説明

電線チャック並びに電線加工装置及びその方法

【課題】ストリップ及び圧着の際の最適なオーバーハングの設定を簡単な構成で実現する。
【解決手段】電線チャック1の各チャック爪3には、一対のロッド6,6を介して矯正チャック8が夫々スライド可能に連結されて、チャック爪3,3と一体に開閉動作可能となっている。各矯正チャック8における閉作動時に互いに対向する面には、V字状の溝9が夫々形成されて、閉状態では、チャック爪3,3に把持された電線が遊挿するガイド孔10を貫通状に形成可能としている。また、各矯正チャック8における下側のロッド6には、コイルバネ12が外装されて、各矯正チャック8を、ロッド6の抜け止め部7がチャック爪3に当接してチャック爪3から最も離れる前進位置に付勢している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のワイヤハーネス等の電線の絶縁被覆を剥ぎ取って端子を圧着させる加工時に電線を把持するために用いられる電線チャックと、その電線チャックを用いた電線加工装置及びその方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のワイヤハーネスでは、電線端部の絶縁被覆を剥ぎ取るストリップ部と、絶縁被覆を剥ぎ取った電線端部に端子を圧着する圧着部とを備える電線加工装置において端子の圧着加工が行われる。この電線加工装置では、ワイヤハーネスの端部を把持してストリップ部と圧着部とに搬送する電線チャックが使用されるが、電線端部の曲げ癖によるストリップミスや圧着ミスの防止のため、例えば特許文献1に開示される電線処理装置のように改良された電線チャックが用いられる。これは、電線を把持して次工程へ移動させるクランプ手段(一対のクランプ爪)の前方位置に、クランプ手段の本体部に連結され、電線の先端部を囲繞してクランプ手段の移動に対して相対距離を変化させる振れ抑制手段(一対の振れ止め板)を備えて、電線の振れを抑制してストリップや圧着を良好に行おうとするものである。
【0003】
【特許文献1】特開平7−45351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の電線チャックにおいては、振れ抑制手段からの電線の突出量(オーバーハング)を変化させるためには、本体部に設けたモータやボールネジ等の移動制御機構によってクランプ手段と振れ抑制手段との一方を進退動させる必要がある。よって、装置全体が複雑、大型化してコストアップに繋がる。
また、移動制御機構には適したオーバーハングを得るために停止位置を設定する必要がある。特にストリップと圧着との場合では適したオーバーハングが異なることが多いため、夫々の場合で停止位置を別個に設定する必要がある上、ストリップ部や圧着部において仕様が変更したりするとその都度制御プログラムを修正する手間が生じ、設定管理も面倒となっている。
【0005】
そこで、本発明は、ストリップ及び圧着の際の最適なオーバーハングの設定をより簡単な構成で実現可能とした電線チャック並びに電線加工装置及びその方法を夫々提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電線チャックとして、各チャック爪に、チャック爪と連動して開閉動作し、閉状態では電線が遊挿するガイド孔を形成する矯正チャックを、チャック爪に把持された電線方向へスライド可能で、且つチャック爪から離れる方向へ付勢した状態で夫々設けたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の目的に加えて、電線の搬送時に当接する矯正チャックとストリップ部及び圧着部との互いの干渉を防止するために、矯正チャックにおけるチャック爪と反対側の外面に、部分的に突出する突出部を設けたものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2の目的に加えて、好適な突出部を得るために、突出部を、矯正チャックへ回転可能に軸着されるローラとしたものである。
【0007】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、電線端部の絶縁被覆を剥ぎ取るストリップ部と、そのストリップ部で絶縁被覆が剥ぎ取られた電線端部に端子を圧着する圧着部とを有する電線加工装置であって、少なくともストリップ部及び圧着部への電線の搬送に請求項1乃至3の何れかに記載の電線チャックを用い、矯正チャックのガイド孔を遊挿して電線端部が突出する状態でチャック爪に電線を把持させて、矯正チャックをストリップ部及び圧着部側へ向けて電線チャックを前進させ、矯正チャックをストリップ部及び圧着部に当接させた状態で電線を所定位置へ搬送することを特徴とするものである。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、電線端部の絶縁被覆を剥ぎ取るストリップ工程と、そのストリップ工程で絶縁被覆が剥ぎ取られた電線端部に端子を圧着する圧着工程とを有する電線加工方法であって、少なくともストリップ工程及び圧着工程において、ストリップ部及び圧着部への電線の搬送に請求項1乃至3の何れかに記載の電線チャックを用い、矯正チャックのガイド孔を遊挿して電線端部が突出する状態でチャック爪に電線を把持させて、矯正チャックをストリップ部及び圧着部側へ向けて電線チャックを前進させ、矯正チャックをストリップ部及び圧着部に当接させた状態で電線を所定位置へ搬送することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電線の搬送の際に矯正チャックがストリップ部や圧着部に当接して電線のガイドを行うこととなる。よって、電線のオーバーハングが常に必要最小限の量で自動設定されて電線の曲がりが効果的に防止され、ストリップミスや圧着ミスが少なくなる。而もこのオーバーハングの自動設定は矯正チャック等の付加のみで実現できるため、移動制御機構やその停止位置の設定が不要となってコストや管理の手間も最小限で済む。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、突出部により、矯正チャックが当接した状態でのストリップ部及び圧着部との互いの干渉が防止され、ストリップや圧着へ悪影響を及ぼすことがなくなる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項2の効果に加えて、突出部をローラとしたことで、ローラの転動によってストリップ部及び圧着部との互いの干渉がより効果的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の電線チャックの一例を示す斜視図で、電線チャック1は、保持部2の上端に、開閉可能な一対のチャック爪3,3を備えている。このチャック爪3は、夫々下端側が保持部2に連結され、図2(A)(B)に示すようにエア駆動によって同調して開閉動作する周知の構造で、閉作動時に互いに対向する面には、中央に電線の保持孔5を貫通状に残して互いに噛み合うV字状の溝4が夫々形成されて、電線を保持孔5によって交差状に把持可能としている。
また、各チャック爪3における保持孔5の軸方向(把持される電線方向)には、チャック爪3,3の閉状態で上下に位置する一対のロッド6,6が、保持孔5の軸方向へスライド自在に遊挿されている。各ロッド6の一端には、チャック爪3の貫通孔よりも大径の抜け止め部7が夫々形成される一方、他端には、左右で一対となるロッド6,6ごとにチャック爪3と平行な矯正チャック8が夫々固着されている。
【0011】
この矯正チャック8,8は、ロッド6,6を介してチャック爪3,3と一体に開閉動作するもので、閉作動時に互いに対向する面には、図2(C)にも示すように、V字状の溝9が夫々形成されて、閉状態では、中央に電線15の断面積よりも大きい開口面積を有し、チャック爪3側の保持孔5の同軸上に位置するガイド孔10を貫通状に形成可能としている。
また、各矯正チャック8におけるチャック爪3と反対側の外面には、突出部としてのローラ11が設けられている。このローラ11は、閉状態の矯正チャック8,8の下方位置にあって、矯正チャック8に形成された凹部内で左右方向の軸によって周面の一部を前方に突出させた状態で回転可能に軸着されるものである。
さらに、各矯正チャック8における下側のロッド6には、コイルバネ12が外装されて、このコイルバネ12により、常態での各矯正チャック8は、ロッド6の抜け止め部7がチャック爪3に当接してチャック爪3から最も離れる前進位置に付勢されることになる。
【0012】
上記電線チャック1が用いられる電線加工装置20は、図3に示すように、送線機から送られる電線を所定寸法で切断する切断部21と、切断された電線の端部の絶縁被覆を剥ぎ取るストリップ部22と、絶縁被覆が剥ぎ取られた電線の導体部に端子を圧着する圧着部23と、圧着された端子をコネクタに挿入するコネクタ連結部24との各工程部を並設してなり、電線チャック1は、ボールネジ等の周知の移動機構により、各工程部間を移動する図の左右方向と、各工程部に向かって前後動する図の上下方向へ移動制御される。すなわち、切断部21で切断された電線を受け取ってストリップ部22へ搬送し、ストリップ部22で絶縁被覆の剥ぎ取りを行わせた後、圧着部23へ搬送し、圧着部23で端子の圧着を行わせて、下流側の送り機構に渡してコネクタ連結部24へ搬送させるものである。
【0013】
以下、図3の電線加工装置20における電線の加工手順を、電線チャック1の動作を中心に説明する。
まず、電線チャック1は、図4(A)に示すように、保持部2を上下方向へ移動可能に支持し、保持部3の底面との間にコイルバネ14を介在させた支持台13を介して移動機構に設置されており、切断部21で切断された電線を受け取る際には、図図(B)に示すように、電線15の先端が矯正チャック8よりも前方へ突出して所定量のオーバーハングが得られる状態で受け取るようになっている。この状態で、電線15はチャック爪3,3の保持孔5によって把持されるが、矯正チャック8,8のガイド孔10には遊挿している。
【0014】
次に、電線チャック1が移動機構によりストリップ部22との正対位置へ移動して、ストリップ部22側へ前進し、電線15の端部をストリップ部22の図示しない刃物による所定の切断位置にセットする。このとき、矯正チャック8,8のローラ11,11が先に刃物に当接して前進が停止するが、電線15は矯正チャック8,8のガイド孔10に遊挿して干渉されないため、そのまま電線15は切断位置まで移動する。よって、矯正チャック8,8のみが電線15の端部から相対的に後退し、図4(C)に示すように、電線15のオーバーハングSを変化させる。この動作によって電線15は矯正チャック8,8のガイド孔10にガイドされながら前進し、且つ最も近い位置でガイド孔10に保持される格好となるため、電線15に曲がりが生じることがなく、真っ直ぐな状態で切断位置にセットされる。
【0015】
電線15のセット完了後、ストリップ部22では刃物を閉動作させて電線端部の絶縁被覆に係止させる。このとき、刃物と当接しているローラ11,11が回転するため、刃物に抵抗を与えることがない。ここから電線チャック1を後退させると、電線15の後退と共に刃物から先の絶縁被覆が剥ぎ取られて導体部が露出する。なお、この後退と共に矯正チャック8,8がコイルバネ12の付勢により前進位置に復帰して、再び元のオーバーハングとなる。
【0016】
次に、電線チャック1が移動機構により圧着部23との正対位置へ移動して、圧着部23側へ前進し、導体部が露出した電線15の端部を圧着部23による所定の圧着位置にセットする。このときも、図4(B)(C)と同様に、矯正チャック8,8のローラ11,11が先に圧着部23に当接して前進が停止し、そのまま圧着位置に移動する電線15に対して相対的に後退し、矯正チャック8,8からの電線15のオーバーハングを変化させる。よって、電線15は矯正チャック8,8のガイド孔10にガイドされながら前進し、最も近い位置でガイド孔10に保持されるため、電線15に曲がりが生じることがなく、真っ直ぐな状態で圧着位置にセットされる。なお、圧着は絶縁被覆も含めて行われるため、ストリップの際のオーバーハングよりも圧着時のオーバーハングの方が大きくなる。
【0017】
また、圧着の際の電線15の上下動には、電線チャック1が支持台13上で上下動して追従する。この場合もローラ11が圧着部23側に当接して転動することになる。
こうして圧着部23での端子の圧着が完了すると、電線チャック1が後退して圧着部23から離れ、端子が圧着された電線15を後段の送り機構へ受け渡す。後段ではコネクタ連結部24で端子がコネクタに挿入され、次の加工機へ送られる。
【0018】
このように、上記形態の電線チャック1及び電線加工装置20によれば、電線15の搬送の際に矯正チャック8,8がストリップ部22や圧着部23に当接して電線15のガイドを行うこととなる。よって、電線15のオーバーハングが常に必要最小限の量で自動設定されて電線15の曲がりが効果的に防止され、ストリップミスや圧着ミスが少なくなる。而もこのオーバーハングの自動設定は矯正チャック8等の付加のみで実現できるため、移動制御機構やその停止位置の設定が不要となってコストや管理の手間も最小限で済む。
また、電線チャック1に突出部となるローラ11を設けたことで、矯正チャック8が当接した状態でのストリップ部22及び圧着部23との互いの干渉が防止され、ストリップや圧着へ悪影響を及ぼすことがなくなる。特にローラ11としたことで、ローラ11の転動によってストリップ部22及び圧着部23との干渉がより効果的に防止できる。
【0019】
なお、上記形態では、矯正チャックを夫々一対のロッドによってチャック爪と連結しているが、1本のロッドでもよいし、逆に3本以上のロッドで連結することもできる。勿論ロッドに限らず、板状体等の他の形状の連結部材によって矯正チャックを連結しても差し支えない。
また、矯正チャックを付勢するコイルバネも、全ての連結部材に設けることができるし、コイルバネ以外に皿バネや板バネ等の他の付勢手段を採用することも可能である。さらに、例えばロッドを二重筒構造にして大径筒をチャック爪に、これに遊挿される小径筒を矯正チャックに夫々連結し、大径筒の内部に設けたコイルバネ等の弾性手段で小径筒を突出方向へ付勢する構造とする等、上記形態に限定されない。
【0020】
一方、矯正チャックも、チャック爪と同形状とするものに限らず、例えば電線を遊挿させる筒状部を半割にして夫々ロッド等の連結部材によってチャック爪に連結してもよい。
さらに、突出部も、ローラを複数にして矯正チャックの上下に配置する等の設計変更は可能で、勿論ローラに限らず、ボールを矯正チャックの外面に一部を露出させた状態で埋設したものとしたり、単に矯正チャックの外面に球状や半円板状、台形状の突起を突設したり等、ストリップ部や圧着部との干渉を緩和するものであれば適宜設計変更可能である。
【0021】
そして、上記形態の電線加工装置では、電線チャックがストリップ部や圧着部等の各工程部を移動して電線の搬送を行うものであるが、各工程部ごとに同じ電線チャックを夫々設置して、搬送用チャック等の他の搬送機構で電線を各電線チャックに受け渡して各工程部に対して進退動させる電線加工装置等、他の形態の装置であっても本発明は採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】電線チャックの斜視図である。
【図2】(A)は電線チャックの背面図、(B)はチャック爪が開いた状態の電線チャックの背面図、(C)は矯正チャックの拡大図である。
【図3】電線加工装置の概略構成図である。
【図4】電線チャックによる工程部への電線の搬送状態を示す説明図で、(A)が電線の受け取り前、(B)が工程部への前進状態、(C)が工程部へのセット状態を夫々示す。
【符号の説明】
【0023】
1・・電線チャック、2・・保持部、3・・チャック爪、5・・保持孔、6・・ロッド、8・・矯正チャック、10・・ガイド孔、11・・ローラ、12・・コイルバネ、13・・支持台、15・・電線、20・・電線加工装置、21・・切断部、22・・ストリップ部、23・・圧着部、24・・コネクタ連結部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線を把持する閉状態と、前記把持を解除する開状態とに開閉動作可能な一対のチャック爪を備えた電線チャックであって、
前記各チャック爪に、前記チャック爪と連動して開閉動作し、閉状態では前記電線が遊挿するガイド孔を形成する矯正チャックを、前記チャック爪に把持された電線方向へスライド可能で、且つ前記チャック爪から離れる方向へ付勢した状態で夫々設けたことを特徴とする電線チャック。
【請求項2】
矯正チャックにおけるチャック爪と反対側の外面に、部分的に突出する突出部を設けた請求項1に記載の電線チャック。
【請求項3】
突出部を、矯正チャックへ回転可能に軸着されるローラとした請求項2に記載の電線チャック。
【請求項4】
電線端部の絶縁被覆を剥ぎ取るストリップ部と、そのストリップ部で前記絶縁被覆が剥ぎ取られた電線端部に端子を圧着する圧着部とを有する電線加工装置であって、
少なくとも前記ストリップ部及び圧着部への電線の搬送に請求項1乃至3の何れかに記載の電線チャックを用い、矯正チャックのガイド孔を遊挿して電線端部が突出する状態でチャック爪に電線を把持させて、前記矯正チャックを前記ストリップ部及び圧着部側へ向けて前記電線チャックを前進させ、前記矯正チャックを前記ストリップ部及び圧着部に当接させた状態で前記電線を所定位置へ搬送することを特徴とする電線加工装置。
【請求項5】
電線端部の絶縁被覆を剥ぎ取るストリップ工程と、そのストリップ工程で前記絶縁被覆が剥ぎ取られた電線端部に端子を圧着する圧着工程とを有する電線加工方法であって、
少なくとも前記ストリップ工程及び圧着工程において、前記ストリップ部及び圧着部への電線の搬送に請求項1乃至3の何れかに記載の電線チャックを用い、矯正チャックのガイド孔を遊挿して電線端部が突出する状態でチャック爪に電線を把持させて、前記矯正チャックを前記ストリップ部及び圧着部側へ向けて前記電線チャックを前進させ、前記矯正チャックを前記ストリップ部及び圧着部に当接させた状態で前記電線を所定位置へ搬送することを特徴とする電線加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−11602(P2008−11602A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177112(P2006−177112)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】