電磁ブレーキ装置
【課題】本発明は、簡単な構成によりブレーキ動作音を低減することができる電磁ブレーキ装置を得ることを目的とするものである。
【解決手段】変位拘束治具11は、可動鉄心4の一端部の回転体6側への変位を拘束する。可動鉄心4は、制動力印加時に、制動力付勢部7の非対称な力により回転運動するが、この回転運動の途中で可動鉄心4が変位拘束治具11に当接することにより、可動鉄心4の回転運動の向きが変えられる。即ち、可動鉄心4は、制動力印加時に、回転運動途中で変位拘束治具11により変位を拘束され、2軸の回転運動をする。
【解決手段】変位拘束治具11は、可動鉄心4の一端部の回転体6側への変位を拘束する。可動鉄心4は、制動力印加時に、制動力付勢部7の非対称な力により回転運動するが、この回転運動の途中で可動鉄心4が変位拘束治具11に当接することにより、可動鉄心4の回転運動の向きが変えられる。即ち、可動鉄心4は、制動力印加時に、回転運動途中で変位拘束治具11により変位を拘束され、2軸の回転運動をする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばエレベータ装置、自動車又は列車等に設けられる電磁ブレーキ装置に関し、特にブレーキ動作音の静音機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラクション方式のエレベータ装置では、かご及び釣合おもりを吊り下げる主索が「つるべ」式に駆動シーブ(綱車)に巻き掛けられている。そして、駆動シーブの回転により、主索と駆動シーブとの間の摩擦力(トラクション)を利用して、かご及び釣合おもりが昇降される。また、駆動シーブの回転を制動するブレーキ装置には、一般に電磁ブレーキ装置が採用されている。
【0003】
従来の電磁ブレーキ装置では、ブレーキコイルへの通電により可動鉄心が固定鉄心側へ吸引保持され、制動力が解除される。また、ブレーキコイルへの通電を遮断することにより、第1及び第2のブレーキばねのばね力で可動鉄心が移動し、制動面が回転部に接触して、制動力が印加される。さらに、第1及び第2のブレーキばねを非対称として、可動鉄心を観音開きさせることにより、制動面が回転部に接触する際に発生する動作音が低減される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の従来の電磁ブレーキ装置では、ブレーキコイルへの通電により可動鉄心が移動し、可動鉄心と固定鉄心とのギャップ間隔が狭くなるにつれて、別のギャップ(横)での磁気抵抗が増加することで、吸引力の増加が抑制され、衝突音が低減される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−21179号公報
【特許文献2】特開2003−68524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示された従来の電磁ブレーキ装置では、可動鉄心を回転運動させると、ギャップが大きい場合に制動面及びブレーキシューの傾きが大きくなるため、球面座などの傾き補正手段が必要となり、コストが高くなる。
また、特許文献2に示された従来の電磁ブレーキ装置では、可動鉄心の面と固定鉄心の面とが均一に衝突するので、衝撃音が十分に低減されず、また磁極面の加工が複雑になり、コストが高くなる。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、簡単な構成によりブレーキ動作音を低減することができる電磁ブレーキ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電磁ブレーキ装置は、固定鉄心とブレーキコイルとを有する電磁マグネット、ブレーキコイルへの通電により電磁マグネットに吸引される可動鉄心と、可動鉄心に設けられ、可動鉄心が電磁マグネットに吸引されることにより被制動体から離されるブレーキシューとを有する可動体、ブレーキコイルへの通電を遮断することで、非対称の力で可動鉄心を移動させブレーキシューを被制動体に接触させる制動力付勢部、及び制動力付勢部の非対称な力による可動体の回転運動の途中で可動体に当接し、可動鉄心の回転運動の向きを変える変位拘束治具を備えている。
【発明の効果】
【0009】
この発明の電磁ブレーキ装置は、可動体の回転運動の途中で、変位拘束治具により回転運動の向きが変えられるので、ブレーキ動作途中に可動体の移動が一旦停止された後、再度動きが開始されるため、ブレーキシューが被制動体に低速で接触し、動作音が低減され、また、ブレーキシューを制動面にほぼ平行に接触させるように調整することにより、傾き補正機構が不要となり、構成が簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す断面図である。
【図4】図1の電磁ブレーキ装置の制動力印加時の状態を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態2による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】この発明の実施の形態3による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線に沿う断面図である。
【図9】図7の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す断面図である。
【図10】図7の電磁ブレーキ装置の制動力印加時の状態を示す断面図である。
【図11】この発明の実施の形態4による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図である。
【図12】図11のXII−XII線に沿う断面図である。
【図13】図11の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図、図2は図1のII−II線に沿う断面図である。図において、電磁マグネット1は、固定鉄心2と、固定鉄心2に装着されたブレーキコイル3とを有している。平板状の可動鉄心4は、ブレーキコイル3への通電により電磁マグネット1に吸引される。
【0012】
可動鉄心4には、ブレーキシュー5が搭載されている。可動体は、可動鉄心4及びブレーキシュー5を有している。ブレーキシュー5は、可動鉄心4が電磁マグネット1に吸引されることにより被制動体である回転体6の内周面(制動面)から離される。
【0013】
固定鉄心2には、ブレーキシュー5を回転体6に押し付ける付勢力を発生する制動力付勢部7が設けられている。制動力付勢部7は、固定鉄心2から離れる方向へ可動鉄心4を付勢する第1及び第2のブレーキばね8,9を有している。第1及び第2のブレーキばね8,9としては、例えばコイルばねが用いられている。また、第1及び第2のブレーキばね8,9は、固定鉄心2に設けられた第1及び第2の凹部2a,2bにそれぞれ収容されている。
【0014】
第1のブレーキばね8のばね力は、第2のブレーキばね9のばね力よりも大きくなっている。また、第1及び第2のブレーキばね8,9は、電磁マグネット1、可動鉄心4及びブレーキシュー5の中心線に対して対称に配置されている。このため、制動力付勢部7は、ブレーキコイル3への通電を遮断することで、非対称の力で可動鉄心4を移動させブレーキシュー5を回転体6に接触させる。
【0015】
このように、ブレーキコイル3への通電を遮断することで、制動力付勢部7の付勢力によりブレーキシュー5が回転体6に押し付けられ、回転体6に制動力が印加される。また、ブレーキコイル3に通電して電磁マグネット1を励磁することにより、可動鉄心4は、制動力付勢部7の付勢力に抗して吸引され、制動力の印加が解除される。
【0016】
また、制動力の印加・解除の動作は、ブレーキコイル3への通電電流の大きさを調整することにより、調整可能になっている。
【0017】
固定鉄心2と可動鉄心4との間には、弾性体(例えばゴム又はばね)からなる複数の加速抑制部材10が接続されている。この例では、可動鉄心4の四隅に加速抑制部材10が配置されている。
【0018】
加速抑制部材10は、固定鉄心2と可動鉄心4との間のギャップが開くにつれて制動力付勢部7の可動鉄心4への駆動力を低下させる。これにより、ギャップが開くことで電磁マグネット1の電磁力の影響が低下して、可動鉄心4の移動速度が加速するのが極力抑制される。
【0019】
固定鉄心2の第1のブレーキばね8に近い側(制動力付勢部7の付勢力が大きい側)の側面には、変位拘束治具(回転拘束機構)11が複数のボルト12により固定されている。実施の形態1の変位拘束治具11は、平板をL字形に折り曲げてなる部材である。
【0020】
変位拘束治具11の回転体6側の端部には、制動力印加時に可動鉄心4の回転体6側の端面の縁部が当接する当接部11aが設けられている。また、変位拘束治具11は、当接部11aの可動鉄心4に対向する面に固定された緩衝部材13を有している。緩衝部材13としては、例えばゴムやプラスチック等の弾性体が用いられている。
【0021】
可動鉄心4の緩衝部材13への当接位置は、ブレーキ開放時における可動鉄心4と緩衝部材13との間の距離がブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離にほぼ等しくなるように設定されている。より詳細には、ブレーキ開放時における可動鉄心4と緩衝部材13との間の距離は、ブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離よりも若干小さく設定されている。
【0022】
変位拘束治具11には、ボルト12が貫通する長孔が設けられており、ボルト12を緩めることにより可動鉄心4の緩衝部材13への当接位置が調整可能になっている。即ち、変位拘束治具11は、可動鉄心4との当接位置を調整可能になっている。
【0023】
変位拘束治具11は、可動鉄心4の一端部の回転体6側への変位を拘束する。可動鉄心4は、制動力印加時に、制動力付勢部7の非対称な力により回転運動するが、この回転運動の途中で可動鉄心4が変位拘束治具11に当接することにより、可動鉄心4の回転運動の向きが変えられる。即ち、可動鉄心4は、制動力印加時に、回転運動途中で変位拘束治具11により変位を拘束され、2軸の回転運動をする。
【0024】
図3は図1の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す断面図、図4は図1の電磁ブレーキ装置の制動力印加時の状態を示す断面図である。ブレーキコイル3に通電されているブレーキ解除状態(図1)から、電流が減少されると、電磁マグネット1の電磁力が減少し、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、ばね力の強い第1のブレーキばね8側のギャップが開く(図の左回り)の回転運動を行う。
【0025】
この後、可動鉄心4が緩衝部材13に当接すると、可動鉄心4の回転運動が拘束され、可動鉄心4は一旦静止した状態となる。このとき、緩衝部材13により回転エネルギが吸収されるので、動作音(衝突音)は問題とならない程度に低減される。この後、電流がさらに減少されると、ばね力の弱い第2のブレーキばね9側のギャップが開き、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、動作開始初期とは逆向き(図の右回り)の回転運動を行う。
【0026】
この後、ブレーキシュー5が回転体6に当接し、制動力が印加される。可動鉄心4の動作後半の回転運動(図の右回りの回転運動)は、全ギャップの半分のみを移動する運動であり、回転運動の速度が増速する前にブレーキシュー5が回転体6に当接するため、このときの動作音(衝突音)も十分に低減される。
【0027】
このような電磁ブレーキ装置では、可動鉄心4の回転運動の途中で、変位拘束治具11により回転運動の向きが変えられるので、ブレーキ動作途中に可動鉄心4の移動が一旦停止された後、再度動きが開始されるため、ブレーキシュー5が回転体6に低速で接触し、動作音が低減される。また、ブレーキシュー5を制動面にほぼ平行に接触させるように調整することにより、球面座等の傾き補正機構(角度補正機構)が不要となり、構成が簡単である。
【0028】
また、変位拘束治具11は、可動鉄心4との当接位置を調整可能になっているので、傾き補正機構をより確実に不要とすることができる。
さらに、変位拘束治具11の可動鉄心4との当接部11aには、緩衝部材13が設けられているので、動作音をさらに低減することができる。
【0029】
なお、緩衝部材13及び加速抑制部材10は、必ずしも用いなくてもよく、省略することもできる。
また、実施の形態1では、当接部11aに緩衝部材13を固定したが、可動鉄心4の当接部11aに当接する部分に緩衝部材13を固定してもよい。
さらに、実施の形態1では、変位拘束治具11を固定鉄心2に取り付けたが、例えばモータの枠など、他の固定された部材に取り付けてもよい。
【0030】
実施の形態2.
次に、図5はこの発明の実施の形態2による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図、図6は図5のVI−VI線に沿う断面図である。実施の形態2は、実施の形態1の変位拘束治具14の代わりに、変位拘束治具14を用いたものであり、電磁ブレーキ装置の他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0031】
ブレーキシュー5には、ブレーキシュー5の動作方向に直交する治具挿入孔5aが設けられている。治具挿入孔5aは、ブレーキシュー5の中心よりも、第1のブレーキばね8側(制動力付勢部7の付勢力が大きい側)に設けられている。
【0032】
治具挿入孔5aには、棒状の変位拘束治具14が挿入されている。変位拘束治具14は、モータの枠に固定されている。治具挿入孔5aの内周面と変位拘束治具14の外周面との間には、所定の余裕(ギャップ)が設けられている。
【0033】
可動鉄心4の変位は、変位拘束治具14の直径と治具挿入孔5aの直径とにより規定されている。変位拘束治具14の直径と治具挿入孔5aの直径と差は、ブレーキ開放時におけるブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離にほぼ等しくなるように設定されている。より詳細には、変位拘束治具14の直径と治具挿入孔5aの直径と差は、ブレーキ開放時におけるブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離よりも若干小さく設定されている。
【0034】
変位拘束治具14は、ブレーキシュー5の一端部の回転体6側への変位を拘束する。ブレーキシュー5は、制動力印加時に、制動力付勢部7の非対称な力により回転運動するが、この回転運動の途中でブレーキシュー5が変位拘束治具14に当接することにより、ブレーキシュー5の回転運動の向きが変えられる。即ち、ブレーキシュー5は、制動力印加時に、回転運動途中で変位拘束治具14により変位を拘束され、2軸の回転運動をする。
【0035】
次に、動作について説明する。ブレーキコイル3に通電されているブレーキ解除状態(図5)から、電流が減少されると、電磁マグネット1の電磁力が減少し、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、ばね力の強い第1のブレーキばね8側のギャップが開く(図5の左回り)の回転運動を行う。
【0036】
この後、ブレーキシュー5の回転運動が変位拘束治具14により拘束されると、ブレーキシュー5は一旦静止した状態となる。この後、電流がさらに減少されると、ばね力の弱い第2のブレーキばね9側のギャップが開き、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、動作開始初期とは逆向き(図5の右回り)の回転運動を行う。
【0037】
この後、ブレーキシュー5が回転体6に当接し、制動力が印加される。可動鉄心4及びブレーキシュー5の動作後半の回転運動(図5の右回りの回転運動)は、全ギャップの半分のみを移動する運動であり、回転運動の速度が増速する前にブレーキシュー5が回転体6に当接するため、このときの動作音(衝突音)は十分に低減される。
【0038】
このように、ブレーキシュー5の治具挿入孔5aに挿入された変位拘束治具14を用いても、実施の形態1と同様に、簡単な構成によりブレーキ動作音を低減することができる。
【0039】
なお、実施の形態2では、円形の治具挿入孔5aを示したが、治具挿入孔5aの断面形状はこれに限定されるものではなく、例えば矩形や長円形等であってもよい。
また、変位拘束治具14の断面形状も円形に限定されるものではなく、例えば矩形等であってもよい。
さらに、変位拘束治具14の外周面又は治具挿入孔5aの内周面に緩衝部材を設けてもよい。
さらにまた、実施の形態2では、治具挿入孔5aをブレーキシュー5に設けたが、可動鉄心4に設けてもよい。
【0040】
実施の形態3.
次に、図7はこの発明の実施の形態3による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図、図8は図7のVIII−VIII線に沿う断面図、図9は図7の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す断面図、図10は図7の電磁ブレーキ装置の制動力印加時の状態を示す断面図である。
【0041】
実施の形態3は、実施の形態1の変位拘束治具14の代わりに、変位拘束治具15を用いたものであり、電磁ブレーキ装置の他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0042】
可動鉄心4には、可動鉄心4の動作方向に平行な治具挿入孔4aが設けられている。治具挿入孔4aは、可動鉄心4の中心よりも、第1のブレーキばね8側(制動力付勢部7の付勢力が大きい側)に設けられている。
【0043】
固定鉄心2には、治具挿入孔4aに連続した貫通孔2cが設けられている。また、固定鉄心2には、ボルト状の変位拘束治具15が取り付けられている。変位拘束治具15は、制動力印加時に可動鉄心4が当接するフランジ状の当接部15aと、貫通孔2c及び治具挿入孔4aを貫通しているねじ棒部15bと、ねじ棒部15bの当接部15aとは反対側の端部に螺着されたナット15cとを有している。
【0044】
治具挿入孔4aの内周面とねじ棒部15bの外周面との間には、可動鉄心4の回転運動を許容するための所定の余裕が設けられている。
【0045】
可動鉄心4の当接部15aへの当接位置は、ブレーキ開放時における可動鉄心4と当接部15aとの間の距離がブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離にほぼ等しくなるように設定されている。より詳細には、ブレーキ開放時における可動鉄心4と当接部15aとの間の距離は、ブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離よりも若干小さく設定されている。また、可動鉄心4の当接部15aへの当接位置は、ナット15cを回すことにより調整可能になっている。
【0046】
変位拘束治具15は、可動鉄心4の一端部の回転体6側への変位を拘束する。可動鉄心4は、制動力印加時に、制動力付勢部7の非対称な力により回転運動するが、この回転運動の途中で可動鉄心4が当接部15aに当接することにより、可動鉄心4の回転運動の向きが変えられる。即ち、可動鉄心4は、制動力印加時に、回転運動途中で変位拘束治具15により変位を拘束され、2軸の回転運動をする。
【0047】
次に、動作について説明する。ブレーキコイル3に通電されているブレーキ解除状態(図7)から、電流が減少されると、電磁マグネット1の電磁力が減少し、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、ばね力の強い第1のブレーキばね8側のギャップが開く(図7の左回り)の回転運動を行う。
【0048】
この後、図9に示すように、可動鉄心4の回転運動が変位拘束治具15により拘束されると、可動鉄心4は一旦静止した状態となる。この後、電流がさらに減少されると、ばね力の弱い第2のブレーキばね9側のギャップが開き、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、動作開始初期とは逆向き(図9の右回り)の回転運動を行う。
【0049】
この後、図10に示すように、ブレーキシュー5が回転体6に当接し、制動力が印加される。可動鉄心4及びブレーキシュー5の動作後半の回転運動(図9の右回りの回転運動)は、全ギャップの半分のみを移動する運動であり、回転運動の速度が増速する前にブレーキシュー5が回転体6に当接するため、このときの動作音(衝突音)は十分に低減される。
【0050】
このように、固定鉄心2及び可動鉄心4を貫通するボルト状の変位拘束治具15を用いても、実施の形態1と同様に、簡単な構成によりブレーキ動作音を低減することができる。
【0051】
また、実施の形態3の変位拘束治具15では、ナット15cを手動操作で締め付けて、当接部15aを固定鉄心2側へ変位させることにより、制動力付勢部7に抗して可動鉄心4を固定鉄心2側へ強制的に変位させることもできる。即ち、ねじ棒部15b及びナット15cが緊急開放機構として機能し、停電時などの電磁マグネット1が動作できない場合にブレーキを手動で開放することができる。
【0052】
なお、当接部15a又は可動鉄心4の当接部15aに当接する部分に緩衝部材を設けてもよい。
【0053】
実施の形態4.
次に、図11はこの発明の実施の形態4による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図、図12は図11のXII−XII線に沿う断面図、図13は図11の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す側面図である。
【0054】
実施の形態4の制動力付勢部7は、第1及び第2のブレーキばね8,9と、第1及び第2の補助ばね16,17とを有している。実施の形態4では、第1のブレーキばね8のばね力と第2のブレーキばね9のばね力とが同じである。また、第1及び第2の補助ばね16,17のばね力は、第1及び第2のブレーキばね8,9のばね力よりも小さい。
【0055】
第1及び第2の補助ばね16,17は、固定鉄心2に設けられた第3及び第4の凹部2d,2eにそれぞれ収容されている。また、第1及び第2の補助ばね16,17は、第1のブレーキばね8,9に対して、回転体6の軸方向にずらした位置に配置されている。このため、制動力付勢部7は、全体として、非対称の力で可動鉄心4を付勢している。
【0056】
変位拘束治具11は、回転体6の軸方向の固定鉄心2の端面であって、第1及び第2の補助ばね16,17に近い側の端面に固定されている。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0057】
このような電磁ブレーキ装置においても、実施の形態1と同様に、簡単な構成によりブレーキ動作音を低減することができる。
また、回転体6の軸方向の固定鉄心2の端面に変位拘束治具11を取り付けたので、電磁マグネット1の幅方向の端部に作業スペースが確保できない場合でも、変位拘束治具11の位置調整を容易に行うことができる。
【0058】
なお、実施の形態4のような制動力付勢部7を用いる場合であっても、実施の形態2、3に示したような変位拘束治具14,15を適用することができる。
また、実施の形態1〜4では、この発明をエレベータ装置の制動装置に適用した場合を示したが、自動車や列車などの制動装置に適用してもよい。また、被制動体は、回転体6に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0059】
1 電磁マグネット、2 固定鉄心、3 ブレーキコイル、4 可動鉄心、5 ブレーキシュー、6 回転体(被制動体)、7 制動力付勢部、11,14,15 変位拘束治具、11a,15a 当接部、13 緩衝部材。
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばエレベータ装置、自動車又は列車等に設けられる電磁ブレーキ装置に関し、特にブレーキ動作音の静音機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラクション方式のエレベータ装置では、かご及び釣合おもりを吊り下げる主索が「つるべ」式に駆動シーブ(綱車)に巻き掛けられている。そして、駆動シーブの回転により、主索と駆動シーブとの間の摩擦力(トラクション)を利用して、かご及び釣合おもりが昇降される。また、駆動シーブの回転を制動するブレーキ装置には、一般に電磁ブレーキ装置が採用されている。
【0003】
従来の電磁ブレーキ装置では、ブレーキコイルへの通電により可動鉄心が固定鉄心側へ吸引保持され、制動力が解除される。また、ブレーキコイルへの通電を遮断することにより、第1及び第2のブレーキばねのばね力で可動鉄心が移動し、制動面が回転部に接触して、制動力が印加される。さらに、第1及び第2のブレーキばねを非対称として、可動鉄心を観音開きさせることにより、制動面が回転部に接触する際に発生する動作音が低減される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の従来の電磁ブレーキ装置では、ブレーキコイルへの通電により可動鉄心が移動し、可動鉄心と固定鉄心とのギャップ間隔が狭くなるにつれて、別のギャップ(横)での磁気抵抗が増加することで、吸引力の増加が抑制され、衝突音が低減される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−21179号公報
【特許文献2】特開2003−68524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示された従来の電磁ブレーキ装置では、可動鉄心を回転運動させると、ギャップが大きい場合に制動面及びブレーキシューの傾きが大きくなるため、球面座などの傾き補正手段が必要となり、コストが高くなる。
また、特許文献2に示された従来の電磁ブレーキ装置では、可動鉄心の面と固定鉄心の面とが均一に衝突するので、衝撃音が十分に低減されず、また磁極面の加工が複雑になり、コストが高くなる。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、簡単な構成によりブレーキ動作音を低減することができる電磁ブレーキ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電磁ブレーキ装置は、固定鉄心とブレーキコイルとを有する電磁マグネット、ブレーキコイルへの通電により電磁マグネットに吸引される可動鉄心と、可動鉄心に設けられ、可動鉄心が電磁マグネットに吸引されることにより被制動体から離されるブレーキシューとを有する可動体、ブレーキコイルへの通電を遮断することで、非対称の力で可動鉄心を移動させブレーキシューを被制動体に接触させる制動力付勢部、及び制動力付勢部の非対称な力による可動体の回転運動の途中で可動体に当接し、可動鉄心の回転運動の向きを変える変位拘束治具を備えている。
【発明の効果】
【0009】
この発明の電磁ブレーキ装置は、可動体の回転運動の途中で、変位拘束治具により回転運動の向きが変えられるので、ブレーキ動作途中に可動体の移動が一旦停止された後、再度動きが開始されるため、ブレーキシューが被制動体に低速で接触し、動作音が低減され、また、ブレーキシューを制動面にほぼ平行に接触させるように調整することにより、傾き補正機構が不要となり、構成が簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す断面図である。
【図4】図1の電磁ブレーキ装置の制動力印加時の状態を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態2による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】この発明の実施の形態3による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線に沿う断面図である。
【図9】図7の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す断面図である。
【図10】図7の電磁ブレーキ装置の制動力印加時の状態を示す断面図である。
【図11】この発明の実施の形態4による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図である。
【図12】図11のXII−XII線に沿う断面図である。
【図13】図11の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図、図2は図1のII−II線に沿う断面図である。図において、電磁マグネット1は、固定鉄心2と、固定鉄心2に装着されたブレーキコイル3とを有している。平板状の可動鉄心4は、ブレーキコイル3への通電により電磁マグネット1に吸引される。
【0012】
可動鉄心4には、ブレーキシュー5が搭載されている。可動体は、可動鉄心4及びブレーキシュー5を有している。ブレーキシュー5は、可動鉄心4が電磁マグネット1に吸引されることにより被制動体である回転体6の内周面(制動面)から離される。
【0013】
固定鉄心2には、ブレーキシュー5を回転体6に押し付ける付勢力を発生する制動力付勢部7が設けられている。制動力付勢部7は、固定鉄心2から離れる方向へ可動鉄心4を付勢する第1及び第2のブレーキばね8,9を有している。第1及び第2のブレーキばね8,9としては、例えばコイルばねが用いられている。また、第1及び第2のブレーキばね8,9は、固定鉄心2に設けられた第1及び第2の凹部2a,2bにそれぞれ収容されている。
【0014】
第1のブレーキばね8のばね力は、第2のブレーキばね9のばね力よりも大きくなっている。また、第1及び第2のブレーキばね8,9は、電磁マグネット1、可動鉄心4及びブレーキシュー5の中心線に対して対称に配置されている。このため、制動力付勢部7は、ブレーキコイル3への通電を遮断することで、非対称の力で可動鉄心4を移動させブレーキシュー5を回転体6に接触させる。
【0015】
このように、ブレーキコイル3への通電を遮断することで、制動力付勢部7の付勢力によりブレーキシュー5が回転体6に押し付けられ、回転体6に制動力が印加される。また、ブレーキコイル3に通電して電磁マグネット1を励磁することにより、可動鉄心4は、制動力付勢部7の付勢力に抗して吸引され、制動力の印加が解除される。
【0016】
また、制動力の印加・解除の動作は、ブレーキコイル3への通電電流の大きさを調整することにより、調整可能になっている。
【0017】
固定鉄心2と可動鉄心4との間には、弾性体(例えばゴム又はばね)からなる複数の加速抑制部材10が接続されている。この例では、可動鉄心4の四隅に加速抑制部材10が配置されている。
【0018】
加速抑制部材10は、固定鉄心2と可動鉄心4との間のギャップが開くにつれて制動力付勢部7の可動鉄心4への駆動力を低下させる。これにより、ギャップが開くことで電磁マグネット1の電磁力の影響が低下して、可動鉄心4の移動速度が加速するのが極力抑制される。
【0019】
固定鉄心2の第1のブレーキばね8に近い側(制動力付勢部7の付勢力が大きい側)の側面には、変位拘束治具(回転拘束機構)11が複数のボルト12により固定されている。実施の形態1の変位拘束治具11は、平板をL字形に折り曲げてなる部材である。
【0020】
変位拘束治具11の回転体6側の端部には、制動力印加時に可動鉄心4の回転体6側の端面の縁部が当接する当接部11aが設けられている。また、変位拘束治具11は、当接部11aの可動鉄心4に対向する面に固定された緩衝部材13を有している。緩衝部材13としては、例えばゴムやプラスチック等の弾性体が用いられている。
【0021】
可動鉄心4の緩衝部材13への当接位置は、ブレーキ開放時における可動鉄心4と緩衝部材13との間の距離がブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離にほぼ等しくなるように設定されている。より詳細には、ブレーキ開放時における可動鉄心4と緩衝部材13との間の距離は、ブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離よりも若干小さく設定されている。
【0022】
変位拘束治具11には、ボルト12が貫通する長孔が設けられており、ボルト12を緩めることにより可動鉄心4の緩衝部材13への当接位置が調整可能になっている。即ち、変位拘束治具11は、可動鉄心4との当接位置を調整可能になっている。
【0023】
変位拘束治具11は、可動鉄心4の一端部の回転体6側への変位を拘束する。可動鉄心4は、制動力印加時に、制動力付勢部7の非対称な力により回転運動するが、この回転運動の途中で可動鉄心4が変位拘束治具11に当接することにより、可動鉄心4の回転運動の向きが変えられる。即ち、可動鉄心4は、制動力印加時に、回転運動途中で変位拘束治具11により変位を拘束され、2軸の回転運動をする。
【0024】
図3は図1の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す断面図、図4は図1の電磁ブレーキ装置の制動力印加時の状態を示す断面図である。ブレーキコイル3に通電されているブレーキ解除状態(図1)から、電流が減少されると、電磁マグネット1の電磁力が減少し、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、ばね力の強い第1のブレーキばね8側のギャップが開く(図の左回り)の回転運動を行う。
【0025】
この後、可動鉄心4が緩衝部材13に当接すると、可動鉄心4の回転運動が拘束され、可動鉄心4は一旦静止した状態となる。このとき、緩衝部材13により回転エネルギが吸収されるので、動作音(衝突音)は問題とならない程度に低減される。この後、電流がさらに減少されると、ばね力の弱い第2のブレーキばね9側のギャップが開き、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、動作開始初期とは逆向き(図の右回り)の回転運動を行う。
【0026】
この後、ブレーキシュー5が回転体6に当接し、制動力が印加される。可動鉄心4の動作後半の回転運動(図の右回りの回転運動)は、全ギャップの半分のみを移動する運動であり、回転運動の速度が増速する前にブレーキシュー5が回転体6に当接するため、このときの動作音(衝突音)も十分に低減される。
【0027】
このような電磁ブレーキ装置では、可動鉄心4の回転運動の途中で、変位拘束治具11により回転運動の向きが変えられるので、ブレーキ動作途中に可動鉄心4の移動が一旦停止された後、再度動きが開始されるため、ブレーキシュー5が回転体6に低速で接触し、動作音が低減される。また、ブレーキシュー5を制動面にほぼ平行に接触させるように調整することにより、球面座等の傾き補正機構(角度補正機構)が不要となり、構成が簡単である。
【0028】
また、変位拘束治具11は、可動鉄心4との当接位置を調整可能になっているので、傾き補正機構をより確実に不要とすることができる。
さらに、変位拘束治具11の可動鉄心4との当接部11aには、緩衝部材13が設けられているので、動作音をさらに低減することができる。
【0029】
なお、緩衝部材13及び加速抑制部材10は、必ずしも用いなくてもよく、省略することもできる。
また、実施の形態1では、当接部11aに緩衝部材13を固定したが、可動鉄心4の当接部11aに当接する部分に緩衝部材13を固定してもよい。
さらに、実施の形態1では、変位拘束治具11を固定鉄心2に取り付けたが、例えばモータの枠など、他の固定された部材に取り付けてもよい。
【0030】
実施の形態2.
次に、図5はこの発明の実施の形態2による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図、図6は図5のVI−VI線に沿う断面図である。実施の形態2は、実施の形態1の変位拘束治具14の代わりに、変位拘束治具14を用いたものであり、電磁ブレーキ装置の他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0031】
ブレーキシュー5には、ブレーキシュー5の動作方向に直交する治具挿入孔5aが設けられている。治具挿入孔5aは、ブレーキシュー5の中心よりも、第1のブレーキばね8側(制動力付勢部7の付勢力が大きい側)に設けられている。
【0032】
治具挿入孔5aには、棒状の変位拘束治具14が挿入されている。変位拘束治具14は、モータの枠に固定されている。治具挿入孔5aの内周面と変位拘束治具14の外周面との間には、所定の余裕(ギャップ)が設けられている。
【0033】
可動鉄心4の変位は、変位拘束治具14の直径と治具挿入孔5aの直径とにより規定されている。変位拘束治具14の直径と治具挿入孔5aの直径と差は、ブレーキ開放時におけるブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離にほぼ等しくなるように設定されている。より詳細には、変位拘束治具14の直径と治具挿入孔5aの直径と差は、ブレーキ開放時におけるブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離よりも若干小さく設定されている。
【0034】
変位拘束治具14は、ブレーキシュー5の一端部の回転体6側への変位を拘束する。ブレーキシュー5は、制動力印加時に、制動力付勢部7の非対称な力により回転運動するが、この回転運動の途中でブレーキシュー5が変位拘束治具14に当接することにより、ブレーキシュー5の回転運動の向きが変えられる。即ち、ブレーキシュー5は、制動力印加時に、回転運動途中で変位拘束治具14により変位を拘束され、2軸の回転運動をする。
【0035】
次に、動作について説明する。ブレーキコイル3に通電されているブレーキ解除状態(図5)から、電流が減少されると、電磁マグネット1の電磁力が減少し、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、ばね力の強い第1のブレーキばね8側のギャップが開く(図5の左回り)の回転運動を行う。
【0036】
この後、ブレーキシュー5の回転運動が変位拘束治具14により拘束されると、ブレーキシュー5は一旦静止した状態となる。この後、電流がさらに減少されると、ばね力の弱い第2のブレーキばね9側のギャップが開き、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、動作開始初期とは逆向き(図5の右回り)の回転運動を行う。
【0037】
この後、ブレーキシュー5が回転体6に当接し、制動力が印加される。可動鉄心4及びブレーキシュー5の動作後半の回転運動(図5の右回りの回転運動)は、全ギャップの半分のみを移動する運動であり、回転運動の速度が増速する前にブレーキシュー5が回転体6に当接するため、このときの動作音(衝突音)は十分に低減される。
【0038】
このように、ブレーキシュー5の治具挿入孔5aに挿入された変位拘束治具14を用いても、実施の形態1と同様に、簡単な構成によりブレーキ動作音を低減することができる。
【0039】
なお、実施の形態2では、円形の治具挿入孔5aを示したが、治具挿入孔5aの断面形状はこれに限定されるものではなく、例えば矩形や長円形等であってもよい。
また、変位拘束治具14の断面形状も円形に限定されるものではなく、例えば矩形等であってもよい。
さらに、変位拘束治具14の外周面又は治具挿入孔5aの内周面に緩衝部材を設けてもよい。
さらにまた、実施の形態2では、治具挿入孔5aをブレーキシュー5に設けたが、可動鉄心4に設けてもよい。
【0040】
実施の形態3.
次に、図7はこの発明の実施の形態3による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図、図8は図7のVIII−VIII線に沿う断面図、図9は図7の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す断面図、図10は図7の電磁ブレーキ装置の制動力印加時の状態を示す断面図である。
【0041】
実施の形態3は、実施の形態1の変位拘束治具14の代わりに、変位拘束治具15を用いたものであり、電磁ブレーキ装置の他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0042】
可動鉄心4には、可動鉄心4の動作方向に平行な治具挿入孔4aが設けられている。治具挿入孔4aは、可動鉄心4の中心よりも、第1のブレーキばね8側(制動力付勢部7の付勢力が大きい側)に設けられている。
【0043】
固定鉄心2には、治具挿入孔4aに連続した貫通孔2cが設けられている。また、固定鉄心2には、ボルト状の変位拘束治具15が取り付けられている。変位拘束治具15は、制動力印加時に可動鉄心4が当接するフランジ状の当接部15aと、貫通孔2c及び治具挿入孔4aを貫通しているねじ棒部15bと、ねじ棒部15bの当接部15aとは反対側の端部に螺着されたナット15cとを有している。
【0044】
治具挿入孔4aの内周面とねじ棒部15bの外周面との間には、可動鉄心4の回転運動を許容するための所定の余裕が設けられている。
【0045】
可動鉄心4の当接部15aへの当接位置は、ブレーキ開放時における可動鉄心4と当接部15aとの間の距離がブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離にほぼ等しくなるように設定されている。より詳細には、ブレーキ開放時における可動鉄心4と当接部15aとの間の距離は、ブレーキシュー5と回転体6とのギャップ距離よりも若干小さく設定されている。また、可動鉄心4の当接部15aへの当接位置は、ナット15cを回すことにより調整可能になっている。
【0046】
変位拘束治具15は、可動鉄心4の一端部の回転体6側への変位を拘束する。可動鉄心4は、制動力印加時に、制動力付勢部7の非対称な力により回転運動するが、この回転運動の途中で可動鉄心4が当接部15aに当接することにより、可動鉄心4の回転運動の向きが変えられる。即ち、可動鉄心4は、制動力印加時に、回転運動途中で変位拘束治具15により変位を拘束され、2軸の回転運動をする。
【0047】
次に、動作について説明する。ブレーキコイル3に通電されているブレーキ解除状態(図7)から、電流が減少されると、電磁マグネット1の電磁力が減少し、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、ばね力の強い第1のブレーキばね8側のギャップが開く(図7の左回り)の回転運動を行う。
【0048】
この後、図9に示すように、可動鉄心4の回転運動が変位拘束治具15により拘束されると、可動鉄心4は一旦静止した状態となる。この後、電流がさらに減少されると、ばね力の弱い第2のブレーキばね9側のギャップが開き、可動鉄心4及びブレーキシュー5は、動作開始初期とは逆向き(図9の右回り)の回転運動を行う。
【0049】
この後、図10に示すように、ブレーキシュー5が回転体6に当接し、制動力が印加される。可動鉄心4及びブレーキシュー5の動作後半の回転運動(図9の右回りの回転運動)は、全ギャップの半分のみを移動する運動であり、回転運動の速度が増速する前にブレーキシュー5が回転体6に当接するため、このときの動作音(衝突音)は十分に低減される。
【0050】
このように、固定鉄心2及び可動鉄心4を貫通するボルト状の変位拘束治具15を用いても、実施の形態1と同様に、簡単な構成によりブレーキ動作音を低減することができる。
【0051】
また、実施の形態3の変位拘束治具15では、ナット15cを手動操作で締め付けて、当接部15aを固定鉄心2側へ変位させることにより、制動力付勢部7に抗して可動鉄心4を固定鉄心2側へ強制的に変位させることもできる。即ち、ねじ棒部15b及びナット15cが緊急開放機構として機能し、停電時などの電磁マグネット1が動作できない場合にブレーキを手動で開放することができる。
【0052】
なお、当接部15a又は可動鉄心4の当接部15aに当接する部分に緩衝部材を設けてもよい。
【0053】
実施の形態4.
次に、図11はこの発明の実施の形態4による電磁ブレーキ装置の制動力解除時の状態を示す断面図、図12は図11のXII−XII線に沿う断面図、図13は図11の電磁ブレーキ装置の制動力印加動作の途中の状態を示す側面図である。
【0054】
実施の形態4の制動力付勢部7は、第1及び第2のブレーキばね8,9と、第1及び第2の補助ばね16,17とを有している。実施の形態4では、第1のブレーキばね8のばね力と第2のブレーキばね9のばね力とが同じである。また、第1及び第2の補助ばね16,17のばね力は、第1及び第2のブレーキばね8,9のばね力よりも小さい。
【0055】
第1及び第2の補助ばね16,17は、固定鉄心2に設けられた第3及び第4の凹部2d,2eにそれぞれ収容されている。また、第1及び第2の補助ばね16,17は、第1のブレーキばね8,9に対して、回転体6の軸方向にずらした位置に配置されている。このため、制動力付勢部7は、全体として、非対称の力で可動鉄心4を付勢している。
【0056】
変位拘束治具11は、回転体6の軸方向の固定鉄心2の端面であって、第1及び第2の補助ばね16,17に近い側の端面に固定されている。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0057】
このような電磁ブレーキ装置においても、実施の形態1と同様に、簡単な構成によりブレーキ動作音を低減することができる。
また、回転体6の軸方向の固定鉄心2の端面に変位拘束治具11を取り付けたので、電磁マグネット1の幅方向の端部に作業スペースが確保できない場合でも、変位拘束治具11の位置調整を容易に行うことができる。
【0058】
なお、実施の形態4のような制動力付勢部7を用いる場合であっても、実施の形態2、3に示したような変位拘束治具14,15を適用することができる。
また、実施の形態1〜4では、この発明をエレベータ装置の制動装置に適用した場合を示したが、自動車や列車などの制動装置に適用してもよい。また、被制動体は、回転体6に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0059】
1 電磁マグネット、2 固定鉄心、3 ブレーキコイル、4 可動鉄心、5 ブレーキシュー、6 回転体(被制動体)、7 制動力付勢部、11,14,15 変位拘束治具、11a,15a 当接部、13 緩衝部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定鉄心とブレーキコイルとを有する電磁マグネット、
前記ブレーキコイルへの通電により前記電磁マグネットに吸引される可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられ、前記可動鉄心が前記電磁マグネットに吸引されることにより被制動体から離されるブレーキシューとを有する可動体、
前記ブレーキコイルへの通電を遮断することで、非対称の力で前記可動鉄心を移動させ前記ブレーキシューを前記被制動体に接触させる制動力付勢部、及び
前記制動力付勢部の非対称な力による前記可動体の回転運動の途中で前記可動体に当接し、前記可動体の回転運動の向きを変える変位拘束治具
を備えていることを特徴とする電磁ブレーキ装置。
【請求項2】
前記変位拘束治具は、前記可動体との当接位置を調整可能になっていることを特徴とする請求項1記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項3】
前記変位拘束治具の前記可動体との当接部には、緩衝部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項4】
前記変位拘束治具は、前記可動鉄心が当接する当接部と、手動操作により前記当接部を前記固定鉄心側へ変位させることにより、前記制動力付勢部に抗して前記可動鉄心を前記固定鉄心側へ変位させる緊急開放機構とを有していることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項1】
固定鉄心とブレーキコイルとを有する電磁マグネット、
前記ブレーキコイルへの通電により前記電磁マグネットに吸引される可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられ、前記可動鉄心が前記電磁マグネットに吸引されることにより被制動体から離されるブレーキシューとを有する可動体、
前記ブレーキコイルへの通電を遮断することで、非対称の力で前記可動鉄心を移動させ前記ブレーキシューを前記被制動体に接触させる制動力付勢部、及び
前記制動力付勢部の非対称な力による前記可動体の回転運動の途中で前記可動体に当接し、前記可動体の回転運動の向きを変える変位拘束治具
を備えていることを特徴とする電磁ブレーキ装置。
【請求項2】
前記変位拘束治具は、前記可動体との当接位置を調整可能になっていることを特徴とする請求項1記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項3】
前記変位拘束治具の前記可動体との当接部には、緩衝部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項4】
前記変位拘束治具は、前記可動鉄心が当接する当接部と、手動操作により前記当接部を前記固定鉄心側へ変位させることにより、前記制動力付勢部に抗して前記可動鉄心を前記固定鉄心側へ変位させる緊急開放機構とを有していることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電磁ブレーキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−163142(P2012−163142A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23033(P2011−23033)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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