説明

電磁気特性の測定方法

【課題】広帯域において複素誘電率や複素透磁率を高精度に測定することが可能な電磁気特性の測定方法を提供するする。
【解決手段】z軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料20を装荷した同軸線路10に電磁波HINCし、複素透過係数S21を測定するステップと、同軸線路10内の空間を複数の均質な領域に分割し、領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、測定した複素透過係数S21から、被測定試料20の複素誘電率εrを求めるステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁気特性の測定方法、特に同軸線路を用いて広帯域における複素誘電率、さらには複素透磁率を高精度に測定することが可能な電磁気特性の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続的な周波数帯域における電気特性を矩形導波管や同軸線路を用いて測定する方法がある。この方法は、被測定試料を充填した矩形導波管や同軸線路に電磁波を入射して複素反射係数や複素透過係数を測定し、電磁界解析を用いて測定した値に基き複素誘電率や複素透磁率を求めるものである。しかしながら、空隙が存在する、あるいは被測定試料が変形すると、測定誤差となるため、被測定試料を断面全面に隙間なく充填する必要があり、被測定試料の作成時に高い寸法精度が求められていた。特に、誘電率や透磁率が大きい場合には、空隙の影響が顕著であった。また、電磁波吸収体のような高損失材料を被測定試料とする場合、断面全面に充填するため、透過波が微弱となり、測定精度が低下した。さらに、複素誘電率および複素透磁率を測定するには、寸法の異なる複数の被測定試料を用いるか、複素反射係数と複素透過係数の両者を測定する必要があった。複数の被測定試料を用いる場合、被測定試料間のばらつきが問題となった。複素反射係数の測定は、測定基準面を設定する校正が困難であるため、複素透過係数の測定に比べ困難であり、測定精度が劣化した。
【0003】
なお、矩形導波管を用いた方法では、矩形導波管に被測定試料を部分装荷し、拡張スペクトル領域法をモードマッチング法と組み合わせたハイブリッド電磁界解析法(ESDMM)による高精度かつ高効率な電磁界解析を用いて、複素誘電率や複素透磁率を求めることが提案されている(非特許文献1および非特許文献2参照。)。
【非特許文献1】T.Shiraishi,T.Nishikawa,K.Wakino and T.Kitazawa,IEICE Trans. Electron.,Vol.E86−C、No.11, November 2003,pp.2184−2190
【非特許文献2】電子情報通信学会論文誌、C Vol.J89−C、No.12、(2006)、pp.1047−1053
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバやCATVなどの浸透により、ブロードバンドにも対応可能な広周波数帯域において連続的に複素誘電率や複素透磁率を高精度に測定することが重要視されている。しかしながら、非特許文献1および非特許文献2にて提案されている測定方法は矩形導波管を用いているので、無線LAN等に対応する狭い周波数帯域しか測定することができない。また、従来の同軸線路を用いる測定方法は、上記した問題がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、広帯域において複素誘電率や複素透磁率を高精度に測定することが可能な電磁気特性の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の電磁気特性の測定方法は、軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料を装荷した同軸線路に電磁波を入射し、複素透過係数を測定するステップと、前記同軸線路内の空間を複数の均質な領域に分割し、前記領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、前記測定した複素透過係数から、前記被測定試料の複素誘電率を求めるステップと、を備えることを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の電磁気特性の測定方法は、軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料を装荷した同軸線路に電磁波を入射し、複素透過係数を測定するステップと、電磁気特性が既知の試料を追加して装荷した同軸線路に電磁波を入射し、複素透過係数を測定するステップと、前記同軸線路内の空間を複数の均質な領域に分割し、前記領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、前記測定した2つの複素透過係数から、前記被測定試料の複素透磁率、または複素誘電率および複素透磁率を求めるステップと、を備えることを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載の電磁気特性の測定方法は、軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料を装荷し、軸方向一端を短絡した同軸線路に軸方向他端から電磁波を入射し、複素反射係数を測定するステップと、前記被測定試料の軸方向の装荷位置を変更した同軸線路に前記軸方向他端から電磁波を入射し、複素反射係数を測定するステップと、前記同軸線路内の空間を複数の均質な領域に分割し、前記領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、前記測定した2つの複素反射係数から、前記被測定試料の複素透磁率、または複素誘電率および複素透磁率を求めるステップと、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の電磁気特性の測定方法によれば、軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料を装荷した同軸線路に電磁波を入射し、複素透過係数を測定する。そのため、被測定試料を断面全面に隙間なく充填する必要がないので、被測定試料の作成時に高い寸法精度が求められない。また、電磁波吸収体のような高損失材料を被測定試料とする場合であっても、断面全面に充填する場合に比べて透過波が微弱とならないので、高精度に測定することが可能となる。同軸線路を用いるため、広周波数帯域(ブロードバンド)において連続的に複素誘電率を高精度に測定することが可能となる。同軸線路内の空間を複数の均質な領域に分割し、領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、測定した複素透過係数から、被測定試料の複素誘電率を求める。このため、電磁界解析は高精度かつ効率的なものとなり、複素誘電率をオンサイトで高精度に測定することが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の電磁気特性の測定方法によれば、軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料を装荷した同軸線路に電磁波を入射し、複素透過係数を測定する。そして、電磁気特性が既知の試料を追加して装荷した同軸線路に電磁波を入射し、複素透過係数を測定する。そのため、被測定試料を断面全面に隙間なく充填する必要がないので、被測定試料の作成時に高い寸法精度が求められない。また、電磁波吸収体のような高損失材料を被測定試料とする場合であっても、断面全面に充填する場合に比べて透過波が微弱とならないので、高精度に測定することが可能となる。また、被測定試料は1つしか必要としないので、被測定試料間のばらつきが問題とならず、高精度に測定することが可能となる。また、複素透過係数のみを測定するので、校正が困難な複素反射係数を測定する必要がなく、高精度に測定することが可能となる。同軸線路を用いるため、広周波数帯域(ブロードバンド)において連続的に複素誘電率や複素透磁率を高精度に測定することが可能となる。同軸線路内の空間を複数の均質な領域に分割し、領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、測定した2つの複素透過係数から、被測定試料の複素誘電率や複素透磁率を求める。このため、電磁界解析は高精度かつ効率的なものとなり、複素誘電率や複素透磁率をオンサイトで高精度に測定することが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の電磁気特性の測定方法によれば、軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料を装荷し、軸方向一端を短絡した同軸線路に軸方向他端から電磁波を入射し、複素反射係数を測定する。そして、被測定試料の軸方向の装荷位置を変更した同軸線路に軸方向他端から電磁波を入射し、複素反射係数を測定する。そのため、被測定試料を断面全面に隙間なく充填する必要がないので、被測定試料の作成時に高い寸法精度が求められない。また、被測定試料は1つしか必要としないので、被測定試料間のばらつきが問題とならず、高精度に測定することが可能となる。また、同軸線路の軸方向一端が短絡されているので、複素反射係数の校正を容易に行うことができ、高精度に測定することが可能となる。同軸線路を用いるため、広周波数帯域(ブロードバンド)において連続的に複素誘電率や複素透磁率を高精度に測定することが可能となる。同軸線路内の空間を複数の均質な領域に分割し、領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、測定した2つの複素反射係数から、被測定試料の複素透磁率、または複素誘電率および複素透磁率を求める。このため、電磁界解析は高精度かつ効率的なものとなり、複素誘電率や複素透磁率をオンサイトで高精度に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る電磁気特性の測定方法について、図面に基づき説明する。本測定方法は、軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料を装荷した同軸線路に電磁波を入射し、複素透過係数を測定し、同軸線路内の空間を複数の均質な領域に分割し、領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、測定した複素透過係数から、被測定試料の電磁気特性を求めるものである。電磁界解析には、拡張スペクトル領域法をモードマッチング法と組み合わせたハイブリッド電磁界解析法であるESDMM(Extended Spectral Domain Mode Matching Method)を用いる。
【0013】
図1(a)および図1(b)に示すように、同軸線路10に被測定試料20を部分装荷する。同軸線路10は、z軸方向の軸線を同一とする内導体11および外導体12から構成される。内導体11は半径aの丸棒状であり、外導体12は内半径bの円筒状であり、内導体11と外導体12との間に空気領域が形成される。内導体11および外導体12は、金属、特に導電率が高い金属、例えば、銀、銅、金などからなる。被測定試料20は、半径aの貫通孔を中央に備え、外半径a+c(ただし、a+c<b)、z軸方向厚さtのドーナツ形状であり、z軸対称に形成される。被測定試料20は、その貫通孔が内導体12に挿通され、不図示のホルダに固定されることにより同軸線路10に装荷される。被測定試料20の外半径a+cは外導体12の内半径bより小さく、軸線であるz軸方向に直交する断面(軸方向直交断面)、すなわち半径方向であるρ方向に空隙を設けて、被測定試料20が同軸線路10に装荷される。また、被測定試料20の厚さtが同軸線路のz軸方向の長さよりも短く、軸線の一部にのみ被測定試料20が同軸線路10に装荷される。なお、被測定試料20厚さtは、入射される電磁波HINCの波長等に関わらず、適宜定めればよい。
【0014】
次に、被測定試料20が部分装荷された同軸線路10に対するESDMMに関して説明する。まず、図2に示すように、同軸線路10内の全領域を3つの領域S1、S2、S3に分割する。領域S1は、z<0の領域であり、被測定試料20より入力側の均質な空気領域である。領域S2は、0<z<tの領域であり、その断面の一部に被測定試料20が存在する非均質な領域である。領域S3は、z>tの領域であり、被測定試料20より出力側の均質な空気領域である。そして、領域S1と領域S2との境界面z=0、すなわち被測定試料20の前面(電磁波HINCが入射される面に近い側面)を含む面に間隙電界e(ρ)を、領域S2と領域S3との境界面t=t、すなわち被測定試料20の後面(前面と反対側の面)を含む面に間隙電界e(ρ)を、それぞれ導入する。電磁界の等価定理より、各領域S1、S2、S3は独立に取り扱うことができる。領域S1、S3においては、均質であるので、位相φ変分のない基本波(TE波)HINCが入射される場合、図3(a)に概念的に示されるように、電磁界Φ(ρ)はρの三角関数による固有関数により級数展開することができる。
【0015】
一方、領域S2は、非均質であり、電磁界Φ(ρ)が異なる媒体に渡って存在するので、三角関数等の単純な固有関数では級数展開することができない。そこで、領域S2を更に均質な複数の小領域Sa、Sbに分割する。小領域Saは被測定試料20が全体に渡って存在する均質な領域であり、小領域Sbは被測定試料20が存在しない均質な空気領域である。小領域Sa、Sbにおける電磁界をそれぞれ表す異なる固有関数Φ(a)(ρ)、Φ(b)(ρ)を導入する。
【数1】

ここで、A、Bは規格化係数、kは未知の固有値である。これらの固有関数Φ(a)(ρ)、Φ(b)(ρ)は、小領域Saと小領域Sbとの境界面における連続条件を満たすよう、モードマッチング法により求めることができる。固有値方程式を数値的に解くことにより、図3(b)に概念的に示されるような固有関数Φ(a)(ρ)、Φ(b)(ρ)が定められる。
【0016】
これらの固有関数Φ(a)(ρ)、Φ(b)(ρ)は非均質な領域である領域S2全体に渡り次に示す双直交条件を満足する。
【数2】

ここで、εr2a、εr2bはそれぞれ小領域Sa、Sbの比誘電率であり、δmnはクロネッカのデルタを表す。この双直交条件を用いることにより、非均質領域S2の電磁界Φ(ρ)も、領域S1、S3における電磁界Φ(ρ)と同様に級数展開(スペクトル表示)することができる。スペクトル領域では、グリーン関数T(1)、T(2)、T(3)を容易に求めることができる。各領域S1、S2、S3のρ方向の磁界H(1)、H(2)、H(3)は、間隙電界e(ρ)、間隙電界e(ρ)に関連付けられて表される。
【数3】

【数4】

【数5】

ここで、Hincは入射する基本波の磁界である。
【0017】
残りの境界面における境界条件を適用することにより、間隙電界e(ρ)、e(ρ)に関する積分方程式が得られる。ここでは、積分方程式の数値計算にガレルキン法を用いる。未知の間隙電界e(ρ)、e(ρ)は適切な基底関数f(ρ)によって次のように表される。
【数6】

ここで、a、bは未知の係数である。これらを式(2)から式(4)に代入する。間隙電界e(ρ)、e(ρ)は境界条件の連続性から得られる。次に、基底電界f(ρ)と固有関数Φ(a)(ρ)の内積をとり、数値積分にて計算し、Sパラメータ(散乱パラメータともいい、複素反射係数S11および複素透過係数S21からなる。)を求める。
【0018】
多様な無損失、高損失材料からなる被測定試料の電磁気特性を評価するため、小領域Sa、Sbの開口面に汎用な基底関数f(ρ)、例えば、ルーフトップ関数を用いて間隙電界e(ρ)、e(ρ)を表す。
【数7】

ここで、W、Nはそれぞれ各小領域Sa、Sbの開口幅、基底関数の数である。本法による行列サイズは、基底関数f(ρ)の数と同じ次数であり、行列サイズが固有関数(モード関数)の数の次数である従来のモードマッチング法よりも遥かに小さい。以上のように、高精度な電磁界解析を用いるので、Sパラメータを高精度に測定することが可能となる。
【0019】
図4(a)および図4(b)は、同軸線路10に部分装荷された被測定試料20のSパラメータの比誘電率依存性を示すグラフである。複素誘電率εrの実部ε´rを横軸にとり、本発明に係る数値計算法による計算値を実線で、有限要素解析法(FEM)による計算値を丸点にて示した。ここで、同軸線路10の内導体11の半径aを1.52mm、外導体12の内半径bを3.5mmとし、被測定試料20の外半径と内半径の差cを1.48mm、厚さtを5.0mm、複素誘電率εrの虚部ε″rを0、複素透磁率μrの実部μ´rを1、虚部μ″rを0とした。本発明に係る数値計算法による計算値と有限要素解析法による数値とは、振幅(実部S´11、S´21)│S11│、│S21│、位相(虚部S″11、S″21)∠S11、∠S21ともに広い範囲に渡って良く一致しており、本発明に係る数値計算法の妥当性が示されている。
【0020】
以下、本発明の第1の実施の形態に係る電磁気特性の測定方法について、図面に基づき説明する。この測定方法は、図1(a)および図1(b)に示すように、まず、z軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料20を同軸線路10に部分装荷する。被測定試料20を断面全面に隙間なく充填する必要がないので、被測定試料20の作成時に高い寸法精度が求められない。そして、不図示のベクトル・ネットワーク・アナライザ等の透過特性測定装置を用いて、同軸線路10のz軸方向端面側から基本波HINCを入射し、複素透過係数S21(実部S21´と虚部S21″)を計測する。被測定試料20が電磁波吸収体のような高損失材料であっても、断面全面に充填する場合に比べて透過波が微弱とならないので、複素透過係数S21を高精度に測定することができる。
【0021】
次に、同軸線路10内の空間を複数の均質な領域に分割し、領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、測定した複素透過係数S21から、被測定試料20の複素誘電率εrを求める。具体的には、被測定試料20の複素誘電率εrの実部ε´rと虚部ε″rの初期値としてε´r(0)ε″r(0)を適宜定めて、計測した複素透過係数S21との差が所定の許容値未満となるまで、繰り返し複素透過係数S21を算出し、被測定試料20の複素誘電率εrを求める。同軸線路10を用いるため、広周波数帯域において連続的に複素誘電率εrを高精度に測定することが可能となる。また、高精度な電磁界解析を用いるので、複素誘電率εrを高精度に測定することができる。
【0022】
図5は、同軸線路10に部分装荷された被測定試料20の複素誘電率εrの周波数依存性を示すグラフである。ここで、同軸線路10の内導体11の半径aは1.52mm、外導体12の内半径bは3.5mmであった。被測定試料20は、タケチ工業製の市販のマイクロ波吸収シートであり、ゴムと粉末カーボンからなる。被測定試料20は、同軸線路10の不図示の試料ホルダに載置し、内導体11の外周表面との間には間隙が無い。被測定試料20の外半径と内半径の差cは1.48mm、z軸方向の厚さtは4.96mmであった。被測定試料20と外導体12との隙間は0.13mmであった。VNA(Agilent Technologies Inc.8719ET 伝送/反射ベクトル・ネットワーク・アナライザ)を用いて3〜12GHzの周波数帯域に渡って複素透過係数S21を測定した。図5において、本実施形態に係る測定方法による計算値を実線で、タケチ工業による被測定試料20に係るデータシートの記載値を丸点にて示した。計算値とデータシートの記載値とは、実部ε´r、虚部ε″rともに広い周波数範囲に渡って良く一致しており、本測定方法の妥当性が示されている。インテル社のペンティアム4(登録商標、動作周波数2GHz)搭載のパーソナルコンピュータを用いて数秒以内の短時間で複素誘電率εrを求めることができた。
【0023】
以下、本発明の第2の実施の形態に係る電磁気特性の測定方法について、図面に基づき説明する。この測定方法は、図1(a)および図1(b)に示すように、まず、軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料20を同軸線路10に部分装荷する。被測定試料20を断面全面に隙間なく充填する必要がないので、被測定試料20の作成時に高い寸法精度が求められない。そして、不図示のベクトル・ネットワーク・アナライザ等の透過特性測定装置を用いて、同軸線路10のz軸方向端面側から基本波HINCを入射し、複素透過係数S21(1)(実部S´21(1)と虚部S″21(1))を計測する。被測定試料20が電磁波吸収体のような高損失材料であっても、断面全面に充填する場合に比べて透過波が微弱とならないので、複素透過係数S21(1)を高精度に測定することができる。
【0024】
次に、図6に示すように、電磁気特性が既知の試料21を追加して装荷する。被測定試料20は1つしか必要としないので、被測定試料20間のばらつきが問題とならない。なお、既知の試料21の装荷位置は任意でよい。そして、上記透過特性測定装置を用いて、同軸線路10のz軸方向端面側から基本波HINCを入射し、複素透過係数S21(2)(実部S´21(2)と虚部S″21(2))を計測する。複素透過係数S21(1)、S21(2)のみを測定しており、校正が困難な複素反射係数S11を測定する必要がない。
【0025】
次に、同軸線路10内の空間を複数の均質な領域に分割し、領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、測定した2つの複素透過係数S21(1)、S21(2)から、被測定試料20の複素誘電率εrおよび複素透磁率μrを求める。具体的には、被測定試料20の複素誘電率εrの実部ε´rと虚部ε″rの初期値としてε´r(0)ε″r(0)および複素誘電率μrの実部μ´rと虚部μ″rの初期値としてμ´r(0)μ″r(0)を適宜定めて、計測した複素透過係数S21(1)、21(2)との差がともに所定の許容値未満となるまで、繰り返し複素透過係数S21(1)、21(2)を算出し、被測定試料20の複素誘電率εrおよび複素透磁率μrを求める。同軸線路10を用いるため、広周波数帯域において連続的に複素誘電率εrおよび複素誘電率μrを高精度に測定することができる。また、高精度な電磁界解析を用いるので、複素誘電率εrおよび複素誘電率μrを高精度に測定することができる。
【0026】
以下、本発明の第3の実施の形態に係る電磁気特性の測定方法について、図面に基づき説明する。この測定方法は、図7(a)に示すように、内導体11と外導体12とを短絡する短絡板13をz軸方向端部に設けた同軸線路10を用いる。まず、軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料20を同軸線路10に部分装荷する。被測定試料20を断面全面に隙間なく充填する必要がないので、被測定試料20の作成時に高い寸法精度が求められない。そして、不図示のベクトル・ネットワーク・アナライザ等の透過特性測定装置を用いて、同軸線路10の短絡板13を設けた側とは反対側のz軸方向端面側から基本波HINCを入射し、複素反射係数S11(1)(実部S´11(1)と虚部S″11(1))を計測する。同軸線路10の軸方向一端が短絡されているので、校正を容易に行うことができ、複素反射係数S11(1)を高精度に測定することが可能となる。
【0027】
次に、図7(b)に示すように、被測定試料20のz軸方向の装荷位置を変更する。被測定試料20は1つしか必要としないので、被測定試料20間のばらつきが問題とならない。なお、被測定試料20の変更後の装荷位置は任意でよい。そして、上記透過特性測定装置を用いて、同軸線路10のz軸方向端面側から基本波HINCを入射し、複素反射係数S11(2)(実部S´11(2)と虚部S″11(2))を計測する。
【0028】
次に、同軸線路10内の空間を複数の均質な領域に分割し、領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、測定した2つの複素反射係数S11(1)、11(2)から、被測定試料20の複素誘電率εrおよび複素透磁率μrを求める。具体的には、被測定試料20の複素誘電率εrの実部ε´rと虚部ε″rの初期値としてε´r(0)ε″r(0)および複素誘電率μrの実部μ´rと虚部μ″rの初期値としてμ´r(0)μ″r(0)を適宜定めて、計測した複素反射係数S11(1)、11(2)との差がともに所定の許容値未満となるまで、繰り返し複素反射係数S11(1)、11(2)を算出し、被測定試料20の複素誘電率εrおよび複素透磁率μrを求める。同軸線路10を用いるため、広周波数帯域において連続的に複素誘電率εrおよび複素誘電率μrを高精度に測定することができる。また、高精度な電磁界解析を用いるので、複素誘電率εrおよび複素誘電率μrを高精度に測定することができる。
【0029】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、同軸線路10に被測定試料20を部分装荷する位置や態様は限定されない。また、被測定試料20のz軸方向の装荷位置の変更し、かつ電磁気特性が既知の試料21を追加して装荷する測定方法であってもよい。また、同軸線路10内の領域の分割方法についても限定されない。また、数値計算にガレルキン法を用い基底関数f(ρ)をルーフトップ関数としたが、これに限定されるものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る電磁気特性の測定方法において、被測定試料を同軸線路に部分装荷した状態を模式的に示し、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【図2】被測定試料を部分装荷した同軸線路内の分割した領域を概念的に説明する部分断面図である。
【図3】固有関数を概念的に示すグラフであり、(a)は均質な領域における固有関数を、(b)は不均質な領域における固有関数をそれぞれ示す。
【図4】同軸線路に部分装荷された被測定試料のSパラメータの比誘電率依存性を示すグラフであり、(a)は振幅を、(b)は位相をそれぞれ示す。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る電磁気特性の測定方法において、同軸線路に部分装荷された被測定試料の複素誘電率εrの周波数依存性を求めたグラフである。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る電磁気特性の測定方法において、電磁気特性が既知の試料21を追加して装荷した状態を概念的に示す断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る電磁気特性の測定方法において、(a)は被測定試料20を最初に装荷した状態を概念的に示す断面図であり、(b)は被測定試料20の装荷位置を変更した状態を概念的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 同軸線路
11 内導体
12 外導体
13 短絡板
20 被測定試料
21 電磁気特性が既知の試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料を装荷した同軸線路に電磁波を入射し、複素透過係数を測定するステップと、
前記同軸線路内の空間を複数の均質な領域に分割し、前記領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、前記測定した複素透過係数から、前記被測定試料の複素誘電率を求めるステップと、を備えることを特徴とする電磁気特性の測定方法。
【請求項2】
軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料を装荷した同軸線路に電磁波を入射し、複素透過係数を測定するステップと、
電磁気特性が既知の試料を追加して装荷した同軸線路に電磁波を入射し、複素透過係数を測定するステップと、
前記同軸線路内の空間を複数の均質な領域に分割し、前記領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、前記測定した2つの複素透過係数から、前記被測定試料の複素透磁率、または複素誘電率および複素透磁率を求めるステップと、を備えることを特徴とする電磁気特性の測定方法。
【請求項3】
軸方向直交断面に空隙を設けて被測定試料を装荷し、軸方向一端を短絡した同軸線路に軸方向他端から電磁波を入射し、複素反射係数を測定するステップと、
前記被測定試料の軸方向の装荷位置を変更した同軸線路に前記軸方向他端から電磁波を入射し、複素反射係数を測定するステップと、
前記同軸線路内の空間を複数の均質な領域に分割し、前記領域の境界面において電磁界の連続条件が満たされるよう、前記測定した2つの複素反射係数から、前記被測定試料の複素透磁率、または複素誘電率および複素透磁率を求めるステップと、を備えることを特徴とする電磁気特性の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−241468(P2008−241468A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82678(P2007−82678)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年12月12日〜15日 電子情報通信学会主催の「2006 Asia−Pacific Microwave Conference」に文書をもって発表
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】