説明

電線又はケーブル被覆用樹脂組成物及びそれを用いた電線又はケーブル

【課題】高温環境においても耐銅害性に優れた電線又はケーブル被覆用樹脂組成物及びそれを用いた電線又はケーブルを提供する。
【解決手段】ゴム又はプラスチックに、酸化防止剤、銅害防止剤、無機フィラーを添加してなる樹脂組成物において、前記無機フィラーが、銅を含む金属イオンを捕捉するための、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラーを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線又はケーブル被覆用樹脂組成物及びそれを用いた電線又はケーブルに関するものであり、特に、銅などの金属と接触した状態で使用される電線又はケーブル被覆用樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線・ケーブルの被覆用樹脂組成物には、ゴム又はプラスチックなどの高分子材料が含まれている。この高分子材料は、一般的に、雰囲気中の酸素の影響を受けて酸化し、ポリマ主鎖の分解、架橋などを伴いながら劣化する。
また、雰囲気温度が高いほど、この反応は早く進行する。
【0003】
この高分子材料の酸化劣化は、ラジカルの連鎖反応、すなわち自動酸化によって進行することは、多くの文献に記載されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
上記酸化劣化を抑えるために、電線・ケーブルの被覆において、被覆組成物への酸化防止剤の添加を行う技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、電線・ケーブルの被覆材料は、銅導体や電磁シールドを目的とした金属ワイヤによる編組層と接触した状態で使用される。そのため、電線・ケーブルを使用する時、樹脂組成物内に拡散した銅イオンのレドックス反応により、過酸化物が上記銅導体又は金属編組層により接触分解を起こす。このような接触分解作用の強い金属には、コバルト、マンガン、銅、鉄、バナジウムなどがある。特に、上記銅導体又は上記金属編組層に銅を用いた場合、上記接触分解により、活性の高いオキシラジカルが生成し、被覆材料の酸化劣化が急激に進む現象(以降、銅害劣化ともいう)を招く。
【0006】
そこで、上記銅害劣化を防止するため、銅害防止剤の添加が有効であると報告されてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
なお、電線・ケーブルの被覆樹脂の関連技術として、以下の技術が知られている。着色防止のために、電線被覆材料にフェノール系酸化防止剤を添加する技術が知られており、この技術では、ポリマにより、電線被覆に添加された水酸化マグネシウムの表面処理を行っている(例えば、特許文献2参照)。また、特許文献2と同様に、分散性を向上させるために、炭酸カルシウムの表面処理を行うことにより、安定した半導電性を有する塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を得る技術(例えば、特許文献3参照)、シリカ充填ゴム用充填剤においてシリカの自己凝縮を分散させる技術(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−56544号公報
【特許文献2】特開2003−34740号公報
【特許文献3】特開2002−194158号公報
【特許文献4】特開2004−155859号公報
【非特許文献1】「ゴム用添加剤活用技術」;工業調査会、p.94、2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、被覆樹脂組成物であるゴム又はプラスチックに酸化防止剤及び銅害防止
剤を添加しても、使用温度が高温(例えば130℃以上)となる場合の電線・ケーブルにおいては、被覆樹脂組成物内の銅イオンの拡散速度、及びレドックス反応による酸化劣化の反応速度が高くなるため、銅害劣化が急激に進む。そのため、導体やシールド層としてスズめっき導線を使用し、かつ樹脂組成物に銅害防止剤を処方したとしても、銅害劣化を抑えられず著しく高分子材料が劣化してしまう場合がある。
【0010】
本発明の目的は、高温環境においても耐銅害性に優れた電線又はケーブル被覆用樹脂組成物及びそれを用いた電線又はケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様は、ゴム又はプラスチックに、酸化防止剤、銅害防止剤、無機フィラーを添加してなる樹脂組成物において、前記無機フィラーが、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラーを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載の発明において、ゴム又はプラスチック100重量部に対し、イオウ系酸化防止剤又はリン系酸化防止剤からなる酸化防止剤0.1〜10重量部、ヒドラジド基を有する銅害防止剤0.1〜10重量部、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラーを含む、無機フィラー3〜300重量部、を添加してなることを特徴とする。
【0013】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載の発明において、前記無機フィラーが炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、タルク、クレー、シリカ、水酸化アルミニウム、珪藻土、酸化亜鉛、ゼオライトのいずれか又はそれらの組み合わせからなることを特徴とする。
【0014】
本発明の第四の態様は、第一乃至第三の態様のいずれかに記載の発明において、前記ゴム又はプラスチック100重量部に添加する前記3〜300重量部の無機フィラーのうち、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラーを3重量部以上含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の第五の態様は、第一乃至第四の態様のいずれかに記載の電線又はケーブル被覆用樹脂組成物を用いた電線又はケーブルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温環境においても耐銅害性に優れた電線又はケーブル被覆用樹脂組成物及びそれを用いた電線又はケーブルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
発明者らは、環境温度が高温(例えば130℃以上)となる場合であっても、樹脂組成物に含まれるゴム又はプラスチックの銅害劣化を防止するために、樹脂組成物に対する添加剤を系統的に種々検討した。種々の検討を行った結果、カチオン性を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラーを添加すると、高温環境であっても銅害劣化を防止することができ、銅害防止効果が顕著に上昇することを見出した。
この知見を基に、以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0018】
図1(a)に、本発明が適用される、電線の一実施形態の断面構造を示す。
図1(a)に示すように、上記電線は、断面が丸形状で長尺な金属導体1を寄り合わせたものの外周を、電線被覆用樹脂組成物からなる絶縁体2で被覆したものである。金属導体1の金属には、例えば銅合金が挙げられる。金属導体1は、例えば、銅線を単線で用いても複数からなる撚り線や編み線として用いても良く、銅線に溶融メッキや電解による錫
メッキが施されていても良い(以降、金属導体1を銅導体1ともいう)。
なお、上記電線の断面形状は丸形状に限らず、板状の銅板よりスリット加工したり、丸線を圧延したりして得た平角状の金属導体に絶縁体を被覆したものでもよい。
【0019】
また、上記電線用樹脂組成物はケーブルにも適用することができる。
図1(b)に、本発明が適用される、ケーブルの一実施形態の断面構造を示す。
図1(b)に示すように、上記ケーブルは、スズめっき銅導体1aを寄り合わせたものの外周を、本実施形態における電線用樹脂組成物からなる絶縁体2で被覆した絶縁線芯11に、更にその外周をシース3で被覆したものである。
他にも、図1(c)に示すような、銅導体1に絶縁体2を被覆した3条の絶縁線芯11と介在物4の外周に押え巻きテープ5を貼り、その外周をシース3で被覆したケーブルにも使用できる。また、図1(d)に示すような、2本の絶縁線芯11からなる、2対の対撚り線6の外周に金属シールド層7を設け、その外周をシース3で被覆したケーブルにも使用できる。また、図1(e)に示すような、スズめっき銅導体1aに絶縁体2を被覆した絶縁線芯11の外周を金属シールド層7及びシース3で被覆したケーブルにも使用できる。なお、上記シース3は、本実施形態における電線用樹脂組成物を用いても良い。
【0020】
以下、絶縁体2を構成する電線被覆用樹脂組成物について詳述する。
上記電線被覆用樹脂組成物は、高分子材料であるゴム又はプラスチックに、酸化防止剤、銅害防止剤、無機フィラーを添加してなる樹脂組成物である。
【0021】
高分子材料である上記ゴム又はプラスチックとしては、その種類を限定せず使用することができ、2種以上のゴム又はプラスチックをブレンドして使用することも可能である。また上記ゴム又はプラスチックを構成するポリマを、硫黄化合物や過酸化物の添加、電子線照射、シラングラフト水架橋などの常法に従い、架橋させて使用することも可能である。
【0022】
高分子材料の酸化劣化におけるラジカル連鎖反応、すなわち自動酸化を防止し、高分子材料に高い熱安定性を付与するために、上記ゴム又はプラスチックに酸化防止剤が添加される。具体的には、上記ラジカル連鎖反応の開始点となる炭化水素ラジカルを安定化するフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤、開始点となる炭化水素ラジカルが酸素と反応することにより生成され連鎖反応を進行させる過酸化物から酸素を引き抜いて安定なアルコールに変化させる働きを持つイオウ系酸化防止剤やリン系酸化防止剤などが添加される。
上記イオウ系酸化防止剤としては、イミダゾール系、チオカルバミン酸金属塩系、チオエーテル系、チオビスフェノール系、メルカプト系、チオウレア系が挙げられる。チオエーテル系酸化防止剤が好適である。
上記リン系酸化防止剤としては、亜リン酸エステルが挙げられ、ペンタエリスリトール系亜リン酸エステルが耐水性に優れるため好適である。
本実施形態においては、ゴム又はプラスチックに添加される酸化防止剤には、イオウ系酸化防止剤又はリン系酸化防止剤が含まれるのが好ましい。このときのイオウ系酸化防止剤又はリン系酸化防止剤の添加量としては、上記ゴム又はプラスチック100重量部に対し0.1〜10重量部であることが好ましい。添加量が0.1重量部より少ないと酸化防止効果が得られない。また、添加量が10重量部を超えるとブルーム(添加剤が粉状に析出)又はブリード(添加剤が液状に析出)現象を招く。イオウ系酸化防止剤又はリン系酸化防止剤の好ましい添加量は、1〜5重量部である。
【0023】
高分子材料の酸化劣化を促す銅害劣化を防止するために、上記ゴム又はプラスチックに銅害防止剤が添加される。銅害防止剤により、銅イオンをキレート化し、銅イオンのレドックスポテンシャルを低下させる。銅イオンのレドックスポテンシャルが低下することに
より、過酸化物が接触分解してオキシラジカルを発生させるのを抑制することができる。すなわち、銅害防止剤の添加により、高分子材料が酸化劣化するのを抑制できる。具体的には、銅害防止剤としては、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒドラジド誘導体、ベンゾトリアゾール、グアニジン類が挙げられる。
本実施形態においては、銅害防止剤として、ヒドラジド誘導体を添加するのが好ましい。このときのヒドラジド基を有する銅害防止剤の添加量としては、ゴム又はプラスチック100重量部に対し、0.1〜10重量部であることが好ましい。添加量が0.1重量部よりも少ないと銅害防止効果が得られない。また、添加量が10重量部を超えるとブルーム又はブリード現象を招く。ヒドラジド基を有する銅害防止剤の好ましい添加量は、0.5〜2重量部である。
なお、銅害防止剤には、1分子中に二つのヒドラジド基を有する化合物を含むことが好ましい。銅イオンを捕捉する能力を向上させ、レドックス反応を抑制するためである。また、銅害防止剤には、分子中にフェノール基を有する化合物を含まないことが好ましい。フェノール基によって、銅害劣化を顕著にするラジカル化合物が発生するおそれがあるためである。
【0024】
上記電線被覆用樹脂組成物には、上記ゴム又はプラスチックに、上記酸化防止剤、上記銅害防止剤に加えて、無機フィラーを添加する。
【0025】
このとき、上記無機フィラーは、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラー(以降、表面処理無機フィラーともいう)を含む。
上記表面処理により、図2に示すように、カチオン性基を有するポリマが、無機フィラー表面に密着した状態で存在させることができる。その結果、高温であっても、カチオン性基を有するポリマが銅イオンを捕捉することにより、無機フィラー表面に銅イオンが固定され、銅イオンが樹脂内で拡散することを防止できる。そのため、高温であっても、樹脂内での銅イオンと過酸化物とのレドックス反応により、高分子材料を著しく劣化させるオキシラジカルが生成するのを防ぐことができる。
【0026】
上記無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、タルク、クレー、シリカ、水酸化アルミニウム、珪藻土、酸化亜鉛、ゼオライトを使用することができ、そのいずれか又はそれらの組み合わせたものを用いることができる。処理剤の定着性、経済性の観点から炭酸カルシウム又は水酸化マグネシウムが好適である。
上記表面処理無機フィラーを含む無機フィラーの添加量は、ゴム又はプラスチック100重量部に対し3〜300重量部が好適である。添加量が3重量部未満でも、300重量部を超えても、樹脂組成物の伸びが低下する。
また無機フィラーの添加量3〜300重量部のうち、少なくとも3重量部以上、好ましくは3〜10重量部が、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理されている表面処理無機フィラーであるのがよい。3重量部未満だと、銅害防止効果が得られない。また、10重量部より多いと、侵水時の電気絶縁性が低下する。また、無機フィラーの平均粒子径((株)島津製作所製レーザ回折式粒度測定装置(SALD−2000A)により測定)は、0.1μm〜20μmが好ましい。0.1μmより小さいと粒子凝縮が激しく銅イオン捕捉効果が小さい。20μmより大きいと、添加したゴム又はプラスチックの伸びなどの機械的特性を低下させる。
【0027】
また、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラーを、さらに、脂肪酸、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤で処理したものについても、本実施形態の電線及びケーブル被覆材料に使用することができる。これにより、ゴム又はプラスチックへの分散性が向上するため、耐寒性などの機械的物性が向上する。さらに、カチオン性基を有する水溶性ポリマと脂肪酸により表面処理した炭酸カルシウムと、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した金属水酸化物とを併
用することも可能である。これにより、銅害防止効果に加え、難燃性を向上させることができる。
【0028】
上記カチオン性基を有する水溶性ポリマは、無機充填剤や無機顔料の分散剤・表面処理剤として使用できるものであれば特に制限無く使用可能である。好ましくは、例えばジアリルアミン塩基、アルキルジアリルアミン塩基など第二級アミン塩基を有するポリマである。また、本実施形態で使用されるカチオン性基を有するポリマとして、分子量5万程度の高分子化合物を用いることにより、金属イオンを効果的に捕捉し、銅害防止効果を高めることができる。分子量5万未満の低分子量化合物は、金属イオン捕捉効果が小さいため好ましくない。
【0029】
上記表面処理無機フィラーを作製するために、無機フィラーとカチオン性基を有する水溶性コポリマー分散剤とを混合処理する。上記カチオン性基を有する水溶性コポリマー分散剤の固形分処理量は、無機フィラー100重量部当たり0.01〜1重量部が好ましい。その処理方法は、乾式、湿式処理どちらの方法でも良い。具体的には、(a)乾式法:例えば、ヘンシェルミキサーやハイスピードミキサーのような高速攪拌機に無機フィラーと所定量のカチオン性コポリマー分散剤を同時に添加し、粉砕時の新生表面に表面処理を行う方法、(b)湿式法:ビーズミル等に無機フィラーと水とカチオン性基を有する水溶性コポリマー分散剤を添加し、表面処理を行い、ついで乾燥、解砕、分級を行う方法、が挙げられる。
【0030】
なお、これらの樹脂組成物には、必要に応じて難燃剤、酸化防止剤、滑剤、界面活性剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、架橋剤、発泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、充填剤、補強剤等の添加物を加えることができる。難燃剤としては金属水酸化物、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、ホウ酸化合物、モリブデン化合物などを挙げることができ、環境配慮の観点から金属水酸化物が好適である。金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムが挙げられ、難燃化効果の高い水酸化マグネシウムが好適である。
【0031】
上記実施形態の電線の製造は、例えば、通常の押出成形ラインを用い、樹脂組成物を溶融混練し、単数又は複数からなる金属導体に上記樹脂組成物を押し出して作製できる。溶融混練には、例えばバッチ式混練機や二軸スクリュー押出機などが用いられる。また、押出成形ラインには、例えば二軸押出機が用いられる。この二軸押出機によって、溶融混練した樹脂組成物を押し出し、この樹脂組成物で金属導体を被覆して被覆層を形成する。
【0032】
本実施形態における電線用樹脂組成物を用いることにより、高温環境で、特に銅などの金属と接触した状態で使用される電線・ケーブル被覆の銅害劣化を効果的に防止することができる。そのため、電線・ケーブルの耐熱性を向上させ、信頼性の高い製品を提供することが可能となる。上記電線・ケーブルは、例えば機器内配線用、自動車用、ロボット用、車輌用に好適である。
【実施例】
【0033】
実施例1〜12および比較例1〜12においては、上記図1(e)に示す構造のケーブルを適用した。上記ケーブルと、上記ケーブルに用いられる樹脂組成物は以下のように作製した。
【0034】
表1の実施例1〜12および表2の比較例1〜12に示した配合割合で、電線被覆用樹脂組成物の原料となる各種成分を配合した。なお、ここで表1及び表2に記載されている無機フィラーは、上記本実施形態で記載した乾式法で表面処理されているものを使用した。上記配合物を25L加圧ニーダによって開始温度40℃、終了温度190℃で混練した
後、上記混練物をペレットにした。上記ペレットを、図5に示す20mmスズめっき銅導体1a上に、セパレータを介して厚さ1.0mmで連続加硫押出し、架橋絶縁体2を成形した。架橋絶縁体2上に、外径0.18mmのスズめっき銅線による編組を編組密度90%以上で施すことにより、シールド層7を成形した。上記シールド層7の外層に、実施例11に示した配合割合で各種成分を配合した材料を押出被覆することにより、厚さ0.8mmのシース3を成形した。このようにして、実施例1〜12および比較例1〜12で用いられる試料となるケーブルを得た。
なお、電線・ケーブルのサイズは20mmに限らず、あらゆるサイズ・構造の電線・ケーブルに適用可能である。
【0035】
<実施例1〜12>
ここで、表1記載の実施例1〜12について詳述する。
高分子材料として、実施例1〜10には難燃ポリオレフィン系樹脂を用いており、実施例11,12には芳香族ポリマ系樹脂を用いている。
【0036】
詳しく言うと、実施例1〜10では、EMA(MA31%,MI=0.8)60重量部とEPDM(商品名EPT1045)40重量部とからなる高分子材料100重量部に対し、難燃剤100重量部、ヒドラジド誘導体からなる銅害防止剤1重量部、フェノール系酸化防止剤1.5重量部、架橋剤2重量部が、実施例1〜10に共通して加えられ、さらに実施例1〜10ごとにイオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、表面処理無機フィラーを表1に示した配合割合で配合した樹脂組成物を用いている。
【0037】
また、実施例11,12では、共重合PBT100重量部に対し、難燃剤100重量部、フェノール系酸化防止剤1.5重量部、イオウ系酸化防止剤0.4重量部、表面処理無機フィラー5重量部が共通して加えられ、さらにヒドラジド誘導体からなる銅害防止剤を、実施例11では1重量部、実施例12では0.2重量部配合した樹脂組成物を用いている。
【0038】
<比較例1〜12>
表2記載の比較例1〜12については、高分子材料として、比較例1〜7には難燃ポリオレフィン系樹脂を用いており、比較例8〜12には芳香族ポリマ系樹脂を用いている。
【0039】
詳しく言うと、比較例1〜7には、EMA(MA31%,MI=0.8)60重量部とEPDM(EPT1045)40重量部とからなる高分子材料100重量部に対し、難燃剤100重量部、フェノール系防止剤1.5重量部、架橋剤2重量部が、比較例1〜7に共通して加えられ、さらに比較例1〜7ごとにイオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、銅害防止剤、表面処理無機フィラーを表2に示した配合割合で配合した樹脂組成物を用いている。
【0040】
また、比較例8〜12には、共重合PBT100重量部に対し、難燃剤100重量部、フェノール系防止剤0.6重量部が、比較例8〜12に共通して加えられ、さらに比較例8〜12ごとにイオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、銅害防止剤、表面処理無機フィラーを比較例ごとに表2に示した配合割合で配合した樹脂組成物を用いている。
【0041】
実施例1〜12および比較例1〜12におけるケーブルの評価は、以下に示す方法により判定した。
(1)絶縁体の引張試験
上記のように作製したケーブルにおける絶縁体について、JISC3005に準拠して引張試験を行った。破断伸びが100%未満のものを不合格、それ以上を合格とした。
(2)耐銅害性試験
上記のように作製したケーブルについて、190℃で150時間の熱老化試験を実施し、その後ケーブルを解体して絶縁体の引張試験を行った。伸びが100%未満のものを不合格、それ以上を合格とした。
(3)ブリード/ブルーム試験
上記のように作製したケーブルのシース及びシールド層を50cm除去した絶縁体線芯を、60℃相対湿度95%の環境に300時間放置し、表面状態を目視観察した。ブルームまたはブリードが見られたものを不合格、これらが観察されないものを合格とした。
【0042】
上記試験により得られた結果を実施例1〜12については表1に、比較例1〜12については表2に記載した。
【表1】


【表2】

【0043】
表1記載の実施例1〜10の難燃ポリオレフィン系樹脂組成物及び実施例11,12の芳香族ポリマ系樹脂組成物は、上記(1)〜(3)の試験において、全ての特性が良好であった。
【0044】
一方、表2記載の比較例1〜12の樹脂組成物は、上記(1)〜(3)の試験のうちの1つ以上で、評価が悪かった。
【0045】
難燃ポリオレフィン系樹脂組成物である、銅害防止剤未添加の比較例1では、熱老化後の伸びが急激に低下した。銅害防止剤を10重量部よりも多い12重量部加えた比較例2では、ブルームが発生した。
【0046】
次に、イオウ系酸化防止剤もリン系酸化防止剤も未添加の比較例3では、実施例1〜6と比較して熱老化後の伸びが急激に低下した。リン系酸化防止剤を10重量部よりも多い
12重量部加えた比較例4では、ブルームが発生した。
【0047】
次に、表面処理無機フィラー未添加の比較例5では、実施例1,7と比較して熱老化後の伸びが急激に低下した。これらの絶縁体内部の元素分析により、銅イオンが数重量%存在することが確認されたことから、熱老化後の伸びが急激に低下したのは、銅害劣化による機械特性低下によるものであると考えられる。
また、表面処理した炭酸カルシウムを300重量部よりも多い330重量部加えた比較例6、表面処理した水酸化マグネシウムを300重量部よりも多い330重量部加えた比較例7では、初期又は/及び熱老化後の伸びが不合格であった。
【0048】
芳香族ポリマ系樹脂組成物である比較例8〜12においても、上記難燃ポリオレフィン系樹脂組成物である比較例1〜7と同様の結果が得られた。
詳しく言うと、銅害防止剤未添加の比較例8は、芳香族ポリマ系樹脂組成物である実施例11,12と比較して熱老化後の伸びが急激に低下し、銅害防止剤を12重量部加えた比較例9では、ブルームが発生した。
イオウ系酸化防止剤もリン系酸化防止剤も未添加の比較例10では、実施例11,12と比較して熱老化後の伸びが急激に低下した。
表面処理無機フィラー未添加の比較例11では、実施例11,12と比較して熱老化後の伸びが急激に低下した。
ヒドラジド基が含まれていない銅害防止剤を用いた比較例12では、ヒドラジド誘導体からなる銅害防止剤を使用した実施例11,12と比較して熱老化後の伸びが急激に低下した、すなわち銅害劣化防止効果が劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(a)本発明が適用される、電線の一実施形態の断面構造を示す図である。(b)本発明が適用される、絶縁線芯をシースで被覆したケーブルの一実施形態の断面構造を示す図である。(c)本発明が適用される、絶縁線芯3条の外周を押え巻きテープ及びシースで被覆したケーブルの一実施形態の断面構造を示す図である。(d)本発明が適用される、対撚り線2対の外周を金属シールド層及びシースで被覆したケーブルの一実施形態の断面構造を示す図である。(e)本発明が適用される、絶縁線芯の外周を金属シールド層及びシースで被覆したケーブルの一実施形態の断面構造を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラー(炭酸カルシウム)が、銅イオンを補足する原理を示す説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 銅導体
1a スズめっき銅導体
2 絶縁体
3 シース
4 介在物
5 押え巻き
6 対撚り線
7 金属シールド層
11 絶縁線芯


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム又はプラスチックに、酸化防止剤、銅害防止剤、無機フィラーを添加してなる樹脂組成物において、
前記無機フィラーが、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラーを含むことを特徴とする電線又はケーブル被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
ゴム又はプラスチック100重量部に対し、
イオウ系酸化防止剤又はリン系酸化防止剤からなる酸化防止剤0.1〜10重量部、
ヒドラジド基を有する銅害防止剤0.1〜10重量部、
カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラーを含む、無機フィラー3〜300重量部、
を添加してなることを特徴とする請求項1に記載の電線又はケーブル被覆用樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーが炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、タルク、クレー、シリカ、水酸化アルミニウム、珪藻土、酸化亜鉛、ゼオライトのいずれか又はそれらの組み合わせからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電線又はケーブル被覆用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ゴム又はプラスチック100重量部に添加する前記3〜300重量部の無機フィラーのうち、カチオン性基を有する水溶性ポリマで表面処理を施した無機フィラーを3重量部以上含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電線又はケーブル被覆用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電線又はケーブル被覆用樹脂組成物を用いた電線又はケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−263432(P2009−263432A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112009(P2008−112009)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】