータに対する接触面は、ロータに対する摩擦力を増大させる処理が施されていても、また、その面に、摩擦力を増大させる部材が存在が存在しても良い。また、固定プレートやロータの間、ロータとアーマチュアの間には、摩擦力を増大させる部材やその他の部材が存在しても、それらの部材を含めて、固定プレート、アーマチュアと見做す。アーマチュアは制動時にロータから受ける反作用トルクにより回転しないような構造になっている。例えば、円板状のアーマチュアに周辺から半円形の切欠きを設け、その切欠き部にピンなどを貫通して、アーマチュアの回転が停止されるように構成されている。アーマチュアは制動バネにより固定ロータの方向に、常時、付勢されている。したがって、励磁コイルに通電されない時には、ロータは固定プレートとアーマチュアとで制動バネの付勢力により強く挟持されて、最大の制動状態となる。励磁コイルに、通電されると、その電流の大きさ(平均電流値)に応じて決定される電磁力により、アーマチュアは制動バネの付勢力に抗して、軸方向に、ロータの配設位置とは反対方向に変位することになる。これにより、ロータの保持力は解除されて、ロータは自由に回転可能な状態となる。アーマチュアを吸引する電磁力は、励磁電流のパルス幅変調(PWM)されたパルスのディーティ比により決定される平均電流値により決定される。
【0012】
また、本発明において、ロータからアーマチュアが反作用として受けるトルクを検出する第1センサを有し、制御装置は、第1センサの出力する検出トルクが、時間的に変化させる目標トルクに追従するように、デューティ比を制御するようにしても良い。
第1センサを設けるアーマチュアの箇所は反力トルクによりアーマチュアに歪みを受ける箇所であれば任意である。また、ロータや、ロータの回転軸に設けても良い。
フィードバック制御については、例えば、制動時には、目標トルクを時間的に滑らかに増大する時間の関数として決定しておき、検出トルクがこの目標トルクに追従するように、PWMのデューティ比を制御すれば、所望の滑らかな制動を実現することができる。
【0013】
また、本発明において、アーマチュアのロータへの押圧力を検出する第2センサを有し、制御装置は、第1センサの出力する第1出力と、第2センサの出力する第2出力とから検出トルクを求めるようにしても良い。この場合には、アーマチュアに係るトルクをより正確に検出することができる。このため、より精密な制動特性を実現することができる。
【0014】
また、本発明において、第1センサの出力する第1出力と、第2センサの出力する第2出力とから、検出トルクと押圧力(アーマチュアのロータに対する接触面に垂直な方向に作用する垂直力)とを求め、検出トルクの押圧力に対する比率が、所定範囲に存在する場合には正常とし、所定範囲に存在しない場合には異常と判定して、警報を出力するようにしても良い。この場合には、アーマチュアのロータに対する接触面における摩擦力の異常などを検出することができる。
【0015】
また、本発明において、アーマチュアには、中心方向に形成された2つの切り込みにより、法線方向に伸びた梁が形成され、第1センサは、この梁のロータに対する接触面に平行な面に配設され、第2センサはこの梁の接触面に垂直な側面に配設されていても良い。この構造により、アーマチュアに係るトルクや、アーマチュアのロータに対する接触面の動摩擦係数を、正確に検出することかできる。このため、フィードバック制御による精密な制動トルクの制御や、異常検出が可能となる。
【0016】
また、本発明において、梁の先端には、ロータに接触し、応力を集中して受けるための凸部が形成されていても良い。この構造により、応力のこの凸部に集中させることができ、第1センサ、第2センサの感度を向上させることができる。
【0017】
また、本発明において、制動バネは、線形バネであっても良いが、アーマチュアがロータに接触する直前における変位から、最大変位に至るまでの間に、バネ定数が漸次増大する非線形バネから構成されていても良い。この場合には、制動バネの非線形性により、制動力を滑らかに増大させることができる。
【0018】
また、本発明において、周波数は、5Hz以上、20Hz以下であることが望ましい。この周波数でPWM制御を行うと、制動の初期において、制動力を滑らかに増加させることができる。
【0019】
また、第2発明は、固定プレート、アーマチュア、固定プレートとアーマチュアとの間に存在するロータが、ロータの回転軸方向に配設され、アーマチュアを固定プレートの方向に付勢してロータを固定プレートに押圧して制動させる制動バネと、励磁コイルへの電流の増加により制動バネの付勢力と反対方向にアーマチュアを移動させてロータの制動を解除する電磁石とを有した電磁ブレーキの制御方法であって、励磁コイルへのPWM通電のデューティ比を制御する電磁ブレーキ制御方法において、制動解除状態から制動状態への移行過程において、アーマチュアがロータに接触する直前からロータに制動力が付与されるまでの少なくとも制動初期期間における励磁コイルへの電流のデューティ比の変化範囲に対して、アーマニュアがPWM通電の周波数に応答して振動する周波数としたことを特徴とする。
本発明において、周波数は、5Hz以上、20Hz以下であることが望ましい。本発明の方法により、電磁ブレーキにおいて、ロータを滑らかに制動させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、PWM信号の周波数が、少なくとも制動初期において出力されるデューティ比の範囲において、アーマチュアが軸方向に、PWM信号の周波数に応答して振動するような周波数に設定されている。したがって、制動初期期間においては、アーマチュアの接触面は、ロータの接触面に対して、軸方向に振動しながら接触しつつ、アーマチュアのロータへの押圧力が漸次増加することになる。この結果、ロータには、急激に制動トルクが付与されることが防止されるので、滑らかに制動力を増加させて、最終的には、完全な制動を実現することができる。
【0021】
また、ロータからアーマチュアが反作用として受けるトルクを検出する第1センサを設けた場合には、制動トルクのフィードバック制御により、目標トルクが時間的に滑らかに増大する所望の特性に、制動トルクを追従させることができる。この結果、目標トルクの時間特性を、ロータの回転速度に依存して変化させるなどにより、各種の制動すべき状況に応じた理想的な制動を実現することが可能となる。また、第2センサを設けて、第1センサと第2センサとから、アーマチュアに係るトルクを検出する場合も、同様な効果を奏する。また、第1センサと第2センサとを設けた場合には、それらの出力からアーマチュアの接触面の動摩擦係数を測定することができるので、電磁ブレーキの異常、正常の検出をすることができる。PWM信号の周波数は、アーマチュアの質量、制動バネのバネ定数、通電電流のピーク値、デューティ比の範囲にも依存するが、広範囲の制動力を有した各種電磁ブレーキに対して、周波数は、5Hz以上、20Hz以下の範囲で良好に、アーマチュアをその周波数に応答させて軸方向に振動させることができる。また、周波数は、アーマチュアの軸方向の変位に対する共振周波数を用いると効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1.A】本発明の具体的な実施例1に係る電磁ブレーキの組み立て分解図。
【図1.B】実施例1の電磁ブレーキの主要要素の配置を示した組み立て図。
【図2】実施例1の制御装置を含む電磁ブレーキ装置の全体を示す構成図。
【図3】比較例に係る1KHzのPWM信号で電磁ブレーキを制御した場合の制動トルクとデューティ比との関係を測定した特性図。
【図4】実施例1に係る電磁ブレーキ装置において、制動トルクとデューティ比との関係を測定した特性図。
【図5】実施例3の電磁ブレーキ装置におけるアーマチュアと歪みゲージとの関係を示した構成図。
【図6】実施例3の電磁ブレーキ装置におけるアーマチュアに垂直力を印加した場合の垂直力を検出する歪みゲージの出力と摩擦力を検出する歪みゲージの出力との関係を測定した特性図。
【図7】実施例3の電磁ブレーキ装置におけるアーマチュアに接触面に平行な方向に摩擦力を印加した場合の摩擦力を検出する歪みゲージの出力と垂直力を検出する歪みゲージの出力との関係を測定した特性図。
【図8】実施例3の電磁ブレーキ装置を用いて実際にPWM制御により制動させた場合において、垂直力を検出する歪みゲージの出力と摩擦力を検出する歪みゲージの出力とから得られる制動トルクとデューティ比との関係を測定した特性図。
【図9】実施例3の電磁ブレーキ装置を用いて実際にPWM制御により制動させた場合において、垂直力を検出する歪みゲージの出力とデューティ比との関係を測定した特性図。
【図10】実施例3の電磁ブレーキ装置を用いて実際にPWM制御により制動させた場合において、摩擦力を検出する歪みゲージの出力とデューティ比との関係を測定した特性図。
【図11】実施例3の電磁ブレーキ装置を用いて実際にPWM制御により制動させた場合において、垂直力を検出する歪みゲージの出力と摩擦力を検出する歪みゲージの出力とから得られる制動トルクとデューティ比との関係と、回転軸に係るトルクをトルクメータで検出した時の制動トルクとデューティ比との関係を比較して示した特性図。
【図12】実施例2に係る電磁ブレーキ装置において使用した目標トルクの時間変化を示す特性図。
【図13】実施例2に係る電磁ブレーキ装置におけるCPUによって実行される制動トルクのフィードバック制御の手順を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。実施例は本発明の一つの実施の形態であって、本発明の範囲は、これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
以下、本実施例の「制動力可変機能付電磁ブレーキ(以下、電磁ブレーキ)」は摩擦型の無励磁作動型電磁ブレーキを指す。図1.A、図1.Bに、電磁ブレーキ (BXW-04-12H 、三木プーリ製)の構造を示す。
【0025】
図1.Aは、特許文献1に開示の電磁ブレーキの分解組み立て図であり、図1.Bは、組み立てた状態での主たる要素の配置図である。図1.A、図1.Bに示すように、電磁ブレーキ1は、筐体及び電磁石の磁気回路を構成するヨーク4を有し、ヨーク4の中に励磁コイル2が内蔵され、一部が外部に突出するように制動バネ3がヨーク4に固定されている。ヨーク4の前方には、制動バネ3に接触し、軸方向に変位可能なアーマチュア5が設けられている。そして、アーマチュア5の前方には、ロータ13と、固定プレート6が配設されている。ヨーク4の端面30の3箇所において、アーマチュア5の外周に形成された切欠7を貫通して、スペーサ8が設けられている。このスペーサ8は、アーマチュア5を軸方向には移動可能にさせると共に、回転を禁止している。
【0026】
固定プレート6は、ヨーク4の端面30に、次のようにして固定されている。スペーサ8の端面32に、固定プレート6の端面を当接させ、螺子10を、固定プレート6に形成された孔9、スペーサ8に軸方向に形成された孔31を貫通させ、ヨーク4に形成された螺子穴11に、螺合させる。これにより、固定プレート6は、スペーサ8により、ヨーク4の端面30と所定の間隔を隔てて、ヨーク4に固定されている。アーマチュア5はスペーサ8に案内されてヨーク4と固定プレート6の間で、軸方向に移動可能であると共に、ヨーク4との間に介在された制動バネ3の付勢力によって固定プレート6側に押圧されている。
【0027】
ロータ13は、アーマチュア5と固定プレート6との間に、回転可能に且つ軸方向に移動可能に配設されている。ロータ13の中心部には、軸断面4角形の嵌合孔16が形成されており、その嵌合孔16には、固定プレート6の中心孔に位置する軸断面4角形のロータハブ12が嵌合されている。これによりロータ13は、ロータハブ12と一体的に回転し、且つ、ロータハブ12に対して軸方向に移動となる。ロータハブ12の中心には、側壁に軸方向に伸びたキー溝14aが形成された連結孔14が設けられており、キーが軸方向に形成された回転軸15が、連結孔14を軸方向には摺動可能に貫通している。これにより、回転軸15とロータハブ12とロータ13は一体的に回転可能となり、ローク13は回転軸15に対して、軸方向には移動可能となる。なお、アーマチュア5と固定プレート6のロータ13に対する接触面には、摩擦部材(図示略)が設けられている。
【0028】
上記構成の電磁ブレーキ1は、励磁コイル2に通電しない無励磁状態の時には、制動バネ3の弾性力によって、アーマチュア5が固定プレート6の方向に付勢される。これにより、ロータ13の摩擦面がアーマチュア5及び固定プレート6に圧接して挟持されるので、ロータハブ12に連結されたモータ17(図2)の回転軸15に対してブレーキ作動が行われる。
【0029】
また、励磁コイル2に通電した励磁状態の時には、制動バネ3の弾性力に抗してアーマチュア5は、ヨーク4に吸着されて、ロータ13から引き離され、ロータ13はアーマチュア5と固定プレート6の間で回転可能になるので、ロータハブ12に連結されたモータ17の回転軸15に対してブレーキ作動が解除される。
【0030】
電磁ブレーキ1と制御装置を含む電磁ブレーキ装置の全体の構成を、図2に示す。電磁ブレーキ1は回転軸15、トルクメータ41を介して、モータ17と連結されている。モータ17によって回転軸15に駆動力が付与され、電磁ブレーキ1によって発生する制動トルクは、トルクメータ41により検出される。制御装置は、コピュータ部50、CPU51の指令により、指令された周波数とデューティ比とにより、PWM信号を発生するPWM回路55、PWM信号を増幅して電磁ブレーキ1の励磁コイル2に通電するためのH型ブリッジ回路56、トルクメータ41により構成されている。コンピュータ部50は、CPU51と、回転軸15の回転角を検出するロータリエンコーダ42の出力をパルスを累積して回転角を保持するカウンタ52、トルクメータ41の出力をA/D変換してCPU51に出力するA/Dコンバータ53、CPU51の出力するデューティ比と周波数のデータをD/A変換するD/A変換器54とから成る。電磁ブレーキ1の制御法には、PWM制御を用いる。コンピュータ部50から電磁ブレーキ1を駆動するためのH型ブリッジ回路56に供給する矩形波の電圧のデューティ比とPWM信号の周波数を指令する。
【0031】
[予備実験]
比較例に係る電磁ブレーキのデューティ比と制動トルクの関係を図3に示す。同図は、得られた実験結果5回の計測データの平均を示しており、PWM信号の周波数は電流が連続的であると確認できる1kHzとした。また、デューティ比の増減に応じて、電磁ブレーキが示す、互いに異なる挙動をプロットした。同図から、デューティ比を減小させて行く場合に、デューティ比が約0.18以上では制動トルクがほぼ0となっているが、デューティ比が約0.18を下回ると制動トルクが急激に増大していることがわかる。 さらに、デューティ比の増大・減小に伴い、制動トルク特性が大きなヒステリシスを有していることがわかる。
【0032】
制動トルク発生時に、ステータとアーマチュアの間には約0.15mmの空隙が保たれる。アーマチュアが制動側(ロータ側)に向かうフェーズと制動状態から解放側(コイル側)に向かうフェーズを比較すると、電磁力に起因する制動力が空隙のわずかな変化で大きく変化することが別の実験からわかった。デューティ比の増大フェーズと減小フェーズにおいて、互いに電磁ブレーキの挙動が異なる要因は、アーマチュアがコイルに吸引されステータと密着することで、磁気抵抗が減小して電磁力が増大するためと推察される。
【0033】
他方、ヒステリシス特性の要因は、電磁ブレーキ内部のコイルの残留磁束によるものと考えられる。 電磁ブレーキのヒステリシスは、アーマチュアがコイルに吸引され密着することで、磁気抵抗が減少して電磁力が増大するためであると考えられる。本発明者らは、非特許文献1に示すように、電磁ブレーキへの入力電圧を断続的に0Vにすることで、上で述べた磁気抵抗の減小の軽減と、さらにコイル内の残留磁束の急峻な除去が期待できることを示した。この無励磁フェーズの導入により、制動トルクのヒステリシスの軽減と制動トルクが急激に増大する領域の軽減を同時に達成した。その文献では、電磁ブレーキへの入力電圧を断続的に0Vにすることで、アーマチュアがコイルに吸引され磁気抵抗が減少することによる電磁力増加の影響の軽減および、コイル内の残留磁束の急峻な除去が期待できることを述べ、この無励磁フェーズの導入により、制動トルクのヒステリシスの軽減と制動トルクが急激に増大する領域の軽減が同時になされることを報告されている。
【0034】
しかしながら、この手法ではデューティ比に関係なく無励磁フェーズにおいてアーマチュアとロータが接触するため、デューティ比を増大させ続けても制動トルクがゼロにならず、制動トルクが0.1Nm以下の領域(これを解放状態の近傍領域と称する)において制動トルクを変化させられないという問題があった。デューティ比の増大と共に、常に一定としていた無励磁フェーズの長さを短縮させることで解決できると考えられる。
【0035】
[PWM信号の周波数の決定]
しかしながら、デューティ比と無励磁フェーズを同時に制御するのは煩雑である。そこで、一般的な用途と比較して、PWM 信号の周波数を極めて低く設定することにより、コイルに流れる電流が連続的にならないようになり、無励磁フェーズと同等の効果が期待できると考えた。
さらに、これまでと同様にデューティ比を増大させることで、無励磁フェーズの長さを短縮することになり、上にあげた問題の改善も期待できる。デューティ比を下げ続けた場合の制動トルクの可変性の向上を目的として予備的な実験から、この低周波PWM制御の周波数を10Hzと決定した。
【0036】
[本発明に係る実験例]
低周波PWMを導入した場合の電磁ブレーキのデューティ比と制動トルクの関係を図4に示す。
同図の場合も、得られた実験結果5回のデータの平均を示しており、デューティ比の増大時・減少時の制動トルクの推移を個別にプロットした。低周波PWMを導入することにより、デューティ比を増大させた場合と減小させた場合とで制動トルクにヒステリシスがほとんど生じなくなっていることがわかる。また、デューティ比のわずかな変化で制動トルクが大きく変化する領域も、同時に軽減されている。さらに、常に一定の長さの無励磁フェーズ時間を導入する場合と異なり、解放状態の近傍領域でも制動トルクの連続的な変化が確認できる。すなわち、ブレーキの解放状態から最大制動トルク発生状態に至るまで、連続的で滑らかに制動トルクを可変することができている。
【0037】
以上から、低周波PWM制御の導入によって制動トルクの連続的変化が可能であり、電磁ブレーキのトルク制御が実現できる可能性が示唆された。安全用途で用いる場合、制動トルクが事前に決定した目標値に至らない時、大きなリスクが発生する。また、ブレーキの個体差や時間経過による摩擦面の特性変化などがあるため、図4に示すような制動トルク特性が常に成立するとは限らない。本実施例では、PWM信号の周波数を10Hzとしている。この時、アーマチュア5が、少なくともロータ13に接触する直前のデューティ比において、アーマチュア5が軸方向に振動していることを観測している。アーマチュア5が軸方向に振動が、滑らかな制動トルクの増加の原因であると判断している。したがって、アーマチュア5がロータ13に接触する直前から、例えば、最大制動トルクの70%の制動トルクを得るデューティ比の範囲において、アーマチュア5が軸方向に、PWM信号のオンオフに応答して、軸方向に振動する周波数であれば良い。この周波数は、5Hz以上、20Hz以下である。
【実施例2】
【0038】
本実施例は、図2に示す構成により回転軸15に設けられたトルクメータ41(第1センサ)を用いて制動トルクを検出して、CPU51の処理により、目標トルクに追従させる実施例である。目標トルクの時間特性を、図4に示す特性に基づいて決定する。例えば、図12に示すように、緊急停止ボタン57の押下により、緊急停止信号が付与された時刻を基準として、目標トルクの増加特性が、回転軸15の回転速度に応じて決定されている。一般的には、回転軸15の回転速度が大きい程、目標トルクの増加の傾きを大きくする。また、最大制動が得られる付近において、目標トルクの増加率を減少させている。経過時刻に対する目標トルクの増加特性は、回転速度毎に表にして、メモリ58に記憶されている。
【0039】
CPU51は、図13に示すフローチャートにしたがって処理を実効する。CPU51は、常時、回転軸15の回転速度を検出し、操作者により付与される緊急停止ボタン57の押下の有無を監視している。ステップ100において、緊急停止ボタン57の押下が検出された場合には、その時の回転軸15の回転速度が、ロータリエンコーダ42、カウンタ52を介して入力される回転角の変化速度から演算される。次に、ステップ104において、メモリ58の増加特性表から、検出された回転速度に応じた目標トルクの増加時間特性が決定される。次に、ステップ106において、時刻変数nが初期値1に設定されて、ステップ108において、経過時刻tが、第n制御サイクルにおける制御時刻t(n)に一致したか否かが判定される。
【0040】
制御時刻に一致した場合に、ステップ110において、トルクメータ41から検出トルクTD(n)を読み取る。次に、ステップ112において、その制御時刻t(n)に対応した目標トルクTO(n)が、メモリ57の増加特性表から読み取られる。次に、ステップ114において、検出トルクTD(n) の目標トルクTO(n)に対する偏差D(n)が演算される。次に、ステップ116において、偏差D(n)の比例、制御時刻t(n)に関する積分と微分が演算される。すなわち、PID制御により制御量であるデューティ比Rが決定される。次に、ステップ118において、デューティ比RがPMW回路55に出力される。次に、ステップ120において、一連の制動サイクルの終了か否かが判定され、終了していない場合には、ステップ122において、時刻変数nが1だけ更新されて、ステップ108に戻り、上記の処理が繰り返される。このフィードバック制御により、検出トルクTD(n)は、所定の時間特性で増加する目標トルクTO(n)に追従することになる。この結果、制動トルクは理想的な滑らかな増加特性を実現することができる。このような制動トルクのフィードバック制御は、PWM信号の周波数を10Hzと低周波にしたために、デューティ比と制動トルクとの関係の勾配が緩く、滑らかに変化するために実現したものである。
【実施例3】
【0041】
次に、実施例3に係る電磁ブレーキ装置について説明する。電磁ブレーキ装置の全体の構成は、軸15のトルクを検出するトルクメータ41(第1センサ)を除き図2に示すものと同一である。本実施例では、電磁ブレーキ1の内部に制動トルクを検出する機構を設け、コンパクトな装置による制動トルクのフィードバック制御系を実現したものである。これによって、安全用途のブレーキとして制動トルクを監視し、異常発生時には電磁ブレーキを駆動することを可能とすると同時に、制動トルクの制御性能を向上させる。実施例1、2の装置では、トルク特性を求めた際の実験装置では、トルクメータ41を用いて制動トルクを計測しているが、電磁ブレーキをユニット化するため、トルクメータ41に代わる制動トルクの検出方法を検討する必要がある。これによって、安全用途のブレーキとして制動トルクを監視し、異常発生時には電磁ブレーキを駆動することを可能とすると同時に、コンパクトな装置による制動トルクのフィードバック制御系を実現するシステムを構築することを目標とする。
【0042】
そこでアーマチュア5を加工し、アーマチュア5とロータ13の接触によって発生する、制動バネ3による押し付け力とそのせん断方向に発生する摩擦力を歪みゲージを用いて検出することによって制動トルクを算出する方法を考案した。アーマチュア5に発生する歪みを検出するために、 図5に示すようにアーマチュア5は加工されている。円盤表面60の3箇所に、ロータ13と接触するプレート61が貼り付けられている。これにより、アーマチュア5に係る応力をこの部分に集中させる構造とした。そして、アーマチュア5の1箇所の外周部に2つの切り込み62、63が形成されることで、それらの間に、中心から法線方向に伸びた短冊状の梁64が形成され、その梁64の先端にプレート61が貼り付けられている。このプレート61はロータ13と接触し、ロータ13に対して制動トルクを発生させると共に、応力の集中により、梁64に高感度に歪みを発生させる。この梁64の円盤平面60に平行な上下の2つの面65、66には、第1センサである2つの歪みゲージ71、72がそれぞれ貼り付けられている。また、梁64の円盤平面60に垂直な両側面67、68には、第2センサである2つの歪みゲージ73、74がそれぞれ貼り付けられている。
【0043】
このようにして、歪みゲージを用いてアーマチュア5とロータ13の接触力に起因するアーマチュア5の歪みを検出するため、アーマチュア5のロータ13に対する接触部を3箇所に集中させ、その1箇所に加わる力を測定できるように歪みゲージを貼付した。本実施例における電磁ブレーキ装置は、図2におけるトルクメータ41に代えて、図5に示すようにアーマチュア5の加工により形成された梁64に貼り付けられた歪みゲージ71、72、73、74とした装置である。
【0044】
図5にあるように座標軸を定義し、制動バネ3によってアーマチュア5をロータ13側に押しつける力Fzと、押しつけた状態でロータ13が回転するために発生する摩擦力Fxを検出する目的の一対の歪みゲージ71、72、及び、一対の歪みゲージ73、74を、それぞれ、上述したように貼る。垂直力用、摩擦力用の歪みゲージはそれぞれ対をなしており、ハーフブリッジを構成し、回路の入力として機能する。そして、後段に増幅器を設け、歪み検出回路を形成している。垂直力と摩擦力を検出する特性における相互の干渉性(クロストーク)を調べる実験を行った。
【0045】
[歪みゲージ間のクロストーク]
実験では、アーマチュア5において、ロータ13との接触部に歪みゲージ71−74で検出を行う接触部にz軸方向(垂直方向)、x軸方向(摩擦方向)にそれぞれ荷重を行い、それぞれの検出回路出力をモニタしてクロストークを調べた。その際、荷重は本電磁ブレーキの保持トルクである20Nまで約3N間隔で変化させた。この実験の結果を図6、図7に示す。両図とも、得られた実験結果5回のデータの平均をとっており、さらに回帰直線を求めた。
【0046】
図6を見ると、垂直方向に荷重を加えた場合は垂直力を検出する歪みゲージ71、72は非常に高い線形性を持つと同時に、摩擦方向のゲージ73、74にはほとんど影響がないことが分かった。図7を見ると、図6と同様に、水平方向に荷重を加えた場合は摩擦力を検出するゲージ73、74は非常に高い線形性を持つが、一方で垂直方向を検出するゲージ71、72にもわずかに影響があることが分かった。これは歪みゲージ貼付時の誤差によるものだと考えられる。これらより、回帰分析によって求められた式(1)の式を用いて、2組の歪みゲージの検出データから垂直力と摩擦力を算出することとする。
【0047】
【数1】


なお、F≡ [Fz、 Fx]Tは接触力ベクトルである。また、V≡[Va、 Vb] T は検出回路出力電圧ベクトルでVa・Vbはそれぞれ垂直方向・摩擦方向の歪みゲージ回路の出力電圧である。
【0048】
[実験結果]
加工したアーマチュア5を用いた場合の制動トルクの変化を図8に示す。また、同時に歪みゲージ71、72を用いて検出した垂直方向の力Fzを 図9に、歪みゲージ73、74を用いて検出した摩擦方向の力Fxを図10にそれぞれ示す。低周波PWMを適用しているため、アーマチュアに加わる垂直力、摩擦力は振動する。そこで、これらの出力値の時系列的に得られた検出信号にローパスフィルタ(移動平均)を適用し、さらに得られた実験結果5回のデータの平均をとっている。また、デューティ比100%、つまり完全にブレーキを解放している状態の時に、アーマチュア5に加わる力をゼロとしている。
【0049】
[制動トルクの変化]
図8によれば、アーマチュア5の加工によって、接触面の状況に変化が発生したために最大制動トルクの変化があったものの、図4と同様に制動トルクを変化させることができていることがわかる。また、制動トルクが比較的大きい領域において、デューティ比の増大時と比較して、減小時は制動トルクがわずかに低下している。これはアーマチュア5の加工による接触面積の減小によって、アーマチュア5に加わる応力が増大するためにロータ13が摩耗したことが原因であると考えられる。すなわち、ロータ13の摩耗により、ロータ13と固定プレート6及びアーマチュア5間の空隙が増大することで、アーマチュア5をロータ13に押しつけている制動バネ3がわずかに伸び、制動トルクが減少すると考えられる。そのため、ロータ13の材料の変更、または接触面積を増大させるアーマチュア5の加工法を検討することによって改善させることができると考えられる。
【0050】
[歪みゲージによる垂直力の検出]
図9から、デューティ比の増大に伴い、垂直力が減小していく傾向が見られると同時に、ヒステリシスも発生していないことが分かる。また、電磁ブレーキ1が回転軸15を解放している領域においても、垂直力が発生していることが分かる。これは、アーマチュア5とロータ13間の空隙が小さいことが原因であると考えている。すなわち、両者が接触しておらず、制動トルクを発揮していない状態時にも、アーマチュア5が振動することによって発生すると考えられるものであり、設計上の機構的な改良により改善が見込まれる。
【0051】
[歪みゲージによる摩擦力の検出]
図9と同様に、図10においても、デューティ比の増大に伴い摩擦力は、減小していくことがわかる。また、標準偏差も比較的小さいことから、摩擦力の検出特性をおよそ表すことができていると判断される。しかし、摩擦力検出の場合は、垂直力の検出結果やトルクメータにより得られた制動トルクの計測と異なり、ヒステリシスが現れている。さらに、実際には電磁ブレーキ1が制動トルクを発揮していないデューティ比において、歪みゲージ回路の出力がゼロになっていない。別の実験により、短時間でデューティ比を増減させたところ、ヒステリシスの軽減が確認された。これらの原因としては、歪みゲージ貼付部の温度上昇により、検出回路の出力の変化してしまっているからであると考えている。
【0052】
これは、回路によって歪みゲージの温度補償は行っているものの、歪みゲージの接着面のふぞろいに起因して温度から受ける影響などによって、歪みゲージごとの特性にばらつきが生じるためだと考えられる。別の実験で、制動トルクが原理的に一定となるようにデューティ比を固定した状態で、400s の連続動作を行い、摩擦力の検出回路出力を観察たところ、400s の間に約0.15V の出力電圧の増加が認められた。この約0.15Vの歪みゲージ式検出回路の出力の変化を摩擦力に換算すると、約1N分の出力の誤差であり、図10とほぼ一致する。
【0053】
この電磁ブレーキは主に安全用途での使用を想定している。したがって、この用途に限れば出力に対して温度上昇の影響は生じないと考える。ただし、安全用途の場合、後段の信号処理回路も含めて自己診断機能を達成する必要があり、トルクメータ41にとって代わって歪ゲージ式の垂直力センサ(第1センサ)、および摩擦力検出センサ(第2センサ)をそれぞれ別の検出回路、すなわち、A/Dコンバータ53からCPU51までを並列2段で構成して第1センサと第2センサに対応づける信号処理系を独立に構成することにより、これが達成される。他方、この制動力可変機能付き電磁ブレーキを、通常のトルク制御用途で用いることも考えられる。この場合には、温度上昇による出力回路の影響を考慮した対策が必要である。
【0054】
[垂直力と摩擦力の比較]
図9と図10を比較すると、垂直力に対して、摩擦力が小さいことが分かる。これはアーマチュア5が回転方向には固定されているために、歪みが摩擦力に起因するものとして換算できるのに対し、垂直方向にはアーマチュアが可動するため、アーマチュア全体の振動が影響することが原因と考えられる。
【0055】
[歪みゲージによる制動トルクの検出結果における検討]
アーマチュア5の円盤平面60上のロータ13に対する他の接触部の2箇所でも同じ摩擦力が発生すると仮定して、歪みゲージ式検出回路から得られた制動トルクの変化と、トルクメータ41で計測した制動トルクの変化とを比較した結果を図11に示す。図11に示した、歪みゲージ式検出回路、トルクメータ41によって検出した制動トルクの変化はともに、デューティ比を減少させ続けた場合の実験結果である。特性の傾向はおよそ一致しているものの、制動トルクが比較的大きい領域においてトルクメータ41で計測した制動トルクとの間には大きな差がある。これは、3箇所に分けた接触面それぞれにおいて発生する垂直力、摩擦力が異なることが原因と考えられる。制動時の固定プレート6とアーマチュア5間の空隙、すなわちアーマチュア5の垂直方向の可動距離が約0.15mmと小さいことから、アーマチュア5を加工したことにより、3箇所の接触面においてロータ13と固定プレート6間の距離が異なり、それぞれに発生する電磁力に偏りが生じるためであると推察される。そのため、3箇所の接触部全ての状態を歪みゲージによって計測し、それらのデータを合算することで、トルクメータ41との値と一致させることが可能であると考えられるが、安全用途での使用を考えるとアーマチュア5の接触部全ての剛性を下げることは慎重に行う必要がある。現状の1箇所の測定でも、歪みゲージ71−74によって測定された摩擦力は再現性が高いため、トルクメータ41の値と1対1に対応させることで、制動トルクの計測は可能である。
【0056】
[制動トルクのフィードバック制御]
上記構造の電磁ブレーキ装置において、実施例2と同様に制動トルクのフィードバック制御を行うことができる。この場合には、図13において、ステップ110の検出トルクは、歪みゲージ71、72から得られる垂直力Fzと歪みゲージ73、74から得られる摩擦力Fxとから、上記(1)式から得ることが異なるだけである。他の処理は、実施例2の図13の処理と同一である。このようにして、本実施例では、回転軸15などのように電磁ブレーキ1の外部にセンサを特別に取り付けることなく、電磁ブレーキ1だけで、制動開始時における制動トルクの滑らかな増加を実現することができる。
なお、実施例2、及び実施例3におけるフィードバック制御では、モータ17の回転が完全に停止すると検出される検出トルクは減少する。したがって、上記のフィードバック制御は、モータ17が停止して、制動トルクが減少するまでの期間において実行される。
また、実施例2、及び実施例3におけるフィードバック制御は、電磁ブレーキ1を制動から開放する時にも、制動トルクを滑らかに開放するのに用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、モータの回転を制動停止させるのに用いることができる。特に、モータにより駆動される移動体を滑らかに安全に緊急停止させるのに用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1…電磁ブレーキ
3…制動バネ
4…ヨーク
5…アーマチュア
6…固定プレート
13…ロータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定プレート、アーマチュア、前記固定プレートと前記アーマチュアとの間に存在するロータが、ロータの回転軸方向に配設され、前記アーマチュアを前記固定プレートの方向に付勢して前記ロータを前記固定プレートに押圧して制動させる制動バネと、励磁コイルへの電流の増加により前記制動バネの付勢力と反対方向に前記アーマチュアを移動させて前記ロータの制動を解除する電磁石とを有し、前記励磁コイルへのPWM通電のデューティ比を制御する制御装置とを有した電磁ブレーキ装置において、
前記制御装置は、制動解除状態から制動状態への移行過程において、前記アーマチュアが前記ロータに接触する直前からロータに制動力が付与されるまでの少なくとも制動初期期間における前記デューティ比の変化範囲に対して、前記アーマニュアが前記PWM通電の周波数に応答して振動する周波数としたことを特徴とする電磁ブレーキ装置。
【請求項2】
前記ロータから前記アーマチュアが反作用として受けるトルクを検出する第1センサを有し、
前記制御装置は、前記第1センサの出力する検出トルクが時間的に変化させる目標トルクに追従するように、前記デューティ比を制御することを特徴とする請求項1に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項3】
前記アーマチュアの前記ロータへの押圧力を検出する第2センサを有し、
前記制御装置は、前記第1センサの出力する第1出力と、前記第2センサの出力する第2出力とから前記検出トルクを求めることを特徴とする請求項2に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項4】
前記第1センサの出力する第1出力と、前記第2センサの出力する第2出力とから、前記検出トルクと前記押圧力とを求め、前記検出トルクの前記押圧力に対する比率が、所定範囲に存在する場合には正常とし、所定範囲に存在しない場合には異常と判定して、警報を出力することを特徴とする請求項3に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項5】
前記アーマチュアには、中心方向に形成された2つの切り込みにより、法線方向に伸びた梁が形成され、前記第1センサは、この梁の前記ロータに対する接触面に平行な面に配設され、前記第2センサはこの梁の前記接触面に垂直な側面に配設されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項6】
前記梁の先端には、前記ロータに接触し、応力を集中して受けるための凸部が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項7】
前記制動バネは、前記アーマチュアが前記ロータに接触する直前における変位から、最大変位に至るまでの間に、バネ定数が漸次増大する非線形バネから構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項8】
前記周波数は、5Hz以上、20Hz以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項9】
固定プレート、アーマチュア、前記固定プレートと前記アーマチュアとの間に存在するロータが、ロータの回転軸方向に配設され、前記アーマチュアを前記固定プレートの方向に付勢して前記ロータを前記固定プレートに押圧して制動させる制動バネと、励磁コイルへの電流の増加により前記制動バネの付勢力と反対方向に前記アーマチュアを移動させて前記ロータの制動を解除する電磁石とを有した電磁ブレーキの制御方法であって、前記励磁コイルへのPWM通電のデューティ比を制御する電磁ブレーキ制御方法において、
制動解除状態から制動状態への移行過程において、前記アーマチュアが前記ロータに接触する直前からロータに制動力が付与されるまでの少なくとも制動初期期間における前記励磁コイルへの電流のデューティ比の変化範囲に対して、前記アーマニュアが前記PWM通電の周波数に応答して振動する周波数としたことを特徴とする電磁ブレーキ制御方法。
【請求項10】
前記周波数は、5Hz以上、20Hz以下であることを特徴とする請求項9に記載の電磁ブレーキ制御方法。

【図1.A】
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【図1.B】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−189179(P2012−189179A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54873(P2011−54873)
【出願日】平成23年3月12日(2011.3.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第28回日本ロボット学会学術講演会(主催者:社団法人日本ロボット学会、開催日:平成22年9月22日〜9月24日)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】