説明

電線導体の製造方法、電線導体、絶縁電線及びワイヤーハーネス

【課題】強度、伸び、屈曲性能に優れた電線導体を安定して製出することが可能な電線導体の製造方法を提供する。
【解決手段】0.12mass%以上0.32mass%以下のCoと、0.042mass%以上0.095mass%以下のPと、0.005mass%以上0.70mass%以下のSnと、とを含有し、Coの含有量[Co]mass%とPの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2の関係を有し、残部がCuと不可避不純物とされた銅合金からなる銅線材を、冷間加工する冷間加工工程S3と、複数の銅素線を撚り合わせて銅撚線を形成する撚り線加工工程S4と、前記銅素線又は前記銅撚線に対して、200℃以上400℃以下で60分以上500分以下の熱処理を行う最終熱処理工程S6と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車や機器の配線等に用いられる電線導体の製造方法及び電線導体、この電線導体を用いた絶縁電線、並びに、ワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1、2に示すように、自動車配線用及び機器配線用の絶縁電線として、銅の細線(銅素線)を複数本撚り合わせてなる電線導体に、絶縁被膜を被覆したものが提供されている。また、配線等を効率的に行うために、これらの絶縁電線を複数本束ねたワイヤーハーネスが提供されている。
ワイヤーハーネス等を構成する絶縁電線に用いられる電線導体においては、一定の強度、耐屈曲性、導電率等を確保する必要がある。
【0003】
従来、銅素線としては、タフピッチ銅で構成されたものや、例えば特許文献3、4に示すようにSnを0.2〜2.5mass%含有したSn入り銅で構成されたものが提供されている。
これらタフピッチ銅やSn入り銅においては、耐屈曲性を確保するために、熱処理によって伸びを回復させた軟質材が用いられている。しかし、軟質材においては、熱処理によって引張強度が大幅に低下することになるため、銅素線の断面積を大きくするかあるいは銅素線の数を増加させ、電線導体の断面積を例えば0.3mm以上とし、電線導体全体としての強度を確保していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−016284号公報
【特許文献2】特開平6−150732号公報
【特許文献3】特開2008−027640号公報
【特許文献4】特許第2709178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、自動車の燃費向上の観点から、自動車の軽量化が求められている。ここで、ワイヤーハーネスを構成する電線導体は、比重の大きな銅で構成されていることから、電線導体の使用量を低減することにより、自動車全体の軽量化を図ることが可能となる。さらに、自動車やコピー機等においては、配線スペースに制限があるため、ワイヤーハーネスの小型化が求められている。以上の観点から、電線導体の細線化が強く要求されている。
【0006】
ここで、従来のように、タフピッチ銅やSn入り銅の軟質材では、細線化することによって、電線導体全体としての強度が不足してしまうことになる。引張強度を重視して、タフピッチ銅やSn入り銅の硬質材を使用した場合には、伸びが不十分となって、耐屈曲性が著しく低下してしまうことになる。
さらに、タフピッチ銅やSn入り銅においては、引張強度と伸びとのバランスを考慮して熱処理条件を調整しようとしても、タフピッチ銅やSn入り銅は、軟化点で急激に引張強度、伸びが変化するため、熱処理条件の制御が非常に困難であった。このため、引張強度が高く伸びが少ないもの(硬質材)や、引張強度が低く伸びが大きいもの(軟質材)しか得ることができず、引張強度と伸びとのバランスに優れた銅素線を安定して得ることができなかった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、細線化を図った場合であっても、強度、伸び、屈曲性能に優れた電線導体を安定して製出することが可能な電線導体の製造方法、及び、この製造方法によって製出された電線導体、この電線導体を用いた絶縁電線及びワイヤーハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明に係る電線導体の製造方法は、複数の銅素線を撚り合わせて形成される電線導体であって、0.12mass%以上0.32mass%以下のCoと、0.042mass%以上0.095mass%以下のPと、0.005mass%以上0.70mass%以下のSnと、を含有し、Coの含有量[Co]mass%とPの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2の関係を有し、残部がCuと不可避不純物とされた銅合金からなる銅線材を、冷間加工によって所望の線径の銅素線とする冷間加工工程と、複数の前記銅素線を撚り合わせて銅撚線を形成する撚り線加工工程と、前記銅素線又は前記銅撚線に対して、200℃以上550℃以下で60分以上500分以下の熱処理を行う最終熱処理工程と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
上述した本発明に係る電線導体の製造方法によれば、0.12mass%以上0.32mass%以下のCoと、0.042mass%以上0.095mass%以下のPと、0.005mass%以上0.70mass%以下のSnと、を含有し、Coの含有量[Co]mass%とPの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2の関係を有し、残部がCuと不可避不純物とされた銅合金からなる銅線材を、冷間加工によって銅素線としているので、銅素線においては、CoとPとの化合物からなる析出物粒子が分散されることになる。
また、添加元素であるCoとPは、例えば600〜800℃といった高温に加熱した際の結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する。
【0010】
よって、最終熱処理工程においては、結晶粒の粗大化が抑制されるとともに、析出物粒子の分散状況が変化することによって、引張強度と伸びとがなだらかに変化することになる。このため、熱処理条件を適宜設定することによって、引張強度と伸びとのバランスに優れた電線導体を安定して製出することが可能となる。すなわち、上述したタフピッチ銅やSn入り銅などに比べて、引張強度と伸びの変化がなだらかであるため、熱処理条件が若干変動したとしても、機械的性質の安定した電線導体を得ることができるのである。
【0011】
ここで、CoとPとは、銅の母相中に分散する析出物粒子を形成する元素である。Co及びPが下限値を下回ると析出物粒子の個数が不足し、強度を充分に向上させることができない。一方、Co及びPが上限値を超えると、強度の向上に寄与しない元素が多く存在してしまい、導電率の低下等を招くおそれがある。
また、析出物粒子は主にCoP金属間化合物で構成されているが、添加されたCoやPは、すべてが析出物粒子を構成することはなく、一部が銅の母相中に固溶することになる。よって、固溶量を考慮したCoとPとの配合比率を、3.0≦([Co]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2とすることにより、強度向上に寄与する析出物粒子を十分に分散させることができる。また、余剰なCo,Pが存在せず、導電率の低下等を防止することができる。
【0012】
また、Snは、銅の母相中に固溶することによって強度を向上させる作用を有する元素である。また、CoとPとを主成分とする析出物粒子の析出を促進させる効果や、耐熱性、耐食性の向上を図ることもできる。このような作用効果を確実に奏功せしめるためには、Snの含有量を0.005mass%以上とする必要がある。また、Snが過剰に添加された場合には導電率の低下を招くため、Snの含有量は0.70mass%以下とする必要がある。
【0013】
ここで、最終熱処理工程における温度が200℃より低く、あるいは、時間が60分未満では、伸びを十分に回復させることができず、耐屈曲性を向上させることができなくなる。一方、最終熱処理工程における温度が550℃より高く、あるいは、時間が500分を超えた場合には、強度が大きく低下してしまう。このため、強度と伸びとのバランスに優れた電線導体を得るためには、最終熱処理工程の条件を、温度が200℃以上550℃以下、保持時間が60分以上500分以下に設定する必要がある。
【0014】
また、本発明に係る電線導体の製造方法は、複数の銅素線を撚り合わせて形成される電線導体であって、0.12mass%以上0.32mass%以下のCoと、0.042mass%以上0.095mass%以下のPと、0.005mass%以上0.70mass%以下のSnと、を含有し、かつ、0.01mass%以上0.15mass%以下のNi、又は、0.005mass%以上0.07mass%以下のFe、のいずれか1種以上を含有し、Coの含有量[Co]mass%と、Niの含有量[Ni]mass%と、Feの含有量[Fe]mass%と、Pの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2、及び、0.015≦1.5×[Ni]+3×[Fe]≦[Co]の関係を有し、残部がCuと不可避不純物とされた銅合金からなる銅線材を、冷間加工によって所望の線径の銅素線とする冷間加工工程と、この冷間加工によって得られた銅素線に対して、200℃以上550℃以下で60分以上500分以下の熱処理を行う最終熱処理工程と、を備えていることを特徴としている。
【0015】
この構成の電線導体の製造方法は、前述の電線導体の製造方法において、銅素線を構成する銅合金のうちCoの一部をNi、Feで置換したものである。
これらNi、Feは、Coと同様に、結晶粒の粗大化を抑制する効果を有する元素である。また、Coの固溶量を減少させることによって導電率の低下を確実に防止することが可能となる。これらの作用効果を確実に奏功せしめるために、Niを0.01mass%以上あるいはFeを0.005mass%以上含有させる必要がある。また、Ni及びFeを過剰に添加された場合には導電率の低下を招くため、Niの含有量は0.15mass%以下、Feの含有量は0.07mass%以下とする必要がある。
【0016】
また、Ni及びFeを添加した場合には、析出物粒子を構成するCoとPの化合物のうちCoの一部がNi及びFeに置換されることになる。すなわち、析出物粒子が、CoとPとNiまたはFeとの化合物によって構成されることになる。そこで、この析出物粒子を確実に分散させて強度の向上を図るためには、Coの含有量[Co]mass%と、Niの含有量[Ni]mass%と、Feの含有量[Fe]mass%と、Pの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2、及び、0.015≦1.5×[Ni]+3×[Fe]≦[Co]の関係を有するように、Ni及びFeの添加量を制御する必要がある。
【0017】
ここで、前記銅線材を構成する銅合金が、さらに、0.01mass%以上0.5mass%以下のZn、0.002mass%以上0.2mass%以下のMg、0.002mass%以上0.2mass%以下のAg、0.001mass%以上0.1mass%以下のZrのうち、いずれか1種以上を含有することが好ましい。
Zn、Mg、Ag、Zrの各元素は、硫黄(S)と化合物を形成し、銅の母相中へのSの固溶を防止し、Sによる性能低下を防止することができる。また、Zn、Mg、Agは銅の母相中に固溶することになり、Zrは析出物を分散させることになり、これらの元素によって電線導体のさらなる強度向上を図ることもできる。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるために、Znは0.01mass%以上、Mgは0.002mass%以上、Agは0.002mass%以上、Zrは0.001mass%以上を含有する必要がある。また、これらの各元素が過剰に添加された場合には、導電率の低下を招くことになる。このため、Znの含有量は0.5mass%以下、Mgの含有量は0.2mass%以下、Agの含有量は0.2mass%以下、Zrの含有量は0.1mass%以下、とする必要がある。
【0018】
また、前記銅線材を構成する銅合金が、さらに、0.00005mass%以上0.0050mass%以下のOを含有していてもよい
O(酸素)は、銅の母相中に固溶する不純物元素を除去して導電率を向上させる効果を有しているので、0.00005mass%以上含有することが好ましい。一方、過剰の酸素は、水素脆化を引き起こす原因となるとともに、添加元素であるPを消費するため、0.0050mass%以下に制限することが好ましい。
【0019】
さらに、前記最終熱処理工程において、200℃以上550℃以下で180分超500分以下の熱処理を行うことが好ましい。
最終熱処理工程における保持時間を180分超500分以下とすることにより、例えば、線径0.12〜0.22mmといった比較的細径の銅素線を冷間加工工程によって形成し、冷間加工工程における加工度が高く銅素線が必要以上に加工硬化していても、この最終熱処理工程で、十分な伸びを得ることができ、耐屈曲性に優れた電線導体を確実に製出することができる。
【0020】
また、前記冷間加工工程の前、あるいは、前記冷間加工工程の途中に、熱処理によって析出物粒子を析出させる時効処理工程を備えていることが好ましい。
この時効処理工程によって、銅の母相中に分散される析出物粒子の大きさ、密度が調整されることになる。ここで、時効処理工程における熱処理条件(温度、時間)は、冷間加工による加工度に応じて、適宜設定することになる。
例えば、時効処理工程における処理温度を375℃以上650℃以下、処理時間を30分以上960分以下とすることにより、例えば、平均析出物粒径が2〜20nmとされた微細な析出物粒子を均一に分散させることができ、強度の向上を図ることができる。
【0021】
さらに、前記銅線材を連続的に製出する連続鋳造圧延工程を、備えていることが好ましい。
この場合、連続鋳造により銅鋳塊を連続的に製出し、この銅鋳塊を連続圧延することによって、効率良く銅線材を製出することができる。また、例えば800〜1000℃の高温状態で一定時間保持されることになるので、CoやP等を銅の母相中に固溶させる溶体化処理を、別途行う必要がない。
【0022】
また、前記撚り線加工工程における撚りのピッチが、4mm以上24mm以下に設定されていることが好ましい。
撚り線加工工程における撚りのピッチが4mmより短い場合には電線導体のねじれが生じるおそれがある。一方、撚りのピッチが24mmを超えると、撚り崩れが生じることになり断面形状の安定した電線導体を得ることができなくなるとともに、耐屈曲性が低下することになる。よって、撚り線加工工程における撚りのピッチは、4mm以上24mm以下に設定することが好ましい。
【0023】
また、前記撚り線加工工程の後に、圧縮比85%以上94%以下の圧縮加工を行う圧縮加工工程を備えていることが好ましい。
この場合、銅撚線に、圧縮比85%以上94%以下の圧縮加工を施すことにより、銅撚線の形状を安定させることが可能となる。また、この圧縮加工によって機械的性質が大幅に変化してしまうことを防止できる。
なお、本明細書における圧縮比Cとは、圧縮加工前の銅撚線の外径をD0、圧縮加工後の銅撚線の外径をD1とした場合において、C(%)=(D1/D0)×100で定義されるものである。
【0024】
さらに、前記撚り線加工工程の後に、前記最終熱処理工程を行うことが好ましい。
撚り線加工工程によって形成された銅撚線に対して最終熱処理を行うことにより、得られる電線導体の性能を安定させることが可能となる。
【0025】
また、前記電線導体の断面積が0.3mm未満に設定されていることが好ましい。より好ましくは、0.05mm以上0.3mm未満である。
この場合、電線導体の断面積が0.3mm未満とされているので、電線の軽量化及び省スペース化を図ることが可能となる。
【0026】
本発明に係る電線導体は、前述の電線導体の製造方法によって製造され、引張強度が460MPa以上、伸びが5%以上とされていることを特徴としている。
また、本発明に係る絶縁電線は、前述の電線導体に、絶縁被膜を被覆してなることを特徴としている。
さらに、本発明に係るワイヤーハーネスは、前述の絶縁電線を複数本有することを特徴としている。
この構成の電線導体、絶縁電線及びワイヤーハーネスによれば、例えば比較的細径に構成したとしても、強度と伸びとを確保できるので、軽量化及び省スペース化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、細線化を図った場合であっても、強度、伸び、耐屈曲性に優れた電線導体を安定して製出することが可能な電線導体の製造方法、及び、この製造方法によって製出された電線導体、この電線導体を用いた絶縁電線及びワイヤーハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態である電線導体を用いた絶縁電線の断面模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態である電線導体の製造方法のフロー図である。
【図3】本発明の第1の実施形態である電線導体の製造方法で用いられる連続鋳造圧延設備を示す説明図である。
【図4】圧縮加工工程における圧縮比の説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態である電線導体の製造方法のフロー図である。
【図6】実施例1において銅素線の評価結果を示すグラフである。
【図7】実施例1において銅素線の評価結果を示すグラフである。
【図8】実施例1において電線導体(撚線)の評価結果を示すグラフである。
【図9】実施例1において電線導体(撚線)の評価結果を示すグラフである。
【図10】本発明の他の実施形態である電線導体を用いた絶縁電線の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施形態に係る電線導体の製造方法、電線導体及び絶縁電線について添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1の実施形態である電線導体を用いた絶縁電線の一例を示す。
この絶縁電線5は、複数(図1においては7本)の銅素線2が撚り合わせてなる電線導体1と、この電線導体1の外周部を被覆する絶縁被膜3と、を備えている。
【0030】
電線導体1を構成する銅素線2は、0.12mass%以上0.32mass%以下のCoと、0.042mass%以上0.095mass%以下のPと、0.005mass%以上0.70mass%以下のSnと、とを含有し、Coの含有量[Co]mass%とPの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2の関係を有し、残部がCuと不可避不純物とされた銅合金で構成されている。
【0031】
なお、この銅合金においては、さらに、0.01mass%以上0.5mass%以下のZn、0.002mass%以上0.2mass%以下のMg、0.002mass%以上0.2mass%以下のAg、0.001mass%以上0.1mass%以下のZr、0.00005mass%以上0.0050mass%以下のO、のうち、いずれか1種以上を含有してもよいし、さらに、0.00005mass%以上0.0050mass%以下のOを含有してもよい。
【0032】
上述の銅合金で構成された銅素線2においては、Coを0.12mass%以上0.32mass%以下、Pを0.042mass%以上0.095mass%以下、含有していることから、銅の母相中にCoとPを主成分とする化合物からなる析出物粒子が分散されることになり、この析出物粒子によって、強度と導電率の向上が図られている。ここで、強度向上に寄与する析出物粒子を十分に分散させるために、かつ、余剰のCoやPが導電率の低下等を起こすことがないように、CoとPの含有量の比率についても3.0≦([Co]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2の関係を有するように規定されている。
また、銅素線2の外径が0.120mmから0.175mmとされている。
【0033】
上述の銅素線2が複数(図1においては7本)撚り合わせてなる電線導体1は、引張強度が460MPa以上、伸びが5%以上とされている。
【0034】
次に、上述の電線導体の製造方法について説明する。図2に本発明の第1の実施形態である電線導体の製造方法のフロー図を示す。
まず、上記銅合金からなる銅線材50を連続鋳造圧延法によって連続的に製出する(連続鋳造圧延工程S1)。この連続鋳造圧延工程S1においては、例えば図3に示す連続鋳造圧延設備が用いられる。
【0035】
図3に示す連続鋳造圧延設備は、溶解炉Aと、保持炉Bと、鋳造樋Cと、ベルトホイール式連続鋳造機Dと、連続圧延装置Eと、コイラーFとを有している。
【0036】
溶解炉Aとして、本実施形態では、円筒形の炉本体を有するシャフト炉を用いている。炉本体の下部には円周方向に複数のバーナ(図示なし)が上下方向に多段状に配備されている。そして、炉本体の上部から原料である電気銅が装入され、前記バーナの燃焼によって溶解され、銅溶湯が連続的に製出される。
【0037】
保持炉Bは、溶解炉Aでつくられた銅溶湯を、所定の温度で保持したままで一旦貯留し、一定量の銅溶湯を鋳造樋Cに送るためのものである。
【0038】
鋳造樋Cは、保持炉Bから送られた銅溶湯を、ベルトホイール式連続鋳造機Dの上方に配置されたタンディッシュ11にまで移送するものである。この鋳造樋Cは、例えばAr等の不活性ガス又は還元性ガスでシールされている。なお、この鋳造樋Cには、不活性ガスによって銅溶湯を攪拌して溶湯中の酸素等を除去する脱ガス手段(図示なし)が設けられている。
【0039】
タンディッシュ11は、ベルトホイール式連続鋳造機Dに銅溶湯を連続的に供給するために設けられた貯留槽である。このタンディッシュ11の銅溶湯の流れ方向終端側には、注湯ノズル12が配置されており、この注湯ノズル12を介してタンディッシュ11内の銅溶湯がベルトホイール式連続鋳造機Dへと供給される構成とされている。
【0040】
ここで、本実施形態では、鋳造樋C及びタンディシュ11に合金元素添加手段(図示なし)が設けられており、銅溶湯中に、上述の元素(Co,P、Sn、選択的にZn,Mg,Ag、Zr)が添加される構成とされている。
【0041】
ベルトホイール式連続鋳造機Dは、外周面に溝が形成された鋳造輪13と、この鋳造輪13の外周面の一部に接触するように周回移動される無端ベルト14とを有している。このベルトホイール式連続鋳造機Dにおいては、前記溝と無端ベルト14との間に形成された空間に注湯ノズル12を介して銅溶湯が注入され、この銅溶湯を冷却・固化することで、棒状の鋳造銅材21を連続的に鋳造するものである。
【0042】
このベルトホイール式連続鋳造機Dの下流側には、連続圧延装置Eが連結されている。この連続圧延装置Eは、ベルトホイール式連続鋳造機Dから製出された鋳造銅材21を連続的に圧延して、所定の外径の銅線材50を製出するものである。
この連続圧延装置Eから製出された銅線材50は、洗浄冷却装置15及び探傷器16を介してコイラーFに巻き取られる。
ここで、上述の連続鋳造圧延設備によって製出される銅線材50の外径は、例えば8mm以上30mm以下とされる。なお、この連続鋳造圧延工程S1では、鋳造銅材21が、例えば800℃から1000℃の比較的高温で保持されることから、Co、Pといった元素が銅の母相中に多く固溶することになる。
【0043】
次に、図2に示すように連続鋳造圧延工程S1によって製出された銅線材50には、CoとPとを主に含む化合物からなる析出物粒子を析出させる熱処理が施される(時効処理工程S2)。この時効処理工程S2の熱処理条件は、375℃以上650℃以下で30 分以上960分以下とされている。この熱処理は、バッチ式の熱処理炉、線材を通過させる管状炉、通電焼鈍等の手段を用いることができる。
【0044】
次に、冷間伸線加工によって、所望の外径(例えば0.120mm以上0.175mm以下)の銅素線2を製出する(冷間加工工程S3)。ここで、冷間加工工程S3における加工度は、例えば99.900%以上99.999%以下とされる。
ここで、冷間加工工程S3によって製出された銅素線2は、引張強度が460MPaから800MPa、伸びが1.0%から3.0%に設定される。
【0045】
このようにして得られた銅素線2を、複数本(本実施形態では7本)を撚り合わせて銅撚線を製出する(撚り線加工工程S4)。この撚り線加工工程S4においては、1本の銅素線2を中心として、その外周側に6本の銅素線2を配置して撚り合わせた同心撚りとされている。そして、本実施形態では、撚り線加工工程S4における撚りのピッチが、4mm以上24mm以下に設定されている。より好ましくは、12mm以上20mm以下とされている。
【0046】
次に、銅撚線を径方向に圧縮する(圧縮工程S5)。この圧縮工程S5は、所定の径の加工孔を有するダイスに銅撚線を挿通させることによって行われる。そして、圧縮工程S5における圧縮比Cは85%以上94%以下とされている。この圧縮工程S5により、銅撚線の断面積が0.142mm以上0.150mm以下とされる。なお、圧縮比Cとは、図4に示すように、圧縮加工前の銅撚線の外径をD0、圧縮加工後の銅撚線の外径をD1とした場合において、C(%)=(D1/D0)×100で定義されるものである。
【0047】
そして、圧縮工程S5を経た銅撚線に対して、200℃以上550℃以下で60分以上500分以下の熱処理を行う(最終熱処理工程S6)。この最終熱処理工程S6により、伸びが5%以上、引張強度が460MPa以上とされた電線導体1が製出されることになる。なお、上述の機械的性質を確実に得るためには、最終熱処理工程S6における熱処理条件は、200℃以上550℃以下で180分超500分以下とすることが好ましい。
【0048】
この最終熱処理工程S6は、バッチ式の熱処理炉、線材を通過させる管状炉、通電焼鈍等の各種手段を用いることができる。本実施形態では、雰囲気制御可能なバッチ式の熱処理炉を用いて行っている。還元ガス(水素、アンモニア、一酸化炭素等)雰囲気とし、銅撚線が200〜550℃で60分〜500分保持されるように炉内温度を制御する。ここで、銅撚線が室温から保持温度にまで加熱される時間(昇温時間)は、1時間以上とされている。
【0049】
このような構成とされた本実施形態である電線導体の製造方法によれば、電線導体1を構成する銅素線2が、0.12mass%以上0.32mass%以下のCoと、0.042mass%以上0.095mass%以下のPと、0.005mass%以上0.70mass%以下のSnと、を含有し、Coの含有量[Co]mass%とPの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2の関係を有し、残部がCuと不可避不純物とされた銅合金で構成されているので、CoとPとを主に含む化合物からなる析出物粒子が銅の母相中に分散される。また、CoとPにより、600〜800℃といった高温に加熱した場合でも結晶粒の粗大化が抑制される。
【0050】
したがって、最終熱処理工程S6において、引張強度と伸びとがなだらかに変化することになり、最終熱処理条件が若干変動したとしても、機械的性質の安定した電線導体1を得ることができる。
また、最終熱処理条件を200℃以上550℃以下で60分以上500分以下、より好ましくは、200℃以上550℃以下で180分超500分以下とすることにより、引張強度が460MPa以上、伸びが5%以上の、機械的性質の優れた電線導体1を安定して製出することが可能となる。
【0051】
さらに、CoとPの含有量の比率についても、3.0≦([Co]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2の関係を有するように規定されているので、強度向上に寄与する析出物粒子を十分に分散させることができるとともに、余剰なCo,Pが存在せず、導電率の低下等を防止することができる。
また、Snを0.005mass%以上0.70mass%以下を含有しているので、固溶硬化によって銅素線2の強度向上、CoとPとを主に含む化合物からなる析出物粒子の析出の促進、耐熱性及び耐食性の向上、を図ることもできる。
【0052】
さらに、本実施形態では、0.01mass%以上0.5mass%以下のZn、0.002mass%以上0.2mass%以下のMg、0.002mass%以上0.2mass%以下のAg、0.001mass%以上0.1mass%以下のZrのうち、いずれか1種以上を含有するので、銅の母相中へのSの固溶を防止し、Sによる性能低下を防止することができる。また、これらの元素によって、更なる強度向上を図ることができる。
また、0.00005mass%以上0.0050mass%以下のOを含有しているので、銅の母相中に固溶する不純物元素を除去して導電率を向上させることができるとともに、水素脆化を引き起こすおそれがない。
【0053】
さらに、本実施形態では、冷間加工工程S3の前に、375℃以上650℃以下で30 分以上960分以下の熱処理によって析出物粒子を析出させる時効処理工程S2を備えているので、銅の母相中に分散される析出物粒子の大きさ、密度を調整することができ、例えば、平均析出物粒径が2〜20nmとされた微細な析出物粒子を均一に分散させて強度の向上を図ることができる。
【0054】
また、連続鋳造圧延工程S1によって銅線材50を製出しているので、効率良く銅線材50を製出することができる。また、例えば800〜1000℃の高温状態で一定時間保持されることになるので、CoやP等の元素が銅の母相中に固溶されることになり、別途、溶体化処理を行う必要がない。
【0055】
また、撚り線加工工程S4における撚りのピッチが、4mm以上24mm以下、より好ましくは、12mm以上20mm以下に設定されているので、電線導体1のねじれが抑えられるとともに、撚り崩れを抑制し、断面形状の安定した電線導体1を得ることができる。また、耐屈曲性を向上させることができる。
【0056】
さらに、撚り線加工工程S4の後に、圧縮比85%以上94%以下の圧縮加工を行う圧縮加工工程S5を備えているので、銅撚線の形状を安定させることが可能となる。また、この圧縮加工によって機械的性質が大幅に変化してしまうことを防止できる。
また、撚り線加工工程S4及び圧縮工程S5の後に、最終熱処理工程S6を行う構成としているので、得られる電線導体1の機械的性質を安定させることが可能となる。
【0057】
また、得られる電線導体1の断面積が0.3mm未満、好ましくは0.05mm以上0.3mm未満に設定されているので、絶縁電線5の軽量化及び省スペース化を図ることが可能となるとともに、電線導体1自体の剛性が確保され、この電線導体1の取扱い性を向上させることができる。
そして、電線導体1の引張強度が460MPa以上、伸びが5%以上とされているので、上述のように断面積を比較的小さくしても強度、伸び、屈曲性能が確保されることになり、絶縁電線5の軽量化及び省スペース化を図ることが可能となる。
【0058】
次に、本発明の第2の実施形態である電線導体について説明する。この第2の実施形態においては、銅素線が、0.12mass%以上0.32mass%以下のCoと、0.042mass%以上0.095mass%以下のPと、0.005mass%以上0.70mass%以下のSnと、を含有し、かつ、0.01mass%以上0.15mass%以下のNi、又は、0.005mass%以上0.07mass%以下のFe、のいずれか1種以上を含有し、Coの含有量[Co]mass%と、Niの含有量[Ni]mass%と、Feの含有量[Fe]mass%と、Pの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2、及び、0.015≦1.5×[Ni]+3×[Fe]≦[Co]の関係を有し、残部がCuと不可避不純物とされた銅合金で構成されている。
【0059】
この第2の実施形態における銅素線を構成する銅合金は、第1の実施形態における銅合金のCoの一部をFe,Niで置換したものである。
Ni及びFeを添加することにより、析出物粒子を構成するCoとPの化合物のうちCoの一部がNi及びFeに置換され、析出物粒子がCoとPとNiまたはFeとの化合物によって構成されることになる。そこで、強度向上に寄与する析出物粒子を十分に分散させるために、かつ、余剰のCo、P、Ni,Feが導電率の低下等を起こすことがないように、Coの含有量[Co]mass%と、Niの含有量[Ni]mass%と、Feの含有量[Fe]mass%と、Pの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2、及び、0.015≦1.5×[Ni]+3×[Fe]≦[Co]の関係を有するように、Ni及びFeの添加量を制御する必要がある。
【0060】
なお、この銅合金においても、さらに、0.01mass%以上0.5mass%以下のZn、0.002mass%以上0.2mass%以下のMg、0.002mass%以上0.2mass%以下のAg、0.001mass%以上0.1mass%以下のZr、0.00005mass%以上0.0050mass%以下のO、のうち、いずれか1種以上を含有してもよいし、さらに、0.00005mass%以上0.0050mass%以下のOを含有してもよい。
【0061】
次に、上述の電線導体の製造方法について説明する。図5に本発明の第2の実施形態である電線導体の製造方法のフロー図を示す。
まず、上記銅合金からなる銅線材を連続鋳造圧延法によって連続的に製出する(連続鋳造圧延工程S´1)。
次に、この銅線材に対して冷間伸線加工を施して、所定の外径の銅線を得る(第1冷間加工工程S´2)。
この銅線に対して、375℃以上650℃以下で30分以上960分以下の熱処理を施し、析出物粒子を析出させる(時効処理工程S´3)。
時効処理工程S´3を行った後に、さらに冷間伸線加工を施し、所望の外径(例えば 0.120mm以上0.175mm以下)の銅素線を製出する(第2冷間加工工程S´4)。
【0062】
このようにして得られた銅素線に対して、200℃以上550℃以下で60分以上500分以下の熱処理を行う(最終熱処理工程S´5)。
次に、最終熱処理工程S´5が施された銅素線を複数本(本実施形態では7本)準備し、撚り合わせて銅撚線を製出する(撚り線加工工程S´6)。
次に、銅撚線を径方向に押圧し、圧縮比85%以上94%以下となるように圧縮加工する(圧縮工程S´7)。この圧縮工程S´7により、電線導体の断面積が0.142mm以上0.150mm以下とされる。
このようにして本実施形態である電線導体が製出されることになる。
【0063】
この第2の実施形態である電線導体によれば、Coの代替としてNi及びFeが添加されているので、銅の母相中に固溶するCo量の低減を図ることができ、導電率の低下を確実に防止することができる。また、Ni及びFeは、結晶粒の粗大化を抑制する効果を有する元素であるので、最終熱処理工程において、引張強度及び伸びが急激に変化することがなく、安定した機械的性質の電線導体を製出することができる。
また、比較的高価なCoの使用量を低減し、汎用性の高いFe、Niを添加するので、この電線導体を低コストで製出することが可能となる。
【0064】
また、連続鋳造圧延工程S´1によって製出された銅線材を冷間冷間加工(第1加工工程S´2)した後に、時効処理工程S´3を有しているので、所定の外径の銅線材に対して熱処理を施すことができ、時効析出処理を安定して行うことができ、析出物粒子の大きさ、分散状態を精度良く制御することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、7本の銅素線を撚り合わせて電線導体を製出するものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅素線の本数は、銅素線の外径、電線導体の断面積等を考慮して適宜設計することが好ましい。例えば電線導体の断面積が0.3mm未満である場合には、銅素線の本数は7本以上37本以下とすることが好ましい。
また、本実施形態では、銅撚線を径方向に圧縮する圧縮工程を行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば図10に示すように、複数本の銅素線102を撚り合わせた銅撚線を電線導体101とし、この電線導体101を絶縁被膜103で被覆したものであってもよい。
【0066】
また、最終熱処理工程をバッチ式の焼鈍炉を用いて行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、通電焼鈍等の別の手段を採用してもよい。さらに、バッチ式の焼鈍炉において、還元雰囲気で焼鈍を行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気でもよいし、真空雰囲気であってもよい。
【0067】
さらに、連続鋳造圧延工程では、ベルト・ホイール式鋳造機を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の連続鋳造法を採用してもよい。
また、銅線材を連続鋳造圧延工程によって製出するものとして説明したが、これに限定されることはなく、円柱状の鋳塊(ビレット)を製出し、この鋳塊を押出・冷間加工することで銅線材を製出してもよい。但し、押出法によって銅線材を製出した場合には、別途溶体化処理を行う必要がある。
【実施例1】
【0068】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
ベルト・ホイール式連続鋳造機を備えた連続鋳造圧延設備を用いて、表1に示す組成の銅合金からなる銅線材(外径8mm)を製出した。この銅線材に対して、500 ℃×240分の熱処理によって時効処理を行った。
次に、時効処理を施した銅線材に対して、引き抜きダイスによる冷間伸線加工を施して、外径0.175mmの銅素線を製出した。
【0069】
【表1】

【0070】
まず、銅素線の評価として、0.175mmの銅素線に対して真空炉を用いて最終熱処理を行った。圧力を10−3Paとし、保持時間を240分と一定で焼鈍温度を変化させた。最終熱処理工程を施した銅素線の引張強度、伸び、導電率について評価した。評価結果を図6、図7に示す。
【0071】
本実施例の組成範囲においては、300℃から400℃の温度領域で、引張強度、伸びがなだらかに変化していることが確認される。また、300℃の熱処理によって伸びは3%以上にまで回復しており、400℃の熱処理を行っても引張強度は450MPa以上を維持している。また、導電率は、焼鈍温度が上昇するにつれて高くなる傾向が認められる。
【0072】
次に、外径0.175mmの銅素線を7本準備し、1本を芯材とし、この芯材の外周に6本の銅素線を撚り合わせて銅撚線を製出した。この撚りのピッチを18mmとした。この銅撚線に対して圧縮加工を施し、直径0.45mmとした。
この銅撚線の評価として、真空炉を用いて最終熱処理を行った。圧力を10−3Paとし、保持時間を240分と一定で焼鈍温度を変化させた。最終熱処理工程を施した銅撚線の引張強度、伸び、導体抵抗、耐屈曲性について評価した。評価結果を図8、図9に示す。なお、耐屈曲性の評価は、100gの荷重をかけて曲率半径R=5mmの曲げを繰り返し行い、破断までの屈曲回数とした。
【0073】
銅撚線に対して最終熱処理を行った場合、300℃から400℃の温度領域で、引張強度、伸びがなだらかに変化していることが確認される。また、300℃の熱処理によって延びは4%以上にまで回復しており、400℃の熱処理を行っても引張強度は470MPa以上を維持している。また、導体抵抗は、焼鈍温度が上昇するにつれて低くなる傾向が認められる。さらに、耐屈曲性については、焼鈍温度が上昇するにつれて回数が増加する傾向が認められる。
【実施例2】
【0074】
次に、表2記載の本発明例1、3、5、11、12及び比較例1、3、5、7は、ベルト・ホイール式連続鋳造機を備えた連続鋳造圧延設備を用いて、銅線材(外径8mm)を製出した(連続鋳造圧延方式)。この銅線材に対して、500℃×240分の熱処理によって時効処理を行った。
また、表2記載の本発明例2、4、6、7、8、9、10及び比較例2、4、6、8では、まず、高周波溶解炉を用いて真空溶解し、外径95mm、長さ150mmの鋳塊を製造した。次に、この鋳塊を900℃で加熱し、熱間押出により、外径8mmの銅線材を製出した(熱間押出方式)。この銅線材に対して、850℃、10分の溶体化処理を行った後、500℃×240分の熱処理によって時効処理を行った。
次に、上記のとおり、連続鋳造圧延方式及び熱間押出方式で製造し、時効処理を施した銅線材に対して、引き抜きダイスによる冷間伸線加工を施して、外径0.175mmの銅素線を製出した。
【0075】
この銅素線に対して真空炉を用いて最終熱処理を行った。圧力を10−3Paとし、温度400℃で保持時間を240分とした。最終熱処理工程を施した銅素線の引張強度、伸び、導電率について評価した。各試験片の組成を表2に、評価結果を表3に示す。なお、「耐屈曲性」は、実施例1と同じ撚線構造で測定した。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
表2、表3に示すように、Co、P、Snを所定量含有する本発明例1−10においては、引張強度が450MPa以上、伸びが5%以上、導電率が56%IACS以上、耐屈曲性が700回以上とされ、特性に優れた電線導体を提供できることが確認される。
一方、成分範囲が本発明の範囲から外れた比較例1−6においては、導電率の低下等の特性の低下が認められる。
【0079】
以上の確認実験の結果から、本発明によれば、強度、伸び、耐屈曲性、導電率に優れた電線導体を安定して製出することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0080】
1 電線導体
2 銅素線
3 絶縁被膜
5 絶縁電線
50 銅線材
D ベルト・ホイール式連続鋳造機(連続鋳造装置)
E 連続圧延装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の銅素線を撚り合わせて形成される電線導体であって、
0.12mass%以上0.32mass%以下のCoと、0.042mass%以上0.095mass%以下のPと、0.005mass%以上0.70mass%以下のSnと、を含有し、Coの含有量[Co]mass%とPの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2の関係を有し、残部がCuと不可避不純物とされた銅合金からなる銅線材を、冷間加工によって所望の線径の銅素線とする冷間加工工程と、
複数の前記銅素線を撚り合わせて銅撚線を形成する撚り線加工工程と、
前記銅素線又は前記銅撚線に対して、200℃以上550℃以下で60分以上500分以下の熱処理を行う最終熱処理工程と、
を備えていることを特徴とする電線導体の製造方法。
【請求項2】
複数の銅素線を撚り合わせて形成される電線導体であって、
0.12mass%以上0.32mass%以下のCoと、0.042mass%以上0.095mass%以下のPと、0.005mass%以上0.70mass%以下のSnと、を含有し、かつ、0.01mass%以上0.15mass%以下のNi、又は、0.005mass%以上0.07mass%以下のFe、のいずれか1種以上を含有し、Coの含有量[Co]mass%と、Niの含有量[Ni]mass%と、Feの含有量[Fe]mass%と、Pの含有量[P]mass%との間に、3.0≦([Co]+0.85×[Ni]+0.75×[Fe]−0.007)/([P]−0.008)≦6.2、及び、0.015≦1.5×[Ni]+3×[Fe]≦[Co]の関係を有し、残部がCuと不可避不純物とされた銅合金からなる銅線材を、冷間加工によって所望の線径の銅素線とする冷間加工工程と、
この冷間加工によって得られた銅素線に対して、200℃以上550℃以下で60分以上500分以下の熱処理を行う最終熱処理工程と、
を備えていることを特徴とする電線導体の製造方法。
【請求項3】
前記銅線材を構成する銅合金が、さらに、0.01mass%以上0.5mass%以下のZn、0.002mass%以上0.2mass%以下のMg、0.002mass%以上0.2mass%以下のAg、0.001mass%以上0.1mass%以下のZr、のうち、いずれか1種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電線導体の製造方法。
【請求項4】
前記銅線材を構成する銅合金が、さらに、0.00005mass%以上0.0050mass%以下のOを含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電線導体の製造方法。
【請求項5】
前記最終熱処理工程において、200℃以上550℃以下で180分超500分以下の熱処理を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電線導体の製造方法。
【請求項6】
前記冷間加工工程の前、あるいは、前記冷間加工工程の途中に、熱処理によって析出物粒子を析出させる時効処理工程を備えていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電線導体の製造方法。
【請求項7】
前記銅線材を連続的に製出する連続鋳造圧延工程を、備えていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の電線導体の製造方法。
【請求項8】
前記撚り線加工工程における撚りのピッチが、4mm以上24mm以下に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の電線導体の製造方法。
【請求項9】
前記撚り線加工工程の後に、圧縮比85%以上94%以下の圧縮加工を行う圧縮加工工程を備えていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の電線導体用導体の製造方法。
【請求項10】
前記撚り線加工工程の後に、前記最終熱処理工程を行うことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の電線導体の製造方法。
【請求項11】
前記電線導体の断面積が、0.3mm未満に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の電線導体の製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の電線導体の製造方法によって製造され、引張強度が450MPa以上、伸びが5%以上とされていることを特徴とする電線導体。
【請求項13】
請求項12に記載の電線導体に、絶縁被膜を被覆してなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項14】
請求項13に記載の絶縁電線を複数本有することを特徴とするワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−212164(P2010−212164A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58717(P2009−58717)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】