説明

電磁波遮蔽材

【課題】軽量、かつ通気性、屈曲性に優れた上、広い入射角からの電磁波に対する遮蔽効果がある電磁波遮蔽材を提供する。
【解決手段】電磁波遮蔽材は、直径10μm以下の繊維21からなる繊維布の片側または両側の表面に、高透磁率の導電性金属層22を形成して、繊維21の表面を被覆するため、繊維間の隙間を埋めることは無い。このため電磁波遮蔽材は、通気性を有し、軽量で屈曲性にすぐれ、折り曲げても導電性金属層22が破損しにくく耐久性に優れている。また、電磁波遮蔽材表面の凹凸形状の効果により、電磁波の入射角度による遮蔽効果に差が出にくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維布と、前記繊維布の表面に導電性金属被覆層を有し、薄くて軽量で通気性と屈曲性がすぐれた電磁波遮蔽材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、特開2005−59580号に示されている電磁波シールド用金属被覆繊維布がある。これは、繊維布の表面を、前記表面が平滑になるように、例えばポリウレタンで被覆して界面層を形成し、その界面層の表面に金属層を被覆している。
【0003】
したがって、前記電磁波シールド用金属被覆繊維布は、界面層が繊維布の隙間を埋めているので、通気性がなく、また、屈曲性にも劣る。このために、前記電磁波シールド用金属被覆繊維布を衣類などに使用すると、はなはだしく着心地が悪いものになる。
【特許文献1】特開2005−59580号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁波シールド用金属被覆繊維布を衣類などに使用するには、薄くて軽量であること、通気性があること、屈曲性がすぐれていること、広い入射角からの電磁波に対する遮蔽効果があることが重要な課題である。本発明は、これらの課題を解決することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係わる電磁波遮蔽材は、繊維布と、前記繊維布の片側または両側の表面に形成した導電性金属層とからなり、前記導電性金属層は繊維布の表面付近の繊維の表面を被覆し、導電性金属層が繊維間の間隙を埋めることは無く、繊維間の間隙を通しての通気性を有することを特徴とする。
【0006】
前記繊維布は、直径が10μm以下の繊維からなり、織物、編物、不織布、織物と不織布の複合体、編物と不織布の複合体、織物と編物との複合体または織物と編物と不織布との複合体のいずれかである。
【0007】
前記導電性金属層は真空プロセス、スプレー法および電着法の少なくとも一つの方法で前記繊維布の片側または両側の表面に形成するとよい。前記真空プロセスは、スパッター、蒸着、イオンプレーティングなどの真空乃至減圧下で導電性金属層を形成するプロセスである。
【0008】
また、前記導電性金属層の材料は、初期透磁率が真空の透磁率の100倍以上の高透磁率を有するものが好適である。
【0009】
前記繊維布の不織布を構成する繊維は、エレクトロスピニング法で作製されたポリアクリロニトリル繊維が好適である。
【0010】
前記繊維布を他の補強用繊維布と積層することで前記繊維布を機械的に強化することができる。また、前記繊維布の導電性金属層が形成された表面側に他の補強用繊維布を積層することで前記導電性金属層を保護することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電磁波遮蔽繊維布は、繊維間に隙間があり、通気性を有している。また、繊維布に直径10μm以下の細い繊維を用いることで、繊維布は薄くて軽量であり、屈曲性および耐久性に優れている。
【0012】
さらに、本発明の電磁波遮蔽繊維布は、電磁波の入射角度による遮蔽効果の差が小さいので、広い範囲の入射角からの電磁波に対して遮蔽効果があり、電磁波遮蔽効果を要求される種々の用途に利用可能である。特に、電磁波遮蔽用衣料への利用、情報通信機器の電磁波障害対策への利用、心臓ペースメーカーの保護等の医療機器への利用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の電磁波遮蔽材は、繊維布と、前記繊維布の片側または両側の表面に形成した導電性金属層とからなり、前記導電性金属層は繊維布の表面付近の繊維の表面を被覆し、導電性金属層が繊維間の間隙を埋めることは無く、繊維間の間隙を通しての通気性を有する。
【0014】
前記繊維布は、直径が10μm以下の繊維からなり、薄くて軽量であり、屈曲性および耐久性に優れている。なお、好ましくは、繊維の直径1μm以下である。繊維布が、直径10μm以下の繊維からなる場合、その繊維の表面に形成された導電性金属層は、小さな曲げ半径に折り曲げられても破損しにくい。例えば、直径10μmの繊維を曲げ半径1mmに曲げた時、その繊維の外側面と内側面の歪の差は1%程度である。この場合、繊維の表面に形成された導電性金属層が破壊され脱落する可能性は低い。さらに、直径1μm以下の繊維からなる繊維布の場合、直径1μmの繊維を曲げ半径1mmに曲げた時の前記歪の差は0.1%程度とさらに小さくなる。
【0015】
前記繊維布は、織物、編物、不織布、織物と不織布との複合体、編物と不織布との複合体、織物と編物との複合体または織物と編物と不織布との複合体の少なくとも1つである。前記複合体とは、織物、編物、不織布の少なくとも2種類を積層して一体の布状としたものである。また、繊維布は、シート、リボン、ひも、筒、袋など、電磁波遮蔽を行う対象物の形状に適合した形状で用いる。
【0016】
前記導電性金属層は、真空プロセス、スプレー法および電着法の少なくとも一つの方法で前記繊維布の片側または両側の表面に形成される。このとき前記導電性金属層は、繊維布の表面付近の繊維の表面を被覆し、繊維間の間隙を埋めることは無く、また、繊維布の内部にも形成されることが無い。このために、前記繊維布は繊維間の間隙を通しての通気性を有する。
【0017】
前記導電性金属層を形成する真空プロセスは、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法などの真空乃至減圧状態での被膜形成工程を意味する。
【0018】
また、前記導電性金属層は、前記繊維布の表面を構成する繊維の表面に直接形成され、繊維間の間隙には金属層は存在しない。したがって、前記導電性金属層の形状は、繊維布の表面に存在する繊維群が形成する凹凸面を反映して凹凸状となる。このために、本発明の電磁波遮蔽材は、電磁波の入射角度が種々異なっても、その入射角度に対して有効な遮蔽効果を持つ導電性金属層の部分を有し、電磁波の入射角度による遮蔽効果の差が出にくい。
【0019】
なお、従来の技術では、繊維布の表面を気密な界面層が平面状に被覆し、その界面層の表面に金属層を被覆している。したがって、金属層はひとつの平面状をなす金属薄膜であった。一般的に、ひとつの平面状をなす金属薄膜では、電磁波の入射角度によって遮蔽効果に差が生じる。これに対して、本発明の電磁波遮蔽材は、前記のように、広い入射角からの電磁波に対する遮蔽効果がある。
【0020】
前記導電性金属層は、初期透磁率が真空の透磁率の100倍以上の高透磁率材料からなることを特徴とする。このように導電性金属層が高透磁率材料からなる場合、電磁波から電場のエネルギーだけでなく、磁場のエネルギーも多く吸収することができ、本発明の電磁波遮蔽材は、より大きな電磁波遮蔽効果をもつことができる。
【0021】
前記導電性金属層用の高透磁率材料として、鉄、ニッケル、ケイ素鋼、アルパーム、パーメンジュール、センダスト、パーマロイ、スーパーマロイ、ミューメタル、メタグラスなどがある。これらの高透磁率材料の少なくとも1種類の高透磁率材料からなる導電性金属層を繊維布の表面に形成する。
【0022】
前記繊維布に用いる不織布を構成する繊維は、エレクトロスピニング法で作製されたポリアクリロニトリル繊維が好ましい。不織布は職布に比べて直径がより小さい繊維で作製が可能であり、エレクトロスピニング法で作製されたポリアクリロニトリル繊維で、直径10μm以下の細い繊維を用いると、繊維布は薄くて軽量であり、屈曲性および耐久性に優れたものとなる。ただし、不織布の繊維はエレクトロスピニング法で作製されたポリアクリロニトリル繊維に限定するものではなく、直径10μm以下であれば、他の高分子化学繊維を用いることもできる。
【0023】
前記繊維布は直径10μm以下の細い繊維からなり、単独では高い機械的強度を期待できない場合がある。高い機械的強度を確保するには、請求項3に記載の導電性金属層を表面に有する繊維布に、補強材としての高強度繊維布を積層することで、通気性と機械的強度に優れた電磁波遮蔽材となる。また、前記導電性金属層を有する前記繊維布の表面を高強度繊維布で被覆することで、繊維布表面に形成された導電性金属層を保護し、磨耗も抑止できる。
【0024】
本発明の繊維布が不織布である電磁波遮蔽材の構成を模式的に図1に示した。電磁波遮蔽材1の端部2を拡大したものを図2に示した。電磁波遮蔽材1は、繊維21を用いた不織布構造の繊維布11と、その表面に形成された導電性金属層22とからなる。電磁波遮蔽材1の厚さは用途に応じて調節が可能である。
【0025】
図1の繊維布11を構成する繊維21は、エレクトロスピニング法で作製したポリアクリロニトリルであり、繊維の直径は10μm以下とし、好ましくは1μm以下である。なお、繊維としてポリアクリロニトリルは好ましいが、これに限定するものではない。
【0026】
導電性金属層22として、ニッケルと鉄の合金のパーマロイを用い、スパッタリング法で作成すると、下記の実施例のように、約15分間のスパッタリングで電磁波遮蔽に有効な導電性金属層22が得られる。なお、パーマロイの透磁率は真空の透磁率のおよそ8000倍である。
【0027】
図2に示したように、導電性金属層22は、繊維布11の表面を構成する繊維21aの表面に形成され、繊維布11の内側に存在する繊維21bの表面にはほとんど形成されない。また、繊維21の間隙にも導電性金属層22は存在しない。
【実施例】
【0028】
直径500〜600nmのポリアクリロニトリル繊維の不織布を繊維布として用い、前記不織布の片側表面に、ニッケルと鉄の合金パーマロイを用い、約15分間のスパッタリング法で導電性金属層を形成し、厚さ約110μmの電磁波遮蔽材を作製した。前記電磁波遮蔽材について電磁波遮蔽率を測定した。電磁波遮蔽率測定はネットワークアナライザーに二つの導波管の接続面に電磁波遮蔽材を挟んで測定した。その結果を図3に示した。
【0029】
縦軸は遮蔽率%を、横軸は電磁波の振動数1〜13GHzを示している。曲線31は本発明の電磁波遮蔽材1の電磁波遮蔽率を示している。曲線31を参照するに、本発明の電磁波遮蔽材1は電磁波の振動数が1〜13GHzの範囲で85%以上の電磁波遮蔽率を示し、そのほとんどの範囲で90%以上の電磁波遮蔽率を示している。
【0030】
電磁波遮蔽材1は、導電性金属層22が繊維布11の片側表面に形成された場合である。なお、導電性金属層が繊維布の両面に形成された場合は、導電性金属層が2層存在するので、電磁波の振動数が1〜13GHzの範囲で98〜99%以上の電磁波遮蔽率が期待される。また、このような電磁波遮蔽材を多層に重ねることで、更に電磁波遮蔽率を向上させることも可能である。また、前記電磁波遮蔽材を機械的強度が大きい繊維布と積層することで、機械的強度が増強された通気性の電磁波遮蔽材となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の電磁波遮蔽材の組織を示す模式図である。
【図2】本発明の電磁波遮蔽材の端部を拡大した模式図である。
【図3】本発明の電磁波遮蔽材の電磁波遮蔽率を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1:電磁波遮蔽材
2:電磁波遮蔽材の端部
11:繊維布
21、21a、21b:繊維
22:導電性金属層
31:本発明の電磁波遮蔽材の電磁波遮蔽率を示す曲線




















【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布と、前記繊維布の片側または両側の表面に形成した導電性金属層とからなり、前記導電性金属層は繊維布の表面付近の繊維の表面を被覆し、導電性金属層が繊維間の間隙を埋めることは無く、繊維間の間隙を通しての通気性を有することを特徴とする電磁波遮蔽材。
【請求項2】
前記繊維布は、直径が10μm以下の繊維からなる請求項1に記載の電磁波遮蔽材。
【請求項3】
前記繊維布は、織物、編物、不織布、織物と不織布の複合体、編物と不織布の複合体、織物と編物との複合体または織物と編物と不織布との複合体のいずれかである請求項1または2に記載の電磁波遮蔽材。
【請求項4】
前記導電性金属層は真空プロセス、スプレー法および電着法の少なくとも一つの方法で前記繊維布の片側または両側の表面に形成される請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁波遮蔽材。
【請求項5】
前記導電性金属層を形成する真空プロセスは、スパッター、蒸着、イオンプレーティングなどの真空乃至減圧下で導電性金属層を形成するプロセスである請求項4に記載の電磁波遮蔽材。
【請求項6】
前記導電性金属層は、初期透磁率が真空の透磁率の100倍以上の高透磁率材料からなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁波遮蔽材。
【請求項7】
前記繊維布の不織布を構成する繊維は、エレクトロスピニング法で作製されたポリアクリロニトリル繊維である請求項1〜6のいずれか1項に記載の電磁波遮蔽材。
【請求項8】
前記繊維布が他の補強用繊維布と積層されている請求項1に記載の電磁波遮蔽材。













【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−267230(P2009−267230A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117171(P2008−117171)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】