説明

電磁波抑制シート及びその製造方法

【課題】より簡便、かつ自家中毒や機器外へのノイズ遮蔽や抑制だけでなく、電子機器内での自家中毒症状による干渉現象の対策手段として、軽量でスペースをとらず、複雑な形状にも容易に対応できるフレキシブルなノイズ抑制部材をも提供可能な電磁波抑制シートの製造方法を提供する。
【解決手段】基材1上に、導電性塗工材を塗布して導電層2を形成する工程と、導電層2上に、磁性塗工材を塗布して磁性層3を形成する工程とを有する電磁波ノイズ抑制シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波抑制シート及びその製造方法に関するものである。更に詳しくは、高周波域での自家中毒や電磁波放射による電磁波ノイズ漏洩が問題視される電子機器等の電磁波ノイズ吸収が可能な電磁波抑制シート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のデジタルデバイスの発展とともに、情報量の増加や処理速度の高速化で電子機器は益々高密度実装化され、扱う周波数もMHz帯から数十GHz帯に及ぶ様になっている。電子機器金属筐体や導体シールドによる漏洩電磁波ノイズ閉じ込めだけでなく、多種の機能を持ったデジタル回路が複合され、高周波域での自家中毒や近接空間に於けるノイズの結合、伝導に起因する電磁波ノイズ漏洩が問題視されている。機器外へのノイズ遮蔽や抑制だけでなく、電子機器内での自家中毒症状による干渉現象の対策手段としても軽量でスペースの取らないノイズ抑制部材の必要性が望まれている。
【0003】
このような部材として、昨今「ノイズ抑制シート」(NSS:Noise Suppression Sheet)が採用されてきた。
【0004】
特許文献1には、離型性PET上に金属蒸着層を形成し、この上に磁性塗料を塗布、乾燥し、磁性層を形成した後に、磁性層と金属蒸着層を同時に離型性PETから剥離して磁気シートを得る方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、導電性カーボンと軟磁性粉末を混合した導電・磁性フィラーを分散させた塗料を塗布し、電磁波干渉抑制シートを得ることが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−348916号公報
【特許文献2】特開2007−129179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、引用文献1では、金属蒸着層および磁性層から離型性PETを剥離することで、シートの薄肉化を図っている、即ち、基材を省略することで薄肉化を図っている。さらに、所望の特性を得るべく、磁性塗料中の磁性材料を多量に用いるため、磁性層にシート強度を担保させるにも限界がある。そのため、シート強度が不十分であるという問題がある。
【0008】
また、引用文献2では、一つの層が導電層と磁性層を兼ねるため、導電特性と磁気特性のそれぞれを部分的に調整することが困難であった。そのため、使用する機器の要請に応じた複雑な形状に、導電特性と磁気特性のそれぞれをパターン化した層を形成することができず、使用用途が限られるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、より簡便、かつ自家中毒や機器外へのノイズ遮蔽や抑制だけでなく、電子機器内での自家中毒症状による干渉現象の対策手段として、軽量でスペースをとらず、複雑な形状にも容易に対応できるフレキシブルなノイズ抑制部材をも提供可能な電磁波抑制シートの製造方法及び電磁波抑制シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の電磁波ノイズ抑制シートは、基材と、導電性塗工材を塗布することにより形成された導電層と、磁性塗工材を塗布することにより形成された磁性層とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の電磁波ノイズ抑制シートの製造方法は、導電性塗工材を塗布して導電層を形成する工程と、磁性塗工材を塗布して磁性層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、導電層、磁性層を塗布により形成するため、塗布パターンや塗膜厚等を変更することにより、容易に表面抵抗の増減が可能で、使用する回路の特性インピーダンスに合わせて、所望の電磁波抑制特性を容易に得ることができる。
【0014】
また、導電層、磁性層を塗布により形成するため、強度等の基材の特性が失われることがなく、大判化も可能である。
【0015】
従って、携帯電話の様な小型の電子機器から平面ディスプレイなどの大型電子機器、産業用電子機器、交通機関、船舶、建築分野などへも活用が容易になり、産業的に大きなメリットが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の電磁波ノイズ抑制シートの一例を示す断面模式図である。図1において、1は基材、2は導電層、21は導電性材料、3は磁性層、31は磁性材料である。
【0018】
図1の電磁波ノイズ抑制シートにおいて、導電層2は基材1上に導電性塗工材を塗布して形成される。塗布法により導電層を形成するため、任意のパターンを有し、厚みのある導電層を形成することができる。
【0019】
導電性塗工材としては、ビヒクルまたはバインダー中に導電性材料を含有する塗料、ペースト、インク等が挙げられる。
【0020】
導電性材料としては、特に限定されないが、従来から用いられている導体、例えば、Cu、Au、Al等の金属或いはこれらの金属を含む合金、カーボン等の、粒状、鱗片状、細線状等任意の形状のものが挙げられる。これらの中でも、イオンマイグレーションの危険性が低く、比較的安価で優れた導電性を発揮することができるCuが好ましい。
【0021】
また、ビヒクルまたはバインダーとしては、例えばポリアクリル系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアセタール系、フェノール樹脂系等の熱可塑性または熱硬化性の樹脂を用いることができる。
【0022】
導電性塗工材は、公知の塗布方法または印刷方法によって塗布すればよい。例えば、一般の塗装方法、コーターを用いる方法、スクリーン印刷法等が用いられるが、特にスクリーン印刷法、コーター印刷法が簡便で好ましい。
【0023】
導電層の厚さは、特に限定されないが、30μm〜60μmであることが好ましい。
【0024】
導電層中の導電性材料の含有量は、特に限定されないが、20重量%〜80重量%であることが好ましい。20重量%より少ないと十分な導電性を得ることができなくなり、80重量%より大きくなると塗膜が脆くなり、また印刷性が悪くなる。
【0025】
導電層は、ベタ塗りで形成してもよいし、例えばパンチングメタル状、メッシュ状、格子状等に形成してもよい。また、必要箇所のみに導電層を形成し、アンテナ部など電波受信部には形成しないことにより、軽量化や導電性材料の省資源化を図ることができる。また導電層を多層化することで電磁波遮蔽の効果を付与することができる。
【0026】
導電層の電気抵抗値は、抑制しようとする電磁波ノイズの特性インピーダンスに適合させる様に適宜調整すればよい。電磁波遮蔽効果を大きくする場合は、電気抵抗値を小さくする必要があるが、本発明では、反射損失による影響を抑えるため、電気抵抗値はある程度大きくても構わず、0.1〜1kΩであることが好ましい。このような値は、金属板、金属箔、金属蒸着では達成が困難である。導電層の電気抵抗値は、導電性材料の種類・配合量、印刷版のメッシュ、塗布パターン、塗膜厚、後述する加熱・加圧条件を変えることで調整することができる。
【0027】
図1の電磁波ノイズ抑制シートにおいて、磁性層3は、導電層2上に磁性塗工材を塗布して形成される。塗布法により磁性層を形成するため、任意のパターンを有し、厚みのある磁性層を形成することができる。
【0028】
磁性塗工材としては、ビヒクルまたはバインダー中に軟磁性材料を含有する塗料、ペースト、インク等が挙げられる。
【0029】
軟磁性材料としては、特に限定されないが、軟磁性を有する金属酸化物または金属粉末が挙げられる。例えば、フェライト、センダスト、パーマロイ等を、電波吸収する周波数帯域に応じて、適宜選択すればよい。例えば1GHz以下の電波吸収ではフェライトが、それ以上の周波数の電波吸収ではセンダスト、パーマロイが良好な材料である。磁性材料を選択することで、電磁波ノイズ抑制目的の主たる周波数帯域に応じた電波吸収層として機能させることができ、複数の磁性材料を組み合わせる、または異なる磁性材料を含有する複数の磁性層を形成することで、複数の周波数帯域に応じた電波吸収層として機能させることもできる。
【0030】
また、ビヒクルまたはバインダーとしては、例えばポリアクリル系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアセタール系、フェノール樹脂系等の熱可塑性または熱硬化性の樹脂を用いることができる。
【0031】
磁性塗工材は、公知の塗布方法または印刷方法によって塗布すればよい。例えば、一般の塗装方法、コーターを用いる方法、スクリーン印刷法等が用いられるが、特にスクリーン印刷法、コーター印刷法が簡便で好ましい。
【0032】
磁性層は、ベタ塗りで形成してもよいし、例えばパンチングメタル状、メッシュ状、格子状等に形成してもよい。また、必要箇所のみに磁性層を形成し、アンテナ部など電波受信部には形成しないことにより、軽量化や磁性材料の省資源化を図ることができる。
【0033】
磁性層の厚さは、特に限定されないが、20μm〜80μmであることが好ましい。
【0034】
磁性層中の磁性材料の含有量は、特に限定されないが、40重量%〜80重量%であることが好ましい。40重量%より少ないと十分な磁気特性を得ることができなくなり、80重量%より大きくなると塗膜が脆くなり、また印刷性が悪くなる。
【0035】
磁性層の磁気特性は、必要とされる周波数帯域に応じた電磁波吸収が可能となるように適宜調整すればよい。磁性層の磁気特性は、磁性材料の種類・配合量、印刷版のメッシュ、塗布パターン、塗膜厚、後述する加熱・加圧条件を変えることで、調整することができる。
【0036】
基材1は、特に限定されず、用途によって選定すればよい。例えば、薄手、好ましくは平均厚さ1mm以下の不織布、紙、布、樹脂フィルム等のシートを使用することができる。また、建築等の大判使用の場合はベニア板、石膏ボード等の建材を使用することもできる。また、薄く且つ引張り強度に優れる基材であれば、大判で製造可能なため、生産効率に優れるし、シート使用時の加工性にも優れる。
【0037】
また、後述する加熱・加圧を行う場合は、含浸性基材を用いることが好ましい。含浸性基材はその上に塗布された塗工材が加熱加圧された際、その中に含まれていたビヒクル(バインダー)をしみ込ませることができる基材である。具体的には紙、不織布及び織物もしくは編物等の布地、或いは木材等であるが、特に好ましくは不織布であり、例えばナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル、天然素材等の不織布である。なお、紙の原料となる繊維としては天然繊維、再生繊維、合成繊維のいずれでもよい。
【0038】
基材の平均厚みは、特に限定はされないが、小型電子機器のような薄型用途では、薄いものを選定する必要がある。この場合、好ましくは、30〜150μm程度である。平均厚さが30μm未満であると、電磁波抑制シートの剛性が小さくなり、変形、しわが発生し易くなるおそれがある。平均厚さが150μmを超えると、電磁波抑制シートの剛性が大きくなり、また電磁波抑制シートの全体の厚みが200μm以上になる場合もあり、薄さと軽量化の要望に対応しにくくなる。
【0039】
基材として含浸性基材を用いた場合には、導電層と磁性層の少なくとも一方を形成した後に加熱・加圧することが好ましい。
【0040】
導電性塗工材を塗布した後に加熱・加圧することで、導電層中の導電性材料同士の接触度合いを調整し、高密化を調整することで、導電層の電気抵抗値を調整でき、より適合した特性インピーダンスを有するようにできる。従って、塗布しただけでは導電性を発現しない材料や導電性の低い材料でも、高い導電性を付与することができる。また、導電性フィラーの配合量を減らすことことも可能で、省資源化、低コスト化を達成できる。
【0041】
また、磁性塗工材を塗布した後に加熱・加圧することで、磁性層中の磁性材料を高密化し、磁気特性を調整することができる。
【0042】
さらに、加熱・加圧は、導電層、磁性層の、塗工材の密着度、表面改善にも効果があるし、厚さを調整して、薄肉で加工性に優れたシートを得ることができる。
【0043】
加熱・加圧の方法としては、簡便には熱プレス法もしくは熱ロール法が用いられる。加熱条件としては120℃以上であり、特に150〜170℃程度が好ましい。しかし、実際には塗工材のビヒクル流動開始温度、基材の耐熱性等を勘案して、前もって予備テストで最適加熱温度を決めておくことが望ましい。加圧条件として0.493〜9.81MPa(5〜100Kg/cm2)がよいが、これも加熱条件と同様、予備テストで最適条件を設定してから行うのが望ましい。
【0044】
なお、熱プレスもしくは熱ロールに用いる機械は従来からこれらに用いられている加熱プレス機、カレンダー加工等に用いる加熱ロール機を用いることができる。又、熱プレス法で従来から用いられている、保護板、つや付板、クッション材、融着防止用シート等を適宜利用することにより好ましい結果が得られる。これらの従来技術の利用は熱ロールの場合も同様である。
【0045】
図1の電磁波ノイズ抑制シートは、基材上に、導電層、磁性層を順次積層しているが、導電層、磁性層の積層順、層数は特に限定されない。例えば、導電層と磁性層の積層順を図1の場合と逆にしてもよいし、磁性層を基材の導電層形成面とは反対側の面に形成してもよいし、基材の両面に導電層、磁性層の順で積層してもよい。これらのうちでも、導電層の酸化防止、電子機器内で使用した場合のショート防止の観点から、導電層の上に磁性層を形成するのが好ましい。
【0046】
本発明の電磁波抑制シートは、プラスチック成形品や建材等の厚手のシート状部材へ張り合わせて使用することもできる。この場合、射出成形や真空圧空成形では型内加熱圧、押出成形やラミ加工ではカレンダーロール等により、本発明の電磁波抑制シートが加熱・加圧され、上述の加熱・加圧と同様の効果が得られる。
【実施例】
【0047】
<実施例1>
アクリル樹脂(大成ファインケミカル(株)製)60重量部に銅粉(福田金属箔粉工業(株))40重量部を含有する導電性ペーストを用い、基材としての平均厚さ75μmのポリエステル不織布((株)帝人製)の上に、150メッシュのパンチングパターン印版でスクリーン印刷を行い、パンチングメタル状(2mmφ)のパターンを有する導電層(厚さ40μm)を形成した。これを乾燥した後、ホットプレス機にて、169℃、3.924MPa(40kgf/cm2)で、60分間加熱プレスした。加熱プレス後の全体の厚さは75μmであった。
【0048】
次に、アクリル樹脂(大成ファインケミカル(株)製)60重量部にフェライト(テスラム(株)製)40重量部を含有する磁性ペーストを用い、導電層の上に150メッシュのベタ版でスクリーン印刷を行い、磁性層(厚さ30μm)を形成した。
【0049】
得られたシートの透過特性S21および反射損失S11をIEC規格に準拠して測定し、測定値から入力に対するそれぞれの比率を求め、下式により電磁波吸収率を求めた結果を表1に示す。
【0050】
電磁波吸収率(%)=入力−(S11の比率+S21の比率)
【0051】
表1に示すように、現在市場にある電波吸収材と比較してもほぼ同等の性能を維持していた。
【0052】
<実施例2>
磁性層を基材の導電層形成面と反対側の面に形成した以外は実施例1と同様にしてシートを得た。評価結果を表1に示す。
【0053】
<実施例3>
加熱プレスを行わない以外は実施例1と同様にして導電層を形成した。
【0054】
次に、磁性ペーストの磁性材料としてセンダストフレーク粉を用い、86メッシュのベタ版を用いた以外は実施例1と同様にして磁性層を形成した。
【0055】
得られたシートの評価結果を表1に示す。
【0056】
<実施例4>
磁性ペーストの磁性材料としてセンダストの粉砕粉(Dongbu Fine Chemicals製)を用いた以外は実施例3と同様にしてシートを得た。評価結果を表1に示す。
【0057】
<実施例5>
導電層を両面に形成し、磁性層を両方の導電層上に形成した以外は実施例3と同様にしてシートを得た。評価結果を表1に示す。
【0058】
<比較例1>
導電層を形成しない以外は実施例1と同様にしてシートを得た。評価結果を表1に示す。表1に示すように、電磁波吸収体として十分な効果を得ることはできなかった。
【0059】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の電磁波ノイズ抑制シートの一例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0061】
1 基材
2 導電層
21 導電性材料
3 磁性層
31 磁性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、導電性塗工材を塗布することにより形成された導電層と、磁性塗工材を塗布することにより形成された磁性層とを有することを特徴とする電磁波ノイズ抑制シート。
【請求項2】
前記導電層を前記基材上に有し、前記磁性層を該導電層上に有することを特徴とする請求項1に記載の電磁波ノイズ抑制シート。
【請求項3】
前記基材が含浸性基材であり、前記導電層と前記磁性層の少なくとも一方が加熱・加圧されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波ノイズ抑制シート。
【請求項4】
導電性塗工材を塗布して導電層を形成する工程と、磁性塗工材を塗布して磁性層を形成する工程とを有することを特徴とする電磁波ノイズ抑制シートの製造方法。
【請求項5】
前記導電層を形成する工程が、基材上に導電層を形成する工程であり、前記磁性層を形成する工程が、該導電層上に磁性層を形成する工程であることを特徴とする請求項4に記載の電磁波ノイズ抑制シートの製造方法。
【請求項6】
前記導電層と前記磁性層の少なくとも一方を形成した後に加熱・加圧する工程を有することを特徴とする請求項4または5に記載の電磁波ノイズ抑制シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−153542(P2010−153542A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329250(P2008−329250)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(390010238)株式会社アドユニオン研究所 (6)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】