説明

電磁波シールド装置

【課題】 電磁波シールドカーテンの下端部と床面との間に生じる合わせの不整合や部材の経年変化等による悪影響を排除して電磁波シールドカーテンの下端部と電磁遮蔽構造の床面との間の間隙を解消する。
【解決手段】 床面側のカーテン当接部材22の下方に設けられた電磁石Mg(i)によって構成される下部シールド間隙解消手段で電磁波シールドカーテン9の下端部に固設された床面当接部材11を磁気的に吸着して引き寄せることで床面当接部材11をカーテン当接部材22に密着させ、カーテン当接部材22と床面当接部材11との間に生じる合わせの不整合や床面当接部材の経年変化等で生じる反りや撓み等の悪影響を抑えて電磁波シールドカーテン9の下端部と床面側のカーテン当接部材22との間の電気的な接続を確実なものとし、電磁遮蔽に必要とされる短絡抵抗値を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波の侵入や漏出を防止する必要のある空間に敷設する電磁波シールド装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波シールドカーテンを利用して電磁波シールドルームを形成する技術としては、特許文献1に開示されるような電磁遮蔽ビルや特許文献2に開示される電磁シールド構造が公知であり、また、電磁波シールドカーテン自体の構造としては、特許文献3に開示されるような電磁波遮蔽用織布等が既に知られている。
【0003】
特許文献1に開示される電磁遮蔽ビルは、電磁遮蔽層で覆われたビルの窓開口部を電磁遮蔽材からなるカーテンで塞ぐことでビル内部への電磁波の侵入を防止しようとするもので、窓枠とカーテンとの間の隙間に導電性材料を配置して電磁遮蔽層とカーテンを電気的に接続し、窓枠とカーテンとの間の隙間からの電磁波の侵入を防止する点に特徴がある。
【0004】
しかしながら、カーテンの下端部と導電性材料からなるガスケットとの間の密着はカーテンの自重のみに依存した不完全なもので、必ずしも、電磁遮蔽に必要とされるだけの短絡抵抗値が得られるとは限らず、より高度な電磁波シールドルーム、例えば、MRI装置等を設置する電磁波シールドルームには対処し得ない問題がある。
【0005】
一方、特許文献2に開示される電磁シールド構造は、専ら、カーテンに貼着するアンテナ素子の構造に特徴を有するもので、カーテンの下端部と電磁遮蔽構造の床面との間に生じる間隙に関しては、単に「問題がない」とする見解が示されるのみで、この間隙を解消するための技術については何ら考慮されていない。
【0006】
特許文献3に開示される電磁波シールドカーテンは、電磁波の波長に応じて織布に織り込む金属線の間隔を最適化する発明であり、電磁波シールドカーテンの周辺構造、例えば、前述したような窓枠とカーテンとの間に生じる隙間やカーテンの下端部と電磁遮蔽構造の床面との間に生じる間隙等に言及するものではない。
【0007】
なお、導電性繊維を縦糸や横糸に一定の比率で織り込む点に関しては特許文献1にも記載があり、電磁波シールドカーテンそれ自体の構造に関しては、特許文献1,特許文献3等に開示されるように既に様々なものが公知であって、電磁波シールドカーテン単体での電磁波遮蔽性能には問題がないものと考えられる。
【0008】
そこで、本出願人らは、電磁波シールドカーテンと其の周辺の電磁遮蔽層、例えば、電磁遮蔽構造の壁面と電磁波シールドカーテンとの間や電磁波シールドカーテンの下端部と電磁遮蔽構造の床面との間の電気的な接続を改善するための構造として、電磁波シールドカーテンを巻き上げ式とし、その下端部に導電性の棒状部材を設け、この棒状部材の重量で電磁波シールドカーテンの下端部を電磁遮蔽構造の床面と密着させ、更に、閉められた電磁波シールドカーテンの左右両側部に突出式のアクチュエータ(エアシリンダ,電磁ソレノイド等)を複数個設置し、電磁波シールドカーテンの左右両側部を上端部から下端部にかけて一定の間隔をおいて複数箇所で壁面の電磁遮蔽材の露出部分に押圧することによって両者間の密着状態を保持するようにした開閉式電磁波シールド機構を開発した。
【0009】
しかし、棒状部材の重量を利用して電磁波シールドカーテンの下端部を電磁遮蔽構造の床面と密着させる構造においては、棒状部材と床面との間に生じる僅かな合わせの不整合や経年変化等による棒状部材の反り或いは撓み等の影響で両者間の密着性が確保できなくなる場合があり、また、この棒状部材を高剛性の構造とすれば電磁波シールドカーテンの重量自体が増大し、巻き上げ機構等に過大な負荷が作用する等の弊害が生じる。
【0010】
また、電磁波シールドカーテンを巻き上げ式とした構造においては、直線状の長尺シャフトに電磁波シールドカーテンを直接的に巻き付け或いは巻き戻してシールドの開閉操作を行うことが前提となるので、基本的に、広げられた電磁波シールドカーテンの形状は平面に制限される。
【0011】
このため、電磁波シールドの対象となる装置を部屋の隅に設置して隣接する2つの壁面を除く他の直立2平面を電磁波シールドカーテンでシールドしようとするような場合には2つの開閉式電磁波シールド機構を「L」の字型に設置する必要があり、隣接する電磁波シールドカーテン間の間隙(1箇所)および各電磁波シールドカーテンと各壁面との間の間隙(2箇所)の合計3箇所の磁気シールドを確保する必要が生じ、また、電磁波シールドの対象となる装置を壁に押し当てて設置して1つの壁面を除く他の直立3平面を電磁波シールドカーテンでシールドしようとするような場合には、3つの開閉式電磁波シールド機構を「コ」の字型に設置する必要があり、隣接する電磁波シールドカーテン間の間隙(2箇所)および両側の電磁波シールドカーテンと各壁面との間の間隙(2箇所)の合計4箇所の磁気シールドを確保する必要が生じ、シールドルーム全体の構造が複雑化することが予想される。
【0012】
【特許文献1】特開平9−70351号公報(段落0011)
【特許文献2】特開平10−328019号公報(段落0039)
【特許文献3】特公平2−7519号公報(第2頁第30行〜第41行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明の課題は、前記従来技術の不都合を改善し、電磁波シールドカーテンの下端部と床面との間に生じる合わせの不整合や部材の経年変化等による悪影響を排除して電磁波シールドカーテンの下端部と電磁遮蔽構造の床面との間の間隙を解消し、電気的な接続を確実に保証することのできる電磁波シールド装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、少なくとも床面に電磁遮蔽材を敷設された室内に設置される電磁波シールド装置であり、前記課題を達成するため、特に、
前記床面に対して略垂直に設置される電磁波シールドカーテンと、前記電磁波シールドカーテンを開閉するカーテン開閉手段と、前記電磁波シールドカーテンを水平面に投影した軌跡を含むように前記床面と略同一平面上に敷設されて前記床面の電磁遮蔽材と電気的に接続された導電体からなるカーテン当接部材と、前記カーテン当接部材と密着可能な形状を有して前記電磁波シールドカーテンの下端部に電気的に接続され該下端部に沿って一体的に固設された導電体からなる床面当接部材とを備え、
前記床面当接部材または前記カーテン当接部材の何れか一方に、他方の部材を相対的に引き寄せ且つ両者間の密着状態を保持する作動状態と前記他方の部材に対する引き寄せを解除する非作動状態とを択一的に選択しえる下部シールド間隙解消手段を設けたことを特徴とする構成を有する。
【0015】
電磁波シールドカーテンの下端部に設けられた床面当接部材と床面側に設けられたカーテン当接部材とが下部シールド間隙解消手段の働きで相互に引き寄せられるようにして密着されるので、カーテン当接部材と床面当接部材との間に生じる合わせの不整合や床面当接部材の経年変化等で生じる反りや撓み等の悪影響を抑えて電磁波シールドカーテンの下端部と床面側のカーテン当接部材との間の電気的な接続を確実なものとし、電磁遮蔽に必要とされる短絡抵抗値を得ることができる。
【0016】
より具体的な構成として、カーテン当接部材の裏面側に配備された電磁石を下部シールド間隙解消手段とし、床面当接部材を磁性体によって形成した構成を提案する。
【0017】
このような構成を適用した場合、床面に敷設されたカーテン当接部材の裏面側に配備された電磁石が電磁波シールドカーテン下端部の床面当接部材を磁気的に吸着することによって電磁波シールドカーテンの下端部と床面側のカーテン当接部材との間の密着および電気的な接続が保証される。
電磁石を作動させる配線の這い回しの容易性や電磁波シールドカーテンの重量の軽減化の観点からすると、カーテン当接部材つまり床面側に電磁石を配備し、カーテン側の床面当接部材を磁性体によって形成することが望ましいが、カーテン側の床面当接部材に電磁石を配備し、床面側のカーテン当接部材を磁性体によって形成することも可能である。
また、下部シールド間隙解消手段としては、電磁石の他、真空引きを応用した吸着手段等が考えられる。真空引きを適用する場合にはカーテン側の床面当接部材の下面を平滑に形成することが望ましい。
【0018】
更には、下部シールド間隙解消手段を前記軌跡に沿って間隔を置いて複数個配備すると共に、前記軌跡の一端部から他端部に向けて前記複数個の下部シールド間隙解消手段を端から順に作動状態とするシーケンス制御手段を備えた構成とすることが可能である。
【0019】
このような構成を適用した場合、床面に敷設されたカーテン当接部材の表面形状に倣うようにして床面当接部材が端から順にカーテン当接部材に密着していくので、特に、床面当接部材やカーテン当接部材との間に合わせの不整合や経年変化等による反りや撓み等があった場合であっても、電磁波シールドカーテンの下端部と床面側のカーテン当接部材との間の密着および電気的な接続を確実に保証することができるようになる。
つまり、床面当接部材やカーテン当接部材の一方に合わせの不整合または反りや撓み等があった場合、反りや撓みが生じている部材の両端部を他方の部材に固定してしまうと、当該部材の中央部に生じている反りや撓みの解消か不能となって中央部に浮き上がりが発生し、この部分に間隙が生じてしまう場合があるが、電磁波シールドカーテン下端部の床面当接部材を一方の端から順にカーテン当接部材に密着させていくこと、要するに、カーテン当接部材に対して床面当接部材の一端を固定し他端を自由端とした状態で端から順に密着させていくことで、不用意な間隙の形成を確実に防止することが可能となる。
この操作は、電磁石で下部シールド間隙解消手段を構成した場合には電磁石のシーケンシャルな励磁操作によって実現され、また、真空引きを応用した吸着手段を利用した場合では、電磁制御弁のシーケンシャルな開放操作によって実現され得る。なお、真空引きを応用した吸着手段を適用する場合には、前述の軌跡に沿ってカーテン当接部材の表面に一定の間隔で複数の吸引孔を穿設し、各吸引孔を各吸引孔毎の電磁制御弁を介して真空装置に並列的に接続し、各吸引孔毎の電磁制御弁を端から順に作動(開放)させるものとする。
【0020】
或いは、下部シールド間隙解消手段を前記軌跡に沿って間隔を置いて複数個配備すると共に、前記軌跡の中央部から両端部に向けて前記複数個の下部シールド間隙解消手段を中央から順に作動状態とする構成を適用してもよい。
【0021】
この場合、カーテン当接部材に対して床面当接部材の中央部を固定し両端を自由端とした状態で中央から順に密着させていくことで、前記と同様、不用意な間隙の形成が未然に防止されることになる。
【0022】
また、特に、電磁波シールドカーテンを水平面に投影した軌跡に屈折部や屈曲部が生じるような状態で電磁波シールドカーテンの設置が必要とされるような状況下においては、垂直方向に重なる折り畳みを有する蛇腹状の電磁波シールドカーテンを形成し、電磁波シールドカーテンの下端部に止着された索具と電磁波シールドカーテンの上端部よりも上の位置で索具の巻き上げ巻き戻しを行うウインチ手段とからなるカーテン開閉手段で電磁波シールドカーテンの開閉を行うように構成するとよい。
【0023】
蛇腹の伸縮を利用して電磁波シールドカーテンの開閉操作を行えるので、巻き上げ式の構造とは相違し、電磁波シールドカーテンを直線状の長尺シャフトに直接的に巻き付ける必要がない。従って、任意形状の軌跡に沿って単一の電磁波シールドカーテンを設置することが可能となり、平面形状を基本とする巻き上げ式の電磁波シールドカーテンを複数枚組み合わせる場合に比べて構造が簡便となり、また、複数の電磁波シールドカーテン間の間隙を解消するための複雑な磁気シールド構造も不要となる。
電磁波シールドカーテンを水平面に投影した軌跡に屈折部や屈曲部が生じるような電磁波シールドカーテンの設置態様としては、例えば、電磁波シールドの対象となる装置を部屋の隅に設置して隣接する2つの壁面を除く他の直立2平面を電磁波シールドカーテンでシールドする場合、或いは、電磁波シールドの対象となる装置を壁に押し当てて設置して1つの壁面を除く他の直立3平面を電磁波シールドカーテンでシールドする場合等が考えられる。
【0024】
より具体的な構成としては、壁面および天井に電磁遮蔽材を敷設され、電磁波シールドカーテンの上端部が天井の電磁遮蔽材と定常的に電気的に接続されると共に、前記電磁波シールドカーテンの左右両側部対応位置には、該電磁波シールドカーテンの左右両側部を壁面側の電磁遮蔽材の露出部分に押圧して両者間の密着状態を保持する作動状態と前記電磁波シールドカーテンに対する押圧を解除する非作動状態とを択一的に選択しえる側部シールド間隙解消手段を備え、該側部シールド間隙解消手段には、閉じられた電磁波シールドカーテンの上端部から下端部に至る長さに匹敵する長さを有する押圧ブレードが設けられている構成が望ましい。
【0025】
閉じられた電磁波シールドカーテンの上端部から下端部に至る長さに匹敵する押圧ブレードを側部シールド間隙解消手段に設けることで、電磁波シールドカーテンの左右両側部における密着性、つまり、当該箇所における電磁波のシールド性能が向上する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の電磁波シールド装置は、電磁波シールドカーテンを水平面に投影した軌跡を含むように床面と略同一平面上に敷設された導電体からなるカーテン当接部材と、このカーテン当接部材と密着可能な形状を有して電磁波シールドカーテンの下端部に一体的に固設された導電体からなる床面当接部材に加え、更に、床面当接部材またはカーテン当接部材の何れか一方に、他方の部材を相対的に引き寄せ且つ両者間の密着状態を保持する作動状態と他方の部材に対する引き寄せを解除する非作動状態とを択一的に選択しえる下部シールド間隙解消手段を配備し、電磁波シールドカーテンの下端部に設けられた床面当接部材と床面側に設けられたカーテン当接部材を相互に引き寄せて密着させるようにしたので、カーテン当接部材と床面当接部材との間に生じる合わせの不整合や床面当接部材の経年変化等で生じる反りや撓み等の悪影響を抑えて電磁波シールドカーテンの下端部と床面側のカーテン当接部材との間の間隙を解消し、電気的な接続を確実なものとして電磁遮蔽に必要とされる短絡抵抗値を得ることができる。
【0027】
しかも、電磁波シールドカーテンを水平面に投影した軌跡に沿って下部シールド間隙解消手段を複数個配備し、この軌跡の一端部から他端部もしくは中央から両端部に向けて下部シールド間隙解消手段を順に作動させるようにしたので、特に、床面当接部材やカーテン当接部材に合わせの不整合や経年変化等による反りや撓み等があった場合であっても、これらの部材に生じている反りや撓みを解消して間隙の形成を確実に防止することができる。
【0028】
また、垂直方向に重なる折り畳みを有する蛇腹状の電磁波シールドカーテンを形成し、電磁波シールドカーテンの下端部に止着された索具と電磁波シールドカーテンの上端部よりも上の位置で索具の巻き上げ巻き戻しを行うウインチ手段とからなるカーテン開閉手段で電磁波シールドカーテンの開閉を行う構成を適用した場合においては、電磁波シールドカーテンを直線状の長尺シャフトに巻き付ける必要がなくなり、任意形状の軌跡に沿って単一の電磁波シールドカーテンを設置することが可能となるため、平面形状を基本とする巻き上げ式の電磁波シールドカーテンを複数枚組み合わせる場合に比べて構造が簡便となり、同時に、複数の電磁波シールドカーテン間の間隙を解消するための複雑な磁気シールド構造も不要となり、電磁波シールドカーテンを水平面に投影した軌跡に屈折部や屈曲部が生じるような状態で電磁波シールドカーテンを設置しなければならないような場合、例えば、電磁波シールドの対象となる装置を部屋の隅に設置して隣接する2つの壁面を除く他の直立2平面を電磁波シールドカーテンでシールドする場合、或いは、電磁波シールドの対象となる装置を壁に押し当てて設置して1つの壁面を除く他の直立3平面を電磁波シールドカーテンでシールドするような場合であっても、単一の電磁波シールド装置によって容易に対処することができる。
【0029】
更に、電磁波シールドカーテンの左右両側部を壁面側の電磁遮蔽材の露出部分に押圧して両者間の密着状態を保持する側部シールド間隙解消手段に電磁波シールドカーテンの上端部から下端部に至る長さに匹敵する長さを有する押圧ブレードを設けた構成を併用することで、電磁波のシールド性能を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明を実施するための最良の形態について幾つかの具体例を挙げ、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0031】
図1はMRI装置1やX線装置2を導入した病院等の医療診断治療室3に電磁波シールド装置4を設置した場合の一実施例について概略を示した平面図である。
【0032】
この例では、MRI装置1が電磁波の影響を受け易い装置、また、X線装置2が電磁波の発生源となる装置である。
【0033】
以下、便宜上、医療診断治療室3内の空間のうちMRI装置1を設置した側の領域をMRI室5、また、X線装置2を設置した側の領域をX線室6と称する。
【0034】
MRI室5とX線室6を含む医療診断治療室3は、外部からの電磁波がMRI装置1等に悪影響を及ぼすのを防止する必要上、天井,床面,壁面,ドア,窓等の全てに従来公知の電磁遮蔽材が敷設され、その全体が電磁波シールドルームとして機能する。
【0035】
そして、少なくともX線室6の壁面には、放射線防護のために必要とされる従来公知の放射線遮蔽材8が敷設され、電磁遮蔽材7と放射線遮蔽材8を重複して敷設する必要のある部分に関しては、図1に示される通り、電磁遮蔽材7よりも外側の位置に放射線遮蔽材8を敷設するようにしている。
【0036】
この例では1つの医療診断治療室3をMRI室5およびX線室6として兼用しているので、更に、MRI室5とX線室6の間で電磁波をシールドする必要があり、このために電磁波シールド装置4が設置される。電磁波シールド装置4は、X線室6のX線装置2を基準として見れば電磁波の漏出を防止するための電磁波シールド装置であり、MRI室5のMRI装置1を基準として見れば電磁波の侵入を防止するための電磁波シールド装置である。
【0037】
電磁波シールド装置4の主要部を構成する電磁波シールドカーテン9を水平面に投影した際の軌跡を図1の平面図中に二点鎖線で示す。この実施例ではニッケルメッキを施した0.14mm直径の銅線をナイロン製の布に1.5mmの間隔で縦横に織り込んだものを2枚重ねて電磁波シールドカーテン9として使用しているが、十分な電磁波シールド性能さえ備えていれば、電磁波シールドカーテン9自体の構造は特に問わない。
【0038】
図2は電磁波シールドカーテン9を吊設するための構造について示した正面図、また、図3は電磁波シールドカーテン9を吊設するための構造について示した側面図である。
【0039】
電磁波シールドカーテン9には図2に示されるようにして上下方向に一定の間隔を置いてアルミニウム合金等からなる複数のリブ10がネジ等で固着して取り付けられ、上下方向に隣接するリブ10とリブ10が前記と同等の一定の間隔を置いてケプラー繊維等からなる荷重懸吊糸12で結着され、この荷重懸吊糸12によって隣接するリブ10とリブ10との間の最大離間距離が規制されている。従って、図2に示されるようにして電磁波シールドカーテン9を最大下降位置まで引き降ろした場合であっても電磁波シールドカーテン9それ自体にはリブ10の荷重は作用せず、これらのリブ10の荷重の全ては、電磁波シールドカーテン9自体の重量も含めて、天井側に位置するカーテン支持レール13に先端を結着された荷重懸吊糸12によって支えられる。
【0040】
そして、最下部に位置するリブ10の下面側つまり電磁波シールドカーテン9の下端部に沿って、床面当接部材11がネジ等を利用して一体的に固設されている。この実施例の床面当接部材11は、図3に示されるように、アルミニウム合金等からなるアングル材11aと長尺の鉄板11bによって構成されており、鉄板11bの部分は導電体および磁性体として機能し、アングル材11aの部分は専ら導電体として機能する。電磁波シールドカーテン9に織り込まれた縦方向の銅線の下端部はアングル材11aと電気的に接続して導通し、更に、アングル材11aを経て長尺の鉄板11bと導通している。一方、電磁波シールドカーテン9に織り込まれた縦方向の銅線の上端部は図3に示されるようにしてカーテン支持レール13に電気的に接続され、このカーテン支持レール13および該カーテン支持レール13を固設したカーテンケース21を介して天井側の電磁遮蔽材(図示略)に接地されている。
【0041】
また、リブ10の各々には、図2に示されるように、長手方向に一定の間隔を置いて半円弧状の舌片14が固設されている。全ての舌片14には例えば図6あるいは図8に示されるようにして中央部に孔が穿設され、図3に示されるように、上下方向に並ぶリブ10の各対応位置に固設された舌片14の孔を貫通してケプラー繊維等からなる索具15が上下方向に移動自在な遊嵌状態で通され、この索具15の先端部が最下端のアングル材11aに止着されている。
【0042】
一方、索具15の他端は、図2に示されるように、カーテン支持レール13と平行にオフセットして横設された回転シャフト16に固着された巻き上げリール17に止着され、カーテンケース21に固設されたモータMの回転に応じて巻き上げられ或いは巻き戻されるようになっている。つまり、この実施例では、巻き上げリール17,回転シャフト16,モータMによって電磁波シールドカーテン9の上端部よりも上の位置で索具15の巻き上げ巻き戻しを行うウインチ手段19が構成され、更に、このウインチ手段19に電磁波シールドカーテン9の下端部つまりアングル材11aに止着された索具15を加えたものが、カーテン開閉手段20として機能する。なお、図3中の符号18はカーテン支持レール13に対してオフセット配置された巻き上げリール17とカーテン支持レール13との間で索具15を支承する吊り下げ式のプーリである。
【0043】
図3ではウインチ手段19を作動させて索具15を限界まで巻き上げ、電磁波シールドカーテン9を完全に開いた状態を示しており、この状態では、上下方向に並ぶリブ10が密接状態となって全てのリブ10の荷重が床面当接部材11に加わり、この荷重の全てが索具15によって支えられている。
この状態からウインチ手段19を逆方向に作動させて索具15を巻き戻していくと、索具15の先端に止着された床面当接部材11が下降を開始し、まず、上下方向に並ぶリブ10の全てが密接状態を保持したまま前述した一定の間隔だけ下方に移動し、この段階で、カーテン支持レール13と最上部のリブ10とを結着している荷重懸吊糸12の部分が張り詰めて最上部のリブ10が支えられ、次いで、最上部のリブ10を当該位置に残した状態で、最上部のリブ10を除く他の全てのリブ10が密接状態を保持して更に前述した一定の間隔だけ下方に移動し、この段階で、最上部のリブ10と最上部から2番目のリブ10とを結着している荷重懸吊糸12の部分が張り詰めて最上部から2番目のリブ10が支えられる。
以下、これと同様の現象が繰り返され、索具15が前述した一定の間隔だけ巻き戻される毎に荷重懸吊糸12に作用する荷重は概ね1本のリブ10に相当する重量分だけ増加し、索具15に作用する荷重は、概ね1本のリブ10に相当する重量分だけ減少してゆき、最終的に、索具15を完全に巻き戻して電磁波シールドカーテン9を図2のように完全に閉じた段階で索具15に作用する荷重が実質的に0となり、荷重懸吊糸12によって全てのリブ10および床面当接部材11の荷重が支えられる。
【0044】
また、この状態から索具15を巻き上げていくと前記とは逆の現象が生じ、索具15の先端に止着された床面当接部材11が上昇を開始して、まず、前述した一定の間隔だけ床面当接部材11が上方に移動した段階で最下部のリブ10が床面当接部材11によって支えられ、床面当接部材11と最下部のリブ10が一体的に上昇を開始し、更に、床面当接部材11と最下部のリブ10が前述した一定の間隔だけ上昇した段階で、最下部から2番目のリブ10が最下部のリブ10によって支えられる。
以下、これと同様の現象が繰り返され、索具15が前述した一定の間隔だけ巻き上げられる毎に索具15に作用する荷重が概ね1本のリブ10に相当する重量分だけ増加し、荷重懸吊糸12に作用する荷重は、概ね1本のリブ10に相当する重量分だけ減少してゆき、最終的に、索具15を完全に巻き上げて電磁波シールドカーテン9を図3のように完全に開いた段階で荷重懸吊糸12に作用する荷重は実質的に0となり、索具15によって全てのリブ10および床面当接部材11の荷重が支えられる。
【0045】
図3に示される通り、電磁波シールドカーテン9を開いた状態では、隣接するリブ10とリブ10との間、および、床面当接部材11と最下部のリブ10との間、ならびに、カーテン支持レール13と最上部のリブ10との間で電磁波シールドカーテン9が折り畳まれ、垂直方向に重なる蛇腹状の折り畳み9aが形成される。
電磁波シールドカーテン9には予め折り畳みの癖が付けられ、また、上下方向に並ぶリブ10の一側には上下方向に延びる荷重懸吊糸12および索具15が取り付けられて、当該方向への電磁波シールドカーテン9の突出が妨げられていることから、蛇腹状の折り畳み9aは、必ず、上下方向に並ぶリブ10の他側、つまり、図3におけるリブ10の右側、要するに、X線室6側に突出して形成される。
【0046】
電磁波シールドカーテン9は、図2および図3に示される通り、医療診断治療室3の床面に対して略垂直に設置される構造であり、電磁波シールドカーテン9を水平面つまり医療診断治療室3の床面に投影した際の軌跡は、図1の平面図中に二点鎖線で示す通りの形状となる。従って、アングル材11aと鉄板11bからなる床面当接部材11および全てのリブ10の形状も、この軌跡の形状に合わせ、例えば図4に示されるように、カーテンケース21に内接する円弧部を備えた略「L」の字型の形状に加工されている。この軌跡は2つの線分と1つの円弧部によって形成されるものであるから、巻き上げリール17を固着した前述の回転シャフト16は、図4に示されるように、少なくとも、軌跡の線分の部分に相当する2つの区間S1とS2に分割して2組配備するようにし、より望ましくは、軌跡の円弧部分に対応した弦の区間S3にも配備するとよい。その際、回転シャフト16の駆動源となるモータMは各シャフト毎に個別に設けて同期回転させてもよいし、あるいは、3区間に分割して配備された3本の回転シャフト16をユニバーサルジョイント等で接続し、駆動源となる1つのモータMで回転駆動するといった設計も可能である。
【0047】
長尺シャフトに電磁波シールドカーテンを直接的に巻き付けるようにした従来型の構造を適用した場合においては長尺シャフトを組み合わせて図4のような状態に配備して同期回転させること自体は可能であっても、このように屈折して配備された長尺シャフトに1枚布の電磁波シールドカーテンを巻き付けることは実質的に不可能である。
しかし、この実施例のように、電磁波シールドカーテン9を蛇腹状の折り畳み構造として単純に上下移動させる構成とすることで、水平面に対する電磁波シールドカーテン9の投影軌跡が線分や円弧等の組み合わせからなる複雑な形状であっても、難なく対処することができる。
【0048】
床面当接部材11の鉄板11bに当接するカーテン当接部材22の形状を図5の平面図に示す。
カーテン当接部材22は電磁波シールドカーテン9を水平面に投影した軌跡を含むように医療診断治療室3の床面と略同一平面上に敷設されるものであるから、その形状は、実質的に、図1あるいは図4に示されるようなカーテンケース21の外形と同じでよい。
無論、電磁波シールドカーテン9の投影軌跡を含むという条件が満たされる限りは他の形状を採用することも可能である。
【0049】
カーテン当接部材22は、図6に示される通り、アルミニウム合金等の導電体からなる単純な平板によって形成され、被検者や患者等の歩行あるいはストレッチャー等を始めとする搬送手段の移動を考慮して、その上面側が医療診断治療室3の床面と面一となるようにして床面に埋設され、床面の電磁遮蔽材(図示略)に電気的に接続して接地されている。
【0050】
なお、ここでは床面に不要な段差を生じさせないことを前提とした設計を行っているので、カーテン当接部材22の上面も床面当接部材11の鉄板11bの下面も共に平坦なものとされているが、例えば、何らかの理由で床面に凹凸があるような場合では、カーテン当接部材22の上面は床面の凹凸形状に合わせて形成し、また、床面当接部材11の鉄板11bの下面は、カーテン当接部材22の上面の凹凸に合わせて形成する必要がある。要するに、床面を平坦に形成するという前提条件がなければ、カーテン当接部材22の上面形状と床面当接部材11の鉄板11bの下面形状は相互に密着可能な形状でありさえすればよい。ここでいう「密着可能な形状」の意味合いは、経年変化等によって生じる床面当接部材11の撓みや反り若しくは歪み、あるいは、加工上の寸法誤差や形状誤差等を許容するもので、床面当接部材11とカーテン当接部材22を当接させた状態で床面当接部材11に或る程度の荷重を加えることによって両者間の密着状態が保証されるものであれば、これらの形状や寸法等の異常は「密着可能な形状」の範囲内にあるといってよい。
【0051】
カーテン当接部材22の下方つまり医療診断治療室3の床には、前述の軌跡に沿って延びる矩形断面の溝23が図5および図6に示されるようにして形成され、カーテン当接部材22の裏面側の溝23の内部に、カーテン当接部材22に対して床面当接部材11を相対的に引き寄せ、且つ、カーテン当接部材22に対する床面当接部材11の密着状態を保持するための下部シールド間隙解消手段として機能する電磁石Mg(i)が固設されている。
【0052】
この実施例では、i=1〜Nの複数個の電磁石Mg(i)が前述の軌跡に沿って一定の間隔を置いて溝23内に配備され、その各々が図9に示されるシーケンス制御手段24によって独立的に作動状態(励磁状態)/非作動状態(非励磁状態)に切り換え制御されるようになっている。シーケンス制御手段24の構成と機能に関しては後述する。
【0053】
次に、閉じられた電磁波シールドカーテン9の左右両側部を壁面側の電磁遮蔽材の露出部分に押圧して両者間の密着状態を保持する側部シールド間隙解消手段25の構造について、図7の側面図と図8の平面図を参照して簡単に説明する。
【0054】
この側部シールド間隙解消手段25は、図7に示されるように、電磁波シールドカーテン9の左右両側部対応位置の各々おいて上下方向に一定の間隔を置いて設けられた各側3つの押圧ユニット26と、これらの押圧ユニット26によって水平方向に駆動される押圧ブレード27によって構成される。押圧ユニット26の各々は、上下方向に対向して設けられた2つのプッシュ型電磁ソレノイドSOLと、このプッシュ型電磁ソレノイドSOLのアクチュエータ先端に基部を枢着されたマジックハンド状のリンク機構28とによって構成され、リンク機構28の先端部には押圧ブレード27が取り付けられている。
【0055】
押圧ブレード27は閉じられた電磁波シールドカーテン9の上端部から下端部に至る長さに匹敵する上下長さを有し、電磁波シールドカーテン9と当接する側の面には、図8に示されるようにして、ウレタンテープ等のクッション材29が貼着されている。
【0056】
プッシュ型電磁ソレノイドSOLは、図7および図8に示されるように、電磁波シールドカーテン9の左右両側部の対応位置で医療診断治療室3の壁面に沿って立設された断面略「コ」の字型のカーテンボックス30の内面に取り付けられており、この取付面と対向するカーテンボックス30の他側の内面には、壁面側の電磁遮蔽材(図示略)と電気的に接続して導通するカーテン受け部31が固設されている。このカーテン受け部31は、長尺のクッション材にメッシュ状の伝導体を巻き付けて構成され、メッシュ状の伝導体の部分が、これを支えるステー32およびカーテンボックス30を介して壁面側の電磁遮蔽材(図示略)に電気的に接続し導通している。
従って、カーテン受け部31におけるメッシュ状の伝導体は、実質的に、壁面側の電磁遮蔽材の露出部分と見做して差し支えない。
前述した押圧ブレード27と同様、カーテン受け部31とステー32も、閉じられた電磁波シールドカーテン9の上端部から下端部に至る長さに匹敵する長さを備えている。
【0057】
図7および図8ではプッシュ型電磁ソレノイドSOLを非作動状態(非励磁状態)としてリンク機構28を縮退させ、押圧ブレード27を電磁波シールドカーテン9から離間させて押圧を解除した状態について示しているが、この状態でプッシュ型電磁ソレノイドSOLを作動状態(励磁状態)に切り替えると、プッシュ型電磁ソレノイドSOLのアクチュエータが同期的に突出して上下3連のリンク機構28を同時に伸張させ、リンク機構28の先端に取り付けられた押圧ブレード27によって、電磁波シールドカーテン9の左右両側部を、壁面側の電磁遮蔽材の露出部分つまりカーテン受け部31におけるメッシュ状の伝導体に押圧し、両者間の密着状態を保持する。
【0058】
図8に示されるように、上下方向に並ぶ全てのリブ10にはステー32との干渉を回避するための切欠部分が形成されているので、電磁波シールドカーテン9の左右両側部、より具体的には、電磁波シールドカーテン9に織り込まれた横方向の銅線の左右両側部を、上端部の銅線から下端部の銅線に至るまで満遍なくカーテン受け部31におけるメッシュ状の伝導体に密着させることができる。
【0059】
押圧ブレード27の荷重とリンク機構28の荷重の一部は、最上部に位置するリンク機構28の移動をガイドするガイドレール34と押圧ブレード27の下端部に設けられたキャスター33によって支えられるので、押圧ブレード27の下端部とカーテン当接部材22との間に過大な荷重によるカジリが生じたり、リンク機構28が曲げモーメントによって湾曲する等の弊害は生じない。
【0060】
なお、図8中の符号35はリブ10の端部に回転自在な状態で埋め込まれたボール状のキャスタであり、電磁波シールドカーテン9の上げ下ろしに際してリブ10に横揺れが生じた際の引っ掛かりや壁面の傷付き等を防止している。
【0061】
次に、図9のブロック図を参照してモータM,電磁石Mg(1)〜Mg(N),プッシュ型電磁ソレノイドSOL等を駆動制御するシーケンス制御手段24の構成の概略について説明する。
【0062】
シーケンス制御手段24は、演算処理用のマイクロプロセッサ36(以下、単にCPU36と称する)と、CPU36の基本的な制御プログラムを格納したROM37、および、演算データの一時記憶等に利用されるRAM38と、各種の設定値等を記憶する不揮発性メモリ39、ならびに、設定値の入力操作や各種の指令の入力操作等に利用される操作盤40と、表示手段としてのディスプレイ装置42、そして、外部機器の駆動制御に必要とされる信号の入出力を行うための入出力回路41を少なくとも備える。
【0063】
ウインチ手段19の駆動源であるモータMと下部シールド間隙解消手段の主要部として機能する電磁石Mg(1)〜Mg(N)は各々のドライバと入出力回路41を介してCPU36によって駆動制御され、また、電磁石Mg(1)〜Mg(N)の各々に併設された熱電対等の温度検出手段Tp(1)〜Tp(N)の温度検出信号が、各々のA/D変換器と入出力回路41を介してCPU36に読み込まれるようになっている。
また、側部シールド間隙解消手段25の駆動源であるプッシュ型電磁ソレノイドSOLも、其のドライバと入出力回路41を介してCPU36によって駆動制御される。
【0064】
上昇限度検出スイッチSW1は索具15が限界まで巻き上げられて電磁波シールドカーテン9が図3に示されるように完全に開いた状態で作動する検出スイッチであり、下降限度検出スイッチSW2は、索具15が限界まで巻き戻されて電磁波シールドカーテン9が図2に示されるように完全に閉じた状態で作動する検出スイッチである。
【0065】
上昇限度検出スイッチSW1は、例えば、カーテンボックス30の比較的上方の位置において電磁波シールドカーテン9の表裏を跨ぐようにして設置された一対のダーク・オフ型の透過式フォトカプラによって構成することができる。つまり、電磁波シールドカーテン9の下端部が上昇限度検出スイッチSW1の位置を越えて上昇して受光側の素子が発光側の素子からの光を受けた時点で上昇限度検出スイッチSW1の信号出力がONとなって、CPU36に電磁波シールドカーテン9の開放動作の完了を知らせる。
また、下降限度検出スイッチSW2は、例えば、カーテンボックス30の下端位置において電磁波シールドカーテン9の表裏を跨ぐようにして設置された一対のダーク・オン型の透過式フォトカプラによって構成することができる。つまり、電磁波シールドカーテン9の下端部が下降限度検出スイッチSW2の位置を越えて下降して発光側の素子からの光が遮られて受光側の素子に光が入力されなくなった時点で下降限度検出スイッチSW2の信号出力がONとなって、CPU36に電磁波シールドカーテン9の閉鎖動作の完了を知らせる。
【0066】
なお、上昇限度検出スイッチSW1や下降限度検出スイッチSW2は、フォトカプラの他にも各種の近接センサやリミットスイッチ等を利用して構成することが可能であり、この点に関しては設計上の問題に過ぎない。
【0067】
上昇限度検出スイッチSW1や下降限度検出スイッチSW2からの信号も、入出力回路41を介してCPU36に読み込まれるようになっている。
【0068】
シーケンス制御手段24は独立したハードウェアとして構成してもよいし、あるいは、パーソナルコンピュータやワークステーション等を転用したり、もしくは、医療診断治療室3に設置された医療用の制御装置の機能の一部または医療診断治療室3内の監視システムの制御部を利用して構成することもできる。
単一のマイクロプロセッサによって実質的な並列処理を行わせるための時分割処理やマルチタスク処理に関してはマイクロコンピュータ応用技術の分野で公知である。
【0069】
図10〜図13はシーケンス制御手段24の主要部を構成するCPU36によって実行される処理の概略について示したフローチャートである。
【0070】
次に、図10〜図13を参照して電磁波シールド装置4の全体的な動作について具体的に説明する。
【0071】
シーケンス制御手段24に電源が投入されると、CPU36は、まず、各種のフラグとタイマを初期化し、オペレータ側の操作によって操作盤40から初期設定指令が入力されているか否か(ステップa1)、オペレータ側の操作によって操作盤40からカーテン下降指令が入力されているか否か(ステップa2)、オペレータ側の操作によって操作盤40からカーテン上昇指令が入力されているか否か(ステップa3)、下降限度検出スイッチSW2がONとなっているか否か、要するに、電磁波シールドカーテン9が図2に示されるように閉じた状態にあるか否かを判定する(ステップa4)。
【0072】
通常、MRI装置1やX線装置2を使用していない状態では電磁波シールドカーテン9は図3に示されるように開いた状態とされているので、ステップa1〜ステップa4の判定結果は何れも偽となり、CPU36は、ステップa1〜ステップa4の判定処理のみを繰り返し実行して、オペレータによる操作盤40の操作を待ち受けることになる。
【0073】
この実施例では、電磁波シールドカーテン9を下降させて其の下端部の床面当接部材11をカーテン当接部材22に吸着させる際に、電磁石Mg(1)〜Mg(N)を端から順に作動させるようになっており、その切り替えのタイムラグ、つまり、電磁石Mg(i)を作動状態としてから電磁石Mg(i+1)を作動させるまでのタイムラグTr1を任意に設定できるようにしている。
【0074】
また、電磁石Mg(1)〜Mg(N)からなる下部シールド間隙解消手段の作動が全て完了してから側部シールド間隙解消手段25を作動させるまでのタイムラグTr2も任意に設定することが可能である。
【0075】
これらの値は予めオペレータが決定してシーケンス制御手段24に教示しておく必要があるので、オペレータは、まず、操作盤40を操作して初期設定指令をCPU36に入力することになる。
【0076】
この操作はステップa1〜ステップa4の判定処理を繰り返し実行しているCPU36によってステップa1の判定処理で検出される。
【0077】
初期設定指令の入力を検出したCPU36は、ディスプレイ装置42に設定値の入力操作に関わるガイダンスメッセージを表示するので、オペレータは、このガイダンスメッセージを参照してタイムラグTr1,Tr2の値を操作盤40から入力し、これを受けたCPU36が、タイムラグTr1,Tr2の値を不揮発性メモリ39に格納する(以上、ステップa5)。
【0078】
そして、初期設定の終了後、MRI室5とX線室6との間で電磁波をシールドする必要が生じた場合には、オペレータは、操作盤40を操作してカーテン下降指令をCPU36に入力する。
【0079】
この操作はステップa1〜ステップa4の判定処理を繰り返し実行しているCPU36によってステップa2の判定処理で検出される。
【0080】
カーテン下降指令の入力を検出したCPU36は、まず、下降限度検出スイッチSW2がONとなっているか否か、要するに、電磁波シールドカーテン9が図2に示されるような下降限度位置にまで下降しているか否かを判定する(ステップb1)。
【0081】
ステップb1の判定結果が真となった場合、つまり、電磁波シールドカーテン9が下降限度位置まで下降していることが確認された場合には、これ以上電磁波シールドカーテン9を下降させることきはできないので、CPU36は、今回のカーテン下降指令の入力操作を無視して再び初期の待機状態に復帰し、ステップa1〜ステップa4の判定処理を繰り返し実行しながら別の指令が入力されるのを待機する。
【0082】
一方、ステップb1の判定結果が偽となった場合には、電磁波シールドカーテン9が下降限度位置までは下降しておらず、現在位置よりも下方に移動させることが可能な状態にあることを意味する。
【0083】
この場合、CPU36は、モータMを逆転させて巻き上げリール17からの索具15の巻き戻しを開始し(ステップb2)、改めて、下降限度検出スイッチSW2がONとなっているか否かを判定する(ステップb3)。
【0084】
下降限度検出スイッチSW2がONとなっていなければ電磁波シールドカーテン9の下端部が下降限度位置に到達していないことを意味するので、CPU36は、このまま索具15の巻き戻しを継続して電磁波シールドカーテン9を下降させ、最終的に、下降限度検出スイッチSW2がONとなった時点、要するに、電磁波シールドカーテン9の床面当接部材11がカーテン当接部材22に当接した時点でモータMの逆転を停止させ、電磁波シールドカーテン9を現位置に保持する(ステップb4)。
【0085】
本来であれば、この時点で床面当接部材11の鉄板11bがカーテン当接部材22の上面に完全に密着していることが望ましいのであるが、前述した通り、経年変化等による床面当接部材11の撓みや反り若しくは歪み、あるいは、加工上の寸法誤差や形状誤差等の影響のために両者が確実に密着しえない場合もあり得る。
【0086】
そこで、CPU36は、指標iを一旦0に初期化し(ステップb5)、該指標iの値を改めて1インクリメントして(ステップb6)、指標iの現在値が下部シールド間隙解消手段として機能する電磁石の総数であるNの値を超えているか否かを判定する(ステップb7)。
【0087】
そして、指標iの現在値が電磁石の総数Nの値を超えていなければ、CPU36は、指標iの現在値に基づいて電磁石Mg(i)を励磁状態に切り替え(ステップb8)、経過時間計測タイマTrをリセットして再スタートさせ(ステップb9)、経過時間計測タイマTrの計測値がタイムラグの設定値Tr1に達するのを待つ待機状態に入る(ステップb10)。
【0088】
この時点での指標iの値は1であるから、まず、電磁石Mg(1)、つまり、図5に示されるようにして前述の軌跡の端部に配備された電磁石Mg(1)がステップb8の処理で励磁され、床面当接部材11の鉄板11bの一端部が電磁石Mg(1)に引き寄せられるようにして吸着され、この床面当接部材11の一端部がカーテン当接部材22の一端部に密着して保持されることになる。
【0089】
そして、経過時間計測タイマTrの計測値がタイムラグの設定値Tr1に達したことがステップb10の判定処理で検出されると、CPU36は、指標iの値を改めて1インクリメントした後(ステップb6)、該指標iの現在値が電磁石の総数であるNの値を超えているか否かを判定し(ステップb7)、指標iの現在値がNの値を超えていなければ、前記と同様にしてステップb8〜ステップb10およびステップb6の処理を繰り返し実行する。
【0090】
この結果、前述した軌跡の一端部に配備された最初の電磁石Mg(1)の作動後、電磁石Mg(2),電磁石Mg(3),電磁石Mg(4),・・・,電磁石Mg(i),・・・,電磁石Mg(N)の各々がタイムラグの設定値Tr1の時間間隔で順に励磁状態に切り替えられていくことになる。
【0091】
このように、電磁波シールドカーテン9を水平面に投影した軌跡を含むようにして医療診断治療室3の床面と同一平面上に敷設されカーテン当接部材22の下面側に配備されたN個の電磁石を端から順に前述の軌跡の一端部から他端部に向けて順に作動状態としていくこと、言い換えれば、カーテン当接部材22に対して床面当接部材11の一端を固定し他端を自由端とした状態で端から順に密着させていくことにより、床面に敷設されたカーテン当接部材22の表面形状に倣うようにして床面当接部材11を端から順にカーテン当接部材22に密着させていくことが可能となり、床面当接部材11やカーテン当接部材22との間に合わせの不整合や経年変化等による反りや撓み等が多少あった場合でも、床面当接部材11の中央部に生じている上に凸の撓みや床面当接部材11の端部に生じている跳ね上がり等を矯正し、電磁波シールドカーテン9の下端部とカーテン当接部材22との間の間隙を確実に解消して両者間の密着および電気的な接続を確保し、電磁波シールドカーテン9の下端部と床面の電磁遮蔽材(図示略)との間の電磁波のシールドを確実に保証することができる。
【0092】
この実施例ではN個の電磁石を端から順に励磁していくようにしているが、N個の電磁石を中央部のものからから両端部のものに向けて順に励磁していくことによっても同等の効果を得ることが可能である。その際の制御に関しては設計上の問題に過ぎないので、具体的な制御についての説明は省略する。この場合は、カーテン当接部材22に対して床面当接部材11の中央部を固定し、両端を自由端とした状態で中央から順に密着させていくことになるが、間隙の解消に関わる作用原理については前記と全く同様である。
【0093】
以上の処理操作によって全ての電磁石Mg(1)〜Mg(N)の励磁が完了し、指標iの現在値がNの値を超えたことがステップb7の判定処理で検出されると、CPU36は、経過時間計測タイマTrの計測値がタイムラグの設定値Tr2に達しているか否か、要するに、最後の電磁石Mg(N)を励磁してからの経過時間Trが、下部シールド間隙解消手段の作動が完了してから側部シールド間隙解消手段25を作動させるまでのタイムラグTr2に達しているか否かを判定し、達していなければそのまま待機する(ステップb11)。
【0094】
そして、経過時間計測タイマTrの計測値がタイムラグの設定値Tr2に達したことがステップb11の判定処理で検出されると、CPU36は、側部シールド間隙解消手段25の駆動源である全てのプッシュ型電磁ソレノイドSOLを同期的に励磁し、上下3連のリンク機構28を同時に伸張させて、リンク機構28の先端に取り付けられた押圧ブレード27によって、電磁波シールドカーテン9の左右両側部を、壁面側の電磁遮蔽材の露出部分つまりカーテン受け部31におけるメッシュ状の伝導体に押圧し、両者間の密着状態を保持して電磁波シールドカーテン9の左右両側部と壁面側の電磁遮蔽材(図示略)との間の電磁波のシールドを確保する(ステップb12)。
【0095】
電磁石Mg(1)〜Mg(N)によって構成される下部シールド間隙解消手段が完全に作動した後、一定のタイムラグTr2の経過を待機することで、下降中に電磁波シールドカーテン9に生じた振動や横揺れ或いは畳み皺等を確実に解消して、電磁波シールドカーテン9の左右両側部を壁面側の電磁遮蔽材の露出部分に確実に圧着させることが可能となる。
【0096】
最終的に、CPU36は、経過時間計測タイマTrをリセットして電磁波シールドカーテン9を閉じるための一連の処理操作を終了し(ステップb13)、再び初期の待機状態に復帰して、ステップa1〜ステップa4の判定処理を繰り返し実行しながら別の指令が入力されるのを待機する。
【0097】
このようにして電磁波シールドカーテン9が閉じられた状況下、つまり、電磁石Mg(1)〜Mg(N)によって構成される下部シールド間隙解消手段が作動している状況下においては、下降限度検出スイッチSW2からの信号出力は定常的にONとなる。
【0098】
ステップa1〜ステップa4の判定処理を繰り返し実行しているCPU36はステップa4の判定処理で下降限度検出スイッチSW2からの信号出力を検出し、所定周期毎に、電磁石の温度異常の検出に関わる処理を繰り返し実行する。
【0099】
温度異常の検出に関わる処理を開始したCPU36は、まず、異常検出フラグFと指標iの値を0に初期化した後(ステップd1,ステップd2)、指標iの値を改めて1インクリメントし(ステップd3)、指標iの現在値が下部シールド間隙解消手段として機能する電磁石の総数であるNの値を超えているか否かを判定する(ステップd4)。
【0100】
そして、指標iの現在値が電磁石の総数Nの値を超えていなければ、CPU36は、指標iの現在値に基づいて温度検出手段Tp(i)の検出温度つまり電磁石Mg(i)の現在温度を読み込み(ステップd5)、この現在温度Tp(i)が許容温度の上限値Tps(設定値)の範囲内にあるか否かを判定する(ステップd6)。
【0101】
現在温度Tp(i)が許容温度の上限値Tpsの範囲内にあれば、少なくとも、現時点においては電磁石Mg(i)に温度異常が生じていないものと見做し、CPU36は、更に、電磁石Mg(i)の温度異常履歴がRAM38に記憶されているか否かを判定する(ステップd12)。
【0102】
温度異常履歴が記憶されていなければ、この電磁石Mg(i)は現在作動中であり且つ其の温度にも異常がないことを意味するので、CPU36は、異常検出フラグFのリセット状態を保持して(ステップd15)、ステップd3の処理に移行する。
【0103】
ステップd3の処理に移行したCPU36は、指標iの値を改めて1インクリメントし、更新された指標iの値に基づいて前記と同様の処理を繰り返し実行する。
【0104】
何れの電磁石にも温度異常が発生していない場合には、CPU36は、指標iの値を逐次インクリメントしながらステップd4〜ステップd6,ステップd12,ステップd15の処理を前記と同様に繰り返し実行し、最終的に、指標iの現在値がNの値を超えた時点、つまり、電磁石Mg(1)〜Mg(N)の全てに温度異常が発生していないことが明らかとなった時点で、電磁石の温度異常の検出に関わる1回分の処理を完了し、再び初期の待機状態に復帰する。
そして、CPU36は、操作盤40からの初期設定指令の入力操作の有無(ステップa1)、操作盤40からのカーテン下降指令の入力操作の有無(ステップa2)、操作盤40からのカーテン上昇指令の入力操作の有無(ステップa3)を見張りながら、所定周期毎、つまり、ステップa4の判定処理で下降限度検出スイッチSW2のONが確認される度に、電磁石の温度異常の検出に関わる処理(ステップd1〜ステップd15)を繰り返し実行する。
【0105】
しかし、電磁波シールドカーテン9を上昇させない限り下降限度検出スイッチSW2の信号出力はONの状態に保持され続けるので、前述した理由により、この時点での操作盤40からのカーテン下降指令の入力は無視される。
【0106】
一方、タイムラグTr1,Tr2の再設定操作と電磁波シールドカーテン9の上昇操作に関しては当該時点においても実行可能であり、電磁石の温度異常の検出に関わる処理は、電磁波シールドカーテン9が閉じられている間、無条件に繰り返し実行される。
【0107】
このようにして、電磁石の温度異常の検出に関わるステップd4〜ステップd6,ステップd12,ステップd15の処理が繰り返し実行される間に、ステップd6の判定結果が偽となった場合、つまり、電磁石Mg(i)の現在温度Tp(i)が許容温度の上限値Tpsに達していると判定された場合には、CPU36は、電磁石Mg(i)の焼損等を防止するために電磁石Mg(i)の励磁を解除し(ステップd7)、電磁石Mg(i)に温度異常が生じた旨のアラートメッセージをディスプレイ装置42に表示し、併せて、この異常を電磁石Mg(i)の異常履歴としてRAM38に一時記憶させる(ステップd8)。
【0108】
この場合、CPU36は、更に、異常検出フラグFが現時点でセットされているか否か、つまり、現時点で評価対象としている電磁石Mg(i)と隣接する電磁石Mg(i−1)に温度異常が発生しているか否かを判定する(ステップd9)。
【0109】
異常検出フラグFがセットされておらずステップd9の判定結果が偽となった場合には、少なくとも、電磁石Mg(i)に隣接する電磁石Mg(i−1)が正常に作動していること、つまり、現状のままでもカーテン当接部材22と床面当接部材11との密着状態を保持できる可能性が高いことを意味するので、CPU36は、異常検出フラグFをセットすることにより、この処理周期で評価対象とした電磁石Mg(i)に温度異常が発生したことだけを記憶し(ステップd11)、重大な異常発生に関わるアラートメッセージの出力は実行しない。
【0110】
一方、ステップd9の判定結果が真となり、異常検出フラグFがセットされていることが確認された場合には、現時点で評価対象としている電磁石Mg(i)と此れに隣接する電磁石Mg(i−1)の双方に温度異常が発生し、隣接して配備された2つの電磁石の作動を同時に停止したこと、つまり、現状のままではカーテン当接部材22と床面当接部材11との密着状態が保持できなくなる可能性が高いことを意味するので、CPU36は、電磁波のシールドに影響を及ぼす可能性のある重大な異常が発生した旨のアラートメッセージをディスプレイ装置42に表示する(ステップd10)。
【0111】
また、ステップd12の判定結果が真となって電磁石Mg(i)に温度異常履歴があることが確認された場合には、この電磁石Mg(i)の温度Tp(i)が少なくとも過去において一旦は許容温度の上限値Tpsを超え、その結果として励磁を解除され且つ其の異常履歴がRAM38に記憶されたが、その後、現時点に至るまでの過程で温度が正常な範囲に復したということを意味するので、CPU36は、この電磁石Mg(i)の温度異常が解消されたものと見做し、改めて此の電磁石Mg(i)を励磁状態とすると共に(ステップd13)、電磁石Mg(i)に関わる温度異常のアラートメッセージをディスプレイ装置42上で消去し、併せて、電磁石Mg(i)の異常履歴の記憶をRAM38から消去し(ステップd14)、異常検出フラグFをリセットして(ステップd15)、ステップd3の処理に移行する。
【0112】
従って、電磁石Mg(1)〜Mg(N)の何れかに温度異常が検出されれば必ず其の電磁石Mg(i)に対応した温度異常のアラートメッセージが表示され、また、その温度異常が解消された場合においては、対応するアラートメッセージの表示が消去される。複数の電磁石について温度異常のアラートメッセージが表示されるといったことも理論的には有り得る。
【0113】
また、重大な異常に関わるアラートメッセージが表示されるのは、ステップd6の判定処理の結果が連続して2回以上偽となった場合、要する、隣接する2つ以上の電磁石が同時に機能を停止した場合のみである。従って、理論的には、前述の軌跡の一端部から数えて偶数個目の電磁石の全て、あるいは、奇数個目の電磁石の全てが作動を停止したとしても重大な異常に関わるアラートメッセージが表示されないことになるが、この実施例にのみ関してみれば、マージンを高く設計しているので、このような状況であっても、カーテン当接部材22と床面当接部材11との密着状態を保持することが可能である。無論、このような条件は電磁石の配設ピッチや電磁石の吸着力の強度等によって様々に変化するものであるから、実際の条件に応じ、例えば、隣接する3つ以上の電磁石が同時に機能を停止した場合にのみ重大な異常に関わるアラートメッセージを出力するとか、また、所定値以上の個数の電磁石が同時に機能を停止した場合には無条件に重大な異常に関わるアラートメッセージを出力する等の工夫が必要である。
【0114】
そして、患者や被検者あるいはストレッチャー等をMRI室5とX線室6との間で移動させる等の理由で電磁波シールドカーテン9を開く必要が生じた場合には、オペレータは、操作盤40を操作してカーテン上昇指令をCPU36に入力する。
【0115】
この操作はステップa1〜ステップa4の判定処理を繰り返し実行しているCPU36によってステップa3の判定処理で検出される。
【0116】
カーテン上昇指令の入力を検出したCPU36は、まず、上昇限度検出スイッチSW1がONとなっているか否か、要するに、電磁波シールドカーテン9が図3に示されるような上昇限度位置まで上昇しているか否かを判定する(ステップc1)。
【0117】
ステップc1の判定結果が真となった場合、つまり、電磁波シールドカーテン9が上昇限度位置まで上昇していることが確認された場合には、これ以上電磁波シールドカーテン9を上昇させることきはできないので、CPU36は、この度のカーテン上昇指令の入力を無視して再び初期の待機状態に復帰し、ステップa1〜ステップa4の判定処理を繰り返し実行しながら別の指令が入力されるのを待機する。
【0118】
一方、ステップc1の判定結果が偽となった場合には、電磁波シールドカーテン9が上昇限度位置までは上昇しておらず、現在位置よりも上方に移動させることが可能な状態にあることを意味する。
【0119】
この場合、CPU36は、まず、側部シールド間隙解消手段25の駆動源である全てのプッシュ型電磁ソレノイドSOLの励磁を解除し、上下3連のリンク機構28を同時に縮退させて、リンク機構28の先端に取り付けられた押圧ブレード27を電磁波シールドカーテン9の左右両側部から離間させ(ステップc2)、更に、下部シールド間隙解消手段として機能する電磁石Mg(1)〜Mg(N)の励磁を全て解除して(ステップc3)、電磁波シールドカーテン9の上下方向の移動が許容され得る状態とする。
【0120】
次いで、CPU36は、モータMを正転させて巻き上げリール17による索具15の巻き上げを開始し(ステップc4)、改めて、上昇限度検出スイッチSW1がONとなっているか否かを判定する(ステップc5)。
【0121】
上昇限度検出スイッチSW1がONとなっていなければ電磁波シールドカーテン9の開放が完了していないことを意味するので、CPU36は、このまま索具15の巻き上げを継続して電磁波シールドカーテン9を上昇させ、最終的に、上昇限度検出スイッチSW1がONとなった時点、要するに、電磁波シールドカーテン9の開放操作が完了した時点でモータMの正転を停止させて電磁波シールドカーテン9を現位置に保持し(ステップc6)、再び初期の待機状態に復帰してステップa1〜ステップa4の判定処理を繰り返し実行しながら別の指令が入力されるのを待機する。
【0122】
電磁波シールドカーテン9が上昇した時点では下降限度検出スイッチSW2からの信号は定常的にOFFとなるので、改めて電磁波シールドカーテン9が閉じられるまでの間はステップa4の判定結果が真となることはなく、従って、前述した電磁石の温度異常の検出に関わる処理(ステップd1〜ステップd15)は全て非実行とされる。
【実施例2】
【0123】
図14および図15は、電磁波シールドの対象となる装置、例えば、MRI装置1を包囲するようにして電磁波シールドカーテンを設置し、必要最小限度のスペースに電磁波シールドルームを構築するようにした場合の電磁波シールド装置の一実施例について簡略化して示した斜視図である。このうち図14では電磁波シールドカーテンを上昇させて完全に開いた状態について、また、図15では電磁波シールドカーテンを下降させて完全に閉じた状態について示している。
【0124】
図14に示される電磁波シールド装置4’の各部の構成に関しては図2〜図6を参照して説明した実施例のものと基本的に同様である。
【0125】
但し、電磁波シールドカーテン9’が図15に示されるようにしてMRI装置1を包囲するチューブ状のものとして形成されている点と、これに対応すべくリブ10’,床面当接部材11’,カーテンケース21’,カーテン当接部材22’が略矩形状の枠体によって構成されている点、および、カーテンケース21’の上面側とカーテン当接部材22’の下面側に略矩形状の放射線遮蔽材8a,8bが一体的に固設されている点で、図2〜図6を参照して説明した実施例の電磁波シールド装置4とは構成が異なる。
また、電磁波シールドの対象となるMRI装置1がチューブ状の電磁波シールドカーテン9’によって完全に包囲されるため、この電磁波シールド装置4’では図7や図8に示されるような側部シールド間隙解消手段25は不要である。
電磁波シールドカーテン9’や放射線遮蔽材8a,8bの構成は図2〜図6に示した実施例で説明した電磁波シールドカーテン9と同様のものを利用しているが、十分な電磁波シールド性能さえ備えていれば、電磁波シールドカーテン9’や放射線遮蔽材8a,8b自体の構造は問わない。
【0126】
電磁波シールドカーテン9’の上昇や下降のためには図2や図3を参照して説明した実施例のものと同様に回転シャフト16,巻き上げリール17,モータM等のウインチ手段と索具15を利用しているが、回転シャフト16や巻き上げリール17は、電磁波シールドカーテン9’の巻き上げや巻き戻しの際のバランスの点から、矩形の枠体からなるカーテンケース21’の四つの辺のうち、少なくとも、互いに平行となる二辺に沿って設ければよい。
また、電磁波シールド装置4’の大きさ、要するに、構築すべき電磁波シールドルームの大きさにもよるが、リブ10’や床面当接部材11’を含めた重量が軽量なものであれば、公知の窓用ブラインド等の巻き上げ巻き戻し機構を転用して手動で電磁波シールドカーテン9’の開閉操作を行うように構成することも可能である。
【0127】
カーテンケース21’は医療診断治療室等の天井から四隅を懸吊して電磁波シールドの対象となるMRI装置1等の上方に設置するか、または、電磁波シールドの対象となるMRI装置1等にステーを設けて下方から支えるようにする。
【0128】
カーテン当接部材22’の裏面に配備する電磁石は、図6に示されるように医療診断治療室等の床に溝を設けて設置するようにしてもよいが、電磁波シールドの対象となる装置を包囲するように電磁波シールドカーテンを設置して必要最小限度のスペースに電磁波シールドルームを構築する場合においては、カーテン当接部材22’と一体化した矩形状の中空枠体を設けて其の内部に電磁石を配備し、この中空枠体とカーテン当接部材22’からなるユニットを医療診断治療室等の床面に後付けするような構成であっても構わない。
シールドの対象となる装置に極めて近接した領域にカーテン当接部材22’が配備されるため、部屋と部屋を電磁波シールドカーテンで仕切る場合とは相違し、被検者や患者あるいはストレッチャー等がカーテン当接部材22’を跨ぎ超えて移動するといった状況が生じる可能性が極めて低いからである。
【0129】
このように床面当接部材11’の規模が十分に小さい場合には、床面当接部材11’に反りや撓み或いは形状誤差等が生じるといった可能性も低いので、カーテン当接部材22’の裏面側に配備した複数の電磁石は、電磁波シールドカーテン9’の下降が完了した時点で同時に作動させて構わない。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】病院等の医療診断治療室に電磁波シールド装置を設置した場合の一実施例について概略を示した平面図である。
【図2】同実施例の電磁波シールドカーテンを吊設するための構造について示した正面図である。
【図3】同実施例の電磁波シールドカーテンを吊設するための構造について示した側面図である。
【図4】同実施例の電磁波シールドカーテンを水平面に投影した際の軌跡とリブの形状について示した平面図である。
【図5】同実施例のカーテン当接部材の全体的な形状と電磁石の配備状態を示した平面図である。
【図6】同実施例のカーテン当接部材と床面当接部材との関係を示した側断面図である。
【図7】同実施例の側部シールド間隙解消手段の構造について示した側面図である。
【図8】同実施例の側部シールド間隙解消手段の構造について示した平面図である。
【図9】同実施例のシーケンス制御手段の構成について簡略化して示したブロック図である。
【図10】シーケンス制御手段の主要部を構成するマイクロプロセッサによって実行される処理の概略について示したフローチャート(特に入力操作の検出に関わる処理を示したもの)である。
【図11】シーケンス制御手段の主要部を構成するマイクロプロセッサによって実行される処理の概略について示したフローチャート(特に電磁波シールドカーテンの下降に関わる処理を示したもの)である。
【図12】シーケンス制御手段の主要部を構成するマイクロプロセッサによって実行される処理の概略について示したフローチャート(特に電磁波シールドカーテンの上昇に関わる処理を示したもの)である。
【図13】シーケンス制御手段の主要部を構成するマイクロプロセッサによって実行される処理の概略について示したフローチャート(特に電磁石の異常検出に関わる処理を示したもの)である。
【図14】電磁波シールドの対象となる装置を包囲するようにして電磁波シールドカーテンを設置し、必要最小限度のスペースに電磁波シールドルームを構築するようにした場合の電磁波シールド装置の一実施例について簡略化して示した斜視図(電磁波シールドカーテンを開放した状態)である。
【図15】電磁波シールドの対象となる装置を包囲するようにして電磁波シールドカーテンを設置し、必要最小限度のスペースに電磁波シールドルームを構築するようにした場合の電磁波シールド装置の一実施例について簡略化して示した斜視図(電磁波シールドカーテンを下降させた状態)である。
【符号の説明】
【0131】
1 MRI装置(磁気共鳴イメージング装置)
2 X線装置
3 医療診断治療室
4 電磁波シールド装置
4’ 電磁波シールド装置
5 MRI室
6 X線室
7 電磁遮蔽材
8 放射線遮蔽材
8a,8b 放射線遮蔽材
9 電磁波シールドカーテン
9’ 電磁波シールドカーテン
9a 蛇腹状の折り畳み
10 リブ
10’ リブ
11 床面当接部材
11’ 床面当接部材
11a アングル材
11b 鉄板
12 荷重懸吊糸
13 カーテン支持レール
14 舌片
15 索具(カーテン開閉手段の一部)
16 回転シャフト(ウインチ手段の一部)
17 巻き上げリール(ウインチ手段の一部)
18 プーリ
19 ウインチ手段(カーテン開閉手段の一部)
20 カーテン開閉手段
21 カーテンケース
21’ カーテンケース
22 カーテン当接部材
22’ カーテン当接部材
23 溝
24 シーケンス制御手段
25 側部シールド間隙解消手段
26 押圧ユニット(側部シールド間隙解消手段の一部)
27 押圧ブレード(側部シールド間隙解消手段の一部)
28 リンク機構(側部シールド間隙解消手段の一部)
29 クッション材
30 カーテンボックス
31 カーテン受け部(壁面側の電磁遮蔽材の露出部分)
32 ステー
33 キャスター
34 ガイドレール
35 キャスタ
36 マイクロプロセッサ
37 ROM
38 RAM
39 不揮発性メモリ
40 操作盤
41 入出力回路
42 ディスプレイ装置
M モータ(ウインチ手段の一部)
Mg(i) 電磁石(下部シールド間隙解消手段)
Tp(i) 温度検出手段
SOL プッシュ型電磁ソレノイド(側部シールド間隙解消手段の一部)
SW1 上昇限度検出スイッチ
SW2 下降限度検出スイッチ
Tr1 電磁石の作動に関わるタイムラグ
Tr2 側部シールド間隙解消手段の作動に関わるタイムラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも床面に電磁遮蔽材を敷設された室内に設置される電磁波シールド装置であって、
前記床面に対して略垂直に設置される電磁波シールドカーテンと、前記電磁波シールドカーテンを開閉するカーテン開閉手段と、前記電磁波シールドカーテンを水平面に投影した軌跡を含むように前記床面と略同一平面上に敷設されて前記床面の電磁遮蔽材と電気的に接続された導電体からなるカーテン当接部材と、前記カーテン当接部材と密着可能な形状を有して前記電磁波シールドカーテンの下端部に電気的に接続され該下端部に沿って一体的に固設された導電体からなる床面当接部材とを備え、
前記床面当接部材または前記カーテン当接部材の何れか一方に、他方の部材を相対的に引き寄せ且つ両者間の密着状態を保持する作動状態と前記他方の部材に対する引き寄せを解除する非作動状態とを択一的に選択しえる下部シールド間隙解消手段を設けたことを特徴とする電磁波シールド装置。
【請求項2】
前記床面当接部材が磁性体によって形成され、前記下部シールド間隙解消手段が、前記床面当接部材を吸着すべく前記カーテン当接部材の裏面側に配備された電磁石によって構成されていることを特徴とする請求項1記載の電磁波シールド装置。
【請求項3】
前記下部シールド間隙解消手段が、前記軌跡に沿って間隔を置いて複数個配備されると共に、前記軌跡の一端部から他端部に向けて前記複数個の下部シールド間隙解消手段を端から順に作動状態とするシーケンス制御手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の電磁波シールド装置。
【請求項4】
前記下部シールド間隙解消手段が、前記軌跡に沿って間隔を置いて複数個配備されると共に、前記軌跡の中央部から両端部に向けて前記複数個の下部シールド間隙解消手段を中央から順に作動状態とするシーケンス制御手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の電磁波シールド装置。
【請求項5】
前記電磁波シールドカーテンが垂直方向に重なる折り畳みを有する蛇腹状に形成され、前記カーテン開閉手段が、前記電磁波シールドカーテンの下端部に止着された索具と、前記電磁波シールドカーテンの上端部よりも上の位置で前記索具の巻き上げ巻き戻しを行うウインチ手段によって構成されていることを特徴とする請求項1,請求項2,請求項3または請求項4記載の電磁波シールド装置。
【請求項6】
壁面および天井に電磁遮蔽材を敷設され、前記電磁波シールドカーテンの上端部が天井の電磁遮蔽材と定常的に電気的に接続されると共に、前記電磁波シールドカーテンの左右両側部対応位置には、該電磁波シールドカーテンの左右両側部を壁面側の電磁遮蔽材の露出部分に押圧して両者間の密着状態を保持する作動状態と前記電磁波シールドカーテンに対する押圧を解除する非作動状態とを択一的に選択しえる側部シールド間隙解消手段を備え、該側部シールド間隙解消手段には、閉じられた電磁波シールドカーテンの上端部から下端部に至る長さに匹敵する長さを有する押圧ブレードが設けられていることを特徴とする請求項5記載の電磁波シールド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−208214(P2007−208214A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28964(P2006−28964)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【出願人】(599019214)共栄テクノ株式会社 (2)
【出願人】(590001452)国立がんセンター総長 (80)
【Fターム(参考)】