説明

電磁誘導加熱方式の加熱装置

【課題】被加熱部材を加熱する電磁誘導加熱方式の加熱装置において、非通紙部昇温による機内昇温や装置構成部材の熱劣化などを防止する。
【解決方法】交番磁束を発生する磁束発生手段3と、交番磁束により発熱し、少なくとも一部1aが、所定温度にキュリー温度を調整された整磁合金からなり、被加熱材Pを加熱する発熱体1と、手段3に高周波電流を供給する電流供給手段116Aと、手段3に対する供給電流を定電流制御する定電流化手段116Bと、手段3に対する供給電流の周波数を可変制御する周波数制御手段116Cと、発熱体1がキュリー温度以上であると検知する検知手段12と、装置制御手段104と、を有し、装置制御手段は、検知手段12によって発熱体1が少なくともキュリー温度を越えたと検知した場合には、定電流化手段によって供給電流を定電流制御し、周波数制御手段によって周波数を変更することで発熱体1の発熱量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱部材を加熱する電磁誘導加熱方式の加熱装置に関するものである。この加熱装置には像加熱装置が含まれる。像加熱装置は画像を担持した記録材を熱と圧力による加熱処理する装置であり、記録材上の未定着トナー像を加熱して定着或いは仮定着する画像定着装置、記録材に定着された画像を加熱して画像の光沢を増大させる光沢増大化装置が挙げられる。また、インクジェットで画像形成された記録材を加熱して乾燥させる像加熱装置が挙げられる。また、加熱装置にはその他、例えば、シート状部材のしわ除去用の熱プレス装置や、熱ラミネート装置、シート状部材の含水分を蒸発させる加熱乾燥装置など、シート状部材を加熱処理する加熱装置などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示されるように、加熱源として高周波誘導を利用した誘導加熱方式の定着装置が提案されている。この加熱装置は、金属導体からなる中空の定着ローラの内部にコイルが同心状に配置されている。そして、このコイルに高周波電流を流して生じた高周波磁界により定着ローラに誘導渦電流を発生させ、定着ローラ自体の表皮抵抗によって定着ローラそのものをジュール発熱させるようになっている。この誘導加熱方式の定着装置によれば、電気−熱変換効率が極めて向上するため、ウォームアップタイムの短縮化が可能となる。このような電磁誘導加熱方式の定着装置であっても、被加熱材として装置に通紙使用可能な最大幅サイズの記録材の全域を所定の定着温度で加熱してトナー画像定着するように作動するために、実際にトナー画像を定着する以上のエネルギーを消費しまう。ここで、記録材の幅サイズとは、記録材面において、記録材の搬送方向に直交する方向の記録材寸法である。また、通紙域の温度調整をするための電力制御は、電流及び周波数を可変にして制御している。そのため、通紙域の記録材による放熱などで急激な温度低下が起きた場合に、たくさん電力を供給しようとすると、記録材のサイズによっては、通紙域ではない領域(非通紙領域)に必要以上の電力が供給されてしまう。その結果、定着ローラの非通紙領域が異常昇温(非通紙部昇温)して機内昇温や定着装置構成部材の熱劣化を引き起こすおそれがある。その対応手段として、例えば、特許文献2に示されるように、発熱体である整磁合金のキュリー温度を略定着温度付近に調整し、電流供給手段による供給電流値を固定する手段が有効的である。すなわち、定着ローラの温度立ち上げの際、誘導コイルはコイル駆動電源から定着ローラのキュリー温度に到達可能な固定電流値で通電される。これにより、定着ローラは誘導コイルが発生する高周波交番磁束により加熱されたキュリー温度に達する。定着ローラ温度がキュリー温度に達すると、定着ローラの磁性が急激に低下することで定着ローラの温度がキュリー温度以上には上がらない。つまり、定着ローラではキュリー温度に到達すると力率が低下し、これに伴い誘導コイルの消費電力が低下し、定着ローラは発熱を抑制する方向に働くので自己温度制御が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−033787号公報
【特許文献2】特開2005−250012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前述した従来の構成を更に発展させたものである。その目的は、被加熱部材を加熱する加熱部材の通紙部温度は周波数を変更することで制御でき、かつ、非通紙部昇温による機内昇温や装置構成部材の熱劣化などを防止することができる電磁誘導加熱方式の加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための本発明に係る加熱装置の代表的な構成は、交番磁束を発生する磁束発生手段と、前記磁束発生手段から発生する交番磁束により発熱し、少なくとも一部が、所定温度にキュリー温度を調整された整磁合金からなり、被加熱材を加熱する発熱体と、前記磁束発生手段に高周波電流を供給する電流供給手段と、前記磁束発生手段に対する供給電流を定電流制御する定電流化手段と、前記磁束発生手段に対する供給電流の周波数を可変制御する周波数制御手段と、前記発熱体がキュリー温度以上であると検知する検知手段と、装置制御手段と、を有し、前記装置制御手段は、前記検知手段によって前記発熱体が少なくともキュリー温度を越えたと検知した場合には、前記定電流化手段によって供給電流を定電流制御し、前記周波数制御手段によって周波数を変更することで前記発熱体の発熱量を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
加熱部材の非通紙部温度は、加熱装置を構成する構成部材の耐熱温度以下になるような電流固定値をとることで所定温度以下に抑制される。通紙部温度(温調温度)は周波数を変更することで発熱量を制御でき、かつ、加熱部材の通紙域でない領域の異常昇温(端部昇温、非通紙部昇温)による機内昇温や装置構成部材の熱劣化などを防止するが可能となる。キュリー温度を略定着温度付近に調整し、電流供給手段による供給電流値を固定する手段の場合と異なり、立ち上げ時、コピー時、スタンバイ時などの動作に応じて電流固定値を変えた複数の動作モードを有する必要がない。また、トナー等の被定着材の種類や、被加熱材である記録材の種類や使用環境に応じた定着温度を変更可能とする利用ニーズに応えることができる。即ち、紙種や生産性に応じた温調温度の制御ができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】(a)は実施例1における画像形成装置例の概略構成図、(b)は実施例1における画像加熱定着装置の要部の横断面模型図
【図2】(a)は実施例1における画像加熱定着装置の要部の正面模型図、(b)は実施例1における周波数を変えた場合のIH電源電力の説明図
【図3】磁束発生手段を誘導発熱体の外側に配設した外部加熱方式の画像加熱定着装置の要部の横断面模型図
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]:(1)〈画像形成装置例〉図1の(a)は本発明に従う電磁誘導加熱方式の加熱装置を画像加熱定着装置として備えた画像形成装置の一例の概略構成模型図である。本例の画像形成装置100は転写式電子写真プロセス利用、レーザー走査露光方式の画像形成装置(複写機、プリンター、ファクシミリ、それらの複合機能機等)である。101は原稿読取装置(イメージスキャナー)、102は領域指定装置(デジタイザー)であり、何れも画像形成装置100の上面側に配設してある。原稿読取装置101は原稿台上に載置した原稿面を内部に設けた光源等からなる走査照明光学系により走査し、原稿面からの反射光をCCDラインセンサ等の光センサにより読み取り、画像情報を時系列電気デジタル電気信号に変換する。領域指定装置102は原稿の読み取り領域等の設定を行い、信号を出力する。104は装置制御手段としての制御部(CPU)であり、原稿読取装置101、領域指定装置102、プリントコントローラ103等からの信号を受けて、画像出力機構の各部に指令を送る信号処理及び種々の作像シーケンス制御を行う。以下は画像出力機構部(作像機構部)の説明である。105は像担持体としての回転ドラム型の電子写真感光体(以下、ドラムと記す)であり、矢印の時計方向に所定の速度にて回転駆動される。ドラム105はその回転過程で、帯電装置106により所定の極性・電位の一様な帯電処理を受け、その一様帯電面に対して画像書き込み装置107による像露光Lを受ける。これにより、一様帯電面の露光明部の電位が衰退してドラム105面に露光パターンに対応した静電潜像が形成される。画像書き込み装置107は本例の場合はレーザースキャナーであり、制御部104において信号処理された画像データに従って変調されたレーザー光Lを出力し、回転するドラム105の一様帯電面を走査露光して画像情報に対応した静電潜像を形成する。次いで、その静電潜像が現像装置108によりトナー画像として現像される。そのトナー画像が転写帯電装置109の位置において、給紙機構部側からドラム105と転写帯電装置106との対向部である転写部Tに所定の制御タイミングにて給送された被加熱材である記録材Pにドラム105面側から静電転写される。給紙機構部は、本例の場合は、大サイズ記録材を積載収容したカセット給紙部111と小サイズ記録材を積載収容したカセット給紙部110を有する。また、カセット給紙部111又は110から1枚分離給紙された記録材Pを転写部Tに所定のタイミングにて搬送する記録材搬送路112を有している。転写部Tでドラム105面側からトナー画像の転写を受けた記録材Pは、ドラム105面から分離され定着装置114へ搬送された未定着トナー画像の定着処理を受け、画像形成装置外部の排紙トレイ115上に排紙される。一方、記録材分離後のドラム105面はクリーニング装置113により転写残りトナー等の付着汚染物の除去を受けて清掃されて繰り返して作像される。
【0009】
(2)〈定着装置〉図1の(b)は定着装置114の要部の拡大横断面模型図、図2の(a)は要部の正面模型図である。この定着装置114は、加熱ローラ型で電磁誘導加熱方式の加熱装置であり、被加熱材である記録材Pを加熱する発熱体(加熱部材)としての加熱ローラ(像加熱部材:以下、定着ローラと記す)1を有する。また、この定着ローラ1に並行に配列され、定着ローラ1とニップ部(定着ニップ部)Nを形成する加圧部材としての加圧ローラ2を有する。
【0010】
発熱体である定着ローラ1は、磁束発生手段から発生する交番磁束により発熱し、少なくとも一部が、所定温度にキュリー温度を調整された整磁合金からなる部材である。本実施例における定着ローラ1は、誘導発熱体である中空(円筒状)の金属層(導電層、芯金)1aを有するローラであり、その外周面には、フッ素樹脂等をコーティングすることで耐熱性の離型層(伝熱材)1bが形成されている。定着ローラ1を構成する誘導発熱体である金属層は、特開2000−39797号公報等に開示されるように、キュリー温度を所望に調整した整磁合金である。例えば、鉄、ニッケル、SUS430、鉄―ニッケル合金、鉄―ニッケル―クロム合金、ニッケル―コバルト合金等の磁性金属(導電体、磁性体)である。定着ローラ1の金属層1aの厚さは、0.05mm〜1.5mmである。また、その金属層1aのキュリー温度は、被加熱材である記録材Pに対してトナー画像tが定着可能な温度(像加熱温度、被加熱材の所定の加熱温度)よりも高く設定されている。また、金属層1aのキュリー温度は、加熱装置の構成部材の耐熱温度(加熱装置の耐熱温度)、本実施例においては、磁束発生手段3の構成部材である誘導コイル6の耐熱温度(加熱装置の耐熱温度)より低く設定されている。本実施例では、定着温度が195℃で、耐熱温度が230℃に設定されている為、キュリー温度は205℃に設定してある。定着ローラ1はその両端部側をそれぞれ定着装置の手前側と奥側の側板(定着ユニットフレーム)21・22間に軸受23を介して回転可能に支持させて配設してある。また、その定着ローラ1の内部には、金属層1aに誘導電流(渦電流)を誘起させてジュール発熱させるための高周波磁界(交番磁束)を生じる磁束発生手段としてのコイル・アセンブリ3を挿入して配設してある。
【0011】
加圧ローラ2は、軸芯2aとその軸芯の外回り同心一体にローラ状に形成具備させた表面離型性耐熱ゴム層であるシリコンゴム層(弾性体層)等2bとからなる弾性ローラである。この加圧ローラ2は定着ローラ1の下側に並行に配列して、軸芯2aの両端部側をそれぞれ定着装置の手前側と奥側の側板21・22間に軸受26を介して回転自在に保持させてある。そして、この加圧ローラ2を定着ローラ1の下面に対して不図示の付勢手段により弾性体層2bの弾性に抗して所定の押圧力にて圧接させて加熱部としての所定のニップ長・ニップ幅の定着ニップ部Nを形成させている。ニップ部Nのニップ長とは記録材搬送方向に直交する方向の寸法、ニップ幅とは記録材搬送方向の寸法である。
【0012】
コイル・アセンブリ3は、ボビン4、磁性材からなるコア(芯材)5、誘導コイル(励磁コイル(磁束を生じるコイル)、誘導発熱源)6、絶縁部材製のステー7等の組み立て体である。コア5はボビン4に形成した通孔に挿入させてあり、コイル6はこのボビン4の周囲に銅線を巻回して形成されている。このボビン4、コア5、コイル6のユニットをステー7に固定して支持させてある。このコイル・アセンブリ3を定着ローラ1の内空部に挿入する。そして、定着ローラ1の横断面において、コイル・アセンブリ3を所定の角度姿勢で、かつ定着ローラ1の内面とコイル6との間に所定のギャップを保持させた状態にして配設する。本実施例においては、ステー7の両端部をそれぞれ定着装置の手前側と奥側の固定の保持部材24・25間に非回転に固定支持させてコイル・アセンブリ3を配置してある。ボビン4、コア5、コイル6のユニットは定着ローラ1の両端部から外部に露出しないように定着ローラ1内に収納されている。コア5としては、透磁率が大きく自己損失の小さい材料がよく、例えばフェライト、パーマロイ、センダスト等が適している。ボビン4は、コア5とコイル6とを絶縁する絶縁部としても機能している。コイル6は加熱の十分は交番磁束を発生するものでなければならないが、そのためには抵抗成分が低く、インダクタンス成分を高くとる必要がある。コイル6の芯線としてφ0.1〜0.3の細線を略80〜160本ほど束ねたリッツ線を用いている。細線には絶縁被覆電線を用いている。また、コア5は周回するようにボビン4の形状に合わせて横長舟型に複数回巻回してコイルとしてある。コイル6は定着ローラ1の長手方向に巻かれている。6a・6bはコイル6の2本の外方引出しリード線(コイル供給線)であり、ステー端部7aの中空部から外部に引き出してある。そして、そのリード線6a・6bを、制御部104で制御されるコイル駆動電源116に接続してある。コイル駆動電源116は、電流供給回路116Aと、定電流回路116Bと、周波数可変制御部116Cを有する。電流供給回路116Aはコイル6に高周波電流を供給する電流供給手段である。定電流回路116Bはコイル6に定電流を供給する、即ちコイル6に対する供給電流を定電流制御する定電流化手段である。周波数可変制御部116Cはコイル6に対する供給電流の周波数を可変制御する周波数制御手段である。制御部114は温度調整手段としてコイル駆動電源116における上記の電流供給回路116A、定電流回路116B、周波数可変制御部116Cをそれぞれ制御することで、コイル駆動電源116からコイル6に対する電力供給の態様を所定に制御する。これについては後述する。
【0013】
13は分離爪であり、定着ニップ部Nに導入されて定着ニップ部Nを出た記録材Pが定着ローラ1に巻き付くのを抑え、定着ローラ1から分離させる役目をする。前記のボビン4、ステー7、分離爪13は、例えば液晶ポリマー、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドなどの耐熱および電気絶縁性エンジニアリング・プラスチックから形成されている。Gは定着ローラ1の一端部に固着させた定着ローラドライブギアである。このドライブギアGに駆動源Mから伝達系を介して回転力が伝達されることで、定着ローラ1が図1の(a)において矢印Aの時計方向に所定の周速度にて回転駆動される。加圧ローラ2はこの定着ローラ1の回転駆動に従動して矢印の反時計方向に回転する。14は定着ローラクリーナである。このクリーナ14は、クリーニング部材としてのクリーニングウエブ14aをロール巻きに保持したウエブ繰り出し軸部14bと、ウエブ巻取り軸部14cを有する。また、該両軸部14b・14c間のウエブ部分を定着ローラ1の外面に押し付ける押し付けローラ14dを有する。押し付けローラ14dで定着ローラ1に押し付けたウエブ部分で定着ローラ1面にオフセットしたトナーが拭われて定着ローラ面が清掃される。定着ローラ1に押し付けられるウエブ部分は繰り出し軸部14b側から巻取り軸部14c側にウエブ14aが少しずつ送られることで徐々に更新される。15はサーモスタットであり、定着ローラ温度の異常上昇時(熱暴走時)の対策機構として、定着ローラ1に設けられている。このサーモスタット15は、定着ローラ1の表面に接触しており、予め設定された温度になると接点を開放してコイル6への通電を切断し、定着ローラ1が所定温度以上の高温となることを防止している。
【0014】
本実施例では、通紙は中央基準で行われる。Cはその中央基準である。すなわち、いかなる記録材サイズでも、記録材の中央部が定着ローラ軸方向中央部を通過することになる。本実施例の画像形成装置においては、通紙できる記録材の最大サイズ(以下、大サイズ紙と記す)はA4横である。また通紙できる記録材の最小サイズ(以下、小サイズ紙と記す)はB5Rである。P1はその大サイズ紙の通紙領域幅、P2は小サイズ紙の通紙領域幅である。11は定着ローラ1の長手中央部の温度検知手段としての第1のサーミスタ、12は定着ローラ1の端部の温度検知手段としての第2のサーミスタである。第1のサーミスタは、小サイズ紙の通紙領域幅P2の略中央部に対応する定着ローラ中央部分において、定着ローラ1を隔ててコイル6に向かい合うように、定着ローラ1の表面に対して弾性部材により押圧して弾性的に圧接させて配置してある。第2のサーミスタ12は、大サイズ紙の通紙領域幅P1と小サイズ紙の通紙領域幅P2との差領域に対応する定着ローラ端部部分において定着ローラ1の表面に対して弾性部材により押圧して弾性的に接触させて配置してある。この第1と第2のサーミスタ11・12の定着ローラ温度検知信号は制御部(CPU)104に入力する。
【0015】
制御部104は画像形成装置のメイン電源スイッチのONにより装置を起動させて所定の作像シーケンス制御をスタートさせる。定着装置114は駆動源Mの起動により定着ローラ1の回転が開始される。この定着ローラ1の回転に従動して加圧ローラ2も回転する。また、制御部104はコイル駆動電源116を起動させてコイル6に高周波電流(例えば10kHz〜500kHz)を流す。これによりコイル6の周囲に高周波交番磁束が発生し、定着ローラ1の導電層1aが電磁誘導発熱して定着ローラ1が所定の定着温度、本実施例では195℃に向かって昇温していく。この定着ローラ1の昇温が第1および第2のサーミスタ11・12で検知され、その検知温度情報が制御部104に入力する。制御部104は第1のサーミスタ11を温度調整用の温度検知手段として定着ローラ1の温度調整を行う。即ち、制御部104は第1のサーミスタ11から入力する定着ローラ1の検知温度が所定の定着温度195℃に維持されるようにコイル駆動電源116からコイル6に供給される電力を制御して定着ローラ1の温度立ち上げ、定着温度195℃での温度調整を行う。即ち、温度調整手段としての制御部104は、定着ローラ1の温度を検知する温度検知手段としての第1のサーミスタ11の検知温度に応じて周波数可変制御部116Cを制御することにより定着ローラ1の温度を所定温度(定着温度)に調整する。これにより、定着ローラ1は、定着装置の動作中において、制御部104によりキュリー温度より低い所定温度(定着温度)に調整されている。この状態において、定着ニップ部Nに対して作像部側から未定着トナー像tを担持した被加熱材としての記録材Pが導入されて定着ニップ部Nを挟持搬送されていく。これにより、定着ローラ1の熱と定着ニップ部Nの加圧力で、未定着トナー像tが記録材Pの面に加熱定着される。
【0016】
通紙される記録材Pが小サイズ紙の場合は、定着ニップ部Nの大サイズ紙通紙領域幅P1と小サイズ紙通紙領域幅P2との差領域が非通紙部領域となる。小サイズ紙の通紙が連続的になされと、通紙域である小サイズ紙通紙領域幅P2に対応する定着ローラ部分の温度は所定の定着温度195℃に維持される。しかし、非通紙部領域に対応する定着ローラ部分の温度は、この定着ローラ部分の熱が記録材やトナー画像の加熱に消費されないので所定の定着温度195℃を越えて昇温(非通紙部昇温)していく。しかし、本実施例では、小サイズ紙の連続通紙時の場合でも、定着ローラ1の通紙域全域P1がコイル6の耐熱温度である230℃以下になるような定電流値で非通紙部温度を抑制している。すなわち、本実施例では電磁誘導加熱の発熱量Pは定着ローラの表皮抵抗Rsに比例し、渦電流iの2乗に比例することから
【0017】
【数1】

【0018】
となる。定着ローラ1がキュリー温度以上である領域では、上記の式5)より、発熱量が周波数に依存せず、コイル電流Iにのみ比例する。そこで、キュリー温度を越えた状態で非通紙部温度が耐熱温度230℃を越えないような電流固定値(固定電流値)を定電流回路(定電流源)116Bで設定することで発熱量を抑制でき、機内昇温や定着装置構成部材の熱劣化が防止される。定電流回路116Bによって供給される高周波電流の固定電流値は、定着ローラ1がキュリー温度を越えた状態において自己温度調整される温度が、所定温度を越えないような固定電流値である。また、通紙部は定着ローラ1がキュリー温度未満で温度調整されているので、上記の式4)より、周波数を変更することで表皮抵抗が変わるため高周波電流を定電流化しても発熱量を制御することが可能である。図2の(b)に電流値を27Aに固定して周波数を変えた時のIH電源電力を示したグラフを記載する。ここで、破線が周波数25kHz、細線が周波数35kHz、太線が周波数50kHzである。定着ローラ1がキュリー温度未満では、周波数が高くなるにつれてIH電源電力は高くなるが、定着ローラ1がキュリー温度以上である領域ではIH電源電力は周波数によらず一定である。すなわち、通紙部はキュリー温度未満に温度調整されているのでIH電源電力つまり発熱量を周波数のみで制御しながら、非通紙部の発熱量は抑制することが可能である。表1に定着ローラ1がキュリー温度未満の場合とキュリー温度以上になった場合のコイル電流と周波数の値を示す。第1のサーミスタ11の温度Tが所定の温度範囲になったときに通紙部に必要な電力と電流、周波数である。定着ローラ1がキュリー温度未満の場合では、コイル電流を可変にすることで電力を制御して温度調整を行う。第2のサーミスタ12は定着ローラ1がキュリー点以上であると検知する検知手段である。制御部104は、第2のサーミスタ12で、定着ローラ1がキュリー温度以上であると検知した場合には、耐熱温度を越えないように供給電流(例えば、10、15、20Aなど)を定電流制御する。そして、通紙部に必要な電力を周波数を変更することで制御して温度調整を行う。ここで、周波数可変制御部116Cで可変の周波数[Hz]は下記の式5)を満たす。
【0019】
【数2】

電力制御方法において、電流値を固定し周波数を可変にすることで制御する。キュリー温度未満では、表皮深さ<芯金肉厚、となるので、周波数を変えることで表皮深さが変わるため、発熱量が変わる。キュリー温度以上では、表皮深さ>>芯金肉厚、となるので、周波数を変えて発熱量は変わらない。そこで、キュリー温度を越えた状態で非通紙部温度が所定の温度を越えないような一つの電流固定値を設定し、周波数を変えることだけで発熱量を制御し、温調温度の変更にも対応することが可能である。上述の供給電流を定電流として周波数を可変にして電力制御する方法は、第2のサーミスタ11で、定着ローラ1がキュリー温度以上であると検知された場合だけに限定されるものではない。定着ローラ1がキュリー温度未満であっても小サイズを搬送する時にこの制御を実施する場合や、コイル電流を可変にして電力制御する方法を行わずに上述の制御を実施しても構わない。
【0020】
【表1】

【0021】
上述の実施例では、定着ローラ1がキュリー温度を越えたと検知する検知手段として、端部に配置された第2のサーミスタ12によってキュリー温度を検知しているが、定着ローラ1の磁性の低下を検知する手段であればよい。例えば、定着ローラ1の外部に磁気コイルを設け、キュリー温度を越えた時の漏洩磁束によって磁気コイルに流れる渦電流を検知して判断する手段や、磁性の変化に伴ってコイル6に供給される電流値や消費電力の変化を検知する手段を用いても構わない。
【0022】
上記の実施例をまとめると次のとおりである。加熱装置114は、交番磁束を発生する磁束発生手段3と、磁束発生手段から発生する交番磁束により発熱し、少なくとも一部1aが、所定温度にキュリー温度を調整された整磁合金からなり、被加熱材Pを加熱する発熱体1を有する。また、磁束発生手段3に高周波電流を供給する電流供給手段116Aと、磁束発生手段に対する供給電流を定電流制御する定電流化手段116Bと、磁束発生手段3に対する供給電流の周波数を可変制御する周波数制御手段116Cを有する。また、発熱体1がキュリー温度以上であると検知する検知手段12と、装置制御手段104と、を有する。装置制御手段104は、検知手段12によって発熱体1が少なくともキュリー温度を越えたと検知した場合には、定電流化手段116Bによって供給電流を定電流制御し、周波数制御手段116Cによって周波数を変更することで発熱体1の発熱量を制御する。また、定電流化手段116Bによって供給される高周波電流の固定電流値は、発熱体1がキュリー温度を越えた状態において自己温度調整される温度が、所定温度を越えないような固定電流値である。発熱体1のキュリー温度は、加熱装置を構成する構成部材の耐熱温度よりも低い。また、発熱体1の温度を検知する温度検知手段11と、温度検知手段11の検知温度に応じて周波数制御手段116Cを制御することにより発熱体1の温度を所定温度に調整する温度調整手段104を有する。そして、加熱装置の動作中において、温度調整手段104により発熱体1はキュリー温度より低い所定温度に調整されている。周波数制御手段116Cの周波数[Hz]は下記の式1)を満たす。
【0023】
【数3】

【0024】
上記構成の電磁誘導加熱方式の加熱装置によれば、加熱部材の非通紙部温度は、加熱装置を構成する構成部材の耐熱温度以下になるような電流固定値をとることで所定温度以下に抑制される。通紙部温度(温調温度)は周波数を変更することで発熱量を制御でき、かつ、加熱部材の通紙域でない領域の異常昇温(端部昇温、非通紙部昇温)による機内昇温や装置構成部材の熱劣化などを防止するが可能となる。キュリー温度を略定着温度付近に調整し、電流供給手段による供給電流値を固定する手段の場合と異なり、立ち上げ時、コピー時、スタンバイ時などの動作に応じて電流固定値を変えた複数の動作モードを有する必要がない。また、トナー等の被定着材の種類や、被加熱材である記録材の種類や使用環境に応じた定着温度を変更可能とする利用ニーズに応えることができる。即ち、紙種や生産性に応じた温調温度の制御ができる。
【0025】
[その他]:1)本発明の電磁誘導加熱方式の加熱装置は、実施例の画像加熱定着装置としての使用に限られない。その他、例えば、未定着画像を記録用紙に仮定着する仮定着装置、定着画像を担持した記録用紙を再加熱してつや等の画像表面性を改質する表面改質装置等の像加熱装置としても有効である。また、その他、例えば、紙幣等のしわ除去用の熱プレス装置や、熱ラミネート装置、紙等の含水分を蒸発させる加熱乾燥装置など、シート状部材を加熱処理する加熱装置として用いても有効であることは勿論である。2)加熱部材の形態はローラ体に限られず、エンドレスベルト体など他の回転体形態にすることができる。また、加熱部材は誘導発熱体単体の部材として構成することもできるし、誘導発熱体の層を含む、耐熱性樹脂・セラミックス等の他の材料層との2層以上の複合層部材として構成することもできる。3)磁束発生手段による誘導発熱体の誘導加熱は実施例の内部加熱方式に限られず、例えば、図3のように、磁束発生手段を誘導発熱体の外側に配設した外部加熱方式の装置構成にすることもできる。4)温度検知手段11・12はサーミスタに限らず、温度検知素子であればよく、また接触式でも非接触式でも構わない。5)実施例の装置は被加熱材(記録材)の搬送を中央基準で搬送する装置構成であるが、片側基準で搬送する構成の装置にも本発明は有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1・・発熱体、1a・・整磁合金層、3・・磁束発生手段、12・・発熱体1がキュリー温度以上であると検知する検知手段、104・・装置制御手段、116A・・電流供給手段、116B・・定電流化手段、116C・・周波数制御手段、P・・被加熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交番磁束を発生する磁束発生手段と、前記磁束発生手段から発生する交番磁束により発熱し、少なくとも一部が、所定温度にキュリー温度を調整された整磁合金からなり、被加熱材を加熱する発熱体と、前記磁束発生手段に高周波電流を供給する電流供給手段と、前記磁束発生手段に対する供給電流を定電流制御する定電流化手段と、前記磁束発生手段に対する供給電流の周波数を可変制御する周波数制御手段と、前記発熱体がキュリー温度以上であると検知する検知手段と、装置制御手段と、を有し、前記装置制御手段は、前記検知手段によって前記発熱体が少なくともキュリー温度を越えたと検知した場合には、前記定電流化手段によって供給電流を定電流制御し、前記周波数制御手段によって周波数を変更することで前記発熱体の発熱量を制御することを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記定電流化手段によって供給される高周波電流の固定電流値は、前記発熱体)がキュリー温度を越えた状態において自己温度調整される温度が、所定温度を越えないような固定電流値であることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記発熱体のキュリー温度は、加熱装置を構成する構成部材の耐熱温度よりも低いことを特徴とする請求項1又は2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記発熱体の温度を検知する温度検知手段と、前記温度検知手段の検知温度に応じて前記周波数制御手段を制御することにより前記発熱体の温度を所定温度に調整する温度調整手段を有し、加熱装置の動作中において、前記温度調整手段により前記発熱体はキュリー温度より低い所定温度に調整されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記周波数制御手段の周波数[Hz]は下記の式1)を満たすことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の加熱装置。
【数1】


【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−40323(P2011−40323A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188456(P2009−188456)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】